説明

ポリウレタンコーティングへの酵素の不可逆的固定化

【解決手段】ポリウレタン及び酵素含有ポリウレタンの中で、ほぼ100%の酵素を不可逆的に固定化する方法を提供する。酵素の存在下で水性ポリウレタンコーティングを合成することにより、酵素は、ポリマーマトリックスへ不可逆的に固定される。固定化された酵素の分布と活性保持は、ポリウレタンの内部で均一である。重合において、低疎水性のポリイソシアネート・プレポリマーを使用することにより、ECCの疎水性が低下すると、ECCの固有活性は著しく増大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2002年7月24日に出願された米国特許出願第10/202,224号に基づく一部継続出願であり、35U.S.C.§119(c)の規定に基づいて、2001年7月24日に出願された仮特許出願第60/307,450号、発明の名称「ポリウレタンコーティング内へのジイソプロピルフルオロフォスファターゼの不可逆的固定化」の利益を主張し、該出願は参照を以てその全体が本願に組み込まれる。
【0002】
<発明の分野>
本発明は、ポリウレタン、特にポリウレタンのコーティング、接着剤及びシーラント内への酵素の不可逆的固定化(irreversible immobilization)に関する。
【背景技術】
【0003】
固定化は、産業的プロセスにおいて、酵素の触媒への適用を可能にし、またその適用を拡大するために広く利用されている。この10年間、種々の酵素によるバイオプラスチックの合成におけるポリマー支持体としてポリウレタンフォームが用いられてきた。ポリウレタンのスポンジ状ポリマーは、親水性のトルエンジイソシアネート(TDI)基又はメチレンビス(p-フェニルイソシアネート)(MDI)基を含むポリイソシアネートプレポリマーと水とから合成される。モノリシックポリウレタンフォームの中に酵素を含めることによってしばしばもたらされる特徴として、固定化の程度が100%近くなること、高活性が維持されることなどがある。ポリウレタンフォームにおける固定化により熱安定性が向上することについても報告されている。
【0004】
コーティング及び薄い膜の中に生体分子(biological molecules)が挿入されると、適用範囲が大きく拡大する。例えば、電位差測定バイオセンサは、電極の検知面に隣接する内側フィルムの上に酵素が共有結合することがあり、その結果、酵素層は外側フィルムで保護される。アンペロメトリックバイオセンサの製作における他の固定化方法として、ゲル層の中に酵素を取り込み、外部保護フィルムによってさらにコートされるものがある。しかし、そのようなシステムの寿命と使用は、酵素が外側メンブレンを通って拡散することによる制限を受け易い。この主な不都合を解消させるには、酵素は、共有結合で直接コーティングの中に固定されなければならない。コーティングの中に生体触媒(biocatalyst)を共有結合させることは、他のバイオプロセス(例えば、生体触媒分離及び濾過、マイクロチップ及び汚れ止め等)に対しても利点をもたらす。
【0005】
高活性酵素をコーティングや膜の中で直接共有結合により固定化させることは、依然としてとらえどころのない目標であり、最も成功したやり方でも最大0.5%の活性を示すに過ぎない。水性ポリウレタンコーティングは、水分散性ポリイソシアネートを有する水性ポリオールの重合によって生じる。フィルムは室温で硬化するので、水は蒸発し、ヒドロキシル基とイソシアネート官能基との間の縮合(condensation)により架橋が生じる。2成分水性ポリウレタンは、溶剤型ポリウレタンコーティングと同様な特性を示すので、産業用としての使用量が増加している。水性ポリウレタンコーティングは、酵素の多点及び共有結合による固定化に対して、理想的なポリマーマトリックスである。
【0006】
上記のとおり、当該分野では、重合が行われる前に、酵素を2成分系の水性相に直接添加できる方法が要請されている。固定化プロセスは、アミンが、プレポリマーに対するヒドロキシル基よりも速い速度にて、酵素表面でイソシアネート官能基と反応する能力に依存する。
【発明の開示】
【0007】
<発明の概要>
本発明は、酵素をポリウレタン材料に不可逆的に固定化する方法を含んでおり、該方法は、1又は複数のポリオールディスパーション共反応物と1又は複数の酵素との混合物を反応させて水性混合物を生成するステップ、ポリウレタン材料を生成可能なディスパーションを生成するのに十分な量の1又は複数の水分散性ポリイソシアネートを水性混合物に加えるステップ、前記ディスパーションを1又は複数の基質(substrates)に加えて酵素含有材料を生成するステップ、及び、前記酵素含有材料を硬化させるステップ、を含んでいる。この方法は、酵素含有ポリウレタンのコーティング、接着剤及びシーラントの生成に特に有用である。
【0008】
また、本発明は、ジイソプロピルフルロフォスファターゼを、ポリウレタン、特にポリウレタンのコーティング、接着剤及びシーラントに不可逆的に固定化する方法を含んでおり、該方法は、ポリオールディスパーション共反応物の混合物を、ディスパーション(好ましくは、約10〜約90重量%の水分、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン界面活性剤、緩衝媒体(好ましくは、ビストリスプロパン緩衝剤及びCaCl2を含む)及びジイソプロピルフルロフォスファターゼ)と反応させて、水性混合物を生成するステップ、水分散性ポリイソシアネート(好ましくは、ヘキサメチレンジイソシアネートをベースとするポリイソシアネート)を前記水性混合物に加えて、ディスパーション又はエマルジョンを生成するステップ、前記ディスパーション又はエマルジョンを基質に施して、酵素含有材料、好ましくはコーティング、接着剤又はシーラントを生成するステップ、及び、酵素含有材料、好ましくはコーティング、接着剤又はシーラントを硬化させるステップを含んでいる。
【0009】
