説明

ポリアリーレンスルフィドオリゴマの分離方法

【課題】ポリアリーレンスルフィドオリゴマと濾過助剤の混合物からポリアリーレンスルフィドオリゴマを効率よく、収率よく分離する方法を得る。
【解決手段】ポリアリーレンスルフィドオリゴマと濾過助剤を含有する混合物に(a)ポリアリーレンスルフィドオリゴマが可溶、もしくは易溶な溶媒と、(b)ポリアリーレンスルフィドオリゴマが不溶、もしくは難溶な溶媒で、なおかつ親水性の溶媒を一定の割合で添加することで、ポリアリーレンスルフィドオリゴマと濾過助剤の混合物からポリアリーレンスルフィドオリゴマを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアリーレンスルフィドオリゴマと濾過助剤の混合物からポリアリーレンスルフィドオリゴマを効率よく分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィド(以下、ポリアリーレンスルフィドをPASと略する場合もある)樹脂を重合し、重合後徐冷することにより顆粒状のPAS樹脂が得られることは既に知られている。しかしこの際、低分子量のPASオリゴマを主成分とする微粒状固形物も副生する。多くの場合この微粒状固形分は、取り扱いが煩雑なため、たとえば濾過助剤を被覆したフィルターで濾別回収し、濾過助剤と微粒状固形物の混合物は廃棄されてきた。
【0003】
この低分子量のPASオリゴマを主成分とする微粒状固形物はたとえば環式PASも含有しており、効率的に回収し、再利用できれば、PAS樹脂を生産する上で経済的に有利となる。
【0004】
この低分子量のPASオリゴマを主成分とする微粒状固形物からのPASオリゴマの回収については、ジハロゲン化芳香族化合物としてp−ジクロロベンゼンと、アルカリ金属硫化物として硫化ナトリウムを有機極性溶媒であるN−メチルピロリドン中で重合されたPPS重合物スラリーを濾過した濾液から、重合溶媒をある一定の割合で除去した後に水を加えた後、濾過により残存重合溶媒およびハロゲン化アルカリ金属塩を除去し、PPSオリゴマを得る方法が開示されている。この方法では水添加後の濾過において濾過速度が遅く、多大な時間を要するという問題があった(特許文献1参照)。濾過速度向上の方法として酸の添加により分離速度を向上する方法が示されているが、酸による重合溶媒の変性や機器の腐食が懸念される(特許文献2参照)。その他、濾過速度向上の方法としてたとえばラジオライトのような濾過助剤を用いることで固液分離に要する時間が大幅に短縮することが記載されている(特許文献3参照)。
【0005】
芳香族環式化合物はその環状であることから生じる特性に基づく高機能材料や機能材料への応用展開可能性、たとえば包接能を有する化合物としての特性や、開環重合による高分子量直鎖状高分子の合成のための有効なモノマーとしての活用など、その構造に由来する特異性で近年注目を集めている。環式ポリアリーレンスルフィドも芳香族環式化合物の範疇に属し、上記同様に注目に値する化合物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−2172号公報
【特許文献2】特開2007−106784号公報
【特許文献3】特開2007−231255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この濾過助剤を用いる方法では、その後工程でポリアリーレンスルフィドオリゴマを溶解可能な溶媒と接触した後、固液分離を行うことでポリアリーレンスルフィドオリゴマを回収する。しかし、ポリアリーレンスルフィドオリゴマと濾過助剤を含有する混合物にポリアリーレンスルフィドオリゴマを溶解可能な溶媒を接触させると濾過助剤がダマ状になるため、濾過を行う場合に大きな濾過抵抗となり濾過に多大な時間を要するという問題があった。本発明の目的はポリアリーレンスルフィドオリゴマと濾過助剤の混合物からポリアリーレンスルフィドオリゴマを効率的、経済的に分離する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に関し、本発明は以下のとおりである。
1.少なくともポリアリーレンスルフィドオリゴマと濾過助剤を含む混合物からポリアリーレンスルフィドオリゴマを分離する際に、
(a) ポリアリーレンスルフィドオリゴマが可溶、もしくは易溶な溶媒
(b) ポリアリーレンスルフィドオリゴマが不溶、もしくは難溶な溶媒で、なおかつ親水性の溶媒
を加えて固液分離するポリアリーレンスルフィドオリゴマの分離方法。
2.ポリアリーレンスルフィドオリゴマが環式ポリアリーレンスルフィドを含む1記載のポリアリーレンスルフィドオリゴマの分離方法。
3.濾過助剤がラジオライトである1または2記載のポリアリーレンスルフィドオリゴマの分離方法。
4.混合物中のポリアリーレンスルフィドオリゴマに対して(a)を10重量倍以上500重量倍以下加えることを特徴とする1〜3いずれか記載のポリアリーレンスルフィドオリゴマの分離方法。
5.(b)/(a)の重量比が0.01以上10以下であることを特徴とする1〜4いずれか記載のポリアリーレンスルフィドオリゴマの分離方法。
