説明

ポリイミド前駆体組成物及びこれを用いた電子部品並びに被膜形成方法

【課題】本来ポリイミド樹脂が有する耐熱性、電気絶縁性、機械強度特性、不燃性等の優れた特性を維持したまま、スクリーン印刷用オーバーコート材等の耐熱電子部品用途に適したポリイミド前駆体組成物及びこれを用いた電子部品並びに被膜形成方法を提供すること。
【解決手段】芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの重合により得られるポリイミド前駆体を主成分とし、このポリイミド前駆体に含まれる酸固形分100重量部に対して、オルガノポリシロキサン、ポリアクリル酸エステル又はポリビニルエーテルの少なくともいずれかを、0.01重量部以上5.00重量部以下添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン印刷用オーバーコート材等の用途に適したポリイミド前駆体組成物、及びこれを用いてフレキシブル配線基板(FPC)等に塗布乾燥後、ポストベイクして形成される電子部品並びに被膜形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは耐熱・保護材料として優れているため、種々の基材表面にコーティングされて用いられている。コーティング方法としては、従来からスピンコートやスクリーン印刷等が知られているが、工程短縮等のニーズに対応する観点からは、スクリーン印刷が望ましい。
【0003】
このスクリーン印刷に用いられるコーティング材としては、印刷時の高せん断速度下で粘度が一時的に低下することにより流動し、基材に転移した後、だれたり流れたりしないことが求められるため、通常、ビンガム流体であってチクソトロピー性を有する材料が求められている。
【0004】
このようなチクソトロピー性を有するスクリーン印刷に適した材料は、ニュートン流体にフィラー粉末を混合分散することにより得られることが知られている。あるいは特許文献1に記載のように、ポリイミド前駆体組成物に無機・有機粉末を混合したものが知られている。
【0005】
そのようなポリイミド前駆体組成物に無機・有機粉末を混合したものは、チクソトロピー性を有するため、スクリーン印刷材料には適している。しかし、チクソトロピー性は有するものの、本来ポリイミド樹脂が有している耐熱性、電気絶縁性、機械強度特性、不燃性等の、優れた特性を損ねてしまうことになるため、望ましいものではない。
【0006】
そこで、特許文献2に記載のように、ポリアミド酸組成物を加熱処理することによりチクソトロピー性を付与する技術が提案されているが、そのような技術は製造方法が煩雑であり、しかもポリアミド酸組成物が不安定であるという問題がある。
【0007】
また、特許文献3に記載のように、非溶解性の溶剤と消泡剤などを混合する方法も提案されているが、このような非溶解性の溶剤を樹脂組成物に均一に微分散させることは困難であり、樹脂組成物の安定性が乏しくなる。
【特許文献1】特開2006−36913号公報
【特許文献2】特許第3216849号公報
【特許文献3】特開2006−169352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
印刷性を向上させるには、消泡性、すなわち塗膜の泡かみを抑えることと、平滑性、すなわち塗膜の凹凸及びはじきをなくすことの二つの要素を、ともに向上させることが必要である。ここで消泡とは、表面張力が均一になって発生している泡の表面に、それよりも表面張力の小さな粒子を付着させることにより泡の表面張力を不均一にさせ、その泡をつぶすことをいう。従来、印刷における平滑性の向上手段は、無機・有機粉末を混合してチクソトロピー性を付与することが一般的であるが、本発明においては、従来の技術とは異なり、より消泡効果の高い添加剤を用い、かつ、基材に塗布後、適切な温度で乾燥させることにより、消泡性及び平滑性の両方をともに満足させ、印刷性の向上が実現できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の解決課題は、上記従来技術の問題点を克服し、チクソトロピー性を付与する無機・有機粉末を混合することなく印刷性を向上させ、また、溶液中への微分散が困難な溶剤を大量に添加することなく安定した組成物としつつ、本来ポリイミド樹脂が有する耐熱性、電気絶縁性、機械強度特性、不燃性等の優れた特性を維持したまま、スクリーン印刷用オーバーコート材等の耐熱電子部品用途に適したポリイミド前駆体組成物、及びこれを用いた電子部品並びに被膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するため、本発明のポリイミド前駆体組成物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの重合により得られるポリイミド前駆体組成物を主成分とし、このポリイミド前駆体に含まれる酸固形分100重量部に対して、オルガノポリシロキサン、ポリアクリル酸エステル又はポリビニルエーテルの少なくともいずれかを、0.01重量部以上5.00重量部以下添加してなることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のポリイミド前駆体組成物は、前記オルガノポリシロキサン、ポリアクリル酸エステル又はポリビニルエーテルのいずれかの分子量が、3千以上10万以下であることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