また、本発明は、ポリオールディスパーション共反応物と酵素との混合物を反応させて水性混合物を生成するステップ、ヘキサメチレンジイソシアネートをベースとする水分散性ポリイソシアネートを水性混合物に加えて、反応させて、ディスパーション又はエマルジョンを生成するステップ、前記ディスパーション又はエマルジョンを基質に施して、酵素含有のコーティング、接着剤又はシーラントを生成するステップ、及び、酵素含有のコーティング、接着剤又はシーラントを、周囲環境条件下で約12時間硬化させるステップを有するプロセスによって作られた酵素含有のコーティング、接着剤又はシーラントを含んでいる。
【0010】
本発明のこれら及びその他の利点は、以下の望ましい実施例の詳細な説明により理解されるであろう。
【0011】
<望ましい実施例の詳細な説明>
本発明は、酵素を、水性ポリウレタン材料(例えば、コーティング、接着剤及びシーラント)に固定化することに関する。かかる酵素の一例として、ジイソプロピルフルロフォスファターゼ(DFPase, E.C.3.8.2.1)である。なお、当業者であれば、広範囲に亘る種々の酵素及び抗体が用いられることは認識し得るであろう。ネイティブな(天然の)DFPaseは、毒性有機リン剤の神経剤(例えば、ソマン、ジイソプロピルフルオロフォスフェート(DFP)等)の加水分解を触媒する。従来、DFPaseは、モノリシックポリウレタンフォームに共重合されることにより、活性が67%保持され、熱安定性が向上する。酵素含有コーティング(enzyme-containing coating: ECC)の親水性が変化すると、活性保持及び安定性に影響を及ぼすので、本発明の固定化プロセスは、様々な親水性を有するポリイソシアネートプレポリマーを用いて行われた。酵素が支持体に不可逆的に固定される程度が決められる。コーティング内の酵素の分布は、金標識(gold-labeling)を用いて観察した。酵素ポリマーの活性に及ぼす質量移動の影響は、拡散セル装置を用いて調べた。固定化によるDFPaseの熱安定性の向上についても調べた。
【0012】
水性ポリウレタンのコーティング、接着剤及びシーラントは、ポリオールディスパーション又はポリオールディスパーションの混合物を、水分散性ポリイソシアネート又はポリイソシアネートの混合物と反応させることにより生成されることができる。このようなプロセスに適した公知の方法及び材料として、例えば、米国特許第4,663,377号、第5,075,370号、第5,098,983号、第5,389,718号及び第5,200,489に開示されたものがあり、これらは引用を以て本願への記載加入とする。
【0013】
<材料及び方法>
{材料}
水の中に十分分散され、コーティング、接着剤又はシーラントを生成することのできるポリイソシアネートであれば既知のあらゆるポリイソシアネートを、本発明の実施に用いることができる。特に適したポリイソシアネートは、水分散性脂肪族ポリイソシアネートであり、例えば、BAYHYDURポリイソシアネートであるXP−7063、 XP−7007、 XP−7148及びDesmodur N3400がある。コーティング、接着剤及び/又はシーラントの生成に有用であると知られたあらゆるポリオール又はポリオールディスパーションを、本発明の実施に用いることができる。ポリオールディスパーションは、例えば、BAYHYDROLポリオールXP−7093が特に好ましい。なお、本願明細書において、ディスパーションとエマルジョンという語は、置き換え可能に用いられる。ディスパーションが施される基質は、ポリウレタンが接着可能な任意の材料から構成される。適当な基質として、木(wood)、スチール、ガラス、コンクリート及びプラスチックが挙げられる。熱可塑性ポリオレフィン(TPO)パネルが特に好ましい。蛋白質含有コーティングの合成及び硬化に用いられるポリイソシアネート、ポリオール及びTPOパネルについて、以下により詳しく説明するが、これらはBayer Co. (Pittsburgh, PA)から提供された。BAYHYDURポリイソシアネートXP−7063、 XP−7007、 XP−7148及びDesmodur N3400は、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)をベースとする水分散性脂肪族ポリイソシアネートである。BAYHYDROLポリオールXP−7093は、ポリオールディスパーションである。界面活性剤BYK−345は、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンであり、BYK−Chemie(Wallingford, CT)から入手した。ジイソプロピルフルオロフォスフェート(DFP)、ブラッドフォード試薬(Bradford reagent)、ウシ血清アルブミン(BSA)、ビストリスプロパン、トリス(ヒドロキシルメチル)アミノメタンHCl(Tris-HCl)、CaCl2、NaCl、K2CO3及びイソプロパノールは、Sigma-Aldrich Chemical Co.(St. Louis, MO)から購入した。DFPaseはBioCatalytics, Inc. (Pasadena, CA)から購入した。包理樹脂Polybed 812はエポキシ樹脂であり、Polysciences (Warrington, PA)から入手した。
{方法}
【0014】
[ECCの合成]
ECC'sは、水性混合物(10mMビストリスプロパン緩衝剤、pH7.5、5mM CaCl2)を緩衝剤として用いて調製した。水性の2成分ポリウレタンは、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)BAYHYDUR及びポリオールディスパーション共反応剤BAYHYDROLをベースとする水分散性脂肪族ポリイソシアネートを用いて合成した。ECCの合成が行われる間、イソシアネートとヒドロキシル官能基の比は2であった。一般的には、BAYHYDROL XP−7093(2.5g)(水分70重量%)、界面活性剤BYK−345(0.1g)及び緩衝媒体(1.2g)を円筒形容器の中に注いだ後、酵素DFPase(0.02〜9mg)を追加した。水溶液を1分間機械的に撹拌した(300rpm)。ECCの合成に必要なBAYHYDUR XP−7063、XP−7007、XP−7148の量は、ポリイソシアネートの等モル重量から算出した。XP−7007を用いるとき、ポリイソシアネート(1g)を水溶液に加えた後、二相混合物を、2500rpmの手持ち式ドリルに取り付けられた特注仕様のヘッドを用いて20秒間撹拌した。混合後、水分63%の白色エマルジョンが得られた。このエマルジョン(0.45g)を、予めイソプロパノールで清浄化された熱可塑性ポリオレフィン(TPO)に加えて、周囲環境条件の下で乾燥した。次に、ECCを周囲環境条件下で12時間かけて硬化させ、再び重量測定した(0.24g)。
