説明

ポリエステル繊維布帛の面ファスナーによる擦過に対する耐性を向上させる方法、及び車輌内装材の製造方法

【課題】地糸切れ抑制、難燃性及び摩擦堅牢度の点で車輌内装材に求められるレベルを維持しつつ、ポリエステル繊維布帛の面ファスナーによる擦過に対する耐性を向上させることが可能な方法を提供すること。
【解決手段】水及びこれに分散した処理剤を含有する水分散液をポリエステル繊維布帛に付着させ、当該ポリエステル繊維布帛に付着した前記水分散液を乾燥する工程を備え、処理剤として、ポリウレタン樹脂と、ポリイソシアネート化合物、ポリカルボジイミド化合物及びオキサゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋剤と、平滑剤と、を併用する、ポリエステル繊維布帛の面ファスナーによる擦過に対する耐性を向上させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル繊維布帛の面ファスナーによる擦過に対する耐性を向上させる方法、及び車輌内装材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車輌の内装においては、カーシート等の車輌内装材が用いられる。従来、車輌内装材としてはポリエステル繊維布帛を繊維基材として有する繊維製品が利用されている。例えば、モケット等のポリエステル繊維織物や、トリコット及びジャージ等のポリエステル繊維編物が車輌内装材用の繊維製品を構成する繊維基材として利用されている。特に最近は、製造コストの利点から、ポリエステル繊維のジャージ編物が多用されてきている。しかし、ジャージ編物を用いた繊維製品の場合、縫製の際の針と繊維基材中の糸との間の摩擦が大きいと地糸の糸切れが発生し、この糸切れが発端となって繊維製品が破れやすくなるという問題がある。
【0003】
従来、繊維基材を用いた繊維製品における糸切れを防止する技術として、例えば、ワックス、シリコーンオイル及び界面活性剤からなる組成物を用いる方法(特許文献1)、ジメチルシリコーン乳化物を立毛調編物に含浸処理した後、その裏面にアクリル酸エステル樹脂、ポリウレタン樹脂等を付与する方法(特許文献2)、ポリカーボネート系ポリオールを用いて合成されるポリウレタン樹脂を布帛表面に露出している繊維に被覆して模様付ける方法(特許文献3)が開示されている。
【特許文献1】特開昭59−199871号公報
【特許文献2】特開昭63−282380号公報
【特許文献3】特開2006−207087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の処理方法を、単にポリエステル繊維布帛を用いた車輌内装材に転用した場合、耐摩擦性や地糸切れ抑制の点で満足できるものではなかった。更に最近、衣料において面ファスナーが多く用いられようになってきており、車輌乗降時にその面ファスナーのフックが車輌内装材組織の間に入り込み、毛羽立ちや糸切れを誘発するといった新たな問題が発生している。すなわち、従来の処理方法では、ポリエステル繊維布帛の面ファスナーによる擦過に対する耐性の点で、車輌内装材として用いられるために十分なレベルを達成することができなかった。
【0005】
本発明者らによる詳細な検討によれば、面ファスナーとの接触によって擦過されると、通常の磨耗と異なり起毛に近い条件で布帛が磨耗されるため、従来の処理方法では面ファスナーのフックによる糸の引き出しが一層助長され、面ファスナーによる擦過に対する耐性が著しく低下する事態となっている。更に、車輌内装材に要求される難燃性を付与しようとすると、耐摩耗性が更に低下する傾向があるといった問題がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、地糸切れ抑制、難燃性及び摩擦堅牢度の点で車輌内装材に求められるレベルを維持しつつ、ポリエステル繊維布帛の面ファスナーによる擦過に対する耐性を向上させることが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリウレタン樹脂と特定の架橋剤と平滑剤とを併用してポリエステル繊維布帛を処理することにより、地糸切れ抑制、難燃性及び摩擦堅牢度の点で車輌内装材に求められるレベルを維持しつつ、ポリエステル繊維布帛の面ファスナーによる擦過に対する耐性を向上させることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、水及びこれに分散した処理剤を含有する水分散液をポリエステル繊維布帛に付着させ、当該ポリエステル繊維布帛に付着した水分散液を乾燥する工程を備え、処理剤として、ポリウレタン樹脂と、ポリイソシアネート化合物、ポリカルボジイミド化合物及びオキサゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋剤と、平滑剤と、を併用する、ポリエステル繊維布帛の面ファスナーによる擦過に対する耐性を向上させる方法である。
【0009】
別の側面において、本発明は車輌内装材の製造方法に関する。本発明に係る車輌内装材の製造方法は、上記本発明に係る方法によりポリエステル繊維布帛の面ファスナーによる擦過に対する耐性を向上させる工程を備える。
【0010】
上記本発明に係る製造方法によれば、地糸切れ抑制、難燃性及び摩擦堅牢度の点で車輌内装材に求められるレベルを有するとともに面ファスナーによる擦過に対する十分な耐性を有する車輌内装材を得ることが可能である。
【0011】
更に別の側面において、本発明は車輌内装材に関する。本発明に係る車輌内装材は、上記本発明に係る製造方法により得られるものであり、地糸切れ抑制、難燃性及び摩擦堅牢度の点で車輌内装材に求められるレベルを有するとともに面ファスナーによる擦過に対する十分な耐性を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、地糸切れ抑制、難燃性及び摩擦堅牢度の点で車輌内装材に求められるレベルを維持しつつ、ポリエステル繊維布帛の面ファスナーによる擦過に対する耐性を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本実施形態に係る製造方法は、ポリエステル繊維布帛を繊維基材として有する繊維製品である車輌内装材を製造するための方法に関する。当該製造方法は、水及びこれに分散した処理剤を含有する水分散液をポリエステル繊維布帛に付着させ、当該ポリエステル繊維布帛に付着した水分散液を乾燥する工程を含む方法によりポリエステル繊維布帛の面ファスナーによる擦過に対する耐性を向上させる工程を備える。ポリエステル繊維布帛を処理するための処理剤としては、ポリウレタン樹脂と、ポリイソシアネート化合物、ポリカルボジイミド化合物及びオキサゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋剤と、平滑剤とが併用される。
【0015】
ポリウレタン樹脂としては、水分散性ポリウレタン樹脂が好適に用いられる。この水分散性ポリウレタン樹脂は、例えば、イソシアネート基末端プレポリマーを鎖延長剤と水中で反応させて得られる。この場合、イソシアネート基末端プレポリマーは、(a)有機ポリイソシアネート化合物と(b)高分子量ポリオールと(c)カルボキシル基又はカルボキシレート基及び少なくとも2個の活性水素を有する化合物とから得られるプレポリマーであることが好ましい。また、好ましくは、鎖延長剤は水溶性ポリアミン、ヒドラジン及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。このような組み合わせで得られるポリウレタン樹脂を用いることにより、面ファスナーによる擦過に対する耐性をより一層向上させることができる。
【0016】
(a)有機ポリイソシアネート化合物は、2以上のイソシアネート基を有する有機化合物であれば特に制限なく用いられる。ただし、イソシアネート基がブロック化剤により保護されたブロック化イソシアネート化合物を(a)成分として用いることもできる。
【0017】
有機ポリイソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ジイソシアネート化合物、脂環式ジイソシアネート化合物又は芳香族ジイソシアネート化合物が用いられる。脂肪族ジイソシアネートの好適な具体例としては、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート及びリジンジイソシアネートが挙げられる。脂環式ジイソシアネート化合物の好適な具体例としては、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート及びノルボルナンジイソシアネートが挙げられる。芳香族ジイソシアネートの好適な具体例としては、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート及びキシリレンジイソシアネートが挙げられる。これらの中で、紫外線や酸化窒素ガスによる変色が少なく、イソシアネート基と水との反応が遅く水分散液を得るのに有利である観点から、脂肪族ジイソシアネート化合物及び脂環式ジイソシアネート化合物を好適に用いることができる。その中でも特に、イソホロンジイソシアネート及びジシクロヘキシルメタンジイソシアネートが好適に用いられる。これらの有機ポリイソシアネート化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0018】
