説明

ポリマーセメント硬化材の施工方法および施工構造

【課題】ポリマーセメント硬化材を、ねじ釘やパテ材を用いて取付施工するとき、パテ材の脱落や剥がれ、隙間の発生などが生じず、施工後のポリマーセメント硬化材の変形にも容易に追随でき、防水性等の保護機能が長期間良好に発揮できるようにする。
【解決手段】セメントとビニル系単量体とを含むW/O型エマルジョンからなるポリマーセメント材料を成形し硬化させてなるポリマーセメント硬化材を、支持構造に対して取付固定する方法である。ポリマーセメント硬化材の表面から支持構造へ取付ねじをねじ込んでポリマーセメント硬化材を支持構造に取付固定するとともに、取付ねじの上方でポリマーセメント硬化材の表面に開口し取付ねじの頭部に至るパテ充填凹部を設ける工程(a)と、そのあと、パテ充填凹部に湿気硬化型ウレタン樹脂系パテ材を充填し硬化させる工程(b)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーセメント硬化材の施工方法および施工構造に関し、詳しくは、建築物の外装仕上げ材などとしてポリマーセメント硬化材を施工する方法と、このような施工方法で得られる施工構造とを対象にしている。
【背景技術】
【0002】
セメント硬化材は、建築物の外装仕上げ板などに広く利用され、機械的強度や耐久性、耐候性などに優れていて、施工も容易であるという利点がある。
建築物の外壁面などにセメント硬化材を施工するには、通常、ねじ釘やボルトなどによる締結が行われる。セメント硬化材にねじ孔を貫通形成し、ねじ釘などを挿入する。ねじ釘などを、セメント硬化材を支持する構造部材にねじ込んで固定する。ねじ釘などの頭部が露出しないように、ねじ孔の上端に深めのザグリ孔を設けておき、ザグリ孔にパテ材を充填して硬化させることで、ねじ頭を隠している。パテ材は、ねじ孔を通じて内部へ雨水などが浸入して、内部構造を腐蝕させたり劣化させたりするのを防ぐ機能も果たす。
【0003】
このような用途に使用されるパテ材としては、セメント硬化材への接着性に優れた材料が使用される。ゴム成分等を配合して、セメント硬化材が経時的に熱変形などを起こしても、弾力的に追随できるようにしておくことも提案されている。
前記のような通常のセメント硬化材とは異なり、ポリマーセメント硬化材は、水硬性無機材料であるセメントに加えて、ポリマー成分が含まれていることで、通常のセメント硬化板よりも強靭で耐候性にも優れているなど、種々の利点を有している。
例えば、特許文献1には、ビニルモノマー、セメント、水、逆乳化剤、補強繊維などからなるセメント含有W/O型エマルジョンであるポリマーセメント材料を、板状に押出成形し、さらにプレス成形したあと、養生硬化させて、ポリマーセメント硬化材を製造する技術が示されている。
【特許文献1】特開平5−246747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記したポリマーセメント硬化材の取付施工を、ねじ釘およびパテ材を使って施工すると、パテ材が充填個所から脱落したり剥がれたり、隙間があいて防水機能が果たせなくなったりするという問題が発生した。
その理由を検討したところ、ポリマーセメント硬化材の表面は疎水性が強いために、パテ材が十分に密着しなかったり接合力が弱かったりすることがある。通常のセメント硬化材は表面が親水性であるので、パテ材にも親水性の材料が使用されることが多かったが、それではポリマーセメント硬化材には対応できないのである。溶剤型のパテ材であれば、ポリマーセメント硬化材との密着性は良くなるが、大量の溶剤が含まれているので、作業の安全性を確保するのが面倒であり、施工後における溶剤の揮散も心配になる。
【0005】
本発明の課題は、前記したようなポリマーセメント硬化材をねじ釘などとパテ材とを使用して取付施工するときに、パテ材の脱落や剥がれ隙間の発生などが生じ難く、施工後のポリマーセメント硬化材の変形にも容易に追随して、長期間にわたって良好な防水性などの保護機能が発揮できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかるポリマーセメント硬化材の施工方法は、セメントとビニル系単量体とを含むW/O型エマルジョンからなるポリマーセメント材料を成形し硬化させてなるポリマーセメント硬化材を、支持構造に対して取付固定する方法であって、前記ポリマーセメント硬化材の表面から前記支持構造へ取付ねじをねじ込んでポリマーセメント硬化材を支持構造に取付固定するとともに、取付ねじの上方でポリマーセメント硬化材の表面に開口し取付ねじの頭部に至るパテ充填凹部を設ける工程(a)と、前記工程(a)のあと、前記パテ充填凹部に湿気硬化型ウレタン樹脂系パテ材を充填し硬化させる工程(b)とを含む

