説明

ポリカーボネート系樹脂組成物及び成形品

【課題】
成形時の耐熱性に優れると共に、耐紫外線性や、長期間にわたり光線を照射した場合の耐光性及び熱安定性にも優れ、総合的にバランスの良い性能を有する樹脂組成物、及びこれを成形してなる成形品を提供する。
【解決手段】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、酸化チタン(B)を3〜50重量部、及び、チオフェン構造を有するベンゾオキサゾール系化合物(C)を0.001〜0.15重量部配合してなるポリカーボネート系樹脂組成物、及び該樹脂組成物を成形してなる成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート系樹脂組成物及びこれを成形した成形品に関し、詳しくは、光線反射板やその周辺部品等の用途に好適な樹脂組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、優れた機械的性質、熱的性質、電気的性質を有しており、自動車分野、OA機器分野、電気・電子分野をはじめ工業的に広く利用されている。例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂に、表面処理した酸化チタン等の白色顔料を添加したポリカーボネート系樹脂組成物は、コンピュータやテレビ等の液晶表示装置のバックライト、照光式プッシュスイッチ、光電スイッチの反射板などの材料として使用されている。
【0003】
また、最近では、テレビやパソコン等の表示装置の薄肉・大型化により、反射板及びその周辺部品も薄肉・大型化する傾向が一段と強くなっている。この傾向に伴い、反射板等の光線反射用樹脂材料は、従来よりも高温の厳しい条件下で成形されるため、成形時の優れた耐熱性が求められている。
一方では、より鮮明な画像の表示装置が求められ、特に、テレビモニター用途の液晶表示装置については、バックライトの高輝度化や白色再現性の向上等、高性能化の要求が高まっている。この要求に伴い、バックライトの光源も従来の冷陰極管からLEDへと変化しており、光源の変更により使用条件も著しく厳しくなっている。例えば、光源として冷陰極管が使用される場合の反射板近傍の温度は約60℃であるのに対し、LEDが光源として使用される場合の当該温度は80℃位まで上昇する。従って、長期間にわたり光線を照射した場合でも、良好な耐光性及び熱安定性を示すことも必要とされる。
【0004】
また、従来より、成形品を明るく見せるために、樹脂組成物中に、クマリン誘導体、ナフトトリアゾリルスチルベン誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体及びジアミノスチルベン−ジスルホネート誘導体等の種々の蛍光増白剤を配合することが知られている。しかし、化合物の構造によりその効果は大きく異なり、成形時の耐熱性(光線反射率、色相、耐衝撃性、外観等)のみでなく、耐紫外線性や、長期間にわたり光線を照射した場合の耐光性及び熱安定性にも優れ、総合的にバランスの良い性能を示すという観点から好適な蛍光増白剤は検討されていなかった。
【0005】
上記のような厳しい要求に対し、特許文献1及び2には、ポリカーボネート樹脂、酸化チタン、及びスチルベンビスベンゾオキサゾール誘導体を含有するポリカーボネート樹脂組成物により成形される光線反射板が、耐衝撃性や光反射特性、耐光性に優れることが開示されている。しかし、この特許文献1及び2においては、総合的にバランスの良い性能を示すという観点からは、いまだ満足できるものではなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平10−36656号公報
【特許文献2】特開2002−201349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、成形時の耐熱性(光線反射率、色相、耐衝撃性、外観等)に優れると共に、耐紫外線性や、長期間にわたり光線を照射した場合の耐光性及び熱安定性にも優れ、総合的にバランスの良い性能を有する樹脂組成物、及びこれを成形してなる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)及び酸化チタン(B)を配合してなるポリカーボネート系樹脂組成物において、チオフェン構造を有するベンゾオキサゾール系化合物(C)を特定量配合することにより、成形時の耐熱性に優れると共に、耐紫外線性に優れ、且つ、長期間光線を照射した場合の耐光性及び熱安定性にも優れ、総合的にバランスの良い性能を有する樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、芳香族ポリカーボネート(A)100重量部に対して、酸化チタン(B)を3〜50重量部、及び、チオフェン構造を有するベンゾオキサゾール系化合物(C)を0.001〜0.15重量部配合してなることを特徴とするポリカーボネート系樹脂組成物、及び当該樹脂組成物を成形することを特徴とする成形品、に存する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、光線反射率や色相、耐衝撃性、外観等の成形時の耐熱性に優れると共に、耐紫外線性に優れ、且つ、長期間光線を照射し高温下に置かれた場合でも、光線反射率や色相、機械的強度等の性能変化が抑制されるため、耐光性及び熱安定性にも優れ、総合的にバランスの良い性能を有する樹脂組成物及び成形品を得ることができる。
従って、本発明の樹脂組成物は、光反射用途の成形品及びその周辺部材に好適である。例えば、液晶表示装置のバックライト用光線反射板及びフレーム等の周辺部材や、広告灯などの照明用装置、自動車用メーターパネル等の自動車用機器などとして有用であり、特に光線反射板として有用である。
【0011】
特に、本発明の樹脂組成物は、耐光性及び熱安定性に優れるため、80℃前後の高温下で使用されるLEDを光源とした表示装置の反射板、及びその周辺部品としての成形品に好適である。
本発明の樹脂組成物には、更に非ハロゲン難燃剤を配合することにより、上述した性能に加えて、更に難燃性が付与され、また環境汚染の畏れの無い樹脂組成物及び成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
芳香族ポリカーボネート(A)
