説明

ポリオレフィン製微多孔膜

【課題】ポリオレフィン製微多孔膜の製造ラインや加工ライン等において、スリットを行う工程における不良率を低減することの可能なポリオレフィン製微多孔膜を提供する。
【解決手段】長さ方向弾性率/幅方向弾性率の比が1.0〜2.5であり、最大孔径が0.10μm〜0.25μmであり、120℃熱収縮率が、長さ方向及び幅方向で共に5%以下であることを特徴とするポリオレフィン製微多孔膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン製微多孔膜、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン製微多孔膜は、種々の物質の分離や選択透過分離膜、及び隔離材等として広く用いられており、その用途例としては、精密濾過膜、燃料電池用セパレーター、コンデンサー用セパレーター、機能材を孔の中に充填させ新たな機能を出現させるための機能膜の母材、電池用セパレーター等が挙げられる。これらの用途の中でも、ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話、デジタルカメラ等のモバイル機器に広く使用されているリチウムイオン電池用のセパレーターとして、特に好適に使用されている。その理由としては、膜の機械強度や絶縁性能が高いことが挙げられる。
【0003】
特許文献1及び2には、良好な透過性能と高い強度を持ち合わせたポリエチレン微多孔膜が開示されている。特許文献3には、熱収縮を抑制したポリオレフィン製微多孔膜が開示されている。特許文献4には、孔の分布が狭く、強度の高いポリオレフィン製微多孔膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−194132号公報
【特許文献2】特開平10−258462号公報
【特許文献3】特開平9−012756号公報
【特許文献4】国際公開第2005/061599号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電池の高容量化に伴って、捲回する電極やセパレーターの長さが長くなる傾向にある。また、捲回工程の生産性を向上させる観点から、高速での生産がしばしば実施される。
ここで、ライン速度が高い条件において、ポリオレフィン製微多孔膜、又は電池を安定して生産する観点から、ポリオレフィン製微多孔膜には良好なスリット性を有することや、電池捲回時に巻きズレやシワが発生し難い特性を有していることが望まれる。
しかしながら、上記特許文献1〜4に記載されたポリオレフィン製微多孔膜はいずれも、そのスリット性の観点からは、なお改善の余地を有するものであった。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、ポリオレフィン製微多孔膜の製造ラインや加工ライン等において、スリットを行う工程における不良率を低減することの可能なポリオレフィン製微多孔膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、長さ方向と幅方向の弾性率の比、最大孔径、及び120℃熱収縮率が特定範囲に調整されたポリオレフィン製微多孔膜が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
長さ方向弾性率/幅方向弾性率の比が1.0〜2.5であり、
最大孔径が0.10μm〜0.25μmであり、
120℃熱収縮率が、長さ方向及び幅方向で共に5%以下である
ポリオレフィン製微多孔膜。
[2]
長さ方向の最大収縮応力が0.1N未満である[1]記載のポリオレフィン製微多孔膜。
[3]
粘度平均分子量が70万以上の超高分子量ポリエチレンを5〜90質量%含む[1]又は[2]記載のポリオレフィン製微多孔膜。
[4]
[1]〜[3]のいずれかに記載のポリオレフィン製微多孔膜からなる非水電解液系二次電池用セパレーター。
[5]
[4]記載のセパレーターと、正極と、負極と、電解液とを備える非水電解液系二次電池。
[6]
[1]〜[3]のいずれかに記載のポリオレフィン製微多孔膜の製造方法であって、下記(a)〜(f)の各工程を含み、
(a)少なくともポリオレフィン樹脂、可塑剤、無機微粉体を混合する工程、
(b)(a)工程で得られた混合物を、溶融混練する工程、
(c)(b)工程で得られた混練物をシート状に成形する工程、
(d)シート状の成形物から可塑剤及び無機微粉体を抽出する工程、
(e)シート状の成形物を二軸延伸する工程、
(f)(e)工程で得られた延伸シートを幅方向に延伸緩和させる工程、
前記(e)工程における幅方向延伸速度が20〜100%/秒、幅方向延伸倍率が1.1〜4.0倍、長さ方向延伸倍率/幅方向延伸倍率の比が0.5〜1.5であり、
前記(f)工程における延伸シートの幅方向緩和率が3%以上である
ポリオレフィン製微多孔膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリオレフィン製微多孔膜の製造ラインや加工ライン等において、スリットを行う工程における不良率を低減することのできるポリオレフィン製微多孔膜が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」と略記する。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
本実施の形態のポリオレフィン製微多孔膜(以下、単に「微多孔膜」と略記することがある)は、長さ方向弾性率/幅方向弾性率の比が1.0〜2.5であり、最大孔径が0.10μm〜0.25μmであり、120℃熱収縮率が長さ方向及び幅方向で共に5%以下である。
【0012】
本実施の形態のポリオレフィン製微多孔膜は、例えば、ポリオレフィン樹脂と無機微粉体とを含むポリオレフィン樹脂組成物から形成される。
【0013】
本実施の形態において使用するポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等のモノマーを重合して得られる重合体(ホモ重合体、共重合体及び多段重合体等)が挙げられる。これらの重合体は1種を単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。中でも、機械的強度を向上させる観点から、ポリエチレン樹脂が好ましく用いられる。
【0014】
また、前記ポリオレフィン樹脂としては、例えば、密度が0.94g/cm3を超えるような高密度ポリエチレン、密度が0.93〜0.94g/cm3の範囲の中密度ポリエチレン、密度が0.93g/cm3より低い低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等が挙げられる。中でも、微多孔膜の膜強度を高くする観点から、高密度ポリエチレン及び中密度ポリエチレンが好ましく用いられる。それらは単独で、或いは混合物として使用することができる。なお、微多孔膜の透過性や機械的強度を向上させる観点から、ポリエチレンを単独で用いることが好ましい。
【0015】
微多孔膜のスリット性を向上させる観点から、微多孔膜は、粘度平均分子量70万以上(好ましくは80万〜300万)の超高分子量ポリエチレンを好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜90質量%、更に好ましくは20〜80質量%含む。
また、微多孔膜の機械的強度を向上させる観点から、微多孔膜は、粘度平均分子量70万以上(好ましくは80万〜300万)の超高分子量ポリエチレンを好ましくは5質量%以上含む。
更に、微多孔膜の成形性を向上させる観点から、微多孔膜は、粘度平均分子量70万以上(好ましくは80万〜300万)の超高分子量ポリエチレンを好ましくは90質量%以下含む。
【0016】
一方、微多孔膜の耐熱性を向上させる観点から、前記ポリオレフィン樹脂はポリプロピレンを含んでも良い。
そのようなポリプロピレンの具体例としては、例えば、プロピレンホモポリマー、エチレン−プロピレンランダムコポリマー、エチレン−プロピレンブロックコポリマーが挙げられる。中でも、ポリプロピレンホモポリマーが好ましく用いられる。
なお、ポリプロピレンとしてコポリマーを用いる場合には、ポリプロピレンの結晶化度を低下させず、ひいては微多孔膜の透過性を低下させない観点から、コモノマーであるエチレンの含有量が1.0質量%以下であることが好ましい。
また、使用する全ポリプロピレンにおいて、コモノマーであるエチレン含量は1モル%以下とすることが好ましく、全てプロピレンホモポリマーであることが好ましい。
更に、微多孔膜への成形性を向上させる観点から、ポリプロピレンの極限粘度[η]は、1〜25dL/gであることが好ましく、2〜7dL/gであることがより好ましい。ここで、[η]は、ASTM−D4020に基づき、溶剤としてデカリンを用い、測定温度135℃にて測定した値である。
【0017】
なお、ポリプロピレンが、前記ポリオレフィン樹脂中に占める割合としては、好ましくは10質量%以下、より好ましくは1〜10質量%、更に好ましくは1〜8質量%、特に好ましくは1〜6質量%である。当該割合を1質量%以上とすることは、ポリオレフィン製微多孔膜の耐熱性を向上させる観点から好ましい。一方、当該割合を10質量%以下とすることは、透過性が良好であり、且つ、高突刺強度な微多孔膜を実現する観点から好ましい。
【0018】
前記無機微粉体としては、例えば、シリカ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、アルミナ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリンクレー、タルク、酸化チタン、カーボンブラック、珪藻土類等が挙げられる。中でも、分散性や抽出の容易さの観点から、シリカを使用することが好ましい。
【0019】
ポリオレフィン樹脂組成物には、必要に応じて、フェノール系やリン系やイオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料、滑剤、アンチブロッキング剤等の各種添加剤を混合してもよい。
【0020】
本実施の形態におけるポリオレフィン製微多孔膜の製造方法としては、例えば、下記(a)〜(f)の各工程を含む製造方法を用いることができる。
(a)少なくともポリオレフィン樹脂、可塑剤、無機微粉体を混合する工程、
(b)(a)工程で得られた混合物を、溶融混練する工程、
(c)(b)工程で得た混練物をシート状に成形する工程、
(d)シート状の成形物から可塑剤及び無機微粉体を抽出する工程、
(e)シート状の成形物を二軸延伸する工程、
(f)(e)工程で得た延伸シートを幅方向に延伸緩和させる工程。
【0021】
(a)工程は、少なくともポリオレフィン樹脂、可塑剤、無機微粉体を混合する工程である。(a)工程は、例えば、ヘンシェルミキサー、V−ブレンダー、プロシェアミキサー、リボンブレンダー等の配合機を用いた通常の混合法により行うことができる。なお、混合して造粒を行うことも可能である。
【0022】
可塑剤としては、ポリオレフィン樹脂と混合した際にポリオレフィン樹脂の融点以上において均一溶液を形成しうる不揮発性溶媒であることが好ましい。また、常温において液体であることが好ましい。
【0023】
前記可塑剤としては、例えば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジブチルのようなフタル酸エステルや、アジピン酸エステル、グリセリン酸エステル等の有機酸エステル類、リン酸トリオクチル等のリン酸エステル類、流動パラフィン、固形ワックス、ミネラルオイル等が挙げられる。上記の中でも、ポリエチレンとの相溶性、低透気度化及び低バブルポイント化の観点から、フタル酸エステルが好ましい。これらの可塑剤は、単独で使用しても、混合物として使用してもよい。
【0024】
前記可塑剤が、前記混合物中に占める割合としては、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、上限としては、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。当該割合を80質量%以下とすることは、溶融成形時のメルトテンションを高く維持し、成形性を確保する観点から好ましい。一方、当該割合を30質量%以上とすることは、成形性を確保する観点、及び、ポリオレフィンの結晶領域におけるラメラ晶を効率よく引き伸ばす観点から好ましい。ここで、ラメラ晶が効率よく引き伸ばされることは、ポリオレフィン鎖の切断が生じずにポリオレフィン鎖が効率よく引き伸ばされることを意味し、均一かつ微細な孔構造の形成や、ポリオレフィン製微多孔膜の強度及び結晶化度の向上に寄与し得る。
【0025】
また、前記ポリオレフィン樹脂と可塑剤と無機微粉体の合計量に対するポリオレフィン樹脂の混合割合は10〜50質量%が好ましく、より好ましくは20〜40質量%である。ポリオレフィン樹脂の割合は、微多孔膜の機械的強度を向上させる観点から、10質量%以上が好ましく、押出成形の際の製膜性、及び微多孔膜の透過性を向上させる観点から、50質量%以下が好ましい。
【0026】
さらに、前記無機微粉体が、前記ポリオレフィン樹脂と可塑剤と無機微粉体の合計量中に占める割合としては、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、上限として、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。当該割合を3質量%以上とすることは、優れた透過性を付与することや、ポリオレフィン製微多孔膜を安定して成膜する観点から好ましい。一方、当該割合を60質量%以下とすることは、ポリオレフィン製微多孔膜の長さ方向(成形時における樹脂の吐出方向。以下、「MD」と略記することがある。)及び幅方向(MDと略直交する方向。以下、「TD」と略記することがある。)の、120℃における熱収縮率を向上させる観点から好ましい。また、ポリオレフィン製微多孔膜の機械的強度を向上させる観点からも好ましい。
【0027】
(b)工程は、(a)工程で得られた混合物を、溶融混練する工程である。(b)工程は、例えば、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー等で混合後、一軸押出機、二軸押出機等のスクリュー押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等により行うことができる。溶融混練する方法として、連続運転可能な押出機で溶融混練する方法が好ましい。良好な混練性の観点から、連続運転可能な押出機が二軸押出機であると好ましい。
さらには、溶融混練時の加熱による樹脂の劣化を防止する観点から、溶融混練を窒素等の不活性なガス雰囲気下で行うことができる。
【0028】
(c)工程は、(b)工程で得た混練物をシート状に成形する工程である。(c)工程は、例えば、冷却方法として、冷風や冷却水等の冷却媒体に混練物を直接接触させる方法、冷媒で冷却したロールやプレス機に混練物を接触させることにより行うことができる。これらの中では、冷媒で冷却したロールやプレス機に混練物を接触させる方法が、微多孔膜の厚み制御に優れる点で好ましい。
【0029】
(d)工程は、シート状の成形物から可塑剤及び無機微粉体を抽出する工程である。(d)工程においては、シート状の成形物から可塑剤と無機微粉体を溶剤によって抽出する。可塑剤の抽出に用いられる溶剤としては、メタノール、エタノール、メチルエチルケトン、アセトン等の有機溶剤、テトラヒドロフラン等のエーテル類、塩化メチレン、1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類等を使用することができる。気孔率が高く、電極との密着性、及び透過性に優れた微多孔膜を得る観点から、可塑剤を抽出した後、無機微粉体の抽出を行うことが好ましい。無機微粉体の抽出に用いられる溶剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ水溶液を使用することができる。なお、無機微粉体を抽出する場合、無機微粉体の一部を成形物中に残してもよい。
【0030】
(e)工程は、シート状の成形物を二軸延伸する工程である。(e)工程におけるTD延伸速度としては、好ましくは20〜100%/秒である。スリット性向上の観点に加え、表面粗さを均一にして熱プレス時に電池との密着性を向上させる観点から、TD延伸速度は20%以上/秒にすることが好ましく、透過性を向上させる観点から、100%/秒以下にすることが好ましい。一方、MD延伸速度は、好ましくは10〜4000%/秒、より好ましくは100〜3000%/秒である。スリット性向上の観点に加え、機械的強度を向上させる観点から、MD延伸速度は10%/秒以上にすることが好ましく、耐破膜性を向上させる観点から、4000%/秒以下にすることが好ましい。
【0031】
また、(e)工程におけるTD延伸倍率としては、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2〜4.0倍である。電池捲回性を向上させる観点、スリット性向上の観点、又はスリット後の膜幅方向の収縮性を低減する観点から、TD延伸倍率を1.1倍以上にしてTDにもポリマー配向させることが好ましい。高温での安全性を向上させる観点から、TD倍率は4.0倍以下が好ましい。
【0032】
一方、MD延伸倍率は機械的強度と破膜性を向上させる観点から、好ましくは1.5倍〜8.0倍であり、より好ましくは2.0〜7.0倍である。機械的強度を向上させる観点から、MD延伸倍率を1.5倍以上にすることが好ましく、熱プレス時の耐破膜性を向上させる観点から、MD延伸倍率は8.0倍以下にすることが好ましい。
【0033】
MD延伸倍率とTD延伸倍率の比(MD延伸倍率/TD延伸倍率)は、好ましくは0.5〜1.5、より好ましくは0.5〜1.3である。機械的強度、電池捲回性を向上させる観点から、当該延伸倍率の比を0.5以上にすることが好ましく、熱プレス時の耐破膜性を向上させる観点から、当該延伸倍率の比を1.5以下にすることが好ましい。また、ポリオレフィン製微多孔膜の孔が等方性になることから、スリット性の安定化(巻きズレ抑制)の観点からも好ましい。また、孔の形状が等方化することで、リチウム電池におけるイオン透過性が向上され、サイクル特性が良好になる傾向にある。
【0034】
なお、前記(e)工程は、前記(d)工程の前後、いずれのタイミングでも適宜実施可能である。
【0035】
(f)工程は、(e)工程で得た延伸シートを幅方向に延伸緩和させる工程である。(f)工程におけるTD緩和率としては、好ましくは3〜50%、より好ましくは5〜40%である。ポリオレフィン製微多孔膜の熱収縮を抑制する観点、及びスリット時の安定性の観点から、TD緩和率は3%以上とすることが好ましい。また、成膜時のシワ発生を低減する観点から、TD緩和率は50%以下とすることが好ましい。なおTD緩和率は、(延伸後の膜幅−緩和後の膜幅)÷(延伸後の膜幅)×100=緩和率(%)により算出する。
【0036】
TD延伸速度、TD延伸倍率、MD延伸倍率/TD延伸倍率の比、TD延伸時の緩和率を上記範囲に設定することは、電池捲回性、スリット性、膜の機械的強度、成膜性の向上の観点から好ましい。
【0037】
また、ポリオレフィン製微多孔膜の熱収縮と透過性の観点から、(f)工程における熱処理温度は、(e)工程において形成される膜の融点よりも−5〜15℃低いことが好ましく、より好ましくは−3〜13℃低い温度であり、更に好ましくは−2℃〜10℃低い温度である。
【0038】
ポリオレフィン製微多孔膜のMD弾性率とTD弾性率の比(MD弾性率/TD弾性率)は、1.0〜2.5であり、好ましくは1.0〜2.4である。弾性率の比が1.0以上であると、捲回時にMD変形を起こし難くなる。弾性率の比が2.5以下であると、MD配向のみ強くなることが抑えられるため、スリット時の巻きズレが抑制され、スリット性が良好となる。
【0039】
ポリオレフィン製微多孔膜の最大孔径は0.10〜0.25μmであり、好ましくは0.12〜0.23μm、更に好ましくは0.12〜0.21μm、特に好ましくは0.12〜0.20μmである。最大孔径が0.10μmより大きいと透過性能に優れ、最大孔径が0.25μmよりも小さいと絶縁性能が高くなる。なお、熱プレスされた際、高温時においても高い絶縁性能を維持するために、微多孔膜には、圧縮された際の耐電圧が高いことが求められる。耐電圧と最大孔径は関係が深く、孔径が大きすぎると微多孔膜の耐電圧が低くなり、圧縮時に充分な絶縁性を保つことが困難となる。そのため、微多孔膜は、スリット性向上の観点に加え、高い透過性と高い絶縁性能を両立する孔径を有することが必要である。
【0040】
ポリオレフィン製微多孔膜の120℃熱収縮率としては、長さ方向及び幅方向で共に5%以下であり、より好ましくは長さ方向及び幅方向で共に4.5%以下である。下限としては特に限定されないが、好ましくは0.1%以上である。120℃熱収縮率を上記範囲に設定することは、スリット性向上の観点に加え、高温時における電池の安全性の観点からも好適である。
【0041】
ポリオレフィン製微多孔膜の気孔率は40〜70%が好ましく、より好ましくは40〜65%、更に好ましくは40〜60%である。気孔率が40%以上の場合、透過性能に優れる傾向にあり、70%以下の場合、機械的強度に優れ、スリット時の捲回性が良好となる傾向にある。
【0042】
ポリオレフィン製微多孔膜の透気度は、イオン透過性が向上する傾向にあるため、好ましくは10〜220秒/100ccであり、より好ましくは10〜200秒/100ccであり、更に好ましくは10〜180秒/100ccであり、更により好ましくは10〜150秒/100ccであり、特に好ましくは10〜150秒/100ccである。透気度が10秒/100cc以上であると、セパレーターとしての絶縁性能が高くなる傾向にあり、220秒/100cc以下であると、熱プレス時の透過性能が低くなり難く電池寿命が長くなる傾向にある。
【0043】
ポリオレフィン製微多孔膜の長さ方向の引張強度は、好ましくは50〜500MPaであり、より好ましくは80〜400MPaであり、更に好ましくは100〜300MPaである。引張強度が50MPa以上であると、電池捲回性が向上する傾向にあり、500MPa以下であると、スリット性が良好となる傾向にある。
【0044】
ポリオレフィン製微多孔膜の幅方向の引張強度は、好ましくは10〜200MPaであり、より好ましくは15〜150MPaであり、更に好ましくは20〜100MPaである。引張強度が10MPa以上であると、スリット性が良好となる傾向にあり、200MPa以下であると、電池捲回性が良好となる傾向にある。
【0045】
ポリオレフィン製微多孔膜の長さ方向の最大収縮応力は0.1N未満であることが好ましく、より好ましくは0.09N以下であり、更に好ましくは0.08N以下である。最大収縮応力を上記範囲に設定することは、電池作製時の電池がよれ難くなる(成形し易くなる)観点から好適である。
【0046】
本実施の形態におけるポリオレフィン製微多孔膜は、好ましくは、物質の分離、選択透過等の分離膜、及び非水電解液系二次電池や燃料電池、コンデンサー等電気化学反応装置の隔離材等として用いることができ、より好ましくは、正極と負極と電解液と共に用いた非水電解液系二次電池のセパレーターとして使用される。特に好ましくは、セパレーターと電極の密着性の観点から非水電解液系角型二次電池用のセパレーターとして使用される。
【0047】
非水電解液系二次電池は、ポリオレフィン製微多孔膜からなるセパレーターと、正極と、負極と、電解液とを備えている。この非水電解液系二次電池は、セパレーターとして上記本実施形態の非水電解液系二次電池用セパレーターを備える他は、公知の非水電解液系二次電池と同様の各部材を備えていればよく、同様の構造を有していればよく、同様の方法により製造され得る。
【0048】
なお、上述した各種パラメータについては、特に断りの無い限り、後述する実施例における測定法に準じて測定される。
【実施例】
【0049】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定した。
【0050】
(1)粘度平均分子量(Mv)
まず、[η]を測定した。[η]は、ASTM−D4020に基づき、溶剤としてデカリンを用い、測定温度135℃にて測定した。
得られた[η]から次式により、粘度平均分子量を算出した。
[η]=6.77×10-4Mv0.67(Chiangの式)
【0051】
(2)膜厚(μm)
東洋精機製の微小測厚器、KBM(商標)を用いて室温23℃で測定した。
【0052】
(3)気孔率(%)
10cm×10cm角の試料を微多孔膜から切り取り、その体積(cm3)と質量(g)を求め、膜密度を0.95(g/cm3)として次式を用いて計算した。
気孔率=(1−質量/体積/0.95)×100
【0053】
(4)透気度(sec/100cc)
JIS P−8117に準拠し、東洋精器(株)製のガーレー式透気度計、G−B2(商標)により測定した。
【0054】
(5)突刺強度(N)
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES−G5(商標)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーで微多孔膜を固定した。次に固定された微多孔膜の中央部を、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secで、25℃雰囲気下にて突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重として生の突刺強度(N)を得た。
【0055】
(6)最大孔径(μm)
ASTM E−128−61に準拠し、エタノール中でのバブルポイント(BP)により算出した。
【0056】
(7)MD、TDの引張破断強度(MPa)、引張破断伸び(%)、弾性率(MPa)、弾性率比
JIS K7127に準拠し、島津製作所製の引張試験機、オートグラフAG−A型(商標)を用いて、MD及びTDサンプル(形状;幅10mm×長さ100mm)について測定した。また、サンプルはチャック間距離を50mmとし、サンプルの両端部(各25mm)の片面にセロハンテープ(日東電工包装システム(株)製、商品名:N.29)を貼ったものを用いた。さらに、試験中のサンプル滑りを防止するために、引張試験機のチャック内側に厚み1mmのフッ素ゴムを貼り付けた。
引張破断伸び(%)は、破断に至るまでの伸び量(mm)をチャック間距離(50mm)で除して100を乗じることにより求めた。引張破断強度(MPa)は、破断時の強度を、試験前のサンプル断面積で除すことで求めた。
MD/TD強度比はMD引張破断強度をTD引張破断強度で除して求めた。
引張弾性率は伸びが1〜4%間の傾きで評価した。MD/TD弾性率比はMD弾性率をTD弾性率で除して求めた。
なお、測定は、温度;23±2℃、チャック圧0.30MPa、引張速度;200mm/minで行った。
【0057】
(8)熱収縮率(%)
ポリオレフィン製微多孔膜を各辺がMDとTDに平行となるように100mm四方に切り取り、温度を120℃に温調したオーブン内に1時間放置した後に、MD、TD熱収縮率を測定した。
【0058】
(9)TMA(最大収縮応力(N))
熱機械的分析装置(島津TMA50)にて、サンプル長10mm、サンプル幅3mm、初期荷重1.0g、昇温温度10℃/分の条件にて測定。MD、TDの各方向につき、収縮応力曲線において最大収縮荷重(N)を求めた。
【0059】
(10)スリット性
スリット性を評価する指標として、西村製作所(株)製スリッターTH4Cを使用し、走行速度100m/分にて巻き直した時の巻きズレの度合いにより評価した。なお、スリット状態において0.3mm以上のズレが生じたものを巻きズレとした。スリット性は、以下の基準に従って評価した。
◎:巻きズレ発生が10巻中0巻以下である。
○:巻きズレ発生が10巻中1巻以下である。
×:巻きズレ発生が10巻中2巻以上である。
【0060】
(11)電池捲回性
(11−1)電極(正極、負極)の作製
正極の作製:活物質としてリチウムコバルト複合酸化物LiCoO2を92.2質量%、導電剤としてリン片状グラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ2.3質量%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.2質量%をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗付し、130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、正極の活物質塗付量は250g/m2,活物質嵩密度は3.00g/cm3になるようにした。これを幅約40mm、長さ60cmに切断して帯状にした。
負極の作製:活物質として人造グラファイト96.9質量%、バインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%とスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス1.7質量%を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗付し、120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、負極の活物質塗付量は106g/m2,活物質嵩密度は1.55g/cm3と高充填密度とした。これを幅約40mm、長さ60cmに切断して帯状にした。
【0061】
(11−2)評価
皆藤製作所(株)の捲回機(KMW−2BY)を使用し、捲回性を評価した。電極の長さを60cm、ポリオレフィン製微多孔膜の長さを50cmとし、捲回速度を45mm/秒とした。(電極は正極と負極があり、ポリオレフィン製微多孔膜、正極、ポリオレフィン製微多孔膜、負極の順に、4枚重ね合わせて捲回した)。捲回状態において、微多孔膜にシワが発生しないかどうかの評価を行なった。シワ発生の基準は、捲回方向において1mm以上のシワが1箇所以上生じたものを「シワ発生」と評価した。
◎:シワ発生が10巻中0巻以下である。
○:シワ発生が10巻中1巻以下である。
×:シワ発生が10巻中2巻以上である。
【0062】
(12)電池評価(オーブン試験、捲回体の短絡、サイクル特性)
(12−1)電池の作製
非水電解液の調製:エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/リットルとなるように溶解させて調製した。
電池組立て:ポリオレフィン製微多孔膜、帯状正極及び帯状負極を、帯状負極、微多孔膜、帯状正極、微多孔膜の順に重ねて渦巻状に12回捲回することで電極板積層体を作製した。この電極板積層体を70℃の温度条件下2MPaで30秒間平板状にプレスし、電池捲回体を得た。
作製した電池捲回体は、電池捲回体をアルミニウム製容器に収納し、正極集電体から導出したアルミニウム製リードを容器壁に、負極集電体から導出したニッケル製リードを容器蓋端子部に接続した。こうして作製されたリチウムイオン電池は、縦(厚み)6.3mm,横30mm,高さ48mmの大きさであった。また、リチウムイオン電池の電池容量は600mAhであった。
【0063】
(12−2)捲回体の短絡
組立てた電池に100Vと120Vの電圧をかけて短絡試験を実施した。以下の基準に基づいて評価を行い、短絡した電池については、解体して原因を確認した。
◎:120Vで短絡しなかった。
○:100Vで短絡しなかった。
×:100Vで短絡した。
【0064】
(12−3)サイクル特性
サイクル特性(500サイクル):容量維持率(%)として評価した。組立てた電池の初充放電として、先ず1/6Cの電流値で電圧4.2Vまで定電流充電した後に、4.2Vの定電圧を保持するように電流値を絞り始めて合計8時間の初充電を行い、次に1/6Cの電流で2.5Vの終止電圧まで放電を行った。続いてサイクル充放電として、(i)電流量0.5C、上限電圧4.2V、合計8時間の定電流定電圧充電、(ii)10分間の休止、(iii)電流量0.5C、終止電圧2.5Vの定電流放電、(iv)10分間の休止なるサイクル条件で都合50回の充放電を行った。以上の充放電処理は全て20℃及び45℃の雰囲気下にてそれぞれ実施した。その後、上記初充電での放電容量に対する上記500サイクル目の放電容量の比を100倍することで、容量維持率(%)を求めた。
◎:容量維持率 90%以上
○:容量維持率 80%以上
×:容量維持率 80%未満
【0065】
(12−4)オーブン試験
組立てた電池のオーブン試験をするため、充電後の電池を室温から150℃、あるいは160℃まで5℃/分で昇温し、150℃と160℃で30分間放置した。以下の基準に基づいて評価した。
◎:160℃で発火しなかった。
○:150℃で発火しなかった。
×:150℃で発火した。
【0066】
以下の実施例及び比較例で用いた材料は以下のとおりである。
(1)ポリマー1
旭化成ケミカルズ社製 商品名「サンファインUH650」
粘度平均分子量100万の超高分子量ポリエチレン
(2)ポリマー2
旭化成ケミカルズ社製 商品名「サンファインSH800」
粘度平均分子量25万の高密度ポリエチレン
(3)無機微粉体
東ソー・シリカ社製 商品名「ニプシルLP」
粉体シリカ
(4)可塑剤
フタル酸ジオクチル
【0067】
[実施例1〜12、比較例1〜8]
表1に記載の配合(質量%)にて原料を混合造粒した後、先端にTダイを装着した二軸押出機にて溶融混練した後に押出し、両側から加熱したロールで圧延し、厚さ110μmのシート状に成形した。該成形物から可塑剤、無機微紛体を抽出し、微多孔膜を作製した。その後、表1に記載の延伸条件にてシートを延伸し、ポリオレフィン製微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性を表2に示す。ここで、表1中の「PC」は、ポリオレフィン樹脂と可塑剤と無機微粉体の合計量に対するポリオレフィン樹脂の混合割合を示す。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
表2の結果から、本実施の形態のポリオレフィン製微多孔膜は、走行速度100m/分にて巻き直した時の巻きズレの発生がなく、スリット性に優れたものであった。
また、オーブン試験、捲回体の短絡、サイクル特性はいずれも良好であり、非水電解液系二次電池用のセパレーターとして優れた特性を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明により、ポリオレフィン製微多孔膜の製造ライン中でスリットを行う工程における不良率を低減し得るポリオレフィン製微多孔膜が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ方向弾性率/幅方向弾性率の比が1.0〜2.5であり、
最大孔径が0.10μm〜0.25μmであり、
120℃熱収縮率が、長さ方向及び幅方向で共に5%以下である
ポリオレフィン製微多孔膜。
【請求項2】
長さ方向の最大収縮応力が0.1N未満である請求項1記載のポリオレフィン製微多孔膜。
【請求項3】
粘度平均分子量が70万以上の超高分子量ポリエチレンを5〜90質量%含む請求項1又は2記載のポリオレフィン製微多孔膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載のポリオレフィン製微多孔膜からなる非水電解液系二次電池用セパレーター。
【請求項5】
請求項4記載のセパレーターと、正極と、負極と、電解液とを備える非水電解液系二次電池。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項記載のポリオレフィン製微多孔膜の製造方法であって、下記(a)〜(f)の各工程を含み
(a)少なくともポリオレフィン樹脂、可塑剤、無機微粉体を混合造粒する工程、
(b)(a)工程で得られた混合物を、溶融混練する工程、
(c)(b)工程で得られた混練物をシート状に成形する工程、
(d)シート状の成形物から可塑剤及び無機微粉体を抽出する工程、
(e)シート状の成形物を二軸延伸する工程、
(f)(e)工程で得られた延伸シートを幅方向に延伸緩和させる工程、
前記(e)工程における幅方向延伸速度が20〜100%/秒、幅方向延伸倍率が1.1〜4.0倍、長さ方向延伸倍率/幅方向延伸倍率の比が0.5〜1.5であり、
前記(f)工程における延伸シートの幅方向緩和率が3%以上である
ポリオレフィン製微多孔膜の製造方法。

【公開番号】特開2010−7053(P2010−7053A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120685(P2009−120685)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】