【0007】
〔ポリマーセメント硬化材〕
セメントとビニル系単量体とを含むW/O型エマルジョンからなるポリマーセメント材料を成形し硬化させてなるものである。
基本的には、通常のポリマーセメント硬化材と共通する技術が適用される。前記した特許文献1に記載の技術や、特開2003−252670号公報、さらには本件特許出願人他が先に特許出願している特願2004−117158号明細書、特願2005−082022号明細書などに記載の技術が適用できる。
<ポリマーセメント材料>
重合性のあるビニル系単量体と水とのW/Oエマルジョンおよびセメントを含む。
【0008】
セメントは、ポリマーセメント硬化材の基本的な機械的強度などの特性を決める主体となる材料である。通常のセメント材料が使用できる。例えば、ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、アルミナセメントなどが挙げられる。複数種類のセメントを併用することもできる。通常、水とその他の固形分などを全て含めたポリマーセメント材料の全量に対して、10〜40体積%が配合される。
ビニル系単量体は、養生硬化工程において重合反応により重合し、水和硬化するセメントとともにポリマーセメント硬化材の骨格構造を構築し、ポリマーセメント硬化材の特性を向上させる。ビニル系単量体は疎水性の液状物質であり、水とW/Oエマルジョンを形成し易い。ビニル系単量体の具体例として、スチレン、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、不飽和ポリエステル樹脂等が有用である。ビニル系単量体は、通常、ポリマーセメント材料の全量に対して、4〜10体積%を配合しておくことができる。好ましくは、5〜7体積%である。ビニル系単量体の重合反応を促進させるために、有機過酸化物や過硫酸塩等からなる重合開始剤を併用することができる。
【0009】
W/Oエマルジョンは、油中水滴型エマルジョンとも呼ばれ、ビニル系単量体の連続相に微細な水粒子が分散している状態である。水とビニル系単量体を配合し、撹拌混合すれば、目的のW/Oエマルジョンが得られる。ビニル系単量体に加えて、別の油性物質を配合しておくことができる。水に加えて、他の液体あるいは固体粒子を配合しておくこともできる。セメントは、微細な固体粒子として、W/Oエマルジョン中に分散させておく。W/Oエマルジョンを調製したあと、セメントなどの他の材料を混合することもできるし、水およびビニル系単量体に加えて他の材料も混合した状態で、エマルジョン化処理を行うこともできる。
【0010】
W/Oエマルジョンの形成を促進させるために、乳化剤を配合しておくことが有効である。通常のエマルジョン技術において使用されている乳化剤が使用できる。具体例として、ソルビタンセスキオレート、グリセロールモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ジエチレングリコールモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ジグリセロールモノオレート等の非イオン性界面活性剤、各種アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等が挙げられる。乳化剤の使用量は、通常、ポリマーセメント材料の全量に対して1〜3体積%の範囲に設定できる。
セメントに骨材を組み合わせて用いることができる。骨材としては、通常のセメント系硬化材と同様の材料が使用できる。例えば、シリカ発泡体、アルミノシリカバルーン、フライアッシュバルーン、ガラス発泡体、その他の多孔質状骨材や軽量骨材を使用すれば、セメント系硬化材が取り扱い易く、建築外装材などに好適である。砂利、パーライト、シラスバルーン、ガラス粉、アルミナシリケートなどもある。骨材は、ポリマーセメント材料の全量に対して1〜50体積%を配合しておくことができる。好ましくは10〜50体積%である。
