説明

ポリチオフェンの製造方法、ポリチオフェン分散体の製造方法、ポリチオフェン分散体及び導電性フィルム

【課題】触媒量の酸化剤を利用した酸化重合によりポリチオフェンを合成する方法、該ポリチオフェンを含む分散体、及び導電性フィルムを提供する。
【解決手段】酢酸パラジウム(II)等のパラジウム系触媒及び酢酸銅(II)等の銅触媒と酸化剤として酸素の存在下で、3,4−エチレンジオキシチオフェン等の置換チオフェンを酸化重合するポリチオフェンの製造方法、及びポリチオフェンと、パラジウムと、ポリスルホン酸水溶液を含む分散体。該分散体から導電性フィルムが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリチオフェンの製造方法、ポリチオフェン分散体の製造方法、ポリチオフェン分散体及び導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリチオフェンは導電性や発光特性を有する機能性高分子として注目を集めている。特に、head−to−tailがそろった位置規則性の高いポリ(3−ヘキシルチオフェン)は高い電荷輸送能を有することが知られており、有機薄膜トランジスタや高分子薄膜太陽電池などの素子への応用が期待されている。
簡便な溶液重合によるポリチオフェンの合成法として酸化重合反応が挙げられる。例えば、特許文献1に、ポリアニオンの存在下において3,4−ジアルコキシチオフェン等をポリ酸の存在下で酸化重合するポリチオフェンの分散体の製造方法が記載されている。特許文献2には、導電性ポリマー先駆物質としてのチオフェンと、強酸、塩素酸塩または塩素酸、鉄の塩、および反応媒体の混合物を、重合条件下で反応させるポリチオフェンの製造方法が記載されている。特許文献3には、ポリ(ジオキシチオフェン)/ポリ(アクリルアミドアルキルスルホン酸)複合体及びそれらを製造するための酸化重合方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−90060号公報
【特許文献2】特表2001−523741号公報
【特許文献3】特表2005−508418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ポリチオフェンの合成法としての酸化重合は、塩化鉄(III)等の当量の酸化剤が必要となる。これらの酸化剤は、通常、実用の際に取り除く必要がある。また、酸化剤の使用量を減少させる場合でも、重合の際に、酸化剤等の添加剤をさらに加える必要がある。
本発明の目的は、触媒量の酸化剤を利用した酸化重合によりポリチオフェンを合成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、下記請求項1乃至14に係るポリチオフェンの製造方法、ポリチオフェン分散体の製造方法、ポリチオフェン分散体及び導電性フィルムが提供される。
請求項1に係る発明は、パラジウム系触媒と酸化剤の存在下で、チオフェンを酸化重合することを特徴とするポリチオフェンの製造方法である。
請求項2に係る発明は、前記パラジウム系触媒が、酢酸パラジウム(II)であることを特徴とする請求項1に記載のポリチオフェンの製造方法である。
請求項3に係る発明は、前記酸化剤が、酸素であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリチオフェンの製造方法である。
【0006】
請求項4に係る発明は、前記チオフェンが、下記式(1)で表される化合物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリチオフェンの製造方法である。
【0007】
【化1】

【0008】
(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換されることがある、炭素数1〜炭素数8のアルキル基、炭素数1〜炭素数8のアルコキシ基、炭素数1〜炭素数8のジオキシアルキレン基を表す。)
請求項5に係る発明は、前記式(1)におけるR及びRは、ヘキシル基、ヘキシルオキシ基、エチレンジオキシ基から選ばれることを特徴とする請求項4に記載のポリチオ
フェンの製造方法である。
請求項6に係る発明は、さらに、酢酸銅(II)を使用することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリチオフェンの製造方法である。
【0009】
請求項7に係る発明は、パラジウム系触媒、酸化剤及びポリスルホン酸の存在下で、水溶液中でチオフェンを酸化重合することを特徴とするポリチオフェン分散体の製造方法である。
請求項8に係る発明は、前記ポリスルホン酸が、ポリスチレンスルホン酸であることを特徴とする請求項7に記載のポリチオフェン分散体の製造方法である。
請求項9に係る発明は、前記チオフェンが、チオフェン骨格の3位及び4位に、それぞれ独立に、炭素数1〜炭素数8のアルキル基、炭素数1〜炭素数8のアルコキシ基、炭素数1〜炭素数8のジオキシアルキレン基が結合した3,4−ジ置換チオフェンであることを特徴とする請求項7又は8に記載のポリチオフェン分散体の製造方法である。
請求項10に係る発明は、前記チオフェンが、3,4−エチレンジオキシチオフェンであることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載のポリチオフェン分散体の製造方法である。
