説明

ポリオレフィン樹脂用オキサゾリン系フィラー分散促進剤

【課題】少量添加で、各種機能性フィラーを汎用ポリオレフィン樹脂中に均一且つ安定的に分散させることができるフィラー分散促進剤、該フィラー分散促進剤を配合した、透明性や機械的特性が良好で、剛性、耐衝撃性、耐熱性等の性能が十分に向上され、成形性、加工性に優れ、バランスの良いポリオレフィン樹脂組成物及び該樹脂組成物で得られる成形体を提供する。
【解決手段】アルケニルオキサゾリンの単独重合体、あるいはアルケニルオキサゾリンとアクリル酸エステル系及び/又はアクリルアミド系モノマーとの共重合体を主成分とするオキサゾリン系脂肪族ポリマーを主成分とするフィラー分散促進剤を用いて、汎用ポリオレフィン樹脂、機能性フィラーとドライブレンドしてから押出機などで溶融混練することによりポリオレフィン樹脂組成物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン樹脂用のフィラー分散促進剤に関するものである。更に詳しくは、本発明は、汎用ポリオレフィン樹脂中に各種機能性フィラーを均一且つ安定的に分散させる作用を有するオキサゾリン系フィラー分散促進剤及び該分散促進剤を配合したポリオレフィン樹脂組成物、該樹脂組成物の成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂は、軽量で広範囲な弾性率がカバーできるほかに、機械的特性、耐薬品性、成形性、耐水性などの諸特性が良好で、さらに比較的安価なこともあり、自動車部品、家電部品、日用品、各種包装材料、医療部材、土木・建築資材など幅広い分野に渡って使用されている。最近では、使用目的の多様化に伴い、耐衝撃性、耐熱性、体積安定性など多くの特性向上が要求されるようになってきた。これらの特性を改良する方法として、微粒子又は繊維状のフィラーをポリオレフィンに添加し、コンポジット化する方法が提案されている。しかし、ポリオレフィンは非極性の炭化水素高分子であり、また、結晶性が高く、単独ではフィラーとの親和性が乏しいため、ポリオレフィン中にフィラーを均一に分散させることが困難であった。
【0003】
このような問題を解決するため、ポリオレフィンの末端或いは側鎖に無水マレイン酸基、水酸基、カルボキシル基、アミド基、エポキシ基などの極性基を導入し、ポリオレフィンとフィラーの親和性を向上させることが試みられてきた。例えば、特許文献1では、カルボン酸又はその無水物により変性されたポリエチレン樹脂に無機フィラーが配合されて、剛性、耐衝撃性とブロー成形性の改善されたポリエチレン樹脂組成物が提案されている。特許文献2では、マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂に無機微粉体炭酸カルシウムを分散させることで無機微粉体のマスターバッチを調製し、その後、未変性ポリオレフィン樹脂と該マスターバッチとを混練することによるポリオレフィン樹脂組成物の製造方法が提案されている。特許文献3では、炭素繊維をポリオレフィン樹脂に分散させる際に、分散助剤として金属石鹸類及び水酸基、アミノ基、カルボン酸基、エポキシ基などの官能基を有する変性ポリオレフィンを用いることが記載されている。
【0004】
しかし、ポリオレフィンの末端或いは側鎖に無水マレイン酸基、水酸基、カルボキシル基、アミド基、エポキシ基などの極性基、反応性官能基を高濃度且つ均一的に導入することは工業的に容易ではない。ポリオレフィンに特定官能基を有する不飽和化合物モノマーをグラフト重合させるには、通常、電子線や紫外線などの放射線やオゾンなどでポリオレフィンを処理し、ラジカルを発生させることにより不飽和化合物モノマーを反応させるか、あるいは有機過酸化物などのラジカル発生剤の存在下で不飽和化合物モノマーを反応させるという方法が用いられている。例えば、特許文献4では、ポリオレフィン樹脂とN−ビニルアルキルアミドを有機過酸化物の存在下で溶融混練し、アミド変性ポリオレフィン樹脂を合成する方法が提案されている。しかしながら、これらの方法において、ラジカル生成工程ではポリオレフィン主鎖の切断が起こるため、変性ポリオレフィンの分子量が低下し、それを配合した成形体の強度も低下するという問題が生じた。
【0005】
変性工程での分子量低下を防ぐため、オレフィンホモポリマーの代わりに非共役ジエンを配合したプロピレンランダム共重合体を使用することも提案されている。特許文献5では、オレフィンと非共役ジエンコモノマーの共重合体にシランカップリング剤(3−メタクリロキシプロピルメトキシシラン)と有機過酸化物を添加し、溶融混練を行うシラン変性ポリオレフィンの合成方法を記載している。ジエンとプロピレンの共重合体を配合することで変性時の分子量低下が一部改善されたが、その反面、架橋物が副生しやすくなり、それによって樹脂の溶融粘度が大幅に増加し、流動性と加工性が悪化してくる問題が新たに生じる可能性がある。
【0006】
また、これらのラジカルグラフト反応に用いられる不飽和化合物モノマーがラジカル重合性の高いものである場合、モノマー自身の単独重合によるホモポリマーの副生が多い。一方、ラジカル重合性の低いものである場合、未反応の残存モノマーによる臭気や着色などの問題も生じる恐れがある。
【0007】
副生ポリマーの生成を無くす目的で、オレフィンと非共役ジエンコモノマーとの共重合体のエチレン性不飽和結合に、エチレン性不飽和結合を有しないアミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基などの官能基を有する飽和カルボン酸を付加反応させ、オレフィン性不飽和共重合体にカルボン酸基を導入する方法が提案されている(特許文献6)。しかし、この方法で得られる生成物中には未反応の飽和カルボン酸原料が多く残存し、高温(110℃)のクロロベンゼンなどの溶剤に溶解させてから再沈殿で精製し、その後濾過、乾燥を行う必要があり、多くの時間とエネルギーを消耗し、生産性が低いという問題点があった。
【0008】
前記のポリオレフィン樹脂に極性基や反応性官能基を導入する方法では、得られる変性ポリオレフィンの変性率、すなわち、極性基や反応性官能基などの導入率が数重量%に留まっており、さらにこれらの変性ポリオレフィンをフィラー分散剤などの樹脂改質剤として用いる場合、例えば、変性ポリオレフィンを数重量%添加すると、極性基や反応性官能基の配合量が目的ポリオリフィン樹脂組成物中で1重量%に満たず(最終目的ポリオレフィン系樹脂組成物又は成形体中の官能基含有量は、特許文献3のアミド基モノマーが0.20重量%、特許文献4のシランカップリング剤が0.15重量%、特許文献5のメルカプト酢酸が0.03重量%)、満足な特性付与ができるとは言えない。
【0009】
フィラーは無機あるいは有機の微粒子又は繊維である。フィラーの効果によりポリマーの力学性質、熱的性質、加工・成形性などを大幅に向上でき、さらに導電性などのポリマーそのものにはない機能を付与することができるので、樹脂添加剤として盛んに使用されている。フィラーは樹脂と直接混合し、溶融混練により分散させる方法が最も簡便であるが、微粒子状のフィラーは非常に表面活性が高いため、凝集を起こしやすく、凝集させないでポリマー中に均一、安定に分散させるのは非常に困難である。通常、粒子の微細化により樹脂中での分散性が向上されるが、非極性のポリオレフィン樹脂中では、極めて微細化された微粒子は2次凝集が生じやすいので、粒子微細化の方法では十分に分散できない。そこで、ポリオレフィン樹脂により均一且つ安定的に分散されるように、適切な表面処理法によるフィラーの改質も多く検討されている。例えば、特許文献7では、オレフィン系樹脂に層状粘土鉱物を均一に分散させる目的で、ポリオレフィンのポリマーの末端あるいは側鎖にオニウムイオンを導入して修飾ポリマーとし、この修飾ポリマーを用いて粘土鉱物の有機化を行うことが提案されている。しかし、ポリオレフィンのポリマーの末端あるいは側鎖にオニウムイオンを導入することは化学的に非常に困難であり、また、粘土鉱物を有機化する際に層間膨潤が限界あり、層を十分に膨潤させることも容易ではなかった。
【0010】
特許文献8では粉体状フィラーを液体材料と接触させて特殊な回転磨砕機で混合物を調製してから樹脂に添加する方法が提案されている。しかし、粉体状フィラーの表面を均一に覆い、フィラーの濡れ性を向上させる効果を付与できる液体材料はやや極性的な低分子に限られており、このような液体材料は非極性のポリオレフィン樹脂中に分散しにくいので、粉体フィラーへの分散促進効果が十分に満足できるとは言い難い。また、低分子液体材料がポリオレフィン樹脂組成物成形体から徐々にブリードアウトし、成形体の外観悪化と力学的、熱的物性の低下を引き起こしてしまうという問題があった。
【0011】
さらに、これらの方法では、ポリオレフィン中に分散させる前に、事前のフィラー表面処理を加えなければならないので、工程が煩雑であり、コストが高くなるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平08−085743号公報
【特許文献2】特開平09−118754号公報
【特許文献3】特開2006−124454号公報
【特許文献4】特許第3368651号公報
【特許文献5】特開平05−125233号公報
【特許文献6】特開平05−59112号公報
【特許文献7】特開平10−182892号公報
【特許文献8】特開平2006−1958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の問題を解決した、少量添加で、各種機能性フィラーを汎用ポリオレフィン樹脂中に均一且つ安定的に分散させる効果に優れたフィラー分散促進剤を提供することを課題とする。
また、本発明は、このようなフィラー分散促進剤を配合した、ポリオレフィン樹脂本来の機械的特性が良好で、剛性、耐衝撃性、耐熱性等の性能が十分に向上した、バランスの良いポリオレフィン樹脂組成物及び該樹脂組成物で得られる成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らはこれらの課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定のオキサゾリン系脂肪族ポリマー、具体的には、一般式(1)(式中、Rは水素原子又はメチル基を、R〜Rは同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜3の直鎖、分岐鎖のアルキル基を表す。)で示される構造単位5〜100モル%と、一般式(2)(式中、Rは水素原子又はメチル基を、Rは炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖、環状のアルキル基、アルケニル基を表す。)で示される構造単位、及び一般式(3)(式中、Rは水素原子又はメチル基を、R、R10は同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖、環状のアルキル基、アルケニル基を表す。)で示される構造単位を合わせて95〜0モル%から構成されるビニル化合物の重合体がポリオレフィン樹脂に対して優れたフィラー分散促進効果を有することを見出した。さらに、当該分散促進剤を汎用ポリオレフィン樹脂、機能性フィラーとドライブレンドしてから押出機などで溶融混練することによりポリオレフィン樹脂組成物を形成させることで、上記課題を解決し、本発明に到達した。
【化1】


