説明

ポリアセタール樹脂組成物及びその製造方法

【課題】本発明は、剛性、靭性に代表される機械的特性のバランスに優れ、熱水環境下に長時間曝された後であっても、剛性を保持し、かつギア特性の低下を抑制された成形品を形成可能なポリアセタール樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリアセタール樹脂100質量部と、平均粒径が50nm以上500nm以下であり、pHが9.2以上10.0以下であり、かつ表面処理されていない軽質炭酸カルシウム5〜50質量部と、炭素数12〜30の脂肪酸と、脂肪酸カルシウム塩と、を含有し、脂肪酸の炭素数Xと前記脂肪酸カルシウム塩の炭素数Yとが下記式で表される条件を満たし、軽質炭酸カルシウムに対する脂肪酸の質量比が0.020〜0.060であり、脂肪酸カルシウム塩に対する脂肪酸の質量比が3〜15である、ポリアセタール樹脂組成物。
1≦X−Y≦4

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール樹脂組成物及びその製造方法、並びに射出成形体及び歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、機械的強度、耐薬品性及び摺動性のバランスに優れ、かつその加工性が容易であることから、代表的エンジニアリングプラスチックスとして、電気機器、電気機器の歯車などの機構部品、自動車部品及びその他精密機械を含めた機構部品を中心に広範囲にわたって用いられている。特に、ポリアセタール樹脂は、電気機器、自動車部品、ギア及びカムといった精密機構部品に用いられることが多い。その場合、ポリアセタール樹脂に対して、摺動性のみならず、剛性、強度、靭性といった機械的物性のバランス、並びに、ギアに用いられたときに歯のたわみ及び歯こぼれがないといったような長期耐久性も要求される。
【0003】
そこで、従来、一般的な手法として、ガラス繊維、タルク、ワラストナイト、炭素繊維などといった無機フィラーをポリアセタールに配合する手法が用いられており、これにより、ポリアセタール樹脂の各種の性能の向上が図られている。しかしながら、ポリアセタール樹脂に対して、ガラス繊維又は無機フィラーを配合した場合、剛性、強度といった機械特性の改良には効果があるものの、ポリアセタール樹脂本来の特徴である摺動性、耐クリープ寿命、耐疲労性といった長期的な特性、並びに、靭性が著しく損なわれる場合があり、必ずしも効果的な手法とはいえなかった。また、ガラス繊維又は無機フィラーを多量にポリアセタール樹脂に配合した場合、ポリアセタール樹脂の熱安定性を低下させる場合があり、そうすると、成形性若しくは耐熱エージング性などにも悪影響を及ぼす可能性がある。
【0004】
また、上記のような機構部品は、射出成形機を用いた射出成形法によって製造されるのが一般的であり、得られた成形品は、浄水器、水道メーターの流量計などの水周り部品に使用されることも多くなっている。このような用途の環境下において、成形品は冷水だけでなく温水や熱水に触れる機会も多く、熱水環境下において強度低下を起こさないことも重要となる。
【0005】
これらの要求に対応するために、炭酸カルシウムに代表される粉粒状の無機充填材に対して脂肪酸及びその金属塩で表面処理を施して、その表面処理後の無機充填材をポリアセタール樹脂に溶融混練する方法(例えば、特許文献1、2参照)、特定のアスペクト比を有する炭酸カルシウムと有機酸と脂肪酸エステルとを含むポリアセタール樹脂組成物であって、該組成物中のCaに対するNaの量比とSrの量比とが特定の比率である組成物(特許文献3参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平8−30137号公報
【特許文献2】特許第3140502号公報
【特許文献3】国際公開第2005/071011号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の方法によると、剛性、靭性(延性)、耐クリープ性等の機械物性のバランスに優れたポリアセタール樹脂組成物を得ることはできるものの、そのポリアセタール樹脂組成物は、熱水環境下に長時間曝された後のギア強度が十分でなく、実用に十分に耐えられないのが現状である。
【0008】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、剛性、靭性に代表される機械的特性のバランスに優れ、熱水環境下に長時間曝された後であっても、剛性を保持し、かつギア特性の低下を抑制された成形品を形成可能なポリアセタール樹脂組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、ポリアセタール樹脂100質量部に対して、所定の粒径及びpHを有する所定量の軽質炭酸カルシウムと、特定の脂肪酸と、特定の脂肪酸カルシウム塩とを配合してなり、上記脂肪酸に対する軽質炭酸カルシウムの質量比が特定の範囲にあり、かつ、上記脂肪酸に対する脂肪酸のカルシウム塩の質量比が特定の範囲にあるポリアセタール樹脂組成物が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は下記の通りである。
[1]ポリアセタール樹脂100質量部と、平均粒径が50nm以上500nm以下であり、pHが9.2以上10.0以下であり、かつ表面処理されていない軽質炭酸カルシウム5〜50質量部と、炭素数12〜30の脂肪酸と、脂肪酸カルシウム塩と、を含有し、前記脂肪酸の炭素数Xと前記脂肪酸カルシウム塩の炭素数Yとが下記式(1)で表される条件を満たし、前記軽質炭酸カルシウムに対する前記脂肪酸の質量比が0.020〜0.060であり、前記脂肪酸カルシウム塩に対する前記脂肪酸の質量比が3〜15である、ポリアセタール樹脂組成物。
1≦X−Y≦4 (1)
[2]前記軽質炭酸カルシウムの最多確率空隙半径が、0.12μm以上0.16μm以下である、[1]のポリアセタール樹脂組成物。
[3]前記ポリアセタール樹脂は、164℃以上173℃以下の融点を有するポリアセタールコポリマーを含む、[1]又は[2]のポリアセタール樹脂組成物。
[4]前記ポリアセタール樹脂は、167℃以上173℃以下の融点を有するポリアセタールコポリマーを含む、[1]〜[3]のいずれか一つのポリアセタール樹脂組成物。
[5]前記ポリアセタール樹脂100質量部に対して、ポリアミド樹脂を0.01〜3質量部含有する、[1]〜[4]のいずれか一つのポリアセタール樹脂組成物。
[6][1]〜[4]のいずれか一つのポリアセタール樹脂組成物を製造する方法であって、平均粒径が50nm以上500nm以下であり、pHが9.2以上10.0以下であり、かつ表面処理されていない軽質炭酸カルシウムと、炭素数12〜30の脂肪酸と、脂肪酸カルシウム塩と、を固相状態でブレンダーにより混合して混合物を得る工程と、前記混合物と、ポリアセタール樹脂と、を、それぞれ異なるフィーダーから押出機のバレル内に連続的に供給し溶融混練して溶融混練物を得る工程と、前記溶融混練物を前記押出機のダイから連続的に押し出す工程と、を有し、前記脂肪酸の炭素数Xと前記脂肪酸カルシウム塩の炭素数Yとが下記式(1)で表される条件を満たす、ポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
1≦X−Y≦4 (1)
[7][5]のポリアセタール樹脂組成物を製造する方法であって、平均粒径が50nm以上500nm以下であり、pHが9.2以上10.0以下であり、かつ表面処理されていない軽質炭酸カルシウムと、炭素数12〜30の脂肪酸と、脂肪酸カルシウム塩と、ポリアミド樹脂を含む樹脂と、を固相状態でブレンダーにより混合して混合物を得る工程と、前記混合物と、ポリアセタール樹脂と、を、それぞれ異なるフィーダーから押出機のバレル内に連続的に供給し溶融混練して溶融混練物を得る工程と、前記溶融混練物を前記押出機のダイから連続的に押し出す工程と、を有し、前記脂肪酸の炭素数Xと前記脂肪酸カルシウム塩の炭素数Yとが下記式(1)で表される条件を満たす、ポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
1≦X−Y≦4 (1)
[8]前記ポリアミド樹脂を含む樹脂は、前記ポリアミド樹脂と前記ポリアセタール樹脂との溶融混練物である、[7]のポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
[9][1]〜[5]のいずれか一つのポリアセタール樹脂組成物を含む射出成形体。
[10][1]〜[5]のいずれか一つのポリアセタール樹脂組成物を含む歯車。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、剛性、靭性に代表される機械的特性のバランスに優れ、熱水環境下に長時間曝された後であっても、剛性を保持し、かつギア特性の低下を抑制された成形品を形成可能なするポリアセタール樹脂組成物及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例で用いた2軸押出機の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。
