説明

ポリエステルフィルム

【課題】 特殊な二次的な加工をフィルムに施すことなく、単にレーザー光線を部分的に照射するだけでフィルムの表面の光沢度を部分的に変更させ、各種用途において好適に利用することができるポリエステルフィルムを簡便に提供する。
【解決手段】 レーザー光線を吸収して発熱する化合物を0.025〜0.25重量%含有するポリエステルフィルムであって、光沢度が100〜170の範囲のフィルム表面を部分的に有することを特徴とするポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光照射によって表面性状が変化するポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池や電子機器、さらには建材などの生活装飾品関連に至るまで、多方面で機能性ポリエステルフィルムが使われている。これらの用途では安価で、環境に優しく、高機能性のポリエステルフィルムが望まれている。
【0003】
既存のポリエステルフィルムでは、生活用品装飾用途として、パソコンなどの家電や建材などのデザインとして、“ザラザラ感”を出したものが多くなっている。そのザラザラ感を表現するために、透明で平坦なポリエステルフィルムと比較して表面粗度が異なるポリエステルフィルムが使われている。
【0004】
従来のポリエステルフィルムの製造法では、このような表面粗度が異なるポリエステルフィルムは、サンドブラスト法の他に、有機粒子や無機粒子を練り込み法やコーティング法によりフィルムに含有させるといったものが主流であった。
【0005】
電子部品に用いられるようなフィルムでは、電子部品内部への異物混入の問題があり適切ではない。また、有機粒子や無機粒子を練り込み法やコーティング法では、粒子による系内の汚染や溶剤などの廃棄物が出るために環境調和型とは言えない。
【0006】
そこで、従来法とは異なる、フィルム表面性状の変成手法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特願2009−33798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、系内汚染や環境的負荷の大きかった従来法に代わる、安価で簡便なレーザー照射によって表面性状を変成させたポリエステルフィルムを提供することが可能であり、生活用品や電子部品における装飾技術や着色を含むレーザー感光表面加工技術としての用途への適用もできるポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、特定の構成を有するポリエステルフィルムによれば、上記課題を容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、レーザー光線を吸収して発熱する化合物を0.025〜0.25重量%含有するポリエステルフィルムであって、光沢度が100〜170の範囲のフィルム表面を部分的に有することを特徴とするポリエステルフィルムに存する。
【0011】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明におけるポリエステルフィルムを構成する、ポリエステルフィルムは単層構成であっても多層構成であってもよく、2層、3層構成以外にも本発明の要旨を越えない限り、4層またはそれ以上の多層であってもよく、特に限定されるものではない。
【0012】
本発明において使用するポリエステルは、生産コストの削減や工程作業容易化を追及した結果、ホモポリエステルであることが好ましい。ホモポリエステルからなる場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート等が例示される。
【0013】
本発明のフィルム中には、易滑性の付与および各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を配合することが好ましい。配合する粒子の種類は、易滑性付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の粒子が挙げられる。また、特公昭59−5216号公報、特開昭59−217755号公報等に記載されているような耐熱性有機粒子を用いてもよい。この他の耐熱性有機粒子の例として、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等が挙げられる。さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0014】
一方、使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0015】
また、用いる粒子の平均粒径は、通常0.01〜3μm、好ましくは0.1〜2μmの範囲である。平均粒径が0.01μm未満の場合には、易滑性を十分に付与できない場合がある。一方、3μmを超える場合には、フィルムの製膜時に、その粒子の凝集物のために透明性が低下することがある他に、破断などを起こしやすくなり、生産性の面で問題になることがある。
【0016】
さらにポリエステル中の粒子含有量は、通常0.001〜5重量%、好ましくは0.005〜3重量%の範囲である。粒子含有量が0.001重量%未満の場合には、フィルムの易滑性が不十分な場合があり、一方、5重量%を超えて添加する場合には、フィルムの透明性が不十分な場合がある。
【0017】
ポリエステル層中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、各層を構成するポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化もしくはエステル交換反応終了後、添加するのが良い。
【0018】
また、ベント付き混練押出機を用い、エチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または、混練押出機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法などによって行われる。
