説明

ポリビニルピロリドン粉体組成物

【課題】不溶物の含有量が少なく、および/または、熱安定性が高いポリビニルピロリドン粉体組成物を提供すること。
【解決手段】本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、K値が50以上、120以下であるポリビニルピロリドンを含有する粉体組成物であって、該組成物の2wt%水溶液を孔径1.2μmのフィルターで濾過した場合に該フィルター上に残存する不溶物の含有量が70ppm以下であるか、あるいは、該組成物を空気中、80℃で14日間加熱した場合に観察されるK値の低下率が12%以下であるか、あるいは、該組成物の2wt%水溶液を孔径1.2μmのフィルターで濾過した場合に該フィルター上に残存する不溶物の含有量が70ppm以下であり、かつ、該組成物を空気中、80℃で14日間加熱した場合に観察されるK値の低下率が12%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルピロリドン粉体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルピロリドンは、安全な機能性ポリマーとして、粉体または水溶液の形態で、化粧品、医農薬中間体、食品添加物、感光性電子材料、粘着付与剤などの用途に、あるいは、種々の特殊工業用途に、幅広い分野で用いられている。なかでも、ポリビニルピロリドン粉体は、中空糸膜を製造する際の原料液の粘度調整剤として、あるいは、中空糸膜の微細孔形成剤として、広く用いられている。例えば、特許文献1〜4には、膜形成性重合体であるポリスルホンやポリエーテルスルホンと親水性重合体であるポリビニルピロリドンとを含有する原料液を紡糸口金から押し出して、水を主成分とする凝固浴中に浸漬、凝固させた後、巻き取ることにより、中空糸膜を製造する方法が開示されている。
【0003】
しかし、従来のポリビニルピロリドン粉体には、例えば、ゲル化物や不純物などの不溶物が多量に含まれている。ポリビニルピロリドン粉体に不溶物が多量に含まれていると、例えば、中空糸膜の製造時に不良品が発生したり、得られた中空糸膜の濾別性能が低下したりする。現状では、それを回避するために、中空糸膜を製造する際には、原料液を濾過して不溶物を除去することが行われているが、不溶物の含有量が多いと、フィルターの交換頻度が高くなり、生産性が大幅に低下するという問題がある。例えば、特許文献1には、紡糸口金から押し出す前に、原料液を濾過して、未溶解粒子を完全に除去することが教示されている(特に段落[0027]を参照)。
【0004】
また、従来のポリビニルピロリドン粉体は、熱安定性に乏しく、空気中で放置すると、K値が徐々に低下する。ポリビニルピロリドン粉体を購入してから使用するまでの貯蔵期間に依存してK値が異なると、例えば、原料の品質が一定しないので、中空糸膜の製造時に安定した濾別性能を有する製品が得られない。そこで、中空糸膜を製造する際には、加熱処理などを行ってK値を調整することが行われている。
【特許文献1】特開平10−121324号公報
【特許文献2】特開2002−239348号公報
【特許文献3】特開2003−245524号公報
【特許文献4】特開2006−239576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、不溶物の含有量が少なく、および/または、熱安定性が高いポリビニルピロリドン粉体組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、種々検討の結果、N−ビニルピロリドンを重合してポリビニルピロリドン粉体組成物を製造するにあたり、所定の操作を行うことにより、具体的には、(1)重合前、重合中および/または重合後に、第2級アミンを用いて重合液のpHを調整することにより、(2)重合終了後に濾過操作を行い、加熱面密着型乾燥法、凍結乾燥法や減圧乾燥法といった手法で乾燥することにより、(3)低温使用可能な重合開始剤を用いた滴下重合により、内温を50℃以下に保ち、重合終了後、凍結乾燥法や減圧乾燥法といった手法で乾燥することにより、ならびに/あるいは、(4)重合前、重合中および/または重合後に、重合液に酸化防止剤を添加することにより、不溶物の含有量が少なく、および/または、熱安定性が高いポリビニルピロリドン粉体組成物が得られることを見出して、本
発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、K値が50以上、120以下であるポリビニルピロリドンを含有する粉体組成物であって、該組成物の2wt%水溶液を孔径1.2μmのメンブランフィルターで濾過した場合に該フィルター上に残存する不溶物の含有量が70ppm以下であることを特徴とするポリビニルピロリドン粉体組成物を提供する。なお、本発明でいう「メンブランフィルター」とは、例えば、Sartorius社製オーダー番号11803−50−N(PTFEフィルター)に代表される耐薬品性濾紙の総称である。
【0008】
また、本発明は、K値が50以上、120以下であるポリビニルピロリドンを含有する粉体組成物であって、該組成物を空気中、80℃で14日間加熱した場合に観察されるK値の低下率が12%以下であることを特徴とするポリビニルピロリドン粉体組成物を提供する。
【0009】
さらに、本発明は、K値が50以上、120以下であるポリビニルピロリドンを含有する粉体組成物であって、該組成物の2wt%水溶液を孔径1.2μmのメンブランフィルターで濾過した場合に該フィルター上に残存する不溶物の含有量が70ppm以下であり、かつ、該組成物を空気中、80℃で14日間加熱した場合に観察されるK値の低下率が12%以下であることを特徴とするポリビニルピロリドン粉体組成物を提供する。
【0010】
本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、さらに第2級アミンまたはその塩、ならびに/あるいは、酸化防止剤を含有することがある。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、不溶物の含有量が少なく、および/または、熱安定性が高い。それゆえ、例えば、中空糸膜やメンブランフィルターの製造時に、原料液の濾過速度が向上し、また、品質が一定した原料を用いて、濾別性能が安定した製品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
≪ポリビニルピロリドン粉体組成物≫
本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、第1の態様では、K値が50以上、120以下であるポリビニルピロリドンを含有する粉体組成物であって、該組成物の2wt%水溶液を孔径1.2μmのメンブランフィルターで濾過した場合に該フィルター上に残存する不溶物の含有量が70ppm以下であることを特徴とする。
【0013】
ここで、「不溶物」とは、ポリビニルピロリドンのゲル化物や、ポリビニルピロリドンを製造する段階から存在する固形の不純物などを意味する。また、「不溶物の含有量」とは、ポリビニルピロリドン粉体組成物の2wt%水溶液を孔径1.2μmのメンブランフィルターで濾過した場合に該フィルター上に残存する不溶物の乾燥質量を、該組成物の2wt%水溶液を調製する際に使用した該組成物の質量で割った値をppm単位で表したものである。
【0014】
不溶物の含有量が70ppmを超えると、例えば、ポリビニルピロリドン粉体組成物を中空糸膜やメンブランフィルターの製造に用いた場合に、原料液の濾過に時間を要して生産性が低下することがある。すなわち、例えば、本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物を用いて、中空糸膜やメンブランフィルターを工業的規模で製造する際に、不溶物の含有量が70ppm以下であれば、原料液を速やかに濾過することができるので、生産性を向上することができる。言い換えれば、不溶物の含有量が70ppm以下であることは、ポリビニルピロリドン粉体組成物を用いて、例えば、中空糸膜やメンブランフィルターを
工業的規模で生産性よく製造するための必須条件である。
【0015】
不溶物の含有量は、通常70ppm以下、好ましくは60ppm以下、より好ましくは50ppm以下である。また、不溶物の含有量の下限は、特に限定されるものではないが、好ましくは0ppmである。
【0016】
