説明

ポリウレタン発泡体及びその製造方法

【課題】塩化メチレン等のPRTR対象物質や、添加量を多くしなければ効果が低いポリエチレンパウダーを添加することなく、ポリウレタン発泡体の製造時の発熱を効果的に抑えることができるポリウレタン発泡体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリオール成分とイソシアネート成分を混合撹拌して発泡させることにより得られるポリウレタン発泡体において、前記ポリオール成分中の発泡剤として水を用い、前記ポリオール成分及び前記イソシアネート成分の少なくとも一方に含水熱可塑性合成樹脂粒子を添加し、発泡後の前記ポリウレタン発泡体中に、前記含水熱可塑性合成樹脂粒子から水が蒸発して形成された連通気孔の熱可塑性合成樹脂多孔質粒子が存在する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン発泡体及びその製造方法に関し、特には発泡剤として水を使用する場合に、発泡時の発熱を抑えることのできるポリウレタン発泡体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン発泡体の製造は、ポリオール成分とイソシアネート成分を混合撹拌して発泡させることにより行われる。前記ポリオール成分には少なくともポリオールと発泡剤が含まれ、また、前記イソシアネート成分はポリイソシアネートで構成され、前記混合撹拌によるポリオールとポリイソシアネートの反応によって発泡し、発泡体を形成する。
【0003】
通常、ポリウレタン発泡体は、製造時の発熱温度が高く、特に前記発泡剤として水を用いる場合には、発熱温度が170℃以上になって自己発火する可能性がある。また、前記高い発熱温度によって発泡体内が焼けて黄色になる現象(スコーチ)が発生し易く、その場合、ポリウレタン発泡体の用途、例えば衣料用の場合などによっては製品価値が損なわれることがある。
【0004】
従来、ポリウレタン発泡体の製造時における発熱温度を抑える方法として、ポリウレタン発泡体の原料に塩化メチレンや炭酸ガスを添加することが提案されている。また、ポリエチレンパウダーを添加することも提案されている。
【0005】
しかし、塩化メチレンを添加する方法は、塩化メチレン自体がPRTR(環境汚染物質排出移動登録)対象物質であり、今後削減が必要なため、好ましい方法とは言い難い。また炭酸ガスを添加する方法は、炭酸ガスを使用するために専用の発泡設備が必要となり、コストが嵩む問題がある。それに対し、ポリエチレンパウダーを添加する方法は、ポリエチレンパウダーの吸熱量が198J/g程度であってそれほど多くないため、ポリウレタン発泡体の製造時の発熱を発火の生じにくい安全範囲に抑えようとすると、ポリエチレンパウダーの添加量を多くしなければならず、その場合にはポリウレタン発泡体の物理特性に悪影響を与えたり、発泡自体が不可能になることがある。
【特許文献1】特開平6−199973号公報(第2頁及び第3頁)
【特許文献2】特表2002−53296号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記の点に鑑みなされたもので、塩化メチレン等のPRTR対象物質や、添加量を多くしなければ効果が低いポリエチレンパウダーを添加することなく、ポリウレタン発泡体の製造時の発熱を効果的に抑えることができるポリウレタン発泡体及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、ポリオール成分とイソシアネート成分を混合撹拌して発泡させることにより得られたポリウレタン発泡体において、前記ポリオール成分中の発泡剤として水を用い、前記ポリオール成分及び前記イソシアネート成分の少なくとも一方に含水熱可塑性合成樹脂粒子を添加し、発泡後の前記ポリウレタン発泡体中には、前記含水熱可塑性合成樹脂粒子から水が蒸発して形成された連通気孔の熱可塑性合成樹脂多孔質粒子が存在することを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、ポリオール成分とイソシアネート成分を混合撹拌して発泡させるポリウレタン発泡体の製造方法において、前記ポリオール成分中の発泡剤として水を用い、前記ポリオール成分及び前記イソシアネート成分の少なくとも一方に含水熱可塑性合成樹脂粒子を添加したことを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2において、前記含水熱可塑性合成樹脂粒子が、平均粒子径が30〜200μmからなり、添加量が前記ポリオール成分中のポリオール100重量部に対して3〜13重量部であることを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、請求項2または3において、前記含水熱可塑性合成樹脂粒子が、前記ポリオール成分と前記イソシアネート成分の混合撹拌による発泡時の発泡体の温度上昇によって、水を蒸発することを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明は、請求項2から4の何れか一項において、前記熱可塑性合成樹脂粒子が、水を内包した熱可塑性合成樹脂多孔質粒子からなって、ポリエチレン及びポリエステル樹脂からなる含水熱可塑性合成樹脂多孔質粒子の少なくとも一方を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリウレタン発泡体及びその製造方法によれば、発泡時の発熱によって、含水熱可塑性合成樹脂粒子中の水分が蒸発し、その際の気化熱(蒸発熱)で発泡時の熱を吸収し、温度上昇を抑えることができる。しかも水の気化熱は2259J/g(100℃)であって非常に大きいため、含水熱可塑性合成樹脂粒子の添加量をそれほど多くしなくてもポリウレタン発泡体製造時の温度上昇を極めて効果的に抑えることができ、含水熱可塑性合成樹脂粒子の大量添加による発泡体の物理特性に与える悪影響を防ぐことができる。さらに、ポリウレタン発泡体は、含水熱可塑性合成樹脂粒子中の水が蒸発してポリウレタン発泡体から外部に放出されているため、軽量なものとなる。また、含水熱可塑性合成樹脂粒子は、水の蒸発により連通気孔の熱可塑性合成樹脂多孔質粒子となってポリウレタン発泡体中に残存すると共に、ポリウレタン発泡体中に存在していた独立気泡が前記水の蒸発時に破泡して連通気孔になるため、通常のポリウレタン発泡体よりも連通気孔の割合が高い通気性の良好なポリウレタン発泡体が得られる。
【0013】
さらに、本発明は、塩化メチレン等のPRTR対象物質を用いなくてもよいため、環境保護等の点で好ましいのみならず、炭酸ガスを添加する場合のように専用の発泡設備を設けなくてもよいため、製造コストが安価である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明におけるポリオール成分は、ポリオール、発泡剤、含水熱可塑性合成樹脂粒子、触媒、その他適宜添加される添加剤で構成される。
【0015】
ポリオールとしては、ポリウレタンフォーム用として知られているエーテル系ポリオールまたはエステル系ポリオールを単独で、または複数混合して用いることができる。
【0016】
エーテル系ポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、シュークロース等の多価アルコールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加したポリエーテルポリオール等を挙げることができる。
【0017】
また、エステル系ポリオールとしては、マロン酸、コハク酸、アジピン酸等の脂肪族カルボン酸やフタル酸等の芳香族カルボン酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等の脂肪族グリコール等とから重縮合して得られたポリエステルポリオール等を挙げることができる。その他、ポリエーテルポリオール中でエチレン性不飽和化合物を重合させて得られるポリマーポリオールも使用することができる。
【0018】
発泡剤としては、水が使用される。水の添加量は、ポリオール100重量部当たり5重量部以上、特には5〜10重量部が好ましい。
【0019】
含水熱可塑性合成樹脂粒子は、水を内包した熱可塑性合成樹脂粒子からなる。図1に含水熱可塑性合成樹脂粒子10の模式図を示す、符号11は熱可塑性合成樹脂を示し、符号21は水を示す。また、含水熱可塑性樹脂粒子10は、水を内包した熱可塑性合成樹脂部10A,10B,10C,10Dが、複数連結して所定サイズの多孔質粒子となっている。含水熱可塑性合成樹脂粒子のサイズは、粒子径が30〜200μmが好ましい。粒子径が小さすぎると水の含有量が少なくなり、また粒子径が大きすぎると、ポリオール成分とイソシアネート成分の混合撹拌時に、撹拌不良となって良好に発泡しなくなる。また、含水熱可塑性合成樹脂粒子に含まれる水の量は、30〜70重量%が好ましい。含水熱可塑性樹脂粒子に含まれる水の量が少なすぎると、ポリウレタン発泡体の製造時における水による吸熱作用が低くなって発熱温度を抑えることが難しくなり、それに対して含水熱可塑性樹脂粒子に含まれる水の量が多すぎると、ポリオール成分とイソシアネート成分の混合撹拌時に、撹拌不良となって良好に発泡しなくなる。含水熱可塑性合成樹脂粒子の添加量は、ポリオール100重量部当たり3〜13重量部が好ましい。添加量が少なすぎると、ポリウレタン発泡体の製造時に発熱温度を抑えることができなくなる。それに対して添加量が多すぎると、ポリオール成分とイソシアネート成分の混合撹拌時に、撹拌不良となって良好に発泡しなくなる。
