説明

ポリイミド及びそれからなるポリイミドフィルム

【課題】高靭性、高Tgという特徴を保持し、かつ、線膨張係数が小さいポリイミド及びポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】下記一般式(1):


のオキソザール基を含有するジアミンを有するポリイミド及びポリイミドフィルムを用いる。これにより、高Tg(>300℃)、高熱可塑性、低吸水率および銅箔や非熱可塑性PIフイルムに対しての高い接着力を同時に有する新規な耐熱材料を開発し、新規な擬似2層銅張積層板用耐熱接着剤を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオキサゾール基含有するポリイミド及びそれからなるポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリイミドフィルムとして、ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエ−テルからなるポリイミドや3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンからなるポリイミドが広く用いられており、特にその優れた耐熱性と電気絶縁特性によりフレキシブルプリント配線板(以下、FPC)や半導体装置におけるリ−ドオンチップ(LOC)テ−プ用ベ−スフィルム等の電子材料として多く利用いられている(特許文献1参照)。
【0003】
更に、ポリイミドフィルムは、耐放射線性や極低温特性にも優れることから、航空機材料、宇宙材料用途等にも多く利用されている。
【0004】
擬似2層導張積層板(CCL)用接着剤として溶媒可溶性で熱可塑性のポリイミドが用いられているが、そのTgは240〜250℃程度であり、銅箔接着性を犠牲にせずに更なる耐熱性の改善が求められている。
【0005】
しかしながら耐熱性と熱可塑性はトレードオフの関係にあり、両者を同時に改善することは容易ではない。更にポリイミド接着剤中に吸収した水分がハンダリフロー工程時に接着層の膨れ、接着不良などの悪影響を及ぼすことが指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−162491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明では、これらの問題を解決するために、銅箔との積極的な相互作用が期待されるベンゾオキサゾール(BO)構造単位を導入したポリイミドに着目し、高Tg(>300℃)、高熱可塑性、低吸水率および銅箔や非熱可塑性PIフイルムに対しての高い接着力を同時に有する新規な耐熱材料の開発を試み、新規な擬似2層銅張積層板用耐熱接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の問題を鑑み、鋭意研究を積み重ねた結果、以下の構成により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記一般式(1):
【0010】
【化1】

【0011】
のジアミンを用いてなるポリイミドに関する。
【0012】
好ましい実施態様は、前記のポリイミドからなるポリイミドフィルムに関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、オキソザール基を含有するジアミンを有するポリイミド及びポリイミドフィルムを用いることにより、高靭性、高Tgという特徴を保持し、かつ、線膨張係数が小さいポリイミド及びポリイミドフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明するが、これらは本発明の実施形態の一例であり、これらの内容に限定されない。
【0015】
本発明に係るポリイミドフィルムは、通常、ポリアミド酸をその前駆体として用いて製造されうるものである。ポリアミド酸の製造方法としては公知のあらゆる方法を用いることができ、通常、芳香族酸二無水物と芳香族ジアミンを、実質的等モル量となるように有機溶媒中に溶解、反応させてポリアミド酸有機溶媒溶液を得、制御された温度条件下で、上記酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで攪拌することによって製造される。これらのポリアミド酸溶液は、通常5〜35重量%、好ましくは10〜30重量%の濃度で得られるが、この範囲の濃度である場合に適当な分子量と溶液粘度を得ることができるため好ましい。
【0016】
前記ポリアミド酸の重合方法としてはあらゆる公知の方法およびそれらを組み合わせた方法を用いることができる。ポリアミド酸の重合における重合方法の特徴はそのモノマーの添加順序等にあり、このモノマー種、添加順序等を制御することにより得られるポリイミドフィルムの諸物性を制御することができる。
【0017】
本発明においてポリアミド酸の重合にはいかなるモノマーの添加方法を用いても良い。代表的な重合方法として次のような方法が挙げられる。すなわち、
1)芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させて重合する方法。
2)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得る。続いて、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
3)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。続いてここに芳香族ジアミン化合物を追加添加後、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いて重合する方法。
4)芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解及び/または分散させた後、実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
5)実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合物を有機極性溶媒中で反応させて重合する方法。
などのような方法である。これらの方法を単独で用いても良いし、部分的に組み合わせて用いることもできる。
【0018】
本発明において使用できる適当な酸無水物は特に制限されないが、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、1,4−ヒドロキノンジベンゾエ−ト−3.3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、2,5−ジメチル−1,4−ヒドロキノンジベンゾエ−ト−3.3’、4,4’−テトラカルボン酸二無水物、2,5−ジクロロ−1,4−ヒドロキノンジベンゾエ−ト−3.3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、2−クロロ−1,4−ヒドロキノンジベンゾエ−ト−3.3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物及びそれらの類似物を含み、これらを単独で、または任意の割合で混合した混合物を好ましく用いることができる。
【0019】
次に、本発明に用いられるジアミンとして、一般式(1):
【0020】
【化2】