【化2】

【化3】

【0015】
すなわち本発明は、
(1)オキサゾリン系脂肪族ポリマーからなるポリオレフィン樹脂用のフィラー分散促進剤、
(2)前記オキサゾリン系脂肪族ポリマーが、一般式(1)(式中、Rは水素原子又はメチル基を、R〜Rは同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜3の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を表す。)で示される構造単位5〜100モル%と、一般式(2)(式中、Rは水素原子又はメチル基を、Rは炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基もしくはアルケニル基を表す。)で示される構造単位、及び一般式(3)(式中、Rは水素原子又はメチル基を、R、R10は同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖もしくは環状のアルキル基、アルケニル基を表す。)で示される構造単位を合わせて95〜0モル%から構成されるビニル化合物の重合体であることを特徴とする前記(1)に記載のポリオレフィン樹脂用のフィラー分散促進剤、
【化4】


【化5】

【化6】

(3)前記オキサゾリン系脂肪族ポリマーの重量平均分子量が1,000〜500,000であることを特徴とする前記(1)、前記(2)記載のポリオレフィン樹脂用のフィラー分散促進剤、
(4)ポリオレフィン樹脂に、フィラーと前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載のフィラー分散促進剤が配合されたポリオレフィン樹脂組成物であって、該フィラー分散促進剤の配合量が0.1〜50重量%であるポリオレフィン樹脂組成物、
(5)ポリオレフィン樹脂、フィラーおよび前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載のフィラー分散促進剤を混合し溶融混練する工程を有する(4)に記載のポリオレフィン樹脂組成物の製造方法、
(6)前記(4)に記載のポリオレフィン樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体
を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明のフィラー分散促進剤は、アルケニルオキサゾリンの単独重合体、あるいはアルケニルオキサゾリンとアクリル酸エステル系及び/又はアクリルアミド系モノマーとの共重合体を主成分とするオキサゾリン系脂肪族ポリマーである。該フィラー分散促進剤は、ポリオレフィン樹脂に対しても、フィラーに対しても優れた相溶性を有し、少量添加するだけで、ポリオレフィン樹脂中にフィラーの分散を促進させ、均一且つ安定的に分散されたポリオレフィン・フィラー複合樹脂組成物を形成することができる。そのため、フィラーが特別に表面処理をせず、特殊な混合装置や精製技術などを必要とせず、ポリオレフィン樹脂、フィラー、該フィラー分散促進剤を溶融混練するだけで、引張強度、曲げ強度等の良好な機械的特性と耐衝撃性、耐熱性を併せ持つ高性能のポリオレフィン樹脂組成物を高収率で取得することができる。
【0017】
該分散促進剤は、両親媒性に優れたオキサゾリン基を有するため、親水性成分にも疎水性成分にも良好な相溶性を示し、親水性官能基の疎水性ポリオレフィン樹脂への分散を促進することができる。また、オキサゾリン基は有機化合物でありながら、NとOを有する5員環であるので、金属とコンプレックスを形成しやすく、金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属の各種無機塩を主成分とする無機成分がポリオレフィンなどの有機成分に分散するのを促進する作用がある。特に、オキサゾリン基はカルボキシル基、酸無水物基、フェノール性水酸基、チオール基、エポキシ基、アミノ基などの官能基と優れた反応性を有するため、表面又は層間にこれらの反応基を有するシリカ、カーボンブラック、粘土鉱物、セルロース系の微粒子、炭素繊維などは、オキサゾリン基との反応で形成される共有結合により位置が固定され、安定的かつ長期的な分散性が提供できるので、好適である。しかも、これらの反応は付加反応であるため、反応に伴って副生成物が一切発生せず、VOCフリーという環境に優れる特徴もある。
【0018】
該分散促進剤は、脂肪族ポリマーであり、ポリオレフィン樹脂と類似するポリマー主鎖を有するので、ポリオレフィン樹脂中に均一且つ安定的に分散されやすい特徴がある。また、ポリオレフィン樹脂に比べ、結晶性が低く、分子鎖が動きやすいため、コンプレックス形成や化学反応などの作用で該分散促進剤の周辺に取り込まれたフィラーもポリオレフィン樹脂中に均一且つ安定的に分散されやすいと、本発明者らは推察している。
【0019】
該分散促進剤はポリマーであり、ポリオレフィン樹脂組成物においても、その成形体においても、長期間の使用あるいは貯蔵しても、ブリードせず、良好な安定的なフィラー分散効果に優れている特徴もある。
【0020】
該分散促進剤を配合したポリオレフィン樹脂組成物の耐熱性が特に優れる理由として、フィラーが均一且つ安定的に分散されていると同時に、分散促進剤のオキサゾリン基、エステル基、アミド基の存在による水素結合を形成しやすいことにあると、本発明者らは推察している。
【0021】
該分散促進剤が各種機能性フィラーに有効であり、それをベースにし、各種機能性フィラー、さらに必要に応じてその他添加剤と混合して使用することによって様々な用途に用いることが可能なポリオレフィン樹脂組成物及びその成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリオレフィン樹脂用フィラー分散促進剤はオキサゾリン系脂肪族ポリマーであり、アルケニルオキサゾリンの単独重合体、あるいはアルケニルオキサゾリンとアクリル酸エステル系及び/又はアクリルアミド系モノマーとの共重合体を主成分とするオキサゾリン系脂肪族ポリマーである。
【0023】
アルケニルオキサゾリンは一般式(4)で示されるオキサゾリン基を有するビニルモノマーであり、式中のRは水素原子又はメチル基を、R〜Rは同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜3の直鎖、分岐鎖のアルキル基を表す。具体的には、2−ビニル−2−オキサゾリン、4−メチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、5−メチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、4−エチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、5−エチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、4,4−ジメチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、4,4−ジエチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、4,5−ジメチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、4,5−ジエチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、4−メチル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、5−メチル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、4−エチル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、5−エチル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、4,4−ジメチル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、4,4−ジエチル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、4,5−ジメチル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、4,5−ジエチル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリンなど等が挙げられる。これらアルケニルオキサゾリンの中では、カルボキシル基、酸無水物基、フェノール性水酸基、チオール基などの反応性基と高反応性を有する2−ビニル−2−オキサゾリン、5−メチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、4,4−ジメチル−2−ビニル−2−オキサゾリンが好ましく、さらに2−ビニル−2−オキサゾリンが最も好ましい。これらアルケニルオキサゾリンは1種あるいは2種以上を用いることができる。
【化7】

【0024】
アクリル酸エステル系モノマーは一般式(5)で示されるアクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルであり、式中のRは水素原子又はメチル基を、Rは炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖、環状のアルキル基、アルケニル基を表す。具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、アルキル鎖長C8〜C20の長鎖脂肪族(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート系モノマー等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステル系モノマーは、1種あるいは2種以上を用いることができる。また、これらの中では、安価な工業品を容易に入手できるメタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、2−エチルヘキシルアクリレートなどが好ましい。
【化8】

