説明

ポリマー、高分子電解質及びその用途

【課題】優れた耐久性を有する新規なポリマー及び高分子電解質を提供する。
【解決手段】式(1a)〜(1d)の何れかの型に分類される構造を1以上含むポリマーであって、該ポリマーに含まれる式(1a)〜(1d)の型に分類される構造の数の合計に対する、式(1c)および(1d)に分類される構造の数の合計の比率が85%以上であるポリマー。
(ここで、A〜A12はそれぞれ独立に、イオン交換基またはイオン交換基を含有する置換基を表す。R〜R12はそれぞれ独立に、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基、及び、フッ素原子から選ばれる置換基を表す。p〜p12はそれぞれ独立に0以上3以下の整数である。R〜R12が、複数ある場合、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー、高分子電解質及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
一次電池、二次電池、あるいは固体高分子形燃料電池等の伝導膜として、プロトン伝導性を有する高分子を用いる高分子電解質膜が用いられている。例えば、ナフィオン(デュポン社の登録商標)をはじめとする側鎖に超強酸としてのパーフルオロアルキルスルホン酸を有し、主鎖がパーフルオロアルカンである脂肪族系高分子を有効成分とする高分子電解質が、燃料電池用の膜材料として発電特性に優れることから、従来から主として使用されている。しかしながら、この種の材料は非常に高価であること、耐熱性が低いこと等の問題が指摘されている。
【0003】
こうした状況において、フッ素系高分子電解質に替わり得る安価で特性の優れた炭化水素系高分子電解質の開発が近年活発化している。
例えば特許文献1には、ポリアリーレン系高分子をスルホン化してなるスルホン化ポリアリーレン系高分子電解質が開示されている。該スルホン化ポリアリーレン系高分子電解質は、ポリアリーレン構造を形成する芳香環の水素原子が、ランダムにスルホ基を有する置換基に置換されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5403675号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1のスルホン化ポリアリーレン系高分子電解質のような炭化水素系高分子電解質は、耐久性において十分に満足できるものではなかった。
そこで、本発明の目的は、優れた耐久性を有する新規なポリマー及び高分子電解質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の<1>のポリマーを提供する。
<1>式(1a)〜(1d)の何れかの型に分類される構造を1以上含むポリマーであって、該ポリマーに含まれる式(1a)〜(1d)の型に分類される構造の数の合計に対する、式(1c)および(1d)に分類される構造の数の合計の比率が85%以上であることを特徴とするポリマー。
【化1】


(ここで、A〜A12はそれぞれ独立に、イオン交換基またはイオン交換基を含有する置換基を表す。R〜R12はそれぞれ独立に、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、及び、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基、及び、フッ素原子から選ばれる置換基を表す。p〜p12はそれぞれ独立に0以上3以下の整数である。R〜R12が、複数ある場合、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)なお、請求の範囲及び明細書において「それぞれ独立に」とは、互いに同一でも異なってもよいことを意味する。
このようなポリマーは優れた耐久性を示す。その理由として以下のことが考えられる。ポリマーの劣化のひとつの原因として、OHラジカルによるポリマー鎖への攻撃が挙げられる。そして、OHラジカルが、2価のアリール基における、隣の2価のアリール基に結合する炭素原子と反応すると、ポリマーの鎖構造が切断され劣化が促進されると考えられる。ポリマー鎖が切断される反応機構としては、まず、第一段階としてOHラジカルが該炭素原子に付加し、その後、第二段階としてOHラジカルが付加した該炭素原子と隣接する炭素原子の間の結合の切断が起こると考えられる。そして、式(1c)及び式(1d)に分類される型の構造は、式(1a)及び式(1b)に分類される型の構造に比べて、反応の第一段階のOHラジカルが炭素原子に付加する際の活性化エネルギーが大きいため、上述の比率のポリマーは耐久性に優れるものと考えられる。
【0007】
本発明は前記<1>に係る好適な実施態様として、以下の<2>〜<13>を提供する。<2>式(1c)の型に分類される構造が式(2c)で表される構造を含み、式(2c’)で表される化合物が有する炭素原子1または炭素原子2にOHラジカルが付加する際の活性化エネルギーについて、その値が小さい方を最小活性化エネルギーCとし、式(2a’)で表される化合物が有する炭素原子1または炭素原子2にOHラジカルが付加する際の活性化エネルギーについて、その値が小さい方を最小活性化エネルギーAとし、式(2b’)で表される化合物が有する炭素原子1または炭素原子2にOHラジカルが付加する際の活性化エネルギーについて、その値が小さい方を最小活性化エネルギーBとしたとき、最小活性化エネルギーCが、最小活性化エネルギーAおよび最小活性化エネルギーBより大きい<1>に記載のポリマー。
【化2】


(ここで、A〜Cはそれぞれ独立にイオン交換基またはイオン交換基を含有する置換基を表す。R13〜R15はそれぞれ独立に、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基、及び、フッ素原子から選ばれる置換基を表す。p13〜p15はそれぞれ独立に0以上3以下の整数である。R13〜R15が、複数ある場合、それぞれ同一でも異なっていてもよい。1および2は炭素原子の番号を示す。)
【0008】
<3>式(1d)の型に分類される構造が式(3d)で表される構造を含み、式(3d’)で表される化合物が有する炭素原子1または炭素原子2にOHラジカルが付加する際の活性化エネルギーについて、その値が小さい方を最小活性化エネルギーDとし、式(3a’)で表される化合物が有する炭素原子1または炭素原子2にOHラジカルが付加する際の活性化エネルギーについて、その値が小さい方を最小活性化エネルギーAとし、式(3b’)で表される化合物が有する炭素原子1または炭素原子2にOHラジカルが付加する際の活性化エネルギーについて、その値が小さい方を最小活性化エネルギーBとしたとき、最小活性化エネルギーDが、最小活性化エネルギーAおよび最小活性化エネルギーBより大きい<1>又は<2>に記載のポリマー。
【化3】


(ここで、A〜Cはそれぞれ独立にイオン交換基またはイオン交換基を含有する置換基を表す。R16〜R18はそれぞれ独立に、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基、及び、フッ素原子から選ばれる置換基を表す。p16〜p18はそれぞれ独立に0以上3以下の整数である。R16〜R18が、複数ある場合、それぞれ同一でも異なっていてもよい。1および2は炭素原子の番号を示す。)
【0009】
<4>A〜A12が、それぞれ独立にイオン交換基を含有する置換基であることを特徴とする<1>〜<3>のいずれかに記載のポリマー。
【0010】
<5>前記イオン交換基を含有する置換基が、イオン交換基を有する、もしくは、イオン交換基を含む置換基を有する電気吸引性基であることを特徴とする<1>〜<4>のいずれかに記載のポリマー。
【0011】
<6>前記イオン交換基を有する、もしくは、イオン交換基を含む置換基を有する電気吸引性基が、式(4)で表される基であることを特徴とする<5>に記載の高分子。
【化4】


(ここでDはイオン交換基もしくはイオン交換基を含有する置換基である。)
【0012】
<7>A〜A12が、それぞれ独立にイオン交換基であることを特徴とする<1>〜<3>のいずれかに記載のポリマー。
【0013】
<8>前記式(1a)〜(1d)の何れかの型に分類される構造を1以上含むイオン交換基を有するブロックと、イオン交換基を実質的に有しないブロックとを有することを特徴とする<1>〜<7>のいずれかに記載のポリマー。
【0014】
<9><1>〜<8>のいずれかに記載のポリマーを含む高分子電解質。
【0015】
<10><9>に記載の高分子電解質を含む、高分子電解質膜。
【0016】
<11><9>に記載の高分子電解質と触媒物質とを含む触媒組成物。
【0017】
<12><10>に記載の高分子電解質膜又は<11>記載の触媒組成物から得られた触媒層を備えた、膜電極接合体。
【0018】
<13><12>記載の膜電極接合体を有する固体高分子形燃料電池。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリマーを用いることにより、優れた耐久性を有するプロトン伝導膜(高分子電解質膜)等を得ることができる。したがって、本発明のポリマーは、電池用プロトン伝導材料、特に燃料電池用プロトン伝導材料(プロトン伝導膜等)に極めて有用であり、このようなプロトン伝導材料を用いることにより高性能の燃料電池を製造することが十分期待できるため、工業上の利用価値は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】計算例1により得られたOHラジカルの付加反応の活性化エネルギーである。
【図2】計算例2により得られたOHラジカルの付加反応の活性化エネルギーである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。
【0022】
本発明のポリマーは、式(1a)〜(1d)の何れかの型に分類される構造を1以上含むポリマーであって、該ポリマーに含まれる式(1a)〜(1d)の型に分類される構造の数の合計に対する、式(1c)および(1d)に分類される構造の数の合計の比率が85%以上である。
【化5】


