説明

ポリエステル複合長繊維不織布

【課題】構造物等に介在させて熱接着処理する際には低い温度で加工することができ、さらには、熱収縮率が小さく、寸法安定性や耐熱性に優れた構造物を得ることができるポリエステル複合長繊維不織布を提供する。
【解決手段】テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、融点が100〜150℃のポリエステルAと、融点又は流動開始温度が105〜240℃のポリエステルBとで構成され、単糸の横断面形状においてポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配された複合繊維の長繊維が堆積したウエブで構成されており、少なくとも一部に熱接着部を有する長繊維不織布であって、(TmA−30)℃の雰囲気下における面積収縮率が10%以下であることを特徴とするポリエステル複合長繊維不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低融点でありながら結晶性に優れたポリエステルが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配された複合繊維の長繊維が堆積したウエブで構成された長繊維不織布であって、寸法安定性及び熱接着性に優れたポリエステル複合長繊維不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維、特にポリエステル繊維は、その優れた寸法安定性、耐候性、機械的特性、耐久性、さらにはリサイクル性等から、衣料、産業資材として不可欠のものとなっており、様々な分野において、ポリエステル繊維が多く使用されている。
【0003】
近年、自動車用内装材において、繊維を接着してなる不織構造物が提案されており、さらにこれを補強する目的で不織構造物同士を接着させて用いることがある。このように不織構造物同士を接着させる際には、不織構造物と不織構造物の間に熱接着性を有する繊維からなる不織布を介在させて、熱接着処理を施すことにより両不織構造物を接着させる。このような不織布としては、不織構造物が主としてポリエステル系繊維からなるため、リサイクルの観点よりポリエステル系重合体からなるものが好適である。
【0004】
そして、このような不織布としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートで構成された長繊維からなる不織布が挙げられるが、ポリエチレンテレフタレートからなる長繊維不織布では、熱接着させる際に接着剤として機能するものは、不織布中に含まれるバインダー繊維(ポリエチレンテレフタレートよりも低融点のポリマーで構成された繊維)のみである。バインダー繊維の量は相対的に少ないため、不織構造物同士を長繊維不織布で接着させるには接着性が弱く、剥離しやすいものであった。
【0005】
また、不織構造物との接着性を向上させるために、ポリエチレンテレフタレートを芯部とし、イソフタル酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合体を鞘部とした芯鞘型複合長繊維からなる不織布も用いられている。この不織布は、高融点を有する芯部と低融点を有する鞘部とからなるため、熱接着処理の際に、芯部を溶融させず繊維形態を保持させ、鞘部のみを溶融させることにより、強度を保持することができる。
【0006】
しかしながら、鞘部のイソフタル酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合体は、非晶性であり明確な結晶融点を示さないため、ガラス転移点以上の温度で軟化が始まる。そのため、熱接着処理の際に繊維が収縮するため、得られた不織構造物の寸法安定性が悪くなるという問題があった。また、接着後の不織構造物を高温雰囲気下で使用した場合、接着強力が低下して変形するという問題も生じるものであった。
【0007】
上記問題を解決するものとして、特許文献1には芯鞘型の複合繊維が記載されている。この繊維は、芯部にポリエチレンテレフタレートを配し、鞘部にテレフタル酸成分、脂肪族ラクトン成分、エチレングリコール成分及び1,4−ブタンジオール成分を共重合したポリエステル系共重合体を配した芯鞘型複合繊維である。
【0008】
この複合繊維は、鞘部の共重合体は結晶性であり明確な融点を示すため、この複合繊維を用いた不織布は、熱接着処理の際の収縮が小さいものとなる。このため、接着した不織構造物等の寸法安定性は優れており、また、接着後の不織構造物を高温雰囲気下で使用した際の耐熱性も優れたものとなる。
【0009】
しかしながら、鞘部の共重合ポリエステルは融点が150〜200℃の範囲のものであり、まだ低融点領域であるとはいえず、熱接着処理の際には加工温度を高くする必要があり、コスト的にも不利であった。
【特許文献1】特開2001−3256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の問題点を解決するものであって、低融点でありながら結晶性に優れたポリエステルが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配された複合繊維であって、通常の製造装置で操業性よく紡糸し、繊維化して得ることができる複合繊維の長繊維からなる不織布であって、繊維構造物等に介在させて熱接着処理する際には低い温度で加工することができ、さらには、熱収縮率が小さいため、寸法安定性よく繊維構造物等を得ることができ、かつ、熱接着後の繊維構造物等を高温雰囲気下で使用した際の耐熱性にも優れるポリエステル複合長繊維不織布を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、本発明に到達したものである。