説明

ポリアミドの製造方法

【課題】本発明は、カプロアミド単位を主構成成分とするポリアミドの製造工程において、モノマおよびオリゴマ除去工程を簡素化できるような、モノマおよびオリゴマの少ないポリアミドを効率的・安定的に製造することを課題とする。
【解決手段】含水率2〜14重量%のカプロラクタム水溶液に0.05〜5mol%のジカルボン酸、ジアミンおよびこれらの塩から選ばれる少なくとも1種の成分を混合し、加圧下に220〜300℃で5〜60分間加熱して得た、アミノ末端基量0.05mmol/1g以上、環状オリゴマーが0.6重量%以下であるプレポリマーを常圧重合装置に供給し、重合温度の最高値が250〜270℃で5〜12時間液相重合することを特徴とする、硫酸相対粘度が2.0以上、カプロラクタムが10重量%以下、オリゴマが2.0重量%以下、環状2〜4量体が1.2重量%以下のポリアミドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カプロラクタムを主原料とするポリアミドの製造方法に関する。詳しくは、重合後のポリアミドポリマに含有されるモノマ、オリゴマの除去工程および精製工程の簡素化、省エネルギー化を行うに好適なカプロラクタム環状オリゴマ、特に環状2量体の含有量が少ないポリアミドを効率的かつ安定的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カプロラクタムを主原料とするポリアミド樹脂は、その優れた特性を活かして衣料用繊維、産業用繊維に使われ、さらに、自動車分野、電気・電子分野などにおいて射出成型品として、また、食品包装用途を中心に押出フィルム、延伸フィルムとしても広く使われている。カプロラクタムを主原料とするポリアミド樹脂は通常、カプロラクタムを少量の水の存在下に加熱することによって製造される。この製造方法は比較的単純なプロセスであり、世の中で広く採用されている製造方法である。「ポリアミド樹脂ハンドブック」(福本修編、日刊工業新聞社)の第63頁〜65頁に記載されている汎用的なポリアミドの重合方法の概略を以下に説明する。
【0003】
カプロラクタムを溶融し、約260℃に加熱された常圧重合塔に供給し、この重合塔内で約10時間の滞留の後、塔下部からストランド状にして水槽に吐出されペレット化される。次にペレットはモノマや環状2量体などのオリゴマを除去するための熱水抽出塔に供給され、塔下部から送られる熱水でモノマ、オリゴマを向流抽出された後、下部から取り出される。抽出後のペレットは多量の水を含んでいるため、真空又は不活性ガス雰囲気中、約100℃で乾燥される。
【0004】
一般に重合後のポリカプロアミドは重合の平衡で残存する未反応カプロラクタムモノマおよびカプロラクタム環状2量体などのポリカプロアミドリゴマを含有するため、このままの状態で繊維やフィルム、射出成型品原料として使用すると、モノマやオリゴマが成型加工時に揮発し、最終製品である繊維やフィルム、射出成型品を得る際に口金汚れや糸切れ、外観不良を発生させ、得られる製品の機械物性や外観も低下するなど、数多くの問題を発生させる。特にカプロラクタム2量体は、モノマ、オリゴマの中でも融点が347℃〜348℃(「ポリアミド樹脂ハンドブック」(福本周辺、日刊工業新聞社)の第61頁)と高く後工程での悪影響は極めて大きい。そこで、これらの未反応モノマとオリゴマを除去することが必要であり、前記のとおりこれまで一般的には熱水により抽出を行っている。この熱水抽出工程には熱水を得るための多くのエネルギーを要し、また抽出したモノマ、オリゴマを含む熱水からモノマ、オリゴマを分離するための濃縮操作、蒸留操作、あるいはオリゴマからモノマを得る解重合操作および不純物を除去する精製操作などでも多くのエネルギーが必要である。
【0005】
これら抽出、精製工程の負荷を下げるため、重合後のポリカプロアミドに含まれるモノマ、オリゴマを減少させる試みがなされており、例えば特許文献1のような提案がされている。
【0006】
