説明

ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物及びその用途

【課題】各種性能、特に耐加水分解性能及び分散性能に著しく優れ、分散剤やセメント混和剤等の各種用途に有用な成分を与え得るポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物、それを用いた重合体、分散剤及びセメント混和剤や、該化合物を簡便かつ効率的に、しかも低コストで製造することができる製造方法を提供する。
【解決手段】ポリアルキレングリコール鎖を有するチオール化合物であって、ポリアルキレングリコール鎖が活性水素を3個以上有する化合物の残基に結合し、かつ該鎖の他末端の少なくとも1つが、カルボニル基を有する基を介してメルカプト基に結合した構造を有し、該鎖のカルボニル基を有する基側の末端の少なくとも一単位が、炭素数3以上のオキシアルキレン基であるか、又は、該カルボニル基を有する基が、カルボニル基と上記カルボニル基に結合する第三級以上の炭素原子とを有する化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物及びその用途に関する。より詳しくは、メルカプト基が持つ特異な反応性を利用して様々な用途に適用可能なポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物及びその製造方法、それを用いて得られる重合体、分散剤、セメント混和剤並びにセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
メルカプト基(チオール基、SH基)は特異な反応性を有し、有機合成上有用な官能基である。そのため、分子中に少なくとも1個以上のメルカプト基を有するチオール化合物は、メルカプト基が持つ特異な反応性を利用して種々様々な用途に使用されている。例えば、従来、ソフトセグメントとして接着剤やシーリング剤用途、各種重合体への柔軟性付与成分用途等に有用であった(ポリ)アルキレングリコール等のポリエーテル化合物の適用分野を拡大するものとして、ポリエーテル化合物にメルカプト基を導入して得られる高分子量のチオール化合物が注目されている。
【0003】
ところで、(ポリ)アルキレングリコール等のポリエーテル化合物の適用分野として、近年では、セメント組成物、すなわち例えば、セメントに水を添加したセメントペースト、セメントペーストに細骨材である砂を混合したモルタル、モルタルに粗骨材である小石を混合させたコンクリート等に添加されるセメント混和剤用途が検討されている。このようなセメント混和剤は、通常、減水剤等として用いられ、セメント組成物の流動性を高めてセメント組成物を減水させることにより、硬化物の強度や耐久性等を向上させる作用を発揮させることを目的として使用されている。
【0004】
従来のセメント混和剤としては、ナフタレン系やポリカルボン酸系等のセメント混和剤が知られており、例えば、不飽和カルボン酸系単量体と不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体とを共重合させて得られるセメント混和剤用共重合体が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。このセメント混和剤用共重合体においては、不飽和カルボン酸系単量体に由来するカルボキシル基がセメント粒子に吸着する吸着基となり、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体に由来するポリアルキレングリコール鎖がセメント粒子を分散させる分散基として作用し、このポリアルキレングリコール鎖の立体反発によって、ある程度高い分散性能を発揮するセメント混和剤を与えることが可能となっている。しかしながら、セメント混和剤の使用量をより低減するために、更に高い分散性能を発揮することができるセメント混和剤の開発が求められていた。
【0005】
また従来のポリエーテル化合物にメルカプト基を導入してなるチオール化合物としては、例えば、両末端又は片末端に二重結合を有するポリエーテルにチオカルボン酸を付加させた後、生成するチオエステル基を分解して得られる両末端又は片末端にメルカプト基を有するポリエーテル(例えば、特許文献2参照。)や、洗剤ビルダーに用いる生分解性水溶性重合体として、メルカプト基を有する化合物をポリエーテル化合物にエステル反応で導入した変性ポリエーテル化合物に対し、モノエチレン性不飽和単量体成分をブロック又はグラフト重合させて得られる重合体(例えば、特許文献3参照。)が開示されている。また、メルカプト基から水素が容易に引き抜かれてラジカルが生成し重合開始点となる性質を生かして、チオール化合物を高分子連鎖移動剤として使用して得られるポリアルキレングリコール鎖を有する重合体が、セメント混和剤等に好適に用いられることが開示されている(例えば、特許文献4参照。)。更に、アルドリッチ社より、Poly(ethylene oxide),4-arm,thiol terminated(製品番号565725、非特許文献1参照。)や、ポリエチレングリコール鎖を含まない多価チオールとして、Pentaerythritol tetrakis(3-mercaptopropionate) Pentaerythritol tetrakis(3-mercaptopropionate(製品番号381462、非特許文献2参照。)が販売されている。
【0006】
しかしながら、従来のポリエーテル化合物やそれにメルカプト基を導入してなるチオール化合物においては、昨今要望される高度の分散性(減水性)を更に充分に発揮できるようにし、より多くの分野に有用な化合物とするための工夫の余地があった。また、このような極めて高度のセメント分散性を有する化合物を、より簡便かつ効率的に、しかも低コストで製造するための改善の余地もあった。
【特許文献1】特開2001−220417号公報
【特許文献2】特公平7−13141号公報
【特許文献3】特開平7−109487号公報
【特許文献4】特開2007−119736号公報
【非特許文献1】「アルドリッチ アドバンシング サイエンス(Aldrich advancing Science) 2007−2008 日本」、シグマアルドリッチジャパン株式会社、第2032頁、左上欄
【非特許文献2】“ペンタエリスリトール テトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(Pentaerythritol tetrakis(3-mercaptopropionate) )”、〔online〕、2007年、シグマアルドリッチジャパン株式会社、〔平成20年9月5日検索〕、インターネット<URL:http://www.sigmaaldrich.com/catalog/search/ProductDetail/ALDRICH/381462>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、各種性能、特に耐加水分解性能及び分散性能に著しく優れ、分散剤やセメント混和剤等の各種用途に有用な成分を与え得るポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物、それを用いた重合体、分散剤及びセメント混和剤や、該ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を簡便かつ効率的に、しかも低コストで製造することができる製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、チオール化合物について種々検討したところ、ポリアルキレングリコール鎖とメルカプト基とを有する化合物がセメント組成物等に対して減水性能を発揮できることに着目し、ポリアルキレングリコール鎖が活性水素を3個以上有する化合物の残基に結合し、かつその鎖の他末端の少なくとも1つが、カルボニル基を有する基を介してメルカプト基に結合した構造を有する化合物とすると、極めて優れた分散性能を発現できる重合体を与えることができることを見いだした。そして、このような化合物において、(i)(ポリ)アルキレングリコール鎖のカルボニル基を有する基側の末端の少なくとも一単位を、炭素数3以上のオキシアルキレン基とするか、又は、(ii)カルボニル基を有する基を、カルボニル基と該カルボニル基に結合する第三級以上の炭素原子とを有するものとすると、該化合物に極めて優れた耐加水分解性が付与され、該化合物の構造に由来する作用効果を種々の用途において充分に発現できることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。また、このようなポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を得る方法として、活性水素を3個以上有する化合物にアルキレンオキシドを付加してなる化合物と、カルボキシル基を有するチオール化合物とを脱水縮合させる工程を含む製造方法を採用すると、複雑な製造工程を必要とすることなく、簡便かつ効率的に、しかも低コストで製造することができることを見いだし、工業的に有用な手法であることを見いだした。
【0009】
更にこのようなポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を用いて得られる重合体が、該化合物の特定構造に由来して耐加水分解性を発揮し、長期にわたって安定して高い分散性能を発揮することができることを見いだした。中でも、特にセメント分散性能に優れることを見いだし、このような重合体をセメント混和剤として使用すれば、セメント組成物を調製する際にその配合量を著しく低減することができるため、コンクリートを取り扱う土木・建設分野等で極めて有用なものとなることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち本発明は、ポリアルキレングリコール鎖を有するチオール化合物であって、上記チオール化合物は、ポリアルキレングリコール鎖が活性水素を3個以上有する化合物の残基に結合し、かつ上記ポリアルキレングリコール鎖の他末端の少なくとも1つが、カルボニル基を有する基を介してメルカプト基に結合した構造を有し、上記ポリアルキレングリコール鎖の、カルボニル基を有する基側の末端の少なくとも一単位が、炭素数3以上のオキシアルキレン基であるか、又は、上記カルボニル基を有する基が、カルボニル基と該カルボニル基に結合する第三級以上の炭素原子とを有するものであるポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物である。
【0011】
本発明はまた、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を用いて得られるポリアルキレングリコール鎖含有チオール系重合体でもある。
本発明は更に、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール系重合体を含む分散剤又はセメント混和剤でもある。
本発明はそして、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール系重合体を含むセメント組成物でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0012】
<ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物>
本発明のポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物は、ポリアルキレングリコール鎖が活性水素を3個以上有する化合物の残基に結合し、かつ該ポリアルキレングリコール鎖の他末端の少なくとも1つが、カルボニル基を有する基を介してメルカプト基(チオール基、SH基)に結合した構造を有するものである。
このような構造において、活性水素を有する化合物の残基とは、活性水素を有する化合物から活性水素を除いた構造を有する基を意味し、該活性水素とは、アルキレンオキシドが付加できる水素を意味する。このような活性水素を3個以上有する化合物の残基は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0013】
上記活性水素を有する化合物の活性水素数は、工業的な製造効率の観点から3個以上であることが適当であり、また、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を用いて重合を行う際の重合性の観点から、50個以下であることが好適である。上記活性水素数の下限値としては、好ましくは4個であり、より好ましくは5個であり、また、上限値としては、より好ましくは20個であり、更に好ましくは10個である。
【0014】
上記活性水素を3個以上有する化合物の残基としては、具体的には、例えば、多価アルコールの水酸基から活性水素を除いた構造を有する多価アルコール残基、多価アミンのアミノ基から活性水素を除いた構造を有する多価アミン残基、多価イミンのイミノ基から活性水素を除いた構造を有する多価イミン残基、多価アミド化合物のアミド基から活性水素を除いた構造を有する多価アミド残基等が好適である。中でも、多価アミン残基、ポリアルキレンイミン残基及び多価アルコール残基が好ましい。すなわち、上記活性水素を3個以上有する化合物の残基は、多価アミン残基、ポリアルキレンイミン残基及び多価アルコール残基からなる群より選択される少なくとも1種の多価化合物残基であることが好適である。これによって、セメント混和剤等の各種用途に好適な化合物とすることが可能となる。
なお、活性水素を有する化合物残基の形態としては、鎖状、分岐状、三次元状に架橋された構造のいずれであってもよい。
【0015】
上記活性水素を有する化合物の残基の好ましい形態において、多価アミン(ポリアミン)としては、1分子中に平均3個以上のアミノ基を有する化合物であればよく、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、2−エチルブチルアミン、オクチルアミン、ジメチルアミン、ジプロピルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、シクロブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ラウリルアミン等のアルキルアミン;アリルアミン等のアルキレンアミン;アニリン、ジフェニルアミン等の芳香族アミン;アンモニア、尿素、チオ尿素等の窒素化合物等のモノアミン化合物の1種又は2種以上を常法により重合して得られる単独重合体や共重合体等が好適である。このような化合物により、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の多価アミン残基が形成されることになる。更に、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミン、テトラプロピレンペンタミン等であってもよく、これらのポリアミンでは、通常、構造中に第3級アミノ基の他、活性水素原子をもつ第1級アミノ基や第2級アミノ基(イミノ基)を有することになる。
これらの中でも、ポリアルキルアミンを用いることが好ましく、ポリアルキルアミンを構成するアルキルアミンとしては、ラウリルアミン等の炭素数8〜18のアルキルアミンが好適である。
【0016】
また上記ポリアルキレンイミンとしては、1分子中に平均3個以上のイミノ基を有する化合物であればよく、例えば、エチレンイミン、プロピレンイミン、1,2−ブチレンイミン、2,3−ブチレンイミン、1,1−ジメチルエチレンイミン等の炭素数2〜8のアルキレンイミンの1種又は2種以上を常法により重合して得られる単独重合体や共重合体等が好適である。このような化合物により、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物のポリアルキレンイミン残基が形成されることになる。なお、ポリアルキレンイミンは重合により三次元に架橋され、通常、構造中に第3級アミノ基の他、活性水素原子を持つ第1級アミノ基や第2級アミノ基(イミノ基)を有することになる。
これらの中でも、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物が奏する性能の観点から、エチレンイミンが主体を占めるポリアルキレンイミンであることがより好適である。
【0017】
この場合の「主体」とは、ポリアルキレンイミンが2種以上のアルキレンイミンにより形成されるときに、全アルキレンイミンの存在数において、大半を占めるものであることを意味する。本発明においては、ポリアルキレンイミン鎖を形成するアルキレンイミンにおいて、大半を占めるものがエチレンイミンであることにより、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の親水性が向上し、多くの用途に好適なものとなるという作用効果が充分に発揮されることから、上記作用効果が充分に発揮される程度に、ポリアルキレンイミン鎖(ポリアルキレンイミン残基)を形成するアルキレンイミンとしてエチレンイミンを用いることをもって、上記にいう「大半を占める」こととなる。「大半を占める」ことを全アルキレンイミン100モル%中のエチレンイミンのモル%で表すと、50〜100モル%であることが好ましい。50モル%未満であると、ポリアルキレンイミン鎖の親水性が充分とはならないおそれがある。より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは70モル%以上、特に好ましくは80モル%以上、最も好ましくは90モル%以上である。
【0018】
上記ポリアルキレンイミン鎖1つあたりのアルキレンイミンの平均重合数としては、2以上であることが好ましく、また、300以下であることが好ましい。このような範囲とすることによって、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の構造に起因した作用効果をより充分に発揮することが可能となり、例えば、セメント分散性能を発揮してセメント混和剤等の用途に好適なものとすることができる。下限値としては、より好ましくは3であり、更に好ましくは5であり、特に好ましくは10である。また、上限値としては、より好ましくは200であり、更に好ましくは100であり、特に好ましくは50であり、最も好ましくは25である。なお、ジエチレントリアミンの平均重合数は2、トリエチレンテトラミンの平均重合数は3となる。
【0019】
上記多価アミン及びポリアルキレンイミンの数平均分子量としては、100〜50000が好ましく、より好ましくは300〜10000、更に好ましくは600〜5000であり、特に好ましくは800〜1000である。
【0020】
上記多価アルコールとしては、1分子中に平均3個以上の水酸基を含有する化合物であればよいが、炭素、水素及び酸素の3つの元素から構成される化合物であることが好適である。具体的には、例えば、ポリグリシドール、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−ペンタトリオール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等が好適である。また、糖類として、グルコース、フルクトース、マンノース、インド−ス、ソルボース、グロース、タロース、タガトース、ガラクトース、アロース、プシコース、アルトロース等のヘキソース類の糖類;アラビノース、リブロース、リボース、キシロース、キシルロース、リキソース等のペントース類の糖類;トレオース、エリトルロース、エリトロース等のテトロース類の糖類;ラムノース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュウクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、メレジトース等のその他糖類;これらの糖アルコール、糖酸(糖類;グルコース、糖アルコール;グルシット、糖酸;グルコン酸)等も好適である。更に、これら例示化合物の部分エーテル化物や部分エステル化物等の誘導体も好適である。このような化合物により、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の多価アルコール残基が形成されることになる。
これらの中でも、工業的な生産効率の観点から、より好ましくは、トリメチロールプロパンやソルビトールである。
【0021】
上記活性水素を3個以上有する化合物の残基としてはまた、2以上の、カルボニル基を有する基を介してメルカプト基に結合したポリアルキレングリコール鎖に結合することが好適である。すなわち、上記活性水素を3個以上有する化合物が結合する上記ポリアルキレングリコール鎖の数は、2以上が好ましく、より好ましくは3以上である。3以上であると、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物は、放射線状に枝分かれした構造、つまり、活性水素を3個以上有する化合物の残基を基点として、そこから上記ポリアルキレングリコール鎖が放射線状に伸びた構造となるが、このような構造を有することによって、極めて高い分散性能を発揮し得るセメント混和剤を与えることが可能となる。
なお、以下では、上記ポリアルキレングリコール鎖(すなわち、上記活性水素を3個以上有する化合物の残基と、上記カルボニル基を有する基とに結合するポリアルキレングリコール鎖)を、「ポリアルキレングリコール鎖(1)」ともいう。
【0022】
上記活性水素を3個以上有する化合物が結合するポリアルキレングリコール鎖(1)の数(存在数)としては、上記活性水素を3個以上有する化合物中の活性水素数に等しいことが好ましい。すなわち、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物が、上記活性水素を3個以上有する化合物中の活性水素原子全てにポリアルキレングリコール鎖が結合した構造を有することが好適である。これによって、更に優れた分散性能を発揮し得るセメント混和剤を与えることが可能となるため、様々な用途に適用可能な化合物とすることができる。
【0023】
ここで、上記活性水素を3個以上有する化合物が結合する上記ポリアルキレングリコール鎖の数が、上記活性水素を3個以上有する化合物中の活性水素数に等しい場合の構造を模式的に示すと、以下のように表すことができる。
下記式(A)は、活性水素を3個以上有する化合物の残基がグリセリン残基(多価アルコール残基)であり、グリセリンが有する活性水素全てに、ポリアルキレングリコール鎖及びカルボニル基を有する基を介してメルカプト基が結合した構造を模式的に示したものである。
また下記式(B)は、活性水素を3個以上有する化合物の残基がソルビトール残基(多価アルコール残基)であり、ソルビトールが有する活性水素全てに、ポリアルキレングリコール鎖及びカルボニル基を有する基を介してメルカプト基が結合した構造を模式的に示したものである。
【0024】
【化1】

