説明

ポリアミド積層二軸延伸フィルム

【課題】酸素バリア性、透明性、強靭性かつ、レトルト処理後でも、機械的強度保持率が高いなど耐熱水性に優れた食品包装用に適するポリアミド積層二軸延伸フィルムを提供する。
【解決手段】m−および/またはp−キシリレンジアミンと炭素数6〜12のα、ω−脂肪酸ジカルボン酸とからなるポリアミド構成単位を分子鎖中に70モル%以上含有する芳香族ポリアミドよりなる(a)層、脂肪族ポリアミドに特定の式で表されるヒドロキシフェニルプロピオン酸エステル化合物が0.01〜0.5重量部含有されてなる(b)層、及び前記芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとの混合組成物に特定なヒドロキシフェニルプロピオン酸エステル化合物が0.005〜0.5重量部含有されてなる(c)層のうち、(a)層と(a)層以外の少なくとも1種の層を含む構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の酸化防止剤を特定量含有するポリアミド積層二軸延伸フィルムに関する。詳しくは、酸素バリア性、透明性、強靭性かつ、レトルト処理後でも、機械的強度保持率が高いなど耐熱水性に優れた食品包装用に適するポリアミド積層二軸延伸フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドからなるフィルムは、単層フィルムあるいはラミネ−トフィルムの基材として、また、他樹脂との共押出による多層フィルムの構成素材として使用されてきた。しかしながら、これらフィルムは、それぞれ長所および短所を有しており、それら目的に適合した用途に使用されている。
【0003】
例えば、脂肪族ポリアミドよりなるフィルムは、引張強度、耐屈曲性等の機械的性質においては優れているが、酸素バリア性については十分ではなかった。一方、酸素バリア性が良好なフィルムとして、キシリレンジアミンと脂肪酸ジカルボン酸とからなるポリアミド構成単位を主成分とする芳香族ポリアミドからなるフィルムが提案されている。しかしながら、このフィルムは透明性、耐油性においては優れているが、耐屈曲性は劣っている。
【0004】
上記の脂肪族ポリアミドフィルム、芳香族ポリアミドフィルムの双方の利点、すなわち機械的強度、耐屈曲性、および酸素バリア性に優れているという性質を併せ持つフィルムを得るために、この2種類のポリアミドを共押出して、インフレ−ション法により積層二軸延伸フィルムを製造する方法(特開昭57−51427号公報)や脂肪族ポリアミドを主成分とする層の間に、芳香族ポリアミドを主成分とする層を配置する層構成の積層フィルム(特開昭56−155762号公報)が提案されている。そして、この提案された積層二軸延伸フィルムは、耐熱性が有り、温度100℃程度の熱水中に包装物を入れて処理するレトルト食品用包装に使用されている。
【0005】
しかしながら、このような積層二軸延伸フィルムも、酸素を含む空気と温度130℃を超える高温蒸気との雰囲気下におけるハイレトルト処理においては、酸化によるフィルムの劣化が起こり、強度の低下による製品の破袋が生じるという問題があった。この現象は、レトルト時に釜中に存在する空気中の酸素と水蒸気の混合気体がポリアミドを酸化劣化させるためで有る。通常、レトルト処理作業においては、製品の破袋を防ぐために、コンプレッサ−による加圧を行っており、この時、槽内に空気が導入され、酸化劣化の原因となる。
【0006】
芳香族ポリアミドからなるフィルムは、脂肪族ポリアミドと比較して酸化による劣化に強いことが知られているが、脂肪族ポリアミドと混合したフィルムまたは脂肪族ポリアミドフィルムとの積層フィルムとした場合、脂肪族ポリアミドフィルムの部分が、空気を含んだ高温の蒸気にさらされると酸化劣化するため耐熱水性に問題があった。
【0007】
また、種類の異なるポリアミドを原料とする共押出積層フィルムを製造する場合、異なるポリアミド樹脂の混合物の生成は避けられない。例えば、積層二軸延伸フィルム製造設備の運転を開始してから、規格内の製品が得られる定常状態に達するまでの間に、規格外のフィルムができたり、定常状態に達してからでも、耳トリムと称される切断端材ができたりする。これら規格外フィルムや切断端材からは、個別のポリアミドを分別回収することは実質的に不可能なため、ポリアミド樹脂混合物として再利用する必要がある。これらの樹脂混合物を廃棄処分すると原料歩留りが低下し経済性を損なう上、廃棄処分自体にもコストがかかるという問題がある。
【0008】
