説明

ポリプロピレン系改質樹脂の製造方法、ポリプロピレン系改質樹脂

【課題】高い溶融張力のポリプロピレン系改質樹脂を効率よく得ることができる方法を提供し、ひいては、高い溶融張力を有しながらも効率よく製造することが可能なポリプロピレン系改質樹脂の提供を図ること。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂を主成分とする平均粒子径が0.1mm以上2.0mm以下の樹脂粒子とパーオキシジカーボネートとを、前記ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して前記パーオキシジカーボネートが0.5質量部以上3.0質量部以下となる割合で押出し機に供給して溶融混練し、前記ポリプロピレン系樹脂よりも高い溶融張力を有するポリプロピレン系改質樹脂を製造することを特徴とするポリプロピレン系改質樹脂の製造方法などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂を改質して該ポリプロピレン系樹脂よりも溶融張力の高いポリプロピレン系改質樹脂を作製するポリプロピレン系改質樹脂の製造方法、及び、ポリプロピレン系改質樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリプロピレン系樹脂は、機械的性質や耐薬品性などに優れることから種々の成形品の原材料として利用されている。
このポリプロピレン系樹脂を用いて成形品を作製する場合には、一般的には押出し成形、ブロー成形、発泡成形などが行われているが、一般的にポリプロピレン系樹脂は、結晶性を有することから溶融時の粘度や溶融張力が低く、上記のような成形を行う際に高精度の条件設定を行っても所望の性状の成形品を得ることができない場合がある。
例えば、発泡成形品を作製すべく押出し発泡をさせた際には、気泡膜の張力不足による破泡が押出し発泡時に生じてしまう結果、緻密な発泡状態を有する発泡成形品を得ることが困難になったりしている。
【0003】
このような問題の解決を図るべくポリプロピレン系樹脂を改質して溶融特性を向上させる試みがなされている。
例えば、下記特許文献1においては、特定の酸素濃度に調節したガス雰囲気下にてポリプロピレン系樹脂を放射線架橋することによって、放射線照射前のポリプロピレン系樹脂よりも溶融時の粘度および張力の高い改質樹脂を作製する方法が記載されている。
しかし、この特許文献に記載の発明では、放射線を利用するために設備が大掛かりとなって、ポリプロピレン系改質樹脂を簡便に得ることが難しいという問題を有する。
【0004】
一方で、有機過酸化物による化学架橋についても種々の検討がなされており、下記特許文献2においては、所定のメルトマスフローレイトの値を有するポリプロピレン系樹脂と特定の有機過酸化物とを溶融混練してポリプロピレン系改質樹脂を作製することが記載されている。
また、下記特許文献3には、ポリプロピレン系樹脂にフマル酸やマレイン酸といった成分を加え有機過酸化物などと溶融混練させることによって、ポリプロピレン系改質樹脂を作製することが記載されている。
これらの特許文献に記載の発明では、ポリプロピレン系改質樹脂が溶融混練によって作製されるため、放射線を利用する方法に比べて簡便な製造方法であるといえる。
しかし、この特許文献2記載の発明のように、単にポリプロピレン系樹脂と有機過酸化物とを溶融混練するだけでは、有機過酸化物を溶融張力の向上に有効に作用させることが難しく、例えば、有機過酸化物の添加量に見合う溶融張力の向上効果を得ることが困難になるおそれを有する。
一方で、特許文献3記載の発明は、特許文献2記載の発明に比べて溶融張力を向上させやすいもののこれはフマル酸やマレイン酸といった成分による効果であり有機過酸化物によるポリプロピレン系改質樹脂の架橋効率自体が向上されているわけではない。
また、特許文献2記載の発明においては上記のような成分を必須としているためにこれらの配合や混練に係る工数において余分な手間を発生させやすいという問題をも有している。
【0005】
このように、従来、有機過酸化物によるポリプロピレン系樹脂の架橋を溶融張力の向上に有効に作用させることが困難になっており、高い溶融張力を有するポリプロピレン系改質樹脂を効率よく得ることが困難になっている。
また、このことから、高い溶融張力を有しながらも簡便に製造することが可能なポリプロピレン系改質樹脂を得ることが困難であるという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−121704号公報
【特許文献2】特許第4267187号公報
【特許文献3】特許第4010141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような問題点に鑑み、本発明は、高い溶融張力を有するポリプロピレン系改質樹脂を効率よく得る方法を提供し、ひいては、高い溶融張力を有しながらも簡便に製造することが可能なポリプロピレン系改質樹脂の提供を図ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、ポリプロピレン系改質樹脂の製造方法に係る本発明は、ポリプロピレン系樹脂を主成分とする平均粒子径が0.1mm以上2.0mm以下の樹脂粒子とパーオキシジカーボネートとを、前記ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して前記パーオキシジカーボネートが0.5質量部以上3.0質量部以下となる割合で押出し機に供給して溶融混練し、前記ポリプロピレン系樹脂よりも高い溶融張力を有するポリプロピレン系改質樹脂を製造することを特徴としている。
【0009】
また、ポリプロピレン系改質樹脂に係る本発明は、ポリプロピレン系樹脂がパーオキシジカーボネートで架橋されて前記ポリプロピレン系樹脂よりも高い溶融張力となるように改質されたポリプロピレン系改質樹脂であって、ポリプロピレン系樹脂を主成分とする平均粒子径が0.1mm以上2.0mm以下の樹脂粒子とパーオキシジカーボネートとが、前記ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して前記パーオキシジカーボネートが0.5質量部以上3.0質量部以下となる割合で押出し機に供給され、該押出し機で溶融混練されることによって前記改質されており、230℃において3cN以上の溶融張力を有していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
ポリプロピレン系樹脂は、通常3〜5mm程度の直径を有するペレット状粒子の形態で一般的に市販されているがこのような大きさの樹脂ペレットを押出し機などに供給して溶融混練する際には、一粒一粒の熱容量が大きいため一部が溶融していても残部が溶け残った状態が押出し機の中である程度の時間継続されることになる。
一方でパーオキシジカーボネートは、樹脂温がある程度上昇した時点で開裂してラジカルを発生させるため、一般的に市販されている大きさのポリプロピレン系樹脂のペレットとパーオキシジカーボネートとを単に溶融混練するだけでは、ペレットの一部が溶け残った状態でラジカルが発生されやすい状態になってしまい、架橋効率が十分なものとならないおそれを有する。
【0011】
本発明においては、従来の樹脂ペレットなどに比べて小さな0.1mm以上2.0mm以下の平均粒子径の樹脂粒子を用いることから全体を均一な温度とさせやすく、樹脂粒子の溶融ムラが解消される前にパーオキシジカーボネートの活性が高まってしまい架橋反応に十分有効に作用しなくなるという問題を防止しうる。
したがって、高い溶融張力のポリプロピレン系改質樹脂を効率よく得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について説明する。
本発明のポリプロピレン系改質樹脂を製造するのにあたっては、その出発物質として、a)ポリプロピレン系樹脂粒子、b)パーオキシジカーボネートを用いる。
また、本発明のポリプロピレン系改質樹脂には、上記の成分以外の各種のc)添加剤を適宜含有させることができる。
また、本発明のポリプロピレン系改質樹脂は、その製造にあたっては、上記のような物質を含む混和物を溶融混練する方法が採用され、通常、押出し機で溶融混練されて発泡成形品の原材料などとして好適な3cN以上(at230℃)の溶融張力を有する状態となって作製され得る。
【0013】
まず、本発明のポリプロピレン系改質樹脂を構成させる出発物質について説明する。
【0014】
a)ポリプロピレン系樹脂
前記ポリプロピレン系樹脂としては、特に限定されることなく、ホモポリプロピレン、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体などが挙げられ、本実施形態のポリプロピレン系改質樹脂を構成するための成分としては、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体が好ましい。
このプロピレンと他のオレフィンとの共重合体は、ランダム共重合体又はブロック共重合体の何れであってもよいが、耐熱性に優れていることから、ブロック共重合体が好ましい。
なお、プロピレンとともに共重合体を構成する他のオレフィンとしては、例えば、エチレンの他に、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル1−ペンテン、1−へキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどの炭素数が4〜10のα−オレフィンが挙げられる。
【0015】
また、このポリプロピレン系樹脂としては、JIS K7210:1999のB法に準拠して試験温度230℃、荷重21.18Nで試験した際のメルトマスフローレイト(MFR)が0.2g/10min以上、15g/10min以下のものが好ましい。
ポリプロピレン系樹脂のMFRがこのような範囲内であることが好ましいのは、MFRが上記下限値よりも低いと、押出し機などの溶融混練に利用する機器に過大な負荷が生じるおそれを有するためであり、一方でMFRが高い場合は、通常、溶融張力が低いため上記上限値を超えるMFRを有するポリプロピレン系樹脂を使用すると目的とする溶融張力をポリプロピレン系改質樹脂に付与することが難しくなるためである。
このような観点から、ポリプロピレン系樹脂のMFRは、0.3g/10min以上、10g/10min以下であることが好ましく、0.5g/10min以上、5g/10min以下であることが特に好ましい。
【0016】
なお、このようなポリプロピレン系樹脂は、単独、又は複数種類を混合して前記混和物に含有させることができる。
この内、2種以上のポリプロピレン系樹脂を用いる場合には、全体を含有量の割合(質量分率)によって算出した値を前記MFRとすることができる。
例えば、用いるポリプロピレン系樹脂がn種類の混合物であるとした場合、それぞれポリプロピレン系樹脂のMFRを上記測定方法で測定し、得られたそれぞれのMFRの値を、第一のポリプロピレン系樹脂のMFRを“MFR1”、第二のポリプロピレン系樹脂のMFRを“MFR2”、・・・第nのポリプロピレン系樹脂のメルトマスフローレイトを“MFRn”とすると、全体を1としたときの第一のポリプロピレン系樹脂の質量分率を“C1”、第二のポリプロピレン系樹脂の質量分率を“C2”・・・第nのポリプロピレン系樹脂の質量分率を“Cn”として、ポリプロピレン系樹脂のメルトマスフローレイトは、次式のような相乗平均をすることによって算出される。

ポリプロピレン系樹脂のMFR(g/10min)
=(MFR1)C1×(MFR2)C2×・・・×(MFRn)Cn
(ただし、C1+C2+・・・Cn=1)
【0017】
ここで、本実施形態においては、0.1mm以上2.0mm以下の平均粒子径の樹脂粒子を用いることが重要である。
なお、市販されているポリプロピレン系樹脂のペレットは、通常、3〜5mm程度の直径を有しているため、このような平均粒子径の樹脂粒子を得るためには、粉砕機などによって機械的に粉砕する方法、溶剤などに樹脂を溶かして溶解させた後に噴霧乾燥する方法、押出し機で押出したストランドをペレタイザーでカットする方法、或いは、押出し機から押出した樹脂をホットカット設備で造粒する方法が挙げられる。
【0018】
なお、押出し機を利用する方法は、大きさの整った樹脂粒子を得られるもののポリプロピレン系樹脂に熱とせん断によるストレスを与えることになる。
また、溶剤などに樹脂を溶かして溶解させたのちに噴霧乾燥する方法は、気化した溶剤の回収・再生といった手間が必要になるものの多孔質な樹脂粒子が得られやすくパーオキシジカーボネートが液剤や粉末の形態で押出し機に供給されるような場合においてこれらを表面に付着(吸着)させやすくなる。
すなわち、パーオキシジカーボネートの押出し機内での偏在を抑制し得る樹脂粒子を得ることができる。
さらに、粉砕法は、押出し機を利用する方法や溶剤を利用する方法などに比べて粒度分布に広がりを生じやすいものの、通常、得られる樹脂粒子の形状が不定形状となり比表面積の大きな粒子が得られやすくパーオキシジカーボネートの付着(吸着)に有利となる。
また、粉砕法は、溶剤を利用する場合のような手間が発生しない点においても優れているともいえる。
【0019】
この粉砕法としては、切断刃を回転させるCUM型遠心ミルを使用する遠心粉砕法や樹脂ペレットを極低温にして粉砕する凍結粉砕法といった方法が採用可能である。
【0020】
なお、平均粒子径が0.1mm以上2.0mm以下の範囲の内のいずれかであることが重要であるのは、平均粒子径が2mmより大きい場合、押出し機での溶けムラが生じてパーオキシジカーボネートの分解速度とポリプロピレン系樹脂の溶融挙動とのバランスを保つことが難しくなるためである。
また、0.1mm未満の平均粒子径とすると、パーオキシジカーボネートの分解速度とのバランスの観点からは問題を生じるおそれは低いものの嵩密度が小さくなるために押出し機への投入量が減少しポリプロピレン系改質樹脂の生産性を低下させるおそれを生じる。
【0021】
なお、樹脂粒子の平均粒子径は例えば下記の要領で測定することができる。
目開き4.00mm、目開き3.35mm、目開き2.80mm、目開き2.36mm、目開き2.00mm、目開き1.70mm、日開き1.40mm、目開き1.18mm、目開き1.00mm、目開き0.85mm、目開き0.71mm、目開き0.60mm、目開き0.50mm、目開き0.425mm、目開き0.355mm、目開き0.300mm、目開き0.250mm、目開き0.212mm、目開き0.180mmのJIS標準篩をロータップ型篩振とう機(飯田製作所社製)にセットして試料約50gを10分間かけて分級し、篩網上の試料重量を測定する。
次いで、各篩の目開きとこの網の次に大きな目開きを有する網の目開きとの相加平均値を求めその網の粒径値とする。
なお、目開きが4.00mmの篩の場合には、この篩の次に大きな目開きを有するJIS規定の篩の目開きが4.75mmであるので、この網の目開き4.75mmと目開き4.00mmとの相加平均値4.375mmをその粒径値とする。
篩上に残った樹脂粒子の粒径値を上述のようにして篩毎に決定すると共に、篩上に残った樹脂粒子の質量を篩毎に算出し、各篩に残った樹脂粒子の質量を測定試料全体質量で除して質量百分率を算出する。
そして、各篩について、該篩と、その篩よりも小さな目開きを有する全ての篩上に残った樹脂粒子の質量百分率を合計し、この値を累積質量百分率とする。
次に、横軸を粒径値とし、縦軸を累積質量百分率としたグラフを作製し、篩毎に決定した粒径値及び累積質量百分率を一組のデータとしてこのグラフにプロットし、これらプロットどうしを結んだ近似曲線を作成する。
そして、近似曲線上において、累積質量百分率が50質量%となる粒子径(メディアン径)を平均粒子径とする。
【0022】
b)パーオキシジカーボネート
前記パーオキシジカーボネートは、有機過酸化物であり、ポリプロピレン系樹脂に対して架橋剤として作用するものである。
具体的には、ジエチルパーオキシジカーボネート、ジプロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジn−ブチルパーオキシジカーボネート、ビスメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ビス2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジオクチルパーオキシジカーボネート、ビスt−ブチルシクロヘキシルパーオキシジカーボネート、ジミリスチルパーオキシジカーボネート、ジセチルパーオキシジカーボネートなどが挙げられ、中でもビスt−ブチルシクロヘキシルパーオキシジカーボネート、ジミリスチルパーオキシジカーボネート、ジセチルパーオキシジカーボネートは自己促進分解温度(SADT)が高く、貯蔵時の熱的安定性や取り扱い性に優れることから好ましい。
【0023】
なお、このパーオキシジカーボネートと、前記ポリプロピレン系樹脂との配合量は、前記ポリプロピレン系樹脂(複数種の場合はその合計量)100質量部に対して0.5質量部以上3.0質量部以下の割合とされる。
パーオキシジカーボネートの記合量が上記のような範囲とされるのは、上記下限値未満では、ポリプロピレン系改質樹脂に十分な溶融張力を付与することが難しくなるためであり、上記の上限値を超えて配合しても配合量に見合う溶融張力向上の効果が得られないばかりでなく、分解したパーオキシジカーボネートによって臭気や発煙の問題が生じたり、過度の反応によってゲル化が生じたりするおそれを有するためである。
【0024】
また、パーオキシジカーボネート系のもの以外の有機過酸化物を用いた場合、溶融混練時におけるポリプロピレン系樹脂の分解を引き起こしやすく、溶融張力の向上に有効となる架橋構造を形成させることが困難である。
なお、有機過酸化物による架橋は、当該有機過酸化物が熱分解して生成したラジカルがポリマーからプロトンを引き抜く反応を起こすことによって生じるので、有機過酸化物による生成ラジカルが再結合してラジカルが消失したり、生成ラジカルがポリプロピレン系樹脂の分子鎖を切断し分子量低下を引き起こしたりすることがある。
また、意図していない他の物質と反応すれば、架橋効率が極度に低下し、良好な架橋構造をポリプロピレン系改質樹脂に付与することができなくなるおそれを有する。
したがって、生成ラジカルが再結合反応等を起こすよりも速く架橋剤などと反応し生成ラジカルを安定化させ架橋効率を高めることが重要である。
【0025】
このような点において、本実施形態に係るポリプロピレン系改質樹脂は、一般に用いられているポリプロピレン系樹脂ペレットよりも平均粒子径の小さな樹脂粒子がパーオキシジカーボネート系有機過酸化物とともに押出し機で溶融混練されて得られるものである。
すなわち、本実施形態に係るポリプロピレン系改質樹脂の製造方法においては、パーオキシジカーボネート系有機過酸化物によって盛んにラジカルが発生される前にポリプロピレン系樹脂全体が均質に溶融されている状態を押出し機内に形成させることができパーオキシジカーボネートが無駄に消費されたり、ポリプロピレン系樹脂の低分子化が生じたりすることが抑制され得る。
このようなことから、本実施形態に係るポリプロピレン系改質樹脂は、3cN以上の高い溶融張力を有する状態となるように効率よく作製されうるものである。
【0026】
c)添加剤
なお、本実施形態に係るポリプロピレン系改質樹脂の出発物質としては、a)、b)の成分以外に、各種添加剤を含有させることができる。
なお、この添加剤は、a)、b)の成分を溶融混練する際に加えても良く、a)、b)の成分を一旦溶融混練した後に改めて混合するようにしてもよい。
この添加剤の限定されない具体例としては、耐候性安定剤、帯電防止剤、酸化防止剤、光安定剤、結晶核剤、顔料、染料、滑剤、すべり性付与及びアンチブロッキング性の付与を目的とした界面活性剤、無機充填材やその分散性の向上を目的とした高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル又は高級脂肪酸アミドなどが挙げられる。
【0027】
次いで、これらの成分を用いてポリプロピレン系改質樹脂を製造するポリプロピレン系改質樹脂の製造方法について説明する。
【0028】
本実施形態に係るポリプロピレン系改質樹脂の製造方法においては、上記成分を押出し機を利用して溶融混練する方法が挙げられ、該押出し機に前記成分を連続的に供給して押出し機内で架橋反応をさせてポリプロピレン系改質樹脂を形成させつつ、該押出し機から形成された前記ポリプロピレン系改質樹脂を連続的に排出させる方法を採用することができる。
【0029】
前記押出し機としては、単軸押出し機、二軸押出し機などを挙げることができ、これらは、単独、又は複数連結したタンデム型のものとしてポリプロピレン系改質樹脂の製造に利用することができる。
特に、ベース樹脂であるポリプロピレン系樹脂に対するその他の配合剤の分散性や反応性の観点から、二軸押出し機が好適である。
この押出し機には、まず、常温の状態で樹脂粒子とパーオキシジカーボネートとが導入され、その後、押出し機の内部をスクリューで攪拌されつつ進行するにしたがってシリンダー内壁等からの伝熱により加熱されることになる。
このとき、樹脂粒子の粒径が大きいと、一粒一粒の熱容量が大きいために粒子の一部が溶融した状態になっても、残部が十分に軟化されていない状態になる。
そうすると、高温の溶融樹脂中に、完全に溶け切っていない樹脂(以下「未溶融分」ともいう)が分散する状態になる。
そうして、パーオキシジカーボネートは、この溶融樹脂の樹脂温の上昇に伴って盛んにラジカルを発生させることになるため溶融樹脂と未溶融分とが混在する状態においてラジカルを発生させる結果となる。
【0030】
このような形でラジカルを発生させると架橋反応を生じさせやすい状態にある溶融樹脂に対して過剰なラジカルの供給がなされるため溶融樹脂量に対して適正なラジカル発生量となっている場合に比べてラジカルの再結合等が生じやすくなる。
また、この時点で、溶融樹脂は架橋反応によって溶融張力の向上に有効な状態とされるが、その後、架橋がされなかった未溶融分によって架橋されたポリプロピレン系樹脂が希釈されることになる。
すなわち、ラジカルの発生ピークにおいて架橋反応できる状態にないポリプロピレン樹脂を存在させやすいこと、及び、そのことによって有機過酸化物の架橋効率が十分なものとならないことなどによって溶融張力の向上効果が十分に発揮されない可能性がある。
【0031】
一方で、上記のように平均粒子径が0.1mm以上2.0mm以下となる状態に調整した樹脂粒子を押出し機に供給することで、全体が均一な温度となりやすく、ラジカルの発生ピークにおいて架橋反応できる状態にない未溶融分が形成されるおそれを低減させうる。
【0032】
なお、ここでは詳述しないが、押出し機の温度設定や、押出し機内における平均滞留時間は、用いるスクリューのタイプや回転速度といった押出し条件は、適宜調整が可能であり、これらの条件を調整することによって得られるポリプロピレン系改質樹脂の溶融張力を3cN以上(於230℃)となるように調整することができる。
このポリプロピレン系改質樹脂を、発泡成形品の原材料などに用いる際には、前記溶融張力は3cN以上とすることが好ましく5cN以上とすることが特に好ましい。
なお、上限値については特に限定されるものではないが、本実施形態に係るポリプロピレン系改質樹脂の溶融張力は、通常、30cN以下であり、20cN以下とすることが好ましい。
【0033】
このように本発明によれば、押出し機による溶融混練という簡便な手段によって、発泡成形品の形成に適した高溶融張力のポリプロピレン系改質樹脂を得ることができる。
なお、本実施形態においては、ポリプロピレン系樹脂粒子を用いてポリプロピレン系改質樹脂を作製する場合を例示しているが、本発明は上記に限定されずポリプロピレン系改質樹脂の出発物質である樹脂粒子は、平均粒子径が0.1mm以上2.0mm以下であれば僅かにポリプロピレン系樹脂以外の樹脂を含有していてもよい。
すなわち、ポリプロピレン系樹脂を主成分とする樹脂粒子であれば、ポリプロピレン系樹脂以外の樹脂を含有していても効率よくポリプロピレン系改質樹脂を作製し得る点においては変わりがない。
例えば、ポリエチレン樹脂などのポリプロピレン系樹脂に相溶性の高いポリオレフィン系樹脂を10質量%程度以下であれば樹脂粒子に含有させていても同種の効果が得られるものであり、このような場合も本発明の意図する範囲である。
また、特許文献3(特許第4010141号公報)に記載されているようなフマル酸やマレイン酸といった成分を適宜加えることや、ジビニルベンゼンやトリメチロールプロパントリアクリレートといった多官能不飽和モノマー成分を適宜加えることによりさらなる溶融張力の向上を図ってもよい。
【実施例】
【0034】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
ポリプロピレン系樹脂ペレット(サンアロマー社製、ホモポリプロピレン樹脂、商品名「PL500A」、平均粒子径3.7mm、MFR=3.3g/10min)をCUM型遠心ミル(形式:CUM150、三井鉱山社製)に投入して粉砕し、平均粒子径0.7mmとなるポリプロピレン系樹脂粒子を作製した。
この平均粒子径0.7mmのポリプロピレン系樹脂粒子100質量部に対して、ジセチルパーオキシジカーボネートが0.5質量部となる割合で該ジセチルパーオキシジカーボネートと前記樹脂粒子とをリボンブレンダーにて攪拌混合したものを口径が30mmの二軸押出機(L/D=47)に供給し、樹脂温度200℃、回転数150rpmにて二軸押出機中で溶融混錬させ、先端に取り付けた口径4mm、ランド5mm、孔数2個のダイスから5kg/hの吐出量でストランド状にポリプロピレン系改質樹脂を押し出した。
次いで、このストランド状のポリプロピレン系改質樹脂を30℃の水を収容した長さ2mの冷却水槽中を通過させて冷却しペレタイザーでカットしてポリプロピレン系改質樹脂からなるペレットを得た。
このペレットを用いて、溶融張力を測定した結果を、表1に示す。
なお、溶融張力の測定は、下記のようにして実施した。
【0036】
(溶融張力の測定)
チアスト社製ツインボアキャピラリーレオメーター(Rheologic5000T)の垂直方向に配された内径15mmのシリンダー内に試料となるポリプロピレン系改質樹脂を収容させて、230℃の温度で5分間加熱して溶融させた後に、シリンダーの上部からピストンを挿入して、該ピストンで押出速度が0.0773/sの一定速度となるようにしてシリンダーの下端に設けたキャピラリー(ダイ径:2.095mm、ダイ長さ:8mm、流入角度:90度(コニカル))から溶融樹脂を紐状に押し出させた後、巻き取りロールを用いて巻き取らせた。
このときの巻き取り始めの初速を4mm/sとし、その後の加速を12mm/s2として徐々に巻き取り速度を速め、張力検出プーリーによって観察される張力が急激に低下した時の巻き取り速度を破断点速度とし、この破断点速度が観察されるまでの最大張力を溶融張力として測定した。
【0037】
(実施例2〜3)
ジセチルパーオキシジカーボネートの量を表1に示すように変量したこと以外は実施例1と同様にポリプロピレン系改質樹脂を作製し、得られたポリプロピレン系改質樹脂の溶融張力の測定を行った。結果を、表1に示す。
【0038】
(実施例4)
遠心ミルによる粉砕方法に代えて凍結粉砕を行って、平均粒子径が0.2mmのポリプロピレン系樹脂粒子を用いたこと以外は、実施例1と同様にポリプロピレン系改質樹脂を作製し、得られたポリプロピレン系改質樹脂の溶融張力の測定を行った。結果を、表1に示す。
【0039】
(実施例5〜7)
ポリプロピレン系樹脂単体を押出し機に供給してストランド状に押出してペレタイザーによるリペレット化をし、表1に示す平均粒子径とする方法を遠心ミルによる粉砕方法に代えて採用したこと以外は、実施例1と同様にポリプロピレン系改質樹脂を作製し、得られたポリプロピレン系改質樹脂の溶融張力の測定を行った。結果を、表1に示す。
【0040】
(実施例8)
ジセチルパーオキシジカーボネートに代えてジミリスチルパーオキシジカーボネートを用いたこと以外は実施例1と同様にポリプロピレン系改質樹脂を作製し、得られたポリプロピレン系改質樹脂の溶融張力の測定を行った。結果を、表1に示す。
【0041】
(実施例9)
ポリプロピレン系樹脂ペレットをサンアロマー社製の商品名「PL500A」に代えて商品名「PM600A」(ホモポリプロピレン樹脂、MFR=7.5g/10min)としたこと以外は実施例1と同様にポリプロピレン系改質樹脂を作製し、得られたポリプロピレン系改質樹脂の溶融張力の測定を行った。結果を、表1に示す。
【0042】
(比較例1)
ポリプロピレン系樹脂ペレットの粉砕やリペレット化を行わず、そのままの状態のポリプロピレン系樹脂ペレットを用いたこと以外は実施例1と同様にポリプロピレン系改質樹脂を作製し、得られたポリプロピレン系改質樹脂の溶融張力の測定を行った。結果を、表2に示す。
【0043】
(比較例2)
ペレタイザーによって得られるリペレットの大きさを表2に示す平均粒子径となるようにしたこと以外は実施例1と同様にポリプロピレン系改質樹脂を作製し、得られたポリプロピレン系改質樹脂の溶融張力の測定を行った。結果を、表2に示す。
【0044】
(比較例3)
ジセチルパーオキシジカーボネートの量を、ポリプロピレン系樹脂粒子100質量部に対して0.2質量部としたこと以外は実施例1と同様にポリプロピレン系改質樹脂を作製し、得られたポリプロピレン系改質樹脂の溶融張力の測定を行った。結果を、表2に示す。
【0045】
(比較例4)
ジセチルパーオキシジカーボネート0.5質量部に代えてジクミルパーオキサイド0.3質量部としたこと以外は実施例1と同様にポリプロピレン系改質樹脂を作製し、得られたポリプロピレン系改質樹脂の溶融張力の測定を行った。結果を、表2に示す。
【0046】
(比較例5)
ジセチルパーオキシジカーボネートを加えなかったこと以外は実施例1と同様にポリプロピレン系樹脂ペレットを押出し機で押し出してポリプロピレン系樹脂ペレットを作製した。
得られたポリプロピレン系樹脂ペレットの溶融張力の測定を行った結果を表2に示す。
【0047】
(比較例6)
ポリプロピレン系樹脂ペレットをサンアロマー社製の商品名「PL500A」に代えて商品名「PM600A」(ホモポリプロピレン樹脂、MFR=7.5g/10min)としたこと以外は比較例5と同様にポリプロピレン系樹脂ペレットを作製した。
得られたポリプロピレン系樹脂ペレットの溶融張力の測定を行った結果を表2に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
この表からも、本発明によれば、高い溶融張力のポリプロピレン系改質樹脂が効率よく作製され得ることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂を主成分とする平均粒子径が0.1mm以上2.0mm以下の樹脂粒子とパーオキシジカーボネートとを、前記ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して前記パーオキシジカーボネートが0.5質量部以上3.0質量部以下となる割合で押出し機に供給して溶融混練し、前記ポリプロピレン系樹脂よりも高い溶融張力を有するポリプロピレン系改質樹脂を製造することを特徴とするポリプロピレン系改質樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記パーオキシジカーボネートが、ジセチルパーオキシジカーボネートである請求項1記載のポリプロピレン系改質樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記ポリプロピレン系樹脂のメルトマスフローレイトが0.2g/10min以上、15g/10min以下である請求項1又は2記載のポリプロピレン系改質樹脂の製造方法。
【請求項4】
ポリプロピレン系樹脂がパーオキシジカーボネートで架橋されて前記ポリプロピレン系樹脂よりも高い溶融張力となるように改質されたポリプロピレン系改質樹脂であって、
ポリプロピレン系樹脂を主成分とする平均粒子径が0.1mm以上2.0mm以下の樹脂粒子とパーオキシジカーボネートとが、前記ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して前記パーオキシジカーボネートが0.5質量部以上3.0質量部以下となる割合で押出し機に供給され、該押出し機で溶融混練されることによって前記改質されており、230℃において3cN以上の溶融張力を有していることを特徴とするポリプロピレン系改質樹脂。

【公開番号】特開2011−201957(P2011−201957A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68356(P2010−68356)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】