説明

ポリイミド前駆体、ポリイミド、およびジアミン

【課題】 本発明は、光透過性に優れるポリイミドが得られるポリイミド前駆体、及び光透過性に優れるポリイミドを提供することを目的とする。さらにこれらポリイミド前駆体またはポリイミドが得られる新規なジアミンを提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の第一は、テトラカルボン酸成分と、下記化学式(1)で示されるジアミン化合物を含むジアミン成分とを反応させて得られるポリイミド前駆体に関する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリイミド前駆体及びポリイミドに関するものである。また、ポリイミド前駆体又はポリイミドの製造に特に好適な新規ジアミンに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、フィルムに成形して、電気・電子の基板部材、カバー部材として用いられている。またポリイミドは、ポリイミド前駆体として半導体、各種金属材料などの表面保護膜や層間絶縁膜としてコーティング材として用いられている。
特許文献1には、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを含む芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物を反応させて得られるポリアミド酸を、イミド化して得られるポリイミドフィルムであって、下記(1)〜(4)の条件
(1)280℃〜320℃の範囲に貯蔵弾性率の変曲点を有し、
(2)損失弾性率を貯蔵弾性率で割った値であるtanδのピークトップが320℃〜380℃の範囲内にあり、
(3)380℃における貯蔵弾性率が0.4GPa〜2.0GPaであり、
(4)変曲点における貯蔵弾性率α1(GPa)と、380℃における貯蔵弾性率α2(GPa)が下記式(1)の範囲にある
(式1);85≧{(α1−α2)/α1}×100≧65
を全て満たすことを特徴とする、ポリイミドフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−306973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、光透過性に優れるポリイミドが得られるポリイミド前駆体、及び光透過性に優れるポリイミドを提供することを目的とする。さらにこれらポリイミド前駆体またはポリイミドが得られる新規なジアミンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一は、テトラカルボン酸成分と、下記化学式(1)で示されるジアミン化合物を含むジアミン成分とを反応させて得られるポリイミド前駆体に関する。
【化1】

本発明の第二は、テトラカルボン酸成分と、下記化学式(1)で示されるジアミン化合物を含むジアミン成分とを反応させて得られるポリイミドに関する。
【化2】

本発明の第三は、下記化学式(1)で示されるジアミンに関する。
【化3】

【0006】
本発明の第一または第二の好ましい態様としては、
テトラカルボン酸成分が、ピロメリット酸二無水物及びビフェニルテトラカルボン酸二無水物より選ばれるテトラカルボン酸成分を含有すること。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、光透過性に優れるポリイミドを製造できるポリイミド前駆体を提供することができる。
本発明は、光透過性に優れるポリイミドを提供することができる。
特に、化学式(1)のジアミンを含有させることにより、光透過性に優れるポリイミドを製造できるポリイミド前駆体、及び光透過性に優れるポリイミドが容易に得られる。
さらに本発明は、優れた特性のポリイミド前駆体及びポリイミドの製造原料となる新規ジアミンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の4−メチル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの赤外分光スペクトル図である。
【図2】実施例1の4−メチル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルのH−NMRスペクトル図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の第一は、テトラカルボン酸成分と、下記化学式(1)で示されるジアミン化合物を含むジアミン成分とを反応させて得られるポリイミド前駆体に関する。
【化4】

