説明

ポリイミド系多層フィルムの製造方法

【課題】光干渉方式で、各層の厚みを正確に測定可能にすることにより多層フィルムおよびフィルム内各層の膜厚バラツキの少ない多層フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】ポリイミド樹脂を含有する多層フィルムの製造方法であって、(1)多層フィルムを製膜する工程、(2)該多層フィルムを別工程で焼成処理することでフィルムを変質させる工程、(3)該焼成フィルムの厚さ方向に光を照射して多重反射光のスペクトルから各層の膜厚寸法を算出する工程、(4)算出した膜厚寸法データを多層フィルムの製膜工程にフィードバックする工程、(5)多層フィルムの製膜工程において各層の膜厚調整操作を加える工程、を含むことを特徴とする、多層フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも二層以上のポリイミド樹脂を含有する多層フィルムで、且つ各層の膜厚が制御された多層フィルムであり、その各層の膜厚が制御された多層フィルムを製造するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス製品の軽量化、小型化、高密度化にともない、各種プリント基板の需要が伸びているが、中でも、フレキシブル積層板(フレキシブルプリント配線板(FPC)等とも称する)の需要が特に伸びている。フレキシブル積層板は、絶縁性フィルム上に金属箔からなる回路が形成された構造を有している。上記フレキシブル積層板は、一般に、各種絶縁材料により形成され、柔軟性を有する絶縁性フィルムを基板とし、この基板の表面に各種接着材料を介して金属箔を加熱・圧着することにより貼り合わせる方法により製造される。
【0003】
上記絶縁性フィルムとしては、ポリイミドフィルム等が好ましく用いられている。上記接着材料としては、エポキシ系、アクリル系等の熱硬化性接着剤が一般的に用いられている(これら熱硬化性接着剤を用いたFPCを、以下、三層FPCともいう)。熱硬化性接着剤は比較的低温での接着が可能であるという利点があるが、今後、耐熱性、屈曲性、電気的信頼性といった要求特性が厳しくなるに従い、熱硬化性接着剤を用いた三層FPCでは対応が困難になると考えられる。
【0004】
これに対し、絶縁性フィルムに直接金属層を積層させた素材や、接着層に熱可塑性ポリイミド系化合物を使用したFPC(以下、二層FPCともいう)が提案されている。この二層FPCは、耐熱性、屈曲性、電気的信頼性等の点で、三層FPCより優れた特性を有しており、産業上有用な製品となることが期待されている。
【0005】
これらの多層フィルムにおいて、各層の膜厚寸法精度を向上することは重要な指標のひとつとなっている。前記多層フィルムにおいて、各層の膜厚寸法を精度良く調整する方法として、例えば、上述の絶縁性フィルム(基材フィルム)に接着層となる樹脂溶液を塗工する塗工法の場合は、塗工ダイの吐出量の制御や、ロールコータと基材フィルムの間隙の制御等により、塗工膜厚の調整をする方式が知られている。また上述の押出成型ダイを用いる押出製膜法の場合は、多層ダイのリップ部に埋め込んだヒータにより、樹脂温度を制御してフィルムの膜厚寸法を調整する方式や各層の流路断面積をバルブで制御してフィルムの膜厚寸法を調整する方式が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、上述の塗工ダイにおける吐出量あるいはロールコ一夕と基材フィルムの間隙を制御する方法や、多層ダイのリップ部に埋め込んだヒータにより膜厚寸法を調整する方法、各層の流路断面積をバルブで制御して膜厚寸法を調整する方法のいずれにおいても、成型した多層フィルムの各層の膜厚寸法を高精度に測定し、その膜厚寸法データを各膜厚寸法制御手段にフィードバックして、各膜厚寸法を調整もしくは制御する必要がある。
【0007】
これに対し、各層の厚みを精度よく測定する方法として、例えば、光干渉方式による測定法が挙げられるが、多層フィルムにおける各層の屈折率値が僅差である場合は、反射光の位相差の相違を厚みに換算する光干渉方式では、正確に各層の厚みを測定しがたいという問題がある。また、例えば、多層フィルムの一部を切り取ってサンプリングし、断面を顕微鏡等で観察、計測する方法があげられるが、製膜工程に膜厚寸法データをフィードバックするまでに時間がかかりすぎ、生産性が著しく低下するという問題がある。更に、より効率的に膜厚寸法データをフィードバックする手法として、オンラインで膜厚寸法を測定するという手段があり、例えば、膜厚測定装置をオンラインで設置する方式として、接触式のダイヤルゲージが用いられうる。しかしながら、多層フィルムの全膜厚寸法は測定できるものの、多層フィルムにおける各層の膜厚寸法測定は原理的に不可能であるという問題がある。
【0008】
一方、特許文献2においては、表層と表層に隣接する隣接層で屈折率が異なる複層フィルムではその表層の厚みが層の表裏の反射光の干渉により測定する光干渉型厚み計により薄い膜厚であっても安定して測定でき、全層の総厚みは確立した放射線の透過量により測定する放射線透過型厚み計で検出し、その両測定値から各層厚みを求めることにより各層の厚みがオンラインで安定して検出可能であることが記載されているが、このような方法では、赤外線吸収波長や屈折率が同じ材質のフィルムが積層している多層フィルムでは、各層の膜厚寸法が正確に測定できないという問題がある。特に、ポリイミド系樹脂を主材料とする多層フィルム(二層FPC用多層フィルム)の場合、耐熱性ポリイミドや熱可塑性ポリイミドの違いはあるものの、分子構造が極めて似通ったポリイミド樹脂から各層が形成されているため、各層に特徴のある赤外線吸収波長が発生しない場合が多い。赤外線吸収波長の相違とその吸収量の相違から、各層の分析と膜厚寸法を換算して求める赤外線吸収方式では、ポリイミド系多層フィルムの各膜厚寸法を正確に測定し難いという問題があった。
【特許文献1】特開2000−127227号公報
