説明

ポリカーボネート樹脂組成物および成形品

【課題】 線膨張係数が小さく、高い成形性を有するポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品を提供する。
【解決手段】 ポリカーボネート樹脂と、一次粒子の個数平均粒子径が0.5nm以上30nm以下のシリカ微粒子を含有し、前記シリカ微粒子の含有量が前記ポリカーボネート樹脂と前記シリカ微粒子の合計に対して40vol%以上80vol%以下であるポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品であり、前記成形品の20℃から60℃の範囲の線膨張係数が20×10−6/℃以下(但し、負の線膨張係数を含む。)であることを特徴とする成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物および成形品に関し、特に低い線膨張係数を有するポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に物質は加熱すると膨張するが、特に有機樹脂材料の線膨張係数は大きいことが知られている。例えば精密光学系などに代表されるデバイスにおいて、有機樹脂材料から成る部材を使用する場合、温度変化による部材の寸法変化が大きいと、光学系の位置ずれを引き起こす原因となり得る。有機樹脂材料のみで精密光学系に使用する部材を作製する場合、その線膨張係数は20×10−6/℃以下であることが望まれている。
【0003】
有機樹脂材料の熱膨張による光学系の位置ずれを防ぐ方法のひとつとして、負の線膨張(以下、負膨張)性を有する材料を有機樹脂材料から成る部材の周辺に組み込み寸法変化を補償する方法がある。負膨張性を有する材料としてタングステン酸ジルコニウムやリチウム−アルミニウム−シリコン酸化物、マンガンの窒化物などの無機材料が知られている。
【0004】
また有機樹脂材料の熱膨張による光学系の位置ずれを防ぐ別の方法として、有機樹脂材料の熱膨張を低減させる方法がある。有機樹脂材料の熱膨張を低減する方法として、有機樹脂材料に無機微粒子を加えて線膨張係数を低下させる方法がよく知られている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−291197号公報
【特許文献2】特開平11−017073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の負膨張性を有する材料はその線膨張係数の最小値は−25×10−6/℃と小さいが、負膨張性を有する材料は汎用の有機樹脂材料と比較してバルク成形体を成形することが困難であるという課題がある。
【0007】
特許文献1や特許文献2に開示されている有機樹脂材料に無機微粒子を加えて線膨張係数を低下させる方法では、樹脂に無機微粒子を加えることで20×10−6/℃以下の線膨張係数を達成している。しかし熱硬化性の樹脂をマトリックス材として用いる場合、成形時に樹脂の硬化収縮が発生するため成形品が変形や位置ずれを起こす課題がある。また硬化に伴う成形コストも高くなる。
【0008】
更に熱可塑性樹脂に無機微粒子を加えて線膨張係数を低減している例もある。しかしながら、熱可塑性樹脂の線膨張係数を20×10−6/℃以下まで低減する場合、体積分率から単純計算すると、比重の軽いシリカを用いても80重量パーセント(71vol%)近くの量を添加する必要がある。多量の無機微粒子の添加は熱可塑性樹脂のバルク成形性を著しく損なうという問題が発生するため、実際に20×10−6/℃以下の線膨張係数を有する成形体を得ることは難しい。
【0009】
以上の問題から、これまでに行われてきた有機樹脂材料に無機微粒子を加えて線膨張係数を低下させる方法では、有機樹脂材料を精密光学系などに使用することが困難であった。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑み、線膨張係数が小さく、高い成形性を有するポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ポリカーボネート樹脂と、一次粒子の個数平均粒子径が0.5nm以上30nm以下のシリカ微粒子とを含有し、前記シリカ微粒子の含有量が前記ポリカーボネート樹脂と前記シリカ微粒子の合計に対して40vol%以上80vol%以下であるポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品であり、前記成形品の20℃から60℃の範囲の線膨張係数が20×10−6/℃以下(但し、負の線膨張係数を含む。)であることを特徴とする成形品に関する。
【0012】
また、本発明は、ポリカーボネート樹脂と、一次粒子の個数平均粒子径が0.5nm以上30nm以下のシリカ微粒子とを含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、前記シリカ微粒子を前記ポリカーボネート樹脂と前記シリカ微粒子の合計に対して40vol%以上80vol%以下含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、線膨張係数が小さく、高い成形性を有するポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品を提供することができる。