【0020】
含水熱可塑性合成樹脂粒子を構成する熱可塑性合成樹脂は、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド等からなる。特には、ポリエチレン及びポリエステル樹脂からなる含水熱可塑性合成樹脂多孔質粒子の一方あるいは両方を含むものを、本発明における含水熱可塑性合成樹脂粒子として使用するのが好ましい。
【0021】
含水熱可塑性合成樹脂粒子の好適な製造方法としては、特開2002−363325号公報、2002−172644号公報、特開2002−138157号公報に開示されているように、不飽和ポリエステルと前記不飽和ポリエステルに対して架橋反応可能なビニル系単量体との混合物からなる油相中に界面活性剤を用いて水を分散乳化させて油中水型エマルジョンを形成し、前記エマルジョンを水に再分散させると共に前記混合物を硬化架橋する方法がある。なお、前記含水熱可塑性合成樹脂粒子の詳細な製造方法は、前記特開2002−363325号公報、2002−172644号公報、特開2002−138157号公報に記載されている通りであり、ここでの説明は省略する。
【0022】
触媒としては、ポリウレタン発泡体用の公知のものが使用される。使用可能な触媒として、例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、テトラメチルグアニジン等のアミン触媒や、ジブチルチンジラウレート、スタナスオクトエート等の錫触媒や、フェニル水銀プロピオン酸塩あるいはオクテン酸鉛等の金属触媒(有機金属触媒とも称される。)が挙げられる。触媒の添加量は、触媒の種類によって適宜決定されるが、ポリオール100重量部に対し0.1〜2.0重量部程度が一般的である。
【0023】
添加剤としては、整泡剤、着色剤、酸化防止剤、難燃剤等を挙げることができる。これらの添加剤は、ポリウレタン発泡体の用途や添加剤の種類に応じて最適量添加される。
【0024】
一方、イソシアネート成分は、イソシアネート基を2以上有する脂肪族系または芳香族系ポリイソシアネート、それらの混合物、およびそれらを変性して得られる変性ポリイソシアネートを使用することができる。脂肪族系ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキサメタンジイソシアネート等を挙げることができ、芳香族ポリイソシアネートとしては、トルエンジイソシアネート(TDI)、メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ポリメリックポリイソシアネート(クルードMDI)等を挙げることができる。なお、イソシアネート成分に、前記含水熱可塑性合成樹脂粒子を含有させてもよく、また、ポリオール成分とイソシアネート成分の両方に前記含水熱可塑性合成樹脂粒子を含有させてもよい。何れの場合においても、前記含水熱可塑性合成樹脂粒子の量は、前記ポリオール100重量部に対して3〜13重量部となるようにするのが好ましい。
【0025】
前記ポリウレタン発泡体の製造は、前記ポリオール、発泡剤(水)、含水熱可塑性合成樹脂粒子、触媒、適宜の添加剤を所要量混合撹拌してポリオール成分を調製し、その後、前記ポリオール成分とイソシアネート成分を混合撹拌し、大気圧下で反応させて発泡させる公知のスラブ発泡にしたがって行われる。その際、イソシアネートインデックス(INDEX、イソシアネート基と反応しうる活性水素基に対するイソシアネート基の百分率)は、90〜130が好ましい。イソシアネートインデックスが90未満の場合には歪の悪い発泡体となり、それに対して130より大になると脆く、さくい、粉落ちのする発泡体になる。
【0026】
前記ポリオール成分とイソシアネート成分は混合撹拌されることによってポリオールとポリイソしネートが反応し、発泡を開始する。その際、反応熱によって発泡体の温度が上昇し、前記含水熱可塑性樹脂粒子の熱可塑性樹脂が軟化すると共に、100℃以上になると含水熱可塑性樹脂粒子内の水が気化して水蒸気になる。前記含水熱可塑性樹脂粒子内の水が水蒸気になると、それまで水を内包していた熱可塑性樹脂が水蒸気の圧力に抗しきれなくなって破裂し、内部の水蒸気が外部に放出される。しかもその際に、発泡体中に存在する独立気泡が破泡して連通気泡となるため、連通気孔の割合が通常のポリウレタン発泡体よりも高い通気性の良好なポリウレタン発泡体となる。前記含水熱可塑性合成樹脂粒子は、前記水の蒸発によって連通気孔の多孔質粒子となってポリウレタン発泡体中に残存し、ポリウレタン発泡体の通気性を高めることができる。