(ここで、A〜A12はそれぞれ独立に、イオン交換基またはイオン交換基を含有する置換基を表す。R〜R12はそれぞれ独立に、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基、及び、フッ素原子から選ばれる置換基を表す。p〜p12はそれぞれ独立に0以上3以下の整数である。R〜R12が、複数ある場合、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0023】
前記イオン交換基とは、イオン伝導、特にプロトン伝導に係る基である。イオン交換基としては通常酸基が使用される。該酸基としては、弱酸、強酸、超強酸等の酸基があげられるが、強酸基、超強酸基が好ましい。酸基の例としては、例えば、ホスホン基、カルボキシル基等の弱酸基;スルホ基、スルホンイミド基(−SO−NH−SO−R。ここでRはアルキル基、アリール基等の一価の置換基を表す。)等の強酸基があげられ、中でも、強酸基であるスルホ基、スルホンイミド基が好ましく使用される。また、電子吸引性基で該芳香環および/またはスルホンイミド基の置換基(−R)上の水素原子を置換することにより、電子吸引性基の効果で前記の強酸基を超強酸基として機能させることも好ましい。これらのイオン交換基は、部分的にあるいは全てが、金属イオンや4級アンモニウムイオンなどで交換されて塩を形成していてもよいが、燃料電池用高分子電解質膜などとして使用する際には、実質的に全てが遊離酸の状態であることが好ましい。
【0024】
前記イオン交換基を含有する置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリールオキシ基または炭素数2〜20のアシル基などの基の有する水素原子の少なくとも一部が、イオン交換基に置換された基があげられる。
前記イオン交換基を含有する置換基は、イオン交換基以外の置換基でさらに置換されていても良い。かかるイオン交換基以外の置換基としては、フッ素原子、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリールオキシ基または炭素数2〜20のアシル基などがあげられる。
前記イオン交換基を含有する置換基としては、イオン交換基を有する、もしくは、イオン交換基を含む置換基を有する電気吸引性基であると好ましい。イオン交換基を有する電気吸引性基としては、炭素数2〜20のアシル基などの基の有する水素原子の少なくとも一部が、イオン交換基に置換された基があげられる。
前記イオン交換基を含有する置換基としては、特に好ましくは、下記式(4)で表される基である。
【化6】


(ここでDはイオン交換基もしくはイオン交換基を含有する置換基である。)
式(4)で表される基の中でも、式(5)で表される基が好ましい。
【化7】

【0025】
ここで、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、2,2−ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−メチルペンチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基等の炭素数1〜20のアルキル基、及びこれらの基がフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等を置換基として有し、その総炭素数が20以下であるアルキル基等が挙げられる。
【0026】
また、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、2,2−ジメチルプロピルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、ドデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、イコシルオキシ基等の炭素数1〜20のアルコキシ基、及びこれらの基がフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等を置換基として有し、その総炭素数が20以下であるアルコキシ基等が挙げられる。
【0027】
イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、フェナントレニル基、アントラセニル基等のアリール基、及びこれらの基がフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等を置換基として有し、その総炭素数が20以下であるアリール基等が挙げられる。
【0028】
イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基としては、例えばフェノキシ基、ナフチルオキシ基、フェナントレニルオキシ基、アントラセニルオキシ基等のアリールオキシ基、及びこれらの基がフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等を置換基として有し、その総炭素数が20以下であるアリールオキシ基等が挙げられる。
【0029】
イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基としては、例えばアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ベンゾイル基、1−ナフトイル基、2−ナフトイル基等の炭素数2〜20のアシル基、及びこれらの基がフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等を置換基として有し、その総炭素数が20以下であるアシル基が挙げられる。
【0030】
本発明のポリマーは、式(1a)〜(1d)の何れかの型に分類される構造を1以上含むポリマーであって、該ポリマーに含まれる式(1a)〜(1d)の型に分類される構造の数の合計に対する、式(1c)および(1d)に分類される構造の数の合計の比率が85%以上である。ポリマー中における3つのアリール基が連結した構造の中心に位置するアリール基の置換基Aの位置を基準としたときの、両端のアリール基の置換基Aの位置関係により、3つのアリール基が連結した構造はそれぞれ式(1a)〜(1d)の何れかの構造に分類されうる。高分子鎖において、4つ以上のアリール基が連結している場合には、3つのアリール基が連結している構造毎に判断する。例えば、高分子鎖において以下のように4つのアリール基が連結している場合、3つのアリール基が連結した構造は2つあり、それぞれ、式(1a)の型、及び、式(1b)の型に分類される。式(1a)〜(1d)の型に分類される構造の数の比率は、H−NMRスペクトル等の分析手法により算出可能である。
【化8】


(ここで、A21〜A24はそれぞれ独立にイオン交換基またはイオン交換基を含有する置換基を表す。)
【0031】
本発明のポリマーに含まれる式(1a)〜(1d)の型に分類される構造の数の合計に対する、式(1c)および(1d)に分類される構造の数の合計の比率が85%以上である。好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上である。
【0032】
また、式(1a)〜(1d)の型に分類される構造の数の合計に対する、式(1d)に分類される構造の数の比率が85%以上であると好ましい。より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上である。
【0033】
本発明のポリマーに含まれることが好ましい式(1c)または(1d)の型に分類される構造の具体例としては、例えば下記の構造があげられる。
【化9】


【化10】

【0034】
本発明のポリマーは優れた耐久性を示す。その理由として以下のことが考えられる。ポリマーの劣化のひとつの原因として、OHラジカルによるポリマー鎖への攻撃が挙げられる。そして、OHラジカルが、2価のアリール基における、隣の2価のアリール基に結合する炭素原子と反応すると、ポリマーの鎖構造が切断され劣化が促進されると考えられる。ポリマー鎖が切断される反応機構としては、まず、第一段階としてOHラジカルが該炭素原子に付加し、その後、第二段階としてOHラジカルが付加した該炭素原子と隣接する炭素原子の間の結合の切断が起こると考えられる。そして、式(1c)及び式(1d)の型に分類される構造は、式(1a)及び式(1b)の型に分類される構造に比べて反応の第一段階のOHラジカルが炭素原子に付加する際の活性化エネルギーが大きいため、耐久性に優れるものと考えられる。
【0035】
各構造の耐久性は、OHラジカルが式(1a)〜(1d)の型の構造それぞれについて、中心のアリール基における両隣のアリール基と結合する2つの炭素原子に付加する活性化エネルギーを計算することにより評価することができる。活性化エネルギーの具体的計算方法としては、例えば、式(6a)〜(6d)に示すように各型の両端を水素原子で終端した計算モデルについて、OHラジカルが中心のアリール基の炭素1もしくは2に付加する反応について、反応の始状態の構造と全エネルギー、および遷移状態の構造と全エネルギーを計算から求め、両構造の全エネルギーの差から活性化エネルギーを計算することができる。上記の方法により計算した活性化エネルギーが大きいほど、結合の切断が起こりにくく、耐久性が高いと考えることができる。計算手法として、例えば、GAUSSIAN03プログラムの密度汎関数法(B3LYP/6−31G(d)法)を用いることができるが、他の密度汎関数計算プログラムを用いてもよい。一般的に、式(6c)及び、式(6d)の型の構造は、式(6a)及び式(6b)の型の構造に比べてOHラジカルと上記の炭素原子1及び炭素原子2との反応の活性化エネルギーが大きい。
【化11】


(ここで、A〜Cはそれぞれ独立にイオン交換基またはイオン交換基を含有する置換基を表す。)
【0036】
本発明のポリマーは、式(1c)の型に分類される構造が式(2c)で表される構造を含み、式(2c’)で表される化合物が有する炭素原子1または炭素原子2にOHラジカルが付加する際の活性化エネルギーについて、その値が小さい方を最小活性化エネルギーCとし、式(2a’)で表される化合物が有する炭素原子1または炭素原子2にOHラジカルが付加する際の活性化エネルギーについて、その値が小さい方を最小活性化エネルギーAとし、式(2b’)で表される化合物が有する炭素原子1または炭素原子2にOHラジカルが付加する際の活性化エネルギーについて、その値が小さい方を最小活性化エネルギーBとしたとき、最小活性化エネルギーCが、最小活性化エネルギーAおよび最小活性化エネルギーBより大きいことが好ましい。好ましくは、最小活性化エネルギーCは、最小活性化エネルギーAおよび最小活性化エネルギーBのうち大きい方より、1.0kcal/mol以上大きいことが好ましく、1.5kcal/mol以上大きいことがより好ましい。
【化12】


(ここで、A〜Cはそれぞれ独立にイオン交換基またはイオン交換基を含有する置換基を表す。R13〜R15はそれぞれ独立に、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、及び、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基、及び、フッ素原子から選ばれる置換基を表す。p13〜p15はそれぞれ独立に0以上3以下の整数である。R13〜R15が、複数ある場合、それぞれ同一でも異なっていてもよい。1および2は炭素原子の番号を示す。)
【0037】
本発明のポリマーは、式(1d)の型に分類される構造が式(3d)で表される構造を含み、式(3d’)で表される化合物が有する炭素原子1または炭素原子2にOHラジカルが付加する際の活性化エネルギーについて、その値が小さい方を最小活性化エネルギーDとし、式(3a’)で表される化合物が有する炭素原子1または炭素原子2にOHラジカルが付加する際の活性化エネルギーについて、その値が小さい方を最小活性化エネルギーAとし、式(3b’)で表される化合物が有する炭素原子1または炭素原子2にOHラジカルが付加する際の活性化エネルギーについて、その値が小さい方を最小活性化エネルギーBとしたとき、最小活性化エネルギーDが、最小活性化エネルギーAおよび最小活性化エネルギーBより大きいことが好ましい。好ましくは、最小活性化エネルギーDは、最小活性化エネルギーAおよび最小活性化エネルギーBのうち大きいほうより、1.0kcal/mol以上大きいことが好ましく、1.5kcal/mol以上大きいことがより好ましい。
【化13】