本発明に使用される芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、芳香族ヒドロキシ化合物、またはこれと少量のポリヒドロキシ化合物とを、ホスゲンまたは炭酸ジエステル等と反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体または共重合体である。芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法としては、例えばホスゲン法(界面重合法)あるいは溶融法(エステル交換法)等の公知の方法を採用することができる。また、溶融法で製造され、末端のOH基量が調整された樹脂を使用してもよい。
【0013】
原料の芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニルなどが挙げられ、中でも、ビスフェノールAが好ましい。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。また、本発明の樹脂組成物の難燃性を高めるために、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用することもできる。
【0014】
また、分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を得るには、上述した芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を以下の化合物、即ち、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニルヘプテン)−3、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどのポリヒドロキシ化合物や、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチン、5,7−ジクロルイサチン、5−ブロムイサチンなどの化合物で置換すればよい。これら置換する化合物の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、0.01〜10モル%であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0015】
上述した中でも、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)としては、ビスフェノールAから誘導されるポリカーボネート樹脂、又はビスフェノールAと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が好ましい。また、樹脂組成物の難燃性を高めるために、ビスフェノールAとシロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーとの共重合体を使用することもできる。更に、芳香族ポリカーボネート(A)は、2種以上の樹脂を混合して用いてもよい。
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、16,000〜30,000が好ましく、より好ましくは17,000〜23,000である。
【0016】
酸化チタン(B)
本発明に使用される酸化チタン(B)は、特に限定されないが、中でも、酸化チタン(IV)、即ち二酸化チタン(TiO)が好ましい。二酸化チタンの結晶形態としては、ルチル型(正方晶系)及びアナターゼ型(斜方晶系)のいずれでもよいが、中でもルチル型の二酸化チタンが好ましい。ルチル型の二酸化チタンは、アナターゼ型の二酸化チタンに比べ、白度、光線反射率及び耐紫外線性の点で優れている。二酸化チタンは、イルメナイト(チタン鉄鉱)又はルチル鉱から、塩素法及び硫酸法のいずれの方法で製造されたものでもよいが、中でも、塩素法で製造された二酸化チタンが好ましい。塩素法を採用することにより、上述したルチル型の結晶形態の二酸化チタンを製造することができる。
【0017】
本発明に使用される酸化チタン(B)の平均粒子径は、好ましくは0.05〜0.5μmである。酸化チタンの粒子径が0.05μm未満であると、遮光性及び光線反射率が低下する傾向があり、0.5μmを越えると、遮光性及び光線反射率が低下すると共に、成形品の表面に肌荒れが生じたり、耐衝撃性が低下する傾向がある。酸化チタン(B)の粒子径は、より好ましくは0.1〜0.4μmであり、最も好ましくは0.15〜0.35μmである。
【0018】
一方、本発明で使用する酸化チタン(B)は、有機化合物による表面処理をしたものであることが好ましい。特に、後述する無機処理剤による表面処理をしていない酸化チタンを使用する場合には、有機化合物により表面処理をすることが必要である。表面処理剤である有機化合物としては、アルコキシ基、エポキシ基、アミノ基、又はSi−H結合を有する有機シラン化合物、若しくは有機シリコーン化合物が挙げられ、中でも好ましくは、Si−H結合を有する有機シリコーン化合物である。表面処理剤としての有機化合物の使用量は、酸化チタン(B)に対して、好ましくは1〜5重量%、更に好ましくは1.5〜3重量%である。
【0019】
一般に酸化チタンは、耐候性やハンドリング性の観点から、シリカやアルミナなどの無機含水酸化物(無機処理剤)により表面処理されていることが多いが、本発明で使用する酸化チタン(B)としては、熱安定性の点から無機処理剤の量を低減するか、或いは無機処理剤により表面処理をしてない酸化チタンを使用するのが好ましい。無機処理剤の使用量は、酸化チタンに対し2重量%以下が好ましく、更には0重量%、すなわち無機処理剤による処理を行わないのが好ましい。無機処理剤により表面処理を行う場合には、無機処理剤としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、又はこれらの混合物などが用いられるが、シリカは吸水性が高く、水分の影響を受けやすいため、無機処理剤としては、中でも、アルミナ及びジルコニアが好ましい。シリカを併用する場合には、シリカの量が少ないことが好ましい。
【0020】
本発明の樹脂組成物に配合する酸化チタン(B)の配合量(表面処理剤の量を含む)は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、3〜50重量部である。酸化チタン(B)の配合量が3重量部未満であると光線反射性が不十分となり、50重量部を越えると耐衝撃性が不十分となる。酸化チタン(B)の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、好ましくは5〜30重量部であり、更に好ましくは8〜25重量部である。
【0021】
ベンゾオキサゾール系化合物(C)
