説明

ポリチオフェン誘導体の金属表面への化学修飾固定化方法

【課題】 導電性ポリマーの一つであるポリチオフェン誘導体を金属表面基材の金属表面に化学的に結合させ簡便により強固に固定する方法を提供する。
【解決手段】 上記方法を、一般式(I)
【化1】


[式中、R及びRは水素原子又は炭素数1〜22の飽和炭化水素基であって、共に水素原子であることはなく、Rは共に水素原子又は一般式(II)
【化2】


(式中、Rは炭化水素基、XはSe又はS)
で表わされる基であり、nは10以上の数である]
で表わされるポリチオフェン誘導体を、その有機溶媒溶液に酸の存在下及び/又は光照射下で金属表面基材を接触させることにより、化学修飾させて金属表面に結合させ固定化するものや、他のポリチオフェン誘導体溶液をアルカリ下に同様に接触させるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料、光学材料、EL材料、センサー、電気製品及び測定機器等に用いられる導電性ポリマーのポリチオフェンの誘導体を金属表面へ化学修飾させて固定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年技術の進歩にともなって、さまざまな分野で新材料の開発が行われてきている。その一つに有機材料の特徴を活かしたしなやかな電子材料(flexible display、e−paper、e−book等)がある。これらの材料をデバイスとして使用するためには、ポリマー材料の配線金属等の基材における固定化、界面制御、配列技術が必須となる。
【0003】
導電性ポリマーの固定に関しては、キャスト法、スピンコート法など物理吸着を用いた手法や、イオン相互作用を用いた手法、流動配向法、延伸法、ラビング法等が知られている(非特許文献1、2参照)。また、表面上のモノマー分子に電気的な刺激を与えポリマー化して配列の揃ったポリマー膜を形成させる手法も知られている(非特許文献3参照)。
しかし、これらの手法は基材とポリマーとの相互作用が基本的に物理吸着であるので、機械的および電子的接合が弱く、固定化が十分強固ではないという問題がある。
【0004】
【非特許文献1】「光・電子機能有機材料ハンドブック」、堀江一之他編、朝倉書店発行、p.113〜159、1995
【非特許文献2】「表面・界面工学大系基礎編、上巻」、本多健一編、ブジテクノシステム発行、p.427〜441、2005
【非特許文献3】「J.Chem.Phys.」、115巻、p.2317〜2322、2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような事情の下、導電性ポリマーを金属表面基材の金属表面に簡便により強固に固定する技術の開発が重要視されている。
本発明の課題は、導電性ポリマーの一つであるポリチオフェン誘導体を金属表面基材の金属表面に化学的に結合させ簡便により強固に固定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定のポリチオフェン誘導体の有機溶媒溶液に特定条件下で金属表面基材を接触させることにより、該ポリチオフェン誘導体を化学修飾させて金属表面に結合させ固定化しうることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) 一般式(I)
【化1】

[式中、R1及びR2は水素原子又は炭素数1〜22の飽和炭化水素基であって、共に水素原子であることはなく、Rは共に水素原子又は一般式(II)
【化2】

(式中、R3は炭化水素基、XはSe又はSである)
で表わされる基であり、nは10以上の数である]
で表わされるポリチオフェン誘導体を、その有機溶媒溶液に酸の存在下及び/又は光照射下で金属表面基材を接触させることにより、化学修飾させて金属表面に結合させ固定化することを特徴とするポリチオフェン誘導体の金属表面への化学修飾固定化方法。
(2) 飽和炭化水素基がアルキル又はシクロアルキルである前記(1)記載の方法。
(3) 炭化水素基がs−ブチル、t−ブチル、トリエチルメチル、ベンジル、ジフェニルメチル又はトリフェニルメチルである前記(1)又は(2)記載の方法。
(4) 有機溶媒が炭化水素溶媒である前記(1)ないし(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 炭化水素溶媒が芳香族炭化水素溶媒である前記(4)記載の方法。
(6) 酸が有機カルボン酸、有機スルホン酸及び有機ホスホン酸の中から選ばれた有機酸である前記(1)ないし(5)のいずれかに記載の方法。
(7) 有機カルボン酸がトリフルオロ酢酸又は酢酸である前記(6)記載の方法。
(8) 酸が硫酸、硝酸、フッ酸、塩酸、臭化水素酸及びヨウ化水素酸の中から選ばれた無機酸である前記(1)ないし(5)のいずれかに記載の方法。
(9) 光が紫外光又は可視光である前記(1)ないし(8)のいずれかに記載の方法。
(10) 一般式(III)
【化3】