(ここで、A〜Cはそれぞれ独立にイオン交換基またはイオン交換基を含有する置換基を表す。R16〜R18はそれぞれ独立に、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基、及び、フッ素原子から選ばれる置換基を表す。p16〜p18はそれぞれ独立に0以上3以下の整数である。R16〜R18が、複数ある場合、それぞれ同一でも異なっていてもよい。1および2は炭素原子の番号を示す。)
【0038】
本発明のポリマーは、前記式(1a)〜(1d)の何れかの型に分類される構造を1以上含むイオン交換基を有するブロックと、イオン交換基を実質的に有しないブロックとを有することが好ましい。
【0039】
本発明に用いられるポリマーは、「イオン交換基を有するブロック」と「イオン交換基を実質的に有しないブロック」とを含むブロック共重合体またはグラフト共重合体であることが好ましい。なお、本発明において、「ブロック共重合体」とは、化学的に性質の異なる2種以上のポリマーが、共有結合でつながり、長い連鎖になった分子構造のものをいう。また、「グラフト共重合体」とは、幹ポリマーに対し、異種の化学構造を有する枝ポリマーが化学的に結合した、分岐状の分子構造のものをいう。本発明では、前記ポリマー、前記幹ポリマーおよび前記枝ポリマーを、「ブロック」という。ブロックとは、骨格が同一の繰り返し単位が3個以上、好ましくは5個以上連結したものである。より好ましくは、1種の繰り返し単位が3個以上、好ましくは5個以上連結したものである。ここで、該骨格とは、ポリマーを構成する主鎖であって置換基を含まないものをいう。また、前記「化学的に性質の異なる」ポリマーとは、例えば、イオン交換基を有するポリマーと、イオン交換基を実質的に有しないポリマーとがあげられる。
【0040】
本発明において、ブロックが、「イオン交換基を有する」とは、該ブロックを構成する繰り返し単位1個当たりで、イオン交換基が平均0.5個以上含まれているブロックであることを意味し、繰り返し単位1個あたりで平均1.0個以上含まれているとより好ましい。
一方、ブロックが、「イオン交換基を実質的に有しない」とは、該ブロックを構成する繰り返し単位1個当たりで、イオン交換基が平均0.5個未満であるブロックであることを意味し、繰り返し単位1個あたりで平均0.1個以下であるとより好ましく、平均0.05個以下であるとさらに好ましい。
典型的には、「イオン交換基を有するブロック」と「イオン交換基を実質的に有しないブロック」とが、共有結合で結ばれた形態のブロック共重合体であるか、
幹部に「イオン交換基を有するブロック」を有し、分岐鎖部に「イオン交換基を実質的に有しないブロック」を有するグラフト共重合体、又は分岐鎖部に「イオン交換基を有するブロックを有し、幹部に「イオン交換基を実質的に有しないブロック」を有するグラフト共重合体である。
【0041】
より良好な耐熱性を発現する観点からは、前記共重合体は芳香族系高分子電解質であると、好ましい。ここで芳香族系高分子とは、芳香族環を有する化合物から水素原子を2個取り去って得られる2価の芳香族残基を構造単位として直接または連結員を介して連結された高分子化合物のことを意味する。
【0042】
前記式(1a)〜(1d)の何れかの型に分類される構造を1以上含むイオン交換基を有するブロックとしては、イオン交換基を有するブロックを100重量%としたとき、前記式(1a)〜(1d)の何れかの型に分類される構造からなる部分を70重量%含有することが好ましく、90重量%以上含有することがより好ましい。
【0043】
前記イオン交換基を実質的に有しないブロックとして、下記式(7)で表される構造単位を含むブロックが好ましい。
【化14】


ここで、式(7)におけるa、b、cは互いに独立に0か1を表す。nは5以上の整数を表し、5〜200であると好ましい。nの値が小さいと、成膜性や膜強度が不十分であったり、耐久性が不十分であったりするなどの問題が生じやすくなるため、nは10以上であると特に好ましい。また、nを5以上、好ましくは10以上とするには、式(7)のブロックにおけるポリスチレン換算数平均分子量で表して、2000以上、好ましくは3000以上であると充分である。
また、式(7)におけるAr、Ar、Ar、Arは、互いに独立に2価の芳香族基を表す。2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル基、1,4−ナフタレンジイル基、1,5−ナフタレンジイル基、1,6−ナフタレンジイル基、1,7−ナフタレンジイル基、2,6−ナフタレンジイル基、2,7−ナフタレンジイル基等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル基、キノキサリンジイル基、チオフェンジイル基等の複素環基等が挙げられる。好ましくは2価の単環性芳香族基である。
【0044】
また、Ar、Ar、Ar、Arは、フッ素原子、シアノ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基を置換基として有していてもよい。
上記式(7)におけるY、Y’は、互いに独立に酸素原子または硫黄原子を表す。また、式(7)におけるX、X’は、互いに独立に直接結合または2価の基を表すものであるが、中でも、カルボニル基、スルホニル基、2,2−イソプロピリデン基、2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン基または9,9−フルオレンジイル基であると好ましい。
【0045】
上記式(7)で表される構造単位の好ましい代表例としては、例えば以下のものが挙げられる。なお、nは上記式(7)と同等の定義である。
【0046】
【化15】


【化16】


【化17】


【化18】


【化19】


【化20】


【化21】


【化22】


【化23】


【化24】


【化25】


【化26】

【0047】
本発明のポリマーのイオン交換基を有するブロックのイオン交換基導入量は、イオン交換容量で表して、2.5meq/g〜10.0meq/gが好ましく、さらに好ましくは2.5meq/g〜5.4meq/gであり、特に好ましくは2.5meq/g〜4.5meq/gである。
該イオン交換基導入量を示すイオン交換容量が2.5meq/g以上であると、イオン交換性同士が密接に隣接することとなり、ポリマーとしたときのプロトン伝導性がより高くなるので好ましい。一方、イオン交換基導入量を示すイオン交換容量が10.0meq/g以下であると、製造がより容易であるので好ましい。
【0048】
また、ポリマー全体のイオン交換基の導入量は、イオン交換容量で表して、0.5meq/g〜4.0meq/gが好ましく、さらに好ましくは1.0meq/g〜2.8meq/gである。
該イオン交換基導入量を示すイオン交換容量が0.5meq/g以上であると、プロトン伝導性がより高くなり、燃料電池用の高分子電解質としての機能がより優れるので好ましい。一方、イオン交換基導入量を示すイオン交換容量が4.0meq/g以下であると、耐水性がより良好となるので好ましい。
該イオン交換容量は、滴定法により測定できる。
【0049】
また、本発明のポリマーは、分子量が、ポリスチレン換算の数平均分子量で表して、5000〜1000000であることが好ましく、中でも15000〜400000であることが特に好ましい。該分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、測定することができる。
【0050】
次に、本発明の、好適なポリマーの製造方法について説明する。
本発明のポリマーにおける、好適なイオン交換基を有するブロックは、式(1a)〜(1d)の何れかの型に分類される構造を1以上含み、該ブロックに含まれる式(1a)〜(1d)の型に分類される構造の数の合計に対する、式(1c)および(1d)に分類される構造の数の合計の比率が85%以上である。式(1a)〜(1d)の型に分類される構造におけるイオン交換基の導入方法は、イオン交換基およびイオン交換基を含有する置換基の立体規則性を高めるため、イオン交換基を予め有するモノマーを重合する方法が好ましい。
イオン交換基を予め有するモノマーを用いて、本発明のポリマーの製造を行う方法としては、例えば、ゼロ価遷移金属錯体の共存下、下記式(8a)〜(8e)で示されるモノマーからなる群から選ばれる1種以上と、下記式(9)で示されるイオン交換基を実質的に有さないブロックの前駆体を縮合反応により重合することにより製造し得る。
【化27】


(Qは、縮合反応時に脱離する基を表し、2つのQは同一であっても異なっていてもよい。ここで、A〜A12、R〜R12、p〜p12は前記と同義である。A31、A32はそれぞれ独立に、イオン交換基またはイオン交換基を含有する置換基を表す。R31、R32はそれぞれ独立に、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基、及び、フッ素原子から選ばれる置換基を表す。p31、p32はそれぞれ独立に0以上3以下の整数である。R31、R32が、複数ある場合、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0051】
【化28】