【0015】
ビストリスプロパンは、ヒドロキシル基及び二次アミンを含んでおり、コーティングの合成中、イソシアネートと反応することができる。反応混合物に加えられた緩衝塩の量は、ポリイソシアネート及びポリオールディスパーションの反応性官能基と比べると無視できる程度である。それゆえ、得られた2成分水性ポリウレタンの特性に影響を及ぼしたとは考えられない。
【0016】
[蛋白質濃度の決定]
蛋白質の濃度は、ブラッドフォード試薬を用いて調べた。色素を室温の蛋白質溶液に加ると、色素−蛋白質の錯体(complex)が15分以内に生成し、吸収極大は596nmであった。蛋白質濃度範囲1〜10mg/mlに対して、減衰係数0.0341ml/mgの較正曲線が得られた。
【0017】
[酵素/金の複合物(conjugates)の合成]
直径25〜30nmの金コロイドを調製し、金コロイドを水性媒体中でDFPaseに結合させた。具体的には、金溶液(100mlの0.01%HAuCl4.2H2O)をガラス製フラスコの中で沸騰するまで加熱した。クエン酸三ナトリウム(0.015%で5ml)を加え、混合物をさらに沸騰させた。オレンジ色/レッド色を持続した時が、コロイドの生成完了である。複合化が行われる間、pHは、K2CO3を用いて、酵素等電点(pI5.8)を僅かに越えるように調節された。pHの測定はリトマス紙を用いて行なった。例えば、30mlのゲルコロイド溶液(金濃度:0.01%)を安定化させるのに、0.12gの酵素が必要であった。DFPaseを加えた後、酵素−金の溶液を緩やかに撹拌し、最終濃度が0.1%(w/v)になるまで、ウシ血清アルブミン(BSA)(10%(w/v))を加えた。酵素でコートされなかったコロイド表面領域は、BSAでブロックされた。得られた溶液を、100,000rpmで1時間遠心分離し、沈殿物中の酵素−金複合物を回収し、緩衝媒体(10mM Tris-HCl,pH7.5)の中で再溶解した。遠心分離により、ある程度の金クラスターが生成した。沈殿物の高密度領域中に存在する最も大きなクラスターは廃棄した。それより小さなクラスターは、金コロイド複合物の中に存在する。さらに、前記のBAYHYDUR XP−7007を用いて、コーティングを調製した。なお、酵素に結合される金コロイドは異なる2種類の濃度(0.001mggold/gcoatingと、0.012mggold/gcoating)を用いた。
【0018】
[コーティング内での金−DFPase複合物の局在化]
透過電子顕微鏡(TEM)用フィルムを埋め込むために、小片を100%エタノール中で数回洗浄した後、1時間毎に包理用樹脂Polybed 812を数回変えて培養した。幾つかの包埋媒体を用いてもよいことは理解されるべきである。用いられる包理媒体の大部分は、エポキシ樹脂及び変性エポキシ樹脂又はメタクリルポリマーである。フィルムは、1mm×2mmの小片にカットし、包理用鋳型の中に入れ、Polybed 812の中に埋め込んだ。ブロックは、37℃の温度で一晩中硬化させ、次に65℃で2日間硬化させた。フィルムの極薄切片(60mm)は、Reichart Ultracut E ミクロトームにて得た。切片は、JEOL JEM 1210又は100CXの透過電子顕微鏡にて80KVで観察した。
【0019】
[フッ化物イオン電極使用によるECC's の活性]
ECCの評価は、剥離されたDFPaseフィルム(重量0.009〜0.012g)の小片を用いて行なった。代表例として、小片を、10mlの3mM DFP緩衝溶液(5mM CaCl2及び10mM pH7.5)の中に入れ、磁気撹拌により撹拌した。DFPaseはDFP(下記参照)を結合及び加水分解することによって作用し、活性は、フッ化物イオン電極による室温での以下のフッ化物放出によって測定した。フッ化物のバルク溶液濃度は、20秒毎に5分間測定した。
【0020】
コーティング中の酵素濃度は、0〜2mg/gcoatingの範囲で変動した。酵素が高濃度のときのECC'sは、初期速度に対してあまりに活性でありすぎて測定することができなかった。
【化1】

【0021】
[フッ化物イオン使用による運動定数(kinetic contstants)の測定]
前述したフッ化物センサーを用いて運動定数を測定した。基質の濃度は、0〜20mMの範囲であった。データは、非線形回帰(Sigma Plot Version 2)を用いてミハエリス−メンテンの式に当てはめられた。
【0022】
[拡散セル(diffusion cell)の実験]
拡散装置は、ドナーのコンパートメントと、レセプターのコンパートメントとを具えており、各コンパートメントに水ジャケットが配備されている。拡散システムは、容積3ml及び拡散断面積(ID=9mm)のコンパートメントを有する2つのチャンバーが水平方向に並べて構成される。ECCは2つのコンパートメントの間に装填され、実験は室温(22℃)で行なった。
【0023】
[基質の有効拡散係数Deffの測定]
