説明

ポリマーの熱可逆性架橋

本発明は流動性変性型ポリマー組成物またはフリーラジカルにより架橋可能なポリマー組成物である。この生成する流動性を変性する結合または架橋結合は、熱可逆性の結合である。この生成するポリマーは、フリーラジカルの形成時に優先的に分解するか、あるいは炭素−炭素で架橋する少なくとも1つのポリマーから製造される。本発明によって、この優先的な反応の抑制が可能となり、このポリマーが熱可逆性の結合によりカップリングまたは架橋されることが可能になる。この望ましくない分解または炭素−炭素架橋反応を抑制し、望ましい反応を可能とさせることによって、流動性の変性されたポリマーまたはフリーラジカルにより熱可逆的に架橋するポリマーが生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フリーラジカル反応を受けるポリマー系に関し、望ましくはフリーラジカルにより開始された熱可逆性の特異な架橋(a unique free-radical-initiated thermally-reversible crosslink)が導入される。
【背景技術】
【0002】
ポリマーの多くがフリーラジカル反応を受ける。これらの反応の一部は、分解または炭素−炭素架橋などのように有害である。この有害な反応の影響を最小にする一方で、(1)有用なカップリング反応(流動性を変性する反応)または(2)組成物のメルト加工性を維持した、フリーラジカルにより開始された有用な架橋反応を促進する必要性がある。
【0003】
ポリオレフィンは、非選択的なフリーラジカル化学反応に供される場合が多々ある。例えば、フリーラジカル化学反応を高温で行うと、特に三級水素を含有するポリマー、例えばポリプロピレンおよびポリスチレンにおいて分子量が低下し得る。加えて、フリーラジカル化学反応によれば、炭素−炭素架橋を促進して、ポリエチレンに望ましくないレベルのゲルを生成し、メルト加工性を制限する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリプロピレンに関しては、フリーラジカルによるポリマーの分解は鎖切断として説明することができ、ポリマーの分子量を低下させ、そのメルトフローレートを増大させる。切断は均一でないために、当分野で「テール」と呼ばれる低分子量ポリマー鎖が形成されるに従って分子量分布が増大する。
【0005】
ポリエチレンに関しては、フリーラジカルによる炭素−炭素カップリングまたは架橋が、ポリマーのメルト加工性を制限する。改善されたメルト加工性を有する架橋ポリマーを製造することが望ましい。
【0006】
ポリマーの鎖切断または炭素−炭素架橋を起こさずに、(1)このポリマーのカップリングにより種々のポリマーのメルト粘度とメルト強度を増大させること、または(2)フリーラジカルにより開始された特異な架橋を導入することにより種々のポリマーを架橋させ、メルト加工性を維持することが望ましい。このポリマーは、ハロゲン化される場合には、脱ハロゲン化水素化を受けることなく、望ましいカップリングや架橋反応を受けることも望ましい。フリーラジカルにより開始された特異な結合は、熱可逆性であることが望ましい。
【0007】
ポリマーが好ましい反応を受けるときに、ポリマーの分子構造を制御することも望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は流動性変性可能なポリマー組成物(a rheology-modifiable polymeric composition)またはフリーラジカルにより架橋可能なポリマー組成物(a free-radical crosslinkable polymeric composition)であり、生成する流動性を変性する結合または架橋結合は熱可逆性の結合である。生成するポリマーは、フリーラジカルの形成時に優先的に分解するか、あるいは炭素−炭素で架橋する少なくとも1つのポリマーから製造される。本発明によって、この優先的な反応の抑制が可能となり、このポリマーの熱可逆性結合によるカップリングまたは架橋が可能となる。この望ましくない分解または炭素−炭素架橋反応を抑制し、望ましい反応を可能とさせることによって、流動性の変性されたポリマー(a rheology-modified polymer)またはフリーラジカルにより熱可逆的に架橋するポリマー(a free-radical thermally-reversibly crosslinked polymer)が生成する。
【0009】
本発明は、電線・電纜(wire-and-cable)、履物、フィルム(例えば、温室、収縮性および弾性)、エンジアリング熱可塑性樹脂、高充填、難燃剤、反応性コンパウンド、熱可塑性エラストマー、熱可塑性加硫物、自動車、加硫ゴム代替品、建設、自動車、家具、フォーム、湿潤処理、接着剤、塗装性基材、染色性ポリオレフィン、水分硬化、ナノコンポジット、相溶化、ワックス、カレンダー掛けされたシート、医薬品、分散物、共押し出し、セメント/プラスチック補強、食品包装、不織布、紙変性、多層容器、スポーツ用品、配向構造物および表面処理用途において有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本明細書で使用される「FRTS−熱可逆性−官能基結合(FRTS-Thermally-Reversible-Functional Group Bond)」は、フリーラジカル捕捉種と熱可逆性の官能基を提供する化合物(a thermally-reversible-functional group contributor)との炭素の間で形成される共有結合を意味する。FRTS−熱可逆性−官能基結合を形成する前に、このフリーラジカル捕捉種は少なくとも1つの捕捉部位及び熱可逆性結合に寄与する部位を有する。この捕捉部位において、このフリーラジカル捕捉種はこのポリマー分子にグラフトされる。この熱可逆性結合に寄与する部位において、このフリーラジカル捕捉種は熱可逆性の結合を提供する化合物に共有結合し、熱可逆性結合を生成する。
【0011】
この「FRTS−熱可逆性−官能基結合」は、(1)炭素−FRTS−熱可逆性の官能結合を提供する化合物−炭素 結合(carbon-FRTS-Thermally-Reversible-Functional Bond Contributor-carbon bonds)および(2)炭素−FRTS−熱可逆性の官能基−FRTS−炭素 結合(carbon-FRTS-Thermally-Reversible-Functional Group-FRTS-carbon bonds)の一つである。他の結合の例は、当業者には容易に理解できるものである。特に、一つの鎖に2つ以上の(more than one)熱可逆性官能基がある場合と、複数の(multiple)熱可逆性官能基群がある場合とでは、異なる化学構造を有する(すなわち、官能基群の場合は、異なるタイプである)。
【0012】