【0014】
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂100質量部と、平均粒径が50nm以上500nm以下であり、以下に示す試験法(A)によるpHが9.2以上10.0以下であり、かつ表面処理されていない軽質炭酸カルシウム5〜50質量部と、炭素数12〜30の脂肪酸と、脂肪酸カルシウム塩と、を含有し、前記脂肪酸の炭素数Xと前記脂肪酸カルシウム塩の炭素数Yとが下記式(1)で表される条件を満たし、前記軽質炭酸カルシウムに対する前記脂肪酸の質量比が0.020〜0.060であり、前記脂肪酸カルシウム塩に対する前記脂肪酸の質量比が3〜15である、ポリアセタール樹脂組成物である。
1≦X−Y≦4 (1)
ここで、炭酸カルシウムのpHは下記試験法(A)により得られるものである。すなわち、炭酸カルシウムの試料5.0gを三角フラスコにはかり取り、そこに蒸留水100mLを加えて栓をし、1分間振り混ぜる。次いで、30分間静置後、10秒間更に振り混ぜて得られる懸濁液についてpHを測定する。
【0015】
本実施形態に係るポリアセタール樹脂(I)としては、ポリアセタールホモポリマー及びポリアセタールコポリマーが挙げられる。ポリアセタールホモポリマーは、ホルムアルデヒドの単量体又はその3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーを単独重合して得られるものである。したがって、ポリアセタールホモポリマーは、実質的にオキシメチレン単位からなる。ポリアセタールコポリマーは、ホルムアルデヒドの単量体又はその3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エピクロルヒドリン、1,3−ジオキソラン、1,4−ブタンジオールホルマールなどのグリコール、ジグリコールの環状ホルマール等の環状エーテル、環状ホルマールとを共重合させて得られるものである。また、ポリアセタールコポリマーとして、ホルムアルデヒドの単量体及び/又はホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、単官能グリシジルエーテルとを共重合させて得られる分岐を有するポリアセタールコポリマー、並びに、多官能グリシジルエーテルとを共重合させて得られる架橋構造を有するポリアセタールコポリマーを用いることもできる。
【0016】
さらには、ポリアセタール樹脂(I)は、両末端又は片末端に水酸基などの官能基を有する化合物、例えばポリアルキレングリコール、の存在下、ホルムアルデヒドの単量体又はホルムアルデヒドの環状オリゴマーを重合して得られるブロック成分を有するポリアセタールホモポリマーであってもよい。同じく、ポリアセタール樹脂(I)は、両末端又は片末端に水酸基などの官能基を有する化合物、例えば水素添加ポリブタジエングリコール、の存在下、ホルムアルデヒドの単量体又はその3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーと環状エーテルや環状ホルマールとを共重合させて得られるブロック成分を有するポリアセタールコポリマーであってもよい。以上のように、本実施形態に係るポリアセタール樹脂(I)として、ポリアセタールホモポリマー及びポリアセタールコポリマーのいずれも用いられ得る。また、ポリアセタール樹脂(I)は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。ポリアセタール樹脂(I)は、好ましくはポリアセタールコポリマーを含む。
【0017】
トリオキサンを用いてポリアセタールコポリマーを得る場合、上記1,3−ジオキソラン等のコモノマーは、一般的には、トリオキサン100mol%に対して0.1〜60mol%、好ましくは0.1〜20mol%、更に好ましくは0.13〜10mol%用いられる。本実施形態において、ポリアセタールコポリマーの好適な融点は162℃〜173℃であり、より好ましくは167℃〜173℃、更に好ましくは167℃〜171℃である。その融点が167℃〜171℃であるポリアセタールコポリマーは、トリオキサン100mol%に対して1.3〜3.5mol%程度のコモノマーを用いることにより得ることができる。
【0018】
ポリアセタールコポリマーの重合に用いられる重合触媒としては、ルイス酸、プロトン酸及びそのエステル又は無水物等のカチオン活性触媒が好ましい。ルイス酸としては、例えば、ホウ酸、スズ、チタン、リン、ヒ素及びアンチモンのハロゲン化物が挙げられ、より具体的には、三フッ化ホウ素、四塩化スズ、四塩化チタン、五フッ化リン、五塩化リン、五フッ化アンチモン及びその錯化合物又は塩が挙げられる。また、プロトン酸、そのエステル又は無水物の具体例としては、パークロル酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パークロル酸−3級ブチルエステル、アセチルパークロラート、トリメチルオキソニウムヘキサフルオロホスフェートが挙げられる。これらの中でも、三フッ化ホウ素;三フッ化ホウ素水和物;及び、酸素原子又は硫黄原子を含む有機化合物と三フッ化ホウ素との配位錯化合物が好ましく、具体的には、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル、三フッ化ホウ素ジ−n−ブチルエーテルを好適な例として挙げることができる。
【0019】
ポリアセタールコポリマーは、従来公知の方法、例えば、米国特許第3027352号明細書、同第3803094号明細書、独国特許発明第1161421号明細書、同第1495228号明細書、同第1720358号明細書、同第3018898号明細書、特開昭58−98322号公報及び特開平7−70267号公報に記載の方法によって重合することができる。上記の重合により得られたポリアセタールコポリマーには、熱的に不安定な末端部〔−(OCH2n−OH基〕が存在するため、そのままでは実用に供することは困難である。そこで、不安定な末端部の分解除去処理を実施することが好ましく、具体的には、以下に示す特定の不安定末端部の分解除去処理を行うことが好適である。すなわち、その特定の不安定末端部の分解除去処理では、下記一般式(2)で表わされる少なくとも1種の第4級アンモニウム化合物の存在下に、ポリアセタールコポリマーの融点以上260℃以下の温度で、ポリアセタールコポリマーに対して、それを溶融させた状態で加熱処理を施す。
【0020】
[R1234+n-n (2)
ここで、式(2)中、R1、R2、R3及びR4は、各々独立して、炭素数1〜30の置換又は非置換のアルキル基;炭素数6〜20のアリール基;炭素数1〜30の置換又は非置換のアルキル基における少なくとも1個の水素原子が炭素数6〜20のアリール基で置換されたアラルキル基;又は、炭素数6〜20のアリール基における少なくとも1個の水素原子が炭素数1〜30の置換又は非置換のアルキル基で置換されたアルキルアリール基を示し、置換又は非置換のアルキル基は直鎖状、分岐状、若しくは環状である。上記置換アルキル基における置換基は、ハロゲン原子、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、又はアミド基である。また、上記非置換のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基において水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい。nは1〜3の整数を示す。Xは水酸基、又は炭素数1〜20のカルボン酸、ハロゲン化水素以外の水素酸、オキソ酸、無機チオ酸若しくは炭素数1〜20の有機チオ酸の酸残基を示す。
【0021】
