説明

ポリペプチドを含む多層皮膜、コーティング、およびマイクロカプセル

本明細書において、隣接する層が反対荷電の高分子電解質を含む、高分子電解質の2つ以上の層を含む多層皮膜を開示する。第一の層の高分子電解質は、1つのポリペプチド鎖を形成する1つまたは複数の機能的領域に共有結合的に連結した1つまたは複数の表面吸着領域を含む複合ポリペプチドを含む。表面吸着領域は、アミノ酸残基5〜15個からなる1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフを含む。1つまたは複数の機能的領域はアミノ酸残基3個〜約250個を含む。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、静電気的1層毎自己アセンブリ(electrostatic layer-by-layer self assembly「ELBL」)による、適した表面上での非常に薄い多層皮膜の製作に関する。より具体的には、本発明は、生物医学および他の領域に適用するためのELBLによる薄膜、コーティング、およびマイクロカプセルのナノファブリケーションのためのポリペプチドを設計するための方法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に組み入れられる、2003年8月29日に提出された米国特許非仮出願第10/652,364号の一部継続出願であり、同様に2005年10月25日に提出された米国特許第60/729,828号の恩典を主張する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
ELBLは、反対荷電の高分子電解質の吸着を交互にすることによって超薄膜を組み立てる確立された技術である。プロセスは、各層の沈着後に皮膜の表面電荷を逆転させることに基づく。図1は、一般的なELBLプロセスの略図を示す:反対荷電のポリイオン(陽イオン性ポリイオン10および陰イオン性ポリイオン11)の皮膜を、陰性荷電表面12の連続層において組み立てて;各層の沈着後に表面の電荷を逆転させる。所望の厚さの皮膜が形成されるまで、このプロセスを繰り返す。会合の物理的基礎は静電気力、および対イオンの溶液中への放出の際のエントロピーの増加であり、重力および核力は有効な役割を果たしていない。プロセスが一般的で比較的単純であることから、ELBLによって異なる多くのタイプの表面に異なる多くのタイプの材料を沈着させることが可能となる。したがって、おそらく有用である膨大な数の材料と表面の組み合わせが存在する。その歴史を含むELBLに関する一般的な考察に関しては、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、Yuri Lvov, "Electrostatic Layer-by-Layer Assembly of Proteins and Polyions" in Protein Architecture: Interfacial Molecular Assembly and Immobilization Biotechnology, Y. Lvov & H. Mohwald eds. (New York: Marcel Dekker, 1999), pp.125-167(非特許文献1)を参照されたい。
【0004】
ELBLは、実質的に厚さ1ミクロン未満の皮膜を製作するために用いることができることから、最近、ナノ技術分野において関心が集まる領域となっている。その上、ELBLは皮膜製作プロセスに対して例外的な制御を許容して、これによってナノスケールの材料を用いることが可能となり、ナノスケールの構造的改変を行うことができる。それぞれの層は、用いる材料のタイプおよび特異的吸着プロセスに応じて、数ナノメートルまたはそれ未満の次数の厚さを有することから、正確に反復可能な厚さの多層アセンブリを形成することができる。
【0005】
ポリ(スルホン酸スチレン)ナトリウム(「PSS」)、ポリ(塩酸アリルアミン)(「PAH」)、ポリ(塩化ジアリルジメチルアンモニウム)(「PDDA」)、ポリ(アクリルアミド-コ-塩化ジアリルジメチルアンモニウム)、ポリ(エチレンイミン)(「PEI」)、ポリ(アクリル酸)(「PAA」)、ポリ(アネトールスルホン酸)、ポリ(硫酸ビニル)(「PVS」)、およびポリ(ビニルスルホン酸)を含む、多数の合成高分子電解質がELBL応用において用いられている。しかし、そのような材料は、抗原性または毒性であることから、生物医学応用にとって一般的に有用ではない。
【0006】
イオン化可能な基を有する側鎖を有する重合体であるタンパク質は、生物医学応用を含む様々な応用のためにELBLにおいて用いることができる。ELBLにおいて用いられているタンパク質の例には、チトクロームc、卵白ライソザイム、免疫グロブリンG、ミオグロビン、ヘモグロビン、および血清アルブミンが含まれる(同書(ibid.))。しかし、この目的のためにタンパク質を用いることは難しい。これらには、多層構造に対する制御が限られること(タンパク質の表面は非常に不規則であって、タンパク質は通常、規則的なパターンで表面上に吸着することはない)、タンパク質溶解度および構造的安定性のpH依存性によるpHの制限、外因性のタンパク質を用いる場合の生体適合性の欠如、および遺伝子がクローニングされていない場合の産生規模を拡大するための費用が含まれる;タンパク質が容易に入手可能な起源、たとえばウシにおいて同一とならない限り、タンパク質は、使用を意図される生物から得なければならず、タンパク質の規模拡大産生の費用は非常に高くなるであろう。
【0007】
対照的に、タンパク質より一般的に小さく複雑でないポリペプチドは、ELBLアセンブリのための優れたクラスの材料となり、ELBLによって形成されたポリペプチドの皮膜構造は広範囲の応用において有用となるであろう。本発明は、ELBLによる薄膜、コーティング、およびマイクロカプセルのナノファブリケーションのためにポリペプチドを設計するための方法を提供する。本発明の方法を用いて設計されたポリペプチドは、完全に決定された一次構造、水溶液における最小の二次構造、単分散性、単位長さあたりの完全に制御された正味電荷、必要に応じて架橋を形成できること、架橋形成を逆転できること、タンパク質について可能である場合より組織化された薄膜を形成できること、および比較的安価な大規模産生費用(大腸菌もしくは酵母における遺伝子設計、合成、クローニング、および宿主発現、またはペプチド合成を仮定する)が含まれるがこれらに限定されるわけではないいくつかの有用な特性を示すはずである。
【0008】
本発明の方法を用いて設計されるポリペプチドは、生物医学技術、食品技術、および環境技術における標的化応用または可能な応用を有する薄膜構造のELBLに関して有用であることが示されている。そのようなポリペプチドは、たとえば人工赤血球、薬物送達装置、および抗菌皮膜を製作するために用いることができるであろう。
【0009】
【非特許文献1】Yuri Lvov, "Electrostatic Layer-by-Layer Assembly of Proteins and Polyions" in Protein Architecture: Interfacial Molecular Assembly and Immobilization Biotechnology, Y. Lvov & H. Mohwald eds. (New York: Marcel Dekker, 1999), pp.125-167
【発明の開示】
【0010】
発明の簡単な概要
本明細書においては、隣接する層が反対荷電の高分子電解質を含む、高分子電解質の2つ以上の層を含む多層皮膜を開示する。第一層の高分子電解質は、単一のポリペプチド鎖を形成する1つまたは複数の機能的領域に共有結合的に連結した1つまたは複数の表面吸着領域を含む複合ポリペプチドを含み、複合ポリペプチドおよび1つまたは複数の表面吸着領域は同じ極性を有する。表面吸着領域は、1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフを含み、1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフは、アミノ酸残基5〜15個からなり、0.4より大きいまたはそれに等しい残基あたりの正味電荷量を有する。1つまたは複数の機能的領域はアミノ酸残基3〜約250個を含む。複合ポリペプチドは、同種重合体ではなく、長さがアミノ酸少なくとも15個であり、かつpH 4〜10で50μg/mLより大きい水溶性を有する。さらに、第二層は第二層高分子電解質を含み、第二層高分子電解質には、1,000より大きい分子量を有し、1分子あたり少なくとも電荷5個を有し、かつ第一層ポリペプチドの電荷と反対の電荷を有するポリカチオン材料またはポリアニオン材料が含まれる。
【0011】
隣接する層が反対荷電の高分子電解質を含む、第一層と第二層とを含む多層皮膜を製造する方法は、複合ポリペプチドと1つまたは複数の表面吸着領域とが同じ極性を有する、1つまたは複数の表面吸着領域と1つまたは複数の機能的領域とを共有結合的に連結させて、複合ポリペプチドを形成する段階、および複合ポリペプチドを基体または第二層に沈着させて、第一層を形成する段階を含む。沈着させる段階が、複合ポリペプチドを基体上に沈着させる段階を含む場合、方法は、第一層の上に第二層の高分子電解質を沈着させる段階をさらに含む。
【0012】
本発明はまた、ELBLにおいて用いるためにアミノ酸配列情報において中性pHで既定の長さおよび正味電荷を有する「配列モチーフ」を同定するための、および所望のモチーフ数を記録するための新規方法を提供する。方法は以下の段階を含む:(a)特定の生物からペプチドまたはタンパク質のアミノ酸配列を得る段階;(b)アミノ酸配列におけるスターターアミノ酸の位置を特定する段階;(c)スターターアミノ酸および続くn個のアミノ酸を調べて、特定の極性と反対の極性を有する荷電アミノ酸の数を決定する段階;(d)特定の極性と反対の極性を有する荷電アミノ酸の数が1個またはそれより多い場合、段階gの方法を継続する段階;(e)スターターアミノ酸および続くn個のアミノ酸を調べて特定の極性を有する荷電アミノ酸の数を決定する段階;(f)特定の極性を有する荷電アミノ酸の数がxに等しいかまたはそれより多い場合、スターターアミノ酸および続くn個のアミノ酸からなるアミノ酸モチーフを記録する段階;(g)アミノ酸配列におけるもう1つのスターターアミノ酸の位置を特定する段階;ならびに(h)所望の数のアミノ酸配列モチーフが同定されるまで、またはアミノ酸配列における全てのアミノ酸が段階cにおけるスターターアミノ酸として用いられるまで、段階cから始めて方法を繰り返す段階、この場合xはnの約2分の1より大きいかまたはそれに等しい。
【0013】
本発明はまた、以下の段階を含む、ELBLにおいて用いるためのポリペプチドを設計するための新規方法を提供する:(a)先の段落において言及した段階を用いて特定の極性の正味電荷を有する1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフを同定して記録する段階;および(b)該記録された複数のアミノ酸配列モチーフを連結させて、ポリペプチドを形成する段階。
【0014】
本発明はまた、以下の段階を含む、ELBLにおいて用いるためのポリペプチドを設計するための新規方法を提供する:(a)アミノ酸n個からなる複数のアミノ酸配列モチーフをデノボで設計する段階であって、そのうちの少なくともx個は陽性荷電であって、陰性荷電はなく、またはそのうちの少なくともx個が陰性荷電であって、陽性荷電はなく、xがnの約2分の1より大きいかまたはそれに等しい、段階;および(b)該複数のアミノ酸配列モチーフを連結させる段階。アミノ酸配列モチーフは、20個の通常アミノ酸を含んでもまたは非天然アミノ酸を含んでもよく、アミノ酸は左手(L-アミノ酸)または右手(D-アミノ酸)のいずれかとなりうる。
【0015】
本発明はまた、交互の電荷を有する多数のポリペプチド層を含む、薄膜であって、ポリペプチドがアミノ酸n個からなる少なくとも1つのアミノ酸配列モチーフを含み、その少なくともx個が陽性荷電でって、陰性荷電はなく、またはそのうちの少なくともx個が陰性荷電であって、陽性荷電はなく、xがnの約2分の1より大きいまたはそれに等しい、薄膜を提供する。これらのポリペプチドにおけるモチーフは先に記述した方法のいずれかを用いて選択してもよい。
【0016】
本発明はまた、ポリペプチドELBL皮膜の層を「ロック」および「ロック解除」するために、システインおよび他のスルフヒドリル含有アミノ酸型を用いるための新規プロセスを提供する。このプロセスは、pH極値でも皮膜を安定にすることができ、設計されたポリペプチドからナノファブリケーションにより製作した(nanofabricated)皮膜の力学的安定性および拡散特性に対してより大きい制御を与え、広範囲の応用におけるその有用性を増加させる。
【0017】
発明の詳細な説明
用語の説明
後に続く記述において便宜上、以下の用語の説明を採用する。しかし、これらの説明は例示的に過ぎないと意図される。それらは、本明細書を通して記述または参照される用語を制限すると意図されない。むしろ、これらの説明は、本明細書において記述および請求される用語の任意のさらなる局面および/または例を含めることを意味する。
【0018】
本明細書において用いられるように、「層」とは、吸着段階の後の、たとえば皮膜形成のための鋳型上での皮膜の厚さの増加を意味する。「多層」とは、多数(すなわち2つ以上)の厚さの増加を意味する。「高分子電解質多層皮膜」は、高分子電解質の1つまたは複数の厚さの増加を含む皮膜である。吸着後、多層皮膜の層は、個別の層として残っていなくてもよい。実際に、特に厚さが増加した界面で、種の有意な混合が存在することが起こりうる。
【0019】
本明細書において用いられるように、「生体適合性」とは、摂取時、皮膚との接触時、または血流への導入時に健康への有害作用を引き起こさないことを意味する。
【0020】
本明細書において用いられるように、「免疫応答」とは、血流における物質の存在に対するヒト免疫系の反応を意味する。免疫応答は、多くの方法、たとえば特定の抗原を認識する抗体数の血流での増加を特徴とすることができる。(抗体は、免疫応答によって作製されるタンパク質であり、抗原は免疫応答を生成する実体である)。ヒトの体は、感染と戦い、血流における抗体数を増加させることによって再感染を阻害する。特異的免疫応答は個体にいくぶん依存するが、全般的応答パターンは標準である。
【0021】
本明細書において用いられるように、「エピトープ」とは、抗体によって認識されるタンパク質の構造を意味する。通常、エピトープはタンパク質の表面上に存在すると考えられる。「連続エピトープ」は、一列に並んだいくつかのアミノ酸を含むエピトープであり、折りたたまれたタンパク質において偶然に接触したアミノ酸残基を含むエピトープではない。
【0022】
本明細書において用いられるように、「配列モチーフ」および「モチーフ」とは、本発明の方法を用いて同定された所定の残基数の隣接アミノ酸配列を意味する。好ましい態様において、残基数は7である。
【0023】
本明細書において用いられるように、「アミノ酸配列」および「配列」とは、長さが少なくとも2アミノ酸残基である任意の長さのポリペプチド鎖を意味する。
【0024】
本明細書において用いられるように、「残基」とは、重合体におけるアミノ酸を意味する;これはアミノ酸単量体の残基であり、そこから重合体が形成される。ポリペプチド合成は、脱水、すなわちポリペプチド鎖にアミノ酸を付加した際に水1分子が「失われる」ことを伴う。
【0025】
本明細書において用いられるように、「設計されたポリペプチド」とは、本発明の方法を用いて設計されたポリペプチドを意味し、「ペプチド」および「ポリペプチド」という用語は互換的に用いられる。
【0026】
本明細書において用いられるように、「一次構造」とは、ポリペプチド鎖におけるアミノ酸の直線的配列を意味し、「二次構造」とは、非共有結合的相互作用、通常水素結合によって安定化される、多少規則的なタイプの構造を意味し、例にはα-へリックス、β-シート、およびβ-ターンが含まれる。
【0027】
本明細書において用いられるように、「アミノ酸」は、通常の天然に存在するL-α-アミノ酸20個に限定されない;この用語はまた、文脈が許容するように、他のL-アミノ酸、D-アミノ酸、および他の非天然アミノ酸を指す。
【0028】
本明細書において用いられるように、「非天然アミノ酸」とは、天然に存在する20個以外のアミノ酸を意味する。
【0029】
「ペプトイド」またはN-置換グリシンは、対応するアミノ酸と同じ側鎖を有するが、残基のα-炭素よりむしろアミノ基の窒素原子に付属する側鎖を有する、対応するアミノ酸単量体の類似体を意味する。その結果、ポリペプトイドにおける単量体間の化学連結はペプチド結合とはならず、これはタンパク質分解消化を制限するために有用となりうる。
【0030】
「基体」とは水溶液からの高分子電解質の吸着に適した表面を有する固体材料を意味する。基体の表面は、本質的にいかなる形状を有してもよく、たとえば平面、球状、杆状を有しうる。基体表面は規則的または不規則的となりうる。基体は結晶となりうる。基体はナノスケールからマクロスケールまでの大きさの範囲である。その上、基体は任意でコロイド粒子の集合体を含む。基体は、有機材料、無機材料、生物活性材料、またはその組み合わせで作製されうる。基体の非制限的な例は、シリコンウェーハ;荷電コロイド粒子、たとえばCaCO3またはメラミンホルムアルデヒドの微粒子;赤血球、肝細胞、細菌細胞、または酵母細胞のような生体細胞;有機重合体格子、たとえばポリスチレンまたはスチレン共重合体格子;リポソーム;オルガネラ;およびウイルスである。1つの態様において、基体は人工ペースメーカー、蝸牛インプラント、またはステントのような医療装置である。
【0031】
基体が崩壊する、またはそうでなければ皮膜形成時もしくは形成後に除去される場合、これは「鋳型」(皮膜形成のための)と呼ばれる。鋳型粒子は適当な溶媒に溶解させるか、または熱処置によって除去することができる。たとえば、部分的に架橋したメラミン-ホルムアルデヒド鋳型粒子を用いる場合、鋳型は軽度の化学的方法によって、たとえばジメチルスルホキシド(DMSO)において、またはpH値の変化によって崩壊させることができる。鋳型粒子の溶解後、交互の高分子電解質層で構成される中空の多層外皮が残る。
【0032】
「マイクロカプセル」は、コアを取り囲む中空の外皮またはコーティングの形の高分子電解質皮膜である。コアは、多様な異なるカプセル材料、たとえばタンパク質、薬物、またはその組み合わせを含む。
【0033】
「生物活性分子」とは、生物学的効果を有する、分子、高分子、または高分子アセンブリを意味する。特異的生物学的効果は、生物学的効果を測定して、生物活性分子の単位重量あたりまたは分子あたりに標準化する適したアッセイにおいて測定することができる。生物活性分子は、ポリペプチド皮膜の中に封入される、またはその後に保持されうる。生物活性分子の非制限的な例は、タンパク質、タンパク質の機能的断片、タンパク質の複合体、オリゴペプチド、オリゴヌクレオチド、核酸、リボソーム、活性治療物質、リン脂質、多糖である。本明細書において用いられるように、「生物活性分子」はさらに、たとえば機能的膜断片、膜構造、ウイルス、病原体、細胞、細胞の凝集体、およびオルガネラのような生物学的活性構造を含む。ポリペプチド皮膜に封入または保持されうるタンパク質の例は、ヘモグロビン;たとえばグルコースオキシダーゼ、ウレアーゼ、ライソザイム等のような酵素;たとえばフィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、およびコラーゲンのような細胞外マトリクスタンパク質;ならびに抗体である。ポリペプチド皮膜に封入または保持されうる細胞の例は、移植された島細胞、真核細胞、細菌細胞、植物細胞、および酵母である。
【0034】
本明細書において用いられるように、可溶性ポリペプチドは、pH 7.0の水溶液において50μg/mLより大きい溶解度を有する。もう1つの態様において、可溶性ポリペプチドは、pH 7.0で約1 mg/mLより大きいかまたはそれに等しい水溶性を有する。
【0035】
本明細書において通常アミノ酸20個に関して、以下の三文字略語を用いる。
Ala=アラニン Cys=システイン Asp=アスパラギン酸
Glu=グルタミン酸 Phe=フェニルアラニン Gly=グリシン
His=ヒスチジン Ile=イソロイシン Lys=リジン
Leu=ロイシン Met=メチオニン Asn=アスパラギン
Pro=プロリン Gln=グルタミン Arg=アルギニン
Ser=セリン Thr=トレオニン Val=バリン
Trp=トリプトファン Tyr=チロシン
【0036】
A.発明の記述
本発明には、設計されたポリペプチドを皮膜の第一層が含む、反対荷電の高分子電解質の交互の層を含む多層皮膜が含まれる。「設計されたポリペプチド」とは、長さがアミノ酸少なくとも15個で、ポリペプチドにおける残基総数に対する、同じ符号の荷電残基数から反対符号の残基数を引いた数の比率が、pH 7.0で0.4より大きいかまたはそれに等しい、1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフを含むポリペプチドを意味する。言い換えれば、残基あたりの正味電荷量は、0.4より大きいかまたはそれに等しい。1つの態様において、ポリペプチドにおける総残基数に対する、同じ符号の荷電残基数から反対符号の残基数を引いた数の比率は、pH 7.0で0.5より大きいかまたはそれに等しい。言い換えれば、残基あたりの正味電荷量は0.5より大きいかまたはそれに等しい。1つの態様において、設計されたポリペプチドは同種重合体ではない。
【0037】
1つの態様において、高分子電解質は、1,000より大きい分子量および分子あたり電荷を少なくとも5個有するポリカチオン材料またはポリアニオン材料を含む。1つの態様において、ポリカチオン材料は、たとえばポリペプチド、ポリビニルアミン、ポリ(アミノスチレン)、ポリ(アミノアクリレート)、ポリ(N-メチルアミノアクリレート)、ポリ(N-エチルアミノアクリレート)、ポリ(N,N-ジメチルアミノアクリレート)、ポリ(N,N-クロスマルメロース(crosmarmelose)ジエチルアミノアクリレート)、ポリ(アミノメタクリレート)、ポリ(N-メチルアミノ-メタクリレート)、ポリ(N-エチルアミノメタクリレート)、ポリ(N,N-ジメチルアミノメタクリレート)、ポリ(N,N-ジエチルアミノメタクリレート)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(塩化ジアリルジメチルアンモニウム)、ポリ(塩化N,N,N-トリメチルアミノアクリレート)、ポリ(塩化メチアクリル(methyacryl)アミドプロピルトリメチルアンモニウム)、キトサン、および前述のポリカチオン材料の1つまたは複数を含む組み合わせなどのポリアミンを含む。もう1つの態様において、ポリアニオン材料はポリペプチド、核酸、アルジネート、カラギーナン、ファーセルラン(furcellaran)、ペクチン、キサンタン、ヒアルロン酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、デキストラン硫酸、ポリ(メト)アクリル酸、酸化セルロース、カルボキシメチルセルロース、酸性多糖、クロスカルメロース、ペンダントカルボキシル基を含む合成重合体および共重合体、および前述のポリアニオン材料の1つもしくは複数の組み合わせを含む。
【0038】
本発明はまた、生物医学および他の領域における応用のために、薄膜、コーティング、およびマイクロカプセルのELBLによるナノファブリケーションのためのポリペプチドを設計するための方法を提供する。方法は、5つの主な設計上の重要事項を伴う:(1)ポリペプチドの静電気的特性;(2)ポリペプチドの物理構造;(3)ポリペプチドから形成された皮膜の物理的安定性;(4)ポリペプチドおよび皮膜の生体適合性;ならびに(5)ポリペプチドおよび皮膜の生物活性。第一の設計上の重要事項である静電気力は、ELBLの基礎であることから最も重要である。適した電荷特性がなければ、ポリペプチドは、水溶液において溶解性ではなく、皮膜のELBLナノファブリケーションのために用いることができない。本発明者らは、ELBLに適した静電気的特性を有するアミノ酸配列モチーフをアミノ酸配列情報において同定するための新規プロセスを考案した。
【0039】
皮膜の安定性を含む皮膜の物理特性は、ペプチドの溶液構造が皮膜での構造にどのように変形するかに依存するであろうことから、ELBLのために用いられるポリペプチドの二次構造も同様に重要である。図11は、特定のポリペプチドの溶液構造がどのように皮膜アセンブリに相関するかを図示する、パネル(a)は、ポリ-L-グルタメートおよびポリ-L-リジンのアセンブリ挙動がどのようにpHに依存するかを示す。α-へリックスコンフォメーションがβ-シートコンフォメーションよりも沈着材料のより大きい範囲と相関することは明白である。この挙動の正確な分子的解釈は解明されなければならない。パネル(b)は、これらのペプチドの溶液構造がどのようにpHに依存するかを示す。pH 4.2では、ポリ-L-グルタメートはpH 10.5でのポリ-L-リジンと同様に、主としてα-へリックスである。いずれのポリペプチドも、pH 7.3では主として非構造的なコイル様コンフォメーションで存在する。
【0040】
残りの重要事項は、ポリペプチド皮膜の応用に関する。本発明を実践するにあたり、特定の応用の設計必要条件に応じてこれらの他の重要事項に多少の加重がかけられるであろう。
【0041】
適した電荷特徴を有するアミノ酸配列モチーフをアミノ酸配列情報において同定するために本発明の選択プロセスを用いること、および特定のモチーフを選択するために他の設計重要事項を用いることによって、生物医学および他の分野における応用のためにナノ構築皮膜のELBL製作に適したポリペプチドを設計することができる。または、ELBLにおいて用いるためにデノボでポリペプチドを設計するために本発明の方法を用いることができる。特定の生物のゲノムまたはプロテオーム情報においてモチーフ全体が同定されるというよりはむしろ、アミノ酸配列モチーフにおけるそれぞれの残基が実施者によって選択されるということを除いて、デノボ設計に対するアプローチは、既存のアミノ酸配列情報においてモチーフを同定するアプローチと本質的に同じである。本発明において提示される根本的なポリペプチド設計原理は、関係するアミノ酸が通常の天然に存在するアミノ酸20個、非天然アミノ酸、またはデノボポリペプチド設計の場合にはこれらのいくつかの新規組み合わせであるか否かとは無関係であることを強調しなければならない。さらに、他のL-アミノ酸およびD-アミノ酸を用いることができる。
【0042】
本発明の設計重要事項を以下により詳細に考察する。
【0043】
1.静電気力
本発明者らは、ELBLに適した静電気的特性を有するアミノ酸配列モチーフをアミノ酸配列情報において同定するための新規プロセスを考案した。このプロセスを用いて、本発明者らは、ヒトプロテオームデータ(ヒトの体における公知の全てのタンパク質をコードするゲノムの一部の翻訳)において88,315個の非重複アミノ酸配列モチーフを同定した。この情報は、中でもNational Center for Biotechnology Information's (「NCBI」)のウェブサイト:http://www.ncbi.nlm.nih.govで公共に入手可能である。そのような情報は現在、ヒトゲノムがさらに分析されるにつれて更新されている。そのような情報量が増加すると、ELBLに適した静電気的特性を有するとして、本発明の選択プロセスによってヒト配列情報において同定されうるアミノ酸配列モチーフの数も同様に増加すると考えられる。同じことがいかなる生物にも当てはまる。容認された生物化学および物理学の原理と共に、以下に記述する実験結果は、同定された配列モチーフが、ELBL構造のナノファブリケーションのためのポリペプチドの設計にとって有用であろうことを示している。
