説明

ポリグリコール酸系樹脂組成物及びその成形体

【課題】成形性に優れ、成形後のバリア性及び透明性が良好なポリグリコール酸系樹脂組成物及びその成形体を提供する。
【解決手段】質量平均分子量Mwが10万〜100万のポリグリコール酸に、質量平均分子量Mwが10万〜100万のポリ乳酸を、ポリ乳酸含有量が5〜30質量%となるように配合し、例えば230〜270℃の温度条件下で溶融混練して、示差走査熱量測定法で測定した降温結晶化ピーク温度Tcが、ポリグリコール酸単体の値よりも3〜18℃低い樹脂組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸を含有するポリグリコール酸系樹脂組成物及びその成形体に関する。より詳しくは、生分解性を有する樹脂組成物と、その組成物を成形してなる成形品に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
近年、食品用途の樹脂成形体においては、環境負荷低減の目的から、生分解性樹脂を使用したボトル、容器、シート及びフィルムなどの開発が進められている。このような用途に使用可能な生分解性樹脂としてはポリ乳酸が挙げられるが、ポリ乳酸系樹脂は、従来使用されている樹脂に比べて、各種物性値が低いという問題点がある。そこで、ポリ乳酸系重合体に生分解性脂肪族ポリエステルを配合することで、滑り性能、耐衝撃性又は耐熱性を向上させたポリ乳酸系樹脂シートが提案されている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のフィルムでは、耐衝撃性を向上するために、ポリ乳酸系重合体にガラス転移点Tgが0℃以下の生分解性脂肪族ポリエステルを配合している。また、特許文献2に記載のシートは、L−乳酸とD−乳酸の組成比が100:0〜94:6又は6:94〜0:100であるポリ乳酸系重合体に、ガラス転移点Tgが0℃以下の生分解性脂肪族ポリエステルを所定量配合し、更に、少なくとも1軸方向に延伸した後に熱処理を施すことで、滑り性能向上を図っている。
【0004】
更に、特許文献3に記載の生分解性シートの成形方法では、ポリ乳酸系樹脂に、ガラス転移温度が0℃以下で、かつ融点がポリ乳酸系樹脂のガラス転移点よりも高く、ポリ乳酸系樹脂の融点以下であるポリエステルを所定量配合している。そして、このような組成物からなるシートを、キャストロールに接触させることにより予備結晶化させ、脂肪族系ポリエステルの融点以上、かつポリ乳酸系樹脂の融点未満の温度で成形することにより、シートの耐熱性を向上させている。
【0005】
一方、ポリ乳酸樹脂成形体には、酸素や二酸化炭素などの気体及び水蒸気の遮蔽性能が著しく乏しいという問題点もある。具体的には、ポリ乳酸フィルムは、従来使用されている芳香族ポリエステルと比べて、23℃−80%相対湿度の条件下における酸素透過度が5倍程度低く、40℃−90%相対湿度の条件下における水蒸気バリア性は10倍程度劣る。このようにバリア性が低いと、食品包装材や化粧品容器等への適用は難しく、適用可能な用途が限定される。
【0006】
ポリ乳酸樹脂成形体にバリア性を付与する方法としては、例えばエチレン−ビニルアルコール共重合体などのバリア性が優れる樹脂を積層することが考えられるが、このようなバリア材は生分解性が乏しいという問題点がある。そこで、従来、生分解性を有するポリグリコール酸をバリア材として使用した多層フィルムが提案されている(特許文献4参照)。この特許文献4に記載の多層フィルムは、ポリグリコール酸フィルムの片面又は両面にポリ乳酸フィルムが直接積層されたものであり、ポリグリコール酸及びポリ乳酸を共押出し成形して得られた多層シートを、所定の条件で二軸延伸することにより形成される。
【0007】
【特許文献1】特開平9−111107号公報
【特許文献2】特開平9−157408号公報
【特許文献3】特開2006−168375号公報