【0025】
アクリルアミド系モノマーは一般式(6)で示されるアクリルアミド、N−置換アクリルアミド、N,N−二置換アクリルアミド、メタクリルアミド、N−置換メタクリルアミド、N,N−二置換メタクリルアミドであり、式中のRは水素原子又はメチル基を、R、R10は同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖、環状のアルキル基、アルケニル基を表す。具体的には、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−イソブチル(メタ)アクリルアミド、N−ペンチル(メタ)アクリルアミド、N−ヘキシル(メタ)アクリルアミド、N−へプチル(メタ)アクリルアミド、N−オクチル(メタ)アクリルアミド、N−ノニル(メタ)アクリルアミド、N−デシル(メタ)アクリルアミド、N−ドデシル(メタ)アクリルアミド、N−テトラデシル(メタ)アクリルアミド、N−ヘキサデシル(メタ)アクリルアミド、N−オレイル(メタ)アクリルアミド、N−ステアリル(メタ)アクリルアミド、N−エイコシル(メタ)アクリルアミド、N−ドコシル(メタ)アクリルアミド、N−エチルヘキシル(メタ)アクリルアミド、N−シクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、N−イソボルニル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドなど等が挙げられる。これらの(メタ)アクリルアミド系モノマーは、1種あるいは2種以上を用いることができる。特に、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドが工業品を入手しやすいため、好ましい。
【化9】

