説明

ポリペプチド

免疫アジュバントを使用することなく、経粘膜投与で、抗体産生の増強を誘導することのできるポリペプチド、及び、そのポリペプチドを含有する組成物並びにその用途を提供し、ポリペプチドのアミノ末端側にマルチアグレトープ型T細胞エピトープのアミノ酸配列からなるペプチドを有し、リンカーペプチドをはさんで、カルボキシル末端側にB細胞エピトープのアミノ酸配列を有し、さらに、このポリペプチドに細胞接着分子の接着モチーフのアミノ酸配列を結合させたポリペプチドを確立し、それを含有した組成物とその用途を提供することにより解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は特定の抗原エピトープを含み、免疫アジュバント非存在下においても、経粘膜投与により、この抗原エピトープに対する特異抗体の産生を効率よく誘導するポリペプチド、このポリペプチドを含有する組成物、およびその用途に関し、より詳細には、抗体産生の対象となる抗原のB細胞エピトープを含むポリペプチドとT細胞エピトープを、プロテアーゼの認識配列のアミノ酸からなるリンカーペプチドで連結し、このポリペプチドに、さらに、細胞結合モチーフのアミノ酸配列からなるペプチドを連結した、目的抗体の産生を効率よく誘導するポリペプチド、このポリペプチドを含有する組成物及びその用途に関する。
【背景技術】
生体に、特定の抗原に対して特異的な抗体産生のみを誘導する場合には、精製した抗原を単独で、或いは、抗体産生を増強する活性を有する免疫アジュバント(免疫機構を非特異的に刺激することによって、抗原に対する特異的免疫反応を強める物質)と共に生体に投与する方法が一般的に用いられてきた。この方法は、種々の感染症に対する最も有効な予防手段としても汎用されており、特に抗生物質が無効であるウイルスや、微生物が産生する毒素などのように、他に有効な予防或いは治療方法がない場合には、生体に、これらのウイルスや毒素に対する抗体産生を誘導し、防御することが唯一の対策である場合も多い。現在この方法が実用化されているものとしては、病原微生物を有機溶媒や紫外線照射等で不活化して感染性を無くした不活化ワクチン及び病原体を弱毒化して生体への病原性を弱めた弱毒化ワクチンであり、ポリオウイルスワクチンを除き、全て注射により非経口的に投与されている。しかしながら、不活化ワクチンの場合、防御に必要な抗体価を得るためには数回の注射を繰り返す必要があり、生体への負担が大きく利便性にも劣っているとの問題を抱えている。
また、生ワクチンの場合、保存安定性に欠けるだけでなく、ワクチン投与後に突然変異を起こし強毒化株となり生体に害を引き起こす可能性がある。さらには、不活化ワクチン、生ワクチンとも生体に対してアナフィラキシーショックを与えることもあり、安全性に欠ける面があった。さらにウイルス粒子そのもの、或いは、蛋白巨大分子を免疫原として用いるため、ワクチン製剤とした際の安定性に欠け、安定性を保持するためヒト血清アルブミンやゼラチン等を製剤の安定剤として用いる場合もあった。このためこれら安定剤に用いた物質に未知の感染性微生物の混入が否定できないこと、或いは、安定剤に対する生体のアナフィラキシーショックが生じることもあり、安全性、安定性に欠けるものであった。また大部分のワクチンは注射剤として製剤化されているものの、感染症の発生により多くの人命が奪われている地域の多くは発展途上国であり、ワクチンの普及を図るには安定性に優れた製剤で、かつ、注射剤以外のより簡便な投与が可能なワクチン製剤が求められている。
これらの課題を解決するために、不活化ワクチンや生ワクチンよりも高い安全性と有効性をもつ、不活化ワクチンや生ワクチンの部分アミノ酸配列からなるポリペプチドを利用した新型ワクチンの開発研究が世界中で鋭意進められており、B型肝炎ウイルスワクチンに代表される組換え型ワクチンやコンポーネントワクチンは、その新型ワクチンの代表例である。しかしながら、ワクチンとして利用するポリペプチドの鎖長は短いものほど望ましいものの、短くすればするほど、生体が個別にもつ主要組織適合性抗原(以下、「MHC」と略記する。)のクラスIIハプロタイプの拘束性を幅広くカバーし、十分な免疫原性を有するようにデザインすることが難しくなる。また、経粘膜投与時の抗原の免疫原性を高める方法としては、対象とする抗原とともに、コレラ毒素(以下、「CT」と略記する。)や大腸菌由来の熱不安定型のエンテロトキシンや、これらのアミノ酸配列の一部を置換して弱毒化したものを免疫アジュバントとして投与する方法が知られてはいるものの(イー・シー・ラベル(Lavelle,E.C.)著、イムノロジー(Immunology)、第99巻、30乃至37頁、(2000年))、目的とする抗原以外に、免疫アジュバントとして使用したコレラ毒素や大腸菌由来の熱不安定型のエンテロトキシンに対する抗体が産生されるなどの問題があり、実用に供されていない。
一方、歯科における微生物が原因とされる二大疾患には、う蝕症と歯周病があり、これらは、一般的な疾患で、且つ、致死的でないために、その予防や治療にはより高度な安全性が求められている。このう蝕症予防の手段として、例えば特開平6−122633号公報には、ストレプトコッカス・ミュータンス菌由来の歯面への付着性を有する蛋白質の断片ペプチドで免疫した動物の抗体を利用する(受動免疫)方法が開示されており、特表2002−511422号公報においては、ストレプトコッカス・ミュータンス由来のT細胞エピトープに、同じストレプトコッカス・ミュータンス由来のB細胞エピトープ(グルカンバインディング蛋白質)からなるう蝕予防用のワクチンが記載されている。
また、これとは別に、本発明者は、う蝕予防効果があることが知られているストレプトコッカス・ミュータンス セロタイプC(Streptoccocu mutans serotype C)の歯面への初期付着に関与する表層蛋白質抗原(以下、「PAc」と略記する。)に対する抗体の産生を誘導する系を実験モデルとして使用し、経粘膜投与により、免疫アジュバント非存在下でも、複数のMHCクラスIIのハプロタイプ(遺伝子型)の個体において、PAcに対する抗体産生を効率的に誘導できる短鎖ポリペプチドを開発する目的で、研究を行ってきた。すなわち、PAcのアミノ末端から365乃至377番目までのアミノ酸配列であるところの配列表における配列番号1記載のアミノ酸配列を有するペプチドをB細胞エピトープとして使用し、このペプチドのアミノ末端側に、複数のMHCクラスIIのハプロタイプの拘束を同時に受けるT細胞エピトープを結合し、その間を例えばリジン−リジン配列からなるジペプチドリンカーで、直線的に連結することにより、う蝕を抑制することのできる抗体の産生を増強する方法を提案した(西沢俊樹、今井奨、花田信弘、第4回日本ワクチン学会学術集会プログラム・抄録集、第77頁(2000年)、オオイシ,ワイ(Oishi,Y.)等、オーラル マイクロバイオロジー アンド イムノロジー(Oral Microbiology and Immunology)、第16巻、第40〜44頁(2001年))。しかしながら、これらの文献に開示されるポリペプチドも免疫アジバント非存在下で経粘膜的に投与した場合には、免疫原性が弱く、ポリペプチドを投与しても生体に対して十分な抗体を誘導しないという欠点が解決できなかった。さらに、特表平8−504118号公報には、T細胞エピトープのカルボキシル末端側にB細胞エピトープを結合したトラコーマークラミジアの感染防止用の合成ペプチドワクチンが開示されているものの、経粘膜投与では十分な抗体産生を誘導することはできない。
斯かる状況に鑑み、本発明の課題は、経粘膜投与であっても十分な量の目的とする抗体を生体内で産生誘導可能であり、安全に投与できるペプチドワクチンを提供することにある。
【発明の開示】
本発明者は、上記課題を解決するために、う蝕の原因となる微生物のストレプトコッカス ミュータンスのPAc(菌体表層蛋白質抗原)由来の断片ペプチドをモデルとして使用して、う蝕の原因となる微生物の感染防御に有効な抗体の産生を増強できるポリペプチドの研究を進めてきた。その結果、ポリペプチドのアミノ末端側に、複数のMHCクラスIIのハプロタイプで同時に拘束されるT細胞エピトープを含むアミノ酸配列を有し、リンカーペプチドとしてプロテアーゼの認識アミノ酸配列を挟んで、カルボキシル末端側に抗体誘導用のB細胞エピトープを含むアミノ酸配列を有し、さらに、このポリペプチドに細胞結合モチーフと相同なアミノ酸配列を有するペプチドを結合したポリペプチドが、免疫アジュバント非存在下で経鼻などの経粘膜投与した場合において、複数のMHCクラスIIのハプロタイプにおいて、目的とする抗原に対する特異抗体の十分な産生を効率よく増強し、しかも、目的とする特異抗体以外の抗体の産生誘導能が低く、また、アナフラキシーなどの副作用を誘発しない、安全性の高いポリペプチドであることを見出した。また、このポリペプチドが、免疫アジュバントなしに経粘膜投与した場合でも、抗体産生を誘導できること、さらには、このポリペプチドが免疫アジュバント効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、アミノ末端側にT細胞エピトープを含むアミノ酸配列を有し、リンカーペプチドをはさんで、そのカルボキシル末端側にB細胞エピトープを含むアミノ酸配列を有するペプチド内に、細胞接着分子の細胞結合モチーフと相同アミノ酸配列を有するポリペプチドを提供することによって前記課題を解決するものである。