(b)成分の高分子量ポリオールは、2以上の水酸基を有し、400〜5000の数平均分子量を有する化合物である。2つの水酸基を有する高分子量ポリオールとしては、例えば、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール及びダイマージオールが挙げられる。
【0019】
ポリエステルジオールの好適な具体例としては、ポリエチレンアジペートジオール、ポリエチレンプロピレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリジエチレンアジペートジオール、ポリエチレンテレフタレートジオール、ポリエチレンサクシネートジオール、ポリブチレンサクシネートジオール、ポリエチレンセバケートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリ−ε−カプロラクタムジオール、ポリエチレンイソフタレートジオール及びポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンアジペート)のような脂肪族系ポリエステルジオールや、ポリヘキサメチレンイソフタレートジオール、3−メチル−1,5−ペンタンイソフタレートジオール及び3−メチル−1,5−ペンタンテレフタレートジオールのような芳香族系ポリエステルジオールが挙げられる。
【0020】
ポリエーテルジオールの好適な具体例としては、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレングリコール及びポリオキシエチレン・プロピレングリコールが挙げられる。
【0021】
ポリカーボネートジオールの好適な具体例としては、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、3−メチル−1,5−ペンタンカーボネートジオール及びポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンカーボネートジオールが挙げられる。
【0022】
ダイマージオールの好適な具体例としては、重合脂肪酸を還元して得られるジオールを主成分とするものが挙げられる。この重合脂肪酸は、例えば、オレイン酸、リノール酸などの炭素数18の不飽和脂肪酸、乾性油脂肪酸、半乾性油脂肪酸又はこれらの低級モノアルコールエステルを、触媒の存在下又は不存在下に、ディールスアルダー型の二分子重合反応させて得られる。種々のタイプの重合脂肪酸が市販されているが、代表的なものとしては、炭素数18のモノカルボン酸0〜5質量%、炭素数36のダイマー酸70〜98質量%及び炭素数54のトリマー酸0〜30質量%からなるものがある。
【0023】
以上挙げたものをはじめとする高分子量ポリオールは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。特に、耐加水分解性や耐光性、耐熱性の観点から、ポリカーボネートジオール及び芳香族系ポリエステルジオールが好適に用られる。
【0024】
(c)成分のカルボキシル基又はカルボキシレート基及び少なくとも2個の活性水素を有する化合物は、活性水素を有する官能基を、カルボキシル基とは別に有する化合物である。(c)成分の化合物がカルボキシレート基を有している場合、そのカルボキシレート基はカルボン酸塩を形成する。(c)成分の好適な具体例としては、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールヘプタン酸及びそれらのアンモニウム塩、有機アミン塩又はアルカリ金属塩が挙げられる。有機アミン塩を構成する有機アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルジエタノールアミン及びN,N−ジエチルエタノールアミンが挙げられる。アルカリ金属塩を構成するアルカリ金属としてはナトリウム及びカリウムが挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。なお、カルボキシル基を有する化合物を用いてイソシアネート基末端プレポリマーを生成させた後、カルボキシル基を中和によりアンモニウム塩、有機アミン塩及びアルカリ金属塩等のカルボン酸塩に変換してもよい。
【0025】
(c)成分の化合物に由来するカルボキシル基又はカルボキシレート基のポリウレタン樹脂に対する含有割合は、0.5〜2質量%であることが好ましい。この含有割合が0.5質量%未満では乳化が困難になったり、乳化安定性が十分でなくなったりする傾向にあり、2質量%を超えるとポリウレタン樹脂の親水性が高くなって摩擦堅牢度向上の効果が低下したり、水分散液の粘度が高くなって取扱いにくくなったりする傾向にある。
【0026】
イソシアネート基末端プレポリマーを合成する際、上記(a)、(b)及び(c)成分とともに、(d)成分の鎖伸長剤を反応させてもよい。この鎖伸長剤としては、イソシアネート基と反応する官能基を2個有する化合物が用いられる。具体的には、低分子量ポリオール又は低分子量ポリアミンが好適に用いられる。低分子量ポリオール及び低分子量ポリアミンは炭素数10以下程度の化合物である。低分子量ポリオールの好適な具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール及びソルビトールが挙げられる。低分子量ポリアミンの好適な具体例としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ジエチレントリアミン及びトリエチレンテトラミンが挙げられる。これらの鎖伸長剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0027】
(a)有機ポリイソシアネートと(b)高分子量ポリオールと(c)カルボキシル基又はカルボキシレート基及び少なくとも2個の活性水素を有する化合物とを、あるいは、(a)有機ポリイソシアネートと(b)高分子量ポリオールと(c)カルボキシル基又はカルボキシレート基及び少なくとも2個の活性水素を有する化合物と(e)鎖伸長剤とを用いて、イソシアネート基末端プレポリマーを生成させる方法は特に限定されず、当業者には理解されるように、通常行われている方法が適宜採用される。
【0028】
例えば、ワンショット法(1段式)又は多段式のイソシアネート重付加反応法によって、温度40〜150℃で反応を行うことができる。この際、必要に応じて、ジブチル錫ジラウレート、スタナスオクトエート、ジブチル錫−2−エチルヘキソエート、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリンなどの反応触媒、あるいは、リン酸、リン酸水素ナトリウム、パラトルエンスルホン酸などの反応抑制剤を添加することができる。また、反応中又は反応終了後に、イソシアネート基と反応しない有機溶媒を添加してもよい。この有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、酢酸エチル及び酢酸ブチルが挙げられる。これらの有機溶媒の中で、メチルエチルケトン、トルエン及び酢酸エチルが特に好ましい。これらの有機溶媒は、プレポリマーの乳化分散及び鎖延長後に減圧下で加熱することで容易に除去することができる。生成するプレポリマーが有するカルボキシル基の一部又は全部をアンモニア、有機アミン等との反応により中和して中和物を生成させ、これを鎖延長剤と反応させてポリウレタン樹脂を生成させてもよい。
【0029】
イソシアネート基末端プレポリマーを製造する反応に際しては、NCO/OH(モル比)が好ましくは1.1/1.0〜1.7/1.0、より好ましくは1.2/1.0〜1.5/1.0の範囲となるように各原料の仕込み比が調整される。
【0030】
反応終了時におけるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー中の遊離イソシアネート基の含有割合は、イソシアネート基末端プレポリマー全体に対して0.8〜5.0質量%であることが好ましい。遊離イソシアネート基の含有割合が0.8質量%未満であると、反応時の粘度が著しく上昇するために有機溶媒が多量に必要となって製造コスト上昇の原因となったり、乳化分散が困難になったり傾向がある。一方、遊離イソシアネート基の含有割合が5.0質量%を超えると、乳化分散後と鎖延長剤による鎖伸長反応後のバランスが大きく変化することになり、製品の経時貯蔵安定性や加工安定性に支障をきたす傾向がある。
【0031】
ポリウレタン樹脂は、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを水に乳化分散した反応液に、水溶性ポリアミン、ヒドラジン及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の鎖延長剤を添加して、水中で鎖伸長反応を進行させて得られる。この場合、ポリウレタン樹脂は水分散液の状態で得られる。
