説明

ポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソーム

【課題】リポソームの薬剤保持能力・徐放性と、ポリヒドロキシアルカノエートの機械的強度を併せ持ち、親水性薬剤その他水溶性物質や親油性薬剤その他疎水性物質に対しても保持性に優れ、徐放性を制御することが可能な薬剤保持粒子を提供すること。
【解決手段】リポソームの外壁の少なくとも一部をポリヒドロキシアルカノエートによって被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体適合性に優れ、膜の安定性が高く、担持された物質の徐放性が制御されたポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソーム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂質を水中に分散させたときに形成されるリポソームは、細胞膜構造のモデルとして極めて近似度が高く、組織指向性薬物運搬体・人工赤血球・細胞修復剤及び酵素固定化基剤等の医薬用材料としての積極的な利用が期待されている。また、医学、薬学の分野のみならず、化粧品分野においても安定性に問題のある有効成分を患部に選択的に移行させ、徐放性を持たせる材料として期待されている。リポソームはこのように極めて広範な利用分野を有するが、その問題点として膜構造の脆弱性が指摘されている。即ち、膜形成物質である脂質の化学的または物理的変化により膜が破壊され、保持物質の漏れを生じやすいため目的組織への薬物到達性改善の点において未だ不十分である。そこで、リポソーム膜の強化法として従来、膜にスフィンゴミエリンを添加して水素結合性を付与・強化する方法や、トコフェロール等を添加して不飽和脂質の酸化を防止する方法等が知られている。
【0003】
また、リポソーム膜を安定化し、内部での薬物保持に優れかつ目的組織への薬物の除放性を達成するためのリポソーム膜の安定性の高いリポソーム及びその製造が要望されている。
【0004】
従来、生理的条件下におけるリポソームの機械的強度を向上し、徐放性を持たせるために、特開平06-178930号公報には膜の表面が2‐メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの単独重合体または2‐メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとモノマーとの共重合体によって被覆されてなるリポソーム膜が提案されている。
【0005】
また特開平06-298638号公報にはシトステロール、カンペステロール、スチグマステロール又はブラシカステロールといったステロール及び/又はステロールグルコシドで被覆したことを特徴とするリポソームが提案されている。
【0006】
一方、リン脂質以外の生分解性・生体適合性を有する材料として、ポリヒドロキシアルカノエートを用い、薬剤内封カプセルとして形成した例として、USP614665には、ポリヒドロキシアルカノエートからなる多孔性グラニュールに親水性薬剤を捕捉(Entrapped)した微粒子、およびコア材として親油性薬剤を溶解した油滴をポリヒドロキシアルカノエートからなるシェルに封入(Encapsulated)した、薬剤組成物の製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開平06-178930号公報
【特許文献2】特開平06-298638号公報
【特許文献3】米国特許第614665号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開平06-178930号公報に開示された2‐メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)の単独重合体または2‐メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとモノマーとの共重合体によって被覆されてなるリポソームは、確かにその機械的強度が向上されているが、必ずしも十分ではなく、また生体適合性に優れたものではない。
【0008】
USP614665に開示されたポリヒドロキシアルカノエートからなる多孔性グラニュールに親水性薬剤を捕捉した微粒子は、毒性がなく、生分解性を有し、in situで薬剤を捕捉出来るものの、多孔性の構造であることから拡散により速やかに親水性薬剤が放出されてしまい、徐放性を制御することは困難であった。
【0009】
すなわち本発明が解決しようとする課題は、リポソームの薬剤保持能力・徐放性と、ポリヒドロキシアルカノエートの機械的強度を併せ持ち、親水性薬剤その他水溶性物質や親油性薬剤その他疎水性物質に対しても保持性に優れ、徐放性を制御することが可能な薬剤保持粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段は、ポリヒドロキシアルカノエートによって外壁の少なくとも一部を被覆した構造であることを特徴とする、ポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームとすることである。
【発明の効果】
【0011】
以上述べたように、本発明のPHA被覆リポソームは生体適合性に優れ、膜の安定性が高く、担持された物質の徐放性を制御することができる。本発明のPHA被覆リポソームは、顔料内封リポソーム、染料内封リポソーム、農薬内封リポソーム、ヘモグロビン内封リポソーム、化粧料成分内封リポソーム、肥料成分内封リポソーム、薬剤成分内封リポソームなど様々な用途に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明においてリポソームとは、脂質、とりわけリン脂質のみより、あるいはリン脂質とステロールより構成される単層リポソーム及び多重層リポソームであり、その製造法として従来公知の方法などが利用できるものである。
【0013】
リポソームに担持される物質は水溶性物質及び脂溶性物質のいずれでもよい。ただし、水溶性物質はリポソームの内腔に、また脂溶性物質はリポソーム膜にそれぞれ収納される。その他、これらの物質はリポソーム膜表面に化学的及び物理的に吸着されることもあり、本発明では上記3通りの場合、すなわち、「内腔内保持」、「膜中収納」及び「膜表面保持」を併せて『担持』と称する。このような物質としてはin vitro、in vivoで不安定なもの、体内で徐々に放出され、あるいは特定の臓器に速やかに分布することが所望される薬物以外にもマーカー、あるいはプラスミドやDNA、RNA等、生体内に投与して有効なものであれば特に制約されることはない。
【0014】
本発明者らはリポソームの膜に対してポリヒドロキシアルカノエート合成酵素を固定化し、ここに3-ヒドロキシアシル補酵素Aを加えて反応させることにより、該リポソームをポリヒドロキシアルカノエートで被覆できること、この際適当な種類の3-ヒドロキシアシル補酵素Aを選択することで、リポソームの外被を、毒性がなく生分解性を有するポリヒドロキシアルカノエートによって被覆できること、さらにポリヒドロキシアルカノエートによって膜の少なくとも一部を被覆したリポソームは、物理的・機械的強度が増強されており、かつ内封された物質の徐放性を制御できるといった特性を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち本発明のポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームは、ポリヒドロキシアルカノエートによって外壁の少なくとも一部を被覆した構造であることを特徴とする。さらに、本発明のポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームは、リン脂質からなる脂質二分子膜をシェルとして、該外壁の少なくとも一部をポリヒドロキシアルカノエートによって被覆された構造であることを特徴とする。
【0016】
本発明のポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームの製造方法は、ポリヒドロキシアルカノエートによって外壁の少なくとも一部を被覆したポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームの製造方法であって、リポソームを水性媒体に分散する工程と、水性媒体に分散されたリポソームの表面にポリヒドロキシアルカノエート合成酵素を固定化する工程と、基質である3-ヒドロキシアシルCoAを添加する工程と、ポリヒドロキシアルカノエート合成反応を行うことで該リポソーム表面の少なくとも一部をポリヒドロキシアルカノエートで被覆する工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
本発明におけるリポソームは、表面の少なくとも一部にポリヒドロキシアルカノエートを被覆した構成を有し、目的とするリポソームの特性が得られる範囲内で全表面が必ずしも被覆されている必要はない。全表面が被覆された状態では、液体をコアとし、ポリヒドロキシアルカノエートの被覆層をシェルとしたポリヒドロキシアルカノエート被覆マイクロカプセルを得ることができる。
【0018】
以下に、本発明をより詳細に説明する。
【0019】
本発明のポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームに供されるポリヒドロキシアルカノエートで被覆される以前のリポソームは、リポソームの製造方法として一般に知られている従来の製造方法によって調製することができる。ここで用いられるリン脂質とは、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルイノシトール(PI)、スフィンゴミエリン(SPM)等で一種単独であるいは数種を組み合わせて用いることができる。また、リン脂質には水添リン脂質、あるいは酵素処理リン脂質を含めることもできる。リン脂質は、合成されたものであっても、あるいは卵や大豆などの天然物から得られるものであっても、また市販のものであってもよい。
【0020】
リン脂質からなる脂質二分子膜の硬さや透過性を調製する目的でコレステロールとリン脂質とを組み合わせることもできる。用いられるコレステロールとリン脂質の割合は、封入物質の脂質親和性などにより変動しうるが、コレステロール:リン脂質モル比を1:3〜1:1にすることが例示できる。該リン脂質からなる脂質二分子膜をシェルとしたリポソームは、リポソームの製造方法として一般に知られている従来の製造方法によって調製することができる。すなわち、公知の技術としては、Bangham(ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol. Biol.)、 13、 238(1965))らの方法、その変法(特開昭52−114013号公報、特開昭59−173133号公報、特開平2−139029号公報、特開平7−241487号公報)、超音波処理法(バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーション(Biochem. Biophys. Res. Commun.、 94、 1367(1980))、エタノール注入法(ジャーナル・オブ・セル・バイオロジー(J. Cell. Biol.)、 66、 621(1975))、フレンチプレス法(フェブス・レターズ(FEBS Lett.)、 99、 210(1979))、エーテル注入法(ニューヨーク・アカデミー・サイエンス(N. Y. Acad. Sci.、 308、 250(1978))、コール酸(界面活性剤)法(バイオキミカ・エト・バイオフィジカ・アクタ(Biochim. Biophys. Acta、 455、 322(1976))、カルシウム融合法(バイオキミカ・エト・バイオフィジカ・アクタ(Biochim. Biophys. Acta、 394、 483(1978))、凍結融解法(アーチブズ・オブ・バイオケミストリー・アンド・バイオフィジックス(Arch.Biochem. Biophys.)、 212、 186(1981))、逆相蒸発法(プロシーディング・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・ユー・エス・エー(Pro. N. A.S. USA、 75、 4194(1978))、ガラスフィルターを用いた方法(ThirdUS-Japan Symposium on Drug Delivery System(1995))、コートソームなどの市販のキットを用いた方法などが挙げられる。これら公知の方法により調製されるリポソーム(リポソーム)は、いずれも本発明に供することができる。
【0021】
Banghamらにより報告されたリポソーム作製方法とは、リン脂質をクロロホルムなどの有機溶媒に溶解し、ナス型フラスコに入れ、ロータリーエヴァポレーターを用い溶媒を減圧除去すると、フラスコ底面のガラス壁面にリン脂質薄膜が形成される。これに担持しようとする物質を含む緩衝剤水溶液を加えて振とう膨潤させ、さらにボルテックスなどを用いて機械的に薄膜をはがしてやると、多重層リポソームが形成される、というものである。膨潤操作はリン脂質の相転移温度よりも10℃ほど高いところで行う必要がある。この方法により作製された多重層リポソームは、0.2から5μmの粒径分布をもつが、分布をできるだけ小さくする必要のある場合には、振とうをより激しく時間をかけて行ったり、5から10Wの低出力の超音波を短時間照射すればよい。
【0022】
超音波処理法によるリポソーム作製方法とは、Banghamらの方法で作製した多重層リポソームの懸濁液にさらに高出力の超音波を照射する、というものである。超音波照射によって、次第にサイズが小さくなり、最終的に20から30nmの粒径をもつ小さな一枚膜リポソームが得られる。超音波照射により、リン脂質分子の化学分解や溶存酸素による脂質の酸化が起こりやすいので、窒素やアルゴンなどの不活性ガス気流下で、あまり温度上昇を伴わぬように操作する必要がある。
【0023】
エタノール注入法によるリポソーム作製方法とは、脂質をエタノールに溶解し、相転温度以上で担持しようとする物質を含む緩衝剤水溶液中にマイクロシリンジで注入する、というものである。作製されるリポソームは小さな一枚膜リポソームであり、そのサイズは、脂質濃度に依存し、低脂質濃度(3mM)では粒径が30nmほどのものが、高脂質濃度(36mM)では110nmほどのものがそれぞれ作製される。この方法は超音波処理を伴わないので、不安定な物質を担持するのに適している。しかしリポソームが希釈されるので限外ろ過法などによる濃縮操作が必要となる場合がある。またエタノールのリポソームからの完全な除去が難しいなどの欠点がある。
【0024】
フレンチプレス法によるリポソーム作製方法とは、Banghamらの方法で作製した多重層リポソームをフレンチプレスセルに入れ、20、000psi程度の圧力で押し出すと一枚膜リポソームが形成され、この操作を繰返すことにより、粒径が30から50nmほどの小さな一枚膜リポソームが形成される、というものである。この方法は超音波処理を伴わないので、不安定な物質を担持するのに適している。また低い圧力をかけたときには、粒径が50から150nmほどの一枚膜リポソームが形成される。
【0025】
エーテル注入法によるリポソーム作製方法とは、リン脂質をジエチルエーテルまたはジエチルエーテルとメタノールの混合溶媒に溶かし、担持しようとする物質を含む緩衝剤水水溶液に注入し、溶媒を除去する、というものである。有機溶媒は、水溶液を55から65℃に加熱するか、減圧下30℃に加熱して除去する。エーテル注入法により大きな一枚膜リポソームが作製できる。
【0026】
コール酸(界面活性剤)法によるリポソーム作製方法とは、Banghamらの方法で作製された脂質膜膜や多重層リポソーム、あるいは他の方法で作成された小さな一枚膜リポソームをコール酸またはデオキシコール酸などの界面活性剤と混合し、この混合物から界面活性剤を除去することにより、比較的サイズの大きい一枚膜リポソーム(30から180nm)を作製する、というものである。界面活性剤を除去するには、透析法、ゲルろ過法を用いることができる。生成するリポソームのサイズは脂質と界面活性剤の比、含有するコレステロール量、透析速度などに依存する。この方法ではリポソーム二分子膜中の界面活性剤の除去率をいかに小さくするかが問題となる。このため長時間の透析や数回のゲルろ過の繰り返しが必要となる。
【0027】
カルシウム融合法によるリポソーム作製方法とは、酸性リン脂質を含有させ他の方法により作製したリポソームにカルシウムイオンを加えることによって膜の融合を惹起し、その後EDTAなどのキレート剤を加えてカルシウムを除くことにより、大きな一枚膜リポソーム(200から1000nm)を作製する、というものである。この方法は、ホスファチジルセリン(PS)やホスファチジン酸(PA)などの酸性リン脂質およびその混合リポソームに限られる。
【0028】
凍結融解法によるリポソーム作製方法とは、超音波処理したリポソーム溶液を液体窒素で凍結させ、次に室温付近で放置して解凍し、さらに得られた乳白色の懸濁液を持短時間超音波処理する、というものである。粒径が50から500nmの大きな一枚膜リポソームが調製される。凍結の際の濃縮効果により保持効率が向上するといった利点がある。
【0029】
逆相蒸発法によるリポソーム作製方法とは、リン脂質のエーテル溶液に水を加えて、超音波処理することにより、w/o型エマルジョンを形成し、その後エーテルを留去し、ボルテックスを用いて振とうすると相が逆転し、さらに減圧下エーテルを除去することにより、大きな一枚膜リポソーム(200から1000nm)を作製する、というものである。リポソームの大きさは脂質組成や水溶液のイオン強度に影響され、コレステロールの添加はサイズを大きくし、イオン強度の増大はサイズを小さくする。上記リポソームに担持される物質は、本発明のポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームの用途により適宜選択される。
【0030】
本発明のポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームを、例えば農薬組成物用リポソームとして用いる場合には、リポソームに担持される物質としては、農薬要覧(日本植物防疫協会発行)に記載されているものであれば、いかなるものでも使用することができる。例えば、カーバメート系殺虫剤、有機リン系殺虫剤、ピレスロイド系殺虫剤、ウレア系殺虫剤、アニライド系殺菌剤、アゾール系殺菌剤、ジカルボキシイミド系殺菌剤などを例示できる。これらは必要に応じて2種以上を組合せて用いることができる。農薬活性成分を担持したリポソームは超音波処理法、エタノール注入法、フレンチプレス法、エーテル注入法、コール酸(界面活性剤)法、カルシウム融合法、凍結融解法、逆相蒸発法、ガラスフィルターを用いた方法、コートソームなどの市販のキットを用いた方法等前述の方法によって調整できる。
【0031】
本発明のポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームを例えば肥料組成物用リポソームとして用いる場合には、リポソームに担持される物質としては、硫安、塩安、硝安、尿素、アセトアルデヒド縮合尿素、イソブチルアルデヒド縮合尿素等の窒素質肥料の水溶液、過りん酸石灰、重過りん酸石灰、熔成りん肥等のりん酸質肥料の水溶液、硫酸加里、塩化加里等の加里質肥料の水溶液、魚かす、骨粉、大豆油かす、なたね油かす等の有機質肥料の水懸濁液、りん安、りん酸加里等の三要素系複合肥料の水溶液、微量要素複合肥料の水溶液等が挙げられ、これらは必要に応じて2種以上を組合せて用いることができる。肥料成分を担持したリポソームは超音波処理法、エタノール注入法、フレンチプレス法、エーテル注入法、コール酸(界面活性剤)法、カルシウム融合法、凍結融解法、逆相蒸発法、ガラスフィルターを用いた方法、コートソームなどの市販のキットを用いた方法等前述の方法によって調整できる。
【0032】
本発明のポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームを例えば化粧品用リポソームとして用いる場合には、リポソームに担持される物質としては、保湿成分、生薬エキス、チロシナーゼ、スパーオキシドジスムターゼ、リパーゼのような酵素、レチノール、アスコルビン酸、トコフェロール、ピリドキサール、リボフラビンのようなビタミン、β−カロチン、クロロフィルのような有機系色素、グリセリン、ソルビトール、尿素、乳酸、プロピレングリコール、ポリチレングリコールおよび共重合体、グルコース誘導体等のようなモイスチャー成分、パラフイン、ステアリルアルコール、セチルアルコール、スクワラン、シリコーンオイル、ステアリス等のようなエモリエント成分、トリートメント成分、フケ抑制成分、養毛、育毛成分、紫外線吸収剤、酸化防止剤、香料等を挙げることが出来、これらは必要に応じて2種以上を組合せて用いることができる。化粧用成分を担持したリポソームは超音波処理法、エタノール注入法、フレンチプレス法、エーテル注入法、コール酸(界面活性剤)法、カルシウム融合法、凍結融解法、逆相蒸発法、ガラスフィルターを用いた方法、コートソームなどの市販のキットを用いた方法等前述の方法によって調整できる。
【0033】
本発明のポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームを例えば人工赤血球用リポソームとして用いる場合には、リポソームに担持される物質としては、ヘモグロビン、ヘモシアニン等を挙げることが出来、これらは必要に応じて2種以上を組合せて用いることができる。ヘモグロビンを担持したリポソームは、超音波処理法、エタノール注入法、フレンチプレス法、エーテル注入法、コール酸(界面活性剤)法、カルシウム融合法、凍結融解法、逆相蒸発法、ガラスフィルターを用いた方法、コートソームなどの市販のキットを用いた方法等前述の方法によって調整できる。
【0034】
本発明のポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームを例えばインク用あるいは塗料用リポソームとして用いる場合には、リポソームに担持される物質としては、染料水溶液や顔料分散液等、具体的にはC.I.アシッドレッド52、C.I.アシッドブルー1、C.I.アシッドブラック2、同123等の酸性染料、C.I.ベーシックブルー7、C.I.ベーシックレッド1等の塩基性染料、C.I.ダイレクトブラック19、C.I.ダイレクトブルー86などの直接染料等の直接染料、C.I.ソルベントブラック7、同123、C.I.ソルベントレッド8、同49、同100、C.I.ソルベントブルー2、同25、同55、同70、C.I.ソルベントグリーン3、C.I.ソルベントイエロー21、同61、C.I.ソルベントオレンジ37、C.I.ソルベントバイオレット8、同21等の油溶性染料、C.I.リアクティブイエロー15、42;C.I.リアクティブレッド24、218;C.I.リアクティブブルー38、220等の反応性染料、カーボンブラック、酸化銅、二酸化マンガン、アニリンブラック、活性炭、非磁性フェライト、マグネタイトなどの黒色顔料、黄鉛、亜鉛黄、黄色酸化鉄、カドミウムイエロー、ミネラルファストイエロー、ニッケルチタンイエロー、ネーブルスイエロー、ナフトールイエローS、ハンザーイエローG、ハンザイエロー10G、ベンジジンイエローG、ベンジジンイエローGR、キノリンイエローレーキ、パーマネントイエローNCG、タートラジンレーキなどの黄色顔料、赤色黄鉛、モリブデンオレンジ、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、ベンジジンオレンジG、インダスレンブリリアントオレンジRK、インダスレンブリリアントオレンジGKなどの橙色顔料、ベンカラ、カドミウムレッド鉛丹、硫化水銀、カドミウム、パーマネントレッド4R、リソールレッド、ピラゾロンレッド、ウォッチングレッド、カルシウム塩、レーキレッドC、レーキレッドD、ブリリアントカーミン6B、ブリリアントカーミン3B、エオキシンレーキ、ローダミンレーキB、アリザリンレーキなどの赤色顔料、紺青、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニンブルー、無金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー一部分塩素化合物、ファーストスカイブルー、インダスレンブルーBCなどの青色顔料、マンガン紫、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキなどの紫色顔料、酸化クロム、クロムグリーン、ピグメントグリーンB、マラカイトグリーンレーキ、ファイナルイエローグリーンGなどの緑色顔料、亜鉛華、酸化チタン、アンチモン白、硫化亜鉛などの白色顔料、バライト粉、炭酸バリウム、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、タルク、アルミナホワイトなどの体質顔料などを挙げることができ、もちろんこれらに限定されるものではない。これらは必要に応じて2種以上を組合せて用いることができる。インク成分を担持したリポソームは超音波処理法、エタノール注入法、フレンチプレス法、エーテル注入法、コール酸(界面活性剤)法、カルシウム融合法、凍結融解法、逆相蒸発法、ガラスフィルターを用いた方法、コートソームなどの市販のキットを用いた方法等前述の方法によって調整できる。
【0035】
本発明のポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームを例えば薬物徐放用カプセルとして用いる場合には、リポソームに担持される医薬製剤用の薬物としては、水易溶解性の薬物ならびに水難溶解性(脂溶性)の薬物の両方を挙げることができる。このような薬物としてたとえばステロール(たとえばコレステロール、シトステロール)、エストロゲン(たとえばエストロン、エストラジオールおよびそのエステル、エチニルエストラジオール等)、コルチコイドおよびそれらのエステル、カルシトニンのようなペプチドホルモン、抗生物質(たとえばゲンタマイシン、バンコマイシン、アミカシン、カナマイシン、ストレプトマイシン、ミノサイクリン、テトラサイクリン等)、クロラムフェニコール、マクロライド抗生物質(たとえばエリスロマイシンおよびその誘導体、特にそのパルミテートおよびステアレート、またはスピラマイシン等)、抗寄生菌剤および皮膚用薬剤(たとえばクロトリマゾール、ミコナゾール、ジスラノール等)、消炎鎮痛剤(たとえばインドメタシン、ジクロフェナック、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、4−ビフェニル酢酸およびそのエチルエステル等)、シアノコバラミンのようなビタミン類、ウロキナーゼのような酵素剤、フルオロウラシル、アラシチジンのような制癌制などが挙げられる。これらは必要に応じて2種以上を組合せて用いることができる。これら薬物を担持したリポソームは超音波処理法、エタノール注入法、フレンチプレス法、エーテル注入法、コール酸(界面活性剤)法、カルシウム融合法、凍結融解法、逆相蒸発法、ガラスフィルターを用いた方法、コートソームなどの市販のキットを用いた方法等前述の方法によって調整できる。上記方法によって調製されたリポソームは、ポリヒドロキシアルカノエートによって外壁の少なくとも一部を被覆することによって、物理的、機械的強度を増強され、生体適合性、生分解性も付与され、リポソームが徐放性を持つ場合には徐放性の制御が可能になる。以下上記リポソームのポリヒドロキシアルカノエートによる被覆方法について述べる。
【0036】
<PHA>本発明に利用可能なPHAとしては、PHAの生合成反応に関わるPHA合成酵素によって合成され得るPHAであれば、特に限定はされない。
【0037】
ここで、PHAの生合成は、原料となる各種アルカン酸から、生体内の様々な代謝経路(例えば、β酸化系や脂肪酸合成経路)を経て生成された(R)-3-ヒドロキシアシルCoAを基質とした、酵素による重合反応によって行われる。この重合反応を触媒する酵素がPHA合成酵素(PHAポリメラーゼ、PHAシンターゼともいう)である。なお、CoAとは補酵素A(coenzyme A)の略称であり、その化学構造は下記式の通りである。
【0038】
【化36】