【0044】
重要な選択基準は、中性pH(pH 7、ヒトの血液のpHに近い)での単位長さあたりの平均電荷である。さらに、いくつかの構造的選択性が存在する。第一に、それぞれのアミノ酸配列モチーフはわずか7残基からなることが好ましい。
【0045】
a.モチーフにおける残基の総数
1つの例示的な態様において、生体適合性、物理的構造、および利用可能なアミノ酸配列データにおける非重複配列モチーフの数を最適化する取り組みにおいて、モチーフの長さ7を選択した。
【0046】
以下に考察するように、アミノ酸配列モチーフにおける残基あたりの正味電荷量は0.4より大きいかまたはそれに等しい。1つの態様において、各配列モチーフにおけるアミノ酸残基の少なくとも半数は、荷電しており、アミノ酸配列モチーフにおける残基あたりの正味電荷量は、0.5より大きいかまたはそれに等しい。その上、それぞれのモチーフにおける荷電残基の全てが同じ電荷であることが好ましいが、その必要はない。これらの必要条件は、それぞれのモチーフが水性溶媒において十分に溶解性であり、中性pHにおいてELBLにとって有用となるのに十分な電荷を有することを保証する。アミノ酸型の比較的小さい割合のみが荷電していることから、所定のアミノ酸配列の長さが増加すると、配列がELBLに関して適当に荷電したアミノ酸の十分な割合を有する見込み(odds)は減少する。電荷が4個より少ないと、ペプチドの溶解度が実質的に減少し、ELBLに対する制御の低減が生じることから、モチーフサイズ7に関して荷電アミノ酸4個が好ましい最小値である。
【0047】
生体適合性に関して(以下においてさらに考察)、それぞれの同定された配列モチーフは、連続するエピトープを構成するために7残基で十分な長さであるが(設計されたペプチドが導入されるであろう生物の、起こりうる免疫応答に関連して)、タンパク質の表面およびその内部の双方で残基に実質的に対応する場合には十分ではない;電荷の必要条件は、配列モチーフを折りたたまれたタンパク質の表面に確実に出現させるのに役立ち;荷電残基は、折りたたまれたタンパク質のコアにおいて形成され得ない。対照的に、非常に短いモチーフは、身体には無作為配列、または特に「自己」ではない配列とみられ、したがって免疫応答を誘発しうる。抗体を産生するためのペプチドの理想的な長さは論争の的であるが、ほとんどのペプチド抗原は長さが12〜16残基の範囲である。9残基またはそれより短いモチーフは有効な抗原となりうる;アミノ酸12〜16個より長いペプチドは多数のエピトープを含む可能性がある(その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、Angeletti, R.H. (1999) Design of Useful Peptide Antigens, J. Biomol. Tech. 10:2-10)。このように、抗原性を最小限にするために、モチーフは12残基より短いことが好ましく、さらになお9残基より短いことが好ましいと考えられる。
【0048】
好ましいモチーフはもう1つの理由に関して、すなわち二次構造形成を最小限にするためには、長すぎてはならない。二次構造は、ポリペプチドの物理構造(下記参照)およびそれらから作製された皮膜の制御を減少させる。このように、アミノ酸配列モチーフは隣接アミノ酸5〜15個を含むべきである。
【0049】
さらに、ヒトゲノムにおける非重複モチーフの最大数は、それぞれのモチーフにおける残基の数が7である場合に認められる。図6は、入手可能なアミノ酸配列情報における非重複配列モチーフの数を示す。陽性モチーフの最大数は長さが5残基の場合であり、陰性モチーフの最大数は長さが7残基の場合である。陽性および陰性モチーフの最大数は5および7に関してほぼ同じである。このように、7残基のモチーフ長は、非重複モチーフの数を最大にするように見える。
【0050】
上記の全ての理由から、7残基は、ELBLに関するポリペプチド設計を最適にするために好ましい長さのモチーフである。それにもかかわらず、いくつかの場合においてわずかに短いまたはわずかに長いモチーフが同様に等しく作用することがあり得る。たとえば、5または6残基の長さのモチーフを用いてもよく、長さがおよそ8〜15残基のモチーフも同様に有用となりうる。このように、アミノ酸配列モチーフは、アミノ酸残基5〜15個を有すると定義される。
【0051】
b.荷電残基数
第二に、少なくとも4個の陽性荷電(塩基性)アミノ酸(Arg、His、またはLys)または少なくとも4個の陰性荷電(酸性)アミノ酸(GluまたはAsp)が中性pHで各7残基モチーフに存在することが好ましい。陽電荷および陰電荷の組み合わせは中性pHで十分に高い電荷密度を確保するための取り組みにおいて不都合である。しかし、陽性および陰性アミノ酸の双方を含むモチーフがELBLにとって有用となりうることが可能である。たとえば、わずかにより長い、たとえば9残基のモチーフは、陽性荷電アミノ酸6個と陰性荷電アミノ酸1個を有しうる。重要であるのは正味電荷量(すなわち、正味電荷の絶対値)であって、全体的なペプチドは中性pHで十分に陽性荷電または十分に陰性荷電のいずれかでなければならない。しかし、非中性アミノ酸が酸性または塩基性アミノ酸として認められる場合を除いて、モチーフの好ましい態様は、荷電アミノ酸としてGluもしくはAspのみ、またはArg、His、もしくはLysのみを含むと考えられる(他の非荷電アミノ酸もモチーフの一部を形成しうる、および通常形成しうると考えられる)。
【0052】
図5は、適した静電気的特性を有するアミノ酸配列を同定するための例示的な選択プロセスに関係する段階を示すフローチャートである。通常アミノ酸20個のみが関係すると仮定される。陰性荷電モチーフを検索する場合、プロセスは配列データにおけるアミノ酸の位置を特定することによって始まる。このアミノ酸は、周囲のアミノ酸の分析の開始点であることから(すなわち、モチーフを開始させると考えられる)、「スターターアミノ酸」と呼ばれる。次に、スターターアミノ酸および続く6残基をArg、His、またはLysの出現に関して調べる。1つまたは複数のArg、His、またはLysがこれらのアミノ酸7個に存在する場合、もう1つのスターターアミノ酸でプロセスを新たに開始する。Arg、His、またはLysが見いだされない場合、Gluおよび/またはAspの存在数を決定するために、アミノ酸7個を調べる。7残基においてGluおよび/またはAspが少なくとも4回出現すれば、配列モチーフを目録に載せる。選択プロセスは、陽性荷電アミノ酸の場合、GluおよびAspがArg、His、およびLysに置換され、Arg、His、およびLysがGluおよびAspにそれぞれ置換されていることを除き、本質的に同じである。明らかに、アミノ酸配列の始まり(アミノ末端)で方法を開始させ、末端(カルボキシ末端)に進行し、または無作為な時点で開始して、いずれかの方法に無作為または系統的に、配列におけるアミノ酸の全てを通して作業する。さらに、方法を用いて、非天然アミノ酸を含む配列情報においてモチーフを同定することができると考えられる。そのような場合、GluおよびAsp、ならびにArg、Lys、およびHisの代わりにそれぞれ、非天然の酸性または塩基性アミノ酸を検索すると考えられる。
【0053】
1つの態様において、1つまたは複数の第一のアミノ酸配列モチーフは、アミノ酸5〜15個からなり、残基あたりの第一のアミノ鎖配列モチーフ上の正味電荷量は、0.4より大きいかまたはそれに等しい。もう1つの態様において、1つまたは複数の第一のアミノ酸配列モチーフは、n個のアミノ酸配列からなり、pH 7での第一のアミノ酸配列における正味電荷量は、nの2分の1より大きいかまたはそれにほぼ等しく、nは5〜15である。
【0054】
残りの設計重要事項、すなわち物理構造、物理的安定性、生体適合性、および生体機能性は、それに関して設計されたポリペプチドを用いる特定の応用に主に対処する。先に述べたように、特定の応用に関して所望のペプチド特性に応じて、設計プロセスの際にこれらの重要事項に対して多少の加重が置かれるであろう。
【0055】
2.物理構造
アミノ酸配列モチーフに関する設計重要事項は、その二次構造形成傾向、特にα-へリックスまたはβ-シート形成傾向である。本発明者らは、薄膜層形成に対する制御を最大限にするために、水性媒体における設計ポリペプチドの二次構造を制御する、特に最小限にするためのいくつかの方法を探求した。第一に、長いモチーフは溶液中で安定な三次元構造をとる傾向があることから、配列モチーフは比較的短いことが好ましい。第二に、本発明者らは、ポリペプチド設計の好ましい態様において、それぞれのモチーフ間にグリシン残基を置く。グリシンは、α-へリックス形成傾向が非常に低く、β-シート形成傾向が非常に低く、グリシンおよびその隣接するアミノ酸が水溶液において規則的な二次構造を形成するにはエネルギー的に非常に不都合となる。プロリンは、いくつかの点において類似の特性を有し、モチーフを連結させるためにグリシンの代用として用いられうる。第三に、本発明者らは、α-へリックス形成傾向の合計が7.5未満であって、β-シート形成傾向の合計が8未満であるモチーフに焦点を当てることによって、設計ポリペプチドそのもののα-へリックスおよびβ-シート形成傾向を最小限にしようとした(「合計の」形成傾向は、モチーフにおける全てのアミノ酸のα-へリックスおよび/またはβ-シート形成傾向の合計を意味する)。しかし、モチーフ間のGly(またはPro)残基は、設計ポリペプチドにおける安定な二次構造形成の阻害において重要な役割を果たすであろうことから、いくぶん高い合計α-へリックス形成傾向および/または合計β-シート形成傾向を有するアミノ酸配列は、何らかの状況においてELBLに適していることがありうる。実際、薄膜製作の特異的設計特徴としてポリペプチドが二次構造を形成する傾向が比較的高いことが特定の応用において望ましい可能性がある;ELBLにとって必要な静電気的電荷の必要要件は、先に記述したように満たされなければならない。
【0056】
所望の二次構造形成傾向を有するアミノ酸配列を選択することができるようにするために、本発明者らは、1,800個を超える高分解能X線結晶学構造からの構造情報(α-へリックスを含む1,334個およびβ-鎖を含む1,221個)を用いて、Chou and Fasmanの方法(その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、P. Chou and G. Fasman Biochemistry 13:211 (1974)を参照されたい)を用いてアミノ鎖20個全てに関する二次構造形成傾向を最初に計算した。構造は、以下に基づいてProtein Data Bank(公共に入手可能なタンパク質構造貯蔵所)から選択した:(a)構造決定法(X線回折);(b)分解能(2.0Åよりもよい)−この状況における「分解能」とは、レーリー基準のように分解することができる構造の最小の大きさを指す;および(c)構造の多様性(様々なアミノ酸のへリックスおよびシート形成傾向を計算するために用いられるタンパク質結晶学構造間の50%未満の配列同一性)。原理は、最も信頼できる方法論によって決定された高分解能構造を選択することであり、類似の構造を有することによって形成傾向の計算を偏らせないことであった。次に、比較に関して、非重複ランダム配列100,000個をパーソナルコンピューターにおいて乱数発生装置を用いて産生した。次に、本発明者らは、先の(A)(1)において記述した選択プロセスを用いて、同定されたアミノ酸配列88,315個に関する二次構造形成傾向を計算した(非重複塩基配列モチーフ59,385個および非重複酸性配列モチーフ28,930個)。ランダム配列の形成傾向を、選択された配列の形成傾向と比較した。図2は、これらの配列モチーフにおいて二次構造形成傾向の分布を示す。図2における長方形は、二次構造傾向に基づいて二次構造を形成する可能性が最も低いと本発明者らが同定した配列モチーフを強調する。
【0057】
3.物理的安定性
もう1つの設計重要事項は、ポリペプチドELBL皮膜の安定性の制御である。イオン結合、水素結合、ファンデルワールス相互作用、および疎水性相互作用は、比較的限られてはいるが、ELBL皮膜に対して何らかの安定性を提供する。対照的に、共有ジスルフィド結合は、例外的な構造強度を提供しうる。本発明者らは、ポリペプチドELBL皮膜の隣接する層を「ロック」および「ロック解除」するように、システイン(またはスルフヒドリル含有アミノ酸の何らかの他のタイプ)を用いるための新規プロセスを考案した。このプロセスによって、ポリペプチドナノファブリケーション皮膜はpH極値においても安定を保つことができ、プロセスはその力学的安定性および拡散特性に対してより大きい制御を提供する(非ポリペプチド高分子電解質で作製された多層皮膜の多孔性の考察に関しては、その双方の全内容が参照により本明細書に組み入れられる、Caruso, F., Niikura, K., Furlong, N. and Okahata (1997) Langmuir 13:3427、およびCaruso, F., Furlong, N., Ariga, K., Ichinose, I, and Kunitake, T. (1998) Langmuir 14:4559を参照されたい)。同様に、設計されたポリペプチドの配列モチーフにシステイン(または他のいくつかのタイプのスルフヒドリル含有アミノ酸)を組み入れることにより、分子間ジスルフィド結合形成により薄膜製作に比較的短いペプチドを使用することができる。システインがなければ、そのようなペプチドは一般的に十分に安定な皮膜を生じないと考えられる(以下に考察される図12を参照されたい)。このように、本発明者らのシステインの新規使用によって、可能性がある応用の実質的な割合において、設計ポリペプチドの高価な長いバージョンを産生する必要性がなくなると考えられる。これは、たとえば薬物の小さい結晶、小さい球状のヘモグロビン結晶、またはヘモグロビンを含む溶液などの、封入される材料に対して薄膜を製作する状況では、特に有用となると考えられる。
【0058】
皮膜の物理的安定性が重要である応用に関して、システイン(または他のいくつかのタイプのスルフヒドリル含有アミノ酸)を含むアミノ酸配列モチーフを、先に考察した方法を用いて同定されたモチーフのライブラリから選択してもよく、または先に記述した原理を用いてデノボで設計してもよい。次に、選択されたまたは設計されたアミノ酸配列モチーフに基づいて、ポリペプチドを設計および製作することができる。ポリペプチドが化学合成され、または宿主細胞において産生されると、未熟なジスルフィド結合形成を防止するために還元剤の存在下で、システイン含有ペプチドのELBLアセンブリを行う。アセンブリ後、還元剤を除去して、酸化剤を加える。酸化物質の存在下で、システイン残基のあいだでジスルフィド結合が形成され、それによってそれらを含むポリペプチド層を共に「ロックする」。
【0059】
この「ロック」方法は、マイクロカプセル製作の以下の特定の実施例を用いてさらに説明することができる。第一に、システインを含む設計ポリペプチドを用いて適切に電荷を有する球状表面上で、通常中性pHで還元剤であるジチオスレイトール(「DTT」)の存在下、水溶液中でELBLによって多層を形成する。次に、DTTを濾過、拡散、または当技術分野で公知の他のいくつかの類似の方法によって除去して、システインにシステイン側鎖の対を形成させて、それによって皮膜を安定化させる。封入したいと考える材料、たとえば結晶材料を含むコア粒子上にペプチド多層を構築する場合、製作プロセスは完全であり、次にコア粒子を、たとえばpHの変化によって、封入された環境において溶解させることができる。しかし、多層を「ダミー」コア粒子において構築する場合、コアを除去しなければならない。メラミンホルムアルデヒド粒子(「MF」)の場合、たとえばコアは通常、pHを減少させることによって溶解する(溶解は酸によって触媒される)。コアの溶解後、溶液のpHを4に調節すると、ペプチドポリアニオン上の部分電荷は、マイクロカプセルを半透過性にする(その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、Lvov et al. (2001) Nano Letters 1:125と比較されたい)。次に、シスチンをシステインに還元するために、マイクロカプセル溶液に10 mM DTTを加える。次に、封入される材料、たとえばタンパク質の濃縮溶液にそれらを移すことによって、マイクロカプセルを「装填(load)」してもよい(同書)。タンパク質は、その濃度勾配が下がる方向に移動することによってマイクロカプセルに入る。封入されたタンパク質は、還元剤を除去して酸化剤を加えることによって「ロックされた」状態となり、それによってジスルフィド結合の再形成を促進する。
【0060】
本発明のシステインの「ロック」および「ロック解除」法の図解を図4に示す。システインは、分子内および分子間ジスルフィド結合の双方を形成することができる。さらに、ジスルフィド結合は、皮膜におけるシステイン含有ペプチドの位置に応じて、同じ層または隣接する層における分子間で形成することができる。図4(a)を参照すると、塩基性ポリペプチド2は、塩基性ペプチドがシステインを含む全ての層においてジスルフィド結合3によって連結される。介在する層の酸性ペプチド(図において半透明な層4によって表される)はシステインを含まない。しかし、周囲の環境のpHで酸性および塩基性側鎖が荷電されている場合、交互の層は、互いに静電気的に誘引し続ける。図4(b)を参照すると、ジスルフィド結合が層のあいだに示される。そのような構造は、ELBLに用いられる酸性および塩基性ポリペプチドの双方(すなわち、交互のポリペプチド層)がシステインを含む場合に形成され、用いられる手順は、ジスルフィド結合形成に適している。図4(c)を参照すると、還元および酸化反応を用いてジスルフィド結合3をそれぞれ、切断および形成し、それによりカプセル壁を通じた粒子の拡散を調節することによって、封入された化合物5の放出を調節する。
【0061】
システインの「ロック」および「ロック解除」は、ELBL皮膜の構造的完全性および透過性を調節する新規方法である。グルタルアルデヒドを用いてタンパク質を架橋することができることは公知であり、したがってこの化学物質を用いてポリペプチド皮膜を安定化させることができる。しかし、グルタルアルデヒド架橋剤は非可逆的である。対照的に、本発明のシステインの「ロック」および「ロック解除」法は可逆的であり、したがって構造形成に対して、および重要なことに本発明を用いて製作することができる皮膜およびカプセルを用いることに対して、より良好な制御を提供する。血液は酸化的環境である。このように、特定の生化学応用において、たとえば設計ポリペプチドから製作された人工赤血球または薬物送達系、ジスルフィド結合の形成後の血液または他の何らかの酸化的環境に対するCys架橋ポリペプチド皮膜の曝露は、それらの結合を切断させないと予想される。最後に、同様に非天然アミノ酸を含む応用では、Cysを他のいくつかのスルフヒドリル含有アミノ酸型に置き換えるであろうことに注意すべきである。たとえば、スルフヒドリルをD,L-β-アミノ-β-シクロヘキシルプロピオン酸;D,L-3-アミノブタン酸;または5-(メチルチオ)-3-アミノペンタン酸のようなβ-アミノ酸に加えることができる(http://www.synthatex.comを参照されたい)。
【0062】
4.生体適合性
生体適合性は、生物医学応用における主要な設計重要事項である。そのような応用において、本発明の実践者は、特に製作またはコーティングされた対象が循環血液と接触する場合に、「免疫的に不活性な」ポリペプチドを生じるであろうゲノムまたはプロテオーム情報を同定することをねらいとすると考えられる。本発明の目的に関して、先の(A)(1)において考察された選択プロセスを用いて、血液タンパク質のアミノ酸配列を分析することが好ましい。これは、生物の免疫応答を最小限にする見込みを最大限にする。
【0063】
アミノ酸配列の抗原性を予測するためのコンピューターアルゴリズムが存在する。しかし、そのような方法は、せいぜい当技術分野において半信頼性であることが公知である。本発明において、(A)(1)において先に考察された選択法を用いて同定された配列モチーフは高度に極性である。したがって、モチーフはそれらが配列の一部であるタンパク質の本来の状態の表面上に出現しなければならない。「表面」は、溶媒に接触する、またはただ水の顆粒状特性のために溶媒に近づくことができない折りたたまれたタンパク質のその一部である。「内部」は、他の任意の理由のために溶媒に近づくことができない折りたたまれたタンパク質のその一部である。折りたたまれた球状の可溶性タンパク質は、有機結晶に似ており、内部は結晶格子の場合と同様、密に充填されており、外部は溶媒である水に接触している。その電荷特性のために、本発明の方法を用いて同定されたポリペプチド配列モチーフは、それのみではないがタンパク質の表面上に、大部分は出現しなければならない。このように、本発明の選択プロセスを用いてヒト血液タンパク質において同定された配列モチーフは全て、タンパク質が血液中に存在するあいだに免疫系と常に有効に接触している。水性媒質からの電荷を低い誘電体の媒質に転移させることは(タンパク質内部で起こるように)、非常にエネルギー的に不都合であることから、これは、血流に定着するようになる可能性があるタンパク質の、変性状態を含む全てのコンフォメーションについて当てはまる。したがって、許容される生化学的原理は、本発明の方法を用いて血液タンパク質から設計されたポリペプチドが免疫応答を誘発しない、または免疫応答の誘発が最少であろうことを示している。同じ理由から、本発明の方法を用いて設計されたポリペプチドは、生体適合性でなければならない。本発明の選択プロセスを用いてゲノムデータから同定された配列モチーフは全て、血液タンパク質におけるモチーフのみならず、生体適合性でなければならないが、免疫応答または他の任意のタイプの生物反応の程度が配列モチーフの特異的な詳細に依存するのも当然である。(モチーフの基となるポリペプチド配列は、それに関して皮膜が製作されている生物において実際に存在することから、このアプローチは少なくとも原理的に、任意のタイプの生物に関して等しく良好に作用すると考えられる。たとえばアプローチは、獣医学に対して有意な価値を有しうる)。人工赤血球、薬物送達系、または生物に短期間もしくは長期間導入するためのインプラントをコーティングするために生体適合性の皮膜を製作するためのポリペプチドの製造を含むがこれらに限定されるわけではない生物医学応用において、免疫応答および生体適合性はいずれも設計ペプチドを使用する際に重要である。
【0064】
5.生物活性
ポリペプチド薄膜、コーティング、またはマイクロカプセルのいくつかの応用において、構造のいくつかの層、しばしば最も外側の層において用いるために機能的ドメインを含めるようにポリペプチドの設計を改変することが望ましい。この意味における機能的ドメインは、特異的生物学的機能性(たとえば、ホスホチロシンの結合)を有するタンパク質の独立した熱安定性領域である。そのような生物学的機能性は、たとえばホスホチロシン結合ドメインとタンパク質チロシンホスファターゼドメインとを含むタンパク質テンシンの場合のように多重ドメインタンパク質における他の機能性と共に組み入れられてもよいことは、当技術分野において周知である。設計ポリペプチドにそのようなドメインを含めることは、特異的リガンド結合、インビボでのターゲティング、バイオセンシング、または生物触媒が含まれるがこれらに限定されるわけではない多くの方法において機能しうる。
【0065】
1つの態様において、多層皮膜は、第一層の複合ポリペプチドと1つまたは複数の表面吸着領域が同じ極性を有する、1つまたは複数の機能的領域に共有結合的に連結した1つまたは複数の表面吸着領域を含む第一層複合ポリペプチドを含む。表面吸着領域は、1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフを含む。第一層複合ポリペプチドは長さがアミノ酸少なくとも15個であり、pH 4〜10で50μg/mLより大きい水溶液中での溶解度を有する。1つの態様において、1つまたは複数の表面吸着領域および1つまたは複数の機能的領域は同じ極性を有する。もう1つの態様において、pH 4〜10での第一層複合ポリペプチドの溶解度は約1 mg/mLより大きいかまたはそれに等しい。溶解度は、水溶液からのポリペプチドの析出を促進するために、実際的な制限となる。複合ポリペプチドの重合化の程度に対する実際的な上限は約1,000残基である。しかし、適当な合成法によってより長い複合ポリペプチドを実現することができると想像できる。
【0066】
1つの態様において、複合ポリペプチドは1つの機能的領域と1つの表面吸着領域とを含み、表面吸着領域はアミノ酸配列モチーフ2個を含む。もう1つの態様において、複合ポリペプチド(4)は、1つの機能的領域(3)および2つの表面吸着領域(1,2)を含み、1つは機能的領域のN末端に付着し、もう1つは機能的領域のC末端に付着し、それぞれの表面吸着領域は1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフを含み、2つの表面吸着領域は同じまたは異なり、同じ極性を有する(図13)。表面吸着領域の目的は、多層皮膜を構築するために反対荷電表面に対するポリペプチドの吸着を可能にすることである。機能的領域の目的は、たとえば生物機能のような、皮膜に対して特異的機能性を提供することである。他のタイプの機能も可能である。たとえば、1つの態様において、機能的領域は、機能的領域がタンパク質からの公知のカルシウム結合モチーフ、たとえばヒト乳汁α-ラクトアルブミンのカルシウム結合ループである場合のように、高い程度の特異性でカルシウム二価陽イオンの結合能をポリペプチド多層皮膜に付与する。多層皮膜が高い特異性でカルシウムイオンに結合できることに関しては、たとえいくつかの生物学的高分子がそのような能力を実際に示し、そのような結合を可能にするペプチド構造が多層に工作されているとしても、根本的に生物学的ではない。
【0067】
機能的領域の数および/または長さと比較した複合ポリペプチドにおける表面吸着領域の数は、溶解度の必要条件に関連する。たとえば、機能的領域が「RGD」、すなわち「アルギニン-グリシン-アスパラギン酸」のような短いアミノ酸配列である場合、適した荷電表面に複合ポリペプチドを吸着させるために必要であるのは、アミノ酸残基少なくとも12個のアミノ酸配列モチーフ1つのみと考えられる。対照的に、機能的領域が、たとえばアミノ酸残基120個を含むタンパク質の可溶性の折りたたまれた構造ドメインである場合、典型的に、複合ポリペプチドが水溶性となり吸着に適するようになるのに十分な電荷を付与するためには、アミノ酸配列モチーフ2個で十分であると考えられる。モチーフは、ドメインのN末端で隣接して存在し、ドメインのC末端で隣接して存在し、またはN末端で1つもしくはC末端で1つの非隣接で存在しうる。
【0068】
表面吸着領域の複合的な長さは、これは複合ペプチドの機能的領域におけるアミノ酸残基の数よりも、複合ペプチド吸着が自発的に起こるために克服されなければならない熱エネルギーによる放散に関連している。したがって、機能的領域の重合化の程度を2倍増加させても、複合ペプチドの表面吸着領域の有効な結合のために2倍長い表面吸着領域を必ずしも必要としない。表面に対する複合ペプチドの吸着の物理的根拠は、静電気的誘引(およびバルク溶液に対する対イオンの放出)であり、ドメインの正確な質量は、ナノメートルの長さ尺度では二次的に重要であり、複合ペプチド吸着を中和する主な「力」は、熱エネルギーである。この点において、当業者は、特定の対象機能的領域の表面に対する物理的吸着に適している表面吸着領域を容易に設計することができる。
【0069】
機能的領域はアミノ酸残基3〜約250個を含む。機能的領域という用語には、機能的モチーフと機能的ドメインの双方が含まれる。機能的モチーフは比較的少数のアミノ酸残基を含み、したがって一般的に緻密なまたは永続的な三次元構造を有しない;それにもかかわらず、それらはいくつかのペプチドホルモンおよび神経ペプチドと同様に特異的機能性を示すことができ、それらはα-へリックスおよびβ-シートのような二次構造の要素を含みうる。機能的モチーフの例は、細胞外マトリクスタンパク質フィブロネクチンのRGD配列によって提供される。機能的単位が機能的モチーフである場合、これは典型的にアミノ酸残基3〜約50個を含むと考えられる。機能的領域がドメインである場合、これは典型的にアミノ酸残基約50〜約250個を含むと考えられる。