【0032】
より具体的には、例えば、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーと必要に応じて乳化剤とを混合し、ホモミキサーやホモジナイザーなどを用いて水に乳化分散し、その後鎖延長剤を添加する。乳化分散は、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基と水との反応を極力抑えるため、室温から40℃の温度範囲で行うことが好ましい。リン酸、リン酸水素ナトリウムなどの反応抑制剤を反応液に添加してもよい。
【0033】
上記乳化剤としては、従来公知のものでよく、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びそれらの脂肪酸エステル又は芳香族カルボン酸エステル;ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーなどのポリオキシアルキレングリコール類及びそれらの脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルなどのポリオキシアルキレンエーテル誘導体及びそれらの脂肪酸エステルなどの非イオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレングリコール類又はポリオキシアルキレンエーテル誘導体の硫酸エステル化物、芳香族スルホン酸類などのアニオン界面活性剤を使用することができる。これらの乳化剤の使用量は、良好な摩擦堅牢度を確保するために、ウレタンプレポリマーに対して5質量%以下であることが好ましい。
【0034】
鎖延長剤として用いられる水溶性ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ヒドラジン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ジエチレントリアミン及びトリエチレンテトラミンが挙げられる。水溶性ポリアミンの誘導体には、第一級アミンを2個有する化合物とモノカルボン酸とを反応させて得られるアミドアミン、及び第一級アミンを2個有する化合物のモノケチミンが含まれる。
【0035】
鎖延長剤として用いられるヒドラジンとしては、例えば、2以上のヒドラジノ基を有する炭素数2〜4の脂肪族の水溶性ジヒドラジン化合物である1,1’−エチレンジヒドラジン、1,1’−トリメチレンジヒドラジン及び1,1’−(1,4−グチレン)ジヒドラジンや、炭素数2〜10のジカルボン酸のジヒドラジド化合物であるシュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド及びイタコン酸ジヒドラジドが挙げられる。これら鎖延長剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0036】
イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーと鎖延長剤との反応は、典型的には、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーと鎖延長剤とを混合し、20〜50℃の温度で30〜120分間反応させることにより完結する。このとき、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー中の遊離イソシアネート基に対し、0.9〜1.1当量のアミノ基又はヒドラジノ基を含む量の鎖延長剤を用いることが好ましい。
【0037】
架橋剤としては、ポリイソシアネート化合物、ポリカルボジイミド化合物及びオキサゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が用いられる。これらはいずれも水分散性であることが好ましい。
【0038】
水分散性ポリイソシアネート化合物は、例えば、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート及びこれらの誘導体から選ばれる原料イソシアネートに対して、活性水素を有する親水分散性鎖及び、場合により親油性鎖を付加させることにより得られる。親水性分散鎖としてはアルキレンオキサイド鎖が挙げられる。ブロック化剤によりイソシアネート基を保護したブロック化イソシアネート化合物を水分散性ポリイソシアネートとして用いることもできる。
【0039】
水分散性ポリイソシアネート化合物を得るために用いられる芳香族ポリイソシアネートに特に制限はなく、例えば、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート又はジフェニルメタンジイソシアネートが用いられる。脂肪族ポリイソシアネートにも特に制限はなく、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート又はリジンジイソシアネートが用いられる。脂環族ポリイソシアネートにも特に制限はなく、例えば、イソホロンジイソシアネート又は水添キシリレンジイソシアネートが用いられる。これらのイソシアネートの中で、ブラックのような極めて濃色で染色された布帛に対しては、芳香族系ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを用いることができる。脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートは、処理後に製品が黄変することがないことから、薄い染色の布帛に対して特に好適に用いることができる。
【0040】
水分散性ポリイソシアネートを得るために用いられるポリイソシアネートの誘導体は、2以上のイソシアネート基を有する化合物であれば特に制限はなく、例えば、ビウレット構造、イソシアヌレート構造、ウレタン構造、ウレトジオン構造、アロファネート構造、3量体構造などを有するポリイソシアネートやトリメチロールプロパンの脂肪族イソシアネートのアダクト体が挙げられる。
【0041】
アルキレンオキサイド鎖を有する水分散性ポリイソシアネート化合物の場合、アルキレンオキサイド鎖の繰り返し単位数は、平均して5〜50個であることが好ましく、平均して10〜30個であることがより好ましい。アルキレンオキサイド鎖の繰り返し単位数が5個未満であると、水分散性ポリイソシアネート化合物の自己乳化性が不十分となることがある。アルキレンオキサイド鎖の繰り返し単位数が50個を超えると、水分散性ポリイソシアネート化合物の結晶性が高くなって固化する可能性が高くなる。
【0042】
アルキレンオキサイド鎖を構成するアルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド及びブチレンオキサイドが挙げられる。これらはそれぞれ単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。アルキレンオキサイド鎖においては、70質量%以上がエチレンオキサイド単位であるのが好ましい。アルキレンオキサイド鎖を導入するために用いられる化合物としては、例えば、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、及びエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのランダム又はブロック共重合体のモノアルキルエーテルが挙げられる。
【0043】
ポリイソシアネートに結合されるアルキレンオキサイド鎖の割合は、水分散性ポリイソシアネート化合物100質量部に対して2〜50質量部であることが好ましく、5〜30質量部であることがより好ましい。アルキレンオキサイド鎖の量が水分散性ポリイソシアネート化合物100質量部に対して2質量部未満であると、水分散性ポリイソシアネート化合物の界面張力を低下させる効果が十分ではなく、自己乳化性が不足するおそれがある。アルキレンオキサイド鎖の量が水分散性ポリイソシアネート化合物100質量部に対して50質量部を超えると、水分散性ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基と水との反応性が高くなりすぎて不安定になるおそれがある。
【0044】
水分散性ポリイソシアネート化合物がブロック化イソシアネート化合物である場合、ブロック化剤には特に制限はない。ブロック化剤としては、例えば、第二級アルコール、第三級アルコール、活性メチレン化合物、フェノール化合物、オキシム化合物、ラクタム化合物、又は重亜硫酸塩を用いることができる。第二級アルコールとしては、例えば、sec−ブチルアルコールが挙げられる。第三級アルコールとしては、例えば、t−ブチルアルコールが挙げられる。活性メチレン化合物としては、例えば、マロン酸エチル及びアセト酢酸エチルが挙げられる。フェノール化合物としては、例えば、フェノール及びm−クレゾールが挙げられる。オキシム化合物としては、例えば、アセトオキシム、メチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム及びジイソブチルケトオキシムが挙げられる。ラクタム化合物としては、例えば、ε−カプロラクタムが挙げられる。重亜硫酸塩としては、例えば、重亜硫酸ナトリウム及び重亜硫酸カリウムが挙げられる。