(式中、Ar、Ar、Ar、Ar、a、b、c、n、X、X’、Y、Y’、Qは前記と同等の定義である。)
【0052】
上記式(8e)で示されるモノマーは、好ましいイオン交換基であるスルホ基で例示すると、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、4,4’−ジブロモビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、4,4’−ジヨードビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、4,4’−ジクロロ−3,3’−ジメチルビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、4,4’−ジブロモ−3,3’−ジメチルビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、4,4’−ジヨード−3,3’−ジメチルビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、4,4’−ジクロロ−3,3’−ジメトキシビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、4,4’−ジブロモ−3,3’−ジメトキシビフェニル−2,2’−ジスルホン酸、4,4’−ジヨード−3,3’−ジメトキシビフェニル−2,2’−ジスルホン酸等が挙げられ、さらに上記に例示する化合物のイオン交換基が塩の形でもよく、特に、イオン交換基が塩の形である化合物を用いることが、重合反応性の観点から好ましい。塩の形としては、アルカリ金属塩が好ましく、特に、Li塩、Na塩、K塩の形が好ましい。
このように式(8e)で表される化合物は、そのベンゼン核に置換基を有していてもよいが、その置換基数p31、p32は0または1が好ましく、該置換基数が0、すなわち置換基R31、R32を有さないと、より好ましい。
【0053】
上記式(8a)〜(8d)で示されるモノマーは、好ましいイオン交換基であるスルホ基で例示すると、4,4”−ジクロロ−1,1’:4’,1”−ターフェニル−2,3’,3”−トリスルホン酸、4,4”−ジブロモ−1,1’:4’,1”−ターフェニル−2,3’,3”−トリスルホン酸、4,4”−ジヨード−1,1’:4’,1”−ターフェニル−2,3’,3”−トリスルホン酸、4,4”−ジクロロ−1,1’:4’,1”−ターフェニル−2’,3,3”−トリスルホン酸、4,4”−ジブロモ−1,1’:4’,1”−ターフェニル−2’,3,3”−トリスルホン酸、4,4”−ジヨード−1,1’:4’,1”−ターフェニル−2’,3,3”−トリスルホン酸、4,4”−ジクロロ−1,1’:4’,1”−ターフェニル−2,2’,2”−トリスルホン酸、4,4”−ジブロモ−1,1’:4’,1”−ターフェニル−2,2’,2”−トリスルホン酸、4,4”−ジヨード−1,1’:4’,1”−ターフェニル−2,2’,2”−トリスルホン酸、4,4”−ジクロロ−1,1’:4’,1”−ターフェニル−2,2’,3”−トリスルホン酸、4,4”−ジブロモ−1,1’:4’,1”−ターフェニル−2,2’,3”−トリスルホン酸、4,4”−ジヨード−1,1’:4’,1”−ターフェニル−2,2’,3”−トリスルホン酸、等が挙げられ、さらに上記に例示する化合物のイオン交換基が塩の形でもよく、特に、イオン交換基が塩の形である化合物を用いることが、重合反応性の観点から好ましい。塩の形としては、アルカリ金属塩が好ましく、特に、Li塩、Na塩、K塩の形が好ましい。
【0054】
上記式(8a)〜(8e)で示されるモノマーを、好ましいイオン交換基を含有する置換基で、構造式で例示すると、下記に示すモノマーがあげられる。これらの例示の中で、Qは上記と同等の定義である。
【化29】


【化30】


【化31】


【化32】

【0055】
上記の式(9)、式(8a)〜(8e)に示すQは、縮合反応時に脱離する基を表すが、その具体例としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、p−トルエンスルホニルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基等が挙げられる。
【0056】
また、上記一般式(9)で表される前駆体の好適な代表例としては、下記に例示するモノマーが挙げられる。これらの例示の中で、Qは上記と同等の定義である。
【化33】


【化34】


【化35】


【化36】


【化37】


【化38】


【化39】


【化40】


かかる例示の化合物は、市場から容易に入手できるか、市場から容易に入手できる原料を用いて製造することが可能であり、例えば、上記(9a)で示される末端に脱離基Qを有するポリエーテルスルホンは、例えば住友化学(株)製スミカエクセルPES等の市販品を入手することも可能であり、これを式(9)で示される前駆体として用いることもできる。また、nは上記と同等の定義であり、これらの化合物のポリスチレン換算数平均分子量で2000〜150000、好ましくは3000〜60000であるものが選択される。
【0057】
縮合反応による重合は、例えば遷移金属錯体の共存下に実施される。
上記遷移金属錯体は遷移金属にハロゲンや後述の配位子が配位したものであり、後述の配位子を少なくとも一つ有するものが好ましい。遷移金属錯体は市販品でも別途合成したもの何れを用いてもよい。
遷移金属錯体の合成方法は、例えば遷移金属塩や遷移金属酸化物と配位子とを反応させる方法等の公知の方法が挙げられる。合成した遷移金属錯体は、取り出して使用してもよいし、取り出すことなく、in situで使用してもよい。
配位子としては、例えばアセテート、アセチルアセトナート、2,2’−ビピリジル、1,10−フェナントロリン、メチレンビスオキサゾリン、N,N,N’N’−テトラメチルエチレンジアミン、トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェノキシホスフィン、1,2−ビスジフェニルホスフィノエタン、1,3−ビスジフェニルホスフィノプロパンなどが挙げられる。
【0058】
遷移金属錯体としては、例えばニッケル錯体、パラジウム錯体、白金錯体、銅錯体等が挙げられる。これら遷移金属錯体の中でもゼロ価ニッケル錯体、ゼロ価パラジウム錯体のようなゼロ価遷移金属錯体が好ましく用いられ、ゼロ価ニッケル錯体がより好ましく用いられる。
ゼロ価ニッケル錯体としては、例えばビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)、(エチレン)ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(0)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケルなどが挙げられ、中でも、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)が、安価という観点から好ましく使用される。ゼロ価パラジウム錯体としては、例えばテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)が挙げられる。これらゼロ価遷移金属錯体は、上記のように合成して用いてもよいし、市販品として入手できるものを用いてもよい。
ゼロ価遷移金属錯体の合成方法は例えば、遷移金属化合物を亜鉛やマグネシウムなどの還元剤でゼロ価とする方法等の公知の方法が挙げられる。合成したゼロ価遷移金属錯体は、取り出して使用してもよいし、取り出すことなくin situで使用してもよい。
【0059】
還元剤により、遷移金属化合物からゼロ価遷移金属錯体を発生させる場合、使用される遷移金属化合物としては、通常、2価の遷移金属化合物が用いられるが0価のものを用いることもできる。なかでも2価ニッケル化合物、2価パラジウム化合物が好ましい。2価ニッケル化合物としては、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、ニッケルアセテート、ニッケルアセチルアセトナート、塩化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、臭化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、ヨウ化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)などが挙げられ、2価パラジウム化合物としては塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、パラジウムアセテートなどが挙げられる。
還元剤としては、亜鉛、マグネシウム、水素化ナトリウム、ヒドラジンおよびその誘導体、リチウムアルミニウムヒドリドなどが挙げられる。必要に応じて、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化トリメチルアンモニウム、ヨウ化トリエチルアンモニウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム等を併用することもできる。
【0060】
上記遷移金属錯体を用いた縮合反応の際、重合体の収率向上の観点から、用いた遷移金属錯体の配位子となりうる化合物を添加することが好ましい。添加する化合物は使用した遷移金属錯体の配位子と同じであっても異なっていてもよい。
該配位子となりうる化合物の例としては、前述の、配位子として例示した化合物等が挙げられ、汎用性、安価、縮合剤の反応性、重合体の収率、重合体の高分子量化の点でトリフェニルホスフィン、2,2’−ビピリジルが好ましい。特に、2,2’−ビピリジルは、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)と組合せると重合体の収率向上や、重合体の高分子量化が図れるので、この組合せが好ましく使用される。配位子の添加量は、ゼロ価遷移金属錯体に対して、通常、遷移金属原子基準で、0.2〜10モル倍程度、好ましくは1〜5モル倍程度使用される。
【0061】
ゼロ価遷移金属錯体の使用量は、上記式(8a)〜(8e)で示される化合物からなる群より選ばれる1種以上と上記式(9)で示される前駆体の総モル量に対して、0.1モル倍以上である。使用量が過少であると分子量が小さくなる傾向があるので、好ましくは1.5モル倍以上、より好ましくは1.8モル倍以上、より一層好ましくは2.1モル倍以上である。使用量の上限は特に制限はないが、使用量が多すぎると後処理が煩雑になる傾向があるために、5.0モル倍以下であることが好ましい。
なお、還元剤を用いて遷移金属化合物からゼロ価遷移金属錯体を合成する場合、生成するゼロ価遷移金属錯体が上記範囲となるように設定すればよく、例えば、遷移金属化合物の量を、上記式(8a)〜(8e)で示される化合物からなる群より選ばれる1種以上と上記式(9)で示される前駆体の総モル量に対して、0.01モル倍以上、好ましくは0.03モル倍以上とすればよい。使用量の上限は限定的ではないが、使用量が多すぎると後処理が煩雑になる傾向があるために、5.0モル倍以下であることが好ましい。また、還元剤の使用量は、上記式(8a)〜(8e)で示される化合物からなる群より選ばれる1種以上と上記式(9)で示される前駆体との総モル量に対して、例えば、0.5モル倍以上、好ましくは1.0モル倍以上とすればよい。使用量の上限は限定的ではないが、使用量が多すぎると後処理が煩雑になる傾向があるために、10モル倍以下であることが好ましい。
【0062】
また反応温度は、通常0〜250℃の範囲であるが、生成する高分子の分子量をより高くするためには、ゼロ価遷移金属錯体と上記式(8a)〜(8e)で示される化合物からなる群より選ばれる1種以上と、上記式(9)で示される前駆体とを45℃以上の温度で混合させることが好ましい。好ましい混合温度は通常45℃〜200℃であり、とりわけ好ましくは50℃〜100℃程度である。ゼロ価遷移金属錯体、上記式(8a)〜(8e)で示される化合物からなる群より選ばれる1種以上と上記式(9)で示される前駆体とを混合させた後、通常45℃〜200℃程度、好ましくは50℃〜100℃程度で反応させる。反応時間は、通常0.5〜24時間程度である。
またゼロ価遷移金属錯体と、上記式(8a)〜(8e)で示される化合物からなる群より選ばれる1種以上と上記式(9)で示される前駆体とを混合する方法は、一方をもう一方に加える方法であっても、両者を反応容器に同時に加える方法であっても良い。加えるに当っては、一挙に加えても良いが、発熱を考慮して少量ずつ加えることが好ましいし、溶媒の共存下に加えることも好ましい。
【0063】
これらの縮合反応は、通常、溶媒存在下に実施される。かかる溶媒としては、例えばN、N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒。トルエン、キシレン、メシチレン、ベンゼン、n−ブチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒。テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジブチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジメルカプトエタン、ジフェニルエーテル等のエーテル系溶媒。酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチルなどのエステル系溶媒。クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化アルキル系溶媒などが例示される。なお、括弧内の表記は溶媒の略号を示すものであり、後述する表記において、この略号を用いることもある。
【0064】
生成する高分子の分子量をより高くするためには、高分子が十分に溶解していることが望ましいので、高分子に対する良溶媒であるテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、DMF、DMAc、NMP、DMSO、トルエン等が好ましい。これらは2種以上を混合して用いることもできる。なかでもDMF、DMAc、NMP、DMSO、及びこれら2種以上の混合物が好ましく用いられる。
溶媒量は、特に限定されないが、あまりにも低濃度では、生成した高分子化合物を回収しにくくなることもあり、また、あまりにも高濃度では、攪拌が困難になることがあることから、溶媒、上記式(8a)〜(8e)で示される化合物からなる群より選ばれる1種以上と上記式(9)で示される前駆体との総量を100重量%としたとき、溶媒量が好ましくは99.95〜50重量%、より好ましくは99.9〜75重量%となるような溶媒量が好ましく使用される。
【0065】
かくして本発明のポリマーが得られるが、生成したポリマーの反応混合物からの取り出しは、常法が適用できる。例えば、貧溶媒を加える等してポリマーを析出させ、濾別等により目的物を取り出すことができる。また必要に応じて、更に水洗や、良溶媒と貧溶媒を用いての再沈殿等の、通常の精製方法により精製することもできる。
また、生成したポリマーのスルホ基が塩の形である場合、燃料電池に係る部材として使用するために、スルホ基を遊離酸の形にすることが好ましく、遊離酸への変換は、通常酸性溶液での洗浄により可能である。使用される酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸などが挙げられ、好ましくは塩酸である。
【0066】
具体的に本発明のポリマーの代表例を挙げると、以下に示すイオン交換基を有する繰り返し単位から選ばれる1種または2種以上の繰り返し単位を含むブロック(イオン交換基を有するブロック)と、以下に示すイオン交換基を有しない繰り返し単位から選ばれる1種又は2種以上の繰り返し単位を含むブロック(イオン交換基を実質的に有さないブロック)と、からなるブロック共重合体を挙げることができる。なお、イオン交換基を有する繰り返し単位におけるイオン交換基は、好適なスルホ基により例示している。
【0067】
(イオン交換基を有する繰り返し単位)
【化41】

