説明

ポリイミド管状体及びその製造方法

【課題】熱伝導性及び摺動性を確保した上で脆化を防ぎ、かつ製造工程の簡略化が容易なポリイミド管状体と、その製造方法を提供する。
【解決手段】ポリイミド樹脂10〜48.5重量%と、熱伝導性無機フィラー49.5〜80重量%と、フッ素樹脂フィラー2〜10重量%とを含むポリイミド樹脂フィルムからなるポリイミド管状体において、前記ポリイミド樹脂フィルムが、ポリアミド酸と、このポリアミド酸の構成単位1molに対して0.1mol以上3mol以下のイミド化触媒と、前記熱伝導性無機フィラーと、前記フッ素樹脂フィラーとを含むポリアミド酸混合液を用いて形成されたことを特徴とするポリイミド管状体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂、熱伝導性無機フィラー及びフッ素樹脂フィラーを含むポリイミド樹脂フィルムからなるポリイミド管状体と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式で像を形成し記録する電子写真記録装置としては、複写機、レーザービームプリンタ、ファクシミリ等、あるいはこれらの複合機等が知られている。この種の装置では、画像形成の高速化や省エネルギー化を目的として、エンドレスベルト(シームレスベルト)を用いた定着方式が採用されている。
【0003】
上述のようなベルト定着方式等に用いるエンドレスベルトとしては、耐熱性や機械強度に優れたポリイミドからなる内層と、フッ素樹脂からなる外層とを有する複合管状体(下記特許文献1等参照)が知られている。また、ベルトの熱伝導性不足を補うために熱伝導性無機フィラーを含有したタイプも開発されている(下記特許文献2等参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平3−130145号公報
【特許文献2】特開平8−80580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電子写真記録装置は著しく高速化されており、より効率的に熱を伝えることが重要な課題となってきている。また、像のカラー化への要求に対し、フッ素離型層下にシリコーンゴム弾性層を配置する構成が提案されている。この構成では、熱を伝えにくいため、熱伝導性を高くする要求はいっそう強くなってきている。また、ベルトを複層化すると、製造工程が複雑化する。
【0006】
熱伝導性については、ポリイミド樹脂ベルト中に熱伝導性無機フィラーが少ない場合(例えば40重量%以下)は、樹脂の中に熱伝導性無機フィラーが孤立して存在するために、樹脂の部分で熱の伝わりが阻害され、熱伝導性が充分なものではなかった。また、これを補うために熱伝導性無機フィラーの量を増やしていくと、結果としてバインダーとなるポリイミド樹脂が減少し、管状体が脆くなり、定着ベルトとして使用できなくなる場合があった。また、熱伝導性無機フィラーの量を増やすとベルトの摩擦係数が高くなる傾向がある。そのため、ベルトを駆動させるときにベルトにかかる応力が大きくなり(即ち、ベルトの摺動性が低下し)、これがベルトの破壊の原因にもつながることが指摘されている。
【0007】
本発明は、熱伝導性及び摺動性を確保した上で脆化を防ぎ、かつ製造工程の簡略化が容易なポリイミド管状体と、その製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究したところ、ポリイミド樹脂フィルムの形成原料であるポリアミド酸溶液に所定量のイミド化触媒を添加することにより、熱伝導性無機フィラーを多量に含有させても脆化を防ぐことができるベルトが形成可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明のポリイミド管状体は、ポリイミド樹脂10〜48.5重量%と、熱伝導性無機フィラー49.5〜80重量%と、フッ素樹脂フィラー2〜10重量%とを含むポリイミド樹脂フィルムからなるポリイミド管状体において、前記ポリイミド樹脂フィルムが、ポリアミド酸と、このポリアミド酸の構成単位1molに対して0.1mol以上3mol以下のイミド化触媒と、前記熱伝導性無機フィラーと、前記フッ素樹脂フィラーとを含むポリアミド酸混合液を用いて形成されたことを特徴とする。
【0010】
本発明のポリイミド管状体によれば、熱伝導性無機フィラー及びフッ素樹脂フィラーを上記範囲で含有させることにより、単層のベルトで熱伝導性及び摺動性を確保できる。これにより、製造工程の簡略化が容易となる。また、ポリアミド酸溶液に所定量のイミド化触媒を添加したポリアミド酸混合液を用いて形成することにより、引っ張り伸び率が適度な範囲のベルトが得られる。よって、熱伝導性無機フィラーを49.5重量%以上含有させても脆化を防ぐことができるベルトを提供できる。