(式中、R1及びR2は水素原子又は炭素数1〜22の飽和炭化水素基であって、共に水素原子であることはなく、R4は炭化水素基であり、XはSe又はSであり、nは10以上の数である)
で表わされるポリチオフェン誘導体を、その有機溶媒溶液にアルカリの存在下金属表面基材を接触させることにより、化学修飾させて金属表面に結合させ固定化することを特徴とするポリチオフェン誘導体の金属表面への化学修飾固定化方法。
(11) 飽和炭化水素基がアルキル又はシクロアルキルである前記(10)記載の方法。
(12) 炭化水素基がメチル又はフェニルである前記(10)又は(11)記載の方法。
(13) 有機溶媒が炭化水素溶媒である前記(10)ないし(12)のいずれかに記載の方法。
(14) 炭化水素溶媒が芳香族炭化水素溶媒である前記(13)記載の方法。
(15) アルカリがアルカリ金属水酸化物、アンモニア又はアミンである前記(10)ないし(14)のいずれかに記載の方法。

(16) アミンがジエチルアミン、ピロリジン又はモルホリンである前記(15)記載の方法。
(17) 金属が金、銀、銅、パラジウム又は白金である前記(1)ないし(16)のいずれかに記載の方法。
【0008】
本発明方法に用いられる、前記一般式(I)または(III)で表わされるポリチオフェン誘導体において、R1及びR2のいずれか一方又は両方が炭素数1〜22の飽和炭化水素基であり、この飽和炭化水素基としては、アルキル基又はシクロアルキル基が好ましく、その炭素数は6〜18であるのが好ましい。また、重合度を示すnは10以上、好ましくは10〜1000である。ポリチオフェンとして無置換のものは、溶解性に難があり、取扱い性に問題があるが、上記ポリチオフェン誘導体は溶解性が良好であり、取扱いやすい点で優れている。
【0009】
この一般式(I)のポリチオフェン誘導体のうち、Rが共に一般式(II)で表わされる基であるものは新規であり、R3の炭化水素基はカルコゲンに属するSe又はSの保護基として機能するものであれば特に制限されず、このようなものとしては、s−ブチル、t−ブチル、トリエチルメチル、ベンジル、ジフェニルメチル又はトリフェニルメチルが好ましい。
この新規ポリマーは、一般式(IV)
【化4】

(式中、R1及びR2は水素原子又は炭素数1〜22の飽和炭化水素基であって、共に水素原子であることはなく、R3は炭化水素基であり、XはSe又はSであり、nは10以上の数である)
で表わされ、これは、一般式(V)
【化5】

(式中、R1及びR2は水素原子又は炭素数1〜22の飽和炭化水素基であって、共に水素原子であることはなく、nは10以上の数である)
で表わされるポリチオフェン誘導体を、有機溶媒中、ホルムアミド類及びPOCl3と反応させ、該誘導体の末端水素原子をホルミル基で置換させ、次いで、このホルミル置換ポリチオフェン誘導体を、有機溶媒中、一般式(VI)
【化6】

(式中、R3は炭化水素基、R5はアルキル基、XはSe又はSである)
で表わされる化合物と反応させることによって製造することができる。
製造法の一例を以下の反応式により示す。
【化7】

ここで、R1は水素原子、R2はn−ドデシルであり、また、(i)、(ii)の反応条件は次のとおりである。
(i)POCl3、N−メチルホルムアニリド、トルエン、75℃還流
(ii)4−t−ブチルセレノフェニルメチルホスホン酸ジエチルエステル、t−BuOK、THF
【0010】
また、一般式(III)のポリチオフェン誘導体は新規であり、R4の炭化水素基はR4COのアシル基の形でカルコゲンに属するSe又はSの保護基として機能するものであれば特に制限されず、このようなアシル基としては、アセチル基のような脂肪族アシル基や、ベンゾイル基のような芳香族アシル基が好ましい。
この新規ポリマーは、一般式(V)
【化8】