【0070】
機能的ドメインは、本明細書において、折りたたまれた場合にその自身の疎水性コアを作製するポリペプチドの少なくとも一部であると定義される。たとえば本来のタンパク質は、そのそれぞれが構造および機能の独立した単位として作用する複数の構造ドメインを含んでもよい。1つのドメインの生物機能は、2つのドメインが互いに全く相互作用しない、同じポリペプチド鎖における触媒ドメインと結合ドメインの場合のように、もう1つの機能とは完全に独立しうる。本来のタンパク質におけるドメイン間の構造的相互作用は可能であるばかりでなく、比較的一般的である;そのような場合、1つの構造ドメインともう1つの構造ドメインとのあいだの相互作用はあるタイプの四次構造として見なされうる。
【0071】
本明細書において用いられるように、機能的ドメインは典型的に、アミノ酸残基を最少で約50個および最大でアミノ酸残基約250個を有する。原則的に、複合ポリペプチドがELBLにとって適当な水性溶解度を有する限り、本明細書において概説したように、タンパク質からのいかなる機能的ドメインも複合ペプチドにおいて使用することができる。1つの態様において、機能的ドメインは、pH 4〜10で50μg/mLより大きい水溶性を有する。もう1つの態様において、機能的ドメインは、pH 4〜10で1 mg/mLより大きいかまたはそれに等しい水溶性を有する。なおもう1つの態様において、第一層複合ポリペプチドは、機能的単位が機能的ドメインを含む場合、少なくとも2つのアミノ酸配列モチーフを含む。
【0072】
機能的ドメインの代わりに機能的モチーフを含む場合、複合ポリペプチドは、典型的に、0.4より大きいかまたはそれに等しい残基あたりの正味電荷を有すると考えられる。しかし、機能的モチーフが残基あたり0.4未満の正味電荷を有する場合、1つまたは複数の表面吸着領域は典型的に、代償するために0.4より大きい残基あたりの正味電荷を有し、溶解度および物理的吸着に関する適当な電荷特性を複合ポリペプチドに付与すると考えられる。
【0073】
複合ポリペプチドに含めるための適した機能的領域には、皮膜の安定性および/または皮膜/カプセルからの封入材料の放出を制御するためのシステイン含有モチーフまたはプロテアーゼ認識部位;免疫原性を制御するためのT細胞エピトープ、B細胞エピトープ、または細胞傷害性Tリンパ球エピトープ;たとえばN結合型またはO結合型グリコシル化のような、酵素触媒による糖または多糖の接着に適した配列;表面の機能性および組織操作を制御するための細胞外マトリクスタンパク質におけるペプチド認識配列;抗菌特性を制御するための抗菌ペプチドからの配列;および二価陽イオン結合を制御するためのEFハンドモチーフのような陽イオン結合モチーフが含まれる。
【0074】
1つの非制限的な態様において、複合ペプチドの機能的領域は、プロテアーゼ認識配列を含む。適したプロテアーゼ認識配列には、たとえば第Xa因子認識配列Ile-Glu/Asp-Gly-Arg↓、エンテロキナーゼ認識配列Asp-Asp-Asp-Asp-Lys↓、トロンビン認識配列Leu-Val-Pro-Arg↓Gly-Ser、TEVプロテアーゼ認識配列Glu-Asn-Leu-Tyr-Phe-Gln↓Gly、PreScission(商標)プロテアーゼ認識配列Leu-Glu-Val-Leu-Phe-Gln ↓Gly-Pro等が含まれる。
【0075】
もう1つの非制限的な態様において、複合ペプチドの機能的領域は、T細胞エピトープ、B細胞エピトープ、または細胞傷害性T細胞エピトープを含む。本明細書において用いられるように、「T細胞エピトープ」とは、T細胞によって認識される任意のペプチド抗原性決定基を指す。本明細書において用いられるように、「B細胞エピトープ」とは、B細胞免疫グロブリン受容体によって認識され、動物に投与した場合にT細胞からの適当な助けを借りて抗体産生を誘発することができる任意のペプチド抗原性決定基を指す。本明細書において用いられるように、「細胞傷害性Tリンパ球エピトープ」とは、細胞傷害性Tリンパ球によって認識される任意のペプチド抗原性決定機を指す。エピトープは、ウイルス、細菌、真菌、または寄生虫によって産生されるポリペプチドである。いくつかの場合において、エピトープは、糖またはオリゴ糖がN結合型またはO結合型グリコシル化によって付着するまたは付着させることができるポリペプチドであってもよい。
【0076】
グリコシル化は、ほとんどの真核細胞において起こる一般的で非常に多様なタンパク質修飾反応である。そのような修飾は2つの一般的なカテゴリー、N結合型およびO結合型に分類することができる。前者において、炭水化物部分を、コンセンサス配列Asn-X-Ser/Thrの一部であるアスパラギンの側鎖のアミド窒素に付着させる。このシグナルはグリコシル化にとって必要ではあるが十分ではなく、たとえばXはProとなりえず、ProがSer/Thrの直後の下流に出現する場合、グリコシル化は阻害される。O結合型グリコシル化の場合、炭水化物部分はSerまたはThrのヒドロキシル酸素に付着する;これはまた、チロシンの一次修飾として、ならびに5-ヒドロキシリジンおよび4-ヒドロキシプロリンの二次修飾としても起こる。O結合型グリコシル化部位周囲のPro、Ser、Thr、およびAla残基の出現頻度は高い。
【0077】
直線状のエピトープは、重合体鎖に沿ったアミノ酸残基の連続するストリングからなるセグメントである。典型的な直線状エピトープは、長さアミノ酸約5〜約30個を有する。対照的に、コンフォメーションエピトープは、抗原をその本来の構造に折りたたむことによって近位となる、配列的に不連続な2つ以上のセグメントで構成される。コンフォメーションエピトープは一般的に、直線状エピトープより長いペプチド鎖に対応する。いずれのタイプのエピトープも、LBLに関する複合ポリペプチドの機能的領域として作用しうる。
【0078】
もう1つの非制限的な態様において、複合ペプチドの機能的領域は、抗菌ペプチドからの配列を含む。抗菌ペプチドには、たとえば微生物の成育を遅らせる阻害性ペプチド、微生物を死滅させるのに有効な殺菌性ペプチド(たとえば、殺菌および殺ウイルスペプチド薬、滅菌薬、および消毒薬)、および微生物の繁殖、宿主毒性を妨害するのに有効なペプチド等が含まれる。抗菌ペプチドの例には、ニシン、カルノバクテリオシンB2およびBM1、ロイコシンA、メセンテリシンY105、サカシンPおよびA、ならびにクルバシンAが含まれる。
【0079】
もう1つの非制限的な態様において、複合ペプチドの機能的領域は、細胞外マトリクス(ECM)認識のためのペプチド認識配列である。そのような1つの配列であるRGDは様々な細胞外マトリクスタンパク質において存在し、インテグリン膜貫通受容体分子の重要な認識配列である。もう1つのECM認識配列は、GFOGER、GLOGER、またはGASGERであり、「O」はヒドロキシプロリンを表す。これらはコラーゲン結合インテグリンに関するコラーゲンにおける認識配列である。いずれのタイプの認識配列もLBLに関する複合ペプチドの機能的領域に適している。
【0080】
もう1つの非制限的な態様において、複合ペプチドの機能的領域は、インビボでの特異的ターゲティングのための細胞表面受容体による認識のためのシグナル伝達モチーフである。受容体の細胞外領域は、顕著な特異性でペプチドまたはタンパク質シグナルリガンドに結合すると考えられる。ペプチドまたはタンパク質リガンドはペプチドホルモン(たとえば、インスリン、バソプレシン、オキシトシン)、増殖因子(たとえば、VEGF、PDGF、FGF)等となりうる。そのようなシグナル配列は、LBLに関する複合ペプチドの機能的領域に適している。そのような場合、LBLに関する複合ペプチドの機能的領域はしばしば、機能的モチーフであると考えられる。同様に、膜受容体の細胞外領域は、LBLに関する複合ペプチドの機能的領域に適している。そのような場合、LBLに関する複合ペプチドの機能的領域はしばしば、機能的ドメインであると考えられる。
【0081】
もう1つの非制限的な態様において、LBLに関する複合ペプチドの機能的領域は、二価陽イオン結合を制御するためのEFハンドモチーフのような陽イオン結合モチーフである。他の陽イオン結合ドメインには、C2ドメイン、「VSFASSQQ」モチーフ、およびドケリンドメインが含まれる。
【0082】
もう1つの非制限的な態様において、複合ペプチドの機能的領域は、タンパク質チロシンホスファターゼドメイン、C2ドメイン、SH2ドメイン、またはホスホチロシン結合ドメインのようなホスホチロシン認識ドメインである。多数の異なるタンパク質からのそのようなドメインは、独立した折り畳み単位であることが知られている。
【0083】
もう1つの非制限的な態様において、機能的ドメインは、SH3ドメインのようなポリプロリン認識ドメインである。
【0084】
複合ポリペプチドの独立した領域(すなわち、機能的領域および表面吸着領域)のそれぞれは、液相合成、固相合成、または適した宿主生物の遺伝子操作によって個々に合成することができる。液相合成は、現在市販されている承認されたペプチド薬のほとんどを産生するために用いられている方法である。N末端表面吸着領域(1)、C末端表面吸着領域(2)、および機能的領域(3)は個々に合成することができる。(図14)液相法を用いて比較的長いペプチドおよび小さいタンパク質でさえ合成することができる。液相法によって作製された最も長いペプチドはカルシトニン(32mer)である。より一般的に、方法は、数百kgまでの量で小さいまたは中等度の長さのペプチドを産生するために用いられる。適正製造基準に従う施設においては、所望のペプチドのそのような大量生産が可能である。
【0085】
または、様々な独立した領域を、液相合成、固相合成、または適した宿主生物の遺伝子操作によって単一のポリペプチド鎖として共に合成することができる。任意の特定の場合におけるアプローチの選択は、簡便性または財政上の問題であろう。
【0086】
様々な機能的領域および表面吸着領域を個別に合成する場合、たとえばイオン交換クロマトグラフィーの後に高速液体クロマトグラフィーによって精製した後、それらをペプチド結合合成によって連結する。たとえば、N末端表面吸着領域(1)、機能的モチーフ(3)、およびC末端表面吸着領域(3)を個別に合成して連結し、複合ポリペプチド(3)を形成することができる(図15)。アプローチは、完全に保護された側鎖を有するペプチドセグメントを固相技術によって合成した後、液相または固相法においてペプチド結合によって連結する、いわゆるハイブリッド合成と類似である。このハイブリッドアプローチは、T20、アミノ酸残基36個のペプチドの合成に応用されているが、あまり広く利用されていない。
【0087】
図17は、2つの表面吸着領域(120および130)と1つの機能的領域(110)とを含む「複合」ポリペプチドの態様を図示する。120は、N末端表面吸着領域である。130はC末端吸着領域である。それぞれの表面吸着領域は、1つまたは複数のモチーフを含む。「複合」ポリペプチドは、1つのポリペプチド鎖における表面吸着領域と機能的領域の独自の組み合わせである。リンカーペプチド配列(140)を用いて、1つのポリペプチド鎖に多数の機能的領域を含む複合ポリペプチドを生成することができる。1つの態様において、機能的領域110はアミノ酸残基50個〜約130個を含み、直径約2 nmを有する小さい機能的領域となりうる。代わりの態様において、機能的領域110は、アミノ酸残基約250個を含み、直径約4 nmを有する大きい機能的領域となりうる。拡張型(extended)コンフォメーションにおけるアミノ酸残基16個の長さは約5.5 nmである。
【0088】
図18(200および300)は、2つの表面吸着領域(120および130)と1つの機能的領域(111、112)とを含む、表面(150)に付着した「複合」ポリペプチドの態様を図示する。図18の態様200は、2つの表面吸着領域(120および130)と1つの機能的領域(111)とを含む、表面(150)に付着した「複合」ポリペプチドを図示し、機能的領域111は、アミノ酸残基約50個〜約130個を含み、直径約2 nmを有する小さい機能的領域を表す。小さい機能的領域111は、短いペプチド配列、たとえばRGDとなりうる。120は、N末端表面吸着領域である。130はC末端吸着領域である。
【0089】
図18(300)は、2つの表面吸着領域(120および130)と1つの機能的領域(110)とを含む「複合」ポリペプチドの代わりの態様をさらに図示し、機能的領域112は、アミノ酸残基約250個を含み、直径約4 nmを有する大きい機能的領域を表す。大きい機能的ドメイン112は、タンパク質のドメイン、たとえばテンシンのPTPドメインとなりうる。120はN末端表面吸着領域である。130はC末端吸着領域である。
【0090】
複合ペプチドの構築に対するモジュールアプローチの長所には、リスクを最小限にしながら既に記述されたアミノ酸配列モチーフ技術を利用することが含まれる。他の長所には、ほぼいかなる想像できる機能的領域に対するアプローチの全般性;同一または異なる機能的領域を含む化学的に明確なペプチドが含まれ、電子の電荷の同じ符号の同一または異なる表面吸着領域を同時に吸収させることができ、望ましい単機能的または多機能表面を作製することができる。個々の構築ブロックとして表面吸着領域および機能的領域を合成する長所には、容易に入手できるように個々の構築ブロックを予め作製して実際に無限に(凍結乾燥によって)保存する能力;大量に調製された倉庫に保管された構築ブロックを用いることによる、特異的機能性を有する複合ペプチドの低コスト産生;直接の固相、液相、または生物的合成と比較して複合ペプチドの迅速な調製;モジュール合成アプローチによる機能的領域に関する新しい開発に対する迅速な反応;ならびに微生物による混入を最小限にし、かつ米国食品医薬品局による産物の承認を単純にする手段としての、完全な合成ペプチドおよびポリペプチド多層に基づく材料の使用が含まれる。
【0091】
C.本発明の方法を用いて設計されたポリペプチドの使用
先に注目したように、適した設計のポリペプチドは、ELBLに関する優れた材料であり、ELBLを用いて形成されたポリペプチド皮膜構造は、多数の異なるタイプの応用において有用となると考えられる。本発明の方法を用いて設計されたポリペプチドは、生物医学技術、食品技術、および環境技術における可能性がある応用に関する皮膜構造のELBLにとって有用であることが示されている。たとえば、そのようなポリペプチドを用いて人工赤血球を製作することができる。
【0092】
6.人工赤血球
赤血球代用物の開発には多数の異なるアプローチがとられている。1つのアプローチはペルフルオロカーボンを用いることを伴う。ペルフルオロカーボン乳剤は、酸素に結合して、それを組織に送達することができる合成フッ素化炭化水素を含む。しかし、このアプローチは細網内皮細胞の遮断を増加させる。ペルフルオロカーボンは、細網内皮系に捕獲されるようになり、それによって有害な結末が起こる可能性がある。
【0093】
もう1つのアプローチは、ポリエチレングリコール(PEG)と呼ばれる生体適合性の重合体によって赤血球をコーティングする段階を伴う、抗原カムフラージュに焦点を合わせている。PEG分子は、細胞表面上で永続的な共有結合を形成する。コーティングは、赤血球表面上の抗原性分子を効率よく隠して、血液レシピエントの抗体は細胞を異物として認識しない。たとえば、血液型A型の健常な人の免疫系は、B型赤血球表面上の抗原を認識する抗体を自然に有し、それは細胞破壊につながる。B型赤血球表面にPEGを付着させると、細胞表面を「カムフラージュ」して、その表面抗原は免疫系によってもはや認識されることができず、抗原-異物赤血球は、急速には破壊されない(その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、Pargaonkar, N.A., G. Sharma, and K.K. Vistakula. (2001) "Artificial Blood: Current Research Report,"を参照されたい)。
【0094】
繰り返し輸血を必要とする地中海貧血を含む多数の疾患は、しばしば「軽微な」赤血球抗原に対する抗体の発生を併発する。この「アロ感作」は、これらの患者をほとんど輸血不可能にして生命を脅かす状況にする。インビトロ試験において、PEG修飾赤血球は、アロ感作を誘発しないように思われ、アロ感作が既に起こっている臨床状況においても有用となる可能性がある(その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、Scott, M.D. et al. (1997) "Chemical camouflage of antigenic determinants: Stealth erythrocytes," Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 94 (14):7566-7571を参照されたい)。
【0095】
他のアプローチは精製ヘモグロビンを伴う。非修飾無細胞ヘモグロビンは公知の制限を有する。これらには、有効な組織の酸素付加にとっては高すぎる酸素親和性、臨床的に有用となるには短すぎる脈管内間隙内での半減期、およびそれによって腎尿細管の損傷および毒性が起こる二量体への会合傾向が含まれる。これらの制限のために、無細胞赤血球代用物を作製するのに用いられるヘモグロビンは修飾されなければならない。多くの修飾技術が開発されている。ヘモグロビンは、グルタルアルデヒドのような試薬を用いて、架橋させて(2つの分子間の共有結合を化学修飾によって作製する)重合化させることができる。そのような修飾によって、正常なヘモグロビンより高いP50(全ての酸素結合部位の50%が占有される酸素分圧)および30時間までの血漿半減期の増加を有する産物が得られる。この目的のためのヘモグロビン源は、ヒト(期限切れの献血血液)、ウシ、またはヒト組換え体でありうる。修飾ヘモグロビン溶液は、リン脂質、エンドトキシン、およびウイルス混入物を消失させるために、高度精製ヘモグロビンから調製され、様々な生化学的プロセスを経て採取される(その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、Nester, T. and Simpson, M (2000) "Transfusion medicine update," Blood Substitutes)を参照されたい。Biopure Corporation(Cambridge, MA)は、製品Hemopure用に修飾ヘモグロビンを用いている。
【0096】
修飾ヘモグロビン溶液の主な起こりうる有害作用は、心指数の減少に至る可能性がある全身血管抵抗および肺血管抵抗の増加である。心指数の減少は、最適な酸素送達を障害して、酸素保有溶液の長所を上回る可能性がある(その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、Kasper S.M. et al. (1998) "The effects of increased doses of bovine hemoglobin on hemodynamics and oxygen transport in patients undergoing preoperative hemodilution for elective abdominal aortic surgery," Anesth. Analg. 87:284-91を参照されたい)。ある研究が、不安定外傷患者の急性蘇生期におけるこれらの溶液の有用性を調べた。しかし、試験デザインが不良であり、最終的な患者の転帰への影響における溶液のいかなる役割も不明であった(その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、Koenigsberg D. et al. (1999) "The efficacy trial of diaspirin cross-linked hemoglobin in the treatment of severe traumatic hemorrhagic shock," Acad. Emerg. Med. 6:379-80を参照されたい)。
【0097】
無細胞ヘモグロビンの問題の多くは、それを人工膜に封入することによって克服することができる。血液代用物として用いるため、ヘモグロビンを封入するためにリポソームが用いられている。ヘモグロビンを調製しなければならないのみならず、比較的高濃度および収率で封入しなければならないことから、アプローチは技術的に難しい。最終産物は無菌的でなければならず、リポソームは大きさが比較的均一でなければならない。
【0098】
封入されたヘモグロビンは、無細胞ヘモグロビンに対していくつかの長所を有する。最初に、人工細胞膜は、ヘモグロビンを血漿中の分解および酸化力から保護する。第二に、膜は、ヘモグロビンの毒性作用から血管内皮を保護する。これらは、ヘムの喪失、O2フリーラジカルの産生、およびNO結合の血管収縮作用に関連する。第三に、封入は、ヘモグロビンの循環中の持続を大きく増加させる。その上、封入されたヘモグロビンは、簡便に貯蔵するために凍結乾燥することができる。
【0099】
リポソーム封入は細胞膜の場合と同様にリン脂質を伴う。しかし、リポソーム封入に関連する1つの主要な問題は、リポソームの平均サイズおよび分布を調節することが非常に難しい点である。もう1つは、赤血球とは異なり、リポソームは組織化された細胞骨格を通常欠損することから、しばしばあまり安定ではない。なおもう1つの問題は、リポソームはしばしば多層のリン脂質からなる点である(血液代用物開発に関する最近の論評は、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、Stowell et al. (2001) Progress in the development of RBC substitutes, Transfusion 41:287-299において紹介されている。同様に、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、Chang, T. 1998 "Modified hemoglobin-based blood substitutes: cross linked, recombinant and encapsulated hemoglobin," Artificial Cell 74 Suppl 2:233-41も参照されたい)。
【0100】
本発明の方法を用いて設計されたポリペプチドを使用する赤血球代用物は、当技術分野で公知の赤血球代用物の開発に対するアプローチに対して、優れた酸素および二酸化炭素結合機能性、低い生産コスト(細菌を用いてペプチドを大量産生することができ、およびペプチドELBLを自動化することができることから、大規模でしたがって低コスト産生が可能である)、ELBLの鋳型としてのヘモグロビンの適した調製物を用いる可能性、ポリペプチドの生物分解性、血液タンパク質構造に基づいて設計されたポリペプチドの免疫学的「不活性」、および設計ポリペプチド皮膜によって示されるリポソームより優れた構造的安定性が含まれるがこれらに限定されるわけではないいくつかの長所を提供するはずである。ポリペプチドELBLアセンブリは、封入手段を製作するために必要な材料の量を最小限にし、グルコース、酸素、二酸化炭素、および様々な代謝物が脂質二重層としての皮膜を通して自由に拡散できる、半多孔性の皮膜を生じる。対照的に、この目的におそらく適した他の重合体は、望ましくない副作用を有し、たとえばポリラクチドは、筋痙攣を引き起こす乳酸に分解され、ポリ(スチレンスルホネート)は生体適合性ではない。
【0101】
赤血球代用物として作用するためのヘモグロビンを封入するために、設計ポリペプチドのマイクロカプセルを形成することができる。ヘモグロビンポリペプチドマイクロカプセルはまた、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、および赤血球機能にとって通常重要なメトヘモグロビンレダクターゼを含む酵素を組み入れるように操作することができる。その上、ナノファブリケーションにより製作したマイクロカプセルは脱水されうると予想され、本明細書に記述の通りに作製した人工赤血球は、特にヘモグロビンが凍結乾燥され(すなわち、フリーズドライされ)、機能を喪失することなく溶解され、ポリイオン皮膜は脱水に対して安定であることから、機能を喪失することなく脱水されることを示唆している。これは、長期貯蔵、血液代用物の輸送、戦場での応用(特に離れた場所)、および宇宙探査にとって重要であると考えられる。
【0102】
本発明の方法を用いて設計されたポリペプチドはまた、薬物送達にも用いることができる。
【0103】
7.薬物送達
「結晶」型の適した治療材料のミクロンサイズの「コア」に、設計されたポリペプチドを封入することができ、得られたマイクロカプセルを薬物送達のために用いることができる。コアは、いくつかの条件、たとえば高いpHまたは低温で不溶性であり、徐放性の放出が起こる条件で可溶性でなければならない。結晶の表面電荷は、ζ-ポテンシャル測定(液体媒質におけるコロイド粒子上の静電気的単位における電荷を決定するために用いられる)によって決定することができる。マイクロカプセルの内容物がマイクロカプセル内部から周辺環境に放出される速度は、封入外皮の厚さ、外皮に用いられるポリペプチド、ジスルフィド結合の存在、ペプチドの架橋の程度、温度、イオン強度、およびペプチドを組み立てるために用いられる方法を含む、多数の要因に依存すると考えられる。一般的に、カプセルの厚さがより厚ければ、放出時間はより長く、この原理はゲル濾過クロマトグラフィーの原理に類似している。
【0104】
ELBLマイクロカプセルからの持続的な放出に関していくつかの研究が行われている(いずれもその全内容が参照により本明細書に組み入れられる、Antipov, A., Sukhorukov, G.B., Donath, E., and Mohwald, H. (2001) J. Phys. Chem. B, 105:2281-2284、およびFreemantle, M. (2002) Polyelectrolyte multilayers, Chem. Eng. News, 80:44-48を参照されたい)。用いられている高分子電解質はPSS、PAH、PAA、PVS、PEI、およびPDDAである。
【0105】
本発明の方法を用いて設計されたポリペプチドは、マイクロカプセルの物理的、化学的、および生物学的特徴に対する制御;注射に適するように直径1 mm未満のカプセルを作製する能力;免疫応答を誘発する可能性の低さ;一般的にカプセルの高い生体適合性;層の厚さを変化させることによる、および以下に考察するようにシステインを用いることによる、マイクロカプセルの拡散特性に対する制御;システインにおける高反応性のスルフヒドリル基(当技術分野において周知であるように、遊離のスルフヒドリル基、遊離のアミノ基、および遊離のカルボキシル基は、特異的ターゲティングのための分子を付着させることができる部位である)を用いたマイクロカプセル表面の改変による、またはポリペプチド設計における特異的機能的ドメインの組み込みによる、特異的位置を標的にする能力;ならびにエンドサイトーシスまたはピノサイトーシスのいずれかを用いて細胞により取り込まれる微小構造の能力が含まれるがこれらに限定されるわけではない、薬物送達の状況における多数の長所を提供するはずである。
【0106】
本発明の方法を用いて設計されたポリペプチドはまた、抗菌コーティングのためにも用いることができる。
【0107】
8.抗菌コーティング
本発明の方法は、抗菌ペプチドを含む皮膜を製造するために用いることができる。たとえば、1つの適した配列は、ヒトに存在するヒスタチン5でありうる。

