説明

ポリアミド酸溶液、それを用いたポリイミド、及びそれらの製造方法

【課題】水分が十分に除去されたポリアミド酸溶液及びその製造方法、並びにこれを用いたポリイミド及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】オルトエステル化合物の存在下、有機溶媒中で、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミン化合物と、を少なくとも反応させることにより得られる、ポリアミド酸溶液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド酸溶液あるいはこれに無機粒子が添加されているポリアミド酸複合分散液の製造方法に関する。また、これらを用いたポリイミドフィルムあるいはポリイミド複合フィルムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス基板に変わりプラスチックフィルムを基板とした各種フレキシブルデバイスの研究が盛んに行われている。例えば、フレキシブル有機ELディスプレイ、フィルム型太陽電池、電子ペーパー等が挙げられる。デバイスの製造プロセス上、高度な耐熱性と透明性、寸法安定性が求められている。
【0003】
半芳香族(脂肪族ポリアミドの分子骨格中に一部芳香族構造を導入したポリアミド等が挙げられる。)、あるいは全脂肪族(脂環構造を含む)のポリイミドは無色透明性に優れ、耐熱性も良好であることから、このようなフレキシブルデバイス用の基材として盛んに研究されている。
【0004】
機械的強度の向上、熱膨張率の低下、ガスバリア性の向上等を目的として、各種有機樹脂と無機層状化合物との複合化が盛んに研究されており、ポリイミドについても多くの研究がなされている。ポリイミドは、耐熱性、力学特性、耐薬品性及び電気的特性が良好な材料であるため、幅広い分野で用いられている。ポリイミドの製造プロセスとしては、前駆体のポリアミド酸(「ポリアミック酸」と呼ばれることもある。)を加熱することによりイミド化する手法が用いられている。ポリイミドの前駆体としてポリアミド酸を用いる場合、有機溶媒に溶解させたポリアミド酸溶液として用いられる。
【0005】
また、上記ポリアミド酸をイミド化してポリイミドを得るにあたって、近年、耐熱性や機械的強度の向上、熱膨張率の低下、ガスバリア性の向上等を目的として、各種有機樹脂と各種無機粒子との複合化することについて研究されている(非特許文献1参照)。ポリイミドの複合化においては、無機粒子がポリイミドマトリックス中において高度に分散されていることが望ましい。これを実現する手法として、例えば、無機粒子の表面処理法や分散混合方法等が用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「ポリイミドの高機能化と応用技術」,サイエンス&テクノロジー社,2008年4月,p19〜p35
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸は、有機溶媒中で原料であるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物を反応させることによって得ることができる。しかし、水分が存在すると反応が阻害され、生成したポリアミド酸が加水分解されてしまう。このようなポリアミド酸から得られるポリイミドは、途中のイミド化プロセスにおいて、十分な強度が得られないという問題がある。
【0008】
以上のようなことから、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを反応させて得られるポリアミド酸は十分に脱水されていることが望まれる。ポリアミド酸の製造において原料や溶媒を十分に脱水することや、ポリアミド酸の合成反応時やポリアミド酸の保存時には水分が混入しないよう処置をすることが行われているが、これらは容易な処置ではなく、水分除去効果についても未だ不十分である。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みなされたものであり、水分が十分に除去されたポリアミド酸溶液及びその製造方法、並びにこれを用いたポリイミド及びその製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、オルトエステルの存在下、有機溶媒中で、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミン化合物と、を少なくとも反応させることで、水分が十分に除去されたポリアミド酸が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は以下のとおりである。
〔1〕
オルトエステル化合物の存在下、有機溶媒中で、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミン化合物と、を少なくとも反応させることにより得られる、ポリアミド酸溶液。
〔2〕
無機粒子が前記有機溶媒中に分散した状態で存在している上記〔1〕のポリアミド酸溶液。
〔3〕
前記無機粒子が、有機化された層状珪酸塩である上記〔2〕のポリアミド酸溶液。
〔4〕
ポリアミド酸と、
オルトエステル化合物と、
有機溶媒と、
を含むポリアミド酸溶液。
〔5〕