【0068】
(イオン交換基を有さない繰り返し単位)
【化42】


【化43】


(nは繰り返し単位数を示す。)
【0069】
以下の表1に好ましいブロック共重合体の組み合わせをあげる。
【表1】


更に好ましくは、前記の<イ>、<エ>であり、<エ>が特に好ましい。
【0070】
上記に示す、本発明のポリマーは、いずれも燃料電池用の部材として好適に用いることができる。
次に、該ポリマーを燃料電池等の電気化学デバイスのプロトン伝導膜として使用する場合について説明する。
この場合は、本発明のポリマーは、通常、膜の形態で使用されるが、膜へ転化する方法に特に制限はなく、例えば溶液状態より製膜する方法(溶液キャスト法)が好ましく使用される。
具体的には、本発明のポリマーを適当な溶媒に溶解し、その溶液をガラス板上に流延塗布し、溶媒を除去することにより製膜される。製膜に用いる溶媒は、ポリアリーレン系高分子が溶解可能であり、その後に除去し得るものであるならば特に制限はなく、DMF、DMAc、NMP、DMSO等の非プロトン性極性溶媒、あるいはジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好適に用いられる。これらは単独で用いることもできるが、必要に応じて2種以上の溶媒を混合して用いることもできる。中でも、DMSO、DMF、DMAc、NMP等がポリマーの溶解性が高く好ましい。
【0071】
膜の厚みは、特に制限はないが10〜300μmが好ましい。膜厚が10μm以上の膜では実用的な強度がより優れるため好ましく、300μm以下の膜では膜抵抗が小さくなり、電気化学デバイスの特性がより向上する傾向にあるので好ましい。膜厚は、溶液の濃度および基板上への塗布厚により制御できる。
【0072】
また、膜の各種物性改良を目的として、通常の高分子に使用される可塑剤、安定剤、離型剤等を本発明のポリマーに添加することができる。また、同一溶剤に混合共キャストする等の方法により、他のポリマーを本発明の共重合体と複合アロイ化することも可能である。
さらに燃料電池用途では他に水管理を容易にするために、無機あるいは有機の微粒子を保水剤として添加することも知られている。これらの公知の方法はいずれも本発明の目的に反しない限り使用できる。また、膜の機械的強度の向上等を目的として、電子線・放射線等を照射して架橋することもできる。
【0073】
また、本発明のポリマーを有効成分とする高分子電解質を用いたプロトン伝導膜の強度や柔軟性、耐久性のさらなる向上のために、本発明のポリマーを有効成分とする高分子電解質を多孔質基材に含浸させ複合化することにより、複合膜とすることも可能である。複合化方法は公知の方法を使用し得る。
多孔質基材としては、上述の使用目的を満たすものであれば特に制限は無く、例えば多孔質膜、織布、不織布、フィブリル等が挙げられ、その形状や材質によらず用いることができる。多孔質基材の材質としては、耐熱性の観点や物理的強度の補強効果を考慮すると、脂肪族系、芳香族系高分子、または含フッ素高分子が好ましい。
【0074】
本発明のポリマーを用いた高分子電解質複合膜を固体高分子形燃料電池のプロトン伝導膜として使用する場合、多孔質基材の膜厚は、好ましくは1〜100μm、さらに好ましくは3〜30μm、特に好ましくは5〜20μmであり、多孔質基材の孔径は、好ましくは0.01〜100μm、さらに好ましくは0.02〜10μmであり、多孔質基材の空隙率は、好ましくは20〜98%、さらに好ましくは40〜95%である。
多孔質基材の膜厚が1μm以上であると、複合化後の強度補強の効果あるいは、柔軟性や耐久性を付与するといった補強効果がより優れ、ガス漏れ(クロスリーク)が発生しにくくなる。また、該膜厚が100μm以下であると、電気抵抗がより低くなり、得られた複合膜が固体高分子形燃料電池のプロトン伝導膜として、より優れたものとなる。該孔径が0.01μm以上であると、本発明のポリマーの充填がより容易となり、100μm以下であると、ポリマーへの補強効果がより大きくなる。空隙率が20%以上であると、プロトン伝導膜としての抵抗がより小さくなり、98%以下であると、多孔質基材自体の強度がより大きくなり補強効果がより向上するので好ましい。
また、該高分子電解質複合膜と、上記高分子電解質膜とを積層して燃料電池のプロトン伝導膜として用いることもできる。
【0075】
次に本発明の燃料電池について説明する。
本発明の燃料電池は、ポリマー膜の両面に、触媒および集電体としての導電性物質を接合した膜電極接合体を用いることによって製造することができる。
ここで触媒としては、水素または酸素との酸化還元反応を活性化できるものであれば特に制限はなく、公知のものを用いることができるが、白金または白金系合金の微粒子を用いることが好ましい。白金または白金系合金の微粒子はしばしば活性炭や黒鉛などの粒子状または繊維状のカーボンに担持されて用いられ、好ましく用いられる。
また、カーボンに担持された白金を、高分子電解質としてのパーフルオロアルキルスルホン酸樹脂のアルコール溶液と共に混合してペースト化したものを、ガス拡散層および/または高分子電解質膜および/または高分子電解質複合膜に塗布・乾燥することにより触媒層が得られる。具体的な方法としては例えば、J. Electrochem. Soc.: Electrochemical Science and Technology, 1988, 135(9), 2209 に記載されている方法等の公知の方法を用いることができる。
ここで、高分子電解質としてのパーフルオロアルキルスルホン酸樹脂の代わりに、本発明の、ポリマーを有効成分とする高分子電解質を用い、触媒組成物として用いることもでき、この触媒組成物を用いて得られる触媒層は、本発明のポリマーの優れたプロトン伝導度や、吸水に係る寸法安定性を有するものとなるため、触媒層として好適である。
集電体としての導電性物質に関しても公知の材料を用いることができるが、多孔質性のカーボン織布、カーボン不織布またはカーボンペーパーが、原料ガスを触媒へ効率的に輸送するために好ましい。
このようにして製造された本発明の燃料電池は、燃料として水素ガス、改質水素ガス、メタノールを用いる各種の形式で使用可能である。
【0076】
かくして得られる本発明のポリマーを、プロトン伝導膜および/または触媒層に備えた固体高分子形燃料電池は、発電性能に優れ、長寿命の燃料電池として提供できる。
【0077】
上記において、本発明の実施の形態について説明を行なったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むものである。
【実施例】
【0078】
以下に実施例をあげて本発明を説明する。(1)分子量の測定
製造例中に記載した分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、下記条件で測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)である。(分析条件1)
GPC測定装置 島津製作所製 Prominence GPCシステム
カラム 東ソー製 TSKgel GMHHR−M
カラム温度 40℃
移動相溶媒 DMF(LiBrを10mmol/dmになるように添加)
溶媒流量 0.5mL/min
検出器 示差屈折率計(分析条件2)
GPC測定装置 東ソー製 HLC−8220GPC
カラム 東ソー製 TSKgel GMHHR−M
カラム温度 40℃
移動相溶媒 DMF(LiBrを10mmol/dmになるように添加)
溶媒流量 0.5mL/min
検出器 示差屈折率計
【0079】
(2)イオン交換容量(IEC)の測定
イオン交換基を遊離酸型(プロトン型)に変換した膜をハロゲン水分率計で105℃でさらに乾燥させ、絶乾質量を求めた。この膜を、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液5mLに浸漬した後、50mLのイオン交換水を加え、2時間放置した。その後、この高分子電解質膜が浸漬された溶液に0.1mol/Lの塩酸を徐々に加えることで滴定し、中和点を求めた。絶乾質量と中和点に要する0.1mol/L塩酸の量から、イオン交換容量を求めた。
【0080】
製造例1(比較例2に使用したポリマー)
窒素雰囲気下、フラスコに無水塩化ニッケル65.82g(507.9mmol)とジメチルスルホキシド(DMSO)842gとを加え、70℃に昇温し、溶解した。これを50℃に冷却し、2,2’−ビピリジン87.26g(558.7mmol)を加え、同温度で保温することで、ニッケル含有溶液を調製した。
窒素雰囲気下、フラスコに下記式
【化44】


