説明

ポリオレフィン系樹脂組成物及びポリオレフィン系樹脂材料の製造方法

【課題】層状珪酸塩の分散性を高めることができるポリオレフィン系樹脂組成物、並びに該ポリオレフィン系樹脂組成物を用いたポリオレフィン系樹脂材料の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリオレフィン系熱可塑性樹脂100重量部と、1分半減期温度が140〜220℃の範囲にある有機過酸化物0.05〜2.0重量部と、層状珪酸塩0.3〜20重量部とを含むポリオレフィン系樹脂組成物、並びに該ポリオレフィン系樹脂組成物を、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂の融点以上、該融点+150℃以下の温度で混練し、有機過酸化物を分解させるとともに前記層状珪酸塩を分散させるポリオレフィン系樹脂材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂と層状珪酸塩とを含むポリオレフィン系樹脂組成物に関し、より詳細には、層状珪酸塩の分散性を高めることが可能なポリオレフィン系樹脂組成物及び該ポリオレフィン系樹脂組成物を用いたポリオレフィン系樹脂材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂は、比較的安価で、かつ良好な成形性、耐熱性、耐溶剤性、機械的特性及び外観等を有するため、各種成型品に加工され、多くの分野で使用されている。近年、ポリオレフィン系樹脂を無機材料と組合わせて、複合材料として用いる試みがなされてきている。
【0003】
上記複合材料の一例として、下記の特許文献1には、(A)ポリオレフィン樹脂100重量部と、(B)アミノ基及び不飽和結合を有する化合物0.1〜20重量部と、(C)有機過酸化物0.01〜20重量部とを配合し、溶融混練して得られた変性ポリオレフィン樹脂に、層状珪酸塩を分散させた複合材料が開示されている。ここでは、変性ポリオレフィン樹脂を得るに際し、(B)有機過酸化物の作用により、(A)ポリオレフィン樹脂に(B)アミノ基及び不飽和結合を有する化合物がグラフト結合されている。得られた変性ポリオレフィン樹脂に、層状珪酸塩が分散されている。
【特許文献1】特開2005−113008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、上記特定の変性ポリオレフィン樹脂を用いているため、層状珪酸塩が良好に分散されるとされている。しかしながら、上記特定の変性ポリオレフィン樹脂を用いたとしても、層状珪酸塩を充分に分散させることはできなかった。
【0005】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、層状珪酸塩の分散性を高めることができるポリオレフィン系樹脂組成物、並びに該ポリオレフィン系樹脂組成物を用いたポリオレフィン系樹脂材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂100重量部と、1分半減期温度が140〜220℃の範囲にある有機過酸化物0.05〜2.0重量部と、層状珪酸塩0.3〜20重量部とを含むことを特徴とする、ポリオレフィン系樹脂組成物が提供される。
【0007】
本発明のある特定の局面では、層状珪酸塩はマイカである。
【0008】
本発明のさらに他の特定の局面では、層状珪酸塩の層間部に、ビニル基を有する有機化合物が結合されている。
【0009】
本発明の別の特定の局面では、ビニル基を有する有機化合物は、下記式(1)で表されるビニルシラン化合物である。
【0010】
CH=CH−SiR3−n (1)
上記式(1)中、Rは水素または炭素数3以下のアルキル基を示し、Xは炭素数3以下のアルコキシ基を示し、nは0〜2の整数を示す。nが2のとき複数のRは同一であってもよく、異なっていてもよい。nが0または1のとき複数のXは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0011】
本発明のさらに別の特定の局面では、前記ビニルシラン化合物は、トリメトキシビニルシランおよび/またはトリエトキシビニルシランである。
【0012】
本発明のさらに別の特定の局面では、前記ビニル基を有する有機化合物が層間部に結合されている層状珪酸塩は、層状珪酸塩を水に分散させて得られた懸濁液(A)と、ビニル基を有する有機化合物を水に溶解させて得られた水溶液(B)とを攪拌混合し、混合液を得た後、該混合液から生じた沈降分離物を乾燥して得られた層状珪酸塩である。
【0013】
本発明の他の特定の局面では、層状珪酸塩の層間には、有機カチオンが存在する。
【0014】
本発明のさらに他の特定の局面では、前記ポリオレフィン系熱可塑性樹脂はポリエチレンである。
【0015】
