説明

ポリイミド樹脂の無機薄膜形成方法及び表面改質した無機薄膜形成用ポリイミド樹脂の製造方法

【課題】 無機薄膜を密着信頼性及びパターン精度高くポリイミド樹脂表面に形成することができるポリイミド樹脂の無機薄膜形成方法を提供する。
【解決手段】 (1)ポリイミド樹脂の無機薄膜形成部位にアルカリ性水溶液を塗布し、ポリイミド樹脂のイミド環を開裂させてカルボキシル基を生成させると共にポリイミド樹脂をポリアミック酸に改質する工程。(2)この改質された層にポリアミック酸を可溶な溶媒を接触させることによって、改質層の一部を除去して凹部を形成する工程。(3)凹部近傍のカルボキシル基を有するポリイミド樹脂に金属イオン含有溶液を接触させてカルボキシル基の金属塩を生成する工程。(4)この金属塩を金属として、もしくは金属酸化物或いは半導体として、ポリイミド樹脂表面に析出させて無機薄膜を形成する工程。これらの工程から、ポリイミド樹脂の表面に無機薄膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂の表面に無機薄膜を回路パターンなど微細パターンで形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムなどポリイミド樹脂で形成される基材の表面に回路パターンを形成する方法として、各種方法が提案されている。その中で、真空蒸着法やスパッタリング法などのドライプロセスが、密着信頼性に優れた微細な回路パターンを良好に形成することが可能な方法として知られているが、これらの方法は高価な装置を必要とし、しかも同時に生産性が低く、高コストであるという問題を有する。
【0003】
そこで現在、最も一般的な回路パターン形成方法としては、予めポリイミド樹脂の基材の表面全体を金属皮膜で被覆して金属被覆材を作製し、フォトリソグラフ法により不必要な部位の金属皮膜をエッチング処理して除去するサブトラクティブ法が広く採用されている。金属被覆材におけるポリイミド樹脂基材と金属皮膜との間の密着力は、基材の表面を粗化することに伴うアンカー効果、もしくは接着剤により確保されている。このサブトラクティブ法は、生産性に優れ、比較的簡便に回路パターンを形成するのに有用な方法であるが、回路パターンを作製する際に多量の金属皮膜を除去する必要があるため、金属材料の無駄が多く発生するという問題がある。それに加え、近年、電子回路基板の高密度化に伴ってより一層微細な回路パターンが要求されているが、サブトラクティブ法では、オーバーエッチングの発生や基材の表面の粗化による凹凸や接着剤の存在などにより、要求される微細回路パターン形成に対応することが困難であるという問題もある。
【0004】
このため、サブトラクティブ法に代わる回路パターン形成法が盛んに研究されている。例えばフォトリソグラフ法の一種であるアディティブ法は、基材の表面の回路形成部位以外を光硬化性樹脂などのマスクで被覆し、無電解めっき法を用いて基材の表面に回路パターンを直接形成する方法である。無電解めっき法は溶液内の酸化還元反応を利用し、めっき触媒核が付与された基材表面に金属皮膜を形成する方法である。このアディティブ法は、前記のドライプロセスに比べて優れた生産性を有し、またサブトラクティブ法に比べて微細な回路パターン形成が可能であるが、ポリイミド樹脂基材と金属皮膜間の密着力を確保することが難しいため、密着信頼性に劣るといった問題点がある。また、アディティブ法は工程が複雑である上、微細な回路パターンを形成するためには高価な生産設備を必要とし、高コストになるという問題もある。
【0005】
さらに、微細な回路パターンを簡便かつ安価に形成する方法として、インクジェット方式が注目されている。インクジェット方式は、基材の表面に金属ナノ粒子から構成されるインキをインクジェットノズルよりパターン形状に噴霧して、塗布した後、アニーリング処理して微細な金属皮膜からなる回路パターンを形成するようにしたものである。しかし、インクジェット方式で金属ナノ粒子を噴霧、塗布する際に、基材の表面の単位面積あたりの金属ナノ粒子数が不十分であると、アニーリング時の金属ナノ粒子間の焼結に伴う収縮により、得られる金属皮膜が断線する可能性があり、逆に金属ナノ粒子数が過剰であると、アニーリング後形成する金属皮膜の表面平滑性が失われる可能性があり、基材上への金属ナノ粒子の塗布量の制御が極めてシビアであるという問題点がある。また、基材と金属ナノ粒子の金属成分はその物性上、十分な密着信頼性を得ることが難しく、さらに、アニーリング時の金属ナノ粒子間の焼結に伴う収縮により寸法精度にも問題を有するものである。
【0006】
そして近年、優れた密着信頼性を有する回路パターン形成技術として、ポリイミド樹脂の基材表面をアルカリ水溶液で処理してカルボキシル基を生成させ、該カルボキシル基に金属イオンを配位させてカルボキシル基の金属塩を形成したのち、フォトマスクを介して紫外線を該ポリイミド樹脂基材上に照射することによって、選択的に金属イオンを還元して金属皮膜を析出させ、必要に応じてめっき法により金属皮膜を増膜するようにした技術が提案されている(例えば特許文献1等参照)。この方法で形成された金属皮膜はその一部がポリイミド樹脂中に埋包されており、ポリイミド樹脂の基材表面に対する金属皮膜の密着信頼性を高く得ることができるのである。
【特許文献1】特開2001−73159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし特許文献1の発明のように、フォトマスクを介した紫外線照射によるパターン形成法では、回路基板の高密度化に伴って要望される極めて微細な回路パターンに対応することが困難である。また、得られる金属皮膜の厚みはnmオーダーであるため、ほとんどの回路パターン用途においては、増膜が必要とされる。つまり、形成した金属皮膜の回路パターン上にめっき法により金属皮膜を析出させる必要がある。しかし、めっき法では等方性に金属皮膜が析出するため、増膜後、パターン精度が劣化するとともに密着信頼性も低下するおそれがある。これら問題点を解決するために、例えば回路パターン形成部位以外の基材表面に高分子皮膜を形成した後、メッキ法で増膜を行う方法が提案されているが、工程が複雑になり、高コスト化につながるという問題がある。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、無機薄膜を密着信頼性及びパターン精度高くポリイミド樹脂表面に形成することができるポリイミド樹脂の無機薄膜形成方法及び表面改質した無機薄膜形成用ポリイミド樹脂の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係るポリイミド樹脂の無機薄膜形成方法は、ポリイミド樹脂の表面に無機薄膜を形成するにあたって、(1)ポリイミド樹脂の無機薄膜形成部位にアルカリ性水溶液を塗布し、ポリイミド樹脂のイミド環を開裂させてカルボキシル基を生成させると共にポリイミド樹脂をポリアミック酸に改質する工程、(2)この改質された層にポリアミック酸を可溶な溶媒を接触させることによって、改質層の一部を除去して凹部を形成する工程、(3)凹部近傍のカルボキシル基を有するポリイミド樹脂に金属イオン含有溶液を接触させてカルボキシル基の金属塩を生成する工程、(4)この金属塩を金属として、もしくは金属酸化物或いは半導体として、ポリイミド樹脂表面に析出させて無機薄膜を形成する工程、とを有することを特徴とするものである。
【0010】
この発明によれば、ポリイミド樹脂の無機薄膜形成部位に凹部を形成すると共に凹部の内表面に金属もしくは金属酸化物或いは半導体を析出させて無機薄膜を形成することができるものであり、凹部内において無機薄膜の形成を行なうことができ、無機薄膜を密着信頼性高く、且つパターン精度高く形成することができるものである。
