説明

ポリエステル組成物およびそれからなる成形品

【課題】 優れた溶融熱安定性と色相とを兼備するポリエステル組成物およびポリエステル成形品の提供。
【解決手段】 140℃で2時間熱処理後のL***表色系におけるカラーL*値が70以上、a*値が−6〜0、b*値が−2〜6の範囲にある組成物で、該組成物は、多芳香族環系青色染料と多芳香族環系紫色染料とからなる混合染料を0.1〜10重量ppm含有し、チタン化合物をチタン元素量(Ti)換算で1〜30ppm含有し、かつリン化合物をリン元素量(P)換算で1〜80重量ppm含有し、そして該混合染料は、前記青色染料と前記紫色染料との重量比が90:10〜40:60で、かつ窒素雰囲気下中、昇温速度10℃/分の条件で熱天秤にて測定した重量減少開始温度が350℃以上であるポリエステル組成物およびそれを用いた成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル組成物およびそれからなる成形品に関する。さらに詳しくは、優れた色相を有しながらも、さらに優れた熱安定性をも有するポリエステル組成物およびそれからなるフィルムや繊維などの成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、優れた力学特性、耐熱性、耐候性、耐電気絶縁性および耐薬品性を有することから、フィルム、繊維またはボトルなどの成形品として広く使用されている。これらのポリエステルの製造に際しては、重合反応を円滑に進行させるために通常重合触媒が用いられる。この重合触媒としては種々の金属化合物が知られており、中でも三酸化アンチモンの如きアンチモン(Sb)化合物が安価でかつ高い重合活性を持つことから、広く使用されている。しかし、Sb化合物は、その一部が反応中に還元されて金属Sbやその他の異物を生成し、ポリマーの色相を黒ずませたり、製造工程を不安定化させたりするという問題があった。特にフィルムに成形した場合、異物がフィルムの表面の平坦性などを悪化させるといった問題があった。
【0003】
アンチモン化合物以外の重縮合触媒としては、ゲルマニウム化合物、テトラ−n−ブトキシチタンのようなチタン化合物が広く使用されてきている。しかしながら、ゲルマニウム化合物は、かなり高価であるため、ポリエステルの製造コストが高くなるという問題があった。また、チタン化合物は、アンチモン化合物のような異物の生成は改善できるものの、触媒活性が高いことから、得られるポリエステルの溶融熱安定性が低下しやすく、黄色く着色しやすいと言うアンチモン化合物とは異なる問題があった。
【0004】
一方、ポリエステルの着色を抑制するには、ポリエステルにコバルト化合物を添加して黄味を抑えることが行なわれている。しかし、コバルト化合物は、ポリエステルの色相(b値)は改善できるものの、金属異物を析出させたり、得られるポリエステルの溶融熱安定性を低下させて黄色く着色してしまう。特に、この溶融熱安定性による着色は、アンチモン化合物やゲルマニウム化合物対比、チタン化合物を重合触媒として用いたポリマーで顕著である。
【0005】
これらのポリエステルの着色を抑えるために、ポリエステルを製造するための触媒として、チタン化合物と亜リン酸エステルとを反応させて得られた生成物(特許文献1)またはチタン化合物とリン化合物との錯体(特許文献2)を用いることも提案されている。これらの方法によれば、得られるポリエステルの溶融熱安定性を向上させることで、得られるポリマーの色調を向上させることができる。しかし、これらの方法によって得られるポリマーの色調の向上効果は、触媒として用いるチタン化合物による溶融熱安定性の低下を小さくすることに過ぎず、根本的な解決にはなっていなかった。
【0006】
【特許文献1】特開昭58−38722号公報
【特許文献2】特開平7−138354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、優れた溶融熱安定性と色相とを兼備するポリエステル組成物およびそれからなるポリエステル成形品の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、リン化合物と特定の染料とを特定の割合で併用したとき、ポリマーの色相を改善できるだけでなく、さらに驚くべきことに溶融熱安定性をも向上できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
かくして、本発明によれば、140℃で2時間熱処理後のL***表色系におけるカラーL*値が70以上、カラーa*値が−6〜0、カラーb*値が−2〜6の範囲にあるポリエステル組成物であって、
該組成物は、該組成物の重量を基準として、多芳香族環系青色染料と多芳香族環系紫色染料とからなる混合染料を0.1〜10重量ppm含有し、チタン化合物をチタン元素量(Ti)換算で1〜30重量ppm含有し、かつリン化合物をリン元素量(P)換算で1〜80重量ppm含有し、そして
