説明

ポリイミド系樹脂水系分散体の製造方法

【課題】長期保管後も分散安定性に優れ、金属との接着性に優れた樹脂膜を形成することのできるポリイミド系樹脂水系分散体の製造方法を提供すること。
【解決手段】イミド化率が0%〜30%であるポリアミド酸を分散剤として用いる。
【効果】本発明により得られるポリイミド系樹脂水系分散体は、長期保管後も分散安定に優れる。また、本発明により得られるポリイミド系樹脂水系分散体から形成される樹脂膜は、金属との接着性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド系樹脂水系分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド系樹脂は、機械的特性に加えて耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性等に優れ、電気・電子材料、自動車、その他金属・セラミックスの代替材料として幅広く利用されている。例えば、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸のワニスは、電気絶縁部品のコーティング材、接着剤、フレキシブルプリント基板用の材料などとして幅広く利用されている。近年、主に環境対策として、これらポリイミド系樹脂の水系分散体化が広く要請されている。
【0003】
従来におけるポリイミドの合成方法としては、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとをN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)等の極性溶媒中で反応させ、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸のワニスを調製し、このワニスからポリイミド微粒子を沈殿製造法により得る方法が挙げられる。しかしながら、この方法では、重合が進行するに従って沈殿生成したポリイミド微粒子が合一化又は凝集するため、単分散の微細なポリイミド微粒子が得られないという課題があった。
【0004】
あるいは、ポリイミド前駆体微粒子の合成方法として、ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)と強く相互作用しない溶媒にテトラカルボン酸二無水物を溶解あるいは縣濁しておき、ジアミンを加えて重合する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、得られるポリアミド酸微粒子の平均粒径が100〜500μmと大きく、且つ粒度分布が広い等の課題があった。上記方法では、所望の粒子形状、粒度分布等に制御することも困難である。このため、単分散性等に優れたポリイミドの微粒子を製造する方法の開発が切望されていた。
【0005】
そこで、ポリイミド系樹脂微粒子の分散方法として、無水テトラカルボン酸を含む第一溶液とジアミン化合物を含む第二溶液とをそれぞれ調製する第一工程、及び(b)第一溶液と第二溶液とを混合し、超音波攪拌により混合溶液からポリアミド酸微粒子を析出させる第二工程を含むことを特徴とする製造方法により0.03〜2μmのポリイミド酸微粒子を得る方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。あるいはまた、ポリイミド系樹脂微粒子の製造方法としては、極性溶媒中、ノニオン性界面活性剤の存在下、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物を重合し、ポリアミド酸微粒子を析出させる工程を含むことを特徴とするポリアミド酸微粒子の製造方法が開示されている(例えば特許文献3参照)。
【0006】
しかしながら、これらの方法により得られたポリイミド微粒子を単に水に分散するだけでは、微粒子が沈降し、ポリイミド系樹脂の水系分散体としては不満足なものであった。また、得られる分散液を用いて形成したポリイミド系樹脂膜は、金属との接着性が不十分である課題があった。
【0007】
そこで、お互いに混じり合わない水と油の2つの液体に乳化剤を添加し、攪拌等の機械的な操作を加え、油滴を水に均一に分散(水滴を油に分散)した液/液系の乳濁液エマルションを製造する手段や、固体ポリマー微粒子が水系溶媒に均一に分散したポリマーディスパーションとして、例えばポリエチレンディスパーションなどと同様に、乳化剤として、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤などを用いることができることが知られている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、ポリイミド系樹脂微粒子が水中に均一に分散したディスパーションについては、これまで公知の乳化剤では、分散を維持することが困難で、かつ、金属との接着性が不十分である課題があった。
【0008】
【特許文献1】特開平5−271539公報
【特許文献2】特開2000−248063号公報
【特許文献3】特開2007−277517号公報
【特許文献4】特開2002−069371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、長期保管後も分散安定性に優れ、金属との接着性に優れた樹脂膜を形成することのできるポリイミド系樹脂水系分散体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、特定のイミド化率を有するポリアミド酸を分散剤として用いることにより、長期保管後も分散安定性に優れ、金属との接着性に優れた樹脂膜を形成することのできるポリイミド系樹脂水系分散体が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、イミド化率が0%〜30%であるポリアミド酸を分散剤として用いることを特徴とするポリイミド系樹脂水系分散体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により得られるポリイミド系樹脂水系分散体は、長期保管後も分散安定に優れる。また、本発明により得られるポリイミド系樹脂水系分散体から形成される樹脂膜は、金属との接着性に優れる。したがって、電気・電子材料、自動車、その他金属・セラミックスの代替材料、もしくは電気絶縁部品のコーティング材、接着剤等として好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において分散剤として用いられるポリアミド酸は、イミド化率が0〜30%のものであれば特に限定されるものではない。イミド化率が30%を超えると、所望の分散効果が得られない。ポリイミド系樹脂の分散効果の点から、イミド化率は0%〜20%が好ましく、0%〜10%がより好ましい。ポリアミド酸のイミド化率を0%〜30%とするために、ポリアミド酸を得る際の重合温度が60℃を超えないようにすることが好ましい。