【0027】
前記ポリウレタン発泡体の密度は、25kg/m以下、特には10〜20kg/mが好ましい。前記範囲よりも密度が小さくなるとクッション性がなくなり、密度が大きくなると軽量性に劣るようになる。なお、前記ポリウレタン発泡体は、用途に応じた所要サイズに切り出されて使用される。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例を具体的に示すが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。使用したポリオールは、ポリエーテルポリオール、株式会社三洋化成工業製、商品名:GP3000、OHV=56、アミン触媒は、中京油脂株式会社製、商品名:33LV(トリエチレンジアミン)、錫触媒は、城北化学工業株式会社製、商品名:MRH110、整泡剤は、シリコン界面活性剤、ゴールドシュミット株式会社製、商品名:B8110、ポリエチレンパウダーは、平均粒径40μm、比重0.93のLDPE、含水熱可塑性合成樹脂粒子は、ポリエチレン樹脂中に水を内包した多孔質粒子、白石カルシウム株式会社製、商品名:MWパウダー、平均粒子径40μm、含水率60%、比重0.97、ポリイソシアネートは、日本ポリウレタン工業株式会社製、商品名T−80(トルエンジイソシアネート)である。なお、表1のポリエチレンパウダー1gの融解潜熱は198J、含水熱可塑性合成樹脂粒子1gの水の蒸発熱は1300Jである。
【0029】
前記物質を、表1の配合にしたがって用い、実施例1〜3及び比較例1〜4のポリウレタン発泡体を製造した。その際、予めポリイソシアネート以外の成分については、表1の配合の合計重量部の14倍(単位:g)を3Lの撹拌容器に投入し、プロペラ羽根のミキサーにて20秒撹拌してポリオール成分を形成し、その後、ポリイソシアネートを表1の配合重量部の14倍(単位:g)投入して5秒撹拌した後、500×500×500mmの発泡箱に投入し、発泡させた。
【0030】
【表1】

【0031】
製造した実施例及び比較例のポリウレタンフォームに対して、密度、硬さ、引張強度、伸び、圧縮残留歪、最高発熱温度、最高発熱温度から10℃下がるまでの時間、スコーチ(黄変)を測定した。密度、硬さ、引張強度、伸び、圧縮残留歪については、JIS K6400に準じて測定した。最高発熱温度は、予め発泡箱内の中央に熱電対をセットして発泡を行うことにより発泡体内の温度を測定し、その測定温度の最高を最高発熱温度とし、また、最高発熱温度から10℃下がるのに必要な時間を測定し、その測定時間を最高発熱温度から10℃下がる時間とした。スコーチ(黄変)は、発泡製造後1日放置した発泡体の中央部分(発熱温度の高い部分)と外周部分(発熱温度の高い部分)の色差(イエローインデックス)を色差計にて測定し、その色差(△YI)で判断した。色差(イエローインデックス)の値が大きいほど、スコーチ(黄変)が大きい。結果は、表1の下部に示す通りである。なお、比較例4については、撹拌不良やポリエチレンパウダーの大量添加による反応阻害によって発泡しなかったため、密度等の測定を行うことができなかった。以下、測定結果を説明する
【0032】
(1)比較例1と実施例1の対比
水の添加量が7重量部であって含水熱可塑性合成樹脂粒子を添加していない比較例1と、水の添加量が7重量部であって含水熱可塑性合成樹脂粒子を5重量部添加した実施例1とを対比すると、密度は比較例1が16.9kg/m、実施例1が17.4kg/mであり、何れも低密度であって軽量性に優れるものであった。硬さは、比較例1が128Nであったのに対して実施例1では120Nであり、同程度であった。引張強度、伸び、圧縮残留歪については、比較例1に比べて実施例1が何れも著しく優れていた。最高発熱温度については比較例1が187℃であったのに対して実施例1では141℃であって46℃も実施例1の方が低く、しかも最高温度から10℃下がるまでの時間は比較例1では22分であったのに対して実施例1では9分と半分以下であった。なお、比較例1の最高発熱温度187℃は、ウレタン結合の分解温度(150℃)及び尿素結合の分解温度(180℃)よりも高いため、これによって前記引張強度等の低下を生じていると推察される。スコーチは、比較例1では12.1であったのに対して実施例1では3.2と四分の一程度の値であり、実施例1の方がスコーチを極めて生じにくかった。