【0025】
上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物においては、上記活性水素を3個以上有する化合物の残基に、ポリアルキレングリコール鎖(1)が結合することになる。
上記ポリアルキレングリコール鎖(1)としては、炭素数2以上のアルキレンオキシドから構成されるもの(ポリアルキレンオキシド)であればよく、該アルキレンオキシドとしては、炭素数2〜18のアルキレンオキシドが好適である。より好ましくは、炭素数2〜8のアルキレンオキシドであり、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、トリメチルエチレンオキシド、テトラメチレンオキシド、テトラメチルエチレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、オクチレンオキシド等が挙げられる。また、ジペンタンエチレンオキシド、ジヘキサンエチレンオキシド等の脂肪族エポキシド;トリメチレンオキシド、テトラメチレンオキシド、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、オクチレンオキシド等の脂環エポキシド;スチレンオキシド、1,1−ジフェニルエチレンオキシド等の芳香族エポキシド等を用いることもできる。
【0026】
上記ポリアルキレングリコール鎖(1)を構成するアルキレンオキシドとしては、本発明のポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物に求められる用途等に応じて適宜選択することが好ましく、例えば、セメント混和剤成分の製造のために用いる場合には、セメント粒子との親和性の観点から、炭素数2〜8程度の比較的短鎖のアルキレンオキシド(オキシアルキレン基)が主体であることが好適である。より好ましくは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の炭素数2〜4のアルキレンオキシドが主体であることであり、更に好ましくは、エチレンオキシドが主体であることである。
【0027】
ここでいう「主体」とは、ポリアルキレングリコール鎖(1)が2種以上のアルキレンオキシドにより構成されるときに、全アルキレンオキシドの存在数において、大半を占めるものであることを意味する。「大半を占める」ことを全アルキレンオキシド100モル%中のエチレンオキシドのモル%で表すとき、50〜100モル%が好ましい。これにより、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物がより高い親水性を有することとなる。より好ましくは60モル%以上であり、更に好ましくは70モル%以上、特に好ましくは80モル%以上、最も好ましくは90モル%以上である。
【0028】
上記ポリアルキレングリコール鎖(1)が2種以上のアルキレンオキシドにより構成される場合は、2種以上のアルキレンオキシドがランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの形態で付加したものであってもよく、また、上記ポリアルキレングリコール鎖(1)が、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物1分子中に複数存在する場合には、これらは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0029】
上記ポリアルキレングリコール鎖(1)においては、例えばセメント混和剤に配合してセメント組成物を製造した場合に、その粘性やこわばり感を低減できる等の観点から、該鎖中に炭素数3以上のオキシアルキレン基を導入することが好適である。これにより、上記ポリアルキレングリコール鎖(1)にある程度の疎水性が付与され、セメント粒子に若干の構造(ネットワーク)をもたらすことが可能となる。
【0030】
この場合、上記炭素数3以上のオキシアルキレン基の含有割合は、ポリアルキレングリコール鎖(1)を構成する全オキシアルキレン基(アルキレングリコール単位)100モル%に対し、1モル%以上であることが好ましく、より好ましくは3モル%以上、更に好ましくは5モル%以上、特に好ましくは7モル%以上である。また、炭素数3以上のオキシアルキレン基を導入しすぎると、得られる単量体やそれを用いてなる重合体の疎水性が高くなりすぎ、例えば、セメント粒子の分散性能をより充分に高めることができないおそれがあるため、50モル%以下であることが好ましく、より好ましくは30モル%以下、更に好ましくは20モル%以下、特に好ましくは10モル%以下である。
【0031】
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基としては、導入の容易さ、セメント粒子との親和性等の観点から、炭素数3〜18のオキシアルキレン基が好適である。中でも、炭素数3〜8のオキシアルキレン基が好ましく、より好ましくは、炭素数3のオキシプロピレン基や炭素数4のオキシブチレン基等である。
また上記炭素数3以上のオキシアルキレン基は、ブロック状に導入されていてもよく、ランダム状に導入されていてもよいが、(炭素数2以上のオキシアルキレン基からなる(ポリ)アルキレングリコール鎖)−(炭素数3以上のオキシアルキレン基からなる(ポリ)アルキレングリコール鎖)−(炭素数2以上のオキシアルキレン基からなる(ポリ)アルキレングリコール鎖)のようにブロック状に導入されることが好ましい。これにより、より高い分散性を発揮することが可能になる。
【0032】
上記ポリアルキレングリコール鎖(1)におけるアルキレンオキシドの平均繰り返し数(オキシアルキレン基の平均付加モル数)としては、5〜1000であることが好適である。5以上の数とすることにより、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物にポリアルキレングリコール鎖(1)に基づく性能を充分に発揮させることが可能となり、また、nが1000を超える場合には、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を製造するために使用する原料化合物の粘性が増大したり、反応性が充分とはならない等、作業性の点で好適なものとはならないおそれがある。上記平均繰り返し数の下限値としては、より好ましくは10、更に好ましくは25であり、特に好ましくは50であり、上限値としては、より好ましくは500であり、更に好ましくは200であり、特に好ましくは100である。
なお、上記アルキレンオキシドの平均繰り返し数(オキシアルキレン基の平均付加モル数)とは、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物が有するポリアルキレングリコール鎖(1)1モル中において付加しているアルキレンオキシドのモル数の平均値を意味する。
【0033】
上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物においては、上記ポリアルキレングリコール鎖(1)にカルボニル基を有する基が結合することになるが、カルボニル基を有する基とは、狭義のカルボニル基(−C(O)−)を有する基のみならず、アミド基(−N(H)−C(O)−)を有する基等も含むものとする。
なお、ポリアルキレングリコール鎖(1)の末端酸素原子と、カルボニル基を有する基中のカルボニル基とにより、エステル結合(−COO−)が形成されることになる。
【0034】
上記カルボニル基を有する基としては、分子量が1000以下の有機残基とカルボニル基(狭義のカルボニル基及びアミド基を含む)とから構成される基であることが好適である。有機残基の分子量が1000を超えると、製造が困難になり、安定的にメルカプト基とポリアルキレングリコール鎖(1)とを結合することができないおそれがある。より好ましくは300以下であり、更に好ましくは200以下である。
上記有機残基とは、基や化合物を構成する基本構造に結合している有機基を意味し、例えば、炭素数1〜18の直鎖状、分岐状又は環状のアルキレン基や、炭素数6〜11の芳香族基(フェニル基、アルキルフェニル基、ピリジニル基、チオフェン、ピロール、フラン、チアゾール等)等が挙げられる。中でも、反応性の観点からは、炭素数1〜8の炭化水素基を含む基であることが好ましく、より好ましくは、炭素数1〜6の炭化水素基を含む基であり、更に好ましくは、炭素数1〜6の炭化水素基であり、特に好ましくは、炭素数1〜6の分岐アルキレン基又は炭素数6の芳香族基である。また耐加水分解性の観点からは、炭素数2以上であることが好ましい。最も好ましくは、炭素数2〜6の分岐アルキレン基又は炭素数6の芳香族基であり、例えば、メルカプトイソブチル酸又はチオサリチル酸由来の2価の有機残基である。
なお、上記有機残基は、水酸基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、カルボキシル基、ハロゲン基、スルホニル基、ニトロ基、ホルミル基等で一部置換されていてもよい。
【0035】
本発明のポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物はまた、(i)上記ポリアルキレングリコール鎖(1)のカルボニル基を有する基側の末端の少なくとも一単位が、炭素数3以上のオキシアルキレン基である形態か、又は、(ii)上記カルボニル基を有する基が、カルボニル基と該カルボニル基に結合する第三級以上の炭素原子とを有する形態、の(i)又は(ii)のいずれか1以上の形態であることが適当である。
【0036】
上記(i)の形態とは、上記ポリアルキレングリコール鎖(1)のカルボニル基を有する基側の末端基の少なくとも一つのアルキレングリコール単位が、炭素数3以上のオキシアルキレン基である形態である。上記炭素数3以上のオキシアルキレン基としては、例えば、炭素数3〜18のオキシアルキレン基であることが好ましく、中でも、炭素数3〜8のオキシアルキレン基がより好ましく、例えば、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシスチレン基、アルキルグリシジルエーテル残基等が好適である。更に好ましくは、製造の容易さからオキシプロピレン基、オキシブチレン基である。
【0037】
上記ポリアルキレングリコール鎖(1)の末端に位置する炭素数3以上のオキシアルキレン基はまた、第二級アルコール残基に由来するものが好ましい。中でも、当該第二級アルコール残基に由来する第三級以上の炭素原子と、エステル結合を構成する酸素原子(すなわち、上記カルボニル基を有する基中のカルボニル基と結合するポリアルキレングリコール鎖(1)中の末端酸素原子)とが結合した形態であることが好適である。これによって、更に優れた耐加水分解性が付与されることになる。
なお、上記エステル結合とは、ポリアルキレングリコール鎖(1)の末端酸素原子(−O−)と、カルボニル基を有する基中のカルボニル基(−CO−)とから構成されるエステル結合を意味する。
【0038】
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基の導入量としては、求められる耐加水分解性の程度によるが、上記ポリアルキレングリコール鎖(1)の両末端の存在数を100モル%とすると、50モル%以上であることが好ましい。より好ましくは100モル%以上であり、更に好ましくは150モル%以上であり、特に好ましくは200モル%以上である。
【0039】
上記(ii)の形態においては、上記カルボニル基を有する基が、カルボニル基と該カルボニル基に結合する第三級以上の炭素原子とを有することになる。すなわち、上記エステル結合(ポリアルキレングリコール鎖(1)の末端酸素原子とカルボニル基を有する基中のカルボニル基とから構成されるエステル結合)を構成する炭素原子が、第三級以上の炭素原子と結合した形態であることが好ましい。
この場合、上記カルボニル基を有する基としては、炭素数2〜6の分岐アルキレン基又は炭素数6の芳香族基に、カルボニル基(又はアミド基)が結合してなる基であることが好ましい。より好ましくは、上記カルボニル基を有する基が、例えば、メルカプトイソブチル酸又はチオサリチル酸由来の基(2価の有機残基及びカルボニル基を有する基)であることである。
【0040】
本発明のポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の特に好ましい形態は、上記(i)及び(ii)の形態の中でも、上記エステル結合(すなわち、ポリアルキレングリコール鎖(1)の末端酸素原子とカルボニル基を有する基中のカルボニル基とから構成されるエステル結合)を構成する炭素原子及び/又は酸素原子が、第三級以上の炭素原子に結合してなる形態である。このような形態に特定することによって、耐加水分解性が更に向上され、本発明のチオール変性単量体に由来する種々の作用効果が更に発揮されることになる。
【0041】
上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物のより好適な形態は、下記一般式(1);
【0042】
【化2】