基質の有効拡散係数Deff(m2/分)を当該分野で知られた手順に基づいて評価した。タチナタマメ(Jack beans)のウレアーゼタイプIII(EC.3.5.1.5)(Sigma製(St. Louis, MO)は、DFPaseの存在を模擬するために、コーティングに固定化された(3.6mg/gcoating)。まず最初に、体積3mlの緩衝媒体(5mM CaCl2、10mMビストリスプロパン、pH7.5)にDFP(4mM)を補填し、これをドナーセルに入れる、一方、レセプターセルには緩衝媒体(3ml)が充填される。各セルは、磁気撹拌によって撹拌した。所定時間(5〜300分)経過した後、内容物を取り除いて、緩衝媒体(5mM CaCl2、10mMビストリスプロパン、pH7.5)で4回希釈した。次に、各試料のDFPの濃度を、可溶性DFPaseによる活性評価により求めた。Deffは、準定常状態で算出した(式1)。
【0024】
【数1】

【0025】
[DFP]Dは、ドナーセルにおけるDFPの濃度(mol/m3)である。[DFP]Rは、レセプターセルにおけるDFPの濃度(mol/m3)である。Vcell (3.10-63)はセルの容積である。A(6.36.10-52)は拡散断面積である。ポリウレタンフィルムの膨張(swelling)が主に肉厚方向に起こると仮定し、濡れECCの厚さδ’を次のとおり求めた。
【0026】
【数2】

【0027】
乾燥状態のコーティング厚さδ(10μm)を、走査型電子顕微鏡を用いて求めた。ε(0.7)は、濡れコーティング中に液相が占める全容積の割合である。
【0028】
[活性の測定]
セルには、緩衝材(5mM CaCl2、10mMビストリスプロパン、pH7.5)が充填された。ドナーセルには最初にDFP(4mM)が補填された。レセプターセルのDFPの初期濃度は、0又は4mMのどちらかである。実験は、一定のDFPase-ECC濃度(3.6mg/gcoating)を用いて行ない、基質の完全な分解は合理的な時間範囲内で起こった。各セルは磁気撹拌により十分な混合を行なった。所定時間(5〜120分)経過後、内容物を取り出して、緩衝媒体(5mM CaCl2、10mMビストリスプロパン、pH7.5)で4回希釈した。次に、各試料のDFPの濃度を、可溶性DFPaseによる活性アッセイにより求めた。
【0029】
図1は、レセプターセルがt=0秒でDFPを含んでいないとき、DFPase含有コーティングにおける拡散及び酵素反応が同時に行われたときのDFP濃度プロファイルの概略図である。1sは停滞溶液層、δはコーティング厚さである。CDFP,D,tはドナーセルの時間tにおけるバルクDFP濃度であり、CDFP,R,tはレセプターセルの時間tにおけるバルクDFP濃度である。CDFP,0,tはコーティングの表面での液相のDFP濃度であり、CDFP,δ,tはコーティングのある時間における液相のDFP濃度である。境界層の拡散抵抗及びECC膨張を無視すると、DFPase-ECCが非定常状態でのDFPの濃度プロファイルは式3によって与えられる。
【0030】
【数3】

【0031】
[DFP]lc(mol/m3)は、コーティングの液相のDFP濃度であり、kcatint(s-1) 及びKM(mol/m3)は、ECCに固有の運動定数である。
初期条件は次の通りである。
【0032】
【数4】

【0033】
【数5】

【0034】
ECCとドナーセルとの界面では、次の関係がある。
【数6】

【0035】
[DFP]0は、液相のECC表面(X=0)におけるDFP濃度を表している。Vsurface(mol/m3.s)は、コーティング表面(X=0)でのDFPの加水分解速度を表し(式7)、VRelease (mol/(m3.s)は、ECC合成中に共有結合で固定化されておらず、ドナーセルの中に放出された酵素によって触媒された反応速度を表している(式8)
【0036】
【数7】

【0037】
なお、[DFPase]Surface (mol/m3)は、コーティング表面におけるドナーセルの単位容積当たりの酵素のモル数である。
【0038】
【数8】

【0039】
なお、[DFPase]Release (mol/m3)は、ドナーセルの容積に関して算出され、kcat,native及びKM,nativeは表1に示されている(実験1a*)。
【0040】
実験によりドナーセルとレセプターセルのDFP濃度プロファイルが得られると、式2は、Athena Visual Version 7.1.1により式3〜式7を用いて解が求められる。次に、ECC、KM,int及びkcatk,intの固有運動定数が算出される。
【0041】
[Desmodur N3400ポリイソシアネートによる酵素の変性]
HDIの二量体及び三量体からなるDesmodur N3400 (1g)に、DFPase含有溶液(1ml)(50mM MOPS、5mM CaCl2、pH7.5)を加えた。二相混合物を室温で撹拌した。変性された酵素の活性は、前述のフッ化物センサーによって求めた。
【0042】
DFPaseの変性度は直接求めることができないので、模擬的手段として、単一リジンを含有する低分子量ペプチド(1182.4 Da)であるブラジキニンポテンシエーターBを用いて、Desmodur N3400と酵素リジン残基の反応を調べた。MALDI−TOFを使用し、様々な反応時間(15分〜17時間)におけるリジンの変性度を調べた。
【0043】
MALDI−MS分析は、Perseptive Biosystems社のVoyager elite MALDI−TOFを用いて行なった。加速電圧は線形モードで20kVに設定した。PEG化酵素溶液(1〜2mg/ml)を等量のマトリックス溶液(水0.5ml、アセトニトリル0.5ml、TFA2μl及びα−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸)と混合し、2μlの最終溶液をプレートターゲットにスポットした。溶媒混合物の蒸発後、スペクトルを記録し、FMRP及びACTHで外部補正をした。
【0044】
Desmodur N3400で変性されたDFPaseは、前述のポリウレタンコーティングの中へさらに固定化させた。
【0045】
[ECCの熱安定性]
ネイティブで固定化されたDFPaseを、65℃で培養された緩衝剤(10mM BTP、5mM CaCl2、pH7.5)に加えて、室温の前記緩衝媒体(10mM BTP、5mM CaCl2 、pH7.5)中でアッセイを行なった。
【0046】