【0026】
本発明に用いられるアルケニルオキサゾリンは、本発明者等が先に出願した特許文献9記載の方法で製造できる。
【特許文献9】特開2001−058986号公報、特開2002−275166号公報、特開2004−250391号公報、特開2004−238342号公報、特開2004−238343号公報、特開2004−238344号公報
【0027】
アルケニルオキサゾリンの単独重合、アクリル酸エステル系モノマー及び/又はアクリルアミド系モノマーとの共重合方法としては、特に限定されるものではなく、公知のラジカル重合法により実施可能である。例えば、本発明者等が先に出願した特許文献10記載の方法を参考できる。例えばアルコール、酢酸エチルなどの有機溶媒中の溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状重合法などが挙げられる。有機溶媒中の溶液重合法を採用する場合、重合溶媒としては、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルアルコール、エチルアルコールなどの単独もしくは混合で用いることができる。
【特許文献10】特開2007−246615号公報、特開2009−120802号公報
【0028】
重合開始剤としては、アゾ系、有機過酸化物系、無機過酸化物系、レドックス系など一般的に知られている重合開始剤が挙げられる。重合開始剤の使用量としては、通常重合性単量体成分総量に対して0.001〜10重量%程度である。また、連鎖移動剤による分子量の調整など通常のラジカル重合技術が適用される。
【0029】
本発明のオキサゾリン系脂肪族ポリマーはアルケニルオキサゾリンのホモポリマーあるいはアルケニルオキサゾリンとアクリル酸エステル系モノマー及び/又はアクリルアミド系モノマーとの共重合体であり、構成単位であるアルケニルオキサゾリンが5〜100モル%、好ましいアルケニルオキサゾリン配合量は10モル%以上、さらに好ましくは20モル%以上である。5モル%未満であると、十分なフィラー分散促進効果と耐熱性向上効果を付与することが困難である。
【0030】
アクリル酸エステル系モノマーとアクリルアミド系モノマーのモル比は特に限定する必要は無いが、合わせて95〜0モル%である。また、アミド基がより水素結合を形成しやすいため、耐熱性をより向上させたい場合、アクリルアミド系モノマーの配合比を増やせばよい。
【0031】
本発明のオキサゾリン系脂肪族ポリマーの重量平均分子量は1,000〜500,000である。また、好ましくは2,000〜300,000、さらに好ましくは5,000〜100,000である。重量平均分子量が1,000未満であると、ポリオレフィン樹脂組成物中の配合量が多い場合、例えば10重量%以上では、樹脂組成物の引張強度、曲げ強度などの機械的特性が十分に満足できない可能性がある。一方、重量平均分子量が500,000を越えると、機能性フィラーによって異なるが、十分な分散促進効果が得られない場合がある。
【0032】
本発明のオキサゾリン系脂肪族ポリマーは、フィラー分散促進剤としての配合量がポリオレフィン樹脂組成物中で0.1〜50重量%である。好ましくは0.5〜30重量%、さらに好ましくは1〜10重量%である。配合量が0.1重量%未満であると、十分な分散促進効果と耐熱性向上効果を付与することが困難である。一方、配合量が50%越える場合、オキサゾリン系脂肪族ポリマーの構成単位モル比及び分子量にもよるが、逆に樹脂組成物の剛性、耐衝撃性が低下する恐れがある。
【0033】
オキサゾリン系脂肪族ポリマーとフィラーの配合比は特に限定する必要はない。フィラーの品種、その分散促進剤であるオキサゾリン系脂肪族ポリマーの組成、分子量に応じて種々変えることができるが、目的樹脂組成物のコスト、機械強度又は流れ特性の観点から、フィラー100重量部に対して、オキサゾリン系脂肪族ポリマーが、重量比で0.1〜1000重量部、好ましく1〜200重量部、さらに好ましく10〜100重量部である。
【0034】
本発明の原料樹脂であるポリオレフィンとは、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン等の炭素数3以上のα−オレフィンの単独重合体、これらのうち2種以上のモノマーのランダム、ブロック、グラフト等の共重合体、エチレンもしくは炭素数3以上のα−オレフィンの主要部と他の不飽和モノマーとのランダム、ブロック、グラフト等の共重合体又はこれらの混合物である。
【0035】
エチレンの重合体としては、例えば、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)や低圧法高密度ポリエチレン(HDPE)あるいは線状低密度ポリエチレン(LLDPE)を挙げることができる。プロピレンの重合体の例としては、ホモ、ブロック又はランダムのポリプロピレンを挙げることができる。
【0036】
また、α−オレフィンの2種又は3種以上の共重合体の例としては、エチレン、プロピレン及びジエンの三元共重合体からなるゴム(EPDM)、エチレン−プロピレン共重合体ゴム(EPR)、エチレン−ブテン共重合体ゴム(EBR)などを挙げることができる。
【0037】
これらのポリオレフィンは単独でも、2種以上併用してもよい。また、これらの中、フィラーの分散性改善による機能性付与の観点から好ましいのはポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体、プロピレン/不飽和単量体共重合体である。
【0038】
さらに、本発明のポリオレフィン樹脂組成物においては、必要に応じて、極性基及び/又は反応性基を導入した一般に公知化された変性ポリオレフィン樹脂を適宜に添加し、上記各種ポリオレフィン樹脂と併用することもできる。特に、カルボキシル基、酸無水物基、フェノール性水酸基、チオール基、エポキシ基、アミノ基などの官能基に修飾された変性ポリオレフィンが本発明のフィラー分散促進剤中のオキサゾリン基と反応性を有するため、併用することが好ましい。
【0039】
本発明のフィラーとしては、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属ケイ酸塩、金属窒化物、炭素類及びその他フィラーが挙げられる。
【0040】
金属酸化物としては、例えば、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化スズ及び酸化アンチモン等が挙げられる。
【0041】
