説明

ポリマーフィルム中の医薬の結晶化を防止する方法

本発明は、ポリマーフィルム中の医薬の結晶化を防止する方法に関し、ここでマトリクス形成ポリマーまたはマトリクス形成ポリマー混合物、および少なくとも1つの医薬を含み、そのポリマーフィルムを製造するために散布される溶媒含有コーティング化合物は、コーティング化合物中に含まれる医薬の融解温度を少なくとも10℃上回る温度で一時的に乾燥される。従って、この最高温度は乾燥のためだけに必要とされる温度よりも高いだけでよく、さらなる時間がかかり費用もかかる作業工程を必要としない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーフィルム中の医薬の自発結晶化(spontaneous crystallization)を防ぐための方法に関する。本明細書中における「自発結晶化」とは、いかなる知覚可能な刺激なしでも生じる結晶化を意味する。
【背景技術】
【0002】
経皮治療システムは、医薬の経皮投与のための投与形態である。経皮治療システムの中で、リザーバシステムとマトリクスシステムとで区別される。リザーバシステムの場合においては、医薬は平らなリザーバ中に液体または反流動体製剤の形態で存在しており、そのリザーバの壁は、リザーバ中に存在する医薬がそれを介して送達され得る膜を備えている。マトリクスシステムは、医薬がポリマーフィルム中に存在するという事実により区別される。これらの最も単純な実施態様において、マトリクスシステムは、医薬不浸透性背面相、医薬含有マトリクス相(これは、通常自己接着性である)、および保護相(これは使用前に取り除かれる)から構成される。しかしながら、より複雑な構成のマトリクスシステムも存在し、それらは2つまたはそれ以上の異なる組成のマトリクス相、追加の制御膜(control membrane)および/または他には非接着相を備えていてもよい。
【0003】
さらに、医薬含有ポリマーフィルムはまた、例えばシートまたはフィルム形態での投与形態で経口投与用の薬物にも用いられる。経口投与用のこれらの薬物は、水溶性ポリマーをベースにされており、そのためその投与形態が唾液と接触すると迅速に医薬が放出される。不溶性またはわずかに水溶性のポリマーは、粘膜付着特性を有していることが好ましく、これらは遅延放出によるシートもしくはフィルム形態での投与形態のために、および/または口腔内で医薬の経粘膜投与のために用いられる。
【0004】
経口治療システムまたは経皮治療システム用の医薬含有ポリマーフィルムは、一般的にはマトリクス形成ポリマーまたはマトリクス形成ポリマー混合物および医薬を含むコーティング材を規定の厚さで基材に塗布し、その後それを乾燥させることにより製造される。基材のコーティングおよびこのコーティングの乾燥は、典型的には1つの連続操作で行われる。この内容での乾燥は、一般的には溶媒の除去を意味する。
【0005】
コーティング材は、マトリクス形成ポリマーまたはマトリクス形成ポリマー混合物、少なくとも1つの医薬、および場合によりさらなる添加剤(例えば、透過促進剤、可塑剤、着香剤、着色剤、保存剤、酸化防止剤など)を溶媒中に含む溶液または懸濁液である。溶媒は、好ましくは有機溶媒または有機溶媒混合物である。
【0006】
この医薬自体は、溶媒に完全に溶解されていてもよいが、そうでなくてもよい。医薬が溶媒に完全に溶解しているこれらの場合においても、コーティング材中の医薬の飽和溶解度をわずかに超える場合でさえ、基材のコーティングの間にそのコーティング材中に結晶核が形成するリスクが存在する。コーティングの本体の中で、このような結晶核は、溶媒または溶媒混合物の1つの溶媒成分の局所的に大きな蒸発の結果として、および医薬の合成的な局所結晶の結果として形成され得る。
【0007】
コーティング材中の医薬の局所結晶化は、乾燥した溶媒フリーのポリマーフィルムが医薬で置き換えられている場合には問題ではない。なぜならばこれらの条件下では、結晶核は短時間で崩壊するからである。しかしながら、乾燥ポリマーフィルムが医薬で過飽和であるかまたはアモルファス変性の医薬を含む場合もまた、コーティング中の医薬の局所結晶化は問題とみなされない。医薬で過飽和状態のマトリクスシステム(これは、アモルファス形態の医薬を含むシステムを包含する)は、医薬の熱力学活性およびバイオアベイラビリティーが特に高いという利点を有している。しかしながら、この利点は、過飽和マトリクスシステムは準安定性であり、医薬のバイオアベイラビリティーは、その結晶化によって非常に不利益な影響を及ぼすという不利な点と対比される。
【0008】
室温におけるポリマーマトリクス相中の活性成分液の結晶水和物の形成を防止するために、特許文献1は、医薬含有ポリマーマトリクスを加熱することを提唱している。詳細な内容は、非水性のポリマーマトリクス中のスコポラミン水和物結晶の形成、およびそれと関連する、液体のスコポラミンベースが、ポリイソブチレン/鉱油マトリクス中に分散して存在している投与単位からのスコポラミンの放出速度に対する明らかに不利な影響である。この問題を解決するために、予めパッケージングされた投与単位を60℃で24時間加熱することが提唱されている。この投与単位の加熱は、59℃の融解点を持つマトリクス中に存在するスコポラミンベースの水和物の結晶を融解し、投与単位の冷却後に結晶の形成を防ぐために十分であった。
【0009】
