説明

ポリアミドマルチフィラメントおよびその製造方法

【課題】特別な染色加工技術を用いずとも染色性を向上させることができ、特に産業資材用途として好適なポリアミドマルチフィラメントを提供すること、および該ポリアミドマルチフィラメントを製糸性よく安価に製造する技術を提供する。
【解決手段】硫酸相対粘度が3.0〜4.0、アミノ末端基量が4.0×10−5〜5.5×10−5mol/gであり、断面周長の50%以上が球晶で覆われている単繊維を80%以上含んでなるポリアミドマルチフィラメント、さらに断面周長の80%以上が球晶で覆われているポリアミドマルチフィラメント、加えてポリアミドがナイロン6であるポリアミドマルチフィラメント、その上マルチフィラメントの総繊度が200〜2000dtex、単糸繊度が4〜30dtex、強度が6.0〜8.0cN/dtex、沸騰水収縮率が8〜15%、交絡数が5〜30個/mであるポリアミドマルチフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドマルチフィラメントおよびその製造方法に関するものである。詳しくは、製糸時の毛羽・糸切れ等が少なく安価に製造することができ、高次加工時の工程通過性に優れるばかりか、特に染色性の要求される産業資材用途として好適なポリアミドマルチフィラメントおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド繊維は、機械的性質、化学的性質等において優れた特性を有することから、衣料用、産業用途を問わず幅広く有用されている。これらポリアミド繊維は、酸性染料の染着座席であるアミノ基を有していることから、加工した製品は染色して用いられることも多い。この染色性を向上させる手法については、特に衣料用途で種々提案されているが、そのほとんどがポリアミド中のアミノ末端基量をコントロールすることを主な目的としている。
【0003】
例えば、特許文献1では、アミノ基量の異なるポリアミドを用い芯鞘複合構造を構成させることによって、染色発色性に優れ、かつ製糸性・原糸物性を良好に維持する技術が開示されている。しかしながら、該技術では、用いるポリアミドの相対粘度が低いため、産業用に必要とされる高強度の原糸を得ることはできなかった。また、特殊な紡糸機を必要とするばかりか、複数の原料が必要となるため、所望の原糸を安価に製造しうるものではなかった。
【0004】
特許文献2には、モノカルボン酸により末端を封鎖し、ジアミン成分を共重合成分としてポリカプラミド中に含有させることによって、ポリカプラミドの再溶融時の安定化を図り、染色性に必要とされるアミノ末端基量を確保しながら、繊維品質のばらつきを低減し、紡糸工程を安定化せしめる技術が開示されている。しかしながら、該技術においても、相対粘度が低いため、産業用に必要とされる高強度の原糸を得ることはできなかった。また、該技術を利用して、固相重合によって重合度を高めたポリマーを用い、高強度の原糸を使用した場合でも、要求される染色性を満足するポリアミド繊維を得ることは困難であった。
【特許文献1】特開昭58−220817号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2001−026647号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、特別な染色加工技術を用いずとも染色性を向上させることができ、特に産業資材用途として好適なポリアミドマルチフィラメントを提供すること、および該ポリアミドマルチフィラメントを製糸性よく安価に製造する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は以下の手段によって達成することができる。
【0007】
本発明のポリアミドマルチフィラメントは、硫酸相対粘度が3.0〜4.0、アミノ末端基量が4.0×10−5〜5.5×10−5mol/gであり、断面周長の50%以上が球晶で覆われている単繊維を80%以上含んでなることを特徴とする。
【0008】
なお、本発明のポリアミドマルチフィラメントにおいては、