のポリイミド前駆体組成物は、前記オルガノポリシロキサン、ポリアクリル酸エステル又はポリビニルエーテルのいずれかの溶解度パラメータδが、7.3cal/cm以上9.4cal/cm以下であることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明のポリイミド前駆体組成物は、前記オルガノポリシロキサン、ポリアクリル酸エステル又はポリビニルエーテルのいずれかの表面張力γが、0.020N/cm以上0.035N/cm以下であることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明のポリイミド前駆体組成物は、その表面張力γPIが0.020N/cm以上0.040N/cm以下であることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明のポリイミド前駆体組成物は、40度Cにおける粘度η40が20P以上580P以下であることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明のポリイミド前駆体組成物は、ポリスチレン換算重量平均分子量が10万以上20万以下であることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明のポリイミド前駆体組成物は、固形分濃度が10重量%以上28重量%以下であることを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の電子部品は、前記いずれかのポリイミド前駆体組成物をイミド転化してなるポリイミド樹脂の層を有することを特徴とするものである。
【0019】
さらに、本発明の被膜形成方法は、前記いずれかのポリイミド前駆体組成物を基材に印刷し、30度C以上50度C以下で乾燥させた後、イミド転化させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明のポリイミド前駆体組成物は、上記構成からなるため、後掲する表2に示すように、これを用いて塗布、焼成してなる塗膜の印刷性がきわめて良好である。すなわち、塗膜の消泡性がよく、かつ、平滑性に優れている。また、塗膜としての耐屈曲性に富み、塗布する対象基材との密着性がよく、しかも不燃性を有している。したがって、このような優れた特性を有するポリイミド前駆体組成物を用いた本発明の電子部品は、印刷時の高せん断速度下においてもポリイミド前駆体組成物がだれたり流れたりしないため、とくに、スクリーン印刷用オーバーコート材等のような用途に有効である。また、本発明の被膜形成方法は、本発明のポリイミド前駆体組成物を基材に印刷した後、最も適切な温度において乾燥させるため、従来技術による被膜と比較して、消泡性がよく、かつ、平滑性に優れた被膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のポリイミド前駆体組成物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの重合により得られるポリイミド前駆体組成物を主成分とし、その酸固形分100重量部に対して、オルガノポリシロキサン、ポリアクリル酸エステル又はポリビニルエーテルのいずれかを、0.01重量部以上5.00重量部以下添加してなることが必要である。
【0022】
まず、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの重合により得られるポリイミド前駆体組成物を主成分として用いることの理由は、本来ポリイミドが有する電気絶縁特性、耐熱性、可とう性、耐薬品性等の優れた性質を、最も効果的に利用することができる点にある。
【0023】
本発明において、芳香族テトラカルボン酸二無水物として、3,4,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、無水ピロメリト酸、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ジフェニルスルホキシドテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ジフェニルスルフィドテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルメタンテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ジフェニル(2,2−イソプロピリデン)テトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルスルホキシドテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルスルホントラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルスルフィドテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ジフェニルスルメタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニル(2,2−イソプロピリデン)テトラカルボン酸二無水物、4,4'‐(ヘキサフルオロイソプロピル)フタル酸二無水物、ビスフェノール酸二無水物などを単独で、又は混合して用いることができる。