【0019】
なお、本発明におけるポリエステルフィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0020】
本発明におけるポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、通常10〜350μm、好ましくは50〜250μmの範囲である。
【0021】
次に本発明におけるポリエステルフィルムの製造例について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。すなわち、先に述べたポリエステル原料を使用し、ダイから押し出された溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。次に得られた未延伸シートは二軸方向に延伸される。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃であり、延伸倍率は通常2.5〜7倍、好ましくは3.0〜6倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に延伸するが、その場合、延伸温度は通常70〜170℃であり、延伸倍率は通常3.0〜7倍、好ましくは3.5〜6倍である。そして、引き続き180〜270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0022】
また、本発明のポリエステルフィルム製造に関しては、同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃で温度コントロールされた状態で機械方向および幅方向に同時に延伸し配向させる方法であり、延伸倍率としては、面積倍率で4〜50倍、好ましくは7〜35倍、さらに好ましくは10〜25倍である。そして、引き続き、170〜250℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式、リニアー駆動方式等、従来公知の延伸方式を採用することができる。
【0023】
本発明において使用するレーザー光線を吸収して発熱する化合物として利用可能なものとしては、以下のようなものが例示される。
【0024】
すなわち、金属酸化物では、銅化合物、モリブデン化合物、鉄化合物、ニッケル化合物、クロム化合物、ジルコニウム化合物およびアンチモン化合物から選ばれる1種以上であることが好ましく、ジルコニウム化合物およびアンチモン化合物から選ばれる1種以上であることがさらに好ましい。さらに、補助的に、無機金属化合物である酸化チタン、硫化亜鉛、酸化亜鉛、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウムおよび沈降性炭酸カルシウムや染料であるカーボンブラック、グラファイトおよびブラックレーキ、ロイコ染料を用途や使用環境に応じて選択して併用することが望ましい。
【0025】
レーザー光線を吸収して発熱する化合物のフィルム中の含有量は、0.025〜0.25重量%の範囲である。含有量が0.025重量%未満では、発熱量が不足してフィルム表面性状の変成効果が劣る。一方、0.25重量%を超えて含有する場合、生産性の悪化とフィルム中に生じる劣化物により、不具合が生じる。
【0026】
本発明のフィルムにレーザー光線を吸収して発熱する化合物を配合(含有)させる方法としては、例えば練り込み方法と塗布方法が挙げられる。本発明では、表面粗度付与効率および着色効率、そして、環境負荷を考慮して、練り込み方法を採用すること子が好ましく、具体的にその方法について説明する。
【0027】
まず、レーザー光線を吸収して発熱する化合物はポリエステルレジンに練り込んだマスターバッチとして用いる方が好ましいが、ポリエステルレジンへ直接添加してもよい。
【0028】
さらに本発明におけるポリエステルフィルムについて、レーザー光線を吸収して発熱する化合物の練り込みの層構成について説明する。レーザーマーキング顔料はホモポリエステルフィルムの表層、もしくは中間層どちらへの練り込みでも構わない。フィルム全体として、上記の含有量となるように表層あるいは中間層の含有量を調整すればよい。
【0029】
本発明における、レーザー光吸収による発熱により起こる表面性状の変化とは、例えば、フィルム表面における見た目、手触りなど凹凸の変化である。詳しくは、光沢度測定によって表現することができ、具体的には、その光沢度の値が100〜170の範囲であり、好ましくは110〜120の範囲である。光沢度が170より大きい値では、表面性状の変化はほとんど認められず、100より小さい値では、フィルム表面の劣化による破壊が起こるという不具合が生じる。
【0030】
本発明を実施するにあたっては、レーザー光源およびその照射方法等には特に限定はなく、公知の各種Nd:YAGレーザー、COレーザー、各種エキシマレーザー等が使用できる。それらの中でも、Nb:YAGレーザーを用いたマーキングにおいて、その効果は顕著となる。
【発明の効果】
【0031】
本発明レーザー光吸収による発熱で表面性状の変化を有するポリエステルフィルムによれば、レーザーマーキング顔料を適量範囲内で表層でも中間層でもどちらに練り込んでもレーザー光吸収による発熱で表面性状の変化を起こす性能を持つポリエステルフィルムを提供することができる。本発明のポリエステルフィルムは、生活用品や電子部品における装飾技術や着色を含むレーザー感光表面加工技術としての用途への応用が期待できるため、その工業的価値は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明で用いた測定法および評価方法は次のとおりである。
【0033】
(1)ポリエステルフィルムの透過率測定
透明性の基準として、目視による透明性の評価と透過率測定が挙げられる。次のような基準で判断する。
・目視に関して
○:ほぼ透明である
△:透明であるが、少し黄色に着色している