【0033】
(2)比較例2と実施例3の対比
水の添加量が5重量部であって含水熱可塑性合成樹脂粒子を添加していない比較例2と、水の添加量が5重量部であって含水熱可塑性合成樹脂粒子を5重量部添加した実施例3とを対比すると、密度は比較例2が21.2kg/m、実施例3が21.8kg/mであった。硬さは、比較例2が129Nであったのに対して実施例3では127Nであり、同程度であった。引張強度、伸び、圧縮残留歪については、比較例2も実施例3も殆ど同程度であった。最高発熱温度については比較例2が152℃であったのに対して実施例3では126℃であって26℃も実施例3の方が低く、しかも最高温度から10℃下がるまでの時間は比較例2では19分であったのに対して実施例3では7分と半分以下であった。スコーチは、比較例2では8.3であったのに対して実施例3では1.9と四分の一程度の値であり、実施例3の方がスコーチを極めて生じにくかった。
【0034】
(3)比較例3と実施例1の対比
水の添加量が7重量部であってポリエチレンパウダーを30重量部添加した比較例3と、水の添加量が7重量部であって含水熱可塑性合成樹脂粒子を5重量部添加した実施例1とを対比すると、密度は比較例3が18kg/m、実施例1が17.4kg/mであり、何れも低密度であって軽量性に優れるものであった。硬さは、比較例3が122Nであったのに対して実施例1では120Nであり、同程度であった。引張強度、伸び、圧縮残留歪については、比較例3に比べて実施例1が何れも著しく優れていた。最高発熱温度については比較例3が143℃であったのに対して実施例1では141℃であり、いずれも同程度であって、比較例1及び比較例2よりも最高発熱温度が低くなっていた。また、最高発熱温度から10℃下がるまでの時間は、比較例3では18分であったのに対して実施例1では9分と半分であった。スコーチは、比較例3では5.1であったのに対して実施例1では3.2と三分の二程度の値であり、実施例1の方がスコーチを生じにくかった。
【0035】
(4)比較例3と実施例2の対比
水の添加量が7重量部であってポリエチレンパウダーを30重量部添加した比較例3と、水の添加量が7重量部であって含水熱可塑性合成樹脂粒子を10重量部添加した実施例2とを対比すると、密度は比較例3が18kg/m、実施例2が17.8kg/mであり、何れも低密度であって軽量性に優れるものであった。硬さは、比較例3が122Nであったのに対して実施例2では122Nであり、同一であった。引張強度、伸び、圧縮残留歪については、比較例3に比べて実施例2が何れも著しく優れていた。最高発熱温度については比較例3が143℃であったのに対して実施例2では118℃であり、実施例2の方が比較例3より25℃も低くなっていた。また、最高温度から10℃下がるまでの時間は、比較例3では18分であったのに対して実施例2では7分と半分以下であった。スコーチは、比較例3では5.1であったのに対して実施例2では1.6と三分の一以下の値であり、実施例2の方がスコーチを生じにくかった。
【0036】
(5)比較例1と比較例3の対比
水の添加量が7重量部であってポリエチレンパウダーを添加しない比較例1と、水の添加量が7重量部であってポリエチレンパウダーを30重量部添加した比較例3とを対比すると、密度は比較例1が16.9kg/m、比較例3が18kg/mであり、何れも低密度であって軽量性に優れるものであった。硬さは、比較例1が128Nであったのに対し比較例3が122Nであり、同程度であった。引張強度、伸び、については、比較例1に比べて比較例3が何れも劣っていた。圧縮残留歪については比較例1が10.8%であったのに対し比較例3では7.4%であり、比較例3の方が良好であった。最高発熱温度については比較例1が187℃であったのに対して比較例3では143℃と44℃も低くなっていた。最高温度から10℃下がるまでの時間は、比較例1では22分であったのに対し比較例3では18分であり4分短かった。スコーチは、比較例1では12.1であったのに対し比較例3では5.1であり、比較例3の方がスコーチを生じにくかった。
【0037】
(6)実施例1と実施例2の対比