請求項11に係る発明は、前記パラジウム系触媒が、酢酸パラジウム(II)であり、前記酸化剤が、酸素であることを特徴とする請求項7乃至10のいずれか1項に記載のポリチオフェン分散体の製造方法である。
【0010】
請求項12に係る発明は、下記式(2)で表される構造単位を有するポリチオフェンと、パラジウムと、ポリスルホン酸水溶液と、を含むことを特徴とするポリチオフェン分散体である。
【0011】
【化2】

【0012】
(式(2)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換されることがある、炭素数1〜炭素数8のアルキル基、炭素数1〜炭素数8のアルコキシ基、炭素数1〜炭素数8のジオキシアルキレン基を表す。)
請求項13に係る発明は、前記式(2)におけるR及びRが、エチレンジオキシ基であることを特徴とする請求項12に記載のポリチオフェン分散体である。
【0013】
請求項14に係る発明は、請求項12又は13に記載のポリチオフェン分散体の塗布膜を所定の基板上に成膜し、当該塗布膜を乾燥して得られることを特徴とする導電性フィルムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来の当量の酸化剤が必要となる酸化重合と比較して、微量のパラジウム系触媒の使用によりポリチオフェンを合成することができる。これにより、重合反応が終了した後に、酸化剤などを除去するための精製工程が不要となる。
また、ポリスルホン酸水溶液を含むポリチオフェン分散体により、精製工程を経ることなく、導電性フィルムとしての性能を有するポリチオフェン薄膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1に示したポリ(3−ヘキシルチオフェン)のH−NMRスペクトルである。
【図2】実施例5に示したポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)のIRスペクトルである。
【図3】実施例7及び8で得られたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)薄膜のUV−可視吸収スペクトルである。
【図4】実施例7で得られたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)薄膜の調製方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。
【0017】
<ポリチオフェンの製造方法>
(チオフェン)
本実施の形態が適用されるポリチオフェンの製造方法で使用するチオフェンは、例えば、下記式(1)で表されるように、チオフェン環の3位及び4位に水素原子または置換基が結合した化合物が挙げられる。
【0018】
【化3】

【0019】
ここで、式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換されることがある、炭素数1〜炭素数8のアルキル基、炭素数1〜炭素数8のアルコキシ基、炭素数1〜炭素数8のジオキシアルキレン基を表す。R及びRは、互いに結合してもよい。
置換されることがある、炭素数1〜炭素数8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ペンチル基、オクチル基等が挙げられる。置換されることがある炭素数1〜炭素数8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられる。置換されることがある炭素数1〜炭素数8のジオキシアルキレン基としては、例えば、エチレンジオキシ基等が挙げられる。
これらの中でも、ヘキシル基、メトキシ基、ヘキシルオキシ基、3,4−エチレンジオキシ基が好ましい。
【0020】
式(1)で表される化合物としては、チオフェン骨格の3位及び4位に、それぞれ独立に、炭素数1〜炭素数8のアルキル基、炭素数1〜炭素数8のアルコキシ基、炭素数1〜炭素数8のジオキシアルキレン基が結合した3,4−ジ置換チオフェンが好ましい。
具体的には、例えば、3,4−ジアルキルチオフェン、3,4−ジアルコキシチオフェン、3,4−アルキレンジオキシチオフェン等が挙げられる。
具体的な化合物としては、例えば、3−ヘキシルチオフェン、3,4−ジヘキシルチオフェン、3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジヘキシルオキシチオフェン、3,4−メチレンジオキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3,4−プロピレンジオキシチオフェン等が挙げられる。これらの中でも、3,4−エチレンジオキシチオフェンが好ましい。
【0021】
(パラジウム触媒)