本発明で使用されるベンゾオキサゾール系化合物(C)は、チオフェン構造を有するベンゾオキサゾール系化合物であり、蛍光増白作用があり、成形品の黄色味を消し、明るさを増加させる作用がある。この点では、ブルーイング剤と似ているが、ブルーイング剤が黄色光を除去するのに対して、蛍光増白作用のあるベンゾオキサゾール系化合物(C)は、紫外線を吸収し、そのエネルギーを可視部青紫色の光線に変えて放射する点で異なっている。
【0022】
本発明において、ベンゾオキサゾール系化合物とは、ベンゾオキサゾール及びベンゾオキサゾール誘導体からなる構造を含む化合物であり、ベンゾオキサゾール誘導体とは、ベンゾオキサゾールに種々の置換基を有する化合物や、これらの水添物等を指す。
本発明のベンゾキサゾール系化合物(C)は、チオフェン構造を有するが、中でも、下記一般式(1)で表される化合物であるのが好ましい。
【0023】
【化1】

(一般式(1)中、R及びRは、各々独立に炭素数1〜10のアルキル基を表し、n及びmは、各々独立に0〜3の整数を表す。)
【0024】
一般式(1)中、R及びRは、各々独立に直鎖状又は分岐状の炭素数1〜10のアルキル基を表すが、中でも、炭素数2〜8のアルキル基が好ましく、更には炭素数3〜6の分岐状アルキル基が好ましい。n及びmは、各々独立に0〜3の整数を表すが、中でも1又は2の整数であるのが好ましく、特には1であるのが好ましい。また、R及びRの置換位置としては、特に限定されないが、中でも5位に置換しているのが好ましい。
【0025】
一般式(1)で表される化合物としては、2,5−ビス[5’−t−ブチルベンゾオキサゾリル(2)]チオフェン、2,5−ビス[5’−イソブチルベンゾオキサゾリル(2)]チオフェン、2,5−ビス[5’−i−プロピルベンゾオキサゾリル(2)]チオフェン、2,5−ビス[5’−i−ペンチルべンゾオキサゾリル(2)]チオフェン、2,5−ビス[5’−ネオペンチルべンゾオキサゾリル(2)]チオフェン、等が挙げられ、中でも、下記構造式で表される2,5−ビス[5’−t−ブチルベンゾオキサゾリル(2)]チオフェンが好ましい。
【0026】
【化2】

【0027】
本発明において、ベンゾキサゾール系化合物(C)の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.001〜0.15重量部であり、好ましくは0.005〜0.10重量部、更に好ましくは0.08〜0.05重量部である。配合量が0.001重量部未満では蛍光増白剤としての効果が小さく、0.15重量部を超えて配合すると成形時の熱安定性が低下し、コスト的にも不利になる。
【0028】
また、本発明の樹脂組成物において、上述した酸化チタン(B)に対する、ベンゾオキサゾール系化合物(C)の配合量(C/B)は、重量比で、通常1/100〜1/10000であり、好ましくは1/500〜1/5000であり、更に好ましくは1/1000〜1/3000である。
【0029】
本発明においては、更に、亜リン酸エステル系化合物(D−1)及び/又はヒンダードフェノール系化合物(D−2)を配合することが好ましい。
亜リン酸エステル系化合物(D−1)
亜リン酸エステル系化合物(D−1)としては、熱安定性及び耐候性の観点から、中でも、ポリホスファイト、更にはビスホスファイトが好ましく、環状構造を有するビスホスファイト、特には、下記一般式(2)で表される化合物が好ましい。
【0030】
【化3】

(一般式(2)中、R及びRは、各々独立にアルキル基又はアリール基であり、置換基を有していてもよい。)
【0031】
一般式(2)中のR及びRは、各々独立にアルキル基又はアリール基であり、置換基を有していてもよい基であるが、中でも置換基を有していても良いフェニル基が好ましく、更には、下記一般式(3)又は(4)で表される、置換基を有していてもよいフェニル基が好ましい。
【0032】
【化4】

(一般式(3)中、R及びRは、各々独立に、炭素数1〜10のアルキル基、又は、炭素数7〜20のアリールアルキル基である。)
一般式(3)中の、R及びRとしては、中でも、各々独立に、炭素数2〜5のアルキル基、又は、炭素数7〜12のフェニルアルキル基が好ましい。
【0033】
【化5】

(一般式(4)中、R及びRは、各々独立に、炭素数1〜10のアルキル基である。)
一般式(4)中の、R及びRとしては、中でも、各々独立に、炭素数1〜6のアルキル基、更には炭素数3〜5の分岐状アルキル基が好ましい。
【0034】
上記一般式(2)で表される亜リン酸エステル系化合物(D−1)のうち、R及びRが、上記一般式(3)で表される基である化合物としては、例えば、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(旭電化工業(株)社製アデカスタブPEP−24G)、ビス(2,4−ジ−i−プロピルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−ネオペンチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが挙げられる。また、R及びRが、下記構造式で表されるものとして、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(ドーバーケミカル(株)社製ドーバホスS−9228)が挙げられる。
これらの中でも、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、及び、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましい。
【0035】
【化6】

【0036】
また、R及びRが、上記一般式(4)で表される基である化合物としては、例えば、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ジホスファイト(旭電化工業(株)社製アデカスタブPEP−36)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−i−プロピル−4−メチルフェニル)ジホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−ネオペンチル−4−メチルフェニル)ジホスファイト、等が挙げられるが、中でも、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ジホスファイトが好ましい。
【0037】
