説明

ポリイソブテンの製造方法

本発明は、少なくとも75モル%の末端ビニリデン基を含有するポリイソブテンの製造方法に関する。前記方法は、イソブテン又はイソブテンを含有する炭化水素混合物を液相中で、組成(BF・L・L・L[式中、Lは、水、第1級C〜C−アルカノール及び/又は第2級C〜C−アルカノールを示し、Lは、少なくとも1種のアルデヒド及び/又はケトンを示し、Lは、少なくとも5個の炭素原子を有するエーテル、少なくとも6個の炭素原子を有する第2級アルカノール、少なくとも6個の炭素原子を有する第1級アルカノール及び/又は第3級アルコールを示す]の三フッ化ホウ素錯体触媒の存在下で重合させることにある。比b:aは0.9〜3.0の範囲であり、比c:aは0.01〜0.5の範囲であり、かつ比d:aは0〜1.0の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも75モル%の末端ビニリデン基の含有率を有するポリイソブテンの製造方法に関する。
【0002】
本出願において、末端ビニリデン基又は末端二重結合は、ポリイソブテン高分子内のその位置が一般式
【0003】
【化1】

[式中、Rは、ポリイソブテニル基である]により示される二重結合である。このポリイソブテン内に存在する二重結合の類型及び割合は、H又は13CのNMR分光法により測定することができる。
【0004】
かかる高反応性ポリイソブテンは、例えばDE−A−2702604号に記載されているように、燃料及び滑沢剤用の添加剤を製造するための中間体として使用される。慣用の官能化反応においては、2−メチル置換された末端ビニリデン基により極めて高い反応性が示される一方で、ネオペンチル置換又は更に高分子の中央方向に配された二重結合は、高分子内のその位置に依存し、あってもわずかな反応性を示すにすぎない。従って、分子内の末端ビニリデン基の割合は、本類型のポリイソブテンの極めて重要な品質基準である。
【0005】
US5286823号は、三フッ化ホウ素並びに3〜20個の炭素原子を有する第2級アルコール及び/又は2〜20個の炭素原子を有するエーテルの存在下でイソブテンをカチオン重合させることにより高反応性ポリイソブテンを製造する方法を記載している。
【0006】
WO93/10063号は、エーテルが少なくとも1個の第3級炭素原子を有し、これがエーテル酸素原子に結合された三フッ化ホウ素エーテラート錯体を開示している。この錯体は、ビニリデン基の含有率が高いポリマーのために、オレフィン、特にイソブテンを重合させるのに役立つものである。
【0007】
EP−A1026175号は、三フッ化ホウ素の錯体触媒、エーテル並びにアルコール及び/又は水を所定量で使用して、少なくとも80モル%の分子が末端ビニリデン構造を有するイソブテンポリマーを製造する方法を記載している。
【0008】
数ある要因の中で、達成可能なポリイソブテンの分子量は、使用されるオレフィンモノマーに対する三フッ化ホウ素錯体触媒の相対量に決定的に依存している。大量の触媒により低分子量が達成され、逆も同様である。低分子量のポリイソブテンの製造に必要な三フッ化ホウ素の量は、相当なコスト因子を占める。水相中に抽出される触媒失活用品の処理によっても、相当な廃水負荷量が伴う。従って、US6407186号及びWO02/40553号は、触媒を取り出して再循環させる方法を推奨している。
【0009】
本発明の課題は、末端ビニリデン二重結合の含有率が高いポリイソブテンの製造方法であって、所与の相対量の三フッ化ホウ素触媒で低分子量が得られるか又は所与の分子量を得るために触媒量を減らすことができる方法を提供することである。
【0010】
該課題は、イソブテン又はイソブテン含有炭化水素混合物を液相中で、組成
(BF・L・L・L
[式中、
− Lは、水、第1級C〜C−アルカノール及び/又は第2級C〜C−アルカノールであり、
− Lは、少なくとも1種のアルデヒド及び/又はケトンであり、
− Lは、少なくとも5個の炭素原子を有するエーテル、少なくとも6個の炭素原子を有する第2級アルカノール、少なくとも6個の炭素原子を有する第1級アルカノール及び/又は第3級アルカノールであり、
− b:a比は、0.9〜3.0、好ましくは1.1〜2.5の範囲内であり、
− c:a比は、0.01〜0.5、好ましくは0.04〜0.3の範囲内であり、
− d:a比は、0〜1.0、好ましくは0.1〜1、特に好ましくは0.1〜0.6の範囲内である]の三フッ化ホウ素錯体触媒の存在下で重合させることにより、少なくとも75モル%の末端ビニリデン二重結合含有率を有するポリイソブテンを製造する方法により解決されることを見出した。
【0011】
