説明

ポリオレフィンの製造方法

【課題】スラリー重合工程と気相重合工程を含むポリオレフィンの製造方法であって、ポリオレフィンパウダーの互着・塊化を防止し、スラリー重合槽の抜き出しラインの閉塞を生じず、円滑な運転が可能であるポリオレフィンの製造方法。
【解決手段】重合触媒が、(A)遷移金属を含む固体触媒成分、(B)有機アルミニウム化合物成分及び(C)電子供与性化合物成分を含み、スラリー重合において、重合温度が40〜50℃であり、(B)有機アルミニウム化合物成分の供給量が供給されるモノマー量に対して50〜100wt.ppmであり、(C)電子供与性化合物成分の供給量が供給される(B)有機アルミニウム化合物成分の量に対して0.20〜0.40mol/molであり、重合触媒の活性(触媒1kgあたりの1時間におけるポリオレフィンの生成量(kg))が3500〜4500kg/kg/hrである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィンの製造方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は、スラリー重合工程とそれに続く気相重合工程を含むポリオレフィンの製造方法であって、得られるポリオレフィンパウダーの互着・塊化を防止し、よってポリオレフィンパウダーのスラリー重合槽からの抜き出しラインの閉塞を生じることなく、円滑な運転が可能であるという優れた効果を有するポリオレフィンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スラリー重合工程とそれに続く気相重合工程を含むポリオレフィンの製造方法は公知である(たとえば特許文献1、特許文献2参照。)。
【0003】
しかしながら、従来の方法においては、得られるポリオレフィンパウダーが互着・塊化し、これがスラリー重合槽からの抜き出しラインを閉塞し、よって円滑な運転が困難になるという問題点があった。
【0004】
【特許文献1】特開平5−51410号公報
【特許文献2】特開平5−117318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる状況において、本発明が解決しようとする課題は、スラリー重合工程とそれに続く気相重合工程を含むポリオレフィンの製造方法であって、得られるポリオレフィンパウダーの互着・塊化を防止し、よってポリオレフィンパウダーのスラリー重合槽からの抜き出しラインの閉塞を生じることなく、円滑な運転が可能であるという優れた効果を有するポリオレフィンの製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、スラリー重合工程とそれに続く気相重合工程を含むポリオレフィンの製造方法であって、重合触媒が、(A)遷移金属を含む固体触媒成分、(B)有機アルミニウム化合物成分及び(C)電子供与性化合物成分を含み、スラリー重合において、重合温度が40〜50℃であり、(B)有機アルミニウム化合物成分の供給量が供給されるモノマー量に対して50〜100wt.ppmであり、(C)電子供与性化合物成分の供給量が供給される(B)有機アルミニウム化合物成分の量に対して0.20〜0.40mol/molであり、重合触媒の活性(触媒1kgあたりの1時間におけるポリオレフィンの生成量(kg))が3500〜4500kg/kg/hrであるポリオレフィンの製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、スラリー重合工程とそれに続く気相重合工程を含むポリオレフィンの製造方法であって、得られるポリオレフィンパウダーの互着・塊化を防止し、よってポリオレフィンパウダーのスラリー重合槽からの抜き出しラインの閉塞を生じることなく、円滑な運転が可能であるという優れた効果を有するポリオレフィンの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、スラリー重合工程とそれに続く気相重合工程を含むポリオレフィンの製造方法である。
【0009】
スラリー重合は、通常ループリアクターと称せられるパイプ状のリアクターを用いて実施され、その方法は公知である。本発明においても、公知の方法を用いることができる。
【0010】
気相重合は、通常流動層リアクターを用いて実施され、その方法は公知である。本発明においても、公知の方法を用いることができる。
【0011】
スラリー重合及び気相重合においては、重合触媒が用いられる。重合触媒は、(A)遷移金属を含む固体触媒成分、(B)有機アルミニウム化合物成分及び(C)電子供与性化合物成分を含む触媒系により形成される。これらの触媒系は公知であり、本発明においても、公知のものを用いることができる。
【0012】
(A)遷移金属を含む固体触媒成分としては、三塩化チタン、塩化マグネシウム等を例示することができる。
【0013】
(B)有機アルミニウム化合物成分としては、トリエチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムモノクロライド等を例示することができる。
【0014】
(C)電子供与性化合物成分としては、有機酸エステル、有機珪素化合物等を例示することができる。
【0015】
次に、本発明の特徴について説明する。
【0016】
本発明においては、スラリー重合の重合温度が40〜50℃であり、好ましくは45〜50℃である。この温度範囲は、通常用いられる範囲より低いものであり、このように低い温度で重合を行うことが、本発明の特徴のひとつである。スラリー重合の重合温度が高すぎると前記の本発明が解決しようとする課題を解決することができない。なお、重合温度が低すぎると活性が低くなりすぎて生産性が悪化するため不都合である。
【0017】
本発明においては、(B)有機アルミニウム化合物成分の供給量は供給されるモノマー量に対して50〜100wt.ppmであり、好ましくは70〜90wt.ppmであり、(C)電子供与性化合物成分の供給量は供給される(B)有機アルミニウム化合物成分の量に対して0.20〜0.40mol/molであり、好ましくは0.25〜0.35mol/molであり、重合触媒の活性(触媒1kgあたりの1時間におけるポリオレフィンの生成量(kg))は3500〜4500kg/kg/hrであり、好ましくは3800〜4300mol/molである。
【0018】
