説明

ポリマーの製造方法、該方法によって得られるポリマー及びその用途

【課題】 ゲル化や固化を起こしやすい芳香族エーテルや芳香族スルフィド系ポリマーの製造において、ゲル化などの異常な反応を起こさない高分子量ポリマーの製造方法を提供する。
【解決手段】 芳香族エーテル構造及び/又芳香族スルフィド構造を有するポリマーの製造方法において、モノマーとして芳香族ジハロゲン化合物と、二価フェノール化合物及び/又は二価チオフェノール化合物の少なくとも1種の化合物にイオン性基を含有させ、二価フェノール化合物及び/又は二価チオフェノール化合物の少なくとも1種に、下記化学式1の化合物を選び、反応系内の脱水を減圧下で行い、反応容器温度を180〜230℃とするポリマー製造方法。
【化1】


[化学式1において、ZはOH基、SH基など、Zは、O原子、S原子など、nは0以上の整数。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ジハロゲン化合物と、特定の構造の化合物を含む二価フェノール化合物又は二価チオフェノール化合物とを、アルカリ金属化合物の存在下、有機極性溶媒中で重縮合することによってポリマーを製造する方法に関し、芳香族ジハロゲン化合物と、二価フェノール化合物又は二価チオフェノール化合物のうちの少なくとも一つがイオン性基を有する場合に特に適した方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属化合物の存在下、芳香族ジハロゲン化合物と、二価フェノール化合物又は二価チオフェノール化合物とを、有機極性溶媒中で重縮合することによって、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリスルフィドスルホンなどのポリマーを製造する方法は良く知られている。この重縮合反応において副生する水は、ポリマーを加水分解するため、反応系から取り除く必要がある。そのため、水をトルエン、クロロベンゼンと共沸させて取り除いたり、モレキュラーシーブなどの脱水材を用いて水分を除去したりすることが行われている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
さらに、近年注目されている燃料電池の高分子電解質膜用のポリマーとして、スルホン酸基などのイオン性基を有するポリエーテルスルホンなどが、共沸脱水を用いる方法で製造されている(例えば特許文献2又は3を参照)。しかしながら、スルホン酸基などのイオン性基を有したモノマーを用いる場合、イオン性基の極性によって水分の除去が阻害され、重合速度が遅く、高分子量のポリマーが得ることが難しく、製造効率がよくないという問題を有していた。
【0004】
また、溶媒としてジフェニルスルホンを用いて240℃以上の高温で反応させることで、高分子量のポリエーテルスルホンを製造する方法も知られている(例えば特許文献4を参照)。しかしながらジフェニルスルホンは常温で固体であるため、生成したポリマーを含む組成物が固体なので、後処理のために粉砕が必要になり、取り扱いが煩雑になるという問題がある。また、イオン性基を有するモノマーについては、上記方法と同様の問題があった。
【0005】
本出願人は、上記の課題を解決するため、簡便に高分子量のポリマーを得ることができるポリマーの製造方法を提案した(特許文献5〜7を参照)。しかしながら、燃料電池の高分子電解質膜に用いるためのポリマーとして、高分子電解質膜と電極との接合性を向上させるために特定構造のモノマーを用いた場合、条件によっては反応溶液がゲル化や固化してしまうなどの問題が起こる場合があった。
【0006】
【特許文献1】特開平5−255505号公報
【特許文献2】特開平5−1149号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2002/0091225号明細書
【特許文献4】特開2004−107606号公報
【特許文献5】特開2006−111663号公報
【特許文献6】特開2006−111664号公報
【特許文献7】特開2006−111665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は従来技術の課題を背景になされたものであって、その目的とするところは、特定構造の二価フェノール化合物又は二価チオフェノール化合物を用いるために、重合時にゲル化や固化を起こしやすい芳香族エーテルや芳香族スルフィド構造を有するポリマーの製造に関し、従来のトルエン、ベンゼンなどの毒性や危険性の高い共沸溶媒を使用せずに製造でき、かつ、イオン性基を有して結合水を持ち、反応性が低いモノマーを用いる場合でも、重合時のゲル化や固化を起こすことなく安全で簡便に、高分子量のポリマーが得られる製造方法を提供することであり、さらには、得られたポリマーを用いた高分子電解質膜、高分子電解質膜/電極接合体、燃料電池などを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、ついに本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、
【0009】
(1) 芳香族ジハロゲン化合物と、二価フェノール化合物及び二価チオフェノール化合物のうちの少なくとも一方とを、アルカリ金属化合物の存在下、有機極性溶媒中で重縮合することによって芳香族エーテル構造及び芳香族スルフィド構造のうちの少なくとも一方を有するポリマーの製造方法において、芳香族ジハロゲン化合物、二価フェノール化合物及び二価チオフェノール化合物のうちの少なくとも1種の化合物がイオン性基を有しており、二価フェノール化合物及び二価チオフェノール化合物のうちの少なくとも1種の化合物が、下記化学式1で表される構造であり、反応系内の脱水を減圧下で行い、重合反応時の反応容器温度を180〜230℃の範囲とすることを特徴とするポリマー製造方法。
【0010】
【化1】

[化学式1において、ZはOH基、SH基、及びそれらの基から誘導される基を、Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基のいずれかを、nは0以上の整数を表す。]