【0108】
わずかに塩基性のpHで陽電荷が優位であるために、この配列はELBLにきわめて適している。これを本発明の方法を用いて設計されたペプチドに付属させて、それによってELBLにおいて用いるのに適した抗菌ペプチドが得られる。このペプチドは生物付着防止コーティングとして用いることができる。たとえば、ペプチドは埋め込みのために用いられる装置上にコーティングを形成するために用いることができる。
【0109】
同様に本発明の方法を用いて設計されたポリペプチドが有用となりうる他の多くの領域が存在する。
【0110】
9.他の用途
本発明の方法を用いて設計されたペプチドに関する他の可能性がある用途には、食品カバー、ラップ、および分離層;食品の包装材、袋、バッグ、およびラベル;食品のコーティング;食品成分マイクロカプセル;薬物のコーティング、カプセル、およびマイクロカプセル;使い捨ての給仕用品(皿、コップ、刃物類);ゴミ袋;肥料および農薬用の水溶性バッグ;肥料および農薬用のマイクロカプセル;農業用マルチ;紙コーティング;ルーズフィル包装;使い捨ての医療用品(たとえば、手袋および白衣);ならびに使い捨ておむつが含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0111】
B.製作
先の(A)(1)において考察された方法を用いて同定された、またはデノボで設計されたモチーフからアミノ酸配列モチーフを選択した後、固相合成およびF-moc化学または遺伝子クローニングおよび形質転換後の異種発現のような当技術分野において周知の方法を用いて、設計されたポリペプチドを合成する。設計ポリペプチドは、ペプチド合成企業、たとえばSynPep Corp.(Dublin, California)によって合成されてもよく、ペプチド合成機を用いて研究室において産生してもよく、または組換え法によって産生してもよい。
【0112】
1つの態様において、設計ポリペプチド、たとえば第一層ポリペプチドは、縦列に連結されて1つのポリペプチド鎖を形成する複数の個々のアミノ酸配列モチーフの複数を含む。ELBL用のポリペプチドを設計するには、同じモチーフを繰り返してもよく、または異なるモチーフを連結してもよい。その上、先に考察したように、機能的ドメインを含めてもよい。ポリペプチドの全体的な電荷特性が維持される限り、すなわち残基あたりのポリペプチド上の正味電荷が0.4である限り、グリシンまたはプロリンのようなアミノ酸を用いて、配列モチーフを連結させることができる。1つの態様において、リンカーは、アミノ酸残基1〜4個、たとえばグリシンまたはプロリン残基1〜4個を含む。さらに、通常のアミノ酸20個以外のアミノ酸を、ポリペプチドの望ましい特性に応じて、モチーフそのものに含めることができる。他の特性も同様に、当技術分野において公知の方法を用いて、設計の要件によって明記されうる。たとえば、ターンを形成するためにプロリンを含めることができ、鎖の柔軟性のためにグリシンを、および中性pH付近でのpH感受性電荷特性のためにヒスチジンを含めることができる。「疎水性」アミノ酸も同様に含めることができ、疎水性残基含有量は、アセンブリ挙動において役割を果たし、球状タンパク質の疎水的安定化に類似の方法で層の安定性に寄与しうる。
【0113】
1つの態様において、第一層ポリペプチドは、1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフを含み、ポリペプチドは長さがアミノ酸少なくとも15個であり、ポリペプチドにおける総残基数に対する、同じ符号の荷電残基数から反対符号の残基数を引いた数の割合は、pH 7.0で0.4より大きいかまたはそれに等しい。言い換えれば、残基あたりのポリペプチド上の正味電荷量は0.4より大きいかまたはそれに等しい。もう1つの態様において、ポリペプチドにおける総残基数に対する同じ符号の荷電残基数マイナス反対符号の残基数の割合は、pH 7.0で0.5より大きいかまたはそれに等しい。言い換えれば、残基あたりのポリペプチド上の正味電荷量は0.5より大きいかまたはそれに等しい。
【0114】
1つの態様において、設計ポリペプチドは、長さがアミノ酸残基15個より多いかまたはそれに等しい。他の態様において、設計ポリペプチドは、長さがアミノ酸18、20、25、30、32、または35個より多い。この理由は、分子あたりのエントロピーの喪失が短い重合体に関して熱力学的に不都合であることから、反対荷電表面に対する吸着は、たとえポリペプチドが単位長さあたりの電荷1を有しても阻害されるためである;長い高分子電解質は短いポリペプチドより良好に吸着する。これを図12に図示する。長さの依存性試験に関して利用されるペプチドの平均分子量は1,500〜3,000 Da(ポリ-L-グルタメート、「小さい」)、3,800 Da(ポリ-L-リジン、「小さい」)、17,000 Da(ポリ-L-グルタメート、「中等度」)、48,100 Da(ポリ-L-リジン、「中等度」)、50,300 Da(ポリ-L-グルタメート、「大きい」)、および222,400 Da(ポリ-L-リジン、「大きい」)であった。図12において示したデータは、ELBLがペプチドの長さに依存することを明らかに示している。スルフヒドリル基は、ポリペプチド間のジスルフィド架橋を形成するために用いられうることから、Cysを含めることによって、ELBLに関して比較的小さいペプチドを用いることが可能となる。
【0115】
C.皮膜のアセンブリ
設計されたポリペプチド多層皮膜を作製する方法には、鋳型において反対荷電の化学種の複数の層を沈着させる段階が含まれ、少なくとも1つの層が設計ポリペプチドを含む。連続的に沈着された高分子電解質は反対の正味電荷を有すると考えられる。1つの態様において、設計ポリペプチド(または他の高分子電解質)の沈着は、ELBLに適した正味電荷を有するpHで、設計されたポリペプチド(または他の高分子電解質)を含む水溶液に基体を曝露する段階を含む。他の態様において、設計ポリペプチドまたは他の高分子電解質の基体上での沈着は、反対荷電のポリペプチド溶液の連続的噴霧によって得られる。なお他の態様において、基体上の沈着は、反対荷電の高分子電解質溶液の同時噴霧によって行われる。
【0116】
多層皮膜を形成するELBL法において、隣接する層の反対荷電および溶液に対する対イオンの放出時のエントロピーの増加は共に、アセンブリのための駆動力を提供する。向かい合う層における高分子電解質が、同じ正味の線形電荷密度を有することは重要ではなく、向かい合う層が反対荷電を有することのみが重要である。標準的な皮膜アセンブリ手順には、それらがイオン化されるpH(すなわち、pH 4〜10)でポリイオンの水溶液を形成する段階、表面電荷を有する基体を提供する段階、および荷電高分子電解質溶液に基体の液浸を交互に行う段階が含まれる。基体は任意で交互の層の沈着のあいだに洗浄される。
【0117】
ポリイオンの沈着に適したポリイオンの濃度は、当業者によって容易に決定されうる。例示的な濃度は0.1〜10 mg/mLである。典型的に、産生された層の厚さは、記載の範囲内での沈着の際のポリイオンの溶液濃度に実質的に依存しない。ポリ(アクリル酸)およびポリ(塩酸アリルアミン)のような典型的な非ポリペプチド高分子電解質に関して、典型的な層の厚さは、溶液のイオン強度に応じて約3〜約5Åである。短い高分子電解質は典型的に、長い高分子電解質より薄い層を形成する。皮膜の厚さに関して、高分子電解質の皮膜の厚さは、湿度と共に層の数および皮膜の組成に依存する。たとえば、厚さ50 nmのPLL/PLGA皮膜は、窒素によって乾燥させると1.6 nmに収縮する。一般的に、皮膜の水和状態およびアセンブリにおいて使用される高分子電解質の分子量に応じて、厚さが1〜2 nmから100 nmまたはそれより厚い皮膜を形成することができる。
【0118】
さらに、安定な高分子電解質多層皮膜を形成するために必要な層の数は、皮膜の高分子電解質に依存すると考えられる。低分子量のポリペプチド層のみを含む皮膜の場合、皮膜は典型的に反対荷電のポリペプチドの4つ以上の二重層を有すると考えられる。ポリ(アクリル酸)およびポリ(塩酸アリルアミン)のような高分子量の高分子電解質を含む皮膜の場合、反対荷電の高分子電解質の1つの二重層を含む皮膜は安定となりうる。
【0119】
D.実験
実施例1:ヒト血液タンパク質配列に基づくポリペプチドの設計、およびポリペプチド皮膜の製作におけるその使用
この研究に関して、ヒト血液タンパク質の一次構造における配列モチーフを同定するために、先の(A)(1)において記述されたプロセスを用いてアミノ酸配列を選択した:補体C3(gi|68766)は、陰イオン配列モチーフ源であり、ラクトトランスフェリン(gi|4505043)は、陽イオン配列モチーフ源であった。先に考察したように、血液タンパク質配列を用いて、ポリペプチドを含む装置が導入される(たとえば人工赤血球を含む)患者の免疫応答を最小限にした。原則的に、このアプローチは免疫系を有する任意の生物に応用可能となるはずであり、ヒトに限定されない。ポリペプチドは、SynPep Corp.(Dublin, California)が合成した。ポリペプチド配列は以下の通りであった。