本実施の形態で使用するパラジウム触媒としては、特に限定されず、例えば、パラジウム触媒としては、特に限定されず、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)、ビス(トリシクロヘキシル)パラジウム(0)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジブロモビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロ[1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン]パラジウム(II)、ジクロロ[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム(II)、ジクロロ[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)等が挙げられる。これらの中でも、触媒活性の観点から、酢酸パラジウム(II)が好ましい。
【0022】
パラジウム触媒の使用量は、特に限定されないが、式(1)で示されるチオフェン化合物1モルに対して0.005当量〜0.5当量、好ましくは0.01当量〜0.1当量である。パラジウム触媒の使用量が過度に少ないと、酸化重合反応が進行しにくい傾向がある。また、パラジウム触媒の使用量が過度に多い場合、使用量に見合う効果が得られず経済的ではない。
【0023】
(銅触媒)
本実施の形態では、パラジウム触媒に加えて銅触媒を併用することが好ましい。銅触媒としては特に限定されず、例えば、金属銅、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅、硫酸第一銅、硫酸第二銅、酢酸第一銅、酢酸第二銅、ギ酸第一銅、ギ酸第二銅、酸化第一銅、酸化第二銅、銅(I)トリフレート、銅(I)メトキシド、銅(II)トリフレート、銅(II)メトキシド、銅(II)アセチルアセトナート、銅(II)ジピバロイルメタン等が挙げられる。これらの中でも、塩化第二銅、ヨウ化第一銅、酢酸第二銅が好ましく、酢酸第二銅がより好ましい。
銅触媒の使用量は、特に限定されないが、式(1)で示されるチオフェン化合物1モルに対して0.005当量〜0.5当量、好ましくは0.01当量〜0.1当量である。銅触媒の使用量が過度に少ないと、重合度が上がりにくい傾向がある。また、銅触媒の使用量が過度に多い場合、得られるポリチオフェンの精製が困難となる傾向がある。
【0024】
(酸化剤)
本実施の形態で使用する酸化剤としては、特に限定されず、例えば、空気または酸素、FeCl、Fe(ClO等の鉄(III)塩、有機酸及び有機残基を含む無機酸の鉄(III)塩、H、KCrO、過硫酸アルカリまたはアンモニウム、過ホウ酸アルカリ、過マンガン酸カリウム及び銅塩、四フッ化ホウ酸銅等が挙げられる。本実施の形態では、空気又は酸素が好ましい。
【0025】
(重合溶媒)
本実施の形態では、チオフェンの酸化重合は、溶液重合法、沈殿重合法、乳化重合法、懸濁重合法等により行うことが好ましい。これらの中でも、溶液重合法が好ましい。
酸化重合する際に使用できる重合溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等の塩素化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ジエチルベンゼン等の芳香族炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム、アニソール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン、シクロペンタン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル;γ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクタム等の複素環化合物;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルイミダゾリジノン、ピリジン、ニトロベンゼン等の含窒素化合物;二硫化炭素、ニトロメタン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物が挙げられる。これらの中でも、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、トルエン、ピリジン等が好ましい。
【0026】
さらに、本実施の形態では、チオフェンの酸化重合において、前述した重合溶媒に加え、トリフルオロ酢酸を併用している。重合溶媒と共にトリフルオロ酢酸を併用することにより、重合速度および重合度を上げることができる。
トリフルオロ酢酸の使用量は特に限定されないが、本実施の形態では、前述した重合溶媒に対し、5質量%〜50質量%、好ましくは10質量%〜20質量%である。
トリフルオロ酢酸の使用量が過度に少ないと、重合度が上がりにくい傾向がある。また、トリフルオロ酢酸以外に、例えば、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トルエンスルホン酸等を使用することができる。
【0027】
(チオフェンの酸化重合反応)
本実施の形態が適用されるポリチオフェンの製造方法は、所定の反応条件下で、下記に示す反応スキームに従い、パラジウム系触媒と酸化剤の存在下で、式(1)で表されるチオフェンを酸化重合することによりポリチオフェンを合成する。
【0028】
【化4】

【0029】
式(1)で表されるチオフェンの酸化重合を溶液重合法により行う場合、重合溶媒中のモノマーとしてのチオフェンの濃度は、通常、1質量%〜50質量%、好ましくは3質量%〜20質量%、より好ましくは5質量%〜15質量%である。