【0021】
を必須とする。その他に使用し得る適当なジアミンとしては特に制限されないが、4,4‘−オキシジアニリン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン及びそれらの類似物などが挙げられ、これらを単独で、または任意の割合で混合した混合物を好ましく用いることができる。
【0022】
これらジアミンと酸二無水物を適宜組み合わせて分子設計をし、所望とする特性を有したポリイミドとすることができる。
【0023】
なお、この分子設計の際に完全な法則性というものは無く、およそ以下の一般的傾向にしたがって当業者の常識の範囲内での分子設計が必要となる。
(I)フェニレンジアミン類、ベンジジン類、ピロメリット酸二無水物などの剛直な構造を有するモノマーを用いた場合、弾性率が高くなり、線膨張係数が小さくなる傾向にある。
(II)分子鎖中にエーテル結合、炭化水素基、スルホン基、カルボニル基の様な屈曲性基を有するモノマーを用いた場合、弾性率が低くなり、線膨張係数が大きくなる傾向にある。
(III)3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物のように分子全体で見た場合に直線状でないモノマーを用いた場合も(II)と同様の傾向になる。
【0024】
ポリイミド前駆体(以下、ポリアミド酸ともいう)を合成するための好ましい溶媒は、ポリアミド酸を溶解する溶媒であればいかなるものも用いることができるが、アミド系溶媒、すなわちN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどを例示することができ、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドを特に好ましく用いることができる。
【0025】
また、摺動性、熱伝導性、導電性、耐コロナ性、ループスティフネス等のフィルムの諸特性を改善する目的でフィラーを添加することもできる。フィラーとしては特に制限されないが、好ましい例としてはシリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化珪素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。
【0026】
ポリアミド酸の重合においてポリアミド酸の重量平均分子量は、15万以上が好ましく、20万以上が更に好ましい。重量平均分子量が15万以下であると、強度に劣るポリイミドフィルムが得られるからである。
【0027】
このポリアミド酸溶液から本発明のポリイミドフィルムを得るには、(1)熱的に脱水しイミド化する熱的方法と(2)脱水剤を用いる化学的方法のいずれを用いてもよいが、伸びや強度などの機械的特性の優れるフィルムを得やすい化学的方法による方がより好ましい。
【0028】
以下に、ポリアミド酸溶液からフィルムを製造する方法を例示する。(1)上記ポリアミド酸溶液をドラムあるいはエンドレスベルト上に流延または塗布して膜状とし、その膜を自己支持性を有するまで150℃以下の温度で約5分〜60分乾燥させる。ついで、これを支持体から引き剥がし端部を固定した後、膜の収縮を制限しながら約100℃〜500℃のまで徐々に加熱することにより乾燥及びイミド化させて、冷却後これより取り外し本発明のポリイミドフィルムを得る。
【0029】
上記製造方法において、自己支持性を有するフィルムを支持体から剥がれやすくするためにポリアミド酸溶液にかえてポリアミド酸溶液に剥離剤を加えた混合溶液を用いてもよい。また、化学的方法によりポリイミドフィルムを得る場合は、ポリアミド酸溶液にかえて、ポリアミド酸溶液に化学量論以上の脱水剤と触媒量の3級アミン類を加えた混合溶液を用いればよい。
【0030】
ここで言う剥離剤としては、例えばジエチレングリコ−ルジメチルエ−テル、トリエチレングリコ−ルジメチルエ−テル等の脂肪族エ−テル類、ピリジン、ピコリンなどの3級アミン類、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフェ−ト等の有機りん化合物類等が挙げられる。
【0031】
また、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水フタル酸などの脂肪族あるいは芳香族酸無水物類等が挙げられる。触媒としては、例えばトリエチルアミンなどの脂肪族3級アミン、ピリジン、ピコリン、イソキノリン等の複素環式3級アミン類などが挙げられる。
【0032】
更に、膜を乾燥またはイミド化させる際に、膜を延伸してもよい。延伸することにより、機械的特性に優れるフィルムが得られやすいからである。
【0033】
また、フィルムに接着性や耐熱性、または滑り性等の各種特性を向上させることを目的に、フィルム中に、酸化チタン、炭酸カルシウム、アルミナ、シリカゲル等の微粒子を含有させたり、フィルム表面を、シランカップリング剤などの表面改質剤や微粒子とバインダ−樹脂を含む溶液等を塗布したり、コロナ処理やプラズマ処理などの放電処理などを施してもよい。
【実施例】
【0034】
(実験)
BO含有ジアミン(OBABO)は4,4’-OxybisbenzoicAcidと2−Amino-5-nitrophenolから合成し、再結晶して精製した。よく乾燥したジアミンを脱水した溶媒(DMAcまたはNMP)に完全に溶かした後、等モル量のテトラカルボン酸二無水物粉末を徐々に加え、室温で24時間以上撹拝し、粘調なポリアミド酸(PAA)溶液を得た。PAA溶液の固有粘度は0.5wt%、30℃でオストワルド粘度計を用いて求めた。PAA溶液をガラス基板上に流延し、80℃/2h乾燥した後、所定の温度で熱イミド化した。さらに残留ひずみを除去するため、基板からはがして所定の湿度で熱処理を加えた。得られたPIフイルムについてガラス転移温度(Tg)、線熱膨張係数(CTE)、5%熱重量減少温度(Td5)等を評価した。また銅箔(古河電工F3−WS厚さ18μm)のM面上にPAA溶液をキャストして、熱イミド化することにより2層銅張積層板を作製し、銅箔ピール強度を評価した。
【0035】
(実施例1及び比較例1)
【0036】
【化3】

