説明

ポリエチレンジオキシチオフェンの製造方法

【課題】長期間にわたり安定で、遊離ハロゲンの発生のない導電性ポリ3,4−エチレンジオキシチオフェンの製造方法を提供する。
【解決手段】2,5−ジハロゲン3,4−エチレンジオキシチオフェンと3,4−エチレンジオキシチオフェンとを溶媒中又は液相中で反応させることによる導電性ポリ3,4−エチレンジオキシチオフェンの製造方法を提供する。これらのポリチオフェンは、導電性、帯電防止性を付与するためのプラスチック又はラッカー添加剤として使用し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,5-ジハロゲン-3,4-エチレンジオキシチオフェンと3,4-エチレンジオキシチオフェンとの反応による特定の導電性ポリチオフェンの製造、及びそのプラスチック又はラッカーのための添加剤としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
π-共役ポリマーの化合物類は、ここ数十年にわたり多くの文献の主題となってきた。それらは、導電性ポリマーまたは合成金属とも称される。
【0003】
導電性ポリマーは、加工性、重さ、および化学修飾による標的特性設定において、金属より有利であるので、経済的重要性が増している。既知のπ-共役ポリマーの例は、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレンおよびポリ(p-フェニレン-ビニレン)である。
【0004】
産業上使用される特に重要なポリチオフェンは、しばしばポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とも称されるポリ-3,4-(エチレン-1,2-ジオキシ)チオフェンであり、これはその酸化状態で非常に高い導電性を有しており、例えばEP-A 339 340又はEP-A 440 957に開示されている。多数のポリ(アルキレンジオキシ-チオフェン)誘導体、とりわけポリ-(3,4-エチレンジオキシチオフェン)誘導体、それらのモノマー構成成分、合成及び用途の概要は、L. Groenendaal, F. Jonas, D. Freitag, H. Pielartzik & J.R. Reynolds, Adv. Mater. 2000, 12, 481〜494頁に記載されている。
【0005】
2,5-ジハロゲン-3,4-エチレンジオキシチオフェンからの高導電性ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)誘導体の製造は、最近、開示されたばかりである。Wudlらによって開示された方法によると、2,5-ジハロゲン-3,4-エチレンジオキシチオフェンは、固相反応においてハロゲンドープされたポリチオフェンに変換される(H. Meng, D. F. Perepichka 及び F. Wudl, Angew. Chem. 2003, 115(6), 682〜685頁、並びに H. Meng, D. F. Perepichka, M. Bendikov, F. Wudl, G. Z. Pan, W. Yu, W. Dong 及び S. Brown, J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 15151〜15162頁)。この方法により所望の高導電性ポリマーが生じるものの、いくつかの不都合を有している。一方で、固相合成によると、その導電性が設定困難であって、反応条件(時間、温度)に大きく異存する生成物を生じる。最高の導電性は、長期にわたる反応時間(Angew. Chem.)の後にはじめて達せられる。更に(J. Am. Chem. Soc.)、ドープされたポリチオフェンは温度安定性でなく、室温の少し上で毒性の高いハロゲン、例えばBrを発する。この挙動は、産業上の利用に適さない。その後に、2,5-ジブロモ-3,4-エチレンジオキシチオフェンを濃縮強酸(硫酸、トリフルオロメタン-スルホン酸)で処理することにより、臭素(J. Am. Chem. Soc.)を遊離して、導電性が大きく減少した材料が得られる。この次処理と導電性の減少のいずれも、用途との関連で容認し得ない。J. Am. Chem. Soc.に示された反応機構は、2,5-ジハロゲン-3,4-エチレンジオキシチオフェンの酸化重合である。
【0006】
Baikらによって開示された方法によると、2,5-ジハロゲン-3,4-エチレンジオキシチオフェンを溶液中で酸と反応させて、導電性ポリ-(2,5-ジハロゲン-3,4-エチレンジオキシチオフェン)を生成させる(W.-P. Baik, Y.-S. Kim, J.-H. Park 及び S.-G. Jung, Myongji Univ. ソウル, 米国特許出願番号第2004/0171790号)。しかし、この方法は、導電性ポリマー中に、安定性の上記不都合と遊離ハロゲンの分離リスクに関連する、例えばBr3--対イオンとして、過度に残存する非常に高ハロゲンの基本的な課題を克服することに成功していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、2,5-ジハロゲン-3,4-エチレンジオキシチオフェンから製造されたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)の良好な導電性は、両プロセス、並びに両プロセスに特有な追加的な酸化剤の有利な省略によって達成でき、そのため、別の手段を求めることが望ましい。そのような別の手段は、上記不都合の障害なしに、2,5-ジハロゲン-3,4-エチレンジオキシチオフェンを用いて高導電性材料を実現すべきである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
驚くべきことに、3,4-エチレンジオキシチオフェン(以下、必要に応じ、EDTと略称する)を、2,5-ジハロゲン-3,4-エチレンジオキシチオフェンと液相中又は溶液中で極めて良好に共重合させ得ることが判明した。
【0009】
これは様々な理由で予想外である。即ち、Baikらの方法によると、重合はプロトン酸又はルイス酸の存在下で行われる。しかし、そのような酸は通常、平衡反応において、3,4-エチレンジオキシチオフェンを非導電性の二量体と三量体に変換する(K. Reuter, V. A. Nikanorov, V. M. Bazhenov, EP 1 375 560 A 1)。更に、3,4-エチレンジオキシチオフェンは、導電性ポリチオフェンに変換されるためには、常に酸化剤を必要とする(Adv. Mater.を参照)。
【0010】
最後に、J. Am. Chem. Soc.によると、ジハロゲン-3,4-エチレンジオキシチオフェンの溶液中での重合は、全く起こらない。Wudlらによると、それは事実上、例えば溶融した2,5-ジブロモ-EDTも極めてゆっくりしか重合しないように、固体状態の存在と結びついている。
【0011】
本発明は、導電性ポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェンの製造方法であって、式(I):
【化1】