該混合染料は、多芳香族環系青色染料と多芳香族環系紫色染料との重量比が90:10〜40:60の範囲にあり、かつ窒素雰囲気下中、昇温速度10℃/分の条件で熱天秤にて測定した重量減少開始温度が350℃以上であるポリエステル組成物が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、本発明のポリエステル組成物の好ましい態様として、リン化合物が、ホスホネート化合物であること、ポリエステルの重縮合反応触媒が一般式(I)
【化1】

(上記式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ同一若しくは異なって、アルキル基又はフェニル基を示し、mは1〜4の整数を示し、かつmが2、3又は4の場合、2個、3個又は4個のR2及びR3は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
で表わされる化合物、または上記一般式(I)で表わされる化合物と下記一般式(II)
【化2】

[上記式中、qは2〜4の整数を表わす。]
で表わされる芳香族多価カルボン酸もしくはその酸無水物とを反応させた生成物であること、組成物中のジエチレングリコール量が下記式(1)
0.5≦DEG≦2.0 ・・・(1)
(上記式中、DEGはジエチレングリコール濃度(wt%)を示す。)
を満足すること、組成物中の末端カルボキシル基量が、下記式(2)
5≦COOH≦40 ・・・(2)
(上記式中、COOHはカルボキシル末端基濃度(eq/ton)を示す。)
を満足すること、リン元素量(P)とチタン元素量(Ti)との重量比(P/Ti)が、0.1〜10の範囲であること、リン元素量(P)と混合染料との重量比が、0.1〜50の範囲にあること、窒素雰囲気下中、300℃で20分間溶融処理したときの、処理前後のポリエステルの固有粘度差が0.001〜0.01dl/gの範囲にあること、ならびに比重が5以上の重金属元素の含有量が、ポリエステル組成物の重量を基準として、高々10重量ppm以下であることを具備するポリエステル組成物も提供される。
【0011】
また、本発明によれば、上述のポリエステル組成物からなるポリエステル成形品、特にポリエステルフィルムおよびポリエステル繊維も提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリエステル組成物は、リン化合物と特定の染料とを特定量使用していることから、得られるポリエステル組成物およびそれを用いたポリエステル成形品に、コバルトを用いた場合などに伴う熱安定性の低下や金属異物の発生を惹起することなく、優れた熱安定性と色相とを兼備させることができ、その工業的価値は極めて高い。特に、本発明のポリエステル組成物を用いたフィルムは、優れた熱安定性と色相とを兼備し、例えば透明性などが要求される光学用フィルムとして、極めて好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明を詳しく説明する。
本発明のポリエステル組成物は、80重量%以上、好ましくは85重量%以上がポリエステルからなるものであり、ポリエステル以外の他の樹脂を、混合したものであっても良い。また、本発明におけるポリエステルとは、ポリアルキレンテレフタレート(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタート、ポリテトラメチレンテレフタレートなど)やポリアルキレンナフタレート(ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリテトラメチレンナフタレートなど)を挙げることができ、これらの中でも、ポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレートが好ましい。ここでいう、ポリエチレンテレフタレートとは、エチレンテレフタレート成分を主たる繰返し単位とする、具体的には、全繰り返し単位の80モル%以上、好ましくは85モル%以上が、エチレンテレフタレート成分からなるものである。また、ここでいう、ポリエチレンナフタレートとは、エチレンナフタレート成分を主たる繰返し単位とする、具体的には、全繰り返し単位の80モル%以上、好ましくは85モル%以上が、エチレンナフタレート成分からなるものであり、好ましくはエチレンー2,6−ナフタレートからなるものである。これらのポリエステルは、ホモであっても、本発明の効果を阻害しない範囲で、第3成分を共重合したものであっても良い。