第4級アンモニウム化合物は、上記一般式(2)で表わされるものであれば特に制限はないが、本発明による上記効果をより有効かつ確実に奏する観点から、一般式(2)におけるR1、R2、R3、及びR4が、各々独立して、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基であることが好ましく、更に、R1、R2、R3、及びR4の少なくとも1つが、ヒドロキシエチル基であるものが特に好ましい。具体的には、テトラメチルアンモニウム、テトエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラ−n−ブチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、テトラデシルトリメチルアンモニウム、1,6−ヘキサメチレンビス(トリメチルアンモニウム)、デカメチレン−ビス−(トリメチルアンモニウム)、トリメチル−3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアンモニウム、トリメチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリエチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリプロピル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリ−n−ブチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリメチルベンジルアンモニウム、トリエチルベンジルアンモニウム、トリプロピルベンジルアンモニウム、トリ−n−ブチルベンジルアンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウム、トリエチルフェニルアンモニウム、トリメチル−2−オキシエチルアンモニウム、モノメチルトリヒドロキシエチルアンモニウム、モノエチルトリヒドロキシエチルアンモニウム、オクダデシルトリ(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、テトラキス(ヒドロキシエチル)アンモニウム等の水酸化物;塩酸、臭酸、フッ酸等の水素酸塩;硫酸、硝酸、燐酸、炭酸、ホウ酸、塩素酸、よう素酸、珪酸、過塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、クロロ硫酸、アミド硫酸、二硫酸、トリポリ燐酸等のオキソ酸塩;チオ硫酸などのチオ酸塩;蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、イソ酪酸、ペンタン酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、安息香酸、シュウ酸などのカルボン酸塩が挙げられる。これらの中でも、水酸化物(OH-)、硫酸(HSO4-、SO42-)、炭酸(HCO3-、CO32-)、ホウ酸(B(OH)4-)、及びカルボン酸の塩が好ましい。カルボン酸の中では、蟻酸、酢酸、プロピオン酸が特に好ましい。第4級アンモニウム化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、上記第4級アンモニウム化合物に加えて、公知の不安定末端部の分解促進剤であるアンモニアやトリエチルアミン等のアミン類を併用してもよい。
【0022】
第4級アンモニウム化合物の使用量は、ポリアセタールコポリマーと第4級アンモニウム化合物との合計質量に対する下記式(3)で表わされる第4級アンモニウム化合物由来の窒素量に換算して、好ましくは0.05〜50質量ppm、より好ましくは1〜30質量ppmである。
P×14/Q (3)
ここで、式(3)中、Pは第4級アンモニウム化合物のポリアセタールコポリマーに対する濃度(質量ppm)を示し、14は窒素の原子量であり、Qは第4級アンモニウム化合物の分子量を示す。
【0023】
第4級アンモニウム化合物の使用量が0.05質量ppm未満であると不安定末端部の分解除去速度が低下する傾向にあり、50質量ppmを超えると不安定末端部の分解除去後のポリアセタールコポリマーの色調が悪化する傾向にある。
【0024】
本実施形態に係るポリアセタール樹脂(I)の不安定末端部は、融点以上260℃以下の温度でポリアセタールコポリマーを溶融させた状態で熱処理すると、分解除去される。この分解除去処理に用いる装置としては特に制限はないが、押出機、ニーダー等が好適である。分解により発生したホルムアルデヒドは通常、減圧下で除去される。第4級アンモニウム化合物をポリアセタールコポリマー中に存在させる方法には特に制約はなく、例えば、重合触媒を失活する工程において水溶液として添加する方法、重合により生成したポリアセタールコポリマーパウダーに吹きかける方法が挙げられる。いずれの方法を用いても、ポリアセタールコポリマーを加熱処理する工程において、そのコポリマー中に第4級アンモニウム化合物が存在していればよい。例えば、ポリアセタールコポリマーが溶融混練及び押し出される押出機の中に第4級アンモニウム化合物を注入してもよい。あるいは、その押出機等を用いて、ポリアセタールコポリマーにフィラーやピグメントを配合する場合、ポリアセタールコポリマーの樹脂ペレットに第4級アンモニウム化合物をまず添着し、その後のフィラーやピグメントの配合時に不安定末端部の分解除去処理を行ってもよい。
【0025】
不安定末端部の分解除去処理は、重合により得られたポリアセタールコポリマーと共存する重合触媒を失活させた後に行うことも可能であり、重合触媒を失活させずに行うことも可能である。重合触媒の失活処理としては、アミン類等の塩基性の水溶液中で重合触媒を中和失活する方法が挙げられる。重合触媒の失活を行わない場合、ポリアセタールコポリマーの融点以下の温度で不活性ガス雰囲気下にてそのコポリマーを加熱し、重合触媒を揮発により減少させた後、不安定末端部の分解除去操作を行うことも有効な方法である。
【0026】
上述のような不安定末端部の分解除去処理により、不安定末端部がほとんど存在しない非常に熱安定性に優れたポリアセタールコポリマーを得ることができる。
【0027】
本実施形態に係る軽質炭酸カルシウム(II)は、その粒子の形状が特に限定されるものではない。その形状としては、具体的には、球形、立方形、紡鍾形、薄片形、不定形が挙げられる。これらのうち、射出成形品の異方性低減、機械的強度向上の観点から、立方形のものが好ましく、粒子の平均長径(L)と平均短径(D)との比であるアスペクト比(L/D)が3以下であるものがさらに好ましい。また、軽質炭酸カルシウム(II)の結晶形態としては、一般的に知られているカルサイト型、アラゴナイト型及びパテライト型のいずれであってもよく、これらのうち、ポリアセタール樹脂との界面密着性、組成物の機械的物性のバランスを向上させる観点から、カルサイト型のものが好ましい。軽質炭酸カルシウム(II)は、人工的に合成されるものであれば特に限定されず、コロイド状炭酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム又は活性炭酸カルシウムと呼ばれるものが好ましい。これらの中でも、スラリー状の水酸化カルシウムに二酸化炭素を反応させて製造されたものが特に好ましい。軽質炭酸カルシウム(II)は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0028】
軽質炭酸カルシウム(II)の平均粒径は50nm以上500nm以下であり、好ましくは80nm以上300nm以下であり、より好ましくは80nm以上200nm以下である。軽質炭酸カルシウム(II)の平均粒径が50nm以上であることにより、ポリアセタール樹脂組成物から得られる成形品が熱水環境下に長時間曝された後であっても、その剛性及び靱性を高いレベルで維持することができる。また、軽質炭酸カルシウム(II)の平均粒径が500nm以下であることにより、上記成形品が熱水環境下に長時間曝された後であっても、その靱性及びギア強度を高いレベルで維持することができる。なお、軽質炭酸カルシウム(II)の平均粒径、平均長径及び平均短径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定対象となる炭酸カルシウム粒子のサンプリングを行い、その粒子を倍率1千倍から5万倍で撮影し、得られた画像において無作為に選んだ最低100個の炭酸カルシウムの粒子からそれぞれの径を測定し、その相加平均として求めたものである。
【0029】
また、軽質炭酸カルシウム(II)の上記試験法(A)によるpHは、9.2以上10.0以下であり、好ましくは9.4以上9.7以下である。このpHが9.2以上10.0以下であることは、本発明の目的を達成するための1つの要件となる。軽質炭酸カルシウム(II)の水銀ポロシメーターを用いた水銀圧入法による最多確率空隙半径は0.12μm以上0.16μm以下であることが好ましい。その最多確率空隙半径が0.12μm以上であることにより、組成物中に炭酸カルシウムの凝集体が生成し難く良分散体が得られるという効果を有し、0.16μm以下であることにより、組成物の成形体が熱水環境下に長時間曝された後であっても、剛性及びギア強度を高いレベルで保持できるいう効果を有する。
【0030】
本実施形態に係る軽質炭酸カルシウム(II)は、表面処理されていないものである。ここでいう「表面処理」とは、炭酸カルシウムの製造工程において、粒子の凝集を防止する目的で、公知の表面処理剤、付着剤又は錯化剤、及び凝集防止剤の少なくとも1種が添加され、その結果、該物質によって炭酸カルシウムの表面が被覆されていることをいう。ここで、表面処理剤、付着剤又は錯化剤、及び凝集防止剤とは、例えば「分散・凝集の解明と応用技術、1992年」(北原文雄監修・(株)テクノシステム発行)の232〜237ページに記載されているようなアニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン系界面活性剤が挙げられる。また、アミノシラン、エポキシシラン等のシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、脂肪酸(飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸)、脂肪族カルボン酸、樹脂酸及び金属セッケンが例示される。軽質炭酸カルシウム(II)が上記表面処理を施されていないことは、本実施形態のポリアセタール樹脂組成物が本発明の目的を達成することの1つの要件となる。
