説明

ポリマー組成物ならびにその作製方法および使用方法

環付加反応から形成された部分によりポリマー残基が架橋剤残基に結合している、該ポリマー残基および該架橋剤残基を有するポリマー組成物が本明細書に記載されている。このようなポリマー組成物を作製し使用する方法も記載されている。本発明により、親水性ポリマー残基および架橋剤残基を含むポリマー組成物が提供され、ここで、この親水性ポリマー残基は、環化付加反応から形成された部分によって架橋剤残基に結合され、このポリマー組成物は、光活性化2+2環化付加反応によって架橋されたポリアクリルアミドではない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国仮特許出願第60/717,528号(2005年9月15日出願)に対する優先権を主張し、この米国出願は、本明細書中でその全体が参考として援用される。
【0002】
(謝辞)
本発明に至る研究は、部分的に、the National Institute of Health、助成金番号NIH−NIAID R21 AI6262445−01によって確立された。米国政府は、本発明に対して一定の権利を有し得る。
【背景技術】
【0003】
(背景)
ポリマー組成物は医療用途において広く用いられている。例えば、種々のポリマーが、縫合糸材料として用いられ、骨折固定のために用いられている(例えば、特許文献1および特許文献2を参照)。ポリマーは、ポリマーベースの薬物送達系においても用いられている。薬物送達では、ポリマーは典型的に、生物学的活性剤の制御放出または持続放出のためのマトリックスとして用いられている。このようなポリマーベースの薬物送達系の例は、例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、および特許文献8に記載されている。ポリマーは、組織技術のための足場としても用いられている(例えば、特許文献9を参照)。さらに、ポリマーは、接着剤および充填剤として、歯科用途においても用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
医療用途にとってかなり注目されてきたポリマー組成物の1つのタイプは、ヒドロゲルである。ヒドロゲルは、大量の水を吸収することのできるホモポリマーまたはコポリマーからなる三次元ポリマー網状構造物である。したがって、ヒドロゲルの特徴は、溶解することなく、水または水性液体中で膨張することである。ヒドロゲルは、含水量が多く柔軟性があるため、他のいずれのクラスの合成生体材料よりも、自然の生きている組織に類似したものとなっている。したがって、多くのヒドロゲルが生物系に適合可能であり、ヒドロゲルは、医療業界および製薬業界において多数適用されている。例えば、ヒドロゲルは、調整可能な膨張能力があり、それによって薬物放出速度を柔軟に制御することができるため、薬剤担体として広く研究されている。
【0005】
状況によっては、使用対象となる部位でポリマー組成物を調製することが望ましいことがある。しかし、いくつかのポリマー組成物では、それらを使用できる前に形成しなければならず、不利である。これは、多くのタイプのポリマーの調製には、通常、該ポリマー組成物を使用(例えば、生物系における使用)しようとする環境に適合していない極端な条件が必要であるためである。例えば、いくつかのポリマーの調製には、高温、外来試薬、開始剤、および/または溶媒、ならびに、高価なおよび/または毒性のある触媒が必要になってしまう。ポリマー組成物を調製してはじめてそれが使用可能となる理由はほかにもある。通常、ポリマーは、反応性のモノマーまたはオリゴマーから調製されるが、これらモノマーまたはオリゴマーが、任意の適用の際、所望のポリマー網状構造物を形成する替わりに、そこに存在する細胞、組織、生体分子、および他の種と反応し得るからである。
【0006】
ポリマー鎖間または同一ポリマー鎖の部分間の結合(例えば、共有、非共有、またはそれらの組み合わせ)を形成する架橋を必要とするポリマー組成物を用いる場合にも同様な問題が存在する。架橋は、1本以上のポリマー鎖上の官能基と化学的に反応することのできる官能基を有する架橋剤の導入によって達成されることが多い。架橋は、ポリマー系に剛性を付与するためになされることが多い。ヒドロゲルでは、ポリマー鎖間に架橋を形成することによって、ポリマー網状構造が作出される。多くのポリマー組成物に関し、架橋には極端な条件および反応性のある架橋剤が必要である。さらに、上記で説明したように、このような条件は一般に、一定の環境(例えば、生物系)に適合可能ではない。したがって、所与の適用において、架橋は、ポリマー組成物を用いる前に行われることが多い。
【特許文献1】米国特許第5,902,599号明細書
【特許文献2】米国特許第5,837,752号明細書
【特許文献3】米国特許第6,183,781号明細書
【特許文献4】米国特許第6,110,503号明細書
【特許文献5】米国特許第5,989,463号明細書
【特許文献6】米国特許第5,916,598号明細書
【特許文献7】米国特許第5,817,343号明細書
【特許文献8】米国特許第5,650,173号明細書
【特許文献9】米国特許第6,103,255号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリマー組成物に関する種々多様な医療用途では、種々の用途(例えば、医療用途)で使用するために各種物理的性質を有する種々のタイプの組成物の開発を必要とすることがわかっている。さらに、緩和な条件下、生物学的環境においてインサイチュで調製または架橋し得るポリマー組成物を有することが望ましいであろう。本明細書に開示された課題は、これらおよび他の必要性を満たすものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(概要)
本明細書で具体化され、広く記載されたとおり、開示された材料、化合物、組成物、製品、デバイス、および方法の目的に従って、開示された課題は、一態様において、化合物および組成物、ならびにこのような化合物および組成物を調製および使用するための方法に関する。更なる一態様において、環付加反応から形成された部分によりポリマー残基が架橋剤残基に結合している、該ポリマー残基および該架橋剤残基を含むポリマー組成物が本明細書に開示されている。なおさらなる一態様において、このようなポリマー組成物を作製し使用する方法が本明細書に開示されている。
【0009】
さらなる利点は、一部は、以下の説明に記載され、一部はその説明から明らかであるか、または下記の態様の実践により分かると思われる。下記の利点は、添付の請求項で具体的に指摘された要素および組み合わせによって実現化され、達成されるであろう。先の一般的説明および以下の詳細な説明は例示であって説明のみが目的であり、限定するものではないことを理解する必要がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(詳細な説明)
本明細書に記載された材料、化合物、組成物、製品、デバイス、および方法は、本明細書に含まれた、開示された課題および実施例の具体的な態様の以下の詳細な説明ならびに図を参照することによって、より容易に理解できる。
【0011】
当該材料、化合物、組成物、製品、デバイス、および方法を開示し記載する前に、下記の態様は、特定の合成法または特定の試薬に限定されず、したがって、勿論変化し得ることを理解する必要がある。材料、化合物、組成物、製品、デバイス、および方法本明細書に用いられる専門用語が、特定の態様の説明のみを目的としており、限定の意図がないことも理解する必要がある。
【0012】
本明細書と通じて、種々の刊行物も引用されている。これらの刊行物の開示全体が、開示されたものが属する当業界の状態をより十分に説明するために、本出願に参照として組み込まれている。開示された参考文献も、該参考文献が依拠する文章に説明されているものに含まれた材料に関して、本明細書に、個々に、および具体的に、参照として組み込まれている。
【0013】
(定義)
本明細書において、および後に続く請求項において、以下の意味を有すると定義される多数の用語について記述がなされるであろう:
本明細書の説明および請求項を通して、語の「を含む」および「を含み」および「を含んでなっている」などの他の語形は、含んでいるが限定はしないことを意味しており、例えば、他の付加文字、成分、整数、またはステップを排除する意図はない。
【0014】
本説明および添付の請求項に用いられる単数形の「ある」、および「該」は、文脈上明らかに別を表していない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「ある組成物」という記述は、2種以上のこのような組成物の混合物を含み、「ある試剤」という記述は、2種以上のこのような試剤の混合物を含み、「該ポリマー」という記述は、2種以上のこのようなポリマーの混合物を含むなどというものである。
【0015】
本明細書において、範囲は、「約」特定値から、および/または「約」他の特定値までとして表すことができる。このような範囲が表されている場合、他の態様は、ある特定値から、および/または他の特定値までを含む。同様に、値が先行の「約」の使用により近似値として表されている場合、その特定値は他の態様を形成することを理解されるであろう。さらに、範囲各々の終点は、他の終点に関連して、および他の終点に独立しての双方の意味があることを理解されるであろう。本明細書には多数の値が開示されており、各値は、本明細書において、その特定値自体に加えて、「約」該特定値としても開示されている。例えば、値「10」が開示されている場合、「約10」も開示されている。値が、該値「以下」、「該値以上」と開示されている場合、当業者により適切に理解されているとおり、値の間の可能な範囲も開示されている。例えば、値「10」が開示されている場合、「10以下」ならびに「10以上」も開示されている。本出願を通じて、データは多数の異なる様式で提供されること、およびこのデータは、終点および始点、ならびにデータポイントの任意の組み合わせに関する範囲を表すことも当然である。例えば、特定のデータポイント「10」および特定のデータポイント「15」が開示されている場合、10と15との間の値と同様に、10ならびに15超、以上、未満、以下、および10ならびに15に等しい値が開示されていると当然考えられる。2つの特定の単位の間の各単位も、当然開示されている。例えば、10および15が開示されていれば、11、12、13、および14も開示されている。
【0016】
本明細書および終結の請求項における組成物および製品内の特定の要素または成分の重量部の記述は、該組成物または製品における要素または成分間、ならびに重量部が表されている組成物または製品における任意の他の要素または成分間の重量関係を示す。したがって、2重量部の成分Xおよび5重量部の成分Yを含有する化合物において、XとYは、2:5の重量比で存在し、該化合物内に追加成分が含有されているか否かに関わらず、そのような比率で存在する。
【0017】
特に反対に記述されていない限り、成分の重量パーセントは、該成分が含まれている製剤または組成物の全重量に基づいている。
【0018】
本明細書に用いられる用語「置換された」は、有機化合物の全ての許容できる置換基を含むと考えられている。広い態様において、許容できる置換基は、有機化合物の非環式および環式、分枝状および非分枝状、炭素環式およびヘテロ環式、芳香族および非芳香族の置換基を含む。例えば、例示的な置換基としては、下記のものが挙げられる。許容できる置換基は、適切な有機化合物に関して、1種以上であり得、同一または異なるものであり得る。本開示の目的に関し、窒素などのヘテロ原子は、水素置換基および/またはヘテロ原子の原子価を満たす、本明細書に記載され有機化合物の任意の許容できる置換基を有することができる。本開示は、有機化合物の許容できる置換基によっていかなる意味でも限定されることは意図されていない。用語「置換」または「により置換された」は、このような置換が、置換された原子および該置換基の許容された原子価に従っていること、および該置換が、安定な化合物、例えば、再配置、環化、除去などによる変換を自然に受けることがない化合物を生じさせるという暗黙の条件を含む。
【0019】
本明細書および終結の請求項に用いられるある化学種の「残基」とは、特定の反応スキームにおける化学種から生じた生成物または引き続く製剤または化学的生成物である部分を称し、該部分は該化学種から実際に得られるかどうかは関係ない。
【0020】
「A」、「A」、「A」、および「A」は、本明細書において、種々の具体的な置換基を表す総称記号として用いられている。これらの記号は、任意の置換基であり得、本明細書に開示されたものに限定されず、1つの例でそれらが一定の置換基として定義されている場合、それらが他の例では、いくつかの他の置換基として定義され得る。
【0021】
本明細書に用いられる用語「アルキル」は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、s−ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、エイコシル、テトラコシルなどの、1個から24個の炭素原子の分枝状または非分枝状の飽和炭化水素基である。アルキル基は、置換または非置換であり得る。アルキル基は、限定はしないが、本明細書に記載されている置換または非置換のアルキル、シクロアルキル、アルコキシ、アルケニル、シクロアルケニル、アルキニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルデヒド、アミノ、カルボン酸、エステル、エーテル、ハロゲン化物、ヒドロキシ、ケトン、アジド、ニトロ、シリル、スルホ−オキソ、またはチオールなどの1つ以上の基によって置換できる。低級「アルキル」基は、1個から6個の炭素原子を含有するアルキル基である。
【0022】
本明細書に用いられる用語「シクロアルキル」は、少なくとも3個の炭素原子からなる非芳香族炭素ベースの環である。シクロアルキル基の例としては、限定はしないが、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、ノルボルニルなどが挙げられる。用語「ヘテロシクロアルキル」は、上記で定義されたシクロアルキル基の1つのタイプであって、用語「シクロアルキル」の意味内に含まれ、環の炭素原子の少なくとも1個が、限定はしないが、窒素、酸素、イオウ、またはリンなどのヘテロ原子によって置換されている。シクロアルキル基およびヘテロシクロアルキル基は、置換または非置換であり得る。シクロアルキル基およびヘテロシクロアルキル基は、限定はしないが、本明細書に記載されている置換または非置換のアルキル、シクロアルキル、アルコキシ、アルケニル、シクロアルケニル、アルキニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルデヒド、アミノ、カルボン酸、エステル、エーテル、ハロゲン化物、ヒドロキシ、ケトン、アジド、ニトロ、シリル、スルホ−オキソ、またはチオールなどの1つ以上の基によって置換できる。
【0023】
本明細書に用いられる用語「ポリアルキレン基」は、互いに結合した2つ以上のCH基を有する基である。ポリアルキレン基は、式−(CH−で表すことができ、式中、「a」は2から500の整数である。
【0024】
本明細書に用いられる用語「アルコキシ」は、エーテル結合を介して結合したアルキル基またはシクロアルキル基である。すなわち、「アルコキシ」基は、Aが上記で定義されたアルキルまたはシクロアルキルである−OAとして定義できる。「アルコキシ」は、今記述したアルコキシ基のポリマーも含む。すなわち、アルコキシは、「a」が1から200の整数であり、A、A、およびAが、アルキル基および/またはシクロアルキル基である、−OA−OAまたは−OA−(OA−OAなどのポリエーテルであり得る。
【0025】
本明細書に用いられる用語「アルケニル」は、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含有する構造式を有する、2個から24個の炭素原子の炭化水素基である。(A)C=C(A)などの非対称構造は、E異性体およびZ異性体の双方を含むことが意図されている。これは、本明細書において、非対称アルケンが存在するか、またはそれが結合記号C=Cによって明らかに示され得る構造式において推定され得る。アルケニル基は、限定はしないが、本明細書に記載されている置換または非置換のアルキル、シクロアルキル、アルコキシ、アルケニル、シクロアルケニル、アルキニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルデヒド、アミノ、カルボン酸、エステル、エーテル、ハロゲン化物、ヒドロキシ、ケトン、アジド、ニトロ、シリル、スルホ−オキソ、またはチオールなどの1つ以上の基によって置換できる。
【0026】
本明細書に用いられる用語「シクロアルケニル」は、少なくとも3つの炭素原子からなり、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合、すなわちC=Cを含有する非芳香族炭素ベースの環である。シクロアルケニル基の例としては、限定はしないが、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロペンタジエニル、シクロヘキセニル、シクロヘキサジエニル、ノルボルネニルなどが挙げられる。用語「ヘテロシクロアルケニル」は、上記で定義されたシクロアルケニル基の1つのタイプであり、用語「シクロアルケニル」の意味内に含まれ、該環の少なくとも1個の炭素原子が、限定はしないが、窒素、酸素、イオウ、またはリンなどのヘテロ原子によって置換されている。シクロアルケニル基およびヘテロシクロアルケニル基は置換または非置換であり得る。シクロアルケニル基およびヘテロシクロアルケニル基は、限定はしないが、本明細書に記載されている置換または非置換のアルキル、シクロアルキル、アルコキシ、アルケニル、シクロアルケニル、アルキニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルデヒド、アミノ、カルボン酸、エステル、エーテル、ハロゲン化物、ヒドロキシ、ケトン、アジド、ニトロ、シリル、スルホ−オキソ、またはチオールなどの1つ以上の基によって置換できる。
【0027】
本明細書に用いられる用語「アルキニル」は、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を含有する構造式を有する、2個から24個の炭素原子の炭化水素基である。アルキニル基は、限定はしないが、本明細書に記載されている置換または非置換のアルキル、シクロアルキル、アルコキシ、アルケニル、シクロアルケニル、アルキニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルデヒド、アミノ、カルボン酸、エステル、エーテル、ハロゲン化物、ヒドロキシ、ケトン、アジド、ニトロ、シリル、スルホ−オキソ、またはチオールなどの1つ以上の基によって置換できる。
【0028】
