説明

ポリカーボネート樹脂組成物、並びにそれを用いた成形品の製造方法及び成形品

【課題】成形性に優れる熱可塑性ポリマー組成物の提供。
【解決手段】A)溶融法で製造され且つ触媒失活剤が添加されていない、フルオレン骨格を有する特定の構成単位とトリシクロデカン骨格を有する特定の構成単位からなるポリカーボネート共重合体、B)炭素原子数10〜20の一価脂肪酸とグリセロールとの部分エステルである離型剤、及びC)ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有する熱可塑性ポリマー組成物である。更に、上記組成物を用いる成形品の製造方法、及び上記組成物からなる光学レンズである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のポリカーボネート共重合体を含有する熱可塑性ポリマー組成物に関する。さらに詳細には、レンズ、プリズム、シート、フィルムなどの透明性及び色相安定性を要求される用途に好適な、成形時の色相安定性及び精密成形品製造時等に要求される離型性が良好であり、連続成形の際の金型汚れの軽減にも寄与する、ポリカーボネート樹脂組成物及び該組成物からな用いた成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートは、耐衝撃性等の機械的特性に優れ、しかも耐熱性、透明性にも優れていることから、光学材料として各種レンズ、プリズム、光ディスク基板などに利用されている。中でも、溶融法で製造される、脂肪族基を有する共重合ポリカーボネート樹脂は、複屈折性の発生が小さく、広く光学材料として用いることが可能である(特許文献1)。
【0003】
レンズや光ディスクのような用途においては、成形品に優れた透明性及び色相が要求される。その形成に用いられるポリマー組成物には、成形時の滞留安定性、とりわけ熱安定性及び色相安定性が求められ、さらに成形時における成形性、即ち、設計どおりの形状及び寸法の精密成形品を与える転写性が要求される。
【0004】
エステル交換反応による溶融法を利用するポリカーボネートの製造法では、通常、エステル交換触媒としてアルカリ金属化合物などを使用する。この触媒が溶融成形時の着色や分子量低下の原因となることから、スルホン酸エステルを含む酸性化合物など酸性化合物を添加し、エステル交換触媒を中和失活する方法が一般的に用いられる(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−146140号公報
【特許文献2】特開平7−165905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者が検討したところ、上記特許文献1に開示されている脂肪族基を有するポリカーボネート共重合体に、脂肪酸エステル系離型剤を添加して調製されたポリマー組成物を用いて、精密成形品を成形すると、成形時に離型剤が分解等の副反応を起こし、期待する離型性能が発揮されず、成形品の変形及び成形品の着色を生じるという問題、並びに成形機の金型表面の汚れが顕著であるという問題が生じることがわかった。特に複雑な形状のマイクロレンズ成形の際、これらの問題がしばしば起こる。
本発明は、上記脂肪族基を有するポリカーボネート共重合体を含有する組成物であって、成形加工時の安定性が良好であり、溶融成形時の分解着色が少なく、また、該組成物を使用して金型成形を行った場合の金型の汚れが少なく、さらに金型からの離型性も良好であり、精密成形品の製造に好適な熱可塑性ポリマー組成物、並びにこれを用いた成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、一般的に、溶融法で製造されるポリカーボネートには必須と考えられていた触媒失活剤が、金型汚れの一因であることを見出した。さらにこの知見に基づいて鋭意検討を重ねた結果、溶融法で製造され、且つ触媒失活剤を添加されていない、所定の脂肪族基を有するポリカーボネート共重合体とともに、炭素原子数が10〜20の一価脂肪酸とグリセロールとの部分エステルである離型剤、及びヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有する組成物によれば、上記課題を解決し得るとの知見を得、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。具体的には、当該ポリマー組成物を用いると、成形加工時の着色が抑制され、離型性が高く且つ連続長期成形しても金型汚れがなく、即ち、当該組成物が、精密成形に好適であることを見出した。触媒失活剤が無添加であっても溶融安定性を維持することができ、さらに所定の離型剤及び酸化防止剤を組み合わせることで、離型性が良好で且つ金型汚れの少ない熱可塑性ポリマー組成物を提供し得ることは、予測し得ないことであり、驚くべきことである。
【0008】