【0014】
イミド化率とは、ポリイミドの前駆体としてポリアミド酸が、ポリイミドに閉環された割合のことである。イミド化率は種々の手法により定量化することができるが、赤外吸収スペクトルを用いる方法が最も簡便である。本発明におけるイミド化率は赤外吸収スペクトルから算出したものをいう。
【0015】
イミド化率(Ia)の値は、透過赤外吸収スペクトル(IR)測定によって、試料となるポリイミド酸のN−メチルピロリドン(NMP)溶液(以下試料ワニスと称する)のイミド基に起因する波数における吸光度より算出する。吸光度測定に用いるイミド基に起因する振動波数としては、通常、1750〜1800cm−1または1350〜1400cm−1の波数を用いる。以下、算出法の詳細について述べる。
【0016】
まず、試料ワニスをスピンコート法によりシリコンウェハー上に塗布する。ついで、50℃で30分間、通風オーブン内で熱処理して厚さ10±2μmのプリベーク膜とし、IR測定により、イミド基の吸光度Iを求める。次に、この膜をオーブンにて窒素気流下350℃で30分間熱処理(キュア)してイミド化を100%進行させる。この、100%イミド化させた試料についてIR測定を行い、イミド基に起因する波数の吸光度Iを求める。このときの、イミド基の吸光度Iとイミド化率Iaの関係を示す式は、イミド化率Ia(%)=I/I×100となる。
【0017】
イミド基に起因するピークについての吸光度の測定は、図1のように、求めるピークの両端を結んで補助線を引き、ピークの頂点からIRスペクトルの横軸に垂直に降ろした線との交点を求め、その交点とピークの頂点との長さXを吸光度とする。
【0018】
本発明において分散剤として用いられるポリアミド酸の酸価は50mgKOH/g以上が好ましく、150mg/KOH以上がより好ましい。この範囲であれば、ポリイミド系樹脂の分散安定性をより向上させることができる。一方、ポリアミド酸の酸価は500mgKOH/g以下が好ましく、400mgKOH/g以下がより好ましい。この範囲であれば、水系分散体を塗布・乾燥して得られる硬化膜の耐水性が向上する。
【0019】
ポリアミド酸は、例えばテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを溶媒中で重縮合することにより得ることができる。
【0020】
テトラカルボン酸二無水物の例としては、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−パラターフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−メタターフェニルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらを2種以上使用してもよい。
【0021】
ジアミンの例としては、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルサルファイド、4,4’−ジアミノジフェニルサルファイド、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、9,9’−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン等が挙げられる。これらを2種以上使用してもよい。
【0022】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンの仕込みモル比は、通常の重縮合反応と同様に、1:1に近いほど生成するポリアミド酸の重合度は大きくなり、分子量が増加する。
【0023】
上記重縮合反応で用いられる溶媒としては、生成したポリアミド酸が溶解するものであれば特に限定されるものではないが、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン等の非プロトン性極性溶媒やこれらの混合物を好ましく用いることができる。
【0024】
本発明のポリイミド系樹脂水系分散体を得るために、ポリアミド酸からなる分散剤を被分散樹脂であるポリイミド系樹脂100質量部に対して20〜200質量部使用することが好ましく、50〜150質量部使用することがより好ましい。
【0025】
本発明における「水系」とは、水や、水と水溶性溶媒との混合物の総称であり、水の割合は50質量%以上である。水溶性媒体としては、エタノールやイソプロピルアルコール等の低級(炭素数1〜4、以下同じ)アルコール、エチレングリコールやプロピレングリコール等の低級アルキレングリコールが挙げられる。
【0026】
本発明のポリイミド系樹脂水系分散体に用いられるポリイミド系樹脂としては、例えば、ポリアミドイミド系樹脂、溶剤可溶型ポリイミド樹脂などを挙げることができ、ポリアミドイミド系樹脂が好ましい。
【0027】
<ポリアミドイミド系樹脂>
本発明において、ポリアミドイミド系樹脂は、下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される構成単位から選ばれる少なくとも1つの構成単位を主成分とし、残存カルボキシル基量(詳細は後述)が0.05〜0.40mmol/gであり、一般式(1)で表される構成単位の含有量(a)、一般式(2)で表される構成単位の含有量(b)、一般式(3)で表される構成単位の含有量(c)が下記式(A)の関係を有することが好ましい。
【0028】
a/(a+b+c)≦0.55 (モル比) (A)
【0029】
すなわち、樹脂の主鎖構造中にイミド基とアミド基を含有するポリアミドイミド系の樹脂を主成分とするものであるが、一般式(4)〜(6)でその構造を限定された、特定の構造を有するポリアミドイミド系の樹脂であることが好ましい。ここで、本発明において主成分とは、50モル%を超える成分を指す。好ましくは80モル%以上である。また、ポリアミドイミド系樹脂とは、ポリアミドイミド樹脂もしくはその前駆体を指す。なお、ここで、ポリアミドイミド樹脂の「前駆体」とは、ポリマー主鎖を構成するイミド基が閉環する前の段階のポリマーのことであって、例えば熱や触媒を用いて脱水環化(イミド化)することによって、ポリアミドイミド樹脂となる。