本発明に係るポリオレフィン系樹脂材料の製造方法は、本発明のポリオレフィン系樹脂組成物を、前記ポリオレフィン系熱可塑性樹脂の融点以上、該融点+150℃以下の温度で混練し、前記有機過酸化物を分解させるとともに前記層状珪酸塩を分散させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るポリオレフィン系樹脂組成物によれば、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂と、上記特定の有機過酸化物と、層状珪酸塩とを含むので、本発明のポリオレフィン系樹脂組成物を加温して、混練することにより、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂中に層状珪酸塩を良好に分散させることができる。
【0017】
本発明に係るポリオレフィン系樹脂材料の製造方法によれば、本発明のポリオレフィン系樹脂組成物を、上記特定の温度で混練し、有機過酸化物を分解させるとともに層状珪酸塩を分散させるので、層状珪酸塩の分散性が高められる。本発明では、煩雑な工程を経ることなく、溶融混練するだけで、層状珪酸塩を良好に分散させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0019】
本発明に係るポリオレフィン系樹脂組成物は、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂100重量部と、1分半減期温度が140℃〜220℃の範囲にある有機過酸化物0.05〜2.0重量部と、層状珪酸塩0.3〜20重量部とを含む。
【0020】
(ポリオレフィン系熱可塑性樹脂)
本発明に係るポリオレフィン系樹脂組成物は、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂を含む。
【0021】
上記ポリオレフィン系熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、プロピレン−αオレフィン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、ポリプロピレン等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種類以上併用してもよい。なかでも、層状珪酸塩の分散性に優れているので、ポリエチレンが好ましい。
【0022】
(有機過酸化物)
本発明に係るポリオレフィン系樹脂組成物は、1分半減期温度が140〜220℃の範囲にある有機過酸化物を含む。1分半減期温度とは、有機過酸化物の半減期が1分となる分解温度を示す。
【0023】
上記ポリオレフィン系熱可塑性樹脂100重量部に対して、上記有機過酸化物は0.05〜2.0重量部の割合で配合される。有機過酸化物が少なすぎると、層状珪酸塩の分散性が充分に高められないことがあり、多すぎると、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂の架橋が進行することがある。
【0024】
1分半減期温度が140〜220℃の範囲にある有機過酸化物としては、特に限定されないが、ジアシルパーオキサイド化合物、ジアルキルパーオキサイド化合物、パーオキシケタール化合物、アルキルパーエステル化合物、パーカボネート化合物等が挙げられる。
具体的には、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ジ(4,4−ジ−(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレラート、ジ−(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等が挙げられる。これらの有機過酸化物は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0025】
上記有機過酸化物としては、ジアルキルパーオキサイド化合物、ジアシルパーオキサイド化合物、パーカーボネート化合物またはアルキルパーエステル化合物が好ましく、ジアルキルパーオキサイド化合物またはパーカーボネート化合物がより好ましく、ジアルキルパーオキサイド化合物がさらに好ましい。
【0026】
(層状珪酸塩)
本発明に係るポリオレフィン系樹脂組成物は、層状珪酸塩を含む。
【0027】
上記ポリオレフィン系熱可塑性樹脂100重量部に対して、上記層状珪酸塩は0.3〜20重量部の割合で配合される。層状珪酸塩が少なすぎると、クリープ強度等の物性が十分に向上しないことがあり、多すぎると、分散させるために有機過酸化物を多量に加える必要があり架橋が進行することがある。
【0028】