【0120】
アミノ酸残基は、先に述べた三文字コードによって表される。二次構造形成を阻害するために、それぞれの7残基モチーフのあいだにグリシン1個を導入した。グリシンは、上反角の組み合わせにおいて最大の変動を許容して(その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、Ramachandran, G.N. and Saisekharan, V. (1968), Adv. Prot.ein Chem.istry, 23:283を参照されたい)、低いへリックス傾向(0.677)および低いシート傾向(0.766)を有することから、この目的のために選択された。または、計算された構造形成傾向に基づいて、モチーフ間のグリシンの代わりにプロリンを用いることができる。さらに、280 nmでのUV吸収によって濃度を決定するために、チロシン1個をそれぞれのペプチドのN末端に含めた。SEQ ID NO:2は、pH 7で20/32(0.625)の正味電荷量を有し;SEQ ID NO:1は16/32(0.5)で正味電荷量を有し;SEQ ID NO:4は、pH 7で30/48(0.625)の正味電荷量を有し;およびSEQ ID NO:3はpH 7で24/48(0.5)の正味電荷量を有する。全ての場合において、正味電荷量は、pH 7で第一層のポリペプチドの全長の約2分の1より大きいかまたはそれに等しい。
【0121】
ポリペプチドはそれぞれ、SN1(SEQ ID NO:2)、SP2(SEQ ID NO:1)、LN3(SEQ ID NO:4)、およびLP4(SEQ ID NO:3)と命名され、これらは短い陰性、短い陽性、長い陰性、および長い陽性ポリペプチドを意味する。これらの配列は、市販されて安価であるが、寛大なpH条件で高いα-へリックス形成傾向を有し、重要なことに免疫反応性である、ポリリジン(当技術分野においてポリカチオンとして一般的に用いられる)およびポリグルタメート(当技術分野においてポリアニオンとして一般的に用いられる)とは全く異なる。中性pHでの設計ペプチド上の単位長さあたりの計算された電荷は、SPおよびLPに関して0.5静電気的単位であり、SNおよびLNに関して0.6静電気的単位である。陽性ペプチドは、バリンの存在およびアルギニンの長い炭化水素側鎖により、陰性ペプチドよりいくぶん疎水性が高い(先に言及したように、ポリペプチド層のあいだの疎水性相互作用はある程度皮膜を安定化させることができる)。長さは公表された研究と一貫しており、ELBLに適するようにポリイオンが20より多い荷電基(すなわち、アスパラギン酸およびグルタミン酸;リジン、アルギニン、およびヒスチジン)を有しなければならないことを示している(その双方の全内容が参照により本明細書に組み入れられる、Kabanov, V. and Zezin, A. (1984) Pure Appl. Chem. 56:343 and Kabanov, V. (1994) Polym. Sci. 36:143を参照されたい)。
【0122】
a.実験の証明
i.材料
蒸発させた銀をコーティングしたQCM電極(USI-System, Japan)はそれぞれの側の表面積0.16±0.01 cm2、共鳴周波数は9 MHz(AT-カット)、および長期間の安定性±2 Hzを有した。ポリペプチドの分子量は、エレクトロスプレー質量分析によって確認した。ペプチドの純度は70%より高かった。ポリペプチド緩衝液は、10 mMリン酸ナトリウム、または10 mMトリス-HCl、1 mM DTT、0.1 mMアジ化ナトリウム、pH 7.4であった。ポリペプチド以外の化学物質は全て、Sigma-Aldrich(USA)から購入した。
【0123】
ii.手順
設計ポリペプチド対、1つは陰性および1つは陽性の対を用いて実験を行った。先に同定されたSP2、SN1、LP4、およびLN3の少なくとも5つの二重層からなる多層皮膜を、標準的なELBL技術を用いてQCM共振器に沈着させた(二重層はポリカチオン1層とポリアニオン1層からなる)。層の吸着のために用いたポリペプチド濃度は2 mg-mL-1であった。高分子電解質濃度に対するポリイオン層の厚さの依存性は強くないことが知られており(その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、Lvov, Y. and Decher, G. (1994) Crystallog. Rep. 39:628を参照されたい);0.1〜5 mg-mL-1の濃度範囲において、二重層の厚さはPSS/PAHの濃度とはほぼ無関係であった。対照的に、ポリペプチド薄膜は、高分子量PSS/PAHを用いて製作された薄膜より実質的に薄いように思われる(周知のSauerbrey等式を用いてΔfデータを用いて計算された質量);Lvov, Y. and Decher, G. (1994) Crystallog. Rep. 39:628を参照されたい。これは、タンパク質に関して当技術分野において通常行われているように、沈着された質量に基づく皮膜の厚さの計算によって得られる。図3(c)において示された設計ポリペプチドアセンブリの計算された厚さは、皮膜を作製するために用いられるペプチドの末端から末端の長さより大きい。ジスルフィド結合形成を阻害するためにDTTを1 mMで含めた。吸着時間は20分間であった。
【0124】
共振器を、その後の吸着サイクルのあいだに純水において1分間すすぎ(弱く吸着された材料のおそらく10〜15%を除去)、ガス状N2流において乾燥させた。次に、沈着したペプチドの質量をQCMによって間接的に測定した。質量測定には、乾燥にもかかわらず、何らかの水、K+、Na+、およびCl-のような低質量のイオンが含まれる。ペプチドの隣接する層の部分的相互浸透が起こりえて(Decher, G. (1997) Science 227:1232;Schmitt et al. (1993) Macromolecules 26:7058;およびKorneev et al. (1995) Physica B 214:954を参照されたい);これはジスルフィドの「ロック」効率にとって重要となりうる。
【0125】
iii.結果
ポリペプチドの吸着およびすすぎ、ならびにQCM共振器の乾燥後、共振器の共鳴周波数を測定した。これによって、吸着に対する周波数シフトの計算および吸着された質量の変化が可能となった。周波数の減少は、吸着された質量の増加を示す。結果を図3(a)および3(b)において提供する。図3(a)は、異なる緩衝液(10 mMリン酸ナトリウム、pH 7.4、1 mM DTT、および10 mMトリス-HCl、pH 7.4、1 mM DTT)においてLP4およびLN3に関する吸着データの比較を示す。吸着が、用いた緩衝液の特異的特性よりペプチドの特性により依存することは、これらのデータから明白である。図3(b)は、10 mMリン酸ナトリウム、pH 7.4、および1 mM DTTにおけるSP2、SN1、LP4、およびLN3(すなわち、SP2/SN1、SP2/LN3、LP4/SN1、およびLP4/LN3)の異なる組み合わせに関する共鳴周波数対吸着層を示す(線は単に実験のデータポイントをつないだだけである)。これらの組み合わせのそれぞれは、ELBLによって必要とされるように、陰性ポリペプチド1個と陽性ポリペプチド1個とを含む。図3(c)は、10 mMトリス-HCl、pH 7.4、および1 mM DTTにおけるSN1およびLP4に関する計算された吸着質量 対 層の数のグラフを示す(Sauerbrey等式を用いて実験データから計算)。総吸着質量約5μgは、ペプチド約1 nmolに対応する。この計算のために用いた等式は、Δm=-0.87・10-9Δfであり、式中mはグラムでの質量であり、fはHzでの周波数である(その双方の全内容が参照により本明細書に組み入れられる、Lvov, Y., Ariga, K., Ichinose, I., and Kunitake, T. (1995) J. Am. Chem. Soc. 117:6117、およびSauerbrey, G. (1959) Z. Physik 155:206を参照されたい)。皮膜の厚さdは、d=-0.016Δfとして推定され、式中dは、nmである(参照により本明細書に組み入れられる、Yuri Lvov, "Electrostatic Layer-by-Layer Assembly of Proteins and Polyions" in Protein Architecture: Interfacial Molecular Assembly and Immobilization Biotechnology, (Y. Lvov & H. Mohwald eds., 2000) (New York: Dekker, 2000) pp.125-167を参照されたい)。図3(c)における線は、実験データポイントを直線に適合したものである。データの直線性は、吸着の際の正確で規則的なアセンブリのおそらく指標であり、それぞれの吸着層におけるポリペプチドのほぼ均一な密度である。吸着は、周波数シフト-610±60 Hz(陽イオン)または-380±40 Hz(陰イオン)で起こった、沈着されたポリペプチド質量の直線的な成長は、アセンブリプロセスにおける初期の吸着段階の再現性および多層製作プロセスの全般的成功を示している。
【0126】
iv.結論
上記の結果は、本発明の方法を用いて設計されたポリペプチドが、pH7.4で単位長あたり1電荷を有する柔軟な同種重合体であるPSSおよびPAHと有意な定性的な差があるにもかかわらず、ELBLに適していることを示している。ポリ-L-リジンおよびポリ-L-グルタミン酸の単位長あたりの電荷は、PSSおよびPAHの場合と同様にpH 7.4で1であるが、これらのポリペプチドはいずれも様々な条件でα-へリックス構造の顕著な形成傾向を有し、それらは薄膜構造に対する制御が望ましい多層アセンブリにとって実質的にあまり適していない。しかし、本発明の単分散ポリペプチドは、ELBLのために用いられる材料の構造をかなり正確に実施者に知らせることができる。その上、ポリ-L-リジンおよびポリ-L-グルタミン酸の通常の市販の調製物は多分散であり、ポリ-L-リジン、ポリ-L-グルタミン酸、PSS、およびPAHはヒトにおいて免疫応答を誘発する(すなわち、免疫原性である)。
【0127】
実験によって証明されるように、設計ポリペプチドは、反対荷電の表面に容易に吸着されることから、「先行(precursor)」層は必要ない。当技術分野において公知であるように、「先行」層は吸着の不良な物質の吸着を増強するために基体上に沈着される。先行物質として通常用いられる重合体が免疫原性であるか、または設計ポリペプチドより重合体構造もしくは薄膜構造に対してあまり正確に制御しないことから、先行層の欠如は、ポリイオン皮膜の生体適合性を増強する。
【0128】
多層の設計ポリペプチドは、ヒト血液のpH 7.4で安定である。このように、多層は、広範囲の生物学的応用にとって有用となるはずである。それぞれ残基あたり1電荷未満である設計ポリペプチドの吸着は、2 mg/mlおよび低いイオン強度で10分未満で本質的に完全となった。これは、これらのポリペプチドを用いて多層皮膜を迅速かつ比較的容易に形成することができることを意味している。各層の沈着後、ペプチド皮膜をN2(g)によって乾燥させても、アセンブリを障害しなかった。乾燥は正確なQCM周波数測定を得るために行い、アセンブリにとって必要ではない。
【0129】
皮膜アセンブリ実験は、血液より低いイオン強度で行ったが、プロセスはより高いイオン強度でも定性的に類似の結果を生じる。主な違いは、吸着層あたりに沈着されるペプチドの量であり、イオン強度が高ければより多くの量のペプチドが沈着される。これを図7のグラフに図示し、これはイオン強度の関数として沈着された材料の量を示し、用いたペプチドはポリ-L-グルタミン酸およびポリ-L-リジンであった。QCM共鳴周波数を吸着層に対してプロットする。ポリL-グルタメートの平均分子量は84,600 Daであり、ポリ-リジンの平均分子量は84,000 Daであった。アセンブリに用いたペプチド濃度は2 mg/mlであった。データは、塩濃度(溶液のイオン強度)が皮膜のアセンブリに影響を及ぼすことを示している。一般的に、層あたりに沈着された材料の量は、0〜100 mM NaClの範囲でのイオン強度と共に増加する。設計ポリペプチドによるELBLの本質的な特徴は、単位長あたりの比較的高い正味電荷および低いイオン強度の条件下で、緩衝液の選択に依存しないように思われることから、ヒト血液のイオン強度においても定性的に類似の結果が予想される。このように、緩衝液の選択は、その標的環境における多層の安定性を根本的に変化させないはずである。しかし、緩衝液の選択が、多層の安定性に実際に影響を及ぼす場合であっても、カプセルを安定化するための設計特徴として「ロック」メカニズムを利用できると考えられる。
【0130】
負のポリペプチドより正のポリペプチドの見かけの沈着がより大きいことは、pH 7.4での陽性ポリペプチドにおける単位長あたりの電荷がより高いことに起因する可能性がある。各層に沈着された材料は、基礎となる表面の電荷の中和にとって必要な材料におそらく対応する。疎水性相互作用も同様に、吸着挙動のこの特色を説明するために役立ちうる。
【0131】
タンパク質および他の重合体の通常の薄膜の厚さの計算は、短いポリペプチドの場合、おそらく無効である(計算された厚さは60〜90 nm、しかしポリペプチド10個の合計の長さは約120 nmである)。これはおそらく、比較的短いポリペプチドが吸着表面に高密度で充填されること起因し、結果はまた、重合体の構造特性の変化が起こり、イオンによる電荷のスクリーニングは吸着されたペプチド間の層内電荷反発を低減させるであろうことから、皮膜の厚さがイオン強度と共に変化するという知見と一貫する。本明細書において考察される設計ポリペプチド薄膜の厚さは20〜50 nmであると推定される。
【0132】
設計および製作サイクルの多くの局面を自動化することができる。たとえば、コンピューターアルゴリズムを用いて、予測ペプチド特性を、溶液中での構造、吸着挙動、およびpH極値での皮膜の安定性を含む、観察された物理的特性と比較することによって、ELBLに関するペプチドの一次構造を最適にすることができる。その上、ポリペプチド皮膜アセンブリプロセスは、様々な段階の詳細が十分に決定された後、機械化することができる。
【0133】
実施例2:システインを含むデノボ設計ポリペプチドを伴う実験
b.ポリペプチド
用いたポリペプチドは