即ち、前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] A)溶融法で製造され且つ触媒失活剤が添加されていない、一般式(1)で表される構成単位30〜70モル%及び一般式(2)で表される構成単位70〜30モル%からなり、GPCによる重量平均分子量が15,000〜65,000であるポリカーボネート共重合体、
B)炭素原子数10〜20の一価脂肪酸とグリセロールとの部分エステルである少なくとも一種の離型剤、及び
C)少なくとも一種のヒンダードフェノール系酸化防止剤
を含有する熱可塑性ポリマー組成物:
【化1】

式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のシクロアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表し;Xは分岐していてもよい炭素数2〜6のアルキレン基、炭素数6〜10のシクロアルキレン基又は炭素数6〜10のアリーレン基を表し;m及びnはそれぞれ独立に1〜5の数値を示し;
【化2】

式(2)中、R3は炭素数1〜10のアルキル基を表し;pは0〜4の数値を示し、テトラシクロデカン環の任意の位置にR3がp個結合していてもよいことを示す。
【0009】
[2] B)少なくとも一種の離型剤が、グリセロールモノステアレートまたはグリセロールモノラウレートである[1]の熱可塑性ポリマー組成物。
[3] C)少なくとも一種の酸化防止剤が、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]である[1]又は[2]の熱可塑性ポリマー組成物。
[4] [1]〜[3]のいずれかの熱可塑性ポリマー組成物を用いる成形品の製造方法。
[5] [1]〜[3]のいずれかの熱可塑性ポリマー組成物からなる光学レンズ。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱可塑性ポリマー組成物は、成形加工時の着色が少なく、離型性が高く、且つ連続長期成形しても金型汚れがなく、精密成形に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
1.熱可塑性ポリマー組成物
A)ポリカーボネート共重合体
本発明の熱可塑性ポリマー組成物は、A)溶融法で製造され且つ触媒失活剤が添加されていない、一般式(1)で表される構成単位30〜70モル%及び一般式(2)で表される構成単位70〜30モル%からなり、GPCによる重量平均分子量が15,000〜65,000であるポリカーボネート共重合体を含有する。
【0012】
【化3】

【0013】
式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のシクロアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表し;Xは分岐していてもよい炭素数2〜6のアルキレン基、炭素数6〜10のシクロアルキレン基又は炭素数6〜10のアリーレン基を表し;m及びnはそれぞれ独立に1〜5の数値を示す。
【0014】
【化4】

【0015】
式(2)中、R3は炭素数1〜10のアルキル基を表し;pは0〜4の数値を示し、テトラシクロデカン環の任意の位置にR3がp個結合していてもよいことを示す。
【0016】
構成単位(1)は、エーテルジオール類から誘導される。その例には、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(6−ヒドロキシ−3−オキサペンチルオキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(9−ヒドロキシ−3,6−ジオキサオクチルオキシ)フェニル)フルオレン、等が含まれる。
【0017】
構成単位(2)は、ジオール類から誘導される。その例には、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、4,10−ジメチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、4,4,10,10−テトラメチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、1,2,3,4,5,6,7,8,9,10−デカメチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、等が含まれる。
【0018】
前記ポリカーボネート共重合体は、構成単位(1)と構成単位(2)との割合(モル比)が、30:70〜70:30であるのが好ましい。低複屈折性の観点では、40:60〜55:45が好ましい。実際には、47:53付近で最も複屈折が小さくなると想定されるので、低複屈折性が要求される用途に供する場合は、構成単位(1)と構成単位(2)との割合(モル比)が、45:55〜50:50であるポリカーボネート共重合体を用いるのがより好ましい。