オルトエステル化合物の存在下、有機溶媒中で、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミン化合物と、を少なくとも反応させることによりポリアミド酸を形成する工程を含む、ポリアミド酸溶液の製造方法。
〔6〕
上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載のポリアミド酸溶液、又は上記〔5〕の製造方法により得られるポリアミド酸溶液を、加熱によりイミド化することにより得られるポリイミド。
〔7〕
フィルム状に成型された上記〔6〕のポリイミド。
〔8〕
上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一のポリアミド酸溶液、上記〔5〕の製造方法により得られるポリアミド酸溶液を、加熱することによりイミド化させ、ポリイミドを得る工程を含むポリイミドの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水分が十分に除去されたポリアミド酸溶液及びその製造方法、並びにこれを用いたポリイミド及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細を説明する。以下は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0014】
本発明に係るポリアミド酸溶液は、オルトエステル化合物の存在下、有機溶媒中で、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミン化合物と、を少なくとも反応させることにより得られる、ポリアミド酸である。本発明によれば、水分が十分に除去されたポリアミド酸溶液を得ることができる。
【0015】
本発明で用いられるオルトエステル化合物とは、同一の炭素の上に3個のアルコキシ基を持つ有機化合物をいう。3個のアルコキシ基は同じ種類でもよいし、異なる種類であってもよい。また、アルコキシ基のアルキル基は、直鎖状でもよいし分鎖状でもよいし、置換されていてもよいし無置換でもよい。テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との反応は弱酸性条件下で行われるが、オルトエステル化合物は反応系中の水分と反応することで容易に加水分解し、アルコール化合物等の揮発性成分に変化する。これにより主反応(ポリアミド酸が生成する反応)を阻害することなく、十分な脱水作用を得ることができる。また、オルトエステル化合物自身も揮発性であるため、加熱等によって容易に反応系から除去することができる。本発明では、オルトエステル存在下で、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを反応させることで、反応系から水分を十分に除去されたポリアミド酸溶液を得ることができる。また、ポリアミド酸の保存時に、ポリアミド酸の一部がイミド化し、水分が生じる場合がある。しかし、本発明では、オルトエステル化合物を含むポリアミド酸溶液とできるため、上記水分を脱水でき、かかる副反応を抑制することができる。
【0016】
オルトエステル1molの加水分解により、相当するエステル化合物1molと相当するアルコール2molが生成する。また、オルトエステル化合物は、通常、常温で液体の化合物であり、100〜160℃の沸点を有するため、通常用いる有機溶媒と同様に、最終的なイミド化時に反応系から除去することができる。従って、本発明においてはこれらを除去するための工程を別途行う必要がないため簡便である。
【0017】
さらに、本発明においては、無機粒子存在下でテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを反応させる場合(後述する)においても、水分を十分に除去することができるため、特殊な脱水処理を行わなくても高重合度のポリアミド酸を得ることができる。
【0018】
オルトエステル化合物としては、特に限定されず、例えば、オルトギ酸エステル、オルト酢酸エステル、オルトプロピオン酸エステル、オルト酪酸エステル、オルトギ酸ジエチルフェニル、オルトクロロ酢酸トリエチル、オルトジクロロ酢酸トリエチル、オルトギ酸トリイソプロピル、オルトギ酸トリブチル、オルト酢酸トリエチル、オルト酢酸トリエチル、オルトギ酸トリエチル、オルトプロピオン酸トリエチル、オルト吉草酸トリエチル、オルト酢酸トリメチル、オルト酪酸トリメチル、オルトギ酸トリメチル、オルトイソ酪酸トリメチル、オルトプロピオン酸トリメチル、オルト吉草酸トリメチル、オルトギ酸トリプロピル等が挙げられる。これらの中でも、入手の容易性の観点から、オルトギ酸トリイソプロピル、オルトギ酸トリブチル、オルト酢酸トリエチル、オルト酢酸トリエチル、オルトギ酸トリエチル、オルトプロピオン酸トリエチル、オルト吉草酸トリエチル、オルト酢酸トリメチル、オルト酪酸トリメチル、オルトギ酸トリメチル、オルトイソ酪酸トリメチル、オルトプロピオン酸トリメチル、オルト吉草酸トリメチル、オルトギ酸トリプロピルが好ましい。
【0019】
オルトエステル化合物の配合量は、脱水効果をよりよくする、またアミド酸の溶解性を低下させない観点から、テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の合計100質量部に対して、0.1〜100質量部であることが好ましい。さらに、脱水効果と溶解性とのバランスをさらに向上させる観点から、0.5〜50質量部であることがより好ましい。