本発明において、亜リン酸エステル系化合物(D−1)は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、0.001〜1重量部、好ましくは0.005〜0.8重量部、更に好ましくは0.01〜0.5重量部配合する。また、本発明の樹脂組成物において、上述した酸化チタン(B)に対する、亜リン酸エステル系化合物(D−1)の配合量(D−1/B)は、重量比で、通常1/30〜1/800であり、好ましくは1/50〜1/500であり、更に好ましくは1/100〜1/350である。更に、ベンゾオキサゾール系化合物(C)に対する亜リン酸エステル系化合物(D−1)の配合量(D−1/C)は、重量比で、通常1/1〜1/50であり、好ましくは1/3〜1/30であり、更に好ましくは1/5〜1/20である。
【0038】
また、本発明においては、更に、ヒンダードフェノール系化合物(D−2)を配合することが好ましい。ヒンダードフェノール系化合物(D−2)としては、中でも、熱安定性及び耐候性の観点から、下記一般式(5)で表される化合物であるのが好ましい。
【0039】
【化7】

(一般式(5)中、R及びRは各々独立に、炭素数1〜10のアルキル基を表し、R及びRは各々独立に、炭素数1〜5のアルキレン基を表す。)
一般式(5)中、R及びRは、中でも、各々独立に、炭素数1〜6のアルキル基、更には、炭素数3〜5の分岐状アルキル基が好ましく、R及びRは、中でも、各々独立に、炭素数1〜3のアルキレン基が好ましい。
【0040】
一般式(5)で表される化合物としては、ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(チバスペシャリティーケミカルズ(株)社製イルガノックス1010)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−i−プロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−ネオペンチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等が挙げられるが、中でも、ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)が好ましい。
本発明において、ヒンダードフェノール系化合物(D−2)は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、0.001〜1重量部、好ましくは0.01〜0.8重量部、更に好ましくは0.05〜0.5重量部配合する。
【0041】
本発明において、上述した亜リン酸エステル系化合物(D−1)とヒンダードフェノール系化合物(D−2)は、各々単独で樹脂組成物に配合しても酸化防止剤として効果が認められが、好ましくは、亜リン酸エステル系化合物(D−1)とヒンダードフェノール系化合物(D−2)を併用することにより、押出成形や射出成形等の成形時の色相変化を抑制し、且つ、成形品の使用時など、長期間高温に晒された場合の色相変化も著しく抑制することができる。
【0042】
亜リン酸エステル系化合物(D−1)とヒンダードフェノール系化合物(D−2)を併用する場合には、それらの合計の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、0.002〜2重量部であり、好ましくは0.01〜1重量部、更に好ましくは0.05〜0.5重量部である。また、亜リン酸エステル系化合物(D−1)とヒンダードフェノール系化合物(D−2)の配合比率は、(D−1):(D−2)で、通常5:1〜1:10であり、好ましくは3:1〜1:8、更に好ましくは1:1〜1:3である。
【0043】
難燃剤(E)
本発明においては、樹脂組成物に、更に難燃性を付与する必要がある場合には、非ハロゲン難燃剤(E)を配合することが好ましい。
非ハロゲン難燃剤(E)としては、非ハロゲン燐酸エステル(E−1)、シリコーン系化合物(E−2)、及び、パーフルオロアルカンスルホン酸又はパーフルオロアルキレンジスルホン酸のアルカリ金属塩若しくはアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも1種(E−3)が好ましく、これらのものから適宜選択することが可能であり、またこれらを併用して配合してもよい。
【0044】
本発明で使用される非ハロゲン燐酸エステル(E−1)は、分子中にリンを含み、ハロゲン原子を含まない難燃剤であるが、好ましくは、下記一般式(6)で表される化合物が挙げられる。
【0045】
【化8】

【0046】
(一般式(6)中、R、R10、R11及びR12は、各々独立に、炭素数1〜6のアルキル基、又は、アルキル基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を表し、p、q、r及びsは、各々独立に、0又は1であり、lは1〜5の整数であり、Xはアリーレン基を示す。)
一般式(6)の中でも、R、R10、R11及びR12は、各々独立に、アルキル基で置換されていてもよい炭素数6〜18のアリール基が好ましく、p、q、r及びsは、各々独立に1が好ましく、lは1〜3の整数が好ましく、Xはレゾルシノール残基、又はビスフェノールA残基が好ましい。
【0047】
上記一般式(6)で表される非ハロゲン燐酸エステル(E−1)は、lが1〜5の縮合燐酸エステルであり、lが異なる縮合燐酸エステルの混合物として使用する場合には、lの値はそれらの混合物の平均値とする。アリーレン基であるXは、例えばレゾルシノール、ハイドロキノン、ビスフェノールA等のジヒドロキシ化合物から誘導される基が挙げられ、中でもレゾルシノール、ビスフェノールAから誘導される基が好ましい。
【0048】
一般式(6)で表される非ハロゲン燐酸エステル(E−1)の具体例としては、XがビスフェノールAから誘導されたものである場合は、フェニル・ビスフェノール・ポリホスフェート、クレジル・ビスフェノール・ポリホスフェート、フェニル・クレジル・ビスフェノール・ポリホスフェート、キシリル・ビスフェノール・ポリホスフェート、フェニル−p−t−ブチルフェニル・ビスフェノール・ポリホスフェート、フェニル・イソプロピルフェニル・ビスフェノール・ポリホスフェート、クレジル・キシリル・ビスフェノール・ポリホスフェート、フェニル・イソプロピルフェニル・ジイソプロピルフェニル・ビスフェノールポリホスフェートが挙げられる。これらの中でも、フェニル・ビスフェノールポリホスフェートが好ましい。
【0049】
非ハロゲン燐酸エステル(E−1)の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、好ましくは2〜20重量部である。非ハロゲン燐酸エステル(E−1)の添加量が2重量部未満であると、難燃性向上効果が不十分となる傾向があり、20重量部を越えると機械的物性が低下する傾向がある。非ハロゲン燐酸エステル(E−1)の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、より好ましくは3〜18重量部、さらに好ましくは5〜15重量部である。