6.固液分離で用いる濾布の通気度が0.3cm/(cm・sec)以下であることを特徴とする1〜5いずれか記載のポリアリーレンスルフィドオリゴマの分離方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリアリーレンスルフィドオリゴマと濾過助剤の混合物からポリアリーレンスルフィドオリゴマを効率よく、収率よく分離する方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明実施の形態を説明する。
【0011】
(1)PASの定義
本発明におけるPASとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては下記の式(A)〜式(K)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(A)が特に好ましい。
【0012】
【化1】

【0013】
(R1,R2は水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい)この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(L)〜式(N)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
【0014】
【化2】

【0015】
また、本発明におけるPASは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
【0016】
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPASとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
【0017】
【化3】

【0018】
を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すこともある)が挙げられる。
【0019】
(2)PASオリゴマと濾過助剤の混合物の調製
○調製方法
上記の少なくともPASオリゴマを含むPAS混合物と濾過助剤の混合物は下記(I)〜(III)の工程を経て得ることができる。
【0020】
(I)まず、公知のPASの製造方法によってPAS重合スラリーを得ることができ、たとえば、少なくともp−ジクロロベンゼンに代表されるポリハロゲン化芳香族化合物、硫化ナトリウムに代表されるアルカリ金属硫化物及びN−メチル−2−ピロリドンに代表される有機極性溶媒を含有する混合物を加熱して、ポリフェニレンスルフィド樹脂に代表されるPAS樹脂を重合した後、220℃以下に冷却して得られた、少なくとも顆粒状のPAS樹脂、顆粒状PAS以外のPAS混合物、有機極性溶媒、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含む重合スラリー(ア)を得る。
【0021】
(II)次に上記スラリー(ア)から顆粒状PASを回収する。このとき、スラリー(ア)中で、顆粒状PASは固体状態で存在し、PASオリゴマ、水、ハロゲン化アルカリ金属塩は有機溶媒中に分散しているので、公知の固液分離により顆粒状PASを回収することができる。このとき、スラリー中には、重合助剤、重合時の副生物などを含有していてもよい。顆粒状PASの回収は、濾過による方法が好ましい。顆粒状PASを濾別し、少なくともPASオリゴマ、有機極性溶媒、水、ハロゲン化アルカリ金属塩及び場合により重合助剤、副生物などを含む回収スラリー(イ)を得る。
【0022】
濾過の際のスラリー(アの温度は特に制限は無いが、通常50〜200℃の範囲が選択され、60〜150℃の範囲がより好ましい。この際に用いる濾材は、顆粒状PASを分離でき、PASオリゴマ、有機極性溶媒、水、副生物、ハロゲン化アルカリ金属塩含むスラリーは通過するものを選ぶ必要がある。通常は10mesh(目開き1.651mm)〜200メッシュ(目開き0.074mm)、好ましくは48メッシュ(目開き0.295mm)〜100メッシュ(目開き0.147mm)程度のものが好ましい。濾過器としては、遠心濾過器、振動スクリーンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
(III)次に回収スラリー(イ)から少なくとも残存有機極性溶媒、ハロゲン化アルカリ金属塩、一部の副生物及び場合により重合助剤を除去し、PASオリゴマを得る。その方法として、たとえば回収スラリーから少なくとも50重量%以上の有機極性溶媒を除去し、残留物を得て、これに水を添加した後、所望に応じて酸を加えて、少なくとも残存有機極性溶媒およびハロゲン化アルカリ金属塩を除去してPAS混合物を分離回収して得る方法や、回収スラリーからPAS混合物を析出させ固体状成分としてPAS混合物を回収する方法、たとえば回収スラリーに水を加えることでPAS混合物を析出させた後に好ましくは濾過などの手法によって、固体成分としてPAS混合物を得る方法などを例示することができる。
【0024】