【0011】
また請求項2の発明は、請求項1において、ポリアミック酸を可溶な溶媒が、アミド基を有する溶媒であることを特徴とするものである。
【0012】
この発明によれば、(2)の工程で改質層に容易に凹部を形成することができるものである。
【0013】
また請求項3の発明は、請求項1又は2の前記(1)工程において、アルカリ性水溶液をインクジェット法によりポリイミド樹脂の無機薄膜形成部位に塗布することを特徴とするものである。
【0014】
この発明によれば、インクジェット法を用いてアルカリ性水溶液を微細なパターンで塗布することができ、無機薄膜を微細にパターン精度高く形成することができるものである。
【0015】
また請求項4の発明は、請求項1又は2の前記(1)工程において、アルカリ性水溶液を転写法によりポリイミド樹脂の無機薄膜形成部位に塗布することを特徴とするものである。
【0016】
この発明によれば、転写法を用いてアルカリ性水溶液を微細なパターンで塗布することができ、無機薄膜を微細にパターン精度高く形成することができるものである。
【0017】
また請求項5の発明は、請求項1又は2の前記(1)工程において、ポリイミド樹脂の無機薄膜形成部位以外の部分に耐アルカリ性保護層を形成した後、アルカリ性水溶液を塗布することにより、ポリイミド樹脂の無機薄膜形成部位にアルカリ性水溶液を接触させることを特徴とするものである。
【0018】
この発明によれば、所望の無機薄膜形成部位にのみアルカリ性水溶液を塗布することができ、所望のパターンで無機薄膜を形成することができるものである。
【0019】
また請求項6の発明は、請求項1乃至5のいずれかの前記(4)の無機薄膜を形成する工程は、金属塩を還元処理することにより、金属塩を金属としてポリイミド樹脂表面に析出させて、金属薄膜を形成する工程であることを特徴とするものである。
【0020】
この発明によれば、無機薄膜形成部位に金属薄膜を形成することができ、金属薄膜で回路パターンを形成することによって、ポリイミド樹脂を基材とする電子回路基板などとして使用することができるものである。
【0021】
また請求項7の発明は、請求項1乃至5のいずれかの前記(4)の無機薄膜を形成する工程は、金属塩を活性ガスと反応させることにより、金属塩を金属酸化物或いは半導体としてポリイミド樹脂表面に析出させて、金属酸化物薄膜或いは半導体薄膜を形成する工程であることを特徴とするものである。
【0022】
この発明によれば、無機薄膜形成部位に金属酸化物薄膜或いは半導体薄膜を形成することができ、金属酸化物薄膜或いは半導体薄膜を有する各種の電子部品として使用することができるものである。
【0023】
また請求項8の発明は、請求項1乃至7のいずれかの前記(4)工程において、析出した無機薄膜は無機ナノ粒子の集合体から構成されていることを特徴とするものである。
【0024】
この発明によれば、無機ナノ粒子の集合体が有するアンカーロッキング効果を活用して無機薄膜の密着強度を高めることができると共に、無機ナノ粒子の集合体が有する触媒活性を活用して無機薄膜の表面に無電解めっきを容易に行なうことができるものである。
【0025】
また請求項9の発明は、請求項8の前記(4)工程において、無機ナノ粒子の集合体の一部がポリイミド樹脂に埋包されていることを特徴とするものである。
【0026】
この発明によれば、無機ナノ粒子の集合体のポリイミド樹脂に対する高いアンカーロッキング効果で、無機ナノ粒子の集合体からなる無機薄膜をポリイミド樹脂に強固に密着させることができるものである。
【0027】
また請求項10の発明は、請求項1乃至9のいずれかの前記(4)工程の後に、(5)無機薄膜を析出させたポリイミド樹脂表面に無電解めっきを施す工程を有することを特徴とするものである。
【0028】
この発明によれば、無機薄膜の表面に無電解めっき膜を増膜して無機薄膜の膜厚を厚くすることができ、無機薄膜で電子回路基板の回路を形成することができるものである。
【0029】
また請求項11の発明は、請求項10の前記(5)工程において、無機ナノ粒子の集合体をめっき析出核として無電解めっきを行なうことを特徴とするものである。
【0030】
この発明によれば、無機ナノ粒子の集合体からなる無機薄膜の表面に無電解めっきを析出させて、無機薄膜の表面に選択的に無電解めっきを行なうことができ、無電解めっき膜は無機薄膜が形成された凹部の内部において生成されるものであり、無機薄膜に無電解めっき膜を増膜するにあたって増膜後もパターン精度を保つことができるものである。
【0031】
また請求項12の発明は、請求項1乃至11のいずれかにおいて、無機薄膜形成部位は回路パターン形状であることを特徴とするものである。
【0032】
この発明によれば、無機薄膜形成部位に形成される無機薄膜で回路を形成することができ、ポリイミド樹脂を基材とする電子回路基板などとして使用することができるものである。
【0033】
本発明の請求項13に係る表面改質した無機薄膜形成用ポリイミド樹脂の製造方法は、アルカリ性水溶液を部分的に塗布して、ポリイミド樹脂のイミド環を開裂させてカルボキシル基を生成させると共にポリイミド樹脂をポリアミック酸に改質し、この改質された層にポリアミック酸を可溶な溶媒を接触させることによって改質層の一部を除去し、カルボキシル基を有する改質層を残存させた状態で凹部を形成することを特徴とするものである。
【0034】
この発明によれば、ポリイミド樹脂の表面のアルカリ性水溶液を塗布した部分に凹部を形成することができると共に凹部の内表面にカルボキシル基を生成させた改質層を形成することができ、凹部内に無機薄膜の形成を行なうための基材として使用することができるものである。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、ポリイミド樹脂の無機薄膜形成部位に凹部を形成すると共に凹部の内表面に金属もしくは金属酸化物或いは半導体を析出させて無機薄膜を形成することができるものであり、凹部内において無機薄膜の形成を行なうことができ、無機薄膜を密着信頼性高く、且つパターン精度高く形成することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0037】
ポリイミド樹脂は、主鎖に環状イミド構造を持ったポリマーであって、例えばポリアミック酸をイミド化することにより得られるものであり、耐熱性、耐薬品性、機械的強度、難燃性、電気絶縁性等に優れた熱硬化性樹脂である。本発明ではこのポリイミド樹脂のフィルムや成形板などを基材として用いることができ、特に形態上の制限はない。
【0038】
そして本発明は、まず(1)工程で、このポリイミド樹脂の基材の表面にアルカリ性水溶液を塗布する。アルカリ水溶液としては特に制限されるものではないが、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、水酸化マグネシウム水溶液、エチレンジアミン水溶液を挙げることができる。アルカリ水溶液の濃度は特に限定されるものではないが、0.01〜10Mが好ましく、より好ましくは0.5〜6Mである。またアルカリ性水溶液には、バインダー樹脂、有機溶剤、無機フィラー、増粘剤、レベリング剤などから選ばれる助剤を加えて、粘度、ポリイミド樹脂基材との濡れ性、平滑性、揮発性を制御するようにしてもよい。これらは塗布パターンの形状、線幅に応じて選択するのが望ましい。
【0039】