本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、第2の態様では、K値が50以上、120以下であるポリビニルピロリドンを含有する粉体組成物であって、該組成物を空気中、80℃で14日間加熱した場合に観察されるK値の低下率が12%以下であることを特徴とする。
ここで、「K値の低下率」とは、下記式:
【0017】
【数1】

【0018】
[式中、加熱前のK値は、試料を加熱する前に求めたK値を表し、80℃で14日間加熱後のK値は、試料を空気中、80℃で14日間加熱した後で求めたK値を表す]
で算出される値を意味する。K値の低下率は、値が大きいほど、分子量が低下していることを表す。
【0019】
K値の低下率が12%を超えると、例えば、ポリビニルピロリドン粉体組成物を中空糸膜やメンブランフィルターの製造に用いた場合に、原料の品質が一定せず、濾別性能が安定した製品が得られないことがある。すなわち、例えば、本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物を用いて、中空糸膜やメンブランフィルターを工業的規模で製造する際に、K値の低下率が12%以下であれば、熱安定性が高く、購入してから使用するまでの貯蔵期間に依存してK値が異なることがなく、原料の品質が一定するので、濾別性能が安定した製品を得ることができる。言い換えると、K値の低下率が12%以下であることは、ポリビニルピロリドン粉体組成物を用いて、例えば、高品質の中空糸膜やメンブランフィルターを工業的規模で製造するための必須条件である。
【0020】
K値の低下率は、通常12%以下、好ましくは11%以下、より好ましくは10%以下である。また、K値の低下率の下限は、特に限定されるものではないが、好ましくは0%である。
【0021】
本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、第3の態様では、K値が50以上、120以下であるポリビニルピロリドンを含有する粉体組成物であって、該組成物を孔径1.2μmのメンブランフィルターで濾過した場合に該フィルター上に残存する不溶物の含有量が70ppm以下であり、かつ、該組成物を空気中、80℃で14日間加熱した場合に観察されるK値の低下率が12%以下であることを特徴とする。
【0022】
なお、「ポリビニルピロリドン粉体組成物」とは、ポリビニルピロリドンの粉体に限らず、広義には、ポリビニルピロリドンの固形物を含有する組成物を意味する。ここで、固形物は、好ましくは、ポリビニルピロリドンの粉体であるが、例えば、粒状、顆粒状、球状、塊状、鱗片状、無定形などの形状であってもよい。固形物を構成する粒子などの大きさは、組成物の用途などに応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、作業性、溶解性などの点で、平均粒子径は、好ましくは10μm以上、3,000μm以下、より好ましくは50μm以上、1,000μm以下、さらに好ましくは80μm以上
、800μm以下である。ここで、「平均粒子径」とは、下記の実施例で説明する方法で測定された数値である。
【0023】
また、「K値」とは、ポリビニルピロリドンの場合、分子量の尺度として一般的に用いられる数値であり、具体的には、ポリビニルピロリドンの1wt%水溶液について、25℃で毛細管粘度計により相対粘度を測定し、下記のフィケンチャーの粘度式:
【0024】
【数2】

【0025】
[式中、ηrelは相対粘度、cは水溶液の濃度(g/100mL)、すなわち水溶液100mL中に含有されるポリビニルピロリドンのg数、kはK値に関係する変数を表す]
に代入して、得られたkの値を1,000倍した数値である(以下、このようにK値を求める方法を「フィケンチャー法」ということがある。)。K値が大きいほど、分子量が高いことを表す。
【0026】
さらに、「ポリビニルピロリドン」とは、N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマーを意味し、その分子量は、上記のフィケンチャー法によるK値で表すと、50以上、120以下であり、好ましくは55以上、110以下、より好ましくは60以上、100以下である。
【0027】
ポリビニルピロリドンは、N−ビニル−2−ピロリドン単量体を重合させて得られ、その方法は従来公知のいかなる方法であってもよいが、水媒体中、アゾ化合物および/または有機過酸化物を重合開始剤として用いる方法が特に好適である。このような方法を用いれば、ポリビニルピロリドンは、水溶液の形態で得られる。ポリビニルピロリドンを固形物の形態で得るには、重合により得られたポリビニルピロリドンを含有する水溶液を乾燥した後、必要に応じて、粉砕すればよい。
【0028】
本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、N−ビニル−2−ピロリドン単量体を重合させてポリビニルピロリドンを製造するにあたり、所定の操作を行うことにより、具体的には、(1)重合前、重合中および/または重合後に、第2級アミンを用いて重合液のpHを調整することにより、(2)重合終了後に濾過操作を行い、加熱面密着型乾燥法、凍結乾燥法や減圧乾燥法といった手法で乾燥することにより、(3)低温使用可能な重合開始剤を用いた滴下重合により、内温を50℃以下に保ち、重合終了後、凍結乾燥法や減圧乾燥法といった手法で乾燥することにより、ならびに/あるいは、(4)重合前、重合中および/または重合後に、重合液に酸化防止剤を添加することにより、得られる。本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、重合液のpH調整に第2級アミンを用いた場合には、ポリビニルピロリドンに加えて、第2級アミンまたはその塩を含有することがある。また、重合液に酸化防止剤を添加した場合には、ポリビニルピロリドンに加えて、酸化防止剤を含有することがある。なお、本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物の製造方法については、以下で詳しく説明する。
【0029】
≪ポリビニルピロリドン粉体組成物の用途≫
本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、例えば、化粧品、医農薬中間体、食品添加物、感光性電子材料、粘着付与剤などの用途に、あるいは、種々の特殊工業用途(例えば、中空糸膜やメンブランフィルターの製造)に、そのままの形態で用いてもよいし、水
に溶解して水溶液とした場合には、さらに希釈または濃縮して用いるか、あるいは、さらに乾燥して固形物の形態に変化させて用いてもよい。本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、不溶物の含有量が少なく、および/または、熱安定性が高いので、特に中空糸膜やメンブランフィルターの製造に好適である。
【0030】
≪ポリビニルピロリドン粉体組成物の製造方法≫
本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、例えば、N−ビニル−2−ピロリドン単量体(以下、単に「単量体」ということがある。)の水溶液にアゾ化合物および/または有機過酸化物を重合開始剤として添加して重合を行い、重合反応後、反応液に有機酸を添加して未反応の単量体量を低減し、重合により得られたポリビニルピロリドンを含有する水溶液を乾燥した後、必要に応じて、粉砕することにより製造することができる。
【0031】
ただし、本発明では、(1)重合前、重合中および/または重合後に、第2級アミンを用いて重合液のpHを調整するか、(2)重合終了後に濾過操作を行い、加熱面密着型乾燥法、凍結乾燥法や減圧乾燥法といった手法で乾燥するか、(3)低温使用可能な重合開始剤を用いた滴下重合により、内温を50℃以下に保ち、重合終了後、凍結乾燥法や減圧乾燥法といった手法で乾燥するか、ならびに/あるいは、(4)重合前、重合中および/または重合後に、重合液に酸化防止剤を添加する。ここで、「重合液」とは、重合前の単量体水溶液、ならびに/あるいは、重合中および/または重合後の反応液を意味する。
【0032】
加熱面密着型乾燥法に用いられる装置としては、例えば、ドラムドライヤー、ベルトドライヤー、ディスクドライヤーなどが挙げられる。凍結乾燥法に用いられる装置としては、例えば、凍結乾燥機などが挙げられる。減圧乾燥法に用いられる装置としては、例えば、減圧乾燥機、ロータリーエバポレーターなどが挙げられる。
【0033】
本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物のうち、第1の態様であるポリビニルピロリドン粉体組成物、すなわち、K値が50以上、120以下であるポリビニルピロリドンを含有する粉体組成物であって、該組成物の2wt%水溶液を孔径1.2μmのメンブランフィルターで濾過した場合に該フィルター上に残存する不溶物の含有量が70ppm以下であることを特徴とするポリビニルピロリドン粉体組成物は、上記の方法(1)、方法(2)および/または方法(3)を採用することにより得られる。
【0034】
また、第2の態様であるポリビニルピロリドン粉体組成物、すなわち、K値が50以上、120以下であるポリビニルピロリドンを含有する粉体組成物であって、該組成物を空気中、80℃で14日間加熱した場合に観察されるK値の低下率が12%以下であることを特徴とするポリビニルピロリドン粉体組成物は、上記の方法(1)および/または方法(4)を採用することにより得られる。
【0035】
さらに、第3の態様であるポリビニルピロリドン粉体組成物、すなわち、K値が50以上、120以下であるポリビニルピロリドンを含有する粉体組成物であって、該組成物の2wt%水溶液を孔径1.2μmのメンブランフィルターで濾過した場合に該フィルター上に残存する不溶物の含有量が70ppm以下であり、かつ、該組成物を空気中、80℃で14日間加熱した場合に観察されるK値の低下率が12%以下であることを特徴とするポリビニルピロリドン粉体組成物は、上記の方法(1)を採用することにより、あるいは、上記の方法(1)、方法(2)および/または方法(3)と方法(4)とを組み合わせて採用することにより得られる。なお、複数の方法を組み合わせて採用するとは、各々の方法に共通する工程に加えて各々の方法に特徴的な工程を実施することを意味する。
【0036】
以下、各方法について詳しく説明する。
【0037】
<方法(1)>
この方法は、重合前、重合中および/または重合後に、第2級アミンを用いて重合液のpHを調整することを特徴とする。
【0038】
まず、重合前に第2級アミンを用いて重合液のpHを調整する場合には、単量体水溶液に第2級アミンまたはその水溶液を添加してpHを所定の値に調整する。この操作により、単量体水溶液のpHは、好ましくは7以上、10以下、より好ましくは7以上、9以下に調整される。
【0039】
pHを調整するために使用可能な第2級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、N−メチルエチルアミン、N−メチルプロピルアミン、N−メチルイソプロピルアミン、N−メチルブチルアミン、N−メチルイソブチルアミン、N−メチルシクロヘキシルアミン、N−エチルプロピルアミン、N−エチルイソプロピルアミン、N−エチルブチルアミン、N−エチルイソブチルアミン、N−エチルシクロヘキシルアミン、N−メチルビニルアミン、N−メチルアリルアミンなどの脂肪族第2級アミン;N−メチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N−メチルトリメチレンジアミン、N−エチルトリメチレンジアミン、N,N’−ジメチルトリメチレンジアミン、N,N’−ジエチルトリメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミンなどの脂肪族ジアミンおよびトリアミン;N−メチルベンジルアミン、N−エチルベンジルアミン、N−メチルフェニチルアミン、N−エチルフェネチルアミンなどの芳香族アミン;N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−プロピルエタノールアミン、N−イソプロピルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン、N−イソブチルエタノールアミンなどのモノアルカノールアミン;ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミンなどのジアルカノールアミン;ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、N−メチルピペラジン、N−エチルピペラジン、モルホリン、チオモルホリンなどの環状アミン;などが挙げられる。これらの第2級アミンは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの第2級アミンのうち、ジアルカノールアミンおよびジアルキルアミンが好ましく、ジアルカノールアミンがより好ましく、ジエタノールアミンが特に好ましい。
【0040】
第2級アミンの使用量は、単量体の使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、単量体水溶液のpHが好ましくは7以上、10以下、より好ましくは7以上、9以下になるようにすればよい。具体的には、第2級アミンの使用量は、単量体の使用量に対して、好ましくは10ppm以上、10,000ppm以下、より好ましくは50ppm以上、5,000ppm以下である。
【0041】
次に、単量体水溶液にアゾ化合物および/または有機過酸化物を重合開始剤として添加して重合を行う。この場合、重合開始剤として過酸化水素を用いると、水素引き抜き能力が強いため、グラフト反応が進行しやすく、著しい分子量の増加が確認されることがあるので、重合開始剤としてアゾ化合物および/または有機過酸化物を用いる。
【0042】
重合中に第2級アミンを用いて重合液のpHを調整する場合には、重合反応を開始してから終了するまでの適当な段階で、反応液に第2級アミンまたはその水溶液を添加してpHを所定の値に調整する。重合中に反応液のpHを調整するのに使用可能な第2級アミンとしては、単量体水溶液のpHを調整するのに使用可能な第2級アミンとして列挙した上記のような第2級アミンが挙げられる。これらの第2級アミンは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、重合中に反応液のpHを調整するために添加する第2級アミンは、単量体水溶液のpHを調整するために添加する第2級アミンと同一であっても異なっていてもよい。
【0043】
第2級アミンの使用量は、単量体の使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、単量体水溶液のpHが好ましくは7以上、10以下、より好ましくは7以上、9以下になるようにすればよい。具体的には、第2級アミンの使用量は、単量体の使用量に対して、好ましくは10ppm以上、10,000ppm以下、より好ましくは50ppm以上、5,000ppm以下である。
【0044】
重合開始剤として使用可能なアゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]n水和物、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)などが挙げられる。これらのアゾ化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのアゾ化合物のうち、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチルが特に好適である。
【0045】
重合開始剤として使用可能な有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,1’−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,3,5−トリメチレンシクロヘキサン、1,3−ジ−(t−ブチルペルオキシ)−ジイソプロピルベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシピバレート、t−アミルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルヒドロペルオキシドなどが挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの有機過酸化物のうち、t−ブチルヒドロペルオキシド、t−アミルペルオキシ−2−エチルヘキサノエートが好適であり、t−アミルペルオキシ−2−エチルヘキサノエートが特に好適である。
【0046】
重合反応における重合開始剤の濃度は、単量体成分の使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、単量体100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、3質量部以下、より好ましくは0.005質量部以上、2質量部以下、さらに好ましくは0.01質量部以上、1質量部以下である。重合反応を行う際には、重合開始剤の他に、必要に応じて、任意の連鎖移動剤、pH調節剤、緩衝剤などを用いることができる。
【0047】
重合反応は、通常、水媒体中で行われる。ここで、「水媒体」とは、水、または、水と低級アルコールとの混合溶媒を意味する。低級アルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ジエチレングリコールなどが挙げられる。
【0048】
重合反応における反応温度は、反応原料などの条件に応じて適宜設定すればよいが、好ましくは40℃以上、100℃以下、より好ましくは50℃以上、95℃以下、さらに好ましくは60℃以上、90℃以下である。
【0049】
重合反応後、反応液に有機酸またはその水溶液を添加して未反応の単量体量(すなわち、反応液中における単量体の残存量)を低減する。この操作により、未反応の単量体量は、好ましくは10ppm以下、より好ましくは8ppm以下に低減される。
【0050】
未反応の単量体量を低減するのに使用可能な有機酸としては、好ましくは多価カルボン酸であり、具体的には、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アスパラギン酸、クエン酸、グルタミン酸、フマル酸、リンゴ酸、マレイン酸、フタル酸、トリメリト酸、ピロメリト酸などが挙げられるが、より好ましくは多価カルボン酸であり、かつカルボキシル基の第1解離定数が3.0以下であり、かつカルシウム塩の20℃における水への溶解度が0.1質量%以上であるような有機酸、具体的には、例えば、マロン酸、エチルマロン酸、エチルメチルマロン酸、エチルプロピルマロン酸などが挙げられる。これらの有機酸は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの有機酸のうち、マロン酸が特に好適である。
【0051】
ここで、上記のような条件を満足する有機酸を用いることが好ましいのは、得られたポリビニルピロリドン粉体組成物を、カルシウムイオンやマグネシウムイオンを多く含有するような硬水に溶解する場合であっても、透明清澄な水溶液が得られるだけでなく、保存時の分子量低下が抑制され、品質が安定するからである。
【0052】
有機酸の使用量は、単量体の使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、反応液のpHが好ましくは5以下、より好ましくは3以上、4以下になるようにすればよい。具体的には、有機酸の使用量は、単量体の使用量に対して、好ましくは100ppm以上、10,000ppm以下、より好ましくは500ppm以上、5,000ppm以下である。
【0053】
重合反応後、反応液に有機酸を添加するので、本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、上記のような使用量に準じた含有量で、有機酸を含有することになる。ただし、単量体水溶液のpHを調整するために、および/または、重合中に反応液のpHを調整するために、第2級アミンまたはその水溶液を添加した場合、有機酸は、この第2級アミンと塩を形成していることがある。この場合、本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、この第2級アミンと有機酸との塩を含有することになる。
【0054】
有機酸を用いて未反応の単量体量を低減すると、最終的に得られるポリビニルピロリドン水溶液中における単量体の残存量は、ポリビニルピロリドンの含有量に対して、好ましくは10ppm以下、より好ましくは8ppm以下、さらに好ましくは6ppm以下である。なお、単量体の残存量は、液体クロマトグラフィーを用いて、吸収波長を235nmとして、ポリビニルピロリドン水溶液中に残存するN−ビニル−2−ピロリドン量を測定し、ポリビニルピロリドンの含有量に対するN−ビニル−2−ピロリドンの相対的な残存量を算出することにより求められる。
【0055】
重合後に第2級アミンを用いて重合液のpHを調整する場合には、未反応の単量体量を低減させた後、反応液に第2級アミンまたはその水溶液を添加してpHを所定の値に調整する。重合後に反応液のpHを調整するのに使用可能な第2級アミンとしては、重合前に単量体水溶液のpHを調整するのに使用可能な第2級アミンとして列挙した上記のような第2級アミンが挙げられる。これらの第2級アミンは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、重合後に反応液のpHを調整するために添加する第2級アミンは、単量体水溶液のpHを調整するために添加する第2級アミン、および/または、重合中に反応液のpHを調整するために添加する第2級アミンと同一であっても異なっていてもよい。
【0056】
第2級アミンの使用量は、有機酸の使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、反応液のpHが好ましくは4以上、7以下、より好ましくは5以上、7以下になるようにすればよい。具体的には、第2級アミンの使用量は、単量体の使用量に対して、好ましくは100ppm以上、10,000ppm以下、より好まし
くは120ppm以上、5,000ppm以下である。
【0057】
未反応の単量体量を低減した後、反応液のpHを調整するために第2級アミンまたはその水溶液を添加した場合、反応液中の有機酸は、この第2級アミンと塩を形成していることがある。この場合、本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、この第2級アミンと有機酸との塩を含有することになる。
【0058】
上記のような方法でN−ビニル−2−ピロリドンを重合すれば、ポリビニルピロリドンは水溶液の形態で得られる。このポリビニルピロリドン水溶液は、乾燥した後、粉砕することにより、ポリビニルピロリドン粉体組成物とすればよい。
【0059】
ポリビニルピロリドン水溶液を乾燥する方法としては、従来公知の方法を採用すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、スプレードライヤー乾燥法、ドラムドライヤー乾燥法などが挙げられる。乾燥の温度や時間などの条件は、乾燥すべきポリビニルピロリドン水溶液の量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、好ましくは100℃以上、160℃以下、より好ましくは100℃以上、150℃以下の温度で、好ましくは1時間以内、より好ましくは30分以内、さらに好ましくは10分以内で乾燥すればよい。
【0060】
乾燥したポリビニルピロリドンを粉砕する方法としては、従来公知の方法を採用すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、ピンミル、ハンマーミルなどで乾式粗粉砕する方法;ジェットミル、ローラミル、ボールミル、ミクロンミルなどで乾式微粉砕する方法;などが挙げられる。粉砕の条件は、特に限定されるものではなく、組成物の用途などに応じて所望の粒度が得られるように適宜設定すればよい。
【0061】
最終的に得られる本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物における第2級アミンまたはその塩の含有量は、好ましくは500ppm以上、10,000ppm以下、より好ましくは800ppm以上、6,000ppm以下、さらに好ましくは1,000ppm以上、4,000ppm以下である。なお、第2級アミンまたはその塩の含有量は、ポリビニルピロリドン粉体組成物を水溶液にし、イオンクロマトグラフィー装置(例えば、ICS−2000、日本ダイオネクス(株)製;カラムは、Ion Pac AS−15を使用)を用いて、この水溶液中に存在する第2級アミンまたはその塩の含有量を測定し、ポリビニルピロリドンの含有量に対する第2級アミンまたはその塩の相対的な含有量を算出することにより求められる。
【0062】
上記したように、方法(1)を採用すれば、本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物のうち、第1、第2および第3の態様のポリビニルピロリドン粉体組成物のいずれかが得られる。なお、方法(1)と、方法(2)、方法(3)および/または方法(4)とを組み合わせて採用してもよい。
【0063】
<方法(2)>
この方法は、重合終了後に濾過操作を行い、加熱面密着型乾燥法、凍結乾燥法や減圧乾燥法といった手法で乾燥することを特徴とする。
【0064】
まず、単量体水溶液にアゾ化合物および/または有機過酸化物を重合開始剤として添加して重合を行い、重合反応後、反応液に有機酸またはその水溶液を添加して未反応の単量体量(すなわち、反応液中における単量体の残存量)を低減するまでは、重合前、重合中および/または重合後に、第2級アミンを用いて重合液のpHを調整しないこと以外は、方法(1)の場合と同様にして行う。
【0065】
次に、方法(1)の場合と同様にして、反応液に有機酸またはその水溶液を添加して未反応の単量体量を低減させた後、反応液に第2級アミン以外の塩基またはその水溶液を添加してpHを所定の値に調整する。重合後に反応液のpHを調整するのに使用可能な塩基としては、例えば、炭酸グアニジン、尿素、炭酸ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩や水酸化物、炭酸カルシウムや水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属の炭酸塩や水酸化物などが挙げられる。これらの塩基は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの塩基のうち、炭酸グアニジンが好適である。
【0066】
塩基の使用量は、有機酸の使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、反応液のpHが好ましくは4以上、7以下、より好ましくは5以上、7以下になるようにすればよい。具体的には、塩基の使用量は、単量体の使用量に対して、好ましくは100ppm以上、10,000ppm以下、より好ましくは120ppm以上、5,000ppm以下である。
【0067】
未反応の単量体量を低減した後、反応液のpHを調整するために塩基またはその水溶液を添加した場合、反応液中の有機酸は、この塩基と塩を形成していることがある。この場合、本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、この塩基と有機酸との塩を含有することになる。
【0068】
次に、反応液を、そのまま、あるいは、適当な濃度に希釈してから、濾過する。濾過に用いるフィルターの孔径は、好ましくは2μm以上、10μm以下、さらに好ましくは4μm以上、8μm以下である。濾過に際しては、濾過器にフィルターをセットし、まず、例えば、イソプロパノールなどの親水性溶媒を濾過し、さらに、例えば、イオン交換水などの精製水を濾過してフィルターを親水化しておくことが好ましい。なお、濾過は、必要に応じて、減圧下で行ってもよい。
【0069】
得られたポリビニルピロリドン水溶液は、加熱面密着型乾燥法、凍結乾燥法や減圧乾燥法といった手法で乾燥する。乾燥の温度や時間など条件は、乾燥すべきポリビニルピロリドン水溶液の量や乾燥法に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではない。例えば、加熱面密着型乾燥法では、例えば、好ましくは100℃以上、160℃以下、より好ましくは100℃以上、150℃以下の温度で、好ましくは1時間以内、より好ましくは30分以内、さらに好ましくは10分以内で乾燥すればよい。また、凍結乾燥法では、例えば、好ましくは−50℃以上、−5℃以下、より好ましくは−40℃以上、−10℃以下の温度で、好ましくは20時間以内、より好ましくは15時間以内、さらに好ましくは10時間以内で乾燥すればよい。さらに、減圧乾燥法では、例えば、好ましくは10N/m以上、40,000N/m以下、より好ましくは100N/m以上、30,000N/m以下の減圧度で、好ましくは10℃以上、50℃以下、より好ましくは20℃以上、45℃以下の温度で、好ましくは20時間以内、より好ましくは15時間以内、さらに好ましくは10時間以内で乾燥すればよい。
【0070】
乾燥したポリビニルピロリドンを、方法(1)の場合と同様にして、粉砕すれば、最終的に本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物が得られる。
【0071】
最終的に得られる本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物における塩基またはその塩の含有量は、好ましくは500ppm以上、10,000ppm以下、より好ましくは800ppm以上、6,000ppm以下、さらに好ましくは1,000ppm以上、4,000ppm以下である。なお、塩基またはその塩の含有量は、ポリビニルピロリドン粉体組成物を水溶液にし、イオンクロマトグラフィー装置(例えば、ICS−2000、日本ダイオネクス(株)製;カラムは、Ion Pac AS−15を使用)を用いて、この水溶液中に存在する塩基またはその塩の含有量を測定し、ポリビニルピロリドンの含有
量に対する塩基またはその塩の相対的な含有量を算出することにより求められる。
【0072】
上記したように、方法(2)を採用すれば、本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物のうち、第1の態様のポリビニルピロリドン粉体組成物が得られる。なお、方法(2)と、方法(1)、方法(3)および/または方法(4)とを組み合わせて採用してもよい。特に、方法(2)と、方法(1)および/または方法(4)とを組み合わせて採用すれば、第3の態様のポリビニルピロリドン粉体組成物が得られる。
【0073】
<方法(3)>
この方法は、低温使用可能な重合開始剤を用いた滴下重合により、内温を50℃以下に保ち、重合終了後、凍結乾燥法や減圧乾燥法といった手法で乾燥することを特徴とする。
【0074】
まず、低温使用可能な重合開始剤を用いること、単量体水溶液に低温使用可能な重合開始剤の水溶液を滴下するか、あるいは、低温使用可能な重合開始剤の水溶液に単量体水溶液を滴下すること、内温を50℃以下に保つこと、重合前、重合中および/または重合後に、第2級アミンを用いて重合液のpHを調整しないこと以外は、方法(1)の場合と同様にして、重合反応を行う。
【0075】
低温使用可能な重合開始剤としては、50℃以下でも重合活性を有するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4’−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−シクロプロピルプロピオニトリル)などのアゾ化合物;イソブチルペルオキシド、ジ−2−プロペニルペルオキシジカーボネート、t−ブチルペルオキシネオデカノエート、t−ヘキシルペルオキシピバレートの有機過酸化物;などが挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの重合開始剤のうち、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−シクロプロピルプロピオニトリル)が好適であり、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(2−シクロプロピルプロピオニトリル)が特に好適である。
【0076】
重合反応における低温使用可能な重合開始剤の濃度は、単量体成分の使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、単量体100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、3質量部以下、より好ましくは0.005質量部以上、2質量部以下、さらに好ましくは0.01質量部以上、1質量部以下である。重合反応を行う際には、低温使用可能な重合開始剤の他に、必要に応じて、任意の連鎖移動剤、pH調節剤、緩衝剤などを用いることができる。
【0077】
次に、方法(1)の場合と同様にして、反応液に有機酸またはその水溶液を添加して未反応の単量体量を低減させた後、方法(2)の場合と同様にして、反応液に第2級アミン以外の塩基またはその水溶液を添加してpHを所定の値に調整する。
【0078】
未反応の単量体量を低減した後、反応液のpHを調整するために塩基またはその水溶液を添加した場合、反応液中の有機酸は、この塩基と塩を形成していることがある。この場合、本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、この塩基と有機酸との塩を含有することになる。
【0079】
得られたポリビニルピロリドン水溶液は、方法(2)の場合と同様にして、凍結乾燥法や減圧乾燥法といった手法で乾燥する。乾燥の温度や時間など条件は、乾燥すべきポリビニルピロリドン水溶液の量や乾燥法に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではない。好ましい乾燥の温度や時間の条件は、方法(2)の場合に説明する際に列挙した上記のような条件が挙げられる。
【0080】
乾燥したポリビニルピロリドンを、方法(1)の場合と同様にして、粉砕すれば、最終的に本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物が得られる。
【0081】
最終的に得られる本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物における塩基またはその塩の含有量は、好ましくは500ppm以上、10,000ppm以下、より好ましくは800ppm以上、6,000ppm以下、さらに好ましくは1,000ppm以上、4,000ppm以下である。なお、塩基またはその塩の含有量は、ポリビニルピロリドン粉体組成物を水溶液にし、イオンクロマトグラフィー装置(例えば、ICS−2000、日本ダイオネクス(株)製;カラムは、Ion Pac AS−15を使用)を用いて、この水溶液中に存在する塩基またはその塩の含有量を測定し、ポリビニルピロリドンの含有量に対する塩基またはその塩の相対的な含有量を算出することにより求められる。
【0082】
上記したように、方法(3)を採用すれば、本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物のうち、第1の態様のポリビニルピロリドン粉体組成物が得られる。なお、方法(3)と、方法(1)、方法(2)および/または方法(4)とを組み合わせて採用してもよい。特に、方法(3)と、方法(1)および/または方法(4)とを組み合わせて採用すれば、第3の態様のポリビニルピロリドン粉体組成物が得られる。
【0083】
<方法(4)>
この方法は、重合前、重合中および/または重合後に、重合液に酸化防止剤を添加することを特徴とする。
【0084】
まず、単量体水溶液にアゾ化合物および/または有機過酸化物を重合開始剤として添加して重合を行い、重合反応後、反応液に有機酸またはその水溶液を添加して未反応の単量体量(すなわち、反応液中における単量体の残存量)を低減するまでは、重合前、重合中および/または重合後に、第2級アミンを用いて重合液のpHを調整しないこと以外は、方法(1)の場合と同様にして行う。
【0085】
次に、方法(1)の場合と同様にして、反応液に有機酸またはその水溶液を添加して未反応の単量体量を低減させた後、方法(2)の場合と同様にして、反応液に第2級アミン以外の塩基またはその水溶液を添加してpHを所定の値に調整する。
【0086】
この段階までのいずれかの段階で、重合液に酸化防止剤を添加する。使用可能な酸化防止剤としては、例えば、サリチル酸ナトリウム、メチルベンゾトリアゾールカリウム塩、2−メルカプトベンズイミダゾール、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸プロピルエステル、ヒドロキノン、カテコールなどのフェノール系酸化防止剤;2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−
2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’−(2,3−ジメチルテトラメチレン)ジピロカテコールなどのビスフェノール系酸化防止剤;1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3’−ビス(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)酪酸]グリコールエステル、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−s−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)トリオン、トコフェロール類などの高分子型フェノール系酸化防止剤;ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、2−メルカプトベンズイミダゾール、テトラキスメチレン−3−(ラウリルチオ)プロピオネートメタン、ステアリルチオプロピルアミドなどの硫黄系酸化防止剤;トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニルジトリデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノおよび/またはジノニルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールジホスファイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−デシロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニレンホスファイトなどのリン系酸化防止剤;エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、クエン酸イソプロピルなどのアルコール系酸化防止剤;メチル化ジフェニルアミン、エチル化ジフェニルアミン、ブチル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、ラウリル化ジフェニルアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミンなどのアミン系酸化防止剤;4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(1−オクチロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンおよびその縮合物、8−アセチル−3−ドデシル−7,7,9,9−テトラメチル−1,3,8−トリアザスピロ[4,5]デカン−2,4−ジオンなどのヒンダードアミン系酸化防止剤;などが挙げられる。これらの酸化防止剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの酸化防止剤のうち、フェノール系酸化防止剤が好適であり、サリチル酸ナトリウムが特に好適である。
【0087】
酸化防止剤の使用量は、最終的に得られるポリビニルピロリドンに対して、好ましくは0.0001質量%以上、10質量%以下、より好ましくは0.001質量%以上、5質量%以下である。酸化防止剤の使用量が0.0001質量%未満であると、ポリビニルピロリドンのK値を安定化させることが困難になることがある。逆に、酸化防止剤の使用量が10質量%を超えると、性状や外観などのポリビニルピロリドン本来の特性が損なわれることがある。
【0088】
得られたポリビニルピロリドン水溶液は、方法(1)の場合と同様にして、従来公知の
方法、例えば、スプレードライヤー乾燥法、ドラムドライヤー乾燥法などで、乾燥する。
【0089】
乾燥したポリビニルピロリドンを、方法(1)の場合と同様にして、粉砕すれば、最終的に本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物が得られる。
【0090】
最終的に得られる本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物における酸化防止剤の含有量は、好ましくは0.001質量%以上、10質量%以下、より好ましくは0.001質量%以上、5質量%以下である。なお、酸化防止剤の含有量は、ポリビニルピロリドン粉体組成物を水溶液にし、液体クロマトグラフィーを用いて、この水溶液中に存在する酸化防止剤の含有量を測定し、ポリビニルピロリドンの含有量に対する酸化防止剤の相対的な含有量を算出することにより求められる。
【0091】
上記したように、方法(4)を採用すれば、本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物のうち、第2の態様のポリビニルピロリドン粉体組成物が得られる。なお、方法(4)と、方法(1)、方法(2)および/または方法(3)とを組み合わせて採用してもよい。この場合には、第3の態様のポリビニルピロリドン粉体組成物が得られる。
【実施例】
【0092】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、下記において、「wt%」は質量%、「部」は質量部を意味する。
【0093】
まず、不溶物の含有量を測定する方法、および、K値の低下率を測定する方法について説明する。
【0094】
≪不溶物の含有量≫
イオン交換水を孔径0.45μmのフィルター(ADVANTEC製、混合セルロースエステル系、直径90mm)で濾過して、不溶物が除去されたイオン交換水5,000gを採取する。
【0095】
容量5Lのビーカーに、不溶物が除去されたイオン交換水4,900gを入れた後、攪拌羽根で攪拌しながら、ポリビニルピロリドン試料100gを添加して、60分間かけて溶解する。この操作により、2wt%ポリビニルピロリドン水溶液5,000gが得られる。
【0096】
孔径1.2μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルター(Sartorius製、直径50mm)の質量を0.0001gまで正確に秤量した後(Wg)、吸引濾過器にセットする。次いで、イソプロパノール50gを濾過し、さらに不溶物が除去されたイオン交換水50gを濾過して、フィルターを親水化する。次いで、上記で得られた2wt%ポリビニルピロリドン水溶液5,000gを吸引濾過する。
【0097】
吸引濾過を開始してから4時間で濾過を終了して、残液量を測定し、濾過された液量を求める(Wg)。
【0098】
不溶物が除去されたイオン交換水50gを3回濾過して、フィルターを水洗する。吸引濾過器からフィルターを取り出し、減圧乾燥機を用いて、減圧度−0.09MPa、温度70℃で90分間乾燥させる。乾燥後、デシケーターに入れて10分間冷却した後、質量を測定する(Wg)。不溶物の含有量は、次式に従って算出する。
不溶物の含有量(ppm/対ポリビニルピロリドン試料)=
[(Wg−Wg)/(Wg×0.02)]×1,000,000
【0099】
≪K値の低下率≫
まず、ポリビニルピロリドン試料のK値を測定する(K)。次いで、ポリビニルピロリドン試料5gを容量20mLのスクリュー管に入れて密栓し、80℃に調節した恒温器に入れる。2週間後、スクリュー管を取り出し、同様にK値を測定する(K)。K値の低下率は、次式に従って算出する。
K値の低下率(%)=[(K−K)/K]×100
【0100】
≪平均粒子径≫
まず、ポリビニルピロリドン試料を酢酸エチルに分散させる。次いで、レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−3000(株式会社島津製作所製)を用いて、得られた分散液の粒度分布を測定する。得られた粒度分布データのメディアン径を平均粒子径とする。
【0101】
次に、下記実施例1および比較例1では、実際にポリビニルピロリドン粉体組成物を調製して、不溶物の含有量およびK値の低下率を測定した。
【0102】
≪実施例1≫
<重合工程>
攪拌機、温度計、還流管を備えた反応器に、イオン交換水640部およびN−ビニルピロリドン160部を仕込み、ジエタノールアミン0.02部を添加して、単量体水溶液をpH8.3に調整した。この単量体水溶液を攪拌しながら、窒素ガスを導入して溶存酸素を除去した後、攪拌しながら、反応器の内温が75℃になるように加熱した。この反応器に、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.44部をイソプロパノール4.5部に溶解した重合開始剤溶液を添加して重合を開始した。重合開始剤溶液を添加した後、重合反応による内温の上昇が認められた時点から、ジャケット温水温度を内温に合わせて昇温して反応を行った。
【0103】
<酸処理工程>
重合開始剤溶液を添加してから約3時間反応を継続した後、マロン酸0.14部をイオン交換水1.8部に溶解した酸水溶液を添加して、反応液をpH3.7に調整し、90℃で90分間内温を維持した。
【0104】
<アルカリ処理工程>
次いで、ジエタノールアミン0.24部をイオン交換水2.7部に溶解したアルカリ水溶液を添加して、反応液をpH6.6に調整し、90℃で30分間内温を維持して、20wt%のポリビニルピロリドンを含有するポリマー水溶液を得た。
【0105】
<乾燥・粉砕工程>
得られたポリマー水溶液をドラムドライヤーに投入し、ドラム表面温度140℃で20秒間(ドラム回転数1.5rpm)乾燥した後、ヴィクトリーミルVP−1(ホソカワミクロン(株)製)を用いて、粉砕して、固形分が97.0wt%、平均粒子径が205μm、ジエタノールアミンまたはその塩の含有量が1,650ppmであるポリビニルピロリドン粉体組成物を得た。
【0106】
<評価>
得られたポリビニルピロリドン粉体組成物を試料として、不溶物の含有量およびK値の低下率を測定したところ、それぞれ33ppmおよび4.5%であった。結果を表1に示す。
【0107】
≪実施例2≫
<重合工程>
攪拌機、温度計、還流管を備えた反応器に、イオン交換水640部およびN−ビニルピロリドン160部を仕込み、この単量体水溶液を攪拌しながら、窒素ガスを導入して溶存酸素を除去した後、攪拌しながら、反応器の内温が75℃になるように加熱した。この反応器に、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.44部をイソプロパノール4.5部に溶解した重合開始剤溶液を添加して重合を開始した。重合開始剤溶液を添加した後、重合反応による内温の上昇が認められた時点から、ジャケット温水温度を内温に合わせて昇温して反応を行った。
【0108】
<酸処理工程>
重合開始剤溶液を添加してから約3時間反応を継続した後、マロン酸0.14部をイオン交換水1.8部に溶解した酸水溶液を添加して、反応液をpH3.5に調整し、90℃で90分間内温を維持した。
【0109】
<アルカリ処理工程>
次いで、炭酸グアニジン0.4部をイオン交換水4.2部に溶解したアルカリ水溶液を添加して、反応液をpH6.7に調整し、90℃で30分間内温を維持して、20wt%のポリビニルピロリドンを含有するポリマー水溶液を得た。
【0110】
<酸化防止剤添加工程>
得られたポリマー水溶液に、酸化防止剤としてサリチル酸ナトリウム0.8部を添加して、攪拌しながら溶解させた。
【0111】
<濾過工程>
得られたポリマー水溶液(サリチル酸ナトリウム含有)をイオン交換水で濃度5wt%に希釈した。孔径8μmのポリカーボネート製フィルター(Advantec社製、直径47mm)を濾過器にセットし、イソプロパノール50gを濾過し、さらにイオン交換水50gを濾過して、フィルターを親水化した。次いで、この濾過器を用いて、濃度5wt%に希釈したポリマー水溶液を吸引濾過した。
【0112】
<乾燥・粉砕工程>
濾過したポリマー水溶液をドラムドライヤーに投入し、ドラム表面温度140℃で20秒間(ドラム回転数1.5rpm)乾燥した後、ヴィクトリーミルVP−1(ホソカワミクロン(株)製)を用いて粉砕して、固形分が97.2wt%、平均粒子径が260μmであるポリビニルピロリドン粉体組成物を得た。
【0113】
<評価>
得られたポリビニルピロリドン粉体組成物を試料として、不溶物の含有量およびK値の低下率を測定したところ、それぞれ40ppmおよび5.0%であった。結果を表1に示す。
【0114】
≪実施例3≫
<重合工程>
実施例2と同様にして、重合反応を行った。
<酸処理工程>
実施例2と同様にして、酸処理を行った。
<アルカリ処理工程>
実施例2と同様にして、アルカリ処理を行った。
<酸化防止剤添加工程>
実施例2と同様にして、酸化防止剤を添加した。
<濾過工程>
実施例2と同様にして、濾過を行った。
【0115】
<乾燥・粉砕工程>
濾過したポリマー水溶液を減圧乾燥機内に投入し、減圧度約665N/m(約5mmHg)、乾燥機温度50℃、乾燥時間5時間かけて乾燥した後、ヴィクトリーミルVP−1(ホソカワミクロン(株)製)を用いて粉砕して、固形分が97.2wt%、平均粒子径が212μmであるポリビニルピロリドン粉体組成物を得た。
【0116】
<評価>
得られたポリビニルピロリドン粉体組成物を試料として、不溶物の含有量およびK値の低下率を測定したところ、それぞれ35ppmおよび5.5%であった。結果を表1に示す。
【0117】
≪実施例4≫
<重合工程>
実施例2と同様にして、重合反応を行った。
<酸処理工程>
実施例2と同様にして、酸処理を行った。
<アルカリ処理工程>
実施例2と同様にして、アルカリ処理を行った。
<濾過工程>
実施例2と同様にして、濾過を行った。
【0118】
<乾燥・粉砕工程>
濾過したポリマー水溶液を減圧乾燥機内に投入し、減圧度約665N/m(約5mmHg)、乾燥機温度50℃、乾燥時間5時間かけて乾燥した後、ヴィクトリーミルVP−1(ホソカワミクロン(株)製)を用いて粉砕して、固形分が97.3wt%、平均粒子径が234μmであるポリビニルピロリドン粉体組成物を得た。
【0119】
<評価>
得られたポリビニルピロリドン粉体組成物を試料として、不溶物の含有量およびK値の低下率を測定したところ、それぞれ47ppmおよび14.4%であった。結果を表1に示す。
【0120】
≪実施例5≫
<重合工程>
実施例2と同様にして、重合反応を行った。
<酸処理工程>
実施例2と同様にして、酸処理を行った。
<アルカリ処理工程>
実施例2と同様にして、アルカリ処理を行った。
<酸化防止剤添加工程>
実施例2と同様にして、酸化防止剤を添加した。
【0121】
<乾燥・粉砕工程>
得られたポリマー水溶液(サリチル酸ナトリウム含有)を減圧乾燥機内に投入し、減圧度約665N/m(約5mmHg)、乾燥機温度50℃、乾燥時間5時間かけて乾燥した後、ヴィクトリーミルVP−1(ホソカワミクロン(株)製)を用いて粉砕して、固形
分が97.4wt%、平均粒子径が210μmであるポリビニルピロリドン粉体組成物を得た。
【0122】
<評価>
得られたポリビニルピロリドン粉体組成物を試料として、不溶物の含有量およびK値の低下率を測定したところ、それぞれ82ppmおよび5.2%であった。結果を表1に示す。
【0123】
≪比較例1≫
<重合工程>
実施例1において、反応器にジエタノールアミン0.02部に代えてトリエタノールアミン0.03部を仕込んだこと以外は、実施例1と同様にして、重合反応を行った。
<酸処理工程>
実施例1と同様にして、酸処理を行った。
【0124】
<アルカリ処理工程>
次いで、ジエタノールアミン0.24部に代えてトリエタノールアミン0.48部をイオン交換水2.7部に溶解したアルカリ水溶液を添加して、反応液をpH8.2に調整し、90℃で30分間内温を維持して、20wt%のポリビニルピロリドンを含有するポリマー水溶液を得た。
【0125】
<乾燥・粉砕工程>
得られたポリマー水溶液をドラムドライヤーに投入し、ドラム表面温度140℃で20秒間(ドラム回転数1.5rpm)乾燥させた後、ヴィクトリーミルVP−1(ホソカワミクロン(株)製)を用いて、粉砕して、固形分が96.8wt%、平均粒子径が220μmであるポリビニルピロリドン粉体組成物を得た。
【0126】
<評価>
得られたポリビニルピロリドン粉体組成物を試料として、不溶物の含有量およびK値の低下率を測定したところ、それぞれ80ppmおよび14.5%であった。結果を表1に示す。
【0127】
≪比較例2≫
<重合工程>
実施例2と同様に、重合反応を行った。
<酸処理工程>
実施例2と同様に、酸処理を行った。
<アルカリ処理工程>
実施例2と同様に、アルカリ処理を行った。
【0128】
<乾燥・粉砕工程>
得られたポリマー水溶液を減圧乾燥機内に投入し、減圧度約665N/m(約5mmHg)、乾燥機温度50℃、乾燥時間5時間かけて乾燥した後、ヴィクトリーミルVP−1(ホソカワミクロン(株)製)を用いて粉砕して、固形分が97.2wt%、平均粒子径が241μmであるポリビニルピロリドン粉体組成物を得た。
【0129】
<評価>
得られたポリビニルピロリドン粉体組成物を試料として、不溶物の含有量およびK値の低下率を測定したところ、それぞれ87ppmおよび16.1%であった。結果を表1に示す。
【0130】
≪参考例≫
表1には、参考例として、現在入手することができる3種類の他社品のポリビニルピロリドン粉体について、不溶物の含有量およびK値の低下率を測定したデータを併せて掲載する。
【0131】
【表1】

【0132】
表1から明らかなように、第2級アミンを用いて重合液のpHを調整した実施例1のポリビニルピロリドン粉体組成物は、K値の低下率が4.5%、不溶物の含有量が33ppmという小さい値を示した。また、重合液に酸化防止剤を添加した後、濾過操作を行い、ドラムドライヤーを用いた加熱面密着型乾燥法で乾燥した実施例2および3のポリビニルピロリドン粉体組成物は、それぞれ、K値の低下率が5.0%、不溶物の含有量が40ppm、および、K値の低下率が5.5%、不溶物の含有量が35ppmという小さい値を示した。さらに、重合終了後に濾過操作を行い、ドラムドライヤーを用いた加熱面密着型乾燥法で乾燥した実施例4のポリビニルピロリドン粉体組成物は、K値の低下率が14.4%と大きい値を示すものの、不溶物の含有量が47ppmという小さい値を示した。さらに、重合液に酸化防止剤を添加した実施例5のポリビニルピロリドン粉体組成物は、不溶物の含有量が82ppmという大きい値を示すものの、K値の低下率が5.2%という小さい値を示した。
【0133】
これに対し、第3級アミンを用いて重合液のpHを調整した比較例1のポリビニルピロリドン粉体組成物は、K値の低下率が14.5%、不溶物の含有量が80ppmという大きい値を示した。また、実施例2の製造工程から酸化防止剤添加工程および濾過工程を省略した比較例2のポリビニルピロリドン粉体組成物は、K値の低下率が16.1%、不溶物の含有量が87ppmという大きい値を示した。さらに、参考例のうち、他社品1、他社品2および他社品3は、K値の低下率がそれぞれ19.5%、14.4%および15.1%、不溶物の含有量がそれぞれ95ppm、83ppmおよび131ppmという大きい値を示した。
【0134】
かくして、N−ビニルピロリドンを重合してポリビニルピロリドン粉体組成物を製造するにあたり、所定の操作を行うことにより、このような操作を行わずに得られたポリビニルピロリドン粉体組成物や現在入手することができる市販のポリビニルピロリドン粉体と比べて、不溶物の含有量が少なく、および/または、熱安定性が高いポリビニルピロリド
ン粉体組成物が得られることがわかる。また、第2級アミンに代えて第3級アミンを用いても、同様の効果が達成されないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、それ自体を原料または添加剤として、例えば、化粧品、医農薬中間体、食品添加物、感光性電子材料、粘着付与剤などの用途に、あるいは、種々の特殊工業用途(例えば、中空糸膜やメンブランフィルターの製造)に、幅広い分野で用いることができるが、水への溶解速度が高く、使用時の作業効率が向上すると共に、熱安定性が高く、品質が一定していることから、工業上有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
K値が50以上、120以下であるポリビニルピロリドンを含有する粉体組成物であって、該組成物の2wt%水溶液を孔径1.2μmのメンブランフィルターで濾過した場合に該フィルター上に残存する不溶物の含有量が70ppm以下であることを特徴とするポリビニルピロリドン粉体組成物。
【請求項2】
K値が50以上、120以下であるポリビニルピロリドンを含有する粉体組成物であって、該組成物を空気中、80℃で14日間加熱した場合に観察されるK値の低下率が12%以下であることを特徴とするポリビニルピロリドン粉体組成物。
【請求項3】
K値が50以上、120以下であるポリビニルピロリドンを含有する粉体組成物であって、該組成物の2wt%水溶液を孔径1.2μmのメンブランフィルターで濾過した場合に該フィルター上に残存する不溶物の含有量が70ppm以下であり、かつ、該組成物を空気中、80℃で14日間加熱した場合に観察されるK値の低下率が12%以下であることを特徴とするポリビニルピロリドン粉体組成物。
【請求項4】
さらに第2級アミンまたはその塩を含有する請求項1〜3のいずれか1項記載のポリビニルピロリドン粉体組成物。
【請求項5】
さらに酸化防止剤を含有する請求項1〜4のいずれか1項記載のポリビニルピロリドン粉体組成物。

【公開番号】特開2008−202035(P2008−202035A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8216(P2008−8216)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】