【0024】
本発明において、芳香族ジアミンとして、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,4−ジアミノトルエン、3,4’ −ビフェニルジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’ −ビフェニルジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,6−ジアミノトルエン、4,4’−ビフェニルジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−(3−アミノフェニル)(4−アミノフェニル)プロパン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、2,5−ジアミノトルエン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−(3−アミノフェニル)(4−アミノフェニル)プロパン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、3,3’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、2,5−ジアミノトルエン、3,3’−ヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、1,3−ビス−(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス−(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、ジアミノベンゾアニリド、メチレンジアニリンを単独で、又は混合して用いることができる。
【0025】
本発明において、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの重合において用いる有機極性溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、1,2−ジメトキシエタン、ジグライム、トリグライム、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、γ−ブチロラクトン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、ジエトキシエタン、ジメチルスルホキシド、スルホランなどが挙げられる。N,N−ジメチルアセトアミドが好ましい。これらの溶媒を単独で又は混合物として、あるいはトルエン、キシレン、すなわち芳香族炭化水素、メタノール、エタノール、すなわちアルコールなどの他の溶媒と混合して用いることができる。
【0026】
次に、添加剤として、オルガノポリシロキサン、ポリアクリル酸エステル又はポリビニルエーテルの少なくともいずれかを選択することの理由は、本発明の目的とする印刷性向上に寄与する消泡効果が優れている点にある。オルガノポリシロキサンとしては、ジメチルポリシロキサン、フェニルメチルポリシロキサン、ビニルメチルポリシロキサン、エーテル変性ポリシロキサン等を用いることができる。ポリアクリル酸エステルとしては、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸イソブチル、ポリアクリル酸ノルマルブチル、ポリアクリル酸2−エチルヘキシル、ポリアクリル酸ターシャリーブチル、ポリアクリル酸イソノニル等を用いることができる。また、ポリビニルエーテルとしては、ポリエチルビニルエーテル、ポリノルマルプロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、ノルマルブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、ターシャリーブチルビニルエーテル、ノルマルオクチルビニルエーテル、2−メチルヘキシルビニルエーテル等を用いることができる。なお、後述する実施例においては、添加剤としてオルガノポリシロキサン及びポリアクリル酸エステルを用いた場合を例示しているが、同様に、ポリビニルエーテルを添加剤として用いた場合にも、同等の効果を奏することができる。
【0027】
前記ポリイミド前駆体に含まれる酸固形分100重量部に対して、オルガノポリシロキサン、ポリアクリル酸エステル又はポリビニルエーテルの少なくともいずれかを、0.01重量部以上5.00重量部以下添加する必要がある。0.01重量部未満では、塗膜の平滑性を得ることが難しく、また、5.00重量部を超えると、本来ポリイミド樹脂が有する耐熱性、電気絶縁性、機械強度特性、不燃性等の優れた特性が発揮されにくくなるからである。
【0028】
このように、本発明においては、ポリイミド前駆体に添加すべき添加剤の種類を規定するとともに、その添加率の適正な範囲を規定することにより、従来提案されていたようなチクソトロピー性付与のために無機・有機粉末を混合したり、ポリアミド酸組成物を加熱処理したりする必要をなくし、かつ、非溶解性の溶剤を用いたりする必要もなくすことができる。従来技術とは異なる観点から、印刷性向上のために最適な添加剤の種類及び適正な添加率の範囲を見出した点に、本発明の最大の特徴がある。
【0029】
本発明において、前記オルガノポリシロキサン、ポリアクリル酸エステル又はポリビニルエーテルのいずれかの分子量は、3千以上10万以下であることが好ましい。3千未満では、消泡効果がなく、また、10万を超えると、はじいてしまうからである。