発明を実施する上での最良の形態
本発明でいう抗体とは、主としてイムノグロブリンG(IgG)、イムノグロブリンM(IgM)、イムノグロブリンA(IgA)抗体であり、血中や体液中に分泌されるものはもとより、鼻腔、口腔、眼、消化管などに分泌される抗体も当然これに含まれる。
本発明のポリペプチドにおいて、抗体産生を誘発する部位として使用するのは、B細胞エピトープ或いはそれを含むアミノ酸配列部分である。また、このペプチドのアミノ酸配列は、微生物、細胞、又は腫瘍細胞に由来する毒素、アレルゲン、酵素、細胞膜抗原、腫瘍特異性抗原などの抗原であって、その各々について文献的に既に明らかにされている既知の抗原エピトープのアミノ酸配列そのものでもよく、また実際に生体に対して免疫原性をもつ様々な抗原そのもの、或いは、常法により、抗原の部分ペプチドを免疫してエピトープ配列を同定し、この同定したアミノ酸配列を有するポリペプチドをB細胞エピトープとして用いてもよい。また、このB細胞エピトープは、後述のT細胞エピトープと同じ抗原上にあるものでもよく、B細胞エピトープとそのアミノ酸配列の一部又は全部を共有していてもよい。従って、B細胞エピトープ部分については、感染防御、癌、腫瘍、潰瘍、肝炎など炎症性疾患、アレルギー及びアトピー性皮膚炎などの免疫性疾患などの予防や治療、酵素の中和、臨床検査などに使用される各種抗原の検出など、誘導する抗体の使用目的に応じて、好ましい抗原ポリペプチドを選択することが出来る。例えば、う蝕予防用の抗体を誘導するためには、西沢俊樹、今井奨、花田信弘、第4回日本ワクチン学会学術集会プログラム・抄録集、第77頁(2000年)に記載の前記PAcの断片ペプチドを使用することができ、具体的には、配列表における配列番号1記載のアミノ酸配列を有するペプチドを挙げることができる。これらのB細胞エピトープを含むポリペプチドはそのまま使用してもよく、タンデムに連結して、その2量体、3量体あるいは多量体として使用してもよい。また、同一抗原上に存在する2種以上のB細胞エピトープをタンデムに連結することも、抗原全体をB細胞エピトープとすることもできる。また、複数種の抗原性タンパク質が関与する疾患治療の場合、それらのB細胞エピトープをタンデムに連結することにより、1つのポリペプチドで複数種の抗原性タンパク質に対する抗体を産生できるポリペプチドを設計することも随意である。この場合には、各B細胞エピトープの間に、後述のリンカーペプチドを挿入することにより、個々のエピトープのプロセッシングをより確実に行わせることもできる。
また、本発明のポリペプチドに使用する、T細胞エピトープを含むポリペプチドのアミノ酸配列とは、投与の対象となるヒトを含む哺乳動物、鳥類、爬虫類、または、魚類のMHCクラスIIのハプロタイプに拘束され、ヘルパーT細胞用抗原として提示を受けるアミノ酸配列或いは、それを含むアミノ酸配列のものであれば何れでもよい。このポリペプチドのアミノ酸配列は、文献的に既に明らかにされているT細胞エピトープのアミノ酸配列を利用してもよく、また、実際に生体に対して、常法により、抗原の部分ペプチドを免疫してエピトープ配列を同定し、この同定したアミノ酸配列を有するポリペプチドをT細胞エピトープとして用いてもよい。このT細胞エピトープは、前述したB細胞エピトープを含む抗原上にあってもよく、B細胞エピトープとそのアミノ酸配列の一部又は全部を共有していてもよい。これらのT細胞エピトープペプチドはそのまま使用しても、あるいは同種又は複数種のT細胞エピトープをタンデムに連結して使用してもよい。また、T細胞エピトープは、アグレトープ(MHCクラスII抗原との結合に必要なアミノ酸残基)となるアミノ酸残基以外のアミノ酸残基は他のアミノ酸残基に置換しても機能を発揮することが可能である。よって、本発明で用いるT細胞エピトープポリペプチドとして、アグレトープが保存されたポリペプチドであれば用いることができる。そこで、本発明のポリペプチドを感染防御や抗アレルギー等の予防又は治療を目的として用いる場合には、多くの患者に対して適用可能とならしめるために、T細胞エピトープポリペプチド部分として、複数種のMHCクラスIIハプロタイプに対するアグレトープをタンデムに又はオーバーラップして有するポリペプチド(いわゆるマルチアグレトープ型ポリペプチド)は極めて有用である。現在、MHCクラスIIのハプロタイプによる拘束性ペプチドの基本構造およびアグレトープは、文献的に数多く開示されており、これらを参考に、使用目的に併せてT細胞エピトープを含むポリペプチドを設計することも随意である。また、異種の動物におけるT細胞エピトープ又はアグレトープをタンデムに又はオーバーラップして有するポリペプチドをT細胞エピトープポリペプチドとして用いれば、複数種の動物に対しても有効なT細胞エピトープポリペプチドとすることができる。
また、B細胞エピトープにおいても、複数のエピトープを重複させたり、タンデムに連結させたりして、複数種の抗体を同時に誘導させるようなポリペプチドを設計することも随意である。
T細胞エピトープを含むポリペプチドとB細胞エピトープを含むポリペプチドを連結しないで別々に免疫しても、目的とする抗体の効率的な産生の増強は望めない。また、B細胞エピトープを含むポリペプチドとT細胞エピトープを含むポリペプチドとを連結したポリペプチドを用いて免疫した場合、目的とする抗体とともに、連結部分のアミノ酸配列部分を認識する抗体を同時に誘導することがある。そこで、本発明のポリペプチドにおいて、T細胞エピトープ配列とB細胞エピトープ配列の間に、プロテアーゼの認識配列となるアミノ酸配列からなるリンカーペプチドを挿入することにより、抗原提示におけるプロセシングのプロセスにより両ポリペプチドを酵素的な切断を受けて分離させ、連結部分のアミノ酸配列部分を認識する抗体の産生誘導が抑制されるようにデザインされている。よって、免疫原性に優れ、生体に防御効果を示すために十分な抗体の産生を増強し、免疫したペプチドに対する抗体ではなく、組み込まれたB細胞エピトープが由来する抗原性タンパク質に対する抗体産生を増強することが可能となる。
本発明で用いられる、B細胞エピトープを含むペプチドとT細胞エピトープと結合するためのリンカーペプチドは、抗原プロセッシングに関与するプロテアーゼの認識配列であれば何れでもよく、具体的には、リジン−リジン(KK)、リジン−アルギニン(KR)、アルギニン−アルギニン(RR)などジペプチドを挙げることができ、なかでも、カテプシンBの認識配列であるリジン−リジンからなるジペプチドを使用することが望ましい。なお、T細胞エピトープとB細胞エピトープが重複して存在するポリペプチドを用いる場合には、そのポリペプチド同士をリンカーペプチドで連結することにより、それぞれを、T細胞エピトープ或いはB細胞エピトープとしての機能を発揮させることができる。
本発明で使用する細胞接着分子の細胞結合モチーフとしては、本発明のペプチドを粘膜表面に長期間保持することのできるものである限り本発明に利用することができる。例えば、インテグリンファミリーに対する結合モチーフをはじめとし、その他の細胞結合モチーフのアミノ酸配列を用いることができる。例えば、インテグリン結合モチーフに属するアミノ酸配列としては、フィブロネクチン、コラーゲン、ビトロネクチン、フィブリノーゲン、ラミニン、ヒト免疫不全ウイルス(以下、「HIV」と略記する。)のTatタンパク質等々の細胞接着分子上に存在する結合モチーフとして知られる、アルギニン−グリシン−アスパラギン酸(RGD:配列表における配列番号2)、アルギニン−グルタミン酸−アスパラギン酸(RED:配列表における配列番号3)、ロイシン−アスパラギン酸−バリン(LDV:配列表における配列番号4)、プロリン−ヒスチジン−セリン−アルギニン−アスパラギン(PHSRN:配列表における配列番号5)、アルギニン−リジン−リジン(RKK:配列表における配列番号6)、アスパラギン酸−グリシン−グルタミン酸−アラニン(DGEA:配列表における配列番号7)などのアミノ酸配列を有するペプチドが挙げられる。また、インテグリンのファミリー以外の結合モチーフとしては、チロシン−イソロイシン−グリシン−セリン−アルギニン(YIGSR:配列表における配列番号8)、イソロイシン−リジン−バリン−アラニン−バリン(IKVAV:配列表における配列番号9)、アルギニン−フェニルアラニン−チロシン−バリン−バリン−メチオニン−トリプトファン−リジン(RFYVVMWK:配列表における配列番号10)、イソロイシン−アルギニン−バリン−バリン−メチオニン(IRVVM:配列表における配列番号11)などのアミノ酸配列からなるペプチドを挙げることができる。なかでも、RGD、RED、YIGSRのアミノ酸配列からなるペプチドが、特異的な抗体産生の誘導能が強いことから望ましい。また、これら細胞結合モチーフのアミノ酸配列を有するペプチドの連結部位は、T細胞エピトープポリペプチドのアミノ末端側又はカルボキシル末端側、又は、B細胞エピトープポリペプチドのアミノ末端側又はカルボキシル末端側の合計4箇所から選択でき、そのうちすくなくとも1箇所に連結すればよい。とりわけ、T細胞エピトープポリペプチドのアミノ末端側又はカルボキシル末端側の片側又は両側に連結した本発明のポリペプチドは、B細胞エピトープポリペプチドに特異的な抗体産生が特に増強されるので望ましい。