であった。
【0134】
本明細書に記述の実験において用いた他のポリペプチドとは異なり、これらの2つのポリペプチドは、ヒトゲノム情報を用いて設計されなかった;それらは単に、ポリペプチド皮膜安定化におけるジスルフィド結合形成の役割を査定する目的のためだけにデノボで設計された。SEQ ID NO:5は、pH 7で16/32(0.5)の正味電荷量を有し;およびSEQ ID NO:6はpH 7で16/32(0.5)の正味電荷量を有する。いずれの場合においても、正味電荷量はpH7で第一鎖ポリペプチドの全長のおよそ2分の1より大きいかまたはそれに等しい。
【0135】
c.手順
実験は全て室温で行った。
【0136】
QCMを用いるアセンブリ実験は、酸化を受ける試料を窒素ガスの代わりに空気で乾燥させたことを除き、全て同じ条件で行った。アセンブリ条件は10 mMトリス-HCl、10 mM DTT、pH 7.4であった。名目上のペプチド濃度は2 mg/mlであった。形成された層の数は14であった。
【0137】
酸化試料のジスルフィドロック条件は10 mMトリス-HCl、1%DMSO、空気飽和水、pH 7.5であった。「ロック」段階の期間は6時間であった。還元試料の条件は10 mM トリス-HCl、1 mM DTT、窒素飽和水、pH7.5であった。この段階の期間は6時間であった。
【0138】
QCMを用いる分解実験は、酸化試料を窒素の代わりに空気を用いて乾燥させたことを除き、全て同じ条件で行った。分解条件は、10 mM KCl、pH 2.0であった。試料をD.I.水によって30秒間すすいでから乾燥させた。
【0139】
異なる3つのタイプの実験を行った:(1)還元−無処置:分解はアセンブリ直後に行った;(2)還元−試料の還元に関して先に記述したように、6時間、および(3)酸化−試料の酸化に関して先に記述したとおり、6時間。
【0140】
d.結果
結果を図10に図示する。最初の2つの実験において(いずれも還元)、沈着された材料(100%)はいずれも50分以内に分解した。対照的に、酸化実験において、ペプチド皮膜コーティングQCM共振器のpH 2における5時間より長い実質的なインキュベーション後に、材料の実質的な量が残った。酸性pHでのポリペプチド皮膜の安定性は、アセンブリ条件によって決定され;このようにして、皮膜またはカプセルの安定性は、ELBLのための高分子電解質としてポリペプチドを用いることによって可能となる設計特色である。
【0141】
e.結論
静電気力は、設計ポリペプチドの反対荷電層を共に保持するために重要な役割を有する。酸性pHでは、ペプチドの1つにおける正味電荷は中和され、ポリペプチド皮膜は静電気的反発によって分解する。還元条件はジスルフィド結合形成を防止する。したがって、層間の静電気的誘引力はこれらの条件で層を安定化させる唯一の結合力である。対照的に、酸化条件下ではジスルフィド結合が形成される。酸性pHではジスルフィド結合は皮膜の分解を阻害する。結果は、酸性pHでの層の安定性は、層内および/または層間ジスルフィド結合、すなわち同じ層における分子間、隣接する層における分子間、またはその双方の結合の形成によって直接影響を受けることを示している。このことは、図10において示される結果によって図示され−比較的低いイオン強度での静電気的反発にもかかわらず、ジスルフィドロックによって、30%より多くの皮膜が酸性pHで安定なままである。より多くのシステイン残基を有するペプチドはさらにジスルフィドロック効率を改善すると予想される。その上、ペプチドアセンブリ条件の調節は、皮膜を所望の物理学的特性と共に化学および生物学的特性を有するように操作する重要な局面となると考えられる。
【0142】
実施例3:システインを含む設計ポリペプチドを伴う実験
f.材料
本実験の本質的な要素は、水晶振動子マイクロバランス機器;銀コーティング共振器(9 MHz共鳴周波数);負の48残基ペプチド(LN3)(SEQ ID NO:4);および以下の配列の「SP5」と呼ばれる正の48残基ペプチドであった。