【特許文献2】特開2000−71309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、光干渉方式で、各層の厚みを正確に測定可能にすることにより、多層フィルムおよび多層フィルム内の各層の膜厚バラツキの少ない、ポリイミド系多層フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、以下の新規な製造方法によって、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、ポリイミド樹脂を含有する多層フィルムの製造方法であって、
(1)多層フィルムを製膜する工程、
(2)該多層フィルムを別工程で焼成処理することでフィルムを変質させる工程、
(3)該焼成フィルムの厚さ方向に光を照射して多重反射光のスペクトルから各層の膜厚寸法を算出する工程、
(4)算出した膜厚寸法データを多層フィルムの製膜工程にフィードバックする工程、
(5)多層フィルムの製膜工程において各層の膜厚調整操作を加える工程、
を含むことを特徴とする、多層フィルムの製造方法に関する。
【0012】
好ましい実施態様は、多層フィルムが、耐熱性ポリイミド樹脂を含有する層および熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層を有することを特徴とする、前記の多層フィルムの製造方法に関する。
【0013】
好ましい実施態様は、多層フィルムが、耐熱性ポリイミド樹脂を含有する層の両面に熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層を配した構造であることを特徴とする、前記の多層フィルムの製造方法に関する。
【0014】
好ましい実施態様は、前記多層フィルムを製膜する工程(1)が、一層以上のポリイミド樹脂を含む層からなるフィルムの表面に、ポリイミド前駆体溶液またはポリイミド樹脂を含有する溶液を塗工し、加熱・乾燥する方法により製膜することを特徴とする、前記いずれかに記載の多層フィルムの製造方法に関する。
【0015】
好ましい実施態様は、前記多層フィルムを製膜する工程(1)が、二種以上のポリイミド前駆体溶液を共押出により支持体上に流延・塗布して複数層を形成し、加熱・乾燥する方法により製膜することを特徴とする、前記いずれかに記載の多層フィルムの製造方法に関する。
【0016】
好ましい実施態様は、多層フィルムにおける各層の屈折率の差が0.1以下であることを特徴とする、前記いずれかに記載の多層フィルムの製造方法に関する。
【0017】
好ましい実施態様は、前記(2)工程における加熱処理が、350〜500℃の温度範囲で1〜10分間行われることを特徴とする、前記いずれかに記載の多層フィルムの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、光干渉方式で、ポリイミド系多層フィルムにおける各層の厚みを正確に測定することができる。即ち、本発明による多層フィルムの製造方法によれば、製膜工程とは別工程で焼成処理することで多層フィルムを焼成し、当該焼成フィルムの厚さ方向に光を照射して多重反射光のスペクトルを測定し、当該スペクトルから各層の膜厚寸法を算出し、その得られた膜厚寸法データを製膜工程にフィードバックすることにより多層フィルムにおける各層の膜厚を制御・調整するので、各層の膜厚寸法のバラツキが少ないポリイミド系多層フィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。
【0020】
本発明に係るポリイミド系多層フィルムの製造方法は、少なくとも二層以上の、ポリイミド樹脂を含有する多層フィルムの製造方法であって、(1)ポリイミド系多層フィルムを製膜する工程、(2)該多層フィルムを別工程で焼成処理することでフィルムを変質させる工程、(3)該焼成フィルムの厚さ方向に光を照射して多重反射光のスペクトルから各層の膜厚寸法を算出する工程、(4)算出した膜厚寸法データを多層フィルムの製膜工程にフィードバックする工程、(5)多層フィルムの製膜工程において各層の膜厚調整操作を加える工程、を含むことを特徴としている。
【0021】
従来、多層フィルムにおいて、その各層がポリイミド樹脂から形成されている場合は、各層を構成するポリイミド樹脂の分子構造が極めて似通っているため、測定結果が各層の屈折率に依存する多重反射光のスペクトルから膜厚寸法を算出する光干渉方式では、正確に各層厚みを測定し難いという問題点があった。
【0022】
本発明においては、ポリイミド系多層フィルムにおける各層が似通った屈折率であるにもかかわらず、焼成処理を行うことでフィルムを変質させ、光干渉方式で膜厚を正確に算出することが可能となる。その得られた膜厚寸法データを製膜工程にフィードバックし、これを基に各層の膜厚を制御・調整するので、各層の膜厚寸法がより均一でバラツキが抑制されたポリイミド系多層フィルムを製造できる。従って、本発明においては、多層フィルムの各層の屈折率の差が0.1以下であるような場合でも、各層の膜厚寸法のバラツキを抑制することが可能であり、更には各層の屈折率の差が0.05以下であっても好適に膜厚寸法のバラツキを抑制できる。
【0023】
本発明における「多層フィルム」は、ポリイミド樹脂を一部若しくは全部に含有して形成されるものであれば制限無く、多層フィルムにおける一部の層がポリイミド樹脂を用いて形成されていても、全ての層がポリイミド樹脂を用いて形成されていても良い。前記ポリイミド樹脂を含有する層以外としては、例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート系樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、フッ素系樹脂などの公知の材料から形成されていても良い。中でも、耐熱性のみならず電気特性等の物性にも優れている点から、各層がポリイミド樹脂を用いて形成されることが好ましい。
【0024】