本明細書で使用される「拘束幾何触媒(constrained geometry catalyst)で触媒される(catalyzed)ポリマー」、「CGCで触媒されるポリマー」または類似の用語は、拘束幾何触媒の存在下で製造されるいかなるポリマーも意味する。本明細書で使用される「拘束幾何触媒」または「CGC」は、この用語が米国特許第5,272,236号および第5,278,272号で定義され、述べられているのと同一の意味を有する。
【0013】
本明細書で使用される「長鎖分岐(LCB)」は、例えばエチレン/アルファ−オレフィンコポリマーについては、ポリマー骨格の中へのアルファ−オレフィンの組み込みから生じる、短鎖分岐よりも長い鎖長を意味する。各長鎖分岐はポリマー骨格と同一のコモノマー分布を有し、それが結合するポリマー骨格ほどに長いものであることができる。
【0014】
本明細書で使用される「メルト加工性」は、ポリマーが固体状態で架橋されるが、慣用の加工装置、例えば押し出し機および成形ダイで成形可能であるように、粘性流動することができると特徴付けられる熱可塑性挙動を溶融状態でも維持するポリマーを意味する。
【0015】
本明細書で使用される「メルト強度」は、破断時の、あるいは引き取り共振の開始時(at the onset of draw resonance)における最大引張り力を意味する。メルト強度は、Gottfert Inc.社製のメルト強度テスターとともに、Instron Corporation社製のキャピラリーレオメーターを用いて測定される。キャピラリーレオメーターは、ダイを介して一定の処理速度でポリマーの溶融物を供給することで用いられる。メルト強度テスターは、加速度2.4mm/秒2でニップロールを用いて溶融ポリマーのフィラメントを一軸延伸することで用いられる。要求される引張り力は、メルト強度テスターのニップロールの巻き取り速度の関数として記録される。キャピラリーレオメーターは、約45度の入口角を有する、直径が2.1mmの20:1ダイに取り付けられる。190℃で10分間、試験試料を平衡状態にした後、ピストンを1インチ/分の速度で作動させた。
【0016】
本明細書で使用される「メタロセン」は、金属に結合した少なくとも1つの置換あるいは非置換のシクロペンタジエニル基を有する金属含有化合物を意味する。「メタロセンで触媒されるポリマー」または類似の用語は、メタロセン触媒の存在下で製造されるいかなるポリマーも意味する。
【0017】
本明細書で使用される「多分散性」、「分子量分布」、および類似の用語は、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)を意味する。
【0018】
本明細書で使用される「ポリマー」は、同一のあるいは異なるタイプのモノマーの重合により製造される高分子化合物を意味する。「ポリマー」は、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマー、インターポリマーなどを含む。用語「インターポリマー」は、少なくとも2つのタイプのモノマーまたはコモノマーの重合により製造されるポリマーを意味する。これは、限定ではないが、コポリマー(3つ以上の異なるタイプのモノマーあるいはコモノマーから製造されるポリマーを指すのに「インターポリマー」としばしば互換的に使用されるが、2つの異なるタイプのモノマーあるいはコモノマーから製造されるポリマーを通常指す)、ターポリマー(3つの異なるタイプのモノマーあるいはコモノマーから製造されるポリマーを通常指す)、テトラポリマー(4つの異なるタイプのモノマーあるいはコモノマーから製造されるポリマーを通常指す)などを含む。用語「モノマー」または「コモノマー」は互換的に使用され、ポリマーを製造するために反応器に添加される重合性部分の付いたいかなる化合物も指す。ポリマーが1つ以上のモノマーを含んでなるとして記述される場合には、例えばプロピレンとエチレンを含んでなるポリマーの場合には、このポリマーは、勿論、モノマーから誘導される単位、モノマーそれ自身、例えばCH2=CH2でなく、例えば−CH2−CH2−を含んでなる。
【0019】
本明細書で使用される「P/E*コポリマー」および類似の用語は、(i)約14.6および約15.7ppmにおけるレギオエラーに対応する、ほぼ等しい強度の13C NMRピーク、および(ii)本質的に同一のままに留まるTmeと、コポリマー中のコモノマー、すなわちエチレンおよび/または不飽和コモノマーから誘導される単位の量が増加するにしたがって減少するTヒ゜ークを持つ示差走査熱分析(DSC)曲線の性質の少なくとも1つを有することを特徴とする、プロピレン/不飽和コモノマーコポリマーを意味する。「Tme」は溶融が終了する温度を意味する。「Tヒ゜ーク」はピーク溶融温度を意味する。通常、本実施形態のコポリマーはこれらの性質の両方を特徴とする。これらの性質の各々およびそれぞれの測定は、参照して本明細書に組み込まれる、2002年5月5日出願の米国特許出願番号10/139,786(WO2003040442)で詳細に述べられている。
【0020】
これらのコポリマーは、約−1.20以上のスキューネスインデックス(skewness index)、Sixを有するとしても更に特徴付けられる。スキューネスインデックスは昇温溶離分別(TREF)から得られるデータから計算される。このデータは溶離温度の関数としての重量分率の正規化されたプロットとして表現される。アイソタクチックプロピレン単位のモル含量が主として溶離温度を決定する。
【0021】
この曲線の形状の主要な特徴は、高溶離温度におけるこの曲線の鋭さまたは急峻さに比較して低溶離温度でのテーリングである。このタイプの非対称性を反映する統計はスキューネスである。式1はこの非対称性の尺度としてのスキューネスインデックス、Sixを数学的に表す。
【数1】

【0022】
値Tmaxは、TREF曲線において50と90℃の間で溶離する最大重量分率の温度として定義される。TiおよびwiはそれぞれTREF分布における任意のi番目の区分の溶離温度および重量分率である。この分布は30℃以上で溶離する曲線の全面積に関して正規化(wiの和は100%に等しい)されたものである。このように、このインデックスは結晶化されたポリマーの形状のみを反映する。いかなる非結晶化ポリマー(30℃以下でなお溶液中にあるポリマー)も式1に示す計算から除外される。
【0023】
P/E*コポリマー用の不飽和コモノマーは、C4-20α−オレフィン、特にC4-12α−オレフィン、例えば1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセンなど;C4-20ジオレフィン、好ましくは1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、ノルボルナジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン(ENB)およびジシクロペンタジエン;スチレン、o−、m−、およびp−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレンを含むC8-40ビニル芳香族化合物;およびハロゲン置換C8-40ビニル芳香族化合物、例えばクロロスチレンおよびフルオロスチレンを含む。エチレンとC4-12α−オレフィンが好ましいコモノマーであり、エチレンが特に好ましいコモノマーである。