【0045】
以上のような水分散性ポリイソシアネート化合物は、イソシアネート基の高い反応性を保持したまま、水溶液中でも長時間安定して使用することができ、また水への自己乳化性に優れる。そのため、ポリウレタン樹脂とともに水分散液の状態でポリエステル繊維布帛に付着させるために好適に用いることができる。
【0046】
ポリカルボジイミド化合物は、2以上のカルボジイミド基を有する化合物であれば、特に制限なく用いられる。水分散性カルボジイミド化合物としては、例えば、ポリイソシアネート化合物に、ヒドロキシル基及びアミノ基などのイソシアネート基と反応し得る官能基を1個有する化合物を、カルボジイミド化触媒の存在下で反応させて得られるポリカルボジイミド系樹脂を使用することができる。ポリカルボジイミド系樹脂を得るために用いられるポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネートが挙げられる。イソシアネート基と反応し得る官能基を1個有する化合物としては、例えば、ポリエチレングリコールのモノアルキルエーテル、及びポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールのランダム又はブロック共重合物のモノアルキルエーテルが挙げられる。
【0047】
水分散性オキサゾリン化合物としては、オキサゾリニル基を2個以上有する化合物を用いることができる。例えば、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンとアクリル酸エチルとメタクリル酸メチルとの共重合物、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンとスチレンとの共重合物、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンとスチレンとアクリロニトリルとの共重合物、及び2−イソプロペニル−2−オキサゾリンとスチレンとアクリル酸ブチルとジビニルベンゼンとの共重合物を水分散性オキサゾリン化合物として用いることができる。
【0048】
これら架橋剤は単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。特に、耐摩耗性向上の観点から、ポリカルボジイミド化合物と、ポリイソシアネート化合物との組合せが特に好適である。
【0049】
平滑剤としては、繊維基材の平滑剤として通常用いられているものを適宜用いることができる。具体的には、ワックス又はシリコーン(好ましくはワックス)を含む平滑剤を用いることができる。これらは、通常、水中に乳化分散した乳化物の状態で用いられる。
【0050】
ワックスとしては、例えば、蜜蝋、鯨蝋及びセラック蝋等の動物由来のワックス、カルナバ蝋、木蝋、米糠蝋及びキャンデリラワックス等の植物由来のワックス、パラフィンワックス及びマイクロクリスタリンワックス等の石油由来のワックス、モンタンワックス及びオゾケライト等の鉱物由来のワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、油脂系合成ワックス(エステル、ケトン類、アミド)及び水素化ワックスなどの合成ワックス、酸化ワックス、配合ワックス(エチレン酢ビ共重合体、ポリエチレン、合成ロジンなどの合成樹脂をブレンドしたもの)及び変性モンタンワックス等の変性ワックスが挙げられる。
【0051】
シリコーンとしては、例えば、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン及びジフェニルシリコーンが挙げられる。
【0052】
これら平滑剤の中で、難燃性や摩擦堅牢度の低下を少なくすることができるという観点から、融点50℃〜150℃のパラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ワックス、カルナバ蝋及びモンタンワックスが好適に用いられる。更にこれらの中でも、パラフィンワックス又は酸化ワックスが特に好ましい。
【0053】
ワックス又はシリコーンを水中に乳化分散して乳化物を製造する方法は特に制限されない。例えば、ワックス又はシリコーンと乳化剤を混合し、ホモミキサーやホモジナイザーなどを用いて水に乳化分散することができる。乳化剤は特に制限はなく、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びそれらの脂肪酸エステル又は芳香族カルボン酸エステル;ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーなどのポリオキシアルキレングリコール類及びそれらの脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルなどのポリオキシアルキレンエーテル誘導体及びそれらの脂肪酸エステルなどの非イオン界面活性剤;前記ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレングリコール類又はポリオキシアルキレンエーテル誘導体の硫酸エステル化物、芳香族スルホン酸類などのアニオン界面活性剤を使用することができる。
【0054】
処理剤を含有する水分散液をポリエステル繊維布帛に付着させる方法は特に制限はなく、例えばパディング法、パッド法及びスプレー法のような公知の方法で行うことができる。処理剤として併用するポリウレタン樹脂、架橋剤及び平滑剤の各成分は、ポリエステル繊維布帛に同時に付着させてもよいし、別々に付着させてもよい。別々に付着させる場合は、好ましくは、ポリウレタン樹脂及び架橋剤を含有する第1の水分散液をポリエステル繊維布帛に付着させ、ポリエステル繊維布帛に付着している第1の水分散液を乾燥する工程と、その後、平滑剤を含有する第2の水分散液をポリエステル繊維布帛に付着させ、ポリエステル繊維布帛に付着している第2の水分散液を乾燥する工程と、を含む工程によってポリエステル繊維布帛が処理される。このような2段階の工程を経てポリエステル繊維布帛を処理することにより、面ファスナーによる擦過に対する耐性の向上効果がより一層顕著なものとなる。
【0055】
ポリエステル繊維布帛に付着している水分散液を乾燥する方法は、自然乾燥や加熱乾燥などの通常の方法によって行うことができる。水分散液の乾燥により、大部分の水分が除去されるとともに、ポリウレタン樹脂が架橋剤との反応により架橋されてポリエステル繊維表面を覆う被膜が形成される。処理効率の向上の観点、及び、面ファスナーによる擦過に対する耐性を向上させる効果の向上の観点から、加熱により水分散液を乾燥させることが好ましい。より具体的には、120〜180℃で30秒〜3分の加熱により水分散液を乾燥することが好ましい。特に、ブロック化イソシアネート化合物を架橋剤として用いる場合は、150〜180℃で30秒〜2分の加熱により水分散液を乾燥することがより好ましい。
【0056】
ポリエステル繊維布帛に付着させるポリウレタン樹脂の量は、特に制限されないが、通常はポリエステル繊維染色布帛100質量部に対して0.2〜5質量部程度が好ましい。また、架橋剤の量は、通常はポリウレタン樹脂100質量部に対して1〜50質量部程度が好ましい。平滑剤の量は、固形分換算で、通常はポリエステル繊維染色布帛に対して0.05〜3質量程度が好ましい。
【0057】
ポリウレタン樹脂、架橋剤及び平滑剤を含む処理剤に加えて、難燃性を更に向上させるために、リン系難燃剤を更にポリエステル繊維布帛に付着させてもよい。リン系難燃剤としては、疎水性リン系難燃剤、リン酸塩系難燃剤等が挙げられる。白化現象などの際付きを防止する効果を高めることができるという観点から、疎水性リン系難燃剤を特に好適に用いることができる。
【0058】
疎水性リン系難燃剤としては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート)トリス−(t−ブチルフェニル)ホスフェート及びトリス−(イソプロピルフェニル)ホスフェート等の芳香族リン酸エステル;レゾルシノールビス(ジフェニル)ホスフェート、レゾルシノールビス(ジクレジル)ホスフェート、レゾルシノールビス(ジキシレニル)ホスフェート及びビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)等の芳香族縮合リン酸エステル;10−ベンジル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−メチル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−フェニル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、エチル[3−(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド−10−イル)メチル]スクシンイミド及びフェニル[3−(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド−10−イル)メチル]スクシンイミド等のフェナントレン誘導体;トリフェノキシトリメトキシシクロトリホスファゼン、テトラフェノキシテトラメトキシシクロテトラホスファゼン及びヘキサフェノキシヘキサメトキシシクロヘキサホスファゼン等のホスファゼン化合物;アミノジフェニルホスフェート、メチルアミノジフェニルホスフェート、ジメチルアミノジフェニルホスフェート、エチルアミノジフェニルホスフェート、ジエチルアミノジフェニルホスフェート、プロピルアミノジフェニルホスフェート、ジプロピルアミノジフェニルホスフェート、オクチルアミノジフェニルホスフェート、ジフェニルウンデシルアミノホスフェート、シクロヘキシルアミノジフェニルホスフェート、ジシクロヘキシルアミノジフェニルホスフェート、アリルアミノジフェニルホスフェート、アニリノジフェニルホスフェート、ジ−o−クレジルフェニルアミノホスフェート、ジフェニル(メチルフェニルアミノ)ホスフェート、ジフェニル(エチルフェニルアミノ)ホスフェート、ベンジルアミノジフェニル及びモルホリノジフェニルホスフェートナド等のリン酸アミド化合物が挙げられる。リン酸塩系難燃剤としては、例えば、リン酸アンモニウム、リン酸グアニジン、リン酸メラミン、ポリリン酸カルバメート及びポリリン酸アンモニウムが挙げられる。これらは通常、水中に分散された乳化物の状態で用いられる。