【0039】
以下に、β酸化系およびPHA合成酵素による重合反応を経て、アルカン酸がPHAとなるまでの反応を示す。
【0040】
【化37】

【0041】
一方、脂肪酸合成経路を経る場合は、該経路中に生じた(R)-3-ヒドロキシアシル-ACP(ACPとはアシルキャリアプロテインのことである)から変換された(R)-3-ヒドロキシアシルCoAを基質として、同様にPHA合成酵素によりPHAが合成されると考えられる。
【0042】
さらに、上記のPHB合成酵素やPHA合成酵素を菌体外に取り出して、無細胞系(in vitro)でPHAを合成できることもわかっており、以下のような実例がある。例えば、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、92、6279-6283(1995)では、アルカリゲネス・ユウトロファス(Alcaligenes eutrophus)由来のPHB合成酵素に3-ヒドロキシブチリルCoAを作用させることにより、3-ヒドロキシ-n-酪酸ユニットからなるPHBを合成することに成功している。また、Int.J.Biol.Macromol.、25、55-60(1999)では、アルカリゲネス・ユウトロファス由来のPHB合成酵素に、3-ヒドロキシブチリルCoAや3-ヒドロキシバレリルCoAを作用させることにより、3-ヒドロキシ-n-酪酸ユニットや3-ヒドロキシ-n-吉草酸ユニットからなるPHAの合成に成功している。さらにこの報告では、ラセミ体の3-ヒドロキシブチリルCoAを作用させたところ、酵素の立体選択性によって、R体の3-ヒドロキシ-n-酪酸ユニットのみからなるPHBが合成されたとしている。Macromol.Rapid Commun.、21、77-84(2000)においても、アルカリゲネス・ユウトロファス由来のPHB合成酵素を用いた細胞外でのPHB合成が報告されている。また、FEMS Microbiol.Lett.、168、319-324(1998)では、クロマチウム・ビノサム(Chromatium vinosum)由来のPHB合成酵素に3-ヒドロキシブチリルCoAを作用させることにより、3-ヒドロキシ-n-酪酸ユニットからなるPHBを合成することに成功している。Appl.Microbiol.Biotechnol.、54、37-43(2000)では、シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)のPHA合成酵素に3-ヒドロキシデカノイルCoAを作用させることにより、3-ヒドロキシデカン酸ユニットからなるPHAを合成している。
【0043】
このように、PHA合成酵素は、生物体内でのPHA合成反応系における最終段階を触媒する酵素であり、従って、生物体内において合成され得ることが知られているPHAであれば、いずれも該酵素による触媒作用を受けて合成されていることになる。よって、所望のPHAに対応する3-ヒドロキシアシルCoAを、本発明における基材に固定化された該酵素に作用させることによって、生物体内において合成され得ることが知られているあらゆる種類のPHAでポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームを作成することが可能である。
【0044】
本発明で使用されるPHAとして、具体的には、下記式式[1]から式[10]で表されるモノマーユニットを少なくとも含むPHAを例示することができる。
【0045】
【化38】

【0046】
(ただし、該モノマーユニットは、式中R1およびaの組合せが下記のいずれかであるモノマーユニットからなる群より選択される少なくとも一つ以上である。
【0047】
R1が水素原子(H)であり、aが0から 10 の整数のいずれかであるモノマーユニット、R1がハロゲン原子であり、aが1から 10 の整数のいずれかであるモノマーユニット、R1が発色団であり、aが1から 10 の整数のいずれかであるモノマーユニット、R1がカルボキシル基あるいはその塩であり、aが1から10の整数であるモノマーユニット、R1が、
【0048】

【化39】

【0049】
であり、aが1から7の整数のいずれかであるモノマーユニット。)
【0050】
【化40】

【0051】
(ただし、式中bは0から7の整数のいずれかを表し、R2は水素原子(H)、ハロゲン原子、-CN、-NO2、-CF3、-C25及び-C37からなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
【0052】
【化41】

【0053】
(ただし、式中cは1から8の整数のいずれかを表し、R3は水素原子(H)、ハロゲン原子、-CN、-NO2、-CF3、-C25及び-C37からなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
【0054】
【化42】

【0055】
(ただし、式中dは0から7の整数のいずれかを表し、R4は水素原子(H)、ハロゲン原子、-CN、-NO2、-CF3、-C25及び-C37からなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
【0056】
【化43】

【0057】
(ただし、式中eは1から8の整数のいずれかを表し、R5は水素原子(H)、ハロゲン原子、-CN、-NO2、-CF3、-C25、-C37、-CH3、-C25及び-C37からなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
【0058】
【化44】

【0059】
(ただし、式中fは0から7の整数のいずれかを表す。)
【0060】
【化45】

【0061】
(ただし、式中gは1から8の整数のいずれかを表す。)
【0062】
【化46】

【0063】
(ただし、式中hは1から7の整数のいずれかを表し、R6は水素原子(H)、ハロゲン原子、-CN、-NO2、-COOR'、-SO2R''、-CH3、-C25、-C37、-CH(CH3)2及び-C(CH3)3からなる群から選ばれたいずれか1つを表し、ここでR'は水素原子(H)、Na、K、-CH3及び-C25のいずれかであり、R''は-OH、-ONa、-OK、ハロゲン原子、-OCH3及び-OC25のいずれかである。)
【0064】
【化47】