【0050】
本発明において、非ハロゲン難燃剤(E)として使用が可能なシリコーン系化合物(E−2)としては、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)に配合した場合、その難燃性を改良することができる、種々のシリコーン又はシリコーン含有化合物が挙げられる。シリコーン系化合物(E−2)としては、中でも、具体的には、(1)シリカ粉末の表面にポリオルガノシロキサン重合体を担持させた粉体状シリコーン化合物、(2)主鎖が分岐構造を有し、珪素に結合する芳香族基を有する分岐シリコーン化合物、(3)芳香族基含有環状ポリオルガノシロキサン及び直鎖状ポリオルガノシロキサンの混合物から成るシリコーン化合物。
【0051】
(1)シリカ粉末の表面にポリオルガノシロキサン重合体を担持させた粉体状シリコーン化合物に用いられるシリカ粉末としては、フュームドシリカ、沈殿法または採掘形態から得られた微粉砕シリカが挙げられる。フュームドシリカ及び沈殿シリカの場合には、シリカ粉末の表面積は50〜400m/gの範囲のものが好ましい。表面積がこの範囲にあると、その表面にポリオルガノシロキサン重合体を担持(吸収、吸着又は保持)させ易くなる。採掘形態のシリカ粉末を用いる場合は、少なくとも等重量のヒュームドシリカまたは沈殿シリカを組み合わせ、その混合物の表面積を50〜400m/gの範囲としたシリカ粉末を使用するのが好ましい。
【0052】
該シリカ粉末は、ポリオルガノシロキサン重合体を担持させる前に、ポリオルガノシロキサン重合体以外の表面処理剤によって表面を処理することができる。表面処理剤としては、ヒドロキシ基またはアルコキシ基を末端基に有する低分子量のポリオルガノシロキサン、ヘキサオルガノジシロキサン、及びヘキサオルガノジシラザンなどが挙げられる。これらの中でも、平均重合度が2〜100のオリゴマーが好ましく、更には、ヒドロキシル基を末端基とし、常温で液状ないし粘稠な油状を呈するポリジメチルシロキサンが好ましい。
【0053】
シリカ粉末或いは表面処理されたシリカ粉末は更に、その表面をポリオルガノシロキサン重合体で処理される。ポリオルガノシロキサン重合体は、直鎖でも分岐鎖を有してもよいが、中でも直鎖のポリジオルガノシロキサン重合体がより好ましい。ポリオルガノシロキサン重合体が有する有機基(オルガノ基)は、ハロゲン原子などで置換されていてもよい炭素数が1〜20のアルキル基、ビニル、5−ヘキセニル等のアルケニル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、ベンジル基等のアリール基、アラルキル基から選ばれる。好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、及び3,3,3−トリフルオロプロピル等のハロゲン化アルキル基であり、より好ましくは、炭素数1〜3のアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。
ポリオルガノシロキサン重合体の粘度は、10,000〜200,000センチストークスが好ましく、30,000〜100,000センチストークスが更に好ましい。
【0054】
また、ポリオルガノシロキサン重合体は、分子鎖中に官能基を有していてもよい。官能基としては、特に限定されないが、メタクリル基又はエポキシ基が好ましい。メタクリル基又はエポキシ基を有すると、燃焼時に芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と架橋反応を起させることができるので、樹脂組成物の難燃性を一層向上させることができる。ポリオルガノシロキサン重合体分子鎖中の官能基の量は、通常、0.01〜1モル%であり、好ましくは0.03〜0.5モル%であり、更に好ましくは0.05〜0.3モル%である。
【0055】
ポリオルガノシロキサン重合体をシリカ粉末に担持させる際には、さらに接着促進剤を用いることが好ましい。接着促進剤を用いることにより、シリカ粉末とポリオルガノシロキサン重合体との界面を一層強固に接着させることができる。接着促進剤としては、例えば、アルコキシシラン系接着促進剤が挙げられる。アルコキシシラン系接着促進剤は、その分子鎖に、炭素数1〜4のアルコキシ基、エポキシ基、アクリルオキシ基、メタクリルオキシ基、ビニル基、フェニル基、及びN−β−(N−ビニルベンジルアミノ)エチル−γ−アミノアルキル・ヒドロクロリドから選ばれた少なくとも1つの基を有する化合物が好ましい。
【0056】
アルコキシシラン系接着促進剤としては、中でも、一般式Y−Si(OCHで表される化合物が好ましい。前記一般式中、Yはエポキシアルキル基、アクリルオキシアルキル基、メタクリルオキシアルキル基、ビニル基、フェニル基、及びN−β−(N−ビニルベンジルアミノ)エチル−γ−アミノアルキル・モノハイドロジェンヒドロ・クロリド基から選ばれる基を表す。前記一般式で表されるアルコキシシラン系接着促進剤の具体例としては、γ−アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルペンジルアミノ)エチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン・モノハイドロジェンヒドロ・クロリド、フェニルトリメトキシシラン及びビニルトリメトキシシランが挙げられる。
【0057】
接着促進剤は、前記シリカ粉末100重量部に対し、好ましくは、0.5〜15重量部の範囲で添加される。接着促進剤を添加する時期は、シリカ粉末とポリジオルガノシロキサン重合体を混合する際と同時であるのが望ましい。
【0058】
上述した(1)粉末状シリコーン化合物に使用される、シリカ粉末とポリオルガノシロキサン重合体との配合割合は、シリカ粉末とポリオルガノシロキサン重合体の合計量を100重量%とした場合に、シリカ粉末を10〜90重量%、ポリオルガノシロキサン重合体を90〜10重量%の範囲で選ぶのが好ましい。シリカ粉末の量が10重量%未満であると、ポリオルガノシロキサン重合体を担持することが困難となり、さらさらの粉末に成り難く、また、90重量%を超えると、ポリオルガノシロキサン重合体の量が少なくなりすぎて、成形品の外観不良が生じ易い傾向がある。上記の配合割合の中でも、シリカ粉末20〜80重量%、ポリオルガノシロキサン重合体80〜20重量%が好ましく、更には、シリカ粉末20〜50重量%、ポリオルガノシロキサン重合体80〜50重量%が好ましい。なお、ここで、シリカ粉末の量には、表面処理されている場合は表面処理剤の量も含む。