かかる観点から、この積層フィルムの製造においては、発生する樹脂混合物の有効利用が強く望まれており、特開平8−156205号公報には、特定のフェノ−ル酸化防止剤が配合されたポリアミド積層二軸延伸フィルムおよび原料樹脂を有効利用する方法が開示されている。しかしながら、このポリアミド積層二軸延伸フィルムでも、レトルト処理後の機械的性質は用途によっては、十分と言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭57−51427号公報
【特許文献2】特開昭56−155762号公報
【特許文献3】特開平8−156205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の実状を鑑み、優れた酸素バリア性、透明性、強靭性かつ、レトルト処理後でも、引張強度保持率が高いなど耐熱水性が良好なポリアミド積層二軸延伸フィルムを提供するものであり、また、ポリアミド積層二軸延伸フィルムを製造する際に生じる原料ポリアミド混合物を有効利用して製造可能なポリアミド積層二軸延伸フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の要望を満たすポリアミド積層二軸延伸フィルムの開発を目的に種々検討した結果、特定のフェノ−ル系酸化防止剤が特定量配合されたポリアミド積層二軸延伸フィルムにより目的を達成することを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は、
m−および/またはp−キシリレンジアミンと炭素数6〜12のα、ω−脂肪酸ジカルボン酸とからなるポリアミド構成単位を分子鎖中に70モル%以上含有する芳香族ポリアミドよりなる(a)層、脂肪族ポリアミドに一般式(1)で表されるヒドロキシフェニルプロピオン酸エステル化合物が0.01〜0.5重量部含有されてなる(b)層、及び前記芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとの混合組成物に一般式(1)で表されるヒドロキシフェニルプロピオン酸エステル化合物が0.005〜0.5重量部含有されてなる(c)層のうち、(a)層と(a)層以外の少なくとも1種の層を含む構成であることを特徴とするポリアミド積層二軸延伸フィルム
【化1】

(式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリアミド積層二軸延伸フィルムは、優れたバリア性、酸素を含む水蒸気による高温熱水処理後も、フィルムの引張伸度の保持率が大きく、実用的な物性の低下が少ない。また、他の熱可塑性樹脂とを接着剤を介して積層した複合フィルムにおいて、層間剥離(デラミ)が起こらず、酸素による内容物の変質を嫌う食品包装用や衛生包装用フィルムとして好適である。さらに、耳トリム材等のスクラップを効率的に再利用することができ、産業上利用価値は極めて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明におけるポリアミド積層二軸延伸フィルムの主要原料は、m−および/またはp−キシリレンジアミンと炭素数6〜12のα、ω−脂肪酸ジカルボン酸とからなるポリアミド構成単位を分子鎖中に70モル%以上含有する芳香族ポリアミド(以下、芳香族ポリアミドと記す。)、脂肪族ポリアミドおよび特定のヒドロキシフェニルプロピオン酸エステル化合物である。
【0015】
芳香族ポリアミドの具体例としては、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリメタキシリレンピメラミド、ポリメタキシリレンスベラミド、ポリメタキシリレンアゼラミド、ポリメタキシリレンセパカミド、ポリメタキシリレンドデカンジアミド、ポリパラキシリレンアゼラミド、ポリパラキシリレンデカナミドのような単独重合体、メタキシリレン/パラキシリレンアジパミド共重合体、メタキシリレン/パラキシリレンピペラミド共重合体、メタキシリレン/パラキシリレンアゼラミド共重合体、メタキシリレン/パラキシリレンセパカミド共重合体のような共重合体が挙げられる。
【0016】
この他、m−および/またはp−キシリレンジアミンと炭素数6〜12のα、ω−脂肪酸ジカルボン酸とからなるポリアミド構成単位を分子鎖中に70モル%以上含有する限り、この成分と他のポリアミド構造成分とからなる共重合体であってもよい。他のポリアミド構成成分としては、ジアミン成分、ジカルボン酸成分およびその他の成分が挙げられる。ジアミン成分の具体例としては、ヘキサメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族アミン、ピペラジンなどのような脂環式ジアミン、p−ビス−(2−アミノエチル)ベンゼン等の芳香族ジアミンがあり、ジカルボン酸成分の具体例としては、アジピン酸、アゼライン酸、セパチン酸などのような脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などのような脂環式ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、などの芳香族ジカルボン酸などがあり、他の成分には、ε−カプロラクタムのようなラクタム、12−アミノドデカン酸のようなω−アミノカルボン酸、またp−アミノメチル安息香酸のような芳香族アミノカルボン酸などがある。
