説明

ポリプロピレン系炭素繊維強化樹脂組成物

【課題】低比重で高剛性、高耐熱性、高流動性を満足させる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)ポリプロピレン(A成分)100重量部に対し、(B)アルキルフェノール樹脂(B成分)0.01〜20重量部、(C)ラジカル開始剤(C成分)0.01〜10重量部および(D)炭素繊維(D成分)1〜100重量部を含有するポリプロピレン系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリプロピレン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは、耐熱性、成形加工性、機械的性質、耐薬品性などに優れ、しかも安価であることから電気・電子部品、家庭電化製品、ハウジング、包装材料、自動車部品など工業的に幅広く用いられている。さらに近年、自動車軽量化の要望からポリプロピレンはバンパー、内外装部品など自動車用途にも幅広く用いられている。特に自動車バンパーには製品形状の点から、材料には剛性、耐熱性、流動性が要求され、タルクなどの無機フィラーによる複合化によって製品化される。しかし、このような無機フィラーによる複合化は、比重を増加させ軽量化とは相反する。そのため炭素繊維を複合化する技術も知られているが、炭素繊維はポリプロピレン樹脂マトリックスには分散しにくい為、様々な改良が検討されている。
【0003】
例えば、炭素繊維、ポリオレフィン系樹脂、酸変性ポリオレフィン系樹脂および炭素繊維が有する反応性官能基および酸変性ポリオレフィンが有する反応性官能基のそれぞれと反応しうる官能基を2個以上有する多官能性化合物からなる樹脂組成物は公知である(特許文献1参照)。また、炭素繊維、ポリオレフィン系樹脂および炭素繊維が有する反応性官能基と反応しうる官能基を1種以上有する変性ポリオレフィン系樹脂からなる樹脂組成物は公知である(特許文献2参照)。しかしながら、これらでは剛性は優れているものの耐熱性、流動性についての記載はない。ポリプロピレン、不飽和グリシジル化合物がグラフトされた変性ポリプロピレン、炭素繊維からなる樹脂組成物は公知である(特許文献3参照)。また、ポリプロピレン樹脂、炭素繊維および造核剤からなる樹脂組成物は公知である(特許文献4、5参照)。プロピレン・エチレン共重合体、エチレン系またはスチレン系エラストマーおよび炭素繊維からなる樹脂組成物は公知である(特許文献6参照)。しかしながら、これらに開示された組成物は剛性、耐熱性、流動性の評価はあるものの不十分であり、高剛性、高耐熱性、高流動性といえるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−213478号公報
【特許文献2】特開2005−213479号公報
【特許文献3】特開平6−41389号公報
【特許文献4】特開2006−225467号公報
【特許文献5】特開2006−225468号公報
【特許文献6】特開2005−194337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の如く、低比重で高剛性、高耐熱性、高流動性を満足させる樹脂組成物が求められているものの、かかる樹脂組成物を得るための手法は何ら開示されていないのが現状である。したがって、本発明は、かかる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の従来技術の問題点に鑑み、鋭意検討した結果、ポリプロピレン、アルキルフェノール樹脂、ラジカル開始剤及び炭素繊維を含むポリプロピレン系樹脂組成物が低比重で高剛性、高耐熱性、高流動性を得ることを見出し、更に検討を重ねた結果本発明に到達した。
【0007】
本発明によれば上記課題は、(1)(A)ポリプロピレン(A成分)100重量部に対し、(B)アルキルフェノール樹脂(B成分)0.01〜20重量部、(C)ラジカル開始剤(C成分)0.01〜10重量部、(D)炭素繊維(D成分)1〜100重量部を含有するポリプロピレン系樹脂組成物(構成1)により達成される。
本発明の好適な態様の1つは、(2)B成分がノボラック型フェノール樹脂およびレゾール型フェノール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種のフェノール樹脂であり、かつその融点または軟化点が20〜165℃である上記構成(1)のポリプロピレン系樹脂組成物(構成2)である。
本発明の好適な態様の1つは、(3)D成分がカーボンファイバーである上記構成(1)または(2)のポリプロピレン系樹脂組成物(構成3)である。
本発明の好適な態様の1つは、(4)C成分がジクミルパーオキサイドである上記構成(1)〜(3)のポリプロピレン系樹脂組成物である。
本発明の好適な態様の1つは、(5)上記構成(1)〜(4)のポリプロピレン系樹脂組成物から形成される電気・電子部品用成形品、自動車部品用成形品およびOA機器用成形品よりなる群より選択される成形品である。
【0008】
以下、本発明の詳細について説明する。