金属水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アル
ミニウム及び塩基性炭酸マグネシウム等が挙げられる。
【0042】
金属炭酸塩としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーソナイト及びハイドロタルサイト等が挙げられる。
【0043】
金属硫酸塩としては、例えば、硫酸カルシウム、硫酸バリウム及び石膏繊維等が挙げら
れる。
【0044】
金属ケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸カルシウム、タルク、カオリン、クレー、マイ
カ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサリト、ガラス繊維、ガラスビーズ及びシリカ系バルーン等が挙げられる。
【0045】
金属窒化物としては、例えば、窒化アルミニウム、窒化ホウ素及び窒化ケイ素等が挙げ
られる。
【0046】
炭素類としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、カーボンチューブ、木炭粉末及びフラーレン等が挙げられる。
【0047】
その他のフィラーとしては、例えば、その他各種金属粉(金、銀、銅、スズ等)、チタン酸カリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、スラグ繊維、フッ素樹脂粉、木粉、パルプ、ゴム粉及びアラミド繊維、でんぷん、セルロース微粒子等が挙げられる。
【0048】
これらは単独でも、2種以上併用してもよい。これらのフィラーの中、好ましいのはオキサゾリン基とコンプレックスを形成しやすい金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属の各種無機塩が挙げられる。
【0049】
さらに好ましいのは表面にオキサゾリン基との反応性を有する官能基、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、フェノール性水酸基、チオール基、エポキシ基、アミノ基などの官能基を担持するシリカ、カーボンブラック、粘土鉱物、セルロース系の微粒子、炭素繊維などが挙げられる。
【0050】
フィラーの形状は特に限定されないが、繊維状、針状、板状、球状、粒状(不定形、以下同じ意味である。)、テトラポット状及びバルーン状等が挙げられる。またフィラーは必要により、処理剤により表面処理されていてもよい。表面処理剤としては、公知の表面処理剤が使用でき、例えば、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤、油脂、ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤、多価アルコール型非イオン界面活性剤、ワックス、脂肪酸、カルボン酸カップリング剤及びリン酸カップリング剤等が挙げられる。
【0051】
フィラーは1ナノメートルから数千ミクロンメートルまでのサイズのものであればよい。
【0052】
本発明のポリオレフィン樹脂組成物の製造方法は、ポリオレフィン樹脂、フィラーとフィラー分散促進剤を溶融混練する工程を有する。
【0053】
溶融混練工程での原料供給方法は、ペレット状のポリオレフィン、粉末状のフィラー、粉末状のフィラー促進分散剤及びその他の添加剤を所定比例でドライブレンドし、得られる混合物を溶融混練機に直接フィードする方法、あるいは、ペレット状のポリオレフィン、粉末状のフィラー、粉末状のフィラー分散促進剤及びその他の添加剤をそれぞれの定量装置を用い、所定比例で連続的に溶融混練機に直接フィードする方法、どの方法においても十分に満足できる分散促進効果が与えられる。また、作業上で、高濃度のマスターバッチの使用がより便利である場合、フィラーのマスターバッチ、分散促進剤のマスターバッチ、又はフィラーと分散促進剤のマスターバッチを先に調製、ペレット化してから、ポリオレフィンと混練することもよい。
【0054】
溶融混練工程で用いられる溶融混練機としては、公知の溶融混練機が例示され、バンバリーミキサー、プラストミル、ブラベンダープラストグラフ、一軸押出機、二軸押出機等が挙げられる。フィラーを良好に分散させ、ポリオレフィン樹脂組成物の耐熱性や剛性を向上させるという観点から、一軸押出機又は二軸押出機により溶融混練することが好ましく、特に二軸押出機が好ましい。
【0055】
二軸押出機は通常、原料供給口、ベント口、ジャケットを備えたバレル、バレルの内部に配置され、同方向、異方向に回転する二本のスクリュー、及び押出機先端に取り付けられたダイ、スクリーンメッシュから構成される。さらに、二軸押出機には、スクリュー途中に設置された複数枚のニーディングディスクによって構成される少なくとも一つの溶融混練部(ニーディング部)が含まれる。
【0056】
一つの溶融混練部(ニーディング部)を構成するニーディングディスクの枚数は、フィラーを良好に分散させるという観点や、せん断によって発生する大きな発熱でポリオレフィン樹脂組成物が分解することを防止するという観点から、好ましくは3〜200枚であり、より好ましくは5〜50枚である。また、一つの溶融混練部(ニーディング部)を1ユニットとして、せん断によって発生する大きな発熱でポリオレフィン樹脂が分解することを防止するという観点から、好ましくは1〜20ユニット、更に好ましくは1〜15ユニットである。
【0057】
スクリーンメッシュは、混練効果を大きくしてフィラーを良好に分散させるという観点や、せん断によって発生する大きな発熱でポリオレフィン樹脂組成物が分解することを防止するという観点から、好ましくは10〜500メッシュであり、より好ましくは20〜200メッシュである。
【0058】
押出機の溶融混練部(シリンダー部)の温度は、フィラーを良好に分散させ、ポリオレフィン樹脂組成物の耐熱剛性を向上させるという観点や、製造されるポリオレフィン組成物の分解を防止するという観点から、通常100〜280℃であり、好ましくは150〜250℃である。
【0059】
溶融混練時間は、分散不良や、製造されるポリオレフィン組成物の分解を防止するという観点から、全体として、通常0.1〜30分であり、好ましくは0.5〜15分である。
【0060】
本発明のポリオレフィン樹脂組成物の製造においては、必要に応じて、一般にポリオレフィン組成物に添加される公知の物質、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、帯電防止剤、難燃剤、中和剤、発泡剤、可塑剤、気泡防止剤等を適宜添加することもができる。