【0019】
前記ポリカーボネート共重合体は、ランダム、ブロックあるいは交互共重合のいずれの構造を持っていてもよい。更には、構成単位(1)及び構成単位(2)以外の構成成分が、少量含まれていてもよい。
【0020】
前記ポリカーボネート共重合体は、そのガラス転移温度が95℃〜165℃程度であることが好ましく、105℃〜165℃程度であるのがより好ましい。ガラス転移温度が95℃より低いと耐熱性が低下する傾向があり、使用環境が限定される場合がある。また、ガラス転移温度が165℃より高いと、流動性が低下する傾向があり、成形条件が厳しくなり、また、流動性を確保するために低分子量に抑えると脆くなる。
【0021】
前記ポリカーボネート共重合体は、GPCによって測定される重量平均分子量(ポリスチレン換算)が、15,000〜65,000であるの好ましい。前記重量平均分子量が15,000未満であると、耐衝撃性が低下する傾向があり、65,000を越えると、流動性が低下する傾向があり、成形条件が厳しくなる。
【0022】
本発明では、溶融法で製造されるポリカーボネート共重合体を用いる。例えば、構成単位(1)を誘導するエーテルジオール類、構成単位(2)を誘導するジオール類、及びカーボネート結合を誘導する炭酸ジエステル類から製造することができる。溶融法の一例は、構成単位(1)を誘導するエーテルジオール類、構成単位(2)を誘導するジオール類、及びカーボネート結合を誘導する炭酸ジエステル類を、塩基性化合物触媒、エステル交換触媒又はその双方からなる混合触媒の存在下で、溶融重縮合させる方法である。
【0023】
構成単位(1)を誘導するエーテルジオール類、及び構成単位(2)を誘導するジオール類については、上記例示した通りである。
炭酸ジエステル類としては、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート等が挙げられる。これらの中でも特にジフェニルカーボネートが好ましい。ジフェニルカーボネートは、ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して、0.97〜1.10モルの比率で用いられることが好ましく、更に好ましくは0.98〜1.05モルの比率である。
【0024】
塩基性化合物触媒としては、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物、並びに含窒素化合物等が挙げられる。中でも、アルカリ金属及びアルカリ土類金属化合物等の有機酸塩、無機塩、酸化物、水酸化物、水素化物及びアルコキシド;並びに4級アンモニウムヒドロキシド、それらの塩、及びアミン類;等が好ましく用いられ、これらの化合物は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
アルカリ金属化合物としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸セシウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸セシウム、安息香酸リチウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、フェニルリン酸2ナトリウム、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2セシウム塩、2リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、リチウム塩等が用いられる。
【0026】
アルカリ土類金属化合物としては、具体的には、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸水素バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、フェニルリン酸マグネシウム等が用いられる。
【0027】
含窒素化合物としては、具体的には、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド等のアルキル、アリール基等を有する4級アンモニウムヒドロキシド類;トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリフェニルアミン等の3級アミン類;ジエチルアミン、ジブチルアミン等の2級アミン類;プロピルアミン、ブチルアミン等の1級アミン類;2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、ベンゾイミダゾール等のイミダゾール類;アンモニア、テトラメチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルアンモニウムテトラフェニルボレート等の塩基あるいは塩基性塩類;等が用いられる。