室温でのECC'sの熱安定性を調べた。周囲環境条件下で所定時間保存した後、ECCの試料について、前記緩衝媒体(10mM BTP、5mM CaCl2 、pH7.5)中で室温活性を調べた。
【0047】
<結果及び検討>
[ECC'sに固定されたDFPaseの可逆性]
DFPaseのポリマー固定化の不可逆性の程度を、ブラッドフォード試薬を用いて調べた。DFPase含有ポリウレタンコーティングをパネルから剥がして、小片にカットし、蒸留水で十分洗浄した。洗浄物の中で検出されたECC固定蛋白質は4%(w/w)未満であり、これは固定化率が100%に近いことを示している。
【0048】
[ECC'sにおける酵素の分配]
酵素がフィルム内に取り込まれるとき、重要な問題は、酵素がフィルム内で均等に分配されているかどうかである。従来のモノリシックポリウレタンフォームに固定化された酵素を局在化するために、金標識を用いた。それゆえ、本発明では、金コロイド粒子に結合させることにより、DFPaseをECC'sに局在化させた。
【0049】
図2は、ポリウレタンコーティングにおける酵素分布を示している。金/DFPaseを含有するコーティングは、暗視野(A;0.0007mggold/gcoating)と光学顕微鏡で得られた逆像(ネガティブ像)(B;0.0116mggold/gcoating)を用いて分析した。ここでネガティブ像が用いられるのは、コーティングが厚く、金粒子が高濃度であるため、焦点像を得るのが困難であるからである。コーティングの断面は、透過電子顕微鏡を用いて得た(C及びD)。ヘッドが塗りつぶされた矢印は、金/酵素粒子の幾つかを示している。白抜きの矢印は、金/酵素結合クラスターの幾つかを示している。矢印ヘッドは、包理樹脂内部のコーティング試料の先端を示している。星印は、焦点の合っていない幾つかの領域を示しているが、これは、金粒子の濃度が高く、表面が不均一であることによる。コーティング中の泡は、文字hで示されている。Bに示されるサイズバーは、パネルAとBを表している。CとDに示されるサイズバーは、これらパネルにおける寸法を示している。
【0050】
図2Aは、暗視野顕微鏡検査によって得られた金/DFPase複合物含有コーティング(0.001mggold/gcoating) の顕微鏡写真である。図2Bは、逆像光学顕微鏡検査によって得られた金/DFPase複合物含有コーティング(0.012mggold/gcoating) の顕微鏡写真である。固定化された金コロイド/酵素複合物の濃度は12倍増加しているので、固定化された金/酵素複合物はコーティング内で均一に分散していることは明らかである。金/酵素含有コーティング(0.012mggold/gcoating)の断面のTEMは、図2Cに示されている(2500倍拡大)及び図2D(10000倍拡大)に示されている。光学顕微鏡の場合と同様、TEMもまた、金/酵素粒子及びクラスターが微小規模レベルではランダムに分配されていることを示している。これは、金/DFPase複合物含有コーティングの合成により、ポリマーマトリックス中で金/DFPase複合物は一様に固定化されることを意味するものである。外挿(extrapolation)により、フィルム中のDFPaseの局部濃度は位置依存性ではないと考えることができる。
【0051】
[ECC'sの活性]
ECC'sの調製は、ポリイソシアネートプレポリマーであるXP−7007、XP−7148及びXP−7063を用いて行なった。図3は、初期DFPaseローディングの関数として、各ECCの活性を示している。活性は、酵素濃度に正比例しており、これは、質量移動に実質的制限がないことを意味する。図2は、フィルムが無孔(non-porous)であることを示しているので、この結果より、フィルムの薄い外部層の酵素だけが基質にアクセス可能であることを意味する(これについては後で詳しく説明する)。
【0052】
ポリイソシアネートの親水性は、XP−7148>XP−7063>XP−7007の順序で低下する。ここで、ECC'sの見かけの活性保持は、ポリイソシアネートの親水性が低下するほど増大することは興味深いことである(図3参照)。脱水した有機溶媒における酵素活性を検討すると、酵素は疎水環境をより好むことがわかった。親水性の低いポリイソシアネートがすぐれたECC材料であることは、偶然の一致でないことかもしれない。図3は合成されたコーティングを示しており、pH7.5の緩衝溶液(10mMビストリスプロパン、5mM CaCl2)の中で、ポリオールXP−7093及びポリイソシアネートXP−7007(塗りつぶした菱形)、XP−7063(塗りつぶした円)並びにXP−7148(塗りつぶした正方形)で合成されたものである。塗りつぶした三角形は、Desmodur N3400で変性されたDFPase、ポリオールXP−7093及びポリイソシアネートXP−7007を出発物質として合成したコーティングの見かけ活性に対応している。バイオプラスチックの活性は、3mM DFP濃度でのものである。
【0053】
ポリイソシアネートXP−7007を用いて作られたECC'sが、最も高レベルの見かけ活性保持を有していた。それゆえ、その後の環境は、XP−7007を含有するECC'sで実施した。充填された酵素の全部が利用可能である(表1、実験1b*)と仮定して算出した見かけの運動特性により、内因性保持ではなく観察可能な活性保持(11%)がもたらされた。
【0054】
[ECCにおけるDFPの有効拡散率Deff
ECC'sの活性保持を理解するために、フィルム内の基質の拡散率を調べた。式1を使用して求めたDeffは、(5+/−1) ×10-102/分である。図4を参照すると、コーティングの合成は、ポリオールXP−7093とポリイソシアネートXP−7007を用いて行われ、実験は、セル拡散装置により、pH7.5の緩衝媒体(10mMビストリスプロパン、5mM CaCl2)の中で実施した。気体から液体又は有機溶質からヒドロゲルへの拡散係数と比べて、Deffは約2〜3オーダー低くなっている。同様に、従来のものは、2成分水性ポリウレタンコーティングは塩化イオンの拡散に対する抵抗性が大きいことが観察された。コーティングの中に存在する酵素の基質へのアクセス可能性(accessibility)は、低コーティング透過性(low coating permeability)によって明らかに制限される。ここでもまた、ECC'sの活性保持を調べるには、DFPのコーティングへの透過度が考慮されるべきであることを示している。