【0061】
本発明のポリオレフィン樹脂組成物の用途としては、射出成形用材料、押出成形用材料、プレス成形用材料、ブロー成形用材料、フィルム成形用材料等が挙げられる。特に、好ましくは剛性や耐衝撃性が必要とされる用途であり、例えば自動車用材料や家電用材料が挙げられる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下において、部及び%はそれぞれ重量部及び重量%を示す。
【0063】
実施例及び比較例に用いた材料は以下の通りである。
PP−1:日本ポリプロ社製、ホモポリプロピレンMA3
PP−2:サンアロマー社製、ホモポリプロピレンPM600A
B−PP:プライムポリマー社製、J715M(ブロック型ポリプロピレン)
E−PE:住友化学社製、ボンドファストE(エポキシ変性エチレン系コポリマー)
M−PP:三洋化成工業社製、ユーメックス1010(無水マレイン酸変性ポリプロピレン系オリゴマー)
炭酸カルシウム:白石工業社製、Brilliant15
タルク:富士タルク社製、タルクPKP−80
粘土鉱物:クニミネ工業社製、クニピアF(Na型モンモリロナイト)
ハイドロタルサイト:協和化学工業社製、DHT−4A
カーボンブラック:三菱化学社製、MCF#100
セルロース粉末:日本製紙ケミカル(株)製のNPファイバーW−10MG2
ガラス繊維:旭ファイバーグラス社製、FT665
【0064】
実施例における各種物性の測定方法と評価方法は以下の通りである。
(1)分散性評価:カーボンブラック配合品以外の樹脂組成物において、ペレット及び射出成形試験片の外観(表面)と断面を目視により観察し、フィラーの分散状態を以下の4段階で評価した。
◎:フィラー粒子が視認できず、かつ、透明感がある。
○:フィラー粒子が視認できないが、不透明である。
△:フィラー粒子が樹脂中に散在しているのが視認でき、かつ、不透明である。
×:フィラー粒子が樹脂中に散在しているのが視認でき、かつ、不透明であり、ペレット又は射出成形試験片の表面にひび割れが見られる。
(2)フローマーク評価:カーボンブラック配合品において、ペレット及び射出成形試験片の外観(表面)を目視により観察し、フローマークの形成状態を以下の4段階で評価した。
◎:フローマークが全く観察されない。
○:フローマークが殆ど観察されない。
△:フローマークが僅かに観察される。
×:フローマークが極端に目立つ。
(3)メルトフローレート(MFR、単位:g/10分):JIS K−7210に準拠し、230℃、2.16kg荷重で測定した。MFR値が低いほど、分子量が高く、溶融粘度が高いことを示す。
(4)曲げ弾性率(FM、単位:MPa):JIS K−7171に準拠し、試験片の厚みは4mm、スパン長さは64mm、荷重速度は2mm/分、23℃で測定を行った。FM値が高いほど、剛性に優れることを示す。
(5)アイゾット衝撃強度(Izod、単位:KJ/m):JIS K−7110に準拠し、厚み4mm、ノッチ付きの試験片を用いて23℃で測定を行った。Izod値が高いほど、耐衝撃性に優れることを示す。
(6)荷重たわみ温度(単位:℃):JIS K7191−2に準拠し、1.86MPaの条件で測定した。温度が高いほど、耐熱性に優れることを示す。
【0065】
オキサゾリン系脂肪族ポリマーの合成
<合成例1>
2−ビニル−2−オキサゾリン(VOZO)のホモポリマー(PolyVOZO)の合成
撹拌装置、温度計、冷却器及び乾燥窒素導入管を備えた容量500mLの反応容器にVOZO
100.0g(1030.9mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.7g(10.3mmol)と酢酸エチル200mLを仕込んだ。乾燥窒素気流下、反応液を30℃で60分攪拌した後、60℃で8時間重合反応を行った。反応終了後、室温に戻し、粘性の高い反応液をジイソプロピルエーテルに注ぎ、ポリマーを沈殿させることにより粗生成物を得た。該粗生成物をメタノールに溶解させ、ジイソプロピルエーテルで再沈殿、分離した後、50℃において減圧下で乾燥し、白色粉末状固形物93.5gを得た(収率=93.5%)。該白色粉末状固形物は、赤外線吸収スペクトル(IR)により、オキサゾリンの環状構造由来の特有吸収が検出され、また、モノマー由来のビニル基の吸収が検出されず、ホモポリマーPolyVOZOの生成を確認した。さらに、該ホモポリマーの重量平均分子量(Mw)をGPC法(標準ポリスチレン)により分析し、23,000であることを確認した。
【0066】
<合成例2>
2−ビニル−2−オキサゾリン(VOZO)とメチルメタクリレート(MMA)のコポリマー(PolyVOZO−MMA)の合成
合成例1と同様に、VOZO 25.0g(257.7mmol)、MMA 77.4g(773.0mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.7g(10.3mmol)と酢酸エチル200mLを仕込んで、重合、精製を行い、白色粉末状固形物95.7gを得た(収率=93.5%)。該白色粉末状固形物は、赤外線吸収スペクトル(IR)により、オキサゾリンの環状構造由来の特有吸収及びMMAのエステルの特有吸収がそれぞれ検出され、また、モノマー由来のビニル基の吸収が検出されず、コポリマーPolyVOZO−MMAの生成を確認した。コポリマーの組成が1H−NMR(CDCl3)分析により、VOZO由来ユニット/MMA由来ユニット=1.00/3.16と確認し、さらに、該コポリマーの重量平均分子量(Mw)がGPC法(標準ポリスチレン)により分析し、33,000であることを確認した。
【0067】
<合成例3>
2−ビニル−2−オキサゾリン(VOZO)とメチルメタクリレート(MMA)、N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)のコポリマー(PolyVOZO−MMA−DMAA)の合成