【0020】
オルトエステル化合物を添加するタイミングとしては、安定的なポリアミド酸の重合の観点からは、あらかじめ有機溶媒に添加しておくことが好ましいが、保存安定性を向上させる観点からは、テトラカルボン酸二無水物やジアミン化合物と同時に添加してもよく、ポリアミド酸重合後に添加してもよい。この場合、ポリアミド酸と、オルトエステル化合物と、有機溶媒とを少なくとも含むポリアミド酸溶液とすることができる。
【0021】
さらに、脱水効果を向上させる観点から、オルトエステル化合物と共に、少量の酸を含むことが好ましい。酸の種類は、特に限定されないが、前記の観点から、カルボン酸基、スルホン酸基等を有する有機化合物がより好ましく、最終的に除去しやすい観点から有機カルボン酸類が特に好ましく、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、クロトン酸等が挙げられる。酸の添加量としては触媒量程度で十分であるが、ポリアミド酸溶液全体量における酸の添加量の上限は10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。下限値は0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましい。
【0022】
テトラカルボン酸二無水物は、特に限定されず、直鎖状又は分鎖状の脂肪族テトラカルボン酸二無水物であってもよいし、芳香族テトラカルボン酸二無水物であってもよく、置換されていてもよいし、無置換であってもよい。
【0023】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、例えば、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの中でも、入手の容易性の観点から、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物が好ましい。これらの脂肪族テトラカルボン酸二無水物は、1種単独あるいは2種以上混合して使用することができる。
【0024】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物、及び3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの中でも、反応性の観点から、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物が好ましい。
【0025】
ジアミン化合物は、特に限定されず、直鎖状又は分鎖状の脂肪族ジアミン化合物であってもよいし、芳香族ジアミン化合物であってもよく、置換されていてもよいし、無置換であってもよい。
【0026】
脂肪族ジアミン化合物としては、特に限定されないが、例えば、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3‘−ジメチルジシクロヘキシルメタン、3(4),8(9),−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5,2,1,02,6]デカン、2,5(6)−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、イソホロンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,2−ジアミノエタン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,8−ジアミノオクタン等が挙げられる。これらの中でも、反応性の観点から、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3‘−ジメチルジシクロヘキシルメタン、3(4),8(9),−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5,2,1,02,6]デカン、2,5(6)−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、イソホロンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサンが好ましい。これらの脂肪族ジアミン化合物は、1種単独あるいは2種以上混合して使用することができる。
【0027】
芳香族ジアミン化合物としては、特に限定されないが、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、及び2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0028】
なお、本発明において、ポリイミドの透明性をさらに向上させたい場合には、テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物のうち少なくとも1種が脂肪族化合物であることが好ましい。このようなものとして、芳香族酸無水物と脂肪族ジアミン化合物の組み合わせ、脂肪族酸無水物と芳香族ジアミン化合物の組み合わせ、脂肪族酸無水物と脂肪族ジアミン化合物の組み合わせ等が挙げられる。特に、テトラカルボン酸二無水物が脂肪族化合物であり、かつジアミン化合物が芳香族ジアミン化合物であることが好ましい。