【0011】
骨材に加えて別の補強材を配合しておくこともできる。具体的には、いわゆるセメント用の補強繊維として知られている材料がある。補強繊維として、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維等の合成繊維や、炭素繊維、ガラス繊維、パルプなどがある。補強材は、セメント系材料の全量に対して0.5〜10体積%程度で配合できる。
その他にも、通常のセメント系硬化材の製造に利用される添加材料を組み合わせることができる。例えば、着色剤などが挙げられる。
<ポリマーセメント材料の調製>
前記した各材料と水を均一に撹拌混合すればよい。各材料を同時に撹拌混合してもよいし、一部の材料を撹拌混合した後、残りの材料を加えてさらに撹拌混合することもできる。攪拌装置として、ディゾルバー、スクリューラインミキサー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、プラネタリーミキサー、スタティックミキサー、ナウターミキサー、リボンブレンダー、タンブルミキサー、パドル式ミキサー等が使用できる。
【0012】
W/Oエマルジョンにセメントや補強材が配合されたりして粘性が増大した材料は、混練装置で混練することが有効である。連続混練装置として、連続ニーダー、二軸押出機等が使用できる。
<ポリマーセメント材料の成形および硬化>
通常の建材製造における成形技術および硬化技術が適用される。
成形方法として、注型成形、押出成形、プレス成形、射出成形などが挙げられる。押出成形で板状の成形品を得たあと、プレス成形で表面に凹凸形状を成形するなど、複数の成形技術を組み合わせることもできる。
【0013】
ポリマーセメント成形体の形状は、ポリマーセメント硬化材を使用する用途や要求される機能などに合わせて設定できる。一般的な建材では、平坦な板状のものや棒状、柱状をなすものなどがある。屈曲板状や湾曲板状のものもある。表面に凹凸模様があるもの、貫通孔や凹溝などの機能構造を有するものなどもある。
ポリマーセメント成形体を養生硬化させることで、ポリマーセメント硬化材が得られる。基本的には、通常のセメント系硬化体の製造技術における養生硬化装置、養生硬化条件が適用される。例えば、蒸気養生、オートクレーブ養生などが採用される。ビニル系単量体の重合による骨格構造の形成が良好に行えるように処理条件を設定する。
【0014】
〔ポリマーセメント硬化材の形状、用途〕
ポリマーセメント硬化材は、使用する用途や要求される機能によって、その形状や構造が違ってくる。
ポリマーセメント硬化材の用途としては、通常のセメント系硬化材と同様の用途がある。例えば、建築用の外装材および内装材がある。屋根材や床材にも利用できる。各種の土木構造における構造材や表面仕上げ材に利用できる。
ポリマーセメント硬化材の一般的な形状は、矩形などの平坦な板状である。また、屈曲板状や湾曲板状のものもある。矩形以外の多角形や曲線形状を有するものもある。
【0015】
ポリマーセメント硬化材には、装飾用の凹凸形状や、他の部材と連結するための連結構造や、使用状態で各種の機能を果たすための細部形状などを設けておくことができる。例えば、建築用外装材の場合、表面全体に凹凸模様が設けられることが多い。
ポリマーセメント硬化材の形状や構造、用途によって、施工条件や施工手順が変わる。
〔支持構造〕
剛性や機械的強度、耐久性などに優れた構造部材である。建築物の場合、壁の躯体構造や芯材、柱、梁、鉄骨などの骨組部材、コンクリートスラブなどの構造版材などである。このような構造部材の表面に、合板や窯業系板材、繊維板その他の下地板になる板材を貼り付けておく場合もある。木質材や形鋼材などからなる桟材が設けられている場合もある。
【0016】
〔ポリマーセメント硬化材の取付固定〕
ポリマーセメント硬化材を支持構造に対して取付固定する。
<取付ねじ>