【0059】
シリコーン系化合物(E−2)としての(2)分岐シリコーン化合物は、主鎖が分岐構造を有し、珪素に結合する芳香族基を有する分岐シリコーン化合物であるが、その重量平均分子量は、2,000〜50,000、更には 3,000〜30,000の範囲が好ましい。芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基が挙げられ、中でもフェニル基が好ましい。また、(2)分岐シリコーン化合物中のフェニル基の量は、40モル%以上が好ましい。(2)分岐シリコーン化合物は、例えば、特開平11−140294、特開平10−139964及び特開平11−217494各号公報に記載の方法で製造される。
【0060】
本発明の樹脂組成物中に、シリコーン系化合物(E−2)として、(2)分岐シリコーン化合物を使用する場合には、芳香族ポリカーボネート(A)100重量部に対して、0.5〜10重量部、好ましくは0.8〜5重量部、更に好ましくは1.0〜3重量部配合するのがよい。0.5重量部未満の場合は、燃焼性が不十分であり、10重量部を超えると、成形品の外観及び弾性率等の低下が起こりやすく、又、難燃性も不十分となる傾向がある。
【0061】
シリコーン系化合物(E−2)としての(3)芳香族基含有環状ポリオルガノシロキサン及び芳香族基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンの混合物を含むシリコーン化合物とは、下記一般式(A)の直鎖状ポリオルガノシロキサン、及び一般式(B)の環状ポリオルガノシロキサンから成る混合物であり、中でも、一般式(A)及び(B)の化合物の合計量に対し、一般式(B)の化合物が5〜95重量%、好ましくは10〜50重量%の混合物であるのが好ましい。
【0062】
【化9】

【0063】
一般式(A)及び(B)中、nは2以上の整数であり、nは3以上の整数である。Rは、炭素数6〜20の芳香族基を含有する1価の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜20の1価の脂肪族炭化水素基である。R及びRは、各々独立に、水素原子又はトリオルガノシリル基である。
一般式(A)及び(B)において、Rで示される炭素数6〜20の芳香族基を含有する1価の炭化水素基としては、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、トリル基、キシリル基等のアルキル基で置換された芳香族炭化水素基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等の芳香族炭化水素基が挙げられ、中でも芳香族炭化水素基が好ましく、更には、フェニル基が好ましい。
【0064】
一般式(A)及び(B)において、Rで示される炭素数1〜20の1価の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基が挙げられ、中でもアルキル基が好ましく、特にはメチル基が好ましい。
【0065】
(3)芳香族基含有環状ポリオルガノシロキサン及び直鎖状ポリオルガノシロキサンを含有するシリコーン化合物は、特開2002−53746号公報に記載されるように、公知の方法で製造することができる。例えば、芳香族基含有ジクロロシラン(RSiCl)や芳香族基含有ジアルコキシシラン(RSi(OR’))を、加水分解重合することにより、末端がシラノール基である直鎖状ポリオルガノシロキサン(A)と環状ポリオルガノシロキサン(B)の混合物が得られる。なお、R’はアルキル基である。
【0066】
本発明の樹脂組成物中に、上記(3)シリコーン化合物を配合する場合には、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、0.5〜10重量部、更には1.0〜5.0重量部配合するのが好ましい。0.5重量部以下の場合は、燃焼性が不十分であり、10重量部を超えると、成形品外観及び弾性率等の低下が起こりやすく、又、難燃性も不十分となる。
本発明の樹脂組成物に上述した特定の難燃剤(E−1)〜(E−3)を配合することにより、難燃性のみならず、耐光性も向上するという利点を有する。
【0067】
本発明の樹脂組成物には、更に滴下防止剤として、ポリテトラフルオロエチレン(F)を配合することが好ましい。ポリテトラフルオロエチレン(F)としては、重合体中に容易に分散し、かつ重合体同士を結合して繊維状構造を作る傾向を示すという点で、中でも、フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンが好ましい。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンはASTM規格でタイプ3に分類される。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンとしては、例えば三井・デュポンフロロケミカル(株)製のテフロン(登録商標)6Jや、ダイキン化学工業(株)製のポリフロンが挙げられる。また、ポリテトラフルオロエチレンの水性分散液として、三井デュポンフロロケミカル(株)製のテフロン(登録商標)30J、ダイキン化学工業(株)製のフルオンD−1や、ビニル系単量体を重合してなる多層構造を有するポリテトラフルオロエチレン重合体、例えば三菱レイヨン(株)製のメタブレンA−3800が挙げられる。
【0068】
本発明の樹脂組成物にポリテトラフルオロエチレン(F)を配合する場合には、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、0.01〜1重量部、更には0.02〜0.8重量部、特には0.05〜0.6重量部を配合することが好ましい。ポリテトラフルオロエチレン(F)の量が0.01重量部未満であると難燃性が不十分であり、1重量部を越えると成形品外観が低下する傾向がある。
【0069】
本発明の樹脂組成物には、上述した(A)〜(F)成分以外でも、目的及び必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、蛍光増白剤、酸化防止剤等の安定剤、衝撃改良剤、顔料、染料、滑剤、離型剤、摺動性改良剤等の添加剤、ガラス繊維、ガラスフレーク等の強化材、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム等のウィスカー、又は芳香族ポリカーボネート以外の熱可塑性樹脂を配合することができる。
【0070】