【0031】
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物における軽質炭酸カルシウム(II)の配合量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して5〜50質量部であり、好ましくは10〜50質量部である。この配合量が5〜50質量部であることは、本実施形態のポリアセタール樹脂組成物が本発明の目的を達成することの1つの要件となる。
【0032】
炭素数12〜30の脂肪酸(III)は、直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基にカルボキシル基が結合した構造の脂肪酸であり、分子内の合計炭素原子数が12〜30のものである。これらの脂肪酸は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。脂肪酸(III)としては、具体的には、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ペンタデシル酸、ステアリン酸、ナノデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ステアロール酸が挙げられる。
【0033】
なお、脂肪酸(III)は天然のものであっても合成されたものであってもよく、天然のものを用いた場合、本実施形態のポリアセタール樹脂組成物が、その脂肪酸(III)と他の天然成分との混合物を含んでもよい。脂肪酸(III)は、ヒドロキシ基等の官能基で置換されていてもよい。また、脂肪酸(III)は、合成脂肪族アルコールであるユニリンアルコールの末端をカルボキシル変性した合成脂肪酸であってもよい。上述の脂肪酸の中でも、ステアリン酸及びパルミチン酸並びにそれらの任意の割合の混合物が特に好ましい。
【0034】
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物において、上述の軽質炭酸カルシウム(II)に対する炭素数12〜30の脂肪酸(III)の質量比(III)/(II)は、0.020〜0.060であり、好ましくは0.025〜0.050である。この質量比(III)/(II)の値が0.020〜0.060であることは、本実施形態のポリアセタール樹脂組成物が本発明の目的を達成するための1つの要件である。
【0035】
脂肪酸カルシウム塩(IV)は、脂肪酸(III)の炭素数、すなわち脂肪酸(III)が有する炭素原子の数をX、脂肪酸カルシウム塩(IV)の炭素数、すなわち脂肪酸カルシウム塩(IV)が有する炭素原子の数をYとしたときに、XとYとが上記式(1)を満たすものである。脂肪酸(III)と脂肪酸カルシウム塩(IV)との組合せとしては、脂肪酸(III)がベヘン酸であり、脂肪酸カルシウム塩(IV)がステアリン酸カルシウムである組合せ、脂肪酸(III)がベヘン酸であり、脂肪酸カルシウム塩(IV)がパルミチン酸カルシウムである組合せ、脂肪酸(III)がステアリン酸であり、脂肪酸カルシウム塩(IV)がパルミチン酸カルシウムである組合せが好ましく、脂肪酸(III)がステアリン酸であり、脂肪酸カルシウム塩(IV)がパルミチン酸カルシウムである組合せが最も好ましい。
【0036】
さらに、本実施形態のポリアセタール樹脂組成物において、脂肪酸カルシウム塩(IV)に対する脂肪酸(III)の質量比(III)/(IV)は、本発明の目的の性能を発揮するといった観点から、3〜15であり、好ましくは5〜13である。
【0037】
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂(I)から発生し得るホルムアルデヒドを捕捉するために、ポリアセタール樹脂(I)100質量部に対し、ポリアミド樹脂(V)を0.01〜3質量部含有すると好ましい。ポリアミド樹脂(V)としては、例えば、ナイロン4,6、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン6,12、ナイロン12、及びこれらの重合体、例えば、ナイロン6/6,6/6,10、ナイロン6/6,12が挙げられる。
【0038】
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、さらに必要に応じて、酸化防止剤、ホルムアルデヒドとの反応性窒素を含む重合体又は化合物、ギ酸捕捉剤、耐候(光)安定剤、離型剤を、本発明の目的達成を損なわない範囲で、好ましくは、ポリアセタール樹脂(I)100質量部に対して各々0.01〜1.0質量部の範囲で添加されてもよい。
【0039】
酸化防止剤としては、ヒンダートフェノール系酸化防止剤が好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の具体例としては、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3’−メチル−5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−テトラデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、1,4−ブタンジオール−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンが挙げられる。これらの中では、好ましくは、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]及びペンタエリスリトールテトラキス[メチレン‐3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンである。これらの酸化防止剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0040】
ホルムアルデヒドとの反応性窒素を含む重合体又は化合物の例としては、アクリルアミド及びその誘導体、アクリルアミド及びその誘導体と他のビニルモノマーとの共重合体が挙げられる。より具体的には、例えば、アクリルアミド及びその誘導体と他のビニルモノマーとを金属アルコラートの存在下で重合して得られたポリ−β−アラニン共重合体が挙げられるその他に、上記重合体又は化合物として、アミド化合物、アミノ置換トリアジン化合物、アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドとの付加物、アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドとの縮合物、尿素、尿素誘導体、ヒドラジン誘導体、イミダゾール化合物、イミド化合物が挙げられる。
【0041】
アミド化合物の具体例としては、イソフタル酸ジアミドなどの多価カルボン酸アミド、アントラニルアミドが挙げられる。アミノ置換トリアジン化合物の具体例としては、2,4−ジアミノ−sym−トリアジン、2,4,6−トリアミノ−sym−トリアジン、N−ブチルメラミン、N−フェニルメラミン、N,N−ジフェニルメラミン、N,N−ジアリルメラミン、ベンゾグアナミン(2,4−ジアミノ−6−フェニル−sym−トリアジン)、アセトグアナミン(2,4−ジアミノ−6−メチル−sym−トリアジン)、2,4−ジアミノ−6−ブチル−sym−トリアジンが挙げられる。アミノ置換トリアジン類化合物とホルムアルデヒドとの付加物の具体例としては、N−メチロールメラミン、N,N’−ジメチロールメラミン、N,N’,N”−トリメチロールメラミンが挙げられる。アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドとの縮合物の具体例としては、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物が挙げられる。尿素誘導体の例としては、N−置換尿素、尿素縮合体、エチレン尿素、ヒダントイン化合物、ウレイド化合物が挙げられる。N−置換尿素の具体例としては、アルキル基等の置換基に置換したメチル尿素、アルキレンビス尿素、アリール置換尿素が挙げられる。尿素縮合体の具体例としては、尿素とホルムアルデヒドとの縮合体が挙げられる。ヒダントイン化合物の具体例としては、ヒダントイン、5,5−ジメチルヒダントイン、5,5−ジフェニルヒダントインが挙げられる。ウレイド化合物の具体例としては、アラントインが挙げられる。ヒドラジン誘導体の具体例としてはヒドラジド化合物が挙げられる。ヒドラジド化合物の具体例としては、ジカルボン酸ジヒドラジドが挙げられ、更に具体的には、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スペリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフタレンジカルボジヒドラジドが挙げられる。イミド化合物の具体例としてはスクシンイミド、グルタルイミド、フタルイミドが挙げられる。