上記層状珪酸塩としては、例えば、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、バイデライト、スティブンサイト及びノントロナイト等のスメクタイト系粘土鉱物、マイカ、バーミキュライト、ハロイサイト等が挙げられる。これらは天然のものであってもよく、合成されたものであってもよい。なかでも、ビニル基を有する有機化合物と効率的に結合するので、マイカが好ましい。これらの層状珪酸塩は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0029】
上記層状珪酸塩の結晶形状としては特に限定されない。層状珪酸塩の平均長さは0.01〜3μmが好ましく、0.05〜2μmがより好ましい。層状珪酸塩の厚さは0.001〜1μmが好ましく、0.01〜0.5μmがより好ましい。層状珪酸塩のアスペクト比は20〜500が好ましく、50〜200がより好ましい。
【0030】
上記層状珪酸塩の層間には交換性金属カチオンが存在する。該交換性金属カチオンとは、層状珪酸塩の薄片状結晶表面に存在するナトリウムやカルシウム等の金属イオンを意味する。これらの金属イオンは、カチオン性物質とのカチオン交換性を有するため、カチオン性を有する種々の物質、例えば有機カチオン等を上記層状珪酸塩の結晶層間に挿入(インターカレート)することができる。
【0031】
上記層状珪酸塩のカチオン交換容量としては特に限定されないが、50〜200ミリ等量/100gである。カチオン交換容量が50ミリ等量/100g未満であると、カチオン交換により層状珪酸塩の結晶層間にインターカレートされるカチオン性物質の量が少なくなるために、結晶層間が充分に非極性化(疎水化)されないことがある。カチオン交換容量が200ミリ等量/100gを超えると、層状珪酸塩の結晶層間の結合力が強固になりすぎて、結晶薄片が剥離し難くなることがある。
【0032】
上記層状珪酸塩の層間には、有機カチオンが存在することが好ましい。上記層状珪酸塩の層間に有機カチオンが存在させるために、上記層状珪酸塩は、化学処理されていることが好ましい。
【0033】
上記化学処理としては、例えば、カチオン交換法と称されている化学修飾法により行われ得る。具体的には、層状珪酸塩の層間をカチオン性界面活性剤等の有機カチオンでカチオン交換する方法である。
【0034】
上記カチオン性界面活性剤としては特に限定されず、例えば、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩等が挙げられる。なかでも、層状珪酸塩の結晶層間を充分に疎水化できることから、炭素数6以上のアルキルアンモニウムイオン、芳香族4級アンモニウムイオン又は複素環4級アンモニウムイオンが好ましい。
【0035】
上記4級アンモニウム塩としては特に限定されず、例えば、トリメチルアルキルアンモニウム塩、トリエチルアルキルアンモニウム塩、トリブチルアルキルアンモニウム塩、ジメチルジアルキルアンモニウム塩、ジブチルジアルキルアンモニウム塩、メチルベンジルジアルキルアンモニウム塩、ジベンジルジアルキルアンモニウム塩、トリアルキルメチルアンモニウム塩、トリアルキルエチルアンモニウム塩、トリアルキルブチルアンモニウム塩;ベンジルメチル{2−[2−(p−1,1,3,3−テトラメチルブチルフェノオキシ)エトキシ]エチル}アンモニウムクロライド等の芳香環を有する4級アンモニウム塩;トリメチルフェニルアンモニウム等の芳香族アミン由来の4級アンモニウム塩;アルキルピリジニウム塩、イミダゾリウム塩等の複素環を有する4級アンモニウム塩;ポリエチレングリコール鎖を2つ有するジアルキル4級アンモニウム塩、ポリプロピレングリコール鎖を2つ有するジアルキル4級アンモニウム塩、ポリエチレングリコール鎖を1つ有するトリアルキル4級アンモニウム塩、ポリプロピレングリコール鎖を1つ有するトリアルキル4級アンモニウム塩等が挙げられる。なかでも、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、ジステアリルジメチルアンモニウム塩、ジ硬化牛脂ジメチルアンモニウム塩、ジステアリルジベンジルアンモニウム塩、N−ポリオキシエチレン−N−ラウリル−N,N−ジメチルアンモニウム塩等が好ましい。これらの4級アンモニウム塩は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0036】
上記4級ホスホニウム塩としては特に限定されず、例えば、ドデシルトリフェニルホスホニウム塩、メチルトリフェニルホスホニウム塩、ラウリルトリメチルホスホニウム塩、ステアリルトリメチルホスホニウム塩、トリオクチルメチルホスホニウム塩、ジステアリルジメチルホスホニウム塩、ジステアリルジベンジルホスホニウム塩等が挙げられる。これらの4級ホスホニウム塩は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0037】
上記層状珪酸塩としては、層間部にビニル基を有する有機化合物が結合されている層状珪酸塩が好ましい。
【0038】