【0065】
(ただし、式中iは1から7の整数のいずれかを表し、R7は水素原子(H)、ハロゲン原子、-CN、-NO2、-COOR'及び-SO2R''からなる群から選ばれたいずれか1つを表し、ここでR'は水素原子(H)、Na、K、-CH3、-C25のいずれかであり、R''は-OH、-ONa、-OK、ハロゲン原子、-OCH3及び-OC25のいずれかである。)
【0066】
【化48】

【0067】
(ただし、式中jは1から9の整数のいずれかを表す。)なお、前記のハロゲン原子の具体例としては、フッ素、塩素、臭素などを挙げることができる。
【0068】
上記PHAを合成する基質として用いる3-ヒドロキシアシルCoAとして、具体的には、下記式化学式[12]から化学式[21]で表される3-ヒドロキシアシルCoAを例示することができる。
【0069】
【化49】

【0070】
(ただし、前記化学式中-SCoA はアルカン酸に結合した補酵素Aを表し、式中R1およびaは前記化学式[1]と同様に定義される。)
【0071】
【化50】

【0072】
(ただし、式中-SCoA はアルカン酸に結合した補酵素Aを表し、b及びR2は前記化学式[2]と同様に定義される。)
【0073】
【化51】

【0074】
(ただし、式中-SCoA はアルカン酸に結合した補酵素Aを表し、c及びR3は前記化学式[3]と同様に定義される。)
【0075】
【化52】

【0076】
(ただし、式中-SCoA はアルカン酸に結合した補酵素Aを表し、d及びR4は前記化学式[4]と同様に定義される。)
【0077】
【化53】

【0078】
(ただし、式中-SCoA はアルカン酸に結合した補酵素Aを表し、e及びR5は前記化学式[5]と同様に定義される。)れたいずれか1つを表す。)
【0079】
【化54】

【0080】
(ただし、式中-SCoA はアルカン酸に結合した補酵素Aを表し、fは前記化学式[6]と同様に定義される。)
【0081】
【化55】

【0082】
(ただし、式中-SCoA はアルカン酸に結合した補酵素Aを表し、gは前記化学式[7]と同様に定義される。)
【0083】
【化56】

【0084】
(ただし、式中-SCoA はアルカン酸に結合した補酵素Aを表し、h及びR6は前記化学式[8]と同様に定義される。)
【0085】
【化57】

【0086】
(ただし、式中-SCoA はアルカン酸に結合した補酵素Aを表し、i及びR7は前記化学式[9]と同様に定義される。)
【0087】
【化58】

【0088】
(ただし、式中-SCoA はアルカン酸に結合した補酵素Aを表し、jは前記化学式[10]と同様に定義される。)
また、本発明のポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームを水性媒体に懸濁して使用する場合には、ポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームを構成するPHAとして、親水性官能基を有するものを用いる。親水性官能基としてはいかなるものでもよいが、アニオン性官能基を用いることができ、また、アニオン性官能基としてはいかなるものを用いてもよいが、特にカルボキシル基を用いることができる。カルボキシル基を有するPHAとしては、下記式[11]に示すモノマーユニットから選択されたを少なくとも1つを含むPHAを例示できる。
【0089】
【化59】

【0090】
(ただし、式中kは1から10の整数のいずれかである。)
また、上記PHAのうち、さらに具体的に、下記式[23]で示される3-ヒドロキシピメリン酸を含有するPHA
【0091】
【化60】

【0092】
を例示できる。
【0093】
また、上記式[11]で示されるPHAを合成する基質として用いる3-ヒドロキシアシルCoAとして、下記式[22]で表される3-ヒドロキシアシルCoAを例示することができる。
【0094】
【化61】

【0095】
(ただし、前記式中-SCoA はアルカン酸に結合した補酵素Aを表し、式中kが下記のいずれかである群より選択される少なくとも一つ以上であり、かつ、前記式[11]で表されるモノマーユニットにおけるkと対応する。kが1から10の整数のいずれかである。)
また、上記式[23]で示される3-ヒドロキシピメリン酸を含有するPHAを合成する基質として用いる3-ヒドロキシアシルCoAとして、下記式[24]で表される3-ヒドロキシピメリルCoA
【0096】
【化62】

【0097】
を示すことができる。
【0098】
なお、前記のハロゲン原子の具体例としては、フッ素、塩素、臭素などを挙げることができる。また、前記の発色団としては、その3-ヒドロキシアシルCoA 体がPHA合成酵素の触媒作用を受け得るものである限り特に限定はされないが、高分子合成時の立体障害などを考慮すると、3-ヒドロキシアシルCoA 分子内において、CoAの結合したカルボキシル基と発色団との間に炭素数1から5のメチレン鎖があるほうが望ましい。また、発色団の光吸収波長が可視域にあれば、着色したポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームが得られる。このような発色団の例として、ニトロソ、ニトロ、アゾ、ジアリールメタン、トリアリールメタン、キサンテン、アクリジン、キノリン、メチン、チアゾール、インダミン、インドフェノール、ラクトン、アミノケトン、ヒドロキシケトン、スチルベン、アジン、オカサジン、チアジン、アントラキノン、フタロシアニン、インジゴイドなどを挙げることができる。
【0099】
本発明において用いられるPHAとしては、上記モノマーユニットを複数含むランダム共重合体やブロック共重合体を用いることも可能であり、各モノマーユニットや含まれる官能基の特性を利用したPHAの物性制御や複数の機能の付与、官能基間の相互作用を利用した新たな機能の発現等が可能となる。さらに、基質である3-ヒドロキシアシルCoAの添加量や添加順序を適宜制御することによって、任意の順序および組成比のブロック共重合体をリポソーム表面に合成することも可能である。また必要に応じて、PHAを合成したのち、あるいは、合成中に、さらに化学修飾等を施しても良い。
【0100】
例えば、基質である3-ヒドロキシアシルCoAの種類や濃度などの組成を経時的に変化させることによって、ポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームの内側から外側に向かう方向においてPHAのモノマーユニット組成を変化させることも可能である。これによって、例えば、リポソームと親和性の低いPHAでポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームを形成する必要がある場合、まずリポソームをリポソームと親和性の高いPHAで被覆し、そのリポソームと親和性の高いPHAのモノマーユニット組成を、目的とするPHAのモノマーユニット組成に積層方向に変化、例えば多層構造あるいはグラディエント構造とすることで、リポソームとの結合を強固にしたPHA被膜を形成することが可能となる。
【0101】
また、該PHAに化学修飾を施すことにより、各種の特性等を改良したポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームを得ることができる。例えば、該PHAにグラフト鎖を導入することで、該グラフト鎖に起因する各種の特性を備えたPHAにより、リポソームの少なくとも一部を被覆したポリヒドロキシアルカノエート含有構造体を得ることができる。また、該PHAを架橋化せしめることで、所望の物理化学的性質(例えば、機械的強度、耐薬品性、耐熱性など)を備えたPHAにより、リポソームの少なくとも一部を被覆したポリヒドロキシアルカノエート含有構造体を得ることができる。なお、本発明における化学修飾(Chemical modification)とは、高分子材料の分子内または分子間、あるいは高分子材料と他の化学物質との間で化学反応を行わせることにより、該高分子材料の分子構造を改変することを言う。また、架橋(crosslinking)とは、高分子材料の分子内または分子間を化学的あるいは物理化学的にに結合せしめて網状構造をつくることを言い、架橋剤(crosslinking agent)とは、前記架橋反応を行うために添加する、前記高分子材料と一定の反応性を有する物質を言う。
【0102】
なお、本発明の構造体に用いる、PHA合成酵素により合成されるPHAは、一般にR体のみから構成されるアイソタクチックなポリマーである。
【0103】
PHAの合成基質である3-ヒドロキシアシルCoAは、例えば、酵素を用いたin vitro合成法、微生物や植物などの生物体を用いたin vivo合成法、化学合成法等の中から適宜選択した方法で合成して用いることができる。特に、酵素合成法は該基質の合成に一般に用いられている方法であり、市販のアシルCoAシンセターゼ(アシルCoAリガーゼ、E.C.6.2.1.3)を用いた下記反応、
【0104】
【化63】