すなわち特許文献1には、反応促進添加剤としてジカルボン酸、ジアミンおよびこれらの塩から選ばれる少なくとも1種の成分を反応促進剤として添加したカプロラクタム水溶液を、高温・高圧で短時間処理してポリアミドプレポリマを得、続く常圧重合の重合温度を得られるポリアミドポリマの融点+10℃以下という低温域で実施することにより、重合直後のポリアミドポリマに含有されるモノマおよびオリゴマ量を低減させる方法が開示されている。ここでは環状オリゴマ量が0.9重量%以下のポリアミドポリマが得られたことが示されているが、この方法では融点近傍の温度で重合を行うため、固化防止のため非常に繊細な温度管理が必要となり、工業的生産においては安定性に課題があった。また、相対粘度の高いポリマを重合する場合、重合温度が低いため溶融粘度が非常に高くなり、ポリマの重合装置からの排出が不安定になることや、これに伴いガットの太さが不均一となり、ペレタイズ化する際のカッティングが安定しないことや、得られるペレット形状の悪化といった問題があり、工業的生産への適用は困難であった。
【特許文献1】特開2002−322272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、カプロアミド単位を主たる構成成分とするポリアミドの製造工程において、重合後のポリマからのモノマおよびオリゴマ除去、精製工程を簡素化または省エネルギー化できるようなモノマおよびオリゴマの含有量、特にカプロラクタム環状オリゴマの含有量が少ないポリアミドを効率的かつ工業的生産ベースにおいても安定的に製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成から成る。
【0009】
1)カプロアミド単位を主たる構成成分とするポリアミドの製造方法であって、含水率2〜14重量%のカプロラクタム水溶液に該カプロラクタムに対して0.05〜5mol%のジカルボン酸、ジアミンおよびこれらの塩から選ばれる少なくとも1種の成分を混合し、該混合物を加圧下に220〜300℃の温度で5〜60分間加熱する工程を通じて得た、アミノ末端基量0.05mmol/1g以上、且つ環状オリゴマー含有量が0.6重量%以下であるポリアミドプレポリマを常圧重合装置に供給し、重合温度の最高値が250〜270℃の温度で5〜12時間液相重合することを特徴とする、硫酸相対粘度が2.0以上、カプロラクタム含有量が10重量%以下、オリゴマ含有量が2.0重量%以下、カプロラクタム環状2〜4量体含有量が1.2重量%以下のポリアミドの製造方法。
【0010】
2)ポリアミド中のカプロラクタム環状2量体含有量が0.3重量%以下であることを特徴とする、1)記載のポリアミドの製造方法。
【0011】
3)ジカルボン酸がテレフタル酸および/またはアジピン酸であることを特徴とする1)または2)記載のポリアミドの製造方法。
【0012】
4)ジアミンが1,6−ジアミノヘキサンであることを特徴とする1)〜3)記載のポリアミドの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によって、カプロアミド単位を主たる構成成分とするポリアミドの製造工程において、重合後のポリマからのモノマおよびオリゴマ除去、精製工程を簡素化または省エネルギー化できるようなモノマおよびオリゴマの含有量、特にカプロラクタム環状2量体の含有量が少ないポリアミドを効率的かつ安定的に製造することが可能となる。また、本発明技術は重合温度を低温と限定しない重合方法であることから、工業的生産に適用した場合においても安定した運転が可能であり、従来技術に比べて格段に生産性が向上するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明について以下に詳述する。
【0015】
本発明のポリアミドの製造方法では、まず含水率2重量%以上14重量%以下のカプロラクタム水溶液を加圧下に220〜300℃の温度で5〜60分加熱して、アミノ末端基量が0.05mol/1g以上、且つ環状オリゴマ含有量が0.6重量%以下であるポリアミドプレポリマを得、該ポリアミドプレポリマを常圧重合装置に供給し、重合温度の最高値が250〜270℃の温度で5〜12時間液相重合し、硫酸相対粘度が2.0以上、カプロラクタム含有量が10重量%以下、オリゴマ含有量が2.0重量%以下、カプロラクタム環状2〜4量体含有量の合計が1.2重量%のポリアミドを得る。
【0016】
本発明に言うポリアミドプレポリマとは、カプロラクタムの加熱処理により得られる組成物であり、鎖状オリゴマ、環状オリゴマ、未反応モノマを含む混合物を言う。環状オリゴマとは、鎖状オリゴマの末端基が同一分子鎖内でアミド結合することにより環化したものであり、重合度6までのものをいう。アミノ末端基量は、カプロラクタムが水との反応で加水分解・開環されたアミノカプロン酸あるいはアミノカプロン酸にさらに1分子以上のカプロラクタムが付加した鎖状のカプロアミドオリゴマの片方の末端基の合計量である。