本発明にかかる方法に有用な供給原料(イソブテン原料)は、純イソブテン及び40質量%より高いイソブテン含有率を有するイソブテン含有炭化水素混合物、例えば分解炉からの低ブタジエンCラフィネート又はイソブタン脱水素のC留分の両方である。不活性溶剤、例えば飽和炭化水素、例えばペンタン、ヘキサン、イソオクタン又はハロゲン化炭化水素、例えばジクロロメタン又はトリクロロメタンを使用することもまた可能である。
【0012】
本発明にかかる方法において使用される触媒は、水、第1級C〜C−アルカノール及び第2級C〜C−アルカノールから選択された少なくとも1種の開始剤と、アルデヒド及びケトンから選択された少なくとも1種の調整剤と、場合により少なくとも5個の炭素原子を有するエーテル、少なくとも6個の炭素原子を有する第2級アルカノール、少なくとも6個の炭素原子を有する第1級アルカノール及び第3級アルカノールから選択された少なくとも1種の可溶化剤とを有する三フッ化ホウ素錯体である。この開始剤と調整剤との特定の組合せは、三フッ化ホウ素の重合活性に影響を及ぼし、その結果、第一に重合により低分子量のポリイソブテンが得られ、そして第二に、ポリイソブテン分子内部に配され、かつ反応性を有さないか又はわずかに有するにすぎない二重結合へ末端二重結合を異性化させることに関する三フッ化ホウ素の異性化活性が低減される。“開始剤”、“調整剤”及び“可溶化剤”という語は、説明の目的のためにすぎない。
【0013】
開始剤Lは、重大な立体障害なしで酸素原子に結合された水素原子を有する化合物である。これらの活性水素原子はポリイソブテン鎖の生長の開始時に取り込まれるので、これらは“開始剤”と称される。好適なLの例は、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール及び/又は1−プロパノールである。これらの中では、メタノールが特に好ましい。
【0014】
本発明によれば、調整剤Lは、通例、1〜20個、好ましくは2〜10個の炭素原子を有し、好ましくはカルボニル基以外の官能基が存在しないアルデヒド及び/又はケトンである。好適なLの例は、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン及びジエチルケトンである。アセトンが特に好ましい。
【0015】
可溶化剤Lは、可溶化作用を有し、かつ出発物質中での触媒錯体の可溶性を増加させる。これらは、少なくとも5個の炭素原子又は長鎖を有するエーテル及び/又はイソブテン分子の進入に対して遮蔽を提供する立体障害型アルコールである。5〜20個の炭素原子を有するジアルキルエーテル、6〜20個の炭素原子を有する第2級アルカノール、6〜20個の炭素原子を有する第1級アルカノール及び/又は第3級C〜C20−アルカノールを使用することが好ましい。第1級アルカノールを使用する場合には、これらは好ましくはβ−分枝、即ちヒドロキシル基を提供する炭素原子に隣接する炭素原子での分枝を有する。好適な代表例は、例えばメチルt−ブチルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジ−n−ヘキシルエーテル、ジオクチルエーテル、2−エチルヘキサノール、2−プロピルヘプタノール、プロピレン二量体、三量体及び四量体のオキソアルコール、ブテン二量体及び三量体のオキソアルコール、反応条件下で液体であれば直鎖状1−アルコール(例えば、Alfol(R)法により得られる)、例えばn−ヘキサノール又はn−オクタノール、並びにt−ブタノールから選択される。これらの中では、2−エチルヘキサノールが好ましい。
【0016】
三フッ化ホウ素錯体触媒は、EP−A628575号に記載されているように、使用前に予め活性化させることができ、又は重合反応器内で現場で生成させることができる。三フッ化ホウ素錯体触媒の製造に使用される原料は、有利には気体三フッ化ホウ素であり、これは少量の二酸化硫黄及びSiFを依然として含有する技術基準の三フッ化ホウ素(純度:96.5質量%)でよいが、高純度の三フッ化ホウ素(純度:99.5質量%)を使用することが好ましい。特に、四フッ化ケイ素不含の触媒製造用三フッ化ホウ素を使用することが好ましい。
【0017】
錯体触媒は、三フッ化ホウ素として算出する場合、オレフィンモノマー1モル当たり0.1〜25ミリモル、特に0.5〜10ミリモルで使用することが好ましい。
【0018】
イソブテンは、連続法により重合させることが好ましい。この目的のために、慣用の反応器、例えば管型反応器、管束反応器又は撹拌槽を使用することができる。この重合は、好ましくは、ループ型反応器、即ち反応混合物の一定の循環を有する管型反応器又は管束反応器内で起こし、かつ供給量と循環量との比F/Cは、一般的に1:5〜1:500の範囲内、好ましくは1:10〜1:200(容量/容量)の範囲内で変えることができる。