(A成分:ポリプロピレン)
本発明はA成分として、ポリプロピレンを含む。ポリプロピレンは、プロピレンの重合体であるが、本発明においては、他のモノマーとの共重合体も含む。本発明のポリプロピレンの例には、ホモポリプロピレン、プロピレンとエチレンおよび炭素数4〜10のαオレフィンとのブロック共重合体(「ブロックポリプロピレン」ともいう)、プロピレンとエチレンおよび炭素数4〜10のαオレフィンとのランダム共重合体(「ランダムポリプロピレン」ともいう)が含まれる。「ブロックポリプロピレン」と「ランダムポリプロピレン」を合わせて、「ポリプロピレン共重合体」ともいう。
【0009】
本発明においては、ポリプロピレンとして上記のホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレンの1種あるいは2種以上を使用してよい。中でも本発明のポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレンやブロックポリプロピレンが好ましい。
【0010】
ポリプロピレン共重合体に用いられる炭素数4〜10のαオレフィンの例には、1−ブテン、1−ペンテン、イソブチレン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、3−メチル−1−ヘキセンが含まれる。
【0011】
ポリプロピレン共重合体中のエチレンの含有量は、全モノマー中、5質量%以下であることが好ましい。ポリプロピレン共重合体中の炭素数4〜10のαオレフィンの含有量は、全モノマー中20質量%以下であることが好ましい。
【0012】
ポリプロピレン共重合体は、プロピレンとエチレンとの共重合体、またはプロピレンと1−ブテンとの共重合体であることが好ましく、特にプロピレンとエチレンとの共重合体が好ましい。
【0013】
本発明におけるポリプロピレンのメルトフローレシオ(230℃、2.16kg、10分間)は、0.05〜60gであることが好ましく、1〜30gであることがより好ましい。ポリプロピレンのメルトフローレシオが上記の範囲外であるとポリプロピレン系樹脂組成物の物性が不十分になることがある。メルトフローレシオは「MFR」とも呼ばれる。
【0014】
(B成分:アルキルフェノール樹脂)
本発明は、B成分としてアルキルフェノール樹脂を含む。アルキルフェノール樹脂とは、ノボラック型フェノール樹脂またはレゾール型フェノール樹脂であることが好ましい。
アルキルフェノール樹脂は、A成分のポリプロピレンと反応し、ポリプロピレンを変性する役割を担うと考えられる。この反応については後で詳しく述べる。
【0015】
本発明におけるノボラック型フェノール樹脂は、フェノール類(P)とアルデヒド類(F)を、酸触媒下で縮合させて得られる樹脂である。ノボラック型フェノール樹脂は、1)配合モル比(F/P)が0.5〜1.0となるような配合比率で反応容器に仕込み、2)触媒として塩酸、硫酸、燐酸、パラトルエンスルフォン酸、ベンゼンスルフォン酸、蓚酸、マレイン酸、蟻酸、酢酸などから選ばれた1種または2種以上を添加し、3)適当な時間還流反応を行った後、4)反応によって生成した縮合水を除去するため真空脱水あるいは常圧脱水し、5)さらに残っている水と未反応のフェノール類を除去する方法によって得られる。必要に応じて、3)工程の前に変性剤を添加して加熱する工程を加えてもよい。
【0016】
本発明におけるレゾール型フェノール樹脂は、フェノール類(P)とアルデヒド類(F)を、アルカリ触媒下で縮合して得られる樹脂をいう。レゾール型フェノール樹脂は、1)配合モル比(F/P)が1.0〜2.0となるような配合比率で反応容器に仕込み、2)さらに樹脂化触媒として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ類、アンモニア、トリエチルアミン等のアミン類の中から選ばれた1種または2種以上を添加し、3)適当な時間還流反応を行った後、4)反応によって生成した縮合水を除去するため真空脱水あるいは常圧脱水する方法によって得られる。必要に応じて、3)工程の前に変性剤を添加して加熱する工程を加えてもよい。
【0017】
フェノール樹脂の原料となるフェノール類の例には、フェノール、オルソクレゾール、メタクレゾール、パラクレゾール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、カテコール、レゾルシン、ハイドロキノン、プロピルフェノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノールが含まれる。これらは、単独で用いてもよく、または2種以上を用いてよい。
【0018】
フェノール樹脂の原料となるアルデヒド類の例には、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒドが含まれる。これらは、単独で用いてもよく、または2種以上を用いてよい。また、変性剤として、アルキルベンゼン(キシレン系樹脂)、カシューオイル、ロジンなどのテルペン類およびホウ酸を用いてよい。
【0019】