【0017】
ただし、芳香族ポリアミドは、m−および/またはp−キシリレンジアミンと炭素数6〜12のα、ω−脂肪酸ジカルボン酸とからなるポリアミド構成単位を分子鎖中に70モル%以上含有するものでなければならない。分子鎖中における上記特定のポリアミド構成単位の割合が70モル%未満のものを使用すると、最終的に得られる積層二軸延伸フィルムに付与しようとした酸素ガスバリア性が目標値(温度25℃、相対湿度65%条件下で15cc/m2・24H・atm以下)に達せず、好ましくない。また、好ましい分子鎖中における上記特定のポリアミド構成単位の割合は、80〜100モル%である。
【0018】
また、芳香族ポリアミドには、耐屈曲性を向上させる目的で3重量%以下の範囲内で、オレフィン系共重合体、およびその変性物やエラストマ−を含有させることができる。オレフィン系共重合体の具体例としては、エチレン・α−オレフィン系共重合体、エチレン・α,β−不飽和カルボン酸エステル系共重合体、エチレン・酢酸ビニル部分鹸化物系共重合体、エチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体、アイオノマ−重合体等が挙げられる。エラストマ−としては、ポリエ−テルアミド、ポリエ−テルエステルアミド、ポリエステルアミド等のポリアミド系エラストマ−、両末端にポリスチレン相、ゴム中間相として水素添加型ポリオレフィンをもちポリスチレン相が架橋点を担っているブロック共重合体であるスチレン系エラストマ−等が挙げられる。その中でも、エチレン・酢酸ビニル部分鹸化物系共重合体が好ましい。
【0019】
脂肪族ポリアミドの具体例としては、ナイロン6等のラクタム重合体、ポリヘキサメチレンアジパミド等の脂肪族ジアミン類と脂肪族ジカルボン酸類とからなる脂肪族ポリアミド類、ω−アミノカルボン酸類の重合体、およびε−カプロラクタム、またはヘキサメチレンアジパミド、ω−アミノドデカン酸等を主成分とし、これらと重合可能な他のポリアミド構成成分を2〜20重量%とからなる共重合体、などが挙げられる。
【0020】
例えば、脂肪族ポリアミドがε−カプロラクタムを主成分とする共重合体の場合には、共重合可能な構成単位として、脂肪族ジアミン類と脂肪族ジカルボン酸類とのナイロン塩やω−アミノカルボン酸類が挙げられ、またヘキサメチレンアジパミドを主成分とする共重合体の場合には、共重合可能な構成単位として、ε−カプロラクタム等のラクタム類が挙げられ、ω−アミノドデカン酸を主成分とする共重合体の場合には、共重合可能な構成単位として、ε−カプロラクタム等のラクタム類が挙げられる。
【0021】
これらの脂肪族ポリアミドの中では、ナイロン6と称されるポリ−ε−カプロラクタムの単独重合体、ナイロン66と称されるポリヘキサメチレンアジパミドの単独重合体、ナイロン12と称されるポリラウリルラクタムの単独重合体、および、ポリ−ε−カプロラクタムを主成分としたポリヘキサメチレンアジパミドとの共重合体ナイロン6/66,ポリ−ε−カプロラクタムを主成分としたポリラウリルラクタムとの共重合体ナイロン6/12が経済性や入手の容易さから好ましい。
【0022】
前記の混合組成物は、上記芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとの均質な混合物である。この混合組成物は、バ−ジン原料の芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドを混合したものであってもよいし、また、本発明のポリアミド積層二軸延伸フィルムを製造する際に生成する規格外のフィルムや切断端材(耳トリム)として発生するスクラップ混合物、あるいは該スクラップ混合物にバ−ジン原料を加えて調整したものであってもよい。その混合割合は特に制限はないが、芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとを重量比で7:3〜1:9の範囲内で選ぶのが好ましい。
【0023】
芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミドおよびこれらの混合組成物は、いずれも吸湿性が大きく、吸湿したものを使用すると、原料を溶融押出しする際、加水分解が起こるためオリゴマ−が発生し、フィルム製造が困難となるので、事前に乾燥し水分含有率が0.1重量%以下とするのが好ましい。
また、原料のポリアミドおよびポリアミド混合組成物には、得られるフィルムの特性を損なわない範囲内で、リン系、イオウ系酸化防止剤、耐候剤、滑剤、無機フィラ−、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、防雲剤、染料、顔料などの各種添加剤を添加することができる。
【0024】
本発明において使用される、一般式(1)で表されるヒドロキシフェニルプロピオン酸エステルは(以下、これを単にヒドロキシフェニルプロピオン酸エステルと呼ぶ。)、3−(3−アルキル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、またはその酸塩化物、酸無水物などの反応性誘導体と3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5・5]ウンデカン類とを公知の方法で反応させることにより製造することができる。
【化2】

(式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【0025】
かかる一般式(1)で表されるヒドロキシフェニルプロピオン酸エステルにおいて、R1は、メチル基、エチル基、プロピル基を示すが、熱および酸化安定性の点でメチル基が好ましい。ヒドロキシフェニルプロピオン酸エステルの具体例としては、3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフエニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5・5]ウンデカン、3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−エチルフエニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5・5]ウンデカン、3,9−ビス[2−〔2−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−イソプロピルフエニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5・5]ウンデカンなどがあるが、これらの中では、3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフエニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5・5]ウンデカンが好ましく使要される。
【0026】
本発明に係わるポリアミド積層二軸延伸フィルムは、m−および/またはp−キシリレンジアミンと炭素数6〜12のα、ω−脂肪酸ジカルボン酸とからなるポリアミド構成単位を分子鎖中に70モル%以上含有する芳香族ポリアミドよりなる(a)層、脂肪族ポリアミドにヒドロキシフェニルプロピオン酸エステル化合物が0.01〜0.5重量部含有されてなる(b)層、及び前記芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとの混合組成物にヒドロキシフェニルプロピオン酸エステル化合物が0.005〜0.5重量部含有されてなる(c)層のうち、(a)層と(a)層以外の少なくとも1種の層を含む構成であることを特徴とする。
【0027】
ポリアミド積層二軸延伸フィルムの層構成の具体例は、2層構成の場合、(a)/(c)、(a)/(b)、3層構成の場合、(a)/(b)/(c)、(b)/(a)/(c)、(b)/(c)/(a)、(c)/(a)/(c)、4層構成の場合、(b)/(c)/(a)/(b)、5層構成の場合、(b)/(c)/(a)/(c)/(b)、(b)/(a)/(c)/(a)/(b)、(c)/(b)/(a)/(b)/(c)等が挙げられるが、これら例示したものに限定されるものでない。本発明の達成度、製造の簡便さを考慮すると、3層以上5層以下とするのが好ましい。また、積層フィルムを製造する際、規格外フィルムや切断端材(耳トリム)が発生するが、これらを使用し、経済性や資源の有効利用を考慮すると、(c)/(a)/(c)や(b)/(a)/(c)の3層構成が特に好ましい。
【0028】