【0030】
【化1】

【0031】
【化2】

【0032】
【化3】

【0033】
(上記一般式(1)〜(3)中、Rは下記一般式(4)で表される2価の芳香族基、Arは下記一般式(5)で表される2価の芳香族基、Arは下記一般式(6)で表される3価の芳香族基を示し、異なる構成単位における各R、各Ar及び各Arは互いに独立である)。
【0034】
【化4】

【0035】
【化5】

【0036】
【化6】

【0037】
(上記一般式(4)中、Xは直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−C(CH−または−C(CF−を示す。pは0〜3の整数を示す。上記一般式(5)中、Yは直接結合、−O−、−CO−、−SO−、−CH−、−C(CH−または−C(CF−を示す。qは0または1を示す。上記一般式(6)中、Zは直接結合、−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO−、−CH−、−C(CH−または−C(CF−を示す。rは0または1を示す。上記一般式(4)、(5)及び(6)において、各ベンゼン環は、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、塩素原子、臭素原子、ニトロ基及びシアノ基から成る群より選ばれる少なくとも1個の置換基を任意に有していてもよい。)
【0038】
上記特定の構造を有するポリアミドイミド系樹脂は、溶媒溶解性を有し、耐熱性に優れる。また、金属との接着性をより向上させることができる。
【0039】
また、一般式(1)で表される構成単位の含有量は、一般式(1)〜(3)のいずれかで表される構成単位の含有量合計に対して55モル%以下であることが好ましい。この範囲とすることで、溶媒溶解性が得られるため、イミド化率が0%〜30%であるポリアミド酸と溶媒中で容易に混合することができる。
【0040】
ポリアミドイミド系樹脂の第一の好ましい態様は、a/(a+b+c)=0となる態様である。すなわち、前記一般式(1)で表される構成単位を有さず、前記一般式(2)または(3)で表される構成単位を主成分とするポリアミドイミド樹脂またはその前駆体である。かかる樹脂は、酸成分である芳香族トリカルボン酸無水物あるいはそのモノクロリドと、芳香族ジアミン成分を重合させ得られるものである。
【0041】
前記一般式(2)または(3)で表される構成単位において、Arは酸成分の残基を表す。この酸成分は、上記一般式(6)(式中の記号の定義及びベンゼン環上の置換基の定義も上記の通り、以下、同様に、既述の一般式に言及する際は、特に断りがない限り、式中の記号や置換基の定義も既述の通りである)で表される3価の芳香族基を有するものである。なお、1分子中に含まれる異なる構成単位において、Arは互いに独立であり、従って、異なるArを含む複数種類の構成単位が1分子中に含まれていてもよい。
【0042】
このような酸成分として、具体的には、トリメリット酸モノクロリド、トリメリット酸無水物、3',4,4'−ビフェニルトリカルボン酸モノクロリド無水物、3',4,4'−ジフェニルメタントリカルボン酸クロリド無水物、3',4,4'−ジフェニルイソプロパントリカルボン酸クロリド無水物、3,4,4'−ベンゾフェノントリカルボン酸モノクロリド無水物が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上用いてもよい。本発明においては、金属との接着性、あるいはバランスのとれた機械物性あるいは耐熱性を満足させる観点から、トリメリット酸モノクロリドまたはトリメリット酸無水物が好ましく、トリメリット酸モノクロリドがより好ましい。
【0043】
前記一般式(2)または(3)で表される構成単位において、Rはジアミン成分の残基を表す。このジアミン成分は、上記一般式(4)で表される2価の芳香族基を有するものである。かかるジアミン成分を用いることにより、機械特性に優れ、また金属などとの接着性により優れた樹脂を得ることができる。なお、1分子中に含まれる異なる構成単位において、Rは互いに独立であり、従って、異なるRを含む複数種類の構成単位が1分子中に含まれていてもよい。Rは、一般式(2)で表される構成単位と一般式(3)で表される構成単位との間で独立であるのみならず、一般式(2)で表される構成単位同士、及び一般式(3)で表される構成単位同士の間でも独立である。また、1分子中に異なる種類の構成単位が含まれる場合、該分子は、ブロック共重合体であっても、交互共重合体であっても、ランダム共重合体であってもよい。
【0044】
このようなジアミン成分として、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、オキシジアニリン、2,2’−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,4−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィドなどが挙げられる。これらは単独で用いても2種以上用いてもよい。
【0045】
これらのなかで、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホンなどが、重合反応性、得られる樹脂の溶媒溶解性に優れ、分散安定性をより向上させることができる点で好ましい。さらに、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルおよびm−フェニレンジアミンが好ましい。
【0046】
さらに、前記一般式(2)または(3)におけるRが4,4’−ジアミノジフェニルエーテル残基である構成単位及びm−フェニレンジアミン残基である構成単位が1分子中に含まれ、樹脂中の4,4’−ジアミノジフェニルエーテル残基含有量(x)とm−フェニレンジアミン残基含有量(y)が1.5≦x/y≦4 (モル比)であると、ポリマーとしての機械特性がバランスが良いため好ましい。更に好ましくは、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル残基である構成単位及びm−フェニレンジアミン残基である構成単位の和が、一般式(2)及び/又は(3)で表される全構成単位の50モル%を超えることが好ましい。このようなジアミン残基を有するポリアミドイミド系樹脂は、強度や伸度などの機械的特性バランスが極めて優れるため、ポリアミドイミド樹脂微粒子の機械特性がより向上するものと推定している。樹脂を構成する各分子は、Rとして4,4’−ジアミノジフェニルエーテル残基を含む構成単位とm−フェニレンジアミン残基を含む構成単位とのブロック共重合体であっても、交互共重合体であっても、ランダム共重合体であってもかまわない。