【0014】
本発明の成形品は、光ファイバーやレンズ、ミラーなどの精密光学系デバイスに使用される低膨張部材や温度補償部材として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明に係るポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂と、一次粒子の個数平均粒子径が0.5nm以上30nm以下のシリカ微粒子とを含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、前記シリカ微粒子をポリカーボネート樹脂組成物中に40vol%以上80vol%以下含有することを特徴とする。
【0017】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に用いられるポリカーボネート樹脂は、種類は特に制限されず、各種のカーボネート基を有する熱可塑性ポリカーボネート樹脂を使用できる。前記ポリカーボネート樹脂とは、1種以上のジオール化合物と炭酸エステル類(カーボネート化合物)とを原料として重合させてなる重合体をいう。芳香族ポリカーボネート樹脂は、単独でも複数種の併用であってもよい。
【0018】
ジオール化合物は脂肪族でも芳香族でもよいが、耐熱性等の観点から、芳香族成分を含有するポリカーボネート樹脂が好ましい。好ましく用いられるジオール化合物としては、下記の一般式(1)に示される化合物が挙げられる。
【0019】
【化1】

【0020】
一般式(1)において、Tは炭素数2以上12以下のオキシアルキレン基、炭素数2以上12以下のポリ(オキシエチレン)基、又は単結合を示す。R1、R2は各々水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基,炭素数1以上6以下のアルコキシ基又は炭素数6以上12以下のアリール基であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。Uは炭素数1以上13以下のアルキレン基,炭素数2以上13以下のアルキリデン基,炭素数5以上13以下のシクロアルキレン基,炭素数5以上13以下のシクロアルキリデン基,炭素数6以上13以下のアリーレン基,フルオレニデン、−O−,−S−,−SO−,−CO−又は単結合を示す。R1、R2、T及びUは構造単位ごとに異なっていてもよい。
【0021】
好ましいジオール化合物の具体例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンが挙げられ、さらに好ましくは2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが挙げられる。
【0022】
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂は、公知の方法、例えば界面重合法、溶融重合法等によって製造することができる。また、製造に際して、必要に応じて末端停止剤、触媒、酸化防止剤等を使用してもよい。またポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であってもよい。
【0023】
多官能性化合物としては、例えば1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、4,4’−[1−[4−[1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノール、1−〔α−メチル−α−(4’−ヒドロキシフェニル)エチル〕−4−〔α’,α’−ビス(4”−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン、α,α’,α”−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、トリメリト酸、フロログリシン、イサチンビス(o−クレゾール)等の化合物を用いることができる。
【0024】
さらに本発明のポリカーボネート樹脂には、本来の目的が損なわれない範囲内で、添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、リン系熱安定剤、ヒドロキシルアミン類の熱安定剤、ヒンダートフェノール類等の酸化防止剤、ヒンダートアミン類等の光安定剤、ベンゾトリアゾール類やトリアジン類・ベンゾフェノン類・ベンゾエート類等の紫外線吸収剤、リン酸エステル類やフタル酸エステル類・クエン酸エステル類・ポリエステル類等の可塑剤、シリコーン類等の離型剤、リン酸エステル類やメラミン類等の難燃剤、脂肪酸エステル系界面活性剤類の帯電防止剤、有機色素着色剤、耐衝撃性改良剤等の物質が挙げられる。これらの添加剤は単独でも複数種の併用であってもよい。
【0025】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含有されるポリカーボネート樹脂の含有量は、ポリカーボネート樹脂とシリカ微粒子の合計に対して20vol%より大きく60vol%未満、好ましくは40vol%以上60vol%未満が望ましい。