【特許文献4】特開2006−130847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述した従来の技術には、以下に示す問題点がある。即ち、特許文献1〜3に記載のように、ポリ乳酸系重合体にガラス転移点Tgが0℃以下の生分解性脂肪族ポリエステルを配合した樹脂は、ポリ乳酸系重合体のみからなる樹脂と比べて柔軟性及び成形性は向上するが、酸素及び二酸化炭素などの気体及び水蒸気に対する遮蔽性能は改善されないという問題点がある。このため、特許文献1〜3に記載されている樹脂は、気体及び水蒸気に対するバリア性が極めて低く、その成形体をバリア材として使用することはできない。
【0009】
また、特許文献4に記載の技術のように、ポリ乳酸とポリグリコール酸とを共押出してシートを成形した場合、非晶性で透明性に優れたシートを容易に成形することができるが、このシートを容器などに加工すると、ポリグルコール酸からなる層が破れたり、ポリ乳酸からなる層が白濁したりするといった問題が生じる。また、加工時の延伸倍率が高いと形成不良が発生することがあり、更に、ボトル形成においてプリフォームからボトルを成形する際に、安定して成形することができないという問題点もある。これらの問題点は、ポリグルコール酸とポリ乳酸とで、最適な成形加工温度が異なるために生じるものと考えられる。
【0010】
そこで、本発明は、成形性に優れ、成形後のバリア性及び透明性が良好なポリグリコール酸系樹脂組成物及びその成形体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るポリグリコール酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸とポリグリコール酸との溶融混練物からなるポリグリコール酸系樹脂組成物であって、前記ポリ乳酸を5〜30質量%含有し、前記ポリ乳酸及び前記ポリグリコール酸の質量平均分子量Mwがいずれも10万〜100万であり、かつ示差走査熱量測定法で測定した降温結晶化ピーク温度Tcが、ポリグリコール酸単体よりも3〜18℃低いものである。
【0012】
本発明においては、ポリグリコール酸に特定量のポリ乳酸を配合し、示差走査熱量測定法で測定した降温結晶化ピーク温度Tcを、ポリグリコール酸単体よりも3〜18℃低くしているため、ポリグルコール酸の有するガスバリア性を維持しつつ、成形性及び透明性を向上させることができる。
【0013】
このポリグリコール酸系樹脂組成物は、例えば230〜270℃の温度条件下で、ポリ乳酸とポリグリコール酸とを混練することにより得ることができる。
【0014】
また、本発明に係るポリグリコール酸系樹脂成形体は、前述したポリグリコール酸系樹脂組成物を成形してなる成形体であり、示差走査熱量測定法で測定した降温結晶化ピーク温度Tcが、ポリグリコール酸単体からなる成形体よりも5℃以上低いものである。
【0015】
本発明においては、ポリグリコール酸に特定量のポリ乳酸を配合した樹脂組成物と使用し、示差走査熱量測定法で測定した降温結晶化ピーク温度Tcを、ポリグリコール酸単体の成形体の値よりも5℃以上低くしているため、ポリグルコール酸の有するガスバリア性を低下させることなく、成形性及び透明性を向上させることができる。
【0016】
この樹脂成形体は、下記数式1で求められる動的粘弾性測定における主分散ピーク温度の減少率Dが4%を超えることが望ましい。なお、下記数式1におけるTPGAは本発明のポリグリコール酸系樹脂成形体の主分散ピーク温度であり、TPLAはポリ乳酸単体からなる成形体の主分散ピーク温度である。
【0017】
【数1】

【0018】
また、本発明のポリグリコール酸系樹脂成形体は、75℃での応力−歪測定における破断点伸度が100〜600%であることが好ましい。
【0019】
一方、本発明に係る成形体は、前述したポリグリコール酸系樹脂組成物からなる層を有する。本発明においては、ポリグリコール酸に特定量のポリ乳酸を配合した樹脂組成物からなる層が積層されているため、ガスバリア性、成形性及び透明性の全てに優れた成形体が得られる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ポリグリコール酸に特定量のポリ乳酸を配合し、更に示差走査熱量測定法で測定した降温結晶化ピーク温度Tcを特定の範囲にしているため、成形性に優れ、成形後のバリア性及び透明性も良好な成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。先ず、本発明の第1の実施形態に係るポリグリコール酸系樹脂組成物(以下、単に樹脂組成物ともいう。)について説明する。本実施形態の樹脂組成物は、質量平均分子量Mwが10万〜100万のポリグリコール酸(以下、PGAと略す。)に、質量平均分子量Mwが10万〜100万のポリ乳酸(以下、PLAと略す。)を5〜30質量%配合し、溶融混練したものである。