すなわち、本発明は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、融点(TmA)が100〜150℃のポリエステルAと、融点又は流動開始温度が120〜240℃であり、かつポリエステルAの融点より高いポリエステルBとで構成され、単糸の横断面形状においてポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配された複合繊維の長繊維が堆積したウエブで構成され、少なくとも一部に熱接着部を有する長繊維不織布であって、(TmA−30)℃の雰囲気下における面積収縮率が10%以下であることを特徴とするポリエステル複合長繊維不織布を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリエステル複合長繊維不織布は、複合繊維の繊維表面の少なくとも一部を占めているポリエステルAが、ジオール成分としてヘキサンジオールを50モル%以上共重合しているため、低融点でありながら、結晶性に優れており、かつ0.01〜5.0質量%の結晶核剤を含有しているため、降温時の結晶化速度が速く、長繊維不織布を製造する際の紡糸工程において糸条間の溶着及び切れ糸の発生がなく、操業性よく安定的に得ることができる品位の優れた(地合の良好な)長繊維不織布である。さらには、ポリエステルAが結晶性に優れ、降温時の結晶化速度が速いことにより、(TmA−30)℃雰囲気下での面積収縮率が10%以下の長繊維不織布とすることができ、繊維構造物等に介在させて熱接着処理する際の収縮が小さく、寸法安定性よく製品を得ることが可能となる。また、ポリエステルAが結晶性に優れるものであるため、熱接着後の繊維構造物等を高温雰囲気下で使用した際の耐熱性にも優れるものとなる。そして、ポリエステルAの融点が100〜150℃であるため、熱接着処理を低温化、高速化することが可能であり、コスト的にも優位なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の複合長繊維不織布は、ポリエステルAとポリエステルBとで構成された複合繊維の長繊維が堆積したウエブで構成されるものである。そして、本発明においては、長繊維(複合繊維)の単糸の横断面形状(繊維軸方向に沿って垂直に切断した断面の形状)において、ポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めているものである。
【0014】
このような形状としては、サイドバイサイド型や偏心芯鞘型、多層型のもの等が挙げられるが、中でも単糸の横断面形状においてポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部に配された芯鞘形状であることが好ましい。
【0015】
まず、ポリエステルAについて説明する。ポリエステルAは、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、融点が100〜150℃のものである。
【0016】
ポリエステルAの融点(TmA)は100〜150℃であり、中でも110〜140℃であることが好ましい。TmAが100℃未満であると、得られた長繊維不織布は、高温雰囲気下で使用した場合の熱安定性(耐熱性)に劣るものとなる。一方、150℃を超えると、熱接着加工温度を高くする必要があり、加工性、経済性に劣る。また、熱接着処理により得られる製品の品質や風合い等を損ねるため好ましくない。
【0017】
ポリエステルAは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主成分とするものであり、テレフタル酸(以下、TPAとする)は60モル%以上、中でも80モル%以上であることが好ましい。TPAが60モル%未満であると、ポリマーの融点が本発明の範囲外のものとなったり、結晶性が低下しやすくなるため好ましくない。
【0018】
なお、TPA以外の共重合成分としては、その効果を損なわない範囲であれば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フタル酸、イソフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、などに例示される芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
【0019】
ジオール成分としては、1,6−ヘキサンジオール(以下、HDとする)が50モル%以上であり、他の成分としてはエチレングリコール(以下、EGとする)や1,4−ブタンジオール(以下、BDとする)を用いることが好ましい。ジオール成分において、HDは50モル%以上であり、中でも60〜95モル%であることが好ましい。HDが50モル%未満の場合、融点が150℃を超えるものとなる。
【0020】
ジオール成分として、HDとともにEGやBDを用いる際には、EGやBDをジオール成分において、5〜50モル%とすることが好ましく、中でも5〜40モル%とすることが好ましい。
【0021】
さらに、ジオール成分には、HD、EGやBD以外の他の共重合成分として、その特性を損なわない範囲で、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビスフェノールA、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコールなどに例示される芳香族グリコールを用いることができる。
【0022】
上記したポリエステルAは組成的に結晶性を有しているが、長繊維不織布を製造する際の溶融紡糸工程における単糸間の溶着を解消するまでのものではない。そこでポリエステルA中に結晶核剤を含有することにより、降温時の結晶化速度を向上させることができ、ポリエステルAは後述する(1)式を満足するものとなり、単糸間の溶着を生じることなく溶融紡糸を行うことができる。さらには、熱収縮率の低い長繊維とすることができ、(TmA−30)℃の雰囲気下における面積収縮率が10%以下の長繊維不織布を得ることができる。
【0023】
本発明においては、ポリエステルAは結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有するものであり、中でも0.5〜4.0質量%含有することが好ましい。
【0024】
結晶核剤の含有量が0.01質量%未満であると、降温時の結晶化速度を向上させることができず、面積収縮率の低い不織布を得ることができない。また、ポリエステルAは後述する(1)式を満足することが困難となる。
【0025】
一方、結晶核剤の含有量が5.0質量%を超えると、結晶核剤の含有量が多くなりすぎ、溶融紡糸時の操業性が悪化する。そして、操業性が悪化することで糸質のバラツキが大きくなり、得られる長繊維不織布の面積収縮率が高くなる。