【0026】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に用いられるシリカ微粒子は、所望の特性を満足する限り、公知の方法により製造したものを用いることができる。例えば、高温火炎中にシリカ微小粉末を投入して、溶融、流動化の後、急冷する方法、酸素を含む雰囲気内においてバーナーにより形成した化学炎中にシリコン粉末を投入し、爆発によりシリカ微粒子を製造する方法、触媒存在下でシリコンアルコキシドを加水分解、重縮合してゾル−ゲル法で製造する方法等が挙げられる。
【0027】
本発明に用いられるシリカ微粒子の表面の基は、所望の線膨張係数の値やシリカ微粒子の分散性に応じて種々選択することができる。有機樹脂材料に無機微粒子を添加することで材料の線膨張係数を低減する方法はよく知られているが、本発明者はその微粒子表面に露出している基の種類により線膨張係数の低減量が異なることを見出した。ポリカーボネート樹脂とシリカ微粒子あるいはシリカ微粒子同士の相互作用の影響や、ポリカーボネート樹脂とシリカ微粒子の分散状態やモルフォロジーが粒子表面に露出している基の種類によって異なることに起因すると考えられる。
【0028】
シリカ微粒子表面に露出している基の種類は、公知の基が挙げられる。例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、ヘキサデシル基等のアルキル基、クロロメチル基、クロロプロキル基、フルオロメチル基、フルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基、ビニル基、スチリル基、アクリル基、メタクリル基、グリシジル基、エポキシシクロヘキシル基、イソシアネート基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、シラノール基等の水酸基等が挙げられる。それらの基は、1種または2種以上を選択することができる。
【0029】
シリカ微粒子表面に露出している基として、ヘキサデシル基、アミノ基、シラノール基を1種または2種以上有するシリカ微粒子は線膨張係数をより低減することができるので好ましい。
【0030】
シリカ微粒子を表面修飾する場合、特に制限はされないが、ケイ素含有化合物を用いて公知の方法により表面修飾することができる。ここでのケイ素含有化合物とは、上記の基を有するクロロシラン、アルコキシシラン、シリルアミン、ヒドロシラン、ポリオルガノシロキサンからなる群から選ばれる1種または2種以上のケイ素含有化合物である。
【0031】
シリカ微粒子の一次粒子の個数平均粒子径は、粒子径が大きすぎると低線膨張性が失われる。これは微粒子の表面積が減少し表面相互作用の効果が小さくなることが原因と考えられる。また粒子径が大きくなると光学的な散乱が発生するため、ポリカーボネート樹脂組成物の光学系デバイスへの適用が困難となる。更に、粒子径が小さすぎると微粒子自体の剛直性が低くなるため、低線膨張性が失われる可能性がある。そのためシリカ微粒子の一次粒子の個数平均粒子径は0.5nm以上30nm以下、好ましくは1nm以上20nm以下であることが望ましい。本明細書において、平均粒子径は数平均の粒子径である。本発明に使用される無機微粒子の粒子径は、透過型顕微鏡を用いて得られる写真から求められる。
【0032】
本発明において、ポリカーボネート樹脂とシリカ微粒子の混合は、溶媒中にポリカーボネート樹脂を溶解させ、その後シリカ微粒子と混合し溶媒を除去する方法で行うこともできる。まず溶媒中にポリカーボネート樹脂を溶解させ、ポリカーボネート樹脂溶液を作製する。溶媒の種類はポリカーボネート樹脂が溶解し、さらにシリカ微粒子が層分離することなく混合されるものであれば特に限定はされない。例えばテトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、酢酸エチル、酢酸ブチル等の非プロトン性極性溶媒、トルエン、キシレン等の無極性溶媒等が挙げられる。より好ましくは、ポリカーボネート樹脂とシリカ微粒子の混合後に溶媒の除去を行うため、テトラヒドロフラン、酢酸エチル等の沸点の低い溶媒を挙げることができる。
【0033】
シリカ微粒子とポリカーボネート樹脂溶液の混合は、シリカ微粒子を直接ポリカーボネート樹脂溶液に混合してもよいし、予め溶媒と混合しているシリカ微粒子スラリーをポリカーボネート樹脂溶液に混合してもよい。溶媒の量は任意であるため、最終的に除去可能であれば適宜追加しても良く、1種あるいは2種以上を組合せて用いても良い。また、ポリカーボネート樹脂溶液とシリカ微粒子を混合した後、ホモジナイザーや超音波処理装置、ロールミル、ボールミル、振動ボールミル、ビーズミル、アトライター、ディスクミル、サンドミル、コロイドミル、ジェットミル、ペイントシェーカー等の公知の各種分散装置により混合溶液を均一化することがより好ましい。
【0034】
