説明

ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品

【課題】 イソソルビド等のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含み、耐熱性、透明性、機械的強度が良好で、成形性に優れたポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品を提供すること。
【解決手段】 構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂(a)100重量部と、
高級脂肪酸及びステアリン酸エステルからなる群より選ばれた少なくとも1種の離型剤(b)0.0001重量部以上2重量部以下とを含むポリカーボネート樹脂組成物。


(但し、上記一般式(1)で表される部分が−CH2−O−Hの一部である場合を除く。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオマス資源から得られる原料を用いたポリカーボネート樹脂として、植物由来モノマーであるイソソルビドを使用し、炭酸ジフェニルとのエステル交換によりポリカーボネート樹脂を得ることが記載されている(特許文献1参照)。特許文献2には、イソソルビドとビスフェノールAを共重合したポリカーボネート樹脂が記載されている。特許文献3には、イソソルビドと脂肪族ジオールとを共重合することによりポリカーボネート樹脂の剛直が改善されることが記載されている。特許文献4にはイソソルビドを単独重合したポリカーボネート樹脂に離型剤と熱安定剤を添加することが記載されている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】英国特許第1,079,686号明細書
【特許文献2】特開昭56−055425号公報
【特許文献3】国際公開第2004/111106号パンフレット
【特許文献4】特開2008−274007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、植物由来モノマーとしてのイソソルビドを用いて得られるポリカーボネート樹脂は、従来の石油原料由来の芳香族ポリカーボネートに比べ、耐熱性、透明性、機械的強度の点で不十分である。また、溶融成形時に離型性が悪く、黄変し、透明部材や光学部材として用いることが困難であるという問題がある。従来の技術ではイソソルビドを単独重合したポリカーボネート樹脂において、離型性の改良が試みられているが不十分である。
従って、本発明の目的は、イソソルビド等のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含み、耐熱性、透明性、機械的強度が良好で、成形性に優れたポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、下記請求項に係るポリカーボネート樹脂組成物及びポリカーボネート樹脂成形品が提供される。
請求項1に係る発明は、構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂(a)100重量部と、高級脂肪酸及びステアリン酸エステルからなる群より選ばれた少なくとも1種の離型剤(b)0.0001重量部以上2重量部以下とを含むポリカーボネート樹脂組成物である。
【0006】
【化1】

【0007】
(但し、上記一般式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)
【0008】
請求項2に係る発明は、前記ポリカーボネート樹脂(a)が、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物及びオキシアルキレングリコールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物に由来する構造単位を更に含むポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物である。
【0009】
請求項3に係る発明は、前記離型剤(b)が高級脂肪酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物である。
【0010】
請求項4に係る発明は、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、複素環基を有するジヒドロキシ化合物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物である。
【0011】
請求項5に係る発明は、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物である。
【0012】
【化2】

【0013】
請求項6に係る発明は、前記ポリカーボネート樹脂(a)100重量部に対して、酸化防止剤(c)0.0001重量部以上1重量部以下を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物である。
【0014】
請求項7に係る発明は、前記酸化防止剤(c)がフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤及びイオウ系酸化防止剤からなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項6に記載のポリカーボネート樹脂組成物である。
【0015】
請求項8に係る発明は、前記ポリカーボネート樹脂組成物のガラス転移温度が90℃以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物である。
【0016】
請求項9に係る発明は、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形品である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐熱性、透明性、機械的強度が良好で、成形性に優れたポリカーボネート樹脂組成物及びそれからなる成形品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。
【0019】
[1]ポリカーボネート樹脂(a)
本発明で使用するポリカーボネート樹脂(a)は、構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂である。
【0020】
【化3】

【0021】
(但し、上記一般式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)
【0022】
<構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物>
構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物としては、分子構造の一部に前記一般式(1)で表されるものを含んでいれば特に限定されるものではないが、具体的には、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等、側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基が前記一般式(1)で表される部位であるジヒドロキシ化合物が挙げられる。又、下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコール、下記一般式(3)で表されるスピログリコール等の環状エーテル構造を有する化合物等の複素環基の一部が前記一般式(1)で表される部位であるジヒドロキシ化合物が挙げられるが、複素環基の一部が前記一般式(1)で表される部位であるジヒドロキシ化合物が好ましい。下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。また、下記一般式(3)で表されるジヒドロキシ化合物としては、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン(慣用名:スピログリコール)、3,9−ビス(1,1−ジエチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、3,9−ビス(1,1−ジプロピル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、ジオキサングルコールなどが挙げられる。
これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
これらのジヒドロキシ化合物のうち、資源として豊富に存在し、容易に入手可能な下記一般式(2)の化合物が特に好ましく、種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが、入手及び製造のし易さ、光学特性、成形性の面から最も好ましい。
【0023】
【化4】