【0043】
(式中、Xは、活性水素を3個以上有する化合物の残基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。Yは、カルボニル基を有する基を表す。なお、AOで表されるオキシアルキレン基の末端酸素原子と、Yで表される基中のカルボニル基とにより、エステル結合(−COO−)が形成されることになる。nは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、5〜1000の数である。mは、1〜50の整数である。)で表される構造を有する形態である。
【0044】
上記一般式(1)において、Xで表される活性水素を3個以上有する化合物の残基、AOで表される炭素数2〜18のオキシアルキレン基、Yで表されるカルボニル基を有する有機残基、及び、nで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数については、上述したとおりである。またmは、上記Xで表される活性水素を3個以上有する化合物が結合する、カルボニル基を有する基を介してメルカプト基に結合したポリアルキレングリコール鎖(1)の数を表し、これについても上述したとおりである。
【0045】
上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物はまた、メルカプト基に結合しないポリアルキレングリコール鎖を有していてもよい。
このようなポリアルキレングリコール鎖の末端(活性水素を3個以上有する化合物の残基とは反対側の末端)は、例えば、水素原子、1価金属原子、2価金属原子、アンモニウム基、有機アミン基、炭素数1〜30の炭化水素基、オキソ炭化水素基、アミド炭化水素基、カルボキシル炭化水素基、炭素数0〜30のスルホニル(炭化水素)基等のいずれかに結合した構造を有することが好適であり、1分子内に2つ以上の当該ポリアルキレングリコール鎖を有する場合には、その末端構造が同一であってもよく異なっていてもよい。このような末端構造の中でも、汎用性の点から、水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基、より好ましくは、水素原子又は炭素数1〜10の炭素水素基に結合した構造であり、炭素数1〜10の炭化水素基の中でもアルキル基やアルキレン基が好適である。
すなわち、例えば上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物が上記一般式(1)で表される化合物である場合、該化合物は、下記一般式(2);
【0046】
【化3】

【0047】
(式中、X、AO、Y、n及びmは、上記一般式(1)と同様であり、n’は、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数であり、好ましい形態は、上記nと同様の形態が挙げられる。なお、nとn’とは同一であってもよいし異なっていてもよい。Qは、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基若しくはアルキレン基を表す。pは、0以上の整数であって、Xで表される活性水素を3個以上有する化合物の活性水素数及びmの数に依存して最大数が決まる数である。)で表される化合物であってもよい。
上記pは、Xで表される活性水素を3個以上有する化合物の活性水素数及びmの数に依存して最大数が決まる数であるが、カルボニル基を有する基を介してメルカプト基に結合するポリアルキレングリコール鎖に起因した効果を充分に発揮させるため、活性水素を3個以上有する化合物が結合する該ポリアルキレングリコール鎖の数が3以上となるように、pが、〔(活性水素を3個以上有する化合物の全活性水素数)−3〕以下の数であることが好適である。
【0048】
<ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の製造方法>
本発明はまた、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を製造する方法であって、上記製造方法は、活性水素を3個以上有する化合物にアルキレンオキシドを付加してなる化合物と、カルボキシル基を有するチオール化合物とを脱水縮合させる工程を含むポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の製造方法でもある。
【0049】
上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の製造方法において、上記活性水素を3個以上有する化合物としては、上述したように、多価アルコール、多価アミン、多価イミン、多価アミド化合物等が好ましく、中でも、多価アミン、ポリアルキレンイミン及び多価アルコールが好適である。これらについては、上述したとおりである。
上記アルキレンオキシドもまた、上述したとおりである。
また上記活性水素を3個以上有する化合物と、アルキレンオキシドとの反応モル比としては、上述したポリアルキレングリコール鎖におけるアルキレンオキシドの平均繰り返し数の好適範囲になるよう、適宜設定することが好ましい。
【0050】
上記活性水素を3個以上有する化合物にアルキレンオキシドを付加させる方法としては、通常の方法で重合することにより行うことができ、酸触媒又はアルカリ触媒を用いる方法が好適である。酸触媒としては、三フッ化ホウ素等のルイス酸触媒である金属及び半金属のハロゲン化合物;塩化水素、臭化水素、硫酸等の鉱酸;パラトルエンスルホン酸等が好適であり、アルカリ触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水素化ナトリウムが好適である。
上記付加反応工程の反応時間は、用いる触媒の種類や量、上記アルキレンオキシドの活性水素を3個以上有する化合物への付加モル数、溶液濃度等に応じて適宜設定すればよい。
なお、上記活性水素を3個以上有する化合物にアルキレンオキシドを付加してなる化合物(以下、単に「付加物」ともいう。)として、市販の化合物を用いることもできる。
【0051】
上記製造方法においては、このようにして得られる活性水素を3個以上有する化合物にアルキレンオキシドを付加してなる化合物と、カルボキシル基を有するチオール化合物(以下、「チオール基含有化合物」ともいう。)とを脱水縮合させることになる。
上記脱水縮合工程において、カルボキシル基を有するチオール化合物(チオール基含有化合物)とは、1分子中にカルボキシル基(カルボン酸基)とメルカプト基とを有するメルカプトカルボン酸基含有化合物であればよい。
このようなメルカプトカルボン酸基含有化合物としては、例えば、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、メルカプトイソブチル酸、チオリンゴ酸、チオサリチル酸、メルカプトステアリン酸、メルカプト酢酸、メルカプト酪酸、メルカプトオクタン酸、メルカプト安息香酸、メルカプトニコチン酸、システイン、N−アセチルシステイン、メルカプトチアゾール酢酸等が挙げられる。中でも、チオグリコール酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、メルカプトイソブチル酸、チオサリチル酸が好適である。
【0052】
ここで、本発明のポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物が上記(i)を満たすものである場合には、例えば、上述した当該化合物の製造方法に用いるアルキレンオキシドとして、炭素数3以上のアルキレンオキシドを付加してなる化合物を用いることにより製造することができる。
なお、活性水素を3個以上有する化合物にアルキレンオキシドを付加反応させる際には、炭素数3以上のオキシアルキレン基(より好ましくは第二級アルコール残基)の導入率を高めるために、触媒としてアルカリ金属、アルカリ土類金属及びそれらの酸化物又は水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を用いることが好ましい。より好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムであり、最も好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。
また付加反応の際の反応温度は、これらの基の導入率を高めるために50〜200℃であることが好ましい。より好ましくは70〜170℃、更に好ましくは90〜150℃、特に好ましくは100〜130℃である。
【0053】
また上述したように、上記(i)の形態のポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の特に好ましい形態は、ポリアルキレングリコール鎖(1)の末端の少なくとも一単位が、第二級アルコール残基に由来する炭素数3以上のオキシアルキレン基であり、かつ該第二級アルコール残基に由来する第三級以上の炭素原子と、エステル結合(ポリアルキレングリコール鎖(1)の末端酸素原子と、カルボニル基を有する基中のカルボニル基とから構成されるエステル結合)を構成する酸素原子(ポリアルキレングリコール鎖(1)中の末端酸素原子)とが、結合してなる形態である。このようなポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物は、上記付加反応において、炭素数3以上のアルキレンオキシドとして第二級アルコール残基に由来するものを使用し、触媒として、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物を用いて、低温で反応させることにより、優先的に製造することができる。用いる触媒としては、より好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムであり、最も好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。また、反応温度は50〜200℃であることが好ましい。より好ましくは70〜170℃、更に好ましくは90〜150℃、特に好ましくは100〜130℃である。
【0054】
また上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物が上記(ii)を満たすものである場合には、上述した本発明のポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の製造方法において、チオール基含有化合物として、カルボキシル基側に第三級以上の炭素原子を有するメルカプトカルボン酸を用いることにより製造することができる。このようなメルカプトカルボン酸としては、例えば、メルカプトイソブチル酸、チオサリチル酸が好適である。
【0055】
上記付加物とチオール基含有化合物との脱水縮合工程では、上記付加物が有する水酸基と、上記チオール基含有化合物が有するカルボキシル基との間で脱水縮合反応が行われることが好適であるが、このような反応は、通常の液相におけるエステル反応の常法を用いて行うことができる。また、減圧したり、キシレン等のエントレーナーを用いて行ってもよい。
なお、上記チオール基含有化合物が有するメルカプト基の性質上、上記脱水縮合工程は、酸触媒下で行うことが好適である。酸触媒としては、上述したとおりである。
このように上記付加物とチオール基含有化合物との脱水縮合工程は、酸触媒を用いたエステル化反応工程であることが好適である。
【0056】
上記付加物とチオール基含有化合物との混合比としては、望まれるポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の純度やコスト、反応速度、合成法等に応じて適宜設定すればよい。例えば、短時間で純度の高いポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を得たい場合は、上記付加物が有する反応に供される水酸基量に対し、上記チオール基含有化合物が有するカルボキシル基をモル比で大過剰とすることが好適である。具体的には、反応速度の観点から、モル比は、2倍以上とすることが好ましく、より好ましくは3倍以上であり、また、製造コストの観点から、10倍以下とすることが好ましく、より好ましくは5倍以下である。なお、反応後の粗生成物はそのまま用いてもよいが、必要に応じて精製し、未反応物を除去してもよい。
【0057】
上記混合比としてはまた、反応後の粗生成物量を低減させたい場合は、上記付加物が有する反応に供される水酸基量に対し、上記チオール基含有化合物が有するカルボキシル基をモル比で2倍以下とすることが好適である。具体的には、収率の観点から、モル比は、0.3倍以上とすることが好ましく、より好ましくは0.5倍以上、更に好ましくは0.7倍以上、特に好ましくは0.8倍以上であり、また、未反応物の残存量の観点から、1.8倍以下とすることが好ましく、より好ましくは1.6倍以下、更に好ましくは1.4倍以下、特に好ましくは1.3倍以下である。なお、反応後の粗生成物は必要に応じて精製してもよいが、この方法では未反応のチオール基含有化合物が少ないため、これを除去する操作を省略できることが多く、製造工程をより簡略化することができる。
【0058】
上記脱水縮合工程の反応時間は、用いる酸触媒の種類や量、上記付加物とチオール基含有化合物との混合比、溶液濃度等に応じて適宜設定すればよい。
【0059】
上記製造方法においてはまた、脱水縮合工程後の反応溶液のpHを調整する工程を含んでもよく、これにより、生じたエステルが脱溶媒工程によって加水分解されることを防ぐことができる。pHの調整は、上記脱水縮合工程によって得られた反応溶液中に、例えば水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリを投入することによって行うことができる。加水分解反応を抑制するためには、反応溶液のpHとしては、3以上とすることが好ましく、より好ましくは4以上であり、また、7以下とすることが好ましく、より好ましくは6以下であり、更に好ましくは5.5以下である。
【0060】
上記脱水縮合工程により得られた反応粗生成物は、脱水縮合工程を行った後の反応溶液(すなわち、pH未調整の反応溶液)又はpH調整後の反応溶液を室温まで冷却することによって固化することが好適である。これにより、反応溶液から反応粗生成物を容易に取得することができる。得られた反応粗生成物の固化物は、精製してもよいが、この場合には、反応粗生成物の固化物を乾燥・粉砕した後、未反応の原料化合物等の不純物は溶解するもののチオール基含有化合物は溶解しない溶剤、例えばジエチルエーテル等を用いて固化物を洗浄してもよい。
なお、作業工程が増えることによる製造コストの高騰、及び、溶剤の使用による環境への負荷を考慮すると、上記溶剤を用いた洗浄作業は避けることが好ましい。この場合、原料化合物である上記付加物とチオール基含有化合物との混合比は、上述したように上記付加物が有する反応に供される水酸基量に対し、上記チオール基含有化合物が有するカルボキシル基をモル比で2倍以下とすることが好適である。
【0061】
ところで、本発明者らは、上記製造方法により得られた反応粗生成物の固化物を乾燥したり、この乾燥固化物に更にジエチルエーテル等を用いて洗浄したりして反応粗生成物からポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を取得しようとすると、自己多量化して多量化物が発生することを見いだし、多量化物の含有量が、生成物総量100質量%中、30質量%を超える場合もあることを見いだした。そして、更に検討の結果、反応経路は不明であるものの、この多量化の原因が反応粗生成物の固化物を乾燥することにあることを見いだし、乾燥状態にあれば、真空状態にあるか否かを問わず、また、脱水反応や中和反応の有無にも関係なく、多量化が進行することを見いだした。
【0062】
ここで、例えば、ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物又はその溶液の粘度が低いことが求められる場合は、多量化物は少ない方が望まれるが、この場合には、反応粗生成物の固化物を乾燥しないように取り扱うことが好適である。これにより、多量化物の生成を効果的に抑制して、ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物中の多量化物の含有量を、該化合物100質量%に対し、1〜30質量%の範囲内に留めることが可能となる。
【0063】
また逆に、反応粗生成物を単に一定時間乾燥することによって、多量化物量を大幅に高めることができる。多量化物の構造は、2以上のチオール化合物がメルカプト基のジスルフィド化により結合され、ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物残基の繰り返しを持つポリジスルフィド構造を有するものと推測されるが、ジスルフィド結合はメルカプト基同様、種々の方法で容易にラジカルを発生することができることから、この多量化物は連鎖移動剤として使用することができる。また、多量化物は、ラジカル発生により分子量が低下し、最終的にはポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物残基の構造まで分解される。したがって、多量化物を各種ラジカル重合の連鎖移動剤として使用すれば、反応前の多量化物は分子量が高いため粘度が大きく、反応後のポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物残基は分子量が低下するため粘度が小さくなる。このため、反応中の系内の粘度を調整しながら重合反応を進めることができ、ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物とは異なった応用が可能である。
このように、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物が、副生成物として多量化物を含む形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
【0064】
上記多量化物としてはまた、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物から、様々な方法で合成することができる。例えば、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物のメルカプト基を、熱や光、放射線、ラジカル発生剤等を用いてラジカル化させ、硫黄ラジカル経由でジスルフィド化させたり、酸化剤で処理したり、アルカリで処理し、硫黄アニオン経由でジスルフィド化させたりすることにより多量化物を得ることが可能である。
【0065】
ここで、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の多量化物の一例を、活性水素を3個以上有する化合物としてソルビトールを用いた場合を例にして示す。
下記式は、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物が、上述した式(B)(活性水素を3個以上有する化合物がソルビトールであり、ソルビトールが有する活性水素全てに、ポリアルキレングリコール鎖及びカルボニル基を有する基を介してメルカプト基が結合した形態)である場合に、2つのメルカプト基がジスルフィド結合を生成して二量体を生成した形態を模式的に示したものである。
【0066】
【化4】