【0011】
(2) 有機極性溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを用いる(1)に記載の方法。
【0012】
(3) イオン性基が、スルホン酸基、スルホン酸基の塩、ホスホン酸基、ホスホン酸基の塩、リン酸基、リン酸基の塩からなる群より選ばれる1種以上の基である(1)に記載の方法。
【0013】
(4) 芳香族ジハロゲン化物がイオン性基を有している(1)に記載の方法
【0014】
(5) 芳香族ジハロゲン化物が、下記化学式2で表される構造の化合物を含む(1)に記載の方法。
【0015】
【化2】

(化学式2において、XはF、Cl、Br、Iのハロゲン元素のいずれかを、Yは、スルホニル基又はカルボニル基のいずれかを、Zは、スルホン酸基及びその塩、ホスホン酸基その塩、リン酸基及びその塩、アルキルスルホン酸基及びその塩からなる群より選ばれる基を表す。)
【0016】
(6) イオン性基を含むモノマーが結合水を含む状態で重合に用いる(1)に記載の方法。
【0017】
(7) 脱水時の減圧度が−1〜−360mmHgの範囲にある(1)に記載の方法。
【0018】
(8) 脱水時の反応系の温度が、用いる溶媒の常圧における沸点に対して、−15〜±0℃の範囲である(1)に記載の方法。
【0019】
(9) 化学式1におけるnが1以上である(1)に記載の方法。
(10) 化学式1におけるnが3以上である(1)に記載の方法。
(11) 化学式1におけるZがOH基であり、ZがO原子であり、nが3以上である(1)に記載の方法。
(12) 化学式1におけるZがOH基又はSH基であり、ZがO原子又はS原子であり、nが1である(1)に記載の方法。
(13) 化学式1におけるZがOH基又はSH基であり、nが0である(1)に記載の方法。
【0020】
(14) 請求項1〜13に記載の方法によって得られるポリマーの対数粘度(0.5g/dlのN−メチルピロリドン溶液、30℃、ウベローデ型粘度計で測定)が、0.1〜3.0dl/gであるポリマー。
【0021】
(15) (14)に記載のポリマーを含む高分子電解質膜。
(16) (14)に記載のポリマーを、高分子電解質膜及び電極触媒層のうちの少なくとも一方に含むことを高分子電解質膜/電極接合体。
(17) (16)に記載の膜/電極接合体を用いた燃料電池。
である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の方法によれば、特定構造のモノマーを用いるために、重合時にゲル化や固化を起こしやすい芳香族エーテルや芳香族スルフィド構造を有するポリマーを製造するに際し、ゲル化や固化などの異常反応を起こすことなく、イオン性基を有する高重合度の芳香族エーテルや芳香族スルフィド構造を有するポリマーを短時間で簡便に得ることが可能である。また、従来のトルエン、ベンゼンなどの毒性や危険性の高い共沸溶媒を使用しないため、安全に製造することができ、さらに、反応終了後は、ポリマー溶液として得られるため、後処理のための粉砕が不要で取り扱いやすく、精製なども簡便に行うことができる利点がある。また得られたポリマーは、高分子電解質膜としたときに電極との接合性が良好であり、高分子電解質膜/電極接合体、燃料電池などの用途に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明における重量とは、質量を意味する。
【0024】
本発明におけるポリマーとは、芳香族エーテル構造及び芳香族スルフィド構造のうちの少なくとも一方を有するポリマーであり、その製造方法は、芳香族ジハロゲン化合物と、二価フェノール化合物及び二価チオフェノール化合物のうちの少なくとも一方とをモノマーとし、アルカリ金属化合物の存在下、有機極性溶媒中で重縮合させる方法であり、芳香族ジハロゲン化合物と、二価フェノール化合物及び二価チオフェノール化合物として特定構造の化合物を選択し、かつ、原料モノマーを、アルカリ金属化合物の存在下、有機極性溶媒中で加熱し、フェノール基又はチオフェノール基をアルカリ金属塩化させる際の反応系内の脱水を減圧下で行い、かつ、重合反応時の反応温度を特定範囲とすることに特徴がある。
【0025】
芳香族ジハロゲン化合物としては、イオン性基を含まない化合物とイオン性基を含む化合物を用いることができる。イオン性基を含まない化合物としては、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロジフェニルホスフィンオキシド、4,4’−ビス(4−クロロフェニルスルホニル)ビフェニル、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジクロロ−1−トリフルオロメチルベンゼン、2,4−ジクロロ−1−トリフルオロメチルベンゼン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジフルオロジフェニルホスフィンオキシド、4,4’−ビス(4−フルオロフェニルスルホニル)ビフェニル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロ−1−トリフルオロメチルベンゼン、2,4−ジフルオロ1−トリフルオロメチルベンゼンを挙げることができるがこれらに限定されるものではない。中でも、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジフルオロベンゾフェノンが好ましい。
【0026】