本発明のポリアミドの製造方法ではカプロラクタム水溶液を調製する。この時の含水率の下限は総量に対し、2重量%であり、好ましくは2.5重量%、特に好ましくは3重量%である。また含水率の上限は総量に対し、14重量%であり、好ましくは13重量%、特に好ましくは12重量%である。含水率が2重量%未満であると、アミノ末端基量0.05mmol/1g以上のポリアミドプレポリマを得るに際しカプロラクタム環状オリゴマが多く生成し、重合後の環状2〜4量体量が1.2重量%を超え、後工程であるオリゴマ除去、精製工程の負担が大きくなる。また含水率が14重量%を超えると原料を加熱するのに必要なエネルギーが大きくなるために好ましくない。
【0017】
本発明のアミノ末端基量0.05mmol/1g以上のポリアミドプレポリマを得るための処理温度の下限は220℃であり、好ましくは225℃、特に好ましくは230℃である。また処理温度の上限は300℃であり、好ましくは290℃、特に好ましくは280℃である。本処理温度において、カプロラクタム水溶液の水分率を前記した本発明の範囲に維持するためには、処理時の圧力を処理温度での蒸気圧以上に維持する必要があり、これは圧力調節弁などを用いて行うことが可能である。圧力については加圧下であれば特に制限はないが、0.111〜6.08MPa(1.1〜60atm、1.14〜62.00kg/cm)の範囲が好ましく、0.152〜5.065MPa(1.5〜50atm、1.55〜51.67kg/cm)がより好ましい。0.111MPa未満の圧力下ではプレポリマー化時のアミノ基生成効率が低下するために、必要なアミノ基量を得るまでにポリアミドプレポリマー中のオリゴマー量が多くなってしまい、一方、5.065MPaを超える場合は、それに見合う効果の増分は小さくむしろハンドリングや装置への負担が大きく生産性や経済性の点で不利である。
【0018】
処理温度が220℃未満ではアミノ末端基量0.05mmol/1g以上のポリマを得るに際し時間を要するために生産性に劣り工業的生産には不適当である。また、処理温度が300℃を超えると短時間で処理が可能であるが水分を保持するための圧力が高くなるために設備費用が割高となること、またアミノ末端基量の生成速度、カプロラクタム環状オリゴマの生成速度が大きくなりすぎるために工業的な安定性に欠ける。
【0019】
本発明のポリアミドプレポリマを調製する際の処理時間は5〜60分間である。上限として好ましくは50分以下、特に好ましくは40分以下である。60分を超えるとポリアミドプレポリマ中にカプロラクタム環状オリゴマが多く生成し、重合後の環状2〜4量体量が1.2重量%を超え、後工程であるオリゴマ除去、精製工程の負担が大きくなる。5分未満でアミノ末端基量0.05mmol/1g以上のポリアミドプレポリマを得ようとするとアミノ末端基量の生成速度、カプロラクタム環状オリゴマの生成速度が速くなるために工業的な安定性に欠ける。
【0020】
かくして得られた本発明のポリアミドプレポリマは、ポリアミドプレポリマー中でのアミノ末端基量が0.05mmol/1g以上である。さらに好ましくは0.06mmol/1g以上、特に好ましくは0.08mmol/1g以上である。アミノ末端基量が0.05mmol/1g未満では、得られたポリアミドプレポリマからポリアミドを重合する際に残存するカプロラクタムのアミノ末端基への付加速度すなわちカプロラクタムの消費速度が遅くなるためカプロラクタムが水との反応でカプロラクタム鎖状オリゴマを経由してカプロラクタム環状オリゴマが生成しやすく、重合後のカプロラクタム環状2〜4量体が1.2重量%を超え、後工程であるオリゴマ除去、精製工程の負担が大きくなる。アミノ末端基量に上限はないが、0.4mmol/1gを超えても効果は変わらないため生産性の点で通常0.4mmol/1g以下の範囲が採用される。また、プレポリマ中の環状オリゴマ含有量は0.6重量%以下である。好ましくは0.4重量%以下、特に好ましくは0.3重量%以下である。0.6重量%を超えると得られたポリアミドプレポリマからポリアミドポリマを製造する際にポリアミドポリマ中のオリゴマ含有量が増加するからである。この環状オリゴマの下限に特に制限はないが、通常0.01重量%である。