【0024】
P/E*コポリマーはP/Eコポリマーの独特な下位組(subset)である。P/EコポリマーはP/E*コポリマーだけでなくプロピレンおよび不飽和コモノマーのすべてのコポリマーを含む。P/E*コポリマー以外のP/Eコポリマーは、メタロセンで触媒されたコポリマー、拘束幾何触媒で触媒されたコポリマー、およびZ−Nで触媒されたコポリマーを含む。本発明のために、P/Eコポリマーは50重量パーセント以上のプロピレンを含んでなり、EP(エチレン−プロピレン)コポリマーは51重量パーセント以上のエチレンを含んでなる。本明細書で使用される「...プロピレンを含んでなる」、「...エチレンを含んでなる」および類似の用語は、このポリマーが化合物それ自身とは対照的にプロピレン、エチレンなどから誘導される単位を含んでなるということを意味する。
【0025】
「プロピレンホモポリマー」および類似の用語は、全て、あるいは本質的に全てプロピレンから誘導される単位からなるポリマーを意味する。「ポリプロピレンコポリマー」および類似の用語は、プロピレンとエチレンおよび/または1つ以上の不飽和コモノマーから誘導される単位を含んでなるポリマーを意味する。
【0026】
本明細書で使用される「流動性の変性された(Rheology Modified)」は、動的機械的スペクトル法(DMS)により求めた、ポリマーのメルト粘度の変化を意味する。メルト粘度の変化は、100ラド(rad)/秒の剪断で測定される高剪断粘度および0.1ラド(rad)/秒の剪断で測定される低剪断粘度について評価される。
【0027】
望ましいこととしては、ポリマーの流動性は、本発明によればほぼ同一の高剪断粘度を維持しながら、メルト強度が増加するように変性される。すなわち、この流動性の変性されたポリマーは、ベースポリマーと比較した場合、低剪断条件において溶融ポリマーを延ばしたときに延伸に対して更なる抵抗性を呈するが、高剪断条件における押し出し量を犠牲にしない。本発明においては、低剪断条件における粘度はベースポリマーよりも少なくとも約5パーセント増加することが望ましい。メルト強度の増加は、通常、長鎖分岐または類似の構造がポリマーの中に導入される場合に観察される。
【0028】
別法としては、本発明により変性されるポリマーの流動性は、高剪断粘度に対する低剪断粘度の比(「低/高・剪断粘度比」)を参照することによって記述され得る。特に、本発明の流動性の変性されたポリマーは、ベースポリマーの低/高・剪断粘度比よりも大きい低/高・剪断粘度比を有するものと特徴付けられ得る。好ましくは、この低/高・剪断粘度比は、少なくとも5パーセント、更に好ましくは少なくとも10%、なお更に好ましくは少なくとも20%増加する。また、好ましくは、高剪断粘度を維持するか、あるいは減少させる一方で、この低/高・剪断粘度比は増加する。更に好ましくは、匹敵する高剪断粘度を維持する一方で、この低/高・剪断粘度比が増加する。この低/高・剪断粘度比の増加は、通常、長鎖分岐または類似の構造がポリマーの中に導入される場合に観察される。
【0029】
別法としては、また好ましくは、流動性の変性されたポリマーがメルト強度または低/高・剪断粘度比により特徴付けられるかどうかに無関係に、生成される流動性の変性されたポリマーは、シクロヘキサン抽出(ASTM2765)により測定して、約10重量パーセント未満、更に好ましくは約5重量パーセント未満のゲル含量を有する。また好ましくは、この流動性の変性されたポリマーのゲル含量は、ベースポリマー(非変性ポリマー)のゲル含量よりも5絶対重量パーセント未満大きい(less than an absolute 5 weight percent greater than the gel content of the base polymer)。
【0030】
架橋ポリマーは、シクロヘキサン抽出(ASTM ?)により測定して、10重量パーセント以上、好ましくは30重量パーセント以上、更に好ましくは50重量パーセント以上のゲル含量を有する。
【0031】
本明細書で使用される「熱可逆性の結合(Thermally-Reversible Bond)」または「熱可逆性の官能基(Thermally-Reversible Functional Group)」は、温度依存性、平衡系の化学反応(temperature-dependent equilibrium-based chemical reaction)により生成する二つの官能基間における化学結合を意味する。この化学結合は低温において生成されるが、温度が上昇するにつれて、可逆的に分解する。熱可逆性の官能基の例としては、尿素、アズラクトン、マレイミド−フラン ディールズ・アルダー付加物、および他のディールズ・アルダー付加物が含まれる。
【0032】
本明細書で使用される「熱可逆性結合寄与剤(Thermally-Reversible Bond Contributor)」は、(a)第2の化合物の官能基に共有結合して、熱可逆性結合(「熱可逆性結合に寄与する部位」)である共有結合を生成する、少なくとも一つの官能基、および(b)任意に炭素結合部位を有する化合物を意味する。たとえば、4−ヒドロキシTEMPO及びメチレンジフェニルジイソシアネートは、熱可逆性のウレタン結合を生成する、補助的な、熱可逆性結合寄与剤である。4−ヒドロキシTEMPOはヒドロキシル基を、メチレンジフェニルジイソシアネートはイソシアネート基を提供する。特に、4−ヒドロキシTEMPOは、少なくとも1つの捕捉部位(すなわち、炭素結合部位)及び熱可逆性結合に寄与する部位を有するフリーラジカル捕捉種の一例でもある。メチレンジフェニルジイソシアネートは、熱可逆性結合に寄与する部位となる二つの官能基を有する。熱可逆性結合に寄与する部位の数によるが、熱可逆性結合寄与剤は他の寄与剤に結合して、付加的な熱可逆性結合を生成する。
【0033】
「チーグラー・ナッタで触媒されたポリマー」、「Z−Nで触媒されたポリマー」、または類似の用語は、チーグラー・ナッタ触媒の存在下で製造されるいかなるポリマーも意味する。
【0034】
1つの実施形態においては、本発明は、フリーラジカル反応性ポリマー(a free-radical reactive polymer)、フリーラジカル誘導種(a free-radical inducing species)、少なくとも1つの捕捉部位及び熱可逆性結合に寄与する部位を有するフリーラジカル捕捉種(a free radical trapping species having at least one trapping site and a thermally-reversible bond contribution site)、および補助的な、熱可逆性結合寄与剤を含んでなる、流動性変性可能なポリマー組成物又はフリーラジカルにより架橋可能なポリマー組成物である。このポリマーはフリーラジカル誘導種により誘導される場合、フリーラジカルの形成能を有する。
【0035】