イオン性基を含む芳香族ジハロゲン化合物としては以下のような化合物を挙げることができる。3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロベンゾフェノン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジクロロベンゾフェノン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、及びそれらのスルホン酸基が1価カチオン種との塩になったもの等が挙げられる。1価カチオン種としては、ナトリウム、カリウム、リチウムや他の金属種や各種アミン類等を挙げることができ、ナトリウム、カリウムなどが好ましいが、これらに限定されるものではない。好ましい例として、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロベンゾフェノン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを挙げることができる。
【0027】
本発明のポリマーの製造方法においては、二価フェノール化合物、二価チオフェノール化合物が化学式1で表される化合物を含む。化学式1で表される化合物の二価フェノール化合物及び二価チオフェノールの全モル数に対する割合は、1〜100モル%であることが好ましく、5〜100モル%がより好ましく、さらに好ましくは25〜100モル%、最も好ましくは、50〜100モル%である。
【0028】
【化3】

[化学式1において、ZはOH基、SH基、及びそれらの基から誘導される基を、Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基のいずれかを、nは0以上の整数を表す。]
化学式1において、ZがOH基であると化合物の毒性が低いことやポリマーの着色が少ないことなどの利点がある。ZがSH基であると、反応性が高いことや、ポリマーの耐酸化性が向上することなどの利点がある。Zは、OH基やSH基から誘導される基であってもよく、イソシアネート化合物と反応させたウレタン化合物や、NaやKなどの金属塩であってもよい。Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基のいずれかを表すが、O原子、S原子が好ましい。nは0以上の整数を表すが、1以上であることが好ましく、ZがS原子の場合には、nは3以上であることが好ましい。nが異なる複数の化合物を混合して用いることもできるが、そのような場合、nの平均値の小数点以下を四捨五入した値が、本発明の範囲であればよい。化学式1で表される化合物の例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ハイドロキノン、1,4−ジメルカプトベンゼン、4,4’−チオビスベンゼンチオール、4,4’−チオビスフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−オキシビスベンゼンチオール、4,4’−チオビスフェノール、4,4’−(4−ヒドロキシフェニルオキシ)ベンゼン、末端ヒドロキシル基含有フェニレンエーテルオリゴマー(下記化学式3でmが3以上のもの)を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらの中でも、ハイドロキノン、1,4−ベンゼンチオール、4,4’−オキシビスベンゼンチオール、4,4’−チオビスベンゼンチオール、4,4’−チオビスフェノール、末端ヒドロキシル基含有フェニレンエーテルオリゴマーが好ましい。
【0029】
【化4】

【0030】
化学式1で表される構造のモノマーは、ポリマーの軟化温度を低下させるため、例えば燃料電池の高分子電解質膜に用いた場合などにおいて、電極との接合性を向上させることができる。しかしながら、これらのモノマーを用いて重合を行うと、反応溶液のゲル化や固化などの異常反応が起こりやすい。本発明の方法を用いることによって、化学式1のモノマーを用いる重合においても、ゲル化や固化などの問題を起こすことなく良好にポリマーを得ることが可能になる。
【0031】
化学式1で表される構造のモノマーを共重合すると、ポリマーの軟化温度が低下し、高分子電解質膜としたときに電極との接合性が向上する点で好ましい。また、さらに、4,4’−ビフェノールや4,4’−ジメルカプトビフェニルを共重合すると、分子間の相互作用が強くなり、膨潤性が低下する点、膜の強靭性が向上する点でも好ましい。二価フェノール化合物及び二価チオフェノールの全モル数に対する4,4’−ビフェノールや4,4’−ジメルカプトビフェニルの割合は、5〜95モル%であることが好ましく、10〜90モル%がより好ましく、さらに好ましくは10〜80モル%である。
【0032】
化学式1で表される構造のモノマー以外にも、他の二価フェノール化合物、二価チオフェノール化合物を用いることができる。例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−メルカプトフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−メルカプトシフェニル)フルオレン、4,4’−ビフェノール、4,4’−ジメルカプトビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、レゾルシン、1,3−ジメルカプトベンゼン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、3−メチル−4,4’−ジヒドロキシ−p−ターフェニル、4,4’−ジヒドロキシ−p−ターフェニル、1,3−ビス(4−ヒドロキシ)アダマンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ)アダマンタン、フェノールフタレイン、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナンスレン−10−オキサイド、4−メチルレゾルシノール、4−ターシャリーブチルレゾルシノール、4−n−ヘキシルレゾルシノール、ナフタレンビスフェノール類を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。中でも4,4’−ビフェノール、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンが好ましい。