(a)層を構成するm−および/またはp−キシリレンジアミンと炭素数6〜12のα、ω−脂肪酸ジカルボン酸とからなるポリアミド構成単位を分子鎖中に70モル%以上含有する芳香族ポリアミドは、脂肪族ポリアミドと比較して、酸化による劣化に強いので、ヒドロキシフェニルプロピオン酸エステル化合物を通常含有する必要はないが、含んでいても構わない。
【0029】
しかしながら、(a)層を含む積層フィルムは、酸素を含む空気と温度130℃を超える高温の蒸気による高温熱処理をした場合、(b)層または(c)層を構成する脂肪族ポリアミドが酸化により劣化するため、積層フィルム全体としても破断してしまう。そのため、(b)層を構成する脂肪族ポリアミドには、ヒドロキシフェニルプロピオン酸エステル化合物0.01〜0.5重量部、および(c)層を構成する芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとの混合組成物には、ヒドロキシフェニルプロピオン酸エステル化合物0.005〜0.5重量部含有することが必要である。
【0030】
(b)層において0.01重量部未満および(c)層において0.005重量部未満では、レトルト処理した積層二軸延伸フィルムは酸化により劣化して破断するので好ましくない。一方、(b)層および(c)層において0.5重量部を超える場合、双方とも層の表面に該化合物がブリ−ドアウトし、印刷性、接着性を損なうため好ましくない。このうち、好ましくは、(b)層においては0.05〜0.2重量部、(c)層においては0.025〜0.2重量部である。
【0031】
本発明のポリアミド積層二軸延伸フィルムの原料である脂肪族ポリアミドとヒドロキシフェニルプロピオン酸エステル化合物の混合は、必要に応じて各種添加剤を配合し、公知の方法で行うことができる。例えば、脂肪族ポリアミドの重合開始時から終了までの任意の段階で添加することができる。また、タンブラ−やミキサ−などの公知の混合装置を使用し、脂肪族ポリアミドとヒドロキシフェニルプロピオン酸エステル化合物とをドライブレンドする方法、ヒドロキシフェニルプロピオン酸エステル化合物を可溶な溶媒に溶解させた溶液を脂肪族ポリアミドに散布した後、溶媒を蒸発する方法、脂肪族ポリアミドとヒドロキシフェニルプロピオン酸エステル化合物を成形時に使用する濃度で予め脂肪族ポリアミドに一軸または二軸の押出機を用いて溶融混練し混合する練り込み法、また、一軸または二軸の押出機を用いて予め高濃度のヒドロキシフェニルプロピオン酸エステル化合物、脂肪族ポリアミドを製造し、これを成形時に希釈して使用するマスタ−バッチ法などが挙げられる。また、芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドのポリアミド混合組成物においても、同様に配合することができるが、(c)層を構成する混合組成物として、積層フィルムを製造する際に発生した規格外フィルムや切断端材(耳トリム)をリサイクル使用する時は、(b)層もしくは(c)層中のヒドロキシフェニルプロピオン酸エステル化合物が自ずとリサイクルされるので、積極的にヒドロキシフェニルプロピオン酸エステル化合物を添加する必要がない場合もある。
【0032】
本発明のポリアミド積層二軸延伸フィルムは、公知の一般的方法により製造することができる。例えば共押出シ−ト成形、共押出キャスティングフィルム成形、共押出インフレ−ションフィルム成形など所謂共押出法により製造することができる。芳香族ポリアミドおよびヒドロキシフェニルプロピオン酸エステル化合物を含有した脂肪族ポリアミドおよびヒドロキシフェニルプロピオン酸エステル化合物を含有した脂肪族ポリアミドと芳香族ポリアミド混合組成物の原料を別々の押出機で溶融混練し、T−ダイあるいはコ−トハンガ−ダイによりフラットフィルム状に押出し、キャスティングロ−ル面上にキャスティング、冷却してフィルムを製造する多層キャスティング法、リング状ダイにより筒状に溶融押出したチュ−ブ状物を空冷あるいは水冷してフィルムを製造する多層チュ−ブラ−法等がある。これらにより、実質的に無定型で配向していない積層未延伸フィルムを製造する。この際、必要に応じて、3種の各層間に接着層として、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、アイオノマ−樹脂等を設けてもよい。
【0033】
次に、積層未延伸フィルムを、フィルムの流れ方向(縦方向)およびこれと直角方向(横方向)に各々2.5〜5倍の範囲で二軸延伸する。縦方向および横方向の二軸方向の延伸倍率が各々2.5倍より小さい場合、延伸の効果が少なく、フィルムの強度が劣る。また二軸延伸方向の延伸倍率が各々5倍より大きい場合は、延伸時にフィルムが裂けたり、破断したりし製造上好ましくない。よって、延伸倍率は上記の範囲内とするのがよい。