【0105】
を用いた方法などが知られている(Eur.J.Biochem.、250、432-439(1997)、Appl.Microbiol. Biotechnol.、54、37-43(2000)など)。酵素や生物体を用いた合成工程には、バッチ式の合成方法を用いても良く、また、固定化酵素や固定化細胞を用いて連続生産してもよい。
【0106】
<PHA合成酵素およびその生産菌>本発明に用いるPHA合成酵素は、該酵素を生産する微生物から適宜選択された微生物、あるいは、それら微生物のPHA合成酵素遺伝子を宿主に導入した形質転換体により生産されたものを用いることができる。
【0107】
PHA合成酵素を生産する微生物としては、 PHBやPHB/V生産菌を用いることができ、このような微生物として、アエロモナス属(Aeromonas sp.)、アルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)、クロマチウム属(Chromatium sp.)、コマモナス属(Comamonas sp.)、メチロバクテリウム属(Methylobacterium sp.)、パラコッカス属(Paracoccus sp.)、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)のなどの他に、本発明者らにより分離された、バルクホルデリア・セパシア・KK01株(Burkholderia cepacia KK01)、ラルストーニャ・ユートロファ・TB64株(Ralstonia eutropha TB64)、アルカリゲネス属・TL2株(Alcaligenes sp. TL2)などを用いることができる。なお、KK01株は寄託番号FERM BP-4235として、TB64株は寄託番号FERM BP-6933として、TL2株は寄託番号FERM BP-6913として、経済産業省生命工学工業技術研究所特許微生物寄託センターにそれぞれ寄託されている。また、PHA合成酵素を生産する微生物として、mcl-PHAやunusual-PHAの生産菌を用いることができ、このような微生物として、シュードモナス・オレオボランス、シュードモナス・レジノボランス、シュードモナス属61-3株、シュードモナス・プチダ・KT2442株、シュードモナス・アエルギノーサなどのほかに、本発明者らにより分離された、シュードモナス・プチダ・P91株(Pseudomonas putida P91)、シュードモナス・チコリアイ・H45株(Pseudomonas cichorii H45)、シュードモナス・チコリアイ・YN2株(Pseudomonas cichorii YN2)、シュードモナス・ジェッセニイ・P161株(Pseudomonas jessenii P161)等のシュードモナス属微生物や、特開2001-78753号公報に記載のバークホルデリア属・OK3株(Burkholderia sp. OK3、FERM P-17370)、特開2001-69968号公報に記載のバークホルデリア属・OK4株(Burkholderia sp. OK4、FERM P-17371)などのバークホルデリア属微生物を用いることができる。また、これら微生物に加えて、アエロモナス属(Aeromonas sp.)、コマモナス属(Comamonas sp.)などに属し、mcl-PHAやunusual-PHAを生産する微生物を用いることも可能である。
【0108】
なお、P91株は寄託番号FERM BP-7373として、H45株は寄託番号FERM BP-7374として、YN2株は寄託番号FERM BP-7375として、P161株は寄託番号FERM BP-7376として、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブタペスト条約に基づき、経済産業省産業技術総合研究所(旧通商産業省工業技術院)生命工学工業技術研究所特許微生物寄託センターに国際寄託されている。
【0109】
本発明にかかるPHA合成酵素の生産に用いる微生物の通常の培養、例えば、保存菌株の作成、PHA合成酵素の生産に必要とされる菌数や活性状態を確保するための増殖などには、用いる微生物の増殖に必要な成分を含有する培地を適宜選択して用いる。例えば、微生物の生育や生存に悪影響を及ぼすものでない限り、一般的な天然培地(肉汁培地、酵母エキスなど)や、栄養源を添加した合成培地など、いかなる種類の培地をも用いることができる。
【0110】
培養は液体培養や固体培養等、該微生物が増殖する方法であればいかなる方法をも用いることができる。さらに、バッチ培養、フェドバッチ培養、半連続培養、連続培養等の種類も問わない。液体バッチ培養の形態としては、振とうフラスコによって振とうさせて酸素を供給する方法、ジャーファーメンターによる攪拌通気方式の酸素供給方法がある。また、これらの工程を複数段接続した多段方式を採用してもよい。
【0111】
前記したようなPHA生産微生物を用いて、PHA合成酵素を生産する場合は、例えば、オクタン酸やノナン酸等のアルカン酸を含む無機培地で該微生物を増殖させ、対数増殖期から定常期初期にかけての微生物を遠心分離等で回収して所望の酵素を抽出する方法などを用いることができる。なお、上記のような条件で培養を行うと、添加したアルカン酸に由来するmcl-PHAが菌体内に合成されることになるが、この場合、一般に、PHA合成酵素は菌体内に形成されるPHAの微粒子に結合して存在するとされている。しかし、本発明者らの検討によると、上記の方法で培養した菌体の破砕液を遠心分離した上清液にも、相当程度の酵素活性が存在していることがわかっている。これは、前記の如き対数増殖期から定常期初期にかけての比較的培養初期には、菌体内で該酵素が活発に生産され続けているため、遊離状態のPHA合成酵素も相当程度存在するためと推定される。
【0112】
上記の培養方法に用いる無機培地としては、リン源(例えば、リン酸塩等)、窒素源(例えば、アンモニウム塩、硝酸塩等)など、微生物が増殖し得る成分を含んでいるものであればいかなるものでも良く、例えば無機塩培地としては、MSB培地、E培地(J.Biol.Chem.、218、97-106(1956))、M9培地等を挙げることができる。なお、本発明における実施例で用いるM9培地の組成は以下の通りである。
【0113】
Na2HPO4 : 6.2 gKH2PO4 : 3.0 gNaCl : 0.5 gNH4Cl : 1.0 g(培地1リットル中、pH7.0)
さらに、良好な増殖及びPHA合成酵素の生産のためには、上記の無機塩培地に以下に示す微量成分溶液を0.3%(v/v)程度添加するのが好ましい。
【0114】
(微量成分溶液)
ニトリロ三酢酸: 1.5 gMgSO4 : 3.0 gMnSO4 : 0.5 gNaCl : 1.0 gFeSO4 : 0.1 gCaCl2 : 0.1 gCoCl2 : 0.1 gZnSO4 : 0.1 gCuSO4 : 0.1 gAlK(SO4)2: 0.1 gH3BO3 : 0.1 gNa2MoO4: 0.1 gNiCl2 : 0.1 g(1リットル中)
培養温度としては上記の菌株が良好に増殖可能な温度であれば良く、例えば 14〜40℃、好ましくは 20〜35℃程度が適当である。
【0115】
また、前述のPHA生産菌の持つPHA合成酵素遺伝子を導入した形質転換体を用いて、所望のPHA合成酵素を生産することも可能である。PHA合成酵素遺伝子のクローニング、発現ベクターの作製、および、形質転換体の作製は、定法に従って行うことができる。大腸菌等の細菌を宿主として得られた形質転換体においては、培養に用いる培地として、天然培地あるいは合成培地、例えば、LB培地、M9培地等が挙げられる。また、培養温度は25から37℃の範囲で、好気的に8〜27時間培養することにより、微生物の増殖を図る。その後集菌し、菌体内に蓄積されたPHA合成酵素の回収を行うことができる。培地には、必要に応じて、カナマイシン、アンピシリン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン等の抗生物質を添加しても良い。また、発現ベクターにおいて、誘導性のプロモーターを用いている場合は、形質転換体を培養する際に、該プロモーターの対応する誘導物質を培地に添加して発現を促しても良い。例えば、イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)、テトラサイクリン、インドールアクリル酸(IAA)等が誘導物質として挙げられる。
【0116】
PHA合成酵素としては、微生物の菌体破砕液や、硫酸アンモニウム等によりタンパク質成分を沈殿・回収した硫安塩析物などの粗酵素を用いても良く、また、各種方法で精製した精製酵素を用いても良い。該酵素には必要に応じて、金属塩、グリセリン、ジチオスレイトール、EDTA、ウシ血清アルブミン(BSA)などの安定化剤、付活剤を適宜添加して用いることができる。
【0117】
PHA合成酵素の分離・精製方法は、PHA合成酵素の酵素活性が保持される方法であればいかなる方法をも用いることができる。例えば、得られた微生物菌体を、フレンチプレス、超音波破砕機、リゾチームや各種界面活性剤等を用いて破砕したのち、遠心分離して得られた粗酵素液、またはここから調製した硫安塩析物について、アフィニティクロマトグラフィー、陽イオンまたは陰イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過等の手段を単独または適宜組み合わせることによって精製酵素を得ることができる。特に、遺伝子組換えタンパク質は、N末端やC末端にヒスチジン残基等の「タグ」を結合した融合タンパク質の形で発現させ、このタグを介して親和性樹脂に結合させることによって、より簡便に精製することができる。融合タンパク質から目的のタンパク質を分離するには、トロンビン、血液凝固因子Xa等のプロテアーゼで切断する、pHを低下せしめる、結合競合剤として高濃度のイミダゾールを添加する等の方法を用いると良い。あるいは、発現ベクターとしてpTYB1(New Englan Biolab社製)を用いた場合のようにタグがインテインを含む場合はdithiothreitolなどで還元条件として切断する。アフィニティクロマトグラフィーによる精製を可能とする融合タンパク質には、ヒスチジンタグの他にグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、キチン結合ドメイン(CBD)、マルトース結合タンパク(MBP)、あるいはチオレドキシン(TRX)等も公知である。GST融合タンパク質は、GST親和性レジンによって精製することができる。
【0118】
PHA合成酵素の活性測定は、既報の各種方法を用いることができるが、例えば、3-ヒドロキシアシルCoAがPHA合成酵素の触媒作用により重合してPHAになる過程で放出されるCoAを、5、5'-ジチオビス-(2-ニトロ安息香酸)で発色させて測定することを測定原理とする、以下に示す方法によって測定することができる。試薬1:ウシ血清アルブミン(Sigma社製)を0.1 M トリス塩酸バッファー(pH8.0)に3.0 mg/mL溶解、試薬2:3-ヒドロキシオクタノイルCoAを0.1 M トリス塩酸バッファー(pH8.0) に3.0 mM溶解、試薬3:トリクロロ酢酸を0.1 M トリス塩酸バッファー(pH8.0) に10 mg/mL溶解、試薬4:5、5'-ジチオビス-(2-ニトロ安息香酸)を0.1 M トリス塩酸バッファー(pH8.0) に2.0 mM溶解。第1反応(PHA合成反応):試料(酵素)溶液100μlに試薬1を100μl添加して混合し、30℃で1分間プレインキュベートする。ここに、試薬2を100μl添加して混合し、30℃で1〜30分間インキュベートしたのち、試薬3を添加して反応を停止させる。第2反応(遊離CoAの発色反応):反応停止した第1反応液を遠心分離(15、000×g、10分間)し、この上清500μlに試薬4を500μl添加し、30℃で10分間インキュベートしたのち、412 nmの吸光度を測定する。酵素活性の算出:1分間に1μmolのCoAを放出させる酵素量を1単位(U)とする。
【0119】
<PHA被覆リポソームの製造方法>本発明のPHA被覆リポソームの製造方法の一例としては、図1に例示したように(1)前述の方法で作製したリポソームを水性媒体に分散する工程(図1 [A])、(2)PHA合成酵素を分散されたリポソームに固定化する工程(図1 [B])、(3)基質である3-ヒドロキシアシルCoAを添加する工程、(4)PHA合成反応を行う工程(図1 [C])、(5)PHAにより被覆されたリポソームを回収し、必要に応じて乾燥したり、また用途に応じて適宜選択される媒体に分散し分散系として加工する工程、を少なくとも有する方法を挙げることができる。
【0120】
リポソームを水性媒体に分散する工程は、選択した1つまたは複数のリポソームを水性媒体に添加し、分散処理を行った後、必要であれば所望の粒径範囲に分級することによって行う。
【0121】
分散されたリポソームの粒径は、用途によってことなるが、その粒径について100nm〜100μm程度まで単分散状態で分散させることが望ましい。分散されたリポソームの粒径が所望の範囲に無い場合は、ろ過や沈降法などによる分級を行うことによって調整することができる。
【0122】
分散されたリポソームの粒径は、吸光度法、静的光散乱法、動的光散乱法、遠心沈降法などの既知の方法により測定でき、例えば、コールターカウンターマルチサイザー等の粒径測定装置を用いることができる。
【0123】
本工程のPHA合成用の水性媒体の組成は、リポソームを所望の状態に分散させうるもので、さらに後の工程の、酵素をリポソームに固定化する工程やPHA合成反応を行う工程を妨げないものであればよいが、後の工程の省略化を図るために、PHA合成酵素の活性を発揮させ得る組成としておくこともできる。ここで、PHA合成酵素の活性を発揮させ得る組成として、例えば緩衝液を用いることができる。緩衝液としては、生化学的反応に用いられる一般的な緩衝液、例えば、酢酸バッファー、リン酸バッファー、リン酸カリウムバッファー、3-(N-モルフォリノ)プロパンスルフォン酸(MOPS)バッファー、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルフォン酸(TAPS)バッファー、トリス塩酸バッファー、グリシンバッファー、2-(シクロヘキシルアミノ)エタンスルフォン酸(CHES)バッファーなどが好適に用いられる。PHA合成酵素の活性を発揮させ得る緩衝液の濃度は、一般的な濃度、即ち5mMから1.0Mの範囲で使用することができるが、望ましくは10〜200mMで行うことが好ましい。また、pHは5.5から9.0、好ましくは7.0から 8.5となるように調製するが、使用するPHA合成酵素の至適pHやpH安定性によっては、上記範囲以外に条件を設定することも除外されない。
【0124】
また、水性媒体中でのリポソームの分散状態を保つために、後の工程を妨げない種類及び濃度、さらには本発明のPHA被覆リポソームの目的を妨げない種類及び濃度であれば、適当な界面活性剤を添加してもよい。このような界面活性剤の例として、例えばオレイン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシル−N−サルコシン酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、タウロデオキシコール酸ナトリウム等の陰イオン界面活性剤、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルピリジニウムクロライド等の陽イオン界面活性剤、3−〔(コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)、3−〔(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(CHAPSO)、パルミトイルリゾレシチン、ドデシル−β−アラニン等の両性イオン界面活性剤、オクチルグルコシド、オクチルチオグルコシド、ヘプチルチオグルコシド、デカノイル−N−メチルグルカミド(MEGA−10)、ポリオキシエチレンドデシルエーテル(Brij、Lubrol)、ポリオキシエチレン−i−オクチルフェニルエーテル(Triton X)ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(Nonidet P−40、TritonN)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル(Span)、ポリオキシエチレンソリビトールエステル(Tween)等の非イオン界面活性剤などを挙げることが出来る。