【0047】
したがって、ポリアミドイミド樹脂の第一の態様、すなわち、a/(a+b+c)=0となる態様としては、前記一般式(2)または(3)におけるArがトリメリット酸モノクロリド残基であり、Rが4,4’−ジアミノジフェニルエーテル残基である構成単位およびRがm−フェニレンジアミン残基である構成単位を含み、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル残基含有量(x)とm−フェニレンジアミン残基含有量(y)が1.5≦x/y≦4 (モル比)である樹脂が好ましい。
【0048】
なお、本発明の効果を損なわない範囲で、一般式(2)〜(3)以外の構成単位を50モル%未満有してもかまわない。例えば、酸成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、ピロメリット酸、3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸、4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸、3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマール酸、ダイマー酸、スチルベンジカルボン酸あるいはこれらの酸無水物や、酸クロリドが使用できる。また、ジアミン成分として、脂肪族ジアミンや、1,4−ナフタレンジアミン、1,5−ナフタレンジアミン、2,6−ナフタレンジアミン、2,7−ナフタレンジアミンなどのナフタレンジアミンを共重合してもよい。
【0049】
次に、ポリアミドイミド系樹脂の第二の好ましい態様として、0<a/(a+b+c)≦0.55の態様について説明する。すなわち、前記一般式(1)で表される構成単位を有するアラミド−アミドイミド共重合体である。前記ポリアミドイミド系樹脂にアラミド構造を共重合することにより得られるものである。前芳香族ポリアミドは、例えば引張り特性におけるS−S曲線(Stress−Strain Curve)が、伸度と共に強度が増加する特徴的な曲線を有することが知られている。このような機械特性を有するセグメントをポリアミドイミド主鎖に共重合することによって、機械特性がより向上するものと考えられる。なお、この態様では、樹脂を構成する各分子中に異なる種類の構成単位が必ず含まれるが、該分子は、ブロック共重合体であっても、交互共重合体であっても、ランダム共重合体であってもよい。
【0050】
本態様において、一般式(2)または(3)で表される構成単位は、第一の好ましい態様で説明したとおりである。
【0051】
前記一般式(1)で表されるアラミド構成単位において、Arは酸成分の残基を表す。この酸成分は、芳香族ジカルボン酸あるいはそのジクロリドであり、上記一般式(5)で表される2価の芳香族残基を有するものである。なお、1分子中に含まれる異なる構成単位において、Arは互いに独立であり、従って、異なるArを含む複数種類の構成単位が1分子中に含まれていてもよい。
【0052】
このような酸成分として、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、ジフェニルメタン−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルメタン−2,4−ジカルボン酸、ジフェニルメタン−3,4−ジカルボン酸、ジフェニルメタン−3,3'−ジカルボン酸、2,2'−ビス−(4−カルボキシフェニル)プロパン、2−(2−カルボキシフェニル)−2−(4−カルボキシフェニル)プロパン、2−(3−カルボキシフェニル)−2−(4−カルボキシフェニル)プロパン、ジフェニルエーテル−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−2,4−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−3,4−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−3,3'−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−2,4−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−3,4−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−3,3'−ジカルボン酸、ベンゾフェノン−4,4'−ジカルボン酸、ベンゾフェノン−2,4−ジカルボン酸、ベンゾフェノン−3,4−ジカルボン酸、ベンゾフェノン−3,3'−ジカルボン酸、あるいはこれらのジクロリドが挙げられる。これらは単独で用いても2種以上用いてもよい。なお、本発明の効果を損なわない範囲で、一般式(5)以外の残基を構成する酸成分、例えばナフタレンジカルボン酸などを、50モル%未満有してもかまわない。
【0053】
本発明のポリイミド系樹脂水系分散体に用いるポリアミドイミド系樹脂における第二の態様であるアラミドーアミドイミド共重合体を得るのに有利であるのはこれらのジクロリドであり、好ましくは、テレフタル酸ジクロリド、イソフタル酸ジクロリド、3,3'−ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、3,3'−ジフェニルエーテルジカルボン酸ジクロリド、3,3'−ジフェニルスルフィドジカルボン酸ジクロリド、3,3'−ジフェニルスルホンジカルボン酸ジクロリド、3,3'−ジフェニルメタンジカルボン酸ジクロリド、2−メチル−1,4−ベンゼンジカルボン酸ジクロリド、5−メチル−1,3−ベンゼンジカルボン酸ジクロリド、2,5−ジメチル−1,4−ベンゼンジカルボン酸ジクロリド、4,6−ジメチル−1,3−ベンゼンジカルボン酸ジクロリド、3,3'−ジメチル−4,4'−ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、2,2'−ジメチル−4,4'−ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、3,3',5,5'−テトラメチル−4,4'−ビフェニルジカルボン酸ジクロリドなどが挙げられる。