【0024】
【化5】

【0025】
(上記一般式(3)中、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素数1〜炭素数3のアルキル基である。)
【0026】
尚、イソソルビドは酸素によって徐々に酸化されやすい。このため、保管や、製造時の取り扱いの際には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤を用いたり、窒素雰囲気下にしたりすることが肝要である。イソソルビドが酸化されると、蟻酸をはじめとする分解物が発生する。例えば、これら分解物を含むイソソルビドを用いてポリカーボネート樹脂を製造すると、得られるポリカーボネート樹脂に着色が発生したり、物性を著しく劣化させる原因となる。また、重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られないこともあり、好ましくない。また、蟻酸の発生を防止するような安定剤を添加してあるような場合、安定剤の種類によっては、得られるポリカーボネート樹脂に着色が発生したり、物性を著しく劣化させたりする。安定剤としては還元剤や制酸剤が用いられる。このうち還元剤としては、ナトリウムボロハイドライド、リチウムボロハイドライド等が挙げられ、制酸剤としては水酸化ナトリウム等のアルカリが挙げられる。このようなアルカリ金属塩の添加は、アルカリ金属が重合触媒ともなるので、過剰に添加し過ぎると重合反応を制御できなくなり、好ましくない。
【0027】
酸化分解物を含まないイソソルビドを得るために、必要に応じてイソソルビドを蒸留しても良い。また、イソソルビドの酸化や、分解を防止するために安定剤が配合されている場合も、必要に応じて、イソソルビドを蒸留しても良い。この場合、イソソルビドの蒸留は単蒸留であっても、連続蒸留であっても良く、特に限定されない。蒸留は、アルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気下で、減圧蒸留を実施する。このようなイソソルビドの蒸留を行うことにより、蟻酸含有量が20ppm以下、特に5ppm以下である高純度のイソソルビドを用いることができる。
【0028】
尚、イソソルビド中の蟻酸含有量の測定方法は、イオンクロマトグラフを使用し、以下の手順に従い行われる。
イソソルビド約0.5gを精秤し50mlのメスフラスコに採取して純水で定容する。標準試料として蟻酸ナトリウム水溶液を用い、標準試料とリテンションタイムが一致するピークを蟻酸とし、ピーク面積から絶対検量線法で定量する。
イオンクロマトグラフは、Dionex社製のDX−500型を用い、検出器には電気伝導度検出器を用いた。測定カラムとして、Dionex社製ガードカラムにAG−15、分離カラムにAS−15を用いる。測定試料を100μlのサンプルループに注入し、溶離液に10mM−NaOHを用い、流速1.2ml/min、恒温槽温度35℃で測定する。サプレッサーには、メンブランサプレッサーを用い、再生液には12.5mM−HSO水溶液を用いる。
【0029】
本発明で使用するポリカーボネート樹脂(a)は構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位以外に、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物及びオキシアルキレングリコールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物に由来する構造単位を更に含むことが好ましい。前記ポリカーボネート樹脂(a)は脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物及びオキシアルキレングリコールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物に由来する構造単位を更に含むことにより、従来より優れた耐衝撃性を有し、吸水性が低減し、有用な材料となる可能性がある。
【0030】
<脂環式ジヒドロキシ化合物>
脂環式ジヒドロキシ化合物としては、特に限定されないが、通常、5員環構造又は6員環構造を含む化合物が挙げられる。脂環式ジヒドロキシ化合物が5員環構造又は6員環構造であることにより、得られるポリカーボネート樹脂の耐熱性を高くすることができる。6員環構造は共有結合によって椅子形もしくは舟形に固定されていてもよい。
脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素数は通常70以下であり、好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下である。炭素数が過度に大きいと、耐熱性が高くなるが、合成が困難になったり、精製が困難になったり、コストが高価になる傾向がある。炭素数が小さいほど、精製しやすく、入手しやすい傾向がある。
【0031】
5員環構造又は6員環構造を含む脂環式ジヒドロキシ化合物としては、具体的には、下記一般式(I)又は(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物が挙げられる。
HOCH−R5−CHOH (I)
HO−R6−OH (II)
(但し、式(I),式(II)中、R5及びR6は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数4〜炭素数20のシクロアルキル構造を含む二価の基を表す。)
【0032】
上記一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるシクロヘキサンジメタノールとしては、一般式(I)において、R5が下記一般式(Ia)(式中、Rは水素原子、又は、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数12のアルキル基を表す。)で示される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0033】
【化6】

【0034】
上記一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるトリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノールとしては、一般式(I)において、R5
が下記一般式(Ib)(式中、nは0又は1で表す。)で表される種々の異性体を包含する。
【0035】
【化7】

【0036】
上記一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるデカリンジメタノール又は、トリシクロテトラデカンジメタノールとしては、一般式(I)において、R5が下記
一般式(Ic)(式中、mは0、又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、2,3−デカリンジメタノール等が挙げられる。
【0037】
【化8】

【0038】
また、上記一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるノルボルナンジメタノールとしては、一般式(I)において、R5が下記一般式(Id)で表される種々の
異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール等が挙げられる。
【0039】
【化9】

【0040】
一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるアダマンタンジメタノールとしては、一般式(I)において、R5が下記一般式(Ie)で表される種々の異性体を包
含する。このようなものとしては、具体的には、1,3−アダマンタンジメタノール等が挙げられる。
【0041】
【化10】

【0042】
また、上記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるシクロヘキサンジオールは、一般式(II)において、R6が下記一般式(IIa)(式中、Rは水素
原子、又は、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数12のアルキル基で表される。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−メチル−1,4−シクロヘキサンジオール等が挙げられる。
【0043】
【化11】

【0044】
上記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるトリシクロデカンジオール、ペンタシクロペンタデカンジオールとしては、一般式(II)において、R6が下記一般式(IIb)(式中、nは0又は1で表す。)で表される種々の異性体を包含する。
【0045】
【化12】

【0046】
上記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるデカリンジオール又は、トリシクロテトラデカンジオールとしては、一般式(II)において、R6が下記一般式(IIc)(式中、mは0、又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,6−デカリンジオール、1,5−デカリンジオール、2,3−デカリンジオール等が用いられる。
【0047】
【化13】

【0048】
上記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるノルボルナンジオールとしては、一般式(II)において、R6が下記一般式(IId)で表される種々の異性
体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,3−ノルボルナンジオール、2,5−ノルボルナンジオール等が用いられる。
【0049】
【化14】

【0050】
上記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるアダマンタンジオールとしては、一般式(II)において、R6が下記一般式(IIe)で表される種々の異性
体を包含する。このようなものとしては具体的には、1,3−アダマンタンジオール等が用いられる。
【0051】
【化15】

