説明

ポリビニルアセタール樹脂

【課題】 従来のポリビニルアセタール樹脂と比較して、ガラス転移点が高くて耐熱性および耐水性に優れており、さらに成形時に生じる光学歪の程度が少ないポリビニルアセタール樹脂を提供する。
【解決手段】 ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基などのノルボルナン骨格またはトリシクロ[4.3.1.01.6]デシル基などのテトラヒドロジシクロペンタジエン骨格などで代表される嵩高い置換基を含有するポリビニルアセタール樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なポリビニルアセタール樹脂に関する。さらに詳しくは、本発明は、橋頭位を有する脂環式アルデヒド、即ち多環式の脂肪族アルデヒドとポリビニルアルコールとのアセタール化反応により得られ、従来のポリビニルアセタール樹脂と比較してガラス転移点が高くて耐熱性、耐水性に優れており、かつ、成形時の光学歪が少ないポリビニルアセタール樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリビニルアルコールにホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒドを反応させて得られるポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等は、公知のポリビニルアセタール樹脂として知られている。特にポリビニルブチラールは、合わせガラスの中間膜をはじめ、塗料、接着剤、バインダー等の原料樹脂として広く使用されており、さらには、透明性、耐水性に優れ、成形時の光学歪の小さい樹脂として知られている。しかしながら、ポリビニルブチラールは耐水性を向上させるために、アセタール化度を上げようとすると、耐熱性が低下する傾向がある。このようなポリビニルブチラールの欠点を改良する試みとして、ポリビニルアルコールとシクロヘキサンカルボアルデヒド、シクロヘキセンカルボアルデヒド、アルキル化シクロヘキサンカルボアルデヒドなどの脂環式アルデヒドを反応させることで、耐水性および耐熱性に優れたポリビニルアセタール樹脂を製造することが提案されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4など)。この方法によれば、従来のポリビニルアセタール樹脂と比較して、耐水性および耐熱性の点で優れたポリビニルアセタール樹脂を得ることができるが、より高度の耐熱性が要求される、例えば光学材料などとして用いるためには、必ずしも耐熱性が十分であるとは言えないし、さらにまた成形時の光学歪も十分少ないとは言えない。
【0003】
【特許文献1】特開昭60−255805号公報
【特許文献2】特開昭61−42507号公報
【特許文献3】特開昭62−141003号公報
【特許文献4】特開昭62−141004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来のポリビニルアセタール樹脂と比較して、ガラス転移点が高くて耐熱性および耐水性に優れており、さらに成形時に生じる光学歪の程度が少ないポリビニルアセタール樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の嵩高い置換基を含有するポリビニルアセタール樹脂により上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、式(1)で示されるポリビニルアセタール樹脂において、Rが式(2)または式(3)で示される基であることを特徴とするポリビニルアセタール樹脂である。
【0006】
【化1】

【0007】
【化2】

【0008】
【化3】

【発明の効果】
【0009】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、従来のポリビニルアセタール樹脂と比較して、ガラス転移点が高くて耐熱性および耐水性に優れており、その上、成形時に生じる光学歪の程度が小さいという優れた性質を有していることから、特に光学材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、前記式(1)で示される。本発明のポリビニルアセタール樹脂はアセタール化度が高い方が好ましく、ここでアセタール化度は、2n/t×100で表わされる。本発明において、ビニルアセタールに相当する構造単位(以下、ビニルアセタール単位と略記する)の割合が40モル%以上である場合、すなわちl+m+2n=tとしたときに、nとtの関係がn≧0.2tである場合には、ポリビニルアセタール樹脂の耐水性及び耐熱性が一層向上し、且つ光弾性係数が小さくなることから、好ましい。nとtの関係は、n≧0.25tであることがより好ましく、n≧0.3tであることが特に好ましい。