【0054】
得られる樹脂の溶媒溶解性、および前記一般式(5)におけるYは屈曲性基でないことが好ましく、直接結合、−SO−、−CH−、−C(CH−または−C(CF−が好ましい。具体的には、イソフタル酸ジクロリドまたはテレフタル酸ジクロリドが好ましく、テレフタル酸ジクロリドがより好ましい。
【0055】
前記一般式(1)で表される構成単位において、Rはジアミン成分の残基を表す。前記第一の好ましい態様において、一般式(2)または(3)におけるRとして記載したものである。本態様においても、一般式(1)〜(3)におけるRが4,4’−ジアミノジフェニルエーテル残基である構成単位及びm−フェニレンジアミン残基である構成単位が1分子中に含まれ、樹脂中の4,4’−ジアミノジフェニルエーテル残基含有量(x)とm−フェニレンジアミン残基含有量(y)が1.5≦x/y≦4 (モル比)であるとポリマーとしての機械特性がバランスが良いため好ましい。また、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル残基である構成単位及びm−フェニレンジアミン残基である構成単位の和が、一般式一般式(1)〜(3)のいずれかで表される全構成単位の50モル%を超えることが好ましい。また、Rとして4,4’−ジアミノジフェニルエーテル残基を含む構成単位とm−フェニレンジアミン残基を含む構成単位とのブロック共重合体であっても、交互共重合体であっても、ランダム共重合体であってもかまわない。
【0056】
本発明において、アラミドーアミドイミド共重合体中、一般式(1)で表される構成単位の含有量(a)、一般式(2)で表される構成単位の含有量(b)、一般式(3)で表される構成単位の含有量(c)が下記式(B)の関係を有することが好ましい。
【0057】
0.05≦a/(a+b+c)≦0.55 (モル比) (B)
【0058】
一般式(1)で表される構成単位の含有量を、一般式(1)〜(3)のいずれかで表される構成単位の含有量合計に対して5モル%以上とすることで、機械特性のバランスが優れた微粒子を得ることができる。
【0059】
<残存カルボキシル基量>
本発明のポリイミド系樹脂水系分散体に用いるポリアミドイミド系樹脂は、残存カルボキシル基量が0.05〜0.40mmol/gであることが好ましい。残存カルボキシル基量が0.05mmol/g以上であれば、イミド化率が0%〜30%であるポリアミド酸と反応性を有することとなり、ポリイミド系樹脂水系分散体として優れた特性を発現させることができる。たとえば、分散安定性をより向上させることができる。また、樹脂膜の強度が高くなる。一方、残存カルボキシル基量は0.40mmol/g以下が好ましく、0.25mmol/g以下がより好ましい。0.40mmol/g以下であれば、常温での保存安定性に優れ、取り扱い性に優れる。したがって、樹脂の残存カルボキシル基量がこの範囲になるように、一般式(3)で表される構成単位を含有することが好ましい。
【0060】
本発明における樹脂の残存カルボキシル基量の測定は、以下の方法で行う。
(1)試薬
A.DMF(ジメチルホルムアミド):溶媒特級試薬
B.ブロムチモールブルー指示薬(0.3重量%):ブロムチモールブルー0.15gを50mlのメタノールに溶解する。
C.N/50ナトリウムメチラート溶液:金属ナトリウム0.5gを1リットルのメタノールに溶解する。
N/50ナトリウムメチラート溶液の力価は、以下の方法により求められる。
蒸留水50mlを入れた200ml三角フラスコにN/50ナトリウムメチラート溶液20mlをホールピペットで採取し、フェノールフタレインを指示薬として0.1N HCl標準液(市販品)で滴定する。
力価(F)=0.25×f×S
f:0.1N HCl標準液の力価、
S:0.1N HCl標準液の滴定値(ml)
【0061】
(2)測定
樹脂約0.2gを精秤し(この値をwgとする)、特級DMF(N,N―ジメチルホルムアミド)20mlで50ml三角フラスコ中に溶解する。次に、ブロムチモールブルー指示薬(0.3重量%)を4滴滴下し、ミクロビューレットよりN/50ナトリウムメチラート溶液で滴定する。指示薬の変色が(黄)→(黄緑)→(エメラルドグリーン)と黄色を全く無くするまで滴定した(この値をSmlとする。)。
【0062】
別途、樹脂を全く含まない純溶媒についてのブランク滴定値を求める(この値をBmlとする。)。次の式により残存カルボキシル基量を求める。
残存カルボキシル基量(mmol/g)=(F×(1/50)×(S−B))/樹脂採取重量(wg)
F:N/50ナトリウムメチラート溶液の力価
S:サンプルの滴定量(ml)
B:ブランク滴定量(ml)(樹脂を溶解させない純溶媒での滴定量)
【0063】
<ポリアミドイミド系樹脂の製造方法>
本発明に用いられるポリアミドイミド系樹脂は、例えば(i)芳香族ジアミンと無水トリメリット酸モノクロリドを用いる酸クロリド法、(ii)芳香族ジアミンから誘導された芳香族ジイソシアネートとトリメリット酸無水物を反応させるイソシアネート法、(iii)芳香族ジアミンとトリメリット酸無水物を脱水触媒の存在下に高温に加熱して反応させる直接重合法などによって製造することができる。また、例えばアミド結合に対して環状イミド結合の比率を大きくしたもの(特公昭45−38574号公報)や、環状イミド結合に対してアミド結合の比率を大きくしたもの(特開昭61−195127号公報)が開示されている。ゲル化活性度3.0重量%以下の樹脂を得るためには、直線性に優れた樹脂を重合することに有利な、酸クロリド法を用いることが好ましい。なお、これらの方法に用いられる反応自体は周知であり、当業者であれば容易に反応条件を設定できるし、下記実施例にも製造方法が具体的に記載されている。
【0064】
以下、具体例を挙げて説明する。
【0065】
まず、本発明のポリイミド系樹脂水系分散体に用いるポリアミドイミド系樹脂の第一の態様、すなわちa/(a+b+c)=0であるポリアミドイミド系樹脂の製造方法について例を挙げて説明する。例えば、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルおよびm−フェニレンジアミンを含む前記の芳香族ジアミンと、前記の芳香族トリカルボン酸無水物モノクロリドとを、いわゆる酸クロリド法により反応させポリアミック酸を得た後、高速撹拌中の水やアセトンなどの貧溶媒中に注ぐことで、ポリアミック酸を単離し、得られたポリアミック酸を150℃以上250℃以下の温度、30torr未満の圧力で加熱イミド閉環化することで、ポリアミドイミド系樹脂を得ることができる。