本発明においてポリイミド樹脂基材へのアルカリ性水溶液の塗布は、無機薄膜形成部位にのみ選択的に行なわれるものである。ここで、ポリイミド樹脂基材の表面にアルカリ性水溶液を塗布すると、特許文献1に記載されているように、化学反応式1にみられるようなポリイミド樹脂の分子構造中のイミド環の開裂により、カルボキシル基(−COOA:カルボン酸のアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩)とアミド結合(−CONH−)が生成される。つまり、ポリイミド樹脂基材にアルカリ性水溶液を塗布することによって、アルカリ性溶液を塗布した部分のポリアミド樹脂をポリアミック酸に改質することができるものである。
【0040】
【化1】

【0041】
従って、図1(a)のようなポリイミド樹脂基材1の表面にアルカリ性水溶液2を部分的に塗布して、図1(b)のようにポリイミド樹脂基材1の表面にアルカリ性水溶液2を無機薄膜形成部位にのみ選択的に接触させることによって、ポリイミド樹脂基材1の表層部にカルボキシル基が生成されると共にポリアミック酸に改質された改質層4が、無機薄膜形成部位に沿ったパターンで形成される。
【0042】
ここで、上記のようにポリイミド樹脂基材1の表面に部分的に塗布したアルカリ性水溶液2がポリイミド樹脂基材1の表面内に浸透するに従って、カルボキシル基を生成させてポリイミド樹脂をポリアミック酸に改質させる反応が進行し、従って、アルカリ性水溶液2を塗布した後の静置時間を長くしたり、ポリイミド樹脂基材1を加熱処理したりすることによって、図1(c)のように改質層4の厚みを増大させることができるものである。アルカリ性水溶液2をポリイミド樹脂基材1の表面に塗布する際の処理温度は10〜80℃が好ましく、より好ましくは15〜60℃である。また処理時間は5〜1800秒が好ましく、より好ましくは30〜600秒である。具体的には、アルカリ性水溶液2をポリイミド樹脂基材1の表面に塗布した後、ポリイミド樹脂基材1を加熱しながら長時間静置すれば、より厚い改質層4を形成することができるものである。
【0043】
上記のように、ポリイミド樹脂基材の無機薄膜形成部位にアルカリ性水溶液を選択的に塗布するにあたっては、例えばインクジェット法で行なうことができる。すなわち、アルカリ性水溶液をインクジェット印刷装置のインクとして用い、所望のパターンにアルカリ性水溶液をポリイミド樹脂基材表面に噴霧、塗布することによって、無機薄膜形成部位にアルカリ性水溶液を選択的に塗布することができるものである。インクジェット印刷装置としては、サーマル方式、ピエゾ方式のいずれも使用可能である。
【0044】
また、転写法によって、ポリイミド樹脂基材の無機薄膜形成部位にアルカリ性水溶液を選択的に塗布することもできる。転写法としては特に制限されるものではないが、例えば電子写真法や、オフセット印刷法などを用いることができる。電子写真法は、例えば、アルカリ性水溶液を公知のマイクロカプセル法を用いて熱可塑性樹脂カプセルに内包すると共に、このマイクロカプセル粒子の表面に帯電制御剤、例えばアゾ系含金属錯体を被覆して形成した粉体を、トナーとして用いて行なうことができるものである。この粉体の粒径は0.1〜10μmが好ましく、より好ましくは0.5〜5μmである。
【0045】
さらに、ポリイミド樹脂基材の表面の無機薄膜を形成する部位以外の部分に、耐アルカリ性保護層を形成した後、アルカリ性水溶液を塗布することによって、ポリイミド樹脂基材の無機薄膜形成部位にアルカリ性水溶液を選択的に塗布するようにすることもできる。耐アルカリ性保護層は、フォトリソグラフ法、スクリーン印刷法、蒸着法などでポリイミド樹脂基材の表面に形成することができるものである。このようにポリイミド樹脂基材の無機薄膜形成部位以外の部分に耐アルカリ性保護層を形成した後、ポリイミド樹脂基材の表面にスピンコート法やディップ法などでアルカリ性水溶液を塗布することによって、耐アルカリ性保護層で被覆されておらず露出された状態の無機薄膜形成部位にのみ選択的にアルカリ性水溶液を塗布することができるものである。
【0046】
ここで、蒸着法で耐アルカリ性保護層を形成する場合、金、銀、アルミニウム、鉄、錫、銅、チタン、ニッケル、タングステン、タンタル、コバルト、亜鉛、クロム、マンガンから選ばれた少なくとも1種を含む金属薄膜で耐アルカリ性保護層を形成することができる。またスクリーン印刷法で耐アルカリ性保護層を形成する場合は、アクリル樹脂、シリコン樹脂、もしくはフッ素樹脂から選ばれた少なくとも1種を含む液状樹脂を印刷して耐アルカリ性保護層を形成することができる。さらにフォトリソグラフ法で耐アルカリ性保護層を形成する場合は、例えばリソグラフィレジスト用フッ素樹脂を用いて耐アルカリ性保護層を形成することができる。
【0047】
上記のように(1)工程で、ポリイミド樹脂基材1の無機薄膜形成部位にアルカリ性水溶液2を塗布し、ポリイミド樹脂のイミド環を開裂させてカルボキシル基を生成させると共にポリイミド樹脂をポリアミック酸に改質して、改質層4を形成した後、(2)工程で、ポリイミド樹脂基材1の表面にポリアミック酸を溶解する溶媒を接触させる。ポリアミック酸を溶解する溶媒としては、特に限定されるものではないが、アミド基を有する溶媒が好ましく、具体的には、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドを挙げることができる。
【0048】
このようにポリイミド樹脂基材1の表面にポリアミック酸を溶解する溶媒を接触させると、改質層4のポリアミック酸にこの溶剤が作用し、改質層4がその表面から部分的に溶解され、図1(d)のように、ポリイミド樹脂基材1の表面に溝状の凹部3(トレンチ)が形成される。この凹部3は改質層4を溶解して形成されているので、凹部3の内表面に改質層4を形成するカルボキシル基を有するポリアミック酸が残存している。尚、図1(d)では、改質層4が凹部3の側面から底面にかけて均一に存在する状態を示しているが、これに限るものではなく、改質層4は凹部3の一部に存在していればよい。
【0049】
ここで、上記のようにポリアミック酸を溶解する溶媒を改質層4に接触させて凹部3を形成するにあたって、ポリアミック酸を溶解する溶媒との接触時間を長くしたり、ポリイミド樹脂基材1を加熱処理したりすることによって、凹部3の深さを深く形成することができるものである。ポリアミック酸を溶解する溶媒をポリイミド樹脂基材1に接触させるためには、ポリイミド樹脂基材1をポリアミック酸を溶解する溶媒に浸漬処理する等の方法があるが、その際の処理温度は15〜120℃が好ましく、また処理時間は5〜180分間が好ましい。但し、改質層4の総てが除去されてしまわないように、改質層4の厚さ等に応じて温度や時間を適宜調節する必要がある。凹部3の深さは0.5〜30μmの範囲が好ましく、より好ましくは3〜20μmの範囲である。このように凹部3を形成した後、例えばポリイミド樹脂基材1の表面を洗浄して、ポリイミド樹脂の分解物を除去するのが好ましい。
【0050】
上記のように(2)工程で、ポリイミド樹脂基材1の表面の無機薄膜形成部位に、カルボキシル基を生成させたポリイミド樹脂で形成される改質層4が残存する凹部3を形成した後、(3)工程で、ポリイミド樹脂基材1の表面を金属イオン含有溶液で処理する。金属イオン含有溶液において、金属イオンとしては、金イオン、銀イオン、銅イオン、白金アンミン錯体、パラジウムアンミン錯体、タングステンイオン、タンタルイオン、チタンイオン、錫イオン、インジウムイオン、カドミウムイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、マンガンイオン、アルミニウムイオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、そして亜鉛イオンから選ばれた少なくとも1種を挙げることができる。これらの金属イオンのうち、白金アンミン錯体、パラジウムアンミン錯体はアルカリ溶液の状態で、それ以外の金属イオンは酸性溶液の状態で使用されるものである。