【0034】
また、延伸工程は積層未延伸フィルムの製造に引続き、連続して実施しても良いし、積層未延伸フィルムを一旦巻き取り、別工程として延伸を実施しても良い。二軸延伸の方法は、テンタ−式逐次二軸延伸法、テンタ−式同時二軸延伸法、チュ−ブラ−延伸法など公知の延伸方法が採用できる。例えば、テンタ−式逐次二軸延伸法の場合、積層未延伸フィルムを50〜110℃の温度範囲に加熱し、ロ−ル式縦延伸機によって縦方向に2.5〜5倍に延伸し、続いてテンタ−式横延伸機によって60〜120℃の温度範囲内で横方向に2.5〜5倍に延伸することにより積層二軸延伸フィルムを製造することができる。テンタ−式同時二軸延伸法やチュ−ブラ−延伸法の場合、積層未延伸フィルムを60〜110℃の温度範囲において、縦横方向同時に各軸方向に2.5〜5倍に延伸することにより積層二軸延伸フィルムを製造することができる。
【0035】
上記方法により延伸された積層二軸延伸フィルムは、引続き熱処理をする。熱処理することにより常温における寸法安定性を付与することができる。この場合の熱処理温度は、110℃を下限として脂肪族ポリアミドの融点より5℃低い温度を上限とする範囲を選択するのがよく、これにより常温寸法安定性のよい、任意の熱収縮率をもった延伸フィルムを得ることができる。熱処理操作により、充分に熱固定された積層二軸延伸フィルムは、常法に従い、冷却して巻き取る。
また、実験室的には、バッチ式延伸機(例えば、岩本製作所製、東洋精機社製など)を使用して延伸フィルムを得ることができる。この場合、工業的に生産されている延伸フィルムと同等の物性を得るためには、延伸前の予熱温度を60〜90℃、延伸倍率を2.5〜4.0倍、熱固定温度190〜220℃の条件下で延伸を行えば良い。
【0036】
本発明に係わるポリアミド積層二軸延伸フィルムは、上記の方法により製造することができるが。本発明を考慮すると次のような物性、すなわち、温度25℃、相対湿度65%条件下における酸素透過率が15cc/m2・24H・atm以下、かつ、130℃以上の酸素と水蒸気との雰囲気下での過酷な条件でのレトルト処理においても、フィルム物性の低下が起こらないものであることが要求される。
【0037】
本発明のポリアミド積層二軸延伸フィルムの全体の厚みは、10〜40μmが好ましい。全体の厚みが、10μm未満のものは、酸素バリア性、強靭性に乏しく、また、40μmを超える物は、フィルムが硬くなり、さらにラミネ−トする場合、フィルム全体が非常に厚くなり好ましくない。
【0038】
本発明のポリアミド積層二軸延伸フィルムは、他の熱可塑性樹脂フィルムやアルミニウム箔、紙等などと積層にして使用することができる。積層される他の熱可塑性樹脂フィルムとしてはポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、アイオノマ−樹脂、ポリエチレンテレフタレ−ト樹脂などから得られる延伸もしくは未延伸フィルムを挙げることができる。
【0039】
さらに、本発明のポリアミド積層二軸延伸フィルムは、印刷性、ラミネ−ト、粘着剤付与性を高めるため、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、酸処理などの表面処理を行うことができる。また、必要に応じて、このような処理がなされた後、印刷、ラミネ−ト、粘着剤塗布、ヒ−トシ−ルなどの二次加工工程を経てそれぞれの目的とする用途に使用することができる。
【実施例】
【0040】
以下において実施例および比較例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の要旨を越えない限り以下の例に限定されるものではない。以下、使用したポリアミド樹脂、酸化防止剤、得られたポリアミド二軸延伸積層フィルムの評価方法を記載する。
【0041】
[ポリアミド樹脂]
A−1:ポリメタキシリレンアジパミド(三菱ガス化学(株)製、MX−ナイロン6011)
A−2:ナイロン6(宇部興産(株)製、UBEナイロン1022B)
A−3:フィルム製造テストから発生した耳トリム端材物(芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとの割合(重量)が35:65)
[酸化防止剤]
B−1:3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフエニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5・5]ウンデカン(住友化学工業(株)製 、スミライザ− GA−80)