【0066】
次に、本発明のポリイミド系樹脂水系分散体に用いるポリアミドイミド系樹脂の第二の態様、すなわち0<a/(a+b+c)≦0.55であるアラミド−ポリアミドイミド系の樹脂の製造方法について例を挙げて説明する。例えば、芳香族トリカルボン酸無水物モノクロリドと、芳香族ジカルボン酸ジクロリドを用いて、前記第一の態様と同様の方法で製造することができる。また、例えば、前記芳香族ジアミンを有機溶媒に溶解させ、先ず、芳香族ジカルボン酸ジクロリドを反応させて、一般式(1)のアラミド構成単位を有するアミノ末端アラミド重合体を製造し、次いで芳香族トリカルボン酸クロリド無水物を反応させることで、一般式(2)または(3)に相当するアミドイミドを共重合させてもよい。
【0067】
また、式(1)のアラミド構成単位の含有量が所望の範囲となる量のテレフタル酸クロリドあるいはイソフタル酸クロリドに対して、100.01〜101モル%に相当するジアミンを先ず有機溶媒中で反応させることで、前記一般式(1)のアラミド構成単位を有する、重合度100相当の高重合度なアミノ末端アラミド重合体を製造し、次いで残りのジアミンを添加した後にトリカルボン酸クロリド無水物を反応させる製造方法がより好ましい。
【0068】
本発明のポリイミド系樹脂水系分散体に用いるポリアミドイミド樹脂を重合する際に使用する有機溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキサイド、クレゾール等の極性溶媒が挙げられるが、N,N−ジメチルアセトアミドやN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。また、直線性に優れた樹脂を得るためには、モノマー濃度5〜40重量%で重合反応を行うことが好ましく、10〜30重量%が更に好ましい。反応温度は60℃以下が好ましく、40℃未満がより好ましい。
【0069】
貧溶媒中にポリアミック酸溶液を滴下する際には、ポリアミック酸溶液の粘度を約10Pa・sに調整しておくことが好ましい。そのためには、重合反応の際のモノマー濃度を通常5〜80重量%、好ましくは5〜40重量%程度に調整しておくことが好ましい。
【0070】
得られるポリアミック酸に、塩化水素等などの反応副生成物が混入している場合、慣用の手段により、反応副生成物を取り除くことができる。例えば、沈殿したポリアミック酸を回収した後、回収した沈殿物を水(例えば、蒸留水)に浸漬し、攪拌することにより、反応副生成物を容易に除去することができる。
【0071】
沈殿したポリアミック酸は、濾過、脱貧溶媒(脱水)等により、単離される。このポリアミック酸は、常法により乾燥し、真空中又は窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、もしくは空気雰囲気下に、150〜370℃の温度で0.1〜100時間加熱することにより閉環し、ポリアミドイミド樹脂に変換される。あるいは無水酢酸などを用いた化学閉環などによってもポリアミドイミド樹脂に変換される。具体的には、空気雰囲気下では、例えば次のとおり行う。ポリアミック酸を熱風乾燥機中、150℃で5時間乾燥後、200℃で2時間、次いで220℃で4時間乾燥することによって、ポリアミドイミド系樹脂を得ることができる。
【0072】
樹脂の残存カルボキシル基を調整するために、加熱イミド閉環における加熱条件を調整してもよい。例えば、150℃で5時間乾燥後に200℃で2時間、次いで240℃で4時間などとすることで、残存カルボキシル基量が0.10〜0.40mmol/gの樹脂を得ることができる。この2段目の加熱イミド閉環プロセスにおいては、特に真空下あるいは不活性ガス下で加熱閉環させることが好ましい。こうすることで、直線性に優れ、ゲル化活性度の小さい樹脂を得ることができる。
【0073】
工業的な製造の面においては、化学閉環法、不活性ガス雰囲気下での加熱が可能であるが、真空乾燥が好ましい。すなわち、150℃以上250℃以下の温度で、30torr未満での真空乾燥によって加熱閉環イミド化することが好ましい。
【0074】
また、DSC(示差走査熱量計、DSC−7/PerkinElmer)を用いてTgやTmなどの熱的特性を測定することができる。樹脂に含まれる前記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される構成単位の含有量比は、樹脂のIRスペクトル、および、プロトンNMRスペクトルなどを用いて求めることができる。プロトンNMRは、樹脂をDMSO−d(ジメチルスルホキシド−d(重水素化率99.95%以上))の溶媒に溶かし、270MHz HNM(JEOL/GX−270/FTスペクトロメータ)などのプロトンNMRを用いて測定することができる。
【0075】
本発明における水系分散体は、(1)前記イミド化率が0%〜30%であるポリアミド酸とポリイミド系樹脂を良溶媒中で均一に混合して溶液を得る工程、(2)当該溶液を貧溶媒中に投入し、生成した微粒子を乾燥して微粉末を得る工程、(3)得られた微粉末を水系溶剤中に分散させる工程を経ることにより得ることができる。なお、これらの各工程を行なう温度は特に限定されず、通常、0℃〜100℃程度であるが、室温下で行なうのが簡便で好ましい。
【0076】
(工程(1)について)
本工程において溶液を得る方法としては、ポリアミド酸とポリイミド系樹脂の溶液を別々に調製したものを混合する方法、いずれかの溶液に固体状のもう一方を投入する方法のいずれであってもよい。ここで、良溶媒としては、ポリアミド酸及びポリイミド系樹脂のいずれに対しても不活性であり、かつこれらを溶解しうるものであれば特に限定されるものではない。例えば、ポリアミド酸やポリイミド系樹脂の合成に使用できる前記非プロトン系極性溶媒やそれらの混合物を挙げることができる。良溶媒中のポリアミド酸の濃度は、特に限定されないが、通常、0.1〜40質量%程度である。
【0077】
(工程(2)について)
貧溶媒についても特に限定されるものではないが、水やメタノール等の低級アルコール、及びそれらの混合物等を挙げることができる。使用する貧溶媒の量は、特に限定されないが、投入する溶液の質量に対して、通常、3〜50倍程度である。工程(1)で得た溶液を貧溶媒中に投入することで生じた析出物をろ過して回収し、必要により乾燥させることで、微粉末を得ることができる。なお、貧溶媒が水の場合又は次の工程(3)で用いる水系溶剤と同じ場合には、乾燥は不要であり、湿潤状態の微粉末をそのまま次の工程(3)に供することができる。