【0028】
エステル交換触媒としては、亜鉛、スズ、ジルコニウム、及び鉛の塩が好ましく用いられる。これらから選択される1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
エステル交換触媒としては、より具体的には、酢酸亜鉛、安息香酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、酢酸スズ(II)、酢酸スズ(IV)、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズジメトキシド、ジルコニウムアセチルアセトナート、オキシ酢酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラブトキシド、酢酸鉛(II)、酢酸鉛(IV)等が挙げられる。
【0029】
これらの触媒は、ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して、10-9〜10-3モルの比率で、好ましくは10-7〜10-4モルの比率で用いられる。
【0030】
溶融法では、通常、前記原料及び触媒を、加熱下であって、常圧又は減圧下に、エステル交換反応により副生成物を除去しながら溶融重縮合を行う。反応は、一般的には、二段以上の多段工程で実施される。
具体的には、第一段目の反応を120〜220℃(好ましくは160〜200℃)の温度で、0.1〜5時間(好ましくは0.5〜3時間)、常圧〜200Torrの圧力で反応させる。次いで、1〜3時間かけて温度を最終温度である230〜260℃まで徐々に上昇させると共に、圧力を徐々に最終圧力である1Torr以下まで減圧し、反応を継続する。最後に1Torr以下の減圧下、230〜260℃の温度で重縮合反応を進め、所定の粘度に達したところで窒素で復圧し、反応を終了する。1Torr以下の反応時間は0.1〜2時間であり、全体の反応時間は1〜6時間程度であり、通常2〜5時間程度である。
【0031】
このような反応は、連続式で行ってもよく、またバッチ式で行ってもよい。上記の反応を行うに際して用いられる反応装置は、錨型攪拌翼、マックスブレンド攪拌翼、ヘリカルリボン型攪拌翼等を装備した縦型であっても、パドル翼、格子翼、メガネ翼等を装備した横型であっても、スクリューを装備した押出機型であってもよい。また、重合物の粘度を勘案して、これらを適宜組み合わせた反応装置を使用するのも好ましい。
【0032】
通常、溶融法では、反応終了時に、触媒を失活させることを目的として、触媒失活剤が反応系中に添加される。触媒失活剤の例としては、スルホン酸のアンモニウム塩、スルホン酸のホスホニウム塩、及びスルホン酸のエステルが挙げられる。通常、この目的では、生成するポリカーボネート共重合体100重量部に対して、触媒失活剤は、0.0001〜0.5質量部程度添加される。本明細書において、「触媒失活剤が添加されていない」とは、「触媒を失活させるのに充分な量添加されていない」ことを意味するものとする。よって、上記範囲より極端に少なく、触媒の失活には不十分な程度の量が添加されている態様は、本発明の範囲に含まれるものとする。勿論、触媒失活剤の添加量は少ないほど好ましく、全く添加されていないのが最も好ましい。
【0033】
B)離型剤
本発明の熱可塑性ポリマー組成物は、B)少なくとも一種の、炭素原子数10〜20の一価脂肪酸とグリセロールとの部分エステルである離型剤(以下、「脂肪酸エステル系離型剤」という場合がある)を含有する。炭素原子数が20を超える一価脂肪酸のグリセロールとの部分エステルを離型剤として用いると、成形時に金型汚れが生じる場合がある。一方、炭素原子数が10未満の一価脂肪酸のグリセロールとの部分エステルは、離型剤としては機能しない。炭素原子数が10〜20の一価脂肪酸の例には、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等が含まれる。また、前記一価脂肪酸は、カルボキシル基以外の置換基を有していてもよく、例えば、ヒドロキシ基を有していてもよい。前記脂肪酸エステル系離型剤の好ましい例は、グリセロールと、ラウリン酸、パルミチン酸、もしくはステアリン酸、又はそれらのヒドロキシ脂肪酸とのエステルである。さらに好ましくはグリセロールとラウリン酸とのエステルである。これらのエステルは、グリセロールの3つのヒドロキシ基のうち1つ又は2つのヒドロキシ基がエステル化した部分エステルである。モノエステルが好ましい。
なお、脂肪酸エステル系離型剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
B)脂肪酸エステル系離型剤は、A)ポリカーボネート共重合体100重量部あたり、0.001重量部〜0.5重量部添加されるのが好ましい。0.001重量部未満では十分な離型効果が得られない場合があり、0.5重量部より多い場合には、組成物の着色や分子量低下などの問題を引き起こす場合がある。