で示されるスミカエクセルPES 3600P(住友化学株式会社製;Mw=40,000、Mn=24,000:分析条件1で測定)11.19g、DMSO720gを加え50℃に昇温し、溶解した。得られた溶液に、亜鉛粉末49.82g(761.9mmol)、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸(2,2−ジメチルプロピル)60.00g(201.9mmol)を加え溶解させた。これに、前記ニッケル含有溶液を注加し、次いで70℃に昇温して2時間保温撹拌し、黒色の重合溶液を得た。得られた重合溶液を、水3600gに注加し、生じた沈殿を濾過で集めた。水1800gを用いて浸漬洗浄を二回行った後、沈殿物に、沈殿物と水との合計が2088gになるように水を加え、さらに35重量%亜硝酸ナトリウム水溶液27.9gを加えた。このスラリー溶液に、70重量%硝酸520gを30分かけて滴下し、滴下後、室温で1時間撹拌した。スラリー溶液を濾過し、集めた粗ポリマーを濾液のpHが1を越えるまで水洗を行なった。次に、冷却器を備えたフラスコに、粗ポリマーと、粗ポリマーと水との合計の重量が2134gになるまで水を加え、さらに5重量%水酸化リチウム水溶液を、粗ポリマーと水のスラリー溶液のpHが7になるまで加え、さらにメタノール2003gを加え、1時間還流させた。 粗ポリマーを濾過して集め、水613g、次いで、メタノール750gを用いて浸漬洗浄し、80℃の乾燥機で乾燥することで、スルホン酸前駆基(スルホン酸(2,2−ジメチルプロピル)基)を有するポリマーA72.4gを得た。
【0081】
次に、以下のようにしてスルホン酸前駆基をスルホ基に変換した。
上述のようにして得られたスルホン酸前駆基を有するポリマーA72.4gをフラスコに入れ、アルゴン雰囲気下、NMP1825gを加えて、80℃で加熱撹拌し、溶解させた。これに活性アルミナ94.9gを加えて1時間30分保温撹拌した。その後、これに1825gのNMPを加え、濾過により活性アルミナを除いた。得られた溶液からNMPを減圧留去することで濃縮し、910gのNMP溶液とした。この溶液に水7.06g、無水臭化リチウム34.03g(391.8mmol)を加え、120℃に昇温して、同温度で12時間保温撹拌した。得られた反応溶液を6N塩酸3650gに投入し、1時間攪拌した。析出した粗ポリマーを濾過で集め、3650gの35重量%塩酸/メタノール溶液(重量比1/1の混合溶液)で3回浸漬洗浄した後、濾液のpHが4を越えるまで水洗を行った。ついで、粗ポリマーを4745gの熱水(95℃)で3回浸漬洗浄し、乾燥して、スルホ基含有ポリマーB45.3gを得た。かかるスルホ基含有ポリマーBは、下記
【化45】


で示される繰り返し単位と下記
【化46】


で示される繰り返し単位を含むものであり、分子量は、Mn=157000、Mw=337000(分析条件1で測定)、IECは2.74meq/gであった。
【0082】
上記の方法に準じて合成したスルホ基含有ポリマー8ロットを混合して、スルホ基含有ポリマーC304.5gを取得した。
【0083】
製造例2(比較例1に使用したポリマー)
製造例1に記載の製造方法に準じて、スミカエクセルPES3600P 100重量部から、スルホ基含有ポリマーD136重量部を取得した。かかるスルホ基含有ポリマーDは、下記
【化47】


で示される繰り返し単位と下記
【化48】


で示される繰り返し単位を含むものであり、分子量は、Mn=163000、Mw=342000(分析条件2で測定)、IECは2.73meq/gであった。
【0084】
製造例3(実施例2に使用のポリマー)
冷却装置を備えたガラス製反応容器内を窒素で十分置換した後、室温下で該ガラス製反応容器に、亜鉛粉末5.3gとN,N−ジメチルアセトアミド200gを加え、80℃に加熱した。ここにメタンスルホン酸0.15gを加え、2時間保温した後に50℃に温調した(スラリーEとする)。一方で、冷却装置を備えたガラス製反応容器内を窒素で十分置換した後、室温下で該ガラス製反応容器に、臭化ニッケル3.0g、2,2’−ビピリジン3.2g、下記式
【化49】


で示されるスミカエクセルPES 3600P(住友化学株式会社製;Mw=40,000、Mn=24,000:分析条件2で測定)21.9g、及びN,N−ジメチルアセトアミド327gを仕込んだ。内温を65℃まで昇温した後、50℃に冷却して4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジ(2,2−ジメチルプロピル)38.3gを加え、前記スラリーEに注ぎ込んだ。反応混合物を60℃で4時間攪拌を行い、下記
【化50】


で示される繰り返し単位と下記
【化51】


で示される繰り返し単位と、を含むポリマーFを含む重合反応液を得た。かかるポリマーFのMwは296,000であり、Mnは104,000であった。
【0085】
上述のようにして得られた重合反応液600gに、N,N−ジメチルアセトアミド207.7gと56重量%臭化リチウム水溶液63.7gと水65.9gを加え、120℃まで昇温し、同温度で12時間加熱することで、スルホ基変換を行い、スルホ基含有ポリマーGを得た。反応混合物にメタンスルホン酸13.1g加えた後に室温まで冷却し、19重量%塩酸に注ぎ込み、スルホ基含有ポリマーGを析出させた。析出したスルホ基含有ポリマーGをろ過し、塩酸洗浄、水洗浄及びメタノール洗浄した後、減圧乾燥して、スルホ基含有ポリマーG44.0gを得た。かかるスルホ基含有ポリマーGは、下記
【化52】


で示される繰り返し単位と下記
【化53】


で示される繰り返し単位を含むものであり、分子量は、Mn=195000、Mw=410000(分析条件2で測定)であった。
【0086】
製造例4(実施例1に使用のポリマー)下記式
【化54】