【0026】
結晶核剤としては、無機系微粒子やポリオレフィン、硫酸塩等を使用することが好ましい。
【0027】
無機系微粒子としては、中でもタルクなどの珪素酸化物を主成分としたものが好ましく、平均粒径3.0μm以下もしくは比表面積15m/g以上の無機系微粒子を用いることが好ましい。上記平均粒径もしくは比表面積を満足していない場合、結晶核としての機能に乏しく、降温時の結晶化速度を向上させることが困難となりやすい。
【0028】
また、結晶核剤として含有させるポリオレフィンは、反応系内で溶融するため、形状については特に限定するものではなく、例えば粒径2mm程度のチップ状のものや、粒径数μmのワックス状のものであってもよい。
【0029】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリメチルペンテン、ポリメチルブテンなどのオレフィン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体などを挙げることができ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、プロピレン・エチレンランダム共重合体が特に好ましい。なお、ポリオレフィンが炭素原子数3以上のオレフィンから得られるポリオレフィンである場合には、アイソタクチック重合体であってもよく、シンジオタチック重合体であってもよい。
【0030】
結晶核剤として含有させる硫酸塩は、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウムなどを挙げることができ、中でも結晶核剤としての効果の点から、硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウムが好ましい。
【0031】
これらの結晶核剤を添加する方法としては、粉体のまま、あるいはジオールスラリーの形態でポリエステルを製造する際の任意の段階で添加すればよい。例えば、エステル化またはエステル交換反応時に添加してもよいし、重縮合反応の段階で添加してもよい。中でも、結晶核剤としての効果を良好なものとするには、エチレングリコール等のグリコールにスラリー状態あるいは溶解させた状態で添加することが好ましい。
【0032】
また、ポリエステルA中には、本発明の効果を損なわない範囲で、リン酸エステル化合物やヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、難燃剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい。
【0033】
さらに、ポリエステルAは、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記(1)式を満足するものであり、中でもb/a≧0.06であることが好ましい。一方、b/aが大きいほど降温時の結晶性に優れるものとなるが、本発明で目的とする効果を奏するには、b/aを0.5以下とすることが好ましい。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) (1)
【0034】
本発明におけるポリエステルAの融点とDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線は、パーキンエルマー社製示差走査型熱量計(Diamond DSC)を用いて、窒素気流中、温度範囲−20℃〜250℃、昇温(降温)速度20℃/分、試料量2mg(長繊維不織布の質量)で測定する。
【0035】
上記b/aは、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線より求められる。このとき、繊維を形成するポリエステルAとポリエステルBのピークが2つ現れるが、低温側に現れるピークのDSC曲線がポリエステルAのものである。
【0036】
そして、図1に示すように、ポリエステルAのDSC曲線において、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
【0037】
b/aは、降温時の結晶性を表す指標であり、b/aの値が高いと結晶化速度が速く、逆に0に近いほど、結晶化速度が遅いことを示している。b/aが0.05(mW/mg・℃)未満の場合、結晶化速度が遅いため、溶融紡糸時に単糸間の溶着が発生し、紡糸操業性が悪くなる。仮に、糸条をより十分に冷却するため紡糸口金と引き取り手段との間の距離を大きくして製糸したとしても、糸条の揺れが生じて開繊性が劣り、得られる不織布は品位が劣るものとなる。さらには、得られる長繊維不織布の面積収縮率も高くなる。
【0038】
上記したように、b/aは、ポリエステルの共重合組成を特定のものとし、結晶核剤の含有量を上記範囲の量とすることにより、本発明で規定する範囲のものにすることができる。
【0039】
次にポリエステルBについて説明する。ポリエステルBの融点又は流動開始温度は120〜240℃のものであり、かつポリエステルAの融点より高いものである。融点又は流動開始温度は中でも130〜220℃であることが好ましく、さらには、130〜200℃であることが好ましい。
【0040】
ポリエステルBの融点又は流動開始温度が120℃未満であると、長繊維の収縮率が高くなり、得られる長繊維不織布の面積収縮率が高いものとなる。一方、融点又は流動開始温度が240℃を超えると、紡糸時の溶融温度を高く設定する必要があり、そのため、冷却過程での結晶化が遅れ、冷却が不十分となることから、単糸間での溶着が発生し、糸切れが生じ、操業性が悪化する。
【0041】
ポリエステルBはポリエステルAと同様に結晶性のものであってもよいし、また、非晶性のものであってもよい。結晶性のものの場合は融点を、非晶性のものの場合は流動開始温度を上記の温度範囲のものとする。
【0042】
そして、本発明の長繊維不織布において、複合繊維(長繊維)のポリエステルAは熱接着処理により溶融して接着成分となるものであるが、ポリエステルBは熱接着処理する際にポリエステルAと同様に溶融して接着成分となるものでもよいし、また熱接着処理する際には溶融せずに長繊維不織布を構成する主体繊維として残存するものでもよい。