本発明においては、B成分として、ノボラック型フェノール樹脂を単独で用いてもよく、または異なる種類のノボラック型フェノール樹脂を二種類以上用いてもよい。あるいは、B成分として、レゾール型フェノール樹脂を単独で用いてもよく、または異なる種類のレゾール型フェノール樹脂を二種類以上用いてもよい。さらに、B成分として、ノボラック型フェノール樹脂とレゾール型フェノール樹脂を併用してもよい。
【0020】
本発明のアルキルフェノール樹脂は、融点または軟化点が20〜165℃であることが好ましく、40〜130℃であることがさらに好ましい。融点はDSC等により、軟化点は環球法等の周知の方法で求めてよい。本発明のアルキルフェノール樹脂が、結晶性である場合には融点を、非晶性である場合には軟化点を測定することが好ましい。
【0021】
本発明で使用するアルキルフェノール樹脂は、熱を加えると硬化する、熱硬化タイプのアルキルフェノール樹脂が好ましい。
アルキルフェノール樹脂のうち、(A)ポリプロピレンと反応できなかったものは、組成物中に残留することになる。アルキルフェノール樹脂は比較的低分子量であるため、組成物の耐熱性等を低下させることがある。しかし、アルキルフェノール樹脂が、自硬化性のアルキルフェノール樹脂であると、自己硬化により分子量が向上するため、組成物中に低分子の物質が残留することを低減させることができる。
【0022】
(C成分:ラジカル開始剤)
本発明はC成分としてラジカル開始剤を含む。本発明で使用するラジカル開始剤は、公知のものが用いられるが、A成分とB成分間の反応を起こさせるものが好ましい。A成分とB成分を反応させる方法は特に限定されず、A成分およびB成分を溶媒中で加熱して反応させてもよいし、A成分およびB成分を溶融混練して反応させてもよい。本発明においては、A成分およびB成分を溶融混練させることが好ましいので、C成分は、これらの溶融混練時の温度において分解し、ラジカルを発生させるものが好ましい。このため、ラジカル開始剤としては、半減期が1分となるための温度が、130〜270℃であるラジカル開始剤が好ましい。
【0023】
ラジカル開始剤がA成分とB成分を反応させるメカニズムは明らかではないが、ラジカル開始剤が分解されて生じたラジカルが、(A)ポリプロピレンの側鎖のメチル基、あるいは主鎖のメチレン基またはメチン基の水素原子を引き抜き、ポリプロピレン上に炭素ラジカルを発生させ、この炭素ラジカルが、(B)アルキルフェノール樹脂のベンゼン環を攻撃すると推察される。その結果、A成分にB成分が結合したポリマーが生成されると考えられる。ただし、メカニズムはこれに限定されない。
【0024】
本発明におけるC成分のラジカル開始剤の例には、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類;n−ブチル4,4ービス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール類;t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジ−i−プロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類;ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキセン−3等のジアルキルパーオキサイド類;t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパ−オキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルジパーオキシイソフタレート等のパーオキシエステル類;2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシi−プロピルカーボネート等のパーオキシエステル類が含まれる。この中でも、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。
【0025】
(D成分:炭素繊維)
本発明の炭素繊維としては、例えば金属コートカーボンファイバー、カーボンミルドファイバー、気相成長カーボンファイバー等のカーボンファイバー、およびカーボンナノチューブ等が挙げられる。カーボンナノチューブは繊維径0.003〜0.1μmであることが好ましい。またそれらは単層、2層、および多層のいずれであってもよく、多層(いわゆるMWCNT)が好ましい。これらの中でも機械的強度に優れる点、並びに良好な導電性を付与できる点において、カーボンファイバー、特に金属コートカーボンファイバーが好ましい。尚、良好な導電性は近年のデジタル精密機器(例えばデジタルスチルカメラに代表される)において、樹脂材料に求められる重要な特性の1つになっている。
【0026】
カーボンファイバーとしては、セルロース系、ポリアクリロニトリル系、およびピッチ系などのいずれも使用可能である。また芳香族スルホン酸類またはそれらの塩のメチレン型結合による重合体と溶媒よりなる原料組成を紡糸または成形し、次いで炭化するなどの方法に代表される不融化工程を経ない紡糸を行う方法により得られたものも使用可能である。更に汎用タイプ、中弾性率タイプ、および高弾性率タイプのいずれも使用可能である。これらの中でも特にポリアクリロニトリル系の高弾性率タイプが好ましい。