【0030】
本発明において、前記オルガノポリシロキサン、ポリアクリル酸エステル又はポリビニルエーテルのいずれかの溶解度パラメータδは、7.3cal/cm以上9.4cal/cm以下であることが好ましい。ここで、溶解度パラメータδとは、凝集エネルギー密度の平方根で定義され、溶液に対する溶解しやすさを示すものである。溶液の溶解度パラメータとの差が小さいほど溶解しやすく、差が大きいほど溶解しにくくなる。溶解度パラメータδが7.3cal/cm未満では、消泡効果は高いが、はじいてしまうからである。また、9.4cal/cmを超えると、溶液に溶解してしまうため、消泡効果を得ることができないからである。
【0031】
本発明において、前記オルガノポリシロキサン、ポリアクリル酸エステル又はポリビニルエーテルのいずれかの表面張力γは、0.020N/cm以上0.035N/cm以下であることが好ましい。0.020N/cm未満では、表面張力γが小さすぎてはじいてしまい、また、0.035N/cmを超えると、表面張力γが大きくなりすぎて発生している泡をそのまま残してしまうからである。
【0032】
本発明において、ポリイミド前駆体組成物の表面張力γPIは、0.020N/cm以上0.040N/cm以下であることが好ましい。0.020N/cm未満では、ポリイミド前駆体組成物がだれたり、流れたり、はじいたりし、また、0.040N/cmを超えると、被膜に気泡が発生して平滑性が損なわれるからである。
【0033】
本発明において、ポリイミド前駆体組成物の40度Cにおける粘度η40は、20P以上580P以下であることが好ましい。なぜ、40度Cにおける粘度η40が重要かといえば、表面張力等との絡みから、それよりも低い温度や高い温度では、所望の印刷性が得られないことを見出したからである。換言すれば、40度Cにおいて、最もよい印刷性が得られるのである。η40が20P未満では、スクリーン印刷に用いた場合に、形成されたレリーフパターンの形状保持性がなくなり、また、η40が580Pを超えると、版パターンの開口部への充填性が悪化して抜けが生じるからである。
【0034】
本発明のポリイミド前駆体組成物は、ポリスチレン換算重量平均分子量が10万以上20万以下であることが好ましい。ポリスチレン換算重量平均分子量が10万未満では、被膜にハジキなどの欠陥が増加し、また、20万を超えると、多量の消泡剤又はレベリング剤が必要となり、その結果、密着性が悪化するからである。
【0035】
本発明のポリイミド前駆体組成物は、固形分濃度が10重量%以上28重量%以下であることが好ましい。固形分濃度が10重量%未満では、本来ポリイミド樹脂が有する耐熱性、電気絶縁性、機械強度特性、不燃性等の優れた特性が十分に発揮されにくく、また、28重量%を超えると、インクが不安定になってゲル化するため、平滑性が悪くなるからである。
【0036】
本発明のポリイミド前駆体組成物には、塗布時の作業性及び被膜形成前後の膜特性を向上させるため、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂などを混合してもよい。また、感光剤、着色剤(染料又は顔料)、熱安定剤、酸化防止剤、難燃性剤、滑剤、イミド化剤などの充填剤を、添加してもよい。
【0037】
本発明の電子部品は、前記いずれかのポリイミド前駆体組成物をイミド転化してなるポリイミド樹脂の層を有することが必要である。印刷時の高せん断速度下においてもポリイミド前駆体組成物がだれたり流れたりせず、スクリーン印刷用オーバーコート材等のような用途において、FPC等のような基材に塗布、焼成したときに塗膜の印刷性が良好で、耐屈曲性に富み、密着性がよく、しかも不燃性を有しているポリイミド樹脂の優れた特性を活用できるからである。
【0038】
本発明の被膜形成方法は、前記いずれかのポリイミド前駆体組成物を基材に印刷し、30度C以上50度C以下で乾燥させた後、イミド転化させることが必要である。30度C未満では、前駆体溶液が十分に流れることができず、平滑性をだすことができない。また、50度Cを超えると、前駆体溶液が十分に流れる前に、溶媒が乾燥し粘度上昇し、平滑性をだすことができない。
【0039】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。実施例及び比較例におけるポリイミド前駆体組成物及びポリイミド樹脂層の各物性評価は、次のようにして行った。
(1)粘度の測定
ポリイミド前駆体組成物を40±1度Cの温水バスに2時間放置し、ブルックフィールド粘度計LVTを用いて、粘度η40の測定を行った。
(2)表面張力の測定
ポリイミド前駆体組成物を23±1度Cの温水バスに2時間放置し、協和界面科学社製の全自動表面張力計CBVP−Zを用いて、白金プレートを使ったプレート法にて、オルガノポリシロキサン、又はポリアクリル酸エステルの表面張力γ、及びポリイミド前駆体組成物の表面張力γPIを測定した。
(3)平均分子量の測定
日本ウォーターズ製の2695クロマトグラフを用いて、「Styragel」(登録商標)HT3、HT4及びHT5を連結したものをカラムとし、30mMりん酸のDMACを移動相とするサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によってポリイミド前駆体組成物のポリスチレン換算による重量平均分子量を算出した。
(4)消泡性の評価