(式中、R1及びR2は水素原子又は炭素数1〜22の飽和炭化水素基であって、共に水素原子であることはなく、nは10以上の数である)
で表わされるポリチオフェン誘導体に、有機溶媒中、アルキル化アルカリ金属化合物を加え、さらにセレン又は硫黄を加え次いで一般式
4COCl
(式中、R4は炭化水素基である)
で表わされる化合物を加えて反応させることによって製造することができる。
製造法の一例を以下の反応式により示す。
【化9】

ここで、R1は水素原子、R2はn−ドデシルである。
これらの製造方法に用いられる有機溶媒としては、炭化水素溶媒、テトラヒドロフランが好ましく、炭化水素溶媒は芳香族炭化水素溶媒、例えばトルエン、ベンゼン、キシレン等が好ましい。
【0011】
本発明方法においては、これらのポリチオフェン誘導体は有機溶媒に溶解させた溶液にして用いられる。この有機溶媒としては、ポリチオフェン誘導体の溶解能に優れたものであれば特に制限されないが、炭化水素溶媒が好ましく、脂肪族炭化水素も用いうるが、とりわけ芳香族炭化水素溶媒、例えばトルエン、ベンゼン、キシレン等が好適に用いられる。
【0012】
本発明方法において、一般式(I)のポリチオフェン誘導体については、上記のように溶液にし、この溶液に酸の存在下及び/又は光照射下で金属表面基材を接触させる。この接触処理は、好ましくは該溶液に金属表面基材を浸したり、さらしたりすることにより行われ、通常室温で1分〜20時間、好ましくは30分〜10時間行われ、必要に応じ適度に加温することにより処理時間を短かくすることができる。
【0013】
この際、酸を用いる場合、酸としては、無機酸、例えば硫酸、硝酸、フッ酸、塩酸、臭化水素酸及びヨウ化水素酸なども用いられるが、好ましくは有機酸、例えばトリフルオロ酢酸や酢酸等の有機カルボン酸、メチルスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機スルホン酸、メチルホスホン酸等の有機ホスホン酸などが用いられ、また、強酸が好ましく、中でもトリフルオロ酢酸がよい。
酸の用量については、ポリチオフェン誘導体に対し、モル比で通常10〜10000、好ましくは100〜1000の範囲で選ばれる。
【0014】
また、光を用いる場合、光としては紫外光又は可視光が好ましく、さらに上記の酸を併用するのが処理効率を向上させうるので特に好ましい。
光照射量は、ポリチオフェン誘導体に対し、その1μM/L当り、通常0.1μW/cm2〜0.1W/cm2、好ましくは10μW/cm2〜10mW/cm2の範囲で選ばれる。
【0015】
一般式(I)のポリチオフェン誘導体については、このようにして接触させることにより、一般式(IV)の新規ポリマーの場合はそのSeやSの保護基が脱離され、また、該ポリマー以外の場合はその主鎖の一部にチオレートが形成されるなど化学修飾されて金属表面に化学結合し固定化される。
一般式(I)のポリチオフェン誘導体のうち、新規ポリマーの方が処理効率を向上させうるので特に好ましい。
【0016】
一般式(III)の新規ポリチオフェン誘導体については、上記のように溶液にし、この溶液にアルカリの存在下で金属表面基材を接触させる。この接触処理は、好ましくは該溶液に金属表面基材を浸したり、さらしたりすることにより行われ、通常室温で5分〜24時間、好ましくは30分〜12時間行われ、必要に応じ適度に加温することにより処理時間を短かくすることができる。
【0017】
アルカリとしては、アルカリ金属水酸化物、アンモニア又はアミンなどが用いられ、アミンの例にはジエチルアミン、ピロリジン、モルホリンなどが挙げられ、中でもピロリジンが好ましい。
アルカリの用量については、ポリチオフェン誘導体に対し、モル比で通常10〜10000好ましくは50〜500の範囲で選ばれる。
一般式(III)のポリチオフェン誘導体については、このようにして接触させることにより、そのSeやSの保護基が脱離されるなど化学修飾されて金属表面に化学結合し固定化される。
【0018】
本発明方法に用いられる金属表面基材における金属としては、例えば金、銀、銅、パラジウム、白金などが挙げられる。
本発明方法の種々の固定化法は、使用されるポリチオフェン誘導体の種類や接触処理条件等により、適用金属の種類による処理効率に差が見られ、金属種により好適な固定化法を採ることができる。
例えば、銀では一般式(I)のポリチオフェン誘導体のうちRが共に水素原子であるものを用い、接触処理を酸、好ましくは強酸、より好ましくは強酸の有機酸、特にトリフルオロ酢酸の存在下で行うのが効果的である。