(1)断面周長の80%以上が球晶で覆われていること、および
(2)前記ポリアミドがナイロン6からなり、総繊度が200〜2000dtex、単糸繊度が4〜30dtex、強度が6.0〜8.0cN/dtex、沸騰水収縮率が8〜15%、交絡数が5〜30個/mであること、
(3)結節強度が4.5〜6.0cN/dtexであり、結節強度保持率が70%以上であることがいずれも好ましい条件であり、これらの条件の適用によりさらにすぐれた効果を期待することができる。
【0009】
また、(4)上記ポリアミドマルチフィラメントを得るにあたっては、紡糸速度400〜1000m/分で未延伸糸を引き取るに際し、該未延伸糸に2.5〜4.5wt%の水分を付着せしめ、一旦巻き取ることなく3.7〜4.7倍の倍率で延伸し、巻き取ることおよび
(5)前記未延伸糸に水で乳化させたエマルジョン処理剤を付与せしめ、該処理剤による付着油分量を0.5〜1.5%とした未延伸糸を延伸すること
がいずれも好ましい条件である。
【0010】
上記のポリアミドマルチフィラメントは産業資材用製品として使用することがさらに好ましい条件である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、製糸時の毛羽・糸切れ等が少なく安価に製造することができるポリアミドマルチフィラメントが得られる。また、本発明によれば、従来の技術では達成できなかったポリアミドマルチフィラメント、特に高次加工時の工程通過性に優れるばかりか、染色性の要求される産業資材用途として好適なポリアミドマルチフィラメントを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明のポリアミドマルチフィラメントは、硫酸相対粘度が3.0〜4.0、アミノ末端基量が4.0×10−5〜5.5×10−5mol/gであることが必要である。硫酸相対粘度が3.0未満であると産業用途に適した高強度な繊維を安定して得ることができない。一方、4.0を越える高粘度ポリマーでも、本発明のポリアミド繊維を得ることはできるが、固相重合に時間を要し、製造コストが高くなるため好ましくない。また、アミノ末端基量が4.0×10−5mol/g未満であると、所望の染色性を得難くなるため好ましくなく、逆に5.5×10−5mol/gを越えた場合も製糸性の悪化、あるいは口金面の修正や紡糸パックの交換頻度が増大する等の作業頻度増加を招くため好ましくない。
【0014】
また本発明のポリアミドマルチフィラメントは、断面周長の50%以上が球晶で覆われている単繊維を80%以上含んだマルチフィラメントであることが必要であり、断面周長の80%が球晶で覆われている単繊維を80%以上含んでいるとより好ましい。通常の溶融紡糸によってポリアミド繊維を得る際、発生した球晶は延伸を阻害し、物性の低下や製糸性の悪化を招くため、その発生を抑制するような努力がなされている。特に近年では、繊維品質の安定化やその製造に要する費用を削減するため、直接紡糸延伸プロセスの導入が積極的に進められており、該プロセスを用いた場合、ポリアミド中の球晶発生もさらに減少し、製糸性が良好となる傾向にあった。しかしながら、これら球晶の発生を抑制するよりもむしろ、繊維中の特定部分、即ち繊維表面に球晶が生じるように制御したポリアミド繊維を用いることによって染色性を向上させうる効果があることを見いだした。断面周長部の球晶で覆われている割合が50%未満であると本発明による染色性向上効果を発揮しにくくなる。また、球晶の割合が50%以上であっても、該球晶を生じさせた単糸数が全単糸数の80%未満であれば、本発明による染色性向上効果を発揮しにくくなる。一方、繊維内部においては、球晶発生を極力抑制した方が製糸性等の面で好ましいが、その割合が極端に多くなければ、発生しても特に差し支えない。
【0015】
本発明のポリアミドマルチフィラメントは、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)等のいずれのポリアミドポリマからなってもよいが、ポリカプロアミドであることが好ましい。これらのポリアミドは、5wt%以下の共重合成分を含むコポリマであっても良い。本発明で用いられる共重合成分としては、ε−カプロアミド、テトラメチレンアジパミド、ヘキサメチレンセバカミド、ヘキサメチレンイソフタルアミド、テトラメチレンテレフタラミド、およびキシリレンフタラミド等がある。