【0078】
(工程(3)について)
本工程で使用する水系溶剤は、本発明にかかるポリイミド系樹脂水系分散体の一部を構成することになり、水の他に水と水溶性溶媒の混合物が挙げられるが、混合物の場合、水の割合は50質量%以上である。水溶性媒体には、エタノールやイソプロピルアルコール等の低級アルコール、エチレングリコールやプロピレングリコール等の低級アルキレングリコールが挙げられる。用いる水系溶剤の量は、特に限定されないが、分散させる微粉末の質量に対して、通常、0.3〜20倍程度である。
【0079】
微粉末を水系溶剤中に分散させる際、アルカリで中和することにより容易に分散させることができる。アルカリとしては、例えばアンモニア水、1級アミン、2級アミン、3級アミン、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられるが、乾燥時に揮発するトリエチルアミンが望ましい。微粉末の水系溶剤中への分散に使用する装置については特に限定されないが、効率よく分散できる点でホモミキサー、ビーズミルが好ましい。
【0080】
上記した方法により、水系溶剤中にポリイミド系樹脂の微粒子が分散したポリイミド系樹脂水系分散体が得られる。得られる分散体中のポリイミド系樹脂の微粒子の平均粒子径は、通常、0.01〜20μm程度であり、この程度の平均粒子径は、良好な分散性を長期間持続する上で好ましい範囲である。
【0081】
本発明の製造方法により得られたポリイミド系樹脂水系分散体の使用方法は、公知のポリイミド系樹脂水系分散体の使用方法と同様である。通常、ポリイミド樹脂膜を形成したい基体上に塗布し、加熱することにより、該基体上にポリイミド樹脂膜を形成する。
【0082】
本発明に用いるポリイミド系樹脂、および本発明のポリイミド系樹脂水系分散体から得られる樹脂膜は、耐熱性を有することが好ましい。ここでいう耐熱性とは、熱重量分析(TGA)を20℃/分の昇温速度で測定した際、1%重量減量開始温度が220℃以上である熱分解特性を有することを示す。
【実施例】
【0083】
本発明を更に詳細に説明するために実施例を以下に挙げるが、本発明はこれらの実施例によって何等制限されるものではない。なお、本実施例に用いたポリイミド系樹脂の特性および表1の特性は、以下の方法で評価した。
【0084】
1.残存カルボキシル基量
(1)試薬
A.DMF(ジメチルホルムアミド):溶媒特級試薬
B.ブロムチモールブルー指示薬(0.3重量%):ブロムチモールブルー0.15gを50mlのメタノールに溶解した。
C.N/50ナトリウムメチラート溶液:金属ナトリウム0.5gを1リットルのメタノールに溶解した。
N/50ナトリウムメチラート溶液の力価を以下の方法により求めた。蒸留水50mlを入れた200ml三角フラスコにN/50ナトリウムメチラート溶液20mlをホールピペットで採取しフェノールフタレインを指示薬として0.1N HCl標準液(市販品)で滴定した。
力価(F)=0.25×f×S
f:0.1N HCl標準液の力価、
S:0.1N HCl標準液の的定値(ml)
【0085】
(2)測定
ポリアミドイミド系樹脂約0.2gを精秤し(この値をwgとする)、特級DMF(ジメチルホルムアミド)20mlで50ml三角フラスコ中に溶解した。次に、ブロムチモールブルー指示薬(0.3重量%)を4滴滴下し、ミクロビューレットよりN/50ナトリウムメチラート溶液で滴定した。指示薬の変色が(黄)→(黄緑)→(エメラルドグリーン)と黄色を全く無くするまで滴定した(この値をSmlとする。)。
【0086】
別途、ポリマーを全く含まない純溶媒についてのブランク滴定値を求めた(この値をBmlとする。)次の式により残存カルボキシル基量を求めた。
残存カルボキシル基量(mmol/g)=(F×(1/50)×(S−B))/ポリアミドイミド系樹脂採取重量(wg)
F:N/50ナトリウムメチラート溶液の力価
S:サンプルの滴定量(ml)
B:ブランク滴定量(ml)(ポリアミドイミド樹脂を溶解させない純溶媒での滴定量)
【0087】
2.イミド化率
ポリアミド酸溶液を4インチシリコンウェハー上に、50℃で30分の風乾後に10±2μmになるようにスピン塗布し、50℃の通風オーブンで30分風乾した。次に赤外測定(IR)スペクトルの測定を行い、1775cm−1および1378cm−1におけるイミド基の吸光度Iを求めた。測定機器はFT−720(堀場製作所製)を用いた。積算は16回、リファレンスはシリコンウェハーとした。
【0088】
続いて、350℃×30分間熱処理してイミド化を進行させた。これを100%イミド化したものとする。このサンプルの赤外スペクトル測定を行い、Iを求めた。
【0089】
イミド化率Ia(%)=I/I×100となる。
【0090】
イミド基に起因するピークについての吸光度の測定は、既に述べたように、求めるピークの両端を結んで補助線を引き、ピークの頂点からIRスペクトルの横軸に垂直に降ろした線との交点を求め、その交点とピークの頂点との長さXを吸光度とした。
【0091】
3.分散性
得られた水系分散体の分散状態を以下の基準で評価した
○ 分散し、1日静置後も安定状態を保っている
△ 分散するが、1日静置後に沈降物が確認される
× 分散しない
【0092】
4.密着性
銅箔に水系分散液を塗布し、200℃に加温したホットプレート上で15分間乾燥させ膜厚ドライで約15μmの薄膜を得た。得られた薄膜にセロテープ(登録商標)を貼り剥離するかどうかを観察した。
○ 剥離しない
△ 銅箔を折り曲げると剥離する
× 剥離する
【0093】
5.接着性
JIS K5600−5−6、第5部塗膜の機械的性質―第6節クロスカット法に準拠して測定した。
【0094】
(1)得られたポリイミド系樹脂水系分散体を、約20μm(0.05mm)厚みの銅箔に、約10mm幅×100mmの長方形の塗膜の大きさとなるように流延コーティングし、105℃で10分間乾燥処理を行った。
(2)次いで、乾燥膜厚が約15μmとなるように、(1)のコーティングと乾燥を繰り返し行った。
(3)次いで、250℃のホットプレート上で10分間加熱してイミド化処理を行い、ポリイミド系樹脂膜を作製した。
(4)ポリイミド系樹脂膜面にセロテープ(登録商標)(セロハンテープNo.29、日東電工株式会社)を幅15mm×長さ50mmで張り付け、180度の方向にセロテープ(登録商標)を引き剥がした。剥がれ箇所、塗膜の剥がれ箇所を目視で観察し、塗膜の剥離状態を評価した。