【0043】
つまり、本発明の長繊維不織布は、繊維構造物等の間に介在させて熱接着処理し、少なくともポリエステルAを溶融させて接着成分とし、繊維構造物同士を接着させるために用いることが好ましいものであるが、ポリエステルAとポリエステルBともに溶融して接着成分となる場合は、本発明の長繊維不織布はほぼ全てが溶融することとなる。一方、ポリエステルBが溶融しない場合は、本発明の長繊維不織布はポリエステルBが主体繊維となった長繊維不織布として形状を保持するものとなる。
【0044】
ポリエステルBを熱接着処理により溶融する接着成分とする場合には、ポリエステルBの融点又は流動開始温度は、ポリエステルAの融点(TmA)よりも20℃高いものまでとすることが好ましい。つまり、(TmA+20℃)以下のものが好ましく、中でも(TmA+10℃)以下のものが好ましい。
【0045】
一方、ポリエステルBを熱接着処理により溶融せずに主体繊維となるものとする場合には、結晶性のポリエステルとすることが好ましく、融点がポリエステルAの融点(TmA)より20℃以上、中でも30℃以上高い結晶性のポリエステルとすることが好ましい。
【0046】
そして、ポリエステルBとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートを主体とするものや、ポリ乳酸系重合体とすることが好ましい。
【0047】
まず、ポリエステルBをポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートを主体とするものの場合、上記のような融点又は流動開始温度のうち、融点又は流動開始温度を比較的低いものとする際には次に示すような成分を共重合させたものとすることが好ましい。
【0048】
共重合成分としては、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、およびエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールや、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸、ε−カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン等が挙げられる。
【0049】
中でもポリエステルBとして好ましい結晶性のポリエステルとしては、TPA成分、EG成分を含有し、BD成分、脂肪族ラクトン成分及びアジピン酸成分の少なくとも一成分を含有する共重合ポリエステルが好ましい。これらのポリエステルは結晶性に優れ、130〜200℃の融点を有するものであり、結晶性の高いポリエステルAとともに用いることで紡糸操業性がより良好になるとともに、得られる長繊維の収縮率が低いものとなり、面積収縮率の低い長繊維不織布を得ることが可能となる。
【0050】
まず、脂肪族ラクトン成分を共重合する場合、その共重合量は全酸成分に対して20モル%以下とすることが好ましく、10〜20モル%とするのがより好ましい。脂肪族ラクトン成分の割合が少ないと結晶性はよくなるが、融点が高くなり、200℃以下とすることが困難になることがある。一方、20モル%より多いと結晶性が低下し、ガラス転移温度が低くなりやすく、溶融紡糸時に単糸間の溶着が発生して製糸性が悪くなりやすい。
【0051】
脂肪族ラクトン成分としては、炭素数4〜11のラクトンが好ましく、特に好ましいラクトンとしては、ε−カプロラクトンが挙げられる。
【0052】
次に、BD成分を共重合する場合、共重合量は全グリコール成分に対して40〜80モル%とすることが好ましい。共重合量が40モル%未満であったり、80モル%を超えると、融点が高くなり、200℃を超えるものとなりやすい。
【0053】
アジピン酸成分を共重合する場合、共重合量は全酸成分に対して、20モル%以下とすることが好ましく、10〜20モル%とするのがより好ましい。アジピン酸成分の共重合量が10モル%未満であると、結晶性はよくなるが、融点が高くなり、200℃を超えるものとなりやすい。一方、20モル%を超えると、結晶性が低下し、ガラス転移温度が低くなりやすく、溶融紡糸時に単糸間の溶着が発生して操業性が悪くなりやすい。
【0054】
次に、ポリエステルBをポリ乳酸系重合体とする場合、ポリ乳酸系重合体としては、ポリD−乳酸、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)、ポリD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリD−乳酸又はポリL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの共重合体、あるいはこれらのブレンド体を用いることができる。
【0055】
上記のようにL−乳酸やD−乳酸を単独で用いる場合、融点は約180℃であるが、D−乳酸とL−乳酸との共重合体の場合、いずれかの成分の割合を10モル%程度とすると、融点はおよそ130℃程度となる。
【0056】
そこで、ポリ乳酸系重合体の融点を低くし、熱接着処理する際にポリエステルAとともに溶融する接着成分とする場合には、ラクチドを原料として重合する時のL−乳酸やD−乳酸の含有割合で示されるL−乳酸とD−乳酸の含有比(モル比)であるL/D又はD/Lが、85/15〜92/8程度のものとすることが好ましい。
【0057】
このように、熱接着処理の際にポリエステルAとともにポリ乳酸系重合体も溶融して接着成分となる場合、ポリエステルAとポリ乳酸系重合体とが溶融して混合すると、その作用は明らかではないが、ポリ乳酸系重合体自体も接着性に優れるため、ポリエステルAのみが接着成分となる場合や、ポリエステルBとして上記のようなポリアルキレンテレフタレートを主体とするものがポリエステルAとともに接着成分となる場合よりも接着性能に優れる長繊維不織布となる。
【0058】
一方、熱接着処理する際にはポリ乳酸系重合体が溶融せずに主体繊維として残存する長繊維不織布とする場合には、ポリ乳酸系重合体は、L−乳酸とD−乳酸の含有比(モル比)であるL/D又はD/Lが、90/10以上のものが好ましく、中でも95/5以上、さらには98/2以上とすることが好ましい。
【0059】