(B)有機アルミニウム化合物成分の供給量が上記の範囲より過少であったり、(C)電子供与性化合物成分の供給量が上記の範囲より過多であると活性が低下しすぎて生産上不利となり、一方(B)有機アルミニウム化合物成分の供給量が上記の範囲より過多であったり、(C)電子供与性化合物成分の供給量が上記の範囲より過少であると活性が高くなりすぎて発熱が大きくなり、塊化・互着、ひいては抜出しライン閉塞の原因となる。重合触媒の活性が上記の範囲より低すぎると生産上不利となり、一方重合触媒の活性が上記の範囲より高すぎると塊化・互着、ひいては抜出しライン閉塞の原因となる。重合触媒の活性を本発明の範囲に制御するには、重合温度・(B)有機アルミニウム化合物成分の供給量・(C)電子供与性化合物成分の供給量のバランスをとり、たとえば重合触媒の活性を下げる場合は重合温度及び(B)有機アルミニウム化合物成分の供給量を減少し、そして/または(C)電子供与性化合物成分の供給量は増加すればよい。逆に、重合触媒の活性を上げる場合は重合温度及び(B)有機アルミニウム化合物成分の供給量を増加し、そして/または(C)電子供与性化合物成分の供給量は減少すればよい。
【0019】
本発明の製造方法を最適に適用できるポリオレフィンとしては、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン三元共重合体等であって、その融点が120〜150℃であるものをあげることができる。120〜150℃といった比較的低い融点を有するポリマーは、従来の製造方法によると、特に互着・塊化を起こし易く、よってこれらのポリマーの製造に際して、本発明の威力が強力に発現されるのである。
【実施例】
【0020】
次に本発明を実施例により説明する。
実施例1
図1に示すループリアクター1基と気相重合槽(A)及び(B)2槽を3基連結してなる装置のスラリー重合槽に、プロピレン、ブテン、水素、トリエチルアルミニウム、ターシャリーブチル-ノルマルプロピル-ジメトキシ-シランおよび予備重合触媒成分のスラリーを連続的に供給し、重合温度:50℃、重合圧力:3250kPaG、反応器内の水素供給量:供給プロピレンに対して6.98×10-4mol/mol、ブテン供給量:供給プロピレンに対して0.083mol/mol、トリエチルアルミニウムの供給量:供給プロピレンに対して81wtppm、ターシャリーブチル-ノルマルプロピル-ジメトキシ-シランの供給量:トリエチルアルミニウムの供給量に対して0.30mol/mol、予備重合触媒成分のスラリーの供給量:固体触媒成分換算し、供給プロピレンに対して79.7wtppmの条件で重合を行った。スラリー重合槽から気相重合槽(A)への重合体粒子の移送は、スラリー重合槽の圧力が3400kPaGを超えないようにバルブの開度を調整し、連続的にスラリーの抜出しを行った。
【0021】
気相重合槽(A)に、プロピレン、ブテン、水素、トリエチルアルミニウムおよびターシャリーブチル-ノルマルプロピル-ジメトキシ-シランを連続的に供給し、重合温度:67.7℃、重合圧力:1200kPaG、循環ガス流速:21.5cm/s、反応器内のプロピレン濃度:58.0体積%、ブテン濃度:19.6体積%、水素濃度:2.8体積%、窒素濃度:19.6体積%の条件で重合を行い、平均滞留時間:2.2時間となるように槽レベルを調整し、気相重合槽(A)から気相重合槽(B)へ連続的に重合体粒子を移送した。
【0022】
気相重合槽(B)に、プロピレン、ブテン、水素を連続的に供給し、重合温度:62.2℃、重合圧力:650kPaG、循環ガス流速:40.9cm/s、反応器内のプロピレン濃度:55.6体積%、ブテン濃度:16.1体積%、水素濃度:3.4体積%、窒素濃度:24.9体積%の条件で重合を行い、平均滞留時間:0.98時間となるように、気相重合槽(B)から連続的に重合体粒子を抜き出し、プロピレン−ブテンランダム共重合体粒子を得た。スラリー重合槽出口で得られたポリマーの融点は146℃であり、気相重合槽出口で得られたポリマーの融点は129℃であった。
【0023】
スラリー重合槽における重合において、上記条件にて制御を行ったところ、触媒の重合活性(触媒1kgあたり1hrでのポリマーの生成量(kg))は4188kg/kg/hrとなり、バルク重合槽から気相重合槽(A)への重合体粒子の移送はスムーズに行われ、抜出しラインの閉塞は見られず、スラリー重合槽内の圧力が3400kPaGを超える事もなかった。
【0024】
比較例1
図1に示すループリアクター1基と気相重合槽(A)及び(B)2槽を3基連結してなる装置のスラリー重合槽に、プロピレン、ブテン、水素、トリエチルアルミニウム、ターシャリーブチル-ノルマルプロピル-ジメトキシ-シランおよび予備重合触媒成分のスラリーを連続的に供給し、重合温度:52℃、重合圧力:3250kPa、反応器内の水素供給量:供給プロピレンに対して7.07×10-4mol/mol、ブテン供給量:供給プロピレンに対して0.029mol/mol、トリエチルアルミニウムの供給量:供給プロピレンに対して112wtppm、ターシャリーブチル-ノルマルプロピル-ジメトキシ-シランの供給量:トリエチルアルミニウムの供給量に対して0.18mol/mol、予備重合触媒成分のスラリーの供給量:固体触媒成分換算し、供給プロピレンに対して67.9wtppmの条件で重合を行った。スラリー重合槽から気相重合槽(A)への重合体粒子の移送は、スラリー重合槽の圧力が3400kPaGを超えないようにバルブの開度を調整し、連続的にスラリーの抜出しを行った。
【0025】
気相重合槽(A)に、プロピレン、ブテン、水素、トリエチルアルミニウムおよびターシャリーブチル-ノルマルプロピル-ジメトキシ-シランを連続的に供給し、重合温度:65.2℃、重合圧力:1200kPaG、循環ガス流速:21.5cm/s、反応器内のプロピレン濃度:56.6体積%、ブテン濃度:21.3体積%、水素濃度:2.31体積%、窒素濃度:19.8体積%の条件で重合を行い、平均滞留時間:3.5時間となるように槽レベルを調整し、気相重合槽(A)から気相重合槽(B)へ連続的に重合体粒子を移送した。
【0026】
気相重合槽(B)に、プロピレン、ブテン、水素を連続的に供給し、重合温度:60.0℃、重合圧力:650kPaG、循環ガス流速:40.9cm/s、反応器内のプロピレン濃度:61.2体積%、ブテン濃度:20.0体積%、水素濃度:2.3体積%、窒素濃度:16.5体積%の条件で重合を行い、平均滞留時間:0.96時間となるように、気相重合槽(B)から連続的に重合体粒子を抜き出し、プロピレン−ブテンランダム共重合体粒子を得た。スラリー重合槽出口で得られたポリマーの融点は144℃であり、気相重合槽出口で得られたポリマーの融点は127℃であった。
スラリー重合槽における重合において、触媒の重合活性(触媒1kgあたり1hrでのポリマーの生成量(kg))は上記重合条件では6285kg/kg/hrであった。スラリー重合槽から気相重合槽(A)への重合体粒子の抜出しラインにおいて、閉塞の兆候であるスラリー重合槽における圧力上昇(3400kPaG以上)が1時間に2回確認された。
表1にスラリー重合槽の運転条件を、表2にスラリー重合槽圧力を示した。
【0027】
【表1】