【0022】
本実施形態の樹脂組成物で使用されるPGAは、−(O−CH−CO)−で表されるグリコール酸繰り返し単位を有する単独重合体又は共重合体であり、土壌及び海中などの自然界に存在する微生物又は酵素により分解される生分解性材料である。また、PGAは、酸素ガスバリア性、炭酸ガスバリア性及び水蒸気バリア性などのガスバリア性に優れており、更に耐熱性及び機械的強度にも優れている。
【0023】
しかしながら、PGAの質量平均分子量Mwが10万未満の場合、樹脂組成物の粘度が低くなるため、ペレット化、シート成形及びボトル成形などの押出成形が困難になる。一方、PGAの質量平均分子量Mwが100万を超えると、PGAの粘度が高くなりすぎて、PLAと溶融混練することが困難になる。よって、本実施形態の樹脂組成物では、質量平均分子量Mwが10〜100万のPGAを使用する。なお、PGAの質量平均分子量Mwは10〜50万であることが好ましい。
【0024】
また、本実施形態の樹脂組成物では、前述したPGAに、生分解性材料であるPLAを配合し、これらを所定の条件で溶融混練することにより、PGAの有するガスバリア性を低下させることなく、成形性及び透明性を向上させている。このとき、樹脂組成物中のPLA量が5質量%未満では、PLAを配合した効果が得られず、成形性を十分に改善することができない。一方、樹脂組成物中のPLA量が30質量%を超えると、成形体の透明性及びバリア性が低下する。よって、PLA配合量は、樹脂組成物全質量に対して5〜30質量%とする。
【0025】
更に、使用するPLAの質量平均分子量Mwが10万未満であると、樹脂組成物の粘度が低くなり、押出成形が困難になる。一方、PLAの質量平均分子量Mwが100万を超えると、PGAとの溶融混練が困難になる。よって、本実施形態の樹脂組成物においては、質量平均分子量Mwが10〜100万のPLAを使用する。なお、PLAの質量平均分子量Mwは10〜50万であることが好ましい。
【0026】
一方、PGAとPLAとを溶融混練する際の温度は、230〜270℃とすることが好ましい。混練温度が230℃未満の場合は、PGAの融点近傍若しくはPGAの融点を下回る温度となるため、押出しが不安定になることがあり、また、混練温度が270℃を超えると、混練中にPLAが分解することがあるからである。なお、PGAとPLAとの混練時間は、装置の性能などに応じて適宜設定することができるが、例えば混練温度が上述した範囲であれば1〜15分間程度混練すればよい。
【0027】
また、本実施形態の樹脂組成物では、示差走査熱量測定法(Differential Scanning Calorimetry:DSC)により、30℃から20℃/分の速度で昇温し、270℃で5分間保持した後、20℃/分の速度で冷却したときの降温結晶化ピーク温度Tcが、PGA単体の値よりも3〜18℃低い。本実施形態の樹脂組成物における降温結晶化ピーク温度Tcは、PGAに由来する値であり、この値をPGA単体の値よりも低くすることにより、PGAの結晶性が低下し、シートやボトルなどに成形する際の加工性が向上する。
【0028】
しかしながら、降温結晶化ピーク温度TcがPGA単体より低くても、その差が3℃未満の場合は、成形加工性を十分に改善できる程度の効果が得られない。一方、降温結晶化ピーク温度Tcの差が18℃を超えると、成形体のバリア性が著しく低下すると共に、透明性も低下する。このため、本実施形態の樹脂組成物においては、降温結晶化ピーク温度TcがPGA単体よりも3〜18℃低くなるようにしている。
【0029】