この固液分離を行うに際し、濾過速度向上のために濾過助剤を用いて固液分離を行うことが非常に有用である。濾過助剤として好ましいものにセラミックス粉末が例示でき、この範疇に含まれるものの中でも、パーライト、ゼオライト、ラジオライト、珪藻土、珪藻土の焼成物、珪藻頁岩の焼成物、および焼石が好ましく、パーライト、ラジオライト及び珪藻土の焼成物がより好ましく、ラジオライトが特に好ましいものの具体例として例示できる。なお、ここでラジオライトはケイソウ殻を原料とする焼成物である。セラミックス粉末を濾過助剤として用いることで固液分離に要する時間を大幅に短縮できる傾向がある。このようなセラミックス粉末を濾過助剤に用いる固液分離の方法には公知の方法が採用できるが、たとえば、あらかじめセラミック粉末を上記回収スラリーに混合した後に固液分離を行う方法や、セラミック粉末をあらかじめ積層した濾材を用いて回収スラリーの固液分離を行う方法が採用できる。上記の方法により、PASオリゴマを含むPAS混合物と濾過助剤の混合物を得ることができる。
【0025】
○混合物の組成
上記のように得られたPASオリゴマを含むPAS混合物と濾過助剤の混合物としては、PASオリゴマを0.05〜80重量%、好ましくは0.5〜70重量%、より好ましくは1〜60重量%含むものが望ましい。PAS混合物におけるPASオリゴマの割合が前記範囲未満では最終的に得られるPASオリゴマの収率が低くなり経済性が低く、一方前記範囲以上ではPASオリゴマに対する濾過助剤の比率が小さく、濾過速度向上につながらないことがある。
【0026】
また、 上記のように得られたPASオリゴマを含むPAS混合物と濾過助剤の混合物としては、濾過助剤を3〜70重量%、好ましくは5〜60重量%、より好ましくは10〜50重量%含むものが望ましい。PAS混合物における濾過助剤の割合が前記範囲未満では濾過速度の向上が期待できず、一方前記範囲以上では濾過助剤による濾過抵抗が大きく濾過速度の向上につながらないことがある。
【0027】
また、PASオリゴマと濾過助剤の混合物には、PAS混合物の製造に実質的に悪影響を及ぼさない第三成分が含まれていても差し障りない。このような第三成分としては、たとえば後述するPASオリゴマを溶解可能な溶媒に不溶であるが、後述するPASオリゴマが難溶もしくは不溶な溶媒に可溶な成分をあげることができ、たとえばPAS重合過程で発生するNaClのような副生物や不純物を例示できる。
【0028】
○PASオリゴマの定義
本発明のPASオリゴマとは下記環式PASまたは線状PASオリゴマを含むPASをさす。また、オリゴマとは、重量平均分子量が1万以下のものであり、重量平均分子量は、示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めた値である。
【0029】
○環状PASの定義
本発明の環式PASとは式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする環式化合物であり、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する下記一般式(O)のごとき化合物である。Arとしては前記式(A)〜式(K)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(A)が特に好ましい。
【0030】
【化4】

【0031】
(式中、Arはアリーレン基、Sはスルフィド基である)。
【0032】
なお、環式PASにおいては前記式(A)〜式(K)などの繰り返し単位をランダムに含んでも良いし、ブロックで含んでも良く、それらの混合物のいずれかであってもよい。これらの代表的なものとして、環式ポリフェニレンスルフィド、環式ポリフェニレンスルフィドスルホン、環式ポリフェニレンスルフィドケトン、これらが含まれる環式ランダム共重合体、環式ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましい環式PASとしては、主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
【0033】
【化5】

【0034】
を80モル%以上、特に90モル%以上含有する環式ポリフェニレンスルフィド(以下、環式PPSと略すこともある)が挙げられる。
【0035】
環式PASの前記(O)式中の繰り返し数mに特に制限は無いが、2〜50が好ましく、2〜25がより好ましく、3〜20が更に好ましい範囲として例示できる。環式PASをPASプレポリマーとして用いて高重合度体を得る際には、環式PASを溶融解させることが有効であるが、mが大きくなると環式PASの溶融解温度が高くなる傾向にあるため、PASプレポリマーの高重合度体への転化をより低い温度で行うことができるようになるとの観点でmを前記範囲にすることは有利となる。
【0036】
また、環式PASは、単一の繰り返し数を有する単独化合物、異なる繰り返し数を有する環式PASの混合物のいずれでも良いが、異なる繰り返し数を有する環式PASの混合物の方が単一の繰り返し数を有する単独化合物よりも溶融解温度が低い傾向があり、異なる繰り返し数を有する環式PASの混合物の使用は前記した高重合度体への転化を行う際の温度をより低くできるため好ましい。