【0016】
また、本発明のポリアミドマルチフィラメントは、総繊度が200〜2000dtexであることが好ましい。200dtexであっても用いることができるが、その場合は産業資材用途として所望される繊維強力(N)を満たさなくなることが多くなるし、合糸したり、合撚糸して目的とする製品に加工されるため、総繊度が細いと効率が悪く好ましくない。一方、2000dtexを超える総繊度のポリアミドマルチフィラメントも得ることができるが、その場合は適当に合糸して用いれば良く、敢えて大型の製糸設備を用いて太繊度糸を製造する必要はない。
【0017】
単糸繊度は4〜30dtexであることが好ましく、さらに好ましくは6〜15dtexである。単糸繊度が4dtex未満であると、製品の剛性が低くなったり、耐摩耗性、耐候性等も劣るため好ましくない。一方、30dtexを超えると、単糸表面に生成させる球晶のコントロールが難しくなるし、製品が硬くなりすぎたり、フィラメントを集束し難い等の欠点がある。また、製糸工程で、十分均一な延伸をし難くなり、巻取機に巻取り難い場合がある。
【0018】
強度は6.0〜8.0cN/dtexであることが好ましく、さらに好ましくは6.5〜7.5cN/dtexである。強度が6.0cN/dtex未満であると、産業用途として有用に用いにくくなる。一方、8.0cN/dtexを越える強度を得ようとすると、タフネスが低下し、製糸性や高次通過性が悪化するため好ましくない。
【0019】
沸騰水収縮率は8〜15%であることが好ましく、さらに好ましくは10〜12%である。8%未満であると、製品の剛性が低くなりやすくなるため好ましくない。一方、15%を越えると製品が硬くなり、また繊維の寸法安定性が悪く、その取り扱い方法が複雑になるため好ましくない。
【0020】
交絡数は5〜30個/mであることが好ましく、さらに好ましくは10〜20個/mである。5個/m未満であると、糸条の収束性が不足しているため、高次通過性を悪化させる要因となり好ましくない。一方、30個/mを越える場合は、該マルチフィラメントを織物へ加工した際にいらつき状の欠点が形成されやすくなるため好ましくない。
【0021】
結節強度は4.5〜6.0cN/dtexであることが好ましく、4.5〜5.8cN/dtexであるとさらに好ましい。結節強度が4.5cN/dtex未満であると、網地等に加工した際の強力が不足しがちになるため好ましくない。6.0cN/dtexを越えるとマルチフィラメントの破断伸度が低くなり、製糸性悪化や高次通過性悪化を招くため好ましくない。
【0022】
また、結節強度保持率は70%以上であることが好ましく、さらに好ましくは75%以上である。ここで結節強度保持率は繊維の引っ張り強度に対する結節強度の割合である。結節強度保持率が70%未満であると、繊維のタフネスが低下しやすくなり、製糸性悪化や高次通過性悪化を招くため好ましくない。結節強度保持率を70%以上にするには、直接紡糸延伸プロセスを用いることが好ましい。
【0023】
本発明のポリアミドマルチフィラメントは以下の方法で製造することができる。
【0024】
固相重合によって高粘度化されたポリアミドチップに、必要に応じて耐候剤、耐熱剤、酸化防止剤等の添加剤を添加し、溶融紡糸する。該添加剤は一部又は全部を重合時に添加してもよく、その他の方法で混合しても良い。また、ポリアミドチップ中には、アミノ末端基量の調整のため、ジアミンやモノカルボン酸等を含ませていてもいなくてもよく、適宜目的のアミノ末端基量となるよう調整すればよい。
【0025】
本発明ポリアミドチップの溶融には、エクストルーダー型紡糸機を用いることが好ましい。紡糸温度は280〜305℃とし、紡糸パック中で10〜40μmのフィルタ−を通過させて濾過する。
【0026】