【0051】
そして、このようにポリイミド樹脂基材1の表面を金属イオン含有溶液で処理して、上記のようにカルボキシル基を生成させた凹部3の内表面の改質層4に金属イオン含有溶液を接触させることによって、例えば
−COO…M2+OOC−
のようにカルボキシル基に金属イオン(M2+)を配位させてカルボキシル基の金属塩(カルボン酸の金属塩)を生成させることができるものであり、図1(e)のように凹部3の内表面の改質層4の箇所に金属イオン含有改質層5を形成させることができるものである。ここで、ポリイミド樹脂に生成させたカルボキシル基中の水酸基、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属と、金属イオンとの間の配位子交換を進行させるために、水酸基やアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の解離度を増加させる必要がある。このためにはポリイミド樹脂基材1を酸性状態に保つことが必要であり、従ってこの場合には金属イオン含有溶液として金属イオン含有酸性溶液を用いるのが好ましい。
【0052】
また、金属イオン含有溶液中の金属イオン濃度は、ポリイミド樹脂に生成させたカルボキシル基中の水酸基、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属と、金属イオンとの配位子置換反応に密接な相関を示す。金属イオン種により異なるが、金属イオン濃度は1〜1000mMが好ましく、より好ましくは10〜500mMである。金属イオン濃度が低くなると、配位子置換の反応が平衡に達するまでの時間がかかるため好ましくない。ポリイミド樹脂基材1の表面への金属イオン含有溶液の接触時間は10〜600秒が好ましく、より好ましくは30〜420秒である。
【0053】
上記のように(3)の工程で、ポリイミド樹脂基材1の凹部3の内表面の改質層4に金属イオン含有溶液を接触させ、カルボキシル基の金属塩を生成させた金属イオン含有改質層5を形成させた後、水もしくはアルコールでポリイミド樹脂基材1の表面を洗浄し、不要な金属イオンを除去する。そして次に、(4)の工程で、金属イオン含有改質層5の金属塩を、金属として析出させ、もしくは金属酸化物或いは半導体として析出させ、ポリイミド樹脂基材1の凹部3の内表面に、金属からなる無機薄膜6、もしくは金属酸化物或いは半導体からなる無機薄膜6を形成することができるものである。この無機薄膜6は、図1(f)に示すように凹部3の内表面において金属イオン含有改質層5の表層に形成されるものである。ここで、このように金属イオン含有改質層5の金属塩を、金属もしくは金属酸化物或いは半導体として金属イオン改質層5の表層に析出させることによって、金属イオン含有改質層5は含有する金属イオンが減少するように組成が変化している。すなわち、(4)の工程の後の金属イオン含有改質層5は、金属イオン含有改質層5の厚みや後述の処理の方法・程度等によって影響されるが、金属イオンが残存していない改質層5′か、あるいは金属イオンのうちの一部が残存している改質層5′に、その組成が変質しているものである。
【0054】
金属イオン含有改質層5の金属塩を金属として析出させる場合には、金属塩を還元処理することによって行なうことができる。還元処理は、例えば、還元剤を含む溶液でポリイミド樹脂基材1の表面を処理したり、還元ガスや不活性ガス雰囲気下でポリイミド樹脂基材1を熱処理することによって行なうことができる。還元条件は金属イオン種により異なるが、還元剤を含む溶液で処理する場合、還元剤として、例えば水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸及びその塩、ジメチルアミンボラン等を使用することができる。また還元ガスで処理する場合、還元ガスとして、例えば水素及びその混合ガス、ボラン−窒素混合ガス等を使用することができ、不活性ガスで処理する場合、不活性ガスとして、例えば窒素ガス、アルゴンガス等を使用することができる。
【0055】
また、金属イオン含有改質層5の金属塩を金属酸化物或いは半導体として析出させる場合には、金属塩を活性ガスで処理することによって行なうことができる。処理条件は金属イオン種により異なるが、活性ガスとして、例えば酸素及びその混合ガス、窒素及びその混合ガス、硫黄及びその混合ガス等を使用し、ポリイミド樹脂基材1の表面を活性ガスと接触させることによって、処理を行なうことができる。
【0056】
ここで、金属酸化物としては、例えば酸化チタン、酸化錫、酸化インジウム、酸化バナジウム、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化コバルト、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、インジウム−錫複合酸化物、ニッケル−鉄複合酸化物、コバルト−鉄複合酸化物、などを挙げることができるものであり、このように金属酸化物からなる無機薄膜6をポリイミド樹脂基材1の表面に形成することによって、例えば、コンデンサー、透明導電膜、放熱材、磁気記録材料、エレクトロクロミック素子、センサー、触媒、発光材料などとして使用することができるものである。
【0057】
また半導体としては、例えば硫化カドミウム、テルル化カドミウム、セレン化カドミウム、硫化銀、硫化銅、リン化インジウム、などを挙げることができるものであり、このように半導体からなる無機薄膜6をポリイミド樹脂基材1の表面に形成することによって、例えば、発光材料、トランジスタ、メモリー材料、などとして使用することができるものである。
【0058】
上記のように(4)の工程で形成される無機薄膜6を構成する金属、もしくは金属酸化物或いは半導体は、粒径2〜100nmのナノ粒子で構成されている。この無機ナノ粒子は、その極めて高い表面エネルギーのため容易に凝集され、無機ナノ粒子の集合体として存在するものである。そしてこのとき、上記の金属イオン濃度、還元剤濃度、雰囲気温度、活性ガス濃度の条件などにより程度は異なるものの、無機ナノ粒子の集合体の一部がポリイミド樹脂基材1の樹脂内で安定化しており、すなわち、無機ナノ粒子の集合体の一部がポリイミド樹脂の表層部内に埋包された状態となり、この際のアンカーロッキング効果によって、ポリイミド樹脂基材1と無機ナノ粒子の集合体からなる無機薄膜6とを強固に密着させることができるものである。特に、基材表面を化学的、もしくは物理的に粗化することにより得られる一般的なアンカーロッキング効果では、その表面粗さがμmオーダーであるが、本発明におけるような無機ナノ粒子とポリイミド樹脂とのアンカーロッキング効果は、表面粗さがナノスケールで優れた密着特性を得ることができるものであり、高周波領域の電子信号を伝達するための配線材料に適しているものである。
【0059】
上記のようにしてポリイミド樹脂基材1の無機薄膜形成部位に無機薄膜6を形成することができるものであり、無機薄膜形成部位を回路パターン形状に設定しておくことによって、無機薄膜6で回路パターンを形成することができ、ポリイミド樹脂基材1を電子回路基板などの電子部品として加工することができるものである。ここで、無機薄膜6は上記のようにポリイミド樹脂基材1の表面に形成される凹部3内に形成されるものである。従って無機薄膜6は凹部3から剥がれ難いものであって、無機薄膜6を密着性高く形成することができると共に、凹部3に沿って無機薄膜6を精度高く形成することができるものであり、無機薄膜6で回路パターンを形成するにあたって、密着信頼性高く且つパターン精度高く形成することができるものである。