【0055】
図5は、DFPase-ECC(3.6mggold/gcoating)を使用し、時間経過後におけるドナーセルとレセプターセルのDFP濃度プロファイルを示しており、初期濃度は両セルとも4mM DFPである。実験は、ドナーセルとレセプターセルの両セルの初期DFP濃度を4mMとし、pH7.5の緩衝媒体(10mMビストリスプロパン、5mM CaCl2)の中で実施した。ドナーセルとレセプターセルについて、時間経過後のDFP濃度を調べた。ドナーセルは、塗りつぶした菱形で示し、レセプターセルは塗りつぶした円で示す。ドナーセルとレセプターセルの理論的DFPプロファイルは、その対称性により同一である。ドナーセルとレセプターセルの実験濃度曲線は、式2〜式7とAthena Visual 7.1.1を用いて、同じようにシミュレートされたプロファイル(破線)によって描かれている。ドナーセルとレセプターセルのDFP濃度減少に対するプロファイルは、同様な傾向を示している。固定化されたDFPaseがコーティング内で一様に分配されている(図2に示される)と仮定すると、酵素の活性保持はコーティングの両面で殆ど同じである。硬化中、ECCの上表面はTPOパネルと接触し、下表面は空気に曝露されている。ECC'sの外部表面の活性保持には殆ど差はないから、空気界面と、ポリマー/疎水性環境はECCの活性保持に影響を及ぼさない。
【0056】
レセプターセルの中にDFPの無いDFPase-ECC(3.6mggold/gcoating)に対しても、ドナーセルとレセプターセルのDFP濃度プロファイルを測定した(図6参照)。コーティングの合成は、ポリオールXP−7093及びポリイソシアネートXP−7007を使用し、DFPaseを3.6mg/gcoating充填して行なった。実験は、pH7.5の緩衝媒体(10mMビストリスプロパン、5mM CaCl2)の中で実施した。開始時、ドナーセルのDFPは4mMであり、レセプターセルのDFPはゼロである。図6aは、時間経過後のドナーセル(塗りつぶした菱形)とレセプターセル(塗りつぶした円)のDFP濃度を示している。ドナーセル(破線)とレセプターセル(点線)のシミュレートされたDFP濃度プロファイルは、式2〜式7とAthena Visual 7.1.1を用いて求められた。図6bは、ECC'sの基質濃度プロファイルを示しており、0(中破線)、30(実線)、60(小破線)、90(一点鎖線)、120(点線)、180(二点鎖線)、280(長破線)で計算されたものである。式3は、実験結果(図6a)と良く一致している。固定化されたDFPase、KM,int(表1、実験2b**)の固有ミハエリス定数の推定値は、拡散装置なしで得られたもの(表1、実験1b*)と同様である。基質拡散に対するコーティングの抵抗性を考慮すると、kcat,int(表1、実験2b**)は、拡散装置なしで測定した見かけのkcat,app(表1、実験1b*)よりも2.4倍高かったことは興味深いことである。異なる実験時間でシミュレートされたコーティング内の基質プロファイルによって示されるように(図6b)、実験の時間経過により、基質はコーティングの3分の1進入している。見かけの運動パラメータを推定すると、コーティング表面の固定化酵素の層におけるDFPの分解だけを意味することは明らかである。それゆえ、DFPase-ECC'sの見かけ酵素効率は、固定化されたDFPaseのこの外層の活性保持に基づいている。DFPase-ECCの固有運動定数が与えられると、この層内の固有活性保持は38%である。見かけ値の固有kcatに対する比Rは、R=kcat,app/kcat,int=0.4であり、拡散装置なしで活性測定を行なう間、基質がECC'sの中で到達可能な固定化DFPaseの割合を表す。
【0057】
[Desmodur N3400ポリイソシアネートで変性されたECC's]
BradykininポテンシエータBを含有する水溶液をDesmodur N3400ポリイソシアネートと激しく混合すると、ペプチドリジン残基は、HDIの二量体と化学的変性を起こし、これはMALDI−TOFを用いて観察される。15分の反応時間で到達する反応収率は70〜90%の間で変動するが、ペプチド溶液をDesmodur N3400ポリイソシアネート相とさらに混合しても収率は向上しなかった。
【0058】
ポリイソシアネートDesmodur N3400は、コーティングの硬化時にバルク(bulk)から重合体/空気の界面へ移動することが知られているHDIのウレトジオン(uretdione)を主体としている。DFPaseをコーティングへ固定する前にDesmodur N3400で変性することにより、固定化酵素は、コーティング表面の外層内に主として集中する。その結果、固定化されたDFPaseは、基質へのアクセス性が良好となり、見かけの活性保持力が向上する。HDIの二量体のイソシアネートと、ポテンシエータのブラジキニン(Bradykinin)Bのリジン残基との良好な反応が迅速に行われ、DFPaseを、Desmodur N3400と15分間反応させた。酵素活性の低下は観察されなかった。図3及び表1(実験1b#*)に示されるように、DFPaseをDesmodur N3400で前処理することにより、ECCの見かけの効率は64%向上した。
【0059】
[ECC'sの熱安定性]
前述したように、活性測定中、全ての固定化酵素が基質によって認識されるわけではない。アクセス不可能な酵素は、速度測定の妨げとならないから、拡散抵抗を特に考慮することなく、フィルムの熱安定性を求めることができる。
【0060】