上述の如く、本実施形態のポリグリコール酸系樹脂組成物においては、PGAに5〜30質量%のPLAを配合し、示差走査熱量測定法で測定した降温結晶化ピーク温度Tcを、ポリグリコール酸単体よりも3〜18℃低くしているため、PGAの有するガスバリア性を低下させずに、PGA単体よりも成形性及び透明性を向上させることができる。また、本実施形態の樹脂組成物では、質量平均分子量Mwが10〜50万のPGA及びPLAを使用しているため、市販されているものをそのまま使用することができる。
【0030】
次に、本発明の第2の実施形態に係るポリグリコール酸系樹脂成形体(以下、単に樹脂成形体ともいう。)について説明する。本実施形態の樹脂成形体は、前述した第1の実施形態の樹脂組成物を成形したものであり、例えば、フィルム、シート、ブロー成形容器、ボトル、トレイ、カップ、蓋、袋状容器及び筒状包材など、各種形状のものが挙げられる。
【0031】
また、本実施形態の樹脂成形体は、DSCにより、30℃から20℃/分の速度で昇温し、270℃で5分間保持した後、20℃/分の速度で30℃まで冷却したときの降温結晶化ピーク温度Tcが、PGA単体からなる成形体で同様の測定を行ったときの降温結晶化ピーク温度よりも5℃以上低い。このように、DSCで測定した降温結晶化ピーク温度Tcを、PGA単体からなる成形体の値よりも低くすることで、樹脂組成物中のPGAが結晶化しにくくなり、加工性が向上する。しかしながら、降温結晶化ピーク温度TcがPGA単体からなる成形体より低くても、その差が5℃未満の場合は、十分な加工性改善効果が得られない。このため、本実施形態の樹脂成形体においては、降温結晶化ピーク温度TcをPGA単体からなる成形体よりも5℃以上低くなるようにしている。
【0032】
また、本実施形態の樹脂成形体は、下記数式2で求められる動的粘弾性測定における主分散ピーク温度の減少率Dが4%を超えることが望ましい。なお、下記数式2におけるTPGAは、測定周波数を10Hz、昇温速度を2℃/分として、本実施形態の樹脂成形体の動的粘弾性を測定したときに得られる主分散ピーク温度であり、TPLAは、同様の条件でPLA単体からなる成形体の動的粘弾性を測定したときの主分散ピーク温度である。
【0033】
【数2】

【0034】
本実施形態の樹脂成形体を動的粘弾性測定したときに得られる主分散ピーク温度TPGAは、PLAに起因する値である。この主分散ピーク温度TPGAを、上記数式2で求められるPLA単体からなる成形体の値(TPLA)に対する減少率Dが4%を超える範囲にすることにより、PLAの運動性が緩和され、成形加工性が改善される。
【0035】
また、本実施形態の樹脂成形体は、例えば、前述した第1の実施形態の樹脂組成物を230〜250℃の温度条件下で押出成形して厚さ5〜1000μmの樹脂シートとし、この樹脂シートを45〜140℃の温度条件下で二軸延伸することにより得られる。このとき、押出成形する際の温度が230未満℃の場合、押出性が不安定になることがある。また、押出成形温度が250℃を超えると、成形過程でPLAが分解してしまうことがあり、更に、PLAの分解による末端基の増加によって、成形体の耐水性が低下することがある。よって、樹脂シートを押出成形する際の温度は、230〜250℃とすることが好ましい。なお、後述する二軸延伸ではなく、押出成形により樹脂成形体を成形する場合も同様に、成形温度を230〜250℃とすることが望ましい。
【0036】
一方、前述した樹脂シートを二軸延伸する際の温度が45℃未満の場合、樹脂シートが十分に軟化せず、破断することがある。また、延伸温度が140℃を超えると樹脂組成物中に含まれるPGAが結晶化し、透明性が低下することがある。よって、本実施形態の樹脂成形体を、二軸延伸により形成する場合は、その成形温度を45〜140℃とすることが好ましい。
【0037】
更に、本実施形態の樹脂成形体は、75℃の温度条件下で、引張速度を500mm/分として応力−歪測定したときの破断点伸度が100〜600%であることが好ましく、より好ましくは300〜600%である。これにより、樹脂組成物又は樹脂シートから容器などへの成形性が良好となり、ボトル成形時のプロセスウィンドウが広くなる。
【0038】