濾過したポリマ−は口金細孔から紡出し、口金直下の徐冷ゾ−ンを通過させた後、冷風を吹き付けて冷却固化する。該徐冷ゾ−ンは、長さ5〜40cmの加熱筒を取り付け、筒内雰囲気温度が280〜350℃となるよう加熱する。加熱筒の下には必要に応じ更に非加熱の断熱筒を取り付け、徐冷ゾ−ンの長さを制御する。冷却は、10〜30℃の冷風を20〜50m/分の速度で吹き付けて行う。紡出糸条に対し直角に冷風を吹き付ける横吹きだし冷却チムニ−を用いてもよく、環状冷却チムニ−を用いて紡出糸条束の外周から中心に向けて吹き付けても良い。
【0027】
次に、冷却固化した糸条に油剤を付与し、該糸条は、所定の速度で回転する引取ロールに捲回されて引き取られる。引取ロールは、片掛け型、ネルソン型またはSロール型が用いられるが、片掛けロールが設備が簡略でありかつ、糸揺れが少ないため好ましい。
【0028】
引取速度は400〜1000m/分、好ましくは500〜800m/分である。該引き取り速度、即ち紡糸速度が400m/分未満であると、単位時間あたりの生産量が少なくなり、安価に本発明のポリアミド繊維を得にくくなる。一方、1000m/分を越えると、製糸性の悪化等を招き好ましくない。
【0029】
次に、引取糸条はフィードロールに捲回して、引取ロールとフィードロール間で糸条にプレストレッチをかける。プレストレッチは、2〜10%、好ましくは3〜6%である。
【0030】
引取りロールおよびフィードロールの温度は常温でもよいが、20〜50℃に制御することが好ましい。通常は、該ロール内部に水を循環させて温度制御する方法が採用される。この際、該未延伸糸条には水分を付着させておくことが好ましく、該技術を用いることにより、本発明の繊維表面に球晶を発生させたポリアミド繊維を容易に得ることが可能となるのである。特に直接紡糸延伸プロセスにおいては、2.5〜4.5wt%の水分を付着させることが好ましく、2.8〜4.0wt%であるとさらに好ましい。2.5wt%未満であると本発明の染色性の優れたポリアミド繊維を得難くなる。一方、4.5wt%を越える水分を付着させた場合、水分付着量が多いためその後の延伸にて糸切れ・毛羽等が増加するため好ましくなく、また4.5wt%以上の水分を付着させても染色性に対する効果は飽和していく。該未延伸糸に水分を付与する方法としては、様々な方法が考えられるが、糸条に付与する油剤中に含ませた水分を用いるのが最も効率的であり、好ましい条件である。糸条に付与する油剤成分は、高級脂肪酸と高級アルコ−ルとのエステル化合物からなる平滑剤を主成分とし、活性剤、乳化剤、制電剤、極圧剤成分等を配合して用いる。糸条への油剤の付着量すなわち付着油分量は0.5〜1.5wt%、好ましくは0.6〜0.9wt%である。乳化させたエマルジョン処理剤中の水分割合は、未延伸糸糸条への付着水分と付着油分量が前記範囲となるよう適宜調整すればよい。調整方法としては、例えばプロペラ乳化、ノズル乳化等があげられるが、どのような調整方法を用いても差し支えない。該未延伸糸条への処理剤付与もガイド給油、ローラ給油等いずれの方法を用いてもよいが、単繊維の表面に均等に付与できる方法を選択することが好ましい。
【0031】
次に糸条は、品質・製糸性を安定化させるため一旦巻き取ることなく延伸させることが好ましい。まず、該フィードロールと第1延伸ロール間で1段目の延伸を行う。第1延伸ロールは80〜160℃に加熱して行う。1段延伸の倍率は、総合延伸倍率の65〜80%に設定することが好ましい。1段延伸した糸条は、第2延伸ロールとの間で2段目の延伸を行う。第2延伸ロールは[ポリアミドポリマの融点−5℃]〜[ポリアミドポリマの融点−35℃]の範囲に設定する。例えばナイロン6であれば、220〜190℃に設定することが好ましい。2段延伸の倍率は、総合延伸倍率の35〜20%に設定することが好ましい。また、必要に応じて、更に第3延伸ロールとの間で3段目の延伸を行っても良い。この場合、第3延伸ロールの温度は前記第2延伸ロールと同じ温度範囲とし、通常は第2延伸ロールより高い温度に設定する。また、3段延伸の延伸倍率は、通常は前記2段延伸倍率を分割し、2段延伸倍率を3段延伸倍率より高く設定する。総合延伸倍率は、3.7〜4.7倍とすることが好ましく、さらに好ましくは3.8〜4.3倍である。2段延伸または3段延伸された糸条は、次に張力調整ロールとの間で弛緩熱処理される。張力調整ロールは非加熱または150℃以下に設定する。弛緩率は2〜10%、好ましくは4〜8%である。上記第1延伸ロールから張力調整ロールまでの各ロールはネルソンタイプのロールを用いることが好ましい。また、該ロールの表面は梨地とし、糸条とロール表面との摩擦が小さいことが好ましい。また、糸条を巻き取るまでの間に、流体処理により交絡を付与する。交絡を付与するためには、流体処理のためのノズル、処理時の流体の流量、巻き取り張力等を適宜設定して行えばよい。