第3成分(共重合成分)としては、テレフタル酸(ポリアルキレンテレフタレート以外の場合)、2,6−ナフタレンジカルボン酸(ポリアルキレンナフタレート以外の場合)、イソフタル酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の如き脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の如き脂環族ジカルボン酸、エチレングリコール(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート以外の場合)、トリメチレングリコール(ポリトリメチレンテレフタート、ポリトリメチレンナフタレート以外の場合)、ジエチレングリコール、テトラメチレングリコール(ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンナフタレート以外の場合)、シクロヘキサンジメタノール等のグリコールが例示でき、これらは単独で使用しても二種以上を併用してもよい。
【0014】
本発明のポリエステル組成物は、140℃、2時間熱処理後のL***表色系におけるカラーL*値が70以上,カラーa*値が-6〜0、カラーb*値が-2〜6の範囲にあることが必要である。カラーL値が下限より低い場合、ポリエステル組成物の明度が低く、染料による色相向上効果が発現し難い。また、カラーa値が下限より小さい場合、ポリエステル組成物は緑色味が強くなり、上限より大きい場合は赤味が強くなる。さらにまたカラーb値が下限より小さい場合、ポリエステル組成物は青味が強くなり、上限より大きい場合は黄色味が強くなる。カラーL*値は75以上である事が好ましく、80以上が更に好ましい。また、カラーa*値は-5〜0の範囲が好ましく、-4〜0の範囲がさらに好ましい。さらにまたカラーb*値は-2〜5の範囲が好ましく、−1〜4の範囲がさらに好ましい。該カラー値はポリエステル組成物中に添加する整色剤の種類や量、またポリエステルの製造過程で用いる触媒およびリン化合物の種類や量、さらにはポリエステルの製造過程やその後の成形工程で受ける温度条件などによって調整できる。
【0015】
本発明の一つの特徴は、得られるポリマーの色相を向上できるように特定の染料(以下、整色剤と称することもある。)を特定量用いたことにある。本発明で使用する染料とは、有機の多芳香族環系青色染料と多芳香族環系紫色染料との混合染料である。
【0016】
本発明のポリエステル組成物に含有される混合染料の割合は、該組成物の重量を基準として、0.1〜10重量ppmの範囲である。組成物中の割合が下限未満の場合、ポリエステル組成物の黄色味が強くなり、また染料による熱安定性向上効果も乏しくなる。一方、上限を超える場合、染料による熱安定性向上効果も飽和してきて、さらには明度が弱くなり、見た目に黒味が強くなったり赤色味が強くなったりする。好ましい組成物中の割合は0.3〜9重量ppmの範囲が好ましく、0.5〜8重量ppmの範囲にあることが更に好ましい。
【0017】
本発明にて使用する混合染料は、窒素雰囲気下中、昇温速度10℃/分の条件で熱天秤にて測定した重量減少開始温度が350℃以上である。ここで、熱天秤で測定した重量減少開始温度とは、JIS K-7120に記載の重量減少開始温度(T1)のことである。該重量減量開始温度が下限未満であると、染料による熱安定性向上効果が発現されず、さらに染料自体が分解してしまい、得られるポリエステル組成物の熱安定性を損なう。該重量減少開始温度は400℃以上であることがさらに好ましい。
【0018】
本発明で使用する混合染料は、多芳香族環系青色染料と多芳香族環系紫色染料との重量比が90:10〜40:60の範囲にあることが必要である。ここで多芳香族環系青色染料とは、一般に市販されている整色剤の中で「Blue」と表記されているものであって、具体的には溶液中の可視光スペクトルにおける最大吸収波長が580〜620nm程度にあるものを示す。また、多芳香族環系紫色染料とは市販されている整色剤の中で「Violet」と表記されているものであって、具体的には溶液中の可視光吸収スペクトルにおける最大吸収波長が560〜580nm程度にあるものである。
【0019】
これらの染料としては油溶染料が好ましく、具体的な多芳香族環系青色染料としては、C.I.Solvent Blue 11、C.I.Solvent Blue 25、C.I.Solvent Blue 35、C.I.Solvent Blue 36、C.I.Solvent Blue 45 (Telasol Blue RLS)、C.I.Solvent Blue 55、C.I.Solvent Blue 63、C.I.Solvent Blue 78、C.I.Solvent Blue 83、C.I.Solvent Blue 87、C.I.Solvent Blue 94などが挙げられる。同様に多芳香族環系紫色染料としては、C.I.Solvent Violet 8、C.I.Solvent Violet 13、C.I.Solvent Violet 14、C.I.Solvent Violet 21、C.I.Solvent Violet 27、C.I.Solvent Violet 28、C.I.Solvent Violet 36などが挙げられる。