酸化重合反応を行う重合温度は、通常、0℃〜100℃、好ましくは20℃〜80℃、より好ましくは20℃〜50℃である。また、重合時間は、通常、1時間〜48時間、好ましくは6時間〜24時間、より好ましくは12時間〜24時間である。
本実施の形態では、チオフェンの酸化重合における酸化剤とし酸素を使用する場合、重合反応系中に酸素を存在させる方法としては、例えば、反応溶液を空気中で撹拌することにより空気中の酸素を反応溶液中に取り込む方法、反応溶液中に空気又は酸素を吹き込む方法等が挙げられる。
【0030】
(ポリチオフェン)
本実施の形態が適用されるチオフェンの製造方法により、下記(2)式で表される構造単位を有するポリチオフェンが得られる。
【0031】
【化5】

【0032】
ここで、式(2)中、R及びRは、前述した式(1)におけるR及びRと同様なものが挙げられる。
ポリチオフェンの分子量は、特に限定されないが、本実施の形態では、ゲルパミエーションクロマトグラム(GPC)の測定結果に基づき標準ポリスチレンに換算した数平均分子量(Mn)として、通常、1000以上である。また、標準ポリスチレンに換算した数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)とを用いて求めた分子量分散(Mw/Mn)は、通常、1.5〜4.0である。
ポリチオフェンの具体例としては、例えば、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘキシルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−メチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)等が挙げられる。これらの中でも、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)が好ましい。
【0033】
<ポリチオフェン分散体の製造方法>
次に、ポリチオフェン分散体の製造方法を説明する。本実施の形態が適用されるポリチオフェン分散体の製造方法は、パラジウム系触媒、酸化剤及びポリスルホン酸の存在下で、水溶液中でチオフェンを酸化重合することにより、ポリチオフェンが水溶液中に分散状態で存在する分散体が製造される。
【0034】
(ポリスルホン酸)
本実施の形態で使用するポリスルホン酸としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸等が挙げられる。これらの中でも、ポリスチレンスルホン酸が好ましい。
ポリスルホン酸の分子量は特に限定されないが、例えば、数平均分子量として、1,000〜2,000,000であり、好ましくは2,000〜500,000である。
また、本実施の形態では、ポリスルホン酸以外に、又はポリスルホン酸と共にポリカルボン酸を用いることもできる。ポリカルボン酸としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸等が挙げられる。
ポリスルホン酸は、通常、水溶液の形態で使用する。ポリスルホン酸水溶液中のポリスルホン酸の濃度は、特に限定されないが、通常、5質量%〜100質量%、好ましくは、10質量%〜30質量%である。
【0035】
(酸化重合反応)
本実施の形態では、通常、予め、ポリスルホン酸水溶液を調製し、この水溶液中にパラジウム系触媒、必要に応じて及び銅触媒を加えて水溶液を調製する。次に、この水溶液中に、モノマーとして式(1)で表されるチオフェンを加え、チオフェンモノマーとポリスルホン酸水溶液を含む分散液を調製する。続いて、大気下において、酸化剤としての空気によりチオフェンの酸化重合反応を行い、ポリチオフェン分散体を製造する。
以下に、チオフェンとして3,4−エチレンジオキシチオフェン、パラジウム触媒として酢酸パラジウム(II)、銅触媒として酢酸銅(II)、ポリスルホン酸としてポリスチレンスルホン酸、酸化剤として酸素を用い、水溶液中で酸化重合を行う場合の反応スキームを示す。
【0036】
【化6】

【0037】
本実施の形態において、水溶液中のモノマーとしての式(1)で表されるチオフェンの濃度は、通常、0.1質量%〜50質量%、好ましくは0.5質量%〜10質量%、より好ましくは1質量%〜5質量%である。
酸化重合反応を行う重合温度は、通常、0℃〜100℃、好ましくは20℃〜80℃、より好ましくは20℃〜50℃である。また、重合時間は、通常、1時間〜48時間、好ましくは6時間〜24時間、より好ましくは12時間〜24時間である。
本実施の形態では、水溶液中におけるチオフェンの酸化重合における酸化剤とし酸素を使用する場合、水溶液中に酸素を存在させる方法としては、例えば、水溶液を空気中で撹拌することにより空気中の酸素を水溶液中に取り込む方法、水溶液中に空気又は酸素を吹き込む方法等が挙げられる。
【0038】
(ポリチオフェン分散体)
上述したポリチオフェン分散体の製造方法によりポリチオフェン分散体が得られる。本実施の形態において、ポリチオフェン分散体中のポリチオフェンの濃度は、特に限定されないが、通常、0.5質量%〜10質量%、好ましくは、1質量%〜5質量%である。
ポリチオフェン分散体中のパラジウムの濃度は、特に限定されないが、通常、0.001質量%〜0.1質量%、好ましくは、0.005質量%〜0.05質量%である。