本発明の樹脂組成物には、耐紫外線性を改良する目的で、更に、紫外線吸収剤を配合することができる。本発明で配合される紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸フェニル系、ヒンダードアミン系化合物が挙げられる。中でも、5%減量温度が300℃以上である紫外線吸収剤を配合することにより、射出成形や押出成形等の成形時の不良現象、たとえばモールドデポジット、シルバーストリークス、ロール汚れ等を抑制し、成形品の使用時の耐光性を向上させることができる。5%減量温度が300℃以上である紫外線吸収剤としては、例えば、旭電化工業(株)の商品名:LA−31(2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾールー2−イル)フェノール)等が挙げられる。
【0071】
本発明の樹脂組成物には、さらに芳香族ポリカーボネート樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂成分として、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、HIPS樹脂及びABS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂を、必要に応じて含有していても良い。芳香族ポリカーボネート樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ポリカーボネート樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂との合計量に対して、40重量%以下、更には30重量%以下が好ましい。
【0072】
本発明の樹脂組成物の製造方法は、特に制限されるものではないが、例えば、(1)芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、酸化チタン(B)及びベンゾオキサゾール系化合物(C)と、必要に応じて使用される酸化防止剤(D)、非ハロゲン難燃剤(E)、ポリテトラフルオロエチレン(F)やその他の添加剤を、一括して溶融混練する方法、(2)芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と酸化チタン(B)をあらかじめ溶融混練した後に、ベンゾオキサゾール系化合物(C)及び必要に応じて酸化防止剤(D)、非ハロゲン難燃剤(E)、ポリテトラフルオロエチレン(F)やその他の添加剤を配合し、溶融混練する方法などが挙げられる。
【0073】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、各種成形品の成形材料として使用できるが、光線反射率が、例えば94%以上と高く、光線遮光性や耐紫外線性に優れているため、各種の光反射板及びその周辺部材等の光反射用途の成形品として有用である。
【0074】
本発明の成形品の主たる態様である光反射板の製法は、特に限定されるものではなく、射出成形機による射出成形、押出成形機によるシート成形、又は得られたシートを賦形して射出成形機の金型にインサートした後、射出成形して一体化する方法等、公知の熱可塑性樹脂の成形法が採用される。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の例に限定されるものではない。なお、以下の例において使用した原材料は次の通りである。
【0076】
[原材料]
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂:ポリ−4,4−イソプロピリデンジフェニルカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「ユーピロン(登録商標)S−3000」、粘度平均分子量21,000、表中「PC」と記す。)
(B)酸化チタン:無機処理していない二酸化チタンに3%のハイドロジェンポリシロキサン(有機処理剤)を配合し、スーパーミキサーにて、攪拌しながら温度を120℃まで上昇させ、1時間保持した後、温度を下げて取り出すことにより得られたもの(レジノカラー社製「ST6433TDA」ルチル型、平均粒子径0.22μ)
【0077】
(C)蛍光増白剤
(C−1)ベンゾオキサゾール系化合物:2,5−ビス[5’−t−ブチルベンゾオキサゾリル(2)]チオフェン(チバ・ガイギー社製「UvitexOB」)
(C−2)クマリン系化合物:3−フェニル−7−(2H−ナフト(1,2−d)−トリアゾール−2−イル)クマリン(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製「LeucopureEGM」)
【0078】
(D)酸化防止剤
(D−1−1)亜リン酸エステル系化合物1:サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−ターシャリ−ブチル−4−メチルフェニル)ジホスファイト(旭電化工業(株)製「アデカスタブPEP−36」)
(D−1−2)亜リン酸エステル系化合物2:トリス(2,4−ジーターシャリーブチルフェニル)ホスファイト(旭電化工業(株)製「アデカスタブ2112」)
【0079】
(D−2−1)ヒンダードフェノール系化合物1:ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−ターシャリ−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製「イルガノックス1010」)
(D−2−2)ヒンダードフェノール系化合物2:n−オクタデシル−β−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製「イルガノックス1076」)
【0080】
(E)難燃剤
難燃剤1:60000cStの粘度を有するポリジメチルシロキサンをシリカ粉末に担持した粉末状シリコーン化合物(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製「トレフィルF202」、ポリジメチルシロキサン含有量60重量%)
難燃剤2:主鎖が分岐構造を有し、珪素原子に結合するフェニル基を有する分岐シリコーン化合物(信越化学(株)製「X−40−9805」)
難燃剤3:レゾルシンジキシリルホスフェート(一般式(6)のうち、R〜R12がキシリル基、lが約1〜1.2の化合物、大八化学工業(株)製「PX200」)
【0081】
(F)滴下防止剤:フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンダイキン(株)製「ポリフロンF−201L」)