【0032】
以上の方法によって本発明のポリアミドマルチフィラメントが得られる。そして、本発明のポリアミドマルチフィラメントは、製糸工程における延伸性は極めて良好で、糸切れおよび単糸の切断による毛羽は殆どなく、染色性の要求される産業資材用途として好適なポリアミドマルチフィラメントを得ることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。本発明における各特性の定義および測定法は以下の通りである。
【0034】
(1)硫酸相対粘度:試料2.5gを96%濃硫酸25ccに溶解し、25℃恒温槽の一定温度下において、オストワルド粘度計を用いて測定し、96%濃硫酸との比を求めた。
【0035】
(2)アミノ末端基量:必要により低分子量成分および水分の除去を行った後、ポリアミド1gをエタノール/フェノール混合溶媒(エタノール20ml/フェノール80g)40〜50mlに常温で振とう溶解させて溶液とし、この溶液を0.02Nの塩酸で中和滴定し、要した0.02N塩酸量を求める。また、上記エタノール/フェノール混合溶媒のみを0.02N塩酸で中和滴定し、要した0.02N塩酸の量を求める。これらの差からポリアミド1gあたりのアミノ末端基量を算出した。
【0036】
(3)球晶:下記に示す方法で作成した延伸糸の断面を“オプティフォトUFX−II”型偏光顕微鏡((株)ニコン社製)で720倍に拡大し、単繊維表面部の球晶割合を算出した。
【0037】
延伸糸の断面観察用試料は以下の手順で作成する。まず、0.1cN/dtex程度の張力を加えながら糸条の両端を固定し、該糸条の一部分に処理剤を流し込めるよう設けた枠内へ該処理剤を流し込み、室温で冷却固化させた。処理剤は、パラフィン/ステアリン酸/エチルセルロースを2:1:2の割合で混合し、ステンレス製ビーカに入れて150℃程度に加熱された該混合液を攪拌溶解後、さらにエチルセルロースを少量加えながら攪拌溶解したものを用いた。固化試料を4〜10μmにカッティングし、卵白アルブミンを少量塗布したスライドガラス上に該切片を載せ、乾燥機で105℃×10分間乾燥させた。その後、切片が載ったままのスライドガラスを取り出し、キシロール中に浸漬させ1分以上放置した後、封入剤(パラフィン)を一滴垂らし、カバーグラスをかぶせた。
【0038】
単繊維表面部の球晶の割合は次の手順にて測定・算出した。単糸を円とみなし、その周長を144個に等分割する。即ち中心角2.5°の扇形を144個作成し、周長をブロック分けする。その後1ブロック毎に、(1)完全に球晶で覆われているもの、(2)半分以上は球晶で覆われているもの、(3)球晶が半分以下しかないものの3種に区分けし、(1)を1、(2)を0.5、(3)を0として144ブロックの判定結果の総和値と144との比を単繊維表面部の球晶割合として算出した。なお、球晶発生部は白色、球晶未発生部は黒色に見えるが、白色が不鮮明なものは球晶ではないとみなし、さらに1ブロックの球晶割合が半分以上か以下か判定し難いものは、(3)の区分けとした。単糸数が20本未満のものは、全単糸を測定し、20本以上のものは総単糸数の半数を測定し、その平均値を単繊維中の表面球晶割合とし、測定本数と表面球晶が50%以上の単糸数の比を表面球晶50%以上の単糸を含む割合として算出した。
【0039】
(4)総繊度:JIS L1013の方法で正量繊度を測定して、総繊度とした。
【0040】
(5)単糸繊度:正量繊度をフィラメント本数で徐して求めた。
【0041】
(6)強度:JIS L1013の方法に準じ、試長25cm、速度30cm/分の条件で測定した。
【0042】