本発明のポリペプチドを製造するための方法に限定はなく、慣用のペプチド合成法によるか、或いは、慣用のペプチド合成法によりあらかじめ、部分的に合成したペプチド同士を結合して、調製することができる(例えば、社団法人日本生化学会編「新生化学実験講座」、第1巻、「タンパク質VI」、第3〜44頁、1992年、東京化学同人発行参照。)。また当該ペプチドは、各メーカーから市販されているペプチドシンセサイザーを用いて装置のプロトコールに従って合成することができる。また、本発明のポリペプチドは、組換えDNA技術により調製することができる。例えば、設計したポリペプチドのアミノ酸配列をコードするDNAを調製し、これを自立増殖可能なベクターに挿入し、それを大腸菌、枯草菌、放線菌、酵母などの微生物、動植物やそれらの細胞又は組織等の宿主に導入して形質転換体としたり、トランスジェニック動植物を作製して、それらを培養、育成した後、本発明のポリペプチドを適宜の方法により、採取・精製することができる。また、本発明のポリペプチドを、T細胞エピトープとB細胞エピトープを連結するのに用いたプロセシング関連酵素切断部位となるアミノ酸配列以外から選ばれた適宜のタンパク質分解酵素の切断部位となるアミノ酸配列で連結して発現させた後、当該酵素で分解したものを使用することも自由である。さらには、本発明のポリペプチドを発現させた菌体、動物体或いは植物体をそのまま加工して、本発明のポリペプチドを含有する経口摂取用の組成物として使用することも随意である。また、本発明のポリペプチドは、前記の何れかの方法により、その全アミノ酸配列を有するポリペプチドを直接調製してもよく、或いは、予め、その一部アミノ酸配列を有するポリペプチドを合成したもの同士を、化学的に結合して調製することも随意である。
本発明のポリペプチドは、特異的な抗体産生の誘導のために、このまま単独で、或いは、同一のB細胞エピトープを有するポリペプチドを複数組み合わせて使用することができる。さらに、複数種の抗原に対する抗体を同時に産生させる場合には、個々の抗原に対応するB細胞エピトープを有するポリペプチドの2種以上を組み合わせて使用することも随意である。また、本発明の効果を妨げない限り、本発明のポリペプチドに、製剤学的に許容できる1種又は2種以上の製剤用添加剤を組み合わせた組成物を調製することも有利に実施できる。製剤用の添加剤としては、グルコース、マルトース、トレハロース、ショ糖などの還元性或いは非還元性の糖質、ソルビトール、マンニトール、マルチトールなどの糖アルコール、寒天、プルラン、グアガム、アラビアガムなどの水溶性高分子、ゼラチン、シルクなどのタンパク質やそれらの加水分解物、脂質、アミノ酸、緩衝剤、安定化剤、抗菌剤、香料、栄養機能食品、医薬部外品或いは医薬品の有効成分、ミョウバン、水酸化アルミニウムなどの免疫アジュバントなどが挙げられ、1種又は2種以上を適宜組み合わせて使用できる。また、本発明のポリペプチドを含有する製剤の形態としては、その製剤中のポリペプチドが長期間安定に保持されるものであれば特に制限はなく、溶液、凍結乾燥品、錠剤、舌下錠、トローチ、粉末、顆粒、クリーム、軟膏、シラップなどの剤形から、投与対象、投与方法、製剤の保存方法や輸送方法を考慮して適宜選択すればよい。また、本発明のポリペプチド又はそれを含有する組成物は、必要に応じて、リポソームに封入したり、皮膚、組織への浸透促進剤やイオン導入法などを併用することにより、抗原提示細胞の存在部位への浸透を促進させることも有利に実施できる。また、本発明のポリペプチドは、錠菓、飴、清涼飲料などの各種飲食品に含有せしめ、これを経口的に摂取することにより、ポリペプチドを経粘膜的に摂取させることも随意である。また、本発明のポリペプチドをコードするRNAを直接生体に投与したり、細胞にDNAを導入するいわゆる遺伝子治療などにより、生体内において本発明のポリペプチドを発現させることもできる。
本発明のポリペプチドは、ヒト、イヌ、ネコ、マウスをはじめとする哺乳類、ニワトリ、アヒルをはじめとする鳥類、爬虫類、魚類とりわけ養殖魚類などの抗体産生を行う動物に対して、病原性のウイルス、微生物、細菌などの構成蛋白質やそれらが分泌する毒素に対する抗体を産生させることができる。したがって、ポツリヌス、大腸菌OH−157などの細菌に起因する食中毒、破傷風、ジフテリア、インフルエンザなどの感染性疾患の予防又は治療に有効である。また、アミロイドβペプチドに対する抗体を産生させることによるアルツハイマーの治療、ダニ、ハウスダスト、花粉、食物などに由来のするアレルゲンに対する特異的なIgG抗体を優位に産生させることによる各種アレルギー症やアトピー性皮膚炎などの経口減感作療法に有利に利用できる。また、本発明のポリペプチドは、口腔内、鼻腔、眼、咽喉、膣内、気管内、腹腔、胸腔、肺胞内、食道内、及び、胃や腸などの消化管内などへの経粘膜的な投与で粘膜におけるIgA抗体産生の誘導及び体液中へのIgG抗体産生の誘導が可能であり、皮下、皮内、筋肉内などの通常のワクチンの投与経路での投与、さらに、場合によっては、血管内投与も可能である。また、本発明のポリペプチドは、任意の蛋白質やポリペプチドに対する特異的な抗体の生産に利用できるだけでなく、単独では抗原性の低いオリゴペプチドやポリペプチドに対する抗体の生産に有利に用いることができる。したがって、合成オリゴペプチドを動物に免疫することによる抗血清やモノクローナル抗体産生を目的として、前記投与経路による動物での使用に加えて、試験管内での免疫担当細胞の感作に有利に使用することができる。
また、本発明のポリペプチドは、他の抗原あるいはそのポリペプチドにおけるB細胞エピトープが由来する抗原性タンパク質と同時に生体に投与することにより、同時に投与された抗原に対する抗体産生を誘導する免疫アジュバントとして使用することができる。その際の使用量は、同時に投与する他の抗原あるいはそのポリペプチドにおけるB細胞エピトープが由来する抗原に対する抗体産生を誘導できる量であれば特に制限はない。ただし、本発明のポリペプチドに対する抗体産生が誘導されることを望まない場合は、本発明のポリペプチドの投与量は、他の抗原の投与量の10質量%以下、好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは、0.1質量%以下のとすればよい。
本発明のポリペプチドのヒトを含む動物への投与方法には、特に制限はなく、このポリペフチドが、投与部位へ確実に到達できる方法であれば何れでよい。例えば、スポイトや注射器を使用して適量を粘膜上に滴下してもよく、経口摂取や、クリーム或いはジェル状にして粘膜に塗布したり、カテーテル等で投与部位に誘導してもよく、さらには、スプレーやネブライザーなどにより霧状にして吹き付けたり、鼻、気管或いは肺へ吸引させてもよい。皮下、皮内、筋肉内、血管内、腹腔内や胸腔内などの体腔内への投与には、注射器、カテーテル、点滴などの投与方法を使用することができる。本発明のポリペプチドの投与量は、抗体誘導能、疾患の種類、投与経路、投与方法、投与対象動物などを考慮して適宜決定すればよく、通常、0.00001乃至100mg/kg体重、好ましくは0.0001乃至25mg/kg体重、さらに好ましくは0.001乃至10mg体重である。
以下、実験例に基づいて本発明のポリペプチドについてより詳細に説明する。
実験例
生体の感染防御用のワクチンとして利用できるポリペプチドの開発を考慮して、う蝕症の病原体であるストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans serotypeC)の歯面付着因子の一つであるPAc(菌体表層タンパク質抗原)に対する抗体産生系をモデルに使用して、経粘膜的に投与して、効率的に誘導することのできる、ワクチンとしての機能を有するポリペプチドを調製するための実験を以下のようにして行った。また、実験には、PAc中のアミノ酸配列であって、すでに、遺伝子クローニング、塩基配列、アミノ酸配列、生物活性部位、B細胞エピトープ、T細胞エピトープの解析から、PAc分子に交叉反応性を持ち、そのう蝕を阻害する活性を有する抗体のみを誘導できる最小単位のペプチド抗原であることが公知の配列表における配列番号1記載のアミノ酸アミノ酸配列のペプチド(以下、「ユニットペプチド」という。)を使用した(H.SENPUKUら、Infection and Immunity,63:4695−4703(1995)参照)。なお、以下の実験で使用したポリペプチドは、全てペプチドシンセサイザー(アドバンスド・ケムテック(Advanced Chemtech)社製造、Model350 Multiple Peptide Synthesizer)を用いてFmoc法にて合成し、TSK−GELカラム(カラムサイズ:直径1cm、長さ30cm、東ソー株式会社製造)を使用した逆相HPLCで精製した純度95%以上の標品である。