【0027】
また、カーボンファイバーの平均繊維径は特に限定されないが、3〜15μmが好ましく、より好ましくは5〜13μmである。かかる範囲の平均繊維径を持つカーボンファイバーは、成形品外観を損なうことなく良好な機械的強度および疲労特性を発現することができる。また、カーボンファイバーの好ましい繊維長は、樹脂組成物中における数平均繊維長として60〜500μmが好ましく、より好ましくは80〜400μm、特に好ましくは100〜300μmのものである。尚、かかる数平均繊維長は、成形品の高温灰化、溶剤による溶解、および薬品による分解等の処理で採取されるカーボンファイバーの残さから光学顕微鏡観察などから画像解析装置により算出される値である。また、かかる値の算出に際しては繊維長以下の長さのものはカウントしない方法による値である。
【0028】
さらにカーボンファイバーの表面はマトリックス樹脂との密着性を高め、機械的強度を向上する目的で酸化処理されることが好ましい。酸化処理方法は特に限定されないが、例えば、(1)繊維状炭素充填材を酸もしくはアルカリまたはそれらの塩、あるいは酸化性気体により処理する方法、(2)繊維状炭素充填材化可能な繊維または繊維状炭素充填材を、含酸素化合物を含む不活性ガスの存在下、700℃以上の温度で焼成する方法、および(3)繊維状炭素充填材を酸化処理した後、不活性ガスの存在下で熱処理する方法などが好適に例示される。
【0029】
金属コートカーボンファイバーは、カーボンファイバーの表面に金属層をコートしたものである。金属としては、銀、銅、ニッケル、およびアルミニウムなどが挙げられ、ニッケルが金属層の耐腐食性の点から好ましい。金属コートの方法としては、先にガラス充填材における異種材料による表面被覆で述べた各種の方法が採用できる。中でもメッキ法が好適に利用される。また、かかる金属コートカーボンファイバーの場合も、元となるカーボンファイバーとしては上記のカーボンファイバーとして挙げたものが使用可能である。金属被覆層の厚みは好ましくは0.1〜1μm、より好ましくは0.15〜0.5μmである。更に好ましくは0.2〜0.35μmである。
【0030】
かかるカーボンファイバー、金属コートカーボンファイバーは、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、およびウレタン系樹脂等で集束処理されたものが好ましい。特にウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂で処理された繊維状炭素充填材は、機械的強度に優れることから本発明において好適である。
【0031】
(各成分の含有量について)
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物において、B成分の含有量は、A成分100重量部に対して、0.01〜20重量部、好ましくは0.05〜10重量部、更に好ましくは0.1〜5重量部である。B成分が0.01重量部未満であると剛性、耐熱性が不十分であり、また20重量部より多いと流動性が低下し不適である。
【0032】
C成分の含有量は、A成分100重量部に対して、0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜9重量部、更に好ましくは0.1〜8重量部である。C成分が0.01重量部未満であると流動性が不十分であり、また10重量部より多いと剛性、耐熱性が著しく低下し不適である。
【0033】
D成分の含有量は、A成分100重量部に対して、1〜100重量部、好ましくは2〜90重量部、更に好ましくは3〜80重量部である。D成分が1重量部未満であると剛性、耐熱性が不十分であり、また100重量部より多いと流動性の低下が著しく不適である。
【0034】
(その他の添加剤について)
本発明の組成物は必要に応じてさらに、D成分以外の無機充填剤、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、無機または有機系着色剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、フッ素樹脂などの離型改良剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0035】
(ポリプロピレン系樹脂組成物の製造)
本発明の組成物は、各成分を配合して得られる。配合の例には、溶融含浸することや、溶融混練すること、溶媒中で各種成分を混合することが含まれる。溶融含浸とは、連続した炭素繊維束を溶融した炭素繊維以外の樹脂組成物に含浸させる方法で、長繊維強化熱可塑性プラスチック(LFT、Long Fiber Reinforced Thermoplastics)を得ることができる。本発明の組成物は、発明の効果を損なわない範囲で任意に製造してよいが、利便性から二軸押し出し機を用いて溶融混練して製造されることが好ましい。以下、その製造方法について説明する。