〔式中、HalはCl,Br又はIを意味し、R=OH又はO(CH2)nSO3M(式中、n=3又は4、M=H,Na又はK、及びx=0〜4)で置換されていてよいC1-〜C18-アルキルである。〕
で示される2,5-ジハロゲン-3,4-エチレンジオキシチオフェンと、式(II):
【化2】

〔式中、R'及びx'は式(I)におけるR及びxと同義であるが、互いに独立して選択され得る。〕
で示される3,4-エチレンジオキシチオフェンと
を互いに溶媒中で反応させることを特徴とする方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
明細書及び特許請求の範囲に用いたように、また、実施例中に用いたように、特に明記しない限り、全ての数値は、たとえその用語が明示されていなくても、用語「約」が前置きされたが如く読み得るものとする。また、ここに挙げられたあらゆる数値範囲は、そこに包含される全ての部分的範囲を含むよう意図される。
【0013】
好ましくは1〜99重量%、特に好ましくは5〜95重量%の化合物(I)を、99〜1重量%、特に好ましくは95〜5重量%のEDTと反応させ、とりわけ好ましくは10〜50重量%の化合物(I)を、90〜50重量%の化合物(II)と反応させる。
【0014】
Halは、好ましくはBrを意味する。ジオキサン環上で非置換の化合物は、化合物(I)として好適に用いられ、即ち、xは好ましくは0であり、これとは無関係に、化合物(II)中のx'も好ましくは0に等しい。
【0015】
反応は必ず液相中、即ち、有機溶媒中又は多量の液体化合物(II)の存在下で行われ、そのため、反応前又は反応中に、固体化合物(I)の溶解が起こる。
【0016】
溶媒は、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレンなどの脂肪族及び芳香族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼンなどのハロゲン化脂肪族又は芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、ジ-イソプロピルエーテル、tert.ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジグライムなどのエーテル、メタノール、エタノール、n-及びイソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)などのスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどのアミドであり得る。炭化水素及びハロゲン化炭化水素が好適であり、後者が特に好ましい。上記溶媒は、上掲した例の各種の混合物として使用することもできる。ある場合、例えば化合物I及び/又はIIが水溶性である場合には、水中で、必要に応じ、適当な水混和性の有機溶媒との混合物中で動作することも有用であり得る。
【0017】
有機溶媒を用いる場合、触媒量のN-ブロモスクシンイミドを添加することが有利であり得る。反応は、酸を存在させずに、又は、酸の存在下で行い得る。酸触媒によって反応を行うのが好ましい。適当な酸は、三フッ化ホウ素(例えば、ジエチルエーテル複合体として)、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、四塩化チタンなどの非酸化性ルイス酸である。硫酸などのプロトン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などのスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸などのスルホン酸ポリマー、又は、他の強酸、例えばトリフルオロ酢酸、リン酸、ポリリン酸、塩酸、臭化水素酸などもまた、適当な酸である。各種の酸混合物もまた使用してよい。
【0018】
反応は、例えば、0〜180℃、好ましくは20〜120℃、特に好ましくは50〜100℃の温度で行い得る。
【0019】
本発明による導電性ポリマー粉末は、添加剤として用いて、プラスチックへ帯電防止性を付与し、或いは、導電性プラスチックを製造することができる。適当なプラスチックは、例えばポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルである。
【0020】
このようにして充填剤を添加したプラスチックは、エレクトロニクス分野で用いられる。
【0021】
本発明による導電性ポリマーは、とりわけ粉末として、プラスチック混合物の固形分に対して1〜50、好ましくは5〜40重量%の量で、プラスチックへ添加される。それらは、例えば押出によってプラスチック中へ組み込まれる。
【0022】