TEA:トリエチルアルミニウム
t−BnPDMS:ターシャリーブチル−ノルマルプロピル−ジメトキシ−シラン





【0028】
【表2】



(1時間あたり、3分間毎の圧力の平均値を階級毎に振り分けたもの。)
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のシステムの概略を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1 ループリアクター(スラリー重合槽)
2 気相重合槽(A)
3 気相重合槽(B)
4 スラリー重合槽から気相重合槽(A)への重合体粒子抜き出しライン
5 流動相反応器(A)から気相重合槽(B)への重合体粒子抜き出しライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラリー重合工程とそれに続く気相重合工程を含むポリオレフィンの製造方法であって、重合触媒が、(A)遷移金属を含む固体触媒成分、(B)有機アルミニウム化合物成分及び(C)電子供与性化合物成分を含み、スラリー重合において、重合温度が40〜50℃であり、(B)有機アルミニウム化合物成分の供給量が供給されるモノマー量に対して50〜100wt.ppmであり、(C)電子供与性化合物成分の供給量が供給される(B)有機アルミニウム化合物成分の量に対して0.20〜0.40mol/molであり、重合触媒の活性(触媒1kgあたりの1時間におけるポリオレフィンの生成量(kg))が3500〜4500kg/kg/hrであるポリオレフィンの製造方法。
【請求項2】
ポリオレフィンが、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体又はプロピレン−エチレン−ブテン三元共重合体であり、その融点が120〜150℃である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
(A)遷移金属を含む固体触媒成分が、三塩化チタン又は塩化マグネシウムである請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
(B)有機アルミニウム化合物成分が、トリエチルアルミニウム又はジエチルアルミニウムモノクロライドである請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
(C)電子供与性化合物成分が、有機酸エステル又は有機珪素化合物である請求項1記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−57503(P2009−57503A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227444(P2007−227444)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】