シリカ微粒子とポリカーボネート樹脂の混合溶液中の溶媒の除去は、加熱または減圧により、温度、減圧度を適宜調整することにより行うことができる。残留溶媒は線膨張係数の悪化や成形時の不具合の要因となるため、残留溶媒の量を可能な限り減らす必要がある。具体的には残留溶媒を全体の質量に対して0.5%以下、好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは0.01%まで除去することが望ましい。
【0035】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物におけるシリカ微粒子の含有量は、ポリカーボネート樹脂とシリカ微粒子の合計に対して40vol%以上80vol%以下、好ましくは40vol%以上60vol%以下が望ましい。シリカ微粒子の含有量が40vol%以上になると成形品の線膨張係数が大幅に低減される。線膨張係数を低減するためにはシリカ微粒子の含有量を多くすることが有効であるが、含有量が増えるにつれて脆くなり成形性が悪化するため、含有量は80vol%以下であることが好ましい。また同じ含有量においてもシリカ微粒子の分散状態によっては異なる線膨張係数を有することがある。なお本発明におけるシリカ微粒子の含有量とは、熱重量分析(TGA)装置によって成形品を800℃まで昇温したときの残存重量パーセントを測定し、体積換算した数値を表す。
【0036】
本発明の成形品は、ポリカーボネート樹脂と、一次粒子の個数平均粒子径が0.5nm以上30nm以下のシリカ微粒子を含有し、前記シリカ微粒子の含有量が前記ポリカーボネート樹脂と前記シリカ微粒子の合計に対して40vol%以上80vol%以下であるポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品である。
【0037】
本発明の成形品は、ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形やヒートプレス成形など、加熱下において加圧することで任意の形状に成形することにより得られる。成形時の温度は低すぎると目的の形状を作製できず、高すぎると線膨張係数が高くなる原因となることから、150から300℃の範囲が好適である。成形圧力は特に限定されないが、形状を転写させるために50MPa以上であることがより好ましい。
【0038】
本発明の成形品は、20℃から60℃の範囲の線膨張係数が20×10−6/℃以下である。但し、前記線膨張係数の範囲は、正の線膨張係数および負の線膨張係数を含む。特に本発明の成形品の20℃から60℃の範囲の線膨張係数は、好ましくは−100×10−6/℃以上20×10−6/℃以下、さらに好ましくは−100×10−6/℃以上0/℃以下の範囲が望ましい。本発明の成形品の20℃から60℃の範囲の線膨張係数が、負の線膨張係数であることが好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明をする。本発明は何らこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
ポリカーボネート樹脂(パンライトAD5503[製品名];帝人化成株式会社製)をテトラヒドロフラン溶媒に対して5wt%になるように混合し、超音波処理により常温にて溶解させ、ポリカーボネート樹脂/テトラヒドロフラン溶液を作製した。
【0041】
続いてポリカーボネート樹脂/テトラヒドロフラン溶液10gにシリカ微粒子(アエロジルRA200H[製品名]、一次粒子の個数平均粒子径12nm、微粒子表面基はアミノ基、日本アエロジル社製)0.6gを添加し、アエロジルRA200Hが十分に浸漬するようにテトラヒドロフランを適量加え、超音波処理を行いよく混合した。
【0042】
テトラヒドロフランをある程度自然乾燥させた後、真空加熱炉で約250℃にておよそ4時間加熱して溶媒の除去を行い、ポリカーボネート樹脂組成物を得た。
【0043】
成形はヒートプレスにて行った。φ15のプレス成形用金型の面に離型剤としてノベック−EGC1720[製品名](住友スリーエム社製)を滴下してよく拭き取り、得られたポリカーボネート樹脂組成物をプレス成形用金型に充填し、加熱プレス機にセットしながら250℃まで加熱した。加熱プレス機の上面と下面の温度が250℃に達した後に110MPaの荷重を付与し、100℃まで除冷しながら荷重を自然開放させた。100℃で完全に荷重を除き、金型から離型することでコイン状の成形品を得た。
【0044】
(実施例2)
実施例1のシリカ微粒子の添加量を0.9gに変更した以外は、実施例1と同様の条件でポリカーボネート樹脂組成物を得た。得られたポリカーボネート樹脂組成物を実施例1と同様の条件で成形し、同様に評価した。
【0045】
(比較例1)
実施例1のシリカ微粒子の添加量を0.3gに変更した以外は、実施例1と同様の条件でポリカーボネート樹脂組成物を得た。また得られたポリカーボネート樹脂組成物を実施例1と同様の条件で成形し、同様に評価した。
【0046】
(比較例2)
実施例1のシリカ微粒子添加量を1.5gに変更した以外は、実施例1と同様の条件でポリカーボネート樹脂組成物を得た。また得られたポリカーボネート樹脂組成物を実施例1と同様の条件で成形し、同様に評価した。得られた成形体はひび割れが多数入り脆く、線膨張係数を計測することができなかった。
【0047】
(実施例3)