取付手段として、取付ねじを用いる。取付ねじは、通常の建築技術分野において建材などと取付固定に利用されている技術が適用できる。取付ねじには、ねじ釘、タッピングねじ、タップボルトなどと呼ばれる、先端が錐状をなしていて支持構造にねじ穴を切りながら取り付けられるものが使用できる。支持構造に、予め、ねじ穴が設けられていれば、通常の丸先形状などの取付ねじや取付ボルトも使用できる。
【0017】
取付ねじは、ねじが切られた軸部の上端に、各種形状の頭部を有し、頭部には、ドライバーなどの工具を係止するマイナス溝や十字溝、六角穴を有していたり、頭部外形が六角形状をなしていたりする。皿頭や丸頭などと呼ばれる形状も知られている。
ポリマーセメント硬化材のうち、支持構造に対して取付固定する個所には、ねじ取付用の貫通孔と、貫通孔の上端に配置されたザグリ孔とを設けておくことができる。ザグリ孔は、取付ねじの頭部を支持する機能を果たすとともに、取付ねじの上方でポリマーセメント硬化材の表面に開口し取付ねじの頭部に至るパテ充填凹部としても機能する。
ねじ取付用貫通孔およびザグリ孔の形状や寸法は、使用する取付ねじの形状寸法に合わせて設定される。但し、パテ材充填凹部として機能させるザグリ孔については、パテ材が十分な量で充填できるように、十分な深さに設定しておく。取付ねじの口径によっても異なるが、通常、取付ねじを取り付けた状態で取付ねじの頭部より上方の深さが1〜10mmになるように設定しておく。
【0018】
ポリマーセメント硬化材を、支持構造の所定位置に配置した状態で、ザグリ孔からねじ取付用貫通孔へと、取付ねじを挿入し、取付ねじを回動させれば、取付ねじの先端が支持構造にねじ込まれる。ポリマーセメント硬化材が支持構造に締め付けられて固定される。
ポリマーセメント硬化材に、ねじ取付用の貫通孔を形成せず、ポリマーセメント硬化材の表面から厚み方向の途中までの深さのザグリ孔あるいはパテ材充填凹部を設けておき、取付ねじを、ザグリ孔あるいはパテ材充填凹部の底からポリマーセメント硬化材に孔を明けながらねじ込んでいくこともできる。ポリマーセメント硬化材が、穿孔加工性に優れた材料からなる場合には、このような形態が採用可能になる。
【0019】
取付ねじによるポリマーセメント硬化材の支持構造への取付固定が行われた状態では、パテ材充填凹部の底部に、取付ねじの頭部が配置され、頭部よりも上方には表面に開口する空間があいている。このパテ材充填凹部をパテ材で埋める。
〔パテ材〕
パテ材として、湿気硬化型ウレタン樹脂系パテ材を用いる。
湿気硬化型ウレタン樹脂系パテ材は、湿気硬化型ポリウレタン樹脂を基本材料にして、通常のパテ材と同様の各種成分が組み合わせて配合されている。
具体的には、湿気硬化型ポリウレタン樹脂10〜35重量%と、無機充填材60〜80重量%と、アクリルポリマー0〜30重量%とを含有するものが好ましい。これらの成分に加えて、粘着付与材や溶剤なども配合される。無機充填材としては、通常のパテ材と同様の材料が使用できる。例えば、炭酸カルシウムやガラスバルーンなどが挙げられる。溶剤としては、各種の脂肪族炭化水素が使用できる。但し、溶剤の配合量は、できるだけ少ないほうが好ましく、通常6%未満に設定しておく。
【0020】
このような湿気硬化型ポリウレタン樹脂系パテ材の製造は、各原料を、撹拌混合機を用いて窒素雰囲気下で均質に混合することで、ペースト状のパテ材が得られる。製造されたパテ材は経時とともに環境中の湿気で硬化するので、保存は防湿状態で行うことが望ましい。また、所定の可使時間の間に施工を完了する必要がある。
パテ材の粘度を、製造時点において1500±700Pa・s(23℃)に設定しておくことができる。適切な粘度範囲であれば、パテ材充填凹部への充填作業など取り扱いが容易であり、ポリマーセメント硬化材と隙間なく密着させ易い。硬化後の収縮も少なくない。
【0021】
パテ材は、揮発分ができるだけ少ないほうが、硬化時の収縮が少なくなり、施工後のVOC問題も少なくなる。具体的には、不揮発分94%以上の湿気硬化型ウレタン樹脂系パテ材が好ましい。
パテ材の硬化後における体積収縮率が小さいほど、収縮によるポリマーセメント硬化材との剥がれが起き難い。具体的には体積収縮率4%(23℃)以下が好ましい。
以上に説明したパテ材の諸特性値は、常法により測定された値であり、詳しくは、実施例の欄に記載された測定条件を採用する。
<パテ材の施工>