上述の如く、本実施形態の樹脂成形体は、PGAに5〜30質量%のPLAを配合した樹脂組成物を使用し、示差走査熱量測定法で測定した降温結晶化ピーク温度Tcを、ポリグリコール酸単体よりも5℃以上低くしているため、PGAの有するガスバリア性を低下させずに、PGA単体からなる成形体よりも成形性及び透明性を向上させることができる。
【0039】
次に、本発明の第3の実施形態に係る成形体について説明する。本実施形態の樹脂成形体は、異なる樹脂からなる複数の層を積層したものであり、その複数の層のうちの少なくとも1つが前述した第1の実施形態の樹脂組成物で形成されている。本実施形態の成形体は、例えば、前述した第1の実施形態の樹脂組成物からなるポリグリコール酸系樹脂層と、PLAからなる層(以下、PLA層という)とを積層し、成形することにより得られる。
【0040】
このようなPGAにPLAを配合した樹脂からなる層(ポリグリコール酸系樹脂層)とPLA層との積層体は、PGAのみからなる層(以下、PGA層という)とPLA層との積層体に比べて、延伸性が向上し、透明性及びバリア性に優れた成形体を形成することが可能となる。具体的には、PLA層と、PGA層と、PLA層とをこの順に積層した三層構造の容器では、成形加工時の過延伸により、PGA層の白化などの外観不良が発生するが、PLA層に第1の実施形態の樹脂組成物からなるポリグリコール酸系樹脂層を積層したものでは、このような問題は生じない。
【0041】
上述の如く、本実施形態の成形体は、PGAに5〜30質量%のPLAを配合した樹脂組成物で形成された層(ポリグリコール酸系樹脂層)を有しているため、ガスバリア性、成形性及び透明性の全てにおいて優れている。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、PGAとPLAの配合比が異なる樹脂組成物を作製し、その降温結晶化ピーク温度を測定した。また、各樹脂組成物から成形体を作製し、その降温結晶化ピーク温度、動的粘弾性測定における主分散ピーク温度、及び破断点伸度を測定すると共に、酸素透過度、水蒸気透過度及び濁度について評価した。
【0043】
(実施例1)
質量平均分子量Mwが22万のPGA(270℃,せん断速度122sec−1での粘度:800Pa・s)からなるペレット90質量部と、質量平均分子量Mwが23万のPLA(Nature Works社製 レイシアH−400)からなるペレット10質量部を、押出機及びストランドダイによって240℃で溶融混合し、実施例1の樹脂組成物からなるペレットを作製し、DSCにより降温結晶化ピーク温度Tcを測定した。
【0044】
次に、この実施例1のペレットを、押出機及びTダイにより、成形温度を240℃として成形し、厚さが100μmのシートを作製した。そして、このシートについて応力−歪み曲線測定による破断点伸度、動的粘弾性における主分散ピーク温度、DSCによる降温結晶化ピーク温度Tc及び濁度を測定した。更に、このシートを、東洋精機製作所社製二軸延伸試験装置 X6H−S を使用し、引張速度10m/分で同時二軸延伸することにより4×4倍に延伸して、二軸延伸フィルムを作製した。そして、この二軸延伸フィルムについて、酸素透過度及び水蒸気透過度を測定した。
【0045】
(実施例2)
PGA配合量を75重量部、PLA配合量を25重量部とした以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、実施例2の樹脂組成物からなるペレットを作製し、DSCにより降温結晶化ピーク温度Tcを測定した。また、実施例1と同様の方法及び条件で、実施例2のペレットから厚さ100μmのシートを作製し、応力−歪み曲線測定による破断点伸度、動的粘弾性における主分散ピーク温度、DSCによる降温結晶化ピーク温度Tc及び濁度を測定した。更に、このシートを、実施例1と同様の方法及び条件でフィルム化し、その酸素透過度及び水蒸気透過度を測定した。
【0046】
(比較例1)