【0033】
これらの芳香族ジハロゲン化合物と、二価フェノール化合物又は二価チオフェノール化合物は、それぞれ1種類だけでなく、数種類を混合して用いてもよい。また、イオン性基を有していてもよい。イオン性基とは、イオン結合で結合した部分を有する基を意味し、例えば、スルホン酸基、スルホン酸基の塩、ホスホン酸基、ホスホン酸基の塩、リン酸基、リン酸基の塩など酸性基を挙げることができるが、その他の公知の基であってもよい。
【0034】
上記のイオン性基は、モノマーのベンゼン環に直接結合していてもよいし、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、ベンジル基などを介して結合していてもよい。イオン性基は、芳香族ジハロゲン化合物と、二価フェノール化合物又は二価チオフェノール化合物のいずれに導入されていてもよいが、芳香族ジハロゲン化合物に導入されていると、反応性の低下が少なくて済むため、好ましい。二価フェノール化合物又は二価チオフェノール化合物にイオン性基が導入されていてもよいが、イオン性基が上記のような酸性基であると、イオン性基の電子吸引性によって、二価フェノール化合物又は二価チオフェノール化合物の反応性を低下させるので好ましくない。二価フェノール化合物又は二価チオフェノール化合物にイオン性基を導入する場合には、水酸基又はメルカプト基に対してメタ位の位置に導入されていることが好ましい。
【0035】
イオン性基を含む二価フェノール化合物及び二価チオフェノール化合物としては、上記の二価フェノール化合物及び二価チオフェノール化合物のスルホン化物、アルキルスルホン化物、ホスホン化物、リン酸化物、及びこれらの塩を用いることができる。例えば、ハイドロキノンスルホン酸モノカリウム塩、3,7−ジスルホン酸ナトリウム−2,6−ジヒドロキシナフタレンなどを挙げることができるが、これらの化合物に限定することなく、公知の任意の化合物を用いることができる。
【0036】
一般にイオン性基を含む化合物はイオン性基を含まない化合物よりも反応性が低い。この原因としては、イオン性基の立体障害、イオン性基に結合した水、イオン性基の極性による脱水の阻害などがあり、イオン性基を含む化合物が二価フェノール化合物又は二価チオフェノールの場合には、イオン性基の電子吸引性による反応性の低下も起こる。そのためイオン性基は、芳香族ジハロゲン化合物に導入されていることが好ましい。ポリマー中のイオン性基量は、イオン性基を含む芳香族ジハロゲン化合物とイオン性基を含まない芳香族ジハロゲン化合物のモル比やイオン性基を含む二価フェノール化合物及び二価チオフェノール化合物とイオン性基を含まない二価フェノール化合物及び二価チオフェノール化合物のモル比などによって調節することができる。イオン性基を含む芳香族ジハロゲン化合物の割合が10〜80モル%の間であると、燃料電池用プロトン交換膜に適したポリマーが得られる。
【0037】
本発明のポリマーの製造方法は、反応性の低いイオン性基を含む化合物をモノマーとして用いても、高分子量のポリマーを得ることができる優れた方法である。イオン性基を有するモノマーが結合水を有する場合、重合の前に乾燥しておくことが好ましいが、本発明の方法によれば、結合水を有した状態でも高重合度のポリマーを得ることができる。モノマーの乾燥は、公知の方法を用いることができ、特に限定されることはないが、加熱や減圧乾燥によってなされることが好ましい。乾燥温度は100〜200℃の間であることが好ましい。結合水を含むイオン性基含有モノマーを用いる場合には、前もってモノマー中の水分量を測定しておき、それに基づいて仕込み量を計算する必要がある。
【0038】
芳香族ジハロゲン化合物と、二価フェノール化合物又は二価チオフェノール化合物は、上記のような化合物を用いることができ、イオン性基を有するものと有さないものを混合して用いることができる。
【0039】
有機極性溶媒としては、常温で液体であり、沸点が180℃以上である溶媒を用いることができる。そのような溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシドなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。中でもN−メチル−2−ピロリドンは高純度のものを安価に入手することができ、毒性や危険性も少なく取り扱いやすいため好ましい。溶媒の純度は98%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましく、99.9%以上であることがさらに好ましい。また、水分率は0.1%以下であることが好ましい。
【0040】
反応系内の脱水は減圧下で行うことが必要である。例えば、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼンなど、水と共沸化合物できる化合物を加えておき、必要に応じて溜去する前にしばらく還流させた後、反応系外に水と共に溜去する方法では、共沸溶媒を還流させている間及び/又は共沸で除去する間に減圧することが好ましい。また、モレキュラーシーブ、シリカゲル、活性アルミナ、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウム、無水硫酸カルシウムなどの乾燥剤を反応溶液中に、最初から、又は途中から加えて脱水する場合や、反応系外に分離した水と有機溶媒の混合物に加えて脱水する場合においても、減圧下で行うことが好ましい。また、不活性ガスの気流下、有機極性溶媒の沸点付近の温度に加熱して、有機極性溶媒と水とを同時に反応系外に除去して水分を除去する方法においても、減圧下で行うことが好ましい。反応系を減圧することによって、水や溶媒の沸点が低下し、より除去しやすくなる。
【0041】
重合において使用する有機極性溶媒の量は生成するポリマーに対して1.5〜10倍の範囲にあることが好ましく、より好ましくは1.8〜4倍の範囲である。有機極性溶媒の量が多すぎると反応速度の低下が起こる場合や、反応終了後のポリマーの回収が困難になる場合があり好ましくない。有機極性溶媒の量が少なすぎると、反応系の粘度が異常に大きくなって取り扱いが困難になる場合があり好ましくない。