実験例1:ユニットペプチドに対するマウスのMHCクラスIIのハプロタイプの拘束性の解析
MHCクラスIIのハプロタイプのみが異なる8種類のB10コンジェニックマウス(日本SLC株式会社販売、雌;5週令、一群;5匹)のそれぞれに前記ユニットペプチド(200μg/マウス)をフロイントの不完全アジュバント(FIA)と共に腹腔免疫し、2週間後に初回免疫と同条件で追加免疫した。その1週間後に採血し、その血清中のユニットペプチド及びPAcに対する抗体価を、ユニットペプチド或いはPAcをコート抗原として使用した、常法のELISA法により測定した。その結果を表1に示す。なお、以下の実験における、各抗原に対する抗体価は、個々のマウスから採血した血液の血清を、それぞれ連続的に2倍希釈した標品中の抗体量を、ELISA法により、酵素標識抗体を使用して検出し、分析に使用したマイクロタイタープレートの各ウエルについて、マイクロタイタープレートリーダー(マルチスキャン バイクロマテック、ラボシステム社販売)により、405nmの吸光度を測定して、その吸光度と、コート抗原を使用していない対照のウエルの吸光度を比較し、その差が0.1以上となる血清の最高希釈倍率を求め、平均して、抗体価として表した。また、コンジェニックマウスの種類の名称の後に、そのマウスのMHCクラスIIのハプロタイプの型を括弧内に併記した。

表1から明らかなように、マウスのMHCクラスII(H−2)のハプロタイプがf、d、或いは、k型のB10.M、B10.D2、B10.BRの3種のコンジェニックマウスでは、他のタイプMHCクラスII(H−2)のハプロタイプのマウス比較して、ユニットペプチド及びPAcに特異的な抗体の産生が強く誘導された(約10倍以上)。このことから、このユニットペプチドには、H−2のクラスIIがd、f、k型の複数のハプロタイプのコンジェニックマウスにおいて、抗PAc抗体を誘導するためのB細胞エピトープと、抗原提示に必要な、複数のMHCクラスIIのハプロタイプ(H−2d,f,k型)の拘束を受ける複数のT細胞エピトープとが、共存していることが明らかになった。また、13残基の短鎖ペプチドからなるユニットペプチド中に、MHCクラスII(H−2A)の複数種のハプロタイプに同時に応答できる、マルチアグレトープ型のT細胞エピトープを有するペプチド抗原が存在することは、1種類の短いポリペプチドを使用しても、MHCクラスIIハプロタイプの異なる複数の個体に、効率的に抗体産生を誘導できるT細胞エピトープを有するポリペプチドを、人為的に設計できる可能性を示唆している。
実験例2:マウスにおけるマルチアグレトープ型T細胞エピトープの確認
実験例1でユニットペプチドに、マルチアグレトープ型のT細胞エピトープの存在が確認されたため、マウスにおけるマルチアグレトープ型T細胞エピトープとして機能するアミノ酸配列とその位置関係を確認するための実験を以下のようにして行った。ユニットペプチドのアミノ酸残基を順次バリンに置き換えたバリン置換ペプチドを合成し、それらを前述のユニットペプチド応答マウスに免疫することにより、抗体誘導に不可欠のアミノ酸残基をそれぞれ推定した。さらに、推定アグレトープに関与する全てのアミノ酸をバリンで同時に置換した位置限定バリン置換ペプチドをそれぞれ合成し、実験例1と同様の方法、スケジュールで、各コンジェニックマウスを免役し、実験例1と同様に、血清中の抗体価をELISAを用いて測定し、その免疫による抗体誘導能の検討から、それぞれのMHCクラスIIのハプロタイプに対応するユニットペプチド抗原上のアグレトープを決定した。その結果を表2にまとめて示す。なお、表2には、各々のMHCクラスIIのハプロタイプで認識されるユニットペプチド上のアミノ酸のみを表記した。

表2から明らかなように、それぞれのMHCクラスIIのハプロタイプで認識されるために必要な4又は5個のアミノ酸残基(アグレトープ)が、何れでも、アミノ酸13残基のユニットペプチド分子内に重複およびシフトして共存しており、ユニットペプチド内に、マルチアグレトープ型T細胞エピトープとして、各々のMHCクラスIIのハプロタイプにより認識されるアミノ酸の位置関係が確認された。
実験例3:マルチアグレトープ型ペプチド抗原の人為的構築
前記ユニットペプチドのアミノ酸配列に手を加えることにより、人為的にMHCクラスIIハプロタイプによる拘束に関するマウスの免疫応答を変化させることが可能か否か検討した。実験例2で決定したB10.D2(d)或いはB10.M(f)マウスにそれぞれ対応するアグレトープの一部が共存するユニットペプチド分子上の部位(配列表における配列番号1のアミノ酸配列を有するユニットペプチドのアミノ末端から10〜12番)のアミノ酸残基を意図的に他のアミノ酸残基と置換した、配列表における配列番号12(以下、「YQTELペプチド」という。)、配列番号13(以下、「YETDLペプチド」という。)、配列番号14(以下、「YETALペプチド」という。)、また、配列番号1(以下、「YEADLペプチド」という。)に記載のアミノ酸配列を有するペプチド、ユニットペプチドのカルボキシル末端にリジン−グルタミン−チロシンをさらに結合した、配列表における配列番号15(以下、「YEADLKQYペプチド」という。)に記載のアミノ酸配列を有するペプチド、及び、ユニットペプチドのアミノ末端に、B10.S(s)マウスが認識するT細胞エピトープとして公知のPAcのアミノ末端から305〜318のアミノ酸配列を有する配列表における配列番号16に記載のアミノ酸配列を有するペプチド(以下、「PAc(305〜318)」という。)を連結して、配列表における配列番号17(以下、「ユニットペプチド−PAc(305〜318)」という。)又は上記両ポリペプチドを逆順に連結した配列表における配列番号18(以下、「PAc(305〜318)−ユニットペプチド」という。)に記載のアミノ酸配列を有するペプチドを、それぞれ合成して、これらのポリペプチドを、実験例1と同様の、免疫方法、スケジュールで一連のB10コンジェニックマウスに免疫し、追加免疫の2週間後に、各マウスから採血し、これから血清を分離後、生理食塩水で512倍に希釈して、実験例1と同様のELISA法で測定し、免疫に使用した各々のポリペプチドに対する各々のコンジェニックマウスにおける抗体産生の誘導程度を、405nmの吸光度で比較した。その結果を表3に示す。また、ユニットペプチド−PAc(305〜318)或いはPAc(305〜318)−ユニットペプチドで免疫したマウスの血清中のユニットペプチドに特異的な抗体量の測定結果を表4に示す。なお、吸光度が、0.1以上の場合には、希釈した血清中に、ユニットペプチドに対する抗体が存在すると判定した。


表3から明らかなように、ユニットペプチドのアミノ酸を意図的にデザインすることにより、YQTELペプチドで免疫した場合には、B10.BR(k)1種類のみに抗体産生産生が誘導されたのに対して、YEADLペプチド(ユニットペプチド)で免役した場合には、B10.S(s)及びB10.SM(v)を除く3種のマウスに同時に抗体の産生が誘導された。このことから、ペフチド中の1〜3個のアミノ酸の種類を変えることにより、異なるMHCクラスIIのハプロタイプを有する個体において、そのユニットペプチドに対する免疫応答性を変化させることができることが確認された。また、YEADLKQYペプチドのように、ユニットペプチドのカルボキシル末端にリジン−グルタミン−チロシンを附加することにより、MHCクラスIIのハプロタイプの型の異なる、B10.S(s)を除く4種類のマウスで抗体の産生が誘導された。さらに、表3及び表4から明らかなように、PAc(305〜318)−ユニットペプチドのように、ユニットペプチドのアミノ末端に、このユニットペプチドに不応答マウスであるB10.S(s)が応答することが知られているT細胞エピトープであるPAc(305〜318)ペプチドを連結することによりs型を含む5種類のMHCクラスII型を有する個体で、同時にユニットペプチドに対する抗体が誘導できるマルチアグレトープ型ペプチド抗原となることが確認された。これらのことから、抗原上の複数のMHCクラスIIのハプロタイプによる拘束性に関与するアミノ酸配列の解析を行い、その結果に基づき、個々のMHCクラスIIのハプロタイプの拘束を受けるアミノ酸配列を重複させたアミノ酸配列を有するペプチドを人為的にデザインすることにより、抗原に対する抗体産生を効率的に誘導でき、複数のMHCクラスIIのハプロタイプの拘束を同時に受けることができる重複型のマルチアグレトープ型T細胞エピトープの構築が可能であることが確認された。また、複数のT細胞エピトープをタンデムに結合することにより調製したクラスター型T細胞エピトープも、重複型エピトープと同様に、複数のMHCクラスIIのハプロタイプの拘束を受ける個体に対する、抗体産生を効率よく誘導するT細胞エピトープとなることが確認された。また、表4から明らかなように、PAc(305〜318)とユニットペプチドを連結したポリペプチドで免役したマウスにおける、ユニットペプチドに対する抗体の産生は、免疫に使用したポリペプチドのカルボキシル末端側にユニットペプチドを連結した場合の方が、アミノ末端側に連結したものよりも、抗体産生の増強が強い傾向が認められた。