ポリチオフェン分散体中のポリスルホン酸の濃度は、特に限定されないが、通常、1質量%〜30質量%、好ましくは、2質量%〜10質量%である。
ポリチオフェン分散体における固形分の濃度は、特に限定されないが、通常、0.5質量%〜30質量%、好ましくは、1質量%〜10質量%である。
【0039】
<導電性フィルム>
本実施の形態が適用されるポリチオフェン分散体は、種々の方法により膜の形態に成形され、導電性フィルムとして使用することができる。成膜方法としては特に限定されないが、例えば、ポリチオフェン分散体を平坦な基板に広げ、分散体に含まれる水分を蒸発させてフィルムを得るキャスト法が挙げられる。
本実施の形態では、このようにして得られる導電性フィルムの体積抵抗は、0.1Ω.cm〜10,000Ω.cmである。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例に基づき本実施の形態をさらに詳細に説明する。尚、本実施の形態は以下の実施例に限定されない。
【0041】
(実施例1)
<ポリ(3−ヘキシルチオフェン)の合成1>
モノマーとして3−ヘキシルチオフェン0.421g(2.5mmol)、触媒として酢酸パラジウム(II)55mg(10mol%)及び酢酸銅(II)45mg(10mol%)を二口フラスコ内に入れ、続いて、容器内を酸化剤としての酸素で置換した。次に、クロロホルム5mlとトリフルオロ酢酸1mlを加え、50℃で24時間激しく撹拌し、3−ヘキシルチオフェンの酸化重合反応を行った。
反応終了後、反応溶液を水で洗浄し、有機層を濃縮した。得られたポリマーをメタノールにより洗浄した後、乾燥し、黒色のポリマーを0.164g(収率40%)得た。
得られたポリマーのプロトン核磁気共鳴(H−NMR)スペクトル測定により、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)が得られたことを確認した。H−NMRの測定結果を図1に示す。また、得られたポリマーをGPCにより測定した結果、標準ポリスチレン換算で、数平均分子量4,000、分子量分散(Mw/Mn)1.75であった。
【0042】
(実施例2)
<ポリ(3−ヘキシルチオフェン)の合成2>
実施例1において、触媒の使用量を、酢酸パラジウム(II)5.5mg(1mol%)及び酢酸銅(II)4.5mg(1mol%)に変更し、反応温度を70℃に変更し、それ以外は実施例1と同様な条件で3−ヘキシルチオフェンの酸化重合反応を行った。
反応終了後、反応溶液を水で洗浄し、有機層を濃縮した。得られたポリマーをメタノールにより洗浄した後、乾燥し、黒色のポリマーを0.071g(収率17%)得た。
得られたポリマーのH−NMR測定により、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)が得られたことを確認した。また、得られたポリマーをGPCにより測定した結果、標準ポリスチレン換算で、数平均分子量2,000、分子量分散(Mw/Mn)1.91であった。
【0043】
(実施例3)
<ポリ(3,4−ジヘキシルチオフェン)の合成>
モノマーとして3,4−ジヘキシルチオフェン0.25g(1mmol)、触媒として酢酸パラジウム(II)22mg(10mol%)及び酢酸銅(II)18mg(10mol%)を二口フラスコ内に入れ、続いて、容器内を酸化剤としての酸素で置換した。次に、クロロホルム5mlとトリフルオロ酢酸1mlを加え、50℃で24時間激しく撹拌し、3−ヘキシルチオフェンの酸化重合反応を行った。
反応終了後、反応溶液を水で洗浄し、有機層を濃縮した。得られたポリマーをメタノー
ルにより洗浄した後、乾燥し、黒色のポリマーを0.073g(収率29%)得た。
得られたポリマーのH−NMR測定により、ポリ(3,4−ジヘキシルチオフェン)が得られたことを確認した。また、得られたポリマーをGPCにより測定した結果、標準ポリスチレン換算で、数平均分子量1,000、分子量分散(Mw/Mn)1.88であった。
【0044】
(実施例4)
<ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)の合成>
モノマーとして3,4−ジメトキシチオフェン0.36g(2.5mmol)、触媒として酢酸パラジウム(II)28mg(5mol%)及び酢酸銅(II)23mg(5mol%)を二口フラスコ内に入れ、続いて、容器内を酸化剤としての酸素で置換した。次に、クロロホルム5mlとトリフルオロ酢酸1mlを加え、50℃で24時間激しく撹拌し、3,4−ジメトキシチオフェンの酸化重合反応を行った。
反応終了後、反応溶液を水で洗浄し、有機層を濃縮した。得られたポリマーをメタノールにより洗浄した後、乾燥し、黒色のポリマーを0.272g(収率76%)得た。
得られたポリマーのH−NMR測定により、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)が得られたことを確認した。また、得られたポリマーをGPCにより測定した結果、標準ポリスチレン換算で、数平均分子量1,000、分子量分散(Mw/Mn)2.06であった。
【0045】
(実施例5)
<ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の合成1>