【0059】
リン系難燃剤の乳化物を調製する方法は特に制限されない。例えば、リン系難燃剤と乳化剤を混合し、ホモミキサーやホモジナイザー、コロイドミル、サンドグラインダー、ビーズミル、ボールミル、アトライター等を用いて水に乳化分散する方法によりリン系難燃剤の乳化物が調製される。好適な乳化剤としてはワックスの乳化で用いられる乳化剤と同様なものが挙げられる。リン系難燃剤は、例えば、リン系難燃剤の乳化分散液をポリエステル繊維布帛に付着させ、ポリエステル繊維布帛に付着している乳化分散液を乾燥する方法によりポリエステル繊維布帛に付着させることができる。
【0060】
リン系難燃剤を付着させる工程は、ポリウレタン樹脂、架橋剤及び平滑剤を付着させる工程の前又は後に行ってもよいし、同時に行ってもよい。好ましくは、ポリエステル繊維布帛を染色する際に染色処理液中にリン系難燃剤を添加して染料と同時にリン系難燃剤をポリエステル繊維布帛に付着させ、その後、ポリウレタン樹脂、架橋剤及び平滑剤を染色されたポリエステル繊維布帛に付着させる。なお、これらを同時に付着させる場合には、ポリウレタン樹脂、架橋剤及び平滑剤のいずれかを含む水分散液中にリン系難燃剤が添加される。
【0061】
ポリエステル繊維布帛に付着させるリン系難燃剤の量は、特に制限されないが、通常はポリエステル繊維布帛100質量部に対して0.1〜3重量部程度が好ましい。
【0062】
ポリエステル繊維布帛の種類は特に制限されないが、ジャージ編物は面ファスナーで擦過されたときの毛羽立ちや糸切れが生じ易いため、ジャージ編物を用いる場合に本発明による方法が特に有用である。
【0063】
ポリエステル繊維布帛は、通常、所定の染料を用いて染色されたものが用いられる。ポリエステル繊維布帛を構成するポリエステル繊維は特に限定されない。例えば、レギュラーポリエステル繊維、カチオン可染ポリエステル繊維、再生ポリエステル繊維、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0064】
ポリエステル繊維と他の繊維とを混紡させた複合繊維をポリエステル繊維布帛に用いてもよい。この場合に組合わせられる他の繊維としては、綿、麻、絹及び羊毛のような天然繊維、レーヨン及びアセテートのような半合成繊維、ナイロン、アクリル及びポリアミドのような合成繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミックス繊維及び金属繊維のような無機繊維、これら2種以上の組み合わせが挙げられる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0066】
(1)ポリウレタン樹脂の合成
合成例1
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、3−メチル−1,5−ペンタンジオールテレフタレート(平均分子量2000)241.2g、ジメチロールブタン酸13.4g、ジブチルチンジラウレート0.005g及びメチルエチルケトン143gを入れ、これらを均一に混合した。その後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート79.0gを加え、80℃で220分の加熱により反応を進行させて、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が2.3質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液をトリエチルアミン9.1gで中和してから別容器に移し、30℃以下で水670gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いて乳化分散させた。これにピペラジンの30%水溶液25.9gを添加後、90分間攪拌して、ポリウレタン樹脂を生成させた。次いで、ポリウレタン樹脂が分散した分散液を減圧下で50℃に加熱することによりメチルエチルケトンを除去して、ポリウレタン樹脂の水分散液(不揮発分35.0質量%)を得た。
【0067】
合成例2
ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(平均分子量2000)246.7g、ジメチロールブタン酸13.7g、ネオペンチルグリコール3.2g、ジブチルチンジラウレート0.005g及びメチルエチルケトン142gを合成例1で用いたものと同様な反応装置に入れ、これらを均一に混合した。その後、イソホロンジイソシアネート68.5gを加え、80℃で180分の加熱により反応を進行させて、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が1.6質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液をトリエチルアミン9.3gで中和してから別容器に移し、30℃以下で水675gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いて乳化分散させた。これにイソホロンジアミン7.3g、ジエチレントリアミン1.3及び水25gの混合溶液を添加後、90分間攪拌して、ポリウレタン樹脂を生成させた。次いで、ポリウレタン樹脂が分散した分散液を減圧下で50℃に加熱することによりメチルエチルケトンを除去して、ポリウレタン樹脂の水分散液(不揮発分35.0質量%)を得た。
【0068】
合成例3
3−メチル−1,5−ペンタンジオールイソフタレート(平均分子量2000)137.0g、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(平均分子量3000)115.1g、ジメチロールブタン酸12.8g、トリメチロールプロパン1.1g、ジブチルチンジラウレート0.005g及びメチルエチルケトン145gを合成例1で用いたものと同様な反応装置に入れ、これらを均一に混合した。その後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート71.8gを加え、80℃で250分の加熱により反応を進行させて、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が1.7質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液をトリエチルアミン8.7gで中和してから別容器に移し、30℃以下で水670gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いて乳化分散させた。これに水加ヒドラジン30%水溶液11.4gを添加後、90分間攪拌して、ポリウレタン樹脂を生成させた。次いで、ポリウレタン樹脂が分散した分散液を減圧下で50℃に加熱することによりメチルエチルケトンを除去して、ポリウレタン樹脂の水分散液(不揮発分35.0質量%)を得た。
【0069】
(2)平滑剤の調製
平滑剤A
155°Fパラフィンワックス100g及びステアリルアルコールエチレンオキサイド10モル付加物10gを混合容器に仕込み、内容物を90℃で溶融して均一に混合した。次に、混合物を撹拌しながら80〜90℃の水890gを徐々に添加した。さらに、80〜90℃の高温のままホモジナイザー(APV Gaulin製)を用いて乳化処理を行い、冷却して、乳化物の状態の平滑剤Aを得た。得られた平滑剤について、レーザ回折式粒度分布測定装置(SALD−1100、(株)島津製作所製)を用いて乳化物の平均粒子径を測定したところ、0.5μmであった。
【0070】
平滑剤B
130°Fパラフィンワックス100g及びステアリルアルコールエチレンオキサイド10モル付加物10gを混合容器に仕込み、内容物を90℃で溶融して均一に混合した。次に、混合物を撹拌しながら80〜90℃の水890gを徐々に添加した。さらに、80〜90℃の高温のままホモジナイザー(APV Gaulin製)を用いて乳化処理を行い、冷却して、乳化物の状態の平滑剤Bを得た。得られた平滑剤の乳化物としての平均粒子径は0.5μmであった。