そして、ポリ乳酸系重合体の中でもポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)は、融点が200〜230℃と高く、高温雰囲気下での強度も高くなるため特に好ましい。
【0060】
本発明におけるポリ乳酸系重合体には、目的を損なわない範囲で、ε−カプロラクトンなどの環状ラクトン類、α−ヒドロキシ酪酸、α−ヒドロキシイソ酪酸、α−ヒドロキシ吉草酸などのα−オキシ酸類、エチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのグリコール類、コハク酸、セバシン酸等のジカルボン酸類が含有されていてもよい。
【0061】
また、ポリエステルBとして、上記したようなポリアルキレンテレフタレートを主体とするポリエステルを用いる場合やポリ乳酸系重合体を用いる場合ともに、ポリエステルB中には、本発明の効果を損なわない範囲で、リン酸エステル化合物やヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、難燃剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加していてもよい。
【0062】
本発明における複合繊維(長繊維)のポリエステルAとポリエステルBの複合比率(質量比率)は、20/80〜80/20とすることが好ましく、中でも30/70〜70/30とすることが好ましい。
【0063】
また、本発明における長繊維の断面形状は特に規定するものではなく、丸型のみならず扁平型、トリローバル型、ヘキサローバル型、W型、H型等の異形断面や、四角形や三角形等の多角形状、中空形状のものでもよい。
【0064】
さらには、長繊維の単糸繊度は特に限定するものではないが、1〜15dtexであることが好ましい。単糸繊度が1dtex未満であると紡糸、引取工程において単糸切断が頻発し、操業性が悪化するとともに、得られる不織布の強力も劣る傾向となる。一方、単糸繊度が15dtexを超えると紡糸糸条の冷却性が不十分になるので好ましくない。
【0065】
次に、本発明の複合長繊維不織布は、前述のポリエステルAとポリエステルBの複合繊維の長繊維が堆積したウエブで構成されるものであり、形態安定性の観点から、ウエブの少なくとも一部に熱接着部を有するものである。
【0066】
つまり、ウエブを構成する長繊維同士が溶融または軟化して接着している熱接着部を少なくとも一部に有するものである。中でもウエブの一部が熱接着されているものが好ましく、ウエブ表面の一部のみが熱接着されたものやウエブ表面(片面)のみ全面が熱接着されたもの等が挙げられる。
【0067】
なお、ウエブの全部が熱接着されているものであってもよいが、このような全面熱接着された不織布はフィルム状のものとなり、厚みの薄いものとなる。
【0068】
またウエブを構成する長繊維同士が溶融または軟化して接着している熱接着部においては、ポリエステルAのみ溶融して熱接着部を成していても、ポリエステルAとともにポリエステルBも溶融して熱接着部を成していてもよい。
【0069】
ウエブを製造する方法としては、複合紡糸装置から紡出され繊維化可能温度に下がったポリマーを高速気流によるエアサッカーにて吸引延伸し、その後開繊装置を用いて開繊し、コンベア状ネットに捕集してウエブとするスパンボンド法や紡糸装置から紡出され溶融ポリマーの細流に対して加熱高速ガスを噴き当て、そのガス流の作用によって溶融ポリマーを引伸ばして極細化し、捕集してウエブを得るメルトブロー法等がある。中でも、本発明においては、ウエブがスパンボンド法により製造されたものであることが好ましい。
【0070】
そして、ウエブの少なくとも一部を熱接着させる方法としては、熱エンボス加工装置や超音波溶着装置等を用いる熱圧着方式、熱風乾燥機等の乾熱による熱風循環方式、加熱スチームを用いた湿熱方式、超音波溶着装置を用いた方式等を効果的に用いることができる。
【0071】
まず、上記した熱圧着方式としては、例えば、一対のエンボスロールまたはエンボスロールとフラットロールからなる部分熱圧着装置や一対のフラットロールからなる全面熱圧着装置を用いた方式が挙げられる。
【0072】
部分熱圧着としては、エンボスロールの凸部に当接する部位に存在する長繊維を溶融または軟化させて点状の融着区域を形成させ、その融着区域により繊維同士を接着させる。個々の融着区域は丸、楕円型、菱形、三角形、T字型、井形などの任意の形状であってもよい。
【0073】
全面熱圧着としては、ウエブ表面に存在する長繊維を溶融または軟化させ全面的に熱接着させる。なお、全面熱圧着装置に通す前に、移動堆積装置上に形成されたウエブに、搬送作業を容易に行うため等、必要に応じて部分的な仮熱圧着処理を施してもよい。
【0074】
また、超音波融着装置は約20kHz程度の超音波を発振する超音波発振器と、円周上に点状または帯状に凸状突起部を具備するパターンロールとからなる装置であり、パターンロールと超音波発振器を持った支持体との間にウエブを通し、20kHz程度の超音波を発振させて点圧着させるものである。
【0075】
乾熱による熱風循環方式、加熱スチームを用いた湿熱方式を採用する場合は、ウエブ表面の繊維交点における長繊維を溶融または軟化し、繊維同士の交点で接着する。なお、加熱スチームとしては、加圧を行える装置を用いることで効果的に熱処理を行うことができる。
【0076】
そして、本発明の複合長繊維不織布は、(TmA−30)℃の雰囲気下における面積収縮率が10%以下である。つまり、本発明の長繊維不織布を構成する長繊維(複合繊維)は、結晶性に優れ、かつ降温結晶化速度の速いポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配されたものであるため、熱収縮率が低く、長繊維不織布の面積収縮率を10%以下のものとすることができる。中でも面積収縮率は8.5%以下であることが好ましく、さらには7.0%以下であることが好ましい。面積収縮率は以下のようにして求めるものである。
【0077】
長繊維不織布をカットし、面積A0(20cm×20cm=400cm)としたものをサンプルとし、これを(TmA−30)℃に維持した熱風乾燥機中に15分間放置し、この熱処後の不織布の面積をA1とし、下式により面積収縮率を求める。
面積収縮率(%)={(A0−A1)/A0}×100
【0078】