モノマーとして3,4−エチレンジオキシチオフェン0.71g(5mmol)、触媒として酢酸パラジウム(II)11mg(1mol%)及び酢酸銅(II)9mg(1mol%)を二口フラスコ内に入れ、続いて、容器内を酸化剤としての酸素で置換した。次に、クロロホルム5mlとトリフルオロ酢酸1mlを加え、50℃で24時間激しく撹拌し、3,4−エチレンジオキシチオフェンの酸化重合反応を行った。
反応終了後、反応溶液を水で洗浄し、有機層を濃縮した。得られたポリマーをメタノールにより洗浄した後、乾燥し、黒色のポリマーを0.071g(収率10%)得た。
得られたポリマーの赤外線(IR)吸収スペクトル測定により、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)が得られたことを確認した。IRの測定結果を図2に示す。
【0046】
(実施例6)
<ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の合成2>
実施例5において、触媒の使用量を、酢酸パラジウム(II)1.1mg(0.1mol%)及び酢酸銅(II)0.9mg(0.1mol%)に変更し、それ以外は実施例5と同様な条件で3−ヘキシルチオフェンの酸化重合反応を行った。
反応終了後、反応溶液を水で洗浄し、有機層を濃縮した。得られたポリマーをメタノールにより洗浄した後、乾燥し、黒色のポリマーを0.062g(収率9%)得た。
得られたポリマーのH−NMR測定により、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)が得られたことを確認した。
【0047】
(実施例7)
<ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)分散体の合成1>
フラスコ中に、ポリスチレンスルホン酸水溶液(18重量%)10gと蒸留水10mLを加え、次いで、触媒として酢酸パラジウム(II)11mg(1mol%)及び酢酸銅(II)9mg(1mol%)加えて水溶液を調製した。
次に、この水溶液中に、モノマーとして3,4−エチレンジオキシチオフェン0.71g(5mmol)加え、ホモジェナイザーを用いてよく分散させ、3,4−エチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸水溶液を含む分散液を調製した。続いて、調製した分散液をメカニカルスターラーにより300rpmで撹拌し、大気下において、50℃で24時間の条件で、酸化剤としての空気により3,4−エチレンジオキシチオフェンの酸化重合反応を行った。
【0048】
反応終了後、室温まで冷却し、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を含む濃青色のポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)分散体を得た。得られた分散体は6ヶ月間安定に分散状態を維持し、沈澱物は殆ど見られなかった。
さらに、このポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)分散体に蒸留水を加えて希釈液(濃度1重量%)を調製した。次いで、この希釈液をガラス基板上にスピンキャスト(1500rpm,30秒)し、ガラス基板上に塗布膜を成膜した。続いて、この塗布膜を200℃で1時間加熱処理を行い、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の薄膜を得た。得られた薄膜の体積抵抗を測定した結果、1260Ω・cmであった。
得られた薄膜の紫外線(UV)−可視吸収スペクトルを測定した結果、波長800nm以上の波長領域においてポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の吸収に由来するブロードな吸収が観察された。図3に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)薄膜のUV−可視吸収スペクトルを示す。また、図4は、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)薄膜の調製方法を説明する図である。
【0049】
(実施例8)
<ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)分散体の合成2>
実施例7において、触媒の使用量を、酢酸パラジウム(II)1.1mg(0.1mol%)及び酢酸銅(II)0.9mg(0.1mol%)に変更し、それ以外は実施例7と同様な条件で3,4−エチレンジオキシチオフェンの酸化重合反応を行って、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を含む濃青色のポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)分散体を得た。
さらに、得られたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)分散体を用いて、実施例7と同様な操作により、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の薄膜を得た。