【0071】
平滑剤C
攪拌機、温度計を備えた耐圧性容器に、酸化ポリエチレンワックス(酸価28、融点138℃)100g、ステアリルアルコールエチレンオキサイド15モル付加物15g、水酸化カリウム2.8g及び水882gを仕込み、150〜160℃で3時間攪拌して乳化を行い、冷却して乳化物の状態の平滑剤Cを得た。得られた平滑剤の乳化物としての平均粒子径は0.9μmであった。
【0072】
平滑剤D
ジメチルシリコーン(粘度5,000CS)100g、ラウリルアルコールエチレンオキサイド5モル付加物9g、ラウリルアルコールエチレンオキサイド10モル付加物9g及びラウリルアルコールエチレンオキサイド10モル付加物の硫酸エステルナトリウム塩2gを混合容器に仕込み、均一に混合した。次に、混合物を撹拌しながら水880gを徐々に添加し、さらにホモミキサー(特殊機化工業(株)製)を用いて乳化処理を行い、冷却して、乳化物の状態の平滑剤Dを得た。得られた平滑剤の乳化物としての平均粒子径は0.5μmであった。
【0073】
(3)難燃剤の調製
難燃剤A(疎水性リン系難燃剤)
トリスチレン化フェノールにエチレンオキサイド15モル付加物の硫酸エステルアンモニア塩20g及び水580gを混合容器に仕込み、均一に混合した。次に、ミキサーにて撹拌しながら10−ベンジル−9.10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド400gを添加し、予備分散した。予備分散後の分散液に対して、0.5mmガラスビーズを使用したビーズミルによって微粒子化処理を行い、水分散液の状態の難燃剤Aを得た。得られた難燃剤について、レーザ回折式粒度分布測定装置(SALD−1100、(株)島津製作所製)を用いて分散物としての平均粒子径を測定したところ、0.6μmであった。
【0074】
難燃剤B(疎水性リン系難燃剤)
トリスチレン化フェノールにエチレンオキサイド15モル付加物の硫酸エステルアンモニア塩20g及び水580gを混合容器に仕込み、均一に混合した。次に、ミキサーにて撹拌しながらレゾルシノールビス(ジキシレニル)ホスフェート400gを添加し、予備分散した。予備分散後の分散液に対して、0.5mmガラスビーズを使用したビーズミルによって微粒子化処理を行い、水分散液の状態の難燃剤Bを得た。得られた難燃剤の分散物としての平均粒子径は0.3μmであった。
【0075】
難燃剤C(リン酸塩系難燃剤)
リン酸グアニジン400g及び水600gを混合容器に仕込み、混合に均一して難燃剤Cを得た。
【0076】
(4)供試布の作製
供試布A
分散染料(Dianix Black HF−B)を8%owf、難燃剤Aを10%owf、分散均染剤(ニッカサンソルト(商品名)RM−340E、日華化学(株)製)を0.5g/L、酢酸を0.2cc/L含む染色処理液を準備した。この染色処理液をミニカラー染色機(テクサム技研社製)に投入し、浴比1:15、130℃で60分間の条件で目付360g/mのポリエステルジャージ編物に対して染色処理をした。すなわち、染色処理と同時にポリエステル繊維布帛にリン系難燃剤を付着させた。染色処理されたジャージ編物を、ソーピング剤サンモール(登録商標)RC−700E(日華化学(株))を1g/L、ハイドロサルファイトを2g/L、苛性ソーダを1g/L含む水溶液中で80℃に20分間加熱することにより還元洗浄し、更に湯洗、水洗した。その後、140℃で3分間の加熱により乾燥して、供試布Aを得た。
【0077】
供試布B
難燃剤Aに代えて難燃剤Bを使用したことの他は供試布Aと同様な操作を行って、供試布Bを得た。
【0078】
供試布C
難燃剤Aを使用しなかったことの他は供試布Aと同様な操作を行って、供試布Cを得た。
【0079】
(5)車輌内装材の評価方法
車輌内装材について、面ファスナーによる擦過に対する耐性(耐面ファスナー擦過性)、地糸切れ性、難燃性、摩擦堅牢度、際付きを以下の方法により評価した。
【0080】
耐面ファスナー擦過性
JIS L 0849:2004に準じた手順で、学振型摩擦堅牢度試験機(大栄化学精機製作所製)を用い、荷重2Nの条件で車輌内装材を面ファスナーにより20回摩擦した。面ファスナーはマジックテープA03800N((株)クラレ製面ファスナー)を使用した。摩擦後の車輌内装材の状態を目視で観察し、以下の5段階の評価基準に従って耐面ファスナー擦過性を判定した。
5級:全く外観に変化がないもの
4級:僅かに毛羽立ちが認められる。
3級:明らかに毛羽立ちが認められる。
2級:毛羽立ちがやや著しく、糸切れのないもの。
1級:毛羽立ちが著しく、糸切れのあるもの。
【0081】
地糸切れ性
車輌内装材を幅10cm、長さ55cmの大きさに2枚切り出してこれらを重ね合わせ、工業用ミシン(LU2−4410−BIT−CS、三菱電気(株)製)を用いて、ミシン針:#21Sボールポイント、縫い目ピッチ:3.5mm、縫い代:8.0mm、縫い糸:ポリエステル#8、ミシン回転数:2000r.p.m.、縫製長さ:0.5mの条件で、左右1カ所づつ縫い合わせた。そして、合計1m分の縫製部分において地糸切れが発生した箇所を数えた。地糸切れは少ないほど良い。
【0082】
摩擦堅牢度
JIS L 0849:2004に準じて、摩擦試験機(大栄化学精機製作所製)を用いて、荷重9Nの条件で車輌内装材を摩擦布により100回摩擦した。摩擦布として綿金巾を使用した。摩擦後の綿金巾の汚染度と、汚染用グレースケールとの比較に基づいて、以下の5段階の評価基準に従って摩擦堅牢度を評価した。評価は乾式及び湿式それぞれの条件で行った。
5級:汚染が認められない。
4級:汚染がわずかに認められる
3級:汚染が明瞭に認められる
2級:汚染がやや著しく認められる
1級:汚染が著しく認められる
【0083】
燃焼性
FMVSS−302法(自動車内装用品の安全基準)に記載されている方法に従って車輌内装材の燃焼距離、燃焼時間、燃焼速度を測定し、以下の判定基準に従って燃焼性を判定した。
不燃性 :A標線を越えて燃焼しないもの。燃焼距離はA標線前自消と表記。
自己消火性:A標線を越えて燃焼するが、A標線から燃焼距離が50mm未満で炎が自消し、且つ、燃焼速度が80mm/分未満のもの。
易燃性 :A標線を越えて燃焼し、燃焼速度が80mm/分以上、又はA標線を50mm以上越えて燃焼するもの。
【0084】
際付き
車輌内装材の表面に、90℃の純水を2mlを滴下し、室温で風乾した。次に、風乾して得られた試料の際付き(白化や濃色部の出現)の有無を目視で観察し、以下の3段階の評価基準に従って評価した。
A:際付きなし
B:やや際付きが認められる
C:明らかに際付きが認められる
【0085】
(6)車輌内装基材の作製
上述のポリウレタン樹脂水分散液、供試布、及び下記の4種の架橋剤を用いて車輌内装基材を作製した。
架橋剤1:水分散性ポリカルボジイミド(ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとポリオキシアルキレングリコールとヘキサメチレンジイソシアネートとから形成された縮合系ポリカルボジイミド)の水分散物
架橋剤2:水分散性オキサゾリン(オキサゾリニル基含有アクリルポリマー)の水分散物
架橋剤3:水分散性ポリイソシアネート(トリメチロールプロパンとポリオキシアルキレングリコールとヘキサメチレンジイソシアネートとから形成された縮合系ポリイソシアネート化合物、イソシアネート基含量17質量%)の水分散物
架橋剤4:水分散性ブロックドイソシアネート(トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとの反応により形成されるポリイソシアネートがメチルエチルケトオキシムによりブロック化されたブロック化ポリイソシアネート)の水分散物
【0086】
実施例1
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.4質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、供試布Aを絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理された供試布を150℃で5分間の加熱により乾燥した。その後、平滑剤Aが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にて供試布を更にパディング処理し、続いて150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装基材を得た。
【0087】
実施例2
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤3が0.3質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、供試布Aを絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理された供試布を150℃で5分間の加熱により乾燥した。その後、平滑剤Aが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にて供試布を更にパディング処理し、150℃で5分間乾燥して、車輌内装材を得た。