で示されるスミカエクセルPES 3600P(住友化学株式会社製;Mw=40,000、Mn=24,000:分析条件2で測定)62.2gと亜鉛粉末18.9gとN−メチル−2−ピロリドン998.5gと4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジ(2,2−ジメチルプロピル)110.0gを混合し、40℃に調整した。メタンスルホン酸222mgとN−メチル−2−ピロリドン14.5gから成る溶液を加え、40℃で3時間撹拌したのち、20℃に冷却した(スラリーHとする)。一方、無水臭化ニッケル8.4gと2,2’−ビピリジン6.0gとN−メチル−2−ピロリドン504.4gとを混合し、65℃で2時間撹拌し、20℃に冷却後に上記スラリーHに注ぎ込んだ。20℃で15時間撹拌することによって、下記
【化55】


で示される繰り返し単位と下記
【化56】


で示される繰り返し単位と、を含むポリマーIを含む重合反応液を得た。かかるポリマーIのMwは236,000、Mnは84,000であった。
【0087】
上述のようにして得られた重合反応液1700gに、トルエン3120g、メチルエチルケトン2816g、19重量%塩酸528gを加えて混合物を調製し、該混合物を80℃で1時間攪拌した。攪拌を停止し、30分静置して分液し、有機層を取得した。
得られた有機層から減圧蒸留により溶媒を留去した後、残渣にN−メチル−2−ピロリドンを加えて、溶液重量を1929gに調整した。これに35重量%塩酸80.0gを加え、さらに120℃まで昇温し、同温度で24時間加熱することで、スルホ基変換を行い、スルホ基含有ポリマーJを得た。反応混合物をアセトンに注ぎ込み、スルホ基含有ポリマーJを析出させた。析出したスルホ基含有ポリマーJをろ過し、アセトン洗浄、塩酸洗浄、熱水洗浄及びメタノール洗浄した後、減圧乾燥して、スルホ基含有ポリマーJ95.7gを得た。かかるスルホ基含有ポリマーJは、下記
【化57】


で示される繰り返し単位と下記
【化58】


で示される繰り返し単位を含むものであり、分子量は、Mn=162000、Mw=341000(分析条件2で測定)であった。
【0088】
上記の方法に準じて合成したポリアリーレン系ブロック共重合体3ロットを混合して、スルホ基含有ポリマーKを113.6g取得した。
【0089】
実施例1(膜の調製)
製造例4のポリマーKを、ジメチルスルホキシドに約9.5重量%の濃度になるように溶解させて、高分子電解質溶液を調製した。次いで、この高分子電解質溶液をPET基材上に均一に塗り広げた。塗布後、高分子電解質溶液を90℃で常圧乾燥した。その後、得られた膜を2N硫酸に浸漬、洗浄した後、イオン交換水で洗浄し、更に常温乾燥した後、PET基材から剥離することで高分子電解質膜1を得た。
【0090】
(NMR測定のための試料調製)
膜試料およそ10mgを3mLスクリュー管に量り取り、ジメチルスルホキシド−d6を0.55mLスクリュー管に加え、80℃のホットプレート上で溶解させた。この溶液を適当量5mmφNMR管に移した。
【0091】
(NMR測定)
NMR測定は、AVANCE600(Bruker社製)を用い、60℃において実施した。プローブとして5mmφクライオプローブ(Bruker社製)を用いた。
測定の結果、構造(1a)〜(1d)の何れかの型に分類される構造の数の比率は、(1a)と(1c)の合計が0%、(1b)が0%、(1d)が100%であった。
【0092】
(触媒インクの製造)
市販の5重量%ナフィオン溶液(溶媒:水と低級アルコールの混合物)11.4mLに、白金が担持された白金担持カーボン(SA50BK、エヌ・イー・ケムキャット製、白金含有量;50重量%)を1.00g投入し、さらにエタノールを50.20g、水を7.04g加えた。得られた混合物を1時間超音波処理した後、スターラーで5時間攪拌して触媒インクを得た。
【0093】
(膜−電極接合体の製造)
次に、高分子電解質膜1の片面の中央部における5.2cm角の領域に、スプレー法により上記の触媒インクを塗布した。この際、吐出口から膜までの距離は6cmとし、ステージ温度は75℃に設定した。同様の方法で重ね塗りを行った後、塗布物をステージ上に15分間放置し、これにより溶媒を除去して、0.6mg/cmの白金を含むアノード触媒層を形成させた。続いて、高分子電解質膜のアノード触媒層と反対側の面にも同様に触媒インクを塗布して、0.6mg/cmの白金を含むカソード触媒層を形成した。これにより、膜−電極接合体を得た。
【0094】
(燃料電池セルの組み立て)
上記で得られた膜−電極接合体の両外側に、ガス拡散層としてカーボンクロスと、ガス通路用の溝を切削加工したカーボン製セパレータを配し、さらにその外側に集電体及びエンドプレートを順に配置し、これらをボルトで締め付けることによって、有効電極面積25cmの燃料電池セルを組み立てた。
【0095】
(燃料電池セルの特性評価)
燃料電池セルの温度を95℃、水素極ガス入口露点を95℃、空気極ガス入口露点を25℃、水素ガス流量を70mL/min、空気流量を174mL/min、水素極ガス出口背圧を0.1MPaG、空気極ガス出口背圧を0.05MPaGとし、約110時間、開回路で保持させた(OCV試験)。その後、膜−電極接合体を取り出してエタノール/水の混合溶液に投入し、さらに超音波処理することで触媒層を取り除いた。そして、残った高分子電解質膜のイオン交換基を有するブロックの分子量を次の手順で測定した。すなわち、膜中のポリアリーレン系ブロック共重合体4mgに対し、テトラメチルアンモニウム水酸化物の25%メタノール溶液10μLを100℃で2時間反応させ、放冷後、得られた溶液の分子量をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。OCV試験前後のイオン交換基を有するブロックの重量平均分子量、及び、重量平均分子量の維持率を表2に示す。この維持率が高いほど、高分子電解質膜の劣化が小さいことを意味する。なお、GPCの測定条件は下記の通りとした。・カラム:TOSOH社製 TSK gel GMHHHR−M1本・カラム温度:40℃・移動相溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド(LiBrを10mmol/dmになるように添加)・溶媒流量:0.5mL/分
【0096】
比較例1
製造例2のポリマーDを、ジメチルスルホキシドに約8.5重量%の濃度になるように溶解させて、高分子電解質溶液を調製した。次いで、この高分子電解質溶液をPET基材上に均一に塗り広げた。塗布後、高分子電解質溶液を110℃で常圧乾燥した。その後、得られた膜を2N硫酸に浸漬、洗浄した後、イオン交換水で洗浄し、更に常温乾燥した後、PET基材から剥離することで高分子電解質膜2を得た。実施例1と同様の方法でNMR測定を行った結果、構造(1a)〜(1d)の型に分類される構造の数の比率は、(1a)と(1c)の合計が72%、(1b)が18%、(1d)が10%であった。得られた膜を用いて、実施例1と同様の方法で、膜−電極接合体を製造し、燃料電池セルを組み立て、燃料電池セルの特性評価を行った。OCV試験前後のイオン交換基を有するブロックの重量平均分子量、及び、重量平均分子量の維持率を表2に示す。
【0097】
【表2】