また、金では一般式(I)のポリチオフェン誘導体のうちの新規ポリマーを用い、その置換基におけるカルコゲンがSである場合、強酸の無機酸を用いるか、保護基をトリフェニルメチル基とするとともにトリフルオロ酢酸を用いて接触処理を行うのが効果的であり、また、置換基におけるカルコゲンがSeである場合、強酸、中でもトリフルオロ酢酸を用いて接触処理を行うのが効果的であり、さらに酢酸も保護基をトリフェニルメチル基とすれば有効である。
【0019】
なお、本発明において用いられるポリチオフェン誘導体、特にセレン含有物は金属と有機物との接合能力に長けており有用であるが、一般に有毒とされ注意が必要である。接触処理操作においてドラフトもしくはケミカルトラップによる化合物の捕捉が重要である。この方法として、低温もしくはケミカル(希釈過酸化水素水もしくは希アルカリ水溶液)によるトラップによるセレン含有物、揮発性物質の捕捉が有効である。さらにセレン含有物のリサイクルなど作製装置、環境に十分考慮して行うべきである。従って、製品として用いる時の取り扱い、廃棄する際の回収方法も現在既存の技術を駆使して十分対処すべきである。酸化セレン系化合物として変換し、酸で溶解処理それを沈殿回収、さらに精製するなど、産業界における再利用(リサイクル)の構築も大切である。
【発明の効果】
【0020】
本発明方法によれば、ポリマーを化学的に活性化させて修飾させ金属表面に化学結合させて簡便に固定することができるため、コストがさしてかからないし、また、化学修飾によるため、機械的な強度の強化、界面における電子的な接合の向上、新しい置換基導入による光学的物性の改質が図れるなどの利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、実施例により本発明を実施するための最良の形態を説明するが、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。すなわち、本発明の手法の範囲内での固定条件および反応条件の変更及び他の態様又は実施例は、全て本発明に含まれる。
製造例1
ポリ(3−n−ドデシルチオフェン−2,5−ジイル)(Aldrich 450650−1G、MW162000)0.3g(約1.9μmol)をトルエン80mlに溶解した溶液に、アルゴン雰囲気下N−メチルホルムアニリド2.2g(16.2mmol)とPOCl32.1g(13.9mmol)を加え、混合物を75℃で24時間攪拌した。混合物を室温に冷却したのち、生成混合物に酢酸ナリトウムの飽和水溶液を加え、溶液をさらに2時間攪拌した。水性層を除去したのち、ポリマーをメタノールで析出させ、遠心分離により捕集し、メタノールを用いてソックスレー抽出で精製した。真空乾燥後、CHO末端キャップのポリマーであるポリ(3−n−ドデシルチオフェン)−α,ω−ジアルデヒド0.28gを得た(収率93%)。このポリマーの核磁気共鳴スペクトルの分析結果を以下に示す。
1H NMR(500MHz,CDCl3,ppm):δ0.87(t,J=6.8Hz,3HMe),1.26(m,14HCH2),1.36(m,2HCH2),1.43(m,2HCH2),1.70(m,2HCH2),2.80(m,2HCH2),6.98(s,1Harom),10.01(s,HCHO
氷浴で冷却された、無水テトラヒドロフラン4ml中の上記ポリマー0.1gと4−t−ブチルセレノフェニルメチルホスホン酸ジエチルエステル0.1g(0.28mmol)の混合物にt−BuOK0.05g(0.45mmol)をアルゴン雰囲気下少しずつ加え、室温で24時間攪拌し、反応混合物に水を加えた。得られたポリマーをメタノールで析出させ、ろ過した。真空乾燥後、α,ω−ビス(2−t−ブチルセレノフェニル−エチレン−1−イル)−ポリ−(3−n−ドデシルチオフェン)0.1gを得た。このポリマーの核磁気共鳴スペクトルの分析結果を以下に示す。
1H NMR(500MHz,CDCl3,ppm):δ0.87(t,J=6.7Hz,3HMe),1.25(m,14HCH2),1.35(m,2HCH2),1.42(m,2HCH2),1.70(m,2HCH2),2.80(m,2HCH2),6.98(s,1Harom),7.41(d,J=8.1Hz,Hbenzene),7.61(d,J=7.9Hz,Hbenzene
製造例2
ポリ(3−n−ドデシルチオフェン−2,5−ジイル)(Aldrich 450650−1G、MW162000)0.2g(約1.2μmol)をテトラヒドロフラン50mlに溶解した溶液に、過剰のn−ブチルリチウムを0℃で加え、30分攪拌した。生成混合物に室温で過剰のセレン粉末を加え、さらに1時間後、テトラヒドロフラン中の過剰のアセチルクロライドを加えて反応させた。溶媒の半分を留去し、ポリマーをメタノールで析出させ、遠心分離により捕集した。得られたものを、同様に二回析出、遠心分離して精製した。得られた暗褐色物を真空乾燥したのち、ビス(アセチルセレノ)−ポリ(3−n−ドデシルチオフェン)0.22gを固体として得た。このポリマーの核磁気共鳴スペクトルの分析結果を以下に示す。