【0042】
重合は不活性ガスの気流下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、反応に影響を及ぼさないものであれば公知のガスを使用することができるが、窒素、アルゴンが好ましい。また使用する不活性ガスは、水分の含有量が少ないことが好ましい。また、酸素、二酸化窒素などの反応性のガスは、重合性を低下させる原因となるため、不活性ガスに混入していないことが好ましい。また、脱水時に減圧する際に、不活性ガスの雰囲気下で行うこともできる。
【0043】
反応溶液の減圧は、真空ポンプ、アスピレーター、強制排気装置など公知の任意の方法で行うことができる。減圧の程度は、ニードルバルブなどで調節することができ、マノメーターや差圧計によって測定することができる。減圧は反応容器の出口部から行うことが好ましく、コンデンサーを用いる場合は、コンデンサーよりも後に取り付けられていることが好ましい。反応容器は、外気が混入しないように適切な手段でシールしておくことが好ましい。
【0044】
減圧度は、−1〜−360mmHgの範囲であることが好ましく、−1〜−50mmHgであることがより好ましい。
【0045】
アルカリ金属化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウムの化合物を挙げることができ、水酸化物、炭酸塩などを挙げることができる。中でも炭酸塩が好ましく、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムが好ましい化合物の例として挙げられる。これらのアルカリ金属化合物は、二価フェノール化合物又は二価チオフェノール化合物に対して、アルカリ金属原子と、水酸基又はメルカプト基に対して等モルから過剰に存在することが好ましい。水酸基又はメルカプト基に対する好ましいモル比は1.0〜1.2である。その他にも、二価フェノール化合物や二価フェノール化合物を活性なフェノキシド構造になしうる塩基性化合物であれば、これらに限定されず使用することができる。
【0046】
反応温度は、用いる溶媒の常圧における沸点に対して、−15〜±0℃の範囲にあることが好ましい。
【0047】
ポリマーの重合度は公知の任意の方法を用いて測定することができる。例えば、一般にポリマーの重合度は、時間と共に増大していくため、所定の重合度に達した時点で重合を停止しておくことで所望の重合度のポリマーを得ることができる。重合度は、重合溶液の粘度やGPC(サイズ排除クロマトグラフィー)によって求めることができる。粘度はサンプリングした溶液をオフラインで測定してもよいし、インライン粘度計で測定したり、攪拌翼にかかるトルクをモーターの電流値として検出して粘度に換算したりして、求めることができる。また、芳香族ジハロゲン化合物と、二価フェノール化合物及び/又は二価チオフェノール化合物とのモル比や、末端停止剤の添加などによって重合度を制御することもできる。末端停止剤としては、芳香族モノハロゲン化合物や一価フェノール化合物及び/又は一価チオフェノール化合物を用いることができる。末端停止剤は、重合の最初から加えておいてもよいし、反応の途中で加えてもよい。
【0048】
ポリマーの重合度を測定する手段の一つに希薄溶液の対数粘度を測定する方法がある。精製したポリマーを、0.5g/dlの濃度でN−メチルピロリドンに溶解し、30℃の恒温槽中でウベローデ型粘度計を用いて粘度測定を行い、ln[ta/tb]/cで表される対数粘度(taは試料溶液の落下秒数、tbは溶媒のみの落下秒数、cはポリマー濃度)が0.1dl/g以下であると、ポリマーの成型物の機械特性が低下するなどして好ましくない。0.5dl/g以上であると好ましく、1.0dl/g以上であるとより好ましい。対数粘度が3.0dl/g以上であると、溶液の粘度が高くなりすぎるなど加工性に悪影響を及ぼすため好ましくない。2dl/g以下であることが好ましく、1.5dl/g以下であることがより好ましい。
【0049】
重合時間は、用いるモノマーによって様々であるが、一般的にイオン性基を含むモノマーの割合が多くなると、高重合度のポリマーを得るためにはより長い時間を要する傾向がある。長時間重合する場合に、連続して行うことが好ましいが、一旦温度を下げて反応を停止させた後、再び加熱して反応を続けることもできる。温度を下げている間も不活性ガスを流して、反応容器内を不活性ガス雰囲気に保つことが好ましい。
【0050】
重合は、熱媒やヒーターなど公知の任意の方法によって、反応容器を加熱することによって行うことができる。重合反応時における反応容器の温度は、180〜230℃の範囲とすることが必要であり、190〜220℃の範囲であることが好ましい。230℃よりも高い温度であると、反応容器の器壁へのポリマーの固着や、ポリマー溶液のゲル化、固化などの問題が起こりやすくなる。
【0051】
得られたポリマーは公知の任意の方法で精製することができる。ポリマー溶液を、ポリマーを溶解せず有機極性溶媒と混和する溶媒に滴下、分散して再沈することが一般的である。再沈に用いる溶媒としては、副生する無機塩も同時に除去できるため水もしくは他の有機溶媒と水の混合物を用いることが好ましい。また、ポリマー溶液から濾過によって無機塩を除去した後、水以外の溶媒で再沈することもできる。この場合の再沈溶媒としてはアセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸メチルなどを用いることができる。ポリマー溶液の粘度が高い場合には、ポリマーを溶解できる溶媒で希釈することもできる。希釈に用いることのできる溶媒としてはN−メチル−2−ピロリドンの他に、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンホスホリックトリアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどを用いることができる。