【0029】
有機溶媒としては、特に限定されず、例えば、N−N’−ジメチルホルムアミド、N−N’−ジメチルアセトアミド、及びN−メチル−2−ピロリドン等のアミド類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、及びδ−バレロラクトン等のラクトン類;エチレンカーボネート、及びプロピレンカーボネート等のカーボネート類;モノグライム、ジグライム、トリグライム、及びテトラグライム等のグライム類;ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒類が挙げられる。有機溶媒は脱水処理されていることが好ましいが、オルトエステル存在下でテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを反応させることにより水が効果的に除去されるため、通常行われる厳密な脱水処理は必ずしも必要ではない。
【0030】
本発明では、有機溶媒中に無機粒子が分散した状態で存在していることが好ましい。オルトエステルの存在下、無機粒子が分散している有機溶媒中で、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミン化合物と、を少なくとも反応させることにより、ポリアミド酸溶液を複合化することができ(「複合化分散液」とよばれる場合もある。)、これをイミド化することによりポリイミド複合体を得ることができる。
【0031】
無機粒子とは、少なくとも無機化合物を含む粒子をいい、分散性の観点から、微粒子であることが好ましい。無機粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の無機酸化物;モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、バイデライト、スティブンサイト及びノントロナイト等のスメクタイト系粘土鉱物、膨潤性マイカ、バーミキュライト、ハロイサイト等の層状珪酸塩などが挙げられる。これらは有機溶媒中に分散されることで分散液を形成し、場合によってはコロイド溶液となる。これらの無機粒子は、1種単独あるいは2種以上混合して使用することができる。
【0032】
無機粒子は、有機溶媒中での分散性を向上させる観点から、表面処理されたものであることが好ましい。表面処理としては、無機粒子の種類にもよるが、例えば、シラン系、アルミネート系、チタネート系の表面処理剤やカップリング剤による処理、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、イミダゾリニウム塩等の有機オニウム塩による処理等が挙げられる。
【0033】
無機粒子としては、分散性の観点から、有機化された層状珪酸塩であることが好ましい。ここで、有機化とは、有機基を無機物へ導入することをいい、例えば、有機オニウムイオンで処理すること等が挙げられる。例えば、有機オニウムイオンで有機化された合成スメクタイト等が挙げられる。
【0034】
このような有機オニウムイオンを生じる有機オニウム塩としては、例えば、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、イミダゾリウム塩などが挙げられる。これらの中でも、着色を効果的に抑制できる観点から、4級アンモニウム塩が好ましい。これらの有機オニウム塩は、1種単独あるいは2種以上併用してもよい。
【0035】
4級アンモニウム塩としては、特に限定されず、例えば、トリメチルアルキルアンモニウム塩、トリエチルアルキルアンモニウム塩、トリブチルアルキルアンモニウム塩、トリオクチルアルキルアンモニウム塩、ジメチルジアルキルアンモニウム塩、ジブチルジアルキルアンモニウム塩、メチルベンジルジアルキルアンモニウム塩、ジベンジルジアルキルアンモニウム塩、トリアルキルメチルアンモニウム塩、トリアルキルエチルアンモニウム塩、トリアルキルブチルアンモニウム塩、芳香環を有する4級アンモニウム塩、トリメチルフェニルアンモニウム等の芳香族アミン由来の4級アンモニウム塩、ポリエチレングリコール鎖を2つ有するジアルキル4級アンモニウム塩、ポリプロピレングリコール鎖を2つ有するジアルキル4級アンモニウム塩、ポリエチレングリコール鎖を1つ有するトリアルキル4級アンモニウム塩、ポリプロピレングリコール鎖を1つ有するトリアルキル4級アンモニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、相溶性の観点から、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、ジステアリルジメチルアンモニウム塩、ジ硬化牛脂ジメチルアンモニウム塩、ジステアリルジベンジルアンモニウム塩、及びN−ポリオキシエチレン−N−ラウリル−N,N−ジメチルアンモニウム塩等が好ましい。これらの4級アンモニウム塩は、1種単独あるいは2種以上を併用してもよい。
【0036】