【0037】
(実施例1)
【0038】
【化4】

【0039】
線膨張係数 20ppm/K
Tg 365℃
最大破断伸び 25.5%
【0040】
(比較例1)
【0041】
【化5】

【0042】
線膨張係数 65ppm/K
Tg 355℃
最大破断伸び 12.0%
【0043】
(実施例2及び比較例2)
【0044】
【化6】

【0045】
(実施例2)
【0046】
【化7】

【0047】
線膨張係数 33ppm/K
Tg 281℃
最大破断伸び 60.6%
【0048】
(比較例2)
【0049】
【化8】

【0050】
線膨張係数 50ppm/K
Tg 254℃
最大破断伸び 50.0%
【0051】
(実施例3及び比較例3)
【0052】
【化9】

【0053】
(実施例3)
【0054】
【化10】

【0055】
線膨張係数 25ppm/K
Tg 333℃
最大破断伸び 69.4%
【0056】
(比較例3)
【0057】
【化11】

【0058】
線膨張係数 43ppm/K
Tg 358℃
【0059】
(結果・考察)
テトラカルボン酸二無水物を成分として、ピロメリット酸二無水物(PMDA)を用いて得られた結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
PMDA/OBABO系PIはPMDAA,4,4‘−ODA系より若干低いが300℃以上の高いTgを示した。また、PMDA/OBABO系はエーテル結合を含んでいるにもかかわらず、意外にも低CTE(24.6ppm/K)を示した。これはBOの剛直な構造が寄与したものと思われる。また、図2にみられるように動的粘弾性曲線においてもTgを越えたところでより急激な貯蔵弾性率の低下が見られ、熱可塑性であることも確認された。ピール強度は、0.83kgf・cmとPMDA/4,4’−DDA系の1.Okgf・cmには及ばないものの、銅箔密着性は比較的良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】

のジアミンを用いてなるポリイミド。
【請求項2】
請求項1に記載のポリイミドからなるポリイミドフィルム。

【公開番号】特開2011−84656(P2011−84656A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238682(P2009−238682)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】