図1に、層間部にビニル基を有する有機化合物が結合されている層状珪酸塩を模式的に斜視図で示す。図1に示すように、層状珪酸塩1は、結晶薄片状の複数の層状珪酸塩2が積層された構造を有する。層状珪酸塩1では、ビニル基を有する有機化合物3が、結晶薄片状の層状珪酸塩2の層間部と結合されている。ビニル基を有する有機化合物3は、図1に矢印Xを付して示す位置で、層状珪酸塩2と結合されている。結晶薄片状の複数の層状珪酸塩2の対向し合う表面が、層間部である。
【0039】
図2は、層間部にビニル基を有する有機化合物が結合されている層状珪酸塩の他の例を模式的に示す斜視図である。図2に示されている層状珪酸塩11では層状珪酸塩1と同様に、ビニル基を有する有機化合物3が矢印Xを付して示す位置で、結晶薄片状の層状珪酸塩2の層間部と結合されている。層状珪酸塩11では、結晶薄片状の層状珪酸塩2の層間に有機カチオン4が存在している。
【0040】
上記ビニル基を有する有機化合物としては特に限定されないが、ビニルシラン化合物、塩化ビニル、アクリル酸エステル、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられる。なかでも、ビニルシラン化合物が好ましい。該ビニルシラン化合物は層状珪酸塩と効率的に結合するので、ビニルシラン化合物が層間部に結合されている層状珪酸塩をより一層容易に得ることができる。
【0041】
上記ビニルシラン化合物としては、下記式(1)で表されるビニルシラン化合物が好ましい。該ビニルシラン化合物は層状珪酸塩と効率的に結合するので、ビニルシラン化合物が層間部に結合されている層状珪酸塩をさらに一層容易に得ることができる。
【0042】
CH=CH−SiR3−n (1)
上記式(1)中、Rは水素または炭素数3以下のアルキル基を示し、Xは炭素数3以下のアルコキシ基を示し、nは0〜2の整数を示す。nが2のとき複数のRは同一であってもよく、異なっていてもよい。nが0または1のとき複数のXは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0043】
上記ビニルシラン化合物の具体例としては、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、トリプロポキシビニルシラン、トリイソプロポキシビニルシラン、ジメトキシビニルシラン、ジエトキシビニルシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシエチルビニルシラン、エチルジメトキシビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、メトキシビニルシラン、エトキシビニルシラン、メトキシジメチルビニルシラン、エトキシジエチルビニルシラン、ジエチルメトキシビニルシラン、エトキシジメチルビニルシラン等が挙げられる。なかでも、ビニルシラン化合物が層間部に結合されている層状珪酸塩をさらに一層容易に得ることができるので、トリメトキシビニルシランおよび/またはトリエトキシビニルシランが好ましい。
【0044】
上記層間部にビニル基を有する有機化合物が結合されている層状珪酸塩は、層状珪酸塩を水に分散させて得られた懸濁液(A)と、ビニル基を有する有機化合物を水に溶解させて得られた水溶液(B)とを攪拌混合し、混合液を得た後、該混合液から生じた沈降分離物を乾燥することにより得られる。
【0045】
上記懸濁液(A)は特に限定されないが、好ましくは、水100重量部に、層状珪酸塩0.1〜10.0重量部を配合し、該層状珪酸塩を水に分散させることにより得られる。層状珪酸塩を水に分散させると、層状珪酸塩が膨潤し、層状珪酸塩の層間距離が大きくなる。上記水としては、イオン交換水、純水、地下水、水道水または工業用水等が用いられる。
【0046】
上記水溶液(B)は特に限定されないが、好ましくは、水100重量部に、ビニル基を有する有機化合物0.1〜10.0重量部を配合し、該有機化合物を水に溶解させることにより得られる。
【0047】
ビニル基を有する有機化合物としてトリメトキシビニルシランを用いる場合、水溶液(B)のpHは特に調整する必要はないが、ビニル基を有する有機化合物としてトリエトキシビニルシランを用いる場合、上記水溶液(B)は、pHが2〜6に調整されていることが好ましい。水溶液(B)のpHが2〜6であると、ビニルシラン化合物の水への溶解性がより一層よくなり、層状珪酸塩の層間部にビニル基を有する有機化合物をより一層効率的に結合させることができる。特に、層状珪酸塩が、水膨潤性マイカ、スメクタイトである場合に、層状珪酸塩の層間部にビニル基を有する有機化合物をさらに一層効率的に結合させることができる。
【0048】
上記水溶液(B)のpHを2〜6に調整するには、例えば、ビニル基を有する有機化合物が配合される水に、予め酸を加えておけばよい。上記酸としては、シュウ酸、蟻酸、マレイン酸、フマル酸、酢酸等の有機酸や、塩酸、燐酸、硝酸、ホウ酸、硫酸、フッ酸等の無機酸等などが挙げられる。