【0011】
前記ポリイミド樹脂フィルムは、引っ張り伸び率が15〜40%であることが好ましい。脆化を防止した上で、寸法安定性の確保が可能となるからである。なお、上記「引っ張り伸び率」は、JIS K 6251(引張速度100mm/分、ダンベル3号使用)に基づいて測定される。
【0012】
前記熱伝導性無機フィラーは、窒化ホウ素、窒化アルミニウム及びアルミナからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。熱伝導性の向上が容易となるからである。
【0013】
前記イミド化触媒は、イソキノリン、イミダゾール、2‐エチル‐4メチルイミダゾール、2‐フェニルイミダゾール及びN‐メチルイミダゾールからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。ポリイミド樹脂フィルムの引っ張り伸び率を上記好適な範囲に容易に制御できるからである。
【0014】
また、本発明のポリイミド管状体の製造方法は、ポリイミド樹脂10〜48.5重量%と、熱伝導性無機フィラー49.5〜80重量%と、フッ素樹脂フィラー2〜10重量%とを含むポリイミド樹脂フィルムからなるポリイミド管状体の製造方法において、ポリアミド酸と、このポリアミド酸の構成単位1molに対して0.1mol以上3mol以下のイミド化触媒と、前記熱伝導性無機フィラーと、前記フッ素樹脂フィラーとを含むポリアミド酸混合液を用いて前記ポリイミド樹脂フィルムを形成することを特徴とする。本方法によれば、上述した本発明のポリイミド管状体を容易に製造することができる。
【0015】
本発明のポリイミド管状体の製造方法では、上述と同様の理由により、前記熱伝導性無機フィラーが、窒化ホウ素、窒化アルミニウム及びアルミナからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0016】
本発明のポリイミド管状体の製造方法では、上述と同様の理由により、前記イミド化触媒が、イソキノリン、イミダゾール、2‐エチル‐4メチルイミダゾール、2‐フェニルイミダゾール及びN‐メチルイミダゾールからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のポリイミド管状体では、熱伝導性を確保するために、熱伝導性無機フィラーを49.5重量%以上の範囲で含有させているが、熱伝導性をより向上させるには、熱伝導性無機フィラーを51重量%以上の範囲で含有させることが好ましく、55重量%以上の範囲で含有させることがより好ましい。また、本発明のポリイミド管状体では、バインダー樹脂となるポリイミド樹脂の含有量を確保して脆化を防ぐことから、熱伝導性無機フィラーを80重量%以下の範囲で含有させているが、脆化をより容易に防ぐためには、熱伝導性無機フィラーを78重量%以下の範囲で含有させることが好ましく、75重量%以下の範囲で含有させることがより好ましい。
【0018】
上記熱伝導性無機フィラーの一次粒子の平均粒径は、0.01〜5.0μmの範囲であることが好ましく、0.05〜2.0μmの範囲であることがより好ましい。この範囲内であると、粒子の凝集が少なく、バインダー樹脂との混在が均一になるため、熱伝導性や強度のばらつきが少なくなり、定着ベルトとしての強度を保つことができる。なお、上記熱伝導性無機フィラーの一次粒子の平均粒径は、例えば、エタノール等の有機溶剤中に熱伝導性無機フィラーを超音波分散させた液を試料として、光透過式遠心沈降法を用いた粒度分布測定器によって測定できる。
【0019】
上記熱伝導性無機フィラーとしては、高い熱伝導機能を有する絶縁無機粉末であれば特に制限は無く、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、アルミナ、シリ力、窒化珪素等があげられる。中でも、熱伝導機能が高い窒化ホウ素、窒化アルミニウム、アルミナが好ましく、化学的に安全である点から、窒化ホウ素が特に好ましい。
【0020】
本発明のポリイミド管状体では、摺動性を確保するために、フッ素樹脂フィラーを2重量%以上の範囲で含有させているが、摺動性をより向上させるには、フッ素樹脂フィラーを3重量%以上の範囲で含有させることが好ましい。また、本発明のポリイミド管状体では、バインダー樹脂となるポリイミド樹脂の含有量を確保するとともに、製膜中(加熱中)において金型からフィルムが剥離するのを防ぐことから、フッ素樹脂フィラーを10重量%以下の範囲で含有させているが、剥離をより確実に防ぐためには、フッ素樹脂フィラーを5重量%以下の範囲で含有させることが好ましい。