1H NMR(500MHz,CDCl3,ppm):δ0.87(t,J=6.8Hz,3HMe),1.26(m,14HCH2),1.36(m,2HCH2),1.43(m,2HCH2),1.70(m,2HCH2),2.44(s,Hacetyl),2.80(m,2HCH2),6.98(s,1Harom
【実施例1】
【0022】
ポリ−(3−n−ドデシルチオフェン)(分子量Mw:約10万)をトルエンに溶解し、10-4g/mlの濃度の溶液10mlを調製した。このポリチオフェン誘導体の溶液に、シリコン板上にスパッタにより銀膜を成膜させた金属表面基板を浸し、さらにトリフルオロ酢酸のトルエン溶液(濃度約1mM)を1ml加え、室温で6時間放置した。基板をひきあげ、トルエン、テトラヒドロフランで洗浄するとポリマーの主鎖の一部がチオレートを形成して金属表面に化学結合していた。この結合状態はXPS 硫黄S2pシグナル:チオレートに対応する約162eVおよびポリマー骨格に存在するチオフェンSに対応する約164eVにより確認された(図1)。ポリチオフェン由来の炭素C1sも確認された。
【実施例2】
【0023】
製造例1で得たα,ω−ビス(2−t−ブチルセレノフェニル−エチレン−1−イル)−ポリ−(3−n−ドデシルチオフェン)をトルエンに溶解し、10-4g/mlの濃度の溶液10mlを調製した。このポリチオフェン誘導体の溶液に、シリコン板上にスパッタにより、もしくはマイカ板上に真空蒸着により金(111)膜を成膜させた金属表面基板を浸し、さらにトリフルオロ酢酸のトルエン溶液(濃度約1mM)を1ml加え、室温で6時間放置した。基板をひきあげ、トルエン、テトラヒドロフランで洗浄するとt−ブチルセレノ基のブチル保護基が脱離されポリマーが金属表面に化学結合していた。この結合状態はXPSチオレートS2pシグナル、ポリマー骨格中のチオフェンSおよびSeシグナルにより確認された。ポリチオフェン由来の炭素C1sも確認された。この場合、暗所下で又はさらに酸存在下で調製したサンプルと比較してシグナルの強度が大きいことから、この手法による固定化の有利性が分かる。
【実施例3】
【0024】
ポリ−(3−n−ドデシルチオフェン)(分子量Mw:約10万)をトルエンに溶解し、10-4g/mlの濃度の溶液10mlを調製した。このポリチオフェン誘導体の溶液に、トリフルオロ酢酸のトルエン溶液(濃度約1mM)を1ml加え、シリコン板上にスパッタにより銀膜を成膜させた金属表面基板を浸し、さらに高圧水銀灯およびハロゲンランプを用いて紫外光から可視光を室温で6時間照射した。基板をひきあげ、トルエン、テトラヒドロフランで洗浄すると、XPSからポリマー主鎖の一部がチオレートを形成して化学結合していることがわかった。完全な暗所下で同様の実験を行うとこの化学結合は進行が遅く、光による反応促進が判明した。
【実施例4】
【0025】
製造例2で得たビス(アセチルセレノ)−ポリ(3−n−ドデシルチオフェン)をテトラヒドロフラン/ジクロロエチレン(7/3)に溶解し、10-4g/mlの濃度の溶液10mlを調製した。このポリチオフェン誘導体の溶液に、シリコン板上にスパッタにより、もしくはマイカ板上に真空蒸着により金(111)膜を成膜させた金属表面基板を浸し、さらにピロリジンのジクロロエチレン溶液(濃度約1mM)を1ml加え、室温で6時間放置した。基板をひきあげ、テトラヒドロフラン、ジクロロエチレンで洗浄するとアセチル保護基が脱離してポリマーが金属表面に化学結合していた。この結合状態はXPSセレンSe 3pシグナル;約160eVと166eVおよびポリマー骨格中のチオフェンSに対応する、約164eVにより確認された。ポリチオフェン由来の炭素C1sも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明方法は、ポリチオフェン誘導体を簡便にかつ超薄膜及び微細な部品加工に用いることできるので、薄膜型トランジスタのソースドレイン接合部分、EL素子の界面改質、金属表面へのコーティング、微弱な光センサー材料、記録媒体用の薄膜、しなやかな電子ペーパー、電子ブック、ロボット工学用の触圧センサーの部品などに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に用いられるポリチオフェン誘導体の結合を示すXPSスペクトル図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