(7)沸騰水収縮率:原糸をカセ状にサンプリングして、20℃、65%RHの温湿度調整室で24時間以上調整し、試料に0.045cN/dtex相当の荷重をかけて長さLを測定した。次に、この試料を無緊張状態で沸騰水中に30分間浸漬した後、上記温湿度調整室で4時間風乾し、再び試料に0.045cN/dtex相当の荷重をかけて長さLを測定した。それぞれの長さLおよびLから次式により沸騰水収縮率を求めた。
沸騰水収縮率=[(L−L)/L]×100(%)。
【0043】
(8)油分付着量:JIS L1013 8.27 b)の方法で、ジエチルエ−テル抽出分を測定し、油分付着量とした。
【0044】
(9)交絡数:LAWSON−HEMPHILL社製EIB−Eを用い、非接触光学式測定を行った。測定は、CCDカメラ部での張力が0.04±0.01cN/dtexとなるように装置のヒステリシスブレーキロールおよび給糸部の皿テンサーを調整し、速度100m/分にて実施した。また、付属のENTANGLEMENTソフトを使用し、この際、交絡判定に用いる閾値(VT)はVariable threshold法にて(総繊度)1/2×5に、フィルタースキャン(FS)は3に設定した。本発明で用いる交絡数は前記測定装置あるいは測定方法を用い、1m当たりの交絡数を連続して100m測定、即ちN=100の交絡数測定結果から、その平均値を交絡数としている。これらはいずれもEIB−E付属のENTANGLEMENTソフトの測定結果として、自動的に算出され、コンピュータモニター上に表示される。
【0045】
(10)結節強度:JIS 1013 8.6.1の方法で測定した。
【0046】
(11)結節強度保持率:以下の計算式により算出した。
結節強度保持率=(10)で測定した結節強度/(6)で測定した強度×100
(12)付着水分量:JIS L1013 8.1.2の方法で測定した。
【0047】
(13)製糸性:ポリアミドマルチフィラメント1000kgを得るまでの糸切れの回数が0〜1回を◎、2〜3回を○、4〜6回を△、7回以上を×と評価した。
【0048】
(14)染色性:得られたポリアミドマルチフィラメントを筒編みとし、該筒編みを試料重量(g)×0.1Lの温水(70℃)中に試料重量×0.01gのディスパノールと試料重量×0.01gハイドロサルファイトナトリウムを混合させた攪拌溶液中に入れ、20分間精錬した。次に、試料重量(g)×0.1Lの水中に試料重量×0.0017gのサンドランミーリングブルーと試料重量×0.025gの酢酸、試料重量×0.03gのアンモニア、試料重量×0.01gのアミラジンDを混合した混合液中に、精錬した筒編みを浸漬させ、2℃/分の昇温速度で50℃まで、引き続き1℃/分の速度で80℃まで加熱し、30分間攪拌させて染色した。最後に、スガ試験機株式会社製“SMカラーコンピュータ”(機種型式 SM−T)を用い、L値を測定した。
【0049】
[実施例1]
固相重合して得られた、25℃で測定した96%硫酸相対粘度が3.4のナイロン6チップをエクストルーダへ供給し、計量ポンプにより紡糸口金に配し、285℃で溶融紡糸し、総繊度が470dtex、単糸数が48本の糸条を得た。口金直下には300℃に加熱した200mmの加熱筒を設け、糸条を徐冷却した後、20℃の冷風を35m/分の速度で吹き付け、冷却固化せしめた。冷却固化した糸条に下記の成分からなる水系エマルジョンを付与した後、紡糸引き取りローラ(1FR)に捲回し、紡出糸条を引き取った。次いで、フィードロール(2FR)との間で5%のストレッチを与えるとともに、該ロール間で、下記の成分からなる非水系油剤を付与した。
【0050】
水系エマルジョン油剤:ジイソステアリルアジペート60wt%、硬化ヒマシ油EO(15)トリステアレート30wt%、ラウリルホスフェートK塩5wt%、ラウリルアミンEO(15)5wt%でエマルジョン濃度20wt%
非水系油剤:ジオレイルチオジプロピオネート65wt%、硬化ヒマシ油EO25モル20wt%、POE硬化ヒマシ油トリイソステアレート10wt%、オレイン酸K塩2wt%、アルカンスルホネートNa塩2wt%、ポリエーテル変性シリコーン1wt%。
【0051】