合成例1と同様に、VOZO 25.0g(257.7mmol)、MMA 25.8g(257.7mmol)、DMAA 51.1g(515.4mmol)、AIBN 1.7g(10.3mmol)と酢酸エチル200mLを用いて重合、精製を行い、白色粉末状固形物93.4gを得た(収率=91.7%)。該白色粉末状固形物は、赤外線吸収スペクトル(IR)により、オキサゾリンの環状構造由来の特有吸収、MMAのエステルの特有吸収及びDMAAのアミドの特有吸収がそれぞれ検出され、また、モノマー由来のビニル基の吸収が検出されず、コポリマーPolyVOZO−MMA−DMAAの生成を確認した。コポリマーの組成が1H−NMR(CDCl3)分析により、VOZO由来ユニット/MMA由来ユニット/DMAA由来ユニット=1.00/1.06/1.97と確認し、さらに、該コポリマーの重量平均分子量(Mw)がGPC法(標準ポリスチレン)により分析し、30,000であることを確認した。
【0068】
<合成例4>
2−イソプロペニル−2−オキサゾリン(IPOZO)のホモポリマー(PolyIPOZO)の合成
合成例1と同様に、IPOZO 100.0g(899.6mmol)、AIBN 1.5g(9.0mmol)と酢酸エチル200mLを用いて重合、精製を行い、白色粉末状固形物90.9gを得た(収率=90.9%)。該白色粉末状固形物は、赤外線吸収スペクトル(IR)により、オキサゾリンの環状構造由来の特有吸収が検出され、また、モノマー由来のビニル基の吸収が検出されず、ホモポリマーPolyIPOZOの生成を確認した。さらに、該ホモポリマーの重量平均分子量(Mw)がGPC法(標準ポリスチレン)により分析し、19,500であることを確認した。
【0069】
<合成例5>
2−イソプロペニル−2−オキサゾリン(IPOZO)と2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)、N,N−ジエチルアクリルアミド(DEAA)のコポリマー体(PolyIPOZO−2EHA−DEAA)の合成
合成例1と同様に、IPOZO 50.0g(449.8mmol)、2EHA 41.4g(224.9mmol)、DEAA 28.6g(224.9mmol)、AIBN 1.5g(9.0mmol)と酢酸エチル240mLを用いて重合、精製を行い、白色粉末状固形物113.0gを得た(収率=94.2%)。該白色粉末状固形物は、赤外線吸収スペクトル(IR)により、オキサゾリンの環状構造由来の特有吸収、2EHAのエステルの特有吸収及びDEAAのアミドの特有吸収がそれぞれ検出され、また、モノマー由来のビニル基の吸収が検出されず、コポリマーPolyIPOZO−2EHA−DEAAの生成を確認した。該コポリマーの組成が1H−NMR(CDCl3)分析により、IPOZO由来ユニット/2EHA由来ユニット/DEAA由来ユニット=1.00/0.53/0.48と確認し、さらに、該コポリマーの重量平均分子量(Mw)がGPC法(標準ポリスチレン)により分析し、37,000であることを確認した。
【0070】
<合成例6>
5−メチル−2−ビニル−2−オキサゾリン(MVOZO)のホモポリマー(PolyMVOZO)の合成
合成例1と同様に、MVOZO 100.0g(899.6mmol)、AIBN 1.5g(9.0mmol)と酢酸エチル200mLを用いて重合、精製を行い、白色粉末状固形物91.9gを得た(収率=91.9%)。該白色粉末状固形物は、赤外線吸収スペクトル(IR)により、オキサゾリンの環状構造由来の特有吸収が検出され、また、モノマー由来のビニル基の吸収が検出されず、ホモポリマーPolyMVOZOの生成を確認した。さらに、該ホモポリマーの重量平均分子量(Mw)がGPC法(標準ポリスチレン)により分析し、27,500であることを確認した。
【0071】
<合成例7>
4,4‘−ジメチル−2−ビニル−2−オキサゾリン(DMVOZO)、メチルメタクリレート(MMA)とN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)のコポリマー(PolyDMVOZO−MMA−NIPAM)の合成
合成例1と同様に、DMVOZO 50.0g(400.0mmol)を、MMA 20.0g(200.0mmol)、NIPAM 22.7g(200.0mmol)、AIBN 1.3g(8.0mmol)と酢酸エチル200mLを用いて重合、精製を行い、白色粉末状固形物85.3gを得た(収率=92.0%)。該白色粉末状固形物は、赤外線吸収スペクトル(IR)により、オキサゾリンの環状構造由来の特有吸収、MMAのエステルの特有吸収及びNIPAMのアミドの特有吸収がそれぞれ検出され、また、モノマー由来のビニル基の吸収が検出されず、コポリマーPolyMVOZO−MMA−NIPAMの生成を確認した。該コポリマーの組成が1H−NMR(CDCl3)分析により、MVOZO由来ユニット/MMA由来ユニット/NIPAM由来ユニット=1.00/0.55/0.46と確認し、さらに、該コポリマーの重量平均分子量(Mw)がGPC法(標準ポリスチレン)により分析し、28,500であることを確認した。
【0072】
<合成例8>
2−ビニル−2−オキサゾリン(VOZO)とN−オクチルアクリルアミド(NOAM)の共重合体(PolyVOZO−NOAM)の合成
合成例1と同様に、VOZO 50.0g(515.5mmol)、NOAM 47.3g(257.7mmol)、AIBN 1.3g(7.7mmol)と酢酸エチル200mLを用いて重合、精製を行い、白色粉末状固形物89.9gを得た(収率=92.4%)。該白色粉末状固形物は、赤外線吸収スペクトル(IR)により、オキサゾリンの環状構造由来の特有吸収及びNOAMのアミドの特有吸収がそれぞれ検出され、また、モノマー由来のビニル基の吸収が検出されず、コポリマーPolyVOZO−NOAMの生成を確認した。該コポリマーの組成が1H−NMR(CDCl3)分析により、VOZO由来ユニット/NOAM由来ユニット=1.00/0.46と確認し、さらに、該コポリマーの重量平均分子量(Mw)がGPC法(標準ポリスチレン)により分析し、29,500であることを確認した。
【0073】
<合成例9>
メチルメタクリレート(MMA)とN,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)のコポリマー(PolyMMA−DMAA)の合成
合成例1と同様に、MMA 51.6g(515.4mmol)、DMAA 51.1g(515.4mmol)、AIBN 1.7g(10.3mmol)と酢酸エチル200mLを用いて重合、精製を行い、白色粉末状固形物94.5gを得た(収率=92.0%)。該白色粉末状固形物は、赤外線吸収スペクトル(IR)により、MMAのエステルの特有吸収及びDMAAのアミドの特有吸収がそれぞれ検出され、また、モノマー由来のビニル基の吸収が検出されず、コポリマーPolyMMA−DMAAの生成を確認した。コポリマーの組成が1H−NMR(CDCl3)分析により、MMA由来ユニット/DMAA由来ユニット=1.00/0.92と確認し、さらに、該コポリマーの重量平均分子量(Mw)がGPC法(標準ポリスチレン)により分析し、34,500であることを確認した。