長繊維不織布の面積収縮率が10%以下であることにより、熱接着処理した際の収縮が小さく、不織構造物等の間に介在させて接着させる際の収縮が小さく、得られる製品(不織構造物等)は寸法安定性に優れたものとなる。面積収縮率が10%を超えると、熱収縮率が大きくなり、本発明の長繊維不織布を用いて熱接着して得られる製品は、熱接着処理した際の収縮が大きくなり、寸法安定性に劣るものとなる。
【0079】
また、本発明の長繊維不織布は、長繊維不織布を得る際、ウエブの少なくとも一部を熱接着させる処理においても、ポリエステルAとポリエステルBとからなる長繊維の熱収縮率が小さいため、長繊維不織布を得る際の寸法安定性にも優れるものである。
【0080】
そして、本発明の長繊維不織布の目付は特に限定するものではないが、10〜300g/mであることが好ましい。目付が10g/m未満であると、地合及び機械的強力に劣り、実用に耐えないものとなりやすい。一方、目付が300g/mを超えるとコスト面で不利となる。
【0081】
このように、本発明の複合長繊維不織布を構成する長繊維は、上記したようなポリエステルAとポリエステルBとからなる複合繊維であるため、低温の熱接着処理によりポリエステルAのみもしくはポリエステルAとポリエステルBとが溶融して熱接着成分となるものであり、ヒートシール特性を有するものである。このため、本発明の複合長繊維不織布は、構造物と構造物との間に介在させて熱接着処理を施すことにより構造物同士を接着させる用途に用いることが好適である。
【実施例】
【0082】
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。実施例中の各種の特性値等の測定、評価方法は次の通りである。
(a)ポリエステルA、Bの極限粘度〔η〕、ポリ乳酸の相対粘度
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、試料濃度0.5質量%、温度20℃の条件下で常法に基づき測定した。
(b)ポリエステルAの融点、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線
前記の方法により測定した。なお、ポリエステルBにポリ乳酸を用いた長繊維からなる長繊維不織布の場合、超音波洗浄機にジオキサンを入れ、試料(長繊維不織布)をジオキサン中に浸漬させて2時間超音波洗浄を行う。洗浄後の長繊維不織布又は長繊維を取り出し、100℃で2時間乾燥させたものを試料として用いる。
(c)ポリエステルBの融点
示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製Diamond DSC)を用い、昇温速度20℃/分で測定した融解吸収曲線の極値を与える温度を融点とした。
(d)ポリエステルBの流動開始温度
フロテスター(島津製作所CFT−500型)を用い、荷重9.8MPa、ノズル径0.5mmの条件で、初期温度50℃より10℃/分の割合で昇温していき、ポリマーがダイから流出し始める温度として求めた。
(e)ポリエステルA、ポリエステルBのポリマー組成
得られたポリエステル複合短繊維を重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA-400型NMR装置にて 1H-NMRを測定し、得られたチャートの各共重合成分のプロトンのピークの積分強度から求めた。
(f)ポリ乳酸系重合体のL−乳酸及びD−乳酸の含有量
超純水と1Nの水酸化ナトリウムのメタノール溶液の等質量混合溶液を溶媒とし、高速液体クロマトグラフィー法により測定した。カラムにはSumichiral OA6100を使用し、UV吸収測定装置により検出した
(g)繊度
JIS L 1015 正量繊度 A法により測定した。
(h)目付
得られた長繊維不織布から縦10cm×横10cmのサンプル10点を作成し、平衡水分に至らしめた後、各試料片の質量(g)を秤量し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算して不織布の目付(g/m)とした。
(i)紡糸操業性
紡糸の状況により下記の2段階で評価した。
○:紡糸時の切れ糸回数が1回/トン以下であり、単糸間での溶着がない。
×:紡糸時の切れ糸回数が1回/トンを超えるか、単糸間での溶着の発生がある。
(j)地合
得られた不織布表面の地合を目視にて、良好(○)、不良(×)の2段階で評価した。
(k)面積収縮率
前記の方法により測定した。
(l)接着強力(N)
ポリエチレンテレフタレート繊維(繊維長51mm、繊度2.2T)と、ユニチカ社製ポリエステル系芯鞘複合バインダー繊維<7080>(繊維長51mm、繊度2.2T)とを質量比率1:1で混綿し、カード機で目付け400g/mのウエブを作成し、熱風乾燥機を用いて熱処理条件180℃×60秒で熱接着処理を行い、短繊維不織布を得る。
さらに、上記短繊維不織布2枚の間に、得られた複合長繊維不織布をはさみ、積層不織布の厚みを5mmとなるように厚みを規制し、熱風乾燥機を用いて熱処理条件(長繊維不織布を構成する複合繊維のポリエステルAの融点+10)℃×100秒で熱接着処理を行い、厚さ5mmの積層体を作成する。積層体より試料長20cm、試料幅5cmの試料片を5点作成し、試料片の短繊維不織布の2枚の間を10cm剥離させ、剥離部分をつかみ間隔5cm、引張速度10cm/分で伸長し、剥離強力(N/5cm)を測定した。そして試料片5点の平均値を接着強力(N)とした。
なお、本発明においては、この接着強力は20N以上であることが好ましい。ここで接着強力とは、複合長繊維不織布をポリエステル系不織構造物等と一体化させた後に複合長繊維不織布を構成する複合長繊維を溶融させて接着成分とし、その後にポリエステル系不織構造物間を剥離させる際に要する強力の値である。
【0083】
実施例1
ポリエステルAとして、酸性分としてテレフタル酸(TPA)100mol%、グリコール成分としてエチレングリコール(EG)15mol%、1,6−ヘキサンジオール(HD)85mol%からなり、結晶核剤として1.0質量%のタルクを含有する共重合ポリエステル(極限粘度0.95、融点128℃)を用いた。