【0036】
本発明の組成物は、
1)各種成分を供給機を用い二軸押出し機に供給する工程、
2)二軸押出し機のシリンダーおよびダイ設定温度130〜290℃に設定して、前記二軸押出し機内を真空脱気装置で真空脱気しながら溶融混練する工程、を経て製造されることが好ましい。
【0037】
1)の工程においては、各成分は予めタンブラーもしくはヘンシェルミキサーのような装置で各成分を均一に混合してもよいし、必要な場合には混合を省き、供給機に供給される。供給機とは、一定量の原料を、二軸押出し機(以下「混練装置」という)に供給しうる装置であり、混練装置に装備される。供給機の例には、定量フィーダー、一軸押出し機、または混練装置とは異なる二軸押出し機が含まれる。
【0038】
2)の工程の溶融混練においては、混練装置のシリンダーおよびダイの設定温度は130〜290℃とすることが好ましく、170〜260℃とすることがより好ましい。また、溶融混練の時間は、各成分の配合割合、溶融混練温度等により異なり一概には限定されるものではないが、1〜30分程度とすることが好ましい。本工程における混練装置は、高混練の二軸押出し機であることが好ましい。
【0039】
混練は、総ての成分を、一カ所に設けられた供給機から、混練装置に供給して行ってよいが、まずA成分、B成分およびC成分を混練装置で混練し、一次ペレットを得て、その後、一次ペレットとD成分を混練装置に供給して、二段階で混練して本発明の組成物のペレットを得てもよい。
また、混練装置の上流側と下流側に供給機を配置し、上流側の供給機にA成分、B成分およびC成分を供給し、下流側の供給機へD成分を供給して混練を行ってもよい。
【0040】
本工程の溶融混練時においては、混練装置に真空脱気装置を設置し、真空脱気を行いながら溶融混練する方法が好ましい。既に述べたとおり、各成分を溶融混練することで、C成分のラジカル発生作用により、A成分とB成分が反応したポリマーが生成される。この際、真空脱気により、混練装置内での揮発成分、未反応成分などを除去すると、組成物の物性を一層向上させられる。特に、B成分のうち、A成分と反応しなかったものは、組成物中に比較的低分子量の物質として残留することがある。低分子量の物質が、組成物中に残留すると、組成物の耐熱性の低下等を招くことがある。よって、真空脱気により、混練装置内での揮発成分、未反応成分などを除去する方法は有効である。
【0041】
(本発明の樹脂組成物からなる成形品について)
本発明における樹脂組成物は、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、中空成形、回転成形、トランスファー成形、熱プレス成形、チューブ成形等の周知の加工方法により、射出成形体、押し出し成形体、ブロー成形体、中空成形体、回転成形体、トランスファー成形体、プレス成形体、チューブ成形体等に成形することができる。
【0042】
また、上記本発明の樹脂組成物を、例えば、Tダイから溶融樹脂を押出し巻き取るTダイ法、環状ダイスを設置した押出し機から溶融樹脂を円筒状に押出し、冷却し巻き取るインフレーション成膜法、あるいは、熱プレス法や溶媒キャスト法により、フィルムまたはシートとして成形品を得ることもできる。
【0043】
本発明の組成物は、剛性、耐熱性に優れ、しかも軽量で安価である。そのため、本発明の組成物は、電気・電子機器部品、家電部品、または自動車内外装部品として好適である。自動車内外装部品の例には、自動車外板、ドア、ドアトリム、クォータートリム、バンパー、インスツルメンツパネル、フロントエンドモジュール、エアバッグ周辺部品、コックピット、ファンシュラウド、ラジエータークーリングファン、リザーブタンク、自動車用ホイールカバー、カウジング、ウインドウオッシャー液タンク、スポイラー、インスツルメントパネル、ボンネット、燃料ポンプハウジング、エアクリーナー、スロットボディ、インテークマニフィールド、ヒーターハウジング、ボンネット、ピラー、安全ベルト部品などの自動車部品が含まれる。中でも、自動車外板、ドア、バンパー、自動車用ホイールカバー、ドア、ドアトリム、ピラー、インスツルメンツパネル、エアバッグ周辺部品が、特に好ましい。その他にも、本発明の組成物は、電気・電子部品、家電部品、包装材、建築用内装材、コンテナ、フィルム、シート、ボトル、ハウジング、機械部品などへ幅広く適用することができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレン本来の特性を損なわず、低比重で剛性、耐熱性、流動性などに優れる。よって本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、自動車用途、その他の各種分野において幅広く有用である。従って本発明の奏する産業上の効果は極めて大である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明者が現在最良と考える発明の形態は、上記の各要件の好ましい範囲を集約したものとなるが、例えば、その代表例を下記の実施例中に記載する。もちろん本発明はこれらの形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を挙げてさらに説明する。なお、評価は下記の方法によって実施した。