【0021】
このようにして得られたポリアミドプレポリマを250〜270℃で5〜12時間、液相にて重合を進め、ポリアミドを得る。ポリアミド中のカプロラクタム含有量は10重量%以下であり、好ましくは9重量%以下、さらに好ましくは8重量%以下である。下限に特に制限はないが、通常3重量%である。また、ポリアミド中のオリゴマ含有量は2.0重量%以下であり、好ましくは1.9重量%以下である。下限に特に制限はないが、通常1.0重量%である。ポリアミド中のカプロラクタム環状2〜4量体の合計は1.2重量%以下であり、好ましくは1.1重量%以下である。下限に特に制限はないが、通常0.3重量%である。本発明でいうポリアミド中のオリゴマ含有量は、ポリアミド粉末約20gをメタノール200mlで3時間ソックスレイ抽出し、その抽出液を蒸発乾固し、更に真空乾燥してカプロラクタムも除去した後に得られる残渣量から、重量を求め、それを試料であるポリアミド粉末の重量で除して求めた割合である。
【0022】
本発明のポリアミドの製造方法では、加圧下熱処理によって得られたポリアミドプレポリマを常圧重合装置に供給する際に、加圧下熱処理後の反応物を常圧重合装置上部などにフラッシュさせて水分を蒸散除去させることが好ましく採用される。水分を蒸散除去させることにより、ポリアミドを製造する際の加熱に要する熱量を低減し、かつ重合温度制御を容易にすることができる。
【0023】
本発明のポリアミドの製造方法において、用いる重合装置は常圧で重合を行える装置であれば特に制限はなく、一般的にカプロラクタムの重合に用いられる装置を用いることができる。具体的には連続式常圧重合装置、回分式重合装置などの液相重合装置が挙げられる。中でも生産性の面から連続式常圧重合装置が好ましい。
【0024】
重合温度、重合時間は重合後のポリアミドポリマに含有されるオリゴマが2.0重量%以下、カプロラクタム環状2〜4量体が1.2重量%以下かつカプロラクタムが10重量%以下となるように上記範囲から選べばよい。重合後のポリアミドポリマに含有されるオリゴマ量が2.0重量%を超えたり、環状2〜4量体が1.2重量%を超えると後工程であるオリゴマ除去、精製工程の負担が大きくなる。カプロラクタムが10重量%を超えるとポリアミドの収率が低いために経済的に好ましくない。
【0025】
重合温度は250〜270℃であり、好ましくは250〜267℃、さらに好ましくは250〜265℃である。重合温度が250℃未満の場合、重合速度が遅く重合に長時間を要し経済的でないばかりか、重合中にオリゴマが2.0重量%を超えて生成したり、カプロラクタム環状2〜4量体が1.2重量%を超えて生成するために、後工程であるオリゴマ除去、精製工程の負担が大きくなる。また、270℃を超える場合も、カプロラクタム環状オリゴマの生成速度が大きくなるために、重合後のポリアミドポリマに含有されるオリゴマが2.0重量%を超えたり、環状2〜4量体量が1.2重量%を超え、後工程であるオリゴマ除去、精製工程の負担が大きくなる。なお、ここでいう重合温度とは、重合装置内におけるポリアミドまたはその前駆体の最高温度である。重合時間が5時間未満ではカプロラクタムが10重量%を超えることがあり、カプロラクタムを10重量%以下とするために重合温度が270℃を超えることが必要となりカプロラクタム環状オリゴマの生成速度が大きくなる等の問題がある。また、12時間を超えるとカプロラクタム環状2〜4量体の含有率が1.2重量%を超えて生成することや経済的ではないなどの問題を生じる。本発明において好ましい重合時間は6〜10時間である。また、本発明の方法によれば、ポリアミドポリマ中のカプロラクタム環状2量体の含有率は通常0.3重量%以下となり、好ましい様態においては0.25重量%以下となる。環状2量体は昇華性があり高融点であることから、フィルム製造時や紡糸時口金汚れの主たる原因物質となっているため、上記のようにカプロラクタム環状2量体が低減されることは、実用上極めて有用である。この環状2量体の下限に特に制限はないが、通常0.001重量%である。
【0026】