PGA配合量を50重量部、PLA配合量を50重量部とした以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、比較例1の樹脂組成物からなるペレットを作製し、DSCにより降温結晶化ピーク温度Tcを測定した。また、実施例1と同様の方法及び条件で、比較例1のペレットから厚さ100μmのシートを作製し、応力−歪み曲線測定による破断点伸度、動的粘弾性における主分散ピーク温度、DSCによる降温結晶化ピーク温度Tc及び濁度を測定した。更に、このシートを、実施例1と同様の方法及び条件でフィルム化し、その酸素透過度及び水蒸気透過度を測定した。
【0047】
(比較例2)
PGA配合量を25重量部、PLA配合量を75重量部とした以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、比較例2の樹脂組成物からなるペレットを作製し、DSCにより降温結晶化ピーク温度Tcを測定した。また、実施例1と同様の方法及び条件で、比較例2のペレットから厚さ100μmのシートを作製し、応力−歪み曲線測定による破断点伸度、動的粘弾性における主分散ピーク温度、DSCによる降温結晶化ピーク温度Tc及び濁度を測定した。更に、このシートを、実施例1と同様の方法及び条件でフィルム化し、その酸素透過度及び水蒸気透過度を測定した。
【0048】
(比較例3)
質量平均分子量Mwが22万のPGA(270℃,せん断速度122sec−1での粘度:800Pa・s)からなる比較例3のペレットを、押出機及びTダイにより、成形温度を240℃として成形し、厚さが100μmのシートを作製した。そして、このシートについて応力−歪み曲線測定による破断点伸度、動的粘弾性における主分散ピーク温度、DSCによる降温結晶化ピーク温度及び濁度を測定した。また、このシートを、実施例1と同様の方法及び条件で二軸延伸して、二軸延伸フィルムを作製し、その酸素透過度及び水蒸気透過度を測定した。更に、比較のため、比較例3のペレットについても、DSCにより降温結晶化ピーク温度を測定した。
【0049】
(比較例4)
質量平均分子量Mwが22万のPGA(270℃,せん断速度122sec−1での粘度:800Pa・s)からなる比較例4のペレットを、押出機及びTダイにより、成形温度を240℃として成形し、厚さが100μmのシートを作製した。そして、このシートについて応力−歪み曲線測定による破断点伸度、動的粘弾性における主分散ピーク温度、DSCによる降温結晶化ピーク温度及び濁度を測定した。また、このシートを、実施例1と同様の方法及び条件で二軸延伸して、二軸延伸フィルムを作製し、その酸素透過度及び水蒸気透過度を測定した。更に、比較のため、比較例4のペレットについても、DSCにより降温結晶化ピーク温度を測定した。
【0050】
また、各項目の評価は、以下に示す方法及び条件で行った。
【0051】
樹脂組成物又は成形体の降温結晶化ピーク温度
株式会社島津製作所社製DSC−60を使用して、実施例及び比較例の各ペレット又はこれらのペレットを成形したシートを、30℃から20℃/分の速度で昇温し、270℃で5分間保持した後、20℃/分の速度で降温し、この降温過程で生じるピーク温度を求めた。
【0052】
破断点伸度
実施例及び比較例の各シートから切り出した幅10mmの試料を、エー・アンド・ディ社製のTENSILON RTM−100を使用し、チャック間の距離を20mmとし、引張速度を500mm/分とし、75℃の温度雰囲気下で、破断するまでの応力と歪みとの関係を測定した。そして、その測定結果から、実施例及び比較例の成形体における破断点伸度を求めた。
【0053】
動的粘弾性における主分散ピーク温度
実施例及び比較例の各シートから切り出した縦1mm、横25mmの試料を、TAインスツルメンツ社製 動的粘弾性装置 RSA−3に、チャック間の距離を22.4mmとして固定し、測定周波数を10Hz,昇温速度を2℃/分として動的粘弾性測定を行った。図1は横軸に温度をとり、縦軸にtanδをとって、実施例及び比較例の各試料の動的粘弾性測定における主分散ピーク温度を示すグラフ図である。そして、図1に示す測定結果からポリ乳酸に起因する主分散ピークを求めた。
【0054】
濁度