本明細書に用いられる用語「シクロアルキニル」は、少なくとも7個の炭素原子からなり、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を含有する非芳香族炭素ベースの環である。シクロアルキニル基の例としては、限定はしないが、シクロヘプチニル、シクロオクチニル、シクロノニニルなどが挙げられる。用語「ヘテロシクロアルキニル」は、上記で定義されたシクロアルケニル基の1つのタイプであり、用語「シクロアルキニル」の意味内に含まれ、該環の少なくとも1個の炭素原子が、限定はしないが、窒素、酸素、イオウ、またはリンなどのヘテロ原子によって置換されている。シクロアルキニル基およびヘテロシクロアルキニル基は置換または非置換であり得る。シクロアルキニル基およびヘテロシクロアルキニル基は、限定はしないが、本明細書に記載されている置換または非置換のアルキル、シクロアルキル、アルコキシ、アルケニル、シクロアルケニル、アルキニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルデヒド、アミノ、カルボン酸、エステル、エーテル、ハロゲン化物、ヒドロキシ、ケトン、アジド、ニトロ、シリル、スルホ−オキソ、またはチオールなどの1つ以上の基によって置換できる。
【0029】
本明細書に用いられる用語「アリール」は、限定はしないが、ベンゼン、ナフタレン、フェニル、ビフェニル、フェノキシベンゼンなどの任意の炭素ベースの芳香族基を含有する基である。用語「アリール」は、該芳香族基の環内に組み込まれた少なくとも1個のヘテロ原子を有する芳香族基を含有する基として定義される「ヘテロアリール」も含む。ヘテロ原子の例としては、限定はしないが、窒素、酸素、イオウ、およびリンが挙げられる。同様に、用語「アリール」に含まれてもいる用語「非ヘテロアリール」は、ヘテロ原子を含有しない芳香族基を含有する基として定義される。アリール基は置換または非置換であり得る。アリール基は、限定はしないが、本明細書に記載されている置換または非置換のアルキル、シクロアルキル、アルコキシ、アルケニル、シクロアルケニル、アルキニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルデヒド、アミノ、カルボン酸、エステル、エーテル、ハロゲン化物、ヒドロキシ、ケトン、アジド、ニトロ、シリル、スルホ−オキソ、またはチオールなどの1つ以上の基によって置換できる。用語「ビアリール」は、アリール基の特定のタイプであり、「アリール」の定義に含まれる。ビアリールとは、ナフタレンにおけるように、縮合環を介して共に結合しているか、またはビフェニルにおけるように、1つ以上の炭素−炭素結合を介して結合している2つのアリール基を称する。
【0030】
本明細書に用いられる用語「アルデヒド」は、式−C(O)Hによって表される。本明細書を通して、「C(O)」は、カルボニル基、すなわち、C=Oの省略記号である。
【0031】
本明細書に用いられる用語「アミン」または「アミノ」は、式NAによって表され、式中、A、A、Aは、独立して、水素または上記の置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、シクロアルキニル基、アリール基、またはヘテロアリール基であり得る。
【0032】
本明細書に用いられる用語「カルボン酸」は、式−C(O)OHによって表される。
【0033】
本明細書に用いられる用語「エステル」は、式−OC(O)Aまたは−C(O)OAによって表され、式中、Aは、上記の置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、シクロアルキニル基、アリール基、またはヘテロアリール基であり得る。本明細書に用いられる用語「ポリエステル」は、式−(AO(O)C−A−C(O)O)−または−(AO(O)C−A−OC(O))−によって表され、式中、AおよびAは、独立して、本明細書に記載された置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、シクロアルキニル基、アリール基、またはヘテロアリール基であり得、「a」は、1から500の整数である。「ポリエステル」は、少なくとも2つのカルボン酸基を有する化合物と少なくとも2つのヒドロキシル基を有する化合物との間の反応によって生成する基を述べるために用いられる用語である。
【0034】
本明細書に用いられる用語「エーテル」は、式AOAによって表され、式中、AおよびAは、独立して、本明細書に記載された置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、シクロアルキニル基、アリール基、またはヘテロアリール基であり得る。本明細書に用いられる用語「ポリエーテル」は、式−(AO−AO)−によって表され、式中、AおよびAは、独立して、本明細書に記載された置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、シクロアルキニル基、アリール基、またはヘテロアリール基であり得、「a」は、1から500の整数である。ポリエーテル基の例としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、およびポリブチレンオキシドが挙げられる。
【0035】
本明細書に用いられる用語「ハロゲン化物」とは、ハロゲンのフッ素、塩素、臭素、およびヨウ素を称する。
【0036】
本明細書に用いられる用語「ヒドロキシル」は、式−OHによって表される。
【0037】
本明細書に用いられる用語「ケトン」は、式AC(O)Aによって表され、式中、AおよびAは、独立して、上記の置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、シクロアルキニル基、アリール基、またはヘテロアリール基であり得る。
【0038】
本明細書に用いられる用語「アジド」は、式−Nによって表される。
【0039】
本明細書に用いられる用語「ニトロ」は、式−NOによって表される。
【0040】
本明細書に用いられる用語「ニトリル」は、式−CNによって表される。
【0041】
本明細書に用いられる用語「シリル」は、式−SiAによって表され、式中、A、A、Aは、独立して、水素、上記の置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、シクロアルキニル基、アリール基、またはヘテロアリール基であり得る。
【0042】
本明細書に用いられる用語「スルホ−オキソ」は、式−S(O)A、−S(O)、−OS(O)、または−OS(O)OAによって表され、式中、Aは、水素または上記の置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、シクロアルキニル基、アリール基、またはヘテロアリール基であり得る。本明細書を通して、「S(O)」は、S=Oの省略記号である。用語「スルホニル」は、本明細書において、式−S(O)によって表されるスルホ−オキソ基を称するものとして用いられ、式中、Aは、水素または上記の置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、シクロアルキニル基、アリール基、またはヘテロアリール基であり得る。本明細書に用いられる用語「スルホン」は、式−AS(O)によって表され、式中、AおよびAは、独立して、上記の置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、シクロアルキニル基、アリール基、またはヘテロアリール基であり得る。本明細書に用いられる用語「スルホキシド」は、式−AS(O)Aによって表され、式中、AおよびAは、独立して、上記の置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、シクロアルキニル基、アリール基、またはヘテロアリール基であり得る。
【0043】
本明細書に用いられる用語「チオール」は、式−SHによって表される。
【0044】
本明細書に用いられる「R」、「R’」、「L」、「L’」、「X」、「Y」、および「Z」は、独立して、上記に挙げられた基の1つ以上を有し得る。例えば、R’がポリエーテル基である場合、該ポリエーテル基の水素原子の1つは、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アルキル基、ハロゲン化物などによって任意に置換されてあり得る。選択される基に依って、第1の基は第2の基の内部に組み込まれてあり得るか、あるいは、第1の基は第2の基にペンダント(すなわち、結合した)であり得る。例えば、語句「アルケン基を含むポリエーテル基」では、アルケン基は、ポリエーテル基の主鎖内部に組み込まれてあり得る。あるいは、アルケン基は、ポリエーテル基の主鎖に結合されてあり得る。選択される基(1つまたは複数)の性質により、第1の基が第2の基に埋め込まれているか、または結合しているかが決定される。
【0045】
反対に記述されていない限り、ウェッジまたは点線ではなく実線のみで示された化学結合を有する式では、各々の可能な異性体、例えば、各鏡像異性体およびジアステレオ異性体、ならびにラセミ混合物またはスケールミック(scalemic)混合物などの異性体混合物が考慮されている。
【0046】
次に、例が添付の実施例および図に例示されている、開示された材料、化合物、組成物、製品、および方法の具体的態様について記述する。
【0047】
(組成物)
開示された方法および組成物のために使用できるか、それらと関連させて使用できるか、それらの調製に使用できるか、またはそれらの産物が、本明細書に開示されている。これらおよび他の材料が本明細書に開示されており、当然のことながら、これらの材料の組み合わせ、サブセット、相互作用、群などが開示されている場合、これらの化合物の種々の各個の具体的記述ならびに集合的な組み合わせおよび置換が明白に開示されていないとしても、各々が具体的に考慮され、本明細書に記載されている。例えば、ある組成物が開示され、該組成物の多数の成分になされ得る多数の修飾が考察されている場合、特に反対に指示されていない限り、可能な各々の、および全ての組み合わせおよび置換が具体的に考慮されている。したがって、成分または部分、A、B、およびCのクラスが開示されており、ならびに成分または部分、D、E、およびFのクラス、および組成物A〜Dの一例が開示されている場合、各々が個々に記述されていなくても、各々が個々に、および集合的に考慮されている。したがって、この実施例において、A、B、およびC;D、E、およびFの開示;ならびに実施例の組み合わせ、A−Dの開示から、組み合わせ、A−E、A−F、B−D、B−E、B−F、C−D、C−E、およびC−Fの各々が具体的に考慮されており、開示されていると考えるべきである。同様に、これらの任意のサブセットまたは組み合わせも具体的に考慮されており、開示されている。したがって、例えば、A、B、およびC;D、E、およびFの開示;ならびに実施例の組み合わせ、A−Dの開示から、A−E、B−F、およびC−Eのサブ群が具体的に考慮されており、開示されていると考えるべきである。この考え方は、限定はしないが、開示された組成物を作製および使用する方法におけるステップなど、本開示の全ての態様に適用される。したがって、実施できる種々の追加ステップがある場合、当然のことながら、これらの追加ステップの各々が、開示された方法の任意の具体的態様または態様の組み合わせによって実施でき、このような組み合わせの各々が具体的に考慮されており、開示されていると考えるべきである。
【0048】
一態様において、親水性ポリマー残基および架橋剤残基を含むポリマー組成物が本明細書に開示されており、該親水性ポリマー残基は、環付加反応から形成された部分によって該架橋剤残基に結合している。本明細書に開示された多くの例において、該親水性ポリマー残基は、3+2または2+2環付加反応から形成された部分によって該架橋剤残基に結合している。開示されたポリマー組成物は、本明細書に記載されているとおり、緩和な水性条件下で、インサイチュで調製することもできる。
【0049】
いくつかの例において、開示されたポリマー組成物は、式I:
L−(Z−R) (I)
を有する1つ以上の部分を含み得、式中、Lは架橋剤の残基であり、Rは親水性ポリマーの残基であり、Zは環付加反応から形成された部分であり、nは少なくとも2である。他の実施例において、nは、3、4、5、6、7、8、9、10、または10超であり、記述された値はいずれも、適切な場合は、上限点および/または下限点を形成し得る。
【0050】
式Iは、開示されたポリマー組成物に存在する架橋性構造を表している。この架橋性構造において、Zは、架橋剤残基、Lと親水性ポリマー残基、Rとの間の結合である。式Iによって示された架橋性構造は、本明細書に開示された方法によって形成することができる。
【0051】
一般に、開示されたポリマー組成物の親水性ポリマー残基、Rは、R’で示される親水性ポリマーに由来する。親水性ポリマー、R’は、本明細書に開示されているとおり、Xで示される1つ以上の環付加反応性部分を含む。同様に、架橋剤残基、Lは、L’で示される架橋剤に由来し、L’は、本明細書に開示されているとおり、Yで示される2つ以上の環付加反応性部分を含む。1つ以上の環付加反応性部分を有する親水性ポリマー(R’−Xとして示される)と、2つ以上の環付加反応性部分を有する架橋剤(L’−Yとして示される)が共に反応すると、環付加反応性部分、XおよびYが環付加反応を受けて、上記式Iにおける部分Zが生じる。したがって、Zは、親水性ポリマーの残りの残基、すなわちRを、架橋剤の残りの残基、すなわちLに結合させる。この一般的反応スキーム(スキーム1)は、以下のとおり示すことができる:
スキーム1
R’−X + L’−(Y) → L−(Z−R)
親水性ポリマーR’は、スキーム1において1つの置換基を有して示されているが、当然のことながら、X上よりも、R’上に存在することが多い。さらに、スキーム1は単に実験的なものであり、架橋剤と親水性ポリマーとの間の1対1の化学量論的な関係を意味しているのではない。1つ超の親水性ポリマーが1つ超の架橋剤と反応することができる。1つ超の架橋剤が同一の親水性ポリマー分子と反応することもできる。あるいは、1つ超の親水性ポリマー分子が同一の架橋剤分子と反応することができる。
【0052】
開示されたポリマー組成物において、Lが二価の架橋剤の残基である(すなわち、架橋剤L’が、親水性ポリマー、R’上に、環付加反応性部分、Xと結合を形成した、2つの環付加反応性部分、Yを含有する)場合、nは2になる。同様に、Lが三価の架橋剤の残基である場合、nは3となる等々。一定の実施例において、架橋剤残基、Lが、二価、三価、四価、五価、六価、七価、八価、九価、または十価の架橋剤の残基であるポリマー組成物が本明細書に開示されている。式Iを参照すると、nが2、3、4、5、6、7、8、9、または10であるポリマー組成物が本明細書に開示される。
【0053】
開示されたポリマー組成物のいくつかの実施例において、式Iを有する1つの部分があり得る。この状況において、該ポリマー組成物は、架橋剤残基、Lが環付加反応によって形成された部分、Zによって親水性ポリマー残基、Rに結合する、1つの架橋性構造を有すると言うことができる。しかし、開示されたポリマー組成物において、典型的には、複数の架橋性構造が存在する。このような組成物は、環付加反応によって複数の架橋剤残基、Lに結合した複数の親水性ポリマー残基、Rの網状構造であり得る。このようなポリマー組成物は、ヒドロゲルを含み得る。開示されたポリマー組成物には、他のタイプの架橋性構造が存在し得ることも考慮されている。
【0054】
本明細書に記載されたポリマー組成物は、意図された最終使用法に依って、多数の形状および形態を考えることができる。一例において、該組成物は、ラミネート、ゲル、ビーズ、スポンジ、フィルム、メッシュ、またはマトリックスである。参照として本明細書に全体が組み込まれている、米国特許第6,534,591号および米国特許第6,548,081号に開示された操作を、種々の形態を有するポリマー組成物を調製するために使用することができる。
【0055】
本明細書に開示されたポリマー組成物は、生分解性でもあり得る。例えば、開示されたポリマー組成物は、経時的に該ポリマー組成物を分解できる天然酵素などのペプチドによって生分解性であり得る。
【0056】
他の実施例において、本明細書に開示されたポリマー組成物は、環付加ベースの共役の生成物ではない。複数の成分が架橋することなく、1つの成分が他の成分に結合する場合に共役が生じる。このような共役は、以下の構造:A−Z−Aによって示すことができ、式中、AとAとは異なっており、Zは、例えば、環付加反応から形成された部分である。いくつかの実施例において、該ポリマー組成物は、光活性化2+2環付加により架橋したポリアクリルアミドまたはポリアクリルアミドヒドロゲルではない。
【0057】
(親水性ポリマーおよびその残基)
親水性ポリマー、R’、および同様に、それに由来する残基、Rは、任意のポリマー化合物であり得、該化合物の全てまたは一部が親水性である。「親水性」は、該ポリマーまたはその残基が、約1mg/L水超の溶解性であることを意味する。例えば、親水性ポリマーまたはその残基は、約5mg/L、10mg/L、50mg/L、100mg/L、500mg/L、または1g/L超の溶解性であり得る。例えば、親水性ポリマーまたはその残基は、1つ以上のポリマーブロックが、親水性セグメントを含むホモポリマーまたはコポリマー(例えば、ブロック、グラフト、またはグラフトくし型コポリマー)を含み得る。好適な親水性ポリマーおよびその残基は、市販の供給源から得ることができるか、または、当業界に公知の方法によって調製できる。多くの好適な親水性ポリマーおよびその残基は、ヒドロゲルを形成することができる。
【0058】
親水性ポリマーまたはその残基の分子量は、親水性ポリマーおよび/または架橋剤および具体的適用(該ヒドロゲルが支持体をコーティングするために用いられるかどうか)に依って変動し得る。一実施例において、該親水性ポリマーは、約2,000Daから約2,000,000Daの分子量を有し得る。他の態様において、該親水性ポリマーの分子量は、約5,000;10,000;20,000;30,000;40,000;50,000;75,000;100,000;200,000;250,000;300,000;350,000;400,000;450,000;500,000;550,000;600,000;650,000;700,000;750,000;800,000;850,000;900,000;950,000;1,000,000;1,500,000;または2,000,000Daであり、記述した任意の値は、適宜、分子量範囲の下限点および/または上限点を形成し得る。
【0059】
好適な親水性ポリマーおよびその残基としては、ジオールまたはグリコール含有結合に基づく任意の数のポリマー、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)としても知られているポリエチレングリコール(PEG)、およびポリプロピレンオキシド(PPO)を含むポリマーを挙げることができる。他の好適な例としては、ポリエステルのブロックに代わったPEGの複数のセグメントまたはブロックを含むポリマーが挙げられ、例えば、POLYACTIVE(商標)は、ポリ(ブチレンテレフタレート)のブロックに代わったPEGの大型ブロックを有する。
【0060】
一実施例において、親水性ポリマーまたはその残基は、マルチ分枝ポリマー(例えば、マルチアームPEG)を含む。マルチ分枝ポリマーは、中心コアから放射状に広がる種々のポリマー鎖(「アーム」または「分枝」と称される)を有するポリマーである。例えば、親水性ポリマーまたはその残基は、2、3、4、5、6、7、8、9、または10アームのPEGを含み得る。このようなマルチアームポリマーは、市販されているか、当業界に公知の方法によって合成できる。
【0061】
多くの好適なマルチアームポリマーは、デンドリマーと称される。用語「デンドリマー」は、各世代が複数の分枝点を生み出す複数の世代を有する分枝ポリマーを意味する。「デンドリマー」としては、分枝性構造に欠損を有するデンドリマー、不完全な分枝度を有するデンドリマー、架橋および非架橋デンドリマー、非対称分枝デンドリマー、スターポリマー、高分枝ポリマー、高分枝コポリマーおよび/または高分枝および非高分枝ポリマーのブロックコポリマーを挙げることができる。
【0062】
開示された組成物および方法には、任意のデンドリマーが使用できる。使用できるデンドリマーの好適な例としては、限定はしないが、ポリ(プロピレンイミン)(DAB)デンドリマー、ベンジルエーテルデンドリマー、フェニルアセチレンデンドリマー、カルボシランデンドリマー、コンバージェントデンドリマー、ポリアミン、およびポリアミドデンドリマーが挙げられる。他の有用なデンドリマーとしては、例えば、米国特許第4,507,466号、米国特許第4,558,120号,米国特許第4,568,737号、および米国特許第4,587,329号に記載されたもの、ならびに、少なくともデンドリマーの教示に関して、参照として本明細書に組み込まれている、Dendric Molecules,Concepts,Syntheses,Perspectives.Newkomeら、VCH Publishers社、ニューヨーク、ニューヨーク州(1996)に記載されたものが挙げられる。
【0063】
一例において、親水性ポリマーまたはその残基は、ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)−ポリ(エチレンオキシド)のトリブロックポリマーを含む。これらのポリマーは、PLUORONICS(商標)と称される。PLUORONICS(商標)は、BASF(フロアハムパーク、ニュージャージー州)から市販されており、食品における乳化剤および界面活性剤、ならびに医療装置における疎水性表面に対するタンパク質吸着のゲルおよびブロッカーとして、多数の適用で用いられている。これらの材料は、ヒトにおいて、急性および皮膚毒性が低く、眼に対する刺激または内部組織の炎症を生じさせない。疎水性PPOブロックは、疎水性(例えば、ポリスチレン)表面に吸着するが、PEOブロックは、タンパク質反発性である親水性コーティングを提供する。PLUORONICS(商標)は、低毒性を有し、医療適用において、および食品添加物として、直接的使用に関してFDAにより承認されている。PLUORONICS(商標)による表面処理は、血小板接着、タンパク質吸着、および細菌接着を減少させることもできる。
【0064】
他の例において、親水性ポリマーまたはその残基は、ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)−ポリ(エチレンオキシド)のトリブロックポリマーを含み、該ポリマーは、1,000Daから100,000Daの分子量を有する。さらに他の例において、親水性ポリマーまたはその残基は、ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)−ポリ(エチレンオキシド)のトリブロックポリマーであり、該ポリマーは、1,000Da、2,000Da、3,000Da、5,000Da、10,000Da、15,000Da、20,000Da、30,000の下限点、および5,000Da、10,000Da、15,000Da、20,000Da、25,000Da、30,000Da、40,000Da、50,000Da、60,000Da、70,000Da、80,000Da、90,000Da、または100,000Daの上限点を有する分子量を有し、任意の下限点が任意の上限点にマッチし、下限点は上限点未満である。さらなる一例において、親水性ポリマーまたはその残基は、ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)−ポリ(エチレンオキシド)のトリブロックポリマーを含み、該ポリマーは、5,000Daから15,000Daの分子量を有する。なおさらなる例において、ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)−ポリ(エチレンオキシド)のトリブロックポリマーは、PEO103−PPO39−PEO103、PEO132−PPO50−PEO132、またはPEO100−PPO65−PEO100である。さらに他の例において、該ポリマーは、PEO103−PPO39−PEO103、PEO132−PPO50−PEO132、またはPEO100−PPO65−PEO100である。なお他の例において、該ポリマーは、PEO103−PPO39−PEO103、PEO132−PPO50−PEO132、またはPEO100−PPO65−PEO100である。
【0065】
さらなる親水性ポリマーまたはその残基は、ポリ(メト)アクリレート、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリ(アルキルシアノアクリレート)などのアクリル酸誘導体に基づいたものであり得る。さらに他の実施例では、限定はしないが、ポリグルクロン酸、ポリアスパラギン酸、ポリ酒石酸、ポリグルタミン酸、ポリフマル酸、ポリラクチド、およびポリグリコリドなどの有機酸に基づいたポリマーを、それらのコポリマーを含めて含む。例えば、ポリマーは、該ポリマーの主鎖における単一ブロックとしてのポリエーテル親水性コアセグメントと共に、ラクチドおよび/またはグリコリドモノマー単位から作製することができる。エステルに基づいている好適な親水性ポリマーとしては、限定はしないが、ポリ(オルトエステル)、ポリ(ブロック−エーテルエステル)、ポリ(エステルアミド)、ポリ(エステルウレタン)、ポリホスホネートエステル、ポリホスホエステル、ポリ無水物、およびポリホスファゼンが、それらのコポリマーを含めて挙げられる。
【0066】
親水性ポリマーまたはその残基のさらなる例としては、限定はしないが、ポリヒドロキシアルカノエート類、ポリ(プロピレンフマレート)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルポリピロリドン、ポリビニルN−メチルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、酸−加水分解的分解ゼラチン、アガロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシポリメチレン、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、およびポリ(2−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)が挙げられる。
【0067】
特に好適な親水性ポリマーまたはその残基は、ヒドロゲルを形成するものである。本明細書において有用なヒドロゲルの例としては、限定はしないが、アミノデキストラン、デキストラン、DEAE−デキストラン、コンドロイチン硫酸、デルマタン、ヘパラン、ヘパリン、キトサン、ポリエチレンイミン、ポリリジン、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、アルギン酸、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、アガロース、カラゲナン、澱粉、ポリビニルアルコール、セルロース、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、またはそれらの塩もしくはエステル、またはそれらの混合物が挙げられる。一例において、ヒドロゲルは、5,000Daから100,000Daまで、5,000Daから90,000Daまで;10,000Daから90,000Daまで;20,000Daから90,000Daまで;30,000Daから90,000Daまで;40,000Daから90,000Daまで;50,000Daから90,000Daまで;または60,000Daから90,000Daまでの分子量を有するカルボキシメチルデキストランを含み得る。ヒドロゲルのさらに他の例としては、限定はしないが、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0068】
さらなる例において、親水性ポリマーまたはその残基は、ポリサッカリドが挙げられる。当業界に公知の任意のサッカリドが本明細書において使用できる。ポリサッカリドの例としては、澱粉、セルロース、グリコーゲン、または、アルギン酸、ペクチン、カルボキシメチルアミロース、またはカルボキシメチルセルロースなどのカルボキシル化ポリサッカリドが挙げられる。さらに、参照としてその全体が本明細書に組み込まれている米国特許第6,521,223号に開示されたポリアニオン性ポリサッカリドのいずれかを、親水性ポリマーまたはその残基として使用できる。一態様において、ポリサッカリドは、グリコサミノグリカン(GAG)である。GAGは、多くの代替サブユニットを有する分子の1つである。例えば、ヒアルロナンは、(GlcNAc−GlcUA−)である。他のGAGは、異なる糖で硫酸化されている。一般に、GAG類は、式A−B−A−B−A−Bで表され、式中、Aはウロン酸であり、Bは、OまたはNが硫酸化されているアミノ糖であり、A単位およびB単位は、エピマー含量または硫酸化の点で異種であり得る。
【0069】
一般に理解された構造を有する多くの異なるタイプのGAG類があり、それらは、例えば、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、デルマタン、デルマタン硫酸、ヘパリン、またはヘパリン硫酸などの開示された組成物の範囲内にある。本明細書に記載された方法のいずれかにおいて、当業界に公知の任意のGAG使用できる。グルコサミノグルカンは、Sigma、および他の多くの生化学供給元から購入できる。本明細書に記載された方法に有用なポリサッカリドを含有する他のカルボン酸の中でも、アルギン酸、ペクチン、およびカルボキシメチルセルロースがある。
【0070】
一例において、ポリサッカリドはヒアルロナン(HA)である。HAは非硫酸化GAGである。ヒアルロナンは、2つの交互に結合した糖、D−グルクロン酸およびN−アセチルグルコサミンからなる、よく知られた、天然の、水溶性ポリサッカリドである。該ポリマーは、比較的低溶質濃度で、水溶液中、親水性で高粘性である。それはナトリウム塩であるヒアルロン酸ナトリウムとして天然であることが多い。ヒアルロン酸カリウム、ヒアルロン酸マグネシウム、ヒアルロン酸カルシウムなどの他の塩も好適である。市販のヒアルロナンおよびその塩を調製する方法は、よく知られている。ヒアルロナンは、Seikagaku Company、Clear Solutions Biotech Inc、Pharmacia Inc、Sigma Inc、および多くの他の供給元から購入できる。高分子量ヒアルロナンは、約100から約10,000ジサッカリド単位の範囲であることが多い。他の態様において、ヒアルロナンの分子量の下限は、約1,000Da、2,000Da、3,000Da、4,000Da、5,000Da、6,000Da、7,000Da、8,000Da、9,000Da、10,000Da、20,000Da、30,000Da、40,000Da、50,000Da、60,000Da、70,000Da、80,000Da、90,000Da、または100,000Daであり、上限は、200,000Da、300,000Da、400,000Da、500,000Da、600,000Da、700,000Da、800,000Da、900,000Da、1、000,000Da、2、000,000Da、4、000,000Da、6、000,000Da、8、000,000Da、または10、000,000Daであり、任意の下限を任意の上限と組み合わせることができる。
【0071】
親水性ポリマーが、該ポリマー網状構造内に組み込まれた加水分解性または生化学的に開裂可能な基を有し得ることも考慮されている。このようなヒドロゲルの例は、米国特許第5,626,863号、米国特許第5,844,016号、米国特許第6,051,248号、米国特許第6,153,211号、米国特許第6,201,065号、米国特許第6,201,072号に記載されており、これらは全て、参照としてそれらの全体が本明細書に組み込まれている。
【0072】
先に記述したとおり、開示された親水性ポリマー、R’は、本明細書に記載されるような、少なくとも1つの環付加反応性部分、Xを含有し得る。他の例において、親水性ポリマーは1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10の環付加反応性部分を含み得る。さらに他の例では、親水性ポリマーは、10、15、または20以上の環付加反応性部分を含み得る。開示された親水性ポリマーが、1つ超の環付加反応性部分を含む場合、該反応性部分は同一の場合も異なっている場合もあり得る。親水性ポリマー上に存在する環付加反応性部分の数は、親水性ポリマーのタイプ、架橋剤のタイプ、環付加反応性部分のタイプ、優先度などの総合に依って変化し得る。
【0073】
環付加反応性部分は、具体的な親水性ポリマーおよび具体的な環付加反応性部分に依って、種々の方法で生成させることができる。例えば、特定の環付加部分を含有するモノマーを共に重合して、親水性ポリマーまたは親水性ポリマーのセグメントを形成することができる。親水性ポリマー上の官能基を、環付加反応性部分へと化学的に変換させることもできる。例えば、ポリマー上のヒドロキシル基をアジド含有酸によってエステル化できる。その結果、本明細書に開示された環付加反応性基の1つ、アジドにより官能化されたポリマーとなる。
【0074】
(架橋剤およびその残基)
架橋剤、L’は、本明細書に記載された、少なくとも2つの環付加反応性部分を含有する任意の化合物であり得る。例えば、架橋剤は、2、3、4、5、6、7、8、9、または10の環付加反応性部分を含み得る。他の例において、架橋剤またはその残基は、10、15、または20以上の環付加反応性部分を含み得る。環付加反応性部分は、同一の場合も異なっている場合もあり得る。架橋剤上に存在する環付加反応性部分、Yの数は、親水性ポリマーのタイプ、架橋剤のタイプ、環付加反応性部分のタイプ、優先度などの総合に依って変化し得る。
【0075】
架橋剤またはその残基は、親水性である必要はないが、多くの場合、親水性であり得、1つ以上の親水性セグメントを含有し得る。架橋剤が親水性ポリマーまたはそのセグメントを含む場合、本明細書に開示された任意の親水性ポリマーおよびそれらのセグメントが使用できる。
【0076】
いくつかの例では、架橋剤またはそのセグメントは、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、sec−ペンチル、またはヘキシルなどのC〜C分枝鎖または直鎖アルキルを含み得る。特定の一例において、架橋剤またはその残基は、ポリアルキレン(すなわち、−(CH−、式中、nは、1から5、1から4、1から3、または1から2である)を含み得る。他の例において、架橋剤またはその残基は、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、n−ペントキシ、イソペントキシ、ネオペントキシ、sec−ペントキシ、またはヘトキシなどのC〜C分枝鎖または直鎖アルコキシを含み得る。
【0077】
さらに他の例において、架橋剤またはその残基は、1つ以上の炭素原子が酸素によって置換されている(例えば、エーテル)か、またはアミノ基によって置換されている、C〜C分枝鎖または直鎖アルコキシを含み得る。例えば、好適な架橋剤またはその残基としては、限定はしないが、メトキシメチル、メトキシエチル、メトキシプロピル、メトキシブチル、エトキシメチル、エトキシエチル、エトキシプロピル、プロポキシメチル、プロポキシエチル、メチルアミノメチル、メチルアミノエチル、メチルアミノプロピル、メチルアミノブチル、エチルアミノメチル、エチルアミノエチル、エチルアミノプロピル、プロピルアミノメチル、プロピルアミノエチル、メトキシメトキシメチル、エトキシメトキシメチル、メトキシエトキシメチル、またはメトキシメトキシエチルなど、およびそれらの誘導体が挙げられる。 特定の一例において、架橋剤またはその残基は、メトキシメチル(すなわち、−CH−O−CH−)を含み得る。他の特定例において、架橋剤またはその残基は、ポリエーテル(例えば、−(OCHCH−、式中、mは、2から10の整数(すなわち、2、3、4、5、6、7、8、9、または10)を含み得る。
【0078】
架橋剤と親水性ポリマーとの間の反応により、該架橋剤を該親水性ポリマーに結合させる化学結合、すなわち、式IにおけるZが生じる。本明細書に記述されているように、このような反応は、親水性ポリマー上の環付加反応性部分と架橋剤との間の環付加反応(例えば、3+2または2+2環付加)の結果として生じ得る。
【0079】
好適な架橋剤またはその残基は、市販の供給源から得ることができるか、または当業界に知られた方法によって調製できる。例えば、α,β−不飽和酸を、周知のカップリング方法(例えば、DICまたはDCCカップリング)を用いて、ヒドロキシル基またはアミド基を含有する架橋剤に結合させることができる。図2、スキームC〜E、および図4は、いくつかの好適な架橋剤の合成経路を示している。
【0080】
(環付加反応性部分)
親水性ポリマーと架橋剤は双方とも環付加反応性部分を含有する。これらの部分は、スキーム1において、XとYで表されている。環付加反応性部分は、3+2または2+2環付加反応を受けることができる任意の化学的官能基である。Xで表される親水性ポリマー上の環付加反応性部分は、Yで表される架橋剤上の環付加反応性部分と反応して、該親水性ポリマーの残りの残基と該架橋剤(すなわち、式Iにおける、それぞれRとL)との間に、共有結合、Zを形成する。
【0081】
用いられる環付加反応性部分のタイプは、具体的な環付加反応に依存する。例えば、環付加反応が3+2環付加反応である場合、環付加反応性部分は、本明細書に開示された1,3−双極子基および親双極子であり得る。環付加反応が2+2環付加反応である場合、環付加反応性部分は、光活性部位であり得る。
【0082】
(3+2環付加)
3+2環付加は、1,3−双極子基を有する化合物と親双極子との反応を含む。1,3−双極子基(A=A−Aとして示されている)と親双極子(A=Aとして示されている)と間の反応を示す一般的な反応スキームは、スキーム2に示されている。
スキーム2
【0083】
【化1】

3+2環付加で得られる生成物は、典型的に、5員環構造である。
【0084】
本明細書に開示された多くの例で、環付加反応性部分は、1,3−双極子基および親双極子である。いくつかの例で、1,3−双極子基は親水性ポリマー上に存在し得、親双極子は架橋剤上に存在し得る。すなわち、スキーム1に関して、Xは1,3−双極子基であり得、Yは親双極子であり得る。あるいは、1,3−双極子基が架橋剤上に存在し得、親双極子が親水性ポリマー上に存在し得る(例えば、スキーム1において、Yは1,3−双極子基であり得、Xは親双極子であり得る)。さらに他の例において、親水性ポリマーは、1,3−双極子基および親双極子を含み得(例えば、R’上に1つ超のXが存在し、いくつかが1,3−双極子基で、他は親双極子である)、架橋剤も1,3−双極子基および親双極子を含み得る(例えば、いくつかのY基は1,3−双極子基であり、いくつかは親双極子である)。同一の、または異なる1,3−双極子基が親水性ポリマーおよび/または架橋剤上に存在することも可能である。例えば、1つ超のタイプの1,3−双極子基が親水性ポリマーおよび/または架橋剤上に存在し得る。他の例において、1つ超のタイプの親双極子が親水性ポリマーおよび/または架橋剤上に存在し得る。さらに、同一の、または異なる親双極子が親水性ポリマーおよび/または架橋剤上に存在し得る。
【0085】
本明細書に用いられる用語「1,3−双極子基」は、本明細書に記載された親双極子と反応できる任意の基である。1,3−双極子基は、3つの原子上に分布しているものとして共鳴によって反対に荷電した双極子を示すことができる基である。好適な1,3−双極子基の例としては、限定はしないが、表1に示されるものが挙げられる。
【0086】
【表1−1】

【0087】
【表1−2】

本明細書に用いられる用語「親双極子」は、1,3−双極子基と反応できる任意の基である。好適な親双極子の例は、置換または非置換のアルケン基、シクロアルケン基、アルキン基、シクロアルキン基、またはアリール基である。いくつかの例において、親双極子は、電子不足の親双極子であり得る。本明細書に用いられる用語「電子不足の親双極子」は、π電子系が(例えば、炭素−炭素または炭素−ヘテロ原子の二重結合または三重結合)が電子吸引性基に結合しているか、またはひずみ環系の一部である親双極子である。電子吸引性基の例としては、限定はしないが、ニトロ基、シアノ基、エステル基、アルデヒド基、ケト基、スルホ−オキソ基、またはアミド基が挙げられる。親双極子がひずみ環系の一部である、電子不足の親双極子基の例としては、限定はしないが、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、シクロオクチン、ノルボルネンなどが挙げられる。
【0088】
スキーム2に示されるように、3+2環付加の生成物は、5員環である。したがって、親水性ポリマーと架橋剤が反応する場合、残りの親水性基を架橋剤残基に結合している部分は5員環であり得る。式Iに関して、Zは、1,3−双極子基と親双極子との間の環付加反応により生成した5員環であり得る。Zの例は表2に示されている。
【0089】
【表2】

(2+2環付加)
開示された組成物において、親水性ポリマーおよび架橋剤は、2+2環付加反応によって共に結合できる。すなわち、親水性ポリマー上の環付加反応性部分と架橋剤は2+2環付加を受け得る。2+2環付加は、2つの光活性部位間の光誘導反応であり、2つの光活性部位の少なくとも1つは、電子励起される。具体的には、スキーム3に示されるように、第2の二重結合の2π成分への、第1の二重結合の2π成分の付加を含む。あるいは、該反応は、三重結合の2π成分により進行できる。その結果、2つの炭素−炭素結合または炭素−炭素および炭素−ヘテロ原子の単一結合が単一ステップで形成され、4員環構造が生成する。一般に、2+2環付加反応は、高効率ならびに高程度の立体特異性および部位特異性で進行し得る。
スキーム3
【0090】
【化2】

軌道対称性の規則の下、このような2+2環付加は、熱的には禁じられているが、光化学的には許容される。
【0091】
開示された組成物および方法に用いられる好適な2+2環付加反応性部分としては、適切な波長の光に曝露された際に、2+2環付加を受けて環構造を形成することのできる部分が挙げられる。具体的な例としては、限定はしないが、アルケン類(例えば、ビニル基およびアクリレート類)、アルキン類、カルボニル含有基(例えば、ケトン類、アルデヒド類、エステル類、カルボン酸類)、およびイミン類が挙げられる。好適な2+2環付加反応性部分の詳細な考察は、Guillet、Polymer Photophysics and Photochemistry、第12章(ケンブリッジ大学出版:ケンブリッジ、ロンドン)に見ることができる。一般に、高共役系の一部ではない二重結合(例えば、ベンゼンは適していない)が好適である。マレイミドに見られるような立体的に妨害された、電子不足の二重結合も好適である。開示された親水性ポリマーは、同一の、または異なる2+2環付加反応性部分を含み得る。同様に、開示された架橋剤は、同一の、または異なる2+2環付加部分を含み得る。
【0092】
いくつかの例において、2つの炭素−炭素二重結合(例えば、親水性ポリマー上の1つおよび架橋剤上の1つ)の間の2+2環付加により、シクロブタンが形成され、アルケン類とカルボニル基との間の2+2環付加により、オキセタン類が形成される。シクロブタン類を形成させる2つのアルケンの間の環付加は、水銀を用いた光感作により、または、Yamazakiら、J.Am.Chem.Soc.1969年、91、520頁に記載されているとおり、短波長光を用いて直接実施できる。該反応は、電子不足の二重結合によって特に良好に行われる。電子に乏しいオレフィン類は、望ましくない副反応を受けにくいからである。α,β−不飽和ケトンなどの炭素−炭素および炭素−酸素の二重結合間の環付加により、オキセタン類が形成され(Weeden、In Synthetic Organic Photochemistry、第2章、W.H.Hoorspool(編)Plenum、ニューヨーク、1984年)、エノン付加によりアルキン類が形成される(Cargillら、J.Org.Chem.、1971年、36、1423頁)。
【0093】
いくつかの具体的な2+2環付加反応性部分としては、限定はしないが、ジアルキルマレイミド類、3−マレイミドプロピオン酸ヒドロキシスクシンイミドエステル、3−マレイミド安息香酸N−ヒドロキシスクシンイミド、N−スクシンイミジル4−マリミドブチレート、N−スクシンイミジル6−マレイミドカプロエート、N−スクシンイミジル8−マレイミドカプリレート、およびN−スクシンイミジル11−マレイミドウンデカエオエートなどのマレイミド/N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル誘導体、ビニル誘導体およびアシル化誘導体が挙げられる。
【0094】
(具体例)
本明細書に開示されたポリマー組成物のいくつかの具体例において、親水性ポリマーは、1つ以上の環付加反応性部分を含む多分枝ポリマーまたはグラフトポリマーであり得る。多アームPEGなどの多分枝ポリマーとしては、各アームを含むポリマー単位を有するポリマーが挙げられる。ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリレート)およびポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)などのグラフトポリマーとしては、直鎖または多分枝を含むポリマー単位ならびに多分枝を含むモノマー単位を有するポリマーが挙げられる。
【0095】
開示されたポリマー組成物の他の例において、親水性ポリマーは、1つ以上の環付加反応性部分を含む多アームPEGポリマーであり得る。具体的には、親水性ポリマーは、1つ以上の1,3−双極子基および/または親双極子を含む多アームPEGポリマーを含み得る。架橋剤が、1つ以上の1,3−双極子基および/または親双極子を含む多アームPEGポリマーでもあり得る。さらなる具体例において、親水性ポリマーは、1つ以上のアジド基を含み得る。さらに他の例において、架橋剤は1つ以上のアルキン基を含み得る。
【0096】
いくつかの例において、Zは、トリアゾール基またはトリアゾリン基であり得る。他の例において、Zは、シクロブチル基であり得る。
【0097】
本明細書に開示されたポリマー組成物の他の具体例において、親水性ポリマーは、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(2−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)などのグラフトコポリマーまたはホモポリマーであり得、それらの上のグラフトは、1つ以上の環付加反応性部分を含む。具体的に、該親水性ポリマーは、1つ以上の1,3−双極基および/または親双極子を含む、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(2−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)などのグラフトコポリマーまたはホモポリマーを含み得る。架橋剤も、1つ以上の1,3−双極子基および/または親双極子を含む、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(2−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)などのグラフトコポリマーまたはホモポリマーであり得る。さらなる具体例において、親水性ポリマーは、1つ以上のアジド基を含み得る。さらに他の例において、架橋剤は、1つ以上のアルキン基を含み得る。
【0098】
(製薬的に許容できる塩)
本明細書に記載された任意のポリマー組成物およびそれらの成分は、それらが塩またはエステルに変換され得る基を有している場合は、それらの製薬的に許容できる塩またはエステルであり得る。製薬的に許容できる塩は、遊離酸を、適切な量の製薬的に許容できる塩基によって処理することによって調製される。代表的な製薬的に許容できる塩基は、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化第一鉄、水酸化亜鉛、水酸化銅、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、リシン、アルギニン、ヒスチジンなどである。
【0099】
いくつかの例において、ポリマー組成物またはその成分が塩基性基を有する場合、例えば、HCl、HSOなどの酸によってプロトン化し、カチオン性の塩を生成させることができる。一例において、該化合物を、酒石酸または酢酸によりプロトン化して、それぞれ、酒石酸塩または酢酸塩を生成させることができる。他の例において、該化合物と酸または塩基との反応は、室温など、約0℃から約100℃の温度において、単独で、または不活性で水溶性の有機溶媒と組み合わせて、水中で行われる。一定の状況において、適用可能な場合、開示された化合物の塩基に対するモル比は、いずれか具体的な塩にとって望ましい比を提供するように選択される。
【0100】
エステル誘導体は、典型的に、該化合物の酸形態への前駆体として調製され、したがって、プロドラッグとして役立ち得る。一般に、これらの誘導体は、メチル、エチルなどの低級アルキルエステルである。
【0101】
(製薬ポリマー組成物)
いくつかの例において、本明細書に記載された方法によって作製された任意の組成物および成分は、該ポリマー組成物に結合した(共有的に、または非共有的に)少なくとも1種の生物活性剤を含み得る。得られた製薬ポリマー組成物は、適用部位に隣接した、または遠隔の組織への、薬剤および他の生物学的活性剤の持続的、連続的送達のための系を提供できる。該生物活性剤は、それが適用されている生物学的系において、局所的または全身的な、生物学的、生理学的、または治療的効果を提供することができる。例えば、該生物活性剤は、他の機能もあるが、中でも、感染または炎症の抑制、細胞増殖の増強および組織再生、腫瘍増殖の抑制に作用することができ、鎮痛剤として作用し、抗細胞接着を促進し、骨増殖を増強させる。他の好適な生物活性剤としては、抗ウィルス剤、ホルモン、抗体、または治療的タンパク質を挙げることができる。他の生物活性剤としては、投与した時に生物学的に活性ではないが、対象に投与すると、代謝またはいくつかの他の機序によって生物活性剤へと変換される薬剤であるプロドラッグが挙げられる。したがって、本明細書に開示された任意の組成物は、2種以上の生物活性剤の組み合わせを含有できる。
【0102】
いくつかの例において、該生物活性剤は、例えば、限定はしないが、ピロカルピン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、コルチゾン、ジクロフェナックナトリウム、インドメタシン、6∝−メチル−プレドニゾロン、コルチコステロン、デキサメタゾン、プレドニゾンなどの抗炎症剤;限定はしないが、ペニシリン、セファロスポリン類、バシトラシン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ゲンタマイシン、クロロキン、ビダラビンなどの抗菌剤;限定はしないが、サリチル酸、アセトアミノフェン、イブプロフェン、ナプロキセン、ピロキシカム、フルルビプロフェン、モルフィンなどの鎮痛剤;限定はしないが、コカイン、リドカイン、ベンゾカインなどの局所麻酔剤;肝炎、インフルエンザ、はしか、風疹、破傷風、ポリオ、狂犬病などに対する抗体を刺激するための免疫原(ワクチン);限定はしないが、酢酸ロイプロリド(LH−RHアゴニスト)、ナファレリンなどのペプチドのように、生物学的系において全身的に、または障害部位において局所的に、感染を防止することのできる物質を含み得る。これらの薬剤は全て、Sigma Chemical社(ミルウオーキー、ウィスコンシン州)などの供給元から市販されている。
【0103】
さらに、例えば、ガングリオシド、神経成長因子などの神経成長促進物質;フィブロネクチン(FN)、ヒト成長ホルモン(HGH)、コロニー刺激因子、骨形成タンパク質、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン由来成長因子(IGF−I、IGF−II)、トランスフォーミング成長因子−α(TGF−α)、トランスフォーミング成長因子−β(TGF−β)、上皮成長因子(EGF)、線維芽成長因子(FGF)、インターロイキン−1(IL−1)、血管内皮成長因子(VEGF)およびケラチノサイト成長因子(KGF)、乾燥骨材料などの硬および軟組織成長促進剤;およびメトトレキサート、5−フルオロウラシル、アドリアマイシン、ビンブラスチン、シスプラチン、毒素に結合させた腫瘍特異的抗体、腫瘍壊死因子などの抗腫瘍剤のように、細胞および組織の増殖および生存を促進するか、細胞の機能を増加させることのできる物質または代謝前駆体が有用である。
【0104】
他の有用な物質としては、プロゲステロン、テストステロン、および濾胞刺激ホルモン(FSH )(産児調節、受胎増強)、インスリンなどのホルモン剤;ジフェンヒドラミンなどの抗ヒスタミン剤;パパベリン、ストレプトキナーゼなどの心血管剤;ヨウ化イソプロパミドなどの抗潰瘍剤;硫酸メタプロターナル、アミノフィリンなどの気管支拡張剤;テオフィリン、ナイアシン、ミノキシジルなどの血管拡張剤;トランキライザー、B−アドレナリン遮断薬、ドーパミンなどの中枢神経剤;リスペリドンなどの抗精神病剤、ナルトレキソン、ナロキソン、ブプレノルフィンなどの麻薬拮抗薬;および他の同様な物質が挙げられる。これらの薬剤は全て、Sigma Chemical社(ミルウオーキー、ウィスコンシン州)などの供給元から市販されている。
【0105】
製薬ポリマー組成物は、当業界に知られた技法を用いて調製できる。一態様において、該組成物は、本明細書に開示されたポリマー組成物と生物活性剤を混和することによって調製される。用語「混和」は、2つの成分を共に混合し、その結果、化学的反応または物理的相互作用がないこととして定義される。用語「混和」は、該化合物と製薬的に許容できる化合物との間の化学反応または物理的相互作用も含む。反応性治療薬、例えば、反応性カルボキシル基を有するものとの共有結合を、該化合物上で行うことができる。例えば、先ず、抗炎症薬、イブプロフェンまたはヒドロコルチゾン−ヘミスクシネートなどのカルボキシレート含有化学物質を、対応するN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)活性エステルへと変換させて、さらに、親水性ポリマーのOH基と反応させることができる。第2に、開示された任意の組成物における生物活性剤の非共有的エントラップメントも可能である。第3に、静電気的または親水性の相互作用により、開示された組成物における生物活性剤の保持が促進される。第4に、該組成物内の遊離環付加反応性部分が、生物活性剤内の環付加反応性部分(例えば、アルケンまたはアルキン)と反応することができる。
【0106】
当然のことながら、具体的場合における生物活性剤の実際の好ましい量は、利用されている具体的な化合物、製剤化された具体的な組成物、適用の様式、および治療されている具体的な位置および対象に依って変化し得る。所与の宿主に対する投与量は、従来の考慮事項を用いて、例えば、適切な従来の薬理学的プロトコルを使って、例えば、対象化合物と公知薬剤との活性の違いの慣例的な比較により決定することができる。製薬組成物の容量を決定する当業界の医師および配合者は、標準的な推薦事項(PhysiciansDesk Reference、Barnhart Publishing(1999))に従った容量決定に困難を生じることはないであろう。
【0107】
本明細書に記載された製薬ポリマー組成物は、生物学的系および対象物が許容できる任意の賦形剤中で製剤化できる。このような賦形剤の例としては、限定はしないが、水、生理食塩水、リンガー液、デキストロース液、ハンクス液、および他の水性の生理学的に平衡化された塩溶液が挙げられる。不揮発性油、オリーブ油およびゴマ油などの植物油、トリグリセリド類、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ならびにオレイン酸エチルなどの注射用有機エステル類も使用できる。他の有用な製剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、またはデキストランなどの粘度増強剤を含有する懸濁液が挙げられる。賦形剤は、等浸透圧および化学的安定性を増強させる物質などの微量の添加剤も含有できる。緩衝液の例としては、リン酸緩衝液、重炭酸緩衝液およびトリス緩衝液が挙げられ、一方、保存剤の例としては、チメロゾール、クレゾール、ホルマリン、およびベンジルアルコールが挙げられる。
【0108】
製薬担体は当業者に知られている。これらは、最も典型的には、生理学的pHにおける、滅菌水、生理食塩水、および緩衝化溶液などの溶液など、ヒトへの投与のための標準的担体であると考えられる。
【0109】
薬剤送達が意図された分子を、製薬組成物中に製剤化できる。製薬組成物は、選択された分子に加えて、担体、増粘剤、希釈剤、緩衝剤、保存剤、表面活性剤などを含むことができる。製薬組成物は、抗微生物剤、抗炎症剤、麻酔剤などの1種以上の活性成分を含むこともできる。
【0110】
該製薬ポリマー組成物は、所望されているのは、局所的治療か全身的治療かに依り、および治療される領域に依り、多数の方法で投与できる。投与は、局所的(眼、膣、直腸、鼻腔内など)であり得る。
【0111】
投与用製剤としては、滅菌の水性または非水性溶液、懸濁液、および乳液が挙げられる。非水性担体の例としては、生理食塩水および緩衝化媒体を含む、水、アルコール性/水性溶液、乳液または懸濁液が挙げられる。開示された組成物および方法の副次的使用のために必要な場合、非経口媒体としては、塩化ナトリウム溶液、リンガーデキストロース、デキストロースと塩化ナトリウム、乳酸加リンガー液、または不揮発性油が挙げられる。開示された組成物および方法の副次的使用のために必要な場合、静脈内媒体としては、体液および栄養の補液、電解質補液(リンガーデキストロースに基づくものなど)などが挙げられる。例えば、抗微生物剤、抗酸化剤、キレート化剤、および不活性気体などの保存剤および他の添加剤も存在し得る。
【0112】
局所投与のための製剤としては、軟膏剤、ローション剤、クリーム剤、ゲル剤、滴剤、座剤、スプレー剤、液剤および散剤を挙げることができる。従来の製薬担体、水性、粉末または油性の基剤、増粘剤などが必要または望ましい場合があり得る。
【0113】
投薬は、治療される病態の重症度および応答性に依存するが、通常は、一日当たり、1回以上の投与で、治療過程は、数日から数ヶ月続くか、または通常の当業者が送達を中止すべきであると判定するまで続く。通常の当業者は、最適な投与量、投与方法論および反復率を容易に決定できる。
【0114】
一態様において、開示された任意の組成物は、生細胞を含み得る。生細胞の例としは、限定はしないが、線維芽細胞、肝細胞、軟骨細胞、幹細胞、骨髄、筋細胞、心筋細胞、神経細胞、または膵島細胞が挙げられる。
【0115】
(作製方法)
開示されたポリマー組成物を作製する方法が本明細書に開示されている。これらの方法は、本明細書に記載された任意の成分を架橋してポリマー組成物を生成させるためにも使用できる。一例において、1つ以上の環付加反応性部分を含む親水性ポリマーを、2つ以上の環付加反応性部分を含む架橋剤に接触させることを含む、ポリマー組成物の作製方法が開示されており、該環付加反応性部分は、環付加反応を受けてポリマー組成物を提供する。一例において、ポリマー組成物は、光活性化2+2環付加反応によって架橋されたポリアクリルアミドではない。該環付加条件は、環付加反応性部分間の3+2環付加反応、または環付加反応性部分間の2+2環付加反応を生じさせる条件であり得る。開示された方法において、親水性ポリマー上の環付加反応性部分と架橋剤上の環付加部分との間に環付加反応が生じ、残りの親水性ポリマー残基と架橋剤残基との間に共有結合がもたらされる。
【0116】
いくつかの例において、開示された方法において生じる環付加架橋は、クリック化学に基づき得る。用語「クリック化学」とは、緩和な条件下で好適性の高い任意の架橋化学を称し、水性環境内でのアジドとアルキンとの間のトリアゾール形成反応(Rostovtsevら、Angew.Chem.Int.Ed.2002年、41、2596−9頁)に関して、Valerie FokinおよびK.Barry Sharplessによって初めて造語された。薬剤の発見(Leeら、J.Am.Chem.Soc.2003年、125、9588−9頁;Lewisら、Angew.Chem.Int.Ed.2002年、41、1053−7頁;Lewisら、J.Am.Chem.Soc.2004年、126、9152−3頁)、蛍光発生プローブ(ZhouおよびFahrni,J.Am.Chem.Soc.2004年、126、8862−3頁)、および細胞表面工学(Linkら、J.Am.Chem.Soc.2004年、126、10598−602頁;Agardら、J.Am.Chem.Soc.2004年、126、15046−7頁)に用いられているこの架橋化学は、典型的に、公知のマイクロモル毒性を有する触媒として銅(I)の使用を必要とする(Arcielloら、Biochem.Biophys.Res.Commun.2005年、327、454−9頁;Smetr、Hum.Exp.Toxicol.2003年、22、89−93頁;Sethら、Toxicol.In Vitro 2004年、18、501−9頁)。毒性または炎症の危険を減少させるために、本明細書で、いくつかの例において、例えば、電子不足のアルキン類を用いて達成できる無触媒クリック化学の使用が開示されている(Liら、Tetrahedron Lett.2004年、45、3143−3146頁)。この段落で開示された文献は全て、少なくともクリック化学の教示に関して、参照として本明細書に組み込まれている。
【0117】
他の例において、環付加条件は、約0から約8、約1から約7、約2から約6、約3から約5、または約4から約8のpHで、緩和であり得る。他の例において、pHは、中性または生理学的pHであり得る。他の例において、環付加反応は、水性媒体中、または生物体液中で生じ得る。例えば、該組成物またはその成分は、水中に溶解し得、限定はしないが、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、およびアルコール類、ジオール類、またはグリセロール類などの水溶性溶媒も含有し得る。他の例において、環付加反応は、約マイナス4℃から約90℃まで、約4℃から約80℃まで、約4℃から約70℃まで、約4℃から約60℃まで、約4℃から約50℃まで、約4℃から約40℃まで、約20℃から約40℃まで、または約25℃から約37℃まで生じ得る。他の特定例において、環付加反応は約37℃で生じる。さらに、環付加は、生物系に存在するような、細胞、生体分子、組織、および塩類の存在下で生じ得る。
【0118】
一例において、環付加反応に触媒が用いられる。3+2環付加のための好適な触媒としては、銅塩(例えば、硫酸銅、臭化銅、およびヨウ化銅)および他の銅源(例えば、銅線)が挙げられる。触媒は、還元剤(例えば、アスコルビン酸ん後、トリス(カルボキシエチル)ホスフィン)および/または安定化リガンド(例えば、トリス−トリアゾリル化合物)と組み合わせることもできる。他の例において、環付加反応は、無触媒である。架橋を促進する追加化合物の使用も考慮されている。
【0119】
開示された方法において、本明細書に開示された任意の環付加反応性部分を含む、本明細書に開示された任意の親水性ポリマーおよび任意の架橋剤を使用することができる。
【0120】
(さらなる架橋)
本明細書に開示された環付加架橋を、他の架橋化学と共に使用できることも考慮されている。例えば、開示されたポリマー組成物は、環付加ベースの架橋の前または後に、他の架橋化学による架橋生産を含有できる。
【0121】
例えば、ポリカルボニル架橋剤は、本明細書に開示された任意の親水性ポリマーと反応できる。用語「ポリカルボニル架橋剤」は、本明細書において、式AC(O)−で表される2つ以上の基を有する化合物として定義されており、式中、Aは、水素、低級アルキル、またはOAであり、式中、Aは、活性化エステルの形成をもたらす基である。一態様において、任意の親水性ポリマーが、ポリアルデヒドによってさらに架橋できる。ポリアルデヒドは、2つ以上のアルデヒド基を有する化合物である。一態様において、ポリアルデヒドはジアルデヒド化合物である。一例において、2つ以上のアルデヒド基を有する任意の化合物を、ポリアルデヒド架橋剤として使用できる。他の例において、ポリアルデヒドは、置換または非置換のアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、エーテル、ポリエーテル、ポリアルキレン、エステル、ポリエステル、アリール、ヘテロアリールなどであり得る。さらに他の例において、ポリアルデヒドは、多糖基またはポリエーテル基を含有し得る。さらなる態様において、ポリアルデヒドは、デンドリマーまたはペプチドであり得る。一例において、ポリ(エチレングリコール)プロピオンジアルデヒド(PEG)などのポリエーテルジアルデヒドが、本明細書に記載された組成物および方法に有用である。PEGは、Shearwater Polymers社(ハンツビル、アラバマ州)などの多くの市販供給元から購入できる。他の例において、ポリアルデヒドはグルタルアルデヒドである。
【0122】
他の例において、ポリカルボニル化合物がポリアルデヒドの場合、該ポリアルデヒドは、当業界に知られた技法を用いて、2つ以上のヒドロキシ基またはエポキシ基をそれぞれ有する末端ポリオールまたはポリエポキシドの酸化によって調製できる。
【0123】
架橋の方法は一般に、溶媒の存在下、親水性ポリマーまたはポリマー組成物を、ポリカルボニル架橋剤と反応させることを含む。
【0124】
一態様において、該反応溶媒は水である。さらに、アルコール、またはDMFまたはDMSOなどの少量の水溶性有機溶媒が、同様に使用できる。一態様において、架橋は、室温、例えば、25℃、で実施できるが、該架橋反応は、約4℃以下から約90℃以上の温度範囲内で実施できる。しかし、典型的には、約4℃から約60℃、より典型的には、約4℃から約50℃、より典型的には、約4℃で、または約30℃で、または約37℃で実施されると考えられる。該反応はまた、種々のpHで、例えば、約3から約10のpHで、または約4から約9のpHで、または約5から約8のpHで、または中性pHで行われる。
【0125】
(ポリマー組成物の官能化)
親水性ポリマーと架橋剤との間の環付加の他に、環付加反応性部分のいくつかが、他の成分、例えば、製薬化合物、マーカー、染料、標的部分、DNAプローブと、引き続いての、または直交の環付加カップリング反応に利用できるように、それらが反応しないことが望ましい場合があり得る。3+2環付加反応性部分および2+2環付加反応性部分を含有する親水性ポリマーおよび/または架橋剤も本明細書に考慮されている。この方法で、開示されたポリマー組成物を、1組の環付加反応性部分(例えば、1,3−双極子基および親双極子)と架橋させて、他の環付加反応性部分(例えば、光活性部位)を遊離のままに残し、他の成分との2+2環付加を受けさせることができる。例えば、開示されたポリマー組成物と架橋する3+2環付加反応の間に、または後に、追加の2+2環付加反応性部分を種々の生体分子により環化させることができる。あるいは、該ポリマー組成物を架橋させるために2+2環付加反応性部分を用い、追加の3+2環付加反応性部分を用いて、他の成分を該ポリマー組成物に結合させることができる。同様の様式で、2+2または3+2環付加反応性部分、いずれの場合であっても、それらによって、該ポリマー組成物を、ガラスまたはプラスチックなどの固体支持体に結合することができる。
【0126】
他の化合物を該ポリマー組成物に結合させるために使用できる、環付加反応性部分以外の追加の官能基を、該ポリマー組成物が含有できることも考慮されている。例えば、生物活性剤を、エーテル、イミデート、チオイミデート、エステル、アミド、チオエーテル、チオエステル、チオアミド、カルバメート、ジスルフィド、ヒドラジド、ヒドラゾン、オキシムエーテル、オキシムエステル、または、およびアミン結合を介して、ポリマー組成物に結合させることができる。
【0127】
いくつかの特定例において、本明細書に開示されたポリマー組成物を、該組成物が生物活性剤または固体支持体との共有結合を形成するように、1つ以上の異なる基によって修飾することができる。一例において、該生物活性剤または固体支持体がアミノ基を有する場合、それは、該ポリマー組成物上の1つ以上の基と反応して、共有結合または非共有結合を形成することができる。例えば、該生物活性剤上のアミノ基は、カルボキシメチルデキストランなどのカルボキシメチル誘導体化ヒドロゲルと反応して、新たな共有結合を生成できる。
【0128】
一例において、該ポリマー組成物は、他の成分(例えば、生体分子または生物活性剤)との共有結合および/または非共有結合を形成できる1つ以上の基を有するヒドロゲルであり得る。例えば、該ヒドロゲル層は、1つ以上のカチオン基またはカチオン基に変換され得る1つ以上の基を含み得る。このような基の例としては、限定はしないが、置換または非置換のアミノ基が挙げられる。一例において、該ヒドロゲルが、カチオン基を有する場合、該ヒドロゲルは、負に荷電した基を有する成分と結合して、静電的相互作用を形成できる。逆に、該ヒドロゲルが、アニオン基に変換され得る基を有する場合(例えば、カルボン酸またはアルコール)該ヒドロゲルは、正に荷電した成分と静電的に結合できる。該ヒドロゲルは、他の成分と共有結合を形成することのできる1つ以上の基を有することもできる。該ヒドロゲルは、該成分と共有結合および/または非共有結合を形成できることが考慮されている。
【0129】
(抗接着ポリマー組成物)
いくつかの特定例において、開示されたポリマー組成物を、抗接着化合物および/またはプロヒーリング化合物に、さらに結合させることができる。本明細書で記述される用語「抗接着化合物」は、細胞付着、細胞拡散、細胞成長、細胞分裂、細胞移動、または細胞増殖を防止する任意の化合物として定義される。いくつかの例において、アポトーシスを誘導する、細胞周期を阻止する、細胞分裂を抑制する、および細胞運動性を停止させる化合物が、抗接着化合物として使用できる。抗接着化合物の例としては、限定はしないが、抗癌薬、抗増殖性薬、PKC阻害剤、ERKまたはMAPK阻害剤、cdc阻害剤、コルヒシンまたはタキソールなどの抗有糸分裂薬、アドリアマイシンもしくはカンプトテシンなどのDNAインターカレーター、またはウォルトマンニンもしくはLY294002などのPI3キナーゼの阻害剤が挙げられる。一例において、抗接着化合物はマイトマイシンCなどのDNA反応性化合物である。他の例において、参照として本明細書にその全体が組み込まれている米国特許第6,551,610号に開示されたオリゴヌクレオチドのいずれかを、抗接着化合物として使用できる。他の例において、下記の抗炎症剤のいずれかが抗接着化合物であり得る。抗炎症化合物の例としては、限定はしないが、メチルプレドニゾン、低用量アスピリン、酢酸メドロキシプロゲステロン、および酢酸ロイプロリドが挙げられる。
【0130】
抗接着ポリマー組成物の形成は、抗接着化合物を該ポリマー組成物と反応させて、新たな共有結合を形成することを含む。一例において、抗接着化合物は、該ポリマー組成物と反応する(環付加により、またはいくつかの他の機序により)ことのできる基を有する。該ポリマー組成物と反応できる、抗接着化合物上に存在する基が天然のものであり得るか、または該抗接着化合物がそのような基を付加するために化学的に修飾できる。他の例において、該ポリマー組成物が抗接着化合物とより反応性となるように、それを化学的に修飾できる。
【0131】
いくつかの例において、抗接着ポリマー組成物は、抗接着化合物を該ポリマー組成物と架橋することによって形成することができる。一例において、抗接着化合物およびポリマー組成物が各々、少なくとも1つの環付加反応性部分を有し、次に、それらが、少なくとも2つの環付加反応性部分を有する架橋剤と反応できる。これに関して、本明細書に記載された任意の環付加反応性部分を使用できる。一例において、該架橋剤は、ポリエチレングリコールジアルキンである。
【0132】
該ポリマー組成物に対する抗接着化合物の量は変化し得る。一例において、該ポリマー組成物に対する抗接着化合物の容量比は、99:1、90:10、80:20、70:30、60:40、50:50、40:60、30:70、20:80、10:90、または1:99である。一例において、抗接着化合物と該ポリマー組成物は大気中で反応でき、室温で乾燥させる。次いで、得られた化合物を水ですすいで、未反応の抗接着化合物を全て除去する。該複合体は、未反応(すなわち遊離)の抗接着化合物を任意に含有してもよい。該未反応抗接着化合物は、該ポリマー組成物に共有結合している抗接着化合物と同一でも異なっていてもよい。
【0133】
抗接着ポリマー組成物は、プロヒーリング化合物からなっていてもよい。本明細書に定義される用語「プロヒーリング化合物」は、細胞成長、細胞増殖、細胞移動、細胞運動性、細胞接着、または細胞分化を促進する任意の化合物である。一例において、プロヒーリング化合物としては、タンパク質または合成ポリマーが挙げられる。本明細書に記載された方法に有用なタンパク質としては、限定はしないが、細胞外マトリックスタンパク質、化学的に修飾された細胞外マトリックスタンパク質、または細胞外マトリックスタンパク質の部分的に加水分解された誘導体が挙げられる。該タンパク質は、天然か、または細胞相互作用性ドメインを有する組換えポリペプチドであり得る。該タンパク質は、1種以上のタンパク質が修飾されている、タンパク質の混合物でもあり得る。タンパク質の具体例としては、限定はしないが、コラーゲン、エラスチン、デコリン、ラミニン、またはフィブロネクチンが挙げられる。
【0134】
他の例において、プロヒーリング化合物は、参照としてその全体が組み込まれている米国特許第6,548,081 B2号に開示された支持体のいずれかであり得る。一例において、プロヒーリング化合物としては、架橋アルギネート、コラーゲン、架橋コラーゲン、スクシニル化コラーゲン、またはメチル化コラーゲンなどのコラーゲン誘導体、架橋ヒアルロナン、キトサン、メチルピロリドン−キトサンなどのキトサン誘導体、セルロースおよびセルロースアセテートまたはカルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、カルボキシメチルデキストランなどのデキストラン誘導体、澱粉およびヒドロキシエチル澱粉などの澱粉誘導体、他のグリコサミノグリカン類およびそれらの誘導体、他のポリアニオン性多糖類またはそれらの誘導体、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸およびポリグリコール酸のコポリマー(PLGA)、ラクチド類、グリコリド類、および他のポリエステル類、ポリオキサノン類およびポリオキサレート類、ポリ(ビス(p−カルボキシフェノキシ)プロパン)無水物(PCPP)およびセバシン酸のコポリマー、ポリ(L−グルタミン酸)、ポリ(D−グルタミン酸)、ポリアクリル酸、ポリ(DL−グルタミン酸)、ポリ(L−アスパラギン酸)、ポリ(D−アスパラギン酸)、ポリ(DL−アスパラギン酸)、ポリエチレングリコール、上記に掲げたポリアミノ酸とポリエチレングリコールとのコポリマー、コラーゲン様、シルク様およびシルク−エラスチンチ様タンパク質などのポリペプチド類、ポリカプロラクトン、ポリ(アルキレンスクシネート)、ポリ(ヒドロキシブチレート)(PHB)、ポリ(ブチレンジグリコレート)、ナイロン−2/ナイロン−6−コポリアミド類、ポリジヒドロピラン類、ポリホスファゼン類、ポリ(オルトエステル)、ポリ(シアノアクリレート類)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリカゼイン、ケラチン、ミオシン、およびフィブリンが挙げられる。他の例において、高架橋HAがプロヒーリング化合物であり得る。
【0135】
他の例において、プロヒーリング化合物は多糖であり得る。一態様において、該多糖は、環付加反応性部分と反応することのできるカルボン酸基またはその塩またはエステルなどの少なくとも1つの基を有する。一例において、該多糖はグリコサミノグリカン(GAG)である。上記の任意のグリコサミノグリカンが本態様に使用できる。他の例において、プロヒーリング化合物はヒアルロナンである。
【0136】
いくつかの例において、プロヒーリング化合物を該ポリマー組成物と架橋させることができる。一例において、一例において、プロヒーリング化合物および該ポリマー組成物が各々、少なくとも1つの環付加反応性部分を有し、次に、それらが、少なくとも2つの環付加反応性部分を有する架橋剤と反応できる。これに関して、本明細書に記載された任意の環付加反応性部分を使用できる。
【0137】
該抗接着ポリマー組成物は、第2のプロヒーリング化合物を任意に含有できる。一例において、第2のプロヒーリング化合物は成長因子であり得る。細胞および組織の成長および生存、ならびに細胞の機能を増強することのできる任意の物質または代謝前駆体が成長因子として有用である。成長因子の例としては、限定はしないが、ガングリオシド、神経成長因子などの神経成長促進物質;フィブロネクチン(FN)、ヒト成長ホルモン、(HGH)、コロニー刺激因子、骨形成タンパク質、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン由来成長因子(IGF−I、IGF−II)、形質転換成長因子−アルファ(TGF−アルファ)、形質転換成長因子−ベータ(TGF−ベータ)、上皮細胞成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、インターロイキン−1(IL−1)、血管内皮成長因子(VEGF)およびケラチノサイト成長因子(KGF)、乾燥骨物質などの硬組織または軟組織成長促進剤;およびメトトレキサート、5−フルオロウラシル、アドリアマイシン、ビンブラスチン、シスプラチン、毒素に結合された腫瘍特異的抗体、腫瘍壊死因子などの抗新生物剤が挙げられる。該複合体に組み込まれる成長因子の量は、選択される成長因子およびプロヒーリング化合物、ならびに該抗接着ポリマー組成物の意図される最終的使用法に依って変化し得る。
【0138】
これに関して、参照としてその全体が組み込まれている米国特許第6,534,591 B2号に開示された任意の成長因子を使用できる。一例において、該成長因子としては、トランスフォーミング成長因子類(TGF類)、線維芽セ長因子類(FGF類)、血小板由来成長因子類(PDGF類)、上皮成長因子類(EGF類)、結合組織活性化ペプチド類(CTAP類)、骨形成因子類、ならびにこのような成長因子類の生物学的活性類縁体、断片、および誘導体が挙げられる。多機能調節タンパク質である、トランスフォーミング成長因子(TGF)超遺伝子ファミリー。TGF超遺伝子ファミリーのメンバーとしては、ベータ形質転換成長因子(例えば、TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3);骨形成タンパク質(例えば、BMP−1、BMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−6、BMP−7、BMP−8、BMP−9);ヘパリン結合成長因子(例えば、線維芽細胞成長因子(FGF)、内皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン様成長因子(IGF));インヒビン類(例えば、インヒビンA、インヒビンB);成長分化因子(例えば、GDF−1);およびアクチビン類(例えば、アクチビンA、アクチビンB、アクチビンAB)が挙げられる。
【0139】
成長因子類は、哺乳動物細胞などから在来または天然の供給源から単離できるか、または組換えDNA法または種々の化学的方法などによって合成的に調製できる。さらに、これらの因子の類縁体、断片、または誘導体が、天然分子の生物学的活性の少なくともいくつかを示すという条件で使用され得る。例えば、類縁体は、部位特異的変異誘発または他の遺伝子操作法により変化させた遺伝子の発現によって調製できる。
【0140】
他の例において、該ポリマー組成物をプロヒーリング化合物と結合させるために、架橋剤の添加が用いられる。一例において、該ポリマー組成物およびプロヒーリング化合物が、環付加反応性部分を有する場合、2つの化合物を結合するために、少なくとも2つの環付加反応性部分を有する架橋剤が使用できる。
【0141】
(使用法)
本明細書に記載された任意の化合物、複合体、組成物、および方法を、種々の使用のために使用できる。例えば、開示された化合物は、薬剤送達、小型分子送達、創傷治癒、火傷治癒、および組織再生のために使用できる。他のマトリックス成分の集合、成長因子および分化因子の提示、細胞移動、または組織再生が望ましい、水和した細胞周囲環境から利益を得る状況に対して、開示された組成物および方法は有用である。
【0142】
開示された組成物および成分は、精製することなく、任意の生物学的系の内または上に、直接置かれ得る。開示された組成物を置くことのできる部位の例としては、限定はしないが、筋肉または脂肪などの軟組織;骨または軟骨などの硬組織;組織再生領域;歯周ポケットなどの間隙空間;手術切開または他の形成ポケットまたは腔;口腔、膣腔、直腸腔または鼻腔、眼のダグラス窩などの天然腔;腹膜腔および内部に含有される臓器、ならびに切断、擦過または火傷領域などの皮膚表面欠損など、中または上に該化合物を置くことのできる他の部位が挙げられる。あるいは、開示された組成物を、損傷皮膚の生存を延長させるために使用できる。開示された組成物は生物分解性であり得、それらを経時的に分解するために天然酵素が作用し得る。開示された組成物は、それらが、例えば、細胞、組織などによって分解でき、生物学的系内に吸収され得るという点で、「生物吸収性」であり得る。さらに、対象となっている領域から体液を吸収するために、再水和されていない開示組成物を生物学的系に適用することができる。
【0143】
開示組成物は、多数の種々の外科的操作に使用できる。一例において、開示組成物は、参照としてそれらの全体が組み込まれている米国特許第6,534,591 B2号および米国特許第6,548,081 B2号に開示された外科的操作のいずれかにおいて使用できる。一例において、心臓外科手術および関節外科手術;腸または腸間膜の接着を防ぐことが重要な腹部外科手術;尿管および膀胱ならびに輸卵管および子宮の機能に及ぼす有害作用を避けることが重要な尿生殖器領域に実施される手術;および肉芽組織の発生を最少化することが重要である神経外科手術に本開示組成物を使用できる。腱を含む外科手術においては、一般に、手術後の固定化期間中に、腱と周囲鞘膜または他の周囲組織との間の接着傾向がある。他の例において、腹部鏡手術、骨盤手術、腫瘍手術、腔および頭蓋顔面手術、ENT手術の後、または脊髄硬膜修復を含む操作中の接着を防ぐために、本開示組成物を使用できる。
【0144】
他の例において、本開示組成物を眼科外科手術に使用できる。眼科学的外科手術において、角膜と虹彩との間の癒着の発生を防ぐ目的で前眼房の角に生分解性インプラントを適用でき、これは特に、重症の損傷事象後の再建の場合に適用される。さらに、緑内障の外科手術および斜視の外科手術の後の癒着を防ぐために、分解性または永久的なインプラントが望ましいことが多い。
【0145】
他の例において、本開示組成物は、鼓膜穿孔(TMP)の再建に使用できる。鼓膜(TM)は、外部環境から中耳および内耳を分離する三層構造である。これらの層は、角化扁平上皮からなる外側の外胚葉性部分、中間の中胚葉性線維状成分および内側の内胚葉性粘膜層を含む。この膜は、わずか130μmであるが、中耳および内耳の構造、ならびに聴覚の増幅に対して重要な保護を提供している。
【0146】
TMPは、通常、外傷、慢性中耳炎に帰される、またはPE管挿入由来の、一般的事象である。縦方向の側頭骨骨折を生じさせるブラント外傷は、古典的にTMPに関連している。より一般的な原因としては、耳に対する殴打および綿棒(Q−tip(商標))または鋭い器具を用いた誤った助言による耳清掃の試みが挙げられる。
【0147】
全身麻酔なしに、鼓膜を介して本開示組成物のいずれかを投与でき、しかも創傷治癒特性を増強できる。一態様において、注射器に接続させたカニューレを用いて、鼓膜を介して本開示組成物を注射できる。
【0148】
他の例において、内視鏡洞房外科手術後に、術後創傷バリアとして本開示組成物を使用できる。機能的内視鏡洞外科手術(FESS)における成功は、手術で広がった開口部を狭くし、さらには閉塞させる瘢痕によって制限されることが多い。開口部を一時的に保持するために、スペーサーおよび管状ステントが用いられているが、創傷治癒の障害により、長期結果の不良に至る。本明細書に記載された任意の化合物、複合体、および組成物の使用によって、上顎洞外科手術後の瘢痕痙縮を著しく減少させることができる。他の例において、軟組織および硬組織を増加させるために、本開示組成物を使用できる。
【0149】
他の例において、例えば、手術デバイス、プロステーシス、またはインプラント(例えば、ステント)などの製品をコーティングするために、本開示組成物を使用できる。他の例において、動脈瘤を治療するために、本開示組成物を使用できる。
【0150】
ヒトまたは非ヒト動物に対する治癒的または治療的価値を有する多種多様の放出可能な生物活性剤のための担体および送達デバイスとして、本開示組成物を使用できる。これに関して、本明細書に記載された任意の生物活性剤が使用できる。本開示組成物によって担持できるこれらの物質の多くが、本明細書に説明されている。
【0151】
本開示組成物内への組み込みに好適な生物活性剤の中でも、とりわけ、治療薬、例えば、抗炎症剤、抗発熱剤、抗炎症使用のためのステロイド系および非ステロイド系薬物、ホルモン、成長因子、避妊薬、抗ウィルス剤、抗菌剤、抗真菌剤、鎮痛薬、催眠剤、鎮静剤、トランキライザー、抗痙攣薬、筋弛緩剤、局所麻酔薬、鎮痙剤、抗潰瘍薬、ペプチドアゴニスト、交感神経興奮剤、心血管剤、抗腫瘍剤、オリゴヌクレオチド類およびそれらの類縁体などが挙げられる。該生物活性剤は、薬剤的に活性な量で添加される。
【0152】
薬剤送達の速度は、放出されている分子の疎水性に依存する。例えば、デキサメタゾンおよびプレドニゾンなどの疎水性分子は、水性環境において該組成物が膨張する際に、そこから緩徐に放出され、一方、ピロカルピン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、コルチゾン、ジクロフェナクナトリウム、インドメタシン、6∝−メチルプレドニゾロンおよびコルチコステロンなどの親水性分子は、速やかに放出される。ステロイド抗炎症剤の緩徐な、持続的放出を保持する該組成物の能力によって、本明細書に記載された化合物は、外傷または手術処置後の創傷治癒にとってきわめて有用となる。
【0153】
一定の方法において、血管形成および血管再生に関する分子または試剤の送達が達成される。微小血管再生を刺激するVEGFなどの薬剤を送達するための方法が開示されている。この目的のために有用な、限定はしないが、血管形成抑制のための分子に関する材料に関して、参照として、本明細書に組み込まれている、「Methods of inhibiting angiogenesis via increasing in vitro concentrations of endostatin protein」に関する米国特許第6,174,861号;「Methods of treating angiogenesis−induced diseases and pharmaceutical compositions thereof」に関する米国特許第6,086,865号;「Angiostatin fragments and method of use」に関する米国特許第6,024,688号;「Method of treating tumors using O−substituted fumagillol derivatives」に関する米国特許第6,017,954号;「Angiostatin fragments and method of use」に関する米国特許第5,945,403号;「Estrogenic compounds as anti−miotic agents」に関して米国特許5,892,069号;「Methods of expressing angiostatic protein」に関して米国特許第第5,885,795号;「Aggregate angiostatin and method of use」に関して米国特許第5,861,372号;「Endothelial cell proliferation inhibitor and method of use」に関して米国特許第5,854,221号;「Therapeutic antiangiogenic compositions and methods」に関して米国特許第5,854,205号;「Angiostatin fragments and method of use」に関して米国特許第5,837,682号;「Nucleotides encoding angiostatin protein and method of use」に関して米国特許第5,792,845号;「Method of inhibiting angiogenesis」に関して米国特許第5,733,876号;「Angiogenesis inhibitory agent」に関して米国特許第5,698,586号;「Estrogenic compounds as anti−mitotic agents」に関して米国特許第5,661,143号;「Angiostatin protein」に関して米国特許第5,639,725号;「Estrogenic compounds as anti−angiogenic agents」に関して米国特許第5,504,074号;「Method for regressing angiogenesis using o−substituted fumagillol derivatives」に関して米国特許第5,290,807号;「Method and a pharmaceutical composition for the inhibition of angiogenesis」に関して米国特許第5,135,919号に開示された化合物および試剤など、血管形成および血管再生を抑制できる薬剤を送達するための方法も開示されている。
【0154】
一例において、該生物活性剤は、ピロカルピン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、コルチゾン、ジクロフェナクナトリウム、インドメタシン、6∝−メチルプレドニゾロンおよびコルチコステロン、デキサメタゾンおよびプレドニゾンである。しかし、生物活性剤の送達が、避妊薬の送達、術後接着の処置、皮膚増殖の促進、瘢痕の防止、創傷の包帯、ビスコ手術の実施、ビスコ補充の実施、組織工学、の群から選択される医療目的のためである方法も提供される。
【0155】
一例において、本開示組成物は、対象への生細胞の送達のために使用できる。これに関して、本明細書に記載された任意の生細胞が使用できる。一例において、該生細胞は、プロヒーリング化合物の一部である。他の例において、本開示化合物は、限定はしないが、腫瘍細胞、線維芽細胞、軟骨細胞、幹細胞(たとえば、胚性、前脂肪細胞、間葉細胞、臍帯血由来、骨髄)、内皮細胞(例えば、乳房内皮細胞、腸管内皮細胞)、神経系統由来細胞(例えば、ニューロン、星状細胞、オリゴ樹状細胞、および膠細胞)、肝由来細胞(例えば、肝細胞)、内皮細胞(例えば、血管内皮)、心細胞(例えば、心筋細胞)、筋細胞(例えば、骨格または血管平滑筋細胞)、または骨芽細胞など、種々の細胞の増殖を助けるために使用できる。あるいは、細胞は、細胞系または一次源(例えば、ヒトまたは動物)、生検サンプル、または死体由来のものであり得る。
【0156】
一例において、本開示組成物は、成長因子、および成長因子に関連した分子の送達に使用できる。これに関して、本明細書に記載した任意の成長因子が有用である。一例において、該成長因子は、プロヒーリング化合物の一部である。
【0157】
一例において、対象の手術創傷を、本開示組成物のいずれかに接触させることによる、対象の該創傷における2つの組織の癒着の減少または抑制のための方法が、本明細書に記載されている。理論に拘束されることは望まないが、本開示組成物は、2つの異なる組織(例えば、臓器と皮膚組織)間の癒着を防ぐと考えられる。一定の術後創傷において、将来の合併症を避けるために、組織の癒着を防ぐことが望ましい。
【0158】
本開示組成物は多数の利点を提供する。例えば、本開示組成物は、少なくとも相当に再吸収性である術後接着バリアを提供でき、したがって、後日、外科手術で除去する必要がない。他の利点は、本開示組成物は、比較的使用し易くもあり、いくつかの例では、縫合でき、適用された後、しかるべき位置に留まる傾向があることである。
【0159】
他の例において、本開示組成物のいずれかを、創傷治癒の改善を必要とする対象の創傷と接触させることによって、該対象における創傷治癒を改善する方法が記載されている。本開示組成物のいずれかを、少なくとも1種の生物活性剤を受容することのできる少なくとも1つの組織と接触させることによって、少なくとも1種の生物活性剤の送達を必要とする対象に、該生物活性剤を送達する方法が提供されている。
【0160】
動物における、例えば、歯周ポケットなどの空隙、浅い、または深い皮膚創傷を有する組織、外科手術切開、骨または軟骨の欠陥、骨または軟骨の修復、声帯ひだ修復などの種々多様の組織欠陥を処置するために、本開示組成物が使用できる。例えば、本開示組成物はヒドロゲルの形態であり得る。腕または足の骨の骨折などの骨組織の欠陥、歯の欠陥、関節、耳、鼻、または咽喉における軟骨欠陥に、該ヒドロゲル薄膜を適用することができる。その上で、またはそれを介して増殖できる表面を提供することによって、本開示組成物からなるヒドロゲル薄膜は、誘導された組織再生のためのバリア系としても機能し得る。骨組織などの硬組織の再生を増強するために、該ヒドロゲル薄膜は、それが体液によって徐々に吸収されるか、または侵食された際に、該マトリックスに取って代わることのできる新たな細胞増殖のための支持を提供することができる。
【0161】
本開示組成物は、例えば、注射、噴霧、噴射、ブラッシング、塗布、コーティングなどにより、細胞、組織、および/または臓器に送達することができる。送達は、針、圧力アプリケーター、ポンプなどを用いて、または用いずに、カニューレ、カテーテル、シリンジを介したものであり得る。本開示組成物は、他の適用もあるが、とりわけ、例えば、組織の表面上に薄膜包帯を提供するために、および/またはある組織を他の組織、またはヒドロゲル薄膜に接着させるために、薄膜の形態で、組織に適用できる。
【0162】
一例において、本開示組成物は、注入によって投与できる。多くの臨床的使用で、本開示組成物がヒドロゲル薄膜の形態にある場合、注入用ヒドロゲルを使用できる。注入用ヒドロゲルは、損傷部位において、任意の所望の形状に形成することができる。最初のヒドロゲルは、ゾルまたは成形用パティであり得るため、該システムを複合形状に配置してから、引き続いて架橋させて、必要な寸法に適合させることができる。ヒドロゲルは、ゲル形成中に、組織に接着することも考えられ、その結果得られた、表面のマイクロラフネスに起因する機械的かみ合いによって、組織−ヒドロゲル界面が強化されると考えられる。さらに、針を用いて、または腹腔鏡法により、インサイチュ架橋可能なヒドロゲルの導入が達成でき、それによって、外科手術技法の侵襲性を最小化できると考えられる。
【0163】
本開示組成物は、歯周病を治療するために使用でき、歯根にかぶさっている歯肉組織を切除して、エンベロープまたはポケットを形成することができ、該組成物を該ポケット内に、露出した歯根に対して送達させることができる。該化合物、複合体、および組成物は、歯肉組織を通って切開をなし、歯根を露出させてから、該切開を介して、配置、ブラッシング、噴射、または他の手段によって、該材料を歯根表面上に適用することによっても送達できる。
【0164】
皮膚または他の組織上の欠陥を治療するために用いる場合、本開示組成物は、所望の領域の上部に配置できるヒドロゲル薄膜の形態であり得る。この態様において、該ヒドロゲル薄膜は、展性であり、該組織欠陥の輪郭に適合させるために操作することができる。
【0165】
本開示組成物は、インプラント部位における、インプラント可能デバイスと身体組織との適合性および/または性能または機能を増強させるために、縫合糸、クラップ、ステント、プロステーシス、カテーテル、金属ねじ、骨プレート、ピン、ガーゼなどの包帯などのインプラント可能なデバイスに適用できる。本開示組成物は、インプラント可能なデバイスをコーティングするために使用できる。例えば、粗い端部と隣接組織との接触からの磨耗の発生を減少させる生体適合性の滑らかな表面を提供することによって、インプラント可能デバイスの適合性を増強させるために、該デバイスの粗い表面のコーティングに、本開示組成物を使用できる。本開示組成物は、インプラント可能デバイスの性能または機能を増強するためにも使用できる。例えば、本開示組成物がヒドロゲル薄膜である場合、該ヒドロゲル薄膜が適用されている組織との適合性またはまたは接着を増強させるために、該ヒドロゲル薄膜をガーゼ包帯に適用できる。該ヒドロゲル薄膜は、切開を介して身体内に挿入されているカテーテルまたは結腸フィステルなどのデバイスの周囲にも適用でき、カテーテル/結腸フィステルをしかるべき位置に固定するのを助け、および/または該デバイスと組織との間の空隙を満たして密封を形成し、細菌感染および体液の損失を減少させることができる。
【0166】
一例において、例えば、PLUORONICS(商標)を含む本開示組成物は、例えば、ヒアルロナン、またはヘパリンなどのGAG類と結合して、ヒドロゲルへと自己構成できる。あるいは、本開示組成物の溶液およびGAG類を、例えば、医療用デバイスなどの疎水性表面にコーティングできる。例えば、ヘパリンを、PLUORONICS(商標)を含む親水性ポリマーに結合させることができ、生じたゲルは、望ましい成長結合因子能力を有するが、ヘパリンに関連した抗凝集性は有さない。理論に拘束されることは望まないが、該ヒドロゲルのPLUORONICS(商標)部分が、ヘパリンの望ましくない副作用である凝集を防ぐことができる。
【0167】
当然のことながら、本開示組成物は、組織再生を必要とする対象に適用できる。例えば、移植のために、本明細書における開示組成物内に細胞を組み込むことができる。本開示組成物によって治療することのできる対象の例としては、マウス、ラット、乳牛または畜牛、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、イヌ、およびサル、チンパンジー、オランウータンなどの霊長類、およびヒトなどの哺乳動物が挙げられる。多の態様において、本開示組成物は鳥類に適用できる。
【0168】
創傷または火傷の治癒などの組織再生に関連した領域に使用される場合、開示された組成物および方法は、1つ以上の関連した認容療法に対する必要性を必ずしも排除しない。当然のことながら、開示された組成物および方法のレシピアントによって得られる回復のための時間の長さの減少または回復の質の増加によって、相当の利益が得られる。外科手術などの外傷の結果としての創傷閉鎖の結果として生じる線維性接着を防止または減少させるために、開示された組成物および方法のいくつかが使用できることも当然である。開示された組成物および方法によって提供される、耐細菌性の改善または痛みの減少などの副次的影響は望ましいが、必要ではない。
【0169】
一例において、気道狭窄を防ぐために、本開示組成物を使用できる。声門下狭窄(SGS)は、世界中の数百万人の成人および小児が患っている病態である。後天性SGSの原因は、気道上皮の粘膜損傷から長期挿管の範囲にわたる。挿管患者におけるSGSの既知のリスク要因としては、長期挿管、高圧バルーンカフ、過大な気管内挿入(ET)管、複数抜管、または再挿管、および胃食道還流が挙げられる。狭窄が、外科手術、放射線照射、自己免疫疾患、腫瘍、または他の不明な理由の結果、発現する個体もある。
【0170】
SGSの原因はきわめて多様であるが、全てが共通の1つの態様、閉塞をもたらす気道の狭小化を有する。この狭小化は、最も一般的には、環状軟骨周囲の性質および硬性により、環状軟骨のレベルで生じる。このような原因は、種々のSGSモデル:軟骨細胞の活性化および線維性瘢痕の形成、多形核白血球および扁平上皮異形成を有する慢性炎症細胞の浸潤、および気道管腔における形態計測学的変化において見られている。各々が直ちに注意が必要な問題を提示する。
【0171】
他の例において、任意の本開示組成物を、3−D細胞培養物として使用できる。一例において、ヒドロゲルを凍結乾燥して、結合、増殖、および成長に関して細胞を接種できる多孔性スポンジを作出する。3−Dヒドロゲルのミニアレイおよびマイクロアレイを、例えば、ガラスなどの表面上に作出でき、生じるゲルまたはスポンジは、本明細書に記載された化合物または組成物のいずれかから誘導できることが考慮されている。該培養物は、限定はしないが、実験的療法の有効性または毒性の判定など、多数の実施形態に使用できる。
【0172】
(キット)
さらなる態様において、(1)少なくとも1つの環付加反応性部分を含む親水性ポリマーおよび(2)少なくとも2つの環付加反応性部分を含む架橋剤、を含むキットが、本明細書に開示される。該キットは、触媒も含む。いくつかの例において、該親水性ポリマーは、本明細書に開示された任意の親水性ポリマーであり得る。該親水性ポリマー上の環付加反応性部分も、本明細書に開示された任意のこのような部分であり得る。さらに、該架橋剤およびその環付加反応性部分は、本明細書に開示されたもののいずれかであり得る。該キットの使用は、成分(1)および(2)を、環付加条件下で共に混合することを含む。成分(1)および(2)は、任意の順序で加えることができる。例えば、親水性ポリマーと架橋剤は別々の容器(例えば、シリンジまたはスプレーカン)に入れ、対象に送達する直前にそれらを共に放出させる際に用いてそれらの内容物を混合する(例えば、シリンジからシリンジへの方法またはスプレーカンのノズルを介するスプレーにより)。
【0173】
他の例において、該ポリマー組成物および抗接着化合物および/またはプロヒーリング化合物をキットとして使用できる。例えば、該ポリマー組成物および抗接着化合物および/またはプロヒーリング化合物を別々の容器に入れ、対象に送達する直前に、シリンジからシリンジへの方法を用いてそれらの内容物を混合する。この例では、該ポリマー組成物および抗接着化合物および/またはプロヒーリング化合物を噴出デバイスによりシリンジの開口部から噴出させた後、スパーテルにより混合物を塗布できる。
【0174】
他の例において、該ポリマー組成物および抗接着化合物および/またはプロヒーリング化合物をノズルまたは他のスプレーデバイスを有するスプレーカンまたはスプレーボトルの別々のチャンバーに入れる。この例では、第1の化合物および抗接着化合物および/またはプロヒーリング化合物は、スプレーデバイスのノズルから共に放出されるまでは、実際に混合しない。
【実施例】
【0175】
以下の実施例は、通常の当業者に、本明細書に記載され請求された化合物、組成物、および方法がどのように作製され、評価されるかについての完全な開示および説明を提供するために記載されるが、これらは単に例示を意図しており、当該発明者がかれらの発明と考えているものの範囲を限定することを意図したものではない。数(例えば、量、温度など)に関しては正確さを保証するように努めたが、いくらかの誤差およびずれは考慮する必要がある。他に指示しない限り、部は重量部であり、温度は℃または室温であり、圧力は大気圧またはそれに近い圧力である。反応条件、例えば、成分濃度、所望の溶媒、溶媒混合物、温度、圧力、および製品の純度および記載された方法から得られる収率を最適化するために使用できる他の反応範囲および反応条件の多数の変型および組み合わせが存在する。このような方法条件を最適化するために必要とされるのは、適切なルーチン実験法のみである。
【0176】
本明細書に開示された一定の化合物、組成物、および成分は、市販のものを入手できるか、または当業者に一般的に知られた技法を用いて容易に合成できる。例えば、開示された化合物および組成物の調製に使用される出発材料および試薬は、いずれも、Aldrich Chemical社(ミルウオーキー、ウィスコンシン州)、Acros Organics(モリスプレインズ、ニュージャージー州)、Fisher Scientific(ピッツバーグ、ペンシルベニア州)、またはSigma(セントルイス、ミズーリ州)などの商業供給元から入手できるか、または、Fieser and Fieser’sReagents for Organic Synthesis、第1〜17巻(John WileyおよびSons、1991年);Rodd’s Chemistry of Carbon Compounds、第1〜5巻および補足(Elsevier Science Publishers、1989年);Organic Reactions、第1〜40巻(John WileyおよびSons、1991年);March’s Advanced Organic Chemistry(John WileyおよびSons、第4版)およびLarock’s Comprehensive Organic Transformations(VCH Publisher Inc、1989年)などの文献に記載された操作に従って、当業者に知られた方法によって調製される。
【0177】
(実施例1:アジド官能化ポリマー)
第1に、アジドトルイル酸を、ZhouおよびFahrni(J.Am.Chem.Soc.2004年、126、8862−3頁)の方法に従って合成した。無水エタノール中、24時間還流させて、ブロモトルイル酸を、過剰のアジ化ナトリウムと反応させた。冷却したら、該反応液に等容量の水を加えてから、濃HClを加えて、生成物を沈殿させた。4℃で一晩冷却させることによって、沈殿を完了させた。次いで、該生成物をろ過し、水で洗浄し、減圧下、一晩乾燥した。精製した生成物をHNMRおよび13C NMRにより確認した。収率は一般に、60〜80%の範囲であった。
【0178】
次に、精製アジドトルイル酸を用い、Blankemeyer−Mengeら(Tetrahedron、1990年、31、1701−4頁)と同様のエステル化法に従って、4アームポリ(エチレングリコール)を官能化した。簡単に述べると、乾燥ジクロロメタン中、10当量(eq.)のアジドトルイル酸および10eq.のメチルイミダゾール(MeIm)を、シリンジにより、10eq.のMSNTに加えた。次いで、この混合物を、乾燥ジクロロメタン中に溶解させた1eq.の4アームPEG(MW約10,000Da)に加え、N(気体)下48時間、室温で攪拌させた。48時間後、該反応液を、100mMのNaPOおよび1MのNaSO(pH7)の水溶液で3回洗浄した。次いで、有機層をNaSOで乾燥し、ヘキサン中沈殿させ、回転蒸発により濃縮し、減圧下、一晩乾燥した。精製した生成物をHNMRおよびMALDI質量分析により確認した。収率は一般に、66〜76%の範囲であった。
【0179】
(実施例2:ジアルキン/ジアルケン架橋剤の合成)
HassnerおよびAlexanian(Tetrahedron Lett.1978年、4475−8頁)と同様のエステル化法を用いて、ジペンチン酸エステルPEGを合成した。2.2eq.のペンチン酸を乾燥ジクロロメタン中に溶解した。この溶液に、2.2eq.のジイソプロピルカルボジイミド(DIC)および0.2eq.のピロリジノピリジン(PP)を加え、引き続き、1eq.のPEG(MW約400Da)を加えた。室温で24時間、反応を行った。24時間後、該反応液を、100mMのNaPOおよび1MのNaSO(pH7)の水溶液で3回洗浄した。次いで、有機層をNaSOで乾燥し、ヘキサン中沈殿させ、回転蒸発により濃縮し、減圧下、一晩乾燥した。精製した生成物をHNMRにより確認した。算出収率は一般に、約76%であった。
【0180】
対称無水物法を用いて、ジプロピオル酸PEGを合成した。N(気体)下、2eq.のプロピオル酸を、乾燥DCM中に溶解させた2.4eq.のDICに滴下により加え、水−氷浴中で冷却した。次に、10分後、やはりN(気体)下、乾燥DCM中に溶解させた1eq.のエチレンジオキシビスエチルアミンを、該反応液に加え、水−氷浴中で冷却した。0℃で1時間攪拌後、反応を室温で一晩継続した。生成物を、100%のクロロホルムを用いる液体クロマトグラフィーにより精製して、80%の収率を得、HNMRおよびESI(+)質量分析により確認した。
【0181】
HOBT−エステル法を用いてジノルボルネンエステルPEGを合成した。3eq.のノルボルネンカルボン酸および3eq.のHOBTを乾燥DCM中に溶解させ、クロロホルム−液体窒素浴中で冷却した。次いで、3eq.のDICを冷却溶液に滴下により加えてから、室温で一晩処理した。24時間後、該反応液を、−60℃に再度冷却し、乾燥DCM中、1eq.のテトラエチレングリコールと2eq.のトリエチルアミンの混合物を滴下により加えた。該反応液を室温まで温めてから、一晩攪拌した。HNMRおよびESI(+)質量分析により確認した生成物を、沈殿物を全てろ過することによって精製し、シリカのディスクに該溶液を流通させ、回転蒸発により濃縮し、減圧下、乾燥した。
【0182】
(実施例3:銅触媒ヒドロゲル形成)
1eq.のアジド官能化4アームPEGポリマーおよび2eq.のジペンチン酸エステルPEG架橋剤を、それぞれ0.0169Mと0.0338Mのモル濃度を用いて、別々に水中に溶解させた。次いで、0.1eq.の硫酸銅(II)プラス1eq.のアスコルビン酸ナトリウム、または0.1eq.の硫酸銅(II)プラス1eq.のアスコルビン酸ナトリウムおよび0.1eq.のトリアゾールリガンド(トリス(エチルアセタタトリアゾール)アミンなど)のいずれかの形態における銅(I)触媒(ZhouおよびFahni、J.Am.Chem.Soc.2004年、126、8862−3頁;Chanら、Org.Lett.2004年、6、2853−5頁)を各々のポリマーに加えてから混合した。触媒を加えたら直ちに、2つの液体成分を混合し、37℃で保存した。記載されたすべての条件下でヒドロゲルが形成され、触媒を先ずジアルキン架橋剤に加えた場合、最も速いゲル化時間(15分未満)で生じた。この結果は、Cu(I)が末端アルキンに結合し、次いでアジドの攻撃をさせる銅触媒クリック化学に関する以前に示唆された機序(Rostovtsevら、Angew.Chem.Int.Ed.2002年、41、2596−9頁)によって支持される。
【0183】
(実施例4:無触媒ヒドロゲル形成)
1eq.のアジド官能化4アームPEGポリマーおよび2eq.のヂプロピオルアミドPEG架橋剤を、それぞれ0.169Mと0.338Mのモル濃度を用いて、水中に溶解させた。該反応液を30〜60秒間、または完全に溶解するまでボルテックスしてから、37℃で保存した。48時間以内の混合でヒドロゲルが形成した。
【0184】
(予想的実施例5:系促進アルキン架橋剤の合成)
ジシクロオクチンエステルPEGなどの系促進アルキン架橋剤も使用できる(図4を参照)。シクロオクチン官能化カルボン酸は、Agardらの合成スキーム(Agardら、J.Am.Chem.Soc.2004年、126、15046−7頁)に基づいて合成することができる。ジプロピオルアミドPEGおよびジノルボルネンPEGに関する実施例1に用いた様式と同様の様式で、この環付加反応性部分をエステル化により低MWのPEGに結合することができる。
【0185】
(予想的実施例6:細胞存在下クリックベースのゲル化の生体適合性)
細胞存在下で、形成したクリックベースのヒドロゲルの細胞毒性を評価することができる。1)2部のポリマー系(触媒有りと触媒無し)を混合し、直ちに(ゲル化前に)該混合物を細胞単層の表面に適用すること、および2)2つのポリマー部のうちの1つに細胞を懸濁させてから、混合しゲル化させる。これらの試験は、L929マウス線維芽に対する生/死細胞毒性アッセイを用いて実施できる。ゲル化溶媒として、水を細胞培養培地に替えることができる。
【0186】
明らかな、ならびに本発明に固有の他の利点は、当業者に明白であろう。当然のことながら、一定の特徴および副次的組み合わせが利用され、他の特徴および副次的組み合わせの記述がなくても使用できる。これは、請求項により考慮されており、それらの範囲内にある。本発明の範囲から逸脱することなく、多くの可能な実施形態が本発明から構成でき、当然のことながら、本明細書に記載された、または添付の図面に示された全ての事項は、例示として解釈すべきであって、限定の意味はない。
【図面の簡単な説明】
【0187】
本明細書に組み込まれ、その一部をなしている添付の図面は、下記のいくつかの態様を示している。
【図1】図1は、クリック化学を用いたインサイチュゲル化の略図である。4アームPEGなどのアジド官能化、多分枝および親水性ポリマー、ならびに親水性ジアルキン架橋剤を用い、水中で架橋ヒドロゲルを形成できる。このトリアゾール形成環付加反応では、銅(I)触媒を使用してもよいし、無触媒でもよい(例えば、電子不足アルキン類を用いることにより)。
【図2】図2は、ポリマーおよび架橋剤の合成のための略図群である。略図2Aは、4アームPEG官能化(略図2B)の前に合成されたアジドトルイル酸の合成を示している。ジアルキンおよびジアルケンの架橋剤合成は、ジペンチノンエステルPEG(略図C)、ジプロピオルアミドPEG(略図D)、およびジノルボルネンエステルPEG(略図E)に関して示されている。
【図3】図3は、触媒クリック化学および無触媒クリック化学によるヒドロゲル形成を示す一対の写真である。左の写真は、水中、0.0169Mのアジド官能化4アームPEG、0.0338Mのジ(ペンチノンエステル)PEG架橋剤、0.00169Mの硫酸銅(II)、および0.0169Mのアスコルビン酸ナトリウムを用いて形成された伝統的なクリック化学ベースのヒドロゲルの代表的な画像である。ゲル化は、37℃で15分間以内のインキュベーションで形成される。右の写真は、水中48時間のインキュベーション後、0.169Mのアジド官能化4アームPEG、0.0338Mのジ(プロピオルアミド)エチレングリコール(化学構造は図2に示されている)を用いて形成された無触媒クリックヒドロゲルの代表的な画像である。
【図4】図4は、シクロオクチン官能化架橋剤の合成を示す略図である。この環状ひずみアルキン架橋剤は、環状ひずみノルボルネン架橋剤(例えば、図2の略図E)で見られるものと同様な多価アジド官能化プライマーによる無触媒クリックヒドロゲルの形成を促進できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性ポリマー残基および架橋剤残基を含むポリマー組成物であって、前記親水性ポリマー残基が、環化付加反応から形成された部分によって架橋剤残基に結合され、前記ポリマー組成物が、光活性化2+2環化付加反応によって架橋されたポリアクリルアミドではないポリマー組成物。
【請求項2】
前記ポリマー組成物が、式I:
L−(Z−R) (I)
を有する1つ以上の部分を含み、
式中Lは、架橋剤残基であり、Rは、親水性ポリマー残基であり、Zは、前記環化付加反応から形成された部分であり、nは少なくとも2である請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記親水性ポリマー残基が、3+2環化付加反応から形成された部分によって前記架橋剤残基に結合される請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記親水性ポリマー残基が、2+2環化付加反応から形成された部分によって前記架橋剤残基に結合される請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
環化付加反応から形成された前記部分が、トリアゾール部分である請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
環化付加反応から形成された前記部分が、トリアゾリン部分である請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
前記親水性ポリマー残基が、ホモポリマーを含む請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項8】
前記親水性ポリマー残基が、ブロック、グラフト、またはグラフトくし型コポリマーを含む請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項9】
前記親水性ポリマー残基が、約2,000Daから約2,000,000Daまでの分子量を有する請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項10】
前記親水性ポリマー残基が、ポリエチレンオキシドまたはポリプロピレンオキシドを含む請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項11】
前記親水性ポリマー残基が、ポリ(オルトエステル)、ポリ(エーテル−エステル)、ポリ(エステル−アミド)、ポリ(エステル−ウレタン)、ポリホスホネートエステル、ポリホスホエステル、ポリ無水物、またはポリホスファゼンを含む請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項12】
前記親水性ポリマー残基が、マルチアームポリマーを含む請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項13】
前記マルチアームポリマーが、2、3、4、5、6、7、8、9、または10アームのポリエチレングリコールを含む請求項12に記載のポリマー組成物。
【請求項14】
前記親水性ポリマー残基が、デンドリマーを含む請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項15】
前記デンドリマーが、ポリ(プロピレンイミン)(DAB)デンドリマー、ベンジルエーテルデンドリマー、フェニルアセチレンデンドリマー、カルボシランデンドリマー、コンバージェントデンドリマー、ポリアミンデンドリマー、またはポリアミドデンドリマーを含む請求項14に記載のポリマー組成物。
【請求項16】
前記親水性ポリマー残基が、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリレート)、またはポリ(2−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)のホモポリマーまたはコポリマーを含む請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項17】
前記親水性ポリマー残基が、ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)−ポリ(エチレンオキシド)のトリブロックポリマーを含む請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項18】
前記トリブロックポリマーが、約1,000Daから約100,000Daまでの分子量を有する請求項17に記載のポリマー組成物。
【請求項19】
前記トリブロックポリマーが、PEO103−PPO39−PEO103、PEO132−PPO50−PEO132、またはPEO100−PPO65−PEO100、PEO103−PPO39−PEO103、PEO132−PPO50−PEO132、またはPEO100−PPO65−PEO100を含む請求項17に記載のポリマー組成物。
【請求項20】
前記親水性ポリマー残基が、ポリアクリル酸、ポリ(メタ)クリレート、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロアミド類、ポリ(アルキルシアノアクリレート類)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリエチレングリコールジアクリレート、またはポリエチレングリコールジメタクリレートのホモポリマーまたはコポリマーを含む請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項21】
前記親水性ポリマー残基が、ポリグルクロン酸、ポリアスパラギン酸、ポリ酒石酸、ポリグルタミン酸、ポリフマル酸、ポリラクチド、またはポリグリコリド、ポリエチレンイミン、またはポリリジンのホモポリマーまたはコポリマーを含む請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項22】
前記親水性ポリマー残基が、ポリヒドロキシアルカノエート類、ポリ(プロピレンフマレート)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルポリピロリドン、またはポリビニルN−メチルピロリドンのホモポリマーまたはコポリマーを含む請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項23】
前記親水性ポリマー残基が、アミノデキストラン、デキストラン、DEAE−デキストラン、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、キトサン、デルマタン、デルマタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン、ヘパラン硫酸、カラゲナン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、酸−加水分解的分解ゼラチン、またはアガロースを含む請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項24】
前記親水性ポリマー残基が、澱粉、グリコーゲン、ペクチン、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルアミロース、カルボキシポリメチレン、またはカルボキシメチルセルロースを含む請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項25】
前記親水性ポリマー残基が、ヒアルロン酸、ヒアルロナン、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウム、ヒアルロン酸マグネシウム、またはヒアルロン酸カルシウムを含む請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項26】
前記架橋剤残基が、ジ−、トリ−、テトラ−、ペンタ−、ヘキサ−、ヘプタ−、オクタ−、ノナ−、またはデカ−価の架橋剤である請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項27】
前記架橋剤残基が親水性である請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項28】
前記架橋剤残基が、C〜C分枝鎖または直鎖アルキルを含む請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項29】
前記架橋剤残基が、C〜C分枝鎖または直鎖アルコキシを含む請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項30】
前記架橋剤残基が、メトキシメチル、メトキシエチル、メトキシプロピル、メトキシブチル、エトキシメチル、エトキシエチル、エトキシプロピル、プロポキシメチル、プロポキシエチル、メチルアミノメチル、メチルアミノエチル、メチルアミノプロピル、メチルアミノブチル、エチルアミノメチル、エチルアミノエチル、エチルアミノプロピル、プロピルアミノメチル、プロピルアミノエチル、メトキシメトキシメチル、エトキシメトキシメチル、メトキシエトキシメチル、またはメトキシメトキシエチルを含む請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項31】
前記架橋剤残基が、mが2から10である式−(OCHCH−を含む請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項32】
前記ポリマー組成物が、ラミネート、ゲル、ビーズ、スポンジ、フィルム、メッシュ、またはマトリックスを含む請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項33】
前記ポリマー組成物が、ヒドロゲルを含む請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項34】
前記ポリマー組成物が、1種以上の生物活性剤をさらに含む請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項35】
前記生物活性剤が、成長因子、抗炎症剤、抗癌剤、鎮痛剤、抗感染症剤、抗ウィルス剤、ホルモン、抗体、または治療用タンパク質を含む請求項34に記載のポリマー組成物。
【請求項36】
前記ポリマー組成物が、1種以上のプロドラッグをさらに含む請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項37】
前記ポリマー組成物が、抗接着化合物に結合されている請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項38】
前記抗接着化合物が、抗癌剤、抗増殖剤、PKC阻害剤、ERKまたはMAPK阻害剤、cdc阻害剤、抗有糸分裂剤、DNAインターカレーター、PI3キナーゼの阻害剤、または抗炎症剤を含む請求項37に記載のポリマー組成物。
【請求項39】
前記ポリマー組成物が、プロヒーリング化合物に結合されている請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項40】
前記プロヒーリング化合物が、タンパク質、合成ポリマー、多糖類、または成長因子を含む請求項39に記載のポリマー組成物。
【請求項41】
前記ポリマー組成物が生分解性である請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項42】
前記ポリマー組成物が、ペプチドによって生分解され得る請求項41に記載のポリマー組成物。
【請求項43】
1つ以上の環化付加反応性部分を含む親水性ポリマーと、2つ以上の環化付加反応性部分を含む架橋剤とを接触させることを含む、ポリマー組成物を作製する方法であって、前記環化付加反応性部分が環化付加反応を受けてポリマー組成物を提供し、前記ポリマー組成物が、光活性化2+2環化付加反応により架橋されたポリアクリルアミドではない、方法。
【請求項44】
前記環化付加反応部分が、3+2環化付加反応を受ける請求項43の記載の方法。
【請求項45】
前記環化付加反応部分が、2+2環化付加反応を受ける請求項43の記載の方法。
【請求項46】
前記親水性ポリマーおよび架橋剤が、約0から約8までのpHで接触される請求項43の記載の方法。
【請求項47】
前記親水性ポリマーおよび架橋剤が、約4から約8までのpHで接触される請求項43の記載の方法。
【請求項48】
前記親水性ポリマーおよび架橋剤が、水性媒体または生体液中で接触される請求項43の記載の方法。
【請求項49】
前記親水性ポリマーおよび架橋剤が、約マイナス4℃から約90℃までにおいて接触される請求項43の記載の方法。
【請求項50】
前記親水性ポリマーおよび架橋剤が、約25℃から約37℃までにおいて接触される請求項43の記載の方法。
【請求項51】
前記親水性ポリマーおよび架橋剤が、細胞、生体分子、組織、または塩類の存在下で接触される請求項43の記載の方法。
【請求項52】
前記親水性ポリマーおよび架橋剤が、生物活性剤、抗接着化合物、またはプロヒーリング化合物の存在下で接触される請求項43の記載の方法。
【請求項53】
前記親水性ポリマーおよび架橋剤が、触媒の不在下で接触される請求項43の記載の方法。
【請求項54】
前記親水性ポリマーおよび架橋剤が、触媒の存在下で接触される請求項43の記載の方法。
【請求項55】
前記触媒が銅を含む請求項54の記載の方法。
【請求項56】
前記触媒が、硫酸銅、臭化銅、またはヨウ化銅を含む請求項54の記載の方法。
【請求項57】
前記触媒が、還元剤とさらに組合わされる請求項54の記載の方法。
【請求項58】
前記還元剤が、アスコルビン酸ナトリウムまたはトリス(カルボキシエチル)ホスフィンを含む請求項57の記載の方法。
【請求項59】
前記触媒が、安定化リガンドとさらに組合わされる請求項54の記載の方法。
【請求項60】
前記安定化リガンドが、トリス−トリアゾリル化合物である請求項59の記載の方法。
【請求項61】
前記親水性ポリマーが、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10の環化付加反応性部分を含む請求項43の記載の方法。
【請求項62】
前記環化付加反応性部分が、親双極子を含む請求項61の記載の方法。
【請求項63】
前記親双極子が、電子不足親双極子である請求項62の記載の方法。
【請求項64】
前記親双極子が、アルケンまたはアルキンを含む請求項62の記載の方法。
【請求項65】
前記環化付加反応性部分が、1,3−双極子基を含む請求項61の記載の方法。
【請求項66】
前記1,3−双極子基が、アジドを含む請求項65の記載の方法。
【請求項67】
前記1,3−双極子基が、ジアゾアルカン、亜酸化窒素、ニトリルイリド、ニトリルイミン、ニトリルオキシド、アゾメチンイリド、アゾメチンイミン、ニトロン、アジミン、アゾキシ基、ニトロ基、カルボニルイリド、カルボニルイミン、カルボニルオキシド、ニトロシミン、ニトロソキシド、またはオゾンを含む請求項65の記載の方法。
【請求項68】
前記親水性ポリマーが、1,3−双極子基および親双極子を含む請求項61の記載の方法。
【請求項69】
前記架橋剤が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10の環化付加反応性部分を含む請求項43の記載の方法。
【請求項70】
前記環化付加反応性部分が、親双極子を含む請求項69の記載の方法。
【請求項71】
前記親双極子が、電子不足親双極子である請求項70の記載の方法。
【請求項72】
前記親双極子が、アルケンまたはアルキンを含む請求項70の記載の方法。
【請求項73】
前記環化付加反応性部分が、1,3−双極子基を含む請求項69の記載の方法。
【請求項74】
前記1,3−双極子基が、アジドを含む請求項73の記載の方法。
【請求項75】
前記1,3−双極子基が、ジアゾアルカン、亜酸化窒素、ニトリルイリド、ニトリルイミン、ニトリルオキシド、アゾメチンイリド、アゾメチンイミン、ニトロン、アジミン、アゾキシ基、ニトロ基、カルボニルイリド、カルボニルイミン、カルボニルオキシド、ニトロシミン、ニトロソキシド、またはオゾンを含む請求項73の記載の方法。
【請求項76】
前記架橋剤が、1,3−双極子基および親双極子を含む請求項69の記載の方法。
【請求項77】
前記親水性ポリマー上の前記環化付加反応性部分が、1,3−双極子基を含み、前記架橋剤上の前記環化付加反応性部分が、親双極子を含む請求項43の記載の方法。
【請求項78】
前記親水性ポリマー上の前記環化付加反応性部分が、アジドを含み、前記架橋剤上の前記環化付加反応性部分が、アルキンを含む請求項77の記載の方法。
【請求項79】
前記親水性ポリマー上の前記環化付加反応性部分が、親双極子を含み、前記架橋剤上の前記環化付加反応性部分が、1,3−双極子基を含む請求項43の記載の方法。
【請求項80】
前記親水性ポリマー上の前記環化付加反応性部分が、アルキンを含み、前記架橋剤上の前記環化付加反応性部分が、アジドを含む請求項79の記載の方法。
【請求項81】
前記ポリマー組成物が、生物活性剤、プロドラッグ、抗接着化合物、またはプロヒーリング化合物とさらに接触される請求項43の記載の方法。
【請求項82】
前記ポリマー組成物がヒドロゲルである請求項43の記載の方法。
【請求項83】
前記ポリマー組成物が生分解性である請求項43の記載の方法。
【請求項84】
請求項43から83のいずれか一項に記載の方法により調製されたポリマー組成物。
【請求項85】
生物活性剤および請求項1から42、または84のいずれか一項に記載のポリマー組成物を含む製薬組成物。
【請求項86】
創傷治癒の改善が必要な対象における創傷治癒を改善する方法であって、前記対象の前記創傷と、請求項1から42または84から85のいずれか一項に記載のポリマー組成物とを接触させることを含む、方法。
【請求項87】
少なくとも1種の生物活性剤の送達が必要な患者に該生物活性剤を送達する方法であって、前記生物活性化合物を受容することができる少なくとも1つの組織と、請求項1から42または84から85のいずれか一項に記載のポリマー組成物とを接触させることを含む、方法。
【請求項88】
成長因子、抗炎症剤、抗癌剤、鎮痛剤、抗感染症剤、抗細胞付着剤、抗ウィルス剤、ホルモン、抗体、または治療用タンパク質としての、請求項1から42または84から85のいずれか一項に記載のポリマー組成物の使用。
【請求項89】
鼓膜穿孔を修復するための請求項1から42または84から85のいずれか一項に記載のポリマー組成物の使用。
【請求項90】
FESS中またはFESS後の腔の閉鎖を防止するための請求項1から42または84から85のいずれか一項に記載のポリマー組成物の使用。
【請求項91】
FESS後の治癒を促進するための請求項1から42または84から85のいずれか一項に記載のポリマー組成物の使用。
【請求項92】
FESS後の瘢痕を軽減するための請求項1から42または84から85のいずれか一項に記載のポリマー組成物の使用。
【請求項93】
外科手術後の癒着を防止するための請求項1から42または84から85のいずれか一項に記載のポリマー組成物の使用。
【請求項94】
前記外科手術処置が、心臓外科手術および関節外科手術、腹部外科手術、尿生殖部で実施される外科手術処置、腱を含む外科手術処置、ラパラスコーピック(laparascopic)外科手術、骨盤外科手術、腫瘍学的外科手術、腔および頭蓋顔面外科手術、ENT外科手術、または脊髄硬膜修復を含む処置を含む請求項93に記載の使用。
【請求項95】
気道狭窄を防止するための請求項1から42または84から85のいずれか一項に記載のポリマー組成物の使用。
【請求項96】
声帯ひだ修復のための請求項1から42または84から85のいずれか一項に記載のポリマー組成物の使用。
【請求項97】
一次細胞または不死化細胞の増殖を助けるための請求項1から42または84から85のいずれか一項に記載のポリマー組成物の使用。
【請求項98】
腫瘍細胞、線維芽細胞、軟骨細胞、幹細胞、上皮細胞、神経細胞、肝臓由来細胞、内皮細胞、心細胞、筋細胞、または骨芽細胞の増殖を助けるための請求項1から42または84から85のいずれか一項に記載のポリマー組成物の使用。
【請求項99】
骨または軟骨修復のための請求項1から42または84から85のいずれか一項に記載のポリマー組成物の使用。
【請求項100】
皮膚の生存を延長させるための請求項1から42または84から85のいずれか一項に記載のポリマー組成物の使用。
【請求項101】
外科処置後、瘢痕のない創傷治癒を促進するための請求項1から42または84から85のいずれか一項に記載のポリマー組成物の使用。
【請求項102】
請求項1から42または84から85のいずれか一項に記載のポリマー組成物でコーティングされた製品。
【請求項103】
前記製品が、縫合糸、クラップ、ステント、プロステーシス、カテーテル、金属ねじ、骨プレート、ピン、または包帯である請求項102に記載の製品。
【請求項104】
少なくとも1つの環化付加反応性部分を含む親水性ポリマーおよび少なくとも2つの環化付加反応性部分を含む架橋剤を含むキット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2009−508991(P2009−508991A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−531208(P2008−531208)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【国際出願番号】PCT/US2006/035235
【国際公開番号】WO2007/035296
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(506051429)ユニバーシティ オブ ユタ リサーチ ファウンデーション (25)
【Fターム(参考)】