【0125】
また、水性媒体中でのリポソームの分散状態を保つために、後の工程を妨げない種類及び濃度、さらには本発明のPHA被覆リポソームの用途に必要な特性を妨げない種類及び濃度であれば、適当な補助溶媒を添加してもよい。補助溶媒としては、例えばヘキサン等、直鎖脂肪族炭化水素、またメタノール、エタノール等の1価アルコール類やグリセロール等の多価アルコール類及び脂肪酸エーテル類、カルボン酸エステル類等の誘導体から選ばれる一種又は二種以上のものを選択し使用することができる。
【0126】
PHA合成酵素をリポソームに固定化する工程は、先のリポソーム分散液にPHA合成酵素を添加し、固定化処理を施すことによって行うことができる。固定化処理は、該酵素の活性が保持され得るものであり、かつ、所望のリポソームにおいて適用可能なものであれば、通常行われている酵素固定化方法の中から任意に選択して行うことができる。例えば、共有結合法、イオン吸着法、疎水吸着法、物理的吸着法、アフィニティ吸着法、架橋法、格子型包括法などを例示することができるが、特にイオン吸着や疎水吸着を利用した固定化方法が簡便である。
【0127】
PHA合成酵素などの酵素タンパク質は、アミノ酸が多数結合したポリペプチドであり、リシン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸などの遊離のイオン性基を有するアミノ酸によってイオン吸着体としての性質を示し、またアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、プロリンなどの遊離の疎水性基を有するアミノ酸によって、また有機高分子であるという点で疎水吸着体としての性質を有している。従って、程度の差はあるが、イオン性や疎水性、もしくはイオン性と疎水性の両方の性質を有するリポソームに吸着させることが可能である。
【0128】
主にイオン吸着法によってPHA合成酵素を固定化する方法では、イオン性官能基を表面に発現しているリポソームを用いれば良く、例えば、フォスファチジルセリンやフォスファチジン酸、ジセチルリン酸、フォスファチジルイノシトールといった陰電荷を与える脂質を用いたり、ステアリルアミンをといった正電荷を与える脂質を共存させてリポソームを調製すればよい。
【0129】
イオン吸着法または疎水吸着法によるPHA合成酵素のリポソームへの固定化は、リポソームとPHA合成酵素を所定の水性媒体中で所定の濃度となるように混合することによって達成される。このとき、酵素がリポソームの表面に均等に吸着されるよう、反応容器を適当な強度で振盪あるいは攪拌することが望ましい。上記固定化処理において、リポソームと酵素の混合された水性媒体の組成としては、水性媒体のpHや塩濃度によってリポソームおよびPHA合成酵素の表面電荷の正負や電荷量、疎水性が変化するので、それを考慮した組成とするのが望ましい。例えば、リポソームが主にイオン吸着性である場合には、塩濃度を下げることにより、リポソームとPHA合成酵素との吸着に寄与する電荷量を増やすことができる。また、pHを変える事により、両者の反対電荷を増やすことができる。またリポソームとPHA合成酵素との吸着量を直接測定して組成を求めることもできる。吸着量の測定は、例えば、リポソームが分散された溶液に濃度既知のPHA合成酵素溶液を添加し、吸着処理を行った後、溶液中のPHA合成酵素濃度を測定し、差し引き法により吸着酵素量を求める等の方法を用いればよい。
【0130】
イオン吸着法や疎水吸着法によって酵素を固定化し難いリポソームの場合は、操作の煩雑さや酵素の失活の可能性を配慮した処置を必要に応じて行うことにより共有結合法によって固定してもかまわない。例えば、チオール反応性基(ジチオピリジル基、マレイミド基などのチオール基と反応し得る反応性基)を有するリポソームと酵素のチオール基との間で交換反応させる方法などがある。また、N−ヒドロキシコハク酸イミド、クロロギ酸エチル、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、Woodward試薬K、シアヌル酸およびトリフルオロメタンスルホニルクロライドのような単官能性活性化試薬によって酵素の水酸基、アミンまたはカルボキシル基を活性化したり、いくらかのジイソシアネートのような異なる反応性を有する基を含む多くの二官能性架橋試薬によって酵素を活性化し、ホスファチジルエタノールアミンのようなアミノ基含有リン脂質を含むリポソームにカップリングし得る。
【0131】
また、アフィニティ吸着によって酵素をリガンドが導入されたリポソームに固定化してもよい。この場合、リガンドとしてPHA合成酵素の酵素活性を維持しながらアフィニティ吸着を行えるものであれば、いかなるものも選択できる。また、PHA合成酵素にタンパク質等の他の生体高分子を結合させ、結合した生体高分子をアフィニティ吸着することで酵素を固定化してもよい。PHA合成酵素と生体高分子との結合は遺伝子組換え等によって行ってもよいし、化学的に行ってもよい。
【0132】
また、リポソームに対して結合能を有するアミノ酸配列を含むペプチドをポリヒドロキシアルカノエート合成酵素に融合して提示させ、該リポソームに対して結合能を有するアミノ酸配列のペプチド部分と、リポソームとの結合性に基づいて、該リポソーム表面にポリヒドロキシアルカノエート合成酵素を固定化することもできる。
【0133】
リポソームに対する結合能を有するアミノ酸配列は、例えばランダムペプチドライブラリのスクリーニングによって決定することができる。特に例えばM13 系ファージの表面蛋白質(例えばgeneIII 蛋白質)のN末端側遺伝子にランダム合成遺伝子を連結して調製されたファージディスプレイペプチドライブラリーを好適に用いることが出来るが、この場合リポソームに対する結合能を有するアミノ酸配列の決定するには、次のような手順をとる。すなわち、リポソームあるいは該リポソームを構成するリン脂質に対してファージディスプレイペプチドライブラリーを添加することによって接触させ、その後洗浄により結合ファージと非結合ファージを分離する。リポソーム結合ファージを酸などにより溶出し緩衝液で中和した後大腸菌に感染させファージを増幅する。この選別を複数回繰り返すと目的のリポソームに結合能のある複数のクローンが濃縮される。ここで単一なクローンを得るため再度大腸菌に感染させた状態で培地プレート上にコロニーを作らせる。それぞれの単一コロニーを液体培地で培養した後、培地上清中に存在するファージをポリエチレングリコール等で沈殿精製し、その塩基配列を解析すればペプチドの構造を知ることができる。
【0134】
上記方法により得られたリポソームに対する結合能を有するペプチドのアミノ酸配列は、通常の遺伝子工学的手法を用いて、ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素に融合して利用される。リポソームに対する結合能を有するペプチドはポリヒドロキシアルカノエート合成酵素のN末端あるいはC末端に連結して発現することができる。また適当なスペーサー配列を挿入して発現することもできる。スペーサー配列としては、約3〜約400アミノ酸が好ましく、また、スペーサー配列はいかなるアミノ酸を含んでもよい。最も好ましくは、スペーサー配列は、PHA合成酵素が機能するのを妨害せず、また、PHA合成酵素がリポソームに結合するのを妨害しないものである。
【0135】
上記方法により作製された、酵素を固定化したリポソームは、そのままでも用いることができるが、さらに凍結乾燥等を施した上で使用することもできる。
【0136】
3-ヒドロキシアシルCoAの重合によりPHAが合成される反応において放出されるCoA量が1分間に1μmolとなるPHA合成酵素量を1単位(U)としたとき、リポソームに固定する酵素の量は、リン脂質1 gあたり10 単位(U)から1、000単位(U)、望ましくは50 単位(U)から500単位(U) の範囲内に設定すると良い。
【0137】
酵素の固定化処理を行う時間は1分から24時間が望ましく、より望ましくは10分から1時間である。過剰な静置あるいは放置はリポソームの凝集及び酵素活性の低下を招くので好ましくない。
【0138】
また、前工程のリポソームを分散する工程を省略して、水性媒体に分散する前のリポソームを、直接酵素溶液に添加し、酵素溶液中で分散を行いながら、酵素をリポソームに固定化してもよい。この場合、リポソームに固定化された酵素が保有するイオン性官能基による電気的反発や立体障害によって、リポソームが水性媒体中で分散することを容易にし、水性媒体への界面活性剤の添加を不要にする、もしくは少量化することが可能となる。
【0139】
基質である3-ヒドロキシアシルCoAを添加する工程は、前工程の酵素が固定化されたリポソームの水性分散液に対し、別途用意した3-ヒドロキシアシルCoAの保存液を目的濃度に達するように添加することによって達成される。基質である3-ヒドロキシアシルCoAは、一般に0.1mMから1.0M、望ましくは0.2mMから0.2M、さらに望ましくは0.2 mMから1.0mMの終濃度で添加される。
【0140】
また、上記工程において、水系反応液中の3-ヒドロキシアシルCoAの種類や濃度などの組成を経時的に変化させることによって、リポソームの内側から外側に向かう方向にリポソームを被覆するPHAのモノマーユニット組成を変化させることができる。
【0141】
このモノマーユニット組成の変化したリポソームの形態として、例えば、PHA被膜の組成変化が連続的で、内側から外側に向かう方向に組成の勾配を形成した1層のPHAがリポソームを被覆した形態を挙げることができる。製造方法としては、例えば、PHAを合成しながら反応液中に別組成の3-ヒドロキシアシルCoAを添加するなどの方法によればよい。
【0142】
また別の形態として、PHA被膜の組成変化が段階的で、組成の異なるPHAがリポソームを多層に被覆した形態を挙げることができる。この製造方法としては、ある3-ヒドロキシアシルCoAの組成でPHAを合成した後、遠心分離やゲルろ過法などによって調製中のリポソームを反応液からいったん回収し、これに異なる3-ヒドロキシアシルCoAの組成からなる反応液を再度添加するなどの方法によればよい。
【0143】
PHA合成反応を行う工程は、合成するPHAによって所望の形状のPHA被覆リポソームが得られるように、反応溶液の組成を前工程までに調製していない場合にはPHA合成酵素の活性を発揮させ得る組成となるように調製を行い、反応温度及び反応時間を調整することによって行う。
【0144】
PHA合成酵素の活性を発揮させ得る反応溶液の緩衝液の濃度は、一般的な濃度、即ち5mMから1.0Mの範囲で使用することができるが、望ましくは10〜200mMで行うことが好ましい。また、pHは5.5から9.0、好ましくは7.0から 8.5となるように調製するが、使用するPHA合成酵素の至適pHやpH安定性によっては、上記範囲以外に条件を設定することも除外されない。
【0145】
反応温度は、使用するPHA合成酵素の特性に応じて適宜設定するものであるが、通常、4℃から50℃、好ましくは20℃から40℃に設定すると良い。ただし、使用するPHA合成酵素の至適温度や耐熱性によっては、上記範囲以外に条件を設定することも除外されない。反応時間は、使用するPHA合成酵素の安定性等にもよるが、通常、1分間から24時間、好ましくは30分間から3時間の範囲内で適宜選択して設定する。
【0146】
本工程によってPHA被覆リポソームが得られるが、そのリポソームを構成するPHAのモノマーユニット構造は、PHA被覆リポソームからクロロホルムによってPHAを抽出した後、ガスクロマトグラフィー等による組成分析や、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS)とイオンスパッタリング技術を用いて判定することができる。
【0147】
PHAの分子量は特に制限はないが、PHA被覆リポソームの強度を維持するため、数平均分子量が1、000〜10、000、000、より好ましくは、3、000〜1、000、000の範囲とするのが望ましい。PHAの分子量は、PHA被覆リポソームからクロロホルムによってPHAを抽出した後、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって測定すればよい。
【0148】
PHAの被覆量としては、PHA被覆リポソームの用途にもよるが、例えば、リポソーム乾燥質量に対して1〜30質量%の範囲の重量組成比であり、好ましくは1〜20質量%の範囲、より好ましくは1〜15質量%の範囲とする。
【0149】
上記工程によって得られるPHA被覆リポソームの粒径は、PHA被覆リポソームの用途にもよるが、通常50μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは、0.01〜10μmとする。PHA被覆リポソームの粒径は、吸光度法、静的光散乱法、動的光散乱法、遠心沈降法などの既知の方法により測定でき、例えば、コールターカウンターマルチサイザー等の粒径測定装置を用いることができる。
【0150】
また、本工程で得られたPHA被覆リポソームに各種二次加工や化学修飾等の処理を施して使用することもできる。
【0151】
例えば、PHA被覆リポソーム表層のPHAに化学修飾を施すことにより、さらに有用な機能・特性を備えたPHA被覆リポソームを得ることができる。例えば、グラフト鎖を導入することにより、該グラフト鎖に起因する各種の特性を備えたPHA被覆リポソームを得ることができる。例えば、後述するポリシロキサンをグラフト鎖として導入すれば、さらに機械的強度、分散性、耐候性、撥(耐)水性、耐熱性等が向上したPHA被覆リポソームを得ることができる。また、PHA被覆リポソームのPHAを架橋化せしめることにより、PHA被覆リポソームの機械的強度、耐薬品性、耐熱性などをさらに向上させることが可能である。
【0152】
化学修飾の方法は、所望の機能・構造を得る目的を満たす方法であれば特に限定はされないが、例えば、反応性官能基を側鎖に有するPHAを合成し、該官能基の化学反応を利用して化学修飾する方法を、好適な方法として用いることができる。
【0153】
前記の反応性官能基の種類は、所望の機能・構造を得る目的を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、前記したエポキシ基を例示することができる。エポキシ基を側鎖に有するPHAは、通常のエポキシ基を有するポリマーと同様の化学的変換を行うことができる。具体的には、例えば水酸基に変換したり、スルホン基を導入することが可能である。また、チオールやアミンを有する化合物を付加することもでき、例えば、末端に反応性官能基を有する化合物、具体的には、エポキシ基との反応性が高いアミノ基を末端に有する化合物などを添加して反応させることにより、ポリマーのグラフト鎖が形成される。
【0154】
アミノ基を末端に有する化合物としては、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、アミノ変性ポリシロキサン(アミノ変性シリコーンオイル)などのアミノ変性ポリマーを例示することができる。このうち、アミノ変性ポリシロキサンとしては、市販の変性シリコーンオイルを使用しても良く、また、J.Amer.Chem.Soc.、78、2278(1956)などに記載の方法で合成して使用することもでき、該ポリマーのグラフト鎖の付加による機械的強度、分散性、耐光性、耐候性、撥(耐)水性、耐熱性の改善等の効果が期待できる。
【0155】
また、エポキシ基を有するポリマーの化学的変換の他の例として、ヘキサメチレンジアミンなどのジアミン化合物、無水コハク酸、2-エチル-4-メチルイミダゾールなどによる架橋反応が、物理化学的変換の例として電子線照射などによる架橋反応が挙げられる。このうち、エポキシ基を側鎖に有するPHAとヘキサメチレンジアミンとの反応は、下記のスキームに示すような形で進行し、架橋ポリマーが生成する。
【0156】
【化64】