【0049】
上記懸濁液(A)と上記水溶液(B)とは、攪拌混合される。攪拌時間は、好ましくは、0.1〜100時間である。攪拌混合は、例えば室温(23℃)で行われる。
【0050】
上記懸濁液(A)と上記水溶液(B)との混合液を例えば静置することにより、混合液中に沈降分離物が生じる。該沈降分離物は、例えば遠心分離処理等して回収することができる。回収された沈降分離物を乾燥することにより、本発明の層状珪酸塩化合物が得られる。沈降分離物の乾燥条件としては特に限定されないが、10〜80℃で1〜100時間乾燥することが好ましい。
【0051】
(ポリオレフィン系樹脂材料の製造方法)
本発明に係るポリオレフィン系樹脂組成物は、上記ポリオレフィン系熱可塑性樹脂、上記特定の有機過酸化物、及び上記層状珪酸塩を上記特定の割合で配合することにより得られる。
【0052】
本発明に係るポリオレフィン系樹脂材料の製造方法では、本発明のポリオレフィン系樹脂組成物が用いられる。ポリオレフィン系樹脂材料を得るには、ポリオレフィン系樹脂組成物をポリオレフィン系熱可塑性樹脂の融点以上、該融点+150℃以下の温度で混練し、前記有機過酸化物を分解させるとともに層状珪酸塩を分散させる。混練温度がポリオレフィン系熱可塑性樹脂の融点未満であると、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂が溶融しないため成形性が損なわれることがあり、融点+150℃を超えると、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂が分解したり変色したりすることがある。ポリオレフィン系熱可塑性樹脂の融点とは、示差走査型熱量分析(DSC)により測定された吸収熱曲線のピークにおける温度を示す。
【0053】
本発明に係るポリオレフィン系樹脂材料の製造方法では、本発明のポリオレフィン系樹脂組成物を上記特定の温度で混練し、有機過酸化物を分解させるとともに層状珪酸塩を分散させるので、従来の方法で層状珪酸塩を分散させた場合に比べて、層状珪酸塩の分散性が極めて高められる。
【0054】
なお、上述した特開2005−113008号公報では、(C)有機過酸化物は、(A)ポリオレフィン樹脂に(B)アミノ基及び不飽和結合を有する化合物をグラフトさせるために用いられている。(C)有機過酸化物は、(A)ポリオレフィン樹脂を変性させて変性ポリオレフィン樹脂を得る際に、分解される。従って、(C)有機過酸化物は、層状珪酸塩を分散させる際には分解しており、該(C)有機過酸化物は層状珪酸塩を分散させるために用いられていない。このような変性オレフィン樹脂に層状珪酸塩を分散させたとしても、層状珪酸塩を充分に分散させることはできなかった。
【0055】
これに対して、本発明に係るポリオレフィン系樹脂材料の製造方法によれば、上記ポリオレフィン系熱可塑性樹脂、上記特定の有機過酸化物及び上記層状珪酸塩を上記特定の割合で含むポリオレフィン系樹脂組成物を上記特定の温度で混練し、有機過酸化物を分解させるとともに層状珪酸塩を分散させるので、層状珪酸塩のポリオレフィン系熱可塑性樹脂に対する分散性を極めて高めることができる。本発明では、煩雑な工程を経ることなく、溶融混練するだけで、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂に層状珪酸塩を良好に分散させることができる。
【0056】
以下実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
ポリオレフィン系熱可塑性樹脂としての高密度ポリエチレンS362(旭化成ケミカルズ社製、密度0.952、融点132℃)100重量部と、有機過酸化物としての2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3(日本油脂社製、パーヘキシン25B、1分半減期温度194.3℃)0.2重量部と、層状珪酸塩としての水膨潤性マイカME100(コープケミカル社製)1.0重量部とを配合し、ポリオレフィン系樹脂組成物を得た。
【0058】
次に、ラボプラストミル(東洋精機製作所社製)を用いて、得られたポリオレフィン系樹脂組成物を160℃で5分間混練し、有機過酸化物を分解させるとともに層状珪酸塩を分散させ、ポリオレフィン系樹脂材料を得た。200℃に温調されたプレス成形機を用いて、得られたポリオレフィン系樹脂材料を厚さ2mmのスペーサーとともに圧力4.9MPaで3分間加圧することにより、厚さ2mmのポリオレフィン系樹脂材料の成形物を得た。
【0059】
(実施例2)
水膨潤性マイカME100の代わりに、層間に有機カチオンとしての有機アンモニウム塩が導入されているマイカMAE100(コープケミカル社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリオレフィン系樹脂材料の成形物を得た。
【0060】
(実施例3)