×:黄色が強く、曇っている
・透過率測定に関して
JIS − K7105に準じ、日本電色工業社製積分球式濁度計NDH−300Aによりフィルムの全光線透過率を測定した。一般的なポリエステルフィルムの透過率に対して、0.5〜1%の範囲内の透過率の低下を◎、1〜2%の範囲内の透過率の低下を○、2〜4%の範囲内の透過率の低下を△、4%を超える透過率の低下を×として評価した。
【0034】
(2)レーザー照射後のポリエステルフィルムの評価
レーザーマーキング条件としては、以下のとおりである。
レーザーマーキング装置:キーエンス(株)製レーザーマーカー MD−V9900
レーザーの種類:YVOレーザー(波長1064nm)
照射方式:XYZ3軸同時スキャニング方式(CW(連続発振)、Qスイッチ周波数1~400kHz)
マーキング部のパワー:13W
スキャンスピード:1500mm/s
【0035】
・ポリエステルフィルムのレーザー照射部分の光沢度評価
日本電色(株)社製 グロスメ−タ− VG−107型を用いて、JIS Z−8741の方法に準じて光沢度を測定した。入射角,反射角60度に於ける黒色標準板の反射率を基準に試料の反射率を求め光沢度とした。
【0036】
得られた光沢度度の値から下記基準で評価した。
○:110〜120を超える
△:100〜110、120〜170
×:100より小さい、170より大きい
【0037】
・ポリエステルフィルムのレーザー照射部分の触感評価
得られたレーザー照射後のポリエステルフィルムについて、手触りによるザラザラ感の評価を行った。下記基準に従って判断した。
○:十分ザラザラしている
△:ザラザラしている
×:ザラザラしていない
【0038】
・ポリエステルフィルムのレーザー照射部分の目視評価
レーザー照射後のポリエステルフィルムについて、目視による粗度具合の評価を行った。下記基準にしたがって判断した。
○:見た目で十分なほど粗面化している
△:見た目で粗面化していることが分かる
×:見た目で粗面化が判断しづらく、フィルムが黒ずんで表面破壊が起こっている
【0039】
実施例1:
ポリエステルとレーザーマーキング顔料である銅、モリブデンの複合酸化物(CuO・xMoO:東罐マテリアル・テクノロジ株式会社)を99.97:0.03の割合で混合した混合原料を中間層の原料として、表層のポリエステルと中間層の混合原料を1:9の割合で2台の押出機に各々を供給し、各々290℃で溶融した後、40℃に設定した冷却ロール上に、2種3層(表層/中間層/表層)の層構成で共押出し、冷却固化させて未延伸シートを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.4倍延伸した後、テンターに導き、横方向に120℃で4.0倍延伸し、225℃で熱処理を行った後、横方向に2%弛緩し、厚さ100μm(表層5μm、中間層90μm)の透明ポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムは、無色透明なフィルムであった。そのポリエステルフィルムについて、YVOレーザー(キーエンス株式会社:MD−V9900)光照射(1064nm)を行い、表面形状を評価したところ、表面のザラザラ感が良好に表現できていた。
【0040】
実施例2:
原料とCuO・xMoOの比をそれぞれ99.75:0.25の割合で混合した混合原料を中間層の原料として用いること以外は実施例1と同様の方法でフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムは、無色透明なフィルムであった。そのポリエステルフィルムについて、実施例1と同様の方法でレーザー照射を行い、表面形状を評価したところ、表面のザラザラ感が良好に表現できていた。
【0041】
比較例1:
原料とCuO・xMoOの比をそれぞれ99.98:0.02の割合で混合した混合原料を中間層の原料として用いて、ポリエステルフィルムを得るということ以外は実施例1と同様の方法でフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムは、透明なフィルムであった。そのポリエステルフィルムについて、実施例1と同様の方法でレーザー照射行い、表面形状を評価したところ、表面のザラザラ感が表現できていなかった。
【0042】
比較例2:
原料とCuO・xMoOの比をそれぞれ99.6:0.4の割合で混合した混合原料を中間層の原料として用いて、ポリエステルフィルムを得るということ以外は実施例1と同様の方法でフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムは、透明性が失われた黄色のフィルムであった。そのポリエステルフィルムについて、実施例1と同様の方法でレーザー照射を行い、表面形状を評価したところ、表面のザラザラ感が良好に表現できていた。
【0043】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のポリエステルフィルムは、系内汚染や環境的負荷の大きかった従来法に代わる、安価で簡便なレーザー照射によって表面粗度が異なるポリエステルフィルムを提供することが可能であり、生活用品や電子部品における装飾技術や着色を含むレーザー感光表面加工技術としての用途への応用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光線を吸収して発熱する化合物を0.025〜0.25重量%含有するポリエステルフィルムであって、光沢度が100〜170の範囲のフィルム表面を部分的に有することを特徴とするポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2010−229365(P2010−229365A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80892(P2009−80892)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】