【0157】
本発明のPHAにより被覆されたリポソームを回収し、必要に応じて乾燥したり、また媒体に分散し分散系として加工する工程は、PHA被覆リポソームの用途に応じて適宜選択される分散媒に置換することにより達成される。
【0158】
本発明のPHA被覆リポソームを例えば農薬組成物用リポソームとして用いる場合には、前工程で得られるスラリーをそのまま農薬組成物として使用することも可能であるが、水性懸濁剤、水和剤、粉剤、粒剤等のより使用し易い形態の製剤にして用いられ、中でも水性懸濁剤として用いるのが好ましい。該水性懸濁剤は、上述のようにして得られたリポソームのスラリーに増粘剤、凍結防止剤、比重調節剤、防腐剤等の安定剤を添加して調製される。用いられる増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、ザンタンガム、ラムザンガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、ウェランガム等の多糖類、ポリアクリル酸ソーダ等の合成高分子、アルミニウムマグネシウムシリケート、スメクタイト、ベントナイト、ヘクトライト、乾式法シリカ等の鉱物質微粉末、アルミナゾルなどが挙げられ、凍結防止剤としては、プロピレングリコール等のアルコール類が挙げられ、比重調節剤としては硫酸ナトリウム等の水溶性塩類、尿素などが挙げられる。
【0159】
本発明のPHA被覆リポソームを例えば肥料組成物用リポソームとして用いる場合には、前工程で得られるスラリーをそのまま肥料組成物として使用することも可能であるが、水性懸濁剤、水和剤、粉剤、粒剤等のより使用し易い形態の製剤にして用いられ、中でも水性懸濁剤として用いるのが好ましい。該水性懸濁剤は、上述のようにして得られたリポソームのスラリーに増粘剤、凍結防止剤、比重調節剤、防腐剤等の安定剤を添加して調製される。用いられる増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、ザンタンガム、ラムザンガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、ウェランガム等の多糖類、ポリアクリル酸ソーダ等の合成高分子、アルミニウムマグネシウムシリケート、スメクタイト、ベントナイト、ヘクトライト、乾式法シリカ等の鉱物質微粉末、アルミナゾルなどが挙げられ、凍結防止剤としては、プロピレングリコール等のアルコール類が挙げられ、比重調節剤としては硫酸ナトリウム等の水溶性塩類、尿素などが挙げられる。
【0160】
本発明のPHA被覆リポソームを例えば化粧品用リポソームとして用いる場合には、分散媒としては、固体状又は液状パラフィン、クリスタルオイル、セレシン、オゾケライト又はモンタンロウなどの炭化水素類;オリーブ、地ロウ、カルナウバロウ、ラノリン又は鯨ロウなどの植物もしくは動物性油脂及びロウ;ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、グリセリンモノステアリン酸エステル、グリセリンジステアリン酸エステル、グルセリンモノオレイン酸エステル、イソプロピルミリスチン酸エステル、イソプロピルステアリン酸エステル又はブチルステアリン酸エステルなどの脂肪酸及びそれらのエステル類;メチルポリシロキサン、メチルポリシクロシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、シリコーンポリエーテルコポリマーなどのシリコーン類;エタノール、イソプロピルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、パルミチルアルコール又はヘキシルドデシルアルコールなどのアルコール類;グリコール、グリセリン又はソルビトールなどの保湿作用を有する多価アルコール類など公知の化粧料基剤に分散され調製される。本発明のPHA被覆リポソームを例えば人工赤血球用リポソームとして用いる場合には、前工程で得られるスラリーを生理食塩水に懸濁し、さらにゲルろ過法、遠心分離法など公知の手段によって粗大粒子を除去する。
【0161】
本発明のPHA被覆リポソームを例えばインク用リポソームとして用いる場合には、水性媒体に分散される。水性媒体への分散を補助する目的で、界面活性剤や保護コロイド、さらには水溶性有機溶剤などを、塗膜の耐水性を著しく低下させない範囲で添加することもできる。また防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤等を添加することもできる。インク用リポソームに添加しても良い保護コロイドとして具体的には、にかわ、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、アラビアゴム、フィッシュグリューなどの天然タンパク質やアルギン酸、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキシド、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、芳香族アミド、ポリアクリル酸、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、アクリル、ポリエステル等の合成高分子等が挙げられる。保護コロイドは、定着性や粘度調節、速乾性を挙げる目的で、必要に応じて使用されるものであり、インク中の保護コロイドの含有割合は、30質量%以下が好ましく、20質量%以下が特に好ましい。
【0162】
インク用リポソームに添加しても良い界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、両性イオン性、非イオン性のいずれの活性剤でも良い。アニオン性界面活性剤の例としては、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、半硬化牛脂脂肪酸ナトリウム、等の脂肪酸塩類;ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸トリ(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、オクタデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩類;ノニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オクタデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等のベンゼンスルホン酸塩類;ドデシルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物等のナフタレンスルホン酸塩類;スルホコハク酸ジドデシルナトリウム、スルホコハク酸ジオクタデシルナトリウム等のスルホコハク酸エステル塩類;ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸トリ(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、ポリオキシエチレンオクタデシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレン硫酸エステル塩類;ドデシルリン酸カリウム、オクタデシルリン酸ナトリウム等のリン酸エステル塩類等が挙げられる。カチオン性界面活性剤の例としては、酢酸オクタデシルアンモニウム、ヤシ油アミン酢酸塩等のアルキルアミン塩類;塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム、塩化ジオクタデシルジメチルアンモニウム、塩化ドデシルベンジルジメチルアンモニウム等の第4級アンモニウム塩類が挙げられる。両性イオン性活性剤の例としては、ドデシルベタイン、オクタデシルベタイン等のアルキルベタイン類;ドデシルジメチルアミンオキシド等のアミンオキシド類等が挙げられる。非イオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンオクタデシルエーテル、ポリオキシエチレン(9−オクタデセニル)エーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンフェニルエーテル類;ポリ酸化エチレン、コ−ポリ酸化エチレン酸化プロピレン等のオキシラン重合体類;ソルビタンドデカン酸エステル、ソルビタンヘキサデカン酸エステル、ソルビタンオクタデカン酸エステル、ソルビタン(9−オクタデセン酸)エステル、ソルビタン(9−オクタデセン酸)トリエステル、ポリオキシエチレンソルビタンドデカン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンヘキサデカン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンオクタデカン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンオクタデカン酸トリエステル、ポリオキシエチレンソルビタン(9−オクタデセン酸)エステル、ポリオキシエチレンソルビタン(9−オクタデセン酸)トリエステル等のソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビトール(9−オクタデセン酸)テトラエステル等のソルビトール脂肪酸エステル類;グリセリンオクタデカン酸エステル、グリセリン(9−オクタデセン酸)エステル等のグリセリン脂肪酸エステル類が挙げられる。これらの非イオン性活性剤の中でもHLBが14以上のものが特に好ましい。本発明に用いる上記界面活性剤の配合量は、単独使用の場合又は2種以上を混合使用する場合によりその配合量は変動するが、水性インク組成物全量に対して0〜10質量%、好ましくは0〜5質量%である。本発明の水性顔料インク組成物は、組成物全量に対して水が20〜95質量%、顔料が1〜60体積%の範囲で含有することが好ましい。
【実施例】
【0163】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、以下に述べる実施例は本発明の最良の実施形態の一例ではあるが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0164】
(参考例1)
PHA合成酵素生産能を有する形質転換体の作製、および、PHA合成酵素の生産PHA合成酵素生産能を有する形質転換体を以下の方法で作製した。即ちYN2株を100 mLのLB培地(1%ポリペプトン、0.5%酵母エキス、0.5%塩化ナトリウム、pH7.4)で30℃、一晩培養後、マーマーらの方法により染色体DNAを分離回収した。得られた染色体DNAを制限酵素HindIIIで完全分解した。ベクターにはpUC18を使用し、制限酵素HindIIIで切断した。末端の脱リン酸処理(Molecular Cloning、1、572、(1989); Cold Spring Harbor Laboratory出版)ののち、DNAライゲーションキットVer.II(宝酒造)を用いて、ベクターの切断部位(クローニングサイト)と染色体DNAのHindIII完全分解断片とを連結した。この染色体DNA断片を組み込んだプラスミドベクターを用いて、大腸菌(Escherichia coli)HB101株を形質転換し、YN2株のDNAライブラリーを作製した。
【0165】
次に、YN2株のPHA合成酵素遺伝子を含むDNA断片を選択するため、コロニー・ハイブリダイズ用のプローブ調製を行った。配列番号:5および配列番号:6の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを合成し(アマシャムファルマシア・バイオテク)、このオリゴヌクレオチドをプライマーに用いて、染色体DNAをテンプレートとしてPCRを行った。PCR増幅されてきたDNA断片をプローブとして用いた。プローブの標識化は、市販の標識酵素系AlkPhosDirect(アマシャムファルマシア・バイオテク)を利用して行った。得られた標識化プローブを用いて、YN2株の染色体DNAライブラリーからコロニーハイブリダイゼーション法によってPHA合成酵素遺伝子を含む組換えプラスミドを有する大腸菌菌株を選抜した。選抜した菌株から、アルカリ法によってプラスミドを回収することで、PHA合成酵素遺伝子を含むDNA断片を得ることができた。
【0166】
ここで取得した遺伝子DNA断片を、不和合性グループであるIncP、IncQ、あるいはIncWの何れにも属さない広宿主域複製領域を含むベクターpBBR122(Mo Bi Tec)に組み換えた。この組み換えプラスミドをシュードモナス・チコリアイYN2ml株(PHA合成能欠損株)にエレクトロポレーション法により形質転換したところ、YN2ml株のPHA合成能が復帰し、相補性を示した。従って、選抜された遺伝子DNA断片は、シュードモナス・チコリアイYN2ml株内において、PHA合成酵素に翻訳可能な、PHA合成酵素遺伝子領域を含むことが確認される。
【0167】
このPHA合成酵素遺伝子を含むDNA断片について、サンガー法により塩基配列を決定した。その結果、決定された塩基配列中には、それぞれペプチド鎖をコードする、配列番号:2および配列番号:4で示される塩基配列が存在することが確認された。下で述べるように、個々のペプチド鎖からなる蛋白質は、ともに酵素活性を有しており、配列番号:2および配列番号:4で示される塩基配列はそれぞれPHA合成酵素遺伝子であることを確認することができた。すなわち、配列番号:1に示すアミノ酸配列を配列番号:2の塩基配列はコードしており、配列番号:3に示すアミノ酸配列を配列番号:4の塩基配列はコードしており、この何れか一方のアミノ酸配列を有する蛋白質のみで、PHA合成能が発揮されることを確認した。
【0168】
配列番号:2で示される塩基配列のPHA合成酵素遺伝子について、染色体DNAをテンプレートとしてPCRを行い、PHA合成酵素遺伝子の完全長を再調製した。
【0169】
配列番号:2で示される塩基配列に対して、上流側プライマーとなる、その開始コドンよりも上流の塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(配列番号:7)および下流側プライマーとなる、終止コドンよりも下流の塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(配列番号:8)をそれぞれ設計・合成した(アマシャムファルマシア・バイオテク)。このオリゴヌクレオチドをプライマーとして、染色体DNAをテンプレートとしてPCRを行い、PHA合成酵素遺伝子の完全長を増幅した(LA-PCRキット;宝酒造)。
【0170】
同様に、配列番号:4で示される塩基配列のPHA合成酵素遺伝子についても、染色体DNAをテンプレートとしてPCRを行い、PHA合成酵素遺伝子の完全長を再調製した。配列番号:4で示される塩基配列に対して、上流側プライマーとなる、その開始コドンよりも上流の塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(配列番号:9)および下流側プライマーとなる、終止コドンよりも下流の塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(配列番号:10)をそれぞれ設計・合成した(アマシャムファルマシア・バイオテク)。このオリゴヌクレオチドをプライマーとして、PCRを行い、PHA合成酵素遺伝子の完全長を増幅した(LA-PCRキット;宝酒造)。
【0171】
次に、得られたPHA合成酵素遺伝子の完全長を含むPCR増幅断片を、それぞれについて制限酵素HindIIIを用いて完全分解した。また、発現ベクターpTrc99Aも制限酵素HindIIIで切断し、脱リン酸化処理(Molecular Cloning、1巻、572頁、1989年;Cold Spring Harbor Laboratory出版)した。この発現ベクターpTrc99Aの切断部位に、両末端の不用な塩基配列を除いたPHA合成酵素遺伝子の完全長を含むDNA断片を、DNAライゲーションキットVer.II(宝酒造)を用いて連結した。
【0172】
得られた組換えプラスミドで大腸菌(Escherichia coli HB101:宝酒造)を塩化カルシウム法により形質転換した。得られた組換え体を培養し、組換えプラスミドの増幅を行い、組換えプラスミドをそれぞれ回収した。配列番号:2の遺伝子DNAを保持する組換えプラスミドをpYN2-C1(配列番号2由来)、配列番号:4の遺伝子DNAを保持する組換えプラスミドをpYN2-C2(配列番号4由来)とした。
【0173】
pYN2-C1、pYN2-C2で大腸菌(Escherichia coli HB101fB fadB欠損株)を塩化カルシウム法により形質転換し、それぞれの組換えプラスミドを保持する組換え大腸菌株、pYN2-C1組換え株、pYN2-C2組換え株を得た。
【0174】
pYN2-C1組換え株、pYN2-C2組換え株それぞれを酵母エキス0.5%、オクタン酸0.1%とを含むM9培地200mlに植菌して、37℃、125ストローク/分で振盪培養した。24時間後、菌体を遠心分離によって回収し、常法によりプラスミドDNAを回収した。
【0175】
pYN2-C1に対して、上流側プライマーとなる、オリゴヌクレオチド(配列番号:11)および下流側プライマーとなる、オリゴヌクレオチド(配列番号:12)をそれぞれ設計・合成した(アマシャムファルマシア・バイオテク)。このオリゴヌクレオチドをプライマーとして、pYN2-C1をテンプレートとしてPCRを行い、上流にBamHI制限部位、下流にXhoI制限部位を有するPHA合成酵素遺伝子の完全長を増幅した(LA-PCRキット;宝酒造)。
【0176】
同様にpYN2-C2に対して、上流側プライマーとなる、オリゴヌクレオチド(配列番号:13)および下流側プライマーとなる、オリゴヌクレオチド(配列番号:14)をそれぞれ設計・合成した(アマシャムファルマシア・バイオテク)。このオリゴヌクレオチドをプライマーとして、pYN2-C2をテンプレートとしてPCRを行い、上流にBamHI制限部位、下流にXhoI制限部位を有するPHA合成酵素遺伝子の完全長を増幅した(LA-PCRキット;宝酒造)。
【0177】
精製したそれぞれのPCR増幅産物をBamHIおよびXhoIにより消化し、プラスミドpGEX‐6P‐1(アマシャムファルマシア・バイオテク社製)の対応する部位に挿入した。これらのベクターを用いて大腸菌(JM109)を形質転換し、発現用菌株を得た。菌株の確認は、Miniprep(Wizard Minipreps DNA Purification Systems、PROMEGA社製)を用いて大量に調製したプラスミドDNAをBamHI、XhoIで処理して得られるDNA断片により行った。得られた菌株をLB-Amp培地10mLで一晩プレ・カルチャーした後、その0.1mLを、10mLのLB-Amp培地に添加し、37℃、170rpmで3時間振とう培養した。その後IPTGを添加 (終濃度 1mM) し、37℃で4~12時間培養を続けた。
【0178】
IPTG 誘導した大腸菌を集菌 (8000×g、 2分、4℃) し、1/10 量の 4℃ PBSに再懸濁した。凍結融解およびソニケーションにより菌体を破砕し、遠心 (8000×g、 10分、4℃)して固形夾雑物を取り除いた。目的の発現タンパク質が上清に存在することをSDS-PAGEで確認した後、誘導され発現されたGST融合タンパク質をグルタチオン・セファロース4B(Glutathion Sepharose 4B beads: アマシャムファルマシア・バイオテク社製)で精製した。
【0179】
使用したグルタチオンセファロースは、予め非特異的吸着を抑える処理を行った。すなわち、グルタチオンセファロースを同量のPBSで3回洗浄(8000×g、1分、4℃) した後、4%BSA含有PBSを同量加えて4℃で1時間処理した。処理後同量のPBSで2回洗浄し、1/2量のPBSに再懸濁した。前処理したグルタチオンセファロース 40μLを、無細胞抽出液1mL に添加し、4℃で静かに攪拌した。これにより、融合タンパク質GST-YN2-C1およびGST-YN2-C2をグルタチオンセファロースに吸着させた。
【0180】
吸着後、遠心 (8000×g、 1分、4℃)してグルタチオンセファロースを回収し、400μLのPBSで3回洗浄した。その後、10 mMグルタチオン40μLを添加し、4℃で1時間攪拌して、吸着した融合タンパク質を溶出した。遠心 (8000×g、2分、4℃)して上清を回収した後PBSに対して透析し、GST融合タンパク質を精製した。SDS-PAGEにより、シングルバンドを示すことを確認した。
【0181】
各GST融合タンパク質500μgをPreScissionプロテアーゼ(アマシャムファルマシア・バイオテク、5U)で消化した後、グルタチオン・セファロースに通してプロテアーゼとGSTを除去した。フロースルー分画をさらに、PBSで平衡化したセファデックスG200カラムにかけ、発現タンパク質YN2-C1およびYN2-C2の最終精製物を得た。SDS-PAGEによりそれぞれ60.8kDa、および61.5kDaのシングルバンドを示すことを確認した。
【0182】
各精製酵素活性は前述の方法で測定した。また、試料中のタンパク質濃度は、マイクロBCAタンパク質定量試薬キット(ピアスケミカル社製)によって測定した。各精製酵素の活性測定の結果を表1に示した。
【0183】
【表1】