【0060】
ここで、上記の(4)の工程で形成される無機薄膜6は膜厚が10〜500nm程度である。一方、電子回路基板において回路は概ねμ単位の膜厚が必要である。このために、電子回路基板として使用する場合には、無機薄膜6に増膜を施して、回路の膜厚を厚く形成することが好ましい。すなわち、(4)の工程の後に、(5)の工程で、ポリイミド樹脂基材1に設けた無機薄膜6の表面に無電解めっきを行ない、無機薄膜6の膜厚を無電解めっきで厚くすることができるものである。
【0061】
無電解めっきは、例えば、無電解めっき浴にポリイミド樹脂基材1を浸漬することによって行なうことができる。このとき、無機薄膜6を形成する上記の無機ナノ粒子集合体をめっきの析出核として、無機薄膜6の表面に図1(g)のように無電解めっき膜7を析出させることができるものである。すなわち、無機ナノ粒子の集合体は、極めて広大な比表面積を有するので、優れた触媒活性を示すものであり、無電解めっき膜7を析出させるための析出核として利用する場合、多くの点から均一にめっき膜の析出が始まるため、良好な密着性と電気特性を示す無電解めっき膜7を得ることができるものである。このように無機ナノ粒子集合体をめっきの析出核として無機薄膜6の表面に無電解めっき膜7を析出させることによって、ポリイミド樹脂基材1の表面のうち、無機薄膜6の表面にのみ選択的に無電解めっき膜7を形成することができるものであり、そして無電解めっき膜7は無機薄膜6が形成された凹部3の内部に沿って生成されるものであり、無機薄膜6に無電解めっき膜7を増膜して回路を形成するにあたって増膜後も凹部3によって回路のパターン精度を保つことができるものである。従って無電解めっき膜7の厚みは凹部3の深さ以下であることが好ましく、具体的には既述のように0.5〜30μmが好ましい。また凹部3の内部を完全に無電解めっき膜7で充填する場合には、無電解めっき膜7の厚みは凹部3の深さ以上でもよく、この場合は0.5〜31μmが好ましい。無電解めっき膜7の厚みが凹部3の深さを超えるときには、研削等の機械的手段、もしくはエッチングなど化学的手段で、深さを超えた無電解めっき膜7を研磨除去するのが好ましい。尚、無電解めっき浴は、ポリイミド樹脂基材1の再改質を防ぐため、中性もしくは弱アルカリ性無電解めっき浴であることが好ましい。
【実施例】
【0062】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0063】
(実施例1)
10M濃度のKOH水溶液100質量部に、増粘剤としてポリエチレングリコール10質量部を加え、これを攪拌して溶解させることによって、アルカリ性水溶液を調製した。
【0064】
一方、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、商品名「カプトン200−H」)をエタノール溶液に浸漬し、5分間超音波洗浄を施したのち、オーブン中で100℃、60分乾燥することにより、ポリイミドフィルムの表面を清浄化した。
【0065】
そしてプリント・ヘッドのインクカートリッジに、上記アルカリ性水溶液を充填し、ピエゾ方式のインクジェット印刷装置を用いてポリイミドフィルムの表面に線幅50μmの回路パターンを描画して、アルカリ性水溶液を塗布し、10分間室温で静置した。この結果、ポリイミドフィルムの表面には回路パターン形状で改質層が形成されていた(図1(c)参照)。その後、ポリイミドフィルムをエタノール溶液中に浸漬して超音波洗浄を10分間行った。
【0066】
次に、ポリイミドフィルムを30℃のジメチルアミンボラン溶液中に30分間浸漬し、改質層のポリアミック酸を部分的に溶解除去した後、蒸留水中で超音波洗浄を行ない、100℃で1時間乾燥した。この結果、ポリイミドフィルムの表面には幅52μm、深さ4.5μmの回路パターン形状の凹部が形成されていた(図1(d)参照)。
【0067】
そしてこのポリイミドフィルムについて、顕微ATR分光分析装置を用いて、凹部の内表面に改質層が残存しているか否かを検証した。その結果、1780cm-1付近にイミド環のCO伸縮振動に帰属されるバンドが認められなかったと共に、1740cm-1付近のカルボキシル基のCO伸縮振動に帰属されるバンドが明確に認められることから、凹部の内表面はポリアミック酸からなる改質層で被覆されていることが確認された。また断面TEM観察の結果から、この改質層の厚みは0.5μmであることが確認された。
【0068】
次に、金属イオン含有酸性溶液として100mMの濃度のCuSO水溶液を用い、この水溶液中にポリイミドフィルムを5分間浸漬し、凹部の内表面近傍に形成した改質層にCuイオンを選択的に配位し、金属イオン含有改質層を形成した(図1(e)参照)。この後、蒸留水で余分なCuSOを除去した。
【0069】
次に、還元溶液として5mM濃度のNaBH水溶液を用い、この水溶液に上記の表面改質したポリイミドフィルムを5分間浸漬した後、蒸留水で洗浄したところ、凹部の内表面に銅薄膜の析出が確認された(図1(f)参照)。銅薄膜の厚みは50nm、銅薄膜の電気抵抗は5×10−3Ωcmであり、凹部と同形状を有する回路パターンを形成することができた。
【0070】
この後、ポリイミドフィルムを、50℃に温度調整した次の浴組成の中性無電解銅めっき浴に3時間浸漬した。
【0071】
CuCl :0.05M
エチレンジアミン :0.60M
Co(NO :0.15M
アスコルビン酸 :0.01M
2,2’−ビピリジル :20ppm
pH :6.75
そして無電解銅めっき膜は凹部の内部において銅薄膜の上に析出し、膜厚が4μmの均一な銅めっき膜が得られた。銅めっき膜の電気抵抗は3×10−5Ωcmであり、先の銅薄膜とこの銅めっき膜とで、電子回路基板の回路を形成することができた(図1(g)参照)。
【0072】
(実施例2)
5M濃度のKOH水溶液を、ウォーターインオイルインウォーター法を用いてスチレンアクリル系樹脂のカプセルに内包し、粒径3μmのマイクロカプセルを調製した。
【0073】
マイクロカプセル表面にアゾ系含金属錯体を付与した後、実施例1と同様に表面を清浄化したポリイミドフィルムの表面に、電子写真法により線幅50μmの回路パターンを転写してマイクロカプセルを印刷し、60℃に保持されたオーブン中で30分間加熱処理した。この結果、ポリイミドフィルムの表面には回路パターン形状で改質層が形成されていた(図1(c)参照)。その後、ポリイミドフィルムをエタノール溶液中に浸漬して超音波洗浄を10分間行った。
【0074】
次に、ポリイミドフィルムを45℃のN−メチルピロリドン溶液中に30分間浸漬し、改質層のポリアミック酸を部分的に溶解除去した後、蒸留水中で超音波洗浄を行ない、60℃で30分間乾燥した。この結果、ポリイミドフィルムの表面には幅53μm、深さ16μmの回路パターン形状の凹部が形成されていた(図1(d)参照)。
【0075】
そしてこのポリイミドフィルムについて、顕微ATR分光分析装置を用いて、凹部の内表面に改質層が残存しているか否かを検証した。その結果、1780cm-1付近にイミド環のCO伸縮振動に帰属されるバンドが認められなかったと共に、1740cm-1付近のカルボキシル基のCO伸縮振動に帰属されるバンドが明確に認められることから、凹部の内表面はポリアミック酸からなる改質層で被覆されていることが確認された。また断面TEM観察の結果から、この改質層の厚みは2μmであることが確認された。