実験例4:ヒト用マルチアグレトープ型ペプチド抗原の人為的構築
上記実験例3の結果に鑑み、MHCクラスIIハプロタイプの拘束に起因するヒトによる免疫原性の強弱の解決策として、公知のヒトのMHCクラスIIハプロタイプ(HLA−DR)拘束に対するT細胞エピトープの拘束モチーフ(アグレトープ配置)に基づき、配列表における配列番号19に記載のアミノ酸配列を有する、複数のMHCクラスIIのハプロタイプの拘束に対して同時に応答可能な重複・シフト型のマルチアグレトープ型ペプチド(Overlapping Multiagretope Peptide:以下の実験では、このペプチドを「OMP」と略記する。)を構築した。なお、具体的なデータは示さないが、このポリペプチドは、マウスにおいても、T細胞のマルチアグレトープとしての機能を有することが確認された。なお、表5として、ヒトのMHCクラスIIであるHLA−DRの各々のハプロタイプにより認識されるOMP上のアミノ酸のみを示した。

実験例5:ポリペプチドの特異抗体産生の増強に及ぼすリンカーペプチドの影響
実験例3で調製した短鎖のユニットペプチドでは免疫原性が弱く、その免疫原性の増強のために、ポリペプチドをタンデムに連結することを検討したものの、このままでは、連結により生じた新たなエピトープに対する抗体産生も増強されることを考慮し、B細胞エピトープが正確に提示されることを目的として、T細胞エピトープを含むポリペプチドとB細胞エピトープを含むポリペプチドの間に、抗原提示細胞で抗原のプロセッシングに関与するエンドソーム内プロテアーゼ(カテプシンB)の認識配列であるKKをリンカーペプチドとして挿入し、その抗体産生の増強に対する影響を確認する実験を以下のように行った。実験例4で調製したOMPはマウスのT細胞エピトープのアミノ酸配列も含んでいることから、このOMPと、B細胞エピトープを含むペプチドとなるユニットペプチドとの間に、KKのアミノ酸を挿入した、配列表における配列番号20(以下、「OMP−KK−ユニットペプチド」と略記する。)、及び、配列番号21(以下、「ユニットペプチド−KK−OMP」と略記する。)記載のアミノ酸配列からなる2種類のポリペプチドを合成し、実験例1と同様の方法により、BALB/cマウスの腹腔内に免疫し、実験例1と同様に、ELISAにより、その血清中の、OMP、免役したポリペプチド、及び、PAcに対する抗体価を測定した。その結果を表6に示す。

表6から明らかなように、リンカーペプチドのKKを挟んでT細胞エピトープであるOMPをポリペプチドのアミノ末端側に、B細胞エピトープであるユニットペプチドをカルボキシル末端側に位置させることにより、効率の良い抗体の誘導が認められた。また、この傾向は、実験例3でもマウスの系統にかかわらず同様であり、とりわけ、ユニットペプチドのアミノ酸配列にはT細胞エピトープが存在せず、PAc(305〜318)のアミノ酸配列にのみにT細胞エピトープが存在するB10.S(s)においては顕著であった(表4参照)。以上から、リンカーペプチドを挟んでアミノ末側のペプチドがT細胞エピトープとして、またカルボキシル末側のペプチドがB細胞エピトープとしてより効果的に認識されることが明らかとなった。
実験例6:細胞接着分子の細胞結合モチーフ附加によるペプチド抗原の鼻腔免疫における免疫原性の増強
配列表における配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドは抗う蝕活性を有する抗体を産生誘導することができるが、この2分子をリジン−リジンからなるリンカーで連結したポリペプチド(配列表における配列番号22:ユニットペプチド−KK−ユニットペプチド、以下、「ジユニットペプチド」という。)は、注射(皮下或いは腹腔)による免疫においては、より効果的に抗体産生誘導が可能であり、免疫アジュバントを必要しない。しかしながら、経鼻免疫においては十分な抗体誘導能を示さないので、免疫アジュバントの同時投与が必要である。そこで、経鼻免疫における抗原性を増強することを目的として、ジユニットペプチドを粘膜面に長く留めるために、インテグリンファミリー等を介しての細胞接着性が証明されているタンパク質(フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン等)のインテグリン結合モチーフや他の細胞接着モチーフのアミノ酸配列を当該ペプチドに附加することによる免疫原性に対する影響を確認するための実験を以下のように行った。すなわち、前記ジユニットペプチドの、アミノ末端側に、細胞接着アミノ酸配列としてRGD、RED、LDV、PHSRN、RKK、DGEA及びYIGSR、IKVAV、IRVVM、及びRFYVVMWKから選ばれる何れか1種又は2種を連結したポリペプチドを合成した。また、対照として、ジユニットペプチドのみ、及び、このポリペプチドに、単独では細胞接着能が無いとされているカドヘリン関連の配列表における配列番号23(以下、「DRE」と略記する。)、配列番号24(以下、「DED」と略記する。)配列番号25(以下、「HAV」と略記する。)に記載のアミノ酸配列を有するペプチドを連結したポリペプチドを合成した。一群5匹のBALB/cマウス(日本SLC株式会社、雌、5週令)に、リン酸緩衝生理食塩水(以下、「PBS」と略記する。)または蒸留水に50μg/4μlの濃度で無菌的に溶解した各種ポリペプチド溶液を、片鼻2μl、計4μl(50μg/個体/回)、鼻腔から滴下により吸入させた。なお、さらに、陰性対照として、ジユニットペプチドのみを経鼻投与した群、及び、陽性対照として、ジユニットペプチドと共にCT1μgを投与した群を設定した。また、ユニットペプチド−KK−ユニットペプチド及びこれにRGDを連結したポリペプチドは、腹腔内投与も行った。初回免疫の2週間後に、追加免疫として、各々初回と同種類、同量のポリペプチドを同条件下に経鼻的に投与した。さらに、その2週間後に、各々前回と同一種類、同一量のポリペプチドを同条件下で投与し、その一週後、マウスの血清中の、PAc、ジユニットペプチド、CT、ジユニットペプチドに細胞接着アミノ酸配列を附加したポリペプチドの各々に対する抗体価を、実験例1と同様のELISA法によりそれぞれ測定した。また、RGD或いYIGSRを附加したポリペプチドについては、これらのペプチドが、抗体産生の増強に関与していることを確認するために、その阻害剤として知られている、RGDS(配列表における配列番号26)或いはYIGSR(配列表における配列番号8)の過剰量を同時に添加して、同様に免疫を行った。その結果を表7に示す。なお、RGD、RED、LDV、PHSRN、RKK、DGEA及びYIGSR、IKVAV、IRVVM、及びRFYVVMWKから選ばれる何れか1種又は2種以上を附加したジユニットペプチドで免疫したマウスでは、何れも、ユニットペプチドに対する抗体の産生が増強され、DRE、DED、或いは、HAV附加したジユニットペプチドで免疫したマウスでは何れも、ユニットペプチドに対する抗体の産生が増強されなかったので、表7では、ジユニットペプチド、配列表における配列番号27(以下、「RGD−ジユニットペプチド」という。)、配列番号28(以下、「RED−ジユニットペプチド」という。)、配列番号29(以下、「YIGSR−ジユニットペプチド」という。)、配列番号30(以下、「DED−ジユニットペプチド」という。)、配列番号31(以下、「HAV−ジユニットペプチド」という。)に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドで免疫した結果のみを示す。

表7から明らかなように、ジユニットペプチドを単独で経鼻投与したのでは、ほとんどユニットペプチドに対する抗体産生の誘導が認められないのに対して、インテグリン結合モチーフのRGD、RED、或いは、ラミニン結合タンパク質に対するラミニン分子上の結合モチーフのYIGSRを附加したRGD−ジユニットペプチド、RED−ジユニットペプチド、或いは、YIGSR−ジユニットペプチドを経鼻投与した場合には、抗体産生の増強効果が認められた。なお、その際に、インテグリンへの結合阻害剤であるRGDSやYIGSRの短鎖ペプチドを過剰量共存させた場合には、PAcに特異的な抗体の産生が抑制された。この結果は、RGDやYIGSRなどの細胞接着分子のモチーフの附加が、ポリペプチドのもつ抗体産生の誘導能をさらに増強する効果があること、その効果は、ジユニットペプチドが粘膜細胞膜に存在するインテグリンに結合することにより発揮することが示唆された。