本発明に係る多層フィルムとしては、本発明の効果をより有効に発揮する観点から、少なくとも1層の耐熱性ポリイミド樹脂を含有する層および熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層を有する多層フィルムであることが好ましい。更には、多層フィルムを二層FPC用接着フィルムとして用いる観点から、耐熱性ポリイミド樹脂を含有する層の両面に熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層を配した構造を有する多層フィルムであることがより好ましい。
【0025】
<ポリイミド樹脂>
前記耐熱性ポリイミド樹脂における「耐熱性」とは、当該樹脂を構成要素として製造されるフィルムが、加熱積層時の加熱温度での使用に耐え得ることを意味する。前記「耐熱性」ポリイミド樹脂は、所謂非熱可塑性ポリイミドを90重量%以上含有して形成されていればよく、非熱可塑性ポリイミドの分子構造等は特に限定されない。耐熱性ポリイミド樹脂を含有する層の形成に用いられる非熱可塑性ポリイミドは、一般にポリアミド酸を前駆体として用いて製造されるものであるが、前記非熱可塑性ポリイミドは、完全にイミド化していてもよいし、イミド化されていない前駆体すなわちポリアミド酸を一部に含んでいてもよい。ここで、非熱可塑性ポリイミドとは、一般に加熱しても軟化、接着性を示さないポリイミドをいう。本発明では、フィルムの状態で450℃、2分間加熱を行い、シワが入ったり伸びたりせず、形状を保持しているポリイミド、若しくは実質的にガラス転移温度を有しないポリイミドをいう。なお、ガラス転移温度は動的粘弾性測定装置(DMA)により測定した貯蔵弾性率の変曲点の値により求めることができる。また、「実質的にガラス転移温度を有しない」とは、ガラス転移状態になる前に熱分解が開始するものをいう。
【0026】
一般にポリイミドフィルムは、ポリアミド酸を前駆体として用いて製造されうる。ポリアミド酸の製造方法としては公知のあらゆる方法を用いることができ、通常、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを、実質的等モル量を有機溶媒中に溶解させて、制御された温度条件下で、上記酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで攪拌することによって製造されうる。これらのポリアミド酸溶液は通常5〜35重量%、好ましくは10〜30重量%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に好適な分子量と溶液粘度を得ることができる。
【0027】
重合方法としてはあらゆる公知の方法およびそれらを組み合わせた方法を用いることができる。ポリアミド酸の重合における重合方法の特徴はそのモノマーの添加順序にあり、このモノマー添加順序を制御することにより得られるポリイミドの諸物性を制御することができる。従い、本発明においてポリアミド酸の重合にはいかなるモノマーの添加方法を用いても良い。代表的な重合方法として次のような方法が挙げられる。すなわち、
1)芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させて重合する方法、
2)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得る。続いて、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法、
3)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。続いて、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いて重合する方法、
4)芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解及び/または分散させた後、実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法、
5)実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合物を有機極性溶媒中で反応させて重合する方法、
などのような方法である。これら方法を単独で用いても良いし、部分的に組み合わせて用いることもできる。
【0028】
本発明におけるポリイミド樹脂を含有する多層フィルムの製造方法において、上記のいかなる重合方法を用いて得られたポリアミド酸を用いても良く、重合方法は特に限定されるのもではない。
【0029】
本発明において、後述する剛直構造を有するジアミン成分を用いて前記プレポリマーを得る重合方法を用いることも好ましい。当該方法を用いることにより、弾性率が高く、吸湿膨張係数が小さいポリイミドフィルムが得やすくなる傾向にある。上記方法においてプレポリマー調製時に用いる剛直構造を有するジアミンと酸二無水物のモル比は100:70〜100:99もしくは70:100〜99:100、さらには100:75〜100:90もしくは75:100〜90:100が好ましい。この比が上記範囲を下回ると弾性率および吸湿膨張係数の改善効果が得られにくく、逆に上記範囲を上回ると線膨張係数が小さくなりすぎたり、引張伸びが小さくなるなどの弊害が生じることがある。
【0030】
前記耐熱性ポリイミド樹脂を含有する層を形成するための非熱可塑性ポリイミド樹脂の製造に適当なテトラカルボン酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びそれらの誘導物を含み、これらを単独または任意の割合で混合した混合物を好ましく用いることができる。
【0031】
これら酸二無水物の中で、特にはピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0032】