本発明による導電性ポリマー粉末は、また、充填剤として用いて、プラスチックの被覆用ラッカーへ帯電防止性を付与することもできる。適当なラッカー系は、例えばアクリレートラッカー又はポリウレタンラッカーである。
【0023】
本発明による導電性ポリマーは、とりわけ粉末として、ラッカー系の固形分に対して1〜50、好ましくは5〜40重量%の量で、ラッカー系へ添加される。
【0024】
任意の更なる使用としては、各種電子部品における導電性電極としての本発明による生成物の使用が挙げられる。
【0025】
本発明によるポリマーを、導電性のコーティング又はフィルムとして、例えば帯電防止目的で使用してもよい。
【0026】
本発明を更に例証するが、以下の実施例によって何ら限定する意図はない。実施例において、特記しない限り、全ての部及びパーセントは重量による。
【実施例】
【0027】
〔実施例1〕
EDT2.5gと2,5-ジブロモ-EDT2.5gを溶媒なしに混合し、撹拌しながら60℃に加熱した。温度が77℃に上昇した際、混合物は5分以内に反応して、比導電率(圧縮粉末として測定)が約0.01S/cmの暗藍色の組成物を生成した。
【0028】
〔実施例2〕
EDT2.5gと2,5-ジブロモ-EDT1.25gを溶媒なしに混合し、撹拌しながら2時間で80℃に加熱した。温度が87℃に上昇した際、混合物は15分以内に反応して、比導電率(圧縮粉末として測定)が4.8x10-2S/cmの暗藍色の組成物を生成した。
【0029】
〔実施例3〕
EDT4.0gと2,5-ジブロモ-EDT1.0gを溶媒なしに混合し、撹拌しながら80℃に加熱した。この温度で、微量のN-ブロモスクシンイミドを添加した。その後、混合物は激しく反応し、温度が113℃の上昇した際、暗藍色の導電性組成物を生成した。圧縮粉末としての導電性:3x10-3S/cm。
【0030】
〔実施例4〕
EDT2.66g、2,5-ジブロモ-EDT1.4g及び微量のN-ブロモスクシンイミドを、50mlのクロロホルム中で撹拌しながら11時間還流させた。約5時間後、暗藍色の固体が析出し始めた。11時間後、固体を濾別し、クロロホルムで洗浄し、乾燥した。収率:1.5g=37%理論量。圧縮粉末としての導電性:4.3x10-2S/cm。
【0031】
〔実施例5〕
EDT3.98g、2,5-ジブロモ-EDT1.4g及び微量のN-ブロモスクシンイミドを、50mlのクロロホルム中で撹拌しながら14時間還流させた。その後、生成した暗藍色の固体を濾別し、クロロホルムで洗浄し、40℃/20mbarで乾燥した。収率:3.41g=63%理論量。圧縮粉末としての導電性:3.7x10-4S/cm。
【0032】
〔実施例6〕
EDT5.31g、2,5-ジブロモ-EDT1.4g及び微量のN-ブロモスクシンイミドを、50mlのクロロホルム中で撹拌しながら11時間還流させた。約5時間後、暗藍色の固体が析出し始めた。11時間後、固体を濾別し、クロロホルムで洗浄し、乾燥した。収率:2.8g=42%理論量。圧縮粉末としての導電性:1.4x10-3S/cm。
【0033】
〔実施例7〕
フッ化ホウ素-ジエチルエーテル複合体9.1mlを、25分で、撹拌しながら、50mlのクロロホルム中のEDT2.66gと2,5-ジブロモ-EDT1.4gに秤取った(発熱反応)。一晩撹拌した後、固体沈殿物を濾別し、クロロホルムで洗浄し、乾燥した。圧縮粉末としての導電性:7x10-7S/cm。
【0034】
〔実施例8〕
98%硫酸0.2mlを、25分で、撹拌しながら、EDT2.66gと2,5-ジブロモ-EDT1.4gへ一滴ずつ添加した。一晩撹拌した後、非常に濃青色の懸濁液を濾過し、固体をクロロホルムで洗浄し、80℃で乾燥した。圧縮粉末としての導電性:3x10-7S/cm。
【0035】
〔実施例9〕
EDT0.474g、2,5-ジブロモ-EDT0.5g及びp-トルエンスルホン酸0.474gを、85mlのn-ブタノールに溶解し、23℃で10分間撹拌した。その後、溶液を、ドクターブレードでガラス板へ60μm厚の未乾燥塗膜層に塗布し、140℃で乾燥して、導電性の灰黒色フィルムを得た。
【0036】
〔実施例10〕
EDT0.38g、2,5-ジブロモ-EDT0.4g及び85%リン酸5.3gを、50mlのエタノール中に溶解した。10分間撹拌した後、溶液を、ドクターブレードでガラス板へ60μm厚の未乾燥塗膜層に塗布し、150℃で乾燥して、導電性の青灰色フィルム、表面抵抗106オーム/スクエアを得た。
【0037】
本発明は、例示目的のために上記のように詳細に記載したが、その詳細は単にその目的のためだけであって、クレームによって限定され得ること以外は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、当該分野における熟練者によって変更が成され得るものと解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェンの製造方法であって、式(I):
【化1】

