説明

ポリイミドフィルムおよび該フィルムの製造方法

【課題】製造時における溶剤や触媒等の副原料由来のフィルムへの着色を抑制することで着色性の強い副原料の使用を可能とし、副原料の種類に影響されずポリマー構造本来の透明性と耐熱性を両立したポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物を反応させて得られるポリアミド酸に、三級アミンからなるイミド化触媒、脂肪族酸無水物からなる脱水剤、リン酸エステルを混合したドープ液をイミド化して得られる、YIが25以下、かつヘイズが5%以下のポリイミドフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低着色のポリイミドフィルムに関する。特に、適切な添加剤を使用することにより、溶剤や触媒などの副原料に起因する製造時の着色を抑えることができ、耐熱性と共に低着色に対する要求が高い製品又は部材を形成するための材料(例えば、表示装置ガラス代替など)として好適に利用できるポリイミドフィルムとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶や有機EL、電子ペーパー等のディスプレイや、太陽電池、タッチパネル等のエレクトロニクスの急速な進歩に伴い、デバイスの薄型化や軽量化、更には、フレキシブル化が要求されるようになってきた。これらのデバイスにはガラス板上に様々な電子素子、例えば、薄型トランジスタや透明電極等が形成されているが、このガラス材料をフィルム材料に変えることにより、パネル自体のフレキシブル化、薄型化や軽量化が図れる。本用途に使用するフィルム材料には、電子素子の形成プロセスにおける耐熱性が要求される。
【0003】
耐熱性に優れる一般的なフィルム材料としてはポリイミドフィルムが挙げられる。ポリイミドフィルムはその耐熱性、絶縁性を生かし、フレキシブルプリント配線板を代表とする電子機器・半導体用途に広く利用されている。しかしながらポリイミドフィルムは一般的に黄色、褐色に着色しており、またガラスなどと比較して線膨張係数が高いため、ガラス代替として使用するためには透明性の向上、低線膨張係数の実現が課題であった。これら課題を解決するための試みは従来からなされており、例えば、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンから得られるポリイミドは、耐熱性や線膨張係数に加えて透明性にも優れており、これまでいくつかの報告例がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一般的なポリイミドフィルムの製造法としてはジアミンと酸二無水物を有機溶剤中で反応させて生成するポリアミド酸を支持体にキャストしてフィルム状に成形し、高温で加熱することによりイミド化して得られる。また、イミド化反応を促進して生産性を向上させるため、三級アミンからなるイミド化触媒と脂肪族酸無水物からなる脱水剤をポリアミド酸に添加する手段も用いられている。また、例えば、ポリイミドフィルムのハロゲンフリーの難燃化手段として、リン酸化合物を用いる等特性を改良するために更なる添加剤も用いられている(例えば特許文献2参照)。
【0005】
ポリイミドの透明性や着色性は分子の一次構造でほぼ決定されるので、一般的なポリイミドフィルムはもともと黄色・褐色に着色しており、添加剤による透明性、着色性の改良については限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5071997号公報
【特許文献2】特開2006−37106
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、副原料由来の着色が抑えられたポリイミドフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、ポリイミドフィルムの製膜時にリン酸エステルを用いることにより、得られるフィルムのYIを低減できることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下の構成を有するものである。
【0009】
1) 有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物を反応させて得られる下記式一般(1)で表される繰り返し単位を有するポリアミド酸に、三級アミンからなるイミド化触媒、酸無水物からなる脱水剤、リン酸エステルを混合したドープ液をイミド化して得られる、YIが23以下、かつヘイズが5%以下のポリイミドフィルム。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中Rは4価の有機基を、Rは2価の有機基を示す。)
2) Rは下記一般式(2)から選択される4価の有機基であることを特徴とする、1)記載のポリイミドフィルム。
【0012】