イオン交換水100重量部に、水膨潤性マイカME100(コープケミカル社製)3.0重量部を加え、1時間攪拌し、マイカが水に分散されている懸濁液(A)を得た。また、イオン交換水100重量部に、トリメトキシビニルシランS210(チッソ社製)1.0重量部を滴下し、2時間攪拌し、トリメトキシビニルシランが水に溶解されている水溶液(B)を得た。
【0061】
上記懸濁液(A)と上記水溶液(B)とを室温(23℃)で2時間攪拌混合し、混合液を得た。得られた混合液を、混合液中に沈殿分離物が生じるまで静置した。しかる後、混合液を遠心分離することにより、沈殿分離物を回収した。回収した沈澱分離物を50℃のオーブンで乾燥した後、50℃の真空乾燥機にてさらに乾燥し、沈澱分離物から完全に水分を除去し、トリメトキシビニルシランが層間部に結合されているシラン処理マイカAを得た。
【0062】
水膨潤性マイカME100の代わりに、上記シラン処理マイカAを用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリオレフィン系樹脂材料の成形物を得た。
【0063】
(実施例4)
トリメトキシビニルシランS210の代わりにトリエトキシビニルシランS220(チッソ社製)を用いたこと以外は実施例3と同様にして、トリエトキシビニルシランが層間部に結合されているシラン処理マイカBを得た。
【0064】
水膨潤性マイカME100の代わりに、上記シラン処理マイカBを用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリオレフィン系樹脂材料の成形物を得た。
【0065】
(実施例5)
有機過酸化物として2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3の代わりに、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(日本油脂社製、パーヘキサHC、1分半減期温度149.2℃)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリオレフィン系樹脂材料の成形物を得た。
【0066】
(実施例6)
有機過酸化物として2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3の代わりに、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(日本油脂社製、パーヘキサ25B、1分半減期温度179.8℃)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリオレフィン系樹脂材料の成形物を得た。
【0067】
(実施例7)
有機過酸化物としての2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3の配合割合を0.2重量部から0.05重量部に代えたこと以外は実施例1と同様にして、ポリオレフィン系樹脂材料の成形物を得た。
【0068】
(実施例8)
有機過酸化物としての2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3の配合割合を0.2重量部から2重量部に代えたこと以外は実施例1と同様にして、ポリオレフィン系樹脂材料の成形物を得た。
【0069】
(実施例9)
ポリオレフィン系熱可塑性樹脂として高密度ポリエチレンS362の代わりに、ブロックポリプロピレンE−150GK(プライムポリマー社製、融点164℃)を用いたこと、並びにポリオレフィン系樹脂組成物の混練温度を180℃に代えたこと以外は実施例1と同様にして、ポリオレフィン系樹脂材料の成形物を得た。
【0070】
(比較例1)
有機過酸化物を配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして、ポリオレフィン系樹脂材料の成形物を得た。
【0071】
(比較例2)
有機過酸化物を配合しなかったこと以外は実施例2と同様にして、ポリオレフィン系樹脂材料の成形物を得た。
【0072】
(比較例3)
有機過酸化物を配合しなかったこと以外は実施例3と同様にして、ポリオレフィン系樹脂材料の成形物を得た。
【0073】
(比較例4)
有機過酸化物として2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3の代わりに、t−ブチルハイドロパーオキシド(日本油脂社製、パーブチルH、1分半減期温度260.7℃)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリオレフィン系樹脂材料の成形物を得た。
【0074】
(比較例5)
有機過酸化物としての2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3の配合割合を0.2重量部から0.03重量部に代えたこと以外は実施例1と同様にして、ポリオレフィン系樹脂材料の成形物を得た。