水系エマルジョン油剤中の水分量及び油剤ロールの回転数は、1FRを通過した糸条を採取し、該未延伸糸条の付着水分量と油分量が表1の値となるように表1に記載の条件で行った。
【0052】
引き続き、連続して糸条を延伸・熱処理ゾーンに供給し、直接紡糸延伸法によりナイロン6繊維を製造した。まず、給糸ローラと第1延伸ローラ(1DR)の間で1段目の延伸、該第1延伸ローラと第2延伸ローラ(2DR)の間で2段目の延伸、該第2延伸ローラと第3延伸ローラ(3DR)との間で3段目の延伸を行った。引き続き、該第2延伸ローラと弛緩ローラとの間で5%の弛緩熱処理を施し、交絡付与装置にて糸条を交絡処理した後、巻き取り機にて巻き取った。各ローラの表面温度は、1FRが常温、2FRが40℃、1DRが90℃、2DRは150℃、3DRは200℃、弛緩ローラが150℃となるように設定した。各ローラの周速度は、1FRを700m/minとし、第1段目倍率が2.8、総合延伸倍率が4.2倍となるように適宜調整して行った。交絡処理は、交絡付与装置内で走行糸条に直角方向から高圧空気を噴射することにより行った。交絡付与装置の前後には走行糸条を規制するガイドを設け、噴射する空気の圧力は0.3MPaとした。
【0053】
このようにして得られた原糸の特性値および効果について表1に示した。また、得られた繊維表面部の球晶を偏向顕微鏡で観察した結果を図1に示した。本発明のポリアミドマルチフィラメントとすることにより、製糸性に優れ、また染色性に優れたポリアミドマルチフィラメントを得ることができた。
【0054】
[実施例2]
未延伸糸の付着水分量が3.2wt%となるように水系エマルジョン油剤を付着させるロールの回転数を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドマルチフィラメントを得た。このようにして得られた原糸の特性値および効果について表1に示した。本発明のポリアミドマルチフィラメントとすることにより、製糸性に優れ、また従来技術より染色性に特に優れたポリアミドマルチフィラメントを得ることができた。
【0055】
[実施例3]
単糸数が48本の糸条を得るような紡糸口金を用い、紡糸速度を400m/分とし、未延伸糸の付着水分量が4.7wt%となるように水系エマルジョン油剤を付着させるロールの回転数を調整し、総合延伸倍率が4.6倍となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドマルチフィラメントを得た。
【0056】
このようにして得られた原糸の特性値および効果について表1に示した。本発明のポリアミドマルチフィラメントでは、未延伸糸の付着水分量が多すぎたため、製糸性が若干劣ったものの、染色性に優れたポリアミドマルチフィラメントを得ることができた。
【0057】
[比較例1]
アミノ末端基量が5.6×10−5となるような、固相重合して得られた、25℃で測定した96%硫酸相対粘度が3.8のナイロン6チップを用い、未延伸糸の付着水分量を2.2となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドマルチフィラメントを得た。
【0058】
このようにして得られた原糸の特性値および効果について表1に示した。本発明のポリアミドマルチフィラメントは、アミノ末端基量が多すぎするため、製糸性には満足できるものの実施例1に比較して製糸性が若干劣り、また末端基が多い割には、球晶発生量が不足しているため、満足できる染色性を得ることができなかった。
【0059】
[比較例2]
未延伸糸の付着水分量を4.9となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドマルチフィラメントを得た。このようにして得られた原糸の特性値および効果について表1に示した。本発明のポリアミドマルチフィラメントは、染色性は優れているものの、余分に水分を付着せしめただけで、製糸性が極めて悪いものであった。
【0060】
[比較例3]