湿気硬化型ウレタン樹脂系パテ材は、通常のパテ材と同様の機器を用いて、通常の操作手順で、ポリマーセメント硬化材のパテ材充填凹部に充填する。具体的には、グリースガンなどの注入具が使用できる。パテ材はパテ材充填凹部の上端まで隙間なく充填することができる。パテ材充填凹部の上端でポリマーセメント硬化材の表面と同一面になるように均しておくことができる。硬化収縮を考慮して、少し多めに盛り上げておくこともできる。
【0022】
パテ材が硬化するまで放置しておく。通常は、常温において12時間〜7日間で硬化する。
〔パテ材施工後の処理〕
硬化したパテ材の上に塗装を行って、周囲のポリマーセメント硬化材表面との違いを目立ち難くすることができる。パッチ状の塗装片を貼り付けておくこともできる。
〔ポリマーセメント硬化材の施工構造〕
このようにして、ポリマーセメント硬化材の施工構造が完成する。
ポリマーセメント硬化材は、取付ねじによって、支持構造に強固に取付固定されている。
【0023】
取付ねじの頭部は、パテ材充填凹部の内部で湿気硬化型ウレタン樹脂系パテ材に埋もれており、外部に露出することはない。パテ材は、パテ材充填凹部の内面のポリマーセメント硬化材と緊密に接合されており、外部から水等が浸入する隙間はない。
【発明の効果】
【0024】
本発明にかかるポリマーセメント硬化材の施工方法は、特定のポリマーセメント硬化材を、支持構造に対して、取付ねじの締結によって強固に取付固定したあと、取付ねじの頭部が配置されたパテ材充填凹部を、湿気硬化型ウレタン樹脂系パテ材を充填し硬化させることで確実に塞いでいる。
その結果、取付ねじの上方を塞ぐパテ材が、ポリマーセメント硬化材と強固に密着して接合され、建築物の外装板など過酷な屋外環境に晒されても、パテ材の脱落や剥がれ、隙間などが生じ難く、施工後のポリマーセメント硬化材の変形にも容易に追随して、長期間にわたって良好な防水性などの保護機能が発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1に示す実施形態は、ポリマーセメント硬化材を、建築物の外壁仕上げ材として施工した状態を示している。
〔施工構造〕
支持構造10は、コンクリート壁躯体や耐力壁材、あるいは、鉄骨骨組の表面に貼設された下地サイディングボード材などからなり、建築物の構造強度を負担している。
支持構造10の表面に、断面コ字形をなす型鋼材からなる取付桟材20が、縦横に格子状をなすように設置されている。図示を省略したが、取付桟材20は、ボルト締結などの手段で支持構造10に強固に固定されている。
【0026】
取付桟材20の表面に、外装仕上げ材となるポリマーセメント硬化材30が配置される。図示を省略しているが、ポリマーセメント硬化材30の表面には、凹凸模様が成形されており、外観意匠性を向上させている。
ポリマーセメント硬化材30の表面のうち凹部分で、取付ねじ40によって。取付桟材20に取付固定される。
取付ねじ40は、皿頭タップねじであり、先端が錐状に尖っており、上端の頭部42が円錐皿状をなしている。
ポリマーセメント硬化材30には、表裏を貫通する取付用貫通孔32が穿孔されている。取付用貫通孔32の内径は、取付ねじ40のねじ径よりも大きく設定されている。取付用貫通孔32の上方部分は、取付ねじ40の頭部42に対応する円錐状に拡がったあと、大きな円孔状のザグリ孔34すなわちパテ材充填凹部になっている。
【0027】
取付桟材20の上に配置されたポリマーセメント硬化材30に対して、取付ねじ40をザグリ孔34から取付用貫通孔32に差し込み、取付ねじ40の頭部42をドライバーなどで回し、取付ねじ40の先端を取付桟材20に、ねじを切りながらねじ込んでいく。取付ねじ40の頭部42裏面が、ザグリ穴34の底に当たれば、取付ねじ40のねじ込みを完了する。ポリマーセメント硬化材30は、取付桟材20に締め付け固定される。
取付ねじ40の上方のザグリ穴34には、湿気硬化型ウレタン樹脂系パテ材50が充填され硬化している。
具体的には、湿気硬化型ウレタン樹脂系パテ材50が収容された注入具のノズルを、ザグリ孔34に差しこんで、ペースト状のパテ材50を押し出し、ザグリ孔34の内部空間全体をパテ材50が隙間なく密着して塞いだ状態にする。パテ材50の一部が、ザグリ孔34の上端よりもはみ出して残った場合は、直ぐに拭き取ることができる。ザグリ孔34の上端でパテ材50の表面を平坦に均しておく。