【0042】
ギ酸捕捉剤としては、例えば、上記のアミノ置換トリアジン化合物やアミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドとの縮合物、例えば、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物が挙げられる。他のギ酸捕捉剤としては、例えば、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、無機酸塩又はアルコキシドが挙げられる。より具体的には、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム若しくはバリウムの水酸化物、上記金属の炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩、ホウ酸塩が挙げられる。これらのギ酸捕捉剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0043】
耐候(光)安定剤は、ベンゾトリアゾール系及び蓚酸アニリド系紫外線吸収剤並びにヒンダードアミン系光安定剤の中から選ばれる1種以上であると好ましい。
【0044】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’、5’−ジ−t−ブチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス−(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−4’−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾールが挙げられる。蓚酸アリニド系紫外線吸収剤の具体例としては、2−エトキシ−2’−エチルオキザリックアシッドビスアニリド、2−エトキシ−5−t−ブチル−2’−エチルオキザリックアシッドビスアニリド、2−エトキシ−3’−ドデシルオキザリックアシッドビスアニリドが挙げられる。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、好ましくは2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス−(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチル−フェニル)ベンゾトリアゾールである。これらのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0045】
ヒンダードアミン系光安定剤の具体例としては、N,N’,N’’,N’’’−テトラキス−(4,6−ビス(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの縮合物、デカン2酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステルと1,1−ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンとの反応生成物、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、メチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β’,β’−テトラメチル−3,9−[2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエタノールとの縮合物が挙げられる。ヒンダードアミン系光安定剤は、好ましくはビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β’,β’−テトラメチル−3,9−[2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエタノールとの縮合物である。これらヒンダードアミン系光安定剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0046】
離型剤としては、アルコール、脂肪酸及びそれらの脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール、平均重合度が10〜500であるオレフィン化合物が好ましく用いられる。
【0047】
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、本発明の目的達成を損なわない範囲で、更に公知の添加剤を必要に応じて含有してもよい。そのような添加剤として、具体的には、無機充填材、結晶核剤、導電材、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー及び顔料が挙げられる。
【0048】
無機充填剤としては、例えば、繊維状、粉粒子状、板状及び中空状のものが用いられる。繊維状充填剤としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、シリコーン繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、ステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属繊維等の無機質繊維が挙げられる。また、無機充填剤として、繊維長の短いチタン酸カリウムウイスカー、酸化亜鉛ウイスカー等のウイスカーを用いてもよい。なお、本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、芳香族ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂等の高融点有機繊維状物質を含有してもよい。
【0049】
粉粒子状充填剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、クレー、珪藻土、ウォラストナイトのような珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、アルミナのような金属酸化物、硫酸カルシウム、硫酸バリウムのような金属硫酸塩、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩、その他炭化珪素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末が挙げられる。板状充填剤としては、例えば、マイカ、ガラスフレーク、各種金属箔が挙げられる。中空状充填剤としては、例えば、ガラスバルーン、シリカバルーン、シラスバルーン、金属バルーンが挙げられる。
【0050】
これらの充填剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの充填剤は表面処理されたもの及び未表面処理のもののいずれであってもよいが、成形表面の平滑性、機械的特性の点から、表面処理されたものの方が好ましい場合がある。表面処理剤としては従来公知のものが使用可能である。表面処理剤として、例えば、シラン系、チタネート系、アルミニウム系、ジルコニウム系等の各種カップリング処理剤を使用することができる。具体的には、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリスステアロイルチタネート、ジイソプロポキシアンモニウムエチルアセテート、n−ブチルジルコネートが挙げられる。
【0051】
導電剤としては、例えば、導電性カーボンブラック、金属粉末及び金属繊維が挙げられる。
【0052】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリカーネート樹脂、及び未硬化のエポキシ樹脂が挙げられる。また、これらの樹脂の変性物を熱可塑性樹脂として用いてもよい。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリアミド系エラストマーが挙げられる。
【0053】
顔料としては、無機系顔料及び有機系顔料、メタリック系顔料、蛍光顔料が挙げられる。ここで、無機系顔料としては、樹脂の着色用として一般的に用いられているものが挙げられ、硫化亜鉛、酸化チタン、硫酸バリウム、チタンイエロー、コバルトブルー、燃成顔料、炭酸塩、りん酸塩、酢酸塩、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラックが例示される。また、有機系顔料としては、例えば、縮合ウゾ系、イノン系、フロタシアニン系、モノアゾ系、ジアゾ系、ポリアゾ系、アンスラキノン系、複素環系、ペンノン系、キナクリドン系、チオインジコ系、ベリレン系、ジオキサジン系、フタロシアニン系の顔料が挙げられる。本実施形態のポリアセタール樹脂組成物への顔料の添加割合は、求められる色調により大幅に変化するため明確に規定することは困難であるが、一般的には、ポリアセタール樹脂(I)100質量部に対して、0.05〜5質量部の範囲で用いられる。