また、これら酸二無水物の中で3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも一種を用いる場合の好ましい使用量は、全酸二無水物全量に対して、60mol%以下、好ましくは55mol%以下、更に好ましくは50mol%以下である。3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも一種を用いる場合、その使用量がこの範囲を上回ると耐熱性ポリイミド樹脂を含有する層のガラス転移温度が低くなりすぎたり、熱時の貯蔵弾性率が低くなりすぎて製膜そのものが困難になる場合がある。
【0033】
また、ピロメリット酸二無水物を用いる場合、好ましい使用量は、全酸二無水物量に対して40〜100mol%、更に好ましくは45〜100mol%、特に好ましくは50〜100mol%である。ピロメリット酸二無水物をこの範囲で用いることにより、ガラス転移温度および熱時の貯蔵弾性率を使用または製膜に好適な範囲に保ちやすくなる傾向がある。
【0034】
前記耐熱性ポリイミド樹脂を含有する層を形成するための非熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸組成物において使用し得る適当なジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−オキシジアニリン、3,3’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニルN−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、ビス{4−(3−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン及びそれらの誘導物などが挙げられる。
【0035】
ジアミン成分として、剛直構造を有するジアミンと柔構造を有するアミンを併用することもでき、その場合の好ましい使用比率はモル比で80/20〜20/80、さらには70/30〜30/70、特には60/40〜30/70である。剛構造のジアミンの使用比率が上記範囲を上回ると得られるフィルムの引張伸びが小さくなる傾向にあり、またこの範囲を下回るとガラス転移温度が低くなりすぎたり、熱時の貯蔵弾性率が低くなりすぎて製膜が困難になるなどの弊害を伴う場合がある。
【0036】
本発明において、剛直構造を有するジアミンとは、以下の一般式(1)で表されるものをいう。
【0037】
【化1】

なお、式中のR2は、
【0038】
【化2】

で表される2価の芳香族基からなる群から選択される基であり、式中のR3は同一または異なってもよく、H、CH3、OH、CF3、SO4、COOH、CO-NH2、Cl、Br、F及びOCH3からなる群より選択される何れかの1つの基である。
【0039】
また、柔構造を有するジアミンとは、エーテル基、スルホン基、ケトン基、スルフィド基などの柔構造を有するジアミンであり、好ましくは、下記一般式(2)で表されるものである。
【0040】
【化3】

なお、式中のR4は、
【0041】
【化4】

で表される2価の有機基からなる群から選択される基であり、式中のR5は同一または異なってもよく、H、CH3、OH、CF3、SO4、COOH、CO-NH2、Cl、Br、F及びOCH3からなる群より選択される1つの基である。
【0042】
本発明において用いられうる前記耐熱性ポリイミド樹脂は、上記の範囲の中で所望の特性を有するように適宜芳香族酸二無水物および芳香族ジアミンの種類、配合比を決定して用いることにより得ることができる。
【0043】
ポリイミド前駆体である前記ポリアミド酸を合成するための好ましい溶媒は、ポリアミド酸を溶解する溶媒であればいかなるものも用いることができるが、アミド系溶媒、すなわちN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどが好適であり、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましく用いられうる。
【0044】
また、摺動性、熱伝導性、導電性、耐コロナ性、ループスティフネス等のフィルムの諸特性を改善する目的で、フィラーを添加することもできる。フィラーとしてはいかなるものを用いても良いが、好ましい例としては、シリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化珪素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。
【0045】
フィラーの数平均粒子径は改質すべきフィルム特性と添加するフィラーの種類によって決定されるため、特に限定されるものではないが、一般的には数平均粒子径が0.05〜100μm、好ましくは0.1〜75μm、更に好ましくは0.1〜50μm、特に好ましくは0.1〜25μmである。粒子径がこの範囲を下回ると摺動性等の改質効果が現れにくくなり、逆にこの範囲を上回ると表面性を大きく損なったり、機械的特性が大きく低下したりする可能性がある。また、フィラーの添加部数についても改質すべきフィルム特性やフィラー粒子径などにより決定されるため特に限定されるものではない。一般的にフィラーの添加量はポリイミド樹脂100重量部に対して0.01〜100重量部、好ましくは0.01〜90重量部、更に好ましくは0.02〜80重量部である。フィラー添加量がこの範囲を下回るとフィラーによる摺動性等の改質効果が現れにくく、この範囲を上回るとフィルムの機械的特性が大きく損なわれる可能性がある。
【0046】
フィラーの添加方法としては、例えば、
1.重合前または途中に重合反応液に添加する方法、
2.重合完了後、3本ロールなどを用いてフィラーを混錬する方法、
3.フィラーを含む分散液を用意し、これをポリアミド酸有機溶媒溶液に混合する方法、