本発明の第二は、テトラカルボン酸成分と、下記化学式(1)で示されるジアミン化合物を含むジアミン成分とを反応させて得られるポリイミドに関する。
【化5】

本発明の第三は、下記化学式(1)で示されるジアミンに関する。
【化6】

【0010】
本発明のポリイミドの製造に使用するジアミン成分は、化学式(1)のジアミン化合物を含有することにより、ポリイミドの光透過性を向上させることができる。化学式(1)のジアミンの含有量は、実施態様により適宜選択して用いることができるが、ジアミン100モル%中、5モル%以上、10モル%以上、好ましくは30モル%以上の割合で含有することができ、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上であり、さらに好ましくは90モル%以上であり、特定の態様では100モル%であってよい。
【0011】
ジアミン成分は、化学式(1)のジアミンの他に、化学式(1)のジアミン化合物以外のジアミン化合物の1種または2種以上を含有してもよい。このジアミン化合物としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−オキシジアニリン、3,3’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4−(3−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン及びそれらの類似物などを挙げることができる。
【0012】
さらに、化学式(1)のジアミン以外のジアミン化合物として、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4−メチレン−ビス(2,6−ジイソプロピルアニリン)、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノ−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジエチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、などを挙げることができる。
【0013】
これらのジアミン化合物の中で、化学式(1)のジアミンと併用することが好ましいジアミン化合物としては、特にp−フェニレンジアミン、4,4−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノンが挙げられ、さらにp−フェニレンジアミン、4,4’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、が好ましい。
【0014】
テトラカルボン酸成分としては、公知のテトラカルボン酸無水物を使用することができる。テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などのビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、2,2−ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、4,4’−ビス〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、4,4’−ビス〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物などの芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0015】
テトラカルボン酸成分として、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などのビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましく、テトラカルボン酸成分100モル%中、10モル%以上、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、特に好ましくは80モル%以上含む(100モル%であってもよい。)。さらに本発明の特性を損なわない範囲で、その他の上記の芳香族テトラカルボン酸二無水物を含んでもよい。
【0016】
テトラカルボン酸成分として、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などのビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主成分として用いることにより、耐熱性に優れるポリイミドが得られる。
【0017】
本発明のポリイミド前駆体は、上述のジアミン成分とテトラカルボン酸成分とを反応させて得られる。製造方法は、公知の方法を採用することができる。例えば、有機溶媒中で
テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを0〜100℃、好ましくは5〜50℃の温度で、0.5〜数十時間反応させてポリイミド前駆体を製造することができる。
【0018】
本発明のポリイミドは、上述のジアミン成分とテトラカルボン酸成分とを反応させて得られる。製造方法は、公知の方法を採用することができる。例えば、本発明のポリイミド前駆体を製造し、その後、化学イミド化又は熱イミド化する方法、あるいは有機溶媒中又は直接テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させて直接イミド化する方法等により製造することができる。
【0019】
本発明のポリイミドの製造の一例として、本発明のポリイミド前駆体溶液、又はこれらを複数混合して得られるポリイミド前駆体溶液を塗膜化或いはフィルム化し、乾燥・イミド化・加熱乾燥(キュア)することによって、ポリイミドを製造することができる。この加熱乾燥の最高加熱処理温度は、250〜600℃、さらに300〜500℃、特に350〜420℃の範囲であることが好ましい。ポリイミドの透明性を確保するために、低温で加熱処理することが好ましい。
【0020】