【0011】
本発明において、l+m+2n=tとしたときに、mとtの関係がm≦0.12tである場合には、ポリビニルアセタール樹脂の耐熱性が一層向上することから、好ましい。nとtの関係は、m≦0.02tであることがより好ましい。
【0012】
本発明において、l+m+2n=tとしたときに、lとtの関係がl≦0.6tである場合には、ポリビニルアセタール樹脂の耐水性が一層向上することから、好ましい。lとtの関係は、l≦0.5tであることがより好ましく、l≦0.4tであることが特に好ましい。
【0013】
しかして、本発明において、l、mおよびnの関係が、l+m+2n=tとしたときに、l≦0.6t、m≦0.12t、n≧0.2tであるポリビニルアセタール樹脂が好ましく、l≦0.5t、m≦0.02t、n≧0.25tであるポリビニルアセタール樹脂がより好ましく、l≦0.4t、m≦0.02t、n≧0.3tであるポリビニルアセタール樹脂が特に好ましい。
【0014】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、粘度平均重合度(以下、重合度と略記する)が低いと、軟化点が低くなるため、成形は容易になるが、形状安定性が悪くなる。一方、重合度が高いと成形性が悪くなる。従って、重合度は100〜5000であることが好ましく、より好ましくは400〜3000である。
【0015】
本発明のポリビニルアセタール樹脂の原料として用いられるポリビニルアルコールは、ビニルアルコール単位およびビニルエステル単位からなる。ポリビニルアルコールは、ビニルエステル系単量体をラジカル重合して得られたポリビニルエステルをけん化することにより得られる。
【0016】
ビニルエステル単位を形成するためのビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等のビニル化合物が挙げられ、これらの中でもポリビニルアルコールを得る点から、酢酸ビニルが好ましい。
【0017】
ビニルエステル系単量体の重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法が挙げられる。その中でも、無溶媒で重合する塊状重合法、あるいはアルコールなどの溶媒中で重合する溶液重合法が通常採用される。溶液重合時に使用される溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコールなどが挙げられる。重合に使用される開始剤としては、例えば、α,α’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ系開始剤、過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネートなどの過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられるが、これらの中でも100℃における半減期が1時間以上であるものが好ましい。重合に用いることができる装置は、内部の圧力を大気圧より高い圧力に保つことができるものであれば形式に制限はなく、また装置の内容物を攪拌するための攪拌装置については公知のものを用いることができる。また、重合には、回分重合法、半連続重合法、連続重合法のいずれの方法を採用してもよい。
【0018】
本発明のポリビニルアセタール樹脂の原料として用いられるポリビニルアルコールはビニルアルコール単位とビニルエステル単位が主要な構成単位であるが、本発明の効果を損なわない範囲で、これらの構成単位以外の単量体単位を含有していてもよい。このような単量体単位を形成するための化合物としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセンなどのα−オレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸などの不飽和酸類およびその塩またはその炭素数1〜18のアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその酸塩またはその4級塩などのアクリルアミド類;メタクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその酸塩またはその4級塩などのメタクリルアミド類;N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドなどのN−ビニルアミド類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アリルアセテート;プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類;塩化ビニル、ふっ化ビニル、臭化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