【0037】
○線状PASオリゴマの定義
本発明の線状PASオリゴマとは前述した環式PAS以外の末端基を有する低分子量PASをさし、その分子量は重量平均分子量で10,000以下が好ましく例示でき、5,000以下が好ましく、2,500以下がより好ましい。
【0038】
(3)溶媒について
○PASオリゴマが可溶、もしくは易溶な溶媒(a)
ここで(a)は、PASオリゴマが易溶もしくは可溶な溶媒であれば特に制限はない。PASオリゴマが可溶な状態とは、0.1重量%、常温、常圧の条件で撹拌しながら好ましくは1時間、上記の(a)と接触させた際に、目開き10〜16μmのガラスフィルターで回収される固形分がない状態のことを指す。用いる溶媒としてはPASの分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものが好ましく、たとえばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン等のハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、トリメチルリン酸、N,N−ジメチルイミダゾリジノンなどの極性溶媒を例示できるが、中でもベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、トリメチルリン酸、N,N−ジメチルイミダゾリジノンが好ましく、トルエン、キシレン、クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフランがより好ましく、最も好ましいものとしてクロロホルムが例示できる。PAS混合物を前記溶媒と接触させる際の反応系圧力は常圧もしくは微加圧が好ましく、特に常圧が好ましく、このような圧力の反応系はそれを構築する反応器の部材が安価であるという利点がある。この観点から反応系圧力は、高価な耐圧容器を必要とする加圧条件は避けることが望ましい。
【0039】
○PASオリゴマが不溶、もしくは難溶な溶媒で、なおかつ親水性の溶媒(b)
また(b)はPASオリゴマが難溶もしくは不溶な溶媒で、なおかつ親水性の溶媒であれば特に制限はない。PASオリゴマが難溶もしくは不溶な状態とは、0.1重量%、常温、常圧の条件で撹拌しながら好ましくは1時間、上記の(b)と接触させた際に、目開き10〜16μmのガラスフィルターで回収される固形分が存在する状態のことを指す。たとえば、水や、メタノール、エタノール、プロパノールの炭素数1〜3のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒を例示できる。なかでも、取り扱いの観点から、水が特に好ましい。
【0040】
○溶媒の添加量
(a)の添加量はPASオリゴマに対して10〜500重量倍、好ましくは15〜400重量倍、より好ましくは20〜300重量倍加えることが望ましい。(a)の添加量が上記範囲以下だとPASオリゴマと溶媒の混合が困難になるだけでなく、PASオリゴマの溶媒への溶解が不十分になる傾向にある。また、(a)の添加量が大きい方が一般にPASオリゴマの溶媒への溶解には有利であるが、大きすぎてもそれ以上の効果は望めず、逆に溶媒使用量増大による経済的不利益が生じることがある。
【0041】
○溶媒の組成
PASオリゴマと濾過助剤の混合物に添加する溶媒の(b)/(a)の重量比は好ましくは0.01〜10、より好ましくは0.05〜5、さらに好ましくは0.1〜1となる溶媒組成のスラリーを原料とすることが望ましい。(b)/(a)の重量比が上記範囲未満だと、濾過助剤がダマ状のまま分散せず濾過速度の向上は望めない。一方、(b)/(a)の重量比が上記範囲を超える場合、重量比が大きい方が一般に濾過速度には有利であるが、大きすぎてもそれ以上の効果は望めず、逆に溶媒使用量増大による経済的不利益が生じることがある。
【0042】
(4)混合物への溶媒の添加
PASオリゴマと濾過助剤の混合物を溶媒と接触させる際の雰囲気に特に制限はないが、接触させる際の温度や時間などの条件によってポリアリーレンスルフィドや溶媒が酸化劣化するような場合には、非酸化性雰囲気下で行うことが望ましい。なお、非酸化性雰囲気とは気相の酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。
【0043】
PASオリゴマと濾過助剤の混合物を溶媒と接触させる温度に特に制限はないが、一般に温度が高いほどPASオリゴマの溶媒への溶解は促進される傾向にある。PAS混合物の溶媒との接触は大気圧下でおこなうことが好適であるので、上限温度は使用する溶媒の大気圧下での環流条件温度にすることが望ましく、前述した好ましい溶媒を用いる場合はたとえば20〜150℃、好ましくは25〜100℃、さらに好ましくは30〜60℃を具体的な温度範囲として例示できる。
【0044】