【化2】

【0013】
3) Rは下記一般式(3)から選択される2価のビフェニレン基であることを特徴とする、1)または2)に記載のポリイミドフィルム。
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、Rは炭素数1〜16のアルキル基、炭素数1〜16のハロゲン化アルキル基、あるいはハロゲンを示す。)
4) 有機溶剤としてN,N−ジメチルホルムアミドを使用することを特徴とする、1)〜3)のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【0016】
5) 三級アミンとして、β−ピコリン、イソキノリン、3,5−ジエチルピリジンのいずれかを使用することを特徴とする、1)〜4)のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【0017】
6) リン酸エステルをポリアミド酸の固形分重量に対して0.3〜30重量%の割合で添加することを特徴とする、1)〜5)のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【0018】
7) 有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物を反応させて得られるポリアミド酸に、三級アミンからなるイミド化触媒、酸無水物からなる脱水剤、リン酸エステルを混合してドープ液を得、該ドープ液をイミド化することを特徴とする1)〜6)のいずれかに記載のYIが23以下、かつヘイズが5%以下のポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明により得られるポリイミドフィルムは、リン酸エステルを使用することで着色が抑えられており、透明性と耐熱性が同時に求められる用途に好適に用いられる。リン酸エステルは本来、難燃性を付与するために使用されており、本発明に示す着色抑制効果があることは今まで確認されていなかった。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態について、以下に説明する。
<ポリアミド酸>
本発明に係るポリイミドフィルムは、有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物を反応させて得られる下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアミド酸をイミド化して得られる。
【0021】
【化4】

【0022】
(式中Rは4価の有機基を、Rは2価の有機基を示す。)
ポリアミド酸の製造方法としては公知のあらゆる方法を用いることができる。通常、芳香族酸二無水物と芳香族ジアミンを実質的等モル量で有機溶媒中に溶解させ、得られる混合溶液を制御された温度条件下で上記酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで撹拌することによって製造される。
【0023】
式(1)中のRは、下記一般式(2)から選択される4価の有機基であることが好ましい。式(2)に挙げる4価の有機基のうち、特にベンゼンもしくはビフェニル骨格が好ましい。ベンゼンもしくはビフェニル骨格を有する具体的化合物としてはそれぞれ、ピロメリット酸二無水物、および、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を挙げることができるが、中でも3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましい。式(2)に挙げる4価の有機基を有する酸二無水物は単独で用いても良いし、2種以上を併用して用いることもできる。
【0024】
【化5】

【0025】
式(1)中のRは、下記一般式(3)から選択される2価のビフェニレン基であることが好ましい。
【0026】
【化6】

【0027】
(式中、Rは炭素数1〜16のアルキル基、炭素数1〜16のハロゲン化アルキル基、あるいはハロゲンを示す。)。
は得られるポリイミドの透明性、耐熱性、及び寸法安定性から、ハロゲンやハロゲン化アルキルなどの電子吸引基が好ましく、ハロゲンやハロゲン化アルキルのハロゲンとしてはフッ素が好ましく、中でもフッ素原子もしくはトリフルオロメチル基、特にはトリフルオロメチル基が好ましい。式(3)に挙げる2価の有機基を有するジアミンは単独で用いても良いし、2種以上を併用して用いることもできる。
【0028】
ポリアミド酸の重合に使用する溶剤としては従来公知の有機溶剤を使用可能であるが、原料ならびに生成するポリアミド酸の溶解性を考慮すると、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドといったアミド系溶剤が好適に用いられ得る。更にコストの点を考慮すると、N,N−ジメチルホルムアミドが好ましい。
