説明

ポリラクチドを含むポリマー組成物

本発明は、アニオン性粘土鉱物に結合したポリ−D−ラクチドおよびポリ−L−ラクチドのうちの一つと、該アニオン性粘土鉱物に結合していないポリ−D−ラクチドおよびポリ−L−ラクチドの他方とを含むポリマー組成物に関する。好ましい実施態様において、該アニオン性粘土鉱物はハイドロタルサイト又はメイクスネライトである。本発明に従う該ポリラクチド組成物は、高い重合速度と該系中における混入物質の低い量とを兼ね備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリラクチドを含むポリマー組成物に、該ポリマー組成物を製造する為の方法に、該組成物から得られた成形品に、および該成形品を製造する為の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリラクチドは、汎用性生分解性ポリマーとして最近注目を引きつける生分解性ポリマーである。該ポリマーが由来するラクチルユニットはキラル中心を有するので、ポリラクチドは、多くの立体化学的コンフィギュレーションで存在する。ポリ−L−ラクチドは、L−ラクチルユニットから作られる;ポリ−D−ラクチドは、D−ラクチルユニットから作られる。L−ラクチルユニットおよびD−ラクチルユニットを両方含むポリマーは、ラクチド−コポリマーとして示される。
【0003】
その立体化学により、ポリラクチドは、非晶質または半結晶性でありうる。後者は特に、ポリ−D−ラクチドおよびポリ−L−ラクチドのホモポリマーにあてはまる。しかしながら、これらのポリエステルの結晶化速度は比較的遅い。これは多くの不利点を有し、その一つは射出成形の場合、該組成物が、結晶化により十分に堅くなって容易な離型を許すのに長い時間を要することである。迅速なポリマー結晶化は、型中における短い冷却時間を許し、短いサイクル時間をもたらし、これは射出成形による品物の商業的生産にとって望ましい。
【0004】
或る種の立体化学を有するポリラクチドの結晶化速度(crystallisation rate)が、少量の他種のポリラクチドの存在により増大されうることがわかり、これは鏡像異性体ポリマーの立体選択的な会合により、高融点のステレオコンプレックスな結晶(stereocomplex crystals)の形成をもたらす。
【0005】
欧州特許出願第1681316号明細書および対応する米国特許出願公開第2007/0032631号明細書は、増大した結晶化速度を有するポリラクチド組成物を記載し、該組成物はポリラクチド層状粘土鉱物の結合体を含み、該結合体は層状粘土鉱物と、該層状粘土鉱物に結合したポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸のうちの一つ、ならびに該層状粘土鉱物に結合していないポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸の他方とからなる。該層状粘土鉱物に結合した該ポリマーは、該粘土鉱物に結合していない鏡像体カウンターパートと一緒になって、該結晶化工程において核形成剤として働くステレオコンプレックスを形成するであろう。この刊行物において用いられる該層状粘土鉱物は、カチオン性の粘土鉱物、たとえばスメクタイト、モンモリロナイト、バイデライト、カオリナイト、バーミキュライト、またはマイカなどである。該層状粘土鉱物は、ヒドロキシル基を含む有機オニウム化合物と組み合わされる。該オニウム化合物は、イオン交換により該粘土プレートレットの間の層間に導入される。このように得られた粘土鉱物が、乳酸またはラクチドの重合可能なモノマーと結合され、および有機オニウム塩のヒドロキシル基から重合される。
【0006】
欧州特許出願第1681316号明細書の方法は多くの不利点を有することが分かった。第一に、該層状粘土中に存在する該オニウム化合物が、最終産物に行きつくであろう。この種の有機オニウム化合物は、該ポリマーマトリックスとの反応の傾向があり、そしてすなわち、その減成をもたらしうる。該ポリマーマトリックスの変色も発生しうる。さらに、オニウムの化合物の存在は、物質が医療目的または食品目的の為に製造される場合、魅力的でない。さらに、粗い粘土鉱石の念入りな脱塩後に、該精製された粘土鉱物は二段階プロセス(該オニウム化合物の反応、続いて、該乳酸の反応)により加工される必要があり、それ自体魅力的でない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、欧州特許出願第1681316号明細書に記載された方法の不利点を患わない、高い結晶化速度を有し且つ改善された溶融コンパウンディング特性を有する、ポリラクチドを含むポリマー組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アニオン性粘土鉱物に結合したポリ−D−ラクチドおよびポリ−L−ラクチドのうちの一つと、該アニオン性粘土鉱物に結合していないポリ−D−ラクチドおよびポリ−L−ラクチドの他方を含むポリマー組成物に関する。
【0009】
国際公開第2006/000550号パンフレットが、無機アニオン性粘土と環状モノマー、たとえばラクチドのような環状エステルなど、との混合物を調製するステップ、そして、該モノマーを重合するステップにより得られたポリマー含有組成物を記載することが注目される。この文献は、エナンチオマーの使用について何も記載していない。
【0010】
米国特許出願公開第2004/0110884号明細書は、ブロックコポリマーによりインターカレートされた粘土を記載し、ここで該ブロックコポリマーは該粘土にインターカレートすることができる親水性ブロックとポリ乳酸などの新油性ブロックとを含む。この文献は、エナンチオマーの使用について何も記載していない。
【0011】
日本国特許出願公開第2003−128900号公報は、D−ラクチドおよびL−ラクチドの両方を含む、PLAに基づく自動車部品を記載する。アニオン性粘土に結合したこれらのうちの一つの使用は開示されていない。粘土は、無機フィラーとして開示されているが、カチオン性粘土だけが開示されている。
【0012】
米国特許出願公開第2008/0039579号明細書は、L−ラクチドポリマーおよびD−ラクチドポリマーを混合すること、続いて、加熱することにより得られたPLAを記載する。ハイドロタルサイトが、可能な結合剤として言及されている。アニオン性粘土に結合したこれらのうちの一つの使用は開示されていない。
【0013】
A. Sorrentinoら (Trends in Food Science & Technology 18 (2007) 84-95)は、一般に、ナノコンポジットとして示される剥離したまたはインターカレートされた粘土鉱物を製造する為の種々の製造経路、および、PLAなどのバイオポリマーにおけるそれらの使用を記載する。立体選択性の事項は扱われていない。
【0014】
Kirk Othmer 2004 Chapter Polylactides (P. Degree and P. Dubois)は、in situ合成による、粘土のPLAによるインターカレーションを記載する。D−PLA対L−PLAの使用は記載されていない。
【0015】
S.S. Rayら( New Polylactide/Layered Silicate Nanocomposites. 1. Preparation, Characterisation, and Properties, Macromolecules 2002, 35, 3104-3111)は、PLAとモンモリロナイトの溶融押出により製造されたナノコンポジットの製造を記載する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明が以下に説明される。
【0017】
アニオン性粘土は、層状の無機酸化物(水酸化物)であって、該無機酸化物(水酸化物)層は電荷不足を有し、これは電荷平衡化アニオン(charge-balancing anions)により補われる。該電荷平衡化アニオンは、粘土層の間の層間に、該粘土層の端に、または該重ねられた粘土層の外側表面に置かれうる。
【0018】
ハイドロタルサイト様アニオン性粘土において、ブルーサイト様メイン層は、層間と交互に、八面体からできており、該層間に水分子およびアニオン、より特には炭酸イオン、が分布される。一般に、該層間は、アニオン、例えば硝酸イオン、水酸化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、またはモノカルボキシレート、例えばアセテートイオン、ジカルボキシレートイオン、例えばオキサレートイオン、およびアルキルスルホネートイオン、例えばラウリルスルホネートイオンなど、のような有機アニオンを含みうる。ハイドロタルサイトは、天然に生じるアニオン性粘土の例であり、これにおいて炭酸イオンが、該層間に存在する主なアニオンである。メイクスネライト(Meixnerite)はアニオン性粘土であって、ヒドロキシルイオンが、該層間に存在する主なアニオンである。
【0019】
種々の語が、本明細書内においてアニオン性粘土として呼ばれる物質を表す為に用いられることが注目されるべきである。ハイドロタルサイト様および層状複水酸化物(layered double hydroxide)は、当技術分野の当業者により交換可能に用いられる。本明細書内において、該物質は、アニオン性粘土と呼ばれ、その語内に、語「ハイドロタルサイト様物質」および「層状複水酸化物物質」を含む。ハイドロタルサイト様層状複水酸化物と一緒に、二価および三価の金属水酸化物およびそれらのヒドロキシ塩(hydroxy salts)が実際は、正に荷電した水酸化物層と該層間領域にインターカレートしたアニオンとからなるアニオン性粘土である。本発明内において、ハイドロタルサイトおよびメイクスネライトの使用、特にはメイクスネライトの使用が好ましい。合成の粘土鉱物の使用は一般に、天然粘土鉱物の使用を超えて好ましく、なぜなら粘土鉱物の合成において、該粘土の特性(膨潤特性、イオン交換能、粒子サイズ、および積層度(degree of stacking)を含む)が制御されうるからである。
【0020】
適したアニオン性粘土は、一般式
【化1】

をみたすものを含み、
ここでM2+は二価金属イオン、例えばZn、Mn、Ni、Co、Fe、およびMgの二価イオンであり、M3+は三価金属イオン、例えばAl、Cr、Fe、Co、およびGaの三価イオンであり、mおよびnはm/n=1〜10であるような値を有し、かつ、bは0〜10の値を有する。Xは、電荷平衡化イオンであり、例えば水酸化イオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、硝酸イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、スルホン酸イオン、硫酸イオン、重硫酸イオン、バナデートイオン、タングステートイオン、ボレートイオン、ホスフェートイオン、およびピラーリングアニオン、例えば国際公開第2006/058846号パンフレットにおいて開示されたものなど、である。
【0021】
一つの実施態様において、M2+は、Zn、Fe、およびMgから選ばれる金属の二価金属イオンおよびそれらの混合物である。
【0022】
一つの実施態様において、M3+は、Al、Feから選ばれる金属の三価金属イオンおよびそれらの混合物である。
【0023】
本発明における使用にとって適したアニオン性粘土は、ハイドロタルサイトおよびハイドロタルサイト様アニオン性粘土(層状複水酸化物(LDH)とも呼ばれる)を含む。
【0024】
好ましい実施態様において、該出発のアニオン性粘土中の荷電平衡化イオンXは、水酸化物イオン、炭酸イオンもしくは重炭酸イオン((mono or bi) carbonate)、硝酸イオン、硫酸イオン、およびそれらの混合物を含む。
【0025】
本発明の好ましい実施態様において、該アニオン性粘土は以下の一般式を満たし、
【化2】

ここで、mおよびnはm/n=1〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは2〜4、最も好ましくは2.5〜3.5であるような値を有し;bは0〜10の値、一般的には2〜6の値、しばしば2.5〜3.5の値を有する;および、Xは水酸化物イオン(hydroxide)、炭酸イオン、重炭酸イオン、および硝酸イオンから選ばれる電荷平衡化イオンである。
【0026】
該アニオン性粘土は、Cavaniら (Catalysis Today, 11 (1991), pp.173-301)により又はBookinら(Clays and Clay Minerals, (1993), Vol. 41 (5), pp.558-564)により記載されたように、当技術分野において知られた任意の結晶形、例えば、3H1、3H2、3R1、または3R2のスタッキングなど、を有しうる。
【0027】
アニオン性粘土鉱物は、粘土プレートレット(clay platelets)からできている。該粘土プレートレットの積層度は、層の間の空間の近接性(accessibility)についての尺度でありうる。本発明の一つの実施態様において、該アニオン性粘土が、スタック当たり20シートを超えない積層度を有することが好ましい。このパラメーターは、透過電子顕微鏡およびXRDにより決定されうる。特に好ましい実施態様において、該粘土プレートレットの平均積層度は、スタック当たり10プレートレット以下、より好ましくはスタック当たり5プレートレット以下、最も好ましくはスタック当たり3プレートレット以下である。下限は、言うまでもなく、積層されていない粘土プレートレットにより構成され、これは1の「積層度」を有する。
【0028】
積層した粘土において、該層間の近接性もまた、個々の粘土層の間の距離に依存するであろう。好ましくは、本発明に従うアニオン性粘土に基づく層の間の距離は、少なくとも1.0nm、より好ましくは少なくとも1.5nm、最も好ましくは少なくとも2nmである。個々の層の間の距離は、d(001)反射の位置からのX線回折を用いて決定されることができる。
【0029】
本発明において、アニオン性粘土に結合したポリ−L−ラクチド又はポリ−D−ラクチドが使用される。本明細書において、語「結合した」は、ポリ−L−ラクチド又はポリ−D−ラクチドが該アニオン性粘土の層間にインターカレートされていることをいう。該アニオン性粘土の層間にインターカレートされている該ポリマーは、比較的多量のポリマーが、アニオン性粘土のグラム当たりで存在しうるという利点を有することが注目され、これは資源の効率的な使用をもたらす。さらに、かさばったポリラクチドマクロ分子によるインターカレーションは、粘土の層間を広げ、そして、粘土プレートレット間の密着力を弱め、これはポリマー又は有機溶媒中でのこれらの有機的に加工された粘土プレートレットのより容易な剥離および分散を結果する。
【0030】
一つの実施態様において、該ポリ−L−ラクチド又はポリ−D−ラクチドは、該アニオン性粘土の層間にインタカレートされ、および、その末端基を介して、該粘土プレートレット上の電荷不足部位へと、例えばイオン交換により、結合される。
【0031】
いずれの理論によりとらわれることを望まないで、本発明の効果は、このように有機的に修飾されたアニオン性粘土に結合した一方の立体化学のポリラクチドと、該アニオン性粘土に結合していない、対する立体化学のポリラクチドとの間のステレオコンプレックスな結晶(stereocomplex crystals)の形成からもたらされると考えられる。該PLA立体的結晶は少なくとも190℃の融点を有するので、これらの物質の存在が、改善された熱抵抗を有するポリマー組成物を結果する。一つの実施態様において、すなわち本発明は、アニオン性粘土鉱物に結合したポリ−L−ラクチドおよびポリ−D−ラクチドのうちの一つと、該アニオン性粘土鉱物に結合していないポリ−L−ラクチドおよびポリ−D−ラクチドのうちの他方とを含む組成物であって、少なくとも190℃の融点を有するPLAステレオコンプレックスを含む前記組成物にも関する。
【0032】
この効果を得る為に、該アニオン性粘土に結合したポリマーは、ある程度の重合度を有するべきである。
【0033】
該アニオン性粘土にに結合した該ポリマーのある程度の理論上の重合度を得るための一つの方法は、該アニオン性粘土の陰イオン交換能(AEC)および該系に加えられたモノマーの量から得られる。完全な重合を仮定し並びにアニオン性部位が該重合に寄与すること及び該系において他の重合開始剤がないことを仮定すると、理論上の平均重合度(TADP)は以下の式:

から計算されうる。
【0034】
該アニオン性粘土に結合したポリ−L−ラクチド又はポリ−D−ラクチドにとって、少なくとも6のTADPを有することが好ましい。一つの実施態様において、ラクチルユニット(lactyl-units)として表される、該TADPは少なくとも8であり、より特には少なくとも10である。
【0035】
該アニオン性粘土に結合した該ポリ−L−ラクチド又はポリ−D−ラクチドは一般に、最大で50,000グラム/モルの最大分子量を有する。もし該ポリマーの該分子量がその値より上になるならば、ステレオコンプレックスの形成はより効率的でなくなる。別の言い方をすれば、該組成物は一般に、ラクチルユニットの点で表される、最大で700のTADPを有する。
【0036】
該アニオン性粘土に結合したポリ−L−ラクチド又はポリ−D−ラクチドを有する該アニオン性粘土は、多くの方法で製造されうる。
【0037】
一つの実施態様において、アニオン性粘土は該ポリマーと混合され、そして該ポリマーが該粘土に吸収されることが許される。必要に応じて、この方法は、該ポリラクチドについての溶液中で実施されうる。吸着方法を、該吸着効率を改善するための高められた温度で実施することも可能である。
【0038】
他の実施態様において、アニオン性粘土はラクチドと一緒にされ、そして該ラクチドが重合されて、ポリ−L−ラクチド又はポリ−D−ラクチドを形成する。
【0039】
さらなる実施態様において、アニオン性粘土は乳酸と接触させられ、そして該乳酸が重合工程に付される。
【0040】
本発明に従うポリマー組成物は、該アニオン性粘土に結合したポリラクチドと該アニオン性粘土に結合していないその鏡像体とを含む。
【0041】
本発明の一つの実施態様において、該アニオン性粘土に結合していない該ポリラクチドは、ポリ−L−ラクチドおよびポリ−D−ラクチドの混合物を含む。ポリ−L−ラクチド単独又はポリ−D−ラクチド単独の使用と比較して、この混合物の使用は有利であり、なぜなら当該混合物がより高い融点およびより高い結晶化速度を有するからであり、これは、それを、この発明に従うアニオン性粘土と一緒にすることによりさらに改善されうる。この実施態様において、ポリ−L−ラクチドおよびポリ−D−ラクチドの混合物において、2つの鏡像体の間の比は一般に、99:1〜1:99、好ましくは90:10〜10:90、より好ましくは70:30〜30:70、さらにより好ましくは40:60〜60:40である。該二つの成分の間の量において差がより大きい場合、より少ないステレオコンプレックスが形成されるであろうこと、およびそれゆえに本発明により得られる該効果がより顕著でなくなるであろうことが考えられる。該アニオン性粘土に結合していない該ポリラクチドが混合物を含む実施態様において、該アニオン性粘土に結合した該ポリラクチドはポリ−D−ラクチド又はポリ−L−ラクチドであってよく、いずれも好ましい。
【0042】
他の実施態様において、該アニオン性粘土に結合した該ポリラクチドはポリ−D−ラクチドであり、かつ該アニオン性粘土に結合していない該ポリラクチドはポリ−L−ラクチドである。反対に、他の実施態様において、該アニオン性粘土に結合した該ポリラクチドはポリ−L−ラクチドであり、かつ該アニオン性粘土に結合していない該ポリラクチドはポリ−D−ラクチドである。これらのうち、最初の選択肢が好ましい。
【0043】
本明細書においてポリ−L−ラクチド又はポリ−D−ラクチドが言及される場合、主な乳酸鏡像体(LまたはD)の含有量が少なくとも85mol%である乳酸ポリマーが意味される。より好ましくは、その光学純度は、少なくとも90mol%、より好ましくは少なくとも95mol%であり、最も好ましくは少なくとも98mol%である。
【0044】
本発明に従う組成物は一般に、粘土鉱物とポリラクチドとの合計に対して0.01〜30重量%のアニオン性粘土(ポリラクチドを含まない粘土として計算される)を含む。一つの実施態様において、該アニオン性粘土は、少なくとも0.5重量%の量で、特には少なくとも1重量%の量で存在する。一つの実施態様において、該アニオン性粘土は、多くとも15重量%の量で、特には多くとも10重量%の量で、さらにより特には多くとも8重量%の量で存在する。要求される正確な量は、目的とする効果に、および該粘土鉱物に結合したポリラクチドの量によるであろう。
【0045】
該アニオン性粘土鉱物に結合されていない、本発明に従う組成物中の該ポリラクチドの重量平均分子量は特に限定されないが好ましくは少なくとも10,000、より好ましくは少なくとも30,000、さらに好ましくは少なくとも50,000である。そのようなポリラクチドの重量平均分子量は好ましくは多くとも400,000である。該重量平均分子量が10,000未満である場合、強度および弾性係数などの機械的特性が不十分になる傾向にある。該重量平均分子量が400,000より大きい場合、該物質は成形することが困難になる。
【0046】
必要に応じて、該組成物の特性が悪影響を有意な程度に及ぼされない限りにおいて、追加の成分が存在しうる。用いられうる追加成分は、ポリマー組成物中におけるその存在が当技術分野で知られている成分を含む。例は、顔料、染料、安定剤(紫外線安定剤、熱安定剤および金属不活性化成分を含む)、抗酸化剤、フィラー、難燃剤、ワックス、衝撃改質剤、可塑剤、相溶化剤、レオロジー改質剤、分岐剤および架橋剤、帯電防止剤、離型剤、滑剤、抗菌剤、並びに脱ガス剤を含む。これらの任意的な追加物およびそれらの対応する量は必要に従い選択されることができる。
【0047】
一つの実施態様において、本発明に従うポリマー組成物は追加的に、ポリカーボネート、ビニルポリマー、ポリアミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリイミド、ポリ(アミノ酸)、(改質された)デンプン、セルロースおよびキサンチンのような多糖類に由来するポリマー、ポリウレタン、ポリエポキシド、ポリエーテル、ポリエステル、ならびにそれらの混合物の群から選ばれるポリマーを含む。
【0048】
ポリエステルの例は、ポリ(ブチレンスクシネート)、ポリ(ブチレンスクシネートアジペート)、ポリ(ヒドロキシブチレート)およびポリ(ヒドロキシブチレート−バレレート)、ポリグリコリドおよびポリカプロラクトンのような脂肪族ポリエステル、ならびに、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(トリメチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)およびポリ(エチレンナフタレート)のような芳香族ポリエステル、ポリ(オルトエステル)、ならびに、ポリ(ジオキサノン)のようなポリ(エーテルエステル)を含む。適したコポリエステルのさらなる例は、BASFのEcoflex TMである。
【0049】
ビニルポリマーの例は、ポリスチレン、ポリ(ビニルクロライド)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(ビニルアセテート)、およびポリ(ビニルアルコール)である。ポリスチレンに基づく適したコポリマーは、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー)、ASA(アクリロニトリル−スチレン−アクリレートコポリマー)、およびSAN(スチレン−アクリロニトリルコポリマー)を含む。
【0050】
ポリエーテルの例は、ポリ(エチレンオキシド)およびポリ(プロピレンオキシド)である。
【0051】
本発明に従う組成物は、さまざまな方法で製造されうる。
【0052】
第一の実施態様において、粘土に結合したポリラクチドを有する粘土は、鏡像体ポリラクチドを含む組成物と一緒にされる。これは、溶液中で、粒子状物質の混合により、または任意の他の方法で行われる。該混合が溶媒の不在化において実施される場合、該混合物は例えば、160〜260℃の温度に加熱されうる。
【0053】
さらなる実施態様において、本発明に従う組成物は、アニオン性粘土鉱物に結合したD−ポリラクチドおよびL−ポリラクチドのうちの一つを含むアニオン性粘土鉱物が、ラクチドと一緒にされ、そして、混合物が重合化条件に付されてポリラクチドを形成する方法により製造される。該重合化反応は、所定の触媒を用いてまたは触媒なしで実施されうる。この実施態様における使用に適した触媒はラクチド重合化についての技術分野において既知のものである。一つの実施態様において、該触媒は、式 (M)(X、X ・ ・ ・ Xのものであり、ここでMは、元素周期表の2、4、8、9、10、12、13、14、および15の族の金属から選ばれ、(X、X ・ ・ ・ X)は独立に、アルキル、アリール、オキシド、カルボキシレート、ハライド、アルコキシド、アルキルエステルの群から選ばれ、mは1〜6の整数であり、かつ、nは0〜6の整数であり、ここでmおよびnについての値は、該金属イオンの酸化状態による。
【0054】
2族のうち、Mgの使用が好ましい。4族のうち、TiおよびZrの使用が好ましい。8族のうち、Feの使用が好ましい。12族のうち、Znの使用が好ましい。13族のうち、Al、Ga、In、およびTlの使用が言及されうる。14族のうち、SnおよびPbの使用が好ましい。15族のうち、SbおよびBiの使用が好ましい。一般に、4、14、および15族の金属の使用が好ましい。Mについて、Sn、Pb、Sb、Bi、およびTiから選ばれることが好ましい。Snに基づく触媒の使用が特に好ましくありうる。ハライドについて、SnCl、SnBr、SnCl、およびSnBrのようなハロゲン化スズが言及されうる。オシキドについて、SnOおよびPbOが言及されうる。アルキルカルボキシレートの群のうち、オクトエート(=2−エチルヘキサノエート)、ステアレート、およびアセテートが言及されることができ、例えば、Sn−オクタノエート、(Sn(II)ビス2−エチルヘキサノエートとしても知られている)、Sn−ステアレート、ジブチルスズジアセテート、ブチルスズトリス(2−エチルヘキサノエート)、Sb(2−エチルヘキサノエート)、Bi(2−エチルヘキサノエート)、Sbトリアセテート、Na(2−エチルヘキサノエート)、Caステアレート、Mgステアレート、およびZnステアレートの形にある。他の適した化合物は、テトラフェニルスズ、Sbトリス(エチレングリコシド)、アルミニウムアルコキシド、および亜鉛アルコキシドを含む。一つの実施態様において、上記式おいてMは、その最も低い酸化状態にある金属イオンであり、ここで該金属イオンは、より高い酸化状態も有しうる。この族のうちの好ましい金属イオンは、Sn(II)、Pb(II)、Sb(III)、Bi(III)、およびTi(II)を含む。この実施態様のうち、Sn(II)触媒の使用が特に好ましい。この実施態様のうちの適した触媒のさらなる特定について、上記で言及された文献が参照される。Sn(II)−ビス(2−エチルヘキサノエート)(スズオクトエートとしても示される)の使用が好ましく、なぜならこの物質は市販入手可能でありそして液体のラクチドに可溶だからである。さらに、該化合物はFDAの承認を受けている。その触媒濃度は一般に、金属重量として計算される少なくとも5ppm、より特には少なくとも10ppmである。該触媒濃度は一般に、多くとも1300ppm、特には多くとも500ppmである。該重合化工程における反応温度は好ましくは約100〜240℃であり、より特には160〜220℃である。
【0055】
本発明は、成型品を製造する為の方法にも関する。この方法は、本発明に従う組成物を融解する工程(これは上記で広く議論された)、該融解した物質を成形する工程、および該ポリラクチドを固める工程を含む。
【0056】
この方法において、適用される該融解温度は一般に、少なくとも140℃、特には少なくとも160℃である。もし該温度が低すぎるならば、該組成物の加工性が不十分でありうる。該融解温度は一般に、最大で280℃であり、特には最大で250℃である。もし該温度が高すぎるならば、該ポリマーは減成を被りうる。
【0057】
適用される成形プロセスの種類によって、該融解温度での保持時間は好ましくは0.1〜30分である。該保持時間が少なすぎる場合、該ポリラクチドは、十分に融解されないかもしれない。該保持時間が要求されるよりも長い場合、該ポリマーの特性が不必要に影響されうる。
【0058】
該ポリラクチドは、それを、その融解温度より下に、例えば20〜160℃の温度に、冷却することにより固化される。一つの実施態様において、該ポリラクチドは、該組成物のガラス転移温度と該結合していないポリラクチドの融点との間の温度に該ポリラクチドを冷却することにより固化される。半結晶性(semi-crystalline)ポリラクチド組成物の製造の為の好ましい固化温度は60〜160℃、より特には80〜140℃である。
【0059】
本発明において適用される成形技術は特に限定されない。
【0060】
一つの実施態様において、該融解された物質を成形するステップは、それを型に入れること、そして該型において該融解された物質を固化することにより実施される。型が用いられる場合、慣用の方法が適用されてよく、例えば射出成形、押出成形、ブロー成形、インフレーション成形、異形押出成形、射出ブロー成形、真空−圧力成形、および同様のものが、適当に用いられうる。
【0061】
他の実施態様において、該融解された物質を成形するステップは、それをフィルム形成ステップに付し、そして該融解された物質をフィルムの形で固化することにより実施される。
【0062】
さらなる実施態様において、該融解された物質を成形するステップは、それを熱成形プロセスに付し、そして該融解された物質を、該熱成形プロセスにより提供される形において固化することにより実施される。
【0063】
さらなる実施態様において、該融解された物質を成形するステップは、それを溶融紡糸ステップに付し、そしてそれを固化して繊維を形成することにより実施される。該繊維は、糸を製造するために、ならびに織物用途および不織用途において、用いられうる。
【0064】
さらなる実施態様において、該融解された物質を成形するステップは、それを発泡ステップに付し、そして該融解された物質を泡の形で固化することにより実施される。
【0065】
さらなる実施態様において、該融解された物質を成形するステップは、粒子形成プロセス、例えば押出、ビーディング(beading)、またはペレタイジングなどによる、続いて該融解された物質を粒子の形で固化することにより、例えばカッティングプロセスにより、アンダーウォーターペレタイザを用いて若しくはストランドペレタイザーを用いて、又は当技術分野で既知の任意の他のプロセスにより、実施される。
【0066】
前に示されたとおり、本発明に従う方法の利点は、アニオン性粘土上の鏡像体核形成剤の存在が、特にはポリ−D−乳酸およびポリ−L−乳酸の好ましい高融の組み合わせの存在が、該核形成剤を含まない系と比較して、増大した結晶化速度を結果することである。これはまた、カチオン性粘土に結合した核形成剤を含む系を超えて有利でもあり、なぜなら、上記で説明されたとおり、これは、系におけるより少ない混入物質を結果し、および、改善された製造システムを結果するからである。
【0067】
本発明は、アニオン性粘土鉱物に結合したポリ−D−ラクチドおよびポリ−L−ラクチドのうちの一方と、該アニオン性粘土に結合していないポリ−D−ラクチドおよびポリ−L−ラクチドの他方とを含む組成物を含む成形品であって、該アニオン性粘土鉱物に結合した該ポリラクチドが少なくとも平均で6のラクチルユニットを含む前記成形品にも関する。該成形品は、任意の様式で成形されうる。上記で議論された成形プロセスが参照される。
【実施例1】
【0068】
以下に、本発明の好ましい実施態様の多くが議論されるであろう。本発明は、それに又はそれにより限定されるとまったくもって考えられるべきでない。
【0069】
本発明の一つの実施態様において、ポリ−D−ラクチドによりインターカレートされたメイクスネライトが用意される。該メイクスネライトは、例えば1〜15重量%の量で、混合することにより、ポリ−L−ラクチドと一緒にされる。得られた混合物は、溶融処理により処理されて、成形品を形成する。
【0070】
本発明のさらなる実施態様において、ポリ−D−ラクチドによりインターカレートされたメイクスネライトが用意される。該メイクスネライトは、ポリ−D−ラクチドとポリ−L−ラクチドとの50:50混合物と、例えば1〜15重量%の量で、混合することにより、一緒にされる。該ポリ−D−ラクチドおよびポリ−L−ラクチドそれぞれは、少なくとも85%、特には少なくとも90%、さらにより特には少なくとも95%の光学純度を有する。得られた混合物は、溶融処理を介して処理されて、成形品を形成する。
【0071】
本発明のさらなる実施態様において、ポリ−D−ラクチドによりインターカレートされたハイドロタルサイトが用意される。該物質はL−ラクチドと一緒にされ、そして該L−ラクチドは、Sn−オクトエートの存在下で重合されてポリ−L−ラクチドを形成し、ハイドロタルサイトはそこに分散されたポリ−D−ラクチドによりインターカレートされている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性粘土鉱物に結合したポリ−D−ラクチドおよびポリ−L−ラクチドのうちの一つと、該アニオン性粘土鉱物に結合していないポリ−D−ラクチドおよびポリ−L−ラクチドの他方とを含むポリマー組成物。
【請求項2】
該組成物が、該アニオン性粘土鉱物に結合していないポリラクチドとして、ポリ−D−ラクチド及びポリ−L−ラクチドの混合物を含む、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
ポリ−D−ラクチドとポリ−L−ラクチドとの該混合物において、該2つの鏡像体の間の比が、90:10〜10:90、特には70:30〜30:70、さらにより特には40:60〜60:40である、請求項2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
該アニオン性粘土に結合した該ポリラクチドがポリ−D−ラクチドであり、且つ、該アニオン性粘土に結合していない該ポリラクチドがポリ−L−ラクチドである、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
該組成物が、少なくとも190℃の融点を有するPLAステレオコンプレックスを含む、請求項1〜4のいずれか1項のポリマー組成物。
【請求項6】
該アニオン性粘土鉱物に結合したポリ−D−ラクチドおよびポリ−L−ラクチドのうちの該一つが、ラクチルユニットとして表される、少なくとも6、より特には少なくとも8、さらにより特には少なくとも10のTADPを有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
該アニオン性粘土鉱物がハイドロタルサイトまたはメイクスネライトである、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項8】
該アニオン性粘土鉱物が、少なくとも1.0nm、より好ましくは少なくとも1.5nm、最も好ましくは少なくとも2nmの、該アニオン性粘土の層の間の距離を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項9】
ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルポリマー、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアミド、ポリサッカライド由来のポリマー、及びそれらの混合物の群から選ばれるポリマーをさらに含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項の記載のポリマー組成物の製造方法において、アニオン性粘土鉱物に結合したポリ−D−ラクチドおよびポリ−L−ラクチドのうちの一つを含むアニオン性粘土鉱物が、ポリ−D−ラクチドおよびポリ−L−ラクチドの他方を含む組成物と、又はそれらのラクチド前駆体と一緒にされ、ここでもしラクチド前駆体が用いられるならば、混合物は次に重合化条件に付されてポリラクチドを形成する、前記方法。
【請求項11】
ラクチド前駆体が用いられ、且つ、該混合物が重合化条件に付されるときに重合化触媒が該混合物中に存在する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
成形品の製造方法であって、請求項1〜11のいずれか1項に記載のポリマー組成物を融解する工程、該組成物を成形する工程、および、成形後に該組成物を固化させる工程を含む、前記方法。
【請求項13】
該融解した物質を成形する工程が、該物質を型に入れること、そして該型中で該融解した物質を固化させることにより、又は、該物質をフィルム形成工程に付し、そしてフィルムの形の該融解した物質を固化させることにより実施される請求項12に記載の方法。
【請求項14】
該融解した物質を成形する工程が、該融解した物質を熱成形処理に付し、そして該熱成形処理により与えられた形の該融解した物質を固化させることにより実施される、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
アニオン性粘土鉱物に結合したポリ−D−ラクチドおよびポリ−L−ラクチドのうちの一つと、該アニオン性粘土鉱物に結合していないポリ−D−ラクチドおよびポリ−L−ラクチドの他方とを含むポリマー組成物を含む成形品。

【公表番号】特表2011−518241(P2011−518241A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504485(P2011−504485)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054721
【国際公開番号】WO2009/130205
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(306003419)ピュラック バイオケム ビー.ブイ. (40)
【Fターム(参考)】