PASオリゴマと濾過助剤の混合物を溶媒と接触させる時間は、用いる溶媒種や温度等によって異なるため一意的には限定できないが、たとえば1分〜50時間が例示でき、短すぎるとPASオリゴマの溶媒への溶解が不十分になる傾向にあり、また長すぎても溶媒への溶解は飽和状態に達し、それ以上の効果は得られない。
【0045】
PAS混合物を溶媒と接触させる方法としては、固体状のPAS混合物と溶媒を必要に応じて攪拌して混合する方法、各種フィルター上のPAS混合物固体に溶媒をシャワーすると同時に不純物を溶媒に溶解させる方法などを用いることができる。なかでも固体状のPAS混合物と溶媒を必要に応じて攪拌して混合する方法は、操作後に得られるPASオリゴマの収率や純度が高く、有効な方法である。
【0046】
(5)固液分離
次にPASオリゴマと濾過助剤の混合物に(b)/(a)の組成を調整した溶媒を加えたスラリーの固液分離を行う。固液分離の方法は濾過、遠心分離が好ましい。
【0047】
濾過の際のスラリーの温度は特に制限は無いが、通常20〜200℃の範囲が選択され、30〜100℃の範囲がより好ましい。濾過の際に用いる濾材は、濾過助剤が濾液に漏れない濾材が選択され、通気量0.3cm/(cm・sec)以下の濾布が望ましい。上記範囲を超える通気度の濾布を用いた場合、濾液中に濾過助剤が漏れる場合があり、PASオリゴマの純度が低下する。濾過器としては、吸引濾過器、加圧濾過器などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
一方、固体成分については、PASオリゴマがまだ残存している場合、再度溶媒との接触及び溶液の回収を繰り返し行うことでより収率よくPASオリゴマを得ることができる。
【0049】
(6)PASオリゴマの回収・精製
(5)で得た濾液からPASオリゴマを回収する。PASオリゴマを含む溶液から溶媒の除去を行い、PASオリゴマを得る。溶媒(a)と溶媒(b)が相分離している場合は溶媒除去の前にデカンテーションにより溶媒(a)相のみを得る事が好ましい。溶剤の除去は、少なくとも50重量%以上、好ましくは70重量%以上、更に好ましくは90重量%以上、よりいっそう好ましくは95重量%以上の溶剤を除去することが望ましい。加熱による溶剤の除去を行う際の温度は用いる溶剤の特性に依存するため一意的には限定できないが、通常、20〜150℃、好ましくは40〜120℃の範囲が選択できる。また、溶剤の除去を行う圧力は常圧以下が好ましく、これにより溶剤の除去をより低温で行うことが可能になる。
【0050】
かくして得られたPASオリゴマは十分に高純度であり、各種用途に好適に用いることができるが、さらに溶媒(b)との接触を、たとえば再沈等の方法で付加的に施すことによってよりいっそう純度の高いPASオリゴマを得ることが可能である。
【0051】
(7)PASオリゴマの用途
本発明の方法で得られたPASオリゴマは、PAS樹脂を製造する際の原料として再利用することも可能である。
【0052】
また、本発明によって得られるPASオリゴマは環式PASを含有しているため、環式PASを抽出し、開環重合によりポリマーを得る際のプレポリマーとして好適に用いることができる。開環重合は環式PASの開環が起こり高分子量体が生成する条件下で行えばよく、溶媒存在下で行ってもよいし、溶媒の非存在下で行っても差し支えないが、より効率よくポリマーを得るとの観点では溶媒の非存在下で行うことが好ましい。また、開環重合に際しては、環式PASの開環を促進する各種成分を加えても差し障りない。このような成分としては、各種触媒化合物を用いることができ、たとえばイオン性化合物や、ラジカル発生化合物をあげることができる。
【実施例】
【0053】
<PAS混合物含有スラリーの調製>
(参考例1)
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.0モル)、96%水酸化ナトリウム2.96kg(71.0モル)、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略する場合もある)を11.44kg(116モル)、酢酸ナトリウム1.72kg(21.0モル)、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら約240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、精留塔を介して水14.8kgおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。
【0054】
なお、この脱液操作の間に仕込んだイオウ成分1モル当たり0.02モルの硫化水素が系外に飛散した。
【0055】
次に、p−ジクロロベンゼン10.3kg(70.3モル)、NMP9.00kg(91.0モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で270℃まで昇温し、この温度で140分保持した。水1.26kg(70モル)を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後220℃まで0.4℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷し、スラリーを得た。このスラリーを20.0kgのNMPで希釈しスラリー(ア)を得た。