実施例及び比較例の各シートから切り出した縦90mm、横90mmの試料を、東洋精機製作所社製の二軸延伸試験装置 X6H−Sを使用し、引張速度を10m/分とし、延伸倍率を3.0×3.0倍から4.5×4.5倍まで、両方向に0.5ずつ上げながら同時二軸延伸することにより、最大の延伸倍率を確認した。そして、最大延伸倍率で延伸したフィルムに、シリコンオイルを塗布し、日本電色工業社製の濁度計NDH2000を使用して、その濁度を測定した。
【0055】
酸素及び水蒸気の透過度
大延伸倍率で延伸したフィルムを、JIS K7126に規定されているB法(等圧法)及びASTM D3985に規定されている方法に準拠して、酸素透過試験器(Modern Control 社製、OX−TRAM(登録商標) 2/20)を使用し、温度23℃、両側80%相対湿度(RH)の条件で、酸素透過度を測定した。また、JIS K7129で規定されている方法に従って、40℃−90%RHの条件下で水蒸気透過度を測定した。そして、各測定値から、フィルム厚さが20μmのときの酸素及び水蒸気の透過度を、それぞれ計算により求めた。
【0056】
以上の結果を下記表1にまとめて示す。
【0057】
【表1】

【0058】
上記表1に示すように、本発明の範囲内で作製した実施例1,2の樹脂組成物は、比較例3のPGA単体からなるペレットに比べて、延伸性が大幅に改善されていた。また、実施例1,2の樹脂組成物からなる延伸フィルムは、比較例4のPLA単体からなる延伸フィルムに比べて、酸素透過度及び水蒸気透過度が大幅に向上しており、比較例3のPGA単体からなる延伸フィルムと同等であった。一方、PGAとPLAを配合の配合比が本発明の範囲から外れている比較例1,2の樹脂組成物は、酸素及び水蒸気のバリア性が低く、更に透明性も劣っていた。
【0059】
以上の結果から、本発明の範囲内で作製した実施例1及び実施例2の樹脂組成物は、成形性に優れており、バリア性及び透明性が良好な成形体が得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】横軸に温度をとり、縦軸にtanδをとって、実施例及び比較例の各試料の動的粘弾性測定における主分散ピーク温度を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸とポリグリコール酸との溶融混練物からなるポリグリコール酸系樹脂組成物であって、
前記ポリ乳酸を5〜30質量%含有し、
前記ポリ乳酸及び前記ポリグリコール酸の質量平均分子量Mwがいずれも10万〜100万であり、
かつ示差走査熱量測定法で測定した降温結晶化ピーク温度Tcが、ポリグリコール酸単体よりも3〜18℃低いポリグリコール酸系樹脂組成物。
【請求項2】
230〜270℃の温度条件下で混練したものであることを特徴とする請求項1に記載のポリグリコール酸系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリグリコール酸系樹脂組成物を成形してなる成形体であって、示差走査熱量測定法で測定した降温結晶化ピーク温度Tcが、ポリグリコール酸単体からなる成形体よりも5℃以上低いポリグリコール酸系樹脂成形体。
【請求項4】
動的粘弾性測定における主分散ピーク温度をTPGAとしたとき、下記数式(A)により求められるポリ乳酸単体からなる成形体の動的粘弾性測定における主分散ピーク温度TPLAに対する減少率D(%)が、4%を超えることを特徴とする請求項3に記載のポリグリコール酸系樹脂成形体。

【請求項5】
75℃での応力−歪測定における破断点伸度が100〜600%であることを特徴とする請求項3又は4に記載のポリグリコール酸系樹脂成形体。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のポリグリコール酸系樹脂組成物からなる層を有する成形体。


【図1】
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【公開番号】特開2010−84001(P2010−84001A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254229(P2008−254229)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】