【0067】
上記製造方法においてはまた、粘度等の観点から多量化物量を抑える必要がある場合は、酸化防止剤を添加する工程を含むことが好適である。これは、多量化の要因の一つとして、上記付加物とチオール化合物との反応を加熱下で行うことによる、上記チオール化合物のメルカプト基からの熱ラジカルの発生が考えられるためであり、ラジカル捕捉能を持つ酸化防止剤を添加することによって、メルカプト基から熱ラジカルが発生することに起因する多量化を効果的に抑制することが可能となる。
【0068】
上記酸化防止剤の添加は、いずれの製造工程でなされてもよく、例えば、脱水縮合工程時や、脱溶媒工程時、精製工程時等のいずれの段階でなされてもよく、各工程の途中でなされてもよい。
上記酸化防止剤としては特に限定されず、通常使用されているものを用いればよいが、例えば、フェノチアジン及びその誘導体;ハイドロキノン、カテコール、レゾルシノール、メトキノン、ブチルハイドロキノン、ブチルカテコール、ナフトハイドロキノン、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、トコフェロール、トコトリエノール、カテキン等のフェノール化合物;トリ−p−ニトロフェニルメチル、ジフェニルピクリルヒドロジン、ピクリン酸等のニトロ化合物;ニトロソベンゼン、クペロン等のニトロソ化合物;ジフェニルアミン、ジ−p−フルオロフェニルアミン、N−(3−N−オキシアニリノ−1,3−ジメチルブチリデン)アニリンオキシド等のアミン系化合物;TEMPOラジカル(2,2,6,6−tetramethyl−1−piperidinyloxyl)、ジフェニルピクリルヒドラジル、ガルビノキシル、フェルダジル等の安定ラジカル;アルコルビン酸やエリソルビン酸及びその塩又はエステル;ジチオベンゾイルジスルフィド;塩化銅(II)等が挙げられ、これらは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。中でも、フェノチアジン及びその誘導体、フェノール系化合物、アルコルビン酸やエリソルビン酸及びそのエステルが好適であり、フェノチアジン、ハイドロキノン、メトキノンがより好適である。これらの酸化防止剤は、脱水縮合工程においても溶剤留去工程においても極めて有効に重合禁止能を発揮することができる点から有用である。
【0069】
上記酸化防止剤の添加量としては、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の多量化を効果的に防止できれば特に限定されるものではないが、例えば、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の質量(固形分)に対し、酸化防止剤の質量で10ppm以上であることが好ましく、また、5000ppm以下であることが好ましい。この範囲内に設定することによって、上記チオール化合物の特性を充分に保持したまま、酸化防止剤の作用効果をより充分に発揮することができるが、5000ppmを超えると、上記チオール化合物の性能をより充分に発揮できなかったり、着色したりするおそれがある。より好ましくは20ppm以上であり、更に好ましくは50ppm以上であり、特に好ましくは100ppm以上である。また、より好ましくは2000ppm以下であり、更に好ましくは1000ppm以下であり、特に好ましくは500ppm以下である。
【0070】
このように、脱水縮合工程後の反応溶液から反応粗生成物の固化物を得る方法として、反応溶液を加熱して溶媒を留去する方法を採用しても、酸化防止剤を添加することによって、得られるポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物中の多量化物の含有量を、該化合物100質量%中、30質量%以下の範囲内に留めることが可能となる。
【0071】
上記のようにして得られたポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の固化物は、上述したように乾燥させると多量化し易い傾向があるため、溶液状態で保存することが好適である。より好ましくは、水溶液状態で保存することである。また、溶液のpHを4以上に設定することが好ましく、より好ましくは5以上、更に好ましくは5.5以上、特に好ましくは6以上である。また、pH7以下に設定することが好適である。
【0072】
上記製造方法はまた、上述したように、得られるポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物が容易に多量化し易いため、該ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物から多量化物を除去する工程を含んでいてもよい。除去工程としては、例えば、透析や限外ろ過、GPC(ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー)分取等の分子量分画法等が挙げられる。なお、このような多量化物の除去工程の追加は、製造コストの高騰等を招くおそれがあるため、多量化物を含むポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物をそのまま、例えば、後述する重合体の調製等に利用することとしてもよい。
【0073】
<ポリアルキレングリコール鎖含有チオール系重合体>
本発明はまた、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を用いて得られるポリアルキレングリコール鎖含有チオール系重合体でもある。
このような重合体は、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物に由来するポリアルキレングリコール鎖(1)の立体反発と、上記(i)及び/又は(ii)の特定構造とに由来して、極めて高い分散性能及び耐加水分解性能を発揮でき、長期にわたって安定して高い分散性能を発現することができるため、より多くの分野に有用な重合体となる。この場合、例えば、下記一般式(3);
【0074】
【化5】

【0075】
(式中、Xは、活性水素を3個以上有する化合物の残基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。Yは、カルボニル基を有する基を表す。なお、AOで表されるオキシアルキレン基の末端酸素原子と、Yで表される基中のカルボニル基とにより、エステル結合(−COO−)が形成されることになる。Zは、ビニル系単量体成分由来の構成単位を含む重合体である。nは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、5〜1000の数である。mは、1〜50の整数である。)で表される構造を有する形態である。
【0076】
上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール系重合体としては、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の存在下、ビニル系単量体成分(不飽和単量体成分)を重合することにより得られるものであることが好適である。
上記重合反応においては、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の存在下で行うことによって、メルカプト基から熱や光、放射線等によって発生したラジカル若しくは必要に応じて別に使用した重合開始剤によって発生したラジカルが、メルカプト基に連鎖移動するか、又は、ジスルフィド結合を開裂させ、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物が有する末端の硫黄原子(S)を介して単量体が次々に付加し、重合体が形成されることになる。
すなわち、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール系重合体は、ポリアルキレングリコール鎖の少なくとも一端のカルボニル基を有する基及びメルカプト基を介して、ビニル系単量体成分由来の構成単位を含む重合体部位を有する構造を持つことになるが、このような形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
【0077】
上記重合反応に使用する上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の使用量としては、ビニル系単量体成分100重量部に対し、1〜80重量部とすることが好ましい。1重量部以下であると、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物に起因する効果が充分に発揮できないおそれがあり、80重量部を超えると、ビニル系単量体由来の性能が充分に発揮されないおそれがある。上記使用量の下限値としては、より好ましくは2重量部であり、更に好ましくは4重量部であり、また、上限値としては、より好ましくは50重量部であり、更に好ましくは30重量部である。
【0078】
上記ビニル系単量体成分由来の構成単位を含む重合体部位において、該部位は、1種の重合体からなる部位であってもよいし、2種以上の重合体からなる部位であってもよいが、それを形成するビニル系単量体成分としては、不飽和カルボン酸系単量体(a)を必須に含むことが好適である。これにより、本発明の重合体の親水性が向上され、各種の用途により有用なものとすることが可能となる。また、セメント混和剤等の用途に使用する場合には、分散性能をより高めるため、上記ビニル系単量体成分は、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)を含むことが好適である。この場合には、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物に起因する立体反発に、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)に由来するポリアルキレングリコール鎖(以下、「(ポリ)アルキレングリコール鎖(2)」ともいう。)の立体反発が加わって、その相乗効果により、セメント粒子を分散させる性能が飛躍的に向上するものと考えられる。より好ましくは、上記ビニル系単量体成分が、不飽和カルボン酸系単量体(a)と不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)とを含む形態である。すなわち、上記ビニル系単量体成分由来の構成単位を含む重合体が、不飽和カルボン酸系単量体(a)由来の構成単位と不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)由来の構成単位とを含む形態であることが好適である。
【0079】
上記不飽和カルボン酸系単量体(a)(以下、単に「単量体(a)」ともいう。)としては、例えば、下記式(4);
【0080】
【化6】

【0081】
(式中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子、メチル基又は(CHCOOMを表す。なお、−(CHCOOMは、−COOM又は他の−(CHCOOMと無水物を形成していてもよい。xは、0〜2の整数である。M及びMは、同一若しくは異なって、水素原子、一価金属、二価金属、三価金属、第4級アンモニウム塩基又は有機アミン塩基を表す。)で示される化合物が好適である。
なお、上記単量体(a)由来の構成単位とは、重合反応によって一般式(4)で示される単量体(a)の重合性二重結合が開いた構造(二重結合(C=C)が、単結合(−C−C−)となった構造)に相当する。
【0082】
上記一般式(4)において、M及びMで表される金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等の一価金属原子;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属原子等の二価金属原子;アルミニウム、鉄等の三価金属原子が挙げられる。また、有機アミン塩基としては、例えば、エタノールアミン基、ジエタノールアミン基、トリエタノールアミン基等のアルカノールアミン基や、トリエチルアミン基等が挙げられる。
【0083】
上記一般式(4)で示される不飽和カルボン酸系単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸系単量体;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等のジカルボン酸系単量体;これらのカルボン酸の無水物又は塩(例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、三価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩)等が挙げられる。中でも、重合性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸及びこれらの塩が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの塩がより好適である。
【0084】
上記不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)(以下、単に「単量体(b)」ともいう。)としては、例えば、下記式(5);
【0085】
【化7】