【0035】
C)酸化防止剤
本発明の熱可塑性ポリマー組成物は、C)少なくとも一種のヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有する。酸化防止剤として使用可能なヒンダードフェノール系化合物の例には、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−(1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル)4−、6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、4,4−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,2−チオ−ジエチレンビス(3−(3,5−ジt−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、等が含まれる。その他、ヒンダードフェノール系酸化防止剤として公知の剤は、いずれも用いることができる。
なお、ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
C)ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、A)ポリカーボネート共重合体100重量部に対して0.001〜0.5重量部添加されるのが好ましい。0.001重量部未満では、成形時の滞留中の着色を抑制する効果が十分に得られない場合があり、0.5重量部より多い場合には組成物の着色や分子量低下などの問題を引き起こす場合がある。
【0037】
B)脂肪酸エステル系離型剤、及びC)ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加時期については特に制限はない。例えば、溶融重縮合後、A)ポリカーボネート共重合体が溶融状態にあるうちに添加してもよいし、A)ポリカーボネート共重合体をペレット化した後に、添加してもよい。反応直後の溶融状態のA)ポリカーボネート共重合体に添加する場合には、反応釜から抜き出したポリマーに添加して、横型の混練機に送り込み、均一に混練した後、そのままペレット化する方法;又は反応釜から抜き出したポリマーを横型の混練機に送り込み、混練機途中から再度フィードにより添加し均一に混練した後、そのままペレット化する方法;が好適に用いられる。
【0038】
B)脂肪酸エステル系離型剤、及びC)ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加方法についても特に制限はない。例えば、あらかじめ作製したマスターバッチを添加する方法でもよいし、有機溶媒もしくは水に溶解させて添加する方法でもよいし、又はマスターバッチや溶媒を用いずにそのまま添加する方法でもよい。
【0039】
本発明の熱可塑性ポリマー組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、所望の特性を付与する紫外線吸収剤、蛍光増白剤、光安定剤、滑剤、難燃剤、難燃助剤、耐衝撃性改良剤、帯電防止剤、可塑剤、相溶化剤、着色剤(カーボンブラック、酸化チタンなどの顔料、ブルーイング剤等の染料)、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、炭素繊維、繊維状マグネシウム、チタン酸カリウムウィスカー、セラミックウィスカー、マイカ、タルク、クレー、珪酸カルシウム等の補強剤、充填剤、他のポリマーなどの種々の添加剤の一種又は二種以上を添加してもよい。
【0040】
2.成形品及びその製造方法
本発明は、本発明の熱可塑性ポリマー組成物を利用した製造される成形品、及びその製造方法にも関する。本発明の熱可塑性ポリマー組成物が含有するA)ポリカーボネート共重合体は、低複屈折性である。よって、ピックアップレンズ、光学レンズ、光学プリズム、光学シート、光学フィルム、導光板、光学ディスク等の光学用途に用いられる成形品の製造に有用である。また、本発明の熱可塑性ポリマー組成物は、成形性に優れ、具体的には、成形耐熱性が高く(熱による変色が少なく)、離型性にも優れ、さらに金型への付着なども生じ難い。よって、複雑で緻密な形状の精密成形品の製造にも有用であり、中でもマイクロレンズの製造に有用である。
【0041】
本発明の成形品は、種々の成形方法により製造することができる。具体的には、射出成形、射出圧縮成形、押出成形、中空成形、回転成形、圧縮成形などの成形方法を利用することができる。生産性の観点では、前記熱可塑性ポリマー組成物からなるペレットを一旦作製し、該ペレットから上記成形方法を利用して、成形品を製造するのが好ましい。さらに、押出成形によって一旦シート状の成形体を得た後、真空成形、圧空成形等により目的の成形品を製造することもできる。