(G)衝撃改良剤:ブタジエンコア/アクリルシェル(ローム&ハ−ス(株)製「パラロイドEXL2603」)
【0082】
[成形品の評価方法]
(1)衝撃強度
シリンダー温度280℃の条件下でアイゾット衝撃試験片を成形し、ATSM D256に準拠して衝撃強度を測定した。
(2)色相評価
日本電色工業(株)製分光式色差計「SE−2000、C光源/反射」を使用し、成形品厚み2mmの角板を試験片として成形し、初期色相(YI)を測定評価した。
【0083】
(3)耐光性試験
初期色相の評価と同様にして成形品厚み2mmの角板を試験片として成形し、この試験片に、スガ試験機(株)製メタリングウェザオメータM6Tを用い、ブラックパネル温度60℃、湿度50%、放射照度0.75KW/mの条件で、100時間照射した後に、試験片の色相(YI)を評価した。表中の値は、初期色相値に近い値であるほど、耐光性に優れることを示す。
【0084】
(4)燃焼性
1.6mm厚みの試験片を成形し、UL94に準拠して垂直燃焼試験を行い、燃焼性を評価した。
(5)外観評価
成形品厚み2mmの角板を試験片として成形し、この試験片の外観を目視にて判断した。表中、シルバーの発生がない場合を〇、シルバーがわずかに発生した場合を△、シルバーが多量に発生した場合を×とした。
【0085】
[実施例1〜13及び比較例1〜4]
表1及び表2に示した配合量となるよう、芳香族ポリカーボネート樹脂、酸化チタン、蛍光増白剤、酸化防止剤、難燃剤、滴下防止剤及び衝撃改良剤を配合し、タンブラーにて20分混合後、30mm二軸押出機を用い、シリンダー温度270℃の条件下で、溶融混練し、樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを用いて、シリンダー温度280℃で、各種試験片を成形し、各評価を行った。評価結果を表1及び表2に示した。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
(1)実施例1及び2と比較例1及び2とを比較すると、チオフェン骨格を有するベンゾチアゾール系化合物を配合することにより、ベンゾチアゾール系化合物を配合しない場合(比較例1)及びクマリン系化合物(比較例2)を配合した場合に比べて、耐光性に優れている。また、チオフェン骨格を有するベンゾチアゾール系化合物を配合した場合でも、0.2重量部配合した場合(比較例3)には、耐光性が劣っている。
(2)実施例1と実施例3〜10を比較すると、酸化防止剤を配合することにより、外観が優れることが分かる。また、酸化防止剤として、一般式(2)で表される(D−1−1)亜リン酸エステル系化合物を配合した実施例3〜7においては、更に耐光性が優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、酸化チタン(B)を3〜50重量部、及び、チオフェン構造を有するベンゾオキサゾール系化合物(C)を0.001〜0.15重量部配合してなることを特徴とするポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項2】
該ベンゾオキサゾール系化合物(C)が、下記一般式(1)で表される化合物である請求項1に記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【化1】

(一般式(1)中、R及びRは、各々独立に炭素数1〜10のアルキル基を表し、n及びmは、各々独立に0〜3の整数を表す。)
【請求項3】
該芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、亜リン酸エステル系化合物(D−1)を0.001〜1重量部配合する請求項1又は2に記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項4】
該亜リン酸エステル系化合物(D−1)が、下記一般式(2)で表される化合物である請求項3に記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【化2】

(一般式(2)中、R及びRは、各々独立に、アルキル基又はアリール基であり、置換基を有していてもよい。)
【請求項5】
該芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、ヒンダードフェノール系化合物(D−2)を0.001〜1重量部配合する請求項1〜4のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項6】
該ヒンダードフェノール系化合物(D−2)が、下記一般式(5)で表される化合物である請求項5に記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【化6】


(一般式(5)中、R及びRは、各々独立に、炭素数1〜10のアルキル基を表し、R及びRは、各々独立に炭素数1〜5のアルキレン基を表す。)
【請求項7】
該芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、非ハロゲン燐酸エステル(E−1)を2〜20重量部配合する請求項1〜6のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項8】
該芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、シリコーン系化合物(E−2)を0.5〜10重量部配合する請求項1〜7のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項9】
該シリコーン系化合物(E−2)が、ポリオルガノシロキサンをシリカ粉末に担持してなる粉体状シリコーン系化合物である請求項8に記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項10】
フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン(F)を配合する請求項1〜9のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2006−298980(P2006−298980A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−119012(P2005−119012)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】