などいかなる方法を用いてもよいが、フィラーを含む分散液をポリアミド酸溶液に混合する方法、特に製膜直前に混合する方法が製造ラインのフィラーによる汚染が最も少なくてすむため、好ましい。フィラーを含む分散液を用意する場合、ポリアミド酸の重合溶媒と同じ溶媒を用いるのが好ましい。また、フィラーを良好に分散させ、また分散状態を安定化させるために分散剤、増粘剤等をフィルム物性に影響を及ぼさない範囲内で用いることもできる。
【0047】
本発明において、多層フィルムに含まれうる熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層に用いられる熱可塑性ポリイミド樹脂は、例えば、金属箔との有意な接着力や好適な線膨張係数など、所望の特性が発現される限り、熱可塑性ポリイミド樹脂の含有量、分子構造等は特に限定されるものではない。有意な接着力や好適な線膨張係数などの所望の特性の発現のためには、実質的には熱可塑性ポリイミド樹脂を熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層中に50重量%以上、更には80重量%以上含有することが好ましい。更に、耐熱性ポリイミド樹脂を含有する層の両面に配される熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層に含まれる熱可塑性ポリイミド樹脂は、接着シートとなりうる多層フィルム全体での線膨張係数のバランスや、製造工程を簡略化する等の観点から、同種であることが好ましい。
【0048】
熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層に含まれる熱可塑性ポリイミド樹脂としては、例えば、熱可塑性ポリアミドイミド、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリエステルイミド等を好適に用いることができる。
【0049】
前記熱可塑性ポリイミドは、その前駆体であるポリアミド酸からの転化反応により得ることができる。当該ポリアミド酸の製造方法としては、前記耐熱性ポリイミド樹脂を含有する層に用いられうる非熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体と同様、公知のあらゆる方法を用いることができる。
【0050】
また、例えばFPC用途に用いる場合の金属箔との有意な接着力を発現し、かつ得られる金属張積層板(CCL)の耐熱性を損なわないという点から考えると、本発明に用いる熱可塑性ポリイミド樹脂は、150〜300℃の範囲にガラス転移温度(Tg)を有していることが好ましい。なお、Tgは動的粘弾性測定装置(DMA)により測定した貯蔵弾性率の変曲点の値により求めることができる。
【0051】
本発明に用いられうる熱可塑性ポリイミドの前駆体のポリアミド酸についても、特に限定されるわけではなく、公知のあらゆるポリアミド酸を用いることができる。ポリアミド酸溶液の製造に関しても、前記で例示した原料および前記製造条件等を適宜選択して同様に用いることができる。
【0052】
なお、熱可塑性ポリイミドは、使用する酸二無水物成分およびジアミン成分等の原料を種々組み合わせることにより、諸特性を調節することができるが、一般に剛直構造のジアミン使用比率が大きくなるとガラス転移温度が高くなる及び/又は熱時の貯蔵弾性率が大きくなり接着性・加工性が低くなる場合がある。例えば、前記剛直構造のジアミンの使用比率は、ジアミン全量に対して、好ましくは40mol%以下、さらに好ましくは30mol%以下、特に好ましくは20mol%以下である。
【0053】
好ましい熱可塑性ポリイミド樹脂の具体例としては、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等の酸二無水物とアミノフェノキシ基を有するジアミンを重合反応せしめたものなどが挙げられる。
【0054】
さらに、本発明に係る接着シートのすべり性を制御する目的で、必要に応じて無機あるいは有機物のフィラー、さらにはその他樹脂を添加しても良い。
【0055】
<多層フィルムを製膜する工程>
本発明における(1)多層フィルムを製膜する工程については特に限定されるものではなく、公知の方法を適用できるが、例えば、三層構造の多層フィルムを製造する場合、コア層となる耐熱性ポリイミド樹脂を含有する層に、熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層を片面毎に、若しくは両面同時に形成する方法、さらには予め熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層をシート状に成形し、これを上記コア層となる耐熱性ポリイミド樹脂を含有する層の表面に貼り合わせる方法等が挙げられる。あるいは、コア層となる耐熱性ポリイミド樹脂を含有する層と熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層を共押出することにより、実質的に一工程で多層フィルムを製膜する方法であってもよい。
【0056】
また、例えば、熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層に熱可塑性ポリイミド樹脂を用いる場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂またはこれを含む樹脂組成物を有機溶媒に溶解または分散して得られる樹脂溶液を耐熱性ポリイミド樹脂を含有する層の表面に塗布してもよいが、熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の溶液を調製して、これを耐熱性ポリイミド樹脂を含有する層の表面に塗布し、次いでイミド化してもよい。このときのポリアミド酸の合成やポリアミド酸のイミド化の条件等については特に限定されるものではないが、従来公知の原料や条件等を用いることができる(例えば、後述する実施例参照)。また、前記ポリアミド酸溶液には、用途に応じて、例えば、カップリング剤などを含んでいてもよい。
【0057】