含水熱可塑性樹脂粒子の添加量が5重量部の実施例1と、含水熱可塑性合成樹脂粒子の添加量が10重量部の実施例2を対比すると、密度、硬さ、引張強度、伸び、圧縮残留歪からなる物理的性質については、殆ど変化が無かった。最高発熱温度については、実施例1が141℃であったのに対して実施例2では118℃であり、実施例2の方が実施例1より23℃も低くなっていた。最高温度から10℃下がるまでの時間は、実施例1では9分であったのに対して実施例2では7分であり2分短縮されていた。スコーチは、実施例1では3.2であったのに対して実施例2では1.6と半分の値であり、実施例2の方がスコーチを生じにくかった。このように、含水熱可塑性合成樹脂粒子の添加量を増加させることによって最高発熱温度の低下効果及び冷却(放冷)時間の短縮効果を一層高めることができる。
【0038】
(7)実施例1と実施例3の対比
水の添加量が7重量部であって含水熱可塑性樹脂粒子の添加量が5重量部の実施例1と、水の添加量が5重量部であって含水熱可塑性合成樹脂粒子の添加量が5重量部の実施例3を対比すると、密度、硬さは、何れも実施例3が高く、引張強度、伸び、圧縮残留歪については、実施例3の方が実施例1よりも優れていた。最高発熱温度については、実施例1が141℃であったのに対して実施例3では126℃であり、実施例3の方が実施例1より15℃低くなっていた。最高温度から10℃下がるまでの時間は、実施例1では9分であったのに対して実施例3では7分と2分短縮されていた。スコーチは、実施例1では3.2であったのに対して実施例3では1.9と半分近い値であり、実施例3の方がスコーチを生じにくかった。
【0039】
前記測定結果から理解されるように、含水熱可塑性合成樹脂粒子を添加することにより、引張強度、伸び、圧縮残留歪を向上させることができると共に最高発熱温度を下げることができ、しかも発泡体の冷却(放冷)時間を短縮でき、さらにスコーチの発生を抑えることができる。また、ポリエチレンパウダーよりも少量の水含有熱可塑性合成樹脂粒子の添加によって、最高発熱温度の低下及び冷却(放冷)時間の短縮効果、スコーチの発生抑制効果が得られる。さらにポリエチレンパウダーの添加によっては殆ど効果の得られなかった引張強度、伸びについても、含水熱可塑性合成樹脂粒子の添加によって物性値を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】含水熱可塑性合成樹脂粒子の模式図である。
【符号の説明】
【0041】
10 含水熱可塑性合成樹脂粒子
10A,10B,10C,10D 水を内包した熱可塑性合成樹脂部
11 熱可塑性合成樹脂
21 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール成分とイソシアネート成分を混合撹拌して発泡させることにより得られたポリウレタン発泡体において、
前記ポリオール成分中の発泡剤として水を用い、前記ポリオール成分及び前記イソシアネート成分の少なくとも一方に含水熱可塑性合成樹脂粒子を添加し、
発泡後の前記ポリウレタン発泡体中には、前記含水熱可塑性合成樹脂粒子から水が蒸発して形成された連通気孔の熱可塑性合成樹脂多孔質粒子が存在することを特徴とするポリウレタン発泡体。
【請求項2】
ポリオール成分とイソシアネート成分を混合撹拌して発泡させるポリウレタン発泡体の製造方法において、
前記ポリオール成分中の発泡剤として水を用い、前記ポリオール成分及び前記イソシアネート成分の少なくとも一方に含水熱可塑性合成樹脂粒子を添加したことを特徴とするポリウレタン発泡体の製造方法。
【請求項3】
前記含水熱可塑性合成樹脂粒子は、平均粒子径が30〜200μmからなり、添加量が前記ポリオール成分中のポリオール100重量部に対して3〜13重量部であることを特徴とする請求項2に記載のポリウレタン発泡体の製造方法。
【請求項4】
前記含水熱可塑性合成樹脂粒子は、前記ポリオール成分と前記イソシアネート成分の混合撹拌による発泡時の発泡体の温度上昇によって、水が蒸発することを特徴とする請求項2または3に記載のポリウレタン発泡体の製造方法。
【請求項5】
前記含水熱可塑性合成樹脂粒子は、水を内包した熱可塑性合成樹脂多孔質粒子からなって、ポリエチレン及びポリエステル樹脂からなる含水熱可塑性合成樹脂多孔質粒子の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項2から4の何れか一項に記載のポリウレタン発泡体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−111671(P2006−111671A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298349(P2004−298349)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】