【0028】
湿気硬化型ウレタン樹脂系パテ材50は、経時とともに硬化し、ザグリ孔34の内面のポリマーセメント硬化材30と強固に接合一体化する。ポリマーセメント硬化材30の外面に雨水などがかかっても、ザグリ孔34の内部や壁の内部構造まで浸入することはない。
図示を省略しているが、ポリマーセメント硬化材30およびパテ材50の表面には、仕上げ塗装を施すことで、ポリマーセメント硬化材30とパテ材50との表面色や表面質感の違いを目立たなくすることができる。
【実施例】
【0029】
本発明にかかるポリマーセメント硬化材の施工を具体的に実施し、その性能を評価した結果を示す。
〔ポリマーセメント硬化材(1)〕
ポルトランドセメントを20体積部、水を55体積部、ビニルモノマーソリューション〔VMS;ビニルモノマー(スチレン)と乳化剤(ソルビタンモノオレート)とを、前者対後者の体積比率が5:2となるように混合した混合物〕を7体積部、補強繊維(ポリプロピレン繊維)を2体積部、軽量骨材(アルミナシリケートバルーン)を20体積部で配合し、比重1.1のポリマーセメント材料を調製した。
【0030】
ポリマーセメント材料を押出成形して、縦2000mm×横900mm×厚さ35mmの矩形板状をなすポリマーセメント成形体を調製した。ポリマーセメント成形体をプレス成形して、図1に示す凹凸模様12、14を成形したあと、蒸気養生で硬化させ、ポリマーセメント硬化材を得た。養生条件は、60℃で約10時間保持した後、90℃まで昇温させ、90℃で約9時間保持したあと、放冷した。
〔ポリマーセメント硬化材(2)〕
ポリマーセメント硬化材(1)の製造工程において、乳化剤の種類を変更した以外は同様の工程で、ポリマーセメント硬化材(2)を製造した。
【0031】
〔ポリマーセメント硬化材(3)〕
ポリマーセメント硬化材(1)の製造工程において、VMSと乳化剤との体積比率を変更した以外は同様の工程で、ポリマーセメント硬化材(3)を製造した。
〔パテ材A:湿気硬化型ウレタン樹脂系パテ材〕
<成分配合>
湿気硬化型ポリウレタン樹脂 15重量%
無機充填材(炭酸カルシウム) 72重量%
無機充填材(ガラスバルーン) 5重量%
溶剤(脂肪族炭化水素) 1重量%
高分子可塑剤 5重量%
接着性付与剤など 2重量%
なお、高分子可塑剤は、不揮発分98%以上、粘度1000mPa・s、分子量2000〜5000のアクリルポリマーを用いた。
【0032】
<特性>
不揮発分:97.0%以上(105℃−3hr−1.5g)〔JIS−K6833(1994)〕、
比重:1.70±0.10(23℃)〔JIS−A1439(2004)〕、
粘度(製造時):1500±500Pa・s(23℃)〔JIS−K6833(1994)、B8UロータNo7、10rpm〕、
スランプ(縦・横):2mm以下(50℃)〔JIS−A1439(2004)〕、
硬化速度:2mm/24時間(23℃50%RH)以下、
ゴム特性(初期):最大引張応力50N/cm以上(23℃)、最大荷重時伸び100%以上(23℃)〔JIS−K6301(1995)、23℃50%RH×14日養生、ダンベル3号〕、
ゴム特性(耐熱劣化):最大引張応力60N/cm以上(23℃)、最大荷重時伸び60%以上(23℃)〔JIS−K6301(1995)、23℃50%RH×14日養生後、80℃14日間加熱、ダンベル3号〕、
タックフリー:10〜60分(23℃50%RH)〔JIS−A1439(2004)〕、
体積収縮率:3.5%以下(23℃)〔JIS−A1439(2004)〕、
透水性:1.0ml以下(23℃、24hr)〔JIS−K6909(1995)、B法〕。
【0033】
〔パテ材B:従来品〕
市販のパテ剤「釉元パテ N」(商品名、大日本塗料社製)を用いた。
以下の組成を有する。
<主剤>顔料25%、充填材30%、エポキシ系樹脂エマルジョン21%、添加剤3%、水21%。
<硬化剤>ポリアミン系樹脂エマルジョン100%。
<骨材成分>白色ポルトランドセメント100%。
主剤:硬化剤:骨材成分=27:3:4で混合して使用した。
【0034】
〔接着性試験〕
<試験方法>