ポリエステルBとして、酸性分としてテレフタル酸(TPA)85mol%、ε−カプロラクトン(ε−CL)15mol%、グリコール成分としてエチレングリコール(EG)45mol%、ブタンジオール(BD)55mol%からなる共重合ポリエステル(極限粘度0.72、融点160℃、以下、ポリエステルB−1とする)を用いた。
ポリエステルAチップとポリエステルBチップを複合紡糸装置に供給し、ポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部となる芯鞘形状となるようにし、両成分の質量比を50/50として丸型紡糸口金より溶融紡糸を行った。このとき、紡糸温度230、単孔吐出量1.00g/分で溶融紡糸した。
次に、紡出糸条を冷却空気流にて冷却した後、引き続いてスパンボンド法によりウエブを製造した。まず、エアサッカーにて3000m/分で引き取り、これを開繊して移動するコンベアの捕集面上に堆積して不織ウエブを形成した。次いでこの不織ウエブをエンボスロールとフラットロールからなる部分的熱圧着装置に通し、ロール温度100℃、圧着面積率14.9%、圧着点密度21.9個/cm、線圧500N/cmの条件にて部分的に熱圧着し、単糸繊度3.3dtexの長繊維(複合繊維)からなる目付40g/mの複合長繊維不織布を得た。
【0084】
実施例2〜3、比較例1〜2
ポリエステルA中のタルクの含有量を表1に示すものとなるように変更した以外は、実施例1と同様にして複合繊維を溶融紡糸し、実施例1と同様にして複合長繊維不織布を得た。
【0085】
実施例4
ポリエステルAとして、酸性分としてテレフタル酸(TPA)100mol%、グリコール成分として1,4−ブタンジオール(BD)20mol%、1,6−ヘキサンジオール(HD)80mol%からなり、結晶核剤として1.0質量%のタルクを含有する共重合ポリエステル(極限粘度0.98、融点130℃)を用いた以外は、実施例1と同様にして複合繊維を溶融紡糸し、実施例1と同様にして複合長繊維不織布を得た。
【0086】
実施例5〜6、比較例3〜4
ポリエステルA中のタルクの含有量を表1に示すものとなるように変更した以外は、実施例4と同様にして複合繊維を溶融紡糸し、実施例4と同様にして複合長繊維不織布を得た。
【0087】
実施例7
ポリエステルAとして、結晶核剤をポリエチレンワックス(クラリアント社製、Licowax PE190)に変更し、0.1質量%含有する共重合ポリエステルとした以外は実施例1と同様にして複合繊維を溶融紡糸し、さらに、実施例1と同様にして複合長繊維不織布を得た。
【0088】
実施例8
ポリエチレンワックスの含有量を0.05質量%とした以外は、実施例7と同様にして複合繊維を溶融紡糸し、さらに、実施例7と同様にして複合長繊維不織布を得た。
【0089】
実施例9
ポリエステルAとして、結晶核剤を硫酸ナトリウムに変更し、0.1質量%含有する共重合ポリエステルとした以外は実施例1と同様にして複合繊維を溶融紡糸し、さらに、実施例1と同様にして複合長繊維不織布を得た。
【0090】
実施例10
硫酸ナトリウムの含有量を0.8質量%とした以外は、実施例9と同様にして複合繊維を溶融紡糸し、さらに、実施例9と同様にして複合長繊維不織布を得た。
【0091】
比較例5
ポリエステルAとして、酸性分としてテレフタル酸(TPA)100mol%、グリコール成分としてエチレングリコール(EG)80mol%、1,6−ヘキサンジオール(HD)20mol%からなり、結晶核剤として1.0質量%のタルクを含有する共重合ポリエステル(極限粘度0.80、融点210℃)を用いた以外は実施例1と同様にして複合繊維を溶融紡糸し、さらに、実施例1と同様にして複合長繊維不織布を得た。
【0092】
比較例6
ポリエステルAとして、酸性分としてテレフタル酸(TPA)100mol%、グリコール成分としてブタンジオール(BD)55mol%、1,6−ヘキサンジオール(HD)45mol%からなり、結晶核剤を含有しない共重合ポリエステル(極限粘度0.93、融点155℃)を用いた以外は実施例1と同様にして複合繊維を溶融紡糸し、さらに、実施例1と同様にして複合長繊維不織布を得た。
【0093】
実施例11
ポリエステルBとして、酸性分としてテレフタル酸(TPA)100mol%、グリコール成分としてエチレングリコール(EG)50mol%、ブタンジオール(BD)50mol%からなる共重合ポリエステル(極限粘度0.78、融点180℃、以下、ポリエステルB−2とする)を用いた以外は実施例1と同様にして複合繊維を溶融紡糸し、さらに、実施例1と同様にして複合長繊維不織布を得た。
【0094】
実施例12
ポリエステルBとして、酸性分としてテレフタル酸(TPA)100mol%、グリコール成分としてエチレングリコール(EG)20mol%、ブタンジオール(BD)80mol%からなる共重合ポリエステル(極限粘度0.62、融点195℃、以下、ポリエステルB−3とする)を用いた以外は実施例1と同様にして複合繊維を溶融紡糸し、さらに、実施例1と同様にして複合長繊維不織布を得た。
【0095】
実施例13
ポリエステルBとして、酸性分としてテレフタル酸(TPA)75mol%、イソフタル酸(IPA)25mol%、グリコール成分としてエチレングリコール(EG)100mol%からなる共重合ポリエステル(極限粘度0.79、流動開始温度180℃、以下、ポリエステルB−4とする)を用いた以外は実施例1と同様にして複合繊維を溶融紡糸し、さらに、実施例1と同様にして複合長繊維不織布を得た。
【0096】
実施例14
ポリエステルBとして、酸性分としてテレフタル酸(TPA)80mol%、イソフタル酸(IPA)20mol%、グリコール成分としてエチレングリコール(EG)100mol%からなる共重合ポリエステル(極限粘度0.69、融点206℃、以下、ポリエステルB−5とする)を用いた以外は実施例1と同様にして複合繊維を溶融紡糸し、さらに、実施例1と同様にして複合長繊維不織布を得た。
【0097】
実施例15
ポリエステルBとして、酸性分としてテレフタル酸(TPA)92mol%、イソフタル酸(IPA)8mol%、グリコール成分としてエチレングリコール(EG)100mol%からなる共重合ポリエステル(極限粘度0.79、流動開始温度232℃、以下、ポリエステルB−6とする)を用いた以外は実施例1と同様にして複合繊維を溶融紡糸し、さらに、実施例1と同様にして複合長繊維不織布を得た。
【0098】
比較例7