【0052】
上述した脂環式ジヒドロキシ化合物の具体例のうち、特に、シクロヘキサンジメタノール類、トリシクロデカンジメタノール類、アダマンタンジオール類、ペンタシクロペンタデカンジメタノール類が好ましく、入手のしやすさ、取り扱いのしやすさという観点から、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールが好ましい。
【0053】
尚、上記例示化合物は、本発明に使用し得る脂環式ジヒドロキシ化合物の一例であって、何らこれらに限定されるものではない。これらの脂環式ジヒドロキシ化合物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0054】
<脂肪族ジヒドロキシ化合物>
脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0055】
<オキシアルキレングリコール>
オキシアルキレングリコールとしては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等が挙げられる。
【0056】
本発明におけるポリカーボネート樹脂(a)は、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂であるが、更に、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物及びオキシアルキレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物に由来する構造単位を含むことが好ましく、脂環式ジヒドロキシ化合物及び/又は脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことがより好ましく、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことが更に好ましい。
【0057】
本発明で使用するポリカーボネート樹脂(a)においては前記ジヒドロキシ化合物に加えて、更にその他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含んでいても良い。
【0058】
<その他のジヒドロキシ化合物>
その他のジヒドロキシ化合物としては、例えば、ビスフェノール類等が挙げられる。
【0059】
ビスフェノール類としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0060】
さらに、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−2,5−ジエトキシジフェニルエーテル、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレン等が挙げられる。
【0061】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物はその他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことにより、柔軟性の改善、耐熱性の向上、成形性の改善等の効果を得ることもできる。尤も、その他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合が過度に多いと、本来の光学特性の性能を低下させることがある。
このため、本発明で使用するポリカーボネート樹脂(a)においては、ポリカーボネート樹脂(a)を構成するジヒドロキシ化合物に由来する全構造単位に対する、その他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合は10モル%以下であることが好ましい。
特に、本発明で使用するポリカーボネート樹脂(a)は、構造の一部に一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位のみで構成されることが好ましい。
【0062】
本発明で使用するポリカーボネート樹脂(a)の重合度は、溶媒としてフェノールと1,1,2,2,−テトラクロロエタンの重量比1:1の混合溶媒を用い、ポリカーボネート樹脂濃度を1.00g/dlに精密に調整したポリカーボネート溶液の、温度20.0℃±0.1℃で測定した還元粘度(以下、単に「ポリカーボネート樹脂の還元粘度」と称す場合が有る。)として表す。本発明で使用するポリカーボネート樹脂(a)の還元粘度は0.40dl/g以上が好ましく、0.40dl/g以上で2.0dl/g以下が更に好ましく、0.45dl/g以上1.5dl/g以下が特に好ましい。
還元粘度が過度に低いと、レンズ等に成形した際の機械的強度が低下する傾向がある。また、還元粘度が過度に高いと、成形する際の流動性が低下し、サイクル特性を低下させ、成形品の複屈折率が大きくなり易い傾向がある。
【0063】
本発明で使用するポリカーボネート樹脂(a)のアッベ数は、50以上が好ましく、特に好ましくは55以上である。この値が大きくなるほど、屈折率の波長分散が小さくなり、例えば、単レンズで使用した場合の色収差が小さくなり、より鮮明な画像が得やすくなる。アッベ数が小さくなるほど屈折率の波長分散が大きくなり、単レンズで使用した場合、色収差が大きくなり、画像のぼけの度合いが大きくなる。
【0064】
本発明で使用するポリカーボネート樹脂(a)の5%熱減量温度は340℃以上が好ましく、特に好ましくは345℃以上である。5%熱減量温度が高いほど、熱安定性が良好となり、より高温での使用に耐えるものとなり、また、製造温度も高くでき、より製造時の制御幅が広くできるので、製造し易くなる可能性がある。5%熱減量温度が低くなるほど、熱安定性が低くなり、高温での使用がしにくくなる。また、製造時の制御許容幅が狭くなり作りにくくなる場合がある。
【0065】
本発明で使用するポリカーボネート樹脂(a)の光弾性係数は、40×10−12Pa−1以下であることが好ましく、更に好ましくは20×10−12Pa−1以下である。光
弾性係数の値が高いと、溶融押出や溶液キャスト法等で製膜したフィルムの位相差の値が大きくなり、これを延伸した場合、張力のわずかな振れにより、フィルム面内の位相差のばらつきがさらに大きくなる。またこのような位相差フィルムを貼合する場合、貼合時の張力により所望する位相差がずれてしまうばかりでなく、貼合後の偏光板の収縮等により、位相差値が変化しやすい。光弾性係数が小さいほど位相差のばらつきが小さくなる。
【0066】
<ポリカーボネート樹脂(a)の製造方法>
本発明で使用するポリカーボネート樹脂(a)は、従来公知の重合方法により製造することができる。重合方法としては、ホスゲンを用いる溶液重合法、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物とを反応させる溶融重合法のいずれの方法でも良い。
なかでも、重合触媒の存在下に、前述した構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物を少なくとも含むジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを反応させる溶融重合法が好ましい。
【0067】
(炭酸ジエステル)
溶融重合法で用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記一般式(4)で表されるものが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0068】
【化16】

【0069】
(一般式(4)において、A及びAは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数18の脂肪族基、又は、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数18の芳香族基である。)
【0070】
前記一般式(4)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びジ−t−ブチルカーボネート等が例示される。
これらの中でも、ジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートが好ましく、ジフェニルカーボネートが特に好ましい。
【0071】
前述した溶融重合法において、前記一般式(4)で表される炭酸ジエステルは、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物を含む全ジヒドロキシ化合物に対し、0.90〜1.10のモル比率で用いることが好ましく、0.96〜1.04のモル比率で用いることがさらに好ましい。
溶融重合法において使用する炭酸ジエステルのモル比率が過度に小さいと、製造されたポリカーボネート樹脂の末端水酸基が増加し、ポリマーの熱安定性が悪化し、また所望する高分子量体が得られない傾向がある。一方、使用する炭酸ジエステルのモル比率が過度に大きいと、同一重合条件下ではエステル交換反応の速度が低下し、所望する分子量のポリカーボネート樹脂の製造が困難となる傾向がある。さらに、製造されたポリカーボネート樹脂中の残存する炭酸ジエステル量が増加する傾向があり、残存炭酸ジエステルが、成形時又は成形品の臭気の原因となる傾向がある。
【0072】
このような観点から、本発明で使用するポリカーボネート樹脂(a)は、構造の一部に
前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物の残存含有量が60ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがさらに好ましく、30ppm以下であることが特に好ましい。
ポリカーボネート樹脂中の、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物の残存含有量が過度に多いと、ポリマーの熱安定性が悪化するとともに、射出成形時における金型への付着物が多くなったり、シートやフィルムを押出成形する際に、ロール付着物の量が多くなることによって表面外観が損なわれる可能性がある。
【0073】
また、本発明で使用するポリカーボネート樹脂(a)は、前記一般式(4)で表される炭酸ジエステルの含有量が0.1ppm以上60ppm以下であることが好ましく、0.1ppm以上50ppm以下であることがさらに好ましく、0.1ppm以上30ppm以下であることが特に好ましい。
ポリカーボネート樹脂中の、前記一般式(4)で表される炭酸ジエステルの含有量が過度に多いと、射出成形時における金型への付着物や、シートやフィルムを押出成形する際に、ロール付着物の量が多くなることによって表面外観が損なわれ可能性がある。
【0074】
(ポリカーボネート樹脂(a)の末端基構造)
前述したように、本発明で使用するポリカーボネート樹脂(a)の製造方法において、炭酸ジエステルとしてジフェニルカーボネートを使用することが好ましい。この場合、製造されるポリカーボネート樹脂(a)の、下記一般式(5)で表される末端基(以下、「フェニル基末端」と記すことがある。)の存在数(A)の全末端基の存在数(B)に対する割合(A/B)が、20%以上の範囲であることが好ましい。
また、ポリカーボネート樹脂(a)のフェニル基末端の存在数(A)の全末端基の存在数(B)に対する割合(A/B)は、25%以上の範囲であることがさらに好ましく、30%以上の範囲であることが特に好ましい。
フェニル基末端の存在数(A)の全末端基の存在数(B)に対する割合(A/B)が、過度に少ないと、重合反応温度や射出成形温度などが高温となる条件下において、着色が大きくなる可能性がある。
【0075】
【化17】