フリーラジカル反応性ポリマーには、フリーラジカル分解性ポリマー及びフリーラジカル架橋性ポリマーが含まれる。フリーラジカル反応性ポリマーがフリーラジカル分解性ポリマーである場合、このポリマーは、フリーラジカル誘導種により誘導されるとき、フリーラジカル捕捉種がない状態で分解反応を受ける。この分解反応は、鎖切断又は脱ハロゲン化水素化である。フリーラジカル捕捉種は、この分解反応を実質的に抑制し、ポリマーがフリーラジカルを形成した後、このポリマー上にグラフト可能なものである。熱可逆性結合に寄与する部位については、フリーラジカル捕捉種は、補助的な熱可逆性結合寄与剤と反応して、熱可逆性結合を生成する。
【0036】
フリーラジカル反応性ポリマーがフリーラジカル架橋性ポリマーである場合、このポリマーは、フリーラジカル誘導種により誘導されるとき、フリーラジカル捕捉種がない状態で炭素−炭素架橋反応を受ける。フリーラジカル捕捉種は、この炭素−炭素架橋反応を実質的に抑制し、ポリマーがフリーラジカルを形成した後、このポリマー上にグラフト可能なものである。
【0037】
種々のフリーラジカル分解性ポリマーがこのポリマーとして本発明において有用である。このフリーラジカル分解性ポリマーは炭化水素ベースであることができる。好適なフリーラジカル分解性の炭化水素ベースのポリマーは、ブチルゴム、ポリアクリレートゴム、ポリイソブテン、プロピレンホモポリマー、プロピレンコポリマー、スチレン/ブタジエン/スチレンブロックコポリマー、スチレン/エチレン/ブタジエン/スチレンコポリマー、ビニル芳香族モノマーのポリマー、ビニルクロリドポリマー、およびこれらのブレンドを含む。
【0038】
好ましくは、このフリーラジカル分解性の炭化水素ベースのポリマーはイソブテン、プロピレン、およびスチレンポリマーからなる群から選択される。
【0039】
好ましくは、本発明のブチルゴムはイソブチレンとイソプレンのコポリマーである。このイソプレンは、通常、約1.0重量パーセントと約3.0重量パーセントの間の量で使用される。
【0040】
本発明で有用なプロピレンポリマーの例はプロピレンホモポリマーおよびP/Eコポリマーを含む。特に、これらのプロピレンポリマーはポリプロピレンエラストマーを含む。このプロピレンポリマーはいかなる方法によっても製造可能であり、チーグラー・ナッタ、CGC、メタロセン、および非メタロセン、金属中心、ヘテロアリール配位子の触媒により製造可能である。
【0041】
有用なプロピレンコポリマーはランダム、ブロックおよびグラフトコポリマーを含む。例示のプロピレンコポリマーは、Exxon−Mobil VISTAMAX、Mitsui TAFMER、およびThe Dow Chemical CompanyによるVERSIFY(商標)を含む。これらのコポリマーの密度は、通常、少なくとも約0.850、好ましくは少なくとも約0.860、更に好ましくは少なくとも約0.865グラム/立方センチメートル(g/cm3)である。
【0042】
通常、これらのプロピレンコポリマーの最大密度は、約0.915であり、好ましくはこの最大は約0.900であり、更に好ましくはこの最大は約0.890g/cm3である。これらのプロピレンコポリマーの重量平均分子量(Mw)は広範に変わることができるが、通常、約10,000と1,000,000の間にある。これらのコポリマーの多分散性は、通常、約2と約4の間にある。
【0043】
これらのプロピレンコポリマーは、通常、少なくとも約0.01、好ましくは少なくとも約0.05、更に好ましくは少なくとも約0.1のメルトフローレート(MFR)を有する。この最大のMFRは、通常、約2,000を超えず、好ましくは約1000を超えず、更に好ましくは約500を超えず、なお更に好ましくは約80を超えず、最も好ましくは約50を超えない。プロピレンとエチレンおよび/または1つ以上のC4−C20α−オレフィンのコポリマーに対するMFRは、ASTM D−1238、条件L(2.16kg、230℃)にしたがって測定される。
【0044】
本発明で有用なスチレン/ブタジエン/スチレンブロックコポリマーは相分離した系である。スチレン/エチレン/ブタジエン/スチレンコポリマーも本発明で有用である。
【0045】
ビニル芳香族モノマーのポリマーは本発明で有用である。好適なビニル芳香族モノマーは、限定ではないが、米国特許第4,666,987号;第4,572,819号および第4,585,825号で述べられているものなど、重合法での使用に既知のビニル芳香族モノマーを含む。
【0046】
好ましくは、このモノマーは式、
【化1】

のものである。式中、R’は水素または3個以下の炭素を含有するアルキル基であり、Arはアルキル、ハロ、あるいはハロアルキル置換を含むか、あるいは含まない1〜3個の芳香族環を有する芳香族環構造であり、ここで、いかなるアルキル基も1〜6個の炭素原子を含み、ハロアルキルはハロ置換アルキル基を指す。好ましくは、Arはフェニルまたはアルキルフェニルであり、ここでアルキルフェニルはアルキル置換フェニル基を指し、フェニルが最も好ましい。使用可能な通常のビニル芳香族モノマーは、スチレン、アルファ−メチルスチレン、ビニルトルエンのすべての異性体、特にパラ−ビニルトルエン、エチルスチレン、プロピルスチレン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどのすべての異性体、およびこれらの混合物を含む。
【0047】
このビニル芳香族モノマーは他の共重合性モノマーとも合体され得る。このようなモノマーの例は、限定ではないが、アクリルモノマー、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタクリル酸、メチルメタクリレート、アクリル酸、およびメチルアクリレート;マレイミド、フェニルマレイミド、およびマレイン酸無水物を含む。加えて、この重合は、衝撃性の変性された、あるいはグラフトゴム含有製品を製造するために予め溶解されたエラストマーの存在下で行われ得、その例が米国特許第3,123,655号、第3,346,520号、第3,639,522号、および第4,409,369号で述べられている。
【0048】
本発明は、ゴム変性されたモノビニリデン芳香族ポリマー組成物の剛性、マトリックスあるいは連続相のポリマーにも適用可能である。
【0049】
種々のフリーラジカル炭素−炭素架橋型ポリマーがこのポリマーとして本発明において有用である。このポリマーは炭化水素ベースであることができる。好適なフリーラジカル炭素−炭素架橋型の炭化水素ベースのポリマーは、アクリロニトリルブタジエンスチレンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレン/アルファ−オレフィンコポリマー、エチレン/ジエンコポリマー、エチレンホモポリマー、エチレン/プロピレン/ジエンモノマー、エチレン/プロピレンゴム、エチレン/スチレンインターポリマー、エチレン/不飽和エステルコポリマー、フルオロポリマー、ハロゲン化ポリエチレン、水素化ニトリルブタジエンゴム、天然ゴム、ニトリルゴム、ポリブタジエンゴム、シリコーンゴム、スチレン/ブタジエンゴム、スチレン/ブタジエン/スチレンブロックコポリマー、スチレン/エチレン/ブタジエン/スチレンコポリマーおよびこれらのブレンドを含む。