ネイティブなDFPaseとは異なり、固定化されたDFPaseは、65℃で二相性の熱不活性プロファイルを有する(図7参照)。固定DFPase(塗りつぶされた四角)及び天然DFPase(塗りつぶされた菱形)の非活性化は、緩衝溶液(10mM BTP、5mM CaCl2、pH7.5)の中で行なった。残存酵素活性は、基質にDFP(3mM)を用いた緩衝媒体(10mM BTP、5mM CaCl2、pH7.5)の中で、室温での時間経過による変化を測定した。二相間挙動を4パラメータモデルで表し、運動定数α1(0.34±0.03)、α2(0.10±0.01)、k1(1.3±0.1)及びk2(0.042±0.003)を、Marquardt-Levenberg(マルカート・レーベンベルグ)のアルゴリズム(SigmaPlot Version 2.0)を用いて求めた。酵素を不活性化する際、適当な時間範囲内で実験を行なうために65℃の高温を利用した。この範囲の培養時間では、2成分のポリウレタンコーティングは、水相中にさほど溶解しない。最初は、ECCは、天然酵素と同様な不活性傾向を示した。しかしながら、初期段階で急速な不活性化が起こると、固定化酵素が安定で且つ活性な状態となり、残存活性は6〜7%である。350分以上経過しても、DFPase−ECCの非常に安定した状態の活性に顕著な変化は観察されなかった。ECCの二相性非活性化動力学は、次のスキームを仮定し、4パラメータ・モデルによってモデル化した。
【0061】
【数9】

ここで、Eは酵素の初期状態、E1は酵素の中間状態、E2は酵素の最終状態である。α1はE1の残存活性、α2はE2の残存活性である。また、k1及びk2は、一次非活性化率を表す。酵素活性αの解析解は、式10によって与えられる。
【0062】
【数10】

ここで、tは、非活性化時間を表す。式10にデータをフィットさせたものを図7に示している。
【0063】
異なる非活性化経路を有するECC'sの中に異なる2種類の形態のDFPaseが存在すると仮定し、4つの物理的パラメータだけを必要とする別の動力学モデルでは、実験データを適切に記載することができなかった。また、少なくとも5以上のパラメータを含むようなさらに複雑な機構については考慮しなかった。
【0064】
また、ポリウレタンフォームの中のDFPaseの固定化とペグ化は、一次不活性化動力学から二相性不活性化動力学への移行を引き起こした。構造的変化によって生じるDFPase−ECCの熱不活性化は、DFPase含有ポリウレタンフォームのモノリシスの熱不活性化について前述したものと同様に変化すると考えられる。
【0065】
DFPase−ECCは、65℃以上の室温でさらに高い安定性を示す。実際、DFPase−ECC'sは、室温で100日間保存後の活性損失は40%にすぎない(図8参照)。残りの酵素活性については、FPを基質として使用し、緩衝媒体(10mM BTP、5mM CaCl2、pH7.5)の中で時間経過による活性を測定した。安定性の高いECC'sが周囲条件下で乾燥状態が維持されると、得られる触媒は、有効な汚染防止剤として様々な用途に適用することができる。
【0066】
それゆえ、本発明は、単一ステップの蛋白質−重合体の合成において、ポリオールとポリイソシアネートを使用して水性ポリウレタンコーティングの中にDFPaseを共有結合させるものである。固定化プロセスにおいて、ポリイソシアネートXP-7007と、Desmodur N3400で修飾された酵素を使用することにより、最大の固有触媒効率(活性保持率18〜38%)がもたらされる。高温では、DFPase−ECC'sの活性の93%は急速に損なわれるが、その後は超安定(hyper-stable)になる。
【0067】
本発明を、望ましい実施例を参照して説明したが、当該分野の専門家であれば、実施例について多くの変更及び変形をなし得るであろう。前記の説明及び請求の範囲は、それらの変更及び変形を包含するものと解されるべきである。
【0068】
表1は、DFPase含有コーティングと可溶性DFPaseの運動パラメータを示している。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】DFPase含有ポリウレタンコーティングの中で拡散と酵素反応が同時に起こる場合のDFP濃度プロフィールの模式図である。
【図2】ポリウレタンコーティング内での酵素分布を示す図である。
【図3】DFPase含有コーティングに対するDFPase濃度の影響を示すグラフである。
【図4】コーティングにおけるDFPの有効拡散を示すグラフである。
【図5】ポリオールXP-7096とポリイソシアネートXP-7007を用いて合成し、3.6mg/gcoatingのDFPaseをローディングしたコーティングについて、拡散細胞内のDFP消費プロファイルを示すグラフである。
【図6a】拡散セルにおけるDFPの消費プロフィールを示すグラフである。
【図6b】拡散セルにおけるDFPの消費プロフィールを示すグラフである。
【図7】DFPase含有コーティングの65℃での熱活性化を示すグラフである。
【図8】DFPase含有コーティングの室温での熱不活性化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン材料の中に酵素を不可逆的に固定化する方法であって、
(a) (i)ポリオールディスパーション共反応剤と(ii)酵素との混合物を反応させて水性混合物を作るステップ、
(b) ポリウレタンを生成可能なディスパーションを作るのに十分な量の(iii)水分散性ポリイソシアネートを、前記水性混合物に加えるステップ、
(c) ポリイソシアネートを水性混合物の中に分散させて、ポリウレタン材料を生成可能なディスパーションを作るステップ、
(d) ポリウレタンを生成可能なディスパーションを基質に施すステップ、及び
(e) 酵素含有ディスパーションを硬化させるステップ、
を含んでいる方法。
【請求項2】
酵素含有ディスパーションが硬化して、コーティング、接着剤又はシーラントを生成する請求項1の方法。
【請求項3】
酵素含有ディスパーションが硬化して、コーティングを生成する請求項1の方法。
【請求項4】
水分散性ポリイソシアネートは脂肪族ポリイソシアネートである請求項1の方法。