B−2:ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト]:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、イルガノックス1010)
【0042】
[評価方法]
<酸素透過率>
ASTM D−3985に準じて、モダンコントロ−ル社製MOCON−OX−TRAN2/20を使用して、23℃、65%RHの条件下で測定した。
【0043】
<レトルト処理評価>
(1)レトルト処理
下記の各例に記載の方法により得られたポリアミド二軸延伸積層フィルム(縦200mm、横200mm)をレトルト食品用オ−トクレ−ブ(トミ−精工製、SR−240)に入れ、135℃、全圧3.2kg/cm2(ゲ−ジ圧)、空気分圧1.0kg/cm2(ゲ−ジ圧)の条件で30分間処理した。
【0044】
(2)引張強度保持率の測定
オリエンテック製テンシロンUTM III−200にて測定した。レトルト処理前後フィルムの引張強度を測定し、その保持率を計算した。
引張強度保持率=[(レトルト処理後引張強度)/(レトルト処理前引張強度)]×100(%)
引張強度保持率の値が高いほどレトルト処理による影響が小さいことを示す。
【0045】
<デラミ性評価>
下記の各例に記載の方法によって得られたポリアミド積層フィルムの片面をコロナ処理し、このコロナ処理面にイソシアネ−ト系のアンカ−コ−ト剤(武田薬品(株)製 タケラックA−310)を用いて、ポリプロピレン未延伸フィルム(東洋紡(株)製 P1146)をドライラミネ−トし、複合フィルムを得た。次にこの複合フィルムを、40℃,3日間のエ−ジング後、上記のレトルト処理の方法に従い、レトルト処理を行い、その後のポリアミド積層フィルムとポリプロピレン未延伸フィルムとの層間剥離(デラミ)の有無を目視観察した。
【0046】
実施例1
ポリアミド樹脂A−1((a)層)、酸化防止剤B−1 0.1重量部とポリアミド樹脂A−2 100重量部、エチレンビスステアリルアミド(以下、EBSと呼ぶ)0.08重量部からなる組成物((b)層)、および酸化防止剤B−1 0.065重量部、ポリアミド樹脂A−3 100重量部、EBS 0.08重量部かなる組成物((c)層)をφ40mm押出機3台を使用して別々に溶融させ、水冷インフレ−ション用ダイ(プラコ−社製)を用いて、外層が約50μmの(b)層、中間層が約36μmの(a)層、そして内層が約50μmの(c)層の各々よりなるポリアミド未延伸積層フィルムを得た。次に、得られたポリアミド未延伸積層フィルムを、二軸延伸装置(岩本製作所製BIX703)を使用し、延伸温度90℃、延伸倍率3.0×3.0倍に同時二軸延伸した後、210℃の加熱空気で熱処理を行ない、外層が約5.5μm、中間層が4μm、そして内層が5.5μmである、(b)/(a)/(c)なる3層構成で、全体の厚みが約15μmのポリアミド積層二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムについて、前記の方法により酸素透過率、および引張強度の保持率を算出し、耐デラミ性を評価した。その結果を、フィルム層構成等と共に、表1に示す。
【0047】
実施例2〜3
実施例1において、酸化防止剤の含有量を表1に記載したように代えた他は、同例に記載した同様の方法で、ポリアミド積層二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムについて、前記の方法により酸素透過率、および引張強度の保持率を算出し、耐デラミ性を評価した。その結果を、フィルム層構成等と共に、表1に示す。
【0048】
実施例4
ポリアミド樹脂A−1((a)層)、および酸化防止剤B−1 0.1重量部とポリアミド樹脂A−2 100重量部からなる組成物50重量部と、酸化防止剤B−1 0.065重量部とポリアミド樹脂A−3からなる組成物 50重量部にEBS 0.08重量部を添加した混合物((c)層)をφ40mm押出機3台を使用して別々に溶融させ、水冷インフレ−ション用ダイ(プラコ−社製)を用いて、内外層が約50μmの(c)層、中間層が約36μmの(a)層よりなるポリアミド未延伸積層フィルムを得た。その後、実施例1と同様の方法により、、内外層が約5.5μm、中間層が4μmである、(c)/(a)/(c)なる3層構成で、全体の厚みが約15μmのポリアミド積層二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムについて、前記の方法により酸素透過率、および引張強度の保持率を算出し、耐デラミ性を評価した。その結果を、フィルム層構成等と共に、表1に示す。
【0049】
比較例1