【0052】
本発明の方法は、燃料電池の高分子電解質膜に用いるポリマーを製造することに適している。
【0053】
高分子電解質膜は、再沈したポリマーを適当な溶媒に溶解した溶液や、重合溶液を濾過して得た溶液を用いて製膜し、残留溶媒や残留塩などの不純物を水洗によって除去したり、必要に応じて酸による処理を行ってイオン性基を塩型から酸型に変換したり、残留溶媒や残留遊離酸を水洗で除去することで製造することができる。
【0054】
本発明の膜/電極接合体は、本発明の高分子電解質膜を電極と接合することによって得ることができる。この接合体の作製方法としては、従来から公知の方法を用いて行うことができ、例えば、電極表面に接着剤を塗布し高分子電解質膜と電極とを接着する方法又は高分子電解質膜と電極とを加熱加圧する方法等がある。本発明のポリマーか、類似した構造のポリマーを主成分とした接着剤を電極表面に塗布して接着する方法が好ましい。本発明の高分子電解質膜及びポリマー組成物は適度な軟化温度を有するため、加圧加熱によって高分子電解質膜と電極とを接合する方法に特に適している。また、本発明の高分子電解質膜以外の膜に対して、電極や触媒との接着剤として、本発明のスルホン酸基含有ポリマーを用いることができる。本発明のイオン性基含有ポリマーを接着剤として用いる場合には、イオン性基が酸型であることが好ましい。イオン性基が陽イオンと塩を形成している状態で用いる場合には、接合後、酸処理によってイオン性基を酸型にすることもできる。
【0055】
本発明の燃料電池は、本発明の高分子電解質膜又は高分子電解質膜/電極接合体を用いて作製することができる。本発明の燃料電池は、例えば酸素極と、燃料極と、それぞれの極に挟まれて配置された高分子電解質膜と、酸素極側に設けられた酸化剤の流路と、燃料極側に設けられた燃料の流路を有するものである。このような一つの単位セルを導電性のセパレーターで連結することによって燃料電池スタックを得ることができる。
【0056】
本発明の高分子電解質膜は、固体高分子形燃料電池に適している。本発明の高分子電解質膜は、膨潤性が小さいため、メタノールを燃料とするダイレクトメタノール型燃料電池などの液体を燃料とする燃料電池に適している。また、本発明の高分子電解質膜は高分子電解質膜と電極との接合性に優れるため耐久性が高く、ダイレクトメタノール燃料電池などの液体を燃料とする燃料電池だけでなく、水素を燃料とする燃料電池に適している。また、ジメチルエーテル、水素、ギ酸など他の物質を燃料として用いる燃料電池にも好適に用いることができ、電解膜、分離膜など、高分子電解質膜として公知の任意の用途に用いることができる。
【実施例】
【0057】
以下本発明を、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。なお、各種測定は次のように行った。
【0058】
<溶液粘度>
ポリマー粉末を0.5g/dlの濃度でN−メチルピロリドンに溶解し、30℃の恒温槽中でウベローデ型粘度計を用いて粘度測定を行い、対数粘度ln[ta/tb]/cで評価した(taは試料溶液の落下秒数、tbは溶媒のみの落下秒数、cはポリマー濃度)。
【0059】
<実施例1>
3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン(略号:S−DCDPS)は3.2%の結合水を有していたため、重合の前に120℃で15時間減圧乾燥して結合水を取り除いた。乾燥後のS−DCDPSは窒素雰囲気下で保管した。窒素導入管、攪拌翼、温度検出端、コンデンサー、電気ヒータージャケットを取り付けたチタン製密閉容器(内容積12リットル)に、S−DCDPS 650.0g、2,6−ジクロロベンゾニトリル(略号:DCBN) 341.3g、4,4’−チオビスフェノール(略号:BPS) 72.20g、4,4’−ビフェノール(略号:BP)554.4g、炭酸カリウム502.9g、N−メチル−2−ピロリドン(略号:NMP)5162.9g、トルエン1800.0gを入れた。8リットル/分の流量で窒素を流し、攪拌しながらヒーター温度(反応容器温度)を160℃に設定して加熱を開始した。反応装置の排気出口にニードルバルブを介した真空ポンプを接続し、減圧度を−15mmHgに調整した。コンデンサーには約20℃の水を通して冷却した。加熱開始後、約40分後にヒーター温度(反応容器温度)が160℃に達した。コンデンサーから溜出してくるトルエンと水は再び反応系に戻して、1.5時間還流させた。その後、溜出してくるトルエン及び水を反応系内に戻さずに、反応系外に取り出すようにした。反応開始後、2時間30分後、トルエンが溜出しなくなったので、コンデンサーから溜出した溶媒が反応系内に還流するようにし、真空ポンプを取り外して反応容器内を常圧に戻した。そしてヒーター温度(反応容器温度)を220℃に設定して、さらに昇温させた。反応を開始して4時間後、溶液温度が202℃に達し、そのまま14時間反応を続けた。その後、ヒーターを停止し、容器を冷却して反応を停止させた。反応溶液は攪拌しながら放冷し、温度が30℃になったところで、溶液を取り出した。褐色で粘ちょうな溶液が得られた。重合溶液はガラス板に薄く延ばし、水に浸漬して1日放置しポリマーを凝固させた。得られたポリマー膜は数回新しい水に浸漬した後、沸騰水中で1時間洗浄して残留しているNMPを除去した後、120℃で乾燥した。得られたポリマーについて対数粘度を測定したところ、0.88dl/gであった。
【0060】
<実施例2>