【0056】
80℃に加熱したスラリー(ア)10kgをふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別し、メッシュオン成分としてスラリーを含んだ顆粒状PPS樹脂を、濾液成分としてスラリー(イ)を約7.5kg得た。
【0057】
(参考例2)
ラジオライト#800S(昭和化学工業株式会社製)52.5gをイオン交換水200gに分散させた分散液を目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過することで、フィルター上にラジオライトを積層し、これを用いて参考例1で得られたスラリー(イ)1000gを固液分離した。その後、水200gをラジオライト層に加えてラジオライト層を水洗浄し、ポリフェニレンスルフィドとラジオライトの混合物1を210g得た。
【0058】
[実施例1]
参考例2の方法で得られたポリフェニレンスルフィドとラジオライトの混合物1を20g分取し、クロロホルム60g、水7gを加えて、浴温約40℃で90分間撹拌した。ポリフェニレンスルフィド混合物と溶媒を接触させた。得られた抽出液は室温で一部固形状成分を含むスラリー状であった。このスラリーを濾布TRG951K(中尾フィルター工業株式会社製)を用いて0.15MPaの圧力で加圧濾過することでスラリーを固液分離し、クロロホルム層と水層に分離した透明な濾液70gを得た。この時の単位面積あたりの濾過速度は0.06g/(cm・min)であった。得られた濾液から水層を除去し、クロロホルム層を90℃で5時間真空乾燥して固形物0.8gを得た。
【0059】
[実施例2]
参考例2の方法で得られたポリフェニレンスルフィドとラジオライトの混合物1にクロロホルム、水を添加したスラリーの固液分離に用いる濾布をTR132AK(中尾フィルター工業株式会社製)にしたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。この時の単位面積あたりの濾過速度は0.06g/(cm・min)であった。その結果、固形物2.1gを得た。このようにして得られた固形物をクロロホルムでポリフェニレンスルフィドオリゴマを抽出したところ、固形物0.8gを得た。
【0060】
[比較例1]
参考例2の方法で得られたポリフェニレンスルフィドとラジオライトの混合物1への水の添加量を0gにしたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。この時の単位面積あたりの濾過速度は0.00g/(cm・min)となりほとんど濾過ができなかった。
【0061】
[比較例2]
参考例2の方法で得られたポリフェニレンスルフィドとラジオライトの混合物1へのクロロホルムの添加量を2.0gにしたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。この時の単位面積あたりの濾過速度は0.06g/(cm・min)であった。その結果、固形物0.1gを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリアリーレンスルフィドオリゴマと濾過助剤を含む混合物からポリアリーレンスルフィドオリゴマを分離する際に、
(a)ポリアリーレンスルフィドオリゴマが可溶、もしくは易溶な溶媒
(b)ポリアリーレンスルフィドオリゴマが不溶、もしくは難溶な溶媒で、なおかつ親水性の溶媒
を加えて固液分離するポリアリーレンスルフィドオリゴマの分離方法。
【請求項2】
ポリアリーレンスルフィドオリゴマが環式ポリアリーレンスルフィドを含む請求項1記載のポリアリーレンスルフィドオリゴマの分離方法。
【請求項3】
濾過助剤がラジオライトである請求項1または2記載のポリアリーレンスルフィドオリゴマの分離方法。
【請求項4】
混合物中のポリアリーレンスルフィドオリゴマに対して(a)を10重量倍以上500重量倍以下加えることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のポリアリーレンスルフィドオリゴマの分離方法。
【請求項5】
(b)/(a)の重量比が0.01以上10以下であることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載のポリアリーレンスルフィドオリゴマの分離方法。
【請求項6】
固液分離で用いる濾布の通気度が0.3cm/(cm・sec)以下であることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載のポリアリーレンスルフィドオリゴマの分離方法。

【公開番号】特開2011−132323(P2011−132323A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291932(P2009−291932)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】