本発明のポリアミドの相対粘度は、サンプル濃度0.01g/mLの98%硫酸溶液の25℃における相対粘度として、2.0以上である。さらに好ましくは、2.05〜7.0、特に好ましくは2.1〜6.5、最も好ましくは2.15〜6.0である。相対粘度が2.0未満では機械物性の発現が不十分な場合があり、8.0を超えると溶融粘度が高すぎて成形が困難となる。
【0027】
本発明のポリアミドの製造方法では、重合開始時にポリアミドプレポリマに対してさらにカプロラクタムを追添加して重合することができる。カプロラクタムの追添加量は、ポリアミドプレポリマと追添加カプロラクタムからなる原料組成物中のアミノ末端基量が0.05mmol/1g以上となる範囲であれば、特に制限はない。
【0028】
本発明のポリアミドの製造方法で用いる原料には主にカプロラクタムを用いるが、発明の目的を阻害しない範囲で、1種または2種以上の他のラクタムおよびその誘導体をポリアミドの原料全体の10mol%を超えない範囲で併用してもかまわない。10mol%を超えると得られるポリアミドポリマの結晶性が低下する場合がある。かかる併用ラクタム及びその誘導体の具体例としては、バレロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、ウンデカラクタム、ラウロラクタムなどを挙げることができる。
【0029】
本発明のポリアミドの製造方法では、カプロラクタムに対して0.05mol%以上5mol%以下のジカルボン酸、ジアミン、およびこれらの塩の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を加熱処理前の原料中に混合して用いる。中では、ジカルボン酸またはジアミンを用いることが好ましい。
【0030】
ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸のような脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸のような脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸のような芳香族ジカルボン酸などが挙げられ、セバシン酸、アジピン酸、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましく、これらの内で特にアジピン酸、テレフタル酸が好適に用いられる。
【0031】
ジアミンとしては、エチレンジアミン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,13−ジアミノトリデカン、1,14−ジアミノテトラデカン、1,15−ジアミノペンタデカン、1,16−ジアミノヘキサデカン、1,17−ジアミノヘプタデカン、1,18−ジアミノオクタデカン、1,19−ジアミノノナデカン、1,20−ジアミノエイコサン、ジエチルアミノプロピルアミンなどの脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス−(4−アミノヘキシル)メタンのような脂環式ジアミン、キシリレンジアミンのうような芳香族ジアミンなどが挙げられ、これらの内で特に1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、キシリレンジアミンが好適に使用される。
【0032】
ジカルボン酸とジアミンの塩としては、前記ジカルボン酸と前記ジアミンの塩が挙げられ、中でもアジピン酸と1,6−ジアミノヘキサンから誘導される塩、テレフタル酸と1,6−ジアミノヘキサンから誘導される塩が好適に使用される。
【0033】
作用については、必ずしも明らかではないが、このジカルボン酸、ジアミンおよびこれらの塩の内から選ばれる少なくとも1種の成分は反応促進効果を有し、混合することにより、結果としてポリアミドプレポリマ中の環状オリゴマ含有量の低減、重合時間の短縮、ひいてはポリアミド中のオリゴマ含有量を低減することができるものと思われる。該成分を混合する割合は、カプロラクタムに対して、0.07〜4mol%が好ましく、さらに好ましくは0.1〜3mol%である。該成分の混合割合が5mol%を超えると得られるポリアミドポリマの重合度低下や融点・結晶性の低下、成形性・成形品物性の低下等の問題が発生し、0.05mol%未満ではポリアミドプレポリマおよびポリアミドポリマ中の環状オリゴマ低減効果が顕著で無い。
【0034】