ポリイミドの透明性を確保するために、イミド化・加熱乾燥(キュア)時に不活性なガス雰囲気下、又は減圧雰囲気下で加熱処理してもよい。不活性なガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどを挙げることができ、これらは単独又は2種以上混合して用いることができる。
【0021】
ポリイミド及びポリイミド前駆体の製造方法としては公知のあらゆる方法を用いることができ、通常、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを、実質的に等モル量、或いはテトラカルボン酸二無水物又はジアミン成分のどちらか一方を過剰(好ましくはどちらかの成分を100モル%として、一方の成分を好ましくは100〜110モル%、より好ましくは100〜107モル%、さらに好ましくは100〜105モル%)にして、有機溶媒中で反応させ、制御された温度条件下で、テトラカルボン酸二無水物とジアミンの重合反応が(ほぼ)完了するまで攪拌することによって製造することができる。これらのポリイミド前駆体溶液は通常1〜35wt%、好ましくは5〜30wt%、さらに7〜25wt%の濃度で得ることができ、この範囲の濃度では、適当な分子量と適当な溶液粘度を得ることができる。
【0022】
ポリイミド前駆体又はポリイミドのアミン末端を封止する必要がある場合には、ジカルボン酸無水物、例えば無水フタル酸及びその置換体(例えば3−メチル又は4−メチルフタル酸無水物)、ヘキサヒドロ無水フタル酸及びその置換体、無水コハク酸及びその置換体など、例えば無水フタル酸を少量添加してもよい。
【0023】
ポリイミド前駆体溶液は、イミド化促進の目的で、溶液中にイミド化剤を添加することができる。例えば、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、ベンズイミダゾール、イソキノリン、置換ピリジンなどをポリイミド前駆体に対して0.05〜10質量%、特に好ましくは0.1〜2質量%の割合で使用することができる。これらにより比較的低温でイミド化を完了することができる。
【0024】
本発明のポリイミドにおいて、カルボン酸二無水物成分と特定のジアミン成分とがブロック的な構造を有してもよいし、ランダムな構造を有してもよい。
【0025】
本発明のポリイミド前駆体又はポリイミドをフィルム化する場合には、フィルムのゲル化を制限する目的でリン系安定剤、例えば亜リン酸トリフェニル、リン酸トリフェニル等をポリアミック酸重合時に固形分(ポリマー)濃度に対して0.01〜1%の範囲で添加することができる。
【0026】
ポリイミド前駆体を製造に使用する有機溶媒は、ポリイミド前駆体を可溶な溶媒を用いることができ、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルカプロラクタムなどが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
ポリイミド製造に使用する有機溶媒は、ポリイミドを可溶な溶媒を用いることができ、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルカプロラクタム、フェノール、クロロフェノールなどが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
本発明のポリイミド前駆体及びポリイミドは、コーティング剤やフィルム(未キュアフィルムを、ピンテンターを使用して熱処理し、実質的に延伸をかける)のいずれにも適用可能である。
【0029】
本発明のポリイミド前駆体又はポリイミドは、フィルムに適用する場合、フィルムの厚みは3〜200μm程度であり、コーティング剤として適用する場合、その厚みは0.1〜2μm程度である。また他のポリイミドと2層以上に積層して用いることもできる。
【0030】
本発明のポリイミドの少なくとも片面と基材とを、直接或いは接着剤を介して、加圧又は加圧加熱(ラミネート法)して、積層することにより、少なくとも片面に基材を有する積層体を製造することができる。
本発明のポリイミドの少なくとも片面に、薄膜成膜法及び電気めっき法を用いて金属層膜を形成して、積層体を製造することができる。
【0031】
また、金属箔などの基材上に本発明のポリイミド前駆体溶液又はポリイミド溶液を流延、化学的或いは加熱乾燥してイミド化を完了させることによっても得ることができる。
【0032】
接着剤としては、電子分野で使用されている耐熱性接着剤などの接着剤であれば特に制限はなく、例えばポリイミド系接着剤、エポキシ変性ポリイミド系接着剤、フェノール樹脂変性エポキシ樹脂接着剤、エポキシ変性アクリル樹脂系接着剤、エポキシ変性ポリアミド系接着剤などが挙げられる。この耐熱性接着剤層はそれ自体電子分野で実施されている任意の方法が設けることができ、例えば前記のポリイミドフィルム、成形体に接着剤溶液を塗布・乾燥してもよく、別途に形成したフィルム状接着剤と張り合わせてもよい。
【0033】
基材としては、単一金属又は合金、例えば、銅、アルミニウム、金、銀、ニッケル、ステンレスの金属箔、金属メッキ層(好適には蒸着金属下地層−金属メッキ層あるいは化学金属メッキ層等の多くの公知技術が適用できる。)などを挙げることができ、好適には圧延銅箔、電解銅箔、銅メッキ層などがあげられる。金属箔の厚さは特に制限はないが、0.1μm〜10mm、さらに1〜50μm、特に5〜18μmが好ましい。
【0034】
積層体は、他の基材、例えばセラミックス、ガラス基板、シリコンウエハーや同種あるいは異種の金属あるいはポリイミドフィルムなどの成形体をさらに耐熱性接着剤によって接着してもよい。
【0035】
本発明のポリイミドのフィルム、または本発明のポリイミドを少なくとも1層有する積層体は、TAB用フィルム、電子部品用基板、配線基板として好適に使用でき、例えば、プリント回路基板、電力用回路基板、フレキシブルヒーター、抵抗器用基板として好適に使用することができる。またLSI等のベース基材等の線膨張係数が小さい材料上に形成する絶縁膜、保護膜等の用途に有用である。
【0036】
次に、本発明の新規ジアミンについて説明する。
【0037】
本発明のジアミンは、化学式(1)で示される4−メチル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルである。
【0038】
【化7】