4級ホスホニウム塩としては、特に限定されず、例えば、ドデシルトリフェニルホスホニウム塩、メチルトリフェニルホスホニウム塩、ラウリルトリメチルホスホニウム塩、ステアリルトリメチルホスホニウム塩、トリオクチルホスホニウム塩、ジステアリルジメチルホスホニウム塩、及びジステアリルジベンジルホスホニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、相溶性の観点から、ドデシルトリフェニルホスホニウム塩、メチルトリフェニルホスホニウム塩、ラウリルトリメチルホスホニウム塩が好ましい。
【0037】
イミダゾリウム塩としては、特に限定されず、例えば、ジメチルブチルイミダゾリウム塩、ジメチルオクチルイミダゾリウム塩、ジメチルデシルイミダゾリウム塩、ジメチルドデシルイミダゾリウム塩、ジメチルヘキサデシルイミダゾリウム塩等が挙げられる。
【0038】
これらのホスホニウム塩及びイミダゾリウム塩は、1種のみが4級アンモニウム塩と併用されてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0039】
層状珪酸塩のカチオン交換容量(CEC)としては、特に限定されないが、好ましい下限は50ミリ等量/100g、上限は200ミリ等量/100gである。50ミリ等量/100g以上であると、カチオン交換により層状珪酸塩の結晶層間にインターカレートされるカチオン性物質の量が十分であるため、結晶層間を十分に有機化できる。200ミリ等量/100g以下であると、層状珪酸塩の結晶層間の結合力が強固になりすぎず、適度な結合力とすることができ、結晶薄片を剥離しやすくできる。カチオン交換容量は、NH4AC(酢酸アンモニウム溶液)浸出法、遠心法、水素化−バリウム交換法、pH法によって測定することができる。
【0040】
本発明に係るポリアミド酸溶液は、加熱することによりイミド化させてポリイミドとすることができる。例えば、上記した無機粒子を含有するポリアミド酸溶液である場合、このポリイミド酸溶液を加熱してイミド化させることで、ポリイミド複合体とすることができる。より具体的には、ポリアミド酸溶液を成型し加熱することにより、ポリイミド化を進行させることができる。
【0041】
成型方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、本発明に係るポリアミド酸を所望の形状の成型枠内に充填し、これを加熱することで脱水反応を促進させる方法等が挙げられる。成型する形状としては、特に限定されず、例えば、フィルム(「シート」と呼ばれる場合もある。)や、各種部材の形状等とすることができる。本発明の好ましい態様として、フィルム状に成型されたポリイミドとすることができる。本発明では十分に水分が除去されたポリアミド酸を用いるため、ポリイミドフィルムとした場合であっても、各種物性に優れたものとすることができる。フィルム状に成型する方法としては、特に限定されず、例えば、支持体上に複合体分散液を塗布して乾燥させた後、これを支持体から剥離して高温で加熱してイミド化する方法;支持体が金属製等の耐熱性に優れるものである場合、塗布、乾燥、加熱イミド化までを支持体上で行った後、これを剥離する方法等が挙げられる。
【0042】
さらに、ポリイミド酸溶液を加熱することによりイミド化する方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。加熱の方法としては、例えば、熱風、赤外線、遠赤外線、輻射、電気ヒーター等で行うことが挙げられる。また、加熱温度は、200〜400℃が好ましく、250〜350℃がより好ましい。このような条件で加熱することにより、ポリイミド酸溶液を効果的に脱溶媒させるとともに、ポリイミド化させることができる。本発明では、オルトエステル化合物は加水分解によってアルコール等の揮発性成分に変化し、溶媒とともに確実に除去することができる。また、オルトエステル化合物が加水分解されない場合であっても、オルトエステル化合物そのものの揮発性が高いため、加熱等によって容易に反応系から除去することができる。本発明では、オルトエステル化合物を存在させることで、得られるポリイミドの物性が低下することなく、水分を十分に除去することができる。従って、ポリアミド酸と、オルトエステル化合物と、有機溶媒と、を含むポリアミド酸溶液をポリイミド化する際に、上記効果を得ることができる。
【0043】
ポリイミド系複合体フィルムとする場合、得られたフィルムを延伸する工程を更に含むことが好ましい。フィルムを延伸することで、より熱膨張率が低く、透明性の高い複合フィルムとすることができる。また、クレイ等の有機化層状珪酸塩がポリイミド系複合フィルムの面内方向に配向させることができるため、高度なガスバリア性をポリイミド系複合フィルムに付与することができる。
【0044】
ポリイミドフィルムの作製方法は、従来公知の手法を適用でき、特に限定されるものではない。例えば支持体上にポリアミド酸溶液を塗布、乾燥させ自立フィルムを得た後、これを支持体から剥離して、さらに高温下で処理することによりポリイミドフィルムを得ることができる。自立フィルムとは、少なくとも液状ではなくフィルムの形状として取り扱うことができるものをいう。
【0045】
本発明において、得られたポリイミドフィルムはさらに延伸されていることが好ましい。延伸方法は、特に限定されず、ポリアミド酸溶液の溶媒を残存させて延伸を行ってもよいし、イミド化と同時又はイミド化後に、ガラス転移点以上の高温で延伸を行ってもよい。また、一軸延伸、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、ゾーン延伸等のいずれでもよいが、得られるフィルムの寸法安定性や力学特性の観点で、同時二軸延伸又は逐次二軸延伸が好ましい。延伸倍率としては、平坦なフィルムを得られやすい観点から、1.1〜10倍程度が好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