しかし、この方法で処理された投与単位について、比較的高い67〜70℃の融解温度を持つさらなる結晶の発生が観察された。これらのさらなる結晶は、投与単位を60℃で24時間加熱することによっては排除されなかった。これらのさらなる結晶は、パッケージングされた投与単位が加熱される温度を上げることによってもまた排除することはできなかった。この問題を解決するために、特許文献2は、完成し、予めパッケージングされた投与単位の熱処理に加え、放出制御膜との成層の直前にスコポラミン含有マトリクス相を67℃〜90℃の温度で5〜15分間加熱することを提唱している。特許文献2に従う「直前に」とは、スコポラミンコーティングの塗布後24時間以内、好ましくは18時間以内に成層を行わねばならないことを意味している。
【0010】
ポリマーマトリクス中の医薬の結晶化を防止するためのこの公知の方法は、コーティングがなされた後、そのマトリクス層を短時間(24時間)内でさらに処理せねばならず、しばらくの間保管しておくことができないという不利な点を有している。このさらなる熱処理は、追加の製造工程でありその製造方法を時間がかかり、また費用もかさむ方法としてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4,832,953号
【特許文献2】米国特許第5,662,928号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、医薬が過飽和状態であるポリマーマトリクス中のこの医薬の結晶化を防止するための、単純かつ費用対効果の高い方法を見つけることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、驚いたことに、少なくとも1つのポリマーまたはポリマー混合物と医薬とを含むコーティングを、その医薬の融解温度を時々少なくとも10℃上回る温度で乾燥させ、溶媒を除去する工程に供することによる単純な方法で達成される。
【0014】
従って、本発明は、経皮治療システムまたは経口投与用の薬物を作成するのに適切な、医薬含有ポリマーフィルム中の医薬の結晶化を防止する方法に関する。この方法の特徴は、基材が、溶媒または溶媒混合物、マトリクス形成ポリマーまたはマトリクス形成ポリマー混合物、および少なくとも1つの医薬を含むコーティング材でコーティングされており、かつその溶媒または溶媒混合物は熱をかけることによってそのコーティングから除去され、溶媒除去の間の最高温度はその医薬の融解温度を時々少なくとも10℃上回ることにより純粋な乾燥に必要な温度よりも高い点にある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1つの好ましい実施態様において、医薬含有コーティングの乾燥の間の最高温度は、その医薬の融解温度を時々10℃〜25℃超える。
【0016】
しかしながら、130℃を超える乾燥温度は、コーティング用の基材として頻繁に用いられる熱耐性ポリエステルフィルムでさえもこれらの温度で軟化が始まるために問題があり得る。
【0017】
医薬含有コーティングの乾燥は、少なくとも1分間、好ましくは1.5分間、およびより好ましくは3分間、医薬の融解温度を10℃より多く上回る温度で行うべきである。
【0018】
医薬含有コーティングの乾燥は、15分以下、好ましくは10分以下、およびより好ましくは5分以下で、その医薬の融解温度を10℃より多く上回る温度でなされるべきである。
【0019】
この医薬含有ポリマーフィルムは、典型的には少なくとも1つの医薬および場合により追加の賦形剤を、マトリクス形成ポリマーまたはマトリクス形成ポリマー混合物の溶液または懸濁液に加えることにより製造される。従って、このコーティング材は、シート様の基材上にコーティングされて規定の厚さを有するコーティングを形成する。次いで、このコーティングされた基材は乾燥トンネルを通過し、そのトンネルの中で、溶媒または溶媒混合物が加温された温度で除去され、コーティング中に0.5質量%以下というごくわずかな残留量の溶媒のみが残る。
【0020】
1つの好ましい実施態様において、この医薬はマトリクス形成ポリマー中で固溶体の形態で分散されている。「固溶体」とは、マトリクスポリマー中に医薬が分子的に分散分布していることをいう。
【0021】
乾燥条件を特定する場合の目的は、非常に穏やかな条件下で溶媒(単数または複数)を除去することである。この溶媒は、マトリクスポリマーに応じて当業者によって選択される。一般的な溶媒は、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、酢酸エチル、エタノール、メタノール、イソプロパノールおよびテトラヒドロフランである。
【0022】
このマトリクス形成ポリマー自体は、本発明の方法についての制限因子ではない。適切なマトリクス形成ポリマーの例としては、ポリシロキサン、ポリアクリレート、ポリイソブチレン、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマーのようなブロックコポリマー、およびこれらの混合物が挙げられる。特に好ましいマトリクス形成ポリマーは、耐アミン性ポリシロキサンである。
【0023】
これらのマトリクス形成ポリマーは、好ましくは感圧接着剤または自己接着性ポリマーである。
【0024】
本発明の方法に適切な医薬は、120℃未満の融点を持つ活性医薬成分である。融点が115℃未満である活性医薬成分を用いることが好ましい。使用に特に好ましいのは、融点が105℃未満の活性医薬成分である。特に好ましい医薬は、ロチゴチンおよびフェンタニルである。