実施例1において、酸化防止剤を使用しない他は、同例に記載した同様の方法でポリアミド積層二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムについて、前記の方法により酸素透過率、および引張強度の保持率を算出し、耐デラミ性を評価した。その結果を、フィルム層構成等と共に、表1に示す。
【0050】
比較例2
実施例1において、層構成、フィルムの厚さを表1に記載したように代えた他は、同例に記載した同様の方法でポリアミド積層二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムについて、前記の方法により酸素透過率、および引張強度の保持率を算出し、耐デラミ性を評価した。その結果を、フィルム層構成等と共に、表1に示す。
【0051】
比較例3〜4
実施例1において、酸化防止剤の含有量を表1に記載したように代えた他は、同例に記載した同様の方法でポリアミド積層二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムについて、前記の方法により酸素透過率、および引張強度の保持率を算出し、耐デラミ性を評価した。その結果を、フィルム層構成等と共に、表1に示す。
【0052】
比較例5
実施例1において、酸化防止剤をB−2に代えた他は、同例に記載した同様の方法でポリアミド積層二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムについて、前記の方法により酸素透過率、および引張強度の保持率を算出し、耐デラミ性を評価した。その結果を、フィルム層構成等と共に、表1に示す。
【0053】
比較例6
実施例4において、酸化防止剤をB−2に代えた他は、同例に記載した同様の方法でポリアミド積層二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムについて、前記の方法により酸素透過率、および引張強度の保持率を算出し、耐デラミ性を評価した。その結果を、フィルム層構成等と共に、表1に示す。
【0054】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のポリアミド積層二軸延伸フィルムは、食品包装用途において利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
m−および/またはp−キシリレンジアミンと炭素数6〜12のα、ω−脂肪酸ジカルボン酸とからなるポリアミド構成単位を分子鎖中に70モル%以上含有する芳香族ポリアミドよりなる(a)層、脂肪族ポリアミドに一般式(1)で表されるヒドロキシフェニルプロピオン酸エステル化合物が0.01〜0.5重量部含有されてなる(b)層、及び前記芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとの混合組成物に一般式(1)で表されるヒドロキシフェニルプロピオン酸エステル化合物が0.005〜0.5重量部含有されてなる(c)層のうち、(a)層と(a)層以外の少なくとも1種の層を含む構成であることを特徴とするポリアミド積層二軸延伸フィルム。
【化1】

(式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【請求項2】
請求項1記載のヒドロキシフェニルプロピオン酸エステル化合物が3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフエニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5・5]ウンデカンであることを特徴とするポリアミド積層二軸延伸フィルム。
【請求項3】
3〜5層よりなることを特徴とする請求項1または請求項2記載のポリアミド積層二軸延伸フィルム。
【請求項4】
(c)/(a)/(c)または、(b)/(a)/(c)の3層構成よりなることを特徴とする請求項1〜3にいずれかに記載のポリアミド積層二軸延伸フィルム。

【公開番号】特開2010−195047(P2010−195047A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48683(P2010−48683)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【分割の表示】特願2001−192308(P2001−192308)の分割
【原出願日】平成13年6月26日(2001.6.26)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】