各ポリマーセメント硬化材の表面に、直径10mm、深さ5mmのザグリ穴をあけ、ねじ釘を打ち込んだ。ザグリ穴にパテ材A、Bを充填し、表面を平滑に仕上げて試験体を得た。試験体を23℃50%RHに7日間保持して養生した。養生後の外観を観察し、パテ材の周辺部にクラックなどの異常がないか評価した。釘の先端側から荷重を負荷して、最大応力と凝集破壊率とを測定した。試験速度は2mm/minに設定した。凝集破壊率は、パテ材の凝集破壊、薄層凝集破壊およびポリマーセメント硬化材の凝集破壊を含めて評価した。
【0035】
また、80℃加熱状態を一定期間保持したあとで同様の接着性試験を行い、耐熱接着性を評価した。50℃温水浸漬状態で一定期間保持したあとで同様の接着性試験を行い、耐温水接着性を評価した。
試験の結果を下表に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
上記試験結果によれば、何れのポリマーセメント硬化材においても、パテ材Aを用いることで、接着性が格段に向上することが実証された。なお、パテ材Aを用いた場合は、何れの試験においても、外観上の異常は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、例えば、建築物の外装仕上げ材となるポリマーセメント硬化材の施工に利用できる。取付ねじによる取付個所が、長期間にわたって良好な外観性や防水性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態を表すポリマーセメント硬化材の施工構造を示す断面図
【符号の説明】
【0042】
10 下地構造
20 取付桟材
30 ポリマーセメント硬化材
32 取付用貫通孔
34 ザグリ孔(パテ材充填凹部)
40 取付ねじ
42 頭部
50 ウレタン樹脂系パテ材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントとビニル系単量体とを含むW/O型エマルジョンからなるポリマーセメント材料を成形し硬化させてなるポリマーセメント硬化材を、支持構造に対して取付固定する方法であって、
前記ポリマーセメント硬化材の表面から前記支持構造へ取付ねじをねじ込んでポリマーセメント硬化材を支持構造に取付固定するとともに、取付ねじの上方でポリマーセメント硬化材の表面に開口し取付ねじの頭部に至るパテ充填凹部を設ける工程(a)と、
前記工程(a)のあと、前記パテ充填凹部に湿気硬化型ウレタン樹脂系パテ材を充填し硬化させる工程(b)と
を含むポリマーセメント硬化材の施工方法。
【請求項2】
前記ポリマーセメント材料が、前記ビニル系単量体としてスチレンを用いており、
前記工程(b)において、湿気硬化型ポリウレタン樹脂10〜35重量%と、無機充填材60〜80重量%と、アクリルポリマー0〜30重量%とを含有し、粘度1500±700Pa・s/23℃、不揮発分94%以上の湿気硬化型ウレタン樹脂系パテ材を用いる
請求項1に記載のポリマーセメント硬化材の施工方法。
【請求項3】
セメントとビニル系単量体とを含むW/O型エマルジョンからなるポリマーセメント材料を成形し硬化させてなるポリマーセメント硬化材を、支持構造に対して取付固定してなる施工構造であって、
前記支持構造の表面に配置される前記ポリマーセメント硬化材と、
前記ポリマーセメント硬化材の表面から前記支持構造へねじ込まれ、ポリマーセメント硬化材を支持構造に取付固定する取付ねじと、
前記取付ねじの上方でポリマーセメント硬化材の表面に開口し取付ねじの頭部に至るパテ充填凹部と、
前記パテ充填凹部に充填され硬化してなる湿気硬化型ウレタン樹脂系パテ材と、
を備えるポリマーセメント硬化材の施工構造。

【図1】
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【公開番号】特開2007−92437(P2007−92437A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284759(P2005−284759)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000004673)パナホーム株式会社 (319)
【Fターム(参考)】