実験例7:経粘膜投与ペプチドワクチンの抗体産生増強に対する細胞接着分子の影響
実験例6のジユニットペプチドで証明されたインテグリン結合モチーフの附加の及ぼす、他のペプチド抗原による抗体産生の増強への影響、及び、インテグリン結合モチーフの附加部位の違いによる抗体産生増強への影響を調べる実験を、以下のように行った。実験例5でPAcに対する特異抗体の産生増強能の高いことが確認された、OMP−KK−ユニットペプチドのOMP、或いは、ユニットペプチドのアミノ末端側又はカルボキシル末端側に、実験例6で、ポリペフチドの抗体産生の誘導の増強作用が示唆された細胞接着分子のインテグリン結合モチーフとして知られているRGDを、挿入して、「RGD−OMP−KK−ユニットペプチド」(配列表における配列番号32)、「OMP−RGD−KK−ユニットペプチド」(配列表における配列番号33)、「OMP−KK−RGD−ユニットペプチド」(配列表における配列番号34)、「OMP−KK−ユニットペプチド−RGD」(配列表における配列番号35)という配列を有する合計4種類のポリペプチドを合成した。なお、陽性対照として、経粘膜投与でアジュバント活性を有することが既に知られているCTを使用した。これらのポリペプチド或いはポリペプチドとCTの混合液を使用して、実験例6と同じ方法により、B10マウスを免疫して、その抗体産生の増強を誘導する効果の有無を判定した。その結果を表8に示す。

表8から明らかなように、OMP−KK−ユニットペプチドにRGDを挿入するとPAcに対する抗体産生が強く増強された。特に、RGDをOMPのアミノ末端側或いはカルボキシル末端側に挿入した場合に、言い換えれば、リンカーを挟んでN末端側に挿入した場合に、目的とする抗体の産生量はアジュバントとしてCTを用いた場合よりも顕著に強く増強され、かつ、誘導される抗体のほとんどがPAcと反応する抗体であることが確認された。一方、リンカーを挟んでC末端側に挿入した場合、誘導される抗体の多くは、RDG配列を含むペプチド部分由来と反応する抗体であることが確認された。
これらのことから、アジュバント非存在下における経鼻免疫においてもリンカーを挟んでアミノ末側のペプチドがT細胞エピトープとして、またカルボキシル末側のペプチドがB細胞エピトープとしてより効果的に認識され、目的とするB細胞エピトープに特異的な抗体産生を効率的に増強し、しかも、リンカーを挟んでアミノ末端側にRGD配列を附加することにより、産生される抗体のほとんどをPAcのみと反応する抗体とすることができることが明かとなった。
実験例8:経粘膜投与ペプチドワクチンの基本デザインの普遍性
実験例7で調製したRGD−T細胞エピトープ−KK−B細胞エピトープで構成されたポリペプチドのT細胞エピトープとB細胞エピトープの何れか一方を、OMP或いはユニットペプチド以外のポリペプチドで置き換えた場合の、B細胞エピトープに対する抗体産生の増強への影響を調べる実験を以下のように行った。T細胞エピトープとして、種を問わず幅広いMHCクラスIIハプロタイプの拘束性がすでに報告されている、配列表における配列番号36記載のHIV IIIB gp120由来のマルチアグレトープ型T細胞エピトープであるT1ペプチド(ジェイ・ディー・アーラーズ(Ahlers J.D.)著、プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシーズ・ユーエスエイ(Proceedings of the National Academy of Sciences USA)、第94巻、第20号、10856乃至10861頁(1997年)参照。)(以下、「T1」と略記する。)を使用し、B細胞エピトープとしてBALB/cマウスにおいて卵白アルブミン(以下、「OVA」と略記する。)に対する抗体を誘導することが知られている、配列表における配列番号37記載のアミノ酸配列からなるOVA由来の14残基のペプチド(以下、「OVAp」と略記する)(ディー・エフ・ハント(Hunt D.F.)、サイエンス(Science)、第256巻、1817乃至1820頁(1992年)参照。)を使用して、「RGD−OMP−KK−OVAp」(配列表における配列番号38)、或いは、「T1−RGD−KK−ユニットペプチド」(配列表における配列番号39)からなるポリペプチドを合成した。また、対照として、「OMP−KK−OVAp」(配列表における配列番号40)又は「T1−KK−ユニットペプチド」(配列表における配列番号41)を用意した。これらのポリペプチドを、各々、実験例6と同様の方法で、BALB/cマウスに鼻腔免疫を行った。その結果を表9に示す。

表9から明らかなように、RGD−OMP−KK−OVAp、或いは、T1−RGD−KK−ユニットペプチドからなるポリペプチドを経鼻免疫したマウスでは、OVA或いはPAc特異的な抗体の産生が増強された。すなわち、RGDを附加したポリペプチドで免疫した場合には、RGDを附加していないポリペプチドで免役した場合よりも強い抗体産生の増強が認められた。
実験例9:本発明のポリペプチドによる他の抗原の抗体産生増強効果
通常、アジュバントとして用いるCTは抗原性が強く、経鼻的に投与すると、CTに対する抗体が誘導されるだけでなく、CTと同時に経粘膜投与した、CT以外の抗原に対する抗体産生を増強することが知られている。一方、実験例7及び実験例8から明らかなように、RGD−OMP−KK−ユニットペプチド、OMP−RGD−KK−ユニットペプチド、RGD−OMP−KK−OVAp或いはT1−RGD−KK−ユニットペプチドからなる本発明のポリペプチドは、CTを免疫アジュバントとして用いなくても、それらの単独の経鼻投与で、それぞれのポリペプチドに特異的な抗体の産生が誘導された。さらに、本発明のポリペプチドが、他の抗原に対して抗体産生増強作用を示すかどうかの確認のための実験を以下のように行った。
<牛血清アルブミンの経鼻投与に及ぼす各種ポリペプチド影響>
牛血清アルブミン(以下、「BSA」と略記する。)4μgと、ジユニットペプチド1μg、RGD−ユニットペプチド−KK−ユニットペプチド1μg、OMP−KK−ユニットペプチド1μg、OMP−RGD−KK−ユニットペプチド1μg、OMP−KK−OVAp1μg、RGD−OMP−KK−OVAp1μg或いはCT2μgの何れかを混合した生理食塩水溶液を調製し、各々、実験例6と同様の方法で、BALB/cマウスに鼻腔免疫を行い、血中の抗体価を測定した。その結果を表10に示す。なお、測定は、BSA、BSAと共に投与したペプチド、及び、CTに対する抗体について行った。
<卵白アルブミンの経鼻投与に及ぼす各種ポリペプチド影響
OVA4μgとOMP−RGD−KK−ユニットペプチド1μg、OMP−RGD−KK−OVAp1μg或いはCT2μgの何れか1種を混合した生理食塩水溶液を調製し、各々、実験例6と同様の方法で、B10.D2マウス或いはBALB/cマウスに鼻腔免疫を行い、血中の抗体価を測定した。その結果を表10に示す。なお、測定は、OVA、OMP−RGD−KK−OVAp、及び、CTに対する抗体について行った。

表10から明らかなように、BSA或いはOVAを単独で経鼻投与しても、血液中には、これらのポリペプチドに対する抗体はほとんど誘導されなかった。これに対して、BSA又はOVAと、OMP−RGD−KK−ユニットペプチド、OMP−KK−OVAp又はRGD−OMP−KK−OVApの何れか1種とを同時に投与したマウスでは、BSA或いはOVAに対する強い抗体の産生が誘導された。また、BSAとRGD−ユニットペプチド−KK−ユニットペプチド又はOMP−KK−ユニットペプチドとを同時に投与した場合にも、BSA又はOVAに対する抗体の産生が誘導されるものの、増強の程度は、OMP−RGD−KK−ユニットペプチド、OMP−KK−OVAp又はRGD−OMP−KK−OVApと同時に投与した場合よりも低かった。BSA又はOVAと、CTとを投与しした場合にも、BSA又はOVAと、OMP−RGD−KK−ユニットペプチド、OMP−KK−OVAp又はRGD−OMP−KK−OVApの何れか1種を同時に投与した場合と同程度の抗体産生が認められた。しかしながら、実験に使用した1μgのOMP−RGD−KK−ユニットペプチド、OMP−KK−OVAp或いはRGD−OMP−KK−OVApの何れかを同時に投与した場合には、これらのペプチドに対する抗体の産生は、わずかであったのに対して、2μgコレラトキシンを同時に投与した場合には、CTに対する抗体も強く誘導された。これらのことから、OMP−RGD−KK−ユニットペプチド、OMP−KK−OVAp或いはRGD−OMP−KK−OVApは、自己に対する抗体産生を誘導する量以下の量、あるいは、少量の自己抗体を誘導する量を、他の抗原と同時経鼻投与することにより、同時に投与した自己以外の抗原の抗体産生を誘導する免疫アジュバントとして使用できることが確認された。