窒素導入管、攪拌翼、温度検出端、コンデンサー、電気ヒータージャケット、背圧弁を取り付けたチタン製密閉容器(内容積12リットル)に、120℃で15時間減圧乾燥して結合水を取り除いたS−DCDPS 650.0g、DCBN 341.3g、BPS 72.20g、BP 554.4g、炭酸カリウム502.9g、NMP 5162.9g、を入れて、8リットル/分の流量で窒素を流し、攪拌しながらヒーター温度(反応容器温度)を195℃に設定して加熱を開始した。反応装置の排気出口にニードルバルブを介した真空ポンプを接続し、減圧度を−30mmHgに調整した。コンデンサーには約25℃の水を通して冷却した。反応容器からコンデンサーまでの約1mの配管はグラスウールで保温を施した。加熱を開始して30分後、溶液の温度は150℃に達し、激しく発泡して液面が上昇した。加熱を開始して1時間後、反応液の温度が190℃付近に達したところで、コンデンサーからNMPと水の溜出が始まった。この加熱を開始して2時間00分後に、反応溶液の温度が203℃に達したので、コンデンサーからのNMPと水を反応系外に除去するのを止め、反応容器内に還流するようにした。そして真空ポンプを取り外して反応容器内を常圧に戻した。そのまま14時間反応させた後、ヒーターを停止し、容器を冷却して反応を停止させた。実施例1と同様にして得られたポリマーについて対数粘度を測定したところ、0.93dl/gであった
【0061】
<実施例3>
S−DCDPSに、3.2重量%の結合水を有するS−DCDPS 673.6g(乾燥したS−DCDPSとして650.0g)をそのまま用いた他は実施例2と同様にして重合を行った。得られたポリマーの対数粘度は0.89dl/gであった。
【0062】
<実施例4>
乾燥したS−DCDPS 320.0g、DCBN 448.2g、BPS 710.9g、炭酸カリウム495.2g、NMP 4749.3gを用い、反応時間を7時間にした他は実施例2と同様にして重合を行った。得られたポリマーの対数粘度は0.95dl/gであった。
【0063】
<実施例5>
乾燥したS−DCDPS 300.0g、DCBN 270.1g、末端ヒドロキシル基含有フェニレンエーテルオリゴマー(大日本インキ化学工業社製SPECIANOL DPE−PL;化学式3においてmが1〜8の成分を含む混合物でnの平均値は5である構造であるもの)(略号:DPE) 1199.3g、炭酸カリウム331.6g、NMP 4822.3gを用い、反応時間を7時間にした他は、実施例2と同様にして重合を行った。得られたポリマーの対数粘度は0.65dl/gであった。
【0064】
<比較例1>
実施例1と同様にして原料を反応容器に入れ、減圧は行わずに脱水を行った。反応を開始して5時間20分後、トルエンが溜出しなくなったので、コンデンサーから溜出した溶媒が反応系内に還流するようにし、ヒーター温度(反応容器温度)を220℃に設定して、さらに昇温させた。反応を開始して7時間後、溶液温度が201℃に達し、そのまま14時間反応を続けた。その後、ヒーターを停止し、容器を冷却して反応を停止させた。反応溶液は攪拌しながら放冷し、温度が30℃になったところで、溶液を取り出した。実施例1と同様にして、得られたポリマーについて対数粘度を測定したところ、0.36dl/gであった。
【0065】
<比較例2>
実施例2と同様にして原料を反応容器に入れ、減圧せずに脱水を行った。反応を開始して2時間30分後、反応溶液の温度が203℃に達したので、コンデンサーからのNMPと水を反応系外に除去するのを止め、反応容器内に還流するようにし、そのまま14時間反応させた。その後、ヒーターを停止し、容器を冷却して反応を停止させ、実施例1と同様にして得られたポリマーについて対数粘度を測定したところ、0.66dl/gであった。
【0066】
<比較例3>
反応時のヒーターの設定温度(反応容器温度)を235℃に設定した他は、実施例1と同様にして重合を行った。反応時間が10時間になった付近で反応溶液の粘度が著しく上昇した。冷却後の反応容器を観察したところ、反応容器壁面にポリマーが固着しており、ポリマー溶液を回収することが困難であった。
【0067】
<比較例4>
反応時のヒーターの設定温度(反応容器温度)を235℃に設定した他は、実施例5と同様にして重合を行った。反応時間が5時間になった付近で反応溶液の粘度が著しく上昇し、反応溶液が攪拌翼にまきつき、重合を停止した。反応溶液はゲル状で流動性を示さず、ポリマー溶液を回収することが困難であった。
【0068】
<比較例5>
乾燥したS−DCDPS 320.0g、DCBN 634.9g、BP 808.7g、炭酸カリウム660.2g、NMP 4319.2gを用い、反応時のヒーターの設定温度を235℃に設定した他は、実施例4と同様にして重合を行った。冷却後の反応容器を観察したところ、反応容器壁面にポリマーが少し固着していたが、ポリマー溶液は回収することができた。ポリマーの対数粘度は1.21dl/gであった。
【0069】
<電極との接合性評価>
得られたポリマー5gを15gのNMPに溶解し、ガラス板上に300μmの厚みでキャストし、100℃で1時間、150℃で1時間それぞれ加熱して、フィルムを得た。得られたフィルムは純水に浸漬して剥離し、2mol/リットルの硫酸に1時間ずつ2回浸漬してスルホン酸基を酸型に変換した。その後、純水で6回洗浄して遊離の硫酸を除去した後、ろ紙に挟んで荷重をかけながら室温で乾燥し、高分子電解質膜を得た。Pt/Ru触媒担持カーボン(田中貴金属工業社TEC61E54)に少量の超純水及びイソプロピルアルコールを加えて湿らせた後、デュポン社製20%ナフィオン(登録商標)溶液(品番:SE−20192)を、Pt/Ru触媒担持カーボンとナフィオンの重量比が2.5:1になるように加えた。次いで撹拌してアノード用触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストを、ガス拡散層となる東レ社製カーボンペーパーTGPH−060に白金の付着量が2mg/cmになるようにスクリーン印刷により塗布乾燥して、アノード用電極触媒層付きカーボンペーパーを作製した。また、Pt触媒担持カーボン(田中貴金属工業社TEC10V40E)に少量の超純水及びイソプロピルアルコールを加えて湿らせた後、デュポン社製20%ナフィオン(登録商標)溶液(品番:SE−20192)を、Pt触媒担持カーボンとナフィオンの重量比が2.5:1となるように加え、撹拌してカソード用触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストを、撥水加工を施した東レ社製カーボンペーパーTGPH−060に白金の付着量が1mg/cmとなるように塗布・乾燥して、カソード用電極触媒層付きカーボンペーパーを作製した。