【0086】
(式中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又はメチル基を表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。AOは、同一若しくは異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基の1種又は2種以上を表す。なお、AOで表されるオキシアルキレン基が2種以上ある場合、当該基は、ブロック状に導入されていてもよく、ランダム状に導入されていてもよい。yは、0〜2の整数である。zは、0又は1である。rは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数である。)で表される化合物が好適である。
なお、上記単量体(b)由来の構成単位とは、重合反応によって一般式(5)で示される単量体(b)の重合性二重結合が開いた構造(二重結合(C=C)が、単結合(−C−C−)となった構造)に相当する。
【0087】
上記一般式(5)において、Rで表される末端基のうち、炭素数1〜20の炭化水素基としては、炭素数1〜20の脂肪族アルキル基、炭素数3〜20の脂環式アルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基等が挙げられる。
上記Rで表される末端基としては、セメント混和剤用途に用いる場合には、セメント粒子の分散性の観点から親水性基であることが好適であり、具体的には、水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基が好ましい。より好ましくは、水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基であり、更に好ましくは、水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基であり、特に好ましくは、水素原子又はメチル基である。
【0088】
また上記一般式(5)において、(AO)で表されるポリアルキレングリコール鎖(2)は、主として炭素数2のオキシエチレン基(エチレンオキシド)から構成されるものであることが好適である。これにより、得られる重合体が充分に親水性となり、重合体に充分な水溶性及びセメント粒子の分散性能が付与されることとなる。
ここで、「主として」とは、例えば、ポリアルキレングリコール鎖(2)を構成する全オキシアルキレン基(アルキレングリコール単位)100モル%中のオキシエチレン基をモル%で表すとき、50〜100モル%となるものであることが好ましい。50モル%未満であると、オキシアルキレン基の親水性が充分とはならず、セメント粒子の分散性能を充分に付与することができないおそれがある。より好ましくは60モル%以上であり、更に好ましくは70モル%以上であり、特に好ましくは80モル%以上であり、最も好ましくは90モル%以上である。
【0089】
上記(AO)で表されるポリアルキレングリコール鎖(2)としてはまた、その一部に、より疎水性の高い炭素数3以上のオキシアルキレン基を含むものであってもよい。このような疎水性基が導入されると、セメント混和剤(分散剤)として使用した場合、水溶液中でポリアルキレングリコール鎖同士が軽い疎水的相互作用を示すことにより、セメント組成物の粘性が調整され、作業性が改善されることがあるためである。炭素数3以上のオキシアルキレン基を導入する場合、その導入量としては、例えば、ポリアルキレングリコール鎖(2)を構成する全オキシアルキレン基(アルキレングリコール単位)100モル%に対し、充分な水溶性を保つためには、50モル%以下であることが好適である。より好ましくは25モル%以下であり、更に好ましくは10モル%以下である。また、作業性の改善のために、1モル%以上であることが好ましい。より好ましくは2.5モル%以上であり、更に好ましくは5モル%以上である。
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基としては、製造の容易さの観点から、プロピレンオキシド基及びブチレンオキシド基が好ましく、中でも、プロピレンオキシド基がより好適である。
【0090】
上記ポリアルキレングリコール鎖(2)が、炭素数2のオキシエチレン基と炭素数3以上のオキシアルキレン基とから構成されるものである場合、これらの配列はランダムであってもブロックであってもよいが、ブロック配列にすると、ランダム配列に比較して、親水性ブロックの親水性はより強く発現され、疎水性ブロックの疎水性はより強く発現されるようであり、結果として、セメント組成物の分散性や作業性がより改善されるため好適である。特に、(炭素数2のオキシエチレン基)−(炭素数3以上のオキシアルキレン基)−(炭素数2のオキシエチレン基)のように、A−B−Aブロック状に配列することが好ましい。
【0091】
上記一般式(5)におけるrは、1〜300の数であるが、300を超えると、製造上の不具合が生じるおそれがあり、また、セメント混和剤として使用した際にセメント組成物の粘性が高くなって作業性が充分とはならないおそれがある。製造上の観点から、rは300以下が適当であり、好ましくは200以下、より好ましくは150以下、更に好ましくは100以下、特に好ましくは75以下、最も好ましくは50以下である。また、セメント粒子を強く分散させる観点から、rは4以上であることが好ましい。より好ましくは6以上、更に好ましくは10以上、特に好ましくは25以上である。
【0092】
上記一般式(5)で示される不飽和ポリアルキレングリコール系単量体の具体例としては、例えば、不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物、ポリアルキレングリコールエステル系単量体が挙げられる。
上記不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物としては、不飽和基を有するアルコールにポリアルキレングリコール鎖が付加した構造を有する化合物であればよい。
上記ポリアルキレングリコールエステル系単量体としては、不飽和基とポリアルキレングリコール鎖とがエステル結合を介して結合された構造を有する単量体であればよく、不飽和カルボン酸ポリアルキレングリコールエステル系化合物が好適であり、中でも、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好適である。
【0093】
上記不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物としては、例えば、ビニルアルコールアルキレンオキシド付加物、(メタ)アリルアルコールアルキレンオキシド付加物、3−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物、イソプレンアルコール(3−メチル−3−ブテン−1−オール)アルキレンオキシド付加物、3−メチル−2−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物、2−メチル−3−ブテン−2−オールアルキレンオキシド付加物、2−メチル−2−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物、2−メチル−3−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物が好適である。
【0094】
上記不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物として具体的には、例えば、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(2−メチル−2−プロペニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(2−ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(3−メチル−3−ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(3−メチル−2−ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(2−メチル−3−ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(2−メチル−2−ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(1,1−ジメチル−2−プロペニル)エーテル、ポリエチレンポリプロピレングリコールモノ(3−メチル−3−ブテニル)エーテル、メトキシポリエチレングリコールモノ(3−メチル−3−ブテニル)エーテル、エトキシポリエチレングリコールモノ(3−メチル−3−ブテニル)エーテル、1−プロポキシポリエチレングリコールモノ(3−メチル−3−ブテニル)エーテル、シクロヘキシルオキシポリエチレングリコールモノ(3−メチル−3−ブテニル)エーテル、フェノキシポリエチレングリコールモノ(3−メチル−3−ブテニル)エーテル、メトキシポリエチレングリコールモノアリルエーテル、エトキシポリエチレングリコールモノアリルエーテル、フェノキシポリエチレングリコールモノアリルエーテル、メトキシポリエチレングリコールモノ(2−メチル−2−プロペニル)エーテル、エトキシポリエチレングリコールモノ(2−メチル−2−プロペニル)エーテル、フェノキシポリエチレングリコールモノ(2−メチル−2−プロペニル)エーテル等が好適である。
【0095】
上記(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとしては、例えば、アルコール類に炭素数2〜18のアルキレンオキシド基を1〜25モル付加したアルコキシポリアルキレングリコール類、特にエチレンオキシドが主体であるアルコキシポリアルキレングリコール類と、(メタ)アクリル酸とのエステル化物が好適である。
上記アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、ノニルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の炭素数1〜30の脂肪族アルコール類;シクロヘキサノール等の炭素数3〜30の脂環族アルコール類;(メタ)アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等の炭素数3〜30の不飽和アルコール類等が挙げられる。
【0096】
上記エステル化物として具体的には、以下に示す(アルコキシ)ポリエチレングリコール(ポリ)(炭素数2〜4のアルキレングリコール)(メタ)アクリル酸エステル類等が好適である。
メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、メトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、メトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、エトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、エトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロポキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、プロポキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、プロポキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、
【0097】
ブトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ブトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ブトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ブトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ペントキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ペントキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ペントキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ペントキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ヘキソキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ヘキソキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ヘキソキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ヘキソキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、
【0098】
ヘプトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ヘプトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ヘプトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ヘプトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、オクトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、オクトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ノナノキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ノナノキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ノナノキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ノナノキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート。
【0099】
上記ビニル系単量体成分にはまた、上述した不飽和カルボン酸系単量体(a)及び不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)以外のその他の共重合可能な単量体(以下、「単量体(c)」ともいう。)を含んでいてもよい。
この場合、上記重合体(ii)は、更に上記単量体(c)由来の構成単位を含むことになるが、上記単量体(c)由来の構成単位とは、重合反応によって単量体(c)の有する重合性二重結合が開いた構造(二重結合(C=C)が、単結合(−C−C−)となった構造)に相当する。
上記単量体(c)を用いる場合、その含有量としては、全ビニル系単量体成分100質量%に対し、30質量%以下とすることが好適である。より好ましくは25質量%以下であり、更に好ましくは20質量%以下である。
【0100】
上記単量体(c)の具体例としては、例えば、以下の化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸系単量体と炭素原子数23〜30のアルコールとのハーフエステル、ジエステル類;上記不飽和ジカルボン酸系単量体と炭素原子数23〜30のアミンとのハーフアミド、ジアミド類;上記アルコールやアミンに炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドを1〜500モル付加させたアルキル(ポリ)アルキレングリコールと上記不飽和ジカルボン酸系単量体とのハーフエステル、ジエステル類;上記不飽和ジカルボン酸系単量体と炭素原子数5〜18のグリコール若しくはこれらのグリコールの付加モル数2〜500のポリアルキレングリコールとのハーフエステル、ジエステル類;マレアミン酸と炭素原子数5〜18のグリコール若しくはこれらのグリコールの付加モル数2〜500のポリアルキレングリコールとのハーフアミド類;
【0101】
トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類;ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート類;トリエチレングリコールジマレート、ポリエチレングリコールジマレート等の(ポリ)アルキレングリコールジマレート類;ビニルスルホネート、(メタ)アリルスルホネート、2−(メタ)アクリロキシエチルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシプロピルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホフェニルエーテル、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシスルホベンゾエート、4−(メタ)アクリロキシブチルスルホネート、(メタ)アクリルアミドメチルスルホン酸、(メタ)アクリルアミドエチルスルホン酸、2−メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類、並びに、それらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩及び有機アミン塩;
【0102】
メチル(メタ)アクリルアミドのように不飽和モノカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアミンとのアミド類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレン等のビニル芳香族類;1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールモノ(メタ)アクリレート類;ブタジエン、イソプレン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン等のジエン類;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;(メタ)アクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等の不飽和シアン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の不飽和エステル類。
【0103】
上記重合反応においては、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の存在下で行うことによって、 上述したように、メルカプト基から熱や光、放射線等によって発生したラジカル若しくは必要に応じて別に使用した重合開始剤によって発生したラジカルが、メルカプト基に連鎖移動するか、又は、多量化物の生成によるジスルフィド結合を開裂させ、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物が有する末端の硫黄原子(S)を介して単量体が次々に付加し、重合体が形成されることになる。この場合、例えば、ビニル系単量体成分として上記単量体(a)及び単量体(b)(更に必要に応じて単量体(c))を用いて重合を行った場合には、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物が有する末端に、硫黄原子を介して、上記単量体(a)由来のカルボキシル基を有する構成単位と、上記単量体(b)由来のポリアルキレングリコール鎖を有する構成単位と、上記単量体(c)を用いた場合には更に単量体(c)由来の構成単位とを有するポリアルキレングリコール鎖含有チオール系重合体が主として生成することになる。
【0104】
上記重合反応は、必要に応じてラジカル重合開始剤を使用し、溶液重合や塊状重合等の方法により行うことができる。溶液重合は、回分式でも連続式でも又はそれらの組み合わせでも行うことができ、その際に使用される溶媒としては、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の芳香族又は脂肪族炭化水素;酢酸エチル等のエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル化合物等が挙げられる。中でも、例えば、セメント混和剤用途のように水溶液として使用されることが多い用途に用いる場合には、水溶液重合法によって重合することが好適である。
【0105】
上記溶液重合のうち、水溶液重合では、水溶性のラジカル重合開始剤を用いることが、重合後に不溶成分を除去する必要がないので好適である。例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩等のアゾアミジン化合物、2,2’−アゾビス−2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン塩酸塩等の環状アゾアミジン化合物、2−カルバモイルアゾイソブチロニトリル等のアゾニトリル化合物、2,4’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}等のアゾアミド化合物、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)と(アルコキシ)ポリエチレングリコールとのエステル等のマクロアゾ化合物等の水溶性アゾ系開始剤が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。中でも、後述するように水溶性アゾ系開始剤が好適である。
【0106】
この際、亜硫酸水素ナトリウム等のアルカリ金属亜硫酸塩、メタ二亜硫酸塩、次亜燐酸ナトリウム、モール塩等のFe(II)塩、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム二水和物、ヒドロキシルアミン塩酸塩、チオ尿素、L−アスコルビン酸(塩)、エリソルビン酸(塩)等の促進剤(還元剤)を併用することもできる。例えば、過酸化水素と有機系還元剤との組み合わせが可能であり、有機系還元剤としては、L−アスコルビン酸(塩)、L−アスコルビン酸エステル、エリソルビン酸(塩)、エリソルビン酸エステル等を好適に用いることができる。これらのラジカル重合開始剤や促進剤(還元剤)はそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、上記促進剤(還元剤)の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、併用する重合開始剤の総量を100モルとすると、好ましくは10モル以上、より好ましくは20モル以上、更に好ましくは50モル以上であり、また、好ましくは1000モル以下、より好ましくは500モル以下、更に好ましくは400モル以下である。
【0107】
また低級アルコール類、芳香族若しくは脂肪族炭化水素類、エステル類又はケトン類を溶媒とする溶液重合や塊状重合では、ラジカル重合開始剤として、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ナトリウムパーオキシド等のパーオキシド;t−ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾニトリル化合物、2,4’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}等のアゾアミド化合物、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)と(アルコキシ)ポリエチレングリコールとのエステル等のマクロアゾ化合物等の水溶性アゾ系開始剤等の1種又は2種以上を使用することができる。中でも、後述するように水溶性アゾ系開始剤が好適である。なお、この際、アミン化合物等の促進剤を併用することもできる。
更に水と低級アルコール混合溶媒を用いる場合には、上記の種々のラジカル重合開始剤、又は、上記ラジカル重合開始剤と促進剤との組合せの中から適宜選択して用いることができる。
【0108】
本発明においては、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物が有するメルカプト基や、その多量体中のジスルフィド結合から熱や光、放射線等によってラジカルが発生することを考えると、重合開始剤として、メルカプト基やジスルフィド結合からラジカルを発生させ易い炭素ラジカル発生剤を使用することが好適である。中でも、アゾ系開始剤が好適であり、これにより、上述した放射線状に枝分かれした多分岐構造の重合体を効率よく得ることが可能となる。より好ましくは、上述した水溶性アゾ系開始剤である。
なお、重合開始剤として、過硫酸塩や過酸化水素を用いた場合には、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物が有するメルカプト基が酸化され、得られる重合体の収率が充分とはならないおそれがある。
【0109】
