説明

ポリマーグレード間のトランジションを作る方法

【課題】互いに直列に接続された少なくとも第1反応装置と第2反応装置中で少なくとも一種のモノマーを重合する重合プロセスでのポリオレフィンのグレード間トランジション方法。
【解決手段】、トランジションの間、第1反応装置へのモノマーのフィードを実質的に一定に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに直列に接続された少なくとも第1反応装置および第2反応装置中で少なくとも一種のモノマーを重合する重合プロセスにおいて、ポリマーのグレード間トランジション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーの「グレード、grade、等級」とは所定の特性を定義する一組の仕様(スペック)の範囲内にあるポリマーを意味する。例えばポリエチレンの場合、メルトフローインデックスおよび密度が所定レンジ(範囲)内になければならない。
【0003】
ポリマーを連続法で生産する重合プロセスでは、一つのグレードのポリマーを同じポリマーの他のグレードへ変えたり、ホモポリマーからコポリマーへ変えたり、その逆へ変えたりするのを、ポリマーを生産しながら反応条件を変えて行なう。この「変え」を「トランジション、transition、遷移期」という。本明細書ではこのトランジションが時間0(t=0)で始まるものとする。このt=0は第2のポリマーグレードにするために反応条件が最初に変わる時である。このt=0での反応は第1のグレードのポリマー製品を生産する反応である。すなわち、反応装置は第1のグレード用にセットされた仕様でポリマーを生産している。t=0以降、反応条件は徐々に変わる。従って、第2のグレードが第1のグレードとは極めて大きく異なる場合には、第1のグレードにも第2のグレードにも入らない仕様外(off-specification)のポリマーでできることになる。
【0004】
トランジションは、反応装置が第2のグレード、すなわち第2のグレードの仕様セット内にあるポリマーを生産するようになった時に終了すると終える。トランジション中に変化するパラメータは、オレフィンの場合、一般に重合温度、モノマーフィード(供給量)、コモノマーフィード、水素フィード、共触媒フィードまたは触媒フィードの中から選択される。本明細書では物質の「フィード」とは反応装置へ送られる単位時間当りの物質のkg数で表される流速を意味する。
【0005】
少なくとも2つの反応装置を直列に含むプロセスでは、モノマーは第1反応装置で重合され、それから第2反応装置へ移されて、重合が続く。この形式のプロセスのトランジションでは両方の反応装置の反応条件を同時に変えることになる。しかし、両方の反応装置を同時に変えると、ポリマー製品の特性、例えばポリマーのメルトインデックスが大きく変動し、仕様外(off-specification)が多量に生じることになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、トランジションに必要な時間を減らす方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、形成されるポリマーの特性の変動が最少となるよなトランジション方法を提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、仕様外(off-specification)のポリマーの量を減すことが可能なトランジション方法を提供することにある。
上記目的の少なくとも一つは本発明によって達成できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、互いに直列に接続された少なくとも第1反応装置と第2反応装置中で少なくとも一種のモノマーを重合する重合プロセスでのポリオレフィンのグレード間トランジション方法であって、トランジションの間、第1反応装置へのモノマーのフィードを実質的に一定に維持することを特徴とする方法を提供する。
本発明方法は、ポリオレフィンのグレード間トランジションに特に適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、互いに直列に接続された少なくとも第1反応装置と第2反応装置中で少なくとも一種のモノマーを重合する重合プロセスでのポリオレフィンのグレード間トランジション方法に関し、本発明ではトランジションの間、第1反応装置へのモノマーのフィードを実質的に一定に維持する。
【0009】
すなわち、本発明は、反応装置中の変動(フラクチュエーシン)が最少になり、仕様外(off-specification)の量を大幅に減少でき、さらに、トランジションに必要な時間を短くすることができるトランジション方法を提供する。
本発明で仕様可能な反応装置の数は2、3、4、5または6以上にすることができる。第1反応装置へのモノマーフィードを変えずに他の反応装置へのフィードを変えることができる。オレフィン重合の場合、他の反応装置へのフィードは例えばヘキサン/モノマー比または水素/モノマー比を基にして決定できる。
【0010】
本発明ではトランジション中の第1反応装置へのモノマーフィードは実質的に一定に維持する。「実質的に一定」とはトランジション中に第1反応装置へのモノマーフィードが最大5%だけ変化することを意味する。この百分比変化はトランジション中の第1反応装置への平均モノマーフィードに対する変化である。
【0011】