被膜に泡が生じていない場合を○、生じている場合を×とした。
(5)平滑性の評価
目視にて被膜表面に凹凸がない場合を○、凹凸がある場合を×とした。
【実施例1】
【0040】
(a)ポリイミド前駆体組成物の作製
500mLの3つ口フラスコに攪拌羽根を取り付けて合成容器とし、芳香族テトラカルボン酸二無水物として和光純薬工業社製のピロメリット酸二無水物(PMDA)32.68g(0.1498mol)、及び溶媒として三菱ガス化学社製のN−メチルピロリドン(NMP)306.2gを投入し、60度Cに加熱して2時間撹拌し、固形分濃度が17重量%のPMDA組成物を得た。これに、芳香族ジアミンとして和光純薬工業社製の4,4’−ジアミノジフェニエーテル(ODA)30.00g(0.1498mol)を加え、60度Cで1時間撹拌して、固形分濃度が17重量%であるポリイミド前駆体組成物を得た。このポリイミド前駆体組成物のポリスチレン換算重量平均分子量は、150000であった。
【0041】
(b)オルガノポリシロキサンの添加
前記(a)で作製したポリイミド前駆体組成物を用い、酸固形分100重量部に対して、表1のWのジメチルポリシロキサン0.60重量部を混合し、ポリイミド前駆体組成物を調製した。
【実施例2】
【0042】
(c)ポリイミド前駆体組成物の作製
500mLの3つ口フラスコに攪拌羽根を取り付けて合成容器とし、芳香族テトラカルボン酸二無水物として三菱化学社製のビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)44.07g(0.1498mol)、及び溶媒として三菱ガス化学社製のN−メチルピロリドン(NMP)294.26gを投入し、60度Cに加熱して2時間撹拌し、固形分濃度が17重量%のBPDA組成物を得た。これに、芳香族ジアミンとして日本化薬社製のパラフェニレンジアミン(PDA)16.20g(0.1498mol)を加え、60度Cで1時間撹拌して、固形分濃度が17重量%であるポリイミド前駆体組成物を得た。このポリイミド前駆体組成物のポリスチレン換算重量平均分子量は、200000であった。
【0043】
(d)オルガノポリシロキサンの添加
前記(c)で作製したポリイミド前駆体組成物を用い、酸固形分100重量部に対して、表1のVのエーテル変性ポリシロキサン0.60重量部を混合し、ポリイミド前駆体組成物を調製した。
【実施例3】
【0044】
実施例1の(a)と同様にして、ポリスチレン換算重量平均分子量が120000であり、固形分濃度が17重量%のPMDA/ODAからなるポリイミド前駆体組成物を作製し、酸固形分100重量部に対して、表1のUのポリアクリル酸エチル0.60量部を混合し、ポリイミド前駆体組成物を調製した。
【実施例4】
【0045】
実施例1の(a)と同様にして、ポリスチレン換算重量平均分子量が120000であり、固形分濃度が17重量%のPMDA/ODAからなるポリイミド前駆体を作製し、酸固形分100重量部に対して、表1のXのジメチルポリシロキサン0.6重量部を混合し、ポリイミド前駆体組成物を調製した。
【実施例5】
【0046】
実施例1の(a)と同様にして、ポリスチレン換算重量平均分子量が120000であり、固形分濃度が17重量%のPMDA/ODAからなるポリイミド前駆体を作製し、酸固形分100重量部に対して、表1のYのジメチルポリシロキサン0.60重量部を混合し、ポリイミド前駆体組成物を調製した。
【実施例6】
【0047】
実施例1の(a)と同様にして、ポリスチレン換算重量平均分子量が100000であり、固形分濃度が17重量%のPMDA/ODAからなるポリイミド前駆体を作製し、酸固形分100重量部に対して、表1のWのジメチルポリシロキサン0.01重量部を混合し、ポリイミド前駆体組成物を調製した。
【実施例7】
【0048】
実施例1の(a)と同様にして、ポリスチレン換算重量平均分子量が120000であり、固形分濃度が17重量%のPMDA/ODAからなるポリイミド前駆体を作製し、酸固形分100重量部に対して、表1のWのジメチルポリシロキサン5.00重量部を混合し、ポリイミド前駆体組成物を調製した。
【実施例8】
【0049】
実施例2の(c)と同様にして、ポリスチレン換算重量平均分子量が200000であり、固形分濃度が10重量%のBPDA/PDAからなるポリイミド前駆体組成物を作製し、酸固形分100重量部に対して、表1のWのジメチルポリシロキサン0.60重量部を混合し、ポリイミド前駆体組成物を調製した。
【実施例9】
【0050】
実施例2の(c)と同様にして、ポリスチレン換算重量平均分子量が100000であり、固形分濃度が28重量%のBPDA/PDAからなるポリイミド前駆体組成物を作製し、酸固形分100重量部に対して、表1のWのジメチルポリシロキサン0.60重量部を混合し、ポリイミド前駆体組成物を調製した。
【0051】
(比較例1)
実施例1の(a)と同様にして、ポリスチレン換算重量平均分子量が120000であり、固形分濃度が17重量%のPMDA/ODAからなるポリイミド前駆体を作製した。この場合には、オルガノポリシロキサン及びポリアクリル酸エステルのいずれも添加しなかった。
【0052】
(比較例2)
実施例1の(a)と同様にして、ポリスチレン換算重量平均分子量が150000であり、固形分濃度が17重量%のPMDA/ODAからなるポリイミド前駆体を作製し、酸固形分100重量部に対して、表1のZのジメチルポリシロキサン0.60重量部を混合し、ポリイミド前駆体組成物を調製した。
【0053】