【0020】
多芳香族環系青色染料と多芳香族環系紫色染料との重量比において、多芳香族環系青色染料が過度に多いと、得られるポリエステル組成物のカラーa値が小さくなって緑色を呈し、一方、多芳香族環系青色染料過度に少ないと、カラーa値が大きくなって赤色を呈す。好ましい両者の重量比は、80:20〜50:50の範囲である。
【0021】
本発明において、混合染料を添加する時期は特に制限されないが、なかでも重合反応が終了するまでの任意の段階で添加することが好ましい。特にエステル化反応もしくはエステル交換反応が終了した後に染料を添加することが、より熱安定性を向上させやすいことから好ましい。
【0022】
本発明のポリエステル組成物は、安定剤としてのリン化合物を、リン元素量(P)換算で、該組成物の重量を基準として、1〜80重量ppm含有していることが必要である。リン化合物の量が、下限未満であると、十分な溶融熱安定性向上効果が得られず、他方上限を超えると、ポリエステル組成物の軟化点を低下させ熱安定性が劣る場合がある。好ましいリン元素量(P)は、5〜60重量ppm、特に10〜50重量ppmの範囲である。
【0023】
本発明で使用するリン化合物としては、以下の式(III)で表されるホスホネート化合物が好ましい。
【化3】

(上記式中、R、RおよびRはそれぞれ炭素数原子数1〜4のアルキル基を示し、Xは−CH−または―CH(Y)を示す(Yは、ベンゼン環を示す))
【0024】
特に好ましいホスホネート化合物は、カルボメトキシメタンホスホン酸、カルボエトキシメタンホスホン酸、カルボプロポキシメタンホスホン酸、カルボプトキシメタンホスホン酸、カルボメトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボエトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボプロトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸およびカルボブトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸のジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステルおよびジブチルエステルである。
【0025】
これらのホスホネート化合物は、通常安定剤として使用されるリン化合物に比べ、混合染料とチタン触媒とあいまって、特に優れた熱安定性向上効果を示す。
これら、リン化合物の添加時期は、エステル交換反応が実質的に終了した後であればいつでもよく、例えば、重縮合反応を開始する以前の大気圧下、重縮合反応を開始した後の減圧下、重縮合反応の末期または重縮合反応の終了後すなわちポリマーを得た後に添加してもよい。
【0026】
本発明のポリエステル組成物は、リン化合物と特定の混合染料とを特定量使用していることから、他のポリエステル組成物、例えばコバルトを併用したりしても、コバルトだけを用いたポリエステル組成物に比べ、熱安定性を向上させることができる。好ましくは、本発明の効果を最大限に発揮できる点から、実質的に比重が5以上の重金属元素を含有する化合物、例えばコバルト化合物などを用いずに、ポリマー中に可溶なチタン化合物を触媒として用いたポリエステル組成物であることが好ましい。具体的な比重が5以上の重金属元素の割合は、金属元素量換算で、ポリエステル組成物の重量を基準として、高々10重量ppm以下であることが好ましい。重金属元素の割合が、上限を超えると、熱安定性が低下したりする。
【0027】
本発明で用いる重合触媒としては、触媒に起因する異物の析出を抑制でき、特に前述のL値を高められ、特に混合染料による熱安定性向上効果が発現し易いことから、チタン化合物を用いる必要が有る。
【0028】
本発明で重合触媒として用いるチタン化合物は、ポリマー中に可溶なものであれば特に限定されず、ポリエステルの重縮合触媒として一般的なチタン化合物、例えば、酢酸チタンやテトラ−n−ブトキシチタンなどが挙げられる。これらの中でも、以下の式(I)で表わされる化合物、または以下の式(I)で表わされる化合物と以下の式(II)で表わされる芳香族多価カルボン酸またはその無水物とを反応させた生成物が好ましい。
【0029】
【化4】

(上記式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ同一若しくは異なって、アルキル基又はフェニル基を示し、mは1〜4の整数を示し、かつmが2、3又は4の場合、2個、3個又は4個のR2及びR3は、それぞれ同一であっても異なっていてもどちらでもよい。)
【0030】
【化5】

(上記式中、qは2〜4の整数を表わす)
【0031】