未延伸糸の付着水分量を1.1wt%、未延伸糸の付着油分量が0.7wt%となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドマルチフィラメントを得た。このようにして得られた原糸の特性値および効果について表1に示した。本発明のポリアミドマルチフィラメントは、単糸の断面に中にほとんど球晶が発生しておらず、製糸性は極めて優れているものの、染色性が極めて劣るものであった。
【0061】
[比較例4]
ナイロン6チップを固相重合せずに使用したこと以外は実施例1と同様にしたが、産業資材用繊維に必要となる強度・伸度等を得るための条件では、製糸不能であり、ポリアミドマルチフィラメントを得ることはできなかった。
【0062】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のポリアミドマルチフィラメントは、高強度を有しているため、特に産業資材用途として好適に用いられるし、特殊な染色加工を施さなくても染色性に優れた産業資材用製品となるのである。本発明のポリアミドマルチフィラメントは、通常の後加工方法で一般産業用のベルトとすることもできるし、通常の網地編成によって、漁網、安全ネット、養生ネット、土木ネット、護岸ネット、落石防止ネット、防雪ネット、スポ−ツネット等のネット類とすることができる。例えば、ラッセル編機を用い手鎖編と挿入糸の組合せでメッシュ状に編成して経編地のネットを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施例1で製造されたポリアミドマルチフィラメントの周長部の一部の偏光顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸相対粘度が3.0〜4.0、アミノ末端基量が4.0×10−5〜5.5×10−5mol/gであり、断面周長の50%以上が球晶で覆われている単繊維を80wt%以上含んでなることを特徴とするポリアミドマルチフィラメント。
【請求項2】
断面周長の80%以上が球晶で覆われていることを特徴とする請求項1記載のポリアミドマルチフィラメント。
【請求項3】
前記ポリアミドがナイロン6である請求項1または2に記載のポリアミドマルチフィラメント。
【請求項4】
マルチフィラメントの総繊度が200〜2000dtex、単糸繊度が4〜30dtex、強度が6.0〜8.0cN/dtex、沸騰水収縮率が8〜15%、交絡数が5〜30個/mであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のポリアミドマルチフィラメント。
【請求項5】
マルチフィラメントの結節強度が4.5〜6.0cN/dtexであり、結節強度保持率が70%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のポリアミドマルチフィラメント。
【請求項6】
紡糸速度400〜1000m/分で未延伸糸を引き取るに際し、該未延伸糸に2.5〜4.5wt%の水分を付着せしめ、一旦巻き取ることなく3.7〜4.7倍の倍率で延伸し、巻き取ることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のポリアミドマルチフィラメントの製造方法。
【請求項7】
前記未延伸糸に水で乳化させたエマルジョン処理剤を付与せしめ、該処理剤による付着油分量を0.5〜1.5wt%とした未延伸糸を延伸することを特徴とする請求項6記載のポリアミドマルチフィラメントの製造方法。
【請求項8】
ポリアミドマルチフィラメントが産業資材用であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のポリアミドマルチフィラメント。

【図1】
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【公開番号】特開2008−156770(P2008−156770A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345857(P2006−345857)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】