上記ラジカル重合開始剤の使用量としては、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の態様や量に応じて適宜設定すればよいが、ラジカル重合開始剤が重合に供するビニル系単量体成分に対して少なすぎると、ラジカル濃度が低すぎて重合反応が遅くなるおそれがあり、また逆に多すぎると、ラジカル濃度が高すぎて、メルカプト基やジスルフィド結合に起因する重合反応よりビニル系単量体成分からの重合反応が優先し、上述した放射線状に枝分かれした多分岐構造の重合体の収率を高めることができないおそれがある。したがって、上記ラジカル重合開始剤の使用量は、ビニル系単量体成分の総量100モルに対し、好ましくは0.001モル以上、より好ましくは0.01モル以上、更に好ましくは0.1モル以上、特に好ましくは0.2モル以上であり、また、好ましくは10モル以下、より好ましくは5モル以下、更に好ましくは2モル以下、特に好ましくは1モル以下である。
【0110】
上記重合反応にはまた、通常の連鎖移動剤を併用してもよい。使用可能な連鎖移動剤としては、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、2−メルカプトエタンスルホン酸等のチオール系連鎖移動剤;イソプロピルアルコール等の2級アルコール;亜リン酸、次亜リン酸及びその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)、亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸及びその塩(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等)の低級酸化物及びその塩等の親水性連鎖移動剤が挙げられる。
【0111】
上記連鎖移動剤としてはまた、疎水性連鎖移動剤を使用することもできる。疎水性連鎖移動剤としては、例えば、ブタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール、シクロヘキシルメルカプタン、チオフェノール、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル等の炭素数3以上の炭化水素基を有するチオール系連鎖移動剤が好適に使用される。
【0112】
上記連鎖移動剤は、単独で用いても2種類以上を併用してもよいし、更に、例えば、親水性連鎖移動剤と疎水性連鎖移動剤とを組み合わせて用いてもよい。
上記連鎖移動剤の使用量は、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の態様や量に応じて適宜設定すればよいが、ビニル系単量体成分の総量100モルに対し、好ましくは0.1モル以上、より好ましくは0.25モル以上、更に好ましくは0.5モル以上であり、また、好ましくは20モル以下、より好ましくは15モル以下、更に好ましくは10モル以下である。
【0113】
上記重合反応において、重合温度等の重合条件としては、用いられる重合方法、溶媒、重合開始剤、連鎖移動剤により適宜定められるが、重合温度としては、0℃以上であることが好ましく、また、150℃以下であることが好ましい。より好ましくは30℃以上であり、更に好ましくは50℃以上である。また、より好ましくは120℃以下であり、更に好ましくは100℃以下である。
【0114】
また上記ビニル系単量体成分の反応容器への投入方法は特に限定されるものではなく、全量を反応容器に初期に一括投入する方法;全量を反応容器に分割又は連続投入する方法;一部を反応容器に初期に投入し、残りを反応容器に分割又は連続投入する方法のいずれであってもよい。なお、ラジカル重合開始剤や連鎖移動剤は、反応容器に初めから仕込んでもよく、反応容器へ滴下してもよく、また、目的に応じてこれらを組み合わせてもよい。
【0115】
上記重合反応においてはまた、所定の分子量の共重合体を再現性よく得るために、重合反応を安定に進行させることが好適である。そのため、溶液重合では、使用する溶媒の25℃における溶存酸素濃度を5ppm以下(好ましくは0.01〜4ppm、より好ましくは0.01〜2ppm、更に好ましくは0.01〜1ppm)の範囲に設定することが好ましい。なお、溶媒にビニル系単量体成分を添加した後に窒素置換等を行う場合には、ビニル系単量体成分をも含んだ系の溶存酸素濃度を上記範囲内とすることが適当である。
【0116】
上記溶媒の溶存酸素濃度の調整は、重合反応槽で行ってもよく、予め溶存酸素量を調整したものを用いてもよい。溶媒中の酸素を追い出す方法としては、例えば、下記の(1)〜(5)の方法が挙げられる。
(1)溶媒を入れた密閉容器内に窒素等の不活性ガスを加圧充填後、密閉容器内の圧力を下げることで溶媒中の酸素の分圧を低くする。その際、窒素気流下で、密閉容器内の圧力を下げてもよい。
(2)溶媒を入れた容器内の気相部分を窒素等の不活性ガスで置換したまま液相部分を長時間激しく攪拌する。
(3)容器内に入れた溶媒に窒素等の不活性ガスを長時間バブリングする。
(4)溶媒を一旦沸騰させた後、窒素等の不活性ガス雰囲気下で冷却する。
(5)配管の途中に静止型混合機(スタティックミキサー)を設置し、溶媒を重合反応槽に移送する配管内で窒素等の不活性ガスを混合する。
【0117】
上記重合反応により得られたポリアルキレングリコール鎖含有チオール系重合体は、水溶液状態で弱酸性以上(より好ましくはpH4以上、更に好ましくはpH5以上、特に好ましくはpH6以上)のpH範囲に調整しておくことで取り扱いやすいものとすることができる。
その一方で、重合反応をpH7以上で行うと、重合率が低下すると同時に、共重合性が充分とはならず、例えば、セメント混和剤用途に用いた場合に分散性能を充分に発揮できないおそれがある。そのため、重合反応においては、酸性から中性(より好ましくはpH6未満、より好ましくはpH5.5未満、更に好ましくはpH5未満)のpH領域で重合反応を行うことが好適である。このように重合系が酸性から中性となる好ましい重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩等のアゾアミジン化合物等の水溶性アゾ開始剤、過酸化水素、過酸化水素と有機系還元剤との組み合わせ等を用いることが好ましい。なお、より好ましくは、上述したようにアゾ系開始剤を少なくとも使用することである。
【0118】
したがって、低いpHで重合反応を行った後に、アルカリ性物質等を添加してより高いpHに調整することが好適である。具体的には、pH6未満で重合反応を行った後にアルカリ性物質を添加してpH6以上に調整する方法;pH5未満で重合反応を行った後にアルカリ性物質を添加してpH5以上に調整する方法;pH5未満で重合反応を行った後にアルカリ性物質を添加してpH6以上に調整する方法等が挙げられる。
pHの調整は、例えば、一価金属又は二価金属の水酸化物や炭酸塩等の無機塩;アンモニア;有機アミン;等のアルカリ性物質を用いて行うことができる。また、pHを下げる場合、特に重合の際にpHの調整が必要な場合、リン酸、硫酸、硝酸、アルキルリン酸、アルキル硫酸、アルキルスルホン酸、(アルキル)ベンゼンスルホン酸等の酸性物質を用いてpHの調整を行うことができ、これら酸性物質の中では、pH緩衝作用がある点等からリン酸や少量の添加でpHを下げることができる硫酸が好ましい。また、反応終了後、必要に応じて濃度調整を行うこともできる。
【0119】
上記の重合反応により得られる反応生成物には、ポリアルキレングリコール鎖含有チオール系重合体の他、上述した副生成物としての種々の重合体を含むことがあるため、必要に応じて、個々の重合体を単離する工程に付してもよいが、通常、作業効率や製造コスト等の観点から、個々の重合体を単離することなく、各種用途に使用してもよい。
【0120】
上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール系重合体としては、その取り扱い性やセメント混和剤用途に使用した場合のセメント組成物の保持性等を考慮すると、重量平均分子量(Mw)が30万以下であることが好適である。より好ましくは20万以下、更に好ましくは15万以下、特に好ましくは10万以下である。また、セメント混和剤用途に用いる場合、ある程度セメント粒子に吸着した方が性能を発揮しやすく、Mwが大きいほど吸着力が大きくなるという観点から、Mwは1万以上であることが好ましい。より好ましくは15000以上であり、更に好ましくは18000以上であり、特に好ましくは2万以上である。
なお、重合体の重量平均分子量は、後述するゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)分析法により求めることができる。
【0121】
上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール系重合体は、例えば、接着剤、シーリング剤、各種重合体への柔軟性付与成分、分散剤、セメント混和剤、洗剤ビルダー等の種々の用途に好適に用いることができ、中でも、上述したように極めて高度のセメント分散性能を発揮できることから、セメント混和剤用途に用いることが好適である。このように、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール系重合体を含む分散剤又はセメント混和剤もまた、本発明の1つである。
上記セメント混和剤は、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物に加えて用いることができ、このような上記セメント混和剤(上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール系重合体)を含んでなるセメント組成物もまた、本発明の1つである。
【0122】
上記セメント組成物としては、セメント、水、細骨材、粗骨材等を含むものが好適であり、セメントとしては、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩、及びそれぞれの低アルカリ形);各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント);白色ポルトランドセメント;アルミナセメント;超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント);グラウト用セメント;油井セメント;低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント);超高強度セメント;セメント系固化材;エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の1種以上を原料として製造されたセメント)等の他、これらに高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体や石膏を添加したもの等が挙げられる。
上記骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材等が挙げられる。
【0123】
上記セメント組成物の1mあたりの単位水量、セメント使用量及び水/セメント比(質量比)としては、例えば、単位水量100〜185kg/m、使用セメント量200〜800kg/m、水/セメント比(質量比)=0.1〜0.7とすることが好適であり、より好ましくは、単位水量120〜175kg/m、使用セメント量250〜800kg/m、水/セメント比(質量比)=0.2〜0.65とすることである。このように、本発明の重合体を含むセメント混和剤は、貧配合から富配合に至るまでの幅広い範囲で使用可能であり、高減水率領域、すなわち、水/セメント比(質量比)=0.15〜0.5(好ましくは0.15〜0.4)といった水/セメント比の低い領域でも使用可能であり、更に、単位セメント量が多く水/セメント比が小さい高強度コンクリート、単位セメント量が300kg/m以下の貧配合コンクリートのいずれにも有効である。
【0124】
本発明のセメント混和剤としては、高減水率領域においても流動性、保持性及び作業性をバランスよく高性能で発揮でき、優れた作業性を有することから、レディーミクストコンクリート、コンクリート2次製品(プレキャストコンクリート)用のコンクリート、遠心成形用コンクリート、振動締め固め用コンクリート、蒸気養生コンクリート、吹付けコンクリート等にも有効に使用することが可能であり、更に、中流動コンクリート(スランプ値が22〜25cmの範囲のコンクリート)、高流動コンクリート(スランプ値が25cm以上で、スランプフロー値が50〜70cmの範囲のコンクリート)、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材等の高い流動性を要求されるモルタルやコンクリートにも有効である。
【0125】
上記セメント混和剤をセメント組成物に使用する場合、その配合割合としては、本発明の必須成分である重合体が、固形分換算で、セメント質量の全量100質量%に対して、0.01〜10質量%となるように設定することが好ましい。0.01質量%未満では性能的に充分とはならないおそれがあり、逆に10質量%を超えると、その効果は実質上頭打ちとなり経済性の面からも不利となるおそれがある。より好ましくは0.02〜8質量%であり、更に好ましくは0.05〜6質量%である。
【0126】
上記セメント混和剤としてはまた、他のセメント添加剤と組み合わせて用いることもできる。他のセメント添加剤としては、例えば、以下に示すようなセメント添加剤(材)等の1種又は2種以上を使用することができる。中でも、オキシアルキレン系消泡剤や、AE剤を併用することが特に好ましい。
なお、セメント添加剤の添加割合としては、上記重合体の固形分100重量部に対し、0.0001〜10重量部とすることが好適である。
【0127】
(1)水溶性高分子物質:ポリアクリル酸(ナトリウム)、ポリメタクリル酸(ナトリウム)、重合体レイン酸(ナトリウム)、アクリル酸・マレイン酸共重合物のナトリウム塩等の不飽和カルボン酸重合物;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリオキシエチレンあるいはポリオキシプロピレンの重合体又はそれらの共重合体;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の非イオン性セルロースエーテル類;酵母グルカンやキサンタンガム、β−1,3グルカン類(直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよく、一例を挙げれば、カードラン、パラミロン、パキマン、スクレログルカン、ラミナラン等)等の微生物醗酵によって製造される多糖類;ポリアクリルアミド;ポリビニルアルコール;デンプン;デンプンリン酸エステル;アルギン酸ナトリウム;ゼラチン;分子内にアミノ基を有するアクリル酸の共重合体及びその四級化合物等。
【0128】
(2)高分子エマルジョン。
(3)遅延剤:グルコン酸、リンゴ酸又はクエン酸、及び、これらの、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、トリエタノールアミン等の無機塩又は有機塩等のオキシカルボン酸並びにその塩;グルコース、フラクトース、ガラクトース、サッカロース;ソルビトール等の糖アルコール;珪弗化マグネシウム;リン酸並びにその塩又はホウ酸エステル類;アミノカルボン酸とその塩;アルカリ可溶タンパク質;フミン酸;タンニン酸;フェノール;グリセリン等の多価アルコール;アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)及びこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等のホスホン酸及びその誘導体等。
【0129】
(4)早強剤・促進剤:塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム等の可溶性カルシウム塩;アルカノールアミン;アルミナセメント;カルシウムアルミネートシリケート等。
(5)鉱油系消泡剤:燈油、流動パラフィン等。
(6)油脂系消泡剤:動植物油、ごま油、ひまし油、これらのアルキレンオキシド付加物等。
(7)脂肪酸系消泡剤:オレイン酸、ステアリン酸、これらのアルキレンオキシド付加物等。
(8)脂肪酸エステル系消泡剤:グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、天然ワックス等。
【0130】
(9)オキシアルキレン系消泡剤:(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレン類;ジエチレングリコールヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン−2−エチルヘキシルエーテル、炭素数12〜14の高級アルコールへのオキシエチレンオキシプロピレン付加物等の(ポリ)オキシアルキルエーテル類;ポリオキシプロピレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等の(ポリ)オキシアルキレン(アルキル)アリールエーテル類;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、3−メチル−1−ブチン−3−オール等のアセチレンアルコールにアルキレンオキシドを付加重合させたアセチレンエーテル類;ジエチレングリコールオレイン酸エステル、ジエチレングリコールラウリル酸エステル、エチレングリコールジステアリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシプロピレンメチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェノールエーテル硫酸ナトリウム等の(ポリ)オキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル硫酸エステル塩類;(ポリ)オキシエチレンステアリルリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルリン酸エステル類;ポリオキシエチレンラウリルアミン等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン類;ポリオキシアルキレンアミド等。
【0131】
(10)アルコール系消泡剤:オクチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、グリコール類等。
(11)アミド系消泡剤:アクリレートポリアミン等。
(12)リン酸エステル系消泡剤:リン酸トリブチル、ナトリウムオクチルホスフェート等。
(13)金属石鹸系消泡剤:アルミニウムステアレート、カルシウムオレエート等。
(14)シリコーン系消泡剤:ジメチルシリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変性ポリシロキサン(ジメチルポリシロキサン等のポリオルガノシロキサン)、フルオロシリコーン油等。
(15)AE剤:樹脂石鹸、飽和又は不飽和脂肪酸、ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、ラウリルサルフェート、ABS(アルキルベンゼンスルホン酸)、LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸)、アルカンスルホネート、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル硫酸エステル又はその塩、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテルリン酸エステル又はその塩、蛋白質材料、アルケニルスルホコハク酸、α−オレフィンスルホネート等。
【0132】
(16)その他界面活性剤:オクタデシルアルコールやステアリルアルコール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する脂肪族1価アルコール、アビエチルアルコール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する脂環式1価アルコール、ドデシルメルカプタン等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する1価メルカプタン、ノニルフェノール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するアルキルフェノール、ドデシルアミン等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するアミン、ラウリン酸やステアリン酸等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するカルボン酸に、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを10モル以上付加させたポリアルキレンオキシド誘導体類;アルキル基又はアルコキシル基を置換基として有しても良い、スルホン基を有する2個のフェニル基がエーテル結合した、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩類;各種アニオン性界面活性剤;アルキルアミンアセテート、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド等の各種カチオン性界面活性剤;各種ノニオン性界面活性剤;各種両性界面活性剤等。
(17)防水剤:脂肪酸(塩)、脂肪酸エステル、油脂、シリコン、パラフィン、アスファルト、ワックス等。
(18)防錆剤:亜硝酸塩、リン酸塩、酸化亜鉛等。
(19)ひび割れ低減剤:ポリオキシアルキルエーテル類;2−メチル−2,4−ペンタンジオール等のアルカンジオール類等。
(20)膨張材:エトリンガイト系、石炭系等。
【0133】
その他のセメント添加剤(材)として、例えば、セメント湿潤剤、増粘剤、分離低減剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、セルフレベリング剤、防錆剤、着色剤、防カビ剤、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石膏等が挙げられる。
【発明の効果】
【0134】
本発明のポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物は、上述の構成よりなり、各種用途、特にセメント混和剤用途に有用なものであり、それを用いた重合体が特に極めて優れた分散性能を発揮できることから、セメント混和剤を構成する成分としてとりわけ好適である。また、本発明のポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の製造方法は、このようなポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を、簡便かつ効率的に、しかも低コストで製造することができ、工業的に非常に有用な手法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0135】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味するものとする。
まず、ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物(「PAGチオール化合物」ともいう。)やその重合体及び比較用重合体の分析方法として、液体クロマトグラフィー(LC)分析条件・解析条件、及び、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)分析条件・解析条件について説明する。また、これらの固形分を求める測定法についても説明する。
【0136】
<LC分析法>
LCによる分析法の一例を示す。但し、PAGチオールの構造によってはこの条件で分析できないものがあり、その際は適宜LCカラムや溶離液等の条件を変更して分析を行った。
装置:Waters Alliance(2695)
解析ソフト:Waters社製 Empowerプロフェッショナル+GPCオプション
カラム:GLサイエンス Inertsil ODS−2 ガードカラム+カラム(内径4.6mm×250mm×3本)
検出器:示差屈折率計(RI)検出器(Waters 2414)、多波長可視紫外(PDA)検出器(Waters 2996)
溶離液:アセトニトリル/100mM酢酸イオン交換水溶液=40/60(質量%)の混合物に30%NaOH水溶液を加えてpH4.0に調整したもの
流量:0.6mL/分
カラム温度:40℃
試料液注入量:100μL(試料濃度1質量%の溶離液溶液)
【0137】
<LC解析条件:付加物の消費率及び平均SH導入数>
原料成分である付加物の消費率は、以下のようにして概算した。
LC分析により、メルカプト基が全く導入されなかったもの(未反応原料)、メルカプト基が1つ導入されたポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物(PAGチオール化合物)、・・・、メルカプト基が(m+p)個導入されたPAGチオール化合物のピークが分離される。これらのRI(示差屈折率計)面積比(%)をS、S、・・・Sm+pとし、原料成分の付加物の消費率は、以下の式(1)により概算した。
【0138】
【数1】