本発明の他の実施例では、第1反応装置へのモノマーフィードは最大2%だけ変化する。本発明の好ましい実施例ではトランジション中に第1反応装置へのモノマーフィードは最大1%だけ変化する。
本発明の実施例では、重合プロセスはメタロセン触媒、クロムタイプ触媒および/またはチーグラー‐ナッタ触媒を使用して実行されるオレフィン重合プロセスである。チーグラー‐ナッタ触媒が好ましい。
【0012】
本発明は所望の任意のモノマーの重合で使用ができるが、本発明の実施例でのポリマーのグレードはポリオレフィンのグレードである。この場合、モノマーはオレフィン、例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル1-ペンテン、1-ヘプテンおよび1-オクテンである。これらモノマーの任意の混合物を使用することもできる。「重合」という用語は単独重合および共重合を意味する。α-オレフィンコモノマーは上記以外の3〜10の炭素原子を有するものから成る。
【0013】
本発明の他の実施例では、ポリオレフィンのグレードはマルチモダル(多峰)ポリオレフィングレード、すなわち互いに直列に接続された異なる反応装置で作られた異なる樹脂である。マルチモダル(多峰)はビモダル(双峰)、トリモダル(三峰)等を含む。マルチモダルなポリマーを製造する場合、本発明方法は、第1反応装置へのモノマーフィードを実質的に一定にし、第2反応装置で形成されるポリマーの量を最終ポリマー製品中の2つの樹脂の割合の所望変化に従って増減するように使用することができる。
【0014】
本発明の特に好ましい実施例では、本発明はポリエチレン、好ましくはビモダル(双峰)なポリエチレンのグレードを作る重合プロセスでのトランジションに関するものである。
エチレンおよび/またはプロピレンを重合する場合、本発明の重合プロセスは液相(スラリープロセス)または気相で実行するのが好ましい。液体スラリープロセスの液体はエチレンおよび/またはプロピレンと、必要に応じて用いる一種以上の3〜10の炭素原子を有するα-オレフィンコモノマーを不活性希釈剤中に含む。コモノマーは1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル1-ペンテン、1-ヘプテンおよび1-オクテンから選択できる。不活性希釈剤はイソブタンであるのが好ましい。
活性やメルトフローインデックス等のポリマー特性を調節するために重合反応中に金属アルキルまたは水素等の他の化合物を加えることもできる。本発明の一つの好ましいプロセスでは、重合プロセスを2つのループ反応装置、好ましくはダブルループ反応装置として知られる液体が一杯に充填されたループ反応装置で実行することができる。
【0015】
本発明方法はオレフィンの気相重合にも適している。気相重合は少なくとも2つの流動床または攪拌ベッド反応装置で実行できる。気相はエチレンおよび/またはプロピレンと、必要に応じて用いる3〜10の炭素原子を有するα-オレフィンコモノマー、例えば1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル1-ペンテンおよび1-オクテンまたはこれらの混合物と、窒素のような不活性ガスとから成る。さらに、金属アルキルまたは他の反応制御剤、例えば水素または酸素を重合媒体中に必要に応じて注入することができる。必要に応じてペンタン、イソペンタン、ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサンまたはこれらの混合物等の炭化水素希釈剤を使用することもできる。
【0016】
ポリエチレンのグレード間トランジションの場合、トランジション中に変化可能なパラメータは例えば第1反応装置に注入するヘキセンの量である。この量は生産されるポリマー1トン当り10〜120kgにすることができる。さらに、エチレンオフガス(第1反応装置および第2反応装置)は最高20%だけ変化できる。オフガス(主として第2反応装置)へ射出する水素割合は最高35%だけ変化でき、反応装置温度は最高5%だけ変化でき、反応装置比(第1反応装置と第2反応装置で作られるトンの比)は最高10%だけ変化できる。これらの値は単に一般的な指標として示したものに過ぎず、各トランジションでどのような値を使用するかは当業者には明らかである。
【0017】
第1反応装置のモノマーオフガス/モノマーフィードを一定に維持した場合、すなわち、他の射出量(例えば水素、コモノマー、その他)をモノマーに対する比とうして投与した場合により良い安定度が得られる。モノマーの流れ、すなわち、モノマーフィードを一定に維持することで、変化がメジャーな大きな撹乱や変動無しに他のパラメータの射出量を変えることができる。
【0018】
例としては、30トン/時の生産速度の重合プロセスで、従来法でトランジションを行なった場合、生じる仕様外(off-specification)の量は約200〜500トンで、必要な時間は約12〜20時間である。これに対して、本発明方法ではこれらの値は、仕様外の量は100トンに減り、遷移時間は8時間と短くなる。
【実施例】
【0019】
以下の実施例は、互いに直列に接続された2つの液体充填ループ反応装置R1とR2(ダブルループ反応装置)で、チーグラー-ナッタ触媒でポリエチレンを連続重合するプロセスで、本発明に従ってグレードAからグレードBへトランジションする場合を説明するものである。
第1のトランジションは従来法に従って実行した。この場合、第1反応装置R1へのモノマーフィードは一定にはしなかった。
第2のトランジションは本発明に従って実行した。
[表1]は各グレードの仕様セットを表している。
【0020】
【表1】