【0019】
重合は、有利には0℃未満の温度、好ましくは0℃〜−40℃の範囲内、特に好ましくは0℃〜−30℃の範囲内、殊に好ましくは−10℃〜−30℃の範囲内の温度で起こす。一般的に、重合は0.5〜20バールの範囲内の圧力(絶対圧)で実施する。この圧力範囲の選択は、主としてプロセス工学的な条件により決定される。例えば、攪拌槽の場合においては、蒸発冷却による、つまりは自圧、即ち減圧下で機能させることが推奨されている一方で、循環反応器(ループ型反応器)は過圧で良好に機能する。同時に、圧力及び乱流により、三フッ化ホウ素の混和が促進されるので、この反応器の類型が好ましい。しかしながら、圧力の選択は、一般的に重合反応の結果に対して重要ではない。
【0020】
重合は、等温条件下で実施することが好ましい。重合反応は発熱して進行するので、この場合の重合熱を除去しなければならない。このことは一般的に、例えば冷却剤としての液体アンモニアを操作可能な冷却装置によりなされる。別の可能性は、重合熱を反応器の生成物側から蒸発冷却することにより除去することである。このことは、イソブテン及び/又はイソブテン供給原料の他の揮発性成分の蒸発によりなされる。この冷却方法は、それぞれの場合に使用される反応器の類型に依存する。管型反応器は、好ましくは外部冷却により冷却し、かつ反応管は、例えば沸騰アンモニアを有する冷却ジャケットにより冷却する。攪拌槽反応器は、好ましくは、内部冷却、例えば冷却コイルにより温度調節するか又は生成物側で蒸発冷却することにより温度調節する。
【0021】
反応条件及び製造すべきポリマーの所望の特性に応じて、重合させるべきイソブテンの反応器内の滞留時間は、1〜120分の範囲内、好ましくは5〜60分の範囲内である。
【0022】
後処理のために、反応流出液は有利には、重合触媒を失活させることにより重合を完了させる媒質中に導く。この目的のために、例えば、水、アルコール、エーテル、アセトニトリル、アンモニア、アミン若しくは無機塩基水溶液、例えばアルカリ金属の水酸化物溶液又はアルカリ土類金属の水酸化物溶液、これらの金属の炭酸塩溶液などを使用することができる。水を20〜40℃の温度で、例えば圧力下でのスクラビングの形態で用いて完了させることが好ましい。使用される水の温度は、相分離が生ずる所望の混合温度に依存する。後処理の更なる過程においては、場合により重合混合物に1回以上の抽出を施し、触媒残留物、通例、メタノールを除去するか又は水によるスクラビングを施す。水によるスクラビングにおいては、触媒とは別に、重合の過程で形成されたフッ化水素もまた除去される。続いて、未変換のイソブテン、溶剤及び揮発性イソブテンオリゴマーを蒸留して除去する。残液は、例えば薄膜蒸発器、流下薄膜型蒸発器、アニュラーギャップ型蒸発器又はサンベイ(Sambay)蒸発器を使用して、場合により蒸気又は窒素ガスを添加して、溶剤の残留物及びモノマーの残留物から遊離させる。
【0023】
純イソブテンを出発物質として使用する際には、イソブテンオリゴマー及び溶剤と同様に、これを再循環させて重合させてよい。イソブテン含有C留分を使用する際には、未変換のイソブテン及び残留しているC炭化水素は、一般的に再循環させるのではなく、逆に他の使用、例えば低分子量ポリイソブテン又はメチルt−ブチルエーテルの製造に供給する。揮発性のフッ素含有副生物、例えばフッ化s−ブチル及びフッ化t−ブチルは、ポリイソブテンから他の炭化水素と一緒に除去し、そしてこれらの炭化水素から蒸留又は抽出して分離することができる。
【0024】
本発明にかかる方法により、高反応性ポリイソブテンを純イソブテン及びイソブテン含有炭化水素混合物の両方から製造することが可能になる。本発明にかかる方法により、数平均分子量は、500〜50000ダルトン、好ましくは500〜5000ダルトン、特に好ましくは500〜2500ダルトンの範囲内になり、末端二重結合含有率は少なくとも75モル%、好ましくは少なくとも78モル%、特に好ましくは少なくとも80モル%になる。更に、得られたポリイソブテンは、分子量分布が狭いことを特徴とする。これらは、好ましくは、分散度M/Mが1.3〜5、特に1.3〜2の範囲内である。
【0025】
本発明を、以下の実施例により説明する。
【0026】
実施例
歯車ポンプにより反応器内容物が1000l/hで循環される、内径6mm及び長さ7.1mのTefron製ホースからなる循環反応器を使用した。管及びポンプの容量は、200mlであった。Tefron製ホース及びポンプヘッドを、−25℃の温度の冷浴中に配置した。使用される供給物は、ナフサを用いて稼働された蒸気分解炉に由来するC留分の選択的なブタジエン水素化により得られた以下の組成(質量%)の炭化水素流であった:
イソブタン 3