【0139】
またPAGチオール化合物中の平均SH導入数は、以下の式(2)により概算した。
【0140】
【数2】

【0141】
<GPC分析法>
ポリアルキレングリコール鎖含有チオール系重合体や比較用重合体の重量平均分子量は、以下の測定条件により測定した。
装置:Waters Alliance(2695)
解析ソフト:Waters社製、Empowerプロフェッショナル+GPCオプション
使用カラム:東ソー(株)製、TSKguardcolumnsSWXL+TSKgel G4000SWXL+G3000SWXL+G2000SWXL
検出器:示差屈折率計(RI)検出器(Waters 2414)、多波長可視紫外(PDA)検出器(Waters 2996)
溶離液:水10999g、アセトニトリル6001gの混合溶媒に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶解し、更に酢酸でpH6.0に調整したもの
較正曲線作成用標準物質:ポリエチレングリコール(ピークトップ分子量(Mp)272500、219300、107000、50000、24000、12600、7100、4250、1470)
較正曲線:上記ポリエチレングリコールのMp値と溶出時間とを基礎にして3次式で作成した。
流量:1mL/分
カラム温度:40℃
測定時間:45分
試料液注入量:100μL(PAG、PAGチオール化合物は試料濃度0.4質量%、重合体は試料濃度0.5質量%の溶離液溶液)
【0142】
<GPC解析条件1(PAGチオール化合物(単量体)の分析)>
RIクロマトグラムにおいて、溶出直前・溶出直後のベースラインにおいて平らに安定している部分を直線で結び、ピークを検出・解析した。多量体や不純物が目的ピークに一部重なって測定された場合は、ピークの重なり部分の最凹部において垂直分割し、目的物の分子量を測定した。
単量体純分量及び多量化物量の計算;
RI検出器によるピーク面積の比より、下記のようにして計算した。
単量体純分量=(PAGチオール化合物面積)/(多量化物ピーク面積+PAGチオール化合物面積)
多量化物量=(多量化物ピーク面積)/(多量化物ピーク面積+PAGチオール化合物面積)
【0143】
<GPC解析条件2(重合体の分析)>
得られたRIクロマトグラムにおいて、重合体溶出直前・溶出直後のベースラインにおいて平らに安定している部分を直線で結び、重合体を検出・解析した。ただし、単量体や単量体由来の不純物のピークが重合体ピークに一部重なって測定された場合、それらと重合体の重なり部分の最凹部において垂直分割して重合体部と単量体部とを分離し、重合体部のみの分子量・分子量分布を測定した。重合体部とそれ以外が完全に重なり分離できない場合はまとめて計算した。
重合体純分の計算:
RI検出器によるピーク面積の比より、下記のようにして計算した。
重合体純分=(重合体ピーク面積)/(重合体ピーク面積+単量体や不純物のピーク面積)
【0144】
<固形分の測定法(PAGチオール化合物及び重合体の分析)>
サンプル約0.5gをアルミ皿に量り採り、水約1gで希釈して均一に広げた。窒素雰囲気下、130℃で1時間乾燥させ、デシケーター中で放冷した後、乾燥後質量を量った。乾燥前後の質量差により固形分(不揮発分)濃度を計算した。
PAGチオール化合物や重合体の水溶液の濃度としては、特に断りがない限り、上記の手順で測定した固形分を用いた。
【0145】
<付加物(多分岐アルコール)合成例>
合成例1:SB→SB−30
ソルビトール(和光純薬社、250g、以下では「SB」ともいう。)、30%水酸化ナトリウム水溶液(3.44g)を、撹拌器を備えた耐圧反応容器に仕込んだ。オイルバスを用いて反応系内を130℃に加温し、系内に窒素をゆっくりとバブリングしながら、真空ポンプで1時間100mmTorrに減圧し、水を留去した。更に真空ポンプで1時間100mmTorrに減圧した後、窒素を導入して内圧を0.5MPaに調整した。反応器内温を130±2℃に保ちながら、エチレンオキシド(1813.6g、SBに対して30モル倍)を添加した。ただし反応器内圧は0.8MPaを超えないようにした。エチレンオキシドの添加終了後、反応器内を1時間130℃に保ち、反応を完結させた。反応前後の重量から、収率は99.7%であり、ソルビトールのエチレンオキシド29.9モル付加物(以下では「SB−30」ともいう。)が得られた。
【0146】
合成例2:SB−30→SB−120
原料をSB−30(600g)、30%水酸化ナトリウム水溶液(2.66g)、エチレンオキシド(1595.4g、SB−30に対して90.5モル倍)としたこと以外は、合成例1と同様の手順で反応を行った。収率は99.7%であり、ソルビトールのエチレンオキシド120モル付加物(以下では「SB−120」ともいう。)が得られた。
【0147】
合成例3:SB−120→SB−300
原料をSB−120(800g)、30%水酸化ナトリウム水溶液(1.94g)、エチレンオキシド(1166.5g、SB−30に対して181モル倍)としたこと以外は、合成例1と同様の手順で反応を行った。収率は99.7%であり、ソルビトールのエチレンオキシド300モル付加物(以下では「SB−300」ともいう。)が得られた。
【0148】
合成例4:SB−300→SB−300+12BO
原料を合成例3のSB−300(800g)、ブチレンオキシド(51.0g)とし、かつ30%水酸化ナトリウム水溶液を用いず、反応温度を125℃としたこと以外は、合成例1と同様の手順で反応を行った。収率は99.7%であり、ソルビトールのエチレンオキシド300モル+ブチレンオキシドオキシド12モル付加物(以下では「SB−300+12BO」ともいう。)が得られた。
【0149】
<ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物(PAGチオール化合物)>
参考例1
(1)脱水エステル化反応工程
ジムロート冷却管付のディーン・スターク装置、テフロン(R)製の撹拌翼と撹拌シール付の撹拌器、ガラス保護管付温度センサーを備えたガラス製反応器内に、ソルビトールのエチレンオキシド300モル付加物(SB−300)、3−メルカプトプロピオン酸(3−MPA)、p−トルエンスルホン酸−水和物(PTS・1HO)、フェノチアジン(PTZ)、シクロへキサンを表1−1に示す量で仕込んだ。ディーン・スターク装置をシクロへキサンで満たした後、反応系内を撹拌しながら、還流するまで加温した。また、加温用オイルバスの温度は120±5℃とした。反応系内の温度が110±5℃になるように途中でシクロヘキサンを加えながら、44.5時間加温還流して反応終了とした。
エステル反応終了後のLC分析結果は、表1−2に示すとおりである。
【0150】
(2)脱溶媒工程
反応終了後、固化しないように撹拌しながら60℃まで放冷した後、表1−1に示す量で30%NaOH水溶液に水を加えた水溶液を、速やかに反応器内に投入した。続いて徐々に約100℃まで加温し、シクロへキサンを留去した。加温を停止し、放冷しながら窒素を30mL/分で90分バブリングして残存シクロへキサンを除去し、目的化合物(PAGチオール化合物(1))の水溶液を得た。
得られた目的化合物のLC分析結果及びGPC分析結果は、表1−2に示すとおりである。
【0151】
実施例1〜2
参考例1において原料化合物や反応条件等を表1−1〜1−2に記載のように変更した他は、参考例1と同様にして目的化合物(PAGチオール化合物(2)〜(3))の水溶液を得た。
エステル化工程後及び脱溶媒工程後のLC分析結果及びGPC分析結果を表1−2に示す。
【0152】
【表1−1】