中でも、生産性の観点から、(A)一層以上のポリイミド樹脂を含む層からなるフィルムの表面に、ポリイミド前駆体溶液またはポリイミド樹脂を含有する溶液を塗工し、加熱・乾燥により製膜する方法や、(B)二種以上のポリイミド前駆体溶液を共押出により支持体上に流延・塗布して複数層を形成し、加熱・乾燥により製膜する方法、を好適に用いることができる。
【0058】
<多層フィルムを別工程で焼成処理することでフィルムを変質させる工程>
本発明において、多層フィルムを別工程で焼成処理することでフィルムを変質させる工程については特に限定されるものではなく、公知の方法を適用できるが、例えば、多層フィルムを枚葉サイズに切落とし、市販の熱風オーブンで焼成する方法、或いは市販の遠赤オーブンで焼成する方法などが挙げられる。焼成処理条件については特に限定されるものではないが、フィルムが劣化し、搬送に困難が生じない程度の範囲で焼成することができる。例えば、ポリイミド樹脂を含有する多層フィルムであれば、350℃〜500℃の温度範囲で1〜10分間、好ましくは390℃〜460℃の温度範囲で3〜7分間焼成することが好ましい。変質させる際の温度が350℃未満であればフィルムの変質が起きにくい可能性がある。逆に変質させる際の温度が500℃を超える場合はフィルムが劣化し、搬送が困難となる虞がある。多層フィルムの場合、各層の樹脂種によって同じ焼成条件における変質の度合いが異なり、屈折率変化の度合いも異なる。そのため、多層フィルムの状態で各層の屈折率が近い場合でも、上記のような焼成処理を適宜施すことによって屈折率の差異を大きくすることができる。
【0059】
<多重反射光のスペクトルから各層の膜厚寸法を算出する工程>
本発明において、多層フィルムの厚さ方向に光を照射して多重反射光のスペクトルを測定し、当該スペクトルから各層の膜厚寸法を算出する工程について説明する。本発明において使用することができる膜厚測定装置は、例えば、多層フィルムの厚み方向に垂直に光を照射すると、その透過してきた光はその物質固有の波長にて膜厚寸法に応じた吸収量の差異が計測され、その吸収量の差異から膜厚を算出する原理により測定できるものである。装置としては、例えば、蛍光X線膜厚測定機、赤外線膜厚測定機が例示できるが、限定されるものではない。
【0060】
<膜厚測定データを製膜工程にフィードバックする工程>
当該工程においては、前記(3)工程にて算出した膜厚寸法データを、公知の方法により製膜工程にフィードバックすることができる。生産性の観点から、オンラインでフィードバックできることが好ましい。
【0061】
<各層の膜厚調整操作を加える工程>
本発明における具体的な膜厚寸法調整手段について、以下に多層ダイを用いる場合を例に挙げて説明する。使用できる多層ダイは、少なくとも二種類以上のポリイミド樹脂あるいはその前駆体を含む溶液から、ポリイミド系多層フィルムを製造することができるものであれば良く、多層ダイの層の数や形式は特に限定されない。
【0062】
共押出流延塗布法による製膜における、ダイ内部の流路は非常に薄い板状の空間である為、そこを通る流体には大きな流体抵抗が生じる。したがって、流体の粘度が変化すると、流体抵抗が変化し、結果として流体の吐出量が変化し、その結果として膜厚寸法が変化する。ポリイミド樹脂あるいはその前駆体を含む溶液が流れる流路近傍を発熱体で加熱すると、当該ポイリイミド樹脂溶液の粘度が低下し、結果として流路での吐出量が増大する。従って、各々の層で独立して吐出量を調整することで、各層の膜厚寸法の調整を行なうことができる。
【0063】
本発明において、例えば、発熱体は多層膜の各層の膜厚を調整するために使用されうる。発熱体は、工業的に又は一般的に利用されている方法であれば制限無く使用することができる。特に、金属や炭素、無機化合物の抵抗体に電流を流して加熱するタイプのものは、扱いやすく、応答性も良いので好ましい。また、電磁誘導式の発熱体は、更に応答性が高いことから好ましい。
【0064】
前記発熱体の配置位置については、多層膜の各層の厚さを各々制御する必要があるので、発熱体は各々のポリイミド樹脂あるいはその前駆体を含む溶液が合流するよりも以前の位置に設置することが必要である。また、各々のフィルム層の幅方向の特定の位置の膜厚寸法を制御することも、幅方向に展開された流路に対し、幅方向に連続的に発熱体を配置することで可能となる。フィルムの流れ方向と幅方向の膜厚分布を均一に安定化すれば高品質な多層フィルムを作製することができる。連続的に発熱体を配置する際の、発熱体の間隔については特に制限は無く、制御に必要十分な間隔を選定すればよい。一般的には、発熱体の間隔が近すぎると、相互干渉が起こる恐れがあるため、5〜50mmの間隔で発熱体を配置することが好ましい。
【0065】
<多層フィルムの用途>
本発明により得られる多層フィルムは、例えば、金属箔を熱圧着により貼り合わせることにより、金属張積層板を形成することができる。多層フィルムと金属箔の貼り合わせ方法としては、例えば、単板プレスによるバッチ処理、熱ロールラミネート装置或いはダブルベルトプレス(DBP)装置による連続処理が挙げられるが、生産性、維持費も含めた設備コストの点から、一対以上の金属ロールを有する熱ロールラミネート装置を使用した方法が好ましい。ここでいう「一対以上の金属ロールを有する熱ロールラミネート装置」とは、材料を加熱加圧するための金属ロールを有している装置であればよく、その具体的な装置構成は特に限定されるものではない。
【実施例】
【0066】
次に、本発明に係る多層フィルムの製造方法について、実施例により詳しく説明する。
【0067】
(合成例1:熱可塑性ポリイミドの前駆体のポリアミド酸の合成)