【0184】
該酵素を生体溶液試料濃縮剤(みずぶとりくんAB-1100、アトー(株)製)を用いて濃縮し、10 U/mlの精製酵素溶液を得た。
【0185】
(参考例2)
PHA合成酵素の生産2P91株、H45株、YN2株またはP161株を、酵母エキス(Difco社製)0.5%、オクタン酸0.1%とを含むM9培地200mlに植菌して、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。24時間後、菌体を遠心分離(10、000×g、4℃、10分間)によって回収し、0.1M トリス塩酸バッファー(pH8.0) 200 mlに再懸濁して再度遠心分離することによって洗浄した。菌体を0.1M トリス塩酸バッファー(pH8.0) 2.0 mlに再懸濁し、超音波破砕機にて破砕したのち、遠心分離(12、000×g、4℃、10分間)して上清を回収して粗酵素を得た。各粗酵素の活性測定の結果を表2に示した。
【0186】
【表2】

【0187】
各酵素を生体溶液試料濃縮剤(みずぶとりくんAB-1100、アトー(株)製)を用いて濃縮し、10 U/mlの精製酵素溶液を得た。
【0188】
(参考例3)
3-ヒドロキシアシルCoAの合成(R)-3-ヒドロキシオクタノイル-CoAは、Rehm BHA、 Kruger N、 SteinbuchelA (1998) Journal of Biological Chemistry 273 pp24044-24051に基づき、若干の変更を加え次のように行った。acyl-CoA synthetase(Sigma社製)を、2 mM ATP、 5 mM MgCl2、 2 mM coenzyme A、 2mM (R)-3-hydroxyoctanoateを含むトリス塩酸緩衝液(50 mM、 pH 7.5)に溶解し、0.1ミリユニット/マイクロリットルとした。37℃の温浴中で保温し、適時サンプリングし反応の進行をHPLCで分析した。サンプリングした反応溶液に硫酸を0.02 Nになるように添加して酵素反応を止めた後、n-heptaneで未反応の基質である(R)-3-hydroxyoctanoateを抽出して除去した。HPLCによる分析には、RP18カラム(nucleosil C18、 7mm、 Knauser)を用い、25 mMリン酸緩衝液(pH 5.3)を移動相として、アセトニトリルの直線濃度勾配をかけて溶出し、ダイオードアレイ検出器で200から500 nmの吸光スペクトルをモニターすることによって、酵素反応によって生成したチオエステル化合物を検出した。同様にして、(R)-3-ヒドロキシ-5-フェニルバレリルCoAおよび(R)-3-ヒドロキシ-5-(4-フルオロフェニル)バレリルCoAを調製した。
【0189】
(実施例1)
インクを担持したPHA被覆リポソームジパルミトイルフォスファチジルコリン、ジステアリルホスファチジルコリンおよびコレステロールをそれぞれ、159.7mg、 172.0mg、 168.3mg (1:1:2のモル比で合計500mg)、1リッターのビーカー内でクロロホルムとイソプロピルエーテルの1:1の混合溶液70mLに溶解させた。これに水溶性染料ダイレクト・スペシャル・ブラックAXN(日本化薬社製)の溶液10mLを加え、プローブ型超音波発振機(Ohtake)で乳化し、w/o型乳化液を作成した。超音波の照射は50ワットの条件で30秒間、10回くりかえして行った。このようにして調製した乳化液をロータリーエバポレーターにかけて、60℃、減圧下で有機溶媒を留去し染料を担持したリポソームを得た。エバポレーターの真空度は初めは高く、有機溶媒の蒸発が進むにつれて真空度をさげて突沸しないように調節した。その後さらに染料を担持したリポソーム中に残存する少量の有機溶媒を窒素ガスをふきつけることにより留去した。さらに得られた染料を担持したリポソームに適当量の10mMリン酸緩衝液(pH7.0)を加え30mLとし、1.2ミクロンのフィルター(Acrodisc、Gelman)で濾過し、透析膜(Spectrapor、SpectrumMedical)を用いて10mMリン酸緩衝液中で24時間透析することにより担持されなかった染料を除き、染料を担持したリポソームを得た。動的光散乱法によるとその平均粒径は650nmであった。
【0190】
染料を担持したリポソームに参考例1で調整したPseudomonas cichorii YN2由来のPHA合成酵素YN2-C1を100U/mLになるように加え20℃で30分間静置した。次に参考例3で調整した (R)-3-ヒドロキシオクタノイルCoAを終濃度5mMになるように添加した。37℃で30分間インキュベートすることによって、合成反応を行った。反応液を、ゲルろ過法(Sephadex G−50カラム)によってサイズ分画して、PHA被覆リポソームを得た。動的光散乱法によると該PHA被覆リポソームの平均粒径は750nmの単分散状態であった。
【0191】
作製したPHA被覆リポソームの一部を、真空乾燥したのち、20 mlのクロロホルムに懸濁し、60℃で20時間攪拌して外被を成すPHAを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮したのち、常法に従ってメタノリシスを行い、ガスクロマトグラフィー−質量分析装置(GC-MS、島津QP-5050、EI法)で分析し、PHAモノマーユニットのメチルエステル化物の同定を行った。その結果、図2に示す通り、当該PHAは3-ヒドロキシオクタン酸をモノマーユニットとするPHAであることが確認された。さらに、該PHAの分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;東ソーHLC-8020、カラム;ポリマーラボラトリーPLgel MIXED-C(5μm)、溶媒;クロロホルム、カラム温度;40℃、ポリスチレン換算)により評価した結果、Mn=16、000、Mw=36、000であった。
【0192】
(実施例2)
抗生物質を担持したPHA被覆リポソーム抗生物質としてバンコマイシンを担持するリポソームを次のようにして調製した。精製卵黄レシチン 2.1 g、コレステロール 0.9 gを秤量し、ナス型フラスコ内でクロロホルム 20 mlに溶解させた。次いで、ロータリーエバポレーターにてクロロホルムを除去し、さらに真空乾燥機にて完全に乾燥した膜成分混合物を得た。この混合物に5 % グルコース溶液 20 ml及びバンコマイシン 0.4 gを加え、超音波処理して混合物を分散させ更に凍結融解してバンコマイシンを含有するマルチラメラベシクルを得た。セファデックスG-50 カラムを用いたゲルろ過を行い、リポソームに担持されなかったバンコマイシンを除去し、サイズ分画されたリポソーム画分を得た。動的光散乱法によるとその平均粒径は750nmであった。
【0193】
参考例1で調整したPseudomonas cichorii YN2由来のPHA合成酵素YN2-C2を100U/mLになるように加え20℃で30分間静置した。次に参考例3で調整した (R)-3-ヒドロキシ-5-フェニルバレリルCoAを終濃度5mMになるように添加した。37℃で30分間インキュベートすることによって、合成反応を行った。
【0194】
反応液を、ゲルろ過法(Sephadex G−50カラム)によってサイズ分画して、PHA被覆リポソームを得た。動的光散乱法によると該PHA被覆リポソームの平均粒径は820nmの単分散状態であった。
【0195】
作製したPHA被覆リポソームの一部を、真空乾燥したのち、20 mlのクロロホルムに懸濁し、60℃で20時間攪拌して外被を成すPHAを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮したのち、常法に従ってメタノリシスを行い、ガスクロマトグラフィー−質量分析装置(GC-MS、島津QP-5050、EI法)で分析し、PHAモノマーユニットのメチルエステル化物の同定を行った。その結果、図3に示す通り、当該PHAは3-ヒドロキシ-5-フェニル吉草酸をモノマーユニットとするPHAであることが確認された。さらに、該PHAの分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;東ソーHLC-8020、カラム;ポリマーラボラトリーPLgel MIXED-C(5μm)、溶媒;クロロホルム、カラム温度;40℃、ポリスチレン換算)により評価した結果、Mn=18、000、Mw=38、000であった。
【0196】
(実施例3)
農薬を担持したPHA被覆リポソーム農薬活性成分化合物としてO、O−ジメチル O−(3−メチル−4−ニトロフェニル) ホスホロチオエートを担持するリポソームを、次のようにして調製した。精製卵黄レシチン 2.1 g、コレステロール 0.9 gを秤量し、ナス型フラスコ内でクロロホルム 20 mlに溶解させた。次いで、ロータリーエバポレーターにてクロロホルムを除去し、さらに真空乾燥機にて完全に乾燥した膜成分混合物を得た。この混合物に5 %O−(3−メチル−4−ニトロフェニル) ホスホロチオエート水溶液 20 mlを加え、超音波処理して混合物を分散させ更に凍結融解してO−(3−メチル−4−ニトロフェニル) ホスホロチオエートを含有するマルチラメラベシクルを得た。セファデックスG-50 カラムを用いたゲルろ過を行い、リポソームに担持されなかったO−(3−メチル−4−ニトロフェニル)ホスホロチオエートを除去し、サイズ分画されたリポソーム画分を得た。動的光散乱法によるとその平均粒径は730nmであった。
【0197】
参考例2で調整したP161株由来のPHA合成酵素を100U/mLになるように加え20℃で30分間静置した。次に参考例3で調整した(R)-3-ヒドロキシ-5-(4-フルオロフェニル)バレリルCoAを終濃度5mMになるように添加した。37℃で30分間インキュベートすることによって、合成反応を行った。
【0198】
反応液を、ゲルろ過法(Sephadex G−50カラム)によってサイズ分画して、PHA被覆リポソームを得た。動的光散乱法によると該PHA被覆リポソームの平均粒径は790nmの単分散状態であった。
【0199】
作製したPHA被覆リポソームの一部を、真空乾燥したのち、20 mlのクロロホルムに懸濁し、60℃で20時間攪拌して外被を成すPHAを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮したのち、常法に従ってメタノリシスを行い、ガスクロマトグラフィー−質量分析装置(GC-MS、島津QP-5050、EI法)で分析し、PHAモノマーユニットのメチルエステル化物の同定を行った。その結果、図4に示す通り、当該PHAは(R)-3-ヒドロキシ-5-(4-フルオロフェニル)吉草酸をモノマーユニットとするPHAであることが確認された。さらに、該PHAの分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;東ソーHLC-8020、カラム;ポリマーラボラトリーPLgel MIXED-C(5μm)、溶媒;クロロホルム、カラム温度;40℃、ポリスチレン換算)により評価した結果、Mn=15、000、Mw=35、000であった。
【0200】
(実施例4)
化粧料を担持したPHA被覆リポソーム化粧料として紫外線吸収剤の一例である2、4−ジヒドロキシベンゾフェノンを担持するリポソームを、次のようにして調製した。ジパルミトイルフォスファチジルコリン、ジステアリルホスファチジルコリンおよびコレステロールをそれぞれ、159.7mg、 172.0mg、 168.3mg (1:1:2のモル比で合計500mg)、1リッターのビーカー内でクロロホルムとイソプロピルエーテルの1:1の混合溶液70mLに溶解させた。これに2、4−ジヒドロキシベンゾフェノンの5質量%水溶液10mLを加え、プローブ型超音波発振機(Ohtake)で乳化し、w/o型乳化液を作成した。超音波の照射は50ワットの条件で30秒間、10回くりかえして行った。このようにして調製した乳化液をロータリーエバポレーターにかけて、60℃、減圧下で有機溶媒を留去し2、4−ジヒドロキシベンゾフェノンを担持したリポソームを得た。エバポレーターの真空度は初めは高く、有機溶媒の蒸発が進むにつれて真空度をさげて突沸しないように調節した。その後さらに2、4−ジヒドロキシベンゾフェノンを担持したリポソーム中に残存する少量の有機溶媒を窒素ガスをふきつけることにより留去した。さらに得られた2、4−ジヒドロキシベンゾフェノンを担持したリポソームに適当量の10mMリン酸緩衝液(pH7.0)を加え30mLとし、1.2ミクロンのフィルター(Acrodisc、Gelman)で濾過し、透析膜(Spectrapor、SpectrumMedical)を用いて10mMリン酸緩衝液中で24時間透析することにより担持されなかった2、4−ジヒドロキシベンゾフェノンを除き、2、4−ジヒドロキシベンゾフェノンを担持したリポソームを得た。動的光散乱法によるとその平均粒径は660nmであった。
【0201】
2、4−ジヒドロキシベンゾフェノンを担持したリポソームに参考例2で調整したH45株由来のPHA合成酵素を100U/mLになるように加え20℃で30分間静置した。次に参考例3で調整した (R)-3-ヒドロキシオクタノイルCoAを終濃度5mMになるように添加した。37℃で30分間インキュベートすることによって、合成反応を行った。
【0202】
反応液を、ゲルろ過法(Sephadex G−50カラム)によってサイズ分画して、PHA被覆リポソームを得た。動的光散乱法によると該PHA被覆リポソームの平均粒径は730nmの単分散状態であった。
【0203】
作製したPHA被覆リポソームの一部を、真空乾燥したのち、20 mlのクロロホルムに懸濁し、60℃で20時間攪拌して外被を成すPHAを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮したのち、常法に従ってメタノリシスを行い、ガスクロマトグラフィー−質量分析装置(GC-MS、島津QP-5050、EI法)で分析し、PHAモノマーユニットのメチルエステル化物の同定を行った。その結果、当該PHAは3-ヒドロキシオクタン酸をモノマーユニットとするPHAであることが確認された。さらに、該PHAの分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;東ソーHLC-8020、カラム;ポリマーラボラトリーPLgel MIXED-C(5μm)、溶媒;クロロホルム、カラム温度;40℃、ポリスチレン換算)により評価した結果、Mn=17、000、Mw=37、000であった。
【0204】
(実施例5)
人工赤血球用リポソーム抗凝固剤入りの採血バツクを用いて、牛の静脈より1.5Lを採血した。採取血液は無菌的に密封容器内、4℃にて運搬保管した。以下工程はすべて無菌的に、4℃低温下にて行なった。連続遠心機により生理食塩水を用いて遠心洗浄を行ない血小板、白血球、血漿を取り除いた粗洗浄赤血球500mLを得た。孔径0.45μの血漿分離器により、生理食塩水を用いてさらに洗浄を行なった。洗浄赤血球500mLに対してパイロジエンフリーの蒸留水1Lを加え溶血させた。孔径0.45μの血漿分離器および孔径0.1μの血漿成分分離器を用いて、赤血球膜の除去および濾過無菌化を行なった。ヘモグロビン濃度8%(w/w)の赤血球膜除去ヘモグロビン約1.2Lを得た。透析用ダイアライザーTAF10W(テルモ社製のセルロース系中空系ダイアライザー)を用いて限外ろ過により濃縮しヘモグロビン濃度50%(w/w)の赤血球膜除去ヘモグロビン約180mLを得た。
【0205】
水素添加率80%の精製ホスフアチジルコリン27.76g、コレステロール6.96g、水素添加率80%の精製ホスフアチジン酸3.75gをクロロホルムに溶解した。該脂質溶液をナスフラスコに入れ、エバポレーシヨンを行いクロロホルムを除去し、ナスフラスコの底に脂質膜を形成させた。さらに真空乾燥を16時間行ないクロロホルムを完全に除去した。
【0206】
リポソーム形成脂質の調製で作成した脂質膜に赤血球膜除去ヘモグロビン180mLを加え、ポルテツクスミキサーにて懸濁液とし、これを原料溶液とした。原料溶液を細隙ノズル付きの加圧容器、パール細胞破砕器(米国PARR社製)に入れ、窒素ガスを導入し130Kg/cm2に加圧した。30分間放置し、窒素ガスを十分に原料溶液に浸透させる。次にノズルのバルブを徐々に開放し、130Kg/cm2の圧力を維持しながら原料溶液を吐出させた。
【0207】
加圧吐出後の液をゲルろ過法(Sephadex G−50カラム)によって分画し、リポソームに担持されなかったヘモグロビンを除去し、ヘモグロビンを担持したリポソームを得た。
【0208】
ヘモグロビンを担持したリポソームに参考例1で調整したPseudomonas cichorii YN2由来のPHA合成酵素YN2-C1を100U/mLになるように加え20℃で30分間静置した。次に参考例3で調整した (R)-3-ヒドロキシオクタノイルCoAを終濃度5mMになるように添加した。37℃で30分間インキュベートすることによって、合成反応を行った。
【0209】
反応液を、ゲルろ過法(Sephadex G−50カラム)によってサイズ分画して、PHA被覆リポソームを得た。動的光散乱法によると該PHA被覆リポソームの平均粒径は720nmの単分散状態であった。
【0210】
作製したPHA被覆リポソームの一部を、真空乾燥したのち、20 mlのクロロホルムに懸濁し、60℃で20時間攪拌して外被を成すPHAを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮したのち、常法に従ってメタノリシスを行い、ガスクロマトグラフィー−質量分析装置(GC-MS、島津QP-5050、EI法)で分析し、PHAモノマーユニットのメチルエステル化物の同定を行った。その結果、当該PHAは3-ヒドロキシオクタン酸をモノマーユニットとするPHAであることが確認された。さらに、該PHAの分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;東ソーHLC-8020、カラム;ポリマーラボラトリーPLgel MIXED-C(5μm)、溶媒;クロロホルム、カラム温度;40℃、ポリスチレン換算)により評価した結果、Mn=17、000、Mw=37、000であった。
【0211】
(実施例6)
カルセインを内腔に担持したPHA被覆リポソームからの徐放性ジパルミトイルフォスファチジルコリン500mgを1リッターのビーカー内でクロロホルムとイソプロピルエーテルの1:1の混合溶液70mLに溶解させた。これに水溶性蛍光色素カルセインの水溶液10mLを加え、プローブ型超音波発振機(Ohtake)で乳化し、w/o型乳化液を作成した。超音波の照射は50ワットの条件で30秒間、10回くりかえして行った。このようにして調製した乳化液をロータリーエバポレーターにかけて、60℃、減圧下で有機溶媒を留去し染料を担持したリポソームを得た。エバポレーターの真空度は初めは高く、有機溶媒の蒸発が進むにつれて真空度をさげて突沸しないように調節した。その後さらに染料を担持したリポソーム中に残存する少量の有機溶媒を窒素ガスをふきつけることにより留去した。さらに得られた染料を担持したリポソームに適当量の10mMリン酸緩衝液(pH7.0)を加え30mLとし、1.2ミクロンのフィルター(Acrodisc、Gelman)で濾過し、内腔にカルセインを担持したリポソームを得た。
【0212】
カルセインを担持したリポソームの一部に参考例1で調整したPseudomonas cichorii YN2由来のPHA合成酵素YN2-C1を100U/mLになるように加え20℃で30分間静置した。次に参考例3で調整した (R)-3-ヒドロキシオクタノイルCoAを終濃度5mMになるように添加した。20℃で90分間インキュベートすることによって、合成反応を行った。反応液を、ゲルろ過法(Sephadex G−50カラム)によってサイズ分画して、PHA被覆リポソームを得た。
【0213】
このPHA被覆リポソームと、PHAで被覆していないリポソームについて内腔に担持されたカルセインの経時的な放出挙動を、カルセインの蛍光強度を測定することにより調べた。結果を図5に示す。
【0214】
リン脂質膜の相転移温度より低い温度(25℃)での徐放性について、PHA被覆リポソームは、PHAで被覆されていないリポソームに比べて保持能に優れていた。リン脂質膜の相転移温度(約42℃)での徐放性について、PHA被覆リポソームは、被覆されていないリポソームに比べて速やかな放出性を示した。再び温度を25℃に戻すとPHA被覆リポソームの放出性は抑制された。
【0215】
したがって本実施例のPHA被覆リポソームは、PHAで被覆されていないリポソームに比べて、徐放性の温度感受性が改善されていることが明らかになった。室温(25℃)における保持能の改善は、被覆しているPHAの機械的強度が大きいためにリポソーム内外の浸透圧差に起因するリポソームからの内容物の漏出を抑制しているためと考えられる。一方、相転移温度における放出性の改善は、PHAで被覆されていないリポソームの浸透圧差よりも、PHAで被覆されたリポソームの浸透圧差の方が大きく保たれており、これが駆動力となって内容物の漏出が加速され、外殻のPHAは多孔質であるため速やかに内容物が透過しているためと考えられる。
【0216】
(実施例7)
グラジェント構造のポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームジパルミトイルフォスファチジルコリン500mgを1リッターのビーカー内でクロロホルムとイソプロピルエーテルの1:1の混合溶液70mLに溶解させた。これに水溶性蛍光色素カルセインの水溶液10mLを加え、プローブ型超音波発振機(Ohtake)で乳化し、w/o型乳化液を作成した。超音波の照射は50ワットの条件で30秒間、10回くりかえして行った。このようにして調製した乳化液をロータリーエバポレーターにかけて、60℃、減圧下で有機溶媒を留去し染料を担持したリポソームを得た。エバポレーターの真空度は初めは高く、有機溶媒の蒸発が進むにつれて真空度をさげて突沸しないように調節した。その後さらに染料を担持したリポソーム中に残存する少量の有機溶媒を窒素ガスをふきつけることにより留去した。さらに得られた染料を担持したリポソームに適当量の10mMリン酸緩衝液(pH7.0)を加え30mLとし、1.2ミクロンのフィルター(Acrodisc、Gelman)で濾過し、内腔にカルセインを担持したリポソームを得た。
【0217】
カルセインを担持したリポソームの一部に参考例1で調整したPseudomonas cichorii YN2由来のPHA合成酵素YN2-C1を100U/mLになるように加え20℃で30分間、緩やかに振盪してPHA合成酵素をリポソーム表面に固定化させた。
【0218】
ゲルろ過法(Sephadex G−50カラム)によってサイズ分画して、合成酵素固定化リポソーム画分を得た。 上記合成酵素固定化リポソームに30 mM (R)−3−ヒドロキシオクタノイルCoA(Eur.J.Biochem.、250、432−439(1997)に記載の方法で調製)、0.1%ウシ血清アルブミン(Sigma社製)を含む0.1 Mリン酸バッファー(pH7.0)100質量部を加えた。次いで、30℃で緩やかに振盪しながらこの反応液に30 mM (R)−3−ヒドロキシピメリルCoA(J.Bacteriol.、182、2753−2760(2000) に記載の方法で調製)、0.1%ウシ血清アルブミン(Sigma社製)を含む0.1 Mリン酸バッファー(pH7.0)をマイクロチューブポンプ(東京理化器械社製MP-3N)を用いて1分間に25質量部の割合で添加した。
【0219】
30分間振とう後、0.1 Mリン酸バッファー(pH7.0)で洗浄して、未反応物等を除去して風乾し、ポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームを得た。
【0220】
このポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームを凍結乾燥後、表面に形成されたポリマーの質量を、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS IV、CAMECA製)により測定した。得られたマススペクトルから、ポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソーム表面は3−ヒドロキシピメリン酸と3−ヒドロキシオクタン酸の共重合体(モル比17:1)で構成されていることがわかった。また、イオンスパッタリングによりポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソーム表面を少しずつ削りながら同様にTOF−SIMSによりマススペクトルを測定していったところ、前記共重合体における3−ヒドロキシピメリン酸の組成比率が次第に減少し、3−ヒドロキシオクタン酸の組成比率が増加した。これより、本実施例のポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームは、表面を親水性官能基を有するポリヒドロキシピメレートで被覆し、その下を親水性官能基を有する3−ヒドロキシピメリン酸と疎水性官能基を有する3−ヒドロキシオクタン酸の共重合体によって、下層に至るにつれて3−ヒドロキシオクタン酸の組成比率を高めながら被覆したグラジエント構造であることがわかった。
【0221】
また、該PHAの平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;東ソーHLC−8020、カラム;ポリマーラボラトリーPLgel MIXED−C(5μm)、溶媒;クロロホルム、カラム温度;40℃、ポリスチレン換算)により評価した結果、Mn=21、000、Mw=40、000であった。
【0222】
(実施例8)
ポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームの作製(化学修飾)
実施例7と同様にして、カルセインを内封し、表面に参考例1で調整したPseudomonas cichorii YN2由来のPHA合成酵素YN2-C1を固定化した酵素固定化リポソームを調整した。
【0223】
上記酵素固定化リポソーム1質量部を0.1 Mリン酸バッファー(pH7.0)48質量部に懸濁し、(R、S)−3−ヒドロキシ−5−フェノキシバレリルCoA(3−フェノキシプロパナールとブロモ酢酸エチルとのReformatsky反応で得られた3−ヒドロキシ−5−フェノキシ吉草酸エステルを加水分解して3−ヒドロキシ−5−フェノキシ吉草酸を得たのち、Eur.J.Biochem.、250、432−439(1997)に記載の方法で調製)0.8質量部、(R、S)−3−ヒドロキシ−7、8−エポキシオクタノイルCoA(Int.J.Biol.Macromol.、12、85−91(1990)に記載の方法で合成した3−ヒドロキシ−7−オクテン酸の不飽和部分を3−クロロ安息香酸でエポキシ化したのち、Eur.J.Biochem.、250、432−439(1997)に記載の方法で調製)0.2質量部、ウシ血清アルブミン(Sigma社製)0.1質量部を添加し、30℃で2時間緩やかに振盪して試料1を得た。
【0224】
比較対照として、(R、S)−3−ヒドロキシ−7、8−エポキシオクタノイルCoAを、3−ヒドロキシオクタノイルCoAに変更する以外は、上記と同様の方法で試料2を得た。
【0225】
上記の試料10μlをスライドグラス上に採取し、1%ナイルブルーA水溶液10μlを添加し、スライドグラス上で混合した後、カバーグラスを載せ、蛍光顕微鏡(330〜380 nm励起フィルタ、420 nmロングパス吸収フィルタ、(株)ニコン製)観察を行った。その結果、いずれの試料においても、リポソーム表面が蛍光を発していることが確認された。従って、該リポソームはPHAにより表面を被覆されていることがわかった。
【0226】
対照として、0.1 Mリン酸バッファー(pH7.0)49質量部にポリヒドロキシアルカノエート被覆していないリポソーム1質量部を添加し、30℃で2.5時間緩やかに振盪した後、同様にナイルブルーAで染色して蛍光顕微鏡観察を行った。その結果、リポソーム表面は全く蛍光を発しなかった。
【0227】
さらに、試料の一部を遠心分離(10、000×g、4℃、10分間)により回収し、真空乾燥したのち、クロロホルムに懸濁し、60℃で20時間攪拌して外被を成すPHAを抽出した。この抽出液について1H−NMR分析を行った(使用機器:FT−NMR:Bruker DPX400、測定核種:1H、使用溶媒:重クロロホルム(TMS入り))。ここから計算した各側鎖ユニットのユニット%を表3に示す。
【0228】
【表3】