【0088】
実施例3
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.2質量%、架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、供試布Aを絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理された供試布を150℃で5分間の加熱により乾燥した。その後、平滑剤Aが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にて供試布を更にパディング処理し、150℃で5分間乾燥して、車輌内装材を得た。
【0089】
実施例4
合成例2で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.2質量%、架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、供試布Aを絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理された供試布を150℃で5分間の加熱により乾燥した。その後、平滑剤Aが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にて供試布を更にパディング処理し、150℃で5分間乾燥して、車輌内装材を得た。
【0090】
実施例5
合成例3で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤2が0.2質量%、架橋剤4が0.4質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、供試布Aを絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理された供試布を150℃で5分間の加熱により乾燥した。その後、平滑剤Aが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にて供試布を更にパディング処理し、150℃で5分間乾燥して、車輌内装材を得た。
【0091】
実施例6
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.2質量%、架橋剤4が0.4質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、供試布Aを絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理された供試布を150℃で5分間の加熱により乾燥した。その後、平滑剤Bが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にて供試布を更にパディング処理し、150℃で5分間乾燥して、車輌内装材を得た。
【0092】
実施例7
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.2質量%、架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、供試布Aを絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理された供試布を150℃で5分間の加熱により乾燥した。その後、平滑剤Cが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にて供試布を更にパディング処理し、150℃で5分間乾燥して、車輌内装材を得た。
【0093】
実施例8
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.2質量%、架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、供試布Aを絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理された供試布を150℃で5分間の加熱により乾燥した。その後、平滑剤Dが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にて供試布を更にパディング処理し、150℃で5分間乾燥して、車輌内装材を得た。
【0094】
実施例9
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.2質量%、架橋剤4が0.4質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、供試布Bを絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理された供試布を150℃で5分間の加熱により乾燥した。その後、平滑剤Aが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にて供試布を更にパディング処理し、150℃で5分間乾燥して、車輌内装材を得た。
【0095】
実施例10
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤2が0.2質量%、架橋剤3が0.2質量%、平滑剤Aが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、供試布Aを絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理された供試布を150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0096】
実施例11
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.2質量%、架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、供試布Cを絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理された供試布を150℃で5分間の加熱により乾燥した。その後、平滑剤Aが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にて供試布を更にパディング処理し、150℃で5分間乾燥した。次いで、難燃剤Aが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にて供試布を更にパディング処理し、150℃で5分間乾燥して、車輌内装材を得た。
【0097】
実施例12
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.2質量%、架橋剤4が0.4質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、供試布Cを絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理された供試布を150℃で5分間の加熱により乾燥した。その後、平滑剤Bが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にて供試布を更にパディング処理し、150℃で5分間乾燥した。次いで、難燃剤Aが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にて供試布を更にパディング処理し、150℃で5分間乾燥して、車輌内装材を得た。
【0098】
実施例13
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.2質量%、架橋剤4が0.4質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、供試布Cを絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理された供試布を150℃で5分間の加熱により乾燥した。その後、平滑剤Cが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にて供試布を更にパディング処理し、150℃で5分間乾燥した。次いで、難燃剤Aが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にて供試布を更にパディング処理し、150℃で5分間乾燥して、車輌内装材を得た。
【0099】
実施例14
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.2質量%、架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、供試布Cを絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理された供試布を150℃で5分間の加熱により乾燥した。その後、平滑剤Aが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にて供試布を更にパディング処理し、150℃で5分間乾燥した。次いで、難燃剤Bが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にて供試布を更にパディング処理し、150℃で5分間乾燥して、車輌内装材を得た。