【0021】
上記フッ素樹脂フィラーの平均粒径は、0.01〜10.0μmの範囲であることが好ましく、0.5〜5.0μmの範囲であることがより好ましい。この範囲内であると、粒子の凝集が少なく、バインダー樹脂との混在が均一になるため、摺動性や強度のばらつきが少なくなり、定着ベルトとしての強度を保つことができる。なお、上記フッ素フィラーの平均粒径の測定方法は、上記熱伝導性無機フィラーの一次粒子の平均粒径の測定方法と同様の方法で測定できる。
【0022】
上記フッ素樹脂フィラーとしては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオ口エチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等があげられる。なかでも、耐熱性が高く、動摩擦係数が小さいことから、PTFEが好ましい。
【0023】
上記ポリイミド樹脂は、ポリアミド酸がイミド転化したものである。ポリイミド樹脂の前駆体である上記ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物あるいはその誘導体と、ジアミンとを略等モルずつ用いて、有機溶媒中で反応させて得ることができる。
【0024】
上記テトラカルボン酸二無水物としては、下記の一般式(1)で表されるものがあげられる。
【0025】
【化1】

[式(1)中、Rは4価の有機基であり、芳香族、脂肪族、環状脂肪族、芳香族と脂肪族とを組み合わせたもの、またはそれらの置換された基である。]
【0026】
上記テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3′,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2′−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物等があげられる。
【0027】
また、このようなテトラカルボン酸二無水物と反応させるジアミンの具体例としては、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、3,3′−ジアミノジフェニルメタン、3,3′−ジクロロベンジジン、4,4′−ジアミノジフェニルスルフィド−3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、1,5−ジアミノナフタレン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,3′−ジメチル−4,4′−ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3′−ジメチルベンジジン、3,3′−ジメトキシベンジジン、4,4′−ジアミノフェニルスルホン、4,4′−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4′−ジアミノジフェニルプロパン、2,4−ビス(β−アミノ−第三ブチル)トルエン、ビス(p−β−アミノ−第三ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−δ−アミノフェニル)ベンゼン、ビス−p−(1,1−ジメチル−5−アミノ−ペンチル)ベンゼン、1−イソプロピル−2,4−m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、ジ(p−アミノシクロヘキシル)メタン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3−メチルへプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、1,2−ビス−3−アミノプロポキシエタン、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、3−メチルへプタメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、2,17−ジアミノエイコサデカン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,10−ジアミノ−1,10−ジメチルデカン、1,12−ジアミノオクタデカン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、ピペラジン、HN(CHO(CHOCHNH、HN(CHS(CHNH、HN(CHN(CH)(CHNH等があげられる。