【0039】
化学式(1)で示される4−メチル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの合成反応について説明する。
【0040】
(4−メチル−3,4’−ジニトロジフェニルエーテルの合成例)
4−メチル−3,4’−ジニトロジフェニルエーテルの合成は、3−ニトロ−p−クレゾールと、アルカリ金属化合物と、4−ハロゲノニトロベンゼンとを有機極性溶媒中で反応させる方法で得ることができる。反応条件としては、反応温度と反応時間は適宜選択できるが、好ましくは120℃以上の温度で、1〜数十時間、加熱することが好ましい。
【0041】
4−ハロゲノニトロベンゼンとしては、4−クロロニトロベンゼン、4−フルオロニトロベンゼンを挙げることができる。
本発明の重縮合反応において用いられるアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属水素化物、あるいは、アルカリ金属アルコキシドなどが挙げられる。特に、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムが好ましい。
【0042】
有機極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒、N-メチル-2- ピロリドン、N-ビニル-2- ピロリドンなどのピロリドン系溶媒、N-メチル-2- ピペリドンなどのピペリドン系溶媒、ヘキサメチレンスルホキシド、γ- ブチロラクトン等、あるいは、1,3-ジメチル-2- イミダゾリン、1,3-ジエチル-2- イミダゾリン系溶媒、スルホランなどを挙げることができる。特に、アミド系溶媒が好適に用いることができる。
【0043】
(4−メチル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの合成例)
4−メチル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルは、4−メチル−3,4’−ジニトロジフェニルエーテルのニトロ基をアミノ基に変換させる方法により得ることができる。変換させる方法として、還元が好ましく、還元の条件は公知の条件を適宜選択して用いることができる。
この還元反応は、ニトロ基をアミノ基に変換させる方法ならば特に限定されないが、金属触媒の存在下、水素と反応させる方法が好適に適用される。その際の金属原子としては、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、コバルト、銅等であり、これらの金属原子は、そのまま又は金属酸化物の状態でも使用できる。更に、金属原子そのまま又は金属酸化物を、炭素、硫酸バリウム、シリカゲル、アルミナ、セライト等の担体に担持させたものを使用することもでき、ニッケル、コバルト、銅等はラネー触媒として使用することもできる。
【0044】
本発明の還元反応は、溶媒の存在下で行うのが望ましい。使用される還元反応用溶媒としては、反応を阻害しないものならば特に限定はされないが、例えば、水;メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド類;N,N’−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の尿素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸エチルなどのエステル類などが挙げられる。
【0045】
本発明の還元反応は、例えば、金属触媒の存在下、4−メチル−3,4’−ジニトロジフェニルエーテル及び還元反応用溶媒とを混合して、攪拌しながら水素と反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは0〜200℃、更に好ましくは10〜100℃であり、反応圧力は、好ましくは0.1〜20Mpa、更に好ましくは0.1〜5Mpaである。なお、反応は水素を流通させながらでも、密閉して行っても構わない。流通させながら行う場合には、その流通速度は、反応混合液の容量や反応容器の大きさ等により適宜調節する。
【0046】
4−メチル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテル又は4−メチル−3,4’−ジニトロジフェニルエーテルは、反応終了後、例えば、抽出、濾過、濃縮、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって単離・精製される。
【実施例】
【0047】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。本発明は、これらの実施の形態のみに限定されるものではない。
【0048】
評価は以下の方法で行う。
1)光透過率測定:ポリイミドフィルムの光透過率を、日立社製U−2800形分光光度計を用いて、350nm〜900nmの範囲で測定した。
【0049】
(実施例1)
(4−メチル−3,4’−ジニトロジフェニルエーテルの合成)
500mlの三口フラスコに、4−クロロニトロベンゼン31.21g(198mmol)、炭酸カリウム37.32g(270mmol)、N,N’-ジメチルホルムアミド180mlを入れて撹拌した。45mlのN,N’-ジメチルホルムアミドに溶解した3−ニトロ−p−クレゾール27.58g(180mmol)を約20分間かけて滴下した後、130℃で3時間反応を行った。反応終了後トルエン及び水を加え分液し、有機層をエバポレーターにて留去して茶色の固形分を得た。この固形分を酢酸エチル、ヘキサン(3:5)混合溶媒にて再結晶し、4−メチル−3,4’−ジニトロジフェニルエーテル32.97g(182mmolg、収率:66.8%)を得た。
【0050】