上記2種類の電極触媒層付きカーボンペーパーの間に、膜試料を、電極触媒層が膜試料に接するように挟み、ホットプレス法により160℃、10MPaにて3分間加圧、加熱して、高分子電解質膜と電極触媒層を接合した。実施例4で得られたポリマーから作製した高分子電解質膜は電極触媒層と良好に接合し、剥離が見られなかったのに対して、比較例5で得られたポリマーから作製した高分子電解質膜は電極触媒層とほとんど接合せず、接合した部分も容易に剥離した。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の方法によれば、従来、高分子量化が容易ではなかったイオン性基含有ポリマーの高分子量化が容易であるのみならず、特定構造の二価フェノール化合物や二価チオフェノール化合物を用いるために、重合時にゲル化や固化を起こしやすいことが問題であった芳香族エーテルや芳香族スルフィド構造を有するポリマーを、ゲル化や固化などを起こすことなく製造でき、また、トルエンなどの危険な薬品を用いることなく簡便に製造することができ、工業的に有用である。得られたイオン性基含有ポリマーは、高分子電解質膜として電極との接合性が良好で燃料電池用に好適であり、産業上寄与すること大である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明におけるポリマー重合装置の一例の概要図を示す。
【符号の説明】
【0072】
1:攪拌モーター
2:攪拌翼
3:ジャケットヒーター
4:反応容器
5:窒素導入管
6:溜出溶媒溜め
7:コンデンサー
8:排気口
9:重合溶液抜き出しバルブ
10:還流―溜出の切り替えバルブ。
11:流量計
12:減圧度調整バルブ
13:外気導入口(減圧度調整用)
14:真空ポンプからの排気口
15:真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジハロゲン化合物と、二価フェノール化合物及び二価チオフェノール化合物のうちの少なくとも一方とを、アルカリ金属化合物の存在下、有機極性溶媒中で重縮合することによって芳香族エーテル構造及び芳香族スルフィド構造のうちの少なくとも一方を有するポリマーの製造方法において、芳香族ジハロゲン化合物、二価フェノール化合物及び二価チオフェノール化合物のうちの少なくとも1種の化合物がイオン性基を有しており、二価フェノール化合物及び二価チオフェノール化合物のうちの少なくとも1種の化合物が、下記化学式1で表される構造であり、反応系内の脱水を減圧下で行い、重合反応時の反応容器温度を180〜230℃の範囲とすることを特徴とするポリマー製造方法。
【化1】

[化学式1において、ZはOH基、SH基、及びそれらの基から誘導される基を、Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基のいずれかを、nは0以上の整数を表す。]
【請求項2】
有機極性溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを用いる請求項1に記載のポリマー製造方法。
【請求項3】
イオン性基が、スルホン酸基、スルホン酸基の塩、ホスホン酸基、ホスホン酸基の塩、リン酸基、リン酸基の塩からなる群より選ばれる1種以上の基である請求項1に記載のポリマー製造方法。
【請求項4】
芳香族ジハロゲン化物がイオン性基を有している請求項1に記載のポリマー製造方法。
【請求項5】
芳香族ジハロゲン化物が、下記化学式2で表される構造の化合物を含む請求項1に記載の方法。
【化2】

(化学式2において、XはF、Cl、Br、Iのハロゲン元素のいずれかを、Yは、スルホニル基又はカルボニル基のいずれかを、Zは、スルホン酸基及びその塩、ホスホン酸基その塩、リン酸基及びその塩、アルキルスルホン酸基及びその塩からなる群より選ばれる基を表す。)
【請求項6】
イオン性基を含むモノマーが結合水を含む状態で重合に用いる請求項1に記載のポリマー製造方法。
【請求項7】
脱水時の減圧度が−1〜−360mmHgの範囲にある請求項1に記載のポリマー製造方法。
【請求項8】
脱水時の反応系の温度が、用いる溶媒の常圧における沸点に対して、−15〜±0℃
の範囲である請求項1に記載のポリマー製造方法。
【請求項9】
化学式1におけるnが1以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリマー製造方法。
【請求項10】
化学式1におけるnが3以上である請求項1に記載のポリマー製造方法。
【請求項11】
化学式1におけるZがOH基であり、ZがO原子であり、nが3以上である請求項1に記載のポリマー製造方法。
【請求項12】
化学式1におけるZがOH基又はSH基であり、ZがO原子又はS原子であり、nが1であ請求項1にポリマー製造方法。
【請求項13】
化学式1におけるZがOH基又はSH基であり、nが0である請求項1に記載のポリマー製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13に記載の方法によって得られるポリマーの対数粘度(0.5g/dlのN−メチルピロリドン溶液、30℃、ウベローデ型粘度計で測定)が、0.1〜3.0dl/gであるポリマー。
【請求項15】
請求項14に記載のポリマーを含む高分子電解質膜。
【請求項16】
請求項14に記載のポリマーを、高分子電解質膜及び電極触媒層のうちの少なくとも一方に含むことを高分子電解質膜/電極接合体。
【請求項17】
請求項16に記載の膜/電極接合体を用いた燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2008−38044(P2008−38044A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215442(P2006−215442)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】