上記式(I)で表わされるテトラアルコキサイドチタンとしては、Rがアルキル基またはフェニル基であれば特に限定されず、その中でもテトライソプロポキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラフェノキシチタンが好ましい。また、上記式(II)で表される芳香族多価カルボン酸としては、フタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸が好ましい。なお、一般式(III)で表される芳香族多価カルボン酸は、その無水物であっても良い。上記チタン化合物と芳香族多価カルボン酸とを反応させるには、溶媒に芳香族多価カルボン酸またはその無水物の一部とを溶解し、これにチタン化合物を滴下し、0〜200℃の温度で30分以上反応させれば良い。
【0032】
本発明のポリエステル組成物は、前述のポリマー中に可溶なチタン化合物を、組成物の重量を基準として、チタン元素量(以下、Tiと称することがある。)で、1〜30重量ppm含有することが必要である。好ましい該チタン元素量は2〜20重量ppm、特に5〜15重量ppmである。該チタン元素量が下限未満だと、ポリエステルの生産性が低下し、所望の分子量を有するポリエステルが得られない。一方、該チタン元素量が上限を超えると、得られるポリエステル組成物の熱安定性が低下し、フィルムなどへの成形加工時の分子量の低下が大きく、やはり所望の力学的特性を有する成形加工品が得られない。なお、ここで言うポリマー中に可溶なチタン金属元素とは、エステル交換反応による第一段階反応をする場合は、エステル交換反応触媒として使用されたチタン化合物と重縮合反応触媒として使用されたチタン化合物の合計を示す。
【0033】
また、ポリマー中に含有されるチタン化合物とリン化合物の重量比(P/Ti)は、0.1〜10、さらに0.5〜9、特に1〜8の範囲にあることが好ましい。(P/Ti)が下限未満の場合、得られるポリマーの色相が黄味を帯び、一方(P/Ti)が上限を超えるとポリエステルの重合反応性が極度に低下することがある。
【0034】
本発明におけるポリエステルは、例えばテレフタル酸とエチレングリコールを原料として用いたエステル化法を経由したものでも、ジメチルテレフタレートに代表されるテレフタル酸のエステル形成性誘導体とエチレングリコールを原料として用いたエステル交換法を経由したものでもよい。これらのなかでも、原料として用いる全ジカルボン酸成分の80モル%以上がジアルキルテレフタレートまたはジアルキルナフタレートである、エステル交換反応を経由する製造方法が好ましい。ジアルキルテレフタレートまたはジアルキルナフタレートを原料物質に使用すると、テレフタル酸やナフタレンジカルボキシレートを原料とする製造方法に比較し、重縮合反応中に安定剤として添加したリン化合物の飛散が少ないという利点がある。また、ジアルキルテレフタレートまたはジアルキルナフタレートを原料物質とする製造方法の中でも、チタン化合物の添加量を低減できることから、チタン化合物の少なくとも一部をエステル交換反応開始前に添加し、エステル交換反応触媒と重縮合反応触媒の二つ触媒を兼用させる製造方法が好ましい。
【0035】
また、本発明では、チタン化合物の添加量をより低減できることから、エステル交換反応は0.05〜0.20MPaの加圧下にて実施するのが好ましい。エステル交換反応時の圧力が、0.05MPa未満だとチタン化合物の触媒作用による反応の促進が充分なものになり難く、一方0.20MPaを超えると、副生成物としてジエチレングリコールが大量に発生しやすくなり、得られポリマーの熱安定性などの特性が低下しやすい。
【0036】
本発明のポリエステル組成物は、含有するジエチレングリコールの割合が、組成物の重量を基準として、0.5〜2.0wt%の範囲内にあることが好ましい。ジエチレングリコールの割合が下限未満であると、ポリマー自身の結晶性が高くなりすぎ、例えばフィルムに成形する際に破断などが起こりやすくなる。一方、上限を超えると耐熱性が損なわれやすい。一般にジエチレングリコール濃度が高いと耐熱性が劣ると考えられているが、本発明の混合染料を含有するポリエステルは、ジエチレングリコール量による変化が大きく、一般的なポリエステルに対する取扱いよりもより厳密にジエチレングリコール濃度を規定することが好ましい。より好ましい範囲はジエチレングリコールの割合の範囲は、0.6〜1.6wt%、更に0.7〜1.4wt%である。
【0037】
本発明のポリエステル組成物は、組成物中のカルボキシル末端基濃度が5〜40eq/tonの範囲にあることが好ましい。カルボキシル末端基はポリエステル鎖の分解によって生成するが、カルボキシル末端基濃度が上限より多いと、例えば成形する際の再溶融工程においてポリマー自身の分解が進みやすくなり、一方、下限未満とするには、固相重合などの工程を用意することが必要となり、不経済になることがある。より好ましいカルボキシル末端基濃度の範囲は5〜35eq/ton、更に好ましくは5〜30eq/tonである。