(4−メチル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの合成)
1Lの三口フラスコに4−メチル−3,4−ジニトロジフェニルエーテル50.6g(185mmol)を酢酸エチル462mlに溶解した後に、5%Pd/C(53.2wet%)10.86gを加え、水素雰囲気下、30℃で7時間撹拌し、反応を行った。反応終了後、Pd/Cをろ過にて除去し、ろ液をナスフラスコに集めてエバポレーターにて溶媒を留去、白色の4−メチル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテル38.7g(181mmmol, 収率97.8%)を得た。
【0051】
(4−メチル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの再結晶)
4−メチル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテル47.46gをエタノール285mlに加熱還流条件化で溶解した後に室温まで冷却して、析出した結晶をろ過、乾燥し41.78g(収率88%、純度99.4%以上)を得た。
精製した4−メチル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの赤外分光測定及びH−NMR測定の結果を図1及び図2に示し、これら結果から同定を行った。
H−NMR(300MHz、CDCL、ppm):2.1ppm(s、3H)、3.56ppm(Br、4H)、6.23−6.30ppm(m、2H)、6.63−6.66ppm(m、2H)、6.84−6.87ppm(m、2H)、6.91−6.94ppm(1H、dd)
【0052】
(実施例2)
実施例1で得た4−メチル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(以下、MDEと略す)をN,Nジメチルアセトアミドに溶解し、等モル量の3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下s−BPDA)を加え、30℃、4時間撹拌し重合して、18質量%濃度のポリアミック酸溶液(ポリイミド前駆体溶液)を得た。このポリアミック酸溶液に、ポリアミック酸100質量部に対して0.1質量部のモノステアリルリン酸エステルトリエタノールアミン塩、次いでポリアミック酸100質量部に対して0.5質量部のシリカフィラー(平均粒径0.08μm、日産化学社製ST−ZL)を添加して均一に混合し、ポリイミド前駆体溶液組成物(A)を得た。
前駆体溶液組成物(A)を加熱乾燥後のフィルム厚みが25μmになるように基板(支持体)上に連続的に流延し、140℃の熱風で乾燥をおこない、支持体から剥離して自己支持性フィルムを得た。この自己支持性フィルムを基板より剥離して、加熱炉で100℃から400℃に徐々に昇温して溶媒を除去、イミド化してポリイミドフィルムを得た。
得られたポリイミドフィルムについて、光透過率を測定し、波長500nm及び550nmの結果を表1に示す。
【0053】
(実施例3及び4)
テトラカルボン酸二無水物である3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下s−BPDA)に変えて、表1に示すテトラカルボン酸二無水物を用いて、実施例2と同様の方法でポリイミド前駆体溶液組成物、さらにポリイミドフィルムを製造した。
得られたポリイミドフィルムについて、光透過率を測定し、500nm及び550nmの結果を表1に示す。
【0054】
(比較例1)
4−メチル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルに変えて、表1に示すジアミンを用いて、実施例2と同様の方法でポリイミド前駆体溶液組成物、さらにポリイミドフィルムを製造した。
得られたポリイミドフィルムについて、光透過率を測定し、500nm及び550nmの結果を表1に示す。
表1において、34DEは、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを示す。
【0055】
【表1】

【0056】
実施例2〜4と比較例1のフィルム厚みが同じである。光透過率は、比較例1に比べ、実施例2〜4が優れている。
500nmでの光透過率は、比較例1<実施例4<実施例2<実施例3の順序である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸成分と、下記化学式(1)で示されるジアミン化合物を含むジアミン成分とを反応させて得られるポリイミド前駆体。
【化1】

【請求項2】
テトラカルボン酸成分が、ピロメリット酸二無水物及びビフェニルテトラカルボン酸二無水物より選ばれるテトラカルボン酸成分を含有することを特徴とする請求項1記載のポリイミド前駆体。
【請求項3】
テトラカルボン酸成分と、下記化学式(1)で示されるジアミン化合物を含むジアミン成分とを反応させて得られるポリイミド。
【化1】

【請求項4】
テトラカルボン酸成分が、ピロメリット酸二無水物及びビフェニルテトラカルボン酸二無水物より選ばれるテトラカルボン酸成分を含有することを特徴とする請求項3記載のポリイミド。
【請求項5】
下記化学式(1)で示されるジアミン。
【化1】


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−57918(P2011−57918A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211461(P2009−211461)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】