【請求項5】
水分散性ポリイソシアネートはヘキサメチレンジイソシアネートをベースとする請求項1の方法。
【請求項6】
基質は、木、スチール、ガラス、コンクリート又はプラスチックである請求項1の方法。
【請求項7】
基質はポリマーである請求項1の方法。
【請求項8】
ポリオールディスパーション(i)は、2以上のポリオールを含んでいる請求項1の方法。
【請求項9】
水分散性ポリイソシアネートとして、2以上のポリイソシアネートが用いられる請求項1の方法。
【請求項10】
ポリウレタンを生成可能なディスパーションは、ステップ(d)の後、第2の基質と接触させられる請求項1の方法。
【請求項11】
ポリオールディスパーションは、ステップ(b)で加えられるポリイソシアネートの量の約2倍を越える量で存在する請求項1の方法。
【請求項12】
ステップ(a)で用いられるポリオールディスパーションは、含水量約70重量%である請求項1の方法。
【請求項13】
ステップ(a)では、ポリエチレン変性ポリジメチルシロキサン界面活性剤が存在する請求項1の方法。
【請求項14】
ステップ(a)で反応が行われる混合物は、ビストリスプロパン緩衝剤とCaCl2を含んでいる請求項1の方法。
【請求項15】
ステップ(c)で反応が行われる混合物は、ポリオールディスパーション共反応剤を、脂肪族ポリイソシアネートよりも約2.5倍多く含んでいる請求項1の方法。
【請求項16】
ステップ(a)で反応が行われる混合物には、約0.02〜9mgのジイソプロピルフルロホスファターゼが含まれている請求項1の方法。
【請求項17】
ステップ(a)の前に、酵素は、ヘキサメチレンジイソシアネートをベースとする低粘度脂肪族ポリイソシアネート樹脂と反応が行われる請求項1の方法。
【請求項18】
ポリウレタンの中にジイソプロピルフルロホスファターゼを不可逆的に固定化する方法であって、
(a) (i)含水量約70重量%のポリオールディスパーション共反応剤、(ii)ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン界面活性剤、(iii)ビストリスプロパン緩衝剤液及びCaCl2を含む緩衝媒体、及び(iv)ジイソプロピルフルロホスファターゼ、との混合物を反応させて水性混合物を作るステップ、
(b) ポリウレタンを生成可能なディスパーションを作るのに十分な量のポリイソシアネートを、前記水性混合物に加えるステップ、
(c) 前記ディスパーションを基質に施すステップ、
(d) 酵素含有ディスパーションを硬化させるステップ、
を含んでいる方法。
【請求項19】
ポリオールディスパーションは、ステップ(c)の脂肪族ポリイソシアネートの量の約2倍を越える量で存在する請求項18の方法。
【請求項20】
ジイソプロピルフルロホスファターゼは、ステップ(a)の前に、ヘキサメチレンジイソシアネートをベースとする低粘度脂肪族ポリイソシアネート樹脂と反応が行われる請求項18の方法。
【請求項21】
酵素含有ポリウレタンであって、
(a) (i)ポリオールディスパーション共反応剤と(ii)酵素との混合物を反応させて水性混合物を作るステップ、
(b) ヘキサメチレンジイソシアネートをベースとする水分散性ポリイソシアネートを、前記水性混合物に加えるステップ、
(c) ポリイソシアネートと水性混合物からディスパーションを生成するステップ、
(d) 前記ディスパーションを基質に施して、酵素含有ポリウレタンを生成するステップ、及び
(e) 酵素含有ポリウレタンを硬化させるステップ、
を含むプロセスによって作られた酵素含有ポリウレタン。
【請求項22】
ポリオールディスパーションの量は、ステップ(b)で加えられるポリイソシアネートの量よりも約2倍多い請求項21の酵素含有ポリウレタン。
【請求項23】
ステップ(a)で用いられるポリオールディスパーションは、含水量約70重量%である請求項22の酵素含有ポリウレタン。
【請求項24】
ステップ(a)で、ポリエチレン変性ポリジメチルシロキサン界面活性剤が存在する請求項23の酵素含有ポリウレタン。
【請求項25】
ステップ(a)で、ビストリスプロパン緩衝剤とCaCl2が存在する請求項24の酵素含有ポリウレタン。
【請求項26】
ステップ(c)で存在するポリオールディスパーション共反応剤の量は、ステップ(c)で存在するポリイソシアネートの量の約2.5倍である請求項25の酵素含有ポリウレタン。
【請求項27】
約0.02〜9mgのジイソプロピルフルロホスファターゼが、ステップ(a)で用いられる請求項26の酵素含有ポリウレタン。
【請求項28】
活性保持は10%〜100%である請求項21の酵素含有ポリウレタン。
【請求項29】
ジイソプロピルフルロホスファターゼの固定化の程度は約100%である請求項21の酵素含有ポリウレタン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−500059(P2008−500059A)
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527198(P2007−527198)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【国際出願番号】PCT/US2005/005573
【国際公開番号】WO2005/118801
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(504029352)ユニバーシティ オブ ピッツバーグ (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF PITTSBURGH
【出願人】(503328285)バイエル マテリアルサイエンス エルエルシー (5)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience LLC
【住所又は居所原語表記】100 Bayer Road, Pittsburgh, PA 15205, USA
【Fターム(参考)】