【0076】
ポリカーボネート樹脂(a)のフェニル基末端の存在数(A)の全末端基の存在数(B)に対する割合(A/B)を上述した範囲に調整する方法は特に限定されないが、例えば、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステル量比を、所望の高分子量体が得られる範囲で調整したり、重合反応後段で脱気により残存モノマーを反応系外に除去したり、重合反応後段での反応機の撹拌効率を上げるなどして反応速度を上げたりすることにより、フェニル基末端の存在数(A)の全末端基の存在数(B)に対する割合(A/B)を上述した範囲に調整することができる。
ポリカーボネート樹脂中のフェニル基末端の割合は、NMR分光計にて、測定溶媒としてTMSを添加した重クロロホルムを使用し、1H−NMRスペクトルの測定により算出することができる。
【0077】
尚、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物と、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物、オキシアルキレングリコールと、
必要に応じて用いられるその他のジヒドロキシ化合物との使用割合は、本発明で使用するポリカーボネート樹脂を構成する各ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合に応じ、適宜調整する。
【0078】
(重合触媒)
溶融重合における重合触媒(エステル交換触媒)としては、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属の化合物が使用される。アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物と共に、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
【0079】
重合触媒として用いられるアルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩等が挙げられる。
【0080】
アルカリ土類金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等が挙げられる。これらのアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
尚、本明細書において「アルカリ金属」及び「アルカリ土類金属」という用語を、それぞれ、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recomendations 2005)における「第1族元素」及び「第2族元素」と同義として用いる。
【0081】
アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物と併用される塩基性ホウ素化合物の具体例としては、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、あるいはストロンチウム塩等が挙げられる。
【0082】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、あるいは四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0083】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0084】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。これらの塩基性化合物も1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0085】
上記重合触媒の使用量は、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いる場合、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物1モルに対して、金属換算量として、通常、0.1μモル〜100μモルの範囲内で用い、好ましくは0.5μモル〜50μモルの範囲内であり、さらに好ましくは1μモル〜25μモルの範囲内である。重合触媒の使用量が過度に少ないと、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造するのに必要な重合活性が得られない傾向がある。一方、重合触媒の使用量が過度に多いと、得られるポリカーボネート樹脂の色相が悪化し、副生成物が発生したりして流動性の低下やゲルの発生が多くなり、目標とする品質のポリカーボネート樹脂の製造が困難になる傾向がある。
【0086】
本発明で使用するポリカーボネート樹脂(a)の製造に当たり、前述した構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物は、固体として供給しても良いし、加熱して溶融状態として供給しても良いし、水溶液として供給しても良い。
【0087】
脂環式ジヒドロキシ化合物等のジヒドロキシ化合物も、固体として供給しても良いし、加熱して溶融状態として供給しても良いし、水に可溶なものであれば、水溶液として供給しても良い。その他のジヒドロキシ化合物についても同様である。これらの原料ジヒドロキシ化合物を溶融状態や、水溶液で供給すると、工業的に製造する際、計量や搬送がしやすいという利点がある。
【0088】
本発明において、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物と、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物及びオキシアルキレングリコールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物と、必要に応じて用いられるその他のジヒドロキシ化合物とを、重合触媒の存在下で炭酸ジエステルと反応させる方法は、通常、2段階以上の多段工程で実施される。
具体的には、第1段目の反応は140℃〜220℃、好ましくは150℃〜200℃の温度で0.1時間〜10時間、好ましくは0.5時間〜3時間実施される。第2段目以降は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げながら反応温度を上げていき、同時に発生するフェノール等の芳香族モノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力が200Pa以下で、210℃〜280℃の温度範囲のもとで重縮合反応を行う。
【0089】
この重縮合反応において、温度と反応系内の圧力のバランスを制御することが重要であ
る。特に、温度、圧力のどちらか一方でも早く過度に変化すると、未反応のモノマーが留出し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率が変化し、重合度が低下することがある。
例えば、ジヒドロキシ化合物としてイソソルビドと1,4−シクロヘキサンジメタノールを用いる場合は、全ジヒドロキシ化合物に対し、1,4−シクロヘキサンジメタノールのモル比率が50モル%以上の場合は、1,4−シクロヘキサンジメタノールがモノマーのまま反応系外へ留出しやすくなるので、反応系内の圧力が13kPa程度の減圧下で、温度を1時間あたり40℃以下の昇温速度で上昇させながら反応させ、さらに、6.67kPa程度までの圧力下で、温度を1時間あたり40℃以下の昇温速度で上昇させ、最終的に200Pa以下の圧力で、200℃から250℃の温度で重縮合反応を行うと、十分に重合度が上昇したポリカーボネート樹脂が得られるため、好ましい。
【0090】
全ジヒドロキシ化合物に対し、1,4−シクロヘキサンジメタノールのモル比率が50モル%より少なくなった場合、特に、モル比率が30モル%以下となった場合は、1,4−シクロヘキサンジメタノールのモル比率が50モル%以上の場合と比べて、急激な粘度上昇が起こるので、例えば、反応系内の圧力が13kPa程度の減圧下までは、温度を1時間あたり40℃以下の昇温速度で上昇させながら反応させ、さらに、6.67kPa程度までの圧力下で、温度を1時間あたり40℃以上の昇温速度、好ましくは1時間あたり50℃以上の昇温速度で上昇させながら反応させ、最終的に200Pa以下の減圧下、220℃から290℃の温度で重縮合反応を行うと、十分に重合度が上昇したポリカーボネート樹脂が得られるため、好ましい。反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせのいずれの方法でもよい。
尚、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、前記ポリカーボネート樹脂組成物を構成するポリカーボネート樹脂(a)の構造単位の種類等を適宜選択したり、離型剤(b)の種類又は量を調整することにより、前記ポリカーボネート樹脂組成物のガラス転移温度を調整することが可能である。
【0091】
(芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量)
尚、上述したジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの重縮合反応においては、炭素数が5以下であるアルキル基を有していてもよい芳香族モノヒドロキシ化合物が副生成物として生成する場合がある。
本実施の形態では、ポリカーボネート樹脂(a)に含まれる炭素数が5以下であるアルキル基を有してもよい芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量が700ppm以下であることが好ましく、含有量が500ppm以下であることがさらに好ましく、含有量が300ppm以下であることが特に好ましい。
但し、本発明で使用するポリカーボネート樹脂(a)は、不可避的に残存する量として10ppm程度の上記芳香族モノヒドロキシ化合物が含有されている。
【0092】
ここで、炭素数が5以下であるアルキル基を有してもよい芳香族モノヒドロキシ化合物とは、後述するように、ポリカーボネート樹脂に添加される、例えば、ヒンダードフェノール等の酸化防止剤を排除することを意味している。