【0076】
次に、金属イオン含有酸性溶液として100mMの濃度のAgNO水溶液を用い、この水溶液中にポリイミドフィルムを5分間浸漬し、凹部の内表面近傍に形成した改質層にAgイオンを選択的に配位し、金属イオン含有改質層を形成した(図1(e)参照)。この後、蒸留水で余分なAgNOを除去した。
【0077】
次に、還元ガスとして水素を用い、200℃の50%水素気流中(Nバランス)で30分間、上記の表面改質したポリイミドフィルムを還元処理したところ、凹部の内表面に銀薄膜の析出が確認された(図1(f)参照)。銀薄膜の厚みは300nm、銀皮膜の電気抵抗は5×10−3Ωcmであり、凹部と同形状を有する回路パターンを形成することができた。
【0078】
この後、ポリイミドフィルムを、75℃に温度調整した次の浴組成の中性無電解ニッケルめっき浴に3時間浸漬した。
【0079】
NiSO :0.1M
CHCOOH :1.0M
NaHPO :0.2M
pH :4.5
そして無電解ニッケルめっき膜は凹部の内部において銀薄膜の上に析出し、膜厚が4μmの均一なニッケルめっき膜が得られた。ニッケルめっき膜の電気抵抗は3×10−5Ωcmであり、先の銀薄膜とこのニッケルめっき膜とで、電子回路基板の回路を形成することができた(図1(g)参照)。
【0080】
(実施例3)
1M濃度のNaOH水溶液に、増粘剤としてエチルセルロース30質量部を加え、これを攪拌して溶解させることによって、アルカリ性水溶液を調製した。
【0081】
次に、プリント・ヘッドのインクカートリッジに、上記アルカリ性水溶液を充填し、ピエゾ方式のインクジェット印刷装置を用いて、実施例1と同様に表面清浄化したポリイミドフィルムの表面に線幅20μmの回路パターンを描画し、50℃で20分間静置した。この結果、ポリイミドフィルムの表面には回路パターン形状で改質層が形成されていた(図1(c)参照)。その後、ポリイミドフィルムを1−プロパノール溶液中に浸漬して超音波洗浄を10分間行ない、100℃で30分間乾燥した。
【0082】
次に、ポリイミドフィルムを40℃のN−メチルピロリドン溶液中に20分間浸漬し、改質層のポリアミック酸を部分的に溶解除去した後、蒸留水中で超音波洗浄を行ない、100℃で30分間乾燥した。この結果、ポリイミドフィルムの表面には幅21μm、深さ8μmの回路パターン形状の溝状凹部が形成されていた(図1(d)参照)。
【0083】
そしてこのポリイミドフィルムについて、顕微ATR分光分析装置を用いて、凹部の内表面に改質層が残存しているか否かを検証した。その結果、1780cm-1付近にイミド環のCO伸縮振動に帰属されるバンドが認められなかったと共に、1740cm-1付近のカルボキシル基のCO伸縮振動に帰属されるバンドが明確に認められることから、凹部の内表面はポリアミック酸からなる改質層で被覆されていることが確認された。また断面TEM観察の結果から、この改質層の厚みは2μmであることが確認された。
【0084】
次に、金属イオン含有酸性溶液として50mMの濃度のNiSO水溶液を用い、この水溶液中に上記の表面改質したポリイミドフィルムを5分間浸漬し、凹部の内表面近傍に形成した改質層にNiイオンを選択的に配位し、金属イオン含有改質層を形成した(図1(e)参照)。この後、蒸留水で余分なNiSOを除去した。
【0085】
次に、還元溶液として150mM濃度のヒドラジン水溶液を用い、この水溶液にポリイミドフィルムを10分間浸漬した後、蒸留水で洗浄したところ、凹部の内表面にニッケル薄膜の析出が確認された(図1(f)参照)。ニッケル薄膜の厚みは120nm、ニッケル薄膜の電気抵抗は1.5×10−2Ωcmであり、凹部と同形状を有する回路パターンを形成することができた。
【0086】
そしてこのようにニッケル薄膜パターンを形成したポリイミドフィルムを、実施例2と同様にして電子回路基板の回路形成用に用いた。
【0087】
(実施例4)
5M濃度のNaOH水溶液100質量部に、増粘剤としてエチルセルロース30質量部を加え、これを攪拌して溶解させることによって、アルカリ性水溶液を調製した。
【0088】
そしてプリント・ヘッドのインクカートリッジに、上記アルカリ性水溶液を充填し、ピエゾ方式のインクジェット印刷装置を用いてポリイミドフィルムの表面に線幅20μmの回路パターンを描画して、アルカリ性水溶液を塗布し、30℃で40分間静置した。この結果、ポリイミドフィルムの表面には回路パターン形状で改質層が形成されていた(図1(c)参照)。その後、ポリイミドフィルムをメタノール溶液中に浸漬して超音波洗浄を10分間行ない、40℃で10分間乾燥した。
【0089】
次に、ポリイミドフィルムを28℃のジメチルホルムアミド溶液中に1時間浸漬し、改質層のポリアミック酸を部分的に溶解除去した後、蒸留水中で超音波洗浄を10分間行ない、80℃で30分間乾燥した。この結果、ポリイミドフィルムの表面には幅21μm、深さ10μmの回路パターン形状の溝状凹部が形成されていた(図1(d)参照)。
【0090】
そしてこのポリイミドフィルムについて、顕微ATR分光分析装置を用いて、凹部の内表面に改質層が残存しているか否かを検証した。その結果、1780cm-1付近にイミド環のCO伸縮振動に帰属されるバンドが認められなかったと共に、1740cm-1付近のカルボキシル基のCO伸縮振動に帰属されるバンドが明確に認められることから、凹部の内表面はポリアミック酸からなる改質層で被覆されていることが確認された。また断面TEM観察の結果から、この改質層の厚みは5μmであることが確認された。
【0091】
次に、金属イオン含有酸性溶液として50mMの濃度のCuSO水溶液を用い、この水溶液中に上記の表面改質したポリイミドフィルムを5分間浸漬し、凹部の内表面近傍に形成した改質層にCuイオンを選択的に配位し、金属イオン含有改質層を形成した(図1(e)参照)。この後、蒸留水で余分なCuSOを除去した。
【0092】
次に、還元溶液として100mM濃度のジメチルアミンボラン水溶液を用い、この水溶液にポリイミドフィルムを10分間浸漬した後、蒸留水で洗浄したところ、凹部の内表面に銅薄膜の析出が確認された(図1(f)参照)。銅薄膜の厚みは500nm、銅薄膜の電気抵抗は9×10−3Ωcmであり、凹部と同形状を有する回路パターンを形成することができた。
【0093】
そしてこのように銅薄膜パターンを形成したポリイミドフィルムを、実施例1と同様にして電子回路基板の回路形成用に用いた。
【0094】
(実施例5)
3M濃度のMg(OH)水溶液100質量部に、増粘剤としてエチルセルロース30質量部を加え、これを攪拌して溶解させることによって、アルカリ性水溶液を調製した。
【0095】
次に、プリント・ヘッドのインクカートリッジに、上記アルカリ性水溶液を充填し、ピエゾ方式のインクジェット印刷装置を用いて、実施例1と同様に表面清浄化したポリイミドフィルムの表面に線幅30μmの回路パターンを描画し、20分間室温で静置した。この結果、ポリイミドフィルムの表面には回路パターン形状で改質層が形成されていた(図1(c)参照)。その後、ポリイミドフィルムを1−プロパノール溶液中に浸漬して超音波洗浄を10分間行ない、100℃で30分間乾燥した。
【0096】
次に、ポリイミドフィルムを25℃のN−メチルピロリドン溶液中に5分間浸漬し、改質層のポリアミック酸を部分的に溶解除去した後、蒸留水中で超音波洗浄を10分間行ない、80℃で30分間乾燥した。この結果、ポリイミドフィルムの表面には幅20μm、深さ3μmの回路パターン形状の溝状凹部が形成されていた(図1(d)参照)。
【0097】