得られた薄膜の体積抵抗を測定した結果、1630Ω・cmであった。また、実施例7と同様に、得られた薄膜の紫外線(UV)−可視吸収スペクトルを測定した結果、波長800nm以上の波長領域においてポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の吸収に由来するブロードな吸収が観察された。図3に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)薄膜のUV−可視吸収スペクトルを示す。
【0050】
以上、詳述したように、本実施の形態が適用されるポリチオフェンの製造方法では、従来の酸化剤による酸化重合と比較して、微量のパラジウム系触媒の使用によりポリチオフェンを合成する。これにより、重合反応が終了した後に、酸化剤などを除去するための精製工程が不要となる。
また、ポリスルホン酸水溶液を含むポリチオフェン分散体を用い、精製工程を経ることなく得られるポリチオフェン薄膜は、導電性フィルムとしての性能を有する。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明により得られるポリチオフェン薄膜は、帯電防止フィルムや、有機ELに代表される電子デバイスへの応用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム系触媒と酸化剤の存在下で、チオフェンを酸化重合することを特徴とするポリチオフェンの製造方法。
【請求項2】
前記パラジウム系触媒が、酢酸パラジウム(II)であることを特徴とする請求項1に記載のポリチオフェンの製造方法。
【請求項3】
前記酸化剤が、酸素であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリチオフェンの製造方法。
【請求項4】
前記チオフェンが、下記式(1)で表される化合物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリチオフェンの製造方法。
【化1】

(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換されることがある、炭素数1〜炭素数8のアルキル基、炭素数1〜炭素数8のアルコキシ基、炭素数1〜炭素数8のジオキシアルキレン基を表す。)
【請求項5】
前記式(1)におけるR及びRは、ヘキシル基、ヘキシルオキシ基、エチレンジオキシ基から選ばれることを特徴とする請求項4に記載のポリチオフェンの製造方法。
【請求項6】
さらに、酢酸銅(II)を使用することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリチオフェンの製造方法。
【請求項7】
パラジウム系触媒、酸化剤及びポリスルホン酸の存在下で、水溶液中でチオフェンを酸化重合することを特徴とするポリチオフェン分散体の製造方法。
【請求項8】
前記ポリスルホン酸が、ポリスチレンスルホン酸であることを特徴とする請求項7に記載のポリチオフェン分散体の製造方法。
【請求項9】
前記チオフェンが、チオフェン骨格の3位及び4位に、それぞれ独立に、炭素数1〜炭素数8のアルキル基、炭素数1〜炭素数8のアルコキシ基、炭素数1〜炭素数8のジオキシアルキレン基が結合した3,4−ジ置換チオフェンであることを特徴とする請求項7又は8に記載のポリチオフェン分散体の製造方法。
【請求項10】
前記チオフェンが、3,4−エチレンジオキシチオフェンであることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載のポリチオフェン分散体の製造方法。
【請求項11】
前記パラジウム系触媒が、酢酸パラジウム(II)であり、前記酸化剤が、酸素であることを特徴とする請求項7乃至10のいずれか1項に記載のポリチオフェン分散体の製造方法。
【請求項12】
下記式(2)で表される構造単位を有するポリチオフェンと、
パラジウムと、
ポリスルホン酸水溶液と、
を含むことを特徴とするポリチオフェン分散体。
【化2】

(式(2)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換されることがある、炭素数1〜炭素数8のアルキル基、炭素数1〜炭素数8のアルコキシ基、炭素数1〜炭素数8のジオキシアルキレン基を表す。)
【請求項13】
前記式(2)におけるR及びRが、エチレンジオキシ基であることを特徴とする請求項12に記載のポリチオフェン分散体。
【請求項14】
請求項12又は13に記載のポリチオフェン分散体の塗布膜を所定の基板上に成膜し、当該塗布膜を乾燥して得られることを特徴とする導電性フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−99010(P2011−99010A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253127(P2009−253127)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年5月12日 社団法人 高分子学会発行の「第58回 高分子学会年次大会予稿集58巻1号(CD−ROM)」に発表
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】