【0038】
本発明のポリエステル樹脂組成物の固有粘度(ο−クロロフェノール、35℃)は、0.50〜0.80の範囲にあることが好ましく、さらに0.55〜0.75、特に0.60〜0.70の範囲が好ましい。固有粘度が下限未満であると、成形加工品、例えばフィルムの耐衝撃性が不足したりすることがある。他方、固有粘度が上限を超えると、原料ポリマーの固有粘度を過剰に引き上げる必要があり不経済である。
【0039】
本発明のポリエステル組成物は、例えばフィルムへの成形用の場合、取扱い性を向上させるために、平均粒径0.05〜5.0μmの不活性粒子を滑剤として0.05〜5.0重量%程度添加してもよい。この際、本発明のポリエステル組成物の特徴である優れた透明性を維持する点からは、添加する不活性粒子は粒径の小さいものが、またその添加量はできる限り少ないことが好ましい。添加する不活性粒子としては、コロイダルシリカ、多孔質シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、ジルコニア、カオリン、複合酸化物粒子、架橋ポリスチレン、アクリル系架橋粒子、メタクリル系架橋粒子、シリコーン粒子などが挙げられる。また、フィルム、繊維、ボトルなど各成形品の要求に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、粘度調整剤、可塑剤、核剤、紫外線吸収剤などの各種機能剤を加えてもよい。
【0040】
最後に本発明において提供されるポリエステルフィルムについて説明する。
本発明のフィルムは、上述の本発明のポリエステル組成物を原料とし、これを溶融状態でシート状に押出すことにより得ることが出来る。好ましくは得られるフィルムに寸法安定性や強度を具備できることから、一軸方向に延伸した一軸配向ポリエステルフィルム、さらには直交する二軸方向に延伸した二軸配向ポリエステルフィルムが好ましい。二軸配向ポリエステルフィルムを例にとって、さらに詳述する。
【0041】
本発明のポリエステル組成物のペレットを(Tc)〜(Tc+40)℃(Tcはポリエステルの昇温時の結晶化温度)の温度範囲で1〜3時間乾燥した後、(Tm)〜(Tm+70)℃(Tmはポリエステルの融点)の温度範囲内でシート状に溶融押出し、次いで表面温度20〜40℃の回転冷却ドラム上に密着固化させて、実質的に非晶質のポリエステルシート(未延伸フィルム)を得る。次いで未延伸フィルムを縦方向または横方向に延伸する。好ましくは縦方向に延伸した後、横方向に延伸する、いわゆる縦・横逐次二軸延伸法あるいはこの順序を逆にして延伸する方法または同時に二軸遠心する同時二軸延伸法などにより直交する二軸方向に延伸する。延伸する際の温度(熱固定温度)は(Tg−10)〜(Tg+70)℃( Tgはポリエステルの二次転移点温度)であって、延伸倍率は使用する用途の要求に応じて適宜調整すればよいが、一軸方向に2.5倍以上、さらには3倍以上で、かつ面積倍率が8倍以上、さらには10〜30倍の範囲から選ぶのが好ましい。
【0042】
本発明のポリエステルフィルムを製造する際、使用するスリット状ダイの形状や、溶融温度、延伸倍率、熱固定温度等の条件について制限は無く、また単層フィルムや共押出し技術等を用いた積層フィルムのいずれも採用することができる。
【0043】
このようにして得られた本発明のポリエステルフィルムは、フィルムを構成するポリエステル組成物が極めて優れた色相を有し、更に金属析出物が少なく透明性に優れている。なお、本発明のポリエステルフィルムは、上述の本発明のポリエステル組成物およびその製造方法で説明したことと同様なことが言える。
【0044】
また、本発明のポリエステル繊維は、上述の本発明のポリエステル組成物を原料とすることで、それ自体公知の方法によって製造できる。具体的には、上述の本発明のポリエステル組成物を溶融状態で口金より棒状に押出し、これを紡糸速度400〜5000m/分程度で引き取り、必要に応じて、繊維軸方向に延伸することで製造できる。
【0045】
このようにして得られた本発明のポリエステル繊維は、繊維を構成するポリエステル組成物が極めて優れた色相と熱安定性を有する。なお、本発明のポリエステル繊維も、フィルムと同様、上述の本発明のポリエステル組成物およびその製造方法で説明したことと同様なことが言える。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。なお、ポリエステル組成物の特性は、以下の方法で測定・評価した。
(1)固有粘度(単位はdl/g):
オルトクロロフェノール溶液中、35℃において測定した粘度の値から、ポリエステルチップの固有粘度(IV)を求めた。
(2)DEG濃度(DEG):
ポリエステルチップをCDCl/CFCOOD混合溶媒にて溶解し、H−NMRにて測定した。
(3)カルボキシル末端基濃度(COOH):