【0095】
○ 剥離しない(セロテープ(登録商標)上に剥離した微粒子が、目視で確認できない。または剥離した面積が、0.3mm未満(旧大蔵省印刷局製造のきょう雑物測定図表における0.08mmの大きさの剥離が3カ所以内である場合、合計0.24mm剥離したとする。この合計面積が0.3mm未満の場合。)
△ 若干剥離する。(セロテープ(登録商標)上に剥離した微粒子が、目視で確認できる。剥離した面積が0.3mm以上0.8mmm未満(旧大蔵省印刷局製造のきょう雑物測定図表における0.08mmの大きさの剥離が4カ所以上10カ所未満である場合合計0.32〜0.72mm剥離したとする。剥離の面積が合計0.3mm以上0.8mmm未満の場合。)
× 剥離する。(セロテープ(登録商標)上に剥離した微粒子が、目視で確認できる。剥離した面積が0.8mm以上。)
【0096】
6.耐熱性
ポリイミド系水系分散体約5ccをガラスビーカに入れ、熱風乾燥機で200℃で180分間処理し、樹脂膜を得た。得られた樹脂膜について、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 示差熱熱重量同時測定装置”EXSTAR6000 TG/DTA”を用いて、窒素雰囲気下、20℃/分の昇温速度で重量変化を測定した。
【0097】
<合成例1:ポリアミドイミド樹脂の合成>
反応容器(2000mlのガラス4つ口フラスコ)に重合溶媒としてDMAC0.61リットルと、ジアミン成分としてm−フェニレンジアミン0.28モル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル0.42モルを仕込み、溶液を攪拌してこれらのジアミン成分を完全に溶解させた。次いで、重合反応液の温度が30℃を超えない様にトリメリット酸クロライド無水物0.70モルを徐々に添加し、添加終了後、重合液を30℃に温調し1.0時間攪拌し反応させ、重合溶液を得た。得られた重合溶液をIW水1.7リットル中に入れ、濾過分別してポリアミド酸の粉末を得た。得られたポリアミド酸の粉末を、真空度30torrの真空乾燥機中、150℃で5時間、次いで200℃で2時間、次いで240℃で4時間乾燥し、ポリアミドイミド樹脂の粉末を得た。得られたポリアミドイミド樹脂の残存カルボキシル基は0.19mmol/gであった。
【0098】
<合成例2:ポリアミド酸Aの合成>
よく乾燥させた五つ口セパラブルフラスコ中で窒素置換雰囲気下、N−メチルピロリドン480.0gとパラフェニレンジアミン32.2gとをよく攪拌しながら溶解させた。攪拌しながら、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物87.0gを50℃以上にならないように冷却しながら徐々に加えた。全量を仕込んだ後、50〜60℃で3時間熟成し、ポリアミド酸A溶液(固形分20質量%)を得た。得られたポリアミド酸Aのイミド化率は5%以下、酸価は270mgKOH/gであった。
【0099】
<合成例3:ポリアミド酸Bの合成>
よく乾燥させた五つ口セパラブルフラスコ中で窒素置換雰囲気下、N−メチルピロリドン460.0gと4,4‘−ジアミノジフェニルエーテル45.9gとをよく攪拌しながら溶解させた。攪拌しながら、オキシジフタル酸二無水物68.6gを50℃以上にならないように冷却しながら徐々に加えた。全量を仕込んだ後、50〜60℃で3時間熟成し、ポリアミド酸B溶液(固形分20質量%)を得た。得られたポリアミド酸Bのイミド化率は5%以下、酸価は210mgKOH/gであった。
【0100】
実施例1
合成例1で得たポリアミドイミド樹脂と合成例2で得たポリアミド酸A溶液とを、それぞれの固形分の質量比が1:1になるように混合し、さらにN−メチルピロリドンを加えて固形分濃度が5質量%となる溶液を調整した。該溶液200gを2Lのメタノール中に滴下して析出したポリマーをろ過により回収し、乾燥した。得られたポリマー10gを水90gにトリエチルアミン1gを混合した水溶液に投入して攪拌し、水系分散体を得た。評価結果を表1に示す。
【0101】
実施例2〜6、比較例1
ポリアミド酸の使用量、種類を表1に示したものにしたこと以外は実施例1と同様にして水系分散体を得た。評価結果を表1に示す。
【0102】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の方法で分散剤として用いられるポリアミド酸のイミド化率の測定方法を説明するための図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミド化率が0%〜30%であるポリアミド酸を分散剤として用いることを特徴とするポリイミド系樹脂水系分散体の製造方法。
【請求項2】
前記ポリアミド酸の酸価が50〜500mgKOH/gである請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ポリアミド酸を、被分散樹脂である前記ポリイミド系樹脂100質量部に対して20〜200質量部使用する請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記ポリイミド系樹脂がポリアミドイミド系樹脂である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリアミドイミド系樹脂の残存カルボキシル基量が0.05〜0.40mmol/gである請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
(1)前記ポリアミド酸と前記ポリイミド系樹脂を良溶媒中で均一に混合して溶液を得る工程、(2)当該溶液を貧溶媒中に投入し、生成した微粒子を必要により乾燥して、微粉末を得る工程、(3)得られた微粉末を水系溶剤中に分散させる工程を有する請求項1〜5のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−37506(P2010−37506A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204964(P2008−204964)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000221797)東邦化学工業株式会社 (188)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】