【0054】
次に本実施形態のポリアセタール樹脂組成物の好適な製造方法について説明する。なお、ここでは説明の簡略化のために、ポリアセタール樹脂(I)、軽質炭酸カルシウム(II)、脂肪酸(III)及び脂肪酸カルシウム塩(IV)を、それぞれ、単に成分(I)、成分(II)、成分(III)及び成分(IV)と表記する場合がある。
【0055】
まず、その製造方法に用いられる装置としては、一般に実用されている混練機が適用され得る。その装置としては、例えば、一軸又は多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサーが挙げられる。それらの中でも、減圧装置とサイドフィーダーとを装備した2軸押出機が特に好ましい。このような装置を用いて、上記各成分を溶融混練することによって本実施形態のポリアセタール樹脂組成物が得られる。溶融混練の方法は、全成分を同時に溶融混練する方法、予備的に混合した混合物を溶融混練する方法、更に押出機のバレルの途中において、逐次、サイドフィーダーから各成分を供給し、溶融混練する方法が挙げられる。
【0056】
その製造方法は、具体的には、〔A〕成分(I)と成分(II)と成分(III)と成分(IV)とを混合して混合物を得る工程と、その混合物を溶融混練する工程とを有する方法、〔B〕予め成分(II)と成分(III)と成分(IV)とを混合して予備混合物を得る工程と、その予備混合物と成分(I)とを溶融混練する工程とを有する方法、並びに、〔C〕上記成分(I)〜(VI)のうちの2種又は3種の成分(ただし、成分(II)と成分(III)と成分(IV)との組合せを除く。)を予め混合又は溶融混練して予備混合物を得る工程と、その予備混合物と、混合していない残りの成分とを溶融混練する工程とを有する方法が挙げられる。ただし、成分(I)〜(IV)の混合順序及び溶融混練順序は特に制限されない。これらのうち、本発明の目的をより有効かつ確実に達成する観点から、成分(I)の加熱溶融物又は固体状態物に成分(II)と成分(III)と成分(IV)との混合物を添加して溶融混練する方法が好ましい。
【0057】
より詳細には、本発明の目的を更に有効かつ確実に達成できるポリアセタール樹脂組成物を得る観点から、好ましい製造方法は、成分(II)と成分(III)と成分(IV)とを固相状態でブレンダーにより混合して混合物を得る工程と、その混合物と成分(I)とを、それぞれ異なるフィーダーから押出機のバレル内に連続的に供給し溶融混練して溶融混練物を得る工程と、その溶融混練物を押出機のダイから連続的に押し出す工程とを有する。この製造方法は、成分(III)等を用いて、成分(II)に対して加熱ヘンシェルコーティング等により予め表面処理又はコーティングを施す工程を経ることがない製造方法である。
【0058】
また、ポリアセタール樹脂組成物がポリアミド樹脂(V)を含む場合、より好ましい製造方法としては、成分(II)と成分(III)と成分(IV)とポリアミド樹脂(V)を含む樹脂とを固相状態でブレンダーにより混合して混合物を得る工程と、その混合物と成分(I)とを、それぞれ異なるフィーダーから押出機のバレル内に連続的に供給し溶融混練して溶融混練物を得る工程と、その溶融混練物を押出機のダイから連続的に押し出する工程とを有する製造方法である。この場合、特に好ましくは、上記ポリアミド樹脂(V)を含む樹脂が、ポリアミド樹脂(V)と成分(I)との溶融混練物であり、それを溶融マスターバッチとして用いる。これにより、ポリアミド樹脂(V)の組成物中での分散性が向上する。
【0059】
押出機の設定温度は特に限定されないが、バレルが下記温度分布を有すると好ましい。すなわち、バレルを、ダイから離れた第1の領域と、その第1の領域よりもダイに近い第2の領域とに分けた場合、第1の領域で成分(III)の融点以下、第2の領域で成分(I)の融点以上、という温度分布を有すると好ましい。このような温度分布は、バレル内が常法により加熱されると共に、ダイから最も離れたフィーダー(押出機トップの原料投入口)直下のバレルの領域を水冷することにより成し遂げられる。具体的には第2の領域での温度は160〜240℃であると好ましい。
【0060】
押出機の減圧度は特に限定されないが、0〜0.07MPaが好ましい。また、溶融混練の温度は、用いるポリアセタール樹脂(I)のJIS K7121に準じた示差走査熱量(DSC)測定で求まる融点より1〜100℃高い温度が好ましい。より具体的には、溶融混練の温度は160℃〜240℃であると好ましい。また、混練機での剪断速度は100rpm以上であることが好ましく、混練時の平均滞留時間は、30秒間〜1分間が好ましい。
【0061】
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物を成形して成形品を製造する方法は、従来のポリアセタール樹脂組成物を成形する方法と同様であればよく特に制限されない。その方法としては、例えば、押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、射出圧縮成形、加飾成形、他材質成形、ガスアシスト射出成形、発砲射出成形、低圧成形、超薄肉射出成形(超高速射出成形)、金型内複合成形(インサート成形、アウトサート成形)が挙げられる。
【0062】
上述の成形方法によって本実施形態のポリアセタール樹脂組成物から得られる成形品、例えば、射出成形によって得られる射出成形体は、剛性、靭性に代表される機械的特性のバランスに優れ、さらに熱水環境下に長時間曝された後であっても剛性及びギア特性を高いレベルで保持することができる。したがって、その成形品は、複雑な形状を有する部品として用いた場合に有用であり、様々な用途の成形品として使用することが可能である。そのような成形品として、例えば、歯車(ギア)、カム、スライダー、レバー、アーム、クラッチ、フェルトクラッチ、アイドラギアー、プーリー、ローラー、コロ、キーステム、キートップ、シャッター、リール、シャフト、関節、軸、軸受け及びガイド等に代表される機構部品、アウトサート成形の樹脂部品、インサート成形の樹脂部品、シャーシ、トレー、側板、プリンター及び複写機に代表されるオフィスオートメーション機器用部品、VTR(Video Tape Recorder)、ビデオムービー、デジタルビデオカメラ、カメラ及びデジタルカメラに代表されるカメラ又はビデオ機器用部品、カセットプレイヤー、DAT、LD(Laser Disk)、MD(Mini Disk)、CD(Compact Disk)〔CD−ROM(Read Only Memory)、CD−R(Recordable)、CD−RW(Rewritable)を含む〕、DVD(Digital Video Disk)〔DVD−ROM、DVD−R、DVD+R、DVD−RW、DVD+RW、DVD−R DL、DVD+R DL、DVD−RAM(Random Access Memory)、DVD−Audioを含む〕、Blu−ray Disc、HD−DVD、その他光デイスクドライブ、MFD、MO、ナビゲーションシステム及びモバイルパーソナルコンピュータに代表される音楽、映像又は情報機器、携帯電話及びファクシミリに代表される通信機器用部品、電気機器用部品、電子機器用部品が挙げられる。
【0063】
また、その成形品は、自動車用の部品などとしても用いることも可能であり、例えば、ガソリンタンク、フュエルポンプモジュール、バルブ類、ガソリンタンクフランジ等に代表される燃料廻り部品、ドアロック、ドアハンドル、ウインドウレギュレータ、スピーカーグリル等に代表されるドア廻り部品、シートベルト用スリップリング、プレスボタン等に代表されるシートベルト周辺部品、コンビスイッチ部品、スイッチ類及び、クリップ類の部品、さらにシャープペンシルのペン先及び、シャープペンシルの芯を出し入れする機構部品、洗面台並びに排水口及び排水栓開閉機構部品、浄水器及び流量計などの機構部品、自動販売機の開閉部ロック機構及び商品排出機構部品、衣料用のコードストッパー、アジャスター及びボタン、散水用のノズル及び散水ホース接続ジョイント、階段手すり部及び床材の支持具である建築用品、使い捨てカメラ、玩具、ファスナー、チェーン、コンベア、バックル、スポーツ用品、自動販売機、家具、楽器及び住宅設備機器に代表される工業部品としても好適に用いられる。
【0064】
特に、本実施形態の射出成形体は、そのギア特性に優れ、しかも熱水環境下に長時間曝された後であっても、そのギア特性を高いレベルで維持できるため、歯車として用いられると極めて有用である。
【0065】
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂(I)と、特定のpHを有する軽質炭酸カルシウム(II)と、脂肪酸(III)と、脂肪酸カルシウム塩(IV)とを含み、かつ脂肪酸(III)と軽質炭酸カルシウム(II)との質量比、脂肪酸カルシウム塩(IV)と軽質炭酸カルシウム(II)との質量比が特定の範囲にある。これにより、その組成物から得られる成形品は、剛性、靭性などの機械的特性のバランスに優れ、さらに熱水環境下で長時間曝された後であっても剛性及びギア特性を高いレベルで保持できる。