【0050】
本発明では、クロロプレンゴムは一般に2−クロロ−1,3−ブタジエンのポリマーである。好ましくは、このゴムは乳化重合により製造される。加えて、この重合はイオウの存在下で行われて、このポリマー中に架橋を組み込むことができる。
【0051】
好ましくは、このフリーラジカル炭素−炭素架橋型の炭化水素ベースのポリマーはエチレンポリマーである。
【0052】
好適なエチレンポリマーに関しては、このポリマーは、一般に、(1)高分岐(highly-branched);(2)不均質直鎖(heterogeneous linear);(3)均質分岐直鎖(homogeneously branched linear);および(4)均質分岐実質的に直鎖(homogeneously branched substantially linear)の4つの主要な分類のなかに入る。これらのポリマーは、チーグラー・ナッタ触媒、メタロセンあるいはバナジウムベースの単一部位触媒、または拘束幾何の単一部位触媒により製造可能である。
【0053】
高分岐エチレンポリマーは低密度ポリエチレン(LDPE)を含む。これらのポリマーはフリーラジカル開始剤により高温および高圧で製造可能である。別法としては、これらは配位触媒により高温および比較的低圧で製造可能である。これらのポリマーは、ASTM D−792で測定して、約0.910グラム/立方センチメートルと約0.940グラム/立方センチメートルの間の密度を有する。
【0054】
不均質直鎖エチレンポリマーは、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、超超低密度(ultra-low density)ポリエチレン(ULDPE)、超低密度(very low density)ポリエチレン(VLDPE)、および高密度ポリエチレン(HDPE)を含む。直鎖低密度エチレンポリマーは、ASTM1238、条件Iにより測定して、約0.850グラム/立方センチメートルと約0.940グラム/立方センチメートルの間の密度および約0.01と約100グラム/10分の間のメルトインデックスを有する。好ましくは、このメルトインデックスは約0.1と約50グラム/10分の間にある。また、好ましくは、このLLDPEは、エチレンと、3〜18個の炭素原子、更に好ましくは3〜8個の炭素原子を有する1つ以上の他のアルファ−オレフィンとのインターポリマーである。好ましいコモノマーは1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、および1−オクテンを含む。
【0055】
超超低密度ポリエチレンおよび超低密度ポリエチレンは互換的に既知である(known interchangeably)。これらのポリマーは約0.870グラム/立方センチメートルと約0.910グラム/立方センチメートルの間の密度を有する。高密度エチレンポリマーは、一般に、約0.941グラム/立方センチメートルと約0.965グラム/立方センチメートルの間の密度を有するホモポリマーである。
【0056】
均質分岐直鎖エチレンポリマーは均質LLDPEを含む。この均一に分岐し/均質なポリマーは、コモノマーが所与のインターポリマー分子内でランダム分布し、インターポリマー分子がこのインターポリマー内で類似のエチレン/コモノマー比を有するポリマーである。
【0057】
均質分岐の実質的に直鎖のエチレンポリマーは、(a)C2−C20オレフィン、例えばエチレン、プロピレン、および4−メチル−1−ペンテンのホモポリマー、(b)エチレンと、C3−C20α−オレフィン、C2−C20アセチレン性不飽和モノマー、C4−C18ジオレフィン、またはこのモノマーの組み合わせの少なくとも1つとのインターポリマー、および(c)エチレンと、このC3−C20アルファ−オレフィン、ジオレフィン、または他の不飽和モノマーと組み合わせたアセチレン性不飽和モノマーの少なくとも1つとのインターポリマーを含む。これらのポリマーは、一般に、約0.850グラム/立方センチメートルと約0.970グラム/立方センチメートルの間の密度を有する。好ましくは、この密度は、約0.85グラム/立方センチメートルと約0.955グラム/立方センチメートルの間、更に好ましくは約0.850グラム/立方センチメートルと0.920グラム/立方センチメートルの間にある。
【0058】
本発明で有用なエチレン/スチレンインターポリマーは、オレフィンモノマー(すなわち、エチレン、プロピレン、またはα−オレフィンモノマー)とビニリデン芳香族モノマー、ヒンダード脂肪族ビニリデンモノマー、または脂環式ビニリデンモノマーとを重合させることにより製造される実質的にランダムなインターポリマーを含む。好適なオレフィンモノマーは、2〜20個、好ましくは2〜12個、更に好ましくは2〜8個の炭素原子を含有する。好ましいこのようなモノマーは、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、および1−オクテンを含む。最も好ましいのはエチレンおよびエチレンとプロピレンまたはC4-8アルファ−オレフィンとの組み合わせである。場合によっては、このエチレン/スチレンインターポリマー重合成分はエチレン性不飽和モノマー、例えば歪み環オレフィン(strained ring olefins)も含むことができる。歪み環オレフィンの例は、ノルボルネンおよびC1-10アルキル−あるいはC6-10アリール置換ノルボルネンを含む。
【0059】
本発明で有用なエチレン/不飽和エステルコポリマーは慣用の高圧法により製造可能である。この不飽和エステルは、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、またはビニルカルボキシレートであることができる。このアルキル基は1〜8個の炭素原子を有することができ、好ましくは1〜4個の炭素原子を有する。このカルボキシレート基は2〜8個の炭素原子を有することができ、好ましくは2〜5個の炭素原子を有する。このエステルコモノマーに帰属されるコポリマーの部分は、このコポリマーの重量基準で約5〜約50重量パーセントの範囲にあることができ、好ましくは約15〜約40重量パーセントの範囲にある。このアクリレートとメタクリレートの例は、エチルアクリレート、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、および2−エチルヘキシルアクリレートである。このビニルカルボキシレートの例は、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、およびビニルブタノエートである。このエチレン/不飽和エステルコポリマーのメルトインデックスは、約0.5〜約50グラム/10分の範囲にあることができる。
【0060】