炭素数が5以下であるアルキル基を有してもよい芳香族モノヒドロキシ化合物の具体例としては、例えば、フェノール、クレゾール、o−n−ブチルフェノール、m−n−ブチルフェノール、p−n−ブチルフェノール、o−イソブチルフェノール、m−イソブチルフェノール、p−イソブチルフェノール、o−t−ブチルフェノール、m−t−ブチルフェノール、p−t−ブチルフェノール、o−n−ペンチルフェノール、m−n−ペンチルフェノール、p−n−ペンチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,5−ジ−t−ブチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、3,5−ジ−t−ブチルフェノールなどが挙げられる。
【0093】
ポリカーボネート樹脂(a)に含有される炭素数が5以下であるアルキル基を有してもよい芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量を700ppm以下に調整する方法は特に限定されないが、通常、以下の方法が挙げられる。
例えば、重縮合反応においてジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの仕込み比率を1に近づける、重縮合反応を増大させる、重縮合反応が行われる反応器外に効率的に上記芳香族モノヒドロキシ化合物を排出する、重縮合反応の後半において横型反応器を用いて高粘度の反応液に所定の剪断力を与えながら脱揮する、注水脱揮操作により水と上記芳香族モノヒドロキシ化合物を共沸させる等が挙げられる。
【0094】
本発明で使用するポリカーボネート樹脂(a)において、炭素数が5以下であるアルキル基を有してもよい芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量が過度に多いと、色調と透明性が損なわれ、例えば、光学材料としては不適当な材料となる傾向がある。また、耐熱性が低下し、経時的に色調が悪化する傾向がある。
【0095】
[2]ポリカーボネート樹脂組成物
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(a)と離型剤(b)を含んでなる。
【0096】
<離型剤(b)>
離型剤(b)としては、高級脂肪酸、ステアリン酸エステルが挙げられ、好ましくは高級脂肪酸である。
【0097】
高級脂肪酸としては、置換又は無置換の炭素数10〜炭素数30の飽和脂肪酸が好ましい。このような飽和脂肪酸としては、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等がより好ましい。なかでもパルミチン酸、ステアリン酸が更に好ましく、ステアリン酸が特に好ましい。
【0098】
ステアリン酸エステルとしては、置換又は無置換の炭素数1〜炭素数20の一価又は多価アルコールとステアリン酸との部分エステル又は全エステルが好ましい。かかる一価又は多価アルコールとステアリン酸との部分エステル又は全エステルとしては、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノソルビテート、ステアリン酸ステアリル、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、プロピレングリコールモノステアレート、ステアリルステアレート、ブチルステアレート、ソルビタンモノステアレート、2−エチルヘキシルステアレート等がより好ましい。なかでも、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ステアリルステアレートが更に好ましく、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリルステアレートが特に好ましい。
【0099】
これらの離型剤(b)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。かかる離型剤(b)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(a)100質量部に対し、0.0001重量部〜2質量部であり、好ましくは0.01重量部〜1重量部であり、更に好ましくは0.1重量部〜0.5重量部である。
離型剤(b)の含有量が過度に多いと成型時に金型付着物が増える場合があり、大量に成形を実施した場合には成形機の整備に労力を要する可能性がある。又成形品は外観不良をきたす可能性がある、離型剤(b)の含有量が過度に少ないと成型時、成形品が金型から離型せず、成形品が取得できない可能性がある。
【0100】
本実施の形態において、ポリカーボネート樹脂(a)に配合する離型剤(b)の添加時期、添加方法は特に限定されない。添加時期としては、例えば、エステル交換法でポリカ
ーボネート樹脂(a)を製造した場合は重合反応終了時;さらに、重合法に関わらず、ポリカーボネート樹脂(a)と他の配合剤との混練途中等のポリカーボネート樹脂(a)が溶融した状態;押出機等を用い、ペレットまたは粉末等の固体状態のポリカーボネート樹脂(a)とブレンド・混練する際等が挙げられる。添加方法としては、ポリカーボネート樹脂(a)に離型剤(b)を直接混合または混練する方法;少量のポリカーボネート樹脂(a)または他の樹脂等と離型剤(b)を用いて作成した高濃度のマスターバッチとして添加することもできる。
【0101】
<酸化防止剤(c)>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は更に酸化防止剤(c)を含有することが好ましい。
ここで、酸化防止剤(c)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(a)100重量部に対し、通常0.0001重量部以上1重量部以下、好ましくは、0.0001重量部以上0.1重量部以下、さらに好ましくは0.0002重量部以上0.01重量部以下である。
酸化防止剤(c)の含有量が過度に少ないと、成形時の着色抑制効果が不十分になることがある。また、酸化防止剤(c)の含有量が過度に多いと、射出成形時における金型への付着物が多くなったり、押出成形によりフィルムを成形する際にロールへの付着物が多くなったりすることにより、製品の表面外観が損なわれるおそれがある。
【0102】
酸化防止剤(c)としては、フェノール系酸化防止剤、ホスフェイト系酸化防止剤及びイオウ系酸化防止剤からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましく、フェノール系酸化防止剤及び/またはホスフェイト系酸化防止剤が更に好ましい。
【0103】
フェノール系酸化防止剤としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等の化合物が挙げられる。
【0104】
これらの化合物の中でも、炭素数5以上のアルキル基によって1つ以上置換された芳香族モノヒドロキシ化合物が好ましく、具体的には、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等が好ましく、ペンタエリスリチル−テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが更に好ましい。
【0105】
ホスフェイト系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、が挙げられる。
【0106】
これらの中でも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが更に好ましい。
【0107】
イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ビス[2−メチル−4−(3−ラウリルチオプロピオニルオキシ)−5−tert−ブチルフェニル]スルフィド、オクタデシルジスルフィド、メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプト−6−メチルベンズイミダゾール、1,1’−チオビス(2−ナフトール)などが挙げられる。上記のうち、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)が好ましい。
【0108】
本実施の形態において、ポリカーボネート樹脂(a)に配合する酸化防止剤(c)の添加時期、添加方法は特に限定されない。添加時期としては、例えば、エステル交換法でポリカーボネート樹脂(a)を製造した場合は重合反応終了時;さらに、重合法に関わらず、ポリカーボネート樹脂(a)と他の配合剤との混練途中等のポリカーボネート樹脂(a)が溶融した状態;押出機等を用い、ペレットまたは粉末等の固体状態のポリカーボネート樹脂(a)とブレンド・混練する際等が挙げられる。添加方法としては、ポリカーボネート樹脂(a)に酸価防止剤(c)を直接混合または混練する方法;少量のポリカーボネート樹脂(a)または他の樹脂等と酸化防止剤(c)を用いて作成した高濃度のマスターバッチとして添加することもできる。
【0109】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物のガラス転移温度は90℃以上が好ましく、120℃以上であることが更に好ましい。
ガラス転移温度が過度に低いと耐熱性が不足し、高熱下で変形が起こる可能性がある。ガラス転移温度が上記範囲内であると、光学部品としてのレンズ用途等に好適となる。即ち、このようなガラス転移温度を有するポリカーボネート樹脂組成物を使用することにより、温度85℃、相対湿度85%のような高温高湿度下においても、変形が起こりにくく、面精度のばらつきが少ないレンズ等を得ることができる。
【0110】
(その他の添加剤)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には更に酸性化合物を含有していてもよい。
酸性化合物の配合量は、ポリカーボネート樹脂(a)100重量部に対し、少なくとも
1種の酸性化合物0.00001重量部以上0.1重量部以下、好ましくは、0.0001重量部以上0.01重量部以下、さらに好ましくは0.0002重量部以上0.001重量部以下である。