【0029】
着色性が少なく透明性の高いポリイミドではポリアミド酸の重合にN,N−ジメチルホルムアミドを使用した場合、N,N−ジメチルアセトアミドを使用した場合に比べて得られるフィルムのYIが高くなる。しかし、本発明者らは鋭意検討を行った結果、N,N−ジメチルホルムアミドを使用しても得られるフィルムのYIを抑えられることを見出した。
【0030】
合成時のポリアミド酸溶液の濃度については、濃度が低い方がポリアミド酸溶液に含まれる溶媒量が多くなり、イミド化促進剤との混合性が向上するため好ましい。しかし、濃度が低すぎると、厚めのフィルムを作製することが困難となる。ポリアミド酸溶液の濃度は、5〜30wt%が好ましく、10〜20wt%がより好ましい。
【0031】
また、ポリアミド酸溶液の粘度については、低い方がイミド化促進剤との混合性が向上するため好ましい。しかし、粘度を低くすることはポリアミド酸の分子量を低下させることに繋がるため、得られるフィルムが所望の機械強度を発現しなくなる場合がある。混合性とフィルム強度確保の両立を考えた場合、ポリアミド酸溶液の粘度は、1000〜3500ポイズが好ましく、1500〜3000ポイズがより好ましい。一方、ポリアミド酸の粘度は濃度にも左右され、同じ分子量ならば、濃度が低い方が粘度も低くなる。そのため、所望の粘度となるようにポリアミド酸の濃度を調整して対応しても良い。但し、十分な強度を有するフィルムを得るためには、ポリアミド酸の重量平均分子量は最低でも10万以上にしておくことが好ましい。
【0032】
<イミド化促進剤>
本発明に係るポリイミドフィルムは、上記ポリアミド酸に三級アミンからなるイミド化触媒、酸無水物からなる脱水剤を混合したイミド化促進剤を添加することにより得られる。上記イミド化促進剤を添加せず加熱のみでイミド化する方法もあるが、得られるフィルムの線膨張係数やヒステリシスが悪化する傾向にあり、また生産性にも劣るため適さない。イミド化触媒としては、脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、複素環式第三級アミン等の第三級アミンが好適に用いられ得る。中でも、触媒能力とのバランスから、β−ピコリン、イソキノリン、3,5−ジエチルピリジンのいずれかを使用することが好ましい。これら触媒は、単独で、あるいは混合して使用するのが好ましい。
【0033】
脱水剤としては、無水酢酸などの脂肪族酸無水物、およびフタル酸無水物などの芳香族酸無水物などが挙げられる。これら脱水剤は、単独で、あるいは混合して使用することが好ましい。中でもコスト、入手のし易さ、溶解性などの点から脂肪族酸無水物が好ましい。
【0034】
イミド化触媒ならびに脱水剤の添加量については、量を増やすことにより得られるフィルムの線膨張係数が若干低くなる傾向にある。また、イミド化に要する時間が短くなるため生産性が向上する。しかし、過剰量ではイミド化の進行速度が速くなり過ぎて長時間の連続的なキャストが困難となる場合がある。逆に過少量では所望のフィルム特性が得られない、またはイミド化が進みにくくなり生産性が低下する場合がある。イミド化促進剤の添加量については、得られるフィルムの特性と生産条件を考慮して適宜設定すれば良い。
【0035】
脱水剤とイミド化触媒の量をあえて例示すれば、脱水剤モル数/ポリアミド酸中アミド基モル数=10〜0.01が好ましく、イミド化触媒/ポリアミド酸中アミド基モル数=10〜0.01が好ましい。更に好ましくは、脱水剤モル数/ポリアミド酸中アミド基モル数=5〜0.5が好ましく、イミド化触媒/ポリアミド酸中アミド基モル数=5〜0.5が好ましい。
【0036】
<リン酸エステル>
本発明者らは鋭意検討を行った結果、リン酸エステルを添加することで、得られるポリイミドフィルムのYIを低減できることを見出した。リン酸エステルは市販されているものを適宜選択して使用可能であるが、分子量が小さいものはイミド化時の加熱により早期に分解・揮発してしまい、YI抑制効果が不十分となる場合がある。従って、使用するリン酸エステルの分子量は400以上であることが好ましい。逆に分子量が大きすぎるとポリアミド酸とイミド化促進剤との混合時に相分離を起こし、フィルム特性が均一でなくなる場合がある。従って、使用するリン酸エステルの分子量は800以下であることが好ましい。市販されているリン酸エステルとしては、例えばFP−600、FP−700(株式会社アデカ製)が好適に用いられ得る。
【0037】
一方、リン酸エステルの添加量については、少なすぎるとYI抑制効果が不十分となる可能性があり、逆に多すぎると焼成後のフィルム中に多く残留し可塑剤効果によりフィルムの線膨張係数が大幅に高くなる場合がある。添加量としてはポリアミド酸の固形分重量に対して0.2〜7.0重量%の割合で添加することが好ましく、0.4〜5.0重量%の割合で添加することが更に好ましい。
【0038】