実施例1において、シリカ微粒子をアエロジルR816[製品名](一次粒子の個数平均粒子径12nm、微粒子表面基はヘキサデシル基、日本アエロジル社製)とし、添加量を0.8gに変更した以外は実施例1と同様の条件でポリカーボネート樹脂組成物を得た。また得られたポリカーボネート樹脂組成物を実施例1と同様の条件で成形し、同様に評価した。
【0048】
(実施例4)
実施例3のシリカ微粒子の添加量を1.1gに変更した以外は、実施例3と同様の条件でポリカーボネート樹脂組成物を得た。また得られたポリカーボネート樹脂組成物を実施例3と同様の条件で成形し、同様に評価した。
【0049】
(実施例5)
実施例1において、シリカ微粒子をアエロジル200[製品名](一次粒子の個数平均粒子径12nm、微粒子表面基はシラノール基、日本アエロジル社製)とし、添加量を0.8gに変更した以外は実施例1と同様の条件でポリカーボネート樹脂組成物を得た。また得られたポリカーボネート樹脂組成物を実施例1と同様の条件で成形し、同様に評価した。
【0050】
(比較例3)
実施例5において、シリカ微粒子をアエロジルOX50[製品名](一次粒子の個数平均粒子径40nm、微粒子表面基はシラノール基、日本アエロジル社製)とした以外は実施例5と同様の条件でポリカーボネート樹脂組成物を得た。また得られたポリカーボネート樹脂組成物を実施例1と同様の条件で成形し、同様に評価した。
【0051】
<線膨張係数の評価>
TMA(TMA Q400[製品名];TAインスツルメント社製)にて、0から80℃で3サイクル温度負荷を与え、厚み方向に対する20から60℃の線膨張係数を算出した。変位の測定には膨張プローブを使用した。
【0052】
<シリカ微粒子の含有量の評価>
シリカ微粒子の含有量は、熱重量分析(TGA)装置によって成形品を800℃まで昇温したときの残存重量パーセントを測定し、体積換算した数値を表す。シリカ微粒子の含有量の測定はTGA(TGA Q500[製品名];TAインスツルメント社製)を用いて行った。シリカ微粒子の含有量をwt%(重量%)からvol%(体積%)への換算に際し、ポリカーボネート樹脂の比重値には1.20、シリカ微粒子の比重値は2.00を用いた。なお評価に際して各成形品は適宜適当な大きさにカットした。
【0053】
以下の表1に実施例および比較例の成形品の評価結果を示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1の結果から、一次粒子の個数平均粒子径0.5nm以上30nm以下のシリカ微粒子がポリカーボネート樹脂組成物中に40vol%以上80vol%以下で含有され、その成形品の20℃から60℃までの線膨張係数が20×10−6/℃以下であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形品は、20℃から60℃の範囲において線膨張係数が20×10−6/℃以下と非常に小さいので、光ファイバーやレンズ、ミラーなどの精密光学系デバイスに使用される低膨張部材や温度補償部材として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂と、一次粒子の個数平均粒子径が0.5nm以上30nm以下のシリカ微粒子とを含有し、前記シリカ微粒子の含有量が前記ポリカーボネート樹脂と前記シリカ微粒子の合計に対して40vol%以上80vol%以下であるポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品であり、前記成形品の20℃から60℃の範囲の線膨張係数が20×10−6/℃以下(但し、負の線膨張係数を含む。)であることを特徴とする成形品。
【請求項2】
前記成形品の20℃から60℃の範囲の線膨張係数が−100×10−6/℃以上20×10−6/℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の成形品。
【請求項3】
前記成形品の20℃から60℃の範囲の線膨張係数が、負の線膨張係数であることを特徴とする請求項1に記載の成形品。
【請求項4】
前記成形品がプレス成形により成形されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の成形品。
【請求項5】
ポリカーボネート樹脂と、一次粒子の個数平均粒子径が0.5nm以上30nm以下のシリカ微粒子とを含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、前記シリカ微粒子を前記ポリカーボネート樹脂と前記シリカ微粒子の合計に対して40vol%以上80vol%以下含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
前記シリカ微粒子の微粒子表面に、少なくともヘキサデシル基、アミノ基、シラノール基のいずれかを有することを特徴とする請求項5に記載のポリカーボネート樹脂組成物。

【公開番号】特開2013−18975(P2013−18975A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−134839(P2012−134839)
【出願日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】