酸性化合物の配合量が過度に少ないと、射出成形する際に、ポリカーボネート樹脂組成物の射出成形機内の滞留時間が長くなった場合における着色を抑制することが充分に出来ない場合がある。また、酸性化合物の配合量が過度に多いと、ポリカーボネート樹脂組成物の耐加水分解性が著しく低下する場合がある。
【0111】
酸性化合物としては、例えば、塩酸、硝酸、ホウ酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、アジピン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、アゼライン酸、アデノシンリン酸、安息香酸、ギ酸、吉草酸、クエン酸、グリコール酸、グルタミン酸、グルタル酸、ケイ皮酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、シュウ酸、p−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ニコチン酸、ピクリン酸、ピコリン酸、フタル酸、テレフタル酸、プロピオン酸、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルホン酸、マロン酸、マレイン酸等のブレンステッド酸及びそのエステル類が挙げられる。これらの酸性化合物又はその誘導体の中でも、スルホン酸類又はそのエステル類が好ましく、中でも、p−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸ブチルが特に好ましい。
これらの酸性化合物は、上述したポリカーボネート樹脂(a)の重縮合反応において使用される塩基性エステル交換触媒を中和する化合物として、ポリカーボネート樹脂組成物の製造工程において添加することができる。
【0112】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、帯電防止剤を含有することができる。帯電防止剤としては、例えば、ポリエーテルエステルアミド、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ホスホニウム塩、無水マレイン酸モノグリセライド、無水マレイン酸ジグリセライド等が挙げられる。
【0113】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、紫外線吸収剤、光安定剤を含有することができる。具体的には、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2,2’−p−フェニレンビス(1,3−ベンゾオキサジン−4−オン)等が挙げられる。かかる安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(a)100質量部に対して0.01重量部〜2質量部が好ましい。
【0114】
本発明で使用するポリカーボネート樹脂組成物には、重合体や紫外線吸収剤に基づくレンズの黄色味を打ち消すためにブルーイング剤を配合することができる。ブルーイング剤としては、従来、ポリカーボネート樹脂に使用されるものであれば、特に支障なく使用することができる。一般的にはアンスラキノン系染料が入手容易であり好ましい。
【0115】
具体的なブルーイング剤としては、例えば、一般名Solvent Violet13[CA.No(カラーインデックスNo)60725]、一般名Solvent Violet31[CA.No 68210]、一般名Solvent Violet33[CA.No 60725]、一般名Solvent Blue94[CA.No 61500]、一般名Solvent Violet36[CA.No 68210]、一般名Solvent Blue97[バイエル社製「マクロレックスバイオレットRR」]、一般名Solvent Blue45[CA.No61110]等が代表例として挙げられる。これらのブルーイング剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。これらブルーイング剤は、通常、ポリカーボネート樹脂(a)を100重量部とした場合、0.1×10―4重量部〜2×10―4重量部の割合で配合される。
【0116】
また、本発明で使用するポリカーボネート樹脂組成物には、無機充填材を含有しても良い。無機充填材の配合量は、ポリカーボネート樹脂(a)100重量部に対し、1重量部以上100重量部以下であり、好ましくは3重量部以上50重量部以下である。無機充填材の配合量が過度に少ないと補強効果が少なく、また、過度に多いと外観が悪くなる傾向がある。
【0117】
無機充填材としては、例えば、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維、シリカ、アルミナ、酸化チタン、硫酸カルシウム粉体、石膏、石膏ウィスカー、硫酸バリウム、タルク、マイカ、ワラストナイト等の珪酸カルシウム;カーボンブラック、グラファイト、鉄粉、銅粉、二硫化モリブデン、炭化ケイ素、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素、窒化ケイ素繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、チタン酸カリウム繊維、ウィスカー等が挙げられる。これらの中でも、ガラスの繊維状充填材、ガラスの粉状充填材、ガラスのフレーク状充填材;炭素の繊維状充填材、炭素の粉状充填材、炭素のフレーク状充填材;各種ウィスカー、マイカ、タルクが好ましい。より好ましくは、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスミルドファイバー、炭素繊維、ワラストナイト、マイカ、タルクが挙げられる。
【0118】
また、無機充填材の中でも、ガラス繊維、ガラスミルドファイバーとしては、熱可塑性樹脂に使用されているものであればいずれも使用できる。特に、無アルカリガラス(Eガラス)が好ましい。ガラス繊維の直径は、好ましくは6μm〜20μmであり、より好ましくは9μm〜14μmである。ガラス繊維の直径が過度に小さいと補強効果が不充分となる傾向がある。また、過度に大きいと、製品外観に悪影響を与えやすい。
また、ガラス繊維としては、好ましくは長さ1mm〜6mmにカットされたチョップドストランド;好ましくは長さ0.01mm〜0.5mmに粉砕されて市販されているガラスミルドファイバーが挙げられる。これらは単独または両者を混合して用いてもよい。
本発明で使用するガラス繊維は、ポリカーボネート樹脂(a)との密着性を向上させるために、アミノシラン、エポキシシラン等のシランカップリング剤等による表面処理、あるいは取扱い性を向上させるために、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等による集束処理を施して使用してもよい。
【0119】
ガラスビーズとしては、熱可塑性樹脂に使用されているものであればいずれも使用できる。中でも、無アルカリガラス(Eガラス)が好ましい。ガラスビーズの形状は、粒径10μm〜50μmの球状が好ましい。
【0120】
ガラスフレークとしては、鱗片状のガラスフレークが挙げられる。ポリカーボネート樹脂を配合後のガラスフレークの最大径は、一般的には1000μm以下、好ましくは1μm〜500μmであり、且つアスペクト比(最大径と厚み途の比)が5以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは30以上である。
【0121】
炭素繊維としては、特に限定されず、例えば、アクリル繊維、石油又は炭素系特殊ピッチ、セルロース繊維、リグニン等を原料として焼成によって製造されたものであって、耐炎質、炭素質、黒鉛質等の種々のものが挙げられる。炭素繊維のアスペクト比(繊維長/繊維径)の平均は、好ましくは10以上であり、より好ましくは50以上である。アスペクト比の平均が過度に小さいと、ポリカーボネート樹脂組成物の導電性、強度、剛性が低下する傾向がある。炭素繊維の径は3μm〜15μmであり、上記のアスペクト比に調整するために、チョップドストランド、ロービングストランド、ミルドファイバー等のいず
れの形状も使用できる。炭素繊維は、1種または2種以上混合して用いることができる。
【0122】
炭素繊維は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の特性を損なわない限りにおいて、ポリカーボネート樹脂(a)との親和性を増すために、例えばエポキシ処理、ウレタン処理、酸化処理等の表面処理が施されてもよい。
【0123】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記成分を同時に、または任意の順序でタンブラー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等の混合機により混合して製造することができる。更に、本発明の目的を損なわない範囲で、樹脂組成物に通常用いられる核剤、難燃剤、無機充填剤、衝撃改良剤、発泡剤、染顔料等が含まれても差し支えない。
【0124】
本実施の形態では、上述したポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるポリカーボネート樹脂成形品が得られる。ポリカーボネート樹脂成形品の成形方法は特に限定されないが、射出成形法が好ましい。
【0125】
本実施の形態で使用するポリカーボネート樹脂組成物を製膜し、光学フィルムを得ることができる。また、製膜したかかる光学フィルムを延伸することにより位相差フィルムを製造することができる。製膜方法としては、従来公知の溶融押出法、溶液キャスト法等が挙げられる。
【0126】
尚、上述した光学フィルムの原料として、本実施の形態で使用するポリカーボネート樹脂組成物に加え、ビスフェノールAやビスフェノールZ等から得られる他のポリカーボネート樹脂、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどにより変性されたポリカーボネート樹脂及びポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリナフタレンジカルボキシレート、ポリシクロヘキサンジメチレンシクロヘキサンジカルボキシレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂等の他の樹脂の1種又は2種以上との組成物であってもよい。