本発明のポリアミドの製造方法では、得られたポリアミドからさらにカプロラクタムおよびオリゴマを熱水抽出によって除去してもよく、減圧下で加熱することにより揮発除去してもよく、減圧下で加熱して、カプロラクタムおよびオリゴマを除去した後、さらに熱水抽出を行ってもよい。
【0035】
カプロラクタムおよびオリゴマの減圧下加熱による揮発除去は、重合反応生成物をペレットなどの固体とした後、固相で行ってもよく、溶融状態で行ってもよい。溶融状態での揮発除去は、重合反応生成物をペレットなどの固体とした後、押出機や薄膜蒸発機などで溶融・減圧下加熱を行ってもよく、重合塔より吐出される溶融状態の重合反応生成物を、直接押出機や薄膜蒸発機などに供給してもよい。
【0036】
また、カプロラクタムおよびオリゴマの減圧下加熱による揮発除去においてポリアミドの溶融重合または固相重合を同時に行うことにより、その重合度を用途に応じた好適な値に調整することができる。
【0037】
本発明のポリアミドの製造方法で得られるポリアミドは、高強度繊維や押出成形などポリアミドが高粘度であることを要求される用途に対しては、好適な粘度が得られるように、ポリアミドの融点未満の温度かつ窒素気流下または減圧下で加熱処理する固相重合によって所望の重合度に調整することが好ましい。
【0038】
本発明のポリアミドの製造方法では、必要に応じてカルボン酸化合物で末端を封鎖するもしくは末端基の構成を制御することができる。モノカルボン酸を添加して末端封鎖する場合には、得られたポリアミド樹脂の末端基濃度が末端封鎖剤を使用しない場合に比べて低下する。一方、ジカルボン酸で末端封鎖した場合には全末端基量は変化しないが、アミノ末端基とカルボキシル末端基との比率を変えることができる。ただし、ジカルボン酸で末端封鎖する場合の添加率は、前記加熱処理前に混合したジカルボン酸、ジアミン、およびこれらの塩の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤との合計がカプロラクタムに対して0.05〜5mol%であることが必要である。カルボン酸化合物の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ウンデカン酸、ラウリル酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキン酸のような脂肪族モノカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、メチルシクロヘキサンカルボン酸のような脂環式モノカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、エチル安息香酸、フェニル酢酸のような芳香族モノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸のような脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸のような脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸のような芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0039】
また、末端封鎖剤の添加方法としてはポリアミドプレポリマの加熱処理初期にカプロラクタム等の原料と同時に仕込む方法、常圧重合装置投入前に添加する方法、ポリアミド樹脂を溶融状態で未反応カプロラクタムおよびオリゴマを除去する際に添加する方法などが採用される。末端封鎖剤はそのまま添加してもよいし、少量の溶剤に溶解して添加してもかまわない。
【0040】
本発明の製造方法においては、用途に応じて例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(酸化チタン、硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホン酸アミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組合せ等)、充填剤(グラファイト、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、硫化亜鉛、亜鉛、鉛、ニッケル、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ベントナイト、モンモリロナイト、合成雲母等の粒子状、繊維状、針状、板状充填剤等)、他の重合体(他のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ABS樹脂、SAN樹脂、ポリスチレン等)を任意の時点で添加することができる。