【0143】
(D)(1)において先に考察された他の設計ペプチドと同様に、SP5を、(A)(1)において先に記述されたプロセスを用いて設計して、ヒト血液タンパク質ラクトトランスフェリン(gi|4505043)のアミノ酸配列を分析した。ELBL緩衝液は10 mMトリス、pH 7.4、10 mM NaCl、および1 mM DTTであった。分解緩衝液は10 mM KCl、pH 2であった。先の緩衝液2 mlに各ペプチド4 mgを加えて、各溶液のpHを7.4に調節することによって、ペプチド溶液2 mlをSP5およびLN3に関して調製した;ペプチド濃度は2 mg-mL-1であった。
【0144】
g.QCM共振器におけるポリペプチド層のアセンブリをモニターするための手順
還元手順は以下の通りであった:(1)共振器の周波数をペプチド吸着の前に測定して記録する;(2)共振器をSP5ペプチド溶液に20分間浸した;(3)共振器をSP5すすぎ溶液に30秒間浸した;(4)共振器をすすぎ溶液から取り出して窒素ガスを用いて乾燥させた;(5)共振器のQCM共鳴周波数を記録した;(6)共振器をLN3ペプチド溶液に20分間浸した;(7)共振器をLN3すすぎ溶液に30秒間浸した;(8)共振器1をすすぎ溶液から取り出して窒素ガスを用いて乾燥させた;(9)共振器のQCM共鳴周波数を記録した;(10)16層が共振器に吸着されるまで段階2〜9を繰り返した。
【0145】
酸化手順は、各測定前に共振器をSP5緩衝液またはLN3緩衝液の代わりにD.I.水によってすすいで、窒素の代わりに空気によって乾燥させたことを除き、還元手順と同じであった。
【0146】
h.ロック手順
還元手順は以下の通りであった:共振器を1 mM DTTを含む水溶液に6時間入れた。還元剤であるDTTはジスルフィド結合形成を阻害した。
【0147】
酸化手順は以下の通りであった:共振器を1%DMSOを含む空気飽和水溶液に6時間入れた。酸化物質であるDMSOはジスルフィド結合形成を促進した。
【0148】
i.共振器上での分解
i.溶液
還元条件は以下の通りであった:10 mM KCl、1 mM DTT、pH 2。
【0149】
酸化条件は以下の通りであった:10 mM KCl、20%DMSO、pH 2。
【0150】
ii.分解手順
還元手順は以下の通りであった:(1)共振器の初回共鳴周波数をQCMによって測定して記録した;(2)共振器を還元分解溶液に5分間浸した;(3)共振器を還元緩衝液において30秒間すすいだ;(4)共振器をガス状N2によって乾燥させた;(5)共振器の共鳴周波数をQCMによって測定して記録した;(6)段階2〜5を読み取り時間5、10、15、20、30、60、および90分のあいだ繰り返した。
【0151】
酸化手順は、共振器のすすぎを還元緩衝液の代わりに空気飽和D.I.水において行ったことを除き、還元手順と同じであった。
【0152】
j.結果
図8は、SP5およびLN3の薄膜アセンブリの際に沈着された質量のほぼ直線的な増加を示す。いずれの共振器も、アセンブリ条件の差にもかかわらず、アセンブリプロセスを通して質量のほぼ同一の沈着を示す。
【0153】
図9は、皮膜分解の際に残っている材料の割合を示す。酸化条件を受ける層は、酸性pHで最少の材料の喪失を示し、質量のほぼ90〜95%が保持された、対照的に、還元条件を受ける層は、酸性pHに曝露した最初の5分以内にほぼ全ての皮膜材料を失った。
【0154】
k.結論
結果は、酸性pHにおいて、ジスルフィド結合が層の変性を防止して、層を堅固に保持することを証明している。酸性pHでの層の安定性は、層内および/または層間ジスルフィド結合の形成によって直接影響を受ける。ジスルフィド結合形成は、濃度およびシステイン残基が互いに近位に存在することに依存する。したがって、ポリペプチドの単位長あたりの濃度の増加は、ジスルフィド結合形成および薄膜安定性に直接影響を及ぼすと考えられる。皮膜アセンブリに用いた緩衝液のイオン強度の増加は、吸着サイクル毎に沈着される材料の量および各層の厚さを増加させることによって、皮膜におけるシステイン濃度に影響を及ぼす。1つの層においてシステインアミノ酸数が増加すると、このように、形成されるジスルフィド結合数が増加して、酸化時の皮膜の安定性が増加すると考えられる。
【0155】
実施例4:残基あたりの線形電荷密度の大きさが約0.75であるRGD機能的ドメインを含むポリペプチドによる皮膜
1つの態様において、複合ポリペプチドの機能的領域は複合ペプチドの電荷密度が約0.75であるRGD配列である。RGD配列は、受容体タンパク質インテグリンの細胞外部分に結合して、それによって細胞接着を促進する。試料ペプチドの設計は以下の通りである。

【0156】
本実施例において、SEQ ID NO:8のポリペプチドは、RGDの機能的領域を有する陽性荷電ポリペプチドであり、第一の表面吸着領域は

であり、第二の表面吸着領域は

である。複合ペプチドのpH 7での残基あたりの正味電荷量は+26/35または0.74である。SEQ ID NO:9のポリペプチドは、RGDの機能的領域を有する陰性荷電ポリペプチドであり、第一の表面吸着領域は

であり、第二の表面吸着領域は

である。複合ペプチドのpH 7での残基あたりの正味電荷量は-26/35または-0.74である。
【0157】
様々なRGD配列含有ペプチドを合成して、多層皮膜アセンブリに関するその適切性を調べた。異なる哺乳動物細胞タイプの付着および増殖に及ぼすポリペプチド多層皮膜にRGD配列を含める効果も同様に研究されている。(陽性配列)および(陰性配列)の二重層5層を含む多層皮膜を水晶プレートに沈着させた。層の吸着のための複合ポリペプチドの濃度は、pH 7の水溶液において2 mg-mL-1であった。吸着時間は20分であった。次の吸着サイクルのあいだに水晶プレートを純水において1分間すすいで、弱く結合した材料を除去した。各層の沈着後、皮膜アセンブリのための基体をガス状N2流において乾燥させた。沈着したペプチドの光学的質量をUV分光法によって測定した。図16は、多層皮膜を作製するために用いられるペプチドにRGDを含めた場合の細胞増殖に及ぼす効果を比較する。技術は、再生医学の長期的な目的のためのインビトロ細胞および組織培養にとっておそらく有用である。
【0158】
実施例5:残基あたりの線形電荷密度の大きさが約0.4であるRGD機能的ドメインを含むポリペプチドによる皮膜
1つの態様において、複合ポリペプチドの機能的領域は、複合ペプチドの電荷密度が〜0.4であるRGD配列を含む。試料ペプチド設計は以下の通りである。

【0159】
本実施例において、SEQ ID NO:14のポリペプチドは、RGDの機能的領域を有する陽性荷電ポリペプチドであり、第一の表面吸着領域は

であり、第二の表面吸着領域は

である。複合ペプチドの中性pHでの残基あたりの正味電荷量は+14/35または+0.4である。SEQ ID NO:15のポリペプチドは、RGDの機能的領域を有する陰性荷電ポリペプチドであり、第一の表面吸着領域は

であり、第二の表面吸着領域は

である。複合ペプチドのpH 7での残基あたりの正味電荷量は-14/35または-0.4である。
【0160】
複合ペプチドの残基あたりの正味電荷量は、機能的領域の表面吸着領域の構造を変化させることによって決定することができることに注意されたい。本実施例において、これまでの実施例の複合ペプチドの正味電荷は、表面吸着領域のみの構造を変化させることによって変化する。原則的に、任意の複合ペプチドの残基あたりの正味電荷量を制御するために同じアプローチを用いることが可能である。しかし、このアプローチにおいて、表面吸着領域および機能的領域は、複合ペプチドが可溶性となるために独立して可溶性でなければならない。
【0161】
実施例6:機能的領域が2つの機能的ドメインを含み、機能的領域のN末端およびC末端で表面吸着領域が存在する、複合ペプチド
本実施例において、機能的ドメインは、たとえばヒトテンシンからのSrcホモロジー2(SH2)ドメイン、およびたとえばヒトテンシンからのホスホチロシン結合(PTB)ドメインである。これらのドメインは、チロシン上でリン酸化される特異的タンパク質に結合する。ヒトテンシンの表記のドメインを組み入れる複合ペプチドの例は以下の通りである。