10℃に冷却したN,N−ジメチルフォルムアミド(DMF)784.2kgに3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を90.3kg加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、1,3−ビス−4−アミノフェノキシベンゼン(TPE−R)を78.0kg、1,4−ビス−4−アミノフェノキシベンゼン(TPE−Q)を9.0kg添加し、氷浴下で30分間撹拌した。別途調製しておいたTPE−RのDMF溶液(TPE−R:DMF=0.9kg:7.0kg)を上記反応液に徐々に添加し、粘度が1000poiseに達したところで添加、撹拌を止めた。1時間撹拝を行って固形分濃度18重量%、23℃での回転粘度が1000ポイズの、熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液を得た。
【0068】
(合成例2:熱可塑性ポリイミドの前駆体のポリアミド酸の合成)
10℃に冷却したN,N−ジメチルフォルムアミド(DMF)784.2kgに3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を90.3kg加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、1,3−ビス−4−アミノフェノキシベンゼン(TPE−R)を87.0kg添加し、氷浴下で30分間撹拌した。別途調製しておいたTPE−RのDMF溶液(TPE−R:DMF=0.9kg:7.0kg)を上記反応液に徐々に添加し、粘度が1000poiseに達したところで添加、撹拌を止めた。1時間撹拝を行って固形分濃度18重量%、23℃での回転粘度が1000ポイズの、熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液を得た。
【0069】
(合成例3:耐熱性ポリイミドの前駆体のポリアミド酸の合成)
10℃に冷却したN,N−ジメチルフォルムアミド(DMF)239kgに4,4'−オキシジアニリン(ODA)6.9kg、p−フェニレンジアミン(PDA)6.2kg、2,2−ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)9.4kgを溶解した後、ピロメリット酸二無水物(PMDA)10.4kgを添加し、窒素雰囲気下で1時間撹拝して溶解させた。ここに、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)20.3kgを添加し、窒素雰囲気下で1時間撹拝させて溶解させた。別途調製しておいたPMDAのDMF溶液(PMDA:DMF=0.9kg:7.0kg)を上記反応液に徐々に添加し、粘度が3000ポイズ程度に達したところで添加を止めた。1時間撹拝を行って固形分濃度18重量%、23℃での回転粘度が3500ポイズの、耐熱性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液を得た。
【0070】
(実施例1)
合成例3で得られた耐熱性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液に、以下の化学脱水剤及び触媒を含有せしめた。
1.化学脱水剤:無水酢酸を耐熱性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸のアミド酸ユニット1モルに対して2.0モル
2.触媒:イソキノリンを耐熱性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸のアミド酸ユニット1モルに対して0.3モル
【0071】
次いで、リップ幅650mmのマルチマニホールド式の3層共押出多層ダイから、外層が合成例1で得られた熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液、内層が耐熱性ポリイミド溶液の前駆体であるポリアミド酸溶液となる順番で形成された多層膜を連続的に押出して、当該Tダイスの下20mmを走行しているステンレス製のエンドレスベルト上に流延した。次いで、この多層膜を130℃×100秒で加熱することで、自己支持性のゲル膜に転化せしめた。当該ゲル膜には、層間剥離は観察されず、外観良好な形状のゲル膜であった。さらに、エンドレスベルトから自己支持性のゲル膜を引き剥がしてテンタ-クリップに固定し、300℃×30秒、400℃×50秒、450℃×10秒で乾燥・イミド化させ、接着フィルムとなる多層フィルムを得た。
【0072】
このポリイミド多層フィルムを日本分光社製多層膜厚測定装置FT/IR-4100で各層の膜厚測定を試みたところ、綺麗な干渉スペクトルが得られず、各層の膜厚寸法を算出するに至らなかった。
【0073】
続いて、得られた多層フィルムを、オーブンを用いて350℃で10分間加熱処理を行い、上記と同様に光干渉方式による日本分光社製多層膜厚測定装置FT/IR-4100で各層の厚み測定を行ったところ、綺麗な干渉スペクトルが得られ、各層の膜厚寸法を算出することができた。また加熱処理前の接触厚み計を用いて測定した多層フィルムの総厚みと、加熱処理後に接触厚み計を用いて測定した多層フィルムの総厚みと、多層膜厚計により各層の厚みを測定した場合の各膜厚の合計とに差異はなく、加熱処理に伴う厚みの減少は見られなかった。
【0074】
得られた上記の膜厚寸法データをもとに、多層ダイの各層の流路断面積をバルブで制御し、多層フィルムの膜厚寸法制御を行った。得られた多層フィルムの機械的送り方向(MD方向)および幅方向(TD方向)について、日本分光社製多層膜厚測定装置FT/IR-4100にて10mmピッチで測定して膜厚バラツキを求めたところ、各層の膜厚バラツキは10%以下であった。
【0075】
(実施例2)
実施例1において、多層フィルムを400℃で5分間加熱処理を行うことを除き、他は実施例1と同様にして多層フィルムを製造し、各層の厚みを測定した。その結果、綺麗な干渉スペクトルが得られ、多層フィルムの各層の膜厚寸法を算出することができた。同様に膜厚寸法制御を行い、得られたフィルムの膜厚バラツキを求めたところ、各層の膜厚バラツキは8%以下であった。
【0076】
(実施例3)