【0041】
本発明の製造方法によって得られたポリアミドは、従来のポリアミドと同様に、通常の成形方法によって成形品とすることができる。成形方法に関しては特に制限はなく、射出成形、押出成形、吹き込み成形、プレス成形など公知の成形方法が利用できる。ここでいう成形品とは射出成形などによる成形品の他、繊維、フィルム、シート、チューブ、モノフィラメント等の賦形物も含む。
【実施例】
【0042】
以下に実施例をあげて本発明を具体的に説明する。なお、特許請求の範囲、明細書本文および実施例、比較例に記した特性値の定義および測定方法は以下のとおりである。
【0043】
(1)ポリアミドプレポリマ中のアミノ末端基量
被測定物約0.2gを精秤し、フェノール・エタノール混合溶媒(83.5:16.5、体積比)25ccに溶解後、0.02N塩酸水溶液を用いて滴定した。
【0044】
(2)ポリアミドプレポリマ中の環状オリゴマ含有量
被測定物を粉砕し、JIS標準ふるい24meshを通過し、124meshは不通過のポリアミド粉末を集め、該粉末約20gをメタノール200mlで3時間ソックスレイ抽出器を用いて抽出し、抽出液中に含まれる環状オリゴマを高速液体クロマトグラフを用いて定量した。なお、測定に先立ち、カラム保持時間の確認と検量線の作成をカプロラクタムおよびカプロラクタム環状2量体、カプロラクタム環状3量体、カプロラクタム環状4量体の標準サンプルを用いて実施した。重合度5を超えるカプロラクタム環状体の検量線は、カプロラクタム環状4量体と同一として計算した。また、以下の実施例においては7量体以上の環状オリゴマは検出されなかった。測定条件は下記のとおりである。
高速液体クロマトグラフ:ウォーターズ社600E
カラム:GLサイエンス社 ODS−3
検出器:ウォーターズ社484Tunable Absorbance Detector
検出波長:254nm
インジェクション体積:10μl
溶媒:メタノール/水(メタノール/水の組成は、20:80→80:20(体積比)のグラディエント分析とした。)
流速:1ml/min。
【0045】
(3)ポリアミド中のカプロラクタム量およびカプロラクタム環状2〜4量体量
ポリアミドを粉砕し、JIS標準ふるい24meshを通過し、124meshは不通過のポリアミド粉末を集め、該粉末約20gをメタノール200mlで3時間ソックスレイ抽出し、抽出液中に含まれるカプロラクタムを高速液体クロマトグラフを用いて定量した。測定条件は下記のとおりである。なお測定に先立ち、カラム保持時間の確認と検量線の作成をカプロラクタムおよびカプロラクタム環状2量体、カプロラクタム環状3量体、カプロラクタム環状4量体の標準サンプルを用いて実施した。
高速液体クロマトグラフ:ウォーターズ社600E
カラム:GLサイエンス社 ODS−3
検出器:ウォーターズ社484Tunable Absorbance Detector
検出波長:254nm
インジェクション体積:10μl
溶媒:メタノール/水(メタノール/水の組成は、20:80→80:20(体積比)のグラディエント分析とした。)
流速:1ml/min
(4)ポリアミド中のオリゴマ量
ポリアミドを粉砕し、JIS標準ふるい24meshは通過し、124meshは不通過のポリアミド粉末を集め、該粉末約20gをメタノール200mlで3時間ソックスレイ抽出し、エバポレーターで蒸発乾固し、更に80℃/8時間真空乾燥することによりカプロラクタムを除去した後に得られる残渣量を求めオリゴマ含有量とした。
【0046】
(5)硫酸相対粘度(ηr)
ポリアミドを粉砕し、JIS標準ふるい24meshは通過し、124meshは不通過のポリアミド粉末を集め、該粉末約20gをメタノール200mlで3時間ソックスレイ抽出し、残分を乾燥後測定試料とした。98%硫酸中、試料0.01g/ml濃度、25℃でオストワルド式粘度計を用いて測定を行った。
【0047】
実施例1〜9、比較例1〜6
A.使用原料
下記の実施例および比較例では以下の原料を使用した。
【0048】