【0162】
表面吸着領域はSEQ ID NO:10およびSEQ ID NO:11の場合と同じである。SH2ドメインおよびPTBドメイン配列は、National Center for Biotechnology Informationのアクセッション番号NP_072174において入手可能である。

【0163】
本発明者らは、ヒトテンシンにおけるSH2ドメインに対応する遺伝子およびヒトテンシンにおけるPTBドメインに対応する遺伝子を合成して、遺伝子を細菌宿主にクローニングして、遺伝子を過剰発現させて、組換えタンパク質を精製し、ドメインの様々な物理的特性の特徴を調べた。1つの態様において、表記の生物活性ペプチドおよびポリ(L-グルタミン酸)の二重層5層を含む多層皮膜を、表面特徴付けのためにシリコンウェーハに沈着させて、皮膜アセンブリをモニターするために水晶プレートに沈着させる。層吸着のためのポリペプチド濃度はpH 7で水溶液中で2 mg-mL-1である。吸着時間は20分である。次の吸着サイクルのあいだに基体を水中で1分間すすいで、弱く結合した材料を除去する。各層の沈着後、基体をガス状N2において乾燥させる。次に、水晶に沈着したペプチドの光学的質量をUV分光法によって測定して、シリコンウェーハ上の皮膜の表面形態の特徴を原子間力顕微鏡によって調べる。技術は、再生医学の長期的な目的のためのインビトロ細胞および組織培養にとっておそらく有用である。本明細書において定義されるようにSH2ドメインを生物活性ペプチドに組み入れることによって、多層皮膜はホスホチロシンペプチドに結合することができる。技術は診断目的にとっておそらく有用である。
【0164】
実施例7:1つの機能的領域と1つの表面吸着領域をポリペプチドのN末端で含む複合ポリペプチド
本実施例において、機能的領域は、タンパク質の公知の機能的ドメイン、たとえばヒトオーキシリンのタンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)ドメインである。

【0165】
表面吸着領域はSEQ ID NO:10と同じである。PTPドメインの配列は、National Center for Biotechnology Informationからアクセッション番号O75061として入手可能である。
PTPドメイン

【0166】
実施例8:3つの表面吸着領域、すなわち複合ペプチドのN末端領域で1つ、C末端で1つ、および2つの機能的領域のあいだで1つが存在し、グリコシル化のための異なる2つの機能的領域が存在する、2つの機能的領域を含む複合ポリペプチド
代表的なペプチド構造は以下の通りである:
SAR−機能的領域−SAR−機能的領域−SAR
式中、先にも述べたように、SARはモチーフであり、したがって表面吸着に適しており、たとえばRRRARRR (SEQ ID NO:25)であり、1つの機能的領域はN結合型グリコシル化のための認識部位、たとえばGGNVSGG (SEQ ID NO:26)、およびO結合型グリコシル化のための他の部位、たとえばPPSSSPP (SEQ ID NO:27)を含む。代表的な複合ペプチドのアミノ酸配列は

である。
【0167】
複合ポリペプチドのpH 7での残基あたりの正味電荷量は+18/35≒+0.5である。この場合の多層皮膜は、表記の陽性ペプチドおよび適した陰性ペプチド、たとえば

で構成される。
【0168】
実施例9:複合ペプチドのC末端で1つの表面吸着領域が存在し、抗菌活性を有することが知られているペプチド配列を含む1つの機能的領域が存在する、1つの機能的領域を有する複合ペプチド
代表的なペプチド構造は以下の通りである:
機能的領域−SAR
式中、先にも述べたようにSARは、適した表面吸着領域であり、たとえば

であり、および機能的領域はヒスタチン5の配列、すなわち

を含む。代表的な複合ペプチドのアミノ酸配列は

である。
【0169】
この代表的な複合ペプチドのアミノ酸配列の残基あたりのpH 5.5での正味電荷量は+24/39=+0.6である。この場合における多層皮膜は、表記の陽性ペプチドと、適した陰性ペプチド、たとえばSEQ ID NO:29とで構成される。
【0170】
実施例10:2つの表面吸着領域が存在し、1つは機能的領域のN末端に、もう1つはC末端に存在し、機能的領域が2つの特異的プロテアーゼ認識部位と、そのそれぞれがグリシン残基1個である2つのリンカーを含む、1つの機能的領域を有する複合ペプチド
1つの態様において、プロテアーゼ認識部位はエンテロキナーゼおよびトロンビンに関する認識部位である:
SAR−エンテロキナーゼ認識−リンカー−トロンビン認識−リンカー−SAR
式中、たとえばSARは適した表面吸着領域、たとえばSEQ ID NO:10およびSEQ ID NO:11を表す。機能的領域は、たとえば

としてコードされ、DDDDK (SEQ ID NO:33)はエンテロキナーゼの認識部位であり、Gはリンカーであり、LVPRGS(SEQ ID NO:34)はトロンビンの認識部位であり、Gはリンカーである。代表的な複合ペプチドのアミノ酸配列は

である。
【0171】
複合ペプチドの中性pHでの残基あたりの正味電荷量は+22/46≒+0.5である。この場合における多層皮膜は、表記の陽性ペプチドと、適した陰性ペプチド、たとえばSEQ ID NO:29とで構成される。
【0172】
実施例11:3つの表面吸着領域が存在し、1つは複合ペプチドのN末端およびもう1つはC末端、および2つの機能的領域のあいだに1つが存在し、天然のペプチド架橋の形成のために2つの同一の機能的領域が存在する、2つの機能的領域を有する複合ペプチド
代表的なペプチド構造は以下の通りである:
SAR−機能的領域−SAR−機能的領域−SAR
式中、前述と同様に、SARは適した表面吸着領域、たとえばEEEAEEE (SEQ ID NO:36)であり、機能的領域は特定の数のCys残基、たとえばGGCGGCGG (SEQ ID NO:37)を含む。代表的な複合ペプチドのアミノ酸配列は

である。
【0173】
複合ペプチドのpH 7での残基あたりの正味電荷量は〜0.5である。この場合における多層皮膜は、表記の陰性ペプチドと、適した陽性ペプチド、たとえば

とで構成される。
【0174】
実施例12:1つの機能的領域と1つの表面吸着領域をポリペプチドのC末端で含む複合ポリペプチド
本実施例において、機能的領域は、タンパク質の公知の機能的ドメイン、たとえばNational Center for Biotechnology Informationのアクセッション番号AAP06461のBAGドメインである:

式中、「BAG配列」は、日本住血吸虫(Schistosoma japonicum)からの仮説上のタンパク質のBAGドメインのアミノ酸配列を表す。
BAG配列

【0175】
表面吸着領域はSEQ ID NO:13と同じである。
【0176】
「1つ(a)」、「1つ(an)」およぼび「その」という用語、ならびに類似の言及(特に以下の特許請求の範囲の文脈において)の使用は、本明細書においてそれ以外であることを明記している場合を除き、または文脈に明らかに矛盾する場合を除き、単数形と複数形の双方を含むと解釈されるべきである。本明細書において用いられる第一、第二等の用語は、任意の特定の順序を指すことを意味するのではなく、単にたとえば層の複数を指すために便宜上用いられる。「含む」、「有する」、「含まれる」、および「含有する」という用語は、特に明記していなければ、開放端の用語として(すなわち、「が含まれるがこれらに限定されるわけではない」)と解釈される。値の範囲の引用は、本明細書において特に明記していなければその値の範囲内に入るそれぞれの個々の値に対して個別に参照するための簡便な方法として役立つと単に意図され、それぞれの個々の値はそれらが本明細書において個々に引用されているように明細書に組み入れられる。全ての範囲のエンドポイントがその範囲に含まれ、独立して組み合わせ可能である。本明細書において記述された方法は全て、本明細書において特に明記していなければ、または本文に明らかに矛盾していなければ、適した順序で行うことができる。任意のおよび全ての例、例示的な用語(たとえば、「のような」)は、それ以外であることを請求している場合を除き、本発明を単によりよく説明するために意図され、本発明の範囲に対する制限を課すものではない。本明細書におけるいかなる用語も、本明細書において用いられる本発明の実践にとって必須であるとして任意の非請求要素を示すと解釈してはならない。
【0177】
本発明の他の態様が可能であり、改変を行ってもよく、それらも本発明の趣旨および範囲に含まれる。したがって、先の詳細な説明は、本発明を制限することを意図しない。むしろ、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって定義される。
【図面の簡単な説明】
【0178】
【図1】ELBLプロセスの図解である。
【図2】ランダムアミノ酸配列105個の構造特性の分布と比較した、本発明の方法を用いてヒトアミノ酸配列情報において同定されたアミノ酸配列モチーフの累積二次構造特性のグラフである。
【図3(a)】本発明に従って設計されたアミノ酸配列の組み合わせに関して水晶振動子マイクロバランス技術(「QCM」)によってモニターした吸着データを示す。
【図3(b)】本発明に従って設計されたアミノ酸配列の異なる組み合わせに関してQCMによってモニターした吸着データの比較を示す。
【図3(c)】本発明に従って設計および製作されたアミノ酸配列に関するナノグラムでの吸着質量 対 層の数のグラフを示す。
【図4(a)】本発明のシステインロック法に従う層内ジスルフィド結合を図示する。
【図4(b)】本発明のシステインロック法に従う層間ジスルフィド結合を図示する。
【図4(c)】本発明の方法に従って設計されたポリペプチドから製作されたマイクロカプセルにおけるジスルフィド結合の酸化および還元を図示する。
【図5】ELBLに適した静電気特性を有するアミノ酸配列モチーフを既存のアミノ酸配列情報において同定するために用いられる本発明の選択プロセスの図解である。
【図6】利用可能なヒトアミノ酸配列データにおいて同定された非重複配列モチーフの数を示す。
【図7】イオン強度の関数としての水性媒質からポリ-L-グルタメートおよびポリ-L-リジンのELBL吸着を示す。
【図8】ジスルフィド結合形成の効果を探索する実験のために本発明の方法に従って設計されたポリペプチドの吸着を示す。
【図9】図8を参照して考察された酸性pHで薄膜分解の際に残っている材料の割合を示す。
【図10】システインを含むデノボ設計ポリペプチドを含む実験の酸性pH分解段階の際に失われた材料の割合を示す。
【図11(a)】ポリ-L-グルタメートおよびポリ-L-リジンのアセンブリ挙動がpHにどのように依存するかを示す、皮膜アセンブリに及ぼすペプチドの溶液構造の役割を図示する。QCM共鳴周波数を吸着層に対してプロットする。ポリ-L-グルタメートの平均分子量は84,600 kDaであったが、ポリ-L-リジンの平均分子量は84,000 Daであった。数値はpH値を指す。E=Glu、K=Lys。アセンブリに用いたペプチド濃度は2 mg/mLであった。
【図11(b)】ポリ-L-グルタメートおよびポリ-L-リジンの溶液構造がpHにどのように依存するかを示す、皮膜アセンブリに及ぼすペプチドの溶液構造の役割を図示する。平均モル残基楕円率をpHの関数としてプロットする。ペプチド濃度は0.05 mg/mLであった。
【図12】長い高分子電解質が短い高分子電解質よりよく吸着することを図示する、異なる長さの高分子電解質に関する吸着データを示す。
【図13】2つの表面吸着(1,2)領域と1つの機能的領域(3)とを含む「複合」ポリペプチド(4)の態様を図示する。それぞれの表面吸着領域(1,2)は1つまたは複数のモチーフを含む。
【図14】液相合成、固相合成、または組換えペプチド産生によって複合ポリペプチド(4)の異なる3つの領域(1,2,3)の独立した調製を図示する。
【図15】ペプチド合成によって複合ペプチド(4)の3つの領域(1,2,3)の連結させて単一のポリペプチド鎖を形成する段階を図示する。この例の3つの領域を連結させるための他のアプローチが可能である。
【図16】異なる表面コーティングを有するカバーガラスにおいて3日後の3T3線維芽細胞の増殖程度の平均値を図示する。PLLはポリ(L-グルタミン酸)(PLGA)およびポリ(L-リジン)(PLL)の15層を指す。PLL/RGDはPLGA/PLLの10層の後にRGD含有ペプチド5層が続く層を指し、RGDはRGD含有ペプチド15層を指す。コーティングは、層毎のアセンブリによって調製され、最後の層はそれぞれの場合における正味の陽電荷を有し、コーティングされていないカバーガラスを対照として含めた。コーティングした表面は、非コーティング表面より大きい程度の細胞増殖を示し、PLL/RGDによってコーティングした表面は最も大きい増殖を示した。
【図17】2つの表面吸着領域(120および130)と1つの機能的領域(110)とを含む「複合」ポリペプチドの態様を図示する。
【図18】(200)は、表面(150)に付着させた2つの表面吸着領域(120および130)と1つの機能的領域(111)とを含む「複合」ポリペプチドの態様を図示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する層が反対荷電の高分子電解質を含む、第一層と第二層とを含む多層皮膜を製造する方法であって、以下の段階を含む方法:
複合ポリペプチドと1つまたは複数の表面吸着領域とが同じ極性を有し、
1つまたは複数の表面吸着領域が、1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフを含み、該1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフは、アミノ酸残基5〜15個からなり、かつ中性pHで0.4より大きいかまたはそれに等しい残基あたりの正味電荷量を有し、かつ
1つまたは複数の機能的領域がアミノ酸残基3〜約250個を含み、
複合ポリペプチドが、同種重合体ではなく、長さがアミノ酸残基少なくとも15個であり、かつpH 4〜10の範囲で50μg/mlより大きい水溶性を有する、
1つまたは複数の表面吸着領域と1つまたは複数の機能的領域とを共有結合的に連結させて、複合ポリペプチドを形成する段階;および
第二層が第二層高分子電解質を含み、1,000より大きい分子量を有し、1分子あたり少なくとも電荷5個を有し、かつ第一層ポリペプチドと反対の電荷を有するポリカチオン材料またはポリアニオン材料を、該第二層高分子電解質が含む、
基体または第二層に複合ポリペプチドを沈着させて第一層を形成する段階。
【請求項2】
沈着させる段階が、基体上に複合ポリペプチドを沈着させる段階を含み、かつ第一層の上に第二層高分子電解質を沈着させる段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
1つまたは複数の表面吸着領域と1つまたは複数の機能的領域とが、液相合成、固相合成、または組換えペプチド産生によって産生される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
複合ポリペプチドが約1 mg/mLより大きいかまたはそれに等しい水溶性を有する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
機能的領域が、アミノ酸残基3〜約50個を含む機能的モチーフを含み、複合ポリペプチドが、中性pHで0.4より大きいかまたはそれに等しい残基あたりの正味電荷量を有する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
機能的領域が、アミノ酸残基約50〜約250個を含む機能的ドメインである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
機能的ドメインが、pH 4〜10で50μg/mlより大きい水溶性を有する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
機能的ドメインが、pH 4〜10で1 mg/mlより大きいかまたはそれに等しい水溶性を有する、請求項6記載の方法。
【請求項9】
ポリカチオン材料がポリアミンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
ポリアニオン材料が、核酸、アルジネート、カラギーナン、ファーセルラン(furcellaran)、ペクチン、キサンタン、ヒアルロン酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、デキストラン硫酸、ポリ(メト)アクリル酸、酸化セルロース、カルボキシメチルセルロース、酸性多糖、およびクロスマルメロース(crosmarmelose)、ペンダントカルボキシル基を含む合成重合体および共重合体、または前述のポリアニオン材料の1つもしくは複数を含む組み合わせを含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
皮膜がマイクロカプセルの形状である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
マイクロカプセルがコアを含み、コアがタンパク質、薬物、またはそれらの組み合わせを含む、請求項11記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11(a)】
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【図11(b)】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2009−513654(P2009−513654A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−537926(P2008−537926)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【国際出願番号】PCT/US2006/041713
【国際公開番号】WO2008/030253
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(508125519)ルイジアナ テク ユニバーシティ リサーチ ファウンデーション (2)
【Fターム(参考)】