ポリエテステルチップをベンジルアルコール中で加熱溶解し、フェノールレッドおよびNaOH水溶液を滴下した。溶液が黄色から赤色に変色する中間点におけるNaOH水溶液量からカルボキシル基濃度を算出した。測定は室温で行った。
(4)金属元素濃度:
チタン元素、リン元素、コバルト元素およびアンチモン元素量濃度は、ポリエステルチップを加熱溶融して円形ディスクを作成し、リガク社製蛍光X線測定装置3270を用いて測定した。なお、滑剤として不活性粒子を含む場合は、予め溶媒中で遠心分離処理により不活性粒子を除去した上で同様の測定を行った。
(5)色調(L値、a値、b値):
ポリエステルチップサンプルを140℃で2時間乾燥処理させた後、色差計調整用の白色標準プレート上に置き、プレート表面のハンターL及びbを、カラーマシン社製CM―7500型カラーマシンを用いて測定した。L値は明度の指標であり、数値が大きいほど明度が高いことを、b値はその値が大きいほど黄着色の度合いが大きいことを示す。
(6)ポリエステルの熱安定性:
160℃で1時間乾燥したポリエステルチップを、ガラス製フラスコへ入れ、次いで300℃に保持されたソルトバスにフラスコを浸漬後、窒素気流下で20分間溶融状態で攪拌保持して得られる溶融物の固有粘度(IV)を測定し、乾燥処理前の固有粘度差(IV差)を求めた。
(7)金属析出物:
ポリエステルチップ0.1gを溶解液(ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム=50/50重量%混合液)を加え溶解した液を、3μm孔径テフロン(登録商標)製メンブレンフィルター(ろ過面積=7.1cm)でろ過する。乾燥後のろ紙を走査型電子顕微鏡(日立製作所製 S3100型)を用いて、ろ紙上にある粒子個数をカウントし、観察面積から1cm当りの粒子個数を算出した。
(8)混合染料の重量減量開始温度:
JIS K-7120にしたがい、窒素雰囲気下中、昇温速度10℃/分の条件で熱天秤にて測定した。なお、ここでいう重量減少開始温度とは、JIS K-7120にある重量減少開始温度(T1)を意味する。
(9)フィルムヘーズ:
ポリエステルチップサンプルを150℃にて6時間乾燥機中で熱処理して乾燥させた後、290℃にて溶融押出し器から回転冷却ドラム上にシート状に溶融押出し、急冷固化して厚さ100umの未延伸フィルム(シート)を作成する。得られた未延伸シートの表面に傷などが発生していない箇所をサンプリングし、日本電色工業社濁度計(HDH−1001DP)にて測定した。
【0047】
[参考例1](トリメリット酸チタンの製造方法)
エチレングリコール2.5重量部に無水トリメリット酸0.8重量部を溶解し、このエチレングリコール溶液にチタンテトラブトキシド0.7重量部(無水トリメリット酸のモル量を基準として0.5mol%)を滴下し、この反応系を空気中、常圧下、80℃で60分間保持してチタンテトラブトキシドと無水トリメリット酸とを反応させ、反応生成物(TMT)を得た。その後反応系を常温に冷却し、アセトン15重量部を加えて析出物をNo.5濾紙で濾過した後、100℃の温度で2時間乾燥した。得られた反応生成物のチタン含有量は11.2重量%であった。
【0048】
[参考例2]染料の調製
表1に示す染料を、粉末状態で熱重量減少開始温度を測定した。結果を表1に示す。これらの染料をポリエステル製造工程に添加する際は、100℃の温度で、原料として用いるグリコール溶液に対し、濃度0.1重量%となるように溶解または分散させて調製した。
【0049】
【表1】

なお、表1中の各種染料は、クラリアントジャパン株式会社や有本化学工業株式会社から入手することができる。
【0050】
[実施例1,2]
加圧反応が可能なSUS(ステンレス)製容器にテレフタル酸ジメチル100部とエチレングリコール70部を仕込み、エステル交換触媒としてテトラ−n−ブチルチタネートを表2に示した量になるように添加した後、0.07MPaの加圧を行い140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた。その後、トリエチルホスホノアセテートと染料を表2に示した量になるように添加し、エステル交換反応を終了させた。反応生成物を重合容器に移し、290℃まで昇温し、0.2mmHg以下の高真空にて重縮合反応を行い、固有粘度0.62のポリエステル組成物を得た。得られたポリエステル組成物及びこれを使用して得られた未延伸フィルムの特性を表2に示す。
【0051】
[実施例3]
チタン化合物およびその添加量をトリメリット酸チタンへ変更する以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物および未延伸フィルムを得た。得られたポリエステル組成物及びこれを使用して得られた未延伸フィルムの特性を表2に示す。
【0052】
[比較例1〜5]