【0127】
位相差フィルムは、1枚の高分子配向フィルムからなる位相差フィルムであって、下記条件(i)〜(iv)を満たし、波長450nmから630nmにおける位相差が長波長側ほど大きい特徴を有するものである。
(i)正の屈折率異方性を有する高分子のモノマー単位(以下、「第1のモノマー単位」という。)と、負の屈折率異方性を有する高分子モノマー単位(以下、「第2のモノマー単位」という。)と、を含む高分子から構成され、
(ii)第1のモノマー単位に基づく高分子のRe450/Re550は、第2のモノマー単位に基づく高分子のRe450/Re550よりも小さく、(ただし、「Re450」は「波長450nmでの当該高分子の位相差」を示し、「Re550」は「波長550nmでの当該高分子の位相差」を示す。)
(iii)正の屈折率異方性を有し、
(iv)光弾性係数の絶対値が20×10−12Pa−1以下である高分子から構成される。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を用いることにより、上記条件を容易に実現することができる。
【0128】
光学フィルムの厚みは、通常、30μm〜200μmであり、好ましくは50μm〜150μmである。また、製膜されたフィルムの位相差値は、20nm以下が好ましく、より好ましくは10nm以下である。フィルムの位相差値が過度に大きいと、延伸して位相差フィルムとした際に位相差値のフィルム面内ばらつきが大きくなる傾向がある。
【0129】
光学フィルムの延伸方法は、公知の縦、横どちらか一方の一軸延伸、縦横にそれぞれ延伸する二軸延伸等の延伸方法を用いることができる。また、特殊な二軸延伸を施し、フィルムの三次元での屈折率を制御することも可能である。
位相差フィルム作製の延伸条件としては、フィルム原料のガラス転移温度の−20℃から+40℃の範囲で行うことが好ましい。より好ましくは、フィルム原料のガラス転移温度の−10℃から+20℃の範囲である。延伸温度がポリカーボネート樹脂組成物のガラス転移温度より過度に低いと、延伸フィルムの位相差が大きくなり、所望の位相差を得るためには延伸倍率を低くしなければならず、フィルム面内の位相差のばらつきが大きくなる傾向がある。一方、延伸温度がガラス転移温度より過度に高いと、得られるフィルムの位相差が小さくなり、所望の位相差を得るための延伸倍率を大きくしなければならず適正な延伸条件幅が狭くなる傾向がある。
【0130】
位相差フィルムは、各種液晶表示装置用の位相差板として用いることができる。位相差フィルムをSTN液晶表示装置の色補償用に用いる場合には、その位相差値は、一般的には、400nmから2000nmまでの範囲で選択される。また、位相差フィルムを1/2波長板として用いる場合は、その位相差値は、200nmから400nmの範囲で選択される。位相差フィルムを1/4波長板として用いる場合は、その位相差値は、90nmから200nmまでの範囲で選択される。1/4波長板としてのより好ましい位相差値は、100nmから180nmまでである。位相差フィルムは単独で用いることもできるし、2枚以上を組み合わせて用いることもでき、他のフィルム等と組み合わせて用いることもできる。
【0131】
位相差フィルムは、公知のヨウ素系又は染料系の偏光板と粘着剤を介して積層貼合することができる。積層する際、用途によって偏光板の偏光軸と位相差フィルムの遅相軸とを、特定の角度に保って積層することが必要である。また、位相差フィルムを1/4波長板とし、これを偏光板と積層貼合して円偏光板として用いることができる。その場合、一般には、偏光板の偏光軸と位相差フィルムの遅相軸は実質的に45°の相対角度を保ち積層される。さらに、位相差フィルムを、偏光板を構成する偏光保護フィルムとして用いて積層してもかまわない。さらにまた、位相差フィルムをSTN液晶表示装置の色補償板とし、これを偏光板と積層貼合することにより楕円偏光板として用いることもできる。
【実施例】
【0132】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。以下において、樹脂組成物の特性評価は次の方法により行った。
【0133】
(1)射出成形
ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを、80℃で4時間予備乾燥した。次に乾燥したポリカーボネート樹脂組成物のペレットを、日本製鋼所製J75EII型射出成形機で、シリンダー温度230℃、成形サイクル45秒、金型温度60℃の成形条件にて、60mm×60mm×3mmtの平板を成形した。また、前記成形条件にてシャルピー衝撃用試験片も成形した。
【0134】
(2)ヘーズ及び全光線透過率測定
日本電色工業社製ヘーズメーターNDH2000を使用し、D65光源にて上記(1)で成形した平板の全光線透過率およびヘーズを測定した。
【0135】
(3)成形品外観および離型抵抗
ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを80℃で4時間予備乾燥した。次に乾燥したポリカーボネート樹脂組成物のペレットを、日本製鋼所製J75EII型射出成形機で、シリンダー温度240℃、金型温度80℃、充填圧力120MPa、成形サイクル35秒、で、53mm×32mm×16mmの箱(肉厚1.5mm)を成形した。成形品外観については割れの有無を目視で判断し、割れが発生しない場合は、イジェクタピン突き出し時の離型抵抗を測定した。
【0136】
(4)ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(メトラー社製「DSC822」)によりJIS K 7121(1987)に準拠してガラス転移温度(Tg)を測定した。ポリカーボネート樹脂組成物のペレット約10mgを、前記示差走査熱量計にセットし、10℃/分の昇温速度にて加熱を行い、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度である、補外ガラス転移開始温度を求め、それをカラス転移温度(Tg)とした。
【0137】
(5)シャルピー衝撃強度
ISO179に準じ、上記(1)で成形したシャルピー衝撃用試験片を用いて、ノッチ付シャルピー衝撃強度を測定した。
【0138】
[実施例1]
イソソルビド(ロケットフルーレ社製)27.7重量部(0.516モル)に対して、1,4−シクロヘキサンジメタノール(イーストマン社製、以下「1,4−CHDM」と略記する。)13.0重量部(0.221モル)、ジフェニルカーボネート(三菱化学社製、以下「DPC」と略記する。)59.2重量部(0.752モル)、および触媒として、炭酸セシウム(和光純薬社製)2.21×10−4重量部(1.84×10−6モル)を反応容器に投入し、窒素雰囲気下にて、反応の第1段目の工程として、反応容器の熱媒温度を150℃に加熱し、必要に応じて攪拌しながら、原料を約15分で溶解した。
次いで、圧力を常圧から13.3kPaに減圧し、反応容器の熱媒温度を190℃まで1時間で上昇させながら、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。
反応容器全体を190℃で15分間保持した後、第2段目の工程として、反応容器内の圧力を6.67kPaに減圧し、反応容器の熱媒温度を230℃まで、15分で上昇させ、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。攪拌機の攪拌トルクが上昇してくるので、更に8分で250℃まで昇温し、発生するフェノールを取り除くため、反応容器内の圧力を0.200kPa以下に到達させた。所定の攪拌トルクに到達後、反応を停止し、重合機出口より溶融状態のポリカーボネート樹脂を得た。(「PC樹脂A」と記す。)
更に3ベントおよび注水設備を供えた二軸押出機に連続的に前記溶融状態のポリカーボネート樹脂を供給し、表1に示した組成となるように離型剤としてS100A、酸化防止剤としてイルガノックス1010及びイルガフォス168を連続的に添加するとともに、二軸押出機に具備された各ベント部にてフェノールなどの低分子量物を減圧脱揮したのち、ペレタイザーによりペレット化を行い、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。得られたポリカーボネート樹脂組成物について、上記記載の評価方法により、各種物性等を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0139】
[実施例2]
実施例1の離型剤をNAA180に変えた以外は、実施例1と同様に行った。
【0140】
[実施例3]
実施例1の離型剤をM-9676に変えた以外は、実施例1と同様に行った。
【0141】
[比較例1]
実施例1の離型剤を添加しない以外は、実施例1と同様に行った。
【0142】
[比較例2]
実施例1の離型剤をM-2222SLに変えた以外は、実施例1と同様に行った。
【0143】
[比較例3]
実施例1の離型剤をH-476に変えた以外は、実施例1と同様に行った。
【0144】
[比較例4]
実施例1の離型剤をゴールデンブランドパウダーに変えた以外は、実施例1と同様に行った。
【0145】
[比較例5]
離型剤をパラフィンワックス155に変えた以外は、実施例1と同様に行った。
尚、表1中に表記した添加剤は以下の通りである。
【0146】
(酸化防止剤)
イルガノックス1010:ペンタエリスリチル−テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製)
イルガフォス168:トリス(2,4−ジ−tertブチルフェニル)ホスファイト(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製)
【0147】
(離型剤)
S−100A:ステアリン酸モノグリセリド(理研ビタミン社製)
NAA−180:ステアリン酸(日油社製)
M−9676:ステアリルステアレート(日油社製)
M−2222SL:ベヘニルベヘネート(日油社製)
H−476:ペンタエリスリトールテトラステアレート(日油社製)
ゴールデンブランドパウダー:サラシミツロウ(三木化学工業社製)
パラフィンワックス155:パラフィンワックス(日本精鑞社製)
【0148】
【表1】