【実施例】
【0025】
(実施例1)(比較実施例)
外側の相は自己接着性ポリシロキサンポリマーで構成されており、内側の相はポリビニルピロリドン/医薬複合体で構成されている2相のシステムを作成した。分散物で構成されているコーティング材は、外側の相のポリシロキサン接着剤がn−ヘプタン溶液中に存在しており、内側の相の医薬、ロチゴチンおよびポリビニルピロリドンは、エタノール溶液中に存在している。医薬、ロチゴチンは、97〜99℃の融解温度を有しており、コーティング材中の飽和溶解度を、室温で超える。
【0026】
このコーティングを表1に示す温度プロフィールの乾燥トンネル中で乾燥させた。
【表1】

【0027】
このコーティング作業は、ポリマーフィルム内に多くの結晶核を生成したが、これらはコーティング後すぐには確認されなかった。その乾燥のちょうど24時間後、ポリマーフィルムは、マトリクス内に顕微鏡で確認できる医薬の結晶を表わした。2日後、その医薬の結晶は、ラミネートを通して裸眼でさえも見えるほどになった。
【0028】
(実施例2)
ロチゴチン含有コーティング材を実施例1に記載したとおりに作成し、基材上に同じ方法でコーティングした。実施例1からの逸脱として、このコーティングを表2に示される温度プロフィールにより乾燥させた。
【表2】

【0029】
この乾燥方法を用いて、乾燥終了時にコーティングを、医薬の融解温度である97〜99℃を超える温度にちょうど3分間曝した。
【0030】
表2に示される温度プロフィールに従って乾燥された医薬含有ポリマーフィルムについては、ポリマーマトリクス中の医薬の結晶化はコーティング後2年たっても見られなかった。
【0031】
実施例2に従う方法を用いたより高い乾燥温度は、コーティングの間の種結晶の形成の結果としてのポリマーマトリクス中のロチゴチンの結晶化を完全に防止する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーフィルム中の医薬の結晶化を防止する方法であって、マトリクス形成ポリマーまたはマトリクス形成ポリマー混合物、および少なくとも1つの医薬を含む、ポリマーフィルムを製造するために塗布される溶媒含有コーティング材が、コーティング材中に存在する医薬の融解温度を時々少なくとも10℃上回る温度で乾燥されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
温度が、医薬の融解温度を時々15〜25℃上回ることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
乾燥温度が130℃を超えないことを特徴とする、請求項1または2に記載の特徴。
【請求項4】
コーティングした材料を、医薬の融点を少なくとも10℃上回る温度で、少なくとも1分間、好ましくは少なくとも100秒間、より好ましくは少なくとも3分間、乾燥することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
コーティングした材料を、医薬の融点を少なくとも10℃上回る温度で、15分を超えない、好ましくは10分を超えない、より好ましくは5分を超えない時間、乾燥することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
マトリクス形成ポリマー、またはマトリクス形成ポリマー混合物の少なくとも1つのポリマーが、ポリシロキサン、ポリアクリレート、ポリイソブチレンおよびブロックコポリマーからなる群より選択されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
マトリクス形成ポリマーが耐アミン性ポリシロキサンであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
溶媒が、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、酢酸エチル、エタノール、メタノール、イソプロパノールおよびテトラヒドロフランからなる有機溶媒の群より選択されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
医薬が、120℃未満の融解温度、好ましくは115℃未満の融解温度、より好ましくは105℃未満の融解温度を持つことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
医薬が、ロチゴチン及びフェンタニルを含む群より選択されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2013−510805(P2013−510805A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538214(P2012−538214)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/006535
【国際公開番号】WO2011/057714
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(300005035)エルテーエス ローマン テラピー−ジステーメ アーゲー (128)
【Fターム(参考)】