、ふっ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類;トリメトキシビニルシランなどのビニルシラン類;ポリオキシアルキレンアリルエーテルなどのオキシアルキレン基を有する化合物;酢酸イソプロペニル;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オールなどのヒドロキシ基含有のα−オレフィン類;フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸などに由来するカルボキシル基を有する化合物;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などに由来するスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロリド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロリド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロリド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロリド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミンなどに由来するカチオン基を有する化合物などが挙げられる。
これらの化合物の中でも、入手のしやすさ、共重合性の観点から、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセンなどのα−オレフィン類;N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドなどのN−ビニルアミド類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アリルアセテート;プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテルなどのアリルエーテル類;ポリオキシアルキレンアリルエーテルなどのオキシアルキレン基を有する単量体;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オールなどのヒドロキシ基含有のα−オレフィン類などが好ましい。
これらの化合物から形成される単量体単位の含有量は、通常20モル%以下であり、10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましい。
【0019】
ビニルエステル系単量体を重合することにより得られるポリビニルエステルは、例えば、アルコールなどの溶媒に溶解した状態でけん化するなど、公知の方法によってけん化される。けん化反応に使用される溶媒としては、メタノール、エタノールなどの低級アルコールが挙げられ、メタノールが特に好適に使用される。けん化反応に使用されるアルコールは、その量が40重量%以下であれば、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ベンゼンなどの溶剤を含有していてもよい。けん化反応に用いられる触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、ナトリウムメトキシドなどのアルカリ触媒、または鉱酸などの酸触媒が用いられる。けん化反応の温度について特に制限はないが、20〜60℃の範囲が好ましい。けん化反応によって得られるポリビニルアルコール樹脂は、洗浄後、乾燥に付される。けん化反応の進行に伴ってゲル状のポリビニルアルコールが析出してくる場合には、析出物はその時点で粉砕され、洗浄後、乾燥に付される。
【0020】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールと前記した式(2)または式(3)で示される基を有するアルデヒドとのアセタール化反応により合成される。式(2)で示される基を有するアルデヒドは、好適にはビシクロ[2.2.1]ヘプチル基を有するアルデヒドであり、具体的にはノルボルナンアルデヒドが例示される。また、式(3)で示される基を有するアルデヒドは、好適には式(1)においてトリシクロ[4.3.1.01.6]デシル基を有するアルデヒドであり、具体的にはテトラヒドロジシクロペンタジエンアルデヒドが例示される。
【0021】
本発明のポリビニルアセタール樹脂の特性が損なわれない範囲で、ポリビニルアルコールとアルデヒドとのアセタール化反応に際し、式(1)におけるRが式(2)または式(3)で示される以外の官能基を有するアルデヒド1種類または2種類以上併用してもよい。