【0066】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0067】
以下、実施例及び比較例よって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0068】
(物性及び特性の測定及び評価方法)
〈融点の測定方法〉
示差熱量計(パーキンエルマー社製、商品名「DSC−2C」)を用いて、ポリアセタール樹脂の融点を測定した。その際、まず、室温から200℃まで昇温し1分間その温度で保持し、完全にポリアセタール樹脂を融解させた。その後、ポリアセタール樹脂を100℃まで冷却し、再度2.5℃/分の速度にて昇温し、その時の発熱スペクトルのピークの温度を融点とした。
【0069】
〈引張特性の測定方法〉
東芝機械(株)製の射出成形機(商品名「IS−100GN」)を用いて、シリンダー温度205℃、金型温度90℃、射出圧力100MPa、射出時間35秒、冷却15秒の射出条件でポリアセタール樹脂組成物を射出成形し、評価用のISOダンベルを試験片として得た。得られたISOダンベルについて、ISO527に準じて引張弾性率、引張伸度を測定した。また、同じ試験片を140℃のギアオーブンで168時間アニールした後に、同様に引張弾性率、引張伸度を測定した。
【0070】
〈歯車耐久性の評価方法〉
ファナック(株)製の射出成形機(商品名「α50i−A射出成形機」)を用いて、シリンダー温度190℃、金型温度80℃、射出圧力120MPa、射出時間10秒、冷却時間15秒の射出条件でポリアセタール樹脂組成物を射出成形し、モジュール0.8、歯数50、歯幅5mmの平歯車を得た。その平歯車を、東芝機械(株)製の歯車耐久試験機に同材同士の歯車を編み合わせて設置した。(片方の歯車を駆動側、もう一方の歯車を従動側とした。次に、駆動側の歯車をトルク176N/m、回転数800rpmの条件で回転させ、歯車が破壊するまでの時間を測定した。また、同じ歯車を120℃の高温高圧水槽中に168時間浸漬した後に、同様の試験を行い、歯車が破壊するまでの時間を測定した。
【0071】
(ポリアセタール樹脂組成物の製造)
ポリアセタール樹脂組成物を、2軸押出機(東芝機械(株)製、商品名「TEM−48SS押出機」、L/D=58.4、ベント付き)を用いて製造した。この押出機100の概略図を図1に示す。この押出機100は、上流側から下流側にかけて各々独立したバレルの領域1〜14と、その最下流側に配置されたダイヘッド15と、バレル内のスクリュー(図示せず)を駆動するための押出機モータ16と、最上流側のバレルの領域1に連結した定量フィーダー17と、それとは異なる定量フィーダー18と、その下流のバレルの領域10に連結した定量フィーダー(サイドフィーダー)19と、更に下流のバレルの領域13から延びている脱気ベント20とを備える。バレルの領域6は、系内のガスを排出するために大気中に開放されている。ポリアセタール樹脂組成物を、図1に示す押出機100を用いて、下記の製造方法A、B、C及びDのいずれかにより製造した。
【0072】
<製造方法A>
押出機100のバレルの領域1を冷却水により冷却し、バレルの領域2〜4を200℃に、バレルの領域5〜9を210℃に、バレルの領域10を200℃に、バレルの領域11〜14を180℃に、ダイヘッド15を190℃に設定した。この温度条件で、ポリアセタール樹脂(I)を定量フィーダー17から、軽質炭酸カルシウム(II)と脂肪酸(III)と脂肪酸カルシウム塩(IV)とポリアミド樹脂(V)との固相状態での混合物を定量フィーダー18からそれぞれ供給した。それと共に、脱気ベント20より真空ポンプ(図示せず)を用いて脱気しながら、スクリュー回転数300rpm、押出量200kg/hの条件で混合物を溶融混練し、ダイヘッド15でダイから溶融混練物を押し出してポリアセタール樹脂組成物を得た。
【0073】
<製造方法B>
軽質炭酸カルシウム(II)と脂肪酸(III)と脂肪酸カルシウム塩(IV)とポリアミド樹脂(V)との固相状態での混合物を定量フィーダー19に代えて定量フィーダー19から供給した以外は製造方法Aと同様にして、ポリアセタール樹脂組成物を得た。
【0074】
<製造方法C>
ポリアセタール樹脂(I)と、軽質炭酸カルシウム(II)と、脂肪酸(III)と、脂肪酸カルシウム塩(IV)と、ポリアミド樹脂(V)との供給方法を、上述に代えて、それら全ての固相状態での混合物を定量フィーダー17から供給する方法に代えた以外は製造方法Aと同様にして、ポリアセタール樹脂組成物を得た。
【0075】
実施例、比較例には下記成分を用いた。
〈ポリアセタール樹脂(I)〉
(ポリアセタール樹脂(I−i))
熱媒を通すことができるジャッケット付きの2軸セルフクリーニングタイプの重合機(L/D=8)を80℃に調整し、そこにトリオキサンを4kg/時間、コモノマーとして1,3−ジオキソランを42.8g/時間(トリオキサン100mol%に対して、1.3mol%)、連鎖移動剤としてメチラールを重合後のポリアセタール樹脂のJIS K7210に基づく190℃でのメルトフローレート(以下同様。)が13g/10分となるような量、それぞれ添加した。さらに重合触媒として三フッ化硼素ジ−n−ブチルエーテラートをトリオキサン1molに対して1.5×10-5molとなる量で、連続的に重合機に添加し重合を行った。重合機より排出されたポリアセタールコポリマーをトリエチルアミン0.1%水溶液中に投入し重合触媒の失活を行った。重合触媒の失活したポリアセタールコポリマーを遠心分離機でろ過した後、ポリアセタールコポリマー100質量部に対して、第4級アンモニウム化合物として水酸化コリン蟻酸塩(トリエチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムフォルメート)を含有した水溶液1質量部を添加して、均一に混合した後、120℃で乾燥した。水酸化コリン蟻酸塩の添加量は、添加する水酸化コリン蟻酸塩を含有した水溶液中の水酸化コリン蟻酸塩の濃度を調整することにより行い、上記式(3)で表される窒素量に換算して20質量ppmとした。乾燥後のポリアセタールコポリマーをベント付き2軸スクリュー式押出機に供給し、押出機中の溶融しているポリアセタールコポリマー100質量部に対して水を0.5質量部添加し、押出機設定温度200℃、押出機における滞留時間7分間の条件で、その不安定末端部分の分解除去処理を行った。不安定末端部分の分解されたポリアセタールコポリマーは、ベント真空度20Torrの条件下で脱揮され、押出機のダイス部よりストランドとして押し出され、ペレット化された。ペレット化したポリアセタールコポリマー(ポリアセタール樹脂)100質量部に対し、酸化防止剤としてトリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]0.35質量部を添加し、ベント付2軸押出機で溶融混練することによりポリアセタール樹脂ペレットを得た。このようにして得られたポリアセタール樹脂(I−i)の融点は169.5℃であった。
【0076】
(ポリアセタール樹脂(I−ii))
1,3−ジオキソランの添加量を42.8g/時間から128.3g/時間(トリオキサン100mol%に対して、3.9mol%)に代え、メチラールの添加量を、重合後のポリアセタール樹脂のメルトフローレートが13g/10分となるような量から10g/10分となるような量に変更した以外はポリアセタール樹脂(I−i)の重合と同様にして、ポリアセタール樹脂のペレット化までを行った。ペレット化されたポリアセタール樹脂100質量部に対し、酸化防止剤としてトリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]0.35質量部を添加し、ベント付2軸押出機で溶融混練することによりポリアセタール樹脂ペレットを得た。このようにして得られたポリアセタール樹脂(I−ii)の融点は164.5℃であった。
【0077】
(ポリアセタール樹脂(I−iii))
攪拌羽根の付いた連続式にモノマー等を供給できるタンクに脱水したホルムアルデヒドガス100質量部、触媒としてジメチルジステアリルアンモニウムアセテート0.1質量部を投入した。次いで、そこに、分子量調節剤として無水酢酸を、重合後のポリアセタール樹脂のメルトフローレートが10g/10分となるような量で連続的に供給しながら、58℃で重合した。得られた粗ポリオキシメチレン重合体をヘキサンと無水酢酸との1対1混合溶媒に入れ、140℃で2時間、末端基を化学処理した。得られた重合体を120℃、3時間、1mmHgの条件で真空乾燥した。次に、乾燥したポリオキシメチレン重合体100質量部に対して、酸化防止剤としてトリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕を0.35質量部添加し、ベント付2軸押出機で溶融混練することによりポリアセタール樹脂ペレットを得た。このようにして得られたポリアセタール樹脂(I−iii)の融点は175.0℃であった。
