説明

ポリカプロラクトンとポリ(プロピレンフマレート)とのブロックコポリマー

ポリ(プロピレンフマレート)をポリ(カプロラクトン)ジオールと共重合させて、ポリ(プロピレンフマレート)とポリ(カプロラクトン)とのブロックコポリマーを製造する。ポリ(プロピレンフマレート)とポリ(カプロラクトン)との生体適合性、生体吸収性ブロックコポリマーは、組織および/または骨格再構成用の、注入でき、その場で硬化するスカフォードの作製に有用である。本ブロックコポリマーは、追加の架橋剤を用いてまたは用いずに、酸化還元または光開始により架橋させることができる。従って、本コポリマーは、(架橋剤の使用を一切伴わず)自己架橋性でもあり、(UV光などの光子の存在下で)光架橋性でもある。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2004年11月18日出願の米国特許仮出願第60/629,198号の優先権を主張するものである。
【連邦政府の支援による研究に関する記載】
【0002】
本件は、助成金番号R01−AR45871およびR01−EB003060での米国国立衛生研究所による支援を受けたものである。
【発明の背景】
【0003】
1.発明の分野
本発明は、組織工学用途のための生体適合性で、生体吸収性で、注入でき、その場(in situ)で硬化するスカフォード(scaffold)として有用な、ポリ(カプロラクトン)とポリ(プロピレンフマレート)とのブロックコポリマーの合成に関する。前記ブロックコポリマーは、追加の架橋剤を用いて、または用いずに、酸化還元または光開始により架橋させることができる。従って、前記コポリマーは、自己架橋性でもあり、光架橋性でもある。
【0004】
2.関連する分野の説明
骨再生に関する臨床的要求は多岐にわたっており、米国では、癒合を達成するために骨移植処置を必要とする骨格欠損を有する患者が、毎年、おおよそ1,000,000人いる。これらは、原発性および転移性腫瘍の切除、骨格傷害後の骨量減少、骨欠損に伴う初回および修正全関節形成術、脊髄関節固定術、ならびに骨粗しょう症性不全骨折後の骨梁の空隙から生じる申請を含む。骨移植材料の選択、作製および適用の際に行う現行の臨床上の決定は、しばしば多くの要素を含む。構造的展望から、外科的処置計画を決定する前に幾つかの決定に取り組む必要がある。
【0005】
第一に、骨量減少のタイプを判定しなければならない。欠損は、小柱骨タイプ、皮質骨タイプ、または両方の構造の骨タイプの組み合わせである場合がある。第二に、包み込まれており(contained)、骨もしくは軟組織の外皮を有するのか、それとも包み込まれておらずに(non-contained)、骨の連続性の分節性喪失を表すのか、欠損の性質を定義しなければならない。第三に、欠損のサイズ(骨梁の空隙のサイズまたは分節性欠損の長さ)を判定しなければならない。移植片選択決定に加わる機械的問題としては、再構成すべき欠損の骨格部位およびその部位における予想負荷が挙げられる。加えて、宿主の複合罹患(co-morbidities)(例えば、糖尿病)などの生物学的問題は、全て、骨移植片組み込みプロセスに対しての影響を有する。最後に、移植材料の選択の際に一定の役割を果たす外科的問題としては、欠損のサイズに対しての外科用アクセスポータルのサイズに関する考慮が挙げられる。
【0006】
骨格欠損を治療する現行の臨床上の方法は、骨の移植、または連続性を回復させるための他の材料の使用を含む。自己骨移植は、骨形成原細胞、骨誘導因子および治癒のための骨伝導マトリックスなどの必須要素をもたらすため、骨置換術のゴールドスタンダードになっている。しかし、自己移植骨の限られた供給量とドナー部位の病的状態の両方により、単独で用いることができるケースの範囲が制限される。同種移植骨は、豊富な供給量で利用できるが、自己移植骨と比較して低い移植片組み込み率、およびドナーから宿主への病原体移行の可能性を含む欠点を有する。
【0007】
金属は、欠損部位での即時的な機械的支持を実現するが、宿主組織との理想的な全体にわたる一体化と言えるほどのものは示さず、金属の疲労破損前に骨が治癒しなければ疲労荷重のために結局失敗することもある。セラミック、例えば、β−リン酸三カルシウム(β−TCP)およびハイドロキシアパタイトは、両方とも、骨伝導性であり、ならびに金属プロステーシスの表面コーティングとして骨へのそれらプロステーシスの結合を強化するために臨床使用されている。粒子形態で、それらは、主として圧縮状態のポリマー複合材料に機械強度増加をもたらすが、ねじり力および曲げ力への抵抗性の強化にはあまり有効でない。ポリ(メチルメタクリレート)骨セメントは、注入または成形することができ、時には、空洞性欠損および分節性欠損(例えば、各々、巨細胞腫瘍の掻爬に起因するもの、または脊椎の転移性疾患における椎体の切除に起因するもの)の両方を充填するために使用される。しかし、発熱性重合反応中に温度が100℃まで上昇することがあり、放出される熱により局所組織は損傷の危険にさらされる。加えて、ポリ(メチルメタクリレート)は、非生分解性であり、それ故、時間が経つにつれて疲労損傷が蓄積し、結局、機械的破損を被ることもある。
【0008】
合成生分解性ポリマーは、現在利用することができない治療選択肢を与えることができる。これらの材料は、事実上無限の供給量で製造することができ、それらの設計の自由度により、様々な機械的、生物学的、分解、および流動学的特性を有する広範なポリマーを合成することができる。例えば、それらの機械的特性および分解特性は、合成中にポリマーの分子量を変えることにより操作することができ、従って、特定の用途に合うように調整することができる。骨格再生用生体材料の注入可能な性質は、限られた接近容易性または不規則な形を有する欠損を充填するために理想的であろう。例えば、現在臨床使用されている低侵襲性内視鏡法により、注入可能な形態の生体材料を後側面横突間プロセスの脊椎固定のために挿入することができる。これは、移植材料を所定の位置に置くために現在は行わなければならない広範囲の露出および筋肉剥離からの外科的外傷を減少させるであろう。注入可能な材料は、周囲の皮質骨に大きな進入路用の穴を作らずに関節周囲骨折、骨粗しょう症性脊髄骨折又は骨嚢胞からの海綿状空隙に配置することができよう。これらの臨床の状況が、骨組織工学用の注入可能生分解性ポリマー複合材料の開発の動機付けを表している。
【0009】
このように、注入し、その場で架橋させて、欠損を充填することができる生分解性スカフォードは、既存の方法(Yaszemskiら,「骨組織工学技術に対する臨床上の要求(Clinical needs for bone tissue engineering technology)」,in Bone Engineering,J.E.Davis,Ed.Toronto,Em Squared,2000,pp.541−547参照)への魅力的な追加を提示する。最近開発された注入可能材料は、様々な整形外科用途の多数の設計基準を満たしている。このタイプの候補材料は、ポリ(プロピレンフマレート)(PPF)、フマレート二重結合により変性または架橋することができる不飽和直鎖状ポリエステルである。PPFは、エステル結合の単純な加水分解により分解し、分解時間は、ポリマーの特性、例えば、分子量、架橋剤のタイプおよび架橋密度に依存する。PPF系材料の用途を探求する多くの努力がなされてきたが、この材料には、未だ、多くの重要な制限がある。各繰り返し単位中のプロピレングリコールは、PPFポリマー鎖の剛性に寄与する自由回転炭素−炭素結合を1つしか提供しない。加えて、酸化還元開始により架橋PPFネットワークを形成するには架橋剤が必要であり、これは、未反応架橋用モノマーに付随する細胞毒性を導くことがある。
【0010】
ポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)は周知の生分解性ポリマーであり、吸収性縫合糸としての使用がFDAにより認可されている。卓越した生体適合性および可撓性を有する。PCLは、一時的関節スペーサー用の可能性ある材料として最近研究された。また、PCT国際特許出願国際公開パンフレット第2005/004811号に記載されているように、PCLセグメント及びフマレートセグメントに基づくコポリマー、ポリ(カプロラクトンフマレート)(PCLF)が開発された。PCL単位の存在のため、PCLF鎖は、PPF鎖よりずっと可撓性がある。このことにより、PCLFは、架橋剤を一切使用せずに自己架橋することができる。また、一定の応用例では、PCLFの可撓性が、利点となる。
【0011】
それでもなお、組織工学用途のための、生体適合性で、生体吸収性で、注入でき、その場で硬化するスカフォードとして有用である、ポリ(カプロラクトンフマレート)の機械的強度および自己架橋特性を改善する必要がある。
【発明の要約】
【0012】
ポリ(カプロラクトンフマレート)の機械的強度および自己架橋特性を改善するために、本発明者らは、ポリ(プロピレンフマレート)とポリ(ε−カプロラクトン)との新規ブロックコポリマーを開発した。以後、しばしばこれをP(PF−co−CL)と呼ぶ。比較的硬質のポリ(プロピレンフマレート)セグメントが、機械的強度および架橋性をもたらし、一方、ポリ(ε−カプロラクトン)セグメントが、自己架橋のための可撓性をもたらす。P(PF−co−CL)の物理的、化学的、機械的および分解特性は、PPFおよびPCL分子量ならびにそれらの相対ブロック長を変えることにより調節することができる。加えて、重合中の熱誘導性架橋のため、比較的低分子量(Mn<5000ダルトン)のPPFおよびPCLFしか合成されていない。ポリ(プロピレンフマレート)とポリ(ε−カプロラクトン)とのブロックコポリマーについては、より高い分子量を達成することができる。重合の際、PCLの飽和成分が、PPFセグメント中の二重結合の架橋プロセスの可能性を低下させるためである。
【0013】
本発明に従って、ポリ(プロピレンフマレート)をポリ(ε−カプロラクトン)と共重合させる。本発明は、骨組織工学のための生体適合性、生体吸収性、注入可能、ならびに自己架橋性および/または光架橋性コポリマーである、ポリ(プロピレンフマレート)とポリ(ε−カプロラクトン)とのブロックコポリマーの合成の手立てとなる。ポリ(プロピレンフマレート)とポリ(ε−カプロラクトン)とのブロックコポリマーは、独立形態または封入形態の他の配合成分(例えばポロゲン、開始剤、架橋剤、促進剤、希釈剤、発泡剤、緩衝剤、阻害剤触媒、成長因子、粒子および繊維強化材料、および安定剤)と物理的に混合することができ、ならびにポリ(プロピレンフマレート)とポリ(ε−カプロラクトン)とのブロックコポリマーを注射器により注入して、生体組織の再生に用いられるスカフォードを作製することができる。本発明の用途は、注入可能な生体吸収性合成代用骨としての、または制御された分解挙動を有する注入可能な生体吸収性骨セメントとしての用途である。
【0014】
本発明のこれらおよび他の特徴、態様および利点は、以下の詳細な説明、図面および添付の請求の範囲の考慮により、より良好に理解されるであろう。
【発明の詳細な説明】
【0015】
本発明は、ポリ(プロピレンフマレート)とポリ(ε−カプロラクトン)とのブロックコポリマーを提供する。本ブロックコポリマーは、生体適合性であり、生体吸収性であり、注入可能であり、架橋性である。本ブロックコポリマーは、追加の架橋剤を用い、または用いずに、酸化還元または光開始によって架橋させることができる。従って、本コポリマーは、(架橋剤の使用を一切伴わず)自己架橋性でもあり、(UV光などの光子の存在下で)光架橋性でもある。
【0016】
本発明のブロックコポリマーは、カプロラクトン単位およびプロピレンフマレート単位を含む。1つの実施態様において、ブロックコポリマーは、次の式:
【化1】

(式中、n、mおよびpは、整数である。)
を有する。ブロックコポリマーの本実施態様の一例において、nは1〜16であり、mは5〜24であり、およびpは5〜24である。ブロックコポリマーの本実施態様のもう1つの例において、ブロックコポリマーは、5000ダルトン以上の数平均分子量を有する。
【0017】
図1に示すようなポリ(プロピレンフマレート)とポリ(ε−カプロラクトン)とのブロックコポリマーを調製するための1つの方法において、ジエチルフマレートおよび1,2−プロパンジオールを、架橋阻害剤としてのヒドロキノンおよび重合触媒としての塩化亜鉛と混合する。ビス(ヒドロキシプロピル)フマレート中間体が形成される。中間体をエステル交換して、両端にヒドロキシル基を有する直鎖状ポリ(プロピレンフマレート)を形成する。PPFの分子量は、重合時間を変えることにより調節することができる。PPFブロックを作った後、反応を停止させる。ポリ(ε−カプロラクトン)とポリ(プロピレンフマレート)とのブロックコポリマーを合成するために、ポリカプロラクトンジオールとポリ(プロピレンフマレート)とを、三酸化アンチモンが触媒として存在する状態で反応させる。本方法の1つの変法では、ポリカプロラクトンジオールは、500〜10,000ダルトンの範囲の分子量を有する。ポリ(プロピレンフマレート)とポリ(ε−カプロラクトン)とのブロックコポリマー(P(PF−co−CL))が、結果として生じる。P(PF−co−CL)の精製生成物は、コポリマー中のPCL含有率が70%より低いとき、透明で淡黄色の粘稠液体である。でなければ、室温で蝋様である。
【0018】
もう1つの態様において、本発明は、本発明のポリ(プロピレンフマレート)とポリ(ε−カプロラクトン)とのブロックコポリマーおよびフリーラジカル開始剤または光開始剤を含む、自己架橋性および/または光架橋性の生分解性材料を提供する。
【0019】
フリーラジカル開始剤の非限定的な例としては、ペルオキシ化合物(例えば、過酸化ジアシル類、例えば過酸化ベンゾイル)、アルキルヒドロペルオキシド(例えば、ジイソプロピルベンゼンモノヒドロペルオキシド)、アルキルパーエステル類(例えば、過安息香酸tert−ブチル)、過酸化ジアルキル類(例えば、過酸化ジ−tert−ブチル)、ペルオキシジカーボネート類(例えば、ジセチルペルオキシドジカーボネート)、無機過酸化物(例えば、ペルオキソ二硫酸アンモニウムおよびペルオキソ二硫酸カリウム)ならびにアゾ化合物(例えば、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド類]、1−[(シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド類、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド類)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド類)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド類}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド類、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド類、および2,2’−アゾビスイソブチロニトリル)が挙げられる。
【0020】
光開始剤の非限定的な例としては、ベンゾインおよびベンゾインエーテル化合物、ベンジルケタール化合物、アセトフェノン化合物、アミノアルキルフェノン化合物、ヒドロキシアルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキシド類、アシルホスフィンスルフィド類、フェニルグリオキシレート化合物、ベンゾフェノン化合物、チオキサントン化合物、並びにこれらの混合物が挙げられる。一例の材料では、光開始剤は、ビスアシルホスフィンオキシドである。
【0021】
本発明の自己架橋性および/または光架橋の生分解性材料は、注入可能な代用骨または注入可能な骨セメントとして使用することができる。しかし、本材料の用途は、スカフォードおよび骨セメントを越えて広がる。本発明のポリ(プロピレンフマレート)とポリ(ε−カプロラクトン)とのブロックコポリマーを含む自己架橋性および/または光架橋性の生分解性材料は、多くの生物医学的用途において架橋性ポリマーとして適する。架橋性であるため、本材料を使用して微細パターン形成表面を作ることができる。本材料は、様々な溶媒への制御された膨潤率を有するポリマーネットワークを形成することもでき、これにより、本材料は有機溶媒の吸着剤または触媒の担体になる。
【0022】
本発明のポリ(プロピレンフマレート)とポリ(ε−カプロラクトン)とのブロックコポリマーの注入可能な性質に関して、注入の温度範囲は広く、混合物の融点と混合物に使用される溶媒の沸点との間であり得る。通常、ポリマー混合物は、便宜上、室温で注入される。本コポリマー中の1成分であるPPFについて、架橋中の最高温度は約48℃であり、一方、現在使用されている骨セメントであるポリメチルメタクリレートは、架橋中100℃もの高温を生じる。従って、PPFは、ポリメチルメタクリレートを越える利点を有する。本発明のコポリマーについての温度は、コポリマー中の唯一の架橋性セグメントであるPPFの含有率が100%より低いため、48℃より低いことさえあるだろう。
【0023】
本生分解性材料は、自己架橋性であるため、架橋剤を含む必要がない。一般に、架橋剤は、架橋中、隣接する二重結合の架橋を助長するために使用される。本発明の自己架橋性および/または光架橋性の生分解性材料は、架橋剤を一切必要としないため、生物医学的用途における毒性の懸念を最小にする。しかし、架橋剤を使用することもできる。
【0024】
もう1つの形態では、自己架橋性および/または光架橋性の生分解性材料は、粒子または繊維強化材料を含む。好ましくは、粒子または繊維強化材料は、生理活性セラミック、例えばハイドロキシアパタイトを含み、または単層カーボンナノチューブを含むこともある。
【0025】
本材料は、1つ以上の生理活性剤をさらに含むことがある。本明細書において用いる場合の「生理活性剤」は、限定ではないが、体内で局所的または全身的に作用する生理または薬理学的活性物質を包含する。生理活性剤は、疾病または疾患の治療、予防、診断、治癒または緩和のために使用される物質、または身体の構造もしくは機能に影響を及ぼす物質、または所定の生理環境に置かれた後、生理活性になるか、より活性になる物質である。生理活性剤としては、限定ではないが、酵素、有機触媒、リボザイム類、有機金属化合物、タンパク質、糖タンパク類、ペプチド類、ポリアミノ酸、抗体、核酸、ステロイド性分子、抗生物質、抗菌剤、サイトカイン類、成長因子、炭水化物、疎油性物質、脂質、細胞外基質、並びに/又はその個々の成分、製剤および治療薬が挙げられる。
【0026】
本自己架橋性および/または光架橋性の生分解性材料は、促進剤も含むことがある。促進剤の非限定的な例としては、トルイジン類(例えば、N,N−ジエチル−p−トルイジン(「DET」)およびN,N−ジメチル−o−トルイジン(「DMT」))、アセチルフェニルヒドラジン、マレイン酸、キニン類(例えば、ナフタキノンおよびアントラキノン)、ならびにアルキルメルカプタン類が挙げられる。多くの場合、光架橋プロセスでは促進剤が必要とされない。全ての手順が相当短い(例えば、30分未満)であるためである。
【0027】
本自己架橋性および/または光架橋性の生分解性材料は、組織再生用の生体適合性スカフォードを作製するために使用することができる。スカフォードは、本発明のポリ(プロピレンフマレート)とポリ(ε−カプロラクトン)とのブロックコポリマーから形成された生分解性マトリックスを含む。該マトリックスは、粒子状または繊維強化材料、例えばハイドロキシアパタイトを含むことがある。
【0028】
スカフォードは、塩化ナトリウム塩の結晶などのようなポロゲンを用いて形成することができ、ポロゲンは、重合中のスカフォードに封入され、材料が固化すると溶解して、多孔性スカフォードを形成する。適するポロゲン類としては、多孔性スカフォードを形成するソルトリーチング(salt leaching)法において使用することができる塩結晶(例えば、塩化ナトリウム)が挙げられる。好ましくは、ポロゲンは、水に溶解することができるが、有機溶媒にはできない。このタイプの粒子リーチング(particle leaching)法の例は、米国特許第6,436,426号、同第6,379,962号および同第5,514,378号において見出すことができる。ポロゲンは、PCT国際公開パンフレット第2005/020849号に記載されているようなヒドロゲルポロゲンであってもよい。ポロゲンの選択は、架橋プロセスにより左右されることがある。ポロゲンは、架橋フィルムの製造に使用することができるが、それは、ポロゲンの物理的性質および色に依存する。また、一部のポロゲンは、UV光を遮断し、その結果、光架橋手順を非効率にすることがある。それ故、本発明の自己架橋性および/または光架橋性の生分解性材料は、所望の最終製品に依存して、ポロゲンを含むこともあり、含まないこともある。
【0029】
スカフォードは、様々な技法を用いて、本発明のポリ(プロピレンフマレート)とポリ(ε−カプロラクトン)とのブロックコポリマーから形成することができる。例えば、本発明のポリ(プロピレンフマレート)とポリ(ε−カプロラクトン)とのブロックコポリマーをスカフォードに押出成形、射出成形または圧縮成形することができる。あるいは、固体自由造形法を用いて、本発明のポリ(プロピレンフマレート)とポリ(ε−カプロラクトン)とのブロックコポリマーからスカフォードを形成することもできる。固体自由造形法の非限定的な例としては、ステレオリソグラフィ、選択的レーザ焼結、粒子衝突加工、熱溶解積層造形、および三次元印刷を挙げることができる。スカフォードのマクロ構造および孔隙率は、印刷パラメータを制御することにより操作することができ、これらの特徴は、コンピュータ支援設計(CAD)を用いて、個々の患者のために設計し、作ることができる。米国特許第6,530,958号、同第5,869,170号、同第5,518,680号および同第5,490,962号は、固体自由造形法の例を提供している。Hutmacherら,「スカフォードに基づく組織工学:コンピュータ支援設計および固体自由造形システムの原理(Scaffold-based tissue engineering:rationale for computer-aided design and solid free-form fabrication systems)」,Trends in Biotech.2004,22(7):354も参照のこと。これらの特許および出版物ならびに本明細書において引用する他の全ての特許および出版物は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0030】
本明細書において用いる場合、「生体適合性」材料は、重度のまたは漸増的反応とは対照的に、軽度の、多くの場合一時的な、移植反応しか誘発しないものである。本明細書において用いる場合、「生分解性」材料は、正常なインビボ生理条件下で、代謝または排泄され得る成分に分解するものである。本明細書において用いる場合、「生体吸収性」材料は、身体の化学的/生物学的作用に起因して、限られた期間をかけて分解するものである。「注入可能な」とは、本コポリマーを医療用注射器により一定部位に届けることができることを意味する。「自己架橋性」とは、本発明のポリマーの官能基と本発明の同じまたは別のポリマーの官能基との間の架橋を形成する架橋剤を用いることなく、本発明のポリマーの官能基が、本発明の同ポリマーまたは別のポリマーの官能基と架橋できることを意味する。「光架橋性」とは、光開始剤の存在下、光子(例えば、UV光)の適用により、本発明のコポリマーの官能基が、本発明の同じポリマーまたは別のポリマーの官能基と架橋できることを意味する。
【0031】
本明細書における用語「分子量」は、「重量平均分子量」(Mw=Σiii2/Σiii)を指す。様々な方法で重量平均分子量(Mw)を決定することができるとはいえ、利用する方法に依存して結果は多少異なり、ゲル透過クロマトグラフィーを利用するのが適便である。本明細書において用いる場合、用語「数平均分子量」(Mn)は、存在する全モル数で割った、ポリマーサンプル中の全ての分子の合計重量を指す(Mn=Σiii/Σii)。様々な方法で数平均分子量を決定することができるとはいえ、利用する方法に依存して結果は多少異なり、ゲル透過クロマトグラフィーを利用するのが適便である。本明細書において用いる場合、用語「多分散性」は、材料の「重量平均分子量」を「数平均分子量」で割った比(Mw/Mn)を指す。
【実施例】
【0032】
以下の実施例は、本発明をさらに例証するために提示したものであり、いかなる点においても本発明を制限するためのものではない。
【0033】
A.P(PF−co−CL)の合成
530、1250および2000g・mol-1の公称分子量を有するPCLジオール類[α,ω−ジヒドロキシポリ(ε−カプロラクトン)]をAldrich Co.(ウィスコンシン州、ミルウォーキー)から購入し、これらは、H−[O(CH2)5CO−]mOCH2CH2−O−CH2CH2O[−OC(CH2)5O]n−Hの化学構造を有した。共重合の前に、一定量のPCLジオールを真空オーブンの中で一晩50℃で乾燥させた。本研究における他の全ての試薬もAldrich Co.から購入した。第一段階において、ジエチルフマレート259グラムおよび1,2−プロピレングリコール342グラムを、2L三つ口丸底フラスコの中で、架橋阻害剤としてヒドロキノン0.33グラムおよび重合触媒として塩化亜鉛2.04グラムと混合する。反応はフマル酸ジエステルを得るために、先ず100℃で1時間行い、その後150℃で7時間行う。過剰の1,2−プロピレングリコールおよび副生成物エタノールを除去する。第二段階において、中間体をエステル交換して、両末端にヒドロキシル基を有する直鎖状ポリ(プロピレンフマレート)(PPF)を形成する。ポリ(プロピレンフマレート)の分子量は、重合時間を変えることにより調節することができる。一般には、重合は、真空下、先ず100℃で、その後130℃で1時間または3時間行う。ポリ(プロピレンフマレート)ブロックを作った後、真空条件および油浴を止めることにより反応を停止させる。
【0034】
ポリ(プロピレンフマレート)とポリ(ε−カプロラクトン)とのブロックコポリマーを合成するために、様々な公称分子量(典型的には530、1250および2000g/mol)を有するポリ(カプロラクトン)ジオール100グラムおよび触媒として三酸化アンチモン0.2グラムを反応容器に添加する。窒素下100℃で30分完全に混合した後、反応温度を徐々に160℃に上昇させ、0mmHgの真空にする。共重合は一般に5時間かかり、1,2−プロピレングリコールを除去した。結果として生じたポリ(プロピレンフマレート)とポリ(ε−カプロラクトン)とのブロックコポリマーは、その後、塩化メチレンに溶解し、先ず、酸で2回洗浄して(各回、H2O中10重量%のHCl 600mL)両方の触媒を除去することにより精製する。次に、各々蒸留水及び塩水の両方で2回洗浄し、それを精製する。有機相を硫酸マグネシウムで脱水させ、その後、それを真空濾過により除去する。回転蒸発によって得られた塩化メチレン中のP(PF−co−CL)の粘稠溶液を、大量のエーテルで沈殿させる。最終沈殿コポリマー中の塩化メチレンおよびエーテルを再び回転蒸発により除去し、その後、真空乾燥させる。P(PF−co−CL)の純粋な最終生成物は、コポリマー中のPCL含有率が70%より低いときには透明な淡黄色の粘稠液体である。でなければ、室温で蝋様である。
【0035】
表1に、重合についての種々の設計パラメータを示す。
【表1】

【0036】
表2に、架橋性P(PF−co−CL)コポリマー類の分子量および物理的性質を示す。
【表2】

【0037】
B.架橋
熱架橋プロセスでは、過酸化ベンゾイル(BPO)およびN−ジメチルトルイジン(DMT)を、各々、フリーラジカル開始剤および促進剤として使用した。開始剤溶液100マイクロリットル(1−ビニル−2−ピロリジノン(NVP)250マイクロリットル中、BOP 50mg)および促進剤溶液40マイクロリットル(塩化メチレン980マイクロリットル中、DMT 20マイクロリットル)を、塩化メチレン500マイクロリットル中の1.5グラムP(PF−co−CL)溶液に添加し、入念に混合した。重合スカフォードを様々なテフロン金型に移入し、それらの金型を対流式オーブンの中に一晩置いて、架橋を助長した。骨格にPCLブロックを導入した後の向上した鎖可撓性のため、架橋剤をさらに添加せずとも全てのコポリマーを自己架橋させることができる。架橋後、周囲温度に冷却した後、架橋ポリマーを金型からはずした。コポリマー類とポロゲン(様々なサイズ分布を有する塩)との混合物に対して同様の架橋プロセスを行って、異なる孔隙率(これは、ポロゲンの含有率により調節することができる)を有するスカフォード類を作ることができる。架橋後、それらのスカフォード類を3日間、蒸留水中に置くことにより、塩を溶脱させた。それらのスカフォード類を真空下で少なくとも12時間乾燥させた。
【0038】
光架橋は、光開始剤ビスアシルホスフィンオキシド(BAPO、Ciba Geigy)を使用して、紫外線(UV)(λ=315〜380nm)で開始させた。BAPO溶液約75μL(CH2CH2 150mL中、BAPO 30mg)を、塩化メチレン500マイクロリットル中の1.5グラム P(PF−co−CL)溶液に添加し、入念に混合した。2枚のガラスプレートと1mm厚のテフロンスペーサーによって形成された金型に混合物を注入し、金型を30分間、直接UV光の下に置いて、架橋を促進させた。従って、こうした自己架橋性および光架橋性コポリマー類は、ステレオリソグラフィなどの様々な製造法を用いて組織工学スカフォードを構成する期待がもてる。
【0039】
実施例において使用した材料および製造したコポリマー類の特性を図2〜8に示す。
【0040】
このように、ポリ(プロピレンフマレート)とポリ(ε−カプロラクトン)との生分解性ブロックコポリマーを組織工学用に開発した。1つの特定の応用例では、コポリマーは、骨格欠損を治療するための注入可能な自己架橋性および/または光架橋性材料として有用である。しかし、この材料は、骨格欠損の治療に限定されず、他の組織工学用途に用いることができる。ブロックコポリマーは、追加の架橋剤を用いてまたは用いずに、酸化還元または光開始により架橋させることができる。従って、コポリマーは、自己架橋性でもあり、光架橋性でもある。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、注入し、その場で固化させて、組織および/または骨格再構成用のスカフォードを形成することができる、自己架橋性および/または光架橋性の生分解性ポリマー材料に関する。
【0042】
一定の実施態様を参照しながら相当詳細に本発明を説明したが、制限のためにではなく、例証のために提供した記載の実施態様以外によって本発明を実施することができることが、当業者には理解されるであろう。従って、添付の請求項の範囲は、本明細書に含まれている実施態様の記載に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】ポリ(プロピレンフマレート)とポリ(ε−カプロラクトン)とのブロックコポリマー(P(PF−co−CL))の合成スキームを示す図である。
【0044】
【図2】0〜5時間の反応時間でのP(PF−co−CL)コポリマー10、ならびにPCL530およびPPF1hrについてのGPC曲線を示す図である。
【0045】
【図3】オリゴマーPPF、PCL530、およびP(PF−co−CL)コポリマー類のFTIRスペクトルを示す図である。
【0046】
【図4】P(PF−co−CL)コポリマー1、PCL530、PPF3000、およびPPF1hrの1H NMR(400.1MHz,CDCl3、リファレンス TMS)スペクトルを示す図である。S=溶媒。アスタリスクは、ジエチルエーテルに起因するシグナルを示し、矢印は、末端基に隣接するプロトンに起因するシグナルを示す。
【0047】
【図5】P(PF−co−CL)コポリマー1、PCL530、PPF3000、およびPPF1hrの13C NMR(100.6MHz,CDCl3、リファレンス TMS)スペクトルを示す図である。S=溶媒。矢印は、末端基に隣接する炭素に起因するシグナルを示す。
【0048】
【図6】P(PF−co−CL)コポリマー類、PPF、およびPClジオール類のDSC曲線を示す図である。
【0049】
【図7】オリゴマーPPF、PCL2000、およびP(PF−co−CL)コポリマーのTGAサーモグラムを示す図である。
【0050】
【図8】固体自由造形(SFF)法すなわち3D印刷および射出成形を用いて製造した2つの代表的コポリマースカフォード(a:コポリマー1;b:コポリマー6)の多孔性三次元構造(孔径:600μm、壁厚:500μm)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カプロラクトン単位;および
プロピレンフマレート単位
を含む、ブロックコポリマー。
【請求項2】
前記ブロックコポリマーが次式で表される請求項1に記載のブロックコポリマー。
【化1】

(式中、n、mおよびpは、整数である。)
【請求項3】
nが1〜16であり、mが5〜24であり、およびpが5〜24である、請求項2に記載のブロックコポリマー。
【請求項4】
前記ブロックコポリマーが5000ダルトン以上の数平均分子量を有する、請求項1に記載のブロックコポリマー。
【請求項5】
(i)ポリカプロラクトンジオールと(ii)ポリ(プロピレンフマレート)とを反応させることにより調製されるコポリマー。
【請求項6】
前記ポリカプロラクトンジオールが、500〜10,000ダルトンの範囲の分子量を有する、請求項5に記載のコポリマー。
【請求項7】
ポリ(プロピレンフマレート)とポリ(ε−カプロラクトン)とのブロックコポリマー;および
フリーラジカル開始剤または光開始剤
を含む、架橋性、生分解性材料。
【請求項8】
前記材料がフリーラジカル開始剤を含み、かつ前記材料が自己架橋性である、請求項7に記載の材料。
【請求項9】
前記材料が光開始剤を含み、かつ前記材料が光架橋性である、請求項7に記載の材料。
【請求項10】
前記材料が注入可能である、請求項7に記載の材料。
【請求項11】
前記材料が代用骨である、請求項7に記載の材料。
【請求項12】
前記材料が骨セメントである、請求項7に記載の材料。
【請求項13】
ポロゲンをさらに含む、請求項7に記載の材料。
【請求項14】
促進剤をさらに含む、請求項7に記載の材料。
【請求項15】
前記材料が架橋剤を含まない、請求項7に記載の材料。
【請求項16】
粒子または繊維強化材料をさらに含む、請求項7に記載の材料。
【請求項17】
前記強化材料が、ハイドロキシアパタイトを含む、請求項16に記載の材料。
【請求項18】
前記コポリマーが、(i)ポリ(カプロラクトン)ジオールと(ii)ポリ(プロピレンフマレート)とを反応させることにより調製される、請求項7に記載の材料。
【請求項19】
ポリ(プロピレンフマレート)とポリ(ε−カプロラクトン)とのブロックコポリマーを含む生分解性マトリックスを含む、組織再生用スカフォード。
【請求項20】
前記コポリマーが、(i)ポリ(カプロラクトン)ジオールと(ii)ポリ(ポリプロピレンフマレート)とを反応させることにより調製される、請求項19に記載のスカフォード。
【請求項21】
前記マトリックスが、粒子または繊維強化材料を含む、請求項18に記載のスカフォード。
【請求項22】
前記強化材料が、ハイドロキシアパタイトを含む、請求項21に記載のスカフォード。
【請求項23】
前記スカフォードが多孔性である、請求項19に記載のスカフォード。
【請求項24】
前記スカフォードが押出成形、射出成形および圧縮成形からなる群から選択される方法を用いて成形される、請求項19に記載のスカフォード。
【請求項25】
前記スカフォードが固体自由造形法を用いて成形される、請求項19に記載のスカフォード。
【請求項26】
前記スカフォードが、ステレオリソグラフィ、選択的レーザ焼結、粒子衝突加工、熱溶解積層造形、および三次元印刷からなる群から選択される固体自由造形法を用いて成形される、請求項19に記載のスカフォード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−520817(P2008−520817A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−543384(P2007−543384)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【国際出願番号】PCT/US2005/042240
【国際公開番号】WO2006/055940
【国際公開日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(500480919)メイヨ フオンデーシヨン フオー メデイカル エジユケーシヨン アンド リサーチ (18)
【Fターム(参考)】