n−ブタン 14
イソブテン 28
1−ブテン 23
シス−2−ブテン 11
トランス−2−ブテン 21
ブタジエン 0.050
【0027】
供給速度は、700g/hであった。供給物を、3Åの分子篩を介して、含水率が3ppm未満になるまで5℃で乾燥させ、−25℃まで予冷して、そして循環反応器に供給した。BF及び錯化剤を、以下の表中に規定された量で循環ポンプの吸入側で循環反応器内に直接供給した。この流出液を、水のアリコートと共に循環反応器を出た後に直ちに混合ポンプ内で急冷し、水相を除去し、そして有機相を3Åの分子篩を介して乾燥させた。低沸点溶剤及びイソブテンオリゴマーを220℃及び2ミリバールで除去した後、得られた残留物の分子量M、M及びビニリデン基含有率を測定した。
【0028】
結果を以下の表に記載する。全実施例の反応器内部温度は約−18℃であり、かつ定常状態のイソブテンの濃度は約4.1質量%であった。
【0029】
第1表
【0030】
【表1】

【0031】
この結果は、少量のアセトンを使用する場合には、得られるポリイソブテンの特性を損なうことなくBFの使用を減らすことができることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソブテン又はイソブテン含有炭化水素混合物を液相中で、組成
(BF・L・L・L
[式中、
− Lは、水、第1級C〜C−アルカノール及び/又は第2級C〜C−アルカノールであり、
− Lは、少なくとも1種のアルデヒド及び/又はケトンであり、
− Lは、少なくとも5個の炭素原子を有するエーテル、少なくとも6個の炭素原子を有する第2級アルカノール、少なくとも6個の炭素原子を有する第1級アルカノール及び/又は第3級アルカノールであり、
− b:a比は、0.9〜3.0の範囲内であり、
− c:a比は、0.01〜0.5の範囲内であり、
− d:a比は、0〜1.0の範囲内である]の三フッ化ホウ素錯体触媒の存在下で重合させることにより、少なくとも75モル%の末端ビニリデン基の含有率を有するポリイソブテンを製造する方法。
【請求項2】
が、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール及び1−プロパノールから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
が、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン及びジエチルケトンから選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
d:a比が、0.1〜1の範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
が、メチルt−ブチルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジ−n−ヘキシルエーテル及びジオクチルエーテルから選択されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
が、β−分枝を有する第1級アルコールから選択されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
が、2−エチルヘキサノール、2−プロピルヘプタノール、プロピレン二量体、三量体及び四量体のオキソアルコール並びにブテン二量体及び三量体のオキソアルコールから選択されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
が、t−ブタノールであることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
が、n−ヘキサノール及びn−オクタノールから選択されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
500〜2500ダルトンの数平均分子量Mを有するポリイソブテンを製造するための、請求項1から9までの何れか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2006−513313(P2006−513313A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−518410(P2005−518410)
【出願日】平成16年1月23日(2004.1.23)
【国際出願番号】PCT/EP2004/000569
【国際公開番号】WO2004/065432
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】