そしてこのポリイミドフィルムについて、顕微ATR分光分析装置を用いて、凹部の内表面に改質層が残存しているか否かを検証した。その結果、1780cm-1付近にイミド環のCO伸縮振動に帰属されるバンドが認められなかったと共に、1740cm-1付近のカルボキシル基のCO伸縮振動に帰属されるバンドが明確に認められることから、凹部の内表面はポリアミック酸からなる改質層で被覆されていることが確認された。また断面TEM観察の結果から、この改質層の厚みは1μmであることが確認された。
【0098】
次に、金属イオン含有酸性溶液として100mMの濃度のCuSO水溶液を用い、この水溶液中に上記の表面改質したポリイミドフィルムを5分間浸漬し、凹部の内表面近傍に形成した改質層にCuイオンを選択的に配位し、金属イオン含有改質層を形成した(図1(e)参照)。この後、蒸留水で余分なCuSOを除去した。
【0099】
次に、還元溶液として5mM濃度のNaBH水溶液を用い、この水溶液にポリイミドフィルムを5分間浸漬した後、蒸留水で洗浄したところ、凹部の内表面に銅薄膜の析出が確認された(図1(f)参照)。銅薄膜の厚みは90nm、銅薄膜の電気抵抗は5×10−3Ωcmであり、凹部と同形状を有する回路パターンを形成することができた。
【0100】
そしてこのように銅薄膜パターンを形成したポリイミドフィルムを、実施例1と同様にして電子回路基板の回路形成用に用いた。
【0101】
(実施例6)
5M濃度のKOH水溶液100質量部に、増粘剤としてグリセリン50質量部を加え、これを攪拌して溶解させることによって、アルカリ性水溶液を調製した。
【0102】
次に、プリント・ヘッドのインクカートリッジに、上記アルカリ性水溶液を充填し、サーマル方式のインクジェット印刷装置を用いて、実施例1と同様に表面清浄化したポリイミドフィルムの表面に線幅15μmの回路パターンを描画し、48℃で30分間静置した。この結果、ポリイミドフィルムの表面には回路パターン形状で改質層が形成されていた(図1(c)参照)。その後、ポリイミドフィルムを1−プロパノール溶液中に浸漬して超音波洗浄を10分間行ない、100℃で30分間乾燥した。
【0103】
次に、ポリイミドフィルムを45℃のジメチルアミンボラン溶液中に30分間浸漬し、改質層のポリアミック酸を部分的に溶解除去した後、蒸留水中で超音波洗浄を10分間行ない、80℃で30分間乾燥した。この結果、ポリイミドフィルムの表面には幅16μm、深さ12μmの回路パターン形状の溝状凹部が形成されていた(図1(d)参照)。
【0104】
そしてこのポリイミドフィルムについて、顕微ATR分光分析装置を用いて、凹部の内表面に改質層が残存しているか否かを検証した。その結果、1780cm-1付近にイミド環のCO伸縮振動に帰属されるバンドが認められなかったと共に、1740cm-1付近のカルボキシル基のCO伸縮振動に帰属されるバンドが明確に認められることから、凹部の内表面はポリアミック酸からなる改質層で被覆されていることが確認された。また断面TEM観察の結果から、この改質層の厚みは3μmであることが確認された。
【0105】
次に、0.1M濃度の硫酸インジウム水溶液と0.1M濃度の硫酸錫水溶液を混合し、インジウムイオンと錫イオンのモル比がインジウム/錫=15/85からなる金属イオン含有酸性水溶液を調製し、この金属イオン含有水溶液中に上記の表面改質したポリイミドフィルムを20分間浸漬し、凹部の内表面の改質層にインジウムイオンと錫イオンを配位させて、金属イオン含有改質層を形成した(図1(e)参照)。この後、蒸留水で余分な金属イオンを除去した。
【0106】
次にこのポリイミドフィルムを水素雰囲気下で350℃、3時間熱処理を行い、インジウム−錫合金からなるナノ粒子集合体を得た。この時、ナノ粒子集合体の膜厚は50nmであった。この後、ポリイミドフィルムを空気雰囲気下で300℃、6時間の条件で熱処理して、インジウム−錫合金を酸素と反応させることによって、凹部の内表面にITO薄膜を形成させた(図1(f)参照)。このITO薄膜のシート抵抗は0.7Ω/□であった。
【0107】
(実施例7)
5M濃度のエチレンジアミン水溶液100質量部に、増粘剤としてポリビニルピロリドン30質量部とグリセリン20質量部を加え、これを攪拌して溶解させることによって、アルカリ性水溶液を調製した。
【0108】
次に、プリント・ヘッドのインクカートリッジに、上記アルカリ性水溶液を充填し、サーマル方式のインクジェット印刷装置を用いて、実施例1と同様に表面清浄化したポリイミドフィルムの表面に線幅10μmの回路パターンを描画し、50℃で20分間静置した。この結果、ポリイミドフィルムの表面には回路パターン形状で改質層が形成されていた(図1(c)参照)。その後、ポリイミドフィルムをエタノール溶液中に浸漬して超音波洗浄を10分間行なった。
【0109】
次に、ポリイミドフィルムを40℃のN−メチルピロリドン溶液中に30分間浸漬し、改質層のポリアミック酸を部分的に溶解除去した後、蒸留水中で超音波洗浄を10分間行ない、80℃で30分間乾燥した。この結果、ポリイミドフィルムの表面には幅12μm、深さ8μmの回路パターン形状の溝状凹部が形成されていた(図1(d)参照)。
【0110】
そしてこのポリイミドフィルムについて、顕微ATR分光分析装置を用いて、凹部の内表面に改質層が残存しているか否かを検証した。その結果、1780cm-1付近にイミド環のCO伸縮振動に帰属されるバンドが認められなかったと共に、1740cm-1付近のカルボキシル基のCO伸縮振動に帰属されるバンドが明確に認められることから、凹部の内表面はポリアミック酸からなる改質層で被覆されていることが確認された。また断面TEM観察の結果から、この改質層の厚みは3μmであることが確認された。
【0111】
次に、50mM濃度の硝酸カドミウム水溶液からなる金属イオン含有酸性水溶液中に上記の表面改質したポリイミドフィルムを3分間浸漬し、凹部の内表面の改質層にカドミウム(II)イオンを配位させて、金属イオン含有改質層を形成した(図1(e)参照)。この後、蒸留水で余分な硝酸カドミウムを除去した。
【0112】
次に100ppm濃度の硫化ナトリウム、5mM濃度のリン酸水素二ナトリウム、5mM濃度のリン酸二水素カリウムの組成からなる水溶液を30℃に保ち、ポリイミドフィルムを20分間浸漬して硫化処理を行い、硫化カドミウムのナノ粒子集合体を得た。そして上記のアルカリ性水溶液による処理以降の処理を10回繰り返すことにより、硫化カドミウムのナノ粒子集合体の濃度を増加させた。
【0113】
この後、大気雰囲気下で300℃、5時間の条件で熱処理を行うことにより、凹部の内表面に硫化カドミウム薄膜を形成させた(図1(f)参照)。この硫化カドミムウム薄膜の膜厚は2.3μmであった。
【0114】
(比較例1)
5M濃度のエチレンジアミン水溶液100質量部に、増粘剤としてポリビニルピロリドン30質量部とグリセリン20質量部を加え、これを攪拌して溶解させることによって、アルカリ水溶液を調製した。
【0115】
次に、プリント・ヘッドのインクカートリッジに、上記アルカリ性水溶液を充填し、ピエゾ方式のインクジェット印刷装置を用いて、実施例1と同様に表面清浄化したポリイミドフィルムの表面に線幅20μmの回路パターンを描画し、50℃で30分間静置した。この結果、ポリイミドフィルムの表面には回路パターン形状で改質層が形成されていた。その後、ポリイミドフィルムを1−プロパノール溶液中に浸漬して超音波洗浄を10分間行ない、100℃で30分間乾燥した。
【0116】
次に、ポリイミドフィルムを35℃のN−メチルピロリドン溶液中に3時間浸漬し、改質層のポリアミック酸を溶解除去した後、蒸留水中で超音波洗浄を10分間行ない、80℃で30分間乾燥した。この結果、ポリイミドフィルムの表面には幅21μm、深さ15μmの回路パターン形状の溝状凹部が形成されていた。