【0229】
上記の試料1を50質量部遠心分離(10、000×g、4℃、10分間)してポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームを回収し、精製水50質量部に懸濁する操作を3回繰返したのち、該懸濁液に架橋剤としてヘキサメチレンジアミン0.5質量部を溶解させた。溶解を確認後、凍結乾燥により水を除去した(これを試料3とする)。さらに、試料3を70℃で12時間反応させた(これを試料4とする)。
【0230】
上記試料3及び試料4をクロロホルムに懸濁し、60℃で20時間攪拌して外被を成すPHAを抽出し、真空乾燥によりクロロホルムを除去し、示差走査熱量計(DSC;パーキンエルマー社製、Pyris 1、昇温:10℃/分)装置で測定を行った。その結果、試料3では90℃付近に明確な発熱ピークがみられ、ポリマー中のエポキシ基とヘキサメチレンジアミンとの反応が起こり、ポリマー同士の架橋が進行していることが示される。一方、試料4では明確なヒートフローは見られず、架橋反応がほぼ完了していることが示される。
【0231】
さらに、同様のサンプルにつき、赤外吸収を測定した(FT−IR;パーキンエルマー社製、1720X)。その結果、試料3で見られたアミン(3340 cm-1付近)及びエポキシ(822 cm-1付近)のピークが試料4では消失している。
【0232】
以上の結果より、側鎖にエポキシユニットをもつPHAとヘキサメチレンジアミンを反応させることにより、架橋ポリマーが得られることが明らかとなった。
【0233】
一方、比較対照として試料2について同様の評価を行ったが、前記の如き、ポリマー同士の架橋を明確に示す評価結果は得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0234】
【図1】本発明のPHA被覆リポソームの製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】実施例1のPHA被覆リポソームの外殻のGC-MS分析結果を示す図である。
【図3】実施例2のPHA被覆リポソームの外殻のGC-MS分析結果を示す図である。
【図4】実施例3PHA被覆リポソーム外殻のGC-MS分析結果を示す図である。
【図5】実施例6の25℃および42℃におけるPHA被覆リポソームおよびPHAで被覆されていないリポソームからのカルセインの放出挙動を経時的に示す図である。
【符号の説明】
【0235】
1 リポソーム
2 リポソーム内腔に担持された水溶性物質
3 リポソーム膜に担持された脂溶性物質
4 リポソームに固定化されたポリヒドロキシアルカノエート合成酵素
5 ポリヒドロキシアルカノエート
6 ポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソームからのカルセインの放出挙動
7 ポリヒドロキシアルカノエートで被覆されていないリポソームからのカルセインの放出挙動

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リボソームの外壁の少なくとも一部がポリヒドロキシアルカノエートにより被覆されていることを特徴とする、ポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソーム。
【請求項2】
前記ポリヒドロキシアルカノエートが、式[1]から式[10]に示すモノマーユニットからなる群より選択される少なくとも一つを含有する、請求項1に記載のポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソーム。
【化1】

(ただし、前記モノマーユニットは、式中R1およびaの組合せが下記のいずれかであるモノマーユニットからなる群より選択される少なくとも一つである。
R1が水素原子(H)であり、aが0から10の整数のいずれかであるモノマーユニット、
R1がハロゲン原子であり、aが1から10の整数のいずれかであるモノマーユニット、
R1が発色団であり、aが1から10の整数のいずれかであるモノマーユニット、
R1がカルボキシル基あるいはその塩であり、aが1から10の整数であるモノマーユニット、
R1が、
【化2】

であり、aが1から7の整数のいずれかであるモノマーユニット。)
【化3】

(ただし、式中bは0から7の整数のいずれかを表し、R2は水素原子(H)、ハロゲン原子、-CN、-NO2、-CF3、-C25及び-C37からなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
【化4】

(ただし、式中cは1から8の整数のいずれかを表し、R3は水素原子(H)、ハロゲン原子、-CN、-NO2、-CF3、-C25及び-C37からなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
【化5】

(ただし、式中dは0から7の整数のいずれかを表し、R4は水素原子(H)、ハロゲン原子、-CN、-NO2、-CF3、-C2F及び-C37からなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
【化6】

(ただし、式中eは1から8の整数のいずれかを表し、R5は水素原子(H)、ハロゲン原子、-CN、-NO2、-CF3、-C25、-C37、-CH3、-C25及び-C37からなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
【化7】

(ただし、式中fは0から7の整数のいずれかを表す。)
【化8】

(ただし、式中gは1から8の整数のいずれかを表す。)
【化9】

(ただし、式中hは1から7の整数のいずれかを表し、R6は水素原子(H)、ハロゲン原子、-CN、-NO2、-COOR'、-SO2R''、-CH3、-C25、-C37、-CH(CH3)2及び-C(CH3)3からなる群から選ばれたいずれか1つを表し、ここでR'は水素原子(H)、Na、K、-CH3、-C25のいずれかであり、R''は-OH、-ONa、-OK、ハロゲン原子、-OCH3及び-OC25のいずれかである。)
【化10】

(ただし、式中iは1から7の整数のいずれかを表し、R7は水素原子(H)、ハロゲン原子、-CN、-NO2、-COOR'及び-SO2R''からなる群から選ばれたいずれか1つを表し、ここでR'は水素原子(H)、Na、K、-CH3及び-C25のいずれかであり、R''は-OH、-ONa、-OK、ハロゲン原子、-OCH3及び-OC25のいずれかである。)
【化11】

(ただし、式中jは1から9の整数のいずれかを表す。)
【請求項3】
前記ポリヒドロキシアルカノエートが親水性官能基を有する、請求項1に記載のポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソーム。
【請求項4】
前記ポリヒドロキシアルカノエートのモノマーユニット組成が、前記リポソームの内側から外側に向かう方向において変化している請求項1から3の何れかに記載のポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソーム。
【請求項5】
前記ポリヒドロキシアルカノエートの少なくとも一部が、特定の機能をもたせるために化学修飾されたポリヒドロキシアルカノエートである請求項1から4の何れかに記載のポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソーム。
【請求項6】
前記化学修飾されたポリヒドロキシアルカノエートが、少なくともグラフト鎖を有する請求項5に記載のポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソーム。
【請求項7】
前記グラフト鎖が、エポキシ基を有するモノマーユニットを少なくとも含むポリヒドロキシアルカノエートの化学修飾によるグラフト鎖である請求項6に記載のポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソーム。
【請求項8】
前記グラフト鎖が、アミノ基を有する化合物のグラフト鎖である請求項6または7に記載のポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソーム。
【請求項9】
前記ポリヒドロキシアルカノエートの少なくとも一部が、架橋化されたポリヒドロキシアルカノエートである請求項5に記載のポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソーム。
【請求項10】
リポソーム内に、顔料懸濁液、染料、農薬成分、ヘモグロビン、化粧料成分、肥料成分または医薬有効成分が内封されている請求項1から9の何れかに記載のポリヒドロキシアルカノエート被覆リポソーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−245148(P2007−245148A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80278(P2007−80278)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【分割の表示】特願2001−210020(P2001−210020)の分割
【原出願日】平成13年7月10日(2001.7.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】