〔式中、HalはCl,Br又はIを意味し、R=OH又はO(CH2)nSO3M(式中、n=3又は4、M=H,Na又はK、及びx=0〜4)で置換されていてよいC1-〜C18-アルキルである。〕
で示される2,5-ジハロゲン-3,4-エチレンジオキシチオフェンと、式(II):
【化2】

〔式中、R'及びx'は式(I)におけるR及びxと同義であるが、互いに独立して選択される。〕
で示される3,4-エチレンジオキシチオフェンと
を溶媒中で反応させる工程を含んでなる方法。
【請求項2】
化合物(I)1〜99重量%をEDT99〜1重量%と反応させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
化合物(I)10〜50重量%を化合物(II)90〜50重量%と反応させる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
HalはBrを意味する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
化合物(I)においてx=0であり、これとは独立に、化合物(II)においてx'=0である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
反応を有機溶媒中で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
反応を酸触媒作用により行う、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法によって得られた導電性ポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン。
【請求項9】
請求項8に記載のポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェンを含んでなるプラスチック又はラッカー混合物。
【請求項10】
ポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェンは、プラスチック又はラッカー混合物の固形分に対して1〜50重量%を構成する、請求項9に記載のプラスチック又はラッカー混合物。

【公開番号】特開2007−77384(P2007−77384A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−185399(P2006−185399)
【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【出願人】(303036245)ハー ツェー シュタルク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (18)
【氏名又は名称原語表記】H.C. Starck GmbH
【住所又は居所原語表記】Im Schleeke 78−91, D−38642 Goslar, Germany
【Fターム(参考)】