【0021】
両方のトランジションでコモノマーのヘキセンを両方の反応装置に0.00346kg/時の一定速度で加えた。両方のトランジションで第1反応装置R1の温度は約87℃の温度に維持した。第2反応装置R2の温度は約95℃に維持した。R1の圧力は4.2MPa、R2の圧力は約4MPaに維持した。
トランジションはグレードBのポリマーを得るために、水素フィードを変えた瞬間からスタートした。
密度はASTM 1505規格の方法に従って23℃の温度で測定した。メルトインデックスMI5はASTM D 1238規格の方法に従って荷重5kg下、190℃の温度で測定した。
【0022】
従来法の例
トランジションを時間O時OOでスタートした。これはグレードBの第2ポリマーを製造するために水素フィードを最初に増加した時である。この時点ではグレードAのポリマーは「仕様通り(on-specification)」に生産されている。所望のグレードBの第2ポリマーが得られたのは19時間30分後であった。フィードと生成物の特性は[表2]に示してある。
【0023】
【表2】


【0024】
[図1]は反応装置R1へのモノマーフィードを示す。トランジション中のR1での平均モノマーフィードは6772kg/時と計算される。点線で示した6705kg/時および6840kg/時のラインは−1%および+1%でのそれぞれ平均モノマーフィードを示す。従って、第1反応装置へのフィードはこれらの限界内になく、従って、一定でなかったことを示している。トランジションが完成に終わるまで19時間30分かかっている。仕様外の製品の量は457トンである。
【0025】
本発明の例
トランジションを時間O時OOでスタートした。これはグレードBの第2ポリマーを製造するために水素フィードを最初に増加した時である。この時点ではグレードAのポリマーは「仕様通り(on-specification)」に生産されている。所望のグレードBの第2ポリマーが得られたのは14時間15分後であった。フィードと生成物の特性は[表3]に示してある。
【0026】
【表3】


【0027】
[図2]は反応装置R1へのモノマーフィードを示す。トランジション中のR1での平均モノマーフィードは15757kg/時と計算される。点線で示した15599kg/時および15914kg/時のラインは−1%および+1%でのそれぞれ平均モノマーフィードを示す。(図2]は第1反応装置へのフィードが一定であることを示している。全体平均フィードに対して1%を超えるトランジショントはランジション中なかった。
トランジションの時間は14時間15分であった。仕様外の製品の量は122トンである。従って、本発明方法は遷移時間を19時間30分から14時間15分に短くでき、モノマーフィードが従来法の例の2倍であったにもかかわらず仕様外の製品の量は457トンから122トンに減少できることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】従来法での第1反応装置へのモノマーフィードの例を示す図で、横座標は時間(時)、縦座標はモノマーフィード(kg/時)を表す。
【図2】本発明での第1反応装置へのモノマーフィードの例を示す図で、横座標は時間(時)、縦座標はモノマーフィード(kg/時)を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直列に接続された少なくとも第1反応装置と第2反応装置中で少なくとも一種のモノマーを重合する重合プロセスでのポリオレフィンのグレード間トランジション方法であって、
トランジションの間、第1反応装置へのモノマーのフィードを実質的に一定に維持することを特徴とする方法。
【請求項2】
ポリオレフィンのグレードがマルチモダル(多峰)なポリオレフィンのグレードである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリオレフィンのグレードがポリエチレンのグレードである請求項2または2に記載の方法。
【請求項4】
重合反応装置がループ反応装置である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
トランジション中の第1反応装置へのモノマーのフィードを、トランジションでの第1反応装置への平均モノマーフィードに対して最大5%だけ変化させる請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
第1反応装置へのモノマーフィードを最大で2%だけ変化させる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
第1反応装置へのモノマーフィードを最大で1%だけ変化させる請求項6に記載の方法。
【請求項8】
重合プロセスをチーグラー‐ナッタ触媒を使用して実行する請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2009−531500(P2009−531500A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−502079(P2009−502079)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【国際出願番号】PCT/EP2007/052985
【国際公開番号】WO2007/113191
【国際公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(504469606)トータル・ペトロケミカルズ・リサーチ・フエリユイ (180)
【Fターム(参考)】