脱水処理されていないN,N−ジメチルアセトアミド(和光純薬製、特級)6mLにオルトギ酸メチル0.20g、酢酸47mgを添加して均一に混合した後、トリオクチルメチルアンモニウム塩で有機化された合成スメクタイト(コープケミカル製、「STN」)0.132gを添加して、自転・公転方式スーパーミキサー(THINKY製、「ARE−250」)で混合し均一に分散させた。ここへ4,4‘−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(和光純薬製)0.822gを添加して均一に溶解させた後、1R,2S,4S,5R−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(岩谷瓦斯製、「PMDA−HS」)0.500gを添加して室温下で一時間撹拌し、一夜放置して非常に粘調なポリアミド酸複合分散液(ポリアミド酸溶液)を得た。得られたポリアミド複合分散液の粘度をHAAKE製「RheoStress600」により剪断速度0.12[1/sec]で測定したところη=15.4[Pas]であり、高重合度のポリアミド酸が生成していることが確認された。
【0048】
(実施例2)
実施例1で得られた分散液を、アプリケータを用いて剥離処理をしたガラス上に塗布し、60℃で30分間乾燥させて、イミド化前の複合フィルムを得た。得られたイミド化前の複合フィルムをガラスから剥離し、開口部が90mm×70mm及び65mm×50mmの2サイズの金属製の枠に固定し、窒素雰囲気下で、300℃で1時間熱処理してイミド化させ、イミド化複合フィルムを得た。得られた複合フィルムは、2サイズともに、無色透明で、180度に折り曲げても割れ等がなく強靭なものであることが確認された。
【0049】
(比較例1)
実施例1においてオルトギ酸メチル及び酢酸を添加せず、これらの代わりに同量のN,N−ジメチルアセトアミド(和光純薬製、特級)を添加した以外は、実施例1と同様にしてポリアミド酸複合分散液を得た。実施例1と同様にポリアミド酸複合分散液の粘度を測定したところη=5.41[Pas]であり、実施例1に比較して重合度が低いことが確認された。
【0050】
(比較例2)
実施例2と同様にしてポリイミド複合フィルムを作製したところ、2サイズともに180度に折り曲げると割れが発生していることが確認された。これはポリイミドの重合度が十分に上がっていなかったことが原因であると考えられた。
【0051】
以上より、本実施例で得られたポリアミド酸溶液は十分に水分が除去されており、重合度が高く、これから得られたポリアミドは強度に優れたものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係るポリアミド酸及びポリイミドは、フレキシブル有機ELディスプレイ、フィルム型太陽電池、電子ペーパー等の各種フレキシブルデバイスの基板等や、電子材料分野における保護部材、絶縁部材、フレキシブル銅張積層板(CCL)等のようなフレキシブルプリント回路基板等の部材等に用いることができ、幅広い分野において産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルトエステル化合物の存在下、有機溶媒中で、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミン化合物と、を少なくとも反応させることにより得られる、ポリアミド酸溶液。
【請求項2】
無機粒子が前記有機溶媒中に分散した状態で存在している請求項1に記載のポリアミド酸溶液。
【請求項3】
前記無機粒子が、有機化された層状珪酸塩である請求項2に記載のポリアミド酸溶液。
【請求項4】
ポリアミド酸と、
オルトエステル化合物と、
有機溶媒と、
を含むポリアミド酸溶液。
【請求項5】
オルトエステル化合物の存在下、有機溶媒中で、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミン化合物と、を少なくとも反応させることによりポリアミド酸を形成する工程を含む、ポリアミド酸溶液の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリアミド酸溶液、又は請求項5に記載の製造方法により得られるポリアミド酸溶液を、加熱によりイミド化することにより得られるポリイミド。
【請求項7】
フィルム状に成型された請求項6に記載のポリイミド。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか一項のポリアミド酸溶液、又は請求項5記載の製造方法により得られるポリアミド酸溶液を、加熱することによりイミド化させ、ポリイミドを得る工程を含むポリイミドの製造方法。

【公開番号】特開2011−74278(P2011−74278A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228662(P2009−228662)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】