【0074】
実施例
実施例1〜14、比較例1〜8
ポリオレフィン、フィラーとオキサゾリン系フィラー分散促進剤(オキサゾリン系脂肪族ポリマー)を表1に示す割合で予備混合し、小型ニ軸混練押出機(栗本鐵工所製S1KRCニーダ)に供給して、200℃、50rpmで溶融混練を行い、目的樹脂組成物のペレットを得た。得られた各樹脂組成物のペレットを120℃で2時間乾燥後、射出成形機(東芝機械製IS100GN)を用い、JIS K7152に準拠し、多目的射出成形試験片を作製した。得られた各樹脂組成物のペレット及び/又は射出成形試験片を用いて、前記各種物性測定と評価を行った。結果を表2に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
以上説明してきたように、本発明のオキサゾリン系フィラー分散促進剤の配合によって、各種のフィラーがポリオレフィン中に均一且つ安定的に分散され、良好な透明性を維持しながら、剛性に優れ、また耐衝撃性及び耐熱性がバランスよく大幅に向上することができる。また、該フィラー分散促進剤の有効成分であるオキサゾリン基の特異な反応性、水素結合形成性、金属コンプレックス形成性などによりフィラーの分散が促進されると同時に、ポリオレフィンの加工中熱履歴による分子量の低下が抑制でき、そのため、MFR値の増加や加工中の溶融粘度低下などが抑えられ、成形性、加工性を顕著に改善することができる。本発明のオキサゾリン系フィラー分散促進剤は汎用のラジカル重合法で簡易に合成、高収率で製造することができる。また、該フィラー分散促進剤により、フィラーに特別な表面処理をせず、特殊な混合装置や精製技術、分散技術などを必要とせず、汎用ポリオレフィン樹脂と各種機能性フィラーとを通常の混練機で溶融混練することだけで、力学特性に優れたポリオレフィン樹脂組成物を得ることができる。本発明のポリオレフィン樹脂組成物は、各産業分野、特に建築材料分野、自動車分野の内外装部品や電装部品、家電製品などに使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の分散促進剤は、少量添加でポリオレフィン樹脂中にフィラーを良好に分散させることができる。それにより、ポリオレフィン樹脂の機械的特性を高く維持しながら、熱的特性、耐衝撃性と剛性を顕著に向上させることができるため、各産業分野において、各種エンジニアリングプラスチックとして、特にバンパー、インパネ、コンソールボックス、ルーフシート、パネル表装材、電装部品などの自動車・輸送機器関連内外装部品、家電、家具、雑貨などの日用品関連製品、医療材料の成型品、食品容器、食品包装、一般包装などの包装材料、電線やケーブルなどの被覆用材料、建築・土木、文具・事務用品などの産業資材、各種ポリマーアロイの相溶化剤あるいは接着剤用とうして好適である。また、本発明のフィラー分散促進剤の有効成分であるオキサゾリン基の特異な性能によって、ポリオレフィン樹脂以外の熱可塑性樹脂にも使用できる。さらに、異種の熱可塑性樹脂を混練させるために、相溶化剤として用いることもできる。各種熱可塑性樹脂の耐熱性向上や耐衝撃性向上などの樹脂の機械的・熱的特性を改善させるための改質剤としても使用することができる。本発明のオキサゾリン系脂肪族ポリマーは汎用有機溶剤に可溶なリニアーポリマーであり、有機溶剤に溶かして、単独あるいは機能性フィラーなどの各種添加剤と混合して、樹脂用接着剤、コーティング剤などにも適用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキサゾリン系脂肪族ポリマーからなるポリオレフィン樹脂用のフィラー分散促進剤。
【請求項2】
前記オキサゾリン系脂肪族ポリマーが、一般式(1)(式中、Rは水素原子又はメチル基を、R〜Rは同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜3の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を表す。)で示される構造単位5〜100モル%と、一般式(2)(式中、Rは水素原子又はメチル基を、Rは炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基もしくはアルケニル基を表す。)で示される構造単位、及び一般式(3)(式中、Rは水素原子又はメチル基を、R、R10は同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖もしくは環状のアルキル基もしくはアルケニル基を表す。)で示される構造単位を合わせて95〜0モル%から構成されるビニル化合物の重合体であることを特徴とする請求項1に記載のポリオレフィン樹脂用のフィラー分散促進剤。
【化1】


【化2】

【化3】

【請求項3】
前記オキサゾリン系脂肪族ポリマーの重量平均分子量が1,000〜500,000であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリオレフィン樹脂用のフィラー分散促進剤。
【請求項4】
ポリオレフィン樹脂に、フィラーと請求項1〜3のいずれか一項に記載のフィラー分散促進剤が配合されたポリオレフィン樹脂組成物であって、該フィラー分散促進剤の配合量が0.1〜50重量%である、ポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項5】
ポリオレフィン樹脂、フィラーおよび請求項1〜3のいずれか一項に記載のフィラー分散促進剤を混合し溶融混練する工程を有する、請求項4に記載のポリオレフィン樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載のポリオレフィン樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体。


【公開番号】特開2012−87177(P2012−87177A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233011(P2010−233011)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】