【0028】
これらテトラカルボン酸二無水物あるいはその誘導体、及びジアミンは、それぞれ1種類以上を適宜に選定し反応させることができる。
【0029】
上記テトラカルボン酸二無水物とジアミンを反応させる際に用いられる有機溶媒は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンと反応せず、かつ反応成分の少なくとも一方、好ましくは両者、及び生成物であるポリアミド酸に対して溶媒として作用する有機溶媒(有機極性溶媒)であれば特に限定されない。
【0030】
上記有機溶媒としては、特にN,N−ジアルキルアミド類が有用であり、中でも、低分子量溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが好ましい。これらは蒸発、置換又は拡散により、ポリアミド酸及びポリアミド酸成形品から容易に除去することができる。
【0031】
また、上記以外の有機溶媒として、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等があげられる。これらは単独で使用してもよいし、併せて用いても差し支えない。さらに、上記有機極性溶媒にクレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類、ベンゾニトリル、ジオキサン、ブチロラクトン、キシレン、シク口へキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等を単独で又は併せて混合することもできる。ただし、生成するポリアミド酸の加水分解による低分子量化を防ぐため、水の使用は避けることが好ましい。
【0032】
本発明のポリイミド管状体は、上記ポリアミド酸溶液に所定量のイミド化触媒等を添加・混合し、これを適宜な方式で展開し、その展開層中の有機溶媒を加熱して除去し、イミド転化することにより得られる。この場合、イミド化触媒の添加量としては、ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸の構成単位1molに対して、0.1mol以上3mol以下であり、好ましくは、0.12mol以上2.9mol以下であり、より好ましくは0.15mol以上2.7mol以下である。この範囲であれば、引っ張り伸び率が適度な範囲のベルトが得られる。よって、熱伝導性無機フィラーを49.5重量%以上含有させても脆化を防ぐことができるベルトが得られる。
【0033】
本発明のポリイミド管状体を構成するポリイミド樹脂フィルムは、脆化を防止した上で、寸法安定性を確保するためには、引っ張り伸び率が15〜40%であることが好ましく、17〜40%であることがより好ましく、20〜40%であることが更に好ましい。上記引っ張り伸び率は、例えばイミド化触媒の種類及び添加量で調整できる。
【0034】
イミド化触媒としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、トリブチルアミン、ジメチルアニリン、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、イソキノリン、イミダゾール、2‐エチル‐4メチルイミダゾール、2‐フェニルイミダゾール、N‐メチルイミダゾール、ルチジンなどの第3級アミン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7などの有機塩基が例示できる。なかでも、沸点が200℃以上、かつ酸解離定数pKaが4以上9以下の第3級アミン類である、イソキノリン、イミダゾール、2‐エチル‐4メチルイミダゾール、2‐フェニルイミダゾール、N‐メチルイミダゾール等を用いると、得られるポリイミド樹脂フィルムの引っ張り伸び率を上記好適な範囲に容易に制御できる。
【0035】
なお、本発明のポリイミド管状体は、ポリイミド樹脂フィルムからなる層以外に、フッ素樹脂を主たる材料とする離形層やシリコーンゴムを主たる材料とする中間弾性層を有していてもよい。また、ポリイミド管状体の両端あるいは片端に補強部を有していてもよい。
【0036】