この目的に用いることができるアルデヒドとして、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、sec−ブチルアルデヒド、オクチルアルデヒド、ドデシルアルデヒドなどの脂肪族アルデヒド;シクロヘキサンカルボアルデヒド、シクロオクタンカルボアルデヒド、トリメチルシクロヘキサンカルボアルデヒド、シクロペンチルアルデヒド、ジメチルシクロヘキサンカルボアルデヒド、メチルシクロヘキサンカルボアルデヒド、メチルシクロペンチルアルデヒドなどの脂肪脂環式アルデヒド;α−カンフォレンアルデヒド、フェランドラール、シクロシトラール、トリメチルテトラハイドロベンズアルデヒド、α−ピロネンアルデヒド、ミルテナール、ジヒドロミルテナール、カンフェニランアルデヒドなどのテルペン系アルデヒド;ベンズアルデヒド、ナフトアルデヒド、アントラアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、トルアルデヒド、ジメチルベンズアルデヒド、クミンアルデヒド、ベンジルアルデヒドなどの芳香族アルデヒド;シクロヘキセンアルデヒド、ジメチルシクロヘキセンアルデヒド、アクロレインなどの不飽和アルデヒド;フルフラール、5−メチルフルフラールなどの複素環を有するアルデヒド;グルコース、グルコサミンなどのヘミアセタール;4−アミノブチルアルデヒドなどのアミノ基を有するアルデヒドなどを挙げることができ、また、2−プロパノン、メチルエチルケトン、3−ペンタノン、2−ヘキサノンなどの脂肪族ケトン;シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどの脂肪脂環式ケトン、アセトフェノン、ベンゾフェノンなどの芳香族ケトンなどを用いることもできる。
【0022】
ポリビニルアルコールとアルデヒドとのアセタール反応によるポリビニルアセタール樹脂の製造方法は、反応に用いられる溶媒の種類により沈澱法と溶解法とに大別される。沈澱法とは、溶媒として例えば水を用い、原料であるポリビニルアルコールを水に溶解しておいて、酸などの触媒を加えてアセタール化反応を行い、生成したポリビニルアセタール樹脂を沈澱させ、触媒として用いた酸を中和し、固体粉末として得る方法である。溶解法は、溶媒としてイソプロパノール、ブタノール、テトラヒドロフラン、N-メチルピロリドン等の有機溶媒を用いる点が異なるだけで、その他は、沈澱法と同様に反応を行い、反応生成物であるポリビニルアセタール樹脂を有機溶媒に溶解させた状態で得た後、これを溶解しない液体、例えば水中に入れ、ポリビニルアセタール樹脂を固体粉末として得る方法である。いずれの方法による場合でも、得られるポリビニルアセタール樹脂の粉末の中には、未反応のアルデヒドおよび中和によって生じた塩等の不純物が含まれているので、この不純物を除くために、不純物が可溶な溶媒を用いて抽出し、純度の高いポリビニルアセタール樹脂を得る。
【0023】
上記の反応に用いられる酸触媒については、ポリビニルアルコールとアルデヒドとのアセタール化反応に作用することが知られている酸を適宜用いることができ、その例として、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸、およびパラトルエンスルホン酸などの有機酸が挙げられる。酸触媒は、アセタール反応の最終系における酸濃度が0.5〜5.0wt%となる量で通常用いられるが、これに限定されるものではない。これらの酸触媒は、所定量を1度に添加してもよいが、沈澱法の場合、比較的細かい粒子のポリビニルアセタール樹脂を析出沈澱させるために、適当な回数に分割して添加するのが好ましい。例えば、酸触媒として塩酸を用いる場合は、沈殿物の析出前に所定量の5〜30%を添加し、残りを沈殿物の析出後に添加するのが好ましい。一方、溶解法の場合は、所定量を反応のはじめに一括して添加するのが反応効率の点から好ましい。
【実施例】
【0024】
以下に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の%は特に断らない限り重量に関するものである。
[ポリビニルアルコールの分析]
ポリビニルアルコールの重合度およびけん化度の分析は、JIS−K6726に従って行った。
[ポリビニルアセタール樹脂の分析]
ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度、残存アセチル基量、残存水酸基量、ガラス転移点、吸水率および光弾性係数は、以下に示す方法にしたがって測定した。
なお、吸水率および光弾性係数の測定に用いた試料は以下のようにして調製した。
【0025】
(測定用試料の調製)
ポリビニルアセタール樹脂の粉体2.5gをポリイミドフィルムで挟み、これをさらに金属板に挟んだ状態で、神藤金属工業製のプレス機械を用い、255℃で5分間予熱した後、温度を255℃に保持したまま100kg/cmの圧力で1分間プレスした。このようにして得られたポリビニルアセタール樹脂粉体のプレス片を、プレス冷却機を用いて1分間プレスし、厚さ0.2mmの測定用試料を得た。