チタン化合物、リン化合物ならびに整色剤を表2に示す通り変更する以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物ならびに未延伸フィルムを得た。これらの特性を表2に示す。
【0053】
[比較例6,7]
重縮合触媒としてチタン化合物のかわりにアンチモン化合物を使用し、整色剤を表2に示す通り変更する以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物ならびに未延伸フィルムを得た。特性を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
ここで、表2中の、TBTはテトラ−n−ブトキシチタン、TMTはトリメリットチタン、Sbは三酸化アンチモン、PAは正リン酸、Pはリン元素量(ppm)、Tiはチタン元素量(ppm)、IVは固有粘度(dl/g)、DEGはジエチレングリコール量(wt%)、COOHは末端カルボキシル基量(eq/ton)、Colは色調、LはL値、aはa値、bはb値をそれぞれ示す。
【0056】
表2からも明らかなように実施例1〜3は、混合染料を加えなかった比較例1に比べ、熱安定性と色相とに優れ、しかも異物も少ないものであった。なお、比較例6,7を除く全ての水準で比重が5以上の重金属は検出されなかった。また、比較例6,7においては、混合染料を用いることで色相は変化しているが、耐熱性は改良されておらず、このことから、触媒としてのチタン化合物と混合染料との併用が、耐熱性を改良していることが確認できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
140℃で2時間熱処理後のL***表色系におけるカラーL*値が70以上、カラーa*値が−6〜0、カラーb*値が−2〜6の範囲にあるポリエステル組成物であって、
該組成物は、該組成物の重量を基準として、多芳香族環系青色染料と多芳香族環系紫色染料とからなる混合染料を0.1〜10重量ppm含有し、チタン化合物をチタン元素量(Ti)換算で1〜30重量ppm含有し、かつリン化合物をリン元素量(P)換算で1〜80重量ppm含有し、そして
該混合染料は、多芳香族環系青色染料と多芳香族環系紫色染料との重量比が90:10〜40:60の範囲にあり、かつ窒素雰囲気下中、昇温速度10℃/分の条件で熱天秤にて測定した重量減少開始温度が350℃以上であることを特徴とするポリエステル組成物。
【請求項2】
リン化合物が、ホスホネート化合物である請求項1記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
ポリエステルの重縮合反応触媒が、下記一般式(I)で表わされる化合物、または下記一般式(I)で表わされる化合物と下記一般式(II)で表わされる芳香族多価カルボン酸もしくはその酸無水物との反応生成物である請求項1記載のポリエステル樹脂組成物。
【化1】

(上記式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれアルキル基又はフェニル基を示し、mは1〜4の整数を示す。)
【化2】

(上記式中、qは2〜4の整数を表わす。)
【請求項4】
リン元素量(P)とチタン元素量(Ti)との重量比(P/Ti)が、0.1〜10の範囲にある請求項1記載のポリエステル組成物。
【請求項5】
組成物中のジエチレングリコール量と末端カルボキシル基量とが、下記式を満足する請求項1記載のポリエステル組成物。
0.5≦DEG≦2.0 ・・・(1)
5≦COOH≦40 ・・・(2)
(上記式中、DEGはジエチレングリコール濃度(wt%)、COOHはカルボキシル末端基濃度(eq/ton)を示す。)
【請求項6】
リン元素量(P)と混合染料との重量比が、0.1〜30の範囲にある請求項1記載のポリエステル組成物。
【請求項7】
窒素雰囲気下中、300℃で20分間溶融処理したときの、処理前後のポリエステルの固有粘度差が0.001〜0.01dl/gの範囲にある請求項1記載のポリエステル組成物。
【請求項8】
比重が5以上の重金属元素の含有量が、ポリエステル組成物の重量を基準として、高々10重量ppm以下である請求項1記載のポリエステル組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のポリエステル組成物からなることを特徴とするポリエステル成形品。
【請求項10】
ポリエステルフィルムである請求項9記載のポリエステル成形品。
【請求項11】
ポリエステル繊維である請求項9記載のポリエステル成形品。

【公開番号】特開2006−152139(P2006−152139A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−345893(P2004−345893)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】