【0153】
【表1−2】

【0154】
<ポリアルキレングリコール鎖含有チオール重合体>
参考例2(BPT−107)
単量体溶液として、表2−1に示す量で、メタクリル酸ナトリウム(SMAA)、メタクリル酸(MAA)、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(平均エチレンオキシド付加数25モル、PGM25E)、参考例1で得たPAGチオール化合物(1)及び水酸化ナトリウム(NaOH)にイオン交換水を加えて合計100gにした溶液を調整した。
開始剤溶液として、表2−1に示す量で、2,2’-azobis(2-methylpropionamidine)dihydrochloride(和光純薬社製 V−50)にイオン交換水を加えて合計50gにした溶液を調整した。
ジムロート冷却管、テフロン(R)製の撹拌翼と撹拌シール付の撹拌器、窒素導入管、温度センサーを備えたガラス製反応容器にイオン交換水(100g)を仕込み、250rpmで撹拌下、窒素を200mL/分で導入しながら80℃に加温した。
続いて上記の単量体溶液を4時間、開始剤溶液を5時間かけて反応容器中に滴下した。滴下完了後1時間、80℃に保って重合反応を完結させた。室温まで冷却後、30%NaOH水溶液を加えてpHを6.0に調整し、目的重合体の水溶液を得た。GPC分析結果を表2−2に示す。
【0155】
実施例3〜4(BPT−127、BPT−128)
参考例2において単量体溶液及び開始剤溶液の種類や仕込み量等を表2−1〜2−2に記載のように変更した他は、参考例2と同様にして目的重合体の水溶液を得た。GPC分析結果を表2−2に示す。
【0156】
【表2−1】

【0157】
【表2−2】

【0158】
なお、表2−1〜2−2中、重合体の組成は、NaOHでの完全中和換算(カルボン酸をNaOHで完全中和した場合)の質量比で表しており、また、PAGチオール化合物は外割で考慮しているため合計は100%になっていない。
【0159】
参考例2及び実施例3〜4で得た重合体について、以下のようにして加水分解性能(保存安定性能)を評価した。
<加水分解性(60℃)試験方法>
参考例2で得た重合体BPT−107、実施例3で得た重合体BPT−127、又は、実施例4で得た重合体BPT−128を45質量%含む水溶液を各々準備し、該重合体水溶液のpH値を、pH=7に設定した。これら3つの重合体水溶液について、液温60℃にて0〜84日間保存した場合の重量平均分子量(Mw)及び重合体純分を経時的に測定した。また、pH調整直後(保存0日)を基準とする重量平均分子量(Mw)の低下率を算出した。保存期間中、重合体水溶液の液温は60℃に維持した。結果を表3に示す。また、表3に記載のMw低下率をpH値ごとに対比したグラフを図1に示す。
【0160】
【表3】

【0161】
ここで、エステル結合を有する重合体においては、エステル結合部分の加水分解を進むと、分子量(Mw等)が低下することになる。具体的に上記一般式(3)で表される重合体を例にして説明すると、(AO)nで表されるポリアルキレングリコール鎖(1)の末端酸素原子と、Yで表される基中のカルボニル基とにより形成されるエステル結合部分が加水分解され、重合体の分子量(Mw等)が低下することになる。そのため、重量平均分子量(Mw)の低下率が小さいほど、耐加水分解性が高いといえる。
この観点から、表3及び図1よりMw低下率を比較すると、本発明のポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を用いて得た重合体BPT−127(実施例3)及び重合体BPT−128(実施例4)はいずれも、本発明の上記(i)又は(ii)の特定構造を有さない重合体BPT−107(参考例2)に比較して、Mw低下率が著しく小さい。その差は、例えば、84日経過後において約30%以上もある。この結果から、本発明のポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を用いることによって、重合体の耐加水分解性が顕著に改善され、よって、長期にわたってより安定的に性能を発揮できることが分かった。
【0162】
比較例1(F−1)
単量体溶液として、表4−1に示す量で、メタクリル酸ナトリウム(SMAA)、メタクリル酸(MAA)、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(平均エチレンオキシド付加数25モル、PGM25E)、3−メルカプトプロピオン酸(MPA)、及び、イオン交換水の溶液を調整した。
開始剤溶液として、表4−1に示す量で、過硫酸アンモニウム(APS、和光純薬製)及びイオン交換水の溶液を調整した。
ジムロート冷却管、テフロン(R)製の撹拌翼と撹拌シール付の撹拌器、窒素導入管、温度センサーを備えたガラス製反応容器にイオン交換水(350g)を仕込み、200rpmで撹拌下、窒素を200mL/分で導入しながら80℃まで加温した。
続いて上述の単量体溶液を4時間、開始剤溶液を5時間かけて反応容器中に滴下し、滴下完了後1時間反応80℃に保って重合反応を完結させた。室温まで冷却後、30%NaOH水溶液を加えてpH=7.0に調整し、比較重合体の水溶液を得た。GPC分析結果を表4−2に示す。
【0163】
【表4−1】

【0164】
【表4−2】

【0165】
<セメント分散性能の評価方法:モルタル試験>
試験例1〜5
モルタル試験は、温度が20℃±1℃、相対湿度が60%±10%の環境下で行った。
モルタル配合は、C/S/W=550/1350/220(g)とした。ただし、
C:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
S:セメント強さ試験用標準砂(セメント協会製)
W:本発明重合体又は比較重合体、及び、消泡剤のイオン交換水溶液
Wとして、表5に示した添加量の重合体水溶液を量り採り、消泡剤MA−404(ポゾリス物産製)を有姿で重合体固形分に対して10質量%加え、更にイオン交換水を加えて所定量とし、充分に均一溶解させた。表5における重合体の添加量は、セメント質量に対する重合体固形分の質量%で表されている。
ホバート型モルタルミキサー(型番N−50;ホバート社製)にステンレス製ビーター(撹拌羽根)を取り付け、C、Wを投入し、1速で30秒間混練した。更に1速で混練しながら、Sを30秒かけて投入した。S投入終了後、2連で30秒間混練した後、ミキサーを停止し、15秒間モルタルの掻き落としを行い、その後、75秒間静置した。75秒間静置後、更に60秒間2速で混練を行い、モルタルを調製した。
【0166】
モルタルを混練容器からポリエチレン製1L容器に移し、スパチュラで20回撹拌した後、直ちにフローテーブル(JIS R5201−1997に記載)に置かれたフローコーン(JIS R5201−1997に記載)に半量詰めて15回つき棒で突き、更にモルタルをフローコーンのすりきりいっぱいまで詰めて15回つき棒で突き、最後に不足分を補い、フローコーンの表面をならした。その後、直ちにフローコーンを垂直に引き上げ、広がったモルタルの直径(最も長い部分の直径(長径)及び前記長径に対して90度をなす部分の直径)を2箇所測定し、その平均値を0打フロー値とした。0打フロー値を測定後、直ちに15秒間に15回の落下運動を与え、広がったモルタルの直径(最も長い部分の直径(長径)及び前記長径に対して90度をなす部分の直径)を2箇所測定し、その平均値を15打フロー値とした。また、必要に応じてモルタル空気量の測定も行った。
なお、0打フロー値及び15打フロー値は、数値が大きいほど、分散性能が優れている。
【0167】
<モルタル空気量の測定法>
モルタルを500mLのガラス製メスシリンダーに約200mL詰め、径8mmの丸棒で突き、手で軽く振動させて粗い気泡を抜いた。更にモルタルを約200mL加えて同様に気泡を抜いた後、モルタルの体積と質量を測り、各材料の密度から空気量を計算した。
【0168】
【表5】

【0169】
表5において、「実施例」とは、実施例に相当する試験例であることを意味し、「比較例」とは、比較例に相当する試験例であることを意味する。なお、15打フロー値が大きいほど、重合体によるモルタル分散性能が高いことを示す。
表5の結果から、以下のことが分かった。
試験例2〜3で用いた本発明のポリアルキレングリコール鎖含有チオール重合体は、同一添加量(0.065%)では、試験例4で用いた比較重合体F−1より、15打フロー値が10mm以上大きくなった。また、比較重合体F−1の添加量を増やした試験結果(試験例5)から、比較重合体F−1を用いて15打フロー値を、試験例2〜3と同等の200mmにするには、添加量が0.0725%程度必要であることが分かる。つまり本発明の重合体は、比較重合体F−1に比較して10%少ない添加量(0.065/0.0725=90%)で同一のフロー値が得られるといえるため、セメント分散性が非常に高いことが分かった。
【0170】
また試験例1(参考例2で得た重合体BPT−107)と試験例2〜3(本発明の重合体BPT−127及び重合体BPT−128)とを比較すると、これらの性能差は殆どない。これは、重合体BPT−107が、重合体BPT−127及び重合体BPT−128が有する上記一般式(3)で表される構造に類似した構造を有し(但し、重合体BPT−107は、上記(i)又は(ii)の特定構造を有さない。)、主鎖に(AO)nで表される(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)を有することに起因するものと考えられる。なお、比較重合体F−1は、このような(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)を持たない通常の重合体、すなわち、上記一般式(3)中のZ部位のみに相当する重合体である。
しかし、上述した加水分解性試験結果から明らかなように、上記(i)又は(ii)の特定構造を有さない重合体BPT−107は、経時的に加水分解しやすいのに対し、本発明の重合体(重合体BPT−127及びBPT−128)は耐加水分解性が著しく高いため、長期にわたってより安定して高い分散性能を発揮できるという点で、本発明の重合体が極めて優れた効果を有するといえる。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】図1は、表3に記載のpH7での重量平均分子量(Mw)の経時低下率を、グラフ化したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレングリコール鎖を有するチオール化合物であって、
該チオール化合物は、ポリアルキレングリコール鎖が活性水素を3個以上有する化合物の残基に結合し、かつ該ポリアルキレングリコール鎖の他末端の少なくとも1つが、カルボニル基を有する基を介してメルカプト基に結合した構造を有し、
該ポリアルキレングリコール鎖の、カルボニル基を有する基側の末端の少なくとも一単位が、炭素数3以上のオキシアルキレン基であるか、又は、該カルボニル基を有する基が、カルボニル基と該カルボニル基に結合する第三級以上の炭素原子とを有するものであることを特徴とするポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物。
【請求項2】
前記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物は、下記一般式(1);
【化1】

(式中、Xは、活性水素を3個以上有する化合物の残基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。Yは、カルボニル基を有する基を表す。なお、AOで表されるオキシアルキレン基の末端酸素原子と、Yで表される基中のカルボニル基とにより、エステル結合が形成されることになる。nは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、5〜1000の数である。mは、1〜50の整数である。)で表される構造を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を製造する方法であって、
該製造方法は、活性水素を3個以上有する化合物にアルキレンオキシドを付加してなる化合物と、カルボキシル基を有するチオール化合物とを脱水縮合させる工程を含む
ことを特徴とするポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を用いて得られる
ことを特徴とするポリアルキレングリコール鎖含有チオール系重合体。
【請求項5】
請求項4に記載のポリアルキレングリコール鎖含有チオール系重合体を含む
ことを特徴とする分散剤。
【請求項6】
請求項4に記載のポリアルキレングリコール鎖含有チオール系重合体を含む
ことを特徴とするセメント混和剤。
【請求項7】
請求項4に記載のポリアルキレングリコール鎖含有チオール系重合体を含む
ことを特徴とするセメント組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−70428(P2010−70428A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241574(P2008−241574)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】