[式中、R1及びR2は水素原子又は炭素数1〜22の飽和炭化水素基であって、共に水素原子であることはなく、Rは共に水素原子又は一般式(II)
【化2】

(式中、R3は炭化水素基、XはSe又はSである)
で表わされる基であり、nは10以上の数である]
で表わされるポリチオフェン誘導体を、その有機溶媒溶液に酸の存在下及び/又は光照射下で金属表面基材を接触させることにより、化学修飾させて金属表面に結合させ固定化することを特徴とするポリチオフェン誘導体の金属表面への化学修飾固定化方法。
【請求項2】
飽和炭化水素基がアルキル又はシクロアルキルである請求項1記載の方法。
【請求項3】
炭化水素基がs−ブチル、t−ブチル、トリエチルメチル、ベンジル、ジフェニルメチル又はトリフェニルメチルである請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
有機溶媒が炭化水素溶媒である請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
炭化水素溶媒が芳香族炭化水素溶媒である請求項4記載の方法。
【請求項6】
酸が有機カルボン酸、有機スルホン酸及び有機ホスホン酸の中から選ばれた有機酸である請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
有機カルボン酸がトリフルオロ酢酸又は酢酸である請求項6記載の方法。
【請求項8】
酸が硫酸、硝酸、フッ酸、塩酸、臭化水素酸及びヨウ化水素酸の中から選ばれた無機酸である請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
光が紫外光又は可視光である請求項1ないし8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
一般式(III)
【化3】

(式中、R1及びR2は水素原子又は炭素数1〜22の飽和炭化水素基であって、共に水素原子であることはなく、R4は炭化水素基であり、XはSe又はSであり、nは10以上の数である)
で表わされるポリチオフェン誘導体を、その有機溶媒溶液にアルカリの存在下金属表面基材を接触させることにより、化学修飾させて金属表面に結合させ固定化することを特徴とするポリチオフェン誘導体の金属表面への化学修飾固定化方法。
【請求項11】
飽和炭化水素基がアルキル又はシクロアルキルである請求項10記載の方法。
【請求項12】
炭化水素基がメチル又はフェニルである請求項10又は11記載の方法。
【請求項13】
有機溶媒が炭化水素溶媒である請求項10ないし12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
炭化水素溶媒が芳香族炭化水素溶媒である請求項13記載の方法。
【請求項15】
アルカリがアルカリ金属水酸化物、アンモニア又はアミンである請求項10ないし14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
アミンがジエチルアミン、ピロリジン又はモルホリンである請求項15記載の方法。
【請求項17】
金属が金、銀、銅、パラジウム又は白金である請求項1ないし16のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−2317(P2007−2317A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−185742(P2005−185742)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】