本発明で有用なハロゲン化エチレンポリマーは、フッ素化、塩素化、および臭素化オレフィンポリマーを含む。このベースオレフィンポリマーは、2〜18個の炭素原子を有するオレフィンのホモポリマーまたはインターポリマーであることができる。好ましくは、このオレフィンポリマーは、エチレンとプロピレンまたは4〜8個の炭素原子を有するアルファ−オレフィンモノマーとのインターポリマーである。好ましいアルファ−オレフィンコモノマーは、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、および1−オクテンを含む。好ましくは、このハロゲン化オレフィンポリマーは塩素化ポリエチレンである。
【0061】
本発明で好適な天然ゴムはイソプレンの高分子量ポリマーを含む。好ましくは、この天然ゴムは約5000の数平均重合度と広い分子量分布を有する。
【0062】
好ましくは、本発明のニトリルゴムはブタジエンとアクリロニトリルのランダムコポリマーである。
【0063】
本発明で有用なポリブタジエンゴムは、好ましくは1,4−ブタジエンのホモポリマーである。
【0064】
有用なスチレン/ブタジエンゴムはスチレンとブタジエンのランダムコポリマーを含む。通常、これらのゴムはフリーラジカル重合により製造される。本発明のスチレン/ブタジエン/スチレンブロックコポリマーは相分離系である。このスチレン/エチレン/ブタジエン/スチレンコポリマーも本発明で有用である。
【0065】
有用なフリーラジカル誘導種は、有機ペルオキシド、アゾフリーラジカル開始剤、およびビクメン(bicumene)を含む。好ましくは、このフリーラジカル誘導種は有機ペルオキシドである。また、酸素の多い環境も有用なフリーラジカルの開始(initiating useful free-radicals)に好ましい。好ましい有機ペルオキシドはジクミルペルオキシド、Vulcup R、およびジアルキルペルオキシドを含む。更に好ましくは、この有機ペルオキシドは、2,5−ビス(tert−ブチルペルオキシ)−2,5−ジメチルヘキサンおよび2,5−ビス(tert−ブチルペルオキシ)−2,5−ジメチル−3−ヘキシンからなる群から選択されるジアルキルペルオキシドである。最も好ましくは、この有機ペルオキシドは2,5−ビス(tert−ブチルペルオキシ)−2,5−ジメチル−3−ヘキシンである。
【0066】
この有機ペルオキシドは直接注入により添加可能である。好ましくは、このフリーラジカル誘導種は、約0.005重量パーセントと約20.0重量パーセントの間、更に好ましくは約0.01重量パーセントと約10.0重量パーセントの間、最も好ましくは約0.03重量パーセントと約5.0重量パーセントの間の量で存在する。
【0067】
このフリーラジカル誘導種に加えて、あるいはこの代替として、このポリマーは剪断エネルギー、熱、または輻射線を受けた場合にフリーラジカルを形成することができる。従って、剪断エネルギー、熱、または輻射線はフリーラジカル誘導種として作用することができる。更には、このフリーラジカル捕捉種は、前述のフリーラジカル誘導種により生成されるフリーラジカルの存在下で作用するので、剪断エネルギー、熱、または輻射線により生成されるフリーラジカルの存在下で作用することができる。
【0068】
このフリーラジカルが有機ペルオキシド、酸素、空気、剪断エネルギー、熱、または輻射線により生成する場合には、このフリーラジカル捕捉種とフリーラジカル源の組み合わせがこのポリマーのカップリングに必要とされると考えられる。この組み合わせの制御がこのカップリングされたポリマー(すなわち、流動性の変性されたポリマー)の分子構造を決定する。フリーラジカル捕捉種を順次添加し、引き続いてフリーラジカルを徐々に開始させることによって、従来にない精度でこの分子構造を制御することができる。
【0069】
グラフト化部位はこのポリマー上で開始され、このフリーラジカル捕捉種によりキャップされて、ペンダントな安定なフリーラジカル(a pandant stable free radical)を形成することができるとも考えられる。後に、このペンダントな安定なフリーラジカルは、補助的な、熱可逆性結合寄与剤と反応して、所望のレベルの均質性を付与することができる。
【0070】
本発明で有用なフリーラジカル捕捉種の例はヒンダードアミンから誘導される安定な有機フリーラジカルを含む。好ましくは、このフリーラジカル捕捉種がヒンダードアミンから誘導される安定な有機フリーラジカルである場合には、2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ(TEMPO)のヒドロキシ誘導体である。更に好ましくは、このフリーラジカル捕捉種は、4−ヒドロキシ−TEMPOである。
【0071】
好ましくは、このフリーラジカル捕捉種は、約0.005重量パーセントと約20.0重量パーセントの間、更に好ましくは約0.01重量パーセントと約10.0重量パーセントの間、最も好ましくは約0.03重量パーセントと約5.0重量パーセントの間の量で存在する。
【0072】
好ましくは、フリーラジカル捕捉種に対するフリーラジカル誘導種の比とフリーラジカル捕捉種の濃度がポリマーのカップリングを促進する。更に好ましくは、フリーラジカル誘導種:フリーラジカル捕捉種は約1以上、更に好ましくは約20:1と約1:1の間の比で存在する。
【0073】
フリーラジカル捕捉種とフリーラジカル誘導種は、直接混練、直接含浸、および直接注入を含む種々の方法でポリマーと合体可能である。
【0074】
補助的な、熱可逆性結合寄与剤(Complementary, thermally-reversible bond contributors)には、熱可逆性の官能基、例えば、尿素、アズラクトン、マレイミド−フラン ディールズ・アルダー付加物、および他のディールズ・アルダー付加物の合成に適当な官能基を有する化合物が含まれる。例えば、フリーラジカル捕捉種が、その熱可逆性結合に寄与する部位としてヒドロキシル基を有する場合には、補助的な、熱可逆性結合寄与剤はイソシアネートとすることができる。本発明において、特に有用なイソシアネートには、ジイソシアネート又はジイソシアネートポリマーが含まれる。好ましくは、ジイソシアネートは、脂肪族及び芳香族のジイソシアネートからなる群から選択される。適当な脂肪族ジイソシアネートには、ヘキサメチレンジイソシアネートが含まれる。更に好ましくは、ジイソシアネートは、メチレンジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートポリマー、及びトルエンジイソシアネートからなる群から選択される芳香族ジイソシアネートである。
【0075】
代替の実施形態においては、本発明はフリーラジカルにより架橋可能なポリマー組成物を製造するための方法である。この方法の第1段階は、成分を混合することによりポリマー・マトリックス混合物を製造することである。この成分は、フリーラジカル反応性ポリマー、少なくとも1つの捕捉部位及び熱可逆性結合に寄与する部位を有するフリーラジカル捕捉種、および、補助的な、熱可逆性結合寄与剤を含む。このフリーラジカル捕捉種は望ましくない反応を実質的に抑制する。第2段階においては、このポリマーはフリーラジカル捕捉種により架橋される。
【0076】