ポリアミド酸とイミド化促進剤、リン酸エステルの混合方法としては従来公知の装置・方式を使用すれば良いが、反応系内の温度が高いとイミド化反応が急激に進みすぎてフィルム化が困難となるため、反応系内全体を冷却しながら混合することが好ましい。また、三成分をそれぞれ単独で調製して最後に混合しても良いし、リン酸エステルをポリアミド酸もしくはイミド化促進剤のどちらかと先に混合しておいても良い。
【0039】
<フィルム化>
ポリアミド酸、イミド化促進剤、リン酸エステルを混合して得られるドープ液をフィルム状に成形することにより、本発明のポリイミドフィルムが得られる。成形方法としては従来公知の装置・方式が使用可能である。好適な例を挙げると、回転しているドラム、エンドレスベルト等の支持体上に、上記ドープ液をTダイ等から押し出してキャストする。キャストしたポリアミド酸溶液を支持体上で加熱して、溶剤を揮発させると共に、ある程度イミド化を進行させ、自己支持性を持ったゲルフィルムを得ることができる。
【0040】
このゲルフィルムを支持体から引き剥がし、幅方向の両端を固定した状態で加熱炉を通し、残っている溶剤の除去ならびにイミド化を完了させることにより、ポリイミドフィルムが得られる。ゲルフィルムの状態での溶剤残存率ならびにイミド化の程度、加熱炉の温度設定、加熱時間については、ポリアミド酸の種類、得られるポリイミドフィルムの厚み、物性ばらつき等を鑑みて、適宜調整すれば良い。
【0041】
本発明に係るポリイミドフィルムには、長尺での搬送性や巻き取り時のブロッキングを防ぐため、アンチブロッキング材として無機粒子を添加しても良い。無機粒子の材質は特に限定されないが、粒子径の大きい無機粒子を添加すると透過光を散乱してフィルムのヘイズが高くなるため、無機粒子のサイズは100nm以下であることが好ましい。無機粒子の添加量は得られるフィルムのヘイズを勘案しながら適宜選択し得る。添加方法についてもポリアミド酸の重合時にポリアミド酸溶液に添加しても良いし、イミド化促進剤の調合時にイミド化促進剤に添加しても良いし、ポリアミド酸とイミド化促進剤とリン酸エステルの混合時に添加しても良い。
【0042】
本発明のポリイミドフィルムは上記手段により、副原料の影響を受けることなく、透明性と耐熱性の両立が可能となる。具体的にはYIが23以下、かつヘイズが6%以下となる。フィルム部材として好適に使用するためには、YIが19以下、かつヘイズが4%以下となることが好ましい。
【0043】
YIとヘイズが上記範囲内であればフィルム部材用途として好適に用いられ得るが、更に低減する必要性がある場合は重合溶媒、イミド化促進剤、焼成条件を適宜変更することで達成し得る。具体的には、イミド化促進剤として触媒に使用する三級アミンの中でもβ−ピコリン、3,5−ジエチルピリジン用いることで更なるYIとヘイズの改良を行うことが可能である。特にはβ−ピコリンを用いることでYIが17.5以下、ヘイズが2.8以下と成すことが出来る。
【0044】
本発明に係るポリイミドフィルムは、耐熱性、絶縁性等のポリイミド本来の特性に加えて、高い透明性と寸法安定性を有することから、これらの特性が有効とされる分野・製品、例えば、無機薄膜や無機微細構造物を表面に有するフィルム部材、例えば、シリコン、もしくは金属酸化物、もしくは有機物から形成される薄膜トランジスター用フィルム、カラーフィルターフィルム、透明電極付きフィルム、ガスバリアフィルム、無機ガラスもしくは有機ガラスを積層したフィルムなどに適応できる。これらの部材は、例えば、液晶ディスプレイ用フィルム、有機EL等フィルム、電子ペーパー用フィルム、太陽電池用フィルム、タッチパネル用フィルムなどに用いることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例におけるポリイミドフィルムのYI、ヘイズの評価法は次の通りである。
【0046】
<YI>
フィルムのYIは日本電色工業株式会社製HANDY COLORIMETER NR−3000を用い測定した。測定は18cm角サイズのサンプルについて位置を変えて五箇所測定し、平均値をフィルムの測定値とした。
【0047】
<ヘイズ>
フィルムのヘイズは日本電色工業株式会社製ヘイズメーターNDH5000を用いて実施した。測定は18cm角サイズのサンプルについて位置を変えて五箇所測定し、平均値をフィルムの測定値とした。
【0048】
<ポリアミド酸分子量>
ポリアミド酸の重量平均分子量(Mw)は、Waters製GPCを用いて次の条件で測定した:(カラム:Shodex製 KD−806M 2本、温度60℃、検出器:RI、流量:1ml/分、展開液:DMF(臭化リチウム0.03M、リン酸0.03M)、試料濃度:0.2wt%、注入量:20μl、基準物質:ポリエチレンオキサイド)。
【0049】
(合成例1;ポリアミド酸溶液の合成)