実施例1において、多層フィルムを450℃で3分間加熱処理を行うことを除き、他は実施例1と同様にして多層フィルムを製造し、各層の厚みを測定した。その結果、綺麗な干渉スペクトルが得られ、多層フィルムの各層の膜厚寸法を算出することができた。同様に膜厚寸法制御を行い、得られたフィルムの膜厚バラツキを求めたところ、各層の膜厚バラツキは7%以下であった。
【0077】
(実施例4)
実施例1において、多層フィルムを500℃で1分間加熱処理を行うことを除き、他は実施例1と同様にして多層フィルムを製造し、各層の厚みを測定した。その結果、綺麗な干渉スペクトルが得られ、多層フィルムの各層の膜厚寸法を算出することができた。同様に膜厚寸法制御を行い、得られたフィルムの膜厚バラツキを求めたところ、各層の膜厚バラツキは8%以下であった。
【0078】
(実施例5)
実施例1において、外層から合成例2で得られた熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液を流し込むことを除き、他は実施例1と同様にして多層フィルムを製造し、各層の厚みを測定した。その結果、綺麗な干渉スペクトルが得られ、多層フィルムの各層の膜厚寸法を算出することができた。同様に膜厚寸法制御を行い、得られたフィルムの膜厚バラツキを求めたところ、各層の膜厚バラツキは8%以下であった。
【0079】
(実施例6)
実施例5において、多層フィルムを400℃で5分間加熱処理を行うことを除き、他は実施例5と同様にして多層フィルムを製造し、各層の厚みを測定した。その結果、綺麗な干渉スペクトルが得られ、多層フィルムの各層の膜厚寸法を算出することができた。同様に膜厚寸法制御を行い、得られたフィルムの膜厚バラツキを求めたところ、各層の膜厚バラツキは8%以下であった。
【0080】
(実施例7)
実施例5において、多層フィルムを450℃で3分間加熱処理を行うことを除き、他は実施例5と同様にして多層フィルムを製造し、各層の厚みを測定した。その結果、綺麗な干渉スペクトルが得られ、多層フィルムの各層の膜厚寸法を算出することができた。同様に膜厚寸法制御を行い、得られたフィルムの膜厚バラツキを求めたところ、各層の膜厚バラツキは7%以下であった。
【0081】
(実施例8)
実施例5において、多層フィルムを500℃で1分間加熱処理を行うことを除き、他は実施例5と同様にして多層フィルムを製造し、各層の厚みを測定した。その結果、綺麗な干渉スペクトルが得られ、多層フィルムの各層の膜厚寸法を算出することができた。同様に膜厚寸法制御を行い、得られたフィルムの膜厚バラツキを求めたところ、各層の膜厚バラツキは8%以下であった。
【0082】
(比較例1)
実施例1において、焼成処理によりフィルムを変質させる工程を行なわないことを除き、他は実施例1と同様にして多層フィルムを製造し、各層の厚みを測定した。その結果、綺麗な干渉スペクトルが得られず、各層の膜厚寸法を算出するに至らなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂を含有する多層フィルムの製造方法であって、
(1)多層フィルムを製膜する工程、
(2)該多層フィルムを別工程で焼成処理することでフィルムを変質させる工程、
(3)該焼成フィルムの厚さ方向に光を照射して多重反射光のスペクトルから各層の膜厚寸法を算出する工程、
(4)算出した膜厚寸法データを多層フィルムの製膜工程にフィードバックする工程、
(5)多層フィルムの製膜工程において各層の膜厚調整操作を加える工程、
を含むことを特徴とする、多層フィルムの製造方法。
【請求項2】
多層フィルムが、耐熱性ポリイミド樹脂を含有する層および熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層を有することを特徴とする、請求項1に記載の多層フィルムの製造方法。
【請求項3】
多層フィルムが、耐熱性ポリイミド樹脂を含有する層の両面に熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層を配した構造であることを特徴とする、請求項2記載の多層フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記多層フィルムを製膜する工程(1)が、一層以上のポリイミド樹脂を含む層からなるフィルムの表面に、ポリイミド前駆体溶液またはポリイミド樹脂を含有する溶液を塗工し、加熱・乾燥する方法により製膜することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の多層フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記多層フィルムを製膜する工程(1)が、二種以上のポリイミド前駆体溶液を共押出により支持体上に流延・塗布して複数層を形成し、加熱・乾燥する方法により製膜することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の多層フィルムの製造方法。
【請求項6】
多層フィルムにおける各層の屈折率の差が0.1以下であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の多層フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記(2)工程における加熱処理が、350〜500℃の温度範囲で1〜10分間行われることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の多層フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2010−111086(P2010−111086A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287654(P2008−287654)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】