次に、本発明のポリイミド管状体の製造方法について説明する。なお、本発明のポリイミド管状体の製造方法は、上述した本発明のポリイミド管状体を製造するための好適な方法であるため、上述した内容と重複する説明については省略する。
【0037】
本発明のポリイミド管状体の製造方法は、ポリアミド酸と、このポリアミド酸の構成単位1molに対して0.1mol以上3mol以下のイミド化触媒と、熱伝導性無機フィラーと、フッ素樹脂フィラーとを含むポリアミド酸混合液を用いてポリイミド樹脂フィルムを形成することを特徴とする。本方法において、前記ポリアミド酸混合液中の各成分の濃度は、得られるポリイミド樹脂フィルム中の各成分の濃度に応じて適宜調整すればよい。例えば、ポリアミド酸100重量部に対し、熱伝導性無機フィラー102〜200重量部と、フッ素樹脂フィラー4〜10重量部とを配合してポリアミド酸混合液を調製すればよい。本方法によれば、上述した本発明のポリイミド管状体を容易に製造することができる。
【0038】
上記ポリアミド酸混合液は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを有機溶媒中で、0.5〜10時間程度反応させて得たポリアミド酸溶液に、熱伝導性無機フィラー、フッ素樹脂フィラー及びイミド化触媒を添加して調製することができる。
【0039】
テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの反応時における各成分濃度は、種々の要因に応じて設定できるが、通常5〜30重量%である。また、反応温度は80℃以下に設定することが好ましい。
【0040】
また、このようにして有機溶媒中でテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させると、その反応の進行に伴い溶液の粘度が上昇するが、本発明においては対数粘度(η)が0.5以上となったポリアミド酸溶液を用いることが好ましい。対数粘度(η)が0.5以上のポリアミド酸溶液を用いて製膜した場合、熱劣化に対する信頼性(耐熱性)が高くなるからである。
【0041】
なお、上記対数粘度(η)は、毛細管粘度計を用いてポリアミド酸溶液と有機溶媒の落下時間を各々測定し、下記の数式により算出される値である。
対数粘度(η)=ln(t1/t0)/c
[t0:有機溶媒の落下時間、t1:ポリアミド酸溶液の落下時間、c:固形分濃度(g/dl)]
【0042】
ポリアミド酸溶液中への熱伝導性無機フィラー及びフッ素樹脂フィラーの配合は、例えば上記ポリアミド酸溶液を調製する際に、その溶液にプラネタリミキサーやビーズミルあるいは3本ロール等の適宜な分散機にて上記各フィラーを混合分散すればよい。勿論、ポリアミド酸溶液を調製した後に、このポリアミド酸溶液中に上記各フィラーを添加して均一に混合してもよい。
【0043】
本発明のポリイミド管状体の製造方法では、ポリイミド樹脂フィルムは、ポリアミド酸混合液を適宜展開して管状のフィルムに成形することにより得られる。フィルムの厚みは、ポリイミド樹脂製ベルトの使用目的などに応じて適宜決定しうる。一般には、強度や柔軟性等の機械特性等の点により、10〜150μmが好ましく、50〜100μmがより好ましい。
【0044】
ポリアミド酸混合液を展開する際、粘度が高い場合には適当な溶媒で希釈して粘度を低くすればよい。例えば、ポリアミド酸混合液の粘度は、塗布厚み、後述する円筒状金型の内径、混合液の温度、後述する走行体の形状等に応じて設定されるが、通常、10〜10000ポイズに設定すればよい。なお、上記粘度の値は、塗布作業時の温度でB型粘度計にて測定した値である。
【0045】
ポリアミド酸混合液を展開し、管状体を形成する方法としては、例えば下記工程により製造する方法が例示できる。
【0046】
まず成形用金型として円筒状金型を準備し、この円筒状金型の内周面に上記ポリアミド酸混合液を塗布する。塗布後、塗布皮膜が少なくともそれ自身で支持できるまで乾燥、硬化させた後、イミド転化が終了するまでさらに加熱する。あるいは、塗布皮膜が少なくともそれ自身で支持できるまで乾燥、硬化させた後、皮膜を円筒状金型から剥離し、皮膜内部に円筒状焼成型を挿入して、イミド転化が終了するまで加熱する。そして、得られたポリイミド管状体(ポリイミドシームレスベルト)を円筒状金型又は円筒状焼成型から剥離して取り出す。
【0047】
上記製法において、円筒状金型や円筒状焼成型としては、従来からシームレスベルトの製造に用いられるものであればどのようなものであっても差し支えなく、材質としては、耐熱性の観点から、金属、ガラス、セラミックス等各種のものが例示される。
【0048】