以上の実験結果から、種々のT細胞エピトープと種々のB細胞エピトープを組み併せて、その間にKKなどのプロテアーゼの認識配列をリンカーペプチドとして挿入し、さらに、このペフチドに細胞接着分子のモチーフを附加したポリペプチドは、B細胞エピトープ或いはそれを含む抗原に対する抗体の産生を増強することのできることが明らかとなった。また、これらのポリペプチドは、経鼻のような経粘膜投与でも免疫アジュバントを併用することなしに、投与したポリペプチドの中のB細胞エピトープに対する抗体を、効率よく誘導でき、しかも、それ以外の部位に対する不要な抗体の産生がほとんどないため、特異的な抗体産生の誘導剤、或いは、抗体産生の増強剤として使用できることが確認された。また、これらのポリペプチドを投与された生体では、免疫に使用したB細胞エピトープが由来する抗原性タンパク質を認識する抗体が効率よく産生されることから、本発明のポリペプチドは、経鼻免疫をはじめとする経粘膜免疫において、免疫アジュバントを必要とせずに、目的とする感染防御抗体や毒素、酵素類の活性の中和抗体やアレルゲンに対する抗体などの種々の抗原に対す抗体の誘導が可能であることを示しており、しかも、広範なMHCクラスIIのハプロタイプに拘束された個体に、抗体産生を効率的に誘導できることから、感染防御などの目的で使用する、経鼻粘膜免疫用ペプチドワクチンとして使用できることが示された。また、これらポリペプチドは、他の抗原と同時に粘膜免疫されたとき、免疫アジュバントとして機能することも明かとなった。
以下に、実施例で、本発明のポリペプチドについて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例1:PAcに対する抗体の産生の増強用の組成物
実験例7の方法に準じて調製した、RGD−OMP−KK−ユニットペプチド、RGD−OMP−KK−ユニットペプチド、RGD−OMP−KK−ユニットペプチド及びOMP−KK−ユニットペプチド−RGDの何れか1種を100μg/mlとα,α−トレハロース(試薬級 株式会社林原生物化学研究所販売)を40%となるように、蒸留水に溶解し、常法により滅菌してシラップ剤を得た。これを滅菌バイアル瓶に2mlずつ分注し、密閉して、ポリペプチド含有シラップ剤を調製した。本品は、安定性に優れ、広範なMHCクラスIIのハプロタイプに拘束されるため、多くのヒトや動物で、経鼻、或いは、経口的に投与することにより、う蝕予防活性を有する抗体産生を効率的に増強するワクチン効果を発揮することができる。また、本品は、経粘膜や経皮などの投与により、これとともに投与した、他の抗原の抗体産生を増強する免疫アジュバントとしても有利に利用できる。
実施例2:PAcに対する抗体の産生の増強用の組成物
安定剤として、1%(w/v)のショ糖を含む生理食塩水に、実験例7の方法に準じて調製したRGD−T1−KK−ユニットペプチドを、各々10μg/ml、100μg/ml又は、1,000μg/mlとなるように溶解し、ろ過滅菌した。これを滅菌バイアル瓶に1mlずつ分注し、常法により、凍結乾燥して、密閉し、ポリペプチド含有製剤を調製した。本品は、安定性に優れた、う蝕予防効果に優れた、経粘膜摂取或いは注射用の製剤である。本品は、何れも、注射用蒸留水1mlに完全に溶解して使用する。また、本品は、何れも、安定性に優れ、広範なMHCクラスIIのハプロタイプに拘束されるため、多くのヒトや動物で、経鼻、或いは、経口的に投与することにより、う蝕予防活性を有する抗体産生を効率的に増強するワクチン効果を発揮することができる。また、本品は、経粘膜や経皮などの投与により、これとともに投与した、他の抗原の抗体産生を増強する免疫アジュバントとしても有利に利用できる。
実施例3:ポリペプチド含有組成物の毒性試験
実施例1或いは、実施例2で調製したポリペプチドを12.5mg/mlとなるように、0.5%のショ糖を含有する生理食塩水で希釈し、これを、生後5週令のDDY系の雄マウスに、常法により経口、腹腔内又は、筋肉内に投与して、LD50を検討した。これらの標品は何れも、LD50がポリペプチド質量に換算して100mg/kgマウス体重以上であり、このことは、本発明のポリペプチドが、ヒトや動物に投与しても、毒性のない、安全な製剤であることを示している。
実施例4:HIVに対する抗体産生の増強用の組成物
T細胞エピトープとしてOMP、T1、HLA−DR1、2、3、4、5、6、7、8、9、51、52、53に結合することが報告されている、配列表における配列番号42記載のHIV−1由来のgag298−312ペプチドと相同のアミノ酸配列を有するペプチド、又は、配列表における配列番号43記載のHIV−1由来のpol596−610(シー・シー・ウイルソン(Wilson,C.C.)著、ジャーナル・オブ・バイロロジー(Journal of Virology.75,4195−4207(2001)参照。)と相同のアミノ酸配列を有するペプチドから選ばれる何れか1つを用い、RGDをそのアミノ又はカルボキシル末端に配し、KKからなるリンカーペプチドをはさんでカルボキシル末端側にHIV中和抗体を誘導するためのB細胞エピトープとして、配列表における配列番号44に記載のアミノ酸配列からなるHIVのgp120蛋白のV3のloopペプチドと相同のペプチド(ビー・エフ・ヘイネス著(Haynes,B.F.)、ザ・ジャーナル・オブ・イムノロジー(The Journal of Immunology)、第151巻、1646乃至1653頁、(1993年))を配したポリペプチドを調製した。これらのペプチドから選ばれる何れか1種又は2種を各々150μg/mlとマンニトール100mg/ml含有する生理食塩水溶液を調製した。これらを、5ml容のバイアル瓶に1ml/バイアルとなるように分注し、常法により凍結乾燥した。本品は、広範なMHCクラスIIのハプロタイプに拘束されているため、ヒトに経粘膜や経皮などの投与により、多くのヒトでHIVに特異的な抗体の産生を効率よく増強することができることから、HIV感染の広がり、或いは、HIV感染者の発症を遅延させるワクチンの目的で有利に使用できる。また、本品は、経粘膜投与などにより、これとともに投与した、他の抗原の抗体産生を増強する免疫アジュバントとしても有利に利用できる。
実施例5:インフルエンザウイルスに対する抗体の産生増強用の組成物
T細胞エピトープとしてOMP、T1、配列表における配列番号42及び配列番号43記載のアミノ酸配列を有するペプチドから選ばれる何れか1つを用い、RGD或いはYIGSRをそのアミノ又はカルボキシル末端に配し、KKリンカーペプチドをはさんでカルボキシル末端側にインフルエンザウイルスの中和抗体を誘導するためのB細胞エピトープとして、配列表の配列番号45記載のインフルエンザウイルスのヘムアグルチニン(HA)蛋白アミノ末端からの91〜108番目のアミノ酸配列と相同のアミノ酸配列を有するペプチド(ティー・ベン−イエディディア著(Ben−Yedidia,T.)、モレキュラー・イムノロジー(Molecular Immunology)、第39巻,323乃至331頁、(2002年))を配したペプチドワクチンを、常法により合成した。これらのポリペプチドから選ばれる何れか1種又は2種を各々75μg/mlとヒトアルブミン0.5mg/ml含有する生理食塩水溶液を調製した。これらを、5ml容のバイアル瓶に1ml/バイアルとなるように分注し、常法により凍結乾燥した。本品は、広範なMHCクラスIIのハプロタイプに拘束されるため、多くのヒトや動物で、経粘膜や経皮などで投与することにより、インフルエンザウイルスに特異的な抗体の産生を効率よく増強することができるワクチン効果を有することから、インフルエンザウイルスの感染を防御することができる。また、本品は、経粘膜投与などにより、これとともに投与した、他の抗原の抗体産生を増強する免疫アジュバントとしても有利に利用できる。
実施例6:パピローマウイルスワクチン
T細胞エピトープとしてOMP、T1、配列表における配列番号42及び配列番号43記載のアミノ酸配列を有するペプチドから選ばれる何れか1つを用い、RGDをそのアミノ末端又はカルボキシル末端に配し、KKリンカーペプチドをはさんでカルボキシル末端側にヒトパピローマウイルスの中和抗体を誘導するためのB細胞エピトープとして、配列表における配列番号46記載のL2:蛋自由来の部分アミノ酸配列と相同のアミノ酸配列を有するペプチド(ケイ・カワナ(Kawana,K.)著、ワクチン(Vaccine)、第19巻、1496乃至1502頁、(2001年))を配したポリペプチドワクチンを調製した。これらのペプチドから選ばれる何れか1種又は2種を各々200μg/mlとゼラチンを0.25mg/ml含有するリン酸緩衝生理食塩水溶液を調製した。これらを、5ml容のバイアル瓶に0.5ml/バイアルとなるように分注し、常法により凍結乾燥した。本品は、広範なMHCクラスIIのハプロタイプに拘束されるため、ヒトに経粘膜や経皮などの投与により、多くのヒトでパヒローマウイルスに特異的な抗体の産生を効率よく増強することができることから、ヒトパピローマウイルスの感染を防御できる。また、本品は、経鼻投与などの経粘膜により、これとともに投与した、他の抗原の抗体産生を増強する免疫アジュバントとしても有利に利用できる。