ポリエステルAに代えて、酸性分としてテレフタル酸(TPA)57mol%、イソフタル酸(IPA)43mol%、グリコール成分としてEG100mol%からなる非晶性の共重合ポリエステル(極限粘度0.68、流動開始温度70℃)を用いた以外は実施例1と同様にして複合繊維を溶融紡糸し、さらに、実施例1と同様にして複合長繊維不織布を得た。
【0099】
比較例8
ポリエステルBに代えて、極限粘度0.70、融点255℃のポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、紡糸温度を275℃とした以外は実施例1と同様にして複合繊維を溶融紡糸し、さらに、実施例1と同様にして複合長繊維不織布を得た。
【0100】
実施例16
ポリエステルBとして、L−乳酸とD−乳酸の含有比であるL/Dが98.8/1.2であるポリ乳酸系重合体(融点が170℃、相対粘度1.88、以下、ポリ乳酸1とする)を用いた以外は実施例1と同様にして複合繊維を溶融紡糸し、さらに、実施例1と同様にして複合長繊維不織布を得た。
【0101】
実施例17
ポリエステルBとして、L−乳酸とD−乳酸の含有比であるL/Dが89.8/10.2であるポリ乳酸系重合体(融点が135℃、相対粘度1.83、以下、ポリ乳酸2とする)を用いた以外は実施例1と同様にして複合繊維を溶融紡糸し、さらに、実施例1と同様にして複合長繊維不織布を得た。
【0102】
実施例18
ポリエステルBとして、L−乳酸とD−乳酸の含有比であるL/Dが90.5/9.5であるポリ乳酸系重合体(融点が130℃、相対粘度1.85、以下、ポリ乳酸3とする)を用いた以外は実施例1と同様にして複合繊維を溶融紡糸し、さらに、実施例1と同様にして複合長繊維不織布を得た。
【0103】
比較例9
ポリエステルBに代えて、L−乳酸とD−乳酸の含有比であるL/Dが85.9/14.1であるポリ乳酸系重合体(融点が110℃、相対粘度1.88、以下、ポリ乳酸4とする)を用いた以外は実施例1と同様にして複合繊維を溶融紡糸し、さらに、実施例1と同様にして複合長繊維不織布を得た。
【0104】
実施例1〜18、比較例1〜9で得られた複合長繊維不織布の特性値及び評価結果を表1に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
表1から明らかなように、実施例1〜18の複合長繊維不織布は、紡糸操業性よく得ることができ、地合が良好で、面積収縮率が低いものであり、他のポリエステル系繊維からなる構造物との接着強力にも優れたものであった。中でもポリエステルBとしてポリ乳酸系重合体を用い、熱接着処理時にはポリ乳酸系重合体も溶融する実施例17〜18の複合長繊維不織布は、特に接着強力に優れたものであった。
【0107】
一方、比較例1、3の複合長繊維不織布はポリエステルA中のタルクの含有量が多かったため、紡糸時に切れ糸が発生し、地合が悪く、面積収縮率も高いものとなった。比較例2、4の複合長繊維不織布はポリエステルA中のタルクの含有量が少なかったため、結晶化速度が遅く、紡糸時に糸条の溶着が発生し、地合が悪く、面積収縮率の高いものとなった。比較例5、6の複合長繊維不織布はポリエステルA中のHDが50モル%未満であり、融点が150℃を超えるものであったため、実施例1と同じ条件では紡糸温度が低いために糸切れが発生し、複合長繊維不織布を得ることができなかった。比較例7においてはポリエステルAに代えて、非晶性のポリエステルを用いたため、紡糸時に単糸間での溶着が発生し、切れ糸が多発し、長繊維不織布を得ることができなかった。比較例8においては、ポリエステルBに代えて融点の高いPETを用いたため、紡糸温度を高くしたところ、紡糸時に単糸間での溶着が発生し、切れ糸が発生し、操業性が悪化した。このため、得られた複合長繊維不織布は、地合が悪く、面積収縮率も高いものとなった。比較例9においては、ポリエステルBに代えて融点の低いポリ乳酸系重合体を用いたため、複合長繊維の収縮率が高くなり、地合が悪く、面積収縮率の高いものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明のポリエステル複合長繊維不織布を構成する複合繊維におけるポリエステルAのDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線の一例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、融点(TmA)が100〜150℃のポリエステルAと、融点又は流動開始温度が120〜240℃であり、かつポリエステルAの融点より高いポリエステルBとで構成され、単糸の横断面形状においてポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配された複合繊維の長繊維が堆積したウエブで構成され、少なくとも一部に熱接着部を有する長繊維不織布であって、(TmA−30)℃の雰囲気下における面積収縮率が10%以下であることを特徴とするポリエステル複合長繊維不織布。
【請求項2】
ポリエステルAのDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足する請求項1記載のポリエステル複合長繊維不織布。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) ・・・ (1)
なお、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
【請求項3】
ポリエステルBがポリ乳酸系重合体である請求項1又は2に記載のポリエステル複合長繊維不織布。
【請求項4】
複合繊維の長繊維が堆積したウエブがスパンボンド法により製造されたものである請求項1〜3いずれかに記載のポリエステル複合長繊維不織布。

【図1】
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【公開番号】特開2009−197381(P2009−197381A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253876(P2008−253876)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】