カプロラクタムは東京化成工業株式会社の特級品を溶融し、モレキュラーシーブで乾燥したものを使用した。
【0049】
1,6−ジアミノヘキサン、テレフタル酸、アジピン酸は東京化成工業株式会社の特級品をそのまま使用した。
【0050】
B.加熱処理および常圧連続重合
図1に示す装置を用いて加熱処理、重合を行った。図1は、加熱処理および重合装置の概略図である。
【0051】
表1、2記載の組成のカプロラクタム水溶液を原料貯槽1に投入し、ついで圧力計3を吐出側に有する原料供給ポンプ2を用い、加熱筒5を備えた加熱処理槽4に供給し、内容物を加熱し、表1記載の条件下で連続的に加熱処理を行った。次いで得られたポリアミドプレポリマを重合塔9に供給、内容物を加熱し、表1、2記載の条件で常圧下で連続重合を行い、加熱筒10を備えた重合塔9下部より重合反応生成物であるポリアミドを排出、ペレタイズ化し直径約2mm、長さ約3mmの円筒状ポリアミドペレットを得た。なお、加熱処理槽の圧力はカプロラクタム水溶液から水分が加熱処理時に蒸発しないように調圧弁6により維持、調整し、調圧弁後圧力を大気圧解放することでポリアミドプレポリマから蒸発した水分を重合塔9上部から充填塔11を経由して系外へ排出した。なお充填塔での還流比は1とし、蒸発した水分中に含まれるカプロラクタムを回収した。
【0052】
ポリアミドプレポリマの分析に際しては、重合塔9への供給前に採取口8からバルブ7をカプロラクタム水溶液から水分が加熱処理時に蒸発しないように加熱処理槽の圧力を維持するように開けポリアミドプレポリマを採取した。ポリアミドプレポリマのアミノ末端基量およびポリアミド中のカプロラクタムオリゴマ、およびカプロラクタム環状2量体の含有量分析結果を表1、2に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、カプロラクタム環状オリゴマ、特に環状2量体の含有量が少ないポリアミドの効率的かつ安定的な製造法であり、本発明の方法で得られたポリアミドは続くモノマおよびオリゴマ除去工程の簡素化または省エネルギー化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例で用いた加熱処理および重合装置の概略図である。
【符号の説明】
【0057】
1:原料貯槽
2:原料供給ポンプ
3:圧力計
4:加熱処理槽
5:加熱筒
6:調圧弁
7:バルブ
8:ポリアミドプレポリマ採取口
9:重合塔
10:加熱筒
11:充填塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カプロアミド単位を主たる構成成分とするポリアミドの製造方法であって、含水率2〜14重量%のカプロラクタム水溶液に、該カプロラクタムに対して0.05〜5mol%のジカルボン酸、ジアミンおよびこれらの塩から選ばれる少なくとも1種の成分を混合し、該混合物を加圧下に220〜300℃の温度で5〜60分間加熱する工程を通じて得た、アミノ末端基量0.05mmol/1g以上、且つ環状オリゴマー含有量が0.6重量%以下であるポリアミドプレポリマを常圧重合装置に供給し、重合温度の最高値が250〜270℃の温度で5〜12時間液相重合することを特徴とする、硫酸相対粘度が2.0以上、カプロラクタム含有量が10重量%以下、オリゴマ含有量が2.0重量%以下、カプロラクタム環状2〜4量体含有量が1.2重量%以下のポリアミドの製造方法。
【請求項2】
ポリアミド中のカプロラクタム環状2量体含有量が0.3重量%以下であることを特徴とする、請求項1記載のポリアミドの製造方法。
【請求項3】
ジカルボン酸がテレフタル酸および/またはアジピン酸であることを特徴とする請求項1または2記載のポリアミドの製造方法。
【請求項4】
ジアミンが1,6−ジアミノヘキサンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミドの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−231049(P2007−231049A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51293(P2006−51293)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】