実施例7:OVA抗体産生用組成物
実験例8の方法で調製した、RGD−OMP−KK−OVApのアミノ酸配列を有するポリペプチドを100μg/mlとα,α−トレハロース(試薬級、株式会社林原生物化学研究所販売)を40%となるように、蒸留水に溶解し、常法により滅菌してシラップ状物を得た。これを滅菌バイアル瓶に2mlずつ分注し、密閉して、ペプチドワクチン含有シラップを調製した。本品は、安定性に優れ、動物に、経鼻、或いは、経口的、経皮的などに投与することにより、OVAに対する抗体を効率的に増強することができる。また、本品は、経鼻投与などにより、これとともに投与した、他の抗原の抗体産生を増強する免疫アジュバントとしても有利に利用できる。
実施例8:インフルエンザワクチンの抗体産生増強用の組成物
生理食塩水1mlあたり、市販のインフルエンザHAワクチン(藤沢薬品工業株式会社販売)4μgあるいはHAやM蛋白質などのウイルス表層抗原性タンパク質とRGD−OMP−KK−OVAp又はRGD−OMP−KK−ユニットペプチド1μgとを含有する標品を調製した。これを、滅菌バイアル瓶に0.5mlずつ分注し、密閉した。本品は、ウイルス表層抗原性タンパク質とRGD−OMP−KK−OVAp又はRGD−OMP−KK−ユニットペプチドのもつ免疫アジュバント作用により、そのままでは、経粘膜投与しても抗体産生を誘導することのできないインフルエンザワクチンの経鼻などの経粘膜投与による抗体産生を増強するので、本品を、2週おきに3回ないし4回鼻腔に投与することにより、インフルエンザの感染を防御する抗体の産生を増強することができるワクチンとして使用することができる。
実施例9:スギ花粉症経口減感作治療用組成物
T細胞エピトープとしてOMP、T1、配列表における配列番号42及び配列番号43記載のアミノ酸配列を有するペプチドから選ばれる何れか1つを用い、RGDをそのアミノ末端又はカルボキシル末端に配し、KKリンカーペプチドをはさんでカルボキシル末端側にスギ花粉アレルゲン抗体を誘導するためのB細胞エピトープとして、Cryj1のB細胞エピトープであるVHPQDGDA(ワイ・タムラ(Tamura,Y.)著、インターナショナル・アーカイブズ・オブ・アレルギー・アンド・イムノロジー(International Archives of Allergy and Immunology)、第123巻、第3号、228乃至235頁、(2001年))及びCryj2のB細胞エピトープであるKWVNGREI(ワイ・タムラ(Tamura,Y.)著、クリニカル・アンド・エクスペリメンタル・アレルギー(Clinical and Experimental Allergy)、第33巻、第2号、211乃至217頁、(2003年))をKKで連結した配列表における配列番号47記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドを配し、これらのペプチドから選ばれる何れかを各々200μg/mlとゼラチンを0.25mg/ml含有するリン酸緩衝生理食塩水溶液を調製し、スギ花粉症減感作治療用の組成物を得た。本品は、広範なMHCクラスIIのハプロタイプに拘束されるため、ヒトに経粘膜や経皮などの投与により、多くのヒトで粘膜投与により、スギ花粉アレルゲンCryj1及びCryj2に特異的なIgG抗体を優位に産生することから、経口投与によるスギ花粉症経口減感作治療薬として有用である。
【産業上の利用可能性】
以上説明したとおり、本発明は、特定の抗原ペプチドを含み、目的とする抗原エピトープに対する特異的な抗体の産生を、免疫アジュバント非存在下においても特異的に増強するポリペプチド及そのポリペプチドを含有する組成物に関するものである。しかも、本発明のポリペプチドは、免疫アジュバントを用いる必要もなく、また、経鼻投与や経口投与などの経粘膜投与で使用できることから、注射による経皮投与などに比して、簡易かつ安全な、広範なMHCクラスIIのハプロタイプに拘束されるため、多くのヒトを含む哺乳動物や鳥類、爬虫類、魚類などの抗体産生を行う動物用のワクチン或いは特異抗体産生の増強用の抗原として使用することができる。また、本発明のポリペプチドは、これとともに投与した、他の抗原の抗体産生を増強する免疫アジュバントとして使用することもできる。
【配列表】













【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ末端側にT細胞エピトープのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有し、リンカーペプチドをはさんで、そのカルボキシ末端側にB細胞エピトープのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有するペプチド内に、1種又は2種以上の細胞接着分子の細胞結合モチーフのアミノ酸配列を1種又は2種以上有することを特徴とするポリペプチド。
【請求項2】
リンカーペプチドが、リジン−リジン、リジン−アルギニン及びアルギニン−アルギニンからなるジペプチドから選ばれる1種又は2種以上で構成されていることを特徴とする請求の範囲第1項に記載のポリペプチド。
【請求項3】
細胞接着分子の細胞結合モチーフが、配列表における配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10及び配列番号11記載のアミノ酸配列を有するペプチドから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求の範囲第1項又は第2項記載のポリペプチド。
【請求項4】
細胞接着分子の細胞結合モチーフが、インテグリンファミリー結合モチーフから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求の範囲第1項又は第2項記載のポリペプチド。
【請求項5】
T細胞エピトープが、マルチアグレトープ型であることを特徴とする請求の範囲第1項、第2項、第3項又は第4項記載のポリペプチド。
【請求項6】
B細胞エピトープが、疾患の原因となる抗原性タンパク質由来であることを特徴とする請求の範囲第1項、第2項、第3項、第4項又は第5項に記載のポリペプチド。
【請求項7】
疾患の原因となる抗原性タンパク質がストレプトコカス・ミュータンス セロタイプC菌の表層蛋白質抗原、HIVタンパク質、インフルエンザウイルスタンパク質、パピローマウイルスタンパク質、オブアルブミン及びスギ花粉抗原から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求の範囲第6項に記載のポリペプチド。
【請求項8】
請求の範囲第1項、第2項、第3項、第4項、第5項、第6項又は第7項に記載のポリペプチドをコードするDNA又はRNA。
【請求項9】
請求の範囲第8項に記載のDNAを導入した微生物又は動植物。
【請求項10】
請求の範囲第1項、第2項、第3項、第4項、第5項、第6項又は第7項に記載のポリペプチド及び製剤学的に許容しうる製剤用添加剤を1種又は2種以上含有することを特徴とする組成物。
【請求項11】
さらに抗原性タンパク質を含有することを特徴とする請求の範囲第10項に記載の組成物。
【請求項12】
請求の範囲第1項、第2項、第3項、第4項、第5項、第6項又は第7項に記載のポリペプチド、請求の範囲第8項に記載のDNA又はRNA、請求の範囲第9項に記載の動植物又は微生物、又は請求の範囲第10項又は第11項に記載の組成物を生体に投与又は摂取することによる抗体産生方法。
【請求項13】
経粘膜投与又は摂取による請求の範囲第12項に記載の方法。
【請求項14】
疾患の予防又は治療のために行なわれる請求の範囲第12項又は第13項記載の方法。
【請求項15】
請求の範囲第1項、第2項、第3項、第4項、第5項、第6項又は第7項に記載のポリペプチドを免疫アジュバントとして用いることを特徴とする抗原性タンパク質に対する抗体産生を増強する方法。

【国際公開番号】WO2004/087767
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【発行日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504230(P2005−504230)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004460
【国際出願日】平成16年3月29日(2004.3.29)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】