窒素雰囲気下、20℃に保持した反応器中にN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFという)758.5gを添加し、撹拌しながら3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAという)95.8gを添加した。撹拌を続けながら2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以下、TFMBという)83.4gを添加した。2時間撹拌を続け、溶け残りがなくなったことを目視で確認してからTFMBを17.7g添加し、更に1時間撹拌した。TFMBが固形分7wt%の濃度でDMFに溶解した溶液を別途調製し、この溶液41.6gを反応系に徐々に全量添加した。添加終了後、40時間撹拌を続け、粘度2000ポイズのポリアミド酸溶液を得た。ポリアミド酸の重量平均分子量は12万であった。
【0050】
(合成例2;ポリアミド酸溶液の合成)
溶剤としてDMFの代わりにN,N−ジメチルアセトアミド(以下、DMAcという)を使用する以外は合成例1と同様の操作を行い、粘度2000ポイズのポリアミド酸溶液を得た。ポリアミド酸の重量平均分子量は12万であった。
【0051】
(実施例1)
合成例1で得られたポリアミド酸溶液に、無水酢酸/β−ピコリン/DMF(重量比35/7/8)からなるイミド化促進剤をポリアミド酸溶液に対して重量比35%、リン酸エステル(株式会社アデカ製 FP−600、分子量600)をポリアミド酸(ポリアミド酸溶液の固形分、以下同じ)に対して重量比0.5%添加し、連続的にミキサーで撹拌しTダイから押出してステンレス製のエンドレスベルト上に流延した。この樹脂膜を80℃×360秒加熱した後、エンドレスベルトから自己支持性のゲル膜を引き剥がしてテンタークリップに固定し、150℃、200℃、250℃、300℃で各5分ずつ乾燥・イミド化させ、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0052】
(実施例2)
リン酸エステル(株式会社アデカ製 FP−700、分子量700)を使用する以外は実施例1と同様の操作を行い、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0053】
(実施例3)
リン酸エステル(株式会社アデカ製 PFR−2、分子量574)を使用する以外は実施例1と同様の操作を行い、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0054】
(実施例4)
リン酸エステルの添加量をポリアミド酸に対して重量比4%で添加する以外は実施例1と同様の操作を行い、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0055】
(実施例5)
合成例1で得られたポリアミド酸溶液に、無水酢酸/イソキノリン/DMF(重量比24/6/20)からなるイミド化促進剤をポリアミド酸溶液に対して重量比35%、リン酸エステル(株式会社アデカ製 FP−600)をポリアミド酸に対して重量比3%添加し、連続的にミキサーで撹拌しTダイから押出してステンレス製のエンドレスベルト上に流延した。この樹脂膜を80℃×360秒加熱した後、エンドレスベルトから自己支持性のゲル膜を引き剥がしてテンタークリップに固定し、150℃、200℃、250℃、300℃で各5分ずつ乾燥・イミド化させ、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0056】
(実施例6)
合成例1で得られたポリアミド酸溶液に、無水酢酸/3,5−ジエチルピリジン/DMF(重量比20/4/26)からなるイミド化促進剤をポリアミド酸溶液に対して重量比35%、リン酸エステル(株式会社アデカ製 FP−600)をポリアミド酸に対して重量比3%添加し、連続的にミキサーで撹拌しTダイから押出してステンレス製のエンドレスベルト上に流延した。この樹脂膜を80℃×360秒加熱した後、エンドレスベルトから自己支持性のゲル膜を引き剥がしてテンタークリップに固定し、150℃、200℃、250℃、300℃で各5分ずつ乾燥・イミド化させ、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0057】
(比較例1)
リン酸エステルを添加しない以外は実施例1と同様の操作を行い、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0058】
(比較例2)
リン酸エステルを添加しない以外は実施例5と同様の操作を行い、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0059】
(比較例3)
リン酸エステルを添加しない以外は実施例6と同様の操作を行い、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0060】
(参考例1)