【0117】
そしてこのポリイミドフィルムについて、顕微ATR分光分析装置を用いて、凹部の内表面に改質層が残存しているか否かを検証した。その結果、1780cm-1付近にイミド環のCO伸縮振動に帰属されるバンドが認められると共に、1740cm-1付近のカルボキシル基のCO伸縮振動に帰属されるバンドが認められなかったことから、凹部の内表面はポリアミック酸が残存せず改質層が残存していないことが確認された。また断面TEM観察の結果からも、改質層は確認されなかった。
【0118】
次に、金属イオン含有酸性溶液として50mMの濃度のCuSO水溶液を用い、この水溶液中に上記のポリイミドフィルムを5分間浸漬し、この後、蒸留水で余分なCuSOを除去した。
【0119】
次に、還元溶液として100mM濃度のジメチルアミンボラン水溶液を用い、この水溶液にポリイミドフィルムを10分間浸漬した後、蒸留水で洗浄した。凹部の内表面には銅薄膜の析出が認められず、銅薄膜パターンを形成することはできなかった。
【0120】
(比較例2)
10M濃度のKOH水溶液100質量部に、増粘剤としてポリエチレングリコール10質量部を加え、これを攪拌して溶解させることによって、アルカリ水溶液を調製した。
【0121】
次に、プリント・ヘッドのインクカートリッジに、上記アルカリ性水溶液を充填し、ピエゾ方式のインクジェット印刷装置を用いて、実施例1と同様に表面清浄化したポリイミドフィルムの表面に線幅20μmの回路パターンを描画し、室温で20分間静置した。この結果、ポリイミドフィルムの表面には回路パターン形状で改質層が形成されていた。その後、ポリイミドフィルムを1−プロパノール溶液中に浸漬して超音波洗浄を10分間行ない、100℃で30分間乾燥した。
【0122】
次に、ポリイミドフィルムをアセトン溶液中に3時間浸漬した後、蒸留水中で超音波洗浄を10分間行ない、80℃で30分間乾燥した。この結果、ポリイミドフィルムの表面に溝状凹部が形成されていることは確認できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明は、電子部品、機械部品、特にフレキシブル回路板、フレックスリジッド回路板、TAB用キャリアなどの回路板の製造に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示すものであり、(a)乃至(g)はそれぞれ概略断面図である。
【符号の説明】
【0125】
1 ポリイミド樹脂基材
2 アルカリ性水溶液
3 凹部
4 改質層
5 金属イオン含有改質層
6 無機薄膜
7 無電解めっき膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂の表面に無機薄膜を形成するにあたって、(1)ポリイミド樹脂の無機薄膜形成部位にアルカリ性水溶液を塗布し、ポリイミド樹脂のイミド環を開裂させてカルボキシル基を生成させると共にポリイミド樹脂をポリアミック酸に改質する工程、(2)この改質された層にポリアミック酸を可溶な溶媒を接触させることによって、改質層の一部を除去して凹部を形成する工程、(3)凹部近傍のカルボキシル基を有するポリイミド樹脂に金属イオン含有溶液を接触させてカルボキシル基の金属塩を生成する工程、(4)この金属塩を金属として、もしくは金属酸化物或いは半導体として、ポリイミド樹脂表面に析出させて無機薄膜を形成する工程、とを有することを特徴とするポリイミド樹脂の無機薄膜形成方法。
【請求項2】
ポリアミック酸を可溶な溶媒が、アミド基を有する溶媒であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド樹脂の無機薄膜形成方法。
【請求項3】
前記(1)工程において、アルカリ性水溶液をインクジェット法によりポリイミド樹脂の無機薄膜形成部位に塗布することを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミド樹脂の無機薄膜形成方法。
【請求項4】
前記(1)工程において、アルカリ性水溶液を転写法によりポリイミド樹脂の無機薄膜形成部位に塗布することを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミド樹脂の無機薄膜形成方法。
【請求項5】
前記(1)工程において、ポリイミド樹脂の無機薄膜形成部位以外の部分に耐アルカリ性保護層を形成した後、アルカリ性水溶液を塗布することにより、ポリイミド樹脂の無機薄膜形成部位にアルカリ性水溶液を接触させることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミド樹脂の無機薄膜形成方法。
【請求項6】
前記(4)の無機薄膜を形成する工程は、金属塩を還元処理することにより、金属塩を金属としてポリイミド樹脂表面に析出させて、金属薄膜を形成する工程であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のポリイミド樹脂の無機薄膜形成方法。
【請求項7】
前記(4)の無機薄膜を形成する工程は、金属塩を活性ガスと反応させることにより、金属塩を金属酸化物或いは半導体としてポリイミド樹脂表面に析出させて、金属酸化物薄膜或いは半導体薄膜を形成する工程であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のポリイミド樹脂の無機薄膜形成方法。
【請求項8】
前記(4)工程において、析出した無機薄膜は無機ナノ粒子の集合体から構成されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のポリイミド樹脂の無機薄膜形成方法。
【請求項9】
前記(4)工程において、無機ナノ粒子の集合体の一部がポリイミド樹脂に埋包されていることを特徴とする請求項8に記載のポリイミド樹脂の無機薄膜形成方法。
【請求項10】
前記(4)工程の後に、(5)無機薄膜を析出させたポリイミド樹脂表面に無電解めっきを施す工程を有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載のポリイミド樹脂の無機薄膜形成方法。
【請求項11】
前記(5)工程において、無機ナノ粒子の集合体をめっき析出核として無電解めっきを行なうことを特徴とする請求項10に記載のポリイミド樹脂の無機薄膜形成方法。
【請求項12】
無機薄膜形成部位は回路パターン形状であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載のポリイミド樹脂の無機薄膜形成方法。
【請求項13】
ポリイミド樹脂の表面に、アルカリ性水溶液を部分的に塗布して、ポリイミド樹脂のイミド環を開裂させてカルボキシル基を生成させると共にポリイミド樹脂をポリアミック酸に改質し、この改質された層にポリアミック酸を可溶な溶媒を接触させることによって改質層の一部を除去し、カルボキシル基を有する改質層を残存させた状態で凹部を形成することを特徴とする表面改質した無機薄膜形成用ポリイミド樹脂の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−188757(P2006−188757A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352585(P2005−352585)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】