(比較例3)
実施例1の(a)と同様にして、ポリスチレン換算重量平均分子量が120000であり、固形分濃度が17重量%のPMDA/ODAからなるポリイミド前駆体を作製し、酸固形分100重量部に対して、表1のWのジメチルポリシロキサン6.00重量部を混合し、ポリイミド前駆体組成物を調製した。
【0054】
(比較例4)
実施例1の(a)と同様にして、ポリスチレン換算重量平均分子量が50000であり、固形分濃度が21重量%のPMDA/ODAからなるポリイミド前駆体を作製し、酸固形分100重量部に対して、表1のWのジメチルポリシロキサン0.60重量部を混合し、ポリイミド前駆体組成物を調製した。
【0055】
(比較例5)
実施例2の(c)と同様にして、ポリスチレン換算重量平均分子量が100000であり、固形分濃度が30重量%のBPDA/PDAからなるポリイミド前駆体を作製し、酸固形分100重量部に対して、表1のWのジメチルポリシロキサン0.60重量部を混合し、ポリイミド前駆体組成物を調製した。
【0056】
(比較例6)
実施例2の(c)と同様にして、ポリスチレン換算重量平均分子量が250000であり、固形分濃度が9重量%のBPDA/PDAからなるポリイミド前駆体を作製し、酸固形分100重量部に対して、表1のUのポリアクリル酸エチル0.60重量部を混合し、ポリイミド前駆体組成物を調製した。
【0057】
「スクリーン印刷用オーバーコートフィルムの作製及び評価」
銅貼積層板エスパネックスM(新日鐵化学社製)を用い、この積層板に各実施例及び各比較例で作製したポリイミド前駆体組成物をスクリーン印刷した。その後、40度Cで20分、80度Cで10分、120度Cで30分、200度Cで30分、及び300度Cで30分、それぞれ加熱焼成してイミド転化させ、イミド化被膜を形成した。これらの一次イミド化被膜の厚みは、いずれも15μmであった。その後、前記評価方法に基づき、オーバーコートフィルムの特性を評価した結果を、表2に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
表2から明らかなように、実施例1ないし実施例9は、すべて消泡性及び平滑性が○であって印刷性が優れている。一方、比較例1ないし比較例6は、いずれも平滑性が×であり、印刷性において問題がある。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のポリイミド前駆体組成物は、耐熱電子部品用途に利用することができる。例えば、スクリーン印刷用オーバーコート材、層間絶縁膜、保護膜(カバーレイ)等にとくに好適である。それ以外にも、接着剤、耐熱性ペーストとして利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの重合により得られるポリイミド前駆体を主成分とし、このポリイミド前駆体に含まれる酸固形分100重量部に対して、オルガノポリシロキサン、ポリアクリル酸エステル又はポリビニルエーテルの少なくともいずれかを、0.01重量部以上5.00重量部以下添加してなることを特徴とするポリイミド前駆体組成物。
【請求項2】
前記オルガノポリシロキサン、ポリアクリル酸エステル又はポリビニルエーテルのいずれかの分子量が、3千以上10万以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項3】
前記オルガノポリシロキサン、ポリアクリル酸エステル又はポリビニルエーテルのいずれかの溶解度パラメータδが、7.3cal/cm以上9.4cal/cm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項4】
前記オルガノポリシロキサン、ポリアクリル酸エステル又はポリビニルエーテルのいずれかの表面張力γが、0.020N/cm以上0.035N/cm以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項5】
表面張力γPIが0.020N/cm以上0.040N/cm以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項6】
40度Cにおける粘度η40が20P以上580P以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項7】
ポリスチレン換算重量平均分子量が10万以上20万以下であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項8】
固形分濃度が10重量%以上28重量%以下であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載のポリイミド前駆体組成物をイミド転化してなるポリイミド樹脂の層を有することを特徴とする電子部品。
【請求項10】
請求項1から請求項8のいずれかに記載のポリイミド前駆体組成物を基材に印刷し、30度C以上50度C以下で乾燥させた後、イミド転化させることを特徴とする被膜形成方法。

【公開番号】特開2008−133313(P2008−133313A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318401(P2006−318401)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(391059399)株式会社アイ.エス.テイ (102)
【Fターム(参考)】