【0075】
(比較例6)
有機過酸化物を配合しなかったこと以外は実施例9と同様にして、ポリオレフィン系樹脂材料の成形物を得た。
【0076】
(評価)
得られた各ポリオレフィン系樹脂材料の成形物において、広角X線散乱装置を用いて、層状珪酸塩の層間距離に起因するピーク強度と、ポリエチレン結晶の110面(回折角度21.4度付近)またはポリプロピレン結晶の040面(回折角度16.8度)に起因するピーク強度とを測定した。層状珪酸塩の層間距離に起因するピーク強度をポリエチレン結晶の110面またはポリプロピレン結晶の040面に起因するピーク強度により規格化した下記相対ピーク強度Iにより、層状珪酸塩の分散性を評価した。結果を下記の表1に示す。相対ピーク強度Iが小さいほど分散性が高いことを示す。ただし、層状珪酸塩の種類やポリオレフィン系樹脂の種類に応じてX線散乱曲線が変化するため、成形物における層状珪酸塩やポリオレフィン系樹脂の種類や量が同一の場合にのみ相対ピーク強度Iの比較が可能であり、分散性を相対的に評価することができる。
【0077】
I=(層状珪酸塩の層間距離に起因するピーク強度)/(ポリエチレン結晶の110面またはポリプロピレン結晶の040面に起因するピーク強度)
【0078】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】層状珪酸塩化合物の一例を模式的に示す斜視図。
【図2】層状珪酸塩化合物の他の例を模式的に示す斜視図。
【符号の説明】
【0080】
1…層状珪酸塩
2…結晶薄片状の層状珪酸塩
3…ビニル基を有する有機化合物
4…有機カチオン
11…層状珪酸塩

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系熱可塑性樹脂100重量部と、1分半減期温度が140〜220℃の範囲にある有機過酸化物0.05〜2.0重量部と、層状珪酸塩0.3〜20重量部とを含むことを特徴とする、ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記層状珪酸塩がマイカである、請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記層状珪酸塩の層間部に、ビニル基を有する有機化合物が結合されている、請求項1または2に記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記ビニル基を有する有機化合物が、下記式(1)で表されるビニルシラン化合物である、請求項3に記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
CH=CH−SiR3−n (1)
上記式(1)中、Rは水素または炭素数3以下のアルキル基を示し、Xは炭素数3以下のアルコキシ基を示し、nは0〜2の整数を示す。nが2のとき複数のRは同一であってもよく、異なっていてもよい。nが0または1のとき複数のXは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【請求項5】
前記ビニルシラン化合物が、トリメトキシビニルシランおよび/またはトリエトキシビニルシランである、請求項4に記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項6】
前記ビニル基を有する有機化合物が層間部に結合されている層状珪酸塩は、層状珪酸塩を水に分散させて得られた懸濁液(A)と、ビニル基を有する有機化合物を水に溶解させて得られた水溶液(B)とを攪拌混合し、混合液を得た後、該混合液から生じた沈降分離物を乾燥して得られた層状珪酸塩である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項7】
前記層状珪酸塩の層間に有機カチオンが存在する、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリオレフィン系熱可塑性樹脂がポリエチレンである、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂組成物を、前記ポリオレフィン系熱可塑性樹脂の融点以上、該融点+150℃以下の温度で混練し、前記有機過酸化物を分解させるとともに前記層状珪酸塩を分散させることを特徴とする、ポリオレフィン系樹脂材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−52001(P2009−52001A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222937(P2007−222937)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】