【0100】
実施例15
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.2質量%、架橋剤3が0.2質量%、平滑剤Aが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、供試布Cを絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理された供試布を150℃で5分間の加熱により乾燥した。その後、難燃剤Aが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にて供試布を更にパディング処理し、150℃で5分間乾燥して、車輌内装材を得た。
【0101】
実施例16
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.4質量%、平滑剤Aが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、供試布Cを絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理された供試布を150℃で5分間の加熱により乾燥した。その後、難燃剤Cが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にて供試布を更にパディング処理し、150℃で5分間乾燥して、車輌内装材を得た。
【0102】
比較例1
平滑剤Aが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、供試布Aを絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理された供試布を150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0103】
比較例2
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、供試布Aを絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理された供試布を150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0104】
比較例3
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、平滑剤Aが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、供試布Aを絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理された供試布を150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0105】
比較例4
ポリアクリル酸エステル乳化分散物(カセゾール(登録商標)ARS−2、日華化学(株))が5質量%、架橋剤1が0.2質量%、平滑剤Aが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、供試布Aを絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理された供試布を150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0106】
比較例5
ポリエステル樹脂乳化分散物(カセゾール(登録商標)ES−9、日華化学(株))が5質量%、架橋剤1が0.2質量%、平滑剤Aが5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、供試布Aを絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理された供試布を150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0107】
比較例6
供試布Cを使用し、ポリウレタン樹脂水分散液、架橋剤、平滑剤及び難燃剤を含む処理液を用いたパディング処理を行うことなく、耐面ファスナー擦過性、地糸切れ性、難燃性、摩擦堅牢度、及び際付きの評価を行った。
【0108】
各実施例、比較例におけるポリウレタン樹脂、架橋剤、平滑剤及び難燃剤の組み合わせを表1に示す。また、実施例1〜12、比較例1〜6で作製した車輌内装材の耐面ファスナー擦過性、地糸切れ性、難燃性、摩擦堅牢度、際付きの評価結果を表2に示す。
【0109】
【表1】

【0110】
【表2】

【0111】
表2に記載した結果から明らかなように、ポリウレタン樹脂と架橋剤と平滑剤とを併用して得た実施例1〜16の車輌内装材は、処理を行わなかった比較例6と比較して耐面ファスナー擦過性が大きく向上し、同時に糸切れ防止、摩擦堅牢度及び難燃性の点でも高いレベルを達成することが確認された。また、これら実施例の中でも、平滑剤としてワックスを含む乳化物と疎水性難燃剤とを併用した実施例1〜7、9〜15の車輌内装材は、際付きもなく、難燃性も特に高いことが確認された。
【0112】
これに対し、平滑剤のみを用いた比較例1の場合、耐面ファスナー擦過性が全く認められなかった。ポリウレタン樹脂のみを用いた比較例2の場合、地糸切れが発生し、耐面ファスナー擦過性も劣っていた。平滑剤とポリウレタン樹脂のみを用いた比較例3の場合、摩擦堅牢度が低かった。ポリウレタン樹脂の代わりにアクリル樹脂(ポリアクリル酸エステル)やポリエステル樹脂を用いた比較例4、5の場合、耐面ファスナー擦過性が十分でなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水及びこれに分散した処理剤を含有する水分散液をポリエステル繊維布帛に付着させ、当該ポリエステル繊維布帛に付着した前記水分散液を乾燥する工程を備え、
前記処理剤として、
ポリウレタン樹脂と、
ポリイソシアネート化合物、ポリカルボジイミド化合物及びオキサゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋剤と、
平滑剤と、
を併用する、ポリエステル繊維布帛の面ファスナーによる擦過に対する耐性を向上させる方法。
【請求項2】
リン系難燃剤をポリエステル繊維布帛に付着させる工程を備える、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記リン系難燃剤が疎水性リン系難燃剤である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記ポリウレタン樹脂が、イソシアネート基末端プレポリマーを鎖延長剤と水中で反応させて得られる水分散性ポリウレタン樹脂であり、
前記イソシアネート基末端プレポリマーが、(a)有機ポリイソシアネート化合物と(b)400〜5000の数平均分子量を有する高分子量ポリオールと(c)カルボキシル基又はカルボキシレート基及び少なくとも2個の活性水素を有する化合物とから得られるプレポリマーであり、
前記鎖延長剤が、水溶性ポリアミン、ヒドラジン及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記イソシアネート基末端プレポリマーが、(a)有機ポリイソシアネート化合物と(b)400〜5000の数平均分子量を有する高分子量ポリオールと(c)カルボキシル基又はカルボキシレート基及び少なくとも2個の活性水素を有する化合物と(d)鎖伸長剤とから得られるプレポリマーである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記高分子量ポリオールが、ポリカーボネートジオール及び/または芳香族系ポリエステルジオールを含む、請求項4記載の方法。
【請求項7】
前記平滑剤がワックスを含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記ポリエステル繊維布帛がジャージ編物である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法によりポリエステル繊維布帛の面ファスナーによる擦過に対する耐性を向上させる工程を備える、ポリエステル繊維布帛を有する車輌内装材の製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の製造方法により得られる車輌内装材。

【公開番号】特開2008−163502(P2008−163502A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352487(P2006−352487)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】