【0026】
(アセタール化度)
ポリビニルアセタール樹脂をN−メチルピロリドンとDMSO−dとの混合溶液(クロムアセチルN−メチルピロリドン:DMSO−d=9:1)に溶解してこれにクロムアセチルアセテートを添加し、測定機器として日本電子製超伝導核磁気共鳴装置Lambda 500を用いて、共鳴周波数13C 125MHzおよび温度80℃の条件下で測定した。ビニルアセタール単位のアルデヒド炭素に結合するメチンカーボン(95ppm、103ppm)に由来するピーク強度と、ビニルアセタール単位、ビニルエステル単位、ビニルアセタール単位の主鎖中のメチレンカーボン(62〜75ppm)に由来するピーク強度からアセタール化度を求めた。
【0027】
(残存アセチル基量)
ポリビニルアセタール樹脂をN−メチルピロリドンとDMSO−dとの混合溶液(クロムアセチルN−メチルピロリドン:DMSO−d=9:1)に溶解してこれにクロムアセチルアセテートを添加し、測定機器として日本電子製超伝導核磁気共鳴装置Lambda 500を用いて、共鳴周波数13C 125MHzおよび温度80℃の条件下で測定した。ビニルアセタール単位に結合するビニルエステル(170ppm)に由来するピーク強度と、ビニルアセタール単位、ビニルエステル単位、ビニルアセタール単位の主鎖中のメチレンカーボン(62〜75ppm)に由来するピーク強度から残存アセチル基量を求めた。
【0028】
(残存水酸基量)
アセタール化度と残存アセチル基量から残存水酸基量を求めた。
【0029】
(ガラス転移点)
DSC(示差走査熱量計)として、Seiko Instruments Inc.製EXTAR6000(RD220)を用い、窒素中で20℃から昇温速度10℃/分で200℃まで昇温させた後、20℃まで冷却し、再度、昇温速度10℃/分で200℃まで昇温させることにより求めた。
【0030】
(吸水率)
厚さ0.2mmの測定用試料を50℃で減圧下に6日間乾燥し、次いで、乾燥後の試料を20℃の純水中に24時間浸漬したときの重量を測定し、下記式にしたがって求めた。吸水率が小さいほど、耐水性が優れていることを示す。
吸水率(重量%)=(浸漬後の重量−浸漬前の乾燥後重量)/(浸漬前の乾燥後重量)×100
【0031】
(光弾性係数)
測定用試料を裁断して厚さ0.2mm、幅10mmの試験片を調製し、理研計器株式会社製PA−150を用いて測定を行った。偏光子と検光子を直行させ、その間に1/4波長板を入れた円偏光の光路中に、光軸を直交させた2枚の水晶版からなるバビネ・コンペンセータを置くと、1波長間隔の平行な干渉縞が観測される。光路中に試験片を吊るし、重りによって試験片に張力を与えて、変形した試験片に発生した偏光間の光路差(位相差)によるずれを観察し光弾性係数を求めた。緩衝縞の間隔をx、ずれの大きさをΔxとした時、縞次数NはN=Δx/xで求まり、光弾性感度α(mm/kgf)は応力σおよび試験片の厚さtより式α=N/(σ×t)で表されるので、縞次数Nとの相関より光弾性感度が求まる。光弾性係数は換算式C=(α×λ)/9.8より求まる。求められた光弾性係数の値をもとにして、以下の基準にしたがってA、BおよびCの3段階にランク付けした。
光弾性係数(cm2/dyne)
6.3×10−13未満:A
6.3×10−13以上6.5×10−13未満:B
6.5×10−13以上:C
【0032】
実施例1
ポリビニルアセタール樹脂の製造
攪拌機、滴下ロートおよび温度センサーを備えた内容積1リットルのセパラブルフラスコに、鹸化度99.1モル%、粘度平均重合度2400のポリビニルアルコール60gと純水740gを加え、90℃で1時間加熱し完全に溶解させた。この水溶液を40℃に冷却し、攪拌下にテトラヒドロジシクロペンタジエンアルデヒド88.0gを加え、水溶液に分散させた。以下の反応はすべて攪拌状態にて行った。この溶液を14.5℃に冷却し、20%塩酸水溶液9gを10分間にわたって滴下した。滴下終了後、14〜15℃の範囲に保ち、45分後さらに20%塩酸水溶液42gを20分間にわたって滴下した。2回目の20%塩酸水溶液の滴下開始から8分後に沈澱が析出した。滴下終了後、90分かけて65℃まで昇温し、その温度に3時間保持してポリビニルアセタール樹脂を得た。
【0033】
このポリビニルアセタール樹脂をろ過後、ろ塊を純水500gで20分間洗浄し、さらにろ過した。この操作を3回繰り返した。さらに、0.3%水酸化カリウム水溶液500gにポリビニルアセタール樹脂を分散させ、70℃で90分間攪拌し中和した。ろ過後、ろ塊を純水500gで20分間洗浄し、さらにろ過した。この操作を3回繰り返した。このようにして得られたポリビニルアセタール樹脂を50℃で減圧乾燥し、脱水した。脱水後、ソックスレー抽出器よりn−ヘキサンを溶媒として2日間抽出を続けて残存アルデヒドを除き、50℃で減圧乾燥し、ポリビニルアセタール樹脂を得た。得られたポリビニルアセタール樹脂に関して、アセタール化度、ガラス転移点、吸水率、光弾性係数の測定を行った。その結果、アセタール化度は62.6モル%、ガラス転移点は164.2℃、吸水率は3.1%、光弾性係数は6.3×10−13未満であった。測定結果を表1に示す。