【0042】
本発明の成形品は、光学用途部品の他、電気・電子・OA機器部品、精密機械部品、医療部品、建築・建材用品、家庭用品等として、幅広い用途への利用が期待できる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何らの制限を受けるものではない。なお、得られたポリカーボネート組成物の評価は、以下の方法により行った。
(1)分子量:GPC(Shodex GPC system 11)を用い、ポリスチレン換算分子量(重量平均分子量:Mw)として測定した。展開溶媒にはクロロホルムを用いた。
(2)色相:得られたペレットを射出成形して50mmφ、3mm厚のディスク試験片を作製し、色差計(東京電色 TC−1800MK2)によりYI(黄色度)値を測定した。
(3)成形耐熱性試験:樹脂組成物ペレットを射出成形機シリンダー内(260℃)に30分間滞留させ、射出成形試験片(50mmφ、3mm厚)のYI値を測定した。
(4)離型性:住友重機製射出成形機SG75を用いてコップ型の離型抵抗金型を用いて成形を行い、シリンダー温度250℃、金型温度70℃、内圧400kgf/cm2の条件で直径70mm、高さ20mm、厚み4mmのカップ型成形品を成形する際の突き出しピンにかかる突き出し荷重(kgf/cm2)を測定し、離型抵抗値を求めた。
(5)金型汚れ:新潟鉄工所製ミニ7成形機としずく型の金型を用いてシリンダー温度250℃、成形サイクル11秒、金型温度80℃、型締め力7トンで2000ショット成形した。成形終了後金型可動側に設置された成形品本体部分に対応する入れ子(成形品の凸側表面に対応する)を連続成形後に金型より取り外し、その表面部を塩化メチレンで洗浄して付着物を金型から除去し、かかる塩化メチレン溶液から塩化メチレンを揮発させる方法で行った。
【0044】
1. 実施例1
1.−1 ポリカーボネート共重合体の合成例
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン 10.11kg(23.05モル)、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール 4.524kg(23.05モル)、ジフェニルカーボネート 10.22kg(47.71モル)、及び炭酸水素ナトリウム 0.01321g(1.572×10-4モル)を、攪拌機及び留出装置付きの50リットル反応器に入れ、窒素雰囲気760Torrの下、1時間かけて215℃に加熱し撹拌した。
その後、15分間かけて減圧度を150Torrに調整し、215℃及び150Torrの条件下で、20分間保持しエステル交換反応を行った。さらに37.5℃/hrの速度で240℃まで昇温し、240℃及び150Torrで10分間保持した。その後、10分間かけて120Torrに調整し、240℃及び120Torrで70分間保持した。その後、10分間かけて100Torrに調整し、240℃及び100Torrで10分間保持した。更に40分間かけて1Torr以下とし、240℃及び1Torr以下の条件下で、撹拌下、25分間重合反応を行った。反応終了後、反応器内に窒素を吹き込み加圧にし、生成したポリカーボネート共重合体を抜き出し、ペレタイズした。
得られたポリカーボネート重合体のMwは、46,000であった。
【0045】
1−2 ポリカーボネート組成物の調製
上記で合成したポリカーボネート共重合体100重量部に対して、ヒンダードフェノール系酸化防止剤として、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](CIBA社商品名IRGANOX1010)を0.05重量部、及び離型剤として、グリセリンモノラウレート(理研ビタミン社商品名ポエムM300)0.075重量部を、ベント式二軸押出機により(新潟鐵工所株製IPEC:(完全かみ合い、同方向回転)コンパウンドし、ポリカーボネート組成物を得た。押出条件は吐出量10kg/h、スクリュー回転数は150rpm、ベントの真空度は3kPaであり、また押出温度は第1供給口からダイス部分まで260℃とした。
この組成物の3mm厚射出成形試験片のYI値2.1であった。射出成形機バレル中に30分間滞留させた後のYI値の増加は+0.3であり、非常に良好な熱安定性を示した。離型抵抗も問題なく、金型汚れも0.9mgと非常に少なかった。
【0046】
[実施例2〜3]
離型剤及び/又は酸化防止剤を、表1中に記載の通りに代えた以外は、実施例1と全く同様の操作でポリカーボネート組成物をそれぞれ得た。それぞれの組成物を用い、実施例1と同一の条件で射出形成試験片を作製し、評価した。評価結果を表1にまとめた。
【0047】
[比較例1]