合成例2で得られたポリアミド酸溶液に、無水酢酸/β−ピコリン/DMAc(重量比35/7/8)からなるイミド化促進剤をポリアミド酸溶液に対して重量比35%添加し、連続的にミキサーで撹拌しTダイから押出してステンレス製のエンドレスベルト上に流延した。この樹脂膜を80℃×360秒加熱した後、エンドレスベルトから自己支持性のゲル膜を引き剥がしてテンタークリップに固定し、150℃、200℃、250℃、300℃で各5分ずつ乾燥・イミド化させ、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0061】
(参考例2)
合成例2で得られたポリアミド酸溶液に、無水酢酸/イソキノリン/DMAc(重量比24/6/20)からなるイミド化促進剤をポリアミド酸溶液に対して重量比35%添加し、連続的にミキサーで撹拌しTダイから押出してステンレス製のエンドレスベルト上に流延した。この樹脂膜を80℃×360秒加熱した後、エンドレスベルトから自己支持性のゲル膜を引き剥がしてテンタークリップに固定し、150℃、200℃、250℃、300℃で各5分ずつ乾燥・イミド化させ、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0062】
(参考例3)
合成例2で得られたポリアミド酸溶液に、無水酢酸/3,5−ジエチルピリジン/DMF(重量比20/4/26)からなるイミド化促進剤をポリアミド酸溶液に対して重量比35%添加し、連続的にミキサーで撹拌しTダイから押出してステンレス製のエンドレスベルト上に流延した。この樹脂膜を80℃×360秒加熱した後、エンドレスベルトから自己支持性のゲル膜を引き剥がしてテンタークリップに固定し、150℃、200℃、250℃、300℃で各5分ずつ乾燥・イミド化させ、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0063】
得られたフィルムの評価結果を表1に示す。フィルム作製時にリン酸エステルを添加した実施例のフィルムは、添加しない比較例のフィルムに比較してYIとヘイズが改善する結果となった。特にYIは顕著に改善している。
また、イソキノリンや3,5−ジエチルピリジンといったイミド化触媒はそれ単独でも着色しており、得られるフィルムのYIを悪化させるが、リン酸エステルを添加することにより改善効果が確認されている。
【0064】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物を反応させて得られる下記式一般(1)で表される繰り返し単位を有するポリアミド酸に、三級アミンからなるイミド化触媒、酸無水物からなる脱水剤、リン酸エステルを混合したドープ液をイミド化して得られる、YIが23以下、かつヘイズが5%以下のポリイミドフィルム。
【化1】

(式中Rは4価の有機基を、Rは2価の有機基を示す。)
【請求項2】
は下記一般式(2)から選択される4価の有機基であることを特徴とする、請求項1記載のポリイミドフィルム。
【化2】

【請求項3】
は下記一般式(3)から選択される2価のビフェニレン基であることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリイミドフィルム。
【化3】

(式中、Rは炭素数1〜16のアルキル基、炭素数1〜16のハロゲン化アルキル基、あるいはハロゲンを示す。)
【請求項4】
有機溶剤としてN,N−ジメチルホルムアミドを使用することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
三級アミンとして、β−ピコリン、イソキノリン、3,5−ジエチルピリジンのいずれかを使用することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項6】
リン酸エステルをポリアミド酸の固形分重量に対して0.3〜30重量%の割合で添加することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項7】
有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物を反応させて得られるポリアミド酸に、三級アミンからなるイミド化触媒、酸無水物からなる脱水剤、リン酸エステルを混合してドープ液を得、該ドープ液をイミド化することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のYIが23以下、かつヘイズが5%以下のポリイミドフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−41473(P2012−41473A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185077(P2010−185077)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】