【0034】
実施例2〜16
ポリビニルアルコールとアルデヒドの種類およびアルデヒドの使用量を表1に示す内容に変えた以外は実施例1と同様にしてポリビニルアセタール樹脂を製造し、その物性を測定した。測定結果を表1に示す。
【0035】
比較例1〜4
ポリビニルアルコールとアルデヒドの種類およびアルデヒドの使用量を表1に示す内容に変えた以外は実施例1と同様にしてポリビニルアセタール樹脂を製造し、その物性を測定した。なお、初期20%塩酸水溶液の滴下開始から28分後に沈澱が析出した。測定結果を表1に示す。
【0036】
比較例5および6
ポリビニルアルコールとアルデヒドの種類およびアルデヒドの使用量を表1に示す内容に変え、さらに得られたポリビニルアセタール樹脂のn−ヘキサンによるソックスレー抽出およびその後の洗浄操作を行わなかった以外は実施例1と同様にしてポリビニルアセタール樹脂を製造した。なお、初期に20%塩酸水溶液の滴下を開始した24分後に沈澱が析出した。ポリビニルアセタール樹脂の物性を測定した結果を表1に示す。
【0037】
実施例17〜28
ポリビニルアルコールとアルデヒドの種類およびアルデヒドの使用量を表2に示す内容に変えた以外は実施例1と同様にしてポリビニルアセタール樹脂を製造し、その物性を測定した。測定結果を表2に示す。
【0038】
比較例7〜10
ポリビニルアルコールとアルデヒドの種類およびアルデヒドの使用量を表2に示す内容に変えた以外は実施例1と同様にしてポリビニルアセタール樹脂を製造し、その物性を測定した。測定結果を表2に示す。
【0039】
比較例11および12
ポリビニルアルコールとアルデヒドの種類およびアルデヒドの使用量を表2に示す内容に変えた以外は比較例5と同様にしてポリビニルアセタール樹脂を製造し、その物性を測定した。なお、初期に20%塩酸水溶液の滴下を開始した24分後に沈澱が析出した。ポリビニルアセタール樹脂の物性を測定した結果を表2に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のポリビニルアセタール樹脂はアセタール化度を高くすることができるので、耐水性が向上し、さらに特定の嵩高い置換基を含有するため、ポリビニルブチラール、ポリビニルヘキサナールなどの公知のポリポリビニルアセタール樹脂と比較して耐熱性に特に優れており、しかもアセタール化度を高くすることで耐水性を向上させた場合にも優れた耐熱性が付与される。その上、本発明のポリビニルアセタール樹脂は、光弾性係数が低く、成形時に生じる光学歪の程度が少ないことから、これらの特性を生かして、光学材料、特にバックライトなどの熱がかかる光学材料として好適に用いることができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されるポリビニルアセタール樹脂において、Rが式(2)または式(3)で示される基であることを特徴とするポリビニルアセタール樹脂。
【化1】

【化2】

【化3】

【請求項2】
式(1)におけるl、mおよびnの関係が、l+m+2n=tとしたとき、l≦0.6t、m≦0.12t、n≧0.2tである請求項1に記載のポリビニルアセタール樹脂。
【請求項3】
式(1)におけるl、mおよびnの関係が、l+m+2n=tとしたとき、l≦0.5t、m≦0.02t、n≧0.25tである請求項2に記載のポリビニルアセタール樹脂。
【請求項4】
式(1)におけるl、mおよびnの関係が、l+m+2n=tとしたとき、l≦0.4t、m≦0.02t、n≧0.3tである請求項3に記載のポリビニルアセタール樹脂。
【請求項5】
式(1)においてRがビシクロ[2.2.1]ヘプチル基である請求項1に記載のポリビニルアセタール樹脂。
【請求項6】
式(1)においてRがトリシクロ[4.3.1.01.6]デシル基である請求項1に記載のポリビニルアセタール樹脂。
【請求項7】
式(2)または式(3)で示される基を有するアルデヒドによりビニルアルコール系重合体をアセタール化することを特徴とする請求項1に記載のポリビニルアセタール樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2008−37890(P2008−37890A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−209970(P2006−209970)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】