好ましい実施形態においては、本発明は、流動性変性型ポリマー組成物またはフリーラジカル架橋性ポリマー組成物から製造される製造物品である。いかなる数の方法もこの製造物品を製造するのに使用可能である。特に有用な方法は、射出成形、押し出し、圧縮成形、回転成形、加熱成形、ブロー成形、粉末被覆、バンバリーバッチミキサー、繊維紡糸、およびカレンダー掛けを含む。
【0077】
好適な製造物品は、電線・電纜絶縁物、電線・電纜半導性物品、電線・電纜被覆物およびジャケット、電纜付属品、靴底、多成分靴底(異なる密度およびタイプのポリマーを含む)、ウエザーストリップ、ガスケット、プロフィール、耐久消費財、剛性超延伸テープ、ランフラットタイヤ挿入物、建設パネル、複合体(例えば、木材複合体)、パイプ、フォーム、ブローフィルム、および繊維(バインダー繊維および弾性繊維を含む)を含む。
【実施例】
【0078】
次の非限定的な実施例は本発明を例示する。
【0079】
比較例1〜2および実施例3
2つの比較例と本発明の1つの実施例を、2.4グラム/10分のメルトインデックス、52のI21/I2、0.9200グラム/立方センチメートルの密度、3.54の多分散性(Mw/Mn)、及び110.2℃の融点を有する低密度ポリエチレンから作製した。
【0080】
混合する前に、ポリエチレンを減圧下で乾燥させて、残留する水分を除去した。ペルオキシドを除いて表Iに示す配合物の各々をブラベンダーミキサー中で調製して、40グラムの試料を125℃、3分間で作製した。引き続いて、ペルオキシドを添加した。この組成物を更に4分間混練した。混合ボウルを窒素でパージした。
【0081】
DXM446 低密度ポリエチレンは、The Dow Chemical Companyから市販されているものであった。MDI ウレタン ビス−TEMPO(MDI UBT)付加化合物は、メチレンジフェニルジイソシアネート及び4−ヒドロキシTEMPO(A.H.Marksから市販されている)を用いて合成した。Luperox(商標)101 2,5−ビス(tert−ブチルペルオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン有機ペルオキシドはAtofinaから市販されているものであった。
【0082】
動的機械的スペクトル法(DMS)を用いて、反応速度論(reaction kinetics)を研究した。DMS試験を、ねじり試験のための2つのカンチレバー部材を備えたARES制御ひずみレオメーター(ARES controlled strain rheometer)(TAインスツルメンツ)上で実施した。
【0083】
試験試料は、2時間、160℃の圧縮成形により作製して、Luperox(商標)101有機ペルオキシドを完全に分解した。1.5mmのプラーク(plaque)をプレスし、外形32mm×12mmの棒にカットした。
【0084】
次に、10mm(グリップ距離△L)離れたカンチレバー部材間に試料の両端を取り付け、30℃から220℃(2℃/1ステップ)まで連続的に温度を変化させた。それぞれの温度において、10ラド(rad)/秒の角周波数で、ひずみ振幅を0.1%と3%との間に維持して、トルクを十分にし、測定を直線型(linear regime)に維持して、ねじり係数G’及びG’’を測定した。初期の静力(static force)10gを維持して(自動引っ張りモード)、熱膨張が発生した場合に試料が緩むのを防いだ。その結果、グリップ距離△Lは、温度に依存して、特に、融点又は軟化点を越えた温度で、増加した。最高温度に到達した時点、またはカンチレバー部材間のギャップが65mmに達した時点で、試験を終了させた。図1は、温度に依存する、例示した組成物の動的係数を示している。
【0085】
ゲル含量をシクロヘキサン抽出により測定した。シクロヘキサン抽出する試験試料は、160℃、100サイクル/分の周波数および0.5度の円弧(arc)のムービングダイレオメーター(MDR:a moving die rheometer)中で80分間、サンプルを処理することにより調製した。この試験試料は約5グラムの重さがあり、これをマイラー(商標)シートの間に挟み、次にMDRの中に入れた。結果を表Iに示した。
【0086】
比較例1及び実施例3の剪断薄化挙動(shear thinning behavior)を220℃における動的振動剪断(dynamic oscillatory shear)により評価した。試験試料は、160℃、100分間のプレスにより圧縮成形された。比較例2は熱硬化性のため評価しなかった。各周波数の掃引を約15分かけて完全に行った(試験温度における初期の平衡化、約3分を含む)。比較例1を140℃、180℃及び220℃で評価した。実施例3を220℃で評価した。図2は、比較例1及び実施例3についてのメルト粘度を示している。
【0087】
【表1】

【0088】
4−ヒドロキシ−TEMPOグラフトのLDPE
4−ヒドロキシ−TEMPOグラフトの低密度ポリエチレンを、4−ヒドロキシ−TEMPO、DXM−446低密度ポリエチレン、及びLuperox(商標)130 2,5−ビス(tert−ブチルペルオキシ)−2,5−ジメチル−3−ヘキシン有機ペルオキシドを用いて調製した。4−ヒドロキシTEMPOは、A.H.Marksから市販されているものであった。低密度ポリエチレンは、The Dow Chemical Companyから市販されているものであった。Luperox(商標)130 2,5−ビス(tert−ブチルペルオキシ)−2,5−ジメチル−3−ヘキシン有機ペルオキシドはAtofinaから市販されているものであった。
【0089】
5重量パーセントの4−ヒドロキシ−TEMPO及び92.5重量パーセントの低密度ポリエチレンを、250グラム、ブラベンダー混合ボウル中において125℃で3分間、流動させた。次に、2.5重量パーセントの有機ペルオキシドを加えた。この組成物を更に4分間混練した。次に、温度を180℃まで上げた。混合を更に150分間続けた。混合ボウルを連続的に窒素でパージした。
【0090】
熱可逆性架橋のLDPE
上記作製した4−ヒドロキシ−TEMPOグラフトの低密度ポリエチレンを250グラム、ブラベンダー混合ボウル中において125℃で3分間、まず流動させることにより、熱可逆性架橋の低密度ポリエチレンを調製した。次に、4重量パーセントのメチレンジフェニルジイソシアネートを加えて、その組成物を更に4分間混合した。混合ボウルを連続的に窒素でパージした。
【0091】
熱可逆性架橋のLDPEを140℃で180分間、圧縮成形して、50−ミル(mil)厚のプラーク(plaque)とした。この熱可逆性架橋のLDPEは、シクロヘキサン抽出により測定して、80パーセントのゲルを含んでいた。
【0092】
実施例6については、熱可逆性架橋のLDPEを比較例4および5と比較した。比較例の配合を表IIに示した。エージングの結果を含めた、物性評価結果を表IIに示した。
【0093】
エージングの実験では、熱可逆性架橋のLDPEを115ミル(0.115インチ)厚のプラークとして、室温で7週間エージングした。次に、プラークは、140℃、2時間、100サイクル/分の周波数および0.5度の円弧(arc)のムービングダイレオメーター中で硬化した。
【0094】