【0078】
〈炭酸カルシウム(II)〉
(II−i):白石工業(株)製、平均粒径150nm、表面未処理、pH=9.4、最多確率空隙半径0.13μm
(II−ii):白石工業(株)製、平均粒径150nm、表面未処理、pH=9.7、最多確率空隙半径0.14μm
(II−iii):白石工業(株)製、平均粒径150nm、表面未処理、pH=9.2、最多確率空隙半径0.12μm
(II−iv):白石工業(株)製、平均粒径150nm、表面未処理、pH=10.0、最多確率空隙半径0.13μm
(II−v):白石工業(株)製、平均粒径150nm、表面未処理、pH=9.4、最多確率空隙半径0.10μm
(II−vi):白石工業(株)製、平均粒径150nm、表面未処理、pH=9.4、最多確率空隙半径0.17μm
(II−vii):白石工業(株)製、平均粒径150nm、表面未処理、pH=9.1、最多確率空隙半径0.12μm
(II−viii):白石工業(株)製、平均粒径150nm、表面未処理、pH=10.2、最多確率空隙半径0.14μm
(II−ix):白石工業(株)製、商品名「Vigot−15」(平均粒径150nm、表面脂肪酸処理、pH=9.0、最多確率空隙半径0.12μm)
(II−x):白石工業(株)製、商品名「白艶華O」(平均粒径30nm、表面ロジン酸(樹脂酸)処理、pH=8.5、最多確率空隙半径0.02μm)
(II−xi):白石工業(株)製、商品名「PC−700」(平均粒径1.2μm、表面未処理、pH=9.9)
【0079】
なお、上記(II−i)〜(II−viii)の炭酸カルシウムは、下記に示す(A)、(B)及び(C)の3段階の工程を経た石灰乳・炭酸ガス反応法により製造されたものである。
(A)緻密質石灰石を焼成炉で焼成し、二酸化炭素と生石灰とに分解した。
(B)得られた生石灰に水を加えて水化精製し、スラリー状の消石灰とした。
(C)(A)で得られた二酸化炭素を(B)で得られたスラリー状の消石灰に吹き込んで反応させ、炭酸カルシウムを生成した。
【0080】
〈脂肪酸(III)〉
(III−i):川研ファインケミカル(株)製ステアリン酸、商品名「F−3」(融点64℃、炭素数18)
(III−ii):ベヘン酸(融点76℃、炭素数22)
【0081】
〈脂肪酸カルシウム塩(IV)〉
(IV−i):パルミチン酸カルシウム(炭素数16)
(IV−ii):日東化成(株)製ステアリン酸カルシウム(炭素数18)
(IV−iii):日東化成(株)製ベヘン酸カルシウム(炭素数22)
【0082】
〈ポリアミド樹脂(V)〉
(V−i):ナイロン6,6(10%)−コポリマーアセタール
メルトフローレートが30g/10分のポリアセタールコポリマーと、ギ酸相対粘度VRが22のポリアミド6,6とを質量比9:1で混合し、シリンダー温度が260℃に設定された二軸押出機でそれらの混合物の溶融混練を行った。押し出されたストランドはストランドカッターでペレット化し、これをポリアミド樹脂(V−i)とした。
【0083】
[実施例1〜36]
各成分(I)〜(V)を表1に示す割合で配合し、それぞれ表1に示された製造方法により溶融混練を行った。押し出されたポリアセタール樹脂組成物をストランドカッターでペレット化した。得られたペレットについて上述の方法により引張弾性率、引張伸度を測定し、また、歯車耐久試験を行った。結果を表2に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
[比較例1〜30]
各成分(I)〜(V)を表3に示す割合で配合し、それぞれ表3に示された製造方法により溶融混練を行った。押し出されたポリアセタール樹脂組成物をストランドカッターでペレット化した。得られたペレットについて上述の方法により引張弾性率、引張伸度を測定し、また、歯車耐久試験を行った。結果を表4に示す。なお、比較例2については、脂肪酸(III)をポリアセタール樹脂(I)100質量部に対して1.5質量部配合し、比較例7〜9、23及び24については、脂肪酸カルシウム塩(IV)をポリアセタール樹脂(I)100質量部に対して0.15質量部配合した。
【0087】
【表3】

【0088】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は上述のとおり、剛性、靭性などの機械的特性や寸法精度に優れているため、歯車に代表される自動車、電機電子機器の精密部品、その他工業などの分野で好適に利用できる。さらに、本発明は、熱水環境下に長時間曝された後の剛性及びギア特性の保持にも優れているため、浄水器や水道メーターの流量計などの熱水と接触するような機器の機構部品にも採用され得る。
【符号の説明】
【0090】
1〜15…バレルの領域、16…押出機モータ、17〜19…定量フィーダー、20…脱気ベント、100…2軸押出機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂100質量部と、平均粒径が50nm以上500nm以下であり、pHが9.2以上10.0以下であり、かつ表面処理されていない軽質炭酸カルシウム5〜50質量部と、炭素数12〜30の脂肪酸と、脂肪酸カルシウム塩と、を含有し、前記脂肪酸の炭素数Xと前記脂肪酸カルシウム塩の炭素数Yとが下記式(1)で表される条件を満たし、前記軽質炭酸カルシウムに対する前記脂肪酸の質量比が0.020〜0.060であり、前記脂肪酸カルシウム塩に対する前記脂肪酸の質量比が3〜15である、ポリアセタール樹脂組成物。
1≦X−Y≦4 (1)
【請求項2】
前記軽質炭酸カルシウムの最多確率空隙半径が、0.12μm以上0.16μm以下である、請求項1に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアセタール樹脂は、164℃以上173℃以下の融点を有するポリアセタールコポリマーを含む、請求項1又は2に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリアセタール樹脂は、167℃以上173℃以下の融点を有するポリアセタールコポリマーを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリアセタール樹脂組成物
【請求項5】
前記ポリアセタール樹脂100質量部に対して、ポリアミド樹脂を0.01〜3質量部含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリアセタール樹脂組成物を製造する方法であって、
平均粒径が50nm以上500nm以下であり、pHが9.2以上10.0以下であり、かつ表面処理されていない軽質炭酸カルシウムと、炭素数12〜30の脂肪酸と、脂肪酸カルシウム塩と、を固相状態でブレンダーにより混合して混合物を得る工程と、
前記混合物と、ポリアセタール樹脂と、を、それぞれ異なるフィーダーから押出機のバレル内に連続的に供給し溶融混練して溶融混練物を得る工程と、
前記溶融混練物を前記押出機のダイから連続的に押し出す工程と、
を有し、
前記脂肪酸の炭素数Xと前記脂肪酸カルシウム塩の炭素数Yとが下記式(1)で表される条件を満たす、ポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
1≦X−Y≦4 (1)
【請求項7】
請求項5に記載のポリアセタール樹脂組成物を製造する方法であって、
平均粒径が50nm以上500nm以下であり、pHが9.2以上10.0以下であり、かつ表面処理されていない軽質炭酸カルシウムと、炭素数12〜30の脂肪酸と、脂肪酸カルシウム塩と、ポリアミド樹脂を含む樹脂と、を固相状態でブレンダーにより混合して混合物を得る工程と、
前記混合物と、ポリアセタール樹脂と、を、それぞれ異なるフィーダーから押出機のバレル内に連続的に供給し溶融混練して溶融混練物を得る工程と、
前記溶融混練物を前記押出機のダイから連続的に押し出す工程と、
を有し、
前記脂肪酸の炭素数Xと前記脂肪酸カルシウム塩の炭素数Yとが下記式(1)で表される条件を満たす、ポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
1≦X−Y≦4 (1)
【請求項8】
前記ポリアミド樹脂を含む樹脂は、前記ポリアミド樹脂と前記ポリアセタール樹脂との溶融混練物である、請求項7に記載のポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリアセタール樹脂組成物を含む射出成形体。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリアセタール樹脂組成物を含む歯車。

【図1】
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【公開番号】特開2010−270232(P2010−270232A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123727(P2009−123727)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】