【0098】
実施例2
製造例3のポリマーGを、ジメチルスルホキシドに約8.5重量%の濃度になるように溶解させて、高分子電解質溶液を調製した。次いで、この高分子電解質溶液をPET基材上に均一に塗り広げた。塗布後、高分子電解質溶液を100℃で常圧乾燥した。その後、得られた膜を2N硫酸に浸漬、洗浄した後、イオン交換水で洗浄し、更に常温乾燥した後、PET基材から剥離することで高分子電解質膜3を得た。実施例1と同様の方法でNMR測定を行った結果、構造(1a)〜(1d)の型に分類される構造の数の比率は、(1a)と(1c)の合計が0%、(1b)が0%、(1d)が100%であった。
【0099】
(触媒インクの製造)
市販の5重量%ナフィオン溶液(溶媒:水と低級アルコールの混合物)11.4mLに、白金が担持された白金担持カーボン(SA50BK、エヌ・イー・ケムキャット製、白金含有量;50重量%)を1.00g投入し、さらにエタノールを50.20g、水を7.04g加えた。得られた混合物を1時間超音波処理した後、スターラーで5時間攪拌して触媒インクを得た。
【0100】
(膜−電極接合体の製造)
次に、高分子電解質膜3の片面の中央部における3.2cm角の領域に、スプレー法により上記の触媒インクを塗布した。この際、吐出口から膜までの距離は6cmとし、ステージ温度は75℃に設定した。同様の方法で重ね塗りを行った後、塗布物をステージ上に15分間放置し、これにより溶媒を除去して、0.6mg/cmの白金を含むアノード触媒層を形成させた。続いて、高分子電解質膜のアノード触媒層と反対側の面にも同様に触媒インクを塗布して、0.6mg/cmの白金を含むカソード触媒層を形成した。これにより、膜−電極接合体を得た。
【0101】
(燃料電池セルの組み立て)
上記で得られた膜−電極接合体の両外側に、ガス拡散層としてカーボンクロスと、ガス通路用の溝を切削加工したカーボン製セパレータを配し、さらにその外側に集電体及びエンドプレートを順に配置し、これらをボルトで締め付けることによって、有効電極面積9cmの燃料電池セルを組み立てた。
【0102】
(燃料電池セルの特性評価)
得られた燃料電池セルを95℃に保ちながら、低加湿状態の水素(25mL/分、背圧0.1MPaG)と低加湿状態の空気(63mL/分、背圧0.05MPaG)をセルに導入し、開回路と一定電流での負荷変動試験を行った。この条件で燃料電池セルを約210時間作動させた後、膜−電極接合体を取り出してエタノール/水の混合溶液に投入し、さらに超音波処理することで触媒層を取り除いた。そして、残った高分子電解質膜のイオン交換基を有するブロックの分子量を次の手順で測定した。すなわち、膜中のポリアリーレン系ブロック共重合体4mgに対し、テトラメチルアンモニウム水酸化物の25%メタノール溶液10μLを100℃で2時間反応させ、放冷後、得られた溶液の分子量をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。OCV試験前後のイオン交換基を有するブロックの重量平均分子量、及び、重量平均分子量の維持率を表3に示す。この維持率が高いほど、高分子電解質膜の劣化が小さいことを意味する。なお、GPCの測定条件は下記の通りとした。・カラム:TOSOH社製 TSK gel GMHHHR−M1本・カラム温度:40℃・移動相溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド(LiBrを10mmol/dmになるように添加)・溶媒流量:0.5mL/分
【0103】
比較例2
製造例1のポリマーCを、ジメチルスルホキシドに約8.5重量%の濃度になるように溶解させて、高分子電解質溶液を調製した。次いで、この高分子電解質溶液をPET基材上に均一に塗り広げた。塗布後、高分子電解質溶液を100℃で常圧乾燥した。その後、得られた膜を2N硫酸に浸漬、洗浄した後、イオン交換水で洗浄し、更に常温乾燥した後、PET基材から剥離することで高分子電解質膜4を得た。実施例1と同様の方法でNMR測定を実施した結果、構造(1a)〜(1d)の型に分類される構造の数の比率は、(1a)と(1c)の合計が74%、(1b)が17%、(1d)が9%であった。得られた膜を用いて、実施例2と同様の方法で、膜−電極接合体を製造し、燃料電池セルを組み立て、燃料電池セルの特性評価を行った。負荷変動試験前後のイオン交換基を有するブロックの重量平均分子量、及び、重量平均分子量の維持率を表3に示す。
【0104】
【表3】

【0105】
計算例1
GAUSSIAN03プログラム(リビジョン D.02)の密度汎関数法(B3LYP/6−31G(d)法)を用い、上述の(6a)、(6b)、(6c)、(6d)式における置換基A、B、Cがそれぞれスルホ基からなる高分子の部分モデルとなる構造(A−1、A−2、A−3、A−4)の炭素原子1、及び、炭素原子2へのOHラジカル付加反応の活性化エネルギーを計算した。計算により得られた活性化エネルギーを図1に示す。(A−3)および(A−4)に対する活性化エネルギーの最小値は、それぞれ5.4および4.8kcal/molであり、(A−1)の3.2kcal/mol、および(A−2)の3.0kcal/molに比較して大きくなる結果が得られた。従って、(A−3)および(A−4)の部分構造の方が(A−1)及び(A−2)よりもOHラジカル付加反応は進行しにくく切断されにくい。よって、これらの部分構造の比率が高いほど、高分子の耐久性が高いと考えることができる。
【化59】

【0106】
計算例2
GAUSSIAN03プログラム(リビジョン D.02)の密度汎関数法(B3LYP/6−31G(d)法)を用い、上述の(6a)、(6b)、(6c)、(6d)式における置換基A、B、Cがそれぞれ(5)式である高分子の部分モデルとなる構造(B−1、B−2、B−3、B−4)の炭素原子1及び炭素原子2に対するOHラジカル付加反応の活性化エネルギーを計算した。計算により得られた活性化エネルギーを図2に示す。(B−3)および(B−4)に対する活性化エネルギーの最小値は、それぞれ5.7および5.0kcal/molであり、(B−1)の3.5kcal/mol、および(B−2)の3.3kcal/molに比較して大きくなる結果が得られた。従って、(B−3)および(B−4)の部分構造の方が(B−1)及び(B−2)よりもOHラジカル付加反応は進行しにくく切断されにくい。よって、これらの部分構造の比率が高いほど、高分子の耐久性が高いと考えることができる。
【化60】


【化61】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1a)〜(1d)の何れかの型に分類される構造を1以上含むポリマーであって、該ポリマーに含まれる式(1a)〜(1d)の型に分類される構造の数の合計に対する、式(1c)および(1d)に分類される構造の数の合計の比率が85%以上であるポリマー。
【化1】


(ここで、A〜A12はそれぞれ独立に、イオン交換基またはイオン交換基を含有する置換基を表す。R〜R12はそれぞれ独立に、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基、及び、フッ素原子から選ばれる置換基を表す。p〜p12はそれぞれ独立に0以上3以下の整数である。R〜R12が、複数ある場合、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
式(1c)の型に分類される構造が式(2c)で表される構造を含み、式(2c’)で表される化合物が有する炭素原子1または炭素原子2にOHラジカルが付加する際の活性化エネルギーについて、その値が小さい方を最小活性化エネルギーCとし、式(2a’)で表される化合物が有する炭素原子1または炭素原子2にOHラジカルが付加する際の活性化エネルギーについて、その値が小さい方を最小活性化エネルギーAとし、式(2b’)で表される化合物が有する炭素原子1または炭素原子2にOHラジカルが付加する際の活性化エネルギーについて、その値が小さい方を最小活性化エネルギーBとしたとき、最小活性化エネルギーCが、最小活性化エネルギーAおよび最小活性化エネルギーBより大きい請求項1に記載のポリマー。
【化2】


(ここで、A〜Cはそれぞれ独立にイオン交換基またはイオン交換基を含有する置換基を表す。R13〜R15はそれぞれ独立に、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基、及び、フッ素原子から選ばれる置換基を表す。p13〜p15はそれぞれ独立に0以上3以下の整数である。R13〜R15が、複数ある場合、それぞれ同一でも異なっていてもよい。1および2は炭素原子の番号を示す。)
【請求項3】
式(1d)の型に分類される構造が式(3d)で表される構造を含み、式(3d’)で表される化合物が有する炭素原子1または炭素原子2にOHラジカルが付加する際の活性化エネルギーについて、その値が小さい方を最小活性化エネルギーDとし、式(3a’)で表される化合物が有する炭素原子1または炭素原子2にOHラジカルが付加する際の活性化エネルギーについて、その値が小さい方を最小活性化エネルギーAとし、式(3b’)で表される化合物が有する炭素原子1または炭素原子2にOHラジカルが付加する際の活性化エネルギーについて、その値が小さい方を最小活性化エネルギーBとしたとき、最小活性化エネルギーDが、最小活性化エネルギーAおよび最小活性化エネルギーBより大きい請求項1又は2に記載のポリマー。
【化3】


(ここで、A〜Cはそれぞれ独立にイオン交換基またはイオン交換基を含有する置換基を表す。R16〜R18はそれぞれ独立に、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、イオン交換基を除く置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基、及び、フッ素原子から選ばれる置換基を表す。p16〜p18はそれぞれ独立に0以上3以下の整数である。R16〜R18が、複数ある場合、それぞれ同一でも異なっていてもよい。1および2は炭素原子の番号を示す。)
【請求項4】
〜A12が、それぞれ独立にイオン交換基を含有する置換基である請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項5】
前記イオン交換基を含有する置換基が、イオン交換基を有する、もしくは、イオン交換基を含む置換基を有する電気吸引性基である請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項6】
前記イオン交換基を有する、もしくは、イオン交換基を含む置換基を有する電気吸引性基が、式(4)で表される基である請求項5に記載の高分子。
【化4】


(ここでDはイオン交換基もしくはイオン交換基を含有する置換基である。)
【請求項7】
〜A12が、それぞれ独立にイオン交換基である請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項8】
式(1a)〜(1d)のいずれかの型に分類される構造を1以上含むイオン交換基を有するブロックと、イオン交換基を実質的に有しないブロックとを有する請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のポリマーを含む高分子電解質。
【請求項10】
請求項9に記載の高分子電解質を含む、高分子電解質膜。
【請求項11】
請求項9に記載の高分子電解質と触媒物質とを含む触媒組成物。
【請求項12】
請求項10に記載の高分子電解質膜又は請求項11記載の触媒組成物から得られた触媒層を備えた、膜電極接合体。
【請求項13】
請求項12記載の膜電極接合体を有する固体高分子形燃料電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−102389(P2011−102389A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232643(P2010−232643)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】