比較例4及び5及び実施例6の約25℃から約90℃の範囲における誘電率及び散逸率(the Dissipation Factor)を図3及び4に示した。
【0095】
比較例1、実施例3及び実施例6の剪断薄化挙動(shear thinning behavior)を220℃における動的振動剪断(dynamic oscillatory shear)により評価した。試験試料は、140℃、180分間のプレスにより圧縮成形された。周波数の掃引を2回実施した。各周波数の掃引を約15分かけて完全に行った(試験温度における初期の平衡化、約3分を含む)。比較例1、実施例3及び実施例6(1回目のパス)、及び実施例6(2回目のパス)を220℃で評価した。図5はメルト粘度を示している。
【0096】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】図1は、温度に依存する、本発明及び比較例の組成物の動的係数を示している。
【図2】図2は、本発明及び比較例の組成物のメルト粘度係数(melt viscosities modulus)を示している。
【図3】図3は、本発明及び比較例の組成物のある温度範囲における誘電率のグラフを示している。
【図4】図4は、本発明及び比較例の組成物のある温度範囲における散逸率のグラフを示している。
【図5】図5は、本発明及び比較例に係る2つの組成物のメルト粘度係数(melt viscosities modulus)を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)フリーラジカル反応性ポリマー、
(b)フリーラジカル誘導種、
(c)少なくとも1つの捕捉部位及び熱可逆性結合に寄与する部位を有するフリーラジカル捕捉種、および
(d)補助的な、熱可逆性結合寄与剤
を含んでなり、
このフリーラジカル捕捉種が、このフリーラジカル誘導種の存在下でこのポリマーの分解を実質的に抑制し、このポリマーがフリーラジカルを形成した後、捕捉部位において、このポリマー上にグラフト可能なものである、ポリマー組成物。
【請求項2】
この生成するポリマーが、シクロヘキサン抽出(ASTM2765)により測定して、約10重量パーセント未満のゲル含量を有する、流動性の変性されたポリマーである、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
この生成するポリマーが、シクロヘキサン抽出(ASTM2765)により測定して、ベースポリマーのゲル含量よりも約5絶対重量パーセント未満大きいゲル含量を有する、流動性の変性されたポリマーである、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
この生成するポリマーが、シクロヘキサン抽出(ASTM2765)により測定して、少なくとも約10重量パーセントのゲル含量を有する、熱可逆的に架橋するポリマーである、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
この生成するポリマーが、シクロヘキサン抽出(ASTM2765)により測定して、ベースポリマーのゲル含量よりも少なくとも約5絶対重量パーセント大きいゲル含量を有する、熱可逆的に架橋するポリマーである、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
このポリマーが、ブチルゴム、ポリアクリレートゴム、ポリイソブテン、プロピレンホモポリマー、プロピレンコポリマー、スチレン/ブタジエン/スチレンブロックコポリマー、スチレン/エチレン/ブタジエン/スチレンコポリマー、ビニル芳香族モノマーのポリマー、ビニルクロリドポリマー、およびこれらのブレンドからなる群から選択される、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
(a)剪断エネルギー、熱または輻射線を受けた場合にフリーラジカルの形成能を有するフリーラジカル分解性ポリマー、
(b)少なくとも1つの捕捉部位及び熱可逆性結合に寄与する部位を有するフリーラジカル捕捉種、および
(c)補助的な、熱可逆性結合寄与剤
を含んでなり、
このフリーラジカル捕捉種が、(i)このポリマーが剪断エネルギー、熱、または輻射線を受けた場合、このポリマーの分解を実質的に抑制し、(ii)このポリマーがフリーラジカルを形成した後、捕捉部位において、このポリマー上にグラフト可能である、ポリマー組成物。
【請求項8】
(a)フリーラジカル反応性ポリマー、
(b)フリーラジカル誘導種、
(c)少なくとも1つの捕捉部位及び熱可逆性結合に寄与する部位を有するフリーラジカル捕捉種、および
(d)補助的な、熱可逆性結合寄与剤
を含んでなり、
このフリーラジカル捕捉種が、このフリーラジカル誘導種の存在下でこのポリマーの炭素−炭素架橋を実質的に抑制し、このポリマーがフリーラジカルを形成した後、捕捉部位において、このポリマー上にグラフト可能なものである、ポリマー組成物。
【請求項9】
このポリマーが、アクリロニトリルブタジエンスチレンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン酸化ポリエチレンゴム、エチレン/アルファ−オレフィンコポリマー、エチレン/ジエンコポリマー、エチレンホモポリマー、エチレン/プロピレン/ジエンモノマー、エチレン/プロピレンゴム、エチレン/スチレンインターポリマー、エチレン/不飽和エステルコポリマー、フルオロポリマー、ハロゲン化ポリエチレン、水素化ニトリルブタジエンゴム、天然ゴム、ニトリルゴム、ポリブタジエンゴム、シリコーンゴム、スチレン/ブタジエンゴム、スチレン/ブタジエン/スチレンブロックコポリマー、スチレン/エチレン/ブタジエン/スチレンコポリマー、およびこれらのブレンドからなる群から選択される、請求項8に記載のポリマー組成物。
【請求項10】
(a)剪断エネルギー、熱または輻射線を受けた場合にフリーラジカルの形成能を有するフリーラジカル反応性ポリマー、
(b)少なくとも1つの捕捉部位及び熱可逆性結合に寄与する部位を有するフリーラジカル捕捉種、および
(c)補助的な、熱可逆性結合寄与剤
を含んでなり、
このフリーラジカル捕捉種が、(i)このポリマーが剪断エネルギー、熱、または輻射線を受けた場合、このポリマーの炭素−炭素架橋を実質的に抑制し、(ii)このポリマーがフリーラジカルを形成した後、捕捉部位において、このポリマー上にグラフト可能なものである、ポリマー組成物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−517117(P2007−517117A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−547375(P2006−547375)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【国際出願番号】PCT/US2004/043342
【国際公開番号】WO2005/063895
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】