【0149】
表1に示す結果から、イソソルビドと1,4−シクロヘキサンジメタノールとジフェニ
ルカーボネートとの溶融重縮合のよって得られたポリカーボネート樹脂と高級脂肪酸あるいはステアリン酸エステルとからなるポリカーボネート樹脂組成物は全光線透過率が高く、ヘーズが低く、透明性に優れ、強度を保持し、且つ成形品外観が良好で、離型性が極度に優れていることがわかる。なかでも、高級脂肪酸を含むポリカーボネート樹脂組成物の離型性は秀でている。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は全光線透過率が高く、ヘーズが低く、透明性に優れ、強度を保持し、且つ成形品外観が良好で、離型性が極度に優れていることがわかる。なかでも、高級脂肪酸を含むポリカーボネート樹脂組成物の離型性は秀でており、電気・電子部品、自動車用部品等の射出成形分野、フィルム、シート分野、ボトル、容器分野、さらには、カメラレンズ、ファインダーレンズ、CCDやCMOS用レンズなどのレンズ用途、液晶やプラズマディスプレイなどに利用される位相差フィルム、拡散シート、偏光フィルムなどのフィルム、シート、光ディスク、光学材料、光学部品、色素及び電荷移動剤等を固定化するバインダー用途といった幅広い分野へ適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂(a)100重量部と、
高級脂肪酸及びステアリン酸エステルからなる群より選ばれた少なくとも1種の離型剤(b)0.0001重量部以上2重量部以下とを含むポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(但し、上記一般式(1)で表される部分が−CH2−O−Hの一部である場合を除く。)
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂(a)が、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物及びオキシアルキレングリコールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物に由来する構造単位を更に含むポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記離型剤(b)が高級脂肪酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、複素環基を有するジヒドロキシ化合物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】

【請求項6】
前記ポリカーボネート樹脂(a)100重量部に対して、酸化防止剤(c)を0.0001重量部以上1重量部以下含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
前記酸化防止剤(c)がフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤及びイオウ系酸化防止剤からなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項6に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリカーボネート樹脂組成物のガラス転移温度が90℃以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるこ
とを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2011−105846(P2011−105846A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262009(P2009−262009)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】