円筒状金型へのポリアミド酸混合液の塗布方法としては、ポリアミド酸混合液中に円筒状金型を浸漬して、内面に塗布膜を形成し、これを円筒状ダイス等で成膜する方法や、円筒状金型の内面の片端部にポリアミド酸混合液を供給した後、この円筒状金型の内面と一定のクリアランスを有する走行体(弾丸状、球状等の走行体)を走行させる方法、あるいは円筒状金型を、その軸を中止に回転させ、その内面にポリアミド酸混合液を供給し、遠心力により均一な皮膜とする方法等が挙げられる。
【0049】
上述の走行体を走行させる際、その方法としては、自重走行法(円筒状金型を垂直に立て、走行体をその自重により下方に走行させる方法)の他、圧縮空気やガスの爆発力を利用する方法、あるいは牽引ワイヤ等により牽引する方法等が挙げられる。
【0050】
上記ポリアミド酸混合液を塗布した後の加熱方法としては、80〜200℃程度の低温で加熱して溶媒を除去し、250〜400℃程度に昇温してイミド転化を終了する多段加熱法等が用いられる。加熱時の所要時間は、加熱温度に応じて適宜設定されるが、通常、低温加熱時及びその後の高温加熱時ともに、20〜60分程度である。このような多段加熱法を用いれば、イミド転化に伴い発生する閉環水や溶媒の蒸発に起因して発生する、シームレスベルトの微小ボイドの発生を防止することができる。
【0051】
円筒状金型からポリイミドシームレスベルトを剥離する方法としては、例えば、円筒状金型端部の周壁面に予め設けられた微小貫通孔に空気を圧送して剥離する方法等が挙げられる。なお、ポリアミド酸混合液を塗布する前に、円筒状金型の内周面等に予めシリコーン樹脂等による離型処理を施しておけば、シームレスベルトの剥離作業性が向上するため好ましい。
【実施例】
【0052】
以下に実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
N−メチル−2一ピロリドンにp−フェニレンジアミン41gと3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物111.7gとを溶解(固形分濃度15重量%)し、窒素雰囲気中において室温で攪拌しながら反応させて、1000ポイズのポリアミド酸溶液を得た。この溶液にフッ素樹脂フィラー(喜多村社製)12.1gと窒化ホウ素フィラー(三井化学社製)151gとを分散し、さらに、この混合液中のポリアミド酸の構成単位1molに対してイミダゾールを0.5mol添加し、均一になるまで攪拌した。
【0054】
次いで、内径30.5mmの円筒状金型の内面に上記ポリアミド酸混合液を塗布した後、この円筒状金型の内側において弾丸状走行体を自重により落下させ、塗膜中の気泡を除去し、均一な塗膜面とした。そして、当該金型を150℃から段階的に加熱して、ポリアミド酸混合液中の溶媒を除去し、更に400℃(20分)の焼成を行い、閉環水の除去及びイミド転化反応を行った後、室温で金型から剥離し、厚み80μmのポリイミド管状体を得た。なお、得られたポリイミド管状体(ポリイミド樹脂フィルム)を構成する各成分の濃度は、ポリイミド樹脂が46重量%であり、フッ素樹脂フィラーが4重量%であり、窒化ホウ素フィラーが50重量%であった。
【0055】
上記実施例1のポリイミド樹脂フィルムは、引っ張り伸び率が15%であり、キセノン・フラッシュ法にて計測した熱伝導率が0.9W/m・Kであった。また、これをカラープリンター(富士ゼロックス社製、商品名DocuPrint C2220)に定着ベルトとしてセットして、プリント速度を22枚(A4サイズ)/分まで上げて、連続してプリントアウト定着を行った。その結果、画像の定着性は良好であり、ベルトとして問題は発生しなかった。
【0056】
(実施例2)
混合液中のポリアミド酸の構成単位1molに対してイミダゾールを2.5mol添加したこと以外は、実施例1と同様にポリイミド管状体(ポリイミド樹脂フィルム)を作製した。実施例2のポリイミド樹脂フィルムは、引っ張り伸び率が20%であり、キセノン・フラッシュ法にて計測した熱伝導率が0.9W/m・Kであった。また、実施例1と同様にプリントアウト定着を行ったところ、画像の定着性は良好であり、ベルトとして問題は発生しなかった。
【0057】
(比較例1)
イミド化触媒(イミダゾール)を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の工程を行ったが、ベルトを成形することができなかった。
【0058】
(比較例2)
ポリアミド酸溶液へのフッ素樹脂フィラー及び窒化ホウ素フィラーの配合量を、それぞれ9.9g及び99.3gとしたこと以外は、実施例1と同様の方法でポリイミド管状体を作製した。なお、得られたポリイミド管状体(ポリイミド樹脂フィルム)を構成する各成分の濃度は、ポリイミド樹脂が56重量%であり、フッ素樹脂フィラーが4重量%であり、窒化ホウ素フィラーが40重量%であった。比較例2のポリイミド樹脂フィルムは、引っ張り伸び率が30%であり、キセノン・フラッシュ法にて計測した熱伝導率が0.35W/m・Kであった。また、実施例1と同様にプリントアウト定着を行ったところ、画像の定着不良が認められ、トナーの脱落が生じた。
【0059】
(比較例3)
ポリアミド酸溶液へのフッ素樹脂フィラー及び窒化ホウ素フィラーの配合量を、それぞれ42.8g及び887gとし、ポリアミド酸の構成単位1molに対してイミダゾールを1mol添加したこと以外は、実施例1と同様の工程を行ったが、ベルトを成形することができなかった。
【0060】
(比較例4)
フッ素樹脂フィラーを添加しないこと以外は、実施例1と同様の方法でポリイミド管状体(ポリイミド樹脂フィルム)を作製した。比較例4のポリイミド樹脂フィルムは、引っ張り伸び率が16%であり、キセノン・フラッシュ法にて計測した熱伝導率が0.9W/m・Kであった。また、実施例1と同様にプリントアウト定着を行ったところ、動作不良を起こしたため、連続してプリントアウト定着させることができなかった。
【0061】
(比較例5)
ポリアミド酸の構成単位1molに対してイミダゾールを0.05mol添加したこと以外は、実施例1と同様の工程を行ったが、ベルトを成形することができなかった。
【0062】
(比較例6)
ポリアミド酸の構成単位1molに対してイミダゾールを3.5mol添加したこと以外は、実施例1と同様の工程を行ったが、ベルトを成形することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂10〜48.5重量%と、熱伝導性無機フィラー49.5〜80重量%と、フッ素樹脂フィラー2〜10重量%とを含むポリイミド樹脂フィルムからなるポリイミド管状体において、
前記ポリイミド樹脂フィルムが、ポリアミド酸と、このポリアミド酸の構成単位1molに対して0.1mol以上3mol以下のイミド化触媒と、前記熱伝導性無機フィラーと、前記フッ素樹脂フィラーとを含むポリアミド酸混合液を用いて形成されたことを特徴とするポリイミド管状体。
【請求項2】
前記ポリイミド樹脂フィルムは、引っ張り伸び率が15〜40%である請求項1に記載のポリイミド管状体。
【請求項3】
前記熱伝導性無機フィラーが、窒化ホウ素、窒化アルミニウム及びアルミナからなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1又は2に記載のポリイミド管状体。
【請求項4】
前記イミド化触媒が、イソキノリン、イミダゾール、2‐エチル‐4メチルイミダゾール、2‐フェニルイミダゾール及びN‐メチルイミダゾールからなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリイミド管状体。
【請求項5】
ポリイミド樹脂10〜48.5重量%と、熱伝導性無機フィラー49.5〜80重量%と、フッ素樹脂フィラー2〜10重量%とを含むポリイミド樹脂フィルムからなるポリイミド管状体の製造方法において、
ポリアミド酸と、このポリアミド酸の構成単位1molに対して0.1mol以上3mol以下のイミド化触媒と、前記熱伝導性無機フィラーと、前記フッ素樹脂フィラーとを含むポリアミド酸混合液を用いて前記ポリイミド樹脂フィルムを形成することを特徴とするポリイミド管状体の製造方法。
【請求項6】
前記熱伝導性無機フィラーが、窒化ホウ素、窒化アルミニウム及びアルミナからなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項5に記載のポリイミド管状体の製造方法。
【請求項7】
前記イミド化触媒が、イソキノリン、イミダゾール、2‐エチル‐4メチルイミダゾール、2‐フェニルイミダゾール及びN‐メチルイミダゾールからなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項5又は6に記載のポリイミド管状体の製造方法。

【公開番号】特開2010−43134(P2010−43134A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205995(P2008−205995)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】