(i)流動性(MFR)
ISO1133に準拠して230℃、2.16kg荷重にてMFR(g/10min)を測定した。試験には、ペレットを100℃で5時間乾燥させたものを使用した。
(ii)剛性(曲げ弾性率、曲げ強さ)
ISO178に準拠して曲げ弾性率(MPa)および曲げ強さ(MPa)を測定した。測定には長さ80mm×幅10mm×厚み4mmの試験片を用いた。
(iii)耐熱性(荷重たわみ温度)
ISO75に準拠して0.45MPa荷重にて荷重たわみ温度(℃)を測定した。測定には長さ80mm×幅10mm×厚み4mmの試験片を用いた。
【0047】
[実施例1〜11、比較例1〜7]
ポリプロピレン、アルキルフェノール樹脂、ラジカル開始剤を表1および表2記載の各配合量で、ブレンダーにて混合した後、ベント式二軸押出機を用いて溶融混練してペレットを得た。ベント式二軸押出機は(株)日本製鋼所製:TEX−30XSST(完全かみ合い、同方向回転、2条ネジスクリュー)を使用した。押出条件は吐出量18kg/h、スクリュー回転数200rpm、ベントの真空度3kPaであり、また押出温度は第一供給口から第二供給口まで180℃、第二供給口からダイス部分まで200℃とした。なお、炭素繊維は上記押出機のサイドフィーダーを使用し第二供給口から押出機に供給した。ここでいう第一供給口とはダイスから最も離れた供給口であり、第二供給口とは押出機のダイスと第一供給口の間に位置する供給口である。得られたペレットを100℃で5時間、熱風循環式乾燥機にて乾燥した後、射出成形機を用いて評価用の試験片を成形した。射出成形機は日精樹脂工業(株)製:NP7型RealMiniを使用し、成形条件は、シリンダー温度200℃、金型温度50℃とした。各評価結果を表1〜表2に示した。
【0048】
表1〜表2中記号表記の各成分は下記の通りである。
(A成分)
A−1: ホモポリプロピレン[住友化学(株)製ノーブレンH501、MFR(230℃、2.16kg荷重)=3g/10min、比重0.9]
A−2:ブロックポリプロピレン[住友化学(株)製ノーブレンAH561、MFR(230℃、2.16kg荷重)=3g/10min、比重0.9]
(B成分)
B−1:アルキルフェノール樹脂[荒川化学工業(株)製タマノル1010R、レゾール型、軟化点(環球法)87.5℃]
B−2:アルキルフェノール樹脂[荒川化学工業(株)製タマノル510、ノボラック型、軟化点(環球法)77.5℃]
(C成分)
C−1:ジクミルパーオキサイド[日本油脂(株)製パークミルD 1min分解温度(半減期が1分となる温度)175℃]
C−2:ジ−t−ブチルパーオキサイド[日本油脂(株)製パーブチルD 1min分解温度(半減期が1分となる温度)186℃]
(D成分)
CF:炭素繊維[東邦テナックス(株)製HTA−C6−U、PAN系、ウレタン集束、径7μm]
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
実施例1〜11と比較例1〜7からポリプロピレンとアルキルフェノール樹脂、ラジカル開始剤、炭素繊維を含むポリプロピレン系樹脂組成物が、剛性、耐熱性、流動性に優れることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリプロピレン(A成分)100重量部に対し、(B)アルキルフェノール樹脂(B成分)0.01〜20重量部、(C)ラジカル開始剤(C成分)0.01〜10重量部および(D)炭素繊維(D成分)1〜100重量部を含有するポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
B成分がノボラック型フェノール樹脂およびレゾール型フェノール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種のフェノール樹脂であり、かつその融点または軟化点が20〜165℃である請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
D成分がカーボンファイバーである請求項1または2に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
C成分がジクミルパーオキサイドである請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリプロピレン系樹脂組成物から形成された電気・電子部品用成形品、自動車部品用成形品およびOA機器用成形品よりなる群より選択される成形品。

【公開番号】特開2011−178914(P2011−178914A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45282(P2010−45282)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】