実施例1のポリカーボネート共重合体の合成において、酸化防止剤や離型剤とともに触媒失活剤として、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩を、ポリカーボネート共重合体100重量部に対して0.005重量部添加した。このポリカーボネート共重合体を用いた以外は、実施例2と全く同様の操作でポリカーボネート組成物を得た。この組成物を用い、実施例1と同一の条件で射出形成試験片を作製し、評価した。
この組成物の射出成形試験片のYI値は2.7であった。射出成形機バレル中に30分間滞留させた後のYI値の増加は+0.3と良好であったが、滞留後のYI増加が0.6でやや高く、金型汚れが3.5mgと多かった。
【0048】
[比較例2〜5]
離型剤及び/又は酸化防止剤を、表1中に記載の通りに代えた以外は、実施例1と全く同様の操作でポリカーボネート組成物をそれぞれ得た。それぞれの組成物を用い、実施例1と同一の条件で射出形成試験片を作製し、評価した。評価結果を表1にまとめた。
酸化防止剤を添加しないとYIが大きく悪化した。また、グリセロールモノベヘネートを用いると0.1重量部では離型性が不足するため離型剤量を0.2重量部まで増量すると金型汚れが増加した。グリセロールモノカプレートでは0.2重量部添加しても離型性が不足であった。
【0049】
なお、表1中の各成分の記号は、下記の通りである。また、表中、各成分の「量」は、A)成分(ポリカーボネート共重合体)を100重量部とした場合の重量部として示した。
A)成分(ポリカーボネート共重合体)
PC :実施例1で製造されたポリカーボネート共重合体
PC’:比較例1で製造されたポリカーボネート共重合体
B)成分(離型剤)
B−1:グリセロールモノステアレート(理研ビタミン(株)製:リケマールS100A)
B−2:グリセロールモノラウレート(理研ビタミン(株)製:ポエムM300)
B−3:グリセロールモノパルミテート(理研ビタミン(株)製:ポエムPV100)
B−4:グリセロールモノベヘネート(理研ビタミン(株)製:リケマールB100)
B−5:グリセロールモノカプレート(理研ビタミン(株)製:ポエムM200)
C)成分(ヒンダードフェノール系酸化防止剤)
C−1:ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]:ヒンダードフェノール系酸化防止剤(Ciba Specialty Chemicals K.K.製:Irganox1010)
触媒失活剤
DBSP:ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩
【0050】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)溶融法で製造され且つ触媒失活剤が添加されていない、一般式(1)で表される構成単位30〜70モル%及び一般式(2)で表される構成単位70〜30モル%からなり、GPCによる重量平均分子量が15,000〜65,000であるポリカーボネート共重合体、
B)炭素原子数10〜20の一価脂肪酸とグリセロールとの部分エステルである少なくとも一種の離型剤、及び
C)少なくとも一種のヒンダードフェノール系酸化防止剤
を含有する熱可塑性ポリマー組成物:
【化1】

式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のシクロアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表し;Xは分岐していてもよい炭素数2〜6のアルキレン基、炭素数6〜10のシクロアルキレン基又は炭素数6〜10のアリーレン基を表し;m及びnはそれぞれ独立に1〜5の数値を示し;
【化2】

式(2)中、R3は炭素数1〜10のアルキル基を表し;pは0〜4の数値を示し、テトラシクロデカン環の任意の位置にR3がp個結合していてもよいことを示す。
【請求項2】
B)少なくとも一種の離型剤が、グリセロールモノステアレートまたはグリセロールモノラウレートである請求項1に記載の熱可塑性ポリマー組成物。
【請求項3】
C)少なくとも一種の酸化防止剤が、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]である請求項1又は2に記載の熱可塑性ポリマー組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリマー組成物を用いる成